説明

半導体発光素子及びその製造方法

【課題】 FFPがリップルの少ない良好なガウシアン形状となる半導体発光素子を提供すること。また、共振器端面と保護膜との密着性を向上させ、製造効率の増大を図り、製造コストの低減を行うことができる半導体発光素子を提供すること。
【解決手段】 基板と、該基板上に積層された半導体層と、該半導体層の共振器側の端面に形成された突出部とを有する半導体発光素子において、前記突出部は、光出射面と側面とを有しており、前記突出部の平面視形状は、連続した波状形状又は凹凸形状をしており、前記突出部の側面は、光出射面よりも表面粗さが大きい領域を有していることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体発光素子に関し、より詳細には、半導体層の共振器側の端面に突出部を有する半導体発光素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体発光素子の構造に関して種々の研究がなされており、その中でも端面発光素子である半導体レーザ素子や端面発光LEDについて多くの研究報告がなされている。光の出射モードと呼ばれる発光素子から放出された光の形状を制御する構造、また高出力化や長寿命化、信頼性の向上などを図るための構造などが提案されている。
【0003】
半導体レーザでは、光の横モード制御のためにストライプ構造を形成して、ストライプ状の導波路領域内で発生した光を共振させる。このとき、活性層を含む導波路領域から光が漏れると、この漏れた光が迷光となって半導体レーザの外部に放出される。これによって、主レーザ光にノイズが乗り、FFP(ファー・フィールド・パターン)にリップルが現れるようになる。特に、半導体レーザを高出力化するに従って、この現象が顕著になる。このようなノイズであるリップルは光ファイバーやレンズに結合する際に種々の支障を招くため、リップルのないFFPを実現可能な半導体発光素子が求められている。
【0004】
例えば、特許文献1では、基板上に形成されたリッジストライプを有する窒化物半導体層と、その上に形成された電極と、リッジストライプの長手方向に垂直な出射端面とを備えた窒化物半導体レーザ素子において、出射端面近傍のリッジストライプが設けられていない部分に開口部(凹部)が形成され、この凹部の底面を除いた面を窒化物半導体層の上面に比べて粗い面とするものである。
【0005】
また、特許文献2では、リップル対策の構造ではないが、基板上にIII族窒化物系半導体層が形成された半導体素子であって、III族窒化物系半導体層の側面に規則的または不規則的な凹凸パターンが形成されている半導体素子がある。この半導体素子の側面には絶縁膜が形成されており、このような構造によって、絶縁膜の剥離が防止されるとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−287137号公報
【特許文献2】特開2001−185802号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記半導体レーザ素子では、リップルの抑制がまだ不十分である。そのため、歩留まりの低下を招くことがある。
【0008】
さらに共振器端面で発生した熱による保護膜の剥がれ又は劣化を低減させ、共振器端面
と保護膜との密着性を良好に保つこと、ひいては高出力化を確保しながら共振器端面の保
護膜の剥がれを抑制し、さらに製造効率の増大を図り、製造コストの低減を行うことが強
く求められている。
【0009】
そこで、本発明は、FFPがリップルの少ない良好なガウシアン形状となる半導体発光素子を提供することを目的とする。また、本発明は、共振器端面と保護膜との密着性を向上させ、製造効率の増大を図り、製造コストの低減を行うことができる半導体発光素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の半導体発光素子は、基板と、該基板上に積層された半導体層と、該半導体層の共振器側の端面に形成された突出部とを有する半導体発光素子において、前記突出部は、光出射面と側面とを有しており、前記突出部の側面の平面視形状は、連続した波状形状又は凹凸形状をしており、前記突出部の側面は、光出射面よりも表面粗さが大きい領域を有していることを特徴とするものである。
【0011】
