単結晶タングステンチップ及びその応用機器並びに尖端をもつ単結晶チップの製造方法
【課題】先端を原子レベルにまで先鋭化した棒状の単結晶を得る。
【解決手段】単結晶タングステンエミッターを例にすると、はじめは高温(Tr=2300°K)下で処理電圧Vrを徐々に上げていくと段階(D)の直後にフィールドエミッション電圧Vextが急激に低下するとともに、<111>頂点が(110)面で囲まれた状態になる。ここで電圧を保ったまま処理温度を徐々に下げ、Tr=1700°Kとする。その後、温度Trを1700°Kという低温に保ったままリモルディング法による熱電界処理を続け、FEパターンが先端数原子からの電子放出を示した時点で処理を停止する。
【解決手段】単結晶タングステンエミッターを例にすると、はじめは高温(Tr=2300°K)下で処理電圧Vrを徐々に上げていくと段階(D)の直後にフィールドエミッション電圧Vextが急激に低下するとともに、<111>頂点が(110)面で囲まれた状態になる。ここで電圧を保ったまま処理温度を徐々に下げ、Tr=1700°Kとする。その後、温度Trを1700°Kという低温に保ったままリモルディング法による熱電界処理を続け、FEパターンが先端数原子からの電子放出を示した時点で処理を停止する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は尖端をもつ棒状の単結晶タングステンチップと、それを電子銃として用いたSEM(走査型電子顕微鏡)、TEM(透過型電子顕微鏡)、EPMA(電子線プローブマイクロアナライザ)、マイクロフォーカスX線管などの応用機器、そのような単結晶タングステンチップをSPM(走査プローブ顕微鏡)プローブとして用いたSTM(走査トンネル電子顕微鏡)やAFM(原子間力顕微鏡)などの応用機器、さらにはそのような単結晶チップを製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
冷陰極電界放出型エミッターは高輝度でエネルギー拡がりの少ない電子源として大きな可能性をもっており、SEMやTEMの電子源として実用化されている。しかしながら熱陰極と比較すると電流角密度(単位立体角あたりのビーム電流量)が低いという欠点をもつ。このため大ビーム電流を必要とする用途には不向きであった。
【0003】
この欠点を解決するための手段としてエミッター先端部に鋭い頂点を持たせて局所的に電界集中を促すことで狭い範囲から選択的に電子放出を起こし、かつ頂点周囲のエミッター先端形状をビーム収束にふさわしくなるように鋭くすることで、電流角密度を向上させようという試みがなされている。
【0004】
そのひとつの方法は、単結晶タングステンの表面にPd,Ptなどの金属を電界メッキしアニール処理によってエミッター先端を多面体構造にする手法である。その手法では、結晶面の表面自由エネルギーの異方性を上げることで(110),(211),(100)面などのファセット(低指数結晶面)形成をうながし、エミッター先端形状を半球状から低指数結晶面で覆われた多面体構造へ形状転移させる(特許文献1参照。)。その方法によって<111>方位の単結晶タングステンエミッターについて先端が原子レベルにまで鋭敏化されることが実験的に確かめられている。
【0005】
もうひとつの良く知られている方法は熱電界処理によるものである。熱電界処理とは処理対象を加熱した状態で電界を印加することである。例えば、約1700°Kに加熱した単結晶タングステンチップに強い電界を印加するとファセットが成長してエミッター先端が多面体構造をとる(非特許文献1参照。)。
【0006】
一方、SPM(STMやAFMといった複数の手法がある)においても鋭い先端曲率半径を持った探針を作り出すことが空間分解能のすぐれた画像の取得に欠かせない。ここでもタングステンを材料にした探針はよく用いられているが、その作成は主に電解エッチングによっている。条件によっては曲率半径が数ナノメートルといった非常に鋭い探針を得ることができる。(例えば、非特許文献2参照。)。
【0007】
電解エッチングによる探針の作成は、「勘と経験」による部分が大きく、再現性よく鋭い探針を作り出すことは困難なのが実情である。また、電解エッチングによる方法では探針の形状が不確定になるため、特にAFMに用いた場合、得られた画像と実際の試料形状との間に定量性のある相関を確立することが非常に困難となる。AFMの画像が具体的に何を表しているのかいまだに議論が尽きない理由のひとつがここにある。
