説明

半導体発光装置およびその製造方法

【課題】所謂縦型の半導体発光装置において、オーミック電極と半導体膜との電気的接続を害することなく半導体膜内における電流集中を緩和することができる半導体発光装置を提供する。
【解決手段】半導体膜20は支持体10に接合された半導体膜と、半導体膜の支持体との接合面12とは反対側の面を部分的に覆う第一電極30と、半導体膜の支持体との接合面側に設けられた第二電極40と、を含み、第二電極は、互いに同一の金属酸化物透明導電体からなり且つ互いに電気的に接続された第一の透明電極42および第二の透明電極44を含み、第二の透明電極は、半導体膜を挟んで第一電極と対向する位置に設けられ且つ半導体膜に対する接触抵抗が第一の透明電極よりも高い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)等の半導体発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
GaN等のIII族窒化物を用いた半導体発光装置の結晶成長は、サファイア基板を用いて行われるのが一般的である。このような半導体発光装置は、サファイア基板が導電性を有していない為、半導体膜の同一面側にn電極およびp電極が配置される所謂横型半導体発光装置の形態をとることが一般的であった。しかし、近年においては、サファイア基板をレーザ照射によって剥離除去する技術の確立やGaNを主材料とした導電性の成長用基板の普及により、半導体膜の上面と下面にそれぞれn電極とp電極が設けられた所謂縦型半導体発光装置の製造が可能となっている。
【0003】
縦型半導体発光装置における最も単純な電極構成としては、光取り出し面となるn型半導体層の表面の中央にボンディングパッドとなるnパッド電極を形成し、実装面側となるp型半導体層のほぼ全域に亘ってp電極を形成する構成が考えられる。しかしながら、このような電極構成によれば、nパッド電極の直下において電流が集中し、発光強度分布が不均一となる。また、電流集中は、半導体膜の破壊、発光効率の低下、順方向電圧の上昇を招く。
【0004】
上記した問題点に鑑み、特許文献1には、n型半導体層の表面のほぼ全域を覆う透明電極と、透明電極上に設けられたnパッド電極と、nパッド電極に接続され且つ透明電極の周縁部に向けて伸びる補助電極と、p型半導体層表面のnパッド電極と対向する位置に設けられた絶縁体からなる電流阻止層と、p型半導体層上において電流阻止層の周囲に延在するp電極と、を含む半導体発光装置が開示されている。一方、特許文献2には、半導体膜の表面に異種材料からなる二種類の導電層が並置された電極構造が開示されている。このような電極構成によれば、nパッド電極の直下における電流集中を緩和することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−53425号公報
【特許文献2】特開2010−192701号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されているように、p型半導体層表面にオーミック電極と電流阻止層として機能する絶縁体層とを並置する場合、以下のような問題が生じる。すなわち、このような電極構造を形成する場合、p型半導体層の表面全体に絶縁体層を形成し、不要部分をウェットエッチング法またはリフトオフ法により除去し、絶縁体層を部分的に除去することにより露出したp型半導体層の露出部にオーミック電極を形成する方法が考えられる。この場合、絶縁体層を除去することにより露出したp型半導体層の露出面は、絶縁体の残渣またはレジスト材によって汚染され、オーミック電極とp型半導体層との接触抵抗が大きくなる。接触抵抗の増大は順方向電圧の上昇を招くため好ましくない。一方、p型半導体層の表面にオーミック電極を形成した後に絶縁体層を形成する場合においては、例えば絶縁体層を成膜する際の成膜温度が高すぎたり或いはスパッタ条件が不適切であると、先に形成したオーミック電極のオーミック性が害され、p型半導体層に対する接触抵抗が上昇するおそれがある。換言すれば、先に形成したオーミック電極のオーミック性を損なうことなく絶縁体層を形成しようとすると絶縁体層の成膜温度やスパッタ条件に制限が課せられ、必要十分な絶縁機能を有する絶縁層を形成することが困難となる。
