説明

半導体装置及びその製造方法

【課題】半導体装置においてオーミック特性を良好にし、かつ、酸・アルカリによる腐食に対し高い耐性を有することが可能な技術を提供することを目的とする。
【解決手段】半導体装置は、不純物が添加された高濃度不純物領域2を有する窒化物半導体層1と、高濃度不純物領域2上に順に積層された下地電極層3及び主電極層4を含む電極11とを備える。主電極層4は、窒化物半導体層1に対して下地電極層3よりも仕事関数が近い第1金属と、水素よりもイオン化傾向が小さい第2金属とからなる合金を主成分として含む。下地電極層3は、主電極層4よりも窒素との反応性が高い金属を主成分として含み、かつ、第1金属を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高電子移動度トランジスタ(High Electron Mobility Transistor:HEMT)、レーザーダイオードなどの半導体装置に関するものであり、特に窒化物半導体層を備える半導体装置及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
III族窒化物半導体を用いたHEMTを高出力かつ高周波で動作させるための重要な課題の一つは、ソース・ドレイン電極のコンタクト抵抗を十分に低下させることである。なぜなら、コンタクト抵抗が大きいと寄生抵抗が増大して、トランスコンダクタンスが低くなる結果、出力電圧、動作周波数が低下するからである。
【0003】
n型III族窒化物半導体層に対して良好なオーミックコンタクトを得る手段として、特許文献1には、SiドープGaN層上に、TiとAlが含まれる合金、またはTiとAlとが積層された複数の膜から電極を形成する方法が記載されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の方法のようにAlを含む電極を採用すれば接触抵抗を低くすることはできるが、形成工程におけるエッチングにより電極が損傷する。そこで、特許文献2では、Alの代わりにNbを主成分とする電極構造が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−221103号公報
【特許文献2】特開2010−212406号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、発明者は、調査の結果、特許文献2で提案された3層積層タイプのオーミック電極を形成した場合にも、エッチングにより電極が損傷を受ける可能性があることを見出した。そして、特許文献2の技術では、電極形成後に400〜700℃の温度で短時間の熱処理が実施されているものの、NbやPtなどの高融点金属の相互拡散が十分でないことが、異種金属界面における標準電極電位差に起因したガルバニック腐食や、金属層の腐食耐性が低い順の侵食が生じてしまう原因となるのではないかと、発明者は考えた。
【0007】
そこで、本発明は、上記のような問題点を鑑みてなされたものであり、半導体装置においてオーミック特性を良好にし、かつ、酸・アルカリによる腐食に対し高い耐性を有することが可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る半導体装置は、不純物が添加された不純物領域を有する窒化物半導体層と、前記不純物領域上に順に積層された下地電極層及び主電極層を含む電極とを備える。前記主電極層は、前記窒化物半導体層に対して前記下地電極層よりも仕事関数が近い第1金属と、水素よりもイオン化傾向が小さい第2金属とからなる合金を主成分として含む。前記下地電極層は、前記主電極層よりも窒素との反応性が高い金属を主成分として含み、かつ、前記第1金属を含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、主電極層は、窒化物半導体層に対して下地電極層よりも仕事関数が近い第1金属を含み、下地電極層も第1金属を含んでいる。したがって、オーミック特性が良好な半導体装置を得ることができる。また、主電極層は、水素よりもイオン化傾向が小さい第2金属を、第1金属との合金として含んでいる。これにより、第1金属と第2金属との相互拡散を、これらを金属層として積層する従来構造よりも向上させることができるので、酸・アルカリによる腐食に対し高い耐性を有する半導体装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施の形態1に係る半導体装置の構成を示す断面図である。
【図2】不純物の注入有無に応じた通電特性を示すグラフである。
【図3】Si濃度と深さとの関係を示すグラフである。
【図4】サンプルのコンタクト抵抗を示す図である。
