半導体発光素子及びその製造方法
【課題】III族窒化物半導体を有する半導体発光素子において、動作電圧を低減するとともに発光効率を向上することが可能な技術を提供する。
【解決手段】n型III族窒化物半導体から成るn型基板1上には、n型クラッド層2と、n型光ガイド層3と、不純物がドーピングされていない多重量子井戸(MQW)活性層4と、p型電子障壁層5と、p型光ガイド層6と、p型クラッド層7と、p型コンタクト層8とがこの順で積層されている。p型電子障壁層5はp型Alx2Ga(1-x2)N(0<x2<1)から成り、p型クラッド層7はp型Alx3Ga(1-x3)N(0<x3<1)から成り、p型コンタクト層8はp型GaNから成る。p型電子障壁層5、p型クラッド層7及びp型コンタクト層8はそれぞれp型ドーパントとしてベリリウムを含んでいる。
【解決手段】n型III族窒化物半導体から成るn型基板1上には、n型クラッド層2と、n型光ガイド層3と、不純物がドーピングされていない多重量子井戸(MQW)活性層4と、p型電子障壁層5と、p型光ガイド層6と、p型クラッド層7と、p型コンタクト層8とがこの順で積層されている。p型電子障壁層5はp型Alx2Ga(1-x2)N(0<x2<1)から成り、p型クラッド層7はp型Alx3Ga(1-x3)N(0<x3<1)から成り、p型コンタクト層8はp型GaNから成る。p型電子障壁層5、p型クラッド層7及びp型コンタクト層8はそれぞれp型ドーパントとしてベリリウムを含んでいる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、III族窒化物半導体を有する半導体発光素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光ディスクの高密度化に必要である青色領域から紫外線領域に及ぶ光の発光が可能な半導体発光素子として、GaN等のIII族窒化物半導体を利用して形成された、量子閉じ込め構造の活性領域を備える半導体レーザの研究開発が盛んに行われ、すでに実用化されている。
【0003】
このような半導体レーザは、III族窒化物半導体層を有機金属気相成長法(以後、「MOCVD法」と呼ぶ)を使用して基板上に複数層結晶成長してウェハを形成し、当該ウェハを加工することにより作製される。そして、III族窒化物半導体層を結晶成長する際には当該III族窒化物半導体層にはn型やp型のドーパントが導入される。非特許文献1では、p型のドーパントしてマグネシウムを使用する技術が開示されている。
【0004】
MOCVD法では、例えば、ビスシクロペンタジエニルマグネシウムを反応管に供給することによってマグネシウムをIII族窒化物半導体にドープする。このビスシクロペンタジエニルマグネシウムは、窒化物ではないAlGaInAs系材料やGaAs系材料、あるいはAlGaInAsP系化合物半導体やInP系化合物半導体の結晶成長において、旧来より広く用いられている。このため、入手が容易でありかつ安価なため、III族窒化物半導体の結晶成長においても同様に用いられている。
【0005】
なお、特許文献1,2にはIII族窒化物半導体を利用した窒化物半導体デバイスが開示されている。
【0006】
【非特許文献1】Michael Kneissl et al., “Performance and degradation of continuous-wave InGaN multiple-quantum-well laser diodes on epitaxially laterally overgrown GaN substrates”, Applied Physics Letters, 2000, Volume77, Number 13, pp.1931-1933
【特許文献1】特開2000−294824号公報
【特許文献2】特開平8−102567号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
III族窒化物半導体では、従来の砒素系・燐系化合物半導体に比べ、比較的バンドギャップが大きいため、p型ドーパントによる不純物準位は、ミッドギャップ側へ位置する傾向を持つ。したがって、III族窒化物半導体においては、正孔形成に要する活性化エネルギーが比較的大きくなり、室温において熱的に励起される正孔の密度が、従来の砒素系・燐系化合物半導体に比べ著しく低下する。よって、III族窒化物半導体における正孔の活性化率、即ち、ドーピング密度に対する正孔密度の比は、従来の砒素系・燐系化合物半導体に比べ著しく小さく、ほぼ3%以下となる。
【0008】
このようにIII族窒化物半導体では正孔の活性化率が著しく小さいため、例えば1×1018/cm3の正孔密度を得るには、1020/cm3オーダのマグネシウムをドープする必要がある。このような高密度なドーピングは、原子密度が1023/cm3程度である、母体となるIII族窒化物半導体結晶における原子配列の微視的規則性に多大の影響を及ぼす。微視的規則性の乱れにより、結晶全体の電気的光学的特性上、種々の悪影響が誘発される。
【0009】
例えば、原子スケールでは格子間原子や転置原子の形成密度が増加し、ミクロスコピックスケールではinversion domain boundary等が発生する結果、原子配列の異常が連鎖的に発生する。この結果として、種々の準位が形成され、結晶原子配列の規則性が乱れ、室温でのキャリア密度の低下、電気移動度の低下が生じる。これらは電気抵抗率の増加を招くため、発光素子の電気特性上、動作電圧の上昇が生じる。一方、光学的観点から見れば、これらの転位に伴う準位は、結晶格子のバンドあるいは量子論的閉じ込めとは異なる望ましくない発光・非発光中心を形成する。具体的には、例えば発光に伴う光子の一部が素子を形成する結晶内部で吸収され、外部に放出される発光量が結果的に低減するという現象が生じる。
【0010】
また、結晶構造の最上層に位置するp型コンタクト層においては、従来の砒素系や燐系の化合物半導体素子と同様に、p側電極とのコンタクト抵抗を低減するために、ドーピング密度を高くする必要がある。このようなドーピング密度が高い最表面近傍を含めて、素子中にドープされたマグネシウム原子は、光を発する活性層へ拡散などの機構により移動し当該活性層で蓄積されることがある。これは、バンド間遷移以外の望ましくない発光を生じる原因となり、素子寿命を短くする。
【0011】
また、III族サイトに存在するp型ドーパントに対して最近接原子として位置する窒素原子に隣接して、イオン化水素、すなわちプロトンが準安定的に格子間原子として存在することが知られている。水素の熱的脱離過程は拡散問題と捉えることができることから、結晶中に準安定的に水素原子が存在できるサイトが多いほど、結晶外に水素原子が放出されにくくなり、結晶内部に残存する水素密度は高密度となる。特に、結晶構造の最表面近傍でのドーパント密度は他の部分よりも高く設定され、準安定的に水素原子が存在できるサイトの数はドーパント密度に比例することから、当該最表面近傍でのドーパント密度が高く設定されるほど、結晶中での水素密度は高密度となる。完成素子に通電発光を行った場合、プロトンは、電気的にも化学ポテンシャル的にも活性層側への駆動力を受ける。プロトンは、n型層へは電気的ポテンシャル障壁が存在するため進入が困難であるため、結果的に活性層にて蓄積される。このプロトンは、バンドギャップ中にエネルギー準位を形成することから、活性層に非発光再結合中心を形成し内部吸収損失を誘発する。
【0012】
そこで、本発明は上述の問題に鑑みて成されたものであり、III族窒化物半導体を有する半導体発光素子において、動作電圧を低減するとともに発光効率を向上することが可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明の半導体発光素子は、III族窒化物半導体から成る基板と、前記基板上に設けられたn型半導体層と、前記n型半導体層上に設けられた、光を発する活性層と、前記活性層上に設けられたp型半導体層とを備え、前記p型半導体層は、p型III族窒化物半導体層を含み、前記p型III族窒化物半導体層はp型ドーパントとしてベリリウムを含んでいる。
【発明の効果】
【0014】
この発明の半導体発光素子によれば、p型III族窒化物半導体層がp型ドーパントとしてベリリウムを含んでいる。ベリリウムは、従来から用いられてきたマグネシウムと比べて熱的活性化エネルギーが低いため、室温におけるp型III族窒化物半導体層での正孔の活性化率が向上する。したがって、p型III族窒化物半導体層に対するp型ドーパントのドーピング密度を小さく設定することができる。その結果、p型III族窒化物半導体層に不要な準位の形成を防止することができ、当該p型III族窒化物半導体層での電気抵抗率を低減することができる。よって、動作電圧を低減することができ、素子への入力電圧を小さく設定できる。