【0007】
一方、特許文献2に記載されているような半導体膜上に異種材料からなる二種類の導電体層が並置された電極構造の場合も上記した半導体膜表面の汚染の問題が生じる。また、異種材料を半導体膜上に隣接して設けると、両材料間の熱膨張係数差に起因して電極剥離が生じるおそれがある。例えば、異種材料からなる電極上に熱圧着等の手法によって支持基板を接合する場合、支持基板を接合する際に加わる熱によって電極が剥離して半導体膜と電極層との接触不良が生じるおそれがある。
【0008】
本発明は上記した点に鑑みてなされたものであり、所謂縦型の半導体発光装置において、オーミック電極と半導体膜との電気的接続を害することなく半導体膜内における電流集中を緩和することができる半導体発光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る半導体発光装置は、支持体に接合された半導体膜と、前記半導体膜の前記支持体との接合面とは反対側の面を部分的に覆う第一電極と、前記半導体膜の前記支持体との接合面側に設けられた第二電極と、を含み、前記第二電極は、互いに同一の金属酸化物透明導電体からなり且つ互いに電気的に接続された第一の透明電極および第二の透明電極を含み、前記第二の透明電極は、前記半導体膜を挟んで前記第一電極と対向する位置に設けられ且つ前記半導体膜に対する接触抵抗が前記第一の透明電極よりも高いことを特徴としている。
【0010】
また、本発明に係る半導体発光装置の製造方法は、成長用基板上に半導体膜を形成する工程と、前記半導体膜上に透明電極層を形成する工程と、前記透明電極層上に支持体を形成する工程と、前記成長用基板を除去する工程と、前記成長用基板を除去することにより露出した前記半導体膜の露出面上の一部を覆うパッド電極を形成する工程と、を含み、前記透明電極層を形成する工程は、前記半導体膜上に金属酸化物透明導電膜を成膜する工程と、前記金属酸化物透明導電膜の前記パッド電極と対向する部分を除去する工程と、熱処理により前記金属酸化物透明導電膜をシンタリングする工程と、前記金属酸化物透明導電膜を部分的に除去することにより露出した前記半導体膜の表面に金属酸化物透明導電膜を成膜する工程と、を有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る半導体発光装置およびその製造方法によれば、所謂縦型の半導体発光装置において、オーミック電極と半導体膜との電気的接続を害することなく半導体膜内における電流集中を緩和することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1(a)は本発明の実施例に係る半導体発光装置の構成を示す断面図、図1(b)は本発明の実施例に係る半導体発光装置の内部を流れる電流の経路を示す断面図である。
【図2】図2(a)〜(c)は、本発明の実施例に係る半導体発光装置の製造方法を示す断面図である。
【図3】図3(a)〜(c)は、本発明の実施例に係る半導体発光装置の製造方法を示す断面図である。
【図4】本発明の実施例に係る第1の透明電極と第2の透明電極の透過率スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施例について図面を参照しつつ説明する。尚、以下に示す図において、実質的に同一又は等価な構成要素、部分には同一の参照符を付している。
【0014】
図1(a)は、本発明の実施例に係る半導体発光装置1の構成を示す断面図である。半導体発光装置1は、nパッド電極30およびp電極40がそれぞれ、半導体膜20の上面および下面に配置される所謂縦型の発光ダイオードである。
【0015】
支持基板10は、半導体膜20を支持し得る機械的強度と導電性を有する基板であり、例えばドーパント注入により導電性が付与されたSiやSiC等の半導体基板により構成される。
【0016】
光反射層14は、p電極40と支持基板10との間に設けられ、活性層24から発せられた光を光取り出し面であるn型半導体層22の上面に向けて反射する光反射面を形成する。光反射層14は、発光波長に対して高い光反射性を有する材料により構成され、例えばAg、Al、Rh、Pdのいずれか1つからなる単層膜またはこれらのうちのいくつかを積層した積層膜により構成される。尚、光反射機能を十分に発揮させるために、光反射層14の厚さは100nm以上であることが好ましい。