本発明の半導体発光素子は、基板と、該基板上に積層された半導体層と、該半導体層の共振器側の端面に形成された突出部とを有する半導体発光素子において、前記突出部は、光出射面と側面とを有しており、前記突出部の側面の平面視形状は、連続した波状形状又は凹凸形状をしており、前記突出部の側面は、突起部を有していることを特徴とするものである。
【0012】
また、上述した半導体発光素子は、以下のいずれか1以上をさらに備えることが好ましい。
(1)前記突出部の側面に形成された突起部は、半導体層の成長面と略平行方向に延びている。
(2)前記突出部の平面視形状は、光出射面方向に細くなっている。
(3)前記半導体発光素子は、前記突出部の前方に半導体層か基板の露出領域がある。
(4)前記突出部の光出射面と側面には保護膜が形成されている。
(5)前記半導体発光素子は、半導体レーザ素子又は端面発光LEDである。
(6)前記突出部は、エッチングにより形成される。
【0013】
本発明の半導体発光素子の製造方法は、基板と、該基板上に積層された半導体層と、該半導体層の共振器側の端面に形成された突出部とを有する半導体発光素子の製造方法において、基板上に半導体層を積層する工程と、前記半導体層に共振器側の端面を形成するとともに、該共振器側の端面に光出射面と側面とを有する突出部を形成して、該突出部の側面の平面視形状を連続した波状形状又は凹凸形状とする工程と、前記突出部の側面に突起部を形成する工程と、を備えたことを特徴とするものである。
【0014】
上述した半導体発光素子の製造方法は、前記突出部の側面の平面視形状を連続した波状形状又は凹凸形状とする工程と、前記突出部の側面に突起部を形成する工程は、同時に行うことが好ましい。これにより、製造効率を向上させることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の半導体発光素子によれば、所望の光の出射モードを提供することができる。また、本発明の半導体レーザ素子によれば、レーザ光のFFPのリップルを抑制することができる。
【0016】
また、本発明の半導体発光素子によれば、共振器側の端面と、その端面上に形成される保護膜との密着性を向上させることができる。これにより半導体発光素子の信頼性、寿命特性を向上させることが可能となる。
【0017】
さらに、例えばエッチングの一工程によって、ウェハ単位での複数の半導体発光素子の共振器端面を形成することができ、製造効率を向上させることができる。半導体層の活性層近傍の共振器端面は、非常に良好な表面形状を有することとなり、劈開で共振器端面を形成したものと同等の特性を備えた半導体発光素子を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施の形態に係る半導体発光素子の構造を説明するための概略斜視図である。
【図2】本発明の一実施の形態に係る半導体発光素子の構造を説明するための要部の概略上面図である。
【図3】本発明の一実施の形態に係る半導体発光素子の構造を説明するための概略断面図である。
【図4】本発明の一実施の形態に係る半導体発光素子の構造を説明するための要部を拡大した概略斜視図である。
【図5】本発明の窒化物半導体レーザ素子の突出部の拡大写真である。
【図6】本発明の窒化物半導体レーザ素子のFFP―Xを示すグラフである。
【図7】比較例の窒化物半導体レーザ素子のFFP―Xを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、本発明の実施の形態に係る半導体レーザ素子を示す斜視図である。基板10と、この基板上に半導体層20が積層されており、この半導体層の共振器側の端面に突出部31が設けられている。この突出部31は、光出射面32と側面33とを有している。また突出部を平面視すると、その側面33の形状は、連続した波状形状を有している。更に、この突出部31の側面33には、光出射面32よりも表面粗さが大きい領域33aを有している。
【0020】
ここで、連続した波状形状とは、図2示すように平面視したときの側面33の形状のことであり、この形状が直線ではなく左右に蛇行して延びているものである。また、U字形状をしたパターンを繋げたものや逆ドーム状をしたパターンを繋げたものがある。ここで1つのU字や逆ドーム状のパターンの幅は、2μm〜15μm程度の範囲にある。また、U字や逆ドーム状をしたパターンの平面視したときの高さは、0.5μm〜20μm程度の範囲にある。
【0021】
