説明

半導体装置の製造方法

【課題】 半導体層に意図しない種類のドーパント原子又は意図しない濃度のドーパント原子が半導体層に含まれることを抑制する技術を提供する。
【解決手段】 ドーパント原子を含む第1原料ガスを用いて、成長室30内に設置された下地基板16に第1半導体層18を結晶成長させる第1半導体層成長工程と、成長室30の内壁32に付着したドーパント原子を除去するドーパント除去工程と、第2原料ガスを用いて、成長室30内に設置された下地基板16に第2半導体層20を結晶成長させる第2半導体層成長工程を備えている。ドーパント除去工程は、第1半導体層成長工程と第2半導体層成長工程の間に実施される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気相成長法を利用して半導体装置を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置を製造するために、成長室内に原料ガスを供給し、成長室内に設置された下地基板に半導体層を結晶成長させる気相成長法が用いられる。例えば、気相成長法では、成長室内に供給する原料ガスの種類、ドーパント原子の種類及び濃度を結晶成長中に調整することにより、異なる種類の半導体層を下地基板上に積層させることができる。例えば、ドーパント原子を含む原料ガスを成長室内に供給している状態から、ドーパント原子の供給を停止してドーパント原子を含まない原料ガスを成長室内に供給すれば、ドーパント原子を含む半導体層とドーパント原子を含まない半導体層を下地基板上に積層させることができる。このように、複数種類の半導体層を下地基板上に積層させることで、目的の半導体装置を製造することができる。
【0003】
特許文献1には、気相成長法を利用して、接続層と第2の緩和層と第1の緩和層とゲート層とを下地基板上に積層し、HEMT型の半導体装置を製造する技術が開示されている。一例では、接続層と第2の緩和層と第1の緩和層がp型ドーパント原子を含んでおり、ゲート層がi型又はn型ドーパント原子を含んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−227478号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の技術では、p型ドーパント原子を含む原料ガスを用いて接続層と第2の緩和層と第1の緩和層を結晶成長させた後に、p型ドーパント原子の供給を停止又はn型ドーパント原子の供給に切り換えることでゲート層を結晶成長させる。一例では、接続層と第2の緩和層と第1の緩和層とゲート層は、気相成長法を利用して連続して結晶成長される。
【0006】
このように、気相成長法を利用して複数種類の半導体層を連続して結晶成長させる場合、後半の結晶成長で形成される半導体層に、意図しないドーパント原子が含まれることが知られている。本発明者らの検討の結果、その原因は以下の理由であることが分かってきた。
【0007】
例えば、特許文献1のように、前半の結晶成長でp型ドーパント原子を供給し、後半の結晶成長でp型ドーパント原子の供給を停止又はn型ドーパント原子の供給に切り換える場合、p型ドーパント原子を供給しているときにそのp型ドーパント原子が成長室の内壁に付着し、p型ドーパント原子の供給を停止又はn型ドーパント原子の供給に切り換えた後に、成長室の内壁に付着したp型ドーパント原子がp型ドーパント原子を必要としない半導体層内に混入することが分かってきた。
【0008】
上記のような現象は、ドーパント原子の濃度が異なる半導体層を積層する場合にも起こり得る。例えば、結晶成長の途中でドーパント原子の供給量を変更した場合、成長室の内壁に付着したドーパント原子がその後に結晶成長する半導体層内に混入すると、その半導体層内のドーパント原子の濃度が設計値からずれる。
【0009】
本明細書に開示する技術は、気相成長法を利用する半導体装置の製造方法において、意図しない種類のドーパント原子又は意図しない濃度のドーパント原子が半導体層に含まれることを抑制する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本明細書で開示される技術は、下地基板に複数種類の半導体層を結晶成長する半導体装置の製造方法に具現化される。本明細書で開示される製造方法では、成長室の内壁に付着したドーパント原子を除去するために、結晶成長を一旦停止することを特徴としている。本明細書で開示される製造方法では、結晶成長を一旦停止して成長室の内壁に付着したドーパントを除去することで、その後の結晶成長で形成される半導体層に意図しない種類のドーパント原子又は意図しない濃度のドーパント原子が含まれることを抑制することができる。