【0015】
さらに、p型III族窒化物半導体層に不要な準位の形成を防止することができることから、不要な発光・非発光中心の形成を防止することができ、その結果、発光効率が向上する。
【0016】
また、ドーピング密度を低減することができることから、活性層に向かうp型ドーパントの量を低減することができる。よって、活性層において不要な発光が生じることを抑制でき、発光効率が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1は本発明の実施の形態に係る半導体発光素子の構造を示す断面図である。本実施の形態に係る半導体発光素子は、例えば、リッジ構造及びSCH(separate confinement heterostructure)構造を有する半導体レーザである。図1に示されるように、本実施の形態に係る半導体発光素子は、n型III族窒化物半導体から成るn型基板1を備えている。n型基板1は例えばn型GaNから成る。n型基板1の一主面であるGa面上には、複数のIII族窒化物半導体層が積層されている。具体的には、n型基板1のGa面上には、n型クラッド層2と、n型光ガイド層3と、不純物がドーピングされていない多重量子井戸(MQW)活性層4と、p型電子障壁層5と、p型光ガイド層6と、p型クラッド層7と、p型コンタクト層8とがこの順で積層されている。そして、p型コンタクト層8上にはp側電極11が設けられており、n型基板1の他方の主面であるN面にはn側電極12が設けられている。
【0018】
n型クラッド層2は、例えば厚さ1000nmでn型Alx1Ga(1-x1)N(0<x1<1)から成る。x1は例えば“0.07”である。このn型クラッド層2は、n型基板1の表面に存在するナノメータスケールの凹凸を一層平坦化するとともに、光閉じ込めを行うために設けられたものである。
【0019】
n型光ガイド層3は、例えば厚さ100nmでn型GaNから成る。多重量子井戸活性層4は、例えば、Iny1Ga(1-y1)N(0<y1<1)から成る厚さ3.5nmの井戸層と、Iny2Ga(1-y2)N(0<y2<1)から成る厚さ7nmの障壁層とが交互に積層された多重量子井戸構造を備えている。多重量子井戸活性層4においては、例えば、井戸数は3であり、y1=0.14、y2=0.02である。
【0020】
p型電子障壁層5は、下層のn型層から多重量子井戸活性層4に注入される電子が上層のp型層に溢れるのを防止する機能を有しており、例えば厚さ10nmでp型Alx2Ga(1-x2)N(0<x2<1)から成る。x2は例えば“0.2”である。p型光ガイド層6は、例えば厚さ100nmでp型GaNから成る。
【0021】
p型クラッド層7は、例えば最も厚い部分の厚さが400nmでp型Alx3Ga(1-x3)N(0<x3<1)から成る。x3は例えば“0.07”である。p型コンタクト層8は、例えば厚さ100nmでp型GaNから成る。p型クラッド層7は、上方に突出する突出部7aを有しており、当該突出部7aの上にp型コンタクト層8が形成されている。そして、この突出部7aとその上のp型コンタクト層8とで光導波路となるリッジ部9が形成されている。このリッジ部9は、例えば、<1−100>方向に平行に延在し、その幅は2.0μmである。
【0022】
リッジ部9の上面、つまりp型コンタクト層8の上面を避けて、p型クラッド層7及びp型コンタクト層8上には絶縁膜10が形成されている。絶縁膜10は、リッジ部9の表面を保護する目的と、p側電極11とp型クラッド層7との電気的絶縁を目的として設けられたものであり、例えば厚みが200nmでシリコン酸化膜から成る。
【0023】
p側電極11は、絶縁膜10上と、当該絶縁膜10から露出しているp型コンタクト層8の上面上とに設けられている。p側電極11は、例えば、白金(Pt)から成る金属膜と金(Au)から成る金属膜とを順次積層した積層構造を有している。n側電極12は、例えば、チタン(Ti)から成る金属膜と、アルミニウム(Al)から成る金属膜とを順次積層した積層構造を有している。
【0024】
本実施の形態に係る半導体発光素子は、(1−100)面でへき開されており、当該(1−100)面に共振器ミラーを備えている。そして、n側電極12とp側電極11間に動作電圧を印加すると、多重量子井戸活性層4からレーザが出力される。
【0025】
また、本実施の形態では、n型基板1、n型クラッド層2及びn型光ガイド層3は、n型ドーパントとしてシリコンあるいは酸素を含んでいる。一方で、p型電子障壁層5、p型光ガイド層6、p型クラッド層7及びp型コンタクト層8は、p型ドーパントとしてベリリウムを含んでいる。
【0026】
また、本実施の形態では、多重量子井戸活性層4上に形成されている複数のp型半導体層のうち、p型コンタクト層8におけるドーピング密度が最も高く設定されている。そして、p型クラッド層7よりもp型電子障壁層5の方が、ドーピング密度が高く設定されている。
【0027】
次に図1に示される半導体発光素子の製造方法について説明する。図2は本実施の形態に係る半導体発光素子の製造方法を示すフローチャートである。まずステップs1において、n型基板1、n型クラッド層2及びn型光ガイド層3から成るn型半導体層を形成する。具体的には、まずn型基板1を準備し、当該n型基板1の表面をサーマルクリーニングなどにより清浄化する。そして、MOCVD法により、例えば1200℃の成長温度で、n型基板1上にn型クラッド層2及びn型光ガイド層3を順次成長させる。
【0028】
次にステップs2において、n型光ガイド層3上に多重量子井戸活性層4を成長させる。ステップs2では、MOCVD法により、例えば800℃の成長温度で、障壁層及び井戸層の組が3組順次積層される。
【0029】
次にステップs3において、多重量子井戸活性層4上に、p型電子障壁層5、p型光ガイド層6、p型クラッド層7及びp型コンタクト層8から成るp型半導体層を形成する。ステップs3では、MOCVD法によって、例えば1100℃の成長温度で、多重量子井戸活性層4上に、p型電子障壁層5、p型光ガイド層6、p型クラッド層7及びp型コンタクト層8を順次成長させる。
【0030】
次にステップs4において、p型クラッド層7及びp型コンタクト層8にリッジ部9を形成する。ステップs4では、ステップs3の実行後に得られたウェハ全面にレジストを塗布し、リソグラフィー工程を実行することによりメサ部の形状に対応した所定形状のレジストパターンを形成する。このレジストパターンをマスクとして、例えば反応性イオンエッチング(RIE)法により、p型コンタクト層8及びp型クラッド層7を順次エッチングする。これにより、リッジ部9が形成される。なお、このときのエッチングガスとしては例えば塩素系ガスが使用される。
【0031】
次に、ステップs5において絶縁膜10を形成する。ステップs5では、ステップs4でマスクとして使用したレジストパターンを残したまま、CVD法、真空蒸着法、スパッタリング法などにより、例えば厚さ200nmの絶縁膜10をウェハ全面に形成し、レジストパターンの除去と同時にリッジ部9上にある絶縁膜10を除去する。この処理は「リフトオフ」と呼ばれる。これにより、リッジ部9の上面が絶縁膜10から露出する。
【0032】
次に、ウェハ全面に例えば真空蒸着法により白金から成る金属膜と金から成る金属膜とを順次形成した後、レジスト塗布工程およびリソグラフィー工程を実行し、その後、ウエットエッチングあるいはドライエッチングを実行することにより、p型コンタクト層8と接触するp側電極11を形成する。
【0033】
その後、n型基板1の裏面全面に、例えば真空蒸着法によりチタンから成る金属膜とアルミニウムから成る金属膜とを順次形成し、形成された積層膜をエッチングしてn側電極11を形成する。そして、p側電極11をp型コンタクト層8に、n電極12をn型基板1にそれぞれオーミック接触させるためのアロイ処理を行う。
【0034】
以上のようにして形成された構造をへき開などによりバー状に加工して、当該構造に両共振器端面を形成する。そして、これらの共振器端面に端面コーティングを施した後、このバー状の構造をへき開などによりチップ状に分割する。これにより、図1に示される半導体レーザが完成する。
【0035】
本実施の形態では、MOCVD法を使用してp型III族窒化物半導体層を形成する際には、p型ドーパントの原材料としてビスメチルシクロペンタジエニルベリリウムを使用する。ベリリウムはマグネシウムよりも原子半径が小さいため、ビスメチルシクロペンタジエニルベリリウムは、ビスシクロペンタジエニルマグネシウムに比べ、分極が小さいという特徴を持つ。このため、MOCVD法で使用される反応炉や導入管等での分子の付着密度を低減できる。その結果、結晶成長時に急峻なドーピングファイルを得ることができる。
【0036】