また、突出部31の側面33にある光出射面32よりも表面粗さが大きい領域33aとは、公知の観察方法を用いて表面状態を評価したときに、その表面粗さの大小関係が確認できるものである。例えば、JISB0601(1994)等による算術平均粗さ、最大高さ、十点平均粗さ等によって評価した場合に、光出射面32の算術平均粗さに対して、この表面粗さが大きい領域33aの算術平均粗さが1.5倍以上である。
また、この表面粗さが大きい領域33aは、突出部31の光出射面における表面凹凸の高低差よりも、その表面凹凸の高低差が大きい。
【0022】
図3は、本発明の実施の形態に係る半導体レーザ素子を示す断面図である。基板10と、この基板上に半導体層20が積層されており、この半導体層の共振器側の端面に突出部31が設けられている。この突出部は、光出射面32と側面33とを有している。
【0023】
また、本発明の実施の形態に係る半導体レーザ素子は、突出部を平面視すると、その側面33の形状は、連続した凹凸形状を有しているものであってもよい。更に、この突出部31の側面33には、光出射面32よりも表面粗さが大きい領域33aを有している。
【0024】
ここで、連続した凹凸形状とは、突出部31を平面視したときの側面33の形状のことであり、この形状が角部を有するものであって、階段状に延びているものである。この凹凸形状とは、形状が直線ではなく左右に蛇行して延びている形状であって、その1つのパターンが角部を有するものである。また、本発明の突出部の側面は、この凹凸形状と上述した波状形状のパターンを備えたものであってもよい。本発明の突出部の側面は、凹凸形状と波状形状のパターンを備えた場合には、波状形状の割合が高いものが好ましい。
【0025】
また、突出部31の側面33における光出射面32よりも表面粗さが大きい領域33aとは、別の言い方をすれば、突出部31の側面33には突起部を有していることになる(図1)。この突起部とは、突出部31の側面33において、上記波状形状や凹凸形状が伸びる方向に平行して形成されるものであって、山脈のように幅や高さが不規則に連なっているものである。
【0026】
突出部の側面に形成された突起部は、半導体層の成長面と略平行方向に延びていることが好ましい。この突起部の幅は0.1μm〜5.0μmであり、長さは2μm〜30μmである。また、この突起部は幅方向にも長さ方向にも部分的に断線していてもよいが、好ましくは断線がなく半導体層の成長面と略平行方向に連続して延びて形成されているものである。また図3に示すように、この突起部は突出部の側面において、半導体層の積層方向に複数の筋状で形成されていることが好ましい。このような構成によって、横方向のリップルを効果的に抑制することができる。
突起部の高さは、基板表面から0.1μm〜4.0μmである。突起部の高さが、この範囲にあれば、リップル抑制の効果を奏しながら、端面に形成する保護膜の密着性を良好に維持することができる。
【0027】
突出部31の平面形状は、光出射面方向に細くなっていることが好ましい(図2)。このように、突出部の側面33が光出射面に対して傾斜していることで、上述した本発明の効果がさらに向上する。その理由を以下に説明する。半導体発光素子における共振器側の端面から漏れる迷光は、主に本発明での突出部の側面33を含む領域およびその近傍から外部に放出される光が原因である。そのため、この領域から外部に放出される光を遮るか、若しくはこの領域から光出射面方向以外の方向に迷光を逃がすかを検討する必要がある。本発明では、突出部の平面視形状を、波状形状又は凹凸形状を有するものとし、この突出部の側面が光出射面よりも表面粗さが大きい領域を有していることで、側面33から光出射面方向に迷光が放出されることを遮断することができる。さらに、突出部31の平面形状は、波状形状又は凹凸形状を有するものとし、光出射面方向に細くなっていることで、多少の迷光が突出部の側面から外部に放出されたとしても、この迷光は光出射面方向以外の方向に放出されることになる。
【0028】