【0017】
接合層12は、例えばAuSn等の共融混合物からなり支持基板10は、熱圧着等の手法により接合層12を介して半導体膜20に接合される。
【0018】
半導体膜20は、例えばAlxInyGa1-x-yN(0≦x≦1, 0≦y≦1)で表される窒化物半導体により構成される。半導体膜20は、n型半導体層22、活性層24、p型半導体層26が積層されて構成される。n型半導体層22は所定濃度のSiがドープされてn型の導電型を有している。p型半導体層26は所定濃度のMgがドープされてp型の導電型を有している。活性層24は、例えばInGaN井戸層とGaN障壁層を繰り返し積層した多重量子井戸構造を有する。尚、半導体膜20の積層構造は、ホモ接合構造、シングルへテロ接合構造、ダブルへテロ接合構造のいずれの積層構造を有するものであってもよい。
【0019】
n型半導体層22の表面には、TiおよびAlを積層して構成されるnパッド電極30が設けられている。nパッド電極30は、例えばn型半導体層22の上面中央に配置され、ボンディングワイヤを接続するためのボンディングパッドとして機能する。nパッド電極30は、n型半導体層22との間でオーミック性接触を形成している。
【0020】
p電極40は、p型半導体層26の表面のほぼ全域を覆っている。p電極40は、p型半導体層26表面のnパッド電極30の直下領域以外の領域に延在する第1の透明電極42と、p型半導体層26表面のnパッド電極30の直下に配置された第2の透明電極44とにより構成される。すなわち、第2の透明電極44は、p型半導体層26上であって、半導体膜20の主面と平行な方向(すなわち横方向)においてnパッド電極30と対向する(重なる)位置に配置されている。第1の透明電極42は、nパッド電極30と重ならないように第2の透明電極44の周囲に延在している。第1の透明電極42と第2の透明電極44は、互いに電気的および機械的に接続されている。第1および第2の透明電極は、互いに同一の材料で構成され、例えばスズドープ酸化インジウム(ITO:Indium Tin Oxide)等の金属酸化物透明導電体により構成される。第1および第2の透明電極は、完全に透明であることを要さず、活性層24からの光に対して透光性を有していればよい。
【0021】
第1の透明電極42と第2の透明電極44は、p型半導体層26に対する接触抵抗が互いに異なる。すなわち、第1の透明電極42とp型半導体層26との接触抵抗は2×10-4Ω/cm2〜7×10-3Ωcm2であるのに対して、第2の透明電極44とp型半導体層26との接触抵抗は2×101Ωcm2以上である。つまり、第2の透明電極44は、第1の透明電極42の1000倍以上の接触抵抗を有する。一方、第1の透明電極42のシート抵抗は、100〜200Ω/□であるのに対して第2の透明電極44のシート抵抗は、10〜40Ω/□である。第1の透明電極42と第2の透明電極44におけるこのような電気的特性の差異は、これらの透明電極を構成するITO膜の成膜後におけるシンタリング処理の有無によってもたらされる。その詳細については後述する。このようなp型半導体層26に対する接触抵抗の違いから第1の透明電極42はオーミック電極として機能する一方、第2の透明電極44は、半導体膜20への電流注入を抑制する電流制御層として機能する。半導体膜20は、p電極40の表面を接合面として接合層12を介して支持基板10に接合される。
【0022】
図1(b)において、半導体発光装置1の内部を流れる電流経路が破線矢印で示されている。半導体発光装置1は、支持基板10の裏面が実装基板100に接合され、nパッド電極30にボンディングワイヤ101が接続されて駆動電力の供給を受ける。nパッド電極30の直下にはp型半導体層26に対する接触抵抗が相対的に高い第2の透明電極44が設けられている。このため、第2の透明電極44から半導体膜20への電流注入は抑制され、nパッド電極30の直下領域における電流密度は小さくなる。nパッド電極30の直下領域で生成された光は、nパッド電極30によって遮られ外部に放出されないものが多くなる。