なお、上述の例では、n型クラッド層2、p型電子障壁層5及びp型クラッド層7をAlGaNで形成しているが、他のIII族窒化物半導体、例えばGaNで形成しても良い。また、p型コンタクト層8をGaNで形成しているが、他のIII族窒化物半導体、例えばAlx4Ga(1-x4)N(0<x4<1)やGay3In(1-y3)N(0<y3<1)で形成しても良い。y3は例えば“0.9”である。
【0037】
次に本発明の効果について説明する。図4〜11は図3に示される試料100を用いて実験を行った結果を示す図である。図4は室温における正孔密度のドーピング密度依存性を示す図であって、図5は図4でプロットされた値を表にまとめたものである。図6は室温における正孔移動度のドーピング密度依存性を示す図であり、図7は図6でプロットされた値を表にまとめたものである。図8は室温における電気抵抗率のドーピング密度依存性を示す図であって、図9は図8でプロットされた値を表にまとめたものである。図10は室温におけるコンタクト抵抗率のドーピング密度依存性を示す図であって、図11は図10でプロットされた値を表にまとめたものである。まず試料100について説明する。
【0038】
図3に示されるように、試料100はn型GaN基板101を備えている。n型GaN基板101上には厚さ1000nmのp型GaN層102が形成されており、p型GaN層102上には厚さ60nmのp型GaN層103が形成されている。
【0039】
図4〜9に示される実験結果は、上層のp型GaN層103でのドーピング密度を1×1021/cm3で固定し、下層のp型GaN層102でのドーピング密度を変化させて当該p型GaN層102での正孔密度、正孔移動度、電気的抵抗率を測定した結果を示している。一方で、図10,11に示される実験結果は、下層のp型GaN層102でのドーピング密度を4×1019/cm3で固定し、上層のp型GaN層103でのドーピング密度を変化させて当該p型GaN層103に対するコンタクト抵抗率を測定した結果を示している。
【0040】
図4,6,8,10では、p型GaN層101,102をMOCVD法で結晶成長させる際に、原材料としてビスメチルシクロペンタジエニルベリリウムを使用してp型GaN層101,102の両方にベリリウムをドーピングした際の結果が実線で示されており、原材料としてビスシクロペンタジエニルマグネシウムを使用してp型GaN層101,102の両方にマグネシウムをドーピングした際の結果が破線で示されている。図4,5に示される結果はVan der Pauw法でHall測定した結果であり、図10,11に示される結果はサーキュラーTLM法で測定した結果である。
【0041】
図5,7,9,11では、p型ドーパントとしてベリリウムを使用した場合とマグネシウムを使用した場合との正孔密度、正孔移動度、電気的抵抗率、コンタクト抵抗率の差もそれぞれ示されている。図5,7では、ベリリウムを使用した場合の値からマグネシウムを使用した場合の値を差し引いた値が示されており、図8,9では、マグネシウムを使用した場合の値からベリリウムを使用した場合の値を差し引いた値が示されている。
【0042】
図4,5に示されるように、p型ドーパントとしてマグネシウムを使用した場合よりもベリリウムを使用した場合の方が、同じドーピング密度でもp型GaN層102での正孔密度が高くなっている。特に、ドーピング密度が2×1019/cm3以上7×1019/cm3以下の範囲では、正孔密度の差が1018/cm3オーダとなり非常に大きくなっている。そして、最大の正孔密度は、マグネシウムを使用した場合には9.5×1017/cm3に対して、ベリリウムを使用した場合には4.8×1018/cm3となっている。このように、マグネシウムを使用した場合よりもベリリウムを使用した場合の方が正孔密度が高くなるのは、ベリリウムのGaN中の活性化エネルギーがマグネシウムと比べて小さいからであると考えられる。
【0043】
また図6,7に示されるように、p型ドーパントとしてマグネシウムを使用した場合よりもベリリウムを使用した場合の方が、同じドーピング密度でもp型GaN層102での正孔移動度は大きくなっている。正孔移動度は、正孔の有効質量とイオン化不純物散乱確率とで主に決定される。前者については、母体となる材料、すなわち本例ではGaNの物理的特性によって規定されるため大きな差異は無いが、後者のイオン化不純物散乱確率は、ドーパント原子が形成するポテンシャルにより規定される。ベリリウムとマグネシウムとでは、原子サイズが異なるため、当該ポテンシャルに差異が生じ、図6,7のように正孔移動度に差が生じたものと考えられる。
【0044】
また図8,9に示されるように、p型ドーパントとしてマグネシウムを使用した場合よりもベリリウムを使用した場合の方が、同じドーピング密度でもp型GaN層102での電気抵抗率が小さくなっている。特に、ドーピング密度が1×1019/cm3の場合と、7×1019/cm3以上では電気抵抗率の差が大きくなっており、さらに7.0×1020/cm3の場合には電気抵抗率の差は非常に大きくなっている。そして、最小の電気抵抗率は、マグネシウムを使用した場合には0.56612Ωcmであるのに対して、ベリリウムを使用した場合には0.10684Ωcmとなっている。このように、マグネシウムを使用した場合よりもベリリウムを使用した場合の方が電気抵抗率が小さくなるのは、正孔密度の場合と同様に、ベリリウムのGaN中での活性化エネルギーがマグネシウムに比べて低く、正孔形成に要する活性化エネルギーがベリリウムを使用した場合の方がマグネシウムを使用した場合よりも小さいからである。
【0045】
また図10,11に示されるように、p型ドーパントとしてマグネシウムを使用した場合よりもベリリウムを使用した場合の方が、同じドーピング密度でもp型GaN層103に対するコンタクト抵抗率が小さくなっている。特に、ドーピング密度が4×1019/cm3以下と、2×1020/cm3以上とでは、コンタクト抵抗率の差が大きくなっており、さらに2.5×1019/cm3以下と、7×1020/cm3 の場合とでは、コンタクト抵抗率の差は非常に大きくなっている。そして、最小のコンタクト抵抗率は、マグネシウムを使用した場合には0.00045Ωcm2であるのに対して、ベリリウムを使用した場合には0.00023Ωcm2となっており、ベリリウムを使用するとほぼ半減することが理解できる。コンタクト抵抗率の規定要因は極めて複雑であるが、主に半導体層最上面近傍の正孔密度によって決まる、金属層とのトンネル確率が主な要素であると考えられる。上述のようにベリリウムをp型ドーパントとして使用した場合には正孔密度を高めることができることから、コンタクト抵抗率が低減しているものと考えられる。
【0046】
以上のように、本実施の形態に係る半導体発光素子では、p型電子障壁層5やp型クラッド層7等のp型III族窒化物半導体層がp型ドーパントとしてベリリウムを含んでいる。ベリリウムは、従来から用いられてきたマグネシウムと比べて熱的活性化エネルギーが低いため、室温におけるp型III族窒化物半導体層での正孔の活性化率が向上する。したがって、p型III族窒化物半導体層に対するp型ドーパントのドーピング密度を小さく設定することができる。その結果、p型III族窒化物半導体層に不要な準位の形成を防止することができ、当該p型III族窒化物半導体層での電気抵抗率を低減することができる。その結果、動作電圧を低減することができ、素子への入力電圧を小さく設定できる。特に、p型クラッド層7はその役割から一般的に膜厚を厚く形成するため、素子全体での電気抵抗を規定する主要な層となることから、当該p型クラッド層7のp型ドーパントとしてベリリウムを使用し、当該p型クラッド層7の電気抵抗率を低減することによって、動作電圧が十分に低減することになる。
【0047】
さらに、p型III族窒化物半導体層に不要な準位の形成を防止することができることから、不要な発光・非発光中心の形成を防止することができ、その結果、発光効率が向上する。
【0048】
また、ドーピング密度を低減することができることから、多重量子井戸活性層4に向かうp型ドーパントの量を低減することができる。よって、多重量子井戸活性層4において不要な発光が生じることを抑制でき、発光効率が向上する。
【0049】
また、p型電子障壁層5に関しては、多重量子井戸活性層4に接触して配置されており、多重量子井戸活性層4には通常不純物のドーピングを行わないため、p型電子障壁層5の結晶成長中をはじめとして、p型電子障壁層5中のp型ドーパントは特に多重量子井戸活性層4に向かって熱的拡散が生じやすい。p型ドーパントとしてベリリウムを使用することによってドーピング密度を低減することができ、その結果、原理的に原子密度の空間変化に依存する原子の熱的拡散量を低減できることから、発光効率の向上という観点からは、p型電子障壁層5にベリリウムをドーピングするのが特に有効である。つまり、p型電子障壁層5がp型ドーパントとしてベリリウムを含むことによって、発光効率を大きく向上することができる。