図4は、本発明の一実施の形態に係る半導体発光素子の構造を説明するための要部を拡大した概略斜視図である。ここでの半導体発光素子における突出部の側面33の平面視形状は、逆ドーム状をしており、このパターンが連続して繋がっている。また、この側面には光出射面に比べて表面粗さが大きい領域33aを有している。ここでの表面粗さが大きい領域33aは、1つの逆ドーム状のパターンの中に複数存在する。このような構成により、リップルの抑制に効果がある。また、この表面粗さが大きい領域33aは、図4に示すように、1つの逆ドーム状のパターンから隣接する別のパターンにも連続して存在するものであってもよい。この側面の形状は、突出部の両側側面に形成されるものである。更には、この表面粗さが大きい領域33aは、半導体層の成長面に対して平行方向に連なって形成されており、その断面形状が三角形状をした山脈状をしている場合には、別の表現として突起部と示す。以上の説明は、突出部の側面の平面視形状が逆ドーム状をした場合について説明したものであるが、ここでの説明は突出部の側面の平面視形状が他の形状をしたものについても適用できることは言うまでもない。
【0029】
半導体発光素子50は、突出部の前方に半導体層か基板の露出領域がある。このような構成により、ウェハ形状をしているものからバー形状にする工程やバー形状をしているものからチップ形状にする工程、またはウェハ形状をしているものから直接チップ形状にする工程での突出部へのダメージは発生せず、突出部の先方に形成された半導体層又は基板の露出領域がこれらの工程で生じるダメージを吸収する。
【0030】
突出部31の光出射面32と側面33には保護膜が形成されている。このような構成により、光出射面32から放出される光、例えばレーザ光の反射率を調整することができる。しかも、上述した突出部の側面形状との組み合わせによって、保護膜の密着性がよくなるため、半導体発光素子の信頼性が向上する。
【0031】
半導体発光素子50は、半導体レーザ素子又は端面発光LEDである。本発明の半導体発光素子が半導体レーザ素子であれば、リップルが抑制されることで特に光ディスク用途のレーザ光源として有効である。また、端面発光LEDとしても、指向性に優れた光源として有効である。
【0032】
突出部31は、エッチングにより形成されることが好ましい。この突出部を半導体発光素子の製造工程の一工程であるウェハ形状のものからバー形状若しくはチップ形状にする工程で形成する場合には、突出部にダメージが生じる畏れがあるが、このように突出部の形成工程をエッチングにより行うことでこのような問題も解消する。また、突出部31の強度を高めるには、この突出部の光出射面の幅を広げることも考えられるが、そうすることで光出射面から迷光が放出される可能性があるので、光出射面の幅は、1.0μm〜10.0μmの範囲とするのが好ましい。また、側面の長さは、2.0μm以上であって、好ましくは2.0μm〜30.0μmの範囲とする。
【0033】
このように共振器側の端面に形成された突出部を上記構成とすることによって、半導体レーザの導波路領域から漏れた光を散乱させることができる。従って、レーザの主ビームの方向に放出される漏光を低減し、リップルの抑制されたFFPを得ることができる。
また、縦方向のモードホップも抑制することができる。レーザ光のFFPのリップルを減らすことによって、レンズや光ファイバー等の光学系部材との結合やレンズ設計が容易となる。
【0034】
半導体層20は、第1導電型の半導体層21、活性層22及び第2導電型の半導体層23の順に積層されたものであって、ここでは第1導電型の半導体層21はn側半導体層とし、第2導電型の半導体層23はp側半導体層とする。また、第2導電型の半導体層23には、ストライプ状のリッジ14が形成されており、リッジ部の下方がストライプ状の導波路領域となる。
【0035】
共振器側の端面に保護膜が形成された構造をしている。この保護膜は端面保護膜(図示せず)と記載することがある。端面保護膜とは、誘電体膜であって、その単層若しくは多層である。
また、ストライプ状のリッジ14の側面に形成される保護膜を埋込膜(図示せず)と記載することがある。ストライプ状のリッジ14の上部には、p電極41が形成されている。また、p電極上にはpパッド電極42が形成され、基板の裏面にはn電極(図示せず)等が適宜形成されている。
【0036】
前記半導体層の共振器側の端面に形成された突出部の側面に形成される表面粗さが大きい領域33aは、活性層又は第1導電型の半導体層21に形成されることが好ましい。その理由は、半導体レーザの導波路領域から漏れた光は第2導電型の半導体層23側に漏れた場合には、この第2導電型の半導体層上に形成された電極によって吸収されることもあるが、第1導電型の半導体層に漏れた光は基板10側まで伝播してしまうか、第1導電型の半導体層21の側面から外部に漏れ出すためリップル対策がより求められているからである。前記突出部の側面の活性層又は第1導電型の半導体層に表面粗さが大きい領域を形成することで外部に漏れ出す光を抑制することができる。また、前記突出部の側面の活性層及び第1導電型の半導体層に表面粗さが大きい領域を形成することで外部に漏れ出す光をより抑制することができる。