このため、nパッド電極30の直下領域における電流を制限することにより発光効率が改善される。一方、p型半導体層26に対する接触抵抗が相対的に低い第1の透明電極42から半導体膜20への電流注入が促進され、その結果、電流は、半導体膜20の周縁部にまで広がってnパッド電極30に達する。すなわち、第2の透明電極44は、nパッド電極30の直下における電流集中を抑制する電流制御層として機能する一方、第1の透明電極42は、半導体膜20への電流注入を積極的に行うオーミック電極として機能する。第1および第2の透明電極を上記の如く配置することによりnパッド電極30の直下領域における電流集中が緩和されるとともに半導体膜20の横方向への電流拡散が促進される。
【0023】
次に、上記した構成を有する半導体発光装置1の製造方法について説明する。図2(a)〜(c)および図3(a)〜(c)は、半導体発光装置1の製造工程におけるプロセスステップ毎の断面図である。
【0024】
(半導体膜の形成工程)
はじめに、成長用基板50を用意する。本実施例では、有機金属気相成長法(MOCVD:Metal Organic Chemical Vapor Deposition)によりGaN系窒化物半導体膜を形成することができるC面サファイア基板を成長用基板50として用いた。
【0025】
成長用基板50をMOCVD装置に投入し、基板温度約1000℃とし、水素雰囲気中で約10分程度の熱処理を行った(サーマルクリーニング)。続いて、成長温度1000℃を保持して、TMG (流量45 μmol/min)、NH3 (流量4.4LM)、SiH4 (流量2.7×10-9 μmol/min)を30分間供給し、層さ約2μmのn型GaN層からなるn型半導体層22を形成した。
【0026】
次に、InGaN井戸層/GaN障壁層からなるペアを5ペア積層した多重量子井戸構造を有する活性層24をn型半導体層22上に形成した。具体的にはn型半導体層22を形成後、成長温度約700℃にてTMG(流量3.6 μmol/min)、TMI (流量10 μmol/min)、NH3(流量4.4LM)を33秒供給して層厚約2.2nmのInGaN井戸層を形成し、続いてTMG(流量3.6 μmol/min)、NH3 (流量4.4LM)を320秒供給して層厚約15nmのGaN障壁層を形成した。かかる処理を5周期分繰り返すことにより活性層24が形成される。
【0027】
p型半導体層26は、p型AlGaNクラッド層、Mgドープされたp型GaN層を順次結晶成長させて形成した。具体的には、成長温度870℃にてTMG(流量8.1 μmol/min)、TMA (流量7.5 μmol/min)、NH3(流量4.4LM)、Cp2Mg(流量2.9×10-7 μmol/min)を5分間供給し、活性層24上に層厚約40nmのp型AlGaNクラッド層を形成した。引き続きそのままの温度でTMG(流量18 μmol/min)、NH3(流量4.4LM)、Cp2Mg(流量2.9×10-7 μmol/min)を7分間供給し、p型AlGaNクラッド層上に層厚約150nmのp型GaN層を形成した。これにより活性層24上にp型半導体層26が形成される(図2(a))。
【0028】
(p型半導体層の活性化工程)
ウエハをMOCVD装置から取り出してp型半導体層26の活性化を行った。成長過程において、p型半導体層26の内部にはキャリアガスの原料である水素が混入しており、Mg−H結合が形成されている。このような状態では、ドープされたMgはドーパントとしての機能を果たすことができず、p型半導体層26は高抵抗化している。この為、p型半導体層26内に混入している水素を脱離させる活性化工程が必要となる。具体的には、400℃以上の不活性ガス雰囲気中でウエハの熱処理を行ってp型半導体層26の活性化処理を行った。
【0029】
(第1の透明電極形成工程)