【0050】
また、p型コンタクト層8でのp型ドーパントとしてベリリウムを使用した場合には、p型コンタクト層8での正孔密度が向上することから、p型コンタクト層8とp側電極11とのコンタクト抵抗率を低減することができる。
【0051】
さらに、一般的にドーピング密度が他のp型半導体層よりも高く設定されるp型コンタクト層8に対するドーピング密度を低減することができることから、結晶中の水素原子密度の低減が可能となる。よって、イオン化した水素、つまりプロトンが多重量子井戸活性層4に蓄積されることを抑制でき、多重量子井戸活性層4に非発光再結合中心が形成されることを抑制できる。よって、発光効率が向上し、素子の長寿命化が可能となる。
【0052】
また、p型クラッド層7をp型Alx3Ga(1-x3)Nで形成し、p型電子障壁層5をp型Alx2Ga(1-x2)Nで形成した場合には、光閉じ込めとキャリア閉じ込めの効果が向上するため、発光効率をさらに向上することができ、結晶学的に素子の欠陥が少なく、素子を長寿命化できる。p型電子障壁層5のAlの組成比x2は、0.15≦x2<1が望ましく、p型クラッド層7のAlの組成比x3は、0<x3<0.1が望ましい。
【0053】
また、p型コンタクト層8をGay3In(1-y3)Nで形成した場合には、さらに動作電圧を低減することができる。これは、Gay3In(1-y3)NはGaNよりもバンドギャップが小さく、より高い正孔密度が得らることができ、コンタクト抵抗率をさらに低減することができるからである。この場合のGaの組成比y3は、0.9≦y3<1が望ましい。
【0054】
p型半導体層のすべてにベリリウムをドーピングした本実施の形態に係る半導体発光素子の動作電圧が、本実施の形態に係る半導体発光素子においてp型半導体層のすべてにベリリウムではなくマグネシウムをドーピングした際の動作電圧と比べて、100mW出力時において約0.8V低減することを実験で確認した。
【0055】
また、本実施の形態に係る半導体発光素子においてp型クラッド層7及びp型コンタクト層8のみにベリリウムをドーピングし、その他のp型半導体層にはマグネシウムをドーピングした際の動作電圧が、本実施の形態に係る半導体発光素子においてp型半導体層のすべてにマグネシウムをドーピングした際の動作電圧と比べて、100mW出力時において約0.7V低減することを実験で確認した。
【0056】
また、本実施の形態に係る半導体発光素子においてp型コンタクト層8のみにベリリウムをドーピングし、その他のp型半導体層にはマグネシウムをドーピングした際の動作電圧が、本実施の形態に係る半導体発光素子においてp型半導体層のすべてにマグネシウムをドーピングした際の動作電圧と比べて、100mW出力時において約0.5V低減することを実験で確認した。
【0057】
また、本実施の形態に係る半導体発光素子においてp型コンタクト層8をGa0.9In0.1Nで形成した際の動作電圧が、本実施の形態に係る半導体発光素子においてp型コンタクト層8をGaNで形成した際の動作電圧と比べて、100mW出力時において約0.2V低減することを実験で確認した。
【0058】
上述のように、本実施の形態に係る製造方法では、p型電子障壁層5やp型クラッド層7などのp型III族窒化物半導体層をMOCVD法で形成する際には、p型ドーパントの原材料としてビスメチルシクロペンタジエニルベリリウムを使用しているため、MOCVD法で使用される反応炉や導入管等での分子の付着密度を低減できる。その結果、急峻なドーピングファイルを得ることができ、所望の不純物分布を実現しやすくなる。
【0059】
なお、p型コンタクト層8をMOCVD法で形成する代わりに、分子線エピタキシャル成長法(MBE成長法)を使用して形成しても良い。以下にこの場合の本半導体発光素子の製造方法について説明する。
【0060】
まず上述の製造方法と同様にして、p型クラッド層7までをMOCVD法を使用して形成する。そして、ウェハを有機金属気相成長装置から取り出して、分子線エピタキシャル成長装置に搬入する。その後、超高真空下にて、プラズマ分解した窒素をウェハに照射しながら当該ウェハを1000℃まで加熱し、Ga分子線及びベリリウム分子線をウェハに照射する。これにより、p型クラッド層7上にはベリリウムを含むp型コンタクト層8が成長する。その後、同様にして、リッジ部9及び絶縁膜10等を形成する。
【0061】
このように、分子線エピタキシャル成長法を使用してp型コンタクト層8を形成することにより、ベリリウム以外の炭素などの不純物が混入することを回避することができる。さらに、有機金属気相成長法で通常使用されるアンモニア分子から分解した水素原子がp型コンタクト層8に混入されることを回避することができる。よって、p型コンタクト層8の結晶の電気的特性が改善され、素子の動作電圧を低減することができる。
【0062】
p型コンタクト層8だけでなく、他のp型半導体層、例えばp型電子障壁層5やp型クラッド層7も分子線エピタキシャル成長法を使用して形成しても良い。
【0063】
本実施の形態では、本発明を半導体レーザに適用した際の例を説明したが、本発明は発光ダイオードにも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の実施の形態に係る半導体発光素子の構造を示す断面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る半導体発光素子の製造方法を示すフローチャートである。
【図3】本発明の効果を説明するための実験で使用した試料の構造を示す断面図である。
【図4】室温における正孔密度のドーピング密度依存性を示す図である。
【図5】室温における正孔密度のドーピング密度依存性を示す図である。
【図6】室温における正孔移動度のドーピング密度依存性を示す図である。
【図7】室温における正孔移動度のドーピング密度依存性を示す図である。
【図8】室温における電気抵抗率のドーピング密度依存性を示す図である。
【図9】室温における電気抵抗率のドーピング密度依存性を示す図である。
【図10】室温におけるコンタクト抵抗率のドーピング密度依存性を示す図である。
【図11】室温におけるコンタクト抵抗率のドーピング密度依存性を示す図である。
【符号の説明】
【0065】
1 n型基板、4 多重量子井戸活性層、5 p型電子障壁層、7 p型クラッド層、8 p型コンタクト層、11 p側電極。
【技術分野】
【0001】
本発明は、III族窒化物半導体を有する半導体発光素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光ディスクの高密度化に必要である青色領域から紫外線領域に及ぶ光の発光が可能な半導体発光素子として、GaN等のIII族窒化物半導体を利用して形成された、量子閉じ込め構造の活性領域を備える半導体レーザの研究開発が盛んに行われ、すでに実用化されている。
【0003】
このような半導体レーザは、III族窒化物半導体層を有機金属気相成長法(以後、「MOCVD法」と呼ぶ)を使用して基板上に複数層結晶成長してウェハを形成し、当該ウェハを加工することにより作製される。そして、III族窒化物半導体層を結晶成長する際には当該III族窒化物半導体層にはn型やp型のドーパントが導入される。非特許文献1では、p型のドーパントしてマグネシウムを使用する技術が開示されている。
【0004】
MOCVD法では、例えば、ビスシクロペンタジエニルマグネシウムを反応管に供給することによってマグネシウムをIII族窒化物半導体にドープする。このビスシクロペンタジエニルマグネシウムは、窒化物ではないAlGaInAs系材料やGaAs系材料、あるいはAlGaInAsP系化合物半導体やInP系化合物半導体の結晶成長において、旧来より広く用いられている。このため、入手が容易でありかつ安価なため、III族窒化物半導体の結晶成長においても同様に用いられている。
【0005】
なお、特許文献1,2にはIII族窒化物半導体を利用した窒化物半導体デバイスが開示されている。
【0006】
【非特許文献1】Michael Kneissl et al., “Performance and degradation of continuous-wave InGaN multiple-quantum-well laser diodes on epitaxially laterally overgrown GaN substrates”, Applied Physics Letters, 2000, Volume77, Number 13, pp.1931-1933
【特許文献1】特開2000−294824号公報