【0037】
半導体層の成長
本実施形態の半導体レーザ素子は、活性層の両側に光ガイド層を形成したSCH(Separate Confinement Heterostructure)構造としている。更に、その両側にn側クラッド層、p側クラッド層を形成している。クラッド層には屈折率の低い窒化物半導体層を設けて光閉じ込めをする。クラッド層はキャリア閉じ込め効果もある。また、前記各層の間に応力緩衝層を有する構造としてもよい。但し、本発明は上記SCH構造に限定されるものではなく、光ガイド層を有しない構造であってもよい。
【0038】
共振器側の端面、及び突出部の観察は、例えば、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)、走査透過電子顕微鏡(Scanning Transmission Electron Microscope:STEM)、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)等により観察することができる。また、このような観察により突出部の側面と光出射面との差異、突出部の側面に形成された突起部を確認することができる。図5に示す写真は本発明の半導体レーザ素子の突出部を観察したSEM写真である。この写真からもわかるように、突出部の側面には、光出射面よりも表面粗さが大きい領域が形成されている。また、この表面粗さが大きい領域は、半導体層の高さ方向に0.1μm〜5.0μm程度の範囲に形成されており、側面の方向に2.0μm以上の長さで形成されていることが好ましい。この領域は、積層された半導体層の活性層を含む領域に形成されている。このような半導体レーザ素子は、リップルが生じることを抑制した半導体レーザ素子となる。
【0039】
なお、本発明の半導体発光素子の突出部の観察は、上述した観察に限られず、公知の方法を用いて共振器端面の表面状態を評価することが可能である。例えば、JISB0601(1994)等による算術平均粗さ、最大高さ、十点平均粗さ等によって評価してもよい。また、原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope:AFM)によって境界領域の表面粗さを数値化して評価してもよい。例えば、エスアイアイ・ナノテクノロジー社製の走査型プローブ顕微鏡(SPI3800N)を用いることによって算術平均粗さを評価することができる。
【0040】
本発明における共振器側端面に形成されている突出部の光出射面32は、2.5〜4.5nm程度の算術平均粗さを有しており、また突出部の側面33における表面粗さが大きい領域33aは、5.0〜9.0nm程度の算術平均粗さを有していることが好ましい。突出部31の側面33において、表面粗さが大きい領域33a以外の領域は、光出射面32程度の表面粗さであることが好ましい。光出射面は面粗さが上記範囲内になければ、この光出射面から放出される光、例えばレーザ光の形状を所望のものとすることができなくなる。さらに、突出部の側面33における表面粗さが大きい領域33aは、光出射面に対して1.5〜3.0倍程度表面が粗いことが好ましい。これによって、効果的に横方向のリップルを除去することができる。
【0041】
共振器側の端面は、通常ドライエッチングによって形成されるが、共振器側の端面に形成される突出部の形状は、その際に用いるマスクの形状等に依存している。このマスクの形状は、上面視したときの形状が波状形状又は凹凸形状をしており、積層された半導体層をこのマスク形状を引き継いで形成されるものである。また、突出部の側面に形成される表面粗さが大きい領域又は突起部は、半導体層のエッチング条件(エッチャントの種類及び流量、RFパワー、圧力、温度、エッチング時間等)に依存しており、これらを適宜制御することによって形成することができる。具体的には、半導体層が窒化物半導体層である場合には、圧力を0.5Pa〜40Pa程度の範囲となるように低真空にし、RFパワーを50〜1000W程度の範囲となるように可変させる等の方法が挙げられる。また、共振器側の端面をエッチングにより形成することによって、後工程の光出射面に端面保護膜を形成する工程もウェハ状態から一工程で形成することが可能となるため、半導体発光素子の製造効率を向上させることができる。