【図5】実施の形態2に係るHEMTの構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<実施の形態1>
図1は、本発明の実施の形態1に係る半導体装置の構成を示す断面図である。この半導体装置は、n型不純物が注入(添加)された高濃度不純物領域(不純物領域)2を有する窒化物半導体層1と、高濃度不純物領域2上に設けられた複数の電極層を含む電極11とを備えている。なお、窒化物半導体層1は、図示しないSiC基板上に形成されているものとする。
【0012】
本実施の形態では、電極11下の窒化物半導体層1にn型不純物が注入されて高濃度不純物領域2が形成されている。詳細については後述するが、この高濃度不純物領域2でのキャリア濃度が増大していることから、電極11(オーミック電極)と窒化物半導体層1との接触領域におけるコンタクト抵抗を低減することが可能となっている。なお、本実施の形態では、高濃度不純物領域2のn型不純物はSiであるものとし、その不純物濃度は1×1019cm-3とする。
【0013】
図2は、AlGaNからなる窒化物半導体層1中にn型不純物としてSiを注入した場合の通電特性(白抜き四角の点)と、注入していない場合の通電特性(黒塗り丸の点)とを示すグラフである。横軸は印加電圧を示し、縦軸は半導体装置に流れる電流を示す。このグラフによると、Siを注入した場合には印加電圧の大きさに比例して電流値が増大しており、良好なオーミック性を確認できるが、Siを注入していない場合には印加電圧によらず、ほとんど電流が流れないことが分かる。本実施の形態では、上述のように窒化物半導体層1にSiが注入されて高濃度不純物領域2が形成されていることから、オーミック性が良好となっている。
【0014】
次に、高濃度不純物領域2上に形成される電極11は、順に積層された下地電極層3、主電極層4及び保護電極層5を含んでいる。
【0015】
下地電極層3は、主電極層4よりも窒素との反応性が高い金属を主成分として含んでいる。したがって、窒化物半導体層1中の窒素と結合しやすくなっており、電極11と窒化物半導体層1との付着力が高くなっている。つまり、電極11が窒化物半導体層1から剥がれにくくなっている。なお、本実施の形態では、下地電極層3はTiを主成分として含んでおり、下地電極層3の膜厚は20nmであるものとする。また、この下地電極層3は、次に説明する第1金属も含んでいる。
【0016】
主電極層4は、第1金属と第2金属とからなる合金を主成分として含んでいる。ここで、第1金属は、窒化物半導体層1に対して下地電極層3よりも仕事関数が近い(ここでは低い)金属である。第2金属は、例えば貴金属であり、水素よりもイオン化傾向が小さい金属である。詳細については後述するが、電極11は、このような主電極層4を含むことにより、低抵抗なオーミック性を有し、かつ腐食耐性が高いオーミック電極となっている。なお、本実施の形態では、第1金属及び第2金属はそれぞれNb及びPtであり、主電極層4の膜厚は50nmであるものとする。
【0017】
保護電極層5は、水素よりもイオン化傾向が小さい金属(例えばSb,Bi,Cu,Ag,Pd,Au,Pt,Irのいずれか)を主成分として含んでおり、主電極層4における侵食を抑制している。本実施の形態では、保護電極層5の当該金属は第2金属と同じ金属(Pt)であり、保護電極層5の膜厚は55nmであるものとする。
【0018】
なお、本実施の形態では、主電極層4での腐食耐性を大きく高めるために、主電極層4上に保護電極層5を設けた構造としているが、保護電極層5を設けなかったとしても、主電極層4内の第2金属の作用により当該腐食耐性を高めることは可能である。しかしながら、長期間の酸・アルカリへの曝露による合金の粒界に沿った侵食を確実に抑制する、つまり主電極層4での耐腐食性を高める観点から、保護電極層5を設けることが好ましい。また、保護電極層5に含まれる金属は、主電極層4に含まれる貴金属と同一の金属である必要はないが、互いに異なる金属を用いた場合に生じる、標準電極電位差に起因したガルバニック腐食を抑制する観点から、特段の事情がない限り同一の金属を用いることが好ましい。
【0019】
次に、以上のような半導体装置の構造をとれば、課題を解決することができることについて説明する。
【0020】
第一に、窒化物半導体層1中に高濃度の不純物(n型不純物)が注入(添加)されたことによってオーミック性が良好となっている。ここで、一般的に、金属と半導体とを接合すると、熱平衡状態においてこれら二つの物質のフェルミ準位が一致しなければならないことから、理想的には金属の仕事関数と半導体の電子親和力の差分に相当するエネルギー障壁が、金属と半導体の界面に存在することになる。