【特許文献2】特開平8−102567号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
III族窒化物半導体では、従来の砒素系・燐系化合物半導体に比べ、比較的バンドギャップが大きいため、p型ドーパントによる不純物準位は、ミッドギャップ側へ位置する傾向を持つ。したがって、III族窒化物半導体においては、正孔形成に要する活性化エネルギーが比較的大きくなり、室温において熱的に励起される正孔の密度が、従来の砒素系・燐系化合物半導体に比べ著しく低下する。よって、III族窒化物半導体における正孔の活性化率、即ち、ドーピング密度に対する正孔密度の比は、従来の砒素系・燐系化合物半導体に比べ著しく小さく、ほぼ3%以下となる。
【0008】
このようにIII族窒化物半導体では正孔の活性化率が著しく小さいため、例えば1×1018/cm3の正孔密度を得るには、1020/cm3オーダのマグネシウムをドープする必要がある。このような高密度なドーピングは、原子密度が1023/cm3程度である、母体となるIII族窒化物半導体結晶における原子配列の微視的規則性に多大の影響を及ぼす。微視的規則性の乱れにより、結晶全体の電気的光学的特性上、種々の悪影響が誘発される。
【0009】
例えば、原子スケールでは格子間原子や転置原子の形成密度が増加し、ミクロスコピックスケールではinversion domain boundary等が発生する結果、原子配列の異常が連鎖的に発生する。この結果として、種々の準位が形成され、結晶原子配列の規則性が乱れ、室温でのキャリア密度の低下、電気移動度の低下が生じる。これらは電気抵抗率の増加を招くため、発光素子の電気特性上、動作電圧の上昇が生じる。一方、光学的観点から見れば、これらの転位に伴う準位は、結晶格子のバンドあるいは量子論的閉じ込めとは異なる望ましくない発光・非発光中心を形成する。具体的には、例えば発光に伴う光子の一部が素子を形成する結晶内部で吸収され、外部に放出される発光量が結果的に低減するという現象が生じる。
【0010】
また、結晶構造の最上層に位置するp型コンタクト層においては、従来の砒素系や燐系の化合物半導体素子と同様に、p側電極とのコンタクト抵抗を低減するために、ドーピング密度を高くする必要がある。このようなドーピング密度が高い最表面近傍を含めて、素子中にドープされたマグネシウム原子は、光を発する活性層へ拡散などの機構により移動し当該活性層で蓄積されることがある。これは、バンド間遷移以外の望ましくない発光を生じる原因となり、素子寿命を短くする。
【0011】
また、III族サイトに存在するp型ドーパントに対して最近接原子として位置する窒素原子に隣接して、イオン化水素、すなわちプロトンが準安定的に格子間原子として存在することが知られている。水素の熱的脱離過程は拡散問題と捉えることができることから、結晶中に準安定的に水素原子が存在できるサイトが多いほど、結晶外に水素原子が放出されにくくなり、結晶内部に残存する水素密度は高密度となる。特に、結晶構造の最表面近傍でのドーパント密度は他の部分よりも高く設定され、準安定的に水素原子が存在できるサイトの数はドーパント密度に比例することから、当該最表面近傍でのドーパント密度が高く設定されるほど、結晶中での水素密度は高密度となる。完成素子に通電発光を行った場合、プロトンは、電気的にも化学ポテンシャル的にも活性層側への駆動力を受ける。プロトンは、n型層へは電気的ポテンシャル障壁が存在するため進入が困難であるため、結果的に活性層にて蓄積される。このプロトンは、バンドギャップ中にエネルギー準位を形成することから、活性層に非発光再結合中心を形成し内部吸収損失を誘発する。
【0012】
そこで、本発明は上述の問題に鑑みて成されたものであり、III族窒化物半導体を有する半導体発光素子において、動作電圧を低減するとともに発光効率を向上することが可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明の半導体発光素子は、III族窒化物半導体から成る基板と、前記基板上に設けられたn型半導体層と、前記n型半導体層上に設けられた、光を発する活性層と、前記活性層上に設けられたp型半導体層とを備え、前記p型半導体層は、p型III族窒化物半導体層を含み、前記p型III族窒化物半導体層はp型ドーパントとしてベリリウムを含んでいる。
【発明の効果】
【0014】
この発明の半導体発光素子によれば、p型III族窒化物半導体層がp型ドーパントとしてベリリウムを含んでいる。ベリリウムは、従来から用いられてきたマグネシウムと比べて熱的活性化エネルギーが低いため、室温におけるp型III族窒化物半導体層での正孔の活性化率が向上する。したがって、p型III族窒化物半導体層に対するp型ドーパントのドーピング密度を小さく設定することができる。その結果、p型III族窒化物半導体層に不要な準位の形成を防止することができ、当該p型III族窒化物半導体層での電気抵抗率を低減することができる。よって、動作電圧を低減することができ、素子への入力電圧を小さく設定できる。
【0015】
さらに、p型III族窒化物半導体層に不要な準位の形成を防止することができることから、不要な発光・非発光中心の形成を防止することができ、その結果、発光効率が向上する。
【0016】
また、ドーピング密度を低減することができることから、活性層に向かうp型ドーパントの量を低減することができる。よって、活性層において不要な発光が生じることを抑制でき、発光効率が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1は本発明の実施の形態に係る半導体発光素子の構造を示す断面図である。本実施の形態に係る半導体発光素子は、例えば、リッジ構造及びSCH(separate confinement heterostructure)構造を有する半導体レーザである。図1に示されるように、本実施の形態に係る半導体発光素子は、n型III族窒化物半導体から成るn型基板1を備えている。n型基板1は例えばn型GaNから成る。n型基板1の一主面であるGa面上には、複数のIII族窒化物半導体層が積層されている。具体的には、n型基板1のGa面上には、n型クラッド層2と、n型光ガイド層3と、不純物がドーピングされていない多重量子井戸(MQW)活性層4と、p型電子障壁層5と、p型光ガイド層6と、p型クラッド層7と、p型コンタクト層8とがこの順で積層されている。そして、p型コンタクト層8上にはp側電極11が設けられており、n型基板1の他方の主面であるN面にはn側電極12が設けられている。
【0018】
n型クラッド層2は、例えば厚さ1000nmでn型Alx1Ga(1-x1)N(0<x1<1)から成る。x1は例えば“0.07”である。このn型クラッド層2は、n型基板1の表面に存在するナノメータスケールの凹凸を一層平坦化するとともに、光閉じ込めを行うために設けられたものである。
【0019】
n型光ガイド層3は、例えば厚さ100nmでn型GaNから成る。多重量子井戸活性層4は、例えば、Iny1Ga(1-y1)N(0<y1<1)から成る厚さ3.5nmの井戸層と、Iny2Ga(1-y2)N(0<y2<1)から成る厚さ7nmの障壁層とが交互に積層された多重量子井戸構造を備えている。多重量子井戸活性層4においては、例えば、井戸数は3であり、y1=0.14、y2=0.02である。
【0020】
p型電子障壁層5は、下層のn型層から多重量子井戸活性層4に注入される電子が上層のp型層に溢れるのを防止する機能を有しており、例えば厚さ10nmでp型Alx2Ga(1-x2)N(0<x2<1)から成る。x2は例えば“0.2”である。p型光ガイド層6は、例えば厚さ100nmでp型GaNから成る。
【0021】
p型クラッド層7は、例えば最も厚い部分の厚さが400nmでp型Alx3Ga(1-x3)N(0<x3<1)から成る。x3は例えば“0.07”である。p型コンタクト層8は、例えば厚さ100nmでp型GaNから成る。p型クラッド層7は、上方に突出する突出部7aを有しており、当該突出部7aの上にp型コンタクト層8が形成されている。そして、この突出部7aとその上のp型コンタクト層8とで光導波路となるリッジ部9が形成されている。このリッジ部9は、例えば、<1−100>方向に平行に延在し、その幅は2.0μmである。
【0022】
リッジ部9の上面、つまりp型コンタクト層8の上面を避けて、p型クラッド層7及びp型コンタクト層8上には絶縁膜10が形成されている。絶縁膜10は、リッジ部9の表面を保護する目的と、p側電極11とp型クラッド層7との電気的絶縁を目的として設けられたものであり、例えば厚みが200nmでシリコン酸化膜から成る。
【0023】