【0008】
これに比べて電界メッキや熱電界処理によって単結晶タングステンの<111>方位の先端を鋭敏化することは再現性に優れる。また既知の低指数結晶面のファセットで囲まれた頂点が形成されるので先端形状も確定する。主に電流角密度の改善されたフィールドエミッターの作成にこれらの方法が使われるようになってきたのは再現性のよさのためである。
【0009】
しかしながら、蒸着や熱電界処理によってこれまで作成されてきたエミッターの<111>頂点は、図1(B)に示されるように、3つの(211)指数面で囲まれている。これらの面間の角度は33.6度しかなく、頂点の鋭さは十分とは言えない。フィールドエミッターとして用いた場合、<111>頂点での電界集中効果がさほど大きくならないし、SPMプローブとして用いた場合には、先端の突き出しが小さいためマクロなスケールで試料に凹凸がある場合、高分解能な画像を得ることが困難となる。
【0010】
熱電界処理法では処理対象物であるエミッターに対向して引出し電極が配置される。通常、エミッター側が負電位、引出し電極側が正電位になるように極性を設定して電圧が印加される。それに対して、エミッター側が正電位、引出し電極側が負電位になるように印加電圧の極性を設定して電界放出の起こらない逆極性電界とするリモルディング(remolding)法と称される方法が提案されている。リモルディング法では熱電界処理中に印加する電界極性を電界放出する極性とは反転させるので電子放出がないため、処理電圧や処理温度を高く設定することが可能となった。リモルディング法では、一定の処理温度及び一定の印加電圧でパルス波形を使って短時間ずつ処理を行い、エミッター先端形状変化の経過をFE(電界放出)パターン観察で追いながら、適当な程度にエミッターが先鋭化したところで処理を停止するという操作を行なう。そして、タングステン単結晶からなるエミッターに対して、リモルディング法を使って2000°K以上の高温下で熱電界処理をすれば、タングステン単結晶の先端を<111>頂点とすることができ、フィールドエミッターとして用いた場合、電流角密度が大幅に向上することが示されている(非特許文献3参照。)。
【特許文献1】特開2006−294283号公報
【非特許文献1】倉田ら,Proceedings of 16th International Microscopy Congress (Sapporo) vol.2, 583 (2006)
【非特許文献2】J. P. Ibe et al., J. Vac. Sci. Technol., A 8, 3570 (1990)
【非特許文献3】H. Shimoyama, Proc. of 4th International Display Workshop, Nagoya, 1997, pp. 763-766
【非特許文献4】W.W. Mullins et al., J. Am. Ceram. Soc., 83, 214 (2000)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、一定の処理温度及び一定の印加電圧でパルス波形を使って短時間ずつ処理を行い、エミッター先端形状変化の経過をFEパターン観察で追いながら、適当な程度にエミッターが先鋭化したところで処理を停止するという提案の方法では、再現性よく効率的に<111>頂点を先鋭化することができなかった。それは、設定電圧を誤ると、目的形状まで変化が進まなかったり、逆に過電圧条件では目的形状を通り越して不規則な先端形状(過剰リモルディング状態という)になりがちであったからである。また先端を原子レベルにまで先鋭化することも困難であった。
【0012】
本発明は、先端を原子レベルにまで先鋭化した棒状の単結晶を得ることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、尖端をもつ棒状の単結晶タングステンチップであって、前記尖端が(110)結晶面で囲まれた<111>頂点により形成されていることを特徴とするものである。
【0014】