【0011】
本明細書で開示する半導体装置の製造方法は、第1半導体層成長工程と、ドーパント除去工程と、第2半導体層成長工程を備えている。第1半導体層成長工程では、ドーパント原子を含む第1原料ガスを用いて、成長室内に設置された下地基板に第1半導体層を結晶成長させる。ドーパント除去工程では、成長室の内壁に付着したドーパント原子を除去する。第2半導体層成長工程では、第2原料ガスを用いて、成長室内に設置された下地基板に第2半導体層を結晶成長させる。ドーパント除去工程は、第1半導体層成長工程と第2半導体層成長工程の間に実施される。なお、「第1原料ガス」と「第2原料ガス」は、同一種類の原料ガスでもよく、異なる種類の原料ガスでもよい。また、「第2原料ガス」は、ドーパント原子を含まなくてもよいし、ドーパント原子を第1原料ガスとは異なる濃度で含んでいてもよい。あるいは、「第2原料ガス」は、第1原料ガスとは異なる種類のドーパント原子を含んでいてもよい。上記の製造方法では、第1半導体層成長工程と第2半導体層成長工程の間にドーパント除去工程が実施されるので、第1原料ガスに含まれていたドーパント原子が第2半導体層に混入することが抑制される。
【0012】
第1半導体層成長工程とドーパント除去工程の間に、第3原料ガスを用いて、成長室内に設置された下地基板に犠牲層を結晶成長させる犠牲層成長工程をさらに備えていてもよい。この場合、ドーパント除去工程は、成長室内の温度を低下させる室内温度低下工程と、室内温度低下工程を実施した後に犠牲層の少なくとも表面の一部を除去する犠牲層除去工程を有していることが好ましい。なお、「第3原料ガス」には、特に説明が無い限り、気相成長法で利用可能な様々な原料ガスが用いられる。上記の製造方法では、第1半導体層成長工程を実施しているときに成長室の内壁に付着したドーパント原子が、室内温度低下工程を実施しているときに成長室の内壁から離脱し、犠牲層の表面に取り込まれる。このため、その犠牲層の少なくとも表面の一部を除去することにより、成長室の内壁に付着したドーパント原子を除去することができる。なお、犠牲層除去工程では、犠牲層の全てを除去する必要はない。半導体装置の特性に影響を与える程度のドーパント原子が取り込まれた範囲の犠牲層を除去すれば良い。
【0013】
犠牲層除去工程では、犠牲層の少なくとも一部を残すように犠牲層の表面から所定深さまで除去してもよい。この場合、第2半導体層成長工程では、第2半導体層を犠牲層の表面から結晶成長させることが好ましい。さらに、犠牲層の第3原料ガスが、第2半導体層の第2原料ガスと同じであることが好ましい。犠牲層除去工程では、犠牲層をその表面から所定深さまで除去することにより、犠牲層に取り込まれたドーパント原子が除去される。さらに、犠牲層の一部が残存することにより、第2半導体層成長工程において、第1半導体層の表面が犠牲層で覆われた状態で第2半導体層を結晶成長させることができる。第1半導体層からドーパント原子が脱離し、成長室の内壁に付着することを防止することができる。さらに、第3原料ガスが第2原料ガスと同じであれば、犠牲層は第2半導体層の一部と評価することができるので、実質的に、第1半導体層の表面に第2半導体層が積層した構造を実現することができる。
【0014】
ドーパント除去工程は、下地基板を成長室から搬出する搬出工程と、成長室の内壁に付着したドーパント原子が成長室の内壁から離脱可能な温度まで成長室内の温度を上昇させる室内温度上昇工程と、下地基板を成長室に搬入する搬入工程を有していてもよい。この場合、室内温度上昇工程は、搬出工程と搬入工程の間に実施される。この製造方法によると、成長室に下地基板が存在しない状態で室内温度上昇工程を実施することができる。下地基板又は下地基板上に結晶成長させた半導体層に熱負荷を与えることなく、成長室の内壁に付着したドーパント原子を除去することができる。
【発明の効果】
【0015】
本明細書で開示する半導体装置の製造方法によると、結晶成長を一旦停止して成長室の内壁に付着したドーパントを除去することで、その後の結晶成長で形成される半導体層に意図しない種類のドーパント原子又は意図しない濃度のドーパント原子が含まれることを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例の半導体装置の断面図を示す。