活性化されたp型半導体層26の表面にオーミック電極として機能する第1の透明電極42を形成した。基板温度を約200℃とし、RFスパッタ法によりp型半導体層26の表面に厚さ約20nmのITO膜を形成した。次に、ITO膜上に所定の開口パターンを有するレジストマスクを形成し、このレジストマスクを介してITO膜をウェットエッチングした。これにより、nパッド電極の直下にあたるp型半導体層の表面中央部のITO膜を除去し、ITO膜を除去した部分においてp型半導体膜26を露出させた。尚、ITO膜の成膜時の基板温度は150℃以上300℃以下の範囲に設定することができる。ITOは基板温度150℃以上で結晶化が促進される。基板温度が低く結晶化が促進されない場合、ITOの光透過率は著しく低下するため好ましくない。一方、基板温度が300℃以上となると、結晶化が促進されITO膜をパターニングするためのエッチング処理が困難となる。また、この場合、ITO膜中の酸素量が増加して酸素欠損が減少することによりキャリア濃度が減少し、シート抵抗が増加するため好ましくない。
【0030】
レジストマスクを除去した後、600℃の酸素を含む雰囲気中にウエハを投入し、1分間の熱処理を行った。この熱処理でITO膜のシンタリングを行うことにより第1の透明電極42を構成するITO膜とp型半導体層26との間の接触がオーミック性接触となり、接触抵抗が大幅に低減される。また、この熱処理によりITO膜の酸素欠損部位に酸素が導入され結晶性が向上する。すなわち、この熱処理により、ITO膜の結晶化の促進とシンタリングが同時に行われることとなる。尚、ITO膜の熱処理温度は、500〜700℃の範囲に設定することが好ましい。熱処理温度を400℃以下とした場合、ITO膜のシンタリングが促進されず、p型半導体層26に対する接触抵抗を十分に下げることができない。一方、熱処理温度を800℃以上とした場合、p型半導体層26において窒素の脱離が起こるため好ましくない。以上の工程を経てp型半導体膜26上に第1の透明電極42が形成される(図2(b))。
【0031】
(第2の透明電極形成工程)
第1の透明電極42を部分的に除去することにより露出したp型半導体層26の露出面に電流制御層として機能する第2の透明電極44を形成した。すなわち、第2の透明電極44は、nパッド電極の直下にあたるp型半導体層26の表面中央に配置される。また、第2の透明電極44は、第1の透明電極42に電気的に接続されるように形成される。具体的には、基板温度を約200℃とし、RFスパッタ法によりp型半導体層26の露出面に厚さ約20nmのITO膜を形成した。ITO膜は、先の工程において形成された第1の透明電極42の表面をも覆うように形成される。尚、ITO膜の成膜時の基板温度は150℃以上300℃以下の範囲に設定することができる。次に、ITO膜上に所定の開口パターンを有するレジストマスクを形成し、レジストマスクを介してITO膜をウェットエッチングして第2の透明電極44にパターニングを施した。第1の透明電極42は、先の酸素雰囲気中での熱処理により結晶化が促進され、エッチング速度が著しく遅い為、このエッチング工程において第1の透明電極42が除去されることはない。第2の透明電極44を構成するITO膜に対しては、成膜後の熱処理は行わない。すなわち、第2の透明電極44についてはシンタリング処理は実施されず、ITO膜の成膜直後の界面状態が維持される。従って、第2の透明電極44とp型半導体層26との接触は非オーミック性接触となり、p型半導体層26に対する接触抵抗は、第1の透明電極42よりも高くなる。以上の工程を経て第1および第2の透明電極からなるp電極40が形成される(図2(c))。
【0032】
(光反射層形成工程)
スパッタ法によりp電極40の表面に厚さ200nm程度のAgを堆積させて光反射層14を形成した。尚、光反射層14は、発光波長に対して高い光反射性を有する他の材料、例えばAl、Rh、Pd等からなる単層膜により構成されていてもよいし、これらのうちのいくつかを積層した積層膜により構成されていてもよい。また、第1の透明電極42や第2の透明電極44との密着性を高めるためにTi又はNiを介して上記光反射性を有する金属膜を形成することとしてもよい。また、接合層12との密着性を高めるために光反射層14の最表面をAu層としてもよい。さらに、光反射層14へ接合層12の材料の拡散を抑制するためバリア層等、適宜な層を光反射層14上に形成することができる。
【0033】
(支持基板の接合工程)
半導体膜20を支持可能な機械的強度を有する導電性の支持基板10を用意する。ドーパント注入により導電性が付与されたSi基板を支持基板10として使用した。次に、スパッタ法により支持基板10の表面に厚さ約1μmのAuSnからなる接合層12を形成した。AuとSnの配合比率は、Snを20重量パーセント(wt%)とした。尚、接合層12は、熱圧着法等により支持基板10と半導体膜20とを接合できる他の材料により構成されていてもよい。