その単結晶タングステンチップを利用した本発明の機器は、単結晶タングステンチップを電界放出型電子源とするSEM、TEM、EPMA、マイクロフォーカスX線管などの電子ビーム応用装置、及び単結晶タングステンチップを探針に用いたSTMやAFMなどの走査型プローブ顕微鏡である。
【0015】
本発明の製造方法は熱電界処理のうち、特にエミッター側が正電位、引出し電極側が負電位になるように印加電圧の極性を設定して電界放出の起こらない逆極性電界とするリモルディング法の改良である。すなわち、本発明の製造方法は以下の工程(A)から(C)を含み、尖端をもつ単結晶チップを製造する方法である。
(A)単結晶に対し、その先端が核形成エネルギー障壁による形状変化の障壁を乗り越えうる温度に設定し、電界放出が起こらない逆極性での電界を印加する熱電界処理工程と印加電圧を電界放出がおこる極性に切り替えて単結晶先端のFEパターンを取得する工程とを、熱電界処理によりファセットが成長する電圧よりも低い電圧から開始し、逆極性での印加電圧を段階的に切り上げて繰り返していくリモルディング法による熱電界処理工程、
(B)前記工程(A)の電界処理工程を繰り返した結果、FEパターン観察から前記単結晶先端に尖端形成を示す形状変化がみられたところで単結晶先端のさらなる形状変化を抑制できる温度まで低下させる工程、及び
(C)前記工程(B)で低下させた温度で、電界放出が起こらない逆極性電界での印加電圧をさらに段階的に上げて行う熱電界処理工程と各熱電界処理工程後の単結晶先端のFEパターン観察を、単結晶の先端形状がさらに先鋭になるまで繰り返す工程。
【0016】
印加電圧を段階的に切り上げていく速度は各印加電圧値で単結晶先端部の形状が熱平衡状態を維持できるよう十分にゆっくりとした速度とすることが好ましい。
【0017】
具体的な例は単結晶タングステンチップを製造することである。その場合、工程(A)での設定温度が2100°K以上であり、工程(B)での尖端形成を示す形状変化は(211)ファセットが消失したことを示すFEパターン変化である。つまり、印加電圧を上げていくと、ある電圧で(211)面が消失して、図1(A)に示されるように<111>頂点が3つの(110)面で囲まれた状態のFEパターンが現れる。その時点で、印加電圧を保ちながら、工程(B)に示されるように、温度を低下させるが、その温度は単結晶先端の形状変化を抑制できる温度であり、例えば1600〜1900°Kである。しかる後にその下げた温度のままで、再び印加電圧を段階的に上げていきながら、熱電界処理を続ける。印加電圧を上げる幅は特に厳密ではないが、50〜200Vが適当である。工程(C)で単結晶の先端形状がさらに先鋭になる状態とはFEパターンが点状のパターンから対称性をもったパターンになった状態である。その時点で処理を停止する。
【0018】
このようにすると、再現性よく鋭角の<111>頂点ができ上がる。ちなみに(110)面同士のなす角は60度であり、(211)面間の角度のおよそ倍である。(211)面で囲まれた<111>頂点からのFEパターンと(110)面で構成された鋭角頂点からのものを比較すると、後者の頂点での電界集中がずっと高いことが確認できる。
【0019】
ファセットで囲まれた頂点は鋭くとがってくる。高電界下でファセットが成長する原理についてはこれまで満足な説明が無かったが、本発明者らの研究によって、この現象が静電界エネルギーによる表面張力の実質的な低下とそれに伴う表面自由エネルギーの異方性の増大に起因していることがわかった。
【0020】
本発明の作用を説明するためには、はじめから低温で処理を行うとなぜ(110)面で囲まれた<111>頂点ができないかを説明する必要がある。実験結果に基づいてこれを説明する。
【0021】
図2に熱電界処理実験の実験系を示す。電解エッチングした単結晶タングステンエミッター10を加熱用フィラメント12にスポット溶接して超高真空(UHV)チャンバー14に入れる。
単結晶タングステンエミッターの電解エッチングでは、例えば1規定のNaOH溶液にエミッターを0.5mm程度浸しこれを陽極とする。対向陰極には白金などを用い陰極とする。両者の間に5V程度のDC電圧を印加すると陽極であるタングステンが溶液中に溶け出し先端を鋭くとがらせることができる。
【0022】