【0042】
このマスクの上面視したときの形状が基板表面に対して、波状形状とは、U字を繋げた形状、U字が上下に繋がった形状、またU字が左右に蛇行している形状である。また、マスクの上面視したときの形状が、凹凸形状とは、光出射面側から共振器方向に段差を持たせた形状である。また、マスクの材料は、特に限定されないが、例えばレジスト、SiO等の絶縁体等を用いる。
【0043】
以下に、本発明の半導体発光素子及びその製造方法の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。しかし本発明はこれに限定されるものではない。
実施例1
この実施例の半導体発光素子は、窒化物半導体からなるレーザ素子に関するものである。図1や図2に示すように、C面を成長面とするGaN基板10上に、第1半導体層(n側窒化物半導体層)21、活性層及び表面にリッジ14が形成された第2半導体層(p側窒化物半導体層)23をこの順に積層しており、共振器側の端面が形成されている。
【0044】
共振器側の端面には突出部31が形成されており、この突出部31には光出射面32と側面33とがある。
また、この半導体レーザ素子は、共振器端面のフロント側端面とリア側端面に端面保護膜(図示せず)を形成する。この保護膜は、単層膜であっても多層膜であってもよい。また、p電極41、pパッド電極42、n電極(図示せず)等が形成されている。
【0045】
窒化物半導体レーザ素子の製造方法としては、まず、厚さ400μmのn型GaNからなる基板10をMOCVD反応容器内にセットし、以下の半導体層を積層して、素子構造を形成する。基板10の表面はC面(0001)であり、下記半導体層を順に積層する。第1半導体層(n側半導体層)として、膜厚2μmのSiドープAl0.03Ga0.97Nのn側クラッド層、膜厚175nmのGaNのn側ガイド層、を積層する。次に活性層として、膜厚14nmのSiドープIn0.02Ga0.98Nの障壁層と膜厚7nmのSiドープIn0.07Ga0.93Nの井戸層を2回繰り返して、最後に障壁層を積層する。次に第2窒化物半導体層(p側半導体層)として、膜厚10nmのMgドープAl0.3Ga0.7Nの電子閉じ込め層、膜厚145nmのGaNのp側ガイド層、各膜厚2.5nmMgドープAl0.1Ga0.9NとGaNを交互に積層してなる超格子の膜厚0.45μmのp側クラッド層、膜厚15nmのMgドープGaNのp側コンタクト層、を積層する。
【0046】
次に、基板10上に窒化物半導体層を有するウェハを、反応容器から取り出した後、p側コンタクト層上に所望の形状をしたSiO2のマスクを形成する。ここでのマスクの形状としては、突出部の光出射面を形成する領域は直線状とし、また側面を形成する領域は波状とする。その後、このマスクを介して、p側コンタクト層側から、n側クラッド層の途中までエッチングし、共振器側の端面に突出部31を形成する。この突出部31の側面を平面視した形状は、連続する波状とする。このとき、突出部31における光出射面32の幅は、6μmであり、光出射面32の高さは4μmである。また、側面33の長さは10μm程度である。
【0047】
また、光出射面の幅はストライプ状のリッジ14との間隔が2.5 μ mである。また、この突出部に形成された光出射面の高さは4μm、また側面の長さは10μmとする。このとき、この突出部の側面には表面粗さが粗い領域33aを形成する。この領域33aの表面粗さは、AFM観察の算術平均粗さで6.0nm程度である。また、この領域33aの幅は、2μm程度であり、その長さは10μm程度である。この領域33aは、側面に数箇所形成されている(図5)。
この突出部を形成するためのエッチング条件としては、反応性イオンエッチング(Reactive Ion Etching:RIE)を用い、CHFガスの流量を5〜200sccm、Oガスの流量を1〜100sccm、圧力を0.5〜30Pa、RFパワーを50〜1000Wの条件でSiOをエッチングして略垂直なマスクを形成する。このようにマスクを形成することで、上記突出部を形成する。
【0048】