【0034】
次に、ウエハボンダ装置を用いて成長用基板50側の光反射層14と支持基板10側の接合層12とを当接させて熱および圧力を加えて支持基板10を半導体膜20に接合した。支持基板10は、接合層12を構成するAuSnの共晶化によって半導体膜20に接合される(図3(a))。
【0035】
(成長用基板の除去工程)
レーザリフトオフ(LLO)法を用いて成長用基板50を半導体膜20から剥離した。レーザ光源としてエキシマレーザを使用した。成長用基板50の裏面側から照射されたレーザは、半導体膜20に達し、成長用基板10との界面近傍におけるGaNを金属GaとN2ガスに分解する。これにより、成長用基板10と半導体膜20との間に空隙が形成され、成長用基板10が半導体膜20から剥離する。成長用基板10を剥離することによりn型半導体層22が露出する。続いて、露出したn型半導体層22表面に付着しているGaを塩酸処理によって除去した。この後、ArイオンやClイオンを用いた反応性イオンエッチング(RIE:reactive ion etching)や化学機械研磨(CMP: chemical mechanical planarization)などにより、n型半導体層22の表面を平坦化してもよい。また、n型半導体層22の表面に光取り出し効率向上のための凹凸を形成してもよい(図3(b))。
【0036】
(n電極の形成工程)
成長用基板50を剥離することにより露出したn型半導体層22の表面にnパッド電極30を形成した。nパッド電極30の形成領域に開口部を有するレジストマスクをn型半導体層22上に形成し、続いてEB蒸着法によりウエハ上に厚さ約1nmのTiおよび厚さ約1μmのAlを順次堆積させた。その後、不要部分の上記電極材料をレジストマスクとともに除去することによりnパッド電極30のパターニングを行った。これにより、n型半導体層22の表面中央にnパッド電極30が形成される。nパッド電極30は、電流制御層として機能する第2の透明電極44と対向する(重なる)位置に設けられる(図3(c))
以上の各工程を経ることにより、半導体発光装置1が完成する。上記した製造方法で作製された半導体発光装置の第1の透明電極42および第2の透明電極44の各種特性について評価した結果を以下に示す。
【0037】
第1の透明電極42および第2の透明電極44のシート抵抗およびp型半導体層26に対する接触抵抗の測定値を表1に示す。第1の透明電極42のp型半導体層26に対する接触抵抗については、第1の透明電極42がオーミック電極として機能するのに十分な低抵抗値を得ることができた。第2の透明電極44のp型半導体層26に対する接触抵抗については、第2の透明電極44が電流制御層として機能するのに好適な値が得られた。すなわち、第1の透明電極42と第2の透明電極44との間で接触抵抗に顕著な差異が得られた。これは、第1の透明電極42については、熱処理によるITO膜のシンタリングが実施されたのに対して、第2の透明電極44については、ITO膜のシンタリングが実施されず、ITO膜の成膜直後の界面状態が維持されているからである。第1の透明電極42と第2の透明電極44との間で接触抵抗にこのような顕著な差異を設けることにより、p型半導体層26に対する電流注入は、主に第1の透明電極42を介して行われ、第2の透明電極44からは、電流は殆ど注入されなくなる。これにより、第2の透明電極44を電流制御層として有効に機能させることが可能となり、nパッド電極30の直下における電流集中を緩和することが可能となる。そして、半導体膜20内における横方向への電流拡散が促進され、発光効率の改善、発光分布の均一化、順方向電圧の低減および信頼性の向上を達成することができる。
【0038】
一方、シート抵抗に関しては第2の透明電極44が第1の透明電極42よりも低いことが確認された。第1の透明電極42は、ITO膜の成膜後の熱処理により酸素欠損部位に酸素が導入され、結晶化が促進された結果、キャリア密度が低下したため第2の透明電極44よりもシート抵抗値が高くなっているものと考えられる。しかしながら、その絶対値は実使用上において問題のないレベルである。一方、第2の透明電極44は、ITO膜の成膜時において酸素の脱離が起こるため、酸素欠損部位が比較的多く、キャリア密度が比較的高いため、シート抵抗値が比較的低く抑えられている。