p側電極11は、絶縁膜10上と、当該絶縁膜10から露出しているp型コンタクト層8の上面上とに設けられている。p側電極11は、例えば、白金(Pt)から成る金属膜と金(Au)から成る金属膜とを順次積層した積層構造を有している。n側電極12は、例えば、チタン(Ti)から成る金属膜と、アルミニウム(Al)から成る金属膜とを順次積層した積層構造を有している。
【0024】
本実施の形態に係る半導体発光素子は、(1−100)面でへき開されており、当該(1−100)面に共振器ミラーを備えている。そして、n側電極12とp側電極11間に動作電圧を印加すると、多重量子井戸活性層4からレーザが出力される。
【0025】
また、本実施の形態では、n型基板1、n型クラッド層2及びn型光ガイド層3は、n型ドーパントとしてシリコンあるいは酸素を含んでいる。一方で、p型電子障壁層5、p型光ガイド層6、p型クラッド層7及びp型コンタクト層8は、p型ドーパントとしてベリリウムを含んでいる。
【0026】
また、本実施の形態では、多重量子井戸活性層4上に形成されている複数のp型半導体層のうち、p型コンタクト層8におけるドーピング密度が最も高く設定されている。そして、p型クラッド層7よりもp型電子障壁層5の方が、ドーピング密度が高く設定されている。
【0027】
次に図1に示される半導体発光素子の製造方法について説明する。図2は本実施の形態に係る半導体発光素子の製造方法を示すフローチャートである。まずステップs1において、n型基板1、n型クラッド層2及びn型光ガイド層3から成るn型半導体層を形成する。具体的には、まずn型基板1を準備し、当該n型基板1の表面をサーマルクリーニングなどにより清浄化する。そして、MOCVD法により、例えば1200℃の成長温度で、n型基板1上にn型クラッド層2及びn型光ガイド層3を順次成長させる。
【0028】
次にステップs2において、n型光ガイド層3上に多重量子井戸活性層4を成長させる。ステップs2では、MOCVD法により、例えば800℃の成長温度で、障壁層及び井戸層の組が3組順次積層される。
【0029】
次にステップs3において、多重量子井戸活性層4上に、p型電子障壁層5、p型光ガイド層6、p型クラッド層7及びp型コンタクト層8から成るp型半導体層を形成する。ステップs3では、MOCVD法によって、例えば1100℃の成長温度で、多重量子井戸活性層4上に、p型電子障壁層5、p型光ガイド層6、p型クラッド層7及びp型コンタクト層8を順次成長させる。
【0030】
次にステップs4において、p型クラッド層7及びp型コンタクト層8にリッジ部9を形成する。ステップs4では、ステップs3の実行後に得られたウェハ全面にレジストを塗布し、リソグラフィー工程を実行することによりメサ部の形状に対応した所定形状のレジストパターンを形成する。このレジストパターンをマスクとして、例えば反応性イオンエッチング(RIE)法により、p型コンタクト層8及びp型クラッド層7を順次エッチングする。これにより、リッジ部9が形成される。なお、このときのエッチングガスとしては例えば塩素系ガスが使用される。
【0031】
次に、ステップs5において絶縁膜10を形成する。ステップs5では、ステップs4でマスクとして使用したレジストパターンを残したまま、CVD法、真空蒸着法、スパッタリング法などにより、例えば厚さ200nmの絶縁膜10をウェハ全面に形成し、レジストパターンの除去と同時にリッジ部9上にある絶縁膜10を除去する。この処理は「リフトオフ」と呼ばれる。これにより、リッジ部9の上面が絶縁膜10から露出する。
【0032】
次に、ウェハ全面に例えば真空蒸着法により白金から成る金属膜と金から成る金属膜とを順次形成した後、レジスト塗布工程およびリソグラフィー工程を実行し、その後、ウエットエッチングあるいはドライエッチングを実行することにより、p型コンタクト層8と接触するp側電極11を形成する。
【0033】
その後、n型基板1の裏面全面に、例えば真空蒸着法によりチタンから成る金属膜とアルミニウムから成る金属膜とを順次形成し、形成された積層膜をエッチングしてn側電極11を形成する。そして、p側電極11をp型コンタクト層8に、n電極12をn型基板1にそれぞれオーミック接触させるためのアロイ処理を行う。
【0034】
以上のようにして形成された構造をへき開などによりバー状に加工して、当該構造に両共振器端面を形成する。そして、これらの共振器端面に端面コーティングを施した後、このバー状の構造をへき開などによりチップ状に分割する。これにより、図1に示される半導体レーザが完成する。
【0035】
本実施の形態では、MOCVD法を使用してp型III族窒化物半導体層を形成する際には、p型ドーパントの原材料としてビスメチルシクロペンタジエニルベリリウムを使用する。ベリリウムはマグネシウムよりも原子半径が小さいため、ビスメチルシクロペンタジエニルベリリウムは、ビスシクロペンタジエニルマグネシウムに比べ、分極が小さいという特徴を持つ。このため、MOCVD法で使用される反応炉や導入管等での分子の付着密度を低減できる。その結果、結晶成長時に急峻なドーピングファイルを得ることができる。
【0036】
なお、上述の例では、n型クラッド層2、p型電子障壁層5及びp型クラッド層7をAlGaNで形成しているが、他のIII族窒化物半導体、例えばGaNで形成しても良い。また、p型コンタクト層8をGaNで形成しているが、他のIII族窒化物半導体、例えばAlx4Ga(1-x4)N(0<x4<1)やGay3In(1-y3)N(0<y3<1)で形成しても良い。y3は例えば“0.9”である。
【0037】
次に本発明の効果について説明する。図4〜11は図3に示される試料100を用いて実験を行った結果を示す図である。図4は室温における正孔密度のドーピング密度依存性を示す図であって、図5は図4でプロットされた値を表にまとめたものである。図6は室温における正孔移動度のドーピング密度依存性を示す図であり、図7は図6でプロットされた値を表にまとめたものである。図8は室温における電気抵抗率のドーピング密度依存性を示す図であって、図9は図8でプロットされた値を表にまとめたものである。図10は室温におけるコンタクト抵抗率のドーピング密度依存性を示す図であって、図11は図10でプロットされた値を表にまとめたものである。まず試料100について説明する。
【0038】
図3に示されるように、試料100はn型GaN基板101を備えている。n型GaN基板101上には厚さ1000nmのp型GaN層102が形成されており、p型GaN層102上には厚さ60nmのp型GaN層103が形成されている。
【0039】
図4〜9に示される実験結果は、上層のp型GaN層103でのドーピング密度を1×1021/cm3で固定し、下層のp型GaN層102でのドーピング密度を変化させて当該p型GaN層102での正孔密度、正孔移動度、電気的抵抗率を測定した結果を示している。一方で、図10,11に示される実験結果は、下層のp型GaN層102でのドーピング密度を4×1019/cm3で固定し、上層のp型GaN層103でのドーピング密度を変化させて当該p型GaN層103に対するコンタクト抵抗率を測定した結果を示している。
【0040】
図4,6,8,10では、p型GaN層101,102をMOCVD法で結晶成長させる際に、原材料としてビスメチルシクロペンタジエニルベリリウムを使用してp型GaN層101,102の両方にベリリウムをドーピングした際の結果が実線で示されており、原材料としてビスシクロペンタジエニルマグネシウムを使用してp型GaN層101,102の両方にマグネシウムをドーピングした際の結果が破線で示されている。図4,5に示される結果はVan der Pauw法でHall測定した結果であり、図10,11に示される結果はサーキュラーTLM法で測定した結果である。
【0041】
図5,7,9,11では、p型ドーパントとしてベリリウムを使用した場合とマグネシウムを使用した場合との正孔密度、正孔移動度、電気的抵抗率、コンタクト抵抗率の差もそれぞれ示されている。図5,7では、ベリリウムを使用した場合の値からマグネシウムを使用した場合の値を差し引いた値が示されており、図8,9では、マグネシウムを使用した場合の値からベリリウムを使用した場合の値を差し引いた値が示されている。
【0042】
図4,5に示されるように、p型ドーパントとしてマグネシウムを使用した場合よりもベリリウムを使用した場合の方が、同じドーピング密度でもp型GaN層102での正孔密度が高くなっている。特に、ドーピング密度が2×1019/cm3以上7×1019/cm3以下の範囲では、正孔密度の差が1018/cm3オーダとなり非常に大きくなっている。そして、最大の正孔密度は、マグネシウムを使用した場合には9.5×1017/cm3に対して、ベリリウムを使用した場合には4.8×1018/cm3となっている。このように、マグネシウムを使用した場合よりもベリリウムを使用した場合の方が正孔密度が高くなるのは、ベリリウムのGaN中の活性化エネルギーがマグネシウムと比べて小さいからであると考えられる。