ここで突出部を形成し、さらに基板を露出させるエッチング条件としては、RIEを用い、Clガスの流量を10〜200sccm、SiClガスの流量を1〜100sccmを用い、圧力を0.5〜40Pa、RFパワーを50〜1000Wの条件とする。これにより、半導体層をエッチングして共振器側の端面に突出部を形成するとともに、共振器側の端面に垂直な方向にもエッチングする。なお、この際のエッチング深さは、p側コンタクト層の表面からn側クラッド層が露出するまでエッチングする。更に約4μmエッチングして、基板の一部をエッチングする。共振器側の突出部の光出射面32よりも前方領域に基板10の一部を露出させる。この基板の露出領域はウェハからバー形状やチップ形状とするための分割領域である。
【0049】
次に、ストライプ状のリッジ14を形成する。続いて、半導体層の最上層であるp側コンタクト層の表面に、幅2.0μmのストライプ状のSiOよりなるマスクパターンを形成し、RIEを用い、Cl含有ガスによりエッチングし、p側クラッド層とp側光ガイド層との界面付近までエッチングすることで、ストライプ状のリッジ14を形成する。
【0050】
ここで、半導体レーザ素子の寸法としては、共振器長は200〜1000μm、幅は50〜500μm程度の各範囲とできる。本実施例1では、1つの素子領域の寸法は、共振器方向の長さを300μm(共振器長)、共振器方向に直交する半導体レーザ素子の幅を120μmとする。
【0051】
次に、窒化物半導体層の表面及びリッジ側面に膜厚200nmのZrO2からなる埋込膜(図示せず)を形成する。続いて、p側コンタクト層のリッジ最表面に、リッジ24よりも幅広のストライプ状で、p側電極41を形成する。p側電極41は、p側コンタクト層及び埋込膜の上の表面にNi/Au/Ptの順に形成される。次いで、p側電極を形成した後、端面保護膜を形成する。この端面保護膜は、スパッタ装置を用いて形成する。この端面保護膜は、光出射面側にはAlを形成する。さらに、反射側の共振器端面には、(SiO/ZrO)を4周期で形成する。その後、p側電極41上にp側パッド電極42を形成する。
【0052】
次に、n型GaN基板10の裏面を機械的に研磨して、ウエハの厚さ約80μmとする。
そして、GaN基板10の裏面に化学的機械的研磨(Chemical Mechanical Polishing:CMP)を施して更に窒素極性面の平坦化を行なう。その後、GaN基板10の裏面に、Ti/Pt/Auを順に積層してn側オーミック電極(図示せず)を形成する。
【0053】
更に、レーザスクライブ装置で、レーザ光を走査して、半導体ウェハに分割補助溝を形成する。但し、この工程は省略可能である。本実施例では、端面に略垂直及び略平行な分割補助溝を同時に形成する。また、分割補助溝は破線でもストライプでも形成できるが、端面に略平行な分割補助溝はレーザ走査時の端面部へのゴミの影響が考えられる為、破線が望ましい。
【0054】
また、突出部31が凸状の形状になるため、共振器側の端面に略平行な分割補助溝が破線の場合は端面部により近づく事が可能になる。これによりチップ化の歩留まりも向上する。
ここで、端面部と端面に略平行な分割補助溝との距離としては0〜10.0μm程度の範囲とでき、本実施例では端面部と端面に略平行な分割補助溝との距離は2.5μmとする。
【0055】
次に、分割補助溝に沿って素子領域間を分割する。端面に略垂直及び略平行な分割補助溝のどちらからチップ化してもよく、またローラーブレイク等を用いて同時に行ってもよい。
【0056】
このようにして得られる半導体レーザ素子は、発振波長約405nm、共振器長約300μm、幅約120μmのレーザチップである。そして、サブマウントまたは導電性ペーストを介してステムなどの基体にダイボンディング及びワイヤーボンディング後、キャップを施して半導体レーザ装置とすることができる。
【0057】
得られた半導体レーザ素子の共振器側の端面に形成された突出部の側面における表面粗さを、算術平均粗さ:Raをエスアイアイ・ナノテクノロジー社製の走査型プローブ顕微鏡(SPI3800N)装置を用いて測定した。その結果、光出射面においては2.57nm、突出部の側面における表面粗さが大きい領域は6.66nmであった。
【0058】
また、得られた半導体レーザ素子について、FFP−Xを測定した。本実施例の測定結果を図6に示す。また、比較のために突出部の側面の平面視形状を直線形状とし、また表面粗さが大きい領域(突起部)を形成しない半導体レーザ素子の測定結果を図7に示す。