【0021】
これに対し、本実施の形態では、上述のように窒化物半導体層1に不純物が添加されていることから、金属・半導体接触によるエネルギーバンドは変調を受けており、不純物が添加された電極11との界面近傍の伝導帯エネルギーは引き下げられている。その結果、上述のエネルギー障壁の高さは変わらないものの、その厚さが薄くなり、エネルギー障壁を電子がトンネルする確率を高めることができる。よって、コンタクト抵抗を低減することができる。
【0022】
第二に、下地電極層3は窒化物半導体層1中の窒素と結合し、窒化物を形成することによって電極11の安定化が図られている。つまり、窒化物半導体層1からの電極11の剥離の発生を抑制することができている。また、窒化物半導体層1において窒素が抜けたことにより発生した窒素空孔は、n型不純物として機能する。したがって上述のエネルギー障壁を薄くする効果も得られ、コンタクト抵抗を低減することも期待できる。なお、以上のような2つの効果が期待できる下地電極層3として例えばTi、Ta、Niがあるが、特に窒化物を形成しやすいTi、Taを用いて下地電極層3を形成すれば、優れた効果が期待できる。
【0023】
第三に、上述のような下地電極層3の選定は、窒化物形成を容易にして電極11の剥離を抑制することを主目的としており、コンタクト抵抗を低減することを主目的としていない。そこで、コンタクト抵抗を確実に低減するために主電極層4が構成されている。
【0024】
具体的には、金属・半導体接触界面に存在するエネルギー障壁の高さは、上述したように、金属の仕事関数と半導体の電子親和力の差分に相当している。ここで、本実施の形態では、主電極層4が、仕事関数が窒化物半導体層1の電子親和力と近い金属を、第1金属として含んでおり、この第1金属が下地電極層3において窒化物半導体層1と接触するように拡散されている。したがって、本実施の形態によれば、エネルギー障壁の高さを低くすることができ、電子がエネルギー障壁を超えて移動する確率やトンネル確率を上昇させることができる。よって、コンタクト抵抗の低減が期待できる。ここで参考までに、金属の仕事関数及び半導体の電子親和力のデータを引用すると、Ti(4.33eV)、Ta(4.25eV)、Ni(5.15eV)、Al(4.28eV)、Nb(4.3eV)、GaN(4.1eV)、AlN(0.6eV)である。
【0025】
なお、第1金属が下地電極層3内を拡散して窒化物半導体層1と接触するためには、主電極層4の金属と、下地電極層3の金属とが相互拡散することが必要である。したがって、例えば、下地電極層3及び主電極層4の形成後に熱処理等の拡散を促進する処理を行うことが必須である。ここで、第1金属が窒化物半導体層1と接触し易くなるように下地電極層3の膜厚を薄くしすぎると、上述の窒素空孔が発生しにくくなるのでコンタクト抵抗が増大する。逆に、窒素空孔が発生し易くなるように下地電極層3を厚くしすぎると、当該相互拡散を十分に行うことができなくなるのでコンタクト抵抗が増大すると考えられる。したがって、下地電極層3の膜厚には、後述するように上限及び下限を設けることが望ましい。
【0026】
さて、仮に、窒化物半導体層1の電子親和力に近い仕事関数を有する第1金属のみを用いて主電極層4を形成した場合には、酸・アルカリに対する十分な腐食耐性を得ることは困難である。
【0027】
そこで、第四として、本実施の形態では、主電極層4は、水素イオンよりもイオン化傾向を小さい金属、つまり化学的安定度が高い金属を第2金属として含んでいる。しかも、本実施の形態では、主電極層4は、このような第2金属を、第1金属との合金として含んでいる。これにより、第1金属と第2金属との相互拡散が、これらを金属層として積層する従来構造よりも向上させることができることから、酸・アルカリによる腐食に対し高い耐性を有することができる。なお、自然酸化による電極材料の変成に伴う酸・アルカリへの腐食耐性の劣化を確実に抑制するという観点から、第2金属には、AuやPtのように酸化しにくい貴金属が好ましい。
【0028】
<製造工程>
次に、本実施の形態に係る半導体装置の製造工程について説明する。
【0029】
<窒化物半導体層1及び高濃度不純物領域2の形成>
まず、SiC基板(図示せず)上に有機金属気相成長(Metal Organic Chemical Vapor Deposition:MOCVD)法により、n型のAlxGa1-xN(0≦x≦1)から成る1層以上の層をエピタキシャル成長させて、窒化物半導体層1を形成する。それから、Siイオンを、窒化物半導体層1に選択的に注入する。
【0030】