【0039】
【表1】

【0040】
図4に第1の透明電極42(実線)と第2の透明電極44(破線)の透過率スペクトルを示す。第2の透明電極44は、第1の透明電極42よりも光吸収端が短波長側に位置していることが確認された。これは、第2の透明電極44の方が第1の透明電極42に比べ、バンドギャップが大きく、光透過性が高いことを意味している。第2の透明電極44が高い光透過性を有することにより、p電極全体としての透過率が向上し、光反射層14に向かう光や光反射層14で反射されて光取り出し面に向かう光の減衰を抑制することができ、光取り出し効率が向上する。
【0041】
以上の説明から明らかなように、本発明の実施例に係る半導体発光装置において、p電極40は、接触抵抗が互いに顕著に異なる第1の透明電極42と第2の透明電極44により構成される。p型半導体層26に対する接触抵抗が比較的低い第1の透明電極42は、オーミック電極として機能し、p型半導体層26に対する接触抵抗が比較的高い第2の透明電極44は、電流制御層として機能する。第2の透明電極42は、半導体膜20の主面と平行な方向においてnパッド電極30と対向する(重なる)位置に設けられているので、nパッド電極30の直下領域における電流集中が緩和され、半導体膜20内における電流拡散が促進される。これにより、発光効率の改善、発光分布の均一化、順方向電圧の低減および信頼性の向上を達成することができる。
【0042】
また、本発明の実施例に係る半導体発光装置およびその製造方法によれば、第1の透明電極42と第2の透明電極44とは同一の金属酸化物導電体により構成されるため、両者の熱膨張係数に差異がない。従って、支持基板10を接合する工程や大電流投入時に加わる熱によってp電極40が剥離するといった問題を防止することが可能となる。
【0043】
また、本発明の実施例に係る半導体発光装置およびその製造方法によれば、電流制御層として機能する第2の透明電極44は、導電性を有しており且つ第1の透明電極42に電気的に接続されていることから、大電流投入時には第2の透明電極44からも電流注入が行われ、nパッド電極30の直下領域にも電流を流すことが可能となる。これにより、半導体膜20内における電流分布が均一化されるので、電流制御層を絶縁体で構成する場合と比較して大電流投入時における順方向電圧の上昇を抑制することが可能となる。
【0044】
また、本発明の実施例に係る半導体発光装置およびその製造方法によれば、オーミック電極として機能する第1の透明電極42を形成する前にp型半導体層26の表面が汚染されることはなく、また、後発的に第1透明電極42のオーミック性が害されるような熱処理も要しない。従って、第1の透明電極42とp型半導体層26との電気的接続を良好に維持することが可能となる。また、第2の透明電極44は、バンドギャップが大きく、高い光透過性を有しているため、p電極全体としての透過率が向上し、光反射層14に向かう光や光反射層14で反射されて光取り出し面に向かう光の減衰を抑制することが可能となる。
【0045】
また、本発明の実施例に係る半導体発光装置およびその製造方法によれば、ITO膜の成膜後におけるシンタリング処理の有無によってp型半導体層26に対する第1および第2の透明電極の接触抵抗に顕著な差異をもたらすことができるので、製造工程が煩雑になることなく電流拡散構造を形成することが可能となる。また、p電極全体を透明電極で構成することにより、p電極40は臨界角以上の角度で入射する光を全反射によって外部に放出させる光反射面として機能し得る。すなわち、高反射率の金属でp電極を構成する場合と比較して光の吸収を低減することができ、光取り出し効率の向上を図ることが可能となる。
【0046】