【0043】
また図6,7に示されるように、p型ドーパントとしてマグネシウムを使用した場合よりもベリリウムを使用した場合の方が、同じドーピング密度でもp型GaN層102での正孔移動度は大きくなっている。正孔移動度は、正孔の有効質量とイオン化不純物散乱確率とで主に決定される。前者については、母体となる材料、すなわち本例ではGaNの物理的特性によって規定されるため大きな差異は無いが、後者のイオン化不純物散乱確率は、ドーパント原子が形成するポテンシャルにより規定される。ベリリウムとマグネシウムとでは、原子サイズが異なるため、当該ポテンシャルに差異が生じ、図6,7のように正孔移動度に差が生じたものと考えられる。
【0044】
また図8,9に示されるように、p型ドーパントとしてマグネシウムを使用した場合よりもベリリウムを使用した場合の方が、同じドーピング密度でもp型GaN層102での電気抵抗率が小さくなっている。特に、ドーピング密度が1×1019/cm3の場合と、7×1019/cm3以上では電気抵抗率の差が大きくなっており、さらに7.0×1020/cm3の場合には電気抵抗率の差は非常に大きくなっている。そして、最小の電気抵抗率は、マグネシウムを使用した場合には0.56612Ωcmであるのに対して、ベリリウムを使用した場合には0.10684Ωcmとなっている。このように、マグネシウムを使用した場合よりもベリリウムを使用した場合の方が電気抵抗率が小さくなるのは、正孔密度の場合と同様に、ベリリウムのGaN中での活性化エネルギーがマグネシウムに比べて低く、正孔形成に要する活性化エネルギーがベリリウムを使用した場合の方がマグネシウムを使用した場合よりも小さいからである。
【0045】
また図10,11に示されるように、p型ドーパントとしてマグネシウムを使用した場合よりもベリリウムを使用した場合の方が、同じドーピング密度でもp型GaN層103に対するコンタクト抵抗率が小さくなっている。特に、ドーピング密度が4×1019/cm3以下と、2×1020/cm3以上とでは、コンタクト抵抗率の差が大きくなっており、さらに2.5×1019/cm3以下と、7×1020/cm3 の場合とでは、コンタクト抵抗率の差は非常に大きくなっている。そして、最小のコンタクト抵抗率は、マグネシウムを使用した場合には0.00045Ωcm2であるのに対して、ベリリウムを使用した場合には0.00023Ωcm2となっており、ベリリウムを使用するとほぼ半減することが理解できる。コンタクト抵抗率の規定要因は極めて複雑であるが、主に半導体層最上面近傍の正孔密度によって決まる、金属層とのトンネル確率が主な要素であると考えられる。上述のようにベリリウムをp型ドーパントとして使用した場合には正孔密度を高めることができることから、コンタクト抵抗率が低減しているものと考えられる。
【0046】
以上のように、本実施の形態に係る半導体発光素子では、p型電子障壁層5やp型クラッド層7等のp型III族窒化物半導体層がp型ドーパントとしてベリリウムを含んでいる。ベリリウムは、従来から用いられてきたマグネシウムと比べて熱的活性化エネルギーが低いため、室温におけるp型III族窒化物半導体層での正孔の活性化率が向上する。したがって、p型III族窒化物半導体層に対するp型ドーパントのドーピング密度を小さく設定することができる。その結果、p型III族窒化物半導体層に不要な準位の形成を防止することができ、当該p型III族窒化物半導体層での電気抵抗率を低減することができる。その結果、動作電圧を低減することができ、素子への入力電圧を小さく設定できる。特に、p型クラッド層7はその役割から一般的に膜厚を厚く形成するため、素子全体での電気抵抗を規定する主要な層となることから、当該p型クラッド層7のp型ドーパントとしてベリリウムを使用し、当該p型クラッド層7の電気抵抗率を低減することによって、動作電圧が十分に低減することになる。
【0047】
さらに、p型III族窒化物半導体層に不要な準位の形成を防止することができることから、不要な発光・非発光中心の形成を防止することができ、その結果、発光効率が向上する。
【0048】
また、ドーピング密度を低減することができることから、多重量子井戸活性層4に向かうp型ドーパントの量を低減することができる。よって、多重量子井戸活性層4において不要な発光が生じることを抑制でき、発光効率が向上する。
【0049】
また、p型電子障壁層5に関しては、多重量子井戸活性層4に接触して配置されており、多重量子井戸活性層4には通常不純物のドーピングを行わないため、p型電子障壁層5の結晶成長中をはじめとして、p型電子障壁層5中のp型ドーパントは特に多重量子井戸活性層4に向かって熱的拡散が生じやすい。p型ドーパントとしてベリリウムを使用することによってドーピング密度を低減することができ、その結果、原理的に原子密度の空間変化に依存する原子の熱的拡散量を低減できることから、発光効率の向上という観点からは、p型電子障壁層5にベリリウムをドーピングするのが特に有効である。つまり、p型電子障壁層5がp型ドーパントとしてベリリウムを含むことによって、発光効率を大きく向上することができる。
【0050】
また、p型コンタクト層8でのp型ドーパントとしてベリリウムを使用した場合には、p型コンタクト層8での正孔密度が向上することから、p型コンタクト層8とp側電極11とのコンタクト抵抗率を低減することができる。
【0051】
さらに、一般的にドーピング密度が他のp型半導体層よりも高く設定されるp型コンタクト層8に対するドーピング密度を低減することができることから、結晶中の水素原子密度の低減が可能となる。よって、イオン化した水素、つまりプロトンが多重量子井戸活性層4に蓄積されることを抑制でき、多重量子井戸活性層4に非発光再結合中心が形成されることを抑制できる。よって、発光効率が向上し、素子の長寿命化が可能となる。
【0052】
また、p型クラッド層7をp型Alx3Ga(1-x3)Nで形成し、p型電子障壁層5をp型Alx2Ga(1-x2)Nで形成した場合には、光閉じ込めとキャリア閉じ込めの効果が向上するため、発光効率をさらに向上することができ、結晶学的に素子の欠陥が少なく、素子を長寿命化できる。p型電子障壁層5のAlの組成比x2は、0.15≦x2<1が望ましく、p型クラッド層7のAlの組成比x3は、0<x3<0.1が望ましい。
【0053】
また、p型コンタクト層8をGay3In(1-y3)Nで形成した場合には、さらに動作電圧を低減することができる。これは、Gay3In(1-y3)NはGaNよりもバンドギャップが小さく、より高い正孔密度が得らることができ、コンタクト抵抗率をさらに低減することができるからである。この場合のGaの組成比y3は、0.9≦y3<1が望ましい。
【0054】
p型半導体層のすべてにベリリウムをドーピングした本実施の形態に係る半導体発光素子の動作電圧が、本実施の形態に係る半導体発光素子においてp型半導体層のすべてにベリリウムではなくマグネシウムをドーピングした際の動作電圧と比べて、100mW出力時において約0.8V低減することを実験で確認した。
【0055】
また、本実施の形態に係る半導体発光素子においてp型クラッド層7及びp型コンタクト層8のみにベリリウムをドーピングし、その他のp型半導体層にはマグネシウムをドーピングした際の動作電圧が、本実施の形態に係る半導体発光素子においてp型半導体層のすべてにマグネシウムをドーピングした際の動作電圧と比べて、100mW出力時において約0.7V低減することを実験で確認した。
【0056】
また、本実施の形態に係る半導体発光素子においてp型コンタクト層8のみにベリリウムをドーピングし、その他のp型半導体層にはマグネシウムをドーピングした際の動作電圧が、本実施の形態に係る半導体発光素子においてp型半導体層のすべてにマグネシウムをドーピングした際の動作電圧と比べて、100mW出力時において約0.5V低減することを実験で確認した。
【0057】
また、本実施の形態に係る半導体発光素子においてp型コンタクト層8をGa0.9In0.1Nで形成した際の動作電圧が、本実施の形態に係る半導体発光素子においてp型コンタクト層8をGaNで形成した際の動作電圧と比べて、100mW出力時において約0.2V低減することを実験で確認した。
【0058】
上述のように、本実施の形態に係る製造方法では、p型電子障壁層5やp型クラッド層7などのp型III族窒化物半導体層をMOCVD法で形成する際には、p型ドーパントの原材料としてビスメチルシクロペンタジエニルベリリウムを使用しているため、MOCVD法で使用される反応炉や導入管等での分子の付着密度を低減できる。その結果、急峻なドーピングファイルを得ることができ、所望の不純物分布を実現しやすくなる。
【0059】