図3は、加速エネルギーを30〜200KeV、注入濃度を1×1015cm-2として、Siイオンを窒化物半導体層1に注入したときのSi濃度と、その深さとの関係を、モンテカルロ計算で求めたグラフである。この図3から、加速エネルギーを50KeVとし、注入濃度を1×1015cm-2として、Siイオンを上述の窒化物半導体層1に注入した場合には、窒化粒半導体層1の表面におけるSi濃度は1×1019cm-3以上になることが分かる。
【0031】
上述の結果に基づき、本実施の形態では、加速エネルギーを50KeVとし、注入濃度を1×1015cm-2として、Siイオンを窒化物半導体層1に注入することにより、表面でのSi濃度が1×1019cm-3となる高濃度不純物領域2を形成する。ただし、高濃度不純物領域2の形成はこれに限ったものではなく、注入濃度を1×1015cm-2以上にすることにより、窒化物半導体層1表面におけるSi濃度を1×1019cm-3以上としてもよい。なお、Siイオンの注入を実施しなくても窒化物半導体層1から剥離しにくい電極11を形成することはできるが、本実施の形態では、図2に示したようにオーミック特性を良くするために当該注入を実施している。
【0032】
その後、高濃度不純物領域2を有する窒化物半導体層1に対して、1100〜1200℃の温度により短時間の急速加熱(Rapid Thermal Annealing:RTA)処理を行う。
【0033】
<電極11の形成>
次に、電極11を形成する。ここでは、電極11を形成する場所以外、つまり高濃度不純物領域2を形成した場所以外の窒化物半導体層1上にレジストパターン(図示せず)を形成する。そして、レジストパターンが形成されなかった窒化物半導体層1、及び、レジストパターンのそれぞれの上に、蒸着法などによって、下地電極層3、主電極層4、保護電極層5を順に積層した後、レジストパターンを除去する。つまり、本実施の形態では、リフトオフ法を用いて電極11を形成する。
【0034】
次に、下地電極層3、主電極層4、保護電極層5の形成について詳細に説明する。
【0035】
まず、主電極層4の金属よりも、窒素との結合を形成するエネルギーが低い金属を用いて、下地電極層3を形成する。その後、下地電極層3上に、上述の第1及び第2金属とからなる合金を用いて主電極層4を形成する。それから、主電極層4上に、水素よりもイオン化傾向が小さい金属を用いて、保護電極層5を形成する。
【0036】
ここで、主電極層4の形成には、第1及び第2金属が予め合金化されたターゲットを用いて蒸着法もしくはスパッタ法を行ってもよい。あるいは、主電極層4の形成には、第1及び第2金属をそれぞれ単体とするターゲットを同一るつぼ内に投入し、電子ビームにより溶融しつつ同時蒸着してもよい。ただし、後者の場合には、第1及び第2金属それぞれの融点及び熱伝導率の違いによって同時に蒸着されない可能性があることから、融点や熱伝導率が大幅に異ならない第1及び第2金属に対してのみ採用できると考えられる。
【0037】
なお、本実施の形態では、下地電極層3、主電極層4、保護電極層5の厚さがそれぞれ20nm、50nm、55nmとなるように、つまり電極11の厚さが125nmとなるように形成する。これら電極層の厚さについては、後で詳細に説明する。
【0038】
<電極11の合金化>
その後、主電極層4から下地電極層3への第1金属の拡散を含む、下地電極層3及び主電極層4の各種金属の相互拡散を促進する工程として、窒素雰囲気中にて650〜1000℃の温度で短時間のRTA処理を行う。
【0039】
なお、ここではRTAの温度上限として1000℃としているが、金属の熱拡散の向上のみを考慮するのであれば、電極11を構成する金属元素の融点以下の温度のうち、なるべく高い温度であることが好ましい。しかし、窒化物半導体の成長温度に近い1000℃を超える温度では、窒化物半導体層1の分解が生じる恐れがあることも考慮すべきであることから、ここでのRTAは、1000℃以下の温度に留めておくべきである。
【0040】
さて、RTAによる相互拡散の結果、主電極層4の合金中の第1金属(ここではNb)が、下地電極層3内において窒化物半導体層1と接触する。本実施の形態では、第1金属は、金属の窒化物である下地電極層3よりも仕事関数が窒化物半導体層1に近いことから、電極11と窒化物半導体層1との間のエネルギー障壁の高さを下げることができ、コンタクト抵抗が低い電極11を得ることができる。また、これとは別に、本実施の形態では、窒化物半導体層1は不純物としてSiを含み、その不純物濃度は1×1019cm-3以上としていることから、電極11と窒化物半導体層1との間のエネルギー障壁を薄くすることができる。このことはコンタクト抵抗が低い電極11を得る上で有効に働く。
【0041】