【図2】実施例の半導体装置の製造工程を示す(1)。
【図3】実施例の半導体装置の製造工程を示す(2)。
【図4】実施例の半導体装置の製造工程を示す(3)。
【図5】実施例の半導体装置の製造工程を示す(4)。
【図6】実施例の半導体装置の製造工程を示す(5)。
【図7】実施例の半導体装置の製造工程のフローチャートを示す(1)。
【図8】実施例の半導体装置の製造工程のフローチャートを示す(2)。
【発明を実施するための形態】
【0017】
実施例で開示される技術的特徴の幾つかを以下に整理して記す。
(特徴1)本実施例で開示される技術は、下地基板上に複数種類の半導体層が積層され、その複数の半導体層の少なくとも一部を利用してチャネルが構成される半導体装置の製造方法に具現化される。この半導体装置の製造方法は、第1半導体層成長工程とドーパント除去工程と第2半導体層成長工程とを備える。第1半導体層成長工程では、ドーパント原子を含む原料ガスを用いて下地基板に半導体層が形成される。第1半導体層成長工程と第2半導体層成長工程の間で原料ガスの供給が一旦停止され、その間に成長室の内壁に付着したドーパント原子が除去される。
(特徴2)第1半導体層成長工程で用いられる第1原料ガスは、ドーパント原子としてマグネシウム原子を含む窒化物半導体用の原料ガスである。
(特徴3)第2半導体層成長工程で用いられる原料ガスは、ドーパント原子を含まない窒化物半導体用の原料ガスである。
(特徴4)第2半導体層の少なくとも一部を利用してチャネルが構成されている。
(特徴5)第2半導体層成長工程の後に、第2半導体層よりもバンドギャップが広い第3半導体層を結晶成長させるための第3半導体層成長工程をさらに備えている。この場合、第2半導体層と第3半導体層がヘテロ接合し、2次元電子ガスを利用したチャネルが構成される。
【0018】
(実施例)
図1に、横型の半導体装置10の断面図を示す。半導体装置10は、下地基板16上に設けられた半導体層24と、ドレイン電極2と、絶縁ゲート部5と、ソース電極12と、導電層14とを備えている。一例では、下地基板16の材料にはサファイアが用いられている。半導体層24は、窒化ガリウム(GaN)を材料とするp型の第1半導体層18と、窒化ガリウムを材料とするi型の第2半導体層20と、窒化アルミニウムガリウム(AlGa1−xN)を材料とするi型の第3半導体層22を備えている。第2半導体層20と第3半導体層22によりヘテロ接合が構成されている。第1半導体層18の厚みT18はおよそ1μmであり、第2半導体層20の厚みT20はおよそ2μmであり、第3半導体層22の厚みT22はおよそ25nmである。第1半導体層18には、ドーパント原子としてマグネシウム(Mg)が含まれており、その濃度はおよそ1×1019cm−3である。第3半導体層22の表面の一部にリセス部8が形成されている。リセス部8は、ドレイン電極2とソース電極12の間に形成されている。なお、リセス部8は、第3半導体層22を貫通して第2半導体層20に達していてもよい。
【0019】
ドレイン電極2は、半導体層24の表面に設けられており、第2半導体層20と第3半導体層22のヘテロ接合面に対向している。ドレイン電極2は、図示しない電源の高電圧側に接続して用いられる。一例では、ドレイン電極2の材料にはチタン(Ti)とアルミニウム(Al)が用いられる。
【0020】
絶縁ゲート部5は、リセス部8に形成されており、ゲート電極6とゲート絶縁膜4を備えている。ゲート電極6は、ゲート絶縁膜4を介して第2半導体層20と第3半導体層22のヘテロ接合面に対向している。より詳しくは、ゲート電極6及びゲート絶縁膜4の一部は、リセス部8からドレイン電極2側及びソース電極12側に向けて延在して設けられている。
【0021】
ソース電極12は、半導体層24の表面に設けられており、第2半導体層20と第3半導体層22のヘテロ接合面に対向している。ソース電極12は、図示しない電源の低電圧側に接続して用いられる。典型的には、ソース電極12は、接地して用いられる。一例では、ソース電極12の材料にはチタンとアルミニウムが用いられる。ソース電極12,ドレイン電極2及びゲート電極6は各々電気的に絶縁されている。
【0022】
導電層14は、第3半導体層22と第2半導体層20を貫通して第1半導体層18に達している。導電層14は、第1半導体層18とソース電極12に電気的に接続されており、第1半導体層18とソース電極12を短絡させている。
【0023】