なお、p型コンタクト層8をMOCVD法で形成する代わりに、分子線エピタキシャル成長法(MBE成長法)を使用して形成しても良い。以下にこの場合の本半導体発光素子の製造方法について説明する。
【0060】
まず上述の製造方法と同様にして、p型クラッド層7までをMOCVD法を使用して形成する。そして、ウェハを有機金属気相成長装置から取り出して、分子線エピタキシャル成長装置に搬入する。その後、超高真空下にて、プラズマ分解した窒素をウェハに照射しながら当該ウェハを1000℃まで加熱し、Ga分子線及びベリリウム分子線をウェハに照射する。これにより、p型クラッド層7上にはベリリウムを含むp型コンタクト層8が成長する。その後、同様にして、リッジ部9及び絶縁膜10等を形成する。
【0061】
このように、分子線エピタキシャル成長法を使用してp型コンタクト層8を形成することにより、ベリリウム以外の炭素などの不純物が混入することを回避することができる。さらに、有機金属気相成長法で通常使用されるアンモニア分子から分解した水素原子がp型コンタクト層8に混入されることを回避することができる。よって、p型コンタクト層8の結晶の電気的特性が改善され、素子の動作電圧を低減することができる。
【0062】
p型コンタクト層8だけでなく、他のp型半導体層、例えばp型電子障壁層5やp型クラッド層7も分子線エピタキシャル成長法を使用して形成しても良い。
【0063】
本実施の形態では、本発明を半導体レーザに適用した際の例を説明したが、本発明は発光ダイオードにも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の実施の形態に係る半導体発光素子の構造を示す断面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る半導体発光素子の製造方法を示すフローチャートである。
【図3】本発明の効果を説明するための実験で使用した試料の構造を示す断面図である。
【図4】室温における正孔密度のドーピング密度依存性を示す図である。
【図5】室温における正孔密度のドーピング密度依存性を示す図である。
【図6】室温における正孔移動度のドーピング密度依存性を示す図である。
【図7】室温における正孔移動度のドーピング密度依存性を示す図である。
【図8】室温における電気抵抗率のドーピング密度依存性を示す図である。
【図9】室温における電気抵抗率のドーピング密度依存性を示す図である。
【図10】室温におけるコンタクト抵抗率のドーピング密度依存性を示す図である。
【図11】室温におけるコンタクト抵抗率のドーピング密度依存性を示す図である。
【符号の説明】
【0065】
1 n型基板、4 多重量子井戸活性層、5 p型電子障壁層、7 p型クラッド層、8 p型コンタクト層、11 p側電極。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
III族窒化物半導体から成る基板と、
前記基板上に設けられたn型半導体層と、
前記n型半導体層上に設けられた、光を発する活性層と、
前記活性層上に設けられたp型半導体層と
を備え、
前記p型半導体層は、p型III族窒化物半導体層を含み、
前記p型III族窒化物半導体層はp型ドーパントとしてベリリウムを含んでいる、半導体発光素子。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体発光素子であって、
前記p型III族窒化物半導体層は、前記活性層上に設けられたp型電子障壁層である、半導体発光素子。
【請求項3】
請求項1に記載の半導体発光素子であって、
前記p型III族窒化物半導体層はp型クラッド層である、半導体発光素子。
【請求項4】
請求項2及び請求項3のいずれか一つに記載の半導体発光素子であって、
前記p型III族窒化物半導体層は、p型GaNあるいはp型AlxGa(1-x)N(0<x<1)から成る、半導体発光素子。
【請求項5】
請求項2に記載の半導体発光素子であって、
前記p型半導体層は、前記p型電子障壁層上に設けられた、p型III族窒化物半導体から成るp型クラッド層をさらに含み、
前記p型クラッド層はp型ドーパントとしてベリリウムを含み、
前記p型電子障壁層は、p型Alx1Ga(1-x1)N(0<x1<1)から成り、
前記p型クラッド層は、p型Alx2Ga(1-x2)N(0<x2<1)から成る、半導体発光素子。
【請求項6】
請求項1に記載の半導体発光素子であって、
前記p型III族窒化物半導体層は、電極に接触するp型コンタクト層である、半導体発光素子。
【請求項7】
請求項6に記載の半導体発光素子であって、
前記p型コンタクト層は、p型GaN、p型AlxGa(1-x)N(0<x<1)及びp型GayIn(1-y)N(0<y<1)のいずれか一つから成る、半導体発光素子。
【請求項8】
請求項7に記載の半導体発光素子であって、
前記p型コンタクト層は、p型GayIn(1-y)N(0<y<1)から成る、半導体発光素子。
【請求項9】
請求項1に記載の半導体発光素子の製造方法であって、
前記p型III族窒化物半導体層を有機金属気相成長法を使用して形成する工程を備え、当該工程では、前記p型ドーパントとしてのベリリウムの原材料としてビスメチルシクロペンタジエニルベリリウムが使用される、半導体発光素子の製造方法。
【請求項10】
請求項1に記載の半導体発光素子の製造方法であって、
前記p型III族窒化物半導体層を分子線エピタキシャル成長法を使用して形成する、半導体発光素子の製造方法。
【請求項1】
III族窒化物半導体から成る基板と、
前記基板上に設けられたn型半導体層と、
前記n型半導体層上に設けられた、光を発する活性層と、
前記活性層上に設けられたp型半導体層と
を備え、
前記p型半導体層は、p型III族窒化物半導体層を含み、
前記p型III族窒化物半導体層はp型ドーパントとしてベリリウムを含んでいる、半導体発光素子。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体発光素子であって、
前記p型III族窒化物半導体層は、前記活性層上に設けられたp型電子障壁層である、半導体発光素子。
【請求項3】
請求項1に記載の半導体発光素子であって、
前記p型III族窒化物半導体層はp型クラッド層である、半導体発光素子。
【請求項4】
請求項2及び請求項3のいずれか一つに記載の半導体発光素子であって、
前記p型III族窒化物半導体層は、p型GaNあるいはp型AlxGa(1-x)N(0<x<1)から成る、半導体発光素子。
【請求項5】
請求項2に記載の半導体発光素子であって、
前記p型半導体層は、前記p型電子障壁層上に設けられた、p型III族窒化物半導体から成るp型クラッド層をさらに含み、
前記p型クラッド層はp型ドーパントとしてベリリウムを含み、
前記p型電子障壁層は、p型Alx1Ga(1-x1)N(0<x1<1)から成り、
前記p型クラッド層は、p型Alx2Ga(1-x2)N(0<x2<1)から成る、半導体発光素子。
【請求項6】
請求項1に記載の半導体発光素子であって、
前記p型III族窒化物半導体層は、電極に接触するp型コンタクト層である、半導体発光素子。
【請求項7】
請求項6に記載の半導体発光素子であって、
前記p型コンタクト層は、p型GaN、p型AlxGa(1-x)N(0<x<1)及びp型GayIn(1-y)N(0<y<1)のいずれか一つから成る、半導体発光素子。
【請求項8】
請求項7に記載の半導体発光素子であって、
前記p型コンタクト層は、p型GayIn(1-y)N(0<y<1)から成る、半導体発光素子。
【請求項9】
請求項1に記載の半導体発光素子の製造方法であって、
前記p型III族窒化物半導体層を有機金属気相成長法を使用して形成する工程を備え、当該工程では、前記p型ドーパントとしてのベリリウムの原材料としてビスメチルシクロペンタジエニルベリリウムが使用される、半導体発光素子の製造方法。
【請求項10】
請求項1に記載の半導体発光素子の製造方法であって、
前記p型III族窒化物半導体層を分子線エピタキシャル成長法を使用して形成する、半導体発光素子の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2007−281387(P2007−281387A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−109373(P2006−109373)
【出願日】平成18年4月12日(2006.4.12)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年4月12日(2006.4.12)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
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