以上のように、本実施の形態では、窒化物半導体層1が不純物としてSiを1×1019cm-3以上含んでおり、また、窒化物半導体層1に対して仕事関数が近い第1金属を下地電極層3及び主電極層4が含んでいることから、これらによる相乗効果が得られる。したがって、本実施の形態では、コンタクト抵抗が比較的大きく低減された電極11を得ることができる。
【0042】
<下地電極層3の厚さ>
以上により、本実施の形態に係る半導体装置を製造することができる。なお、以上の説明では、下地電極層3、主電極層4及び保護電極層5の厚さを、それぞれ20nm、50nm及び55nmとしたが、必ずしもこの厚さである必要はない。ただし、既に述べたように、本実施の形態では、窒素空孔を発生させることによってオーミック特性を改善するとともに、主電極層4に含まれる第1金属を拡散させて窒化物半導体層1と接触させることによってオーミック特性を改善することから、下地電極層3の膜厚には上限及び下限があると予測される。
【0043】
そこで、まず、膜厚の下限を調べるために、下地電極層3の膜厚を変えて評価を実施した。具体的には、NbとPtの合金からなる主電極層4の膜厚は50nmに揃えて一定とし、Tiからなる下地電極層3を10nm,15nm,20nm,25nmの膜厚でそれぞれ形成し、それに伴いPtからなる保護電極層5を65nm,60nm,55nm,50nmの膜厚でそれぞれ形成した。つまり、電極11の厚さの合計は125nmに揃えて一定として、サンプルを作成した。そして、下地電極層3及び保護電極層5の厚さが異なるこれらサンプルについて、コンタクト抵抗(接触抵抗)ρcをTLM(Transfer Length Method)法により求めた。
【0044】
図4は、そのときの結果を示す図である。横軸はTi(下地電極層3)の膜厚を示し、横軸はコンタクト抵抗を示す。これによるとTi膜厚が15nm以下になるとコンタクト抵抗が急激に増大する傾向がある。したがって、下地電極層3の厚さは15nm以上であることが好ましいことが分かる。
【0045】
次に、下地電極層3の厚さの上限について説明する。下地電極層3の効果は、窒化物半導体層1中の窒素と結合することにより、電極11の当該窒化物半導体層への密着性を高める点にあり、接触抵抗を低減できるように仕事関数やウェットエッチング耐性については着目していない。ここで、下地電極層3をあまりに厚く形成してしまうと、主電極層4の第1金属が拡散して窒化物半導体層1に接触することが妨げられ、コンタクト抵抗を低減することができなくなる。そればかりか、課題である電極11での酸・アルカリに対する腐食耐性を欠く結果となる。経験的には、下地電極層3は、その膜厚が図4の最大値である25nm以下となるように形成すれば、オーミック特性が良好となるとともに、ウェットエッチングなどのエッチング耐性が良好となる。
【0046】
以上をまとめると、下地電極層3は15nm〜25nmの範囲で形成することが望ましい。これにより、窒化物半導体層1と高い密着性を有するとともに、オーミック特性が良好な電極11を得ることができる。
【0047】
<効果>
本実施の形態では、主電極層4は、窒化物半導体層1に対して下地電極層3よりも仕事関数が近い第1金属(ここではNb)を含み、下地電極層3も第1金属(ここでは拡散された第1金属)を含んでいる。したがって、コンタクト抵抗が低い、つまりオーミック特性が良好な半導体装置を得ることができる。また、主電極層4は、水素よりもイオン化傾向が小さい第2金属(ここではPt)を、第1金属との合金として含んでいる。これにより、第1金属と第2金属との相互拡散を、これらを金属層として積層する従来構造よりも向上させることができるので、酸・アルカリによる腐食に対し高い耐性を有する半導体装置を得ることができる。また、下地電極層3は、主電極層4よりも窒素との反応性が高い金属を含んでいることから、電極11の窒化物半導体層1からの剥離の発生を低減することができる。
【0048】
また、本実施の形態では、主電極層4上に保護電極層5が設けられている。したがって、主電極層4の酸化を防ぐことができることから、酸・アルカリによる腐食に対する耐性を高めることができる。また、ドライエッチングなどのエッチング耐性を確保する効果も期待できる。
【0049】
また、本実施の形態では、主電極層4から下地電極層3への第1金属の拡散を促進するためのRTA処理が電極11に施されている。したがって、オーミック特性をより良好にすることができる。また、第2金属の拡散も期待することができ、ウェットエッチングなどのエッチング耐性を確保する効果も期待できる。
【0050】
また、本実施の形態では、高濃度不純物領域2の不純物はSiであり、その不純物濃度は1×1019cm-3以上である。したがって、オーミック特性をより良好にすることができる。
【0051】