尚、上記した各実施例においては、第1および第2の透明電極の材料をITOとした場合を例に説明したが、これに限定されない。第1および第2の透明電極は、ZTO(Zinc Tin Oxide:Zn2SnO4)、AZO(アルミニウムドープ酸化亜鉛)、GZO(ガリウムドープ酸化亜鉛)、ATO(アンチモンドープ酸化スズ)、FTO(フッ素ドープ酸化スズ)等の他の金属酸化物透明導電体を使用することも可能である。また、上記した各実施例においては、GaN系窒化物半導体層を有する半導体発光装置に本発明を適用した場合を例に説明したが、GaAs系半導体層、GaP系半導体層を有する半導体発光装置に本発明を適用することも可能である。
【符号の説明】
【0047】
10 支持基板
20 半導体膜
22 n型半導体層
24 活性層
26 p型半導体層
30 n電極
40 p電極
42 第1の透明電極
44 第2の透明電極
50 成長用基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体に接合された半導体膜と、
前記半導体膜の前記支持体との接合面とは反対側の面を部分的に覆う第一電極と、
前記半導体膜の前記支持体との接合面側に設けられた第二電極と、を含み、
前記第二電極は、互いに同一の金属酸化物透明導電体からなり且つ互いに電気的に接続された第一の透明電極および第二の透明電極を含み、
前記第二の透明電極は、前記半導体膜を挟んで前記第一電極と対向する位置に設けられ且つ前記半導体膜に対する接触抵抗が前記第一の透明電極よりも高いことを特徴とする半導体発光装置。
【請求項2】
前記第二の透明電極のシート抵抗は、前記第一の透明電極のシート抵抗よりも低いことを特徴とする請求項1に記載の半導体発光装置。
【請求項3】
前記第二の透明電極のバンドギャップは、前記第一の透明電極のバンドギャップよりも大であることを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体発光装置。
【請求項4】
前記第二の透明電極の前記半導体膜に対する接触抵抗は、前記第一の透明電極の前記半導体膜に対する接触抵抗の1000倍以上であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1つに記載の半導体発光装置。
【請求項5】
前記第一および第二の透明電極は、スズドープ酸化インジウムからなることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1つに記載の半導体発光装置。
【請求項6】
前記支持体と前記半導体膜との間に設けられた光反射層を更に有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1つに記載の半導体発光装置。
【請求項7】
成長用基板上に半導体膜を形成する工程と、
前記半導体膜上に透明電極層を形成する工程と、
前記透明電極層上に支持体を形成する工程と、
前記成長用基板を除去する工程と、
前記成長用基板を除去することにより露出した前記半導体膜の露出面上の一部を覆うパッド電極を形成する工程と、を含み、
前記透明電極層を形成する工程は、
前記半導体膜上に金属酸化物透明導電膜を成膜する工程と、
前記金属酸化物透明導電膜の前記パッド電極と対向する部分を除去する工程と、
熱処理により前記金属酸化物透明導電膜をシンタリングする工程と、
前記シンタリングする工程の後に前記金属酸化物透明導電膜を部分的に除去することにより露出した前記半導体膜の表面に金属酸化物透明導電膜を成膜する工程と、を有することを特徴とする半導体発光装置の製造方法。
【請求項8】
前記熱処理は、前記金属酸化物透明導電膜の結晶化が促進される温度であって酸素を含む雰囲気中で行われることを特徴とする請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記透明電極層を構成する金属酸化物透明導電膜は、スズドープ酸化インジウムからなること特徴とする請求項7又は8に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−169526(P2012−169526A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−30780(P2011−30780)
【出願日】平成23年2月16日(2011.2.16)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】