次に半導体装置10の動作を説明する。第3半導体層22の表面の一部に、リセス部8が形成されている。リセス部8の深さは、ゲート電極6にオン電圧が印加されていないときに、リセス部8の下方に存在する第2半導体層20と第3半導体層22のヘテロ接合面に2次元電子ガス層が形成されないように調整されている。このため、リセス部8の下方のヘテロ接合面には、ゲート電極6にオン電圧が印加されていないときにチャネルが形成されない。半導体装置10は、ノーマリオフで動作する。一方、ゲート電極6に正のオン電圧が印加されると、リセス部8の下方に電子が蓄積され、蓄積層(チャネル)が形成され、ドレイン電極2とソース電極12の間が導通する。
【0024】
上記したように、ゲート電極6に正のオン電圧を印加すると、リセス部8が形成されている半導体層24にチャネルが形成され、ソース電極12とドレイン電極2の間に電流が流れる。半導体装置10では、ゲート電極6に印加している電圧をオフすると、チャネルが消失し、ソース電極12とドレイン電極2の間に電流が流れなくなる。ゲート電極6に印加している電圧をオフした状態でドレイン電極2に高い電圧が印加されると、半導体装置10がブレークダウンし、大量の電子・正孔対が発生することがある。このときに発生する正孔は、第1半導体層18,導電層14及びソース電極12を介して半導体装置10の外部に引き抜くことができる。第1半導体層18は、第2半導体層20の裏面の全面に形成されている。そのため、第2半導体層20内のどの位置に存在する正孔も、容易に半導体装置10の外部に引き抜くことができる。
【0025】
半導体装置10の製造方法について説明する。図2〜図6は、成長室30内で、下地基板16上に半導体層24を結晶成長させる工程を示す。成長室30を構成している部品の詳細については図示を省略する。まず、図2に示すように、成長室30に下地基板16を設置する(図7のS2)。下地基板16を所定温度まで加熱した後、マグネシウムを含む第1原料ガスを成長室30に導入し、下地基板16上にp型の第1半導体層18を結晶成長させる(図7のS4:第1半導体層成長工程)。第1原料ガスは、窒化ガリウムを結晶成長させるガスとして、トリメチルガリウム(TMG)とアンモニア(NH)を含んでいる。この第1半導体層18を結晶成長させる過程において、成長室30の内壁32には、第1原料ガスに含まれていたマグネシウム、あるいは、第1半導体層18から脱離したマグネシウムが付着する。第1半導体層18が所望する厚みに達したときに、成長室30へのマグネシウムの導入を停止して結晶成長を継続する。第1半導体層18上に犠牲層20aが結晶成長する(図7のS6:犠牲層成長工程)。犠牲層20aを結晶成長させる原料ガス(第3原料ガス)は、マグネシウムを含んでいないことを除くと、第1原料ガスと同じである。
【0026】
その後、ドーパント除去工程(図7のS8)を実施する。図8に、ドーパント除去工程の詳細を示す。ドーパント除去工程では、まず、成長室30内の温度を室温まで低下させる(図8のS20:室内温度低下工程)。室内温度低下工程を実施することにより、成長室30の内壁32に付着していたマグネシウムが、成長室30の内壁32から脱離し、犠牲層20aの表面に取り込まれる(図3を参照)。その後、下地基板16を成長室30の外部に搬出する(図8のS22:搬出工程)。成長室30から搬出された下地基板16は、エッチング装置内に搬入される。エッチング装置の一例として、ICP(Inductively Coupled Plasma)装置が挙げられる。その後、成長室30内をおよそ1200℃に加熱し、室内温度低下工程で脱離しきれなかったマグネシウムを内壁32から脱離させる(図8のS24:室内温度上昇工程)。脱離したマグネシウムは、排出口(図示省略)から成長室30の外部に排出される。成長室30から下地基板16を搬出した状態で成長室30を加熱するので、下地基板16,第1半導体層18及び犠牲層20aに熱負荷が加わることを防止することができる。
【0027】
その後、図4に示すように、犠牲層20aの表面側層20cを、上記したエッチング装置を用いてエッチング除去する(図8のS26:犠牲層除去工程)。犠牲層除去工程により、犠牲層20aの表面側層20cに付着したマグネシウムを除去することができる。ここで、犠牲層20aの厚みは、マグネシウムが犠牲層20aの表面から深さ方向に拡散するのを考慮し、十分に厚くしておくのが望ましい。これにより、犠牲層20aに取り込まれたマグネシウムが、第1半導体層18まで拡散することを抑制できる。また、犠牲層20aの厚みを十分に厚くしておくと、犠牲層20aの裏面側層20bを残した状態で、犠牲層20aの表面側層20cを除去することができる。これにより、犠牲層20aに取り込まれたマグネシウムを十分に除去することができる。なお、室内温度上昇工程と犠牲層除去工程は、どちらを先に実施してもよいし、同時に実施してもよい。その後、下地基板16を再度成長室30に搬入する(図8のS28:搬入工程)。