また、本実施の形態では、下地電極層3は、Tiを主成分としている。これにより、電極11の窒化物半導体層1への良好な密着性と、オーミック特性の良化とを両立することができる。なお、下地電極層3としては、これらを両立できるものであればTiを主成分としなくてもよく、例えばTaやNiを主成分としてもよい。すなわち、下地電極層3は、Ti、Ta、Niのいずれかを主成分とすればよい。
【0052】
また、本実施の形態では、下地電極層3の厚さは15nm以上である。これにより、オーミック特性をより良好にすることができる。
【0053】
また、本実施の形態では、窒化物半導体層1は、AlxGa1-xN(0≦x≦1)層から成る1層以上の層であるが、窒化物半導体層1は、AlxGa1-xN(0≦x≦1)層に限ったものではなく、他の結晶の層、例えば、AlxInyGa1-x-yN(0≦x≦1、0≦y≦1、x+y≦1)層を含んでもよい。この場合であっても、上述と同様の半導体装置を得ることができる。
【0054】
以上の説明では、窒化物半導体層1はMOCVD法で形成するとしたが、MBE(Molecular Beam Epitaxy)法などのほかのエピタキシャル成長法を用いて形成してもよい。また、窒化物半導体層1が形成される基板はSiCであるとしたが、GaN基板、AlN基板、Si基板、サファイア基板であっても上述と同様の効果を得ることができる。
【0055】
<実施の形態2>
図5は、本発明の実施の形態2に係るHEMTの構造を模式的に示す断面図である。なお、以下、本実施の形態に係るHEMTについての説明において、実施の形態1で説明した構成要素と類似するものについては同じ符号を付して説明を省略する。
【0056】
本実施の形態に係るHEMTは、基板21と、基板21の上に順に形成されたバッファ層22、チャネル層23、上述の窒化物半導体層1に対応するバリア層24と、上述の電極11に対応するソース・ドレイン電極25と、ソース・ドレイン電極25の間に設けられたゲート電極26とを備えている。なお、ここでは、Siを不純物とし、不純物濃度が1×1019cm-3である高濃度不純物領域2が、バリア層24の表面からチャネル層23にかけて設けられている。
【0057】
<製造工程>
次に、本実施の形態に係るHEMTの製造工程について説明する。まず、基板21上に、バッファ層22、チャネル層23、及び、バリア層24を順に形成する。その次に、ソース・ドレイン電極25が形成される領域にのみ、実施の形態1と同様の方法により、加速エネルギーを50KeVとし、注入濃度を1×1015cm-2として、Siイオンをチャネル層23及びバリア層24に注入することにより、高濃度不純物領域2を形成する。
【0058】
次に、実施の形態1と同様の方法により、ソース・ドレイン電極25を形成する場所以外、つまり高濃度不純物領域2を形成した場所以外のバリア層24上にレジストパターン(図示せず)を形成する。そして、レジストパターンが形成されなかったバリア層24、及び、レジストパターンのそれぞれの上に、下地電極層3、主電極層4及び保護電極層5をこの順に積層した後、レジストパターンを除去する。つまり、本実施の形態では、リフトオフ法を用いてソース・ドレイン電極25を形成する。ゲート電極26も同様にリフトオフ法により形成する。
【0059】
以上により構成されたHEMTは、実施の形態1と同様、ソース・ドレイン電極25のコンタクト抵抗値が低減される。したがって、高電圧・高周波で動作可能なHEMTを得ることができる。
【0060】
なお、以上の説明ではプレーナ型のトランジスタに適用した場合について言及したが、選択エッチングや選択成長により形成されるゲートリセス構造に適用した場合にも、本実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0061】
1 窒化物半導体層、2 高濃度不純物領域、3 下地電極層、4 主電極層、5 保護電極層、11 電極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不純物が添加された不純物領域を有する窒化物半導体層と、
前記不純物領域上に順に積層された下地電極層及び主電極層を含む電極とを備え、
前記主電極層は、前記窒化物半導体層に対して前記下地電極層よりも仕事関数が近い第1金属と、水素よりもイオン化傾向が小さい第2金属とからなる合金を主成分として含み、
前記下地電極層は、前記主電極層よりも窒素との反応性が高い金属を主成分として含み、かつ、前記第1金属を含む、半導体装置。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体装置であって、
前記電極は、