比較例では、図7に示すように、半導体レーザ素子において活性層を含む光導波領域から漏れた光の一部が外部に放出されることによってX方向のリップルが顕著に現われている。一方、本実施例の半導体レーザ素子では、図6に示すように、このような問題である迷光が散乱により解消され、X方向のリップルが抑制されていることが確認された。
以上より、本発明では共振器側の端面に光出射面と側面とを備えた突出部を形成し、この側面が上述した構成を有することで、リップルが抑制された半導体発光素子を提供することができる。また、その突出部の側面の形状により、共振器側の端面と端面保護膜との密着性が良好となり、端面保護膜の剥がれを防止し、ひいては、CODレベルを向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の半導体発光素子は、例えば半導体レーザ、発光ダイオードなどの発光素子のほか、トランジスタなどの電子デバイス、また受光素子や太陽電池などに利用可能である。その用途は、例えば照明用光源、ディスプレイ用光源、光ディスク用光源、光通信システム用光源、医療用光源、車載用光源、又は印刷機用光源、露光用光源、測定器用光源、バイオ関連の励起用光源等である。
【符号の説明】
【0060】
10 基板
14 リッジ
20 半導体層
21 第1導電型半導体層(n型半導体層)
22 活性層
23 第2導電型半導体層(p型半導体層)
31 突出部
32 光出射面
33 側面
33a 表面粗さが大きい領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、該基板上に積層された半導体層と、該半導体層の共振器側の端面に形成された突出部とを有する半導体発光素子において、
前記突出部は、光出射面と側面とを有しており、
前記突出部の側面の平面視形状は、連続した波状形状又は凹凸形状を有しており、
前記突出部の側面は、光出射面よりも表面粗さが大きい領域を有していることを特徴とする半導体発光素子。
【請求項2】
基板と、該基板上に積層された半導体層と、該半導体層の共振器側の端面に形成された突出部とを有する半導体発光素子において、
前記突出部は、光出射面と側面とを有しており、
前記突出部の側面の平面視形状は、連続した波状形状又は凹凸形状を有しており、
前記突出部の側面は、突起部を有していることを特徴とする半導体発光素子。
【請求項3】
前記突出部の側面に形成された突起部は、半導体層の成長面と略平行方向に延びている請求項2に記載の半導体発光素子。
【請求項4】
前記突出部の平面視形状は、光出射面方向に細くなっている請求項1又は2に記載の半導体発光素子。
【請求項5】
前記半導体発光素子は、前記突出部の前方に半導体層か基板の露出領域がある請求項1又は2に記載の半導体発光素子。
【請求項6】
前記突出部の光出射面と側面には、保護膜が形成されている請求項1乃至5のいずれか一項に記載の半導体発光素子。
【請求項7】
前記半導体発光素子は、半導体レーザ素子又は端面発光LEDである請求項1乃至6のいずれか一項に記載の半導体発光素子。
【請求項8】
前記突出部は、エッチングにより形成される請求項1乃至7のいずれか一項に記載の半導体発光素子。
【請求項9】
基板と、該基板上に積層された半導体層と、該半導体層の共振器側の端面に形成された突出部とを有する半導体発光素子の製造方法において、
基板上に半導体層を積層する工程と、
前記半導体層に共振器側の端面を形成するとともに、該共振器側の端面に光出射面と側面とを有する突出部を形成して、該突出部の側面の平面視形状を連続した波状形状又は凹凸形状とする工程と、
前記突出部の側面に突起部を形成する工程と、を備えたことを特徴とする半導体発光素子の製造方法。
【請求項10】
前記突出部の側面の平面視形状を連続した波状形状又は凹凸形状とする工程と、前記突出部の側面に突起部を形成する工程は、同時に行う請求項9に記載の半導体発光素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−205748(P2010−205748A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−46145(P2009−46145)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(000226057)日亜化学工業株式会社 (993)
【Fターム(参考)】