【0028】
その後、図5に示すように、第2原料ガスを用いて、犠牲層20aの裏面側層20b上に第2半導体層20dを結晶成長させる(図7のS10:第2半導体層成長工程)。第2原料ガスは、犠牲層20aの裏面側層20bの結晶成長に用いた第3原料ガスと同じである。第2原料ガスはマグネシウムを含んでいない。室内温度上昇工程により、成長室30の内壁32に付着していたマグネシウムが除去されている。また、犠牲層除去工程により、犠牲層20aに付着したマグネシウムは除去されている。さらに、犠牲層20aの裏面側層20bが第1半導体層18の表面を覆っているので、第2半導体層20dの結晶成長の過程において、第1半導体層18に含まれているマグネシウムが脱離して成長室30の気相中に移動することが抑制される。そのため、第2半導体層成長工程は、成長室30内にマグネシウムが存在しない状態で実施される。その結果、第2半導体層20dにマグネシウムが混入することが抑制される。なお、上記したように、犠牲層20aを結晶成長させる第3原料ガスは、第2半導体層20dを結晶成長させる第2原料ガスと同じである。よって、半導体装置10では、第2半導体層20dと犠牲層20aの裏面側層20bとを併せて、第2半導体層20と評価することができる。
【0029】
その後、図6に示すように、第2半導体層20上に第3半導体層22を結晶成長させる(図7のS12:第3半導体層成長工程)。第3半導体層成長工程でも、第1半導体層18に含まれているマグネシウムが脱離して成長室30の気相中に移動することが抑制される。第3半導体層成長工程も、成長室30内にマグネシウムが存在しない状態で実施される。そのため、第2半導体層20と第3半導体層22のヘテロ接合面にマグネシウムが混入することが抑制される。上記した製造方法によると、第2半導体層20と第3半導体層22に含まれるマグネシウムの濃度を、1.0×1017cm−3未満に抑制することができる。第2半導体層20と第3半導体層22のヘテロ接合面に含まれるマグネシウムの濃度を抑制することができるので、キャリアの移動度が低下することを抑制することができる。すなわち、半導体装置10は、チャネルに含まれるマグネシウムの濃度を抑制することにより、オン抵抗が増加することを抑制することができる。なお、導電層14、ソース電極12、ゲート電極6及びドレイン電極2の形成は、公知の方法で実施することができるので説明を省略する。
【0030】
なお、ドーパント除去工程では、室内温度上昇工程と犠牲層除去工程の双方を実施することが好ましいが、室内温度上昇工程と犠牲層除去工程のいずれか一方を省略してもよい。室内温度低下工程において、成長室30の内壁32に付着していたマグネシウムが犠牲層20aに十分付着する場合、室内温度上昇工程を省略することができる。また、室内温度低下工程において、成長室30の内壁32に付着していたマグネシウムが内壁32からほとんど脱離しない場合、犠牲層除去工程を省略することができる。
【0031】
なお、犠牲層成長工程(S6)を省略することもできる。この場合、ドーパント除去工程(S8)では、犠牲層除去工程(S26)が実施されない。この場合でも、室内温度上昇工程を実施することにより、成長室30の内壁32にマグネシウムが付着していない状態で第2半導体層成長工程を実施することができ、第2半導体層20に含まれるマグネシウムの濃度を抑制することができる。また、犠牲層除去工程において、犠牲層を全て除去してもよい。この場合でも、成長室30の内壁32にマグネシウムが付着していない状態で第2半導体層成長工程を実施することができる。
【0032】
犠牲層20aの材料は、第2半導体層20の材料と同じであってもよいし、異なっていてもよい。犠牲層20aの材料が第2半導体層20の材料と同じであれば、第2半導体層20の結晶構造を良好にすることができる。犠牲層20aの材料が第2半導体層20の材料と異なる例として、犠牲層20aの材料を窒化アルミニウム(AlN)等の絶縁材料とすることが挙げられる。この場合、第2半導体層20を形成した後に、マグネシウムが第1半導体層18から第2半導体層20に拡散すること(内部拡散)を抑制することができる。