前記主電極層上に設けられ、水素よりもイオン化傾向が小さい金属を主成分として含む保護電極層をさらに含む、半導体装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の半導体装置であって、
窒素雰囲気中にて650℃以上1000℃以下の温度による、前記主電極層から前記下地電極層への前記第1金属の拡散を促進するためのRTA(Rapid Thermal Annealing)処理が、前記電極に施されている、半導体装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の半導体装置であって、
前記不純物領域の前記不純物はSiであり、その不純物濃度は1×1019cm-3以上である、半導体装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の半導体装置であって、
前記下地電極層は、Ti、Ta、Niのいずれかを主成分とする、半導体装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の半導体装置であって、
前記第1金属はNbであり、前記第2金属はPtである、半導体装置。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の半導体装置であって、
前記下地電極層の厚さは15nm以上である、半導体装置。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の半導体装置であって、
前記窒化物半導体層は、
AlxGa1-xN(0≦x≦1)層、または、AlxInyGa1-x-yN(0≦x≦1、0≦y≦1、x+y≦1)層である、半導体装置。
【請求項9】
(a)窒化物半導体層に不純物を注入して不純物領域を形成する工程と
(b)前記不純物領域上に下地電極層及び主電極層を順に積層して電極を形成する工程とを備え、
前記工程(b)は、
(b−1)前記不純物領域上に、前記主電極層よりも窒素との反応性が高い金属を用いて前記下地電極層を形成する工程と、
(b−2)前記下地電極層上に、前記窒化物半導体層に対して前記下地電極層よりも仕事関数が近い第1金属と、水素よりもイオン化傾向が小さい第2金属とからなる合金を用いて前記主電極層を形成する工程とを含み、
(c)前記工程(b)後に、前記主電極層から前記下地電極層への前記第1金属の拡散を促進する工程をさらに備える、半導体装置の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の半導体装置の製造方法であって、
前記工程(a)において、
Siイオンを1×1015cm-2以上の注入濃度で前記窒化物半導体層に注入することにより、不純物濃度が1×1019cm-3以上の領域を前記不純物領域として形成し、
前記工程(c)において、
窒素雰囲気中にて650℃以上1000℃以下の温度により、前記拡散を促進するためのRTA(Rapid Thermal Annealing)処理を前記電極に施す、半導体装置の製造方法。
【請求項11】
請求項9または請求項10に記載の半導体装置の製造方法であって、
前記工程(b)は、
前記主電極層上に、水素よりもイオン化傾向が小さい金属を用いて保護電極層を形成する工程を含む、半導体装置の製造方法。
【請求項12】
請求項9乃至請求項11のいずれかに記載の半導体装置の製造方法であって、
前記工程(b)において、
Ti、Ta、Niのいずれかを用いて前記下地電極層を形成する、半導体装置の製造方法。
【請求項13】
請求項9乃至請求項12のいずれかに記載の半導体装置の製造方法であって、
前記工程(b)において、
前記第1金属であるNbと、前記第2金属であるPtとからなる合金を用いて前記主電極層を形成する、半導体装置の製造方法。
【請求項14】
請求項9乃至請求項13のいずれかに記載の半導体装置の製造方法であって、
前記工程(b)において、
15nm以上の厚さを有する前記下地電極層を形成する、半導体装置の製造方法。
【請求項15】
請求項9乃至請求項14のいずれかに記載の半導体装置の製造方法であって、
前記工程(a)において、
前記窒化物半導体層として、AlxGa1-xN(0≦x≦1)層、または、AlxInyGa1-x-yN(0≦x≦1、0≦y≦1、x+y≦1)層を準備することを含む、半導体装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−12628(P2013−12628A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−145199(P2011−145199)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】