【0033】
上記実施例では、ヘテロ接合面に形成される2次元電子ガス層をチャネルとする半導体装置について説明したが、本明細書に開示する技術は、n型半導体層をチャネルとする半導体装置にも好適に利用することができる。また、本明細書に開示する技術は、窒化物半導体装置に限らず、シリコン半導体装置、炭化珪素半導体装置等にも好適に利用することができる。また、本明細書に開示する技術は、p型半導体層の表面にi型半導体層を結晶成長させる技術以外に、例えば、p型半導体層の表面にn型半導体層を結晶成長させる場合、不純物濃度が濃いp型半導体層の表面に不純物濃度が薄いp型半導体層を結晶成長させる場合等にも適用することができる。すなわち、本明細書に開示する技術は、下地基板上に複数種類の半導体層が積層された半導体装置のいずれにも好適に利用することができる。
【0034】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項に記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数の目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0035】
18:第1半導体層
20:第2半導体層
20a:犠牲層
30:成長室
32:成長室の内壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドーパント原子を含む第1原料ガスを用いて、成長室内に設置された下地基板に第1半導体層を結晶成長させる第1半導体層成長工程と、
前記成長室の内壁に付着した前記ドーパント原子を除去するドーパント除去工程と、
第2原料ガスを用いて、前記成長室内に設置された前記下地基板に第2半導体層を結晶成長させる第2半導体層成長工程と、を備えており、
前記ドーパント除去工程は、前記第1半導体層成長工程と前記第2半導体層成長工程の間に実施される半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記第1半導体層成長工程と前記ドーパント除去工程の間に、第3原料ガスを用いて、前記成長室内に設置された前記下地基板に犠牲層を結晶成長させる犠牲層成長工程をさらに備えており、
前記ドーパント除去工程は、
前記成長室内の温度を低下させる室内温度低下工程と、
前記室内温度低下工程を実施した後に前記犠牲層の少なくとも表面の一部を除去する犠牲層除去工程と、を有する請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記犠牲層除去工程では、前記犠牲層の少なくとも一部を残すように前記犠牲層の表面から所定深さまで除去しており、
前記第2半導体層成長工程では、前記第2半導体層を前記犠牲層の表面から結晶成長させており、
前記犠牲層の前記第3原料ガスが、前記第2半導体層の前記第2原料ガスと同じである請求項2に記載の半導体装置の製造方法
【請求項4】
前記ドーパント除去工程は、
前記室内温度低下工程と前記犠牲層除去工程の間に前記下地基板を前記成長室から搬出する搬出工程と、
前記犠牲層除去工程と前記第2半導体層成長工程の間に、前記下地基板を前記成長室に搬入する搬入工程と、
前記搬出工程と前記搬入工程の間に、前記成長室の内壁に付着した前記ドーパント原子が前記成長室の内壁から離脱可能な温度まで前記成長室内の温度を上昇させる室内温度上昇工程と、をさらに有する請求項2又は3に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項5】
前記ドーパント除去工程は、
前記下地基板を前記成長室から搬出する搬出工程と、
前記成長室の内壁に付着した前記ドーパント原子が前記成長室の内壁から離脱可能な温度まで前記成長室内の温度を上昇させる室内温度上昇工程と、
前記下地基板を前記成長室に搬入する搬入工程と、を有しており、
前記室内温度上昇工程は、前記搬出工程と前記搬入工程の間に実施する請求項1に記載の半導体装置の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−174993(P2012−174993A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−37451(P2011−37451)
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】