チャンバー14はイオンポンプ16によって排気される。加熱用フィラメント12は高電圧に浮かせることができるフィラメント電流電源18に接続され、電源18は市販の両極性高圧電源20に接続されている。エミッター10の対向電極となる引出し電極22、FEパターンを観察する蛍光スクリーン24は接地されている。FEパターンを観察する際にエミッター10から蛍光スクリーン24に電界放出させるエミッション電流を一定にするために、蛍光スクリーン24に流れる電流に基づいてエミッター10の電圧Vextを制御するエミッションコントローラ32が高圧電源20に接続されている。蛍光スクリーン24上にできるFEパターンをビデオカメラ30で観察する。すべての電気系はLabVIEW(登録商標)ソフトウエアとPCIバスボード(AD変換器24,DA変換器26,DIOインターフェース28)を使ってコンピューター制御されており、実験中のイオンポンプ16の電流、高圧電源20の電圧、エミッション電流、フィラメント12の電流、スクリーン電流はログファイルに記録される。なお、ここではエミッターから放出される全電流をエミッション電流、このうち蛍光スクリーンに吸収される電流をスクリーン電流と呼んでいる。
【0023】
次に熱電界処理実験のサイクルについて説明する。図3(a)に示すようにひとつのサイクルは“熱電界処理”と“観察”の2つから構成されている。図3(a)に示す左上の写真はそれぞれの期間においてUHVチャンバーの観察窓から見られる様子をビデオカメラで撮ったものである。ここでの熱電界処理は、エミッター10に逆極性高電圧VHT(電界放出するのと逆の極性。エミッター10の電位が対向する引出し電極22に対して正にある)としてVrを印加し、同時に適当なフィラメント電流Ifを流して所望の温度に加熱する。熱電界処理期間中にタングステン原子がエミッター表面上を移動して形状の変化が起こる。その電圧と温度で十分な時間処理を行うと、タングステン結晶の先端部はその電圧と温度の条件下での熱平衡状態となる。その熱平衡状態となって形状が安定した後、高電圧電源の極性を反転させて電圧をVext(このときは電界放出させるために、エミッター10の電位を対向する引出し電極22に対して負にする。Vextはフィールドエミッション電圧とも呼ぶ。)とし、エミッター10から電界放出させ蛍光スクリーン24上にできるFEパターンをビデオカメラ30で観察する。このとき、フィラメント電流Ifは流さなくてもよいが、より鮮明なFEパターンを得るために、適当なフィラメント電流Ifを流す。FEパターンの例を図3(b)の下に示す。FEパターンからタングステン結晶先端部の表面形状がどのように変化しているのかを類推することができる。観察時の高電圧電源20の電圧Vextは予め設定されたスクリーン電流Iscreenが得られるようフィードバック回路で調整される。このときの電源電圧Vextは記録され、熱電界処理プロセス(ファセット形成プロセス)進行の指標として用いられる。ひとつのサイクルが終わると、フィラメント電流If(つまりエミッター温度)の設定はそのままで、処理電圧VHTを(Vr+ΔVr)まで少し上げ(ΔVr=50〜200V)、同様のサイクルを繰り返す。熱電界処理の電圧VHTを徐々に上げながら同様のサイクルを繰り返していくことで、エミッター形状の熱電界処理電圧VHT依存性を調べることができる。
【0024】
本発明のリモルディング法において、従来からひろく行われているように処理温度を本発明での好ましい開始温度2100°K以上よりも低いTr=1700°Kに設定して熱電界処理実験を行った。熱電界処理電圧をVr=0Vから7300Vまで上げながら実験を行った結果を図4に示す。図4(a)は熱電界処理電圧の上昇とともに一定のスクリーン電流Iscreen=5.0μAを得るのに必要なフィールドエミッション電圧Vextが下がっていく様子を示し、図4(b)の画像(A)〜(H)は図4(a)中に矢印で示した各段階でのFEパターンを表す。FEパターンから、熱電界処理電圧をVr=6900Vまで上昇させてもエミッターの<111>頂点は(211)結晶面で囲まれたままであることが分かる。更に電圧を上昇させると図4の段階(H)に示されるようにエミッター先端はでこぼこを持った、過剰リモルディング状態と呼ぶべき不定な構造になってしまう。図5のモデルで示すように、ひとたび<111>頂点が(211)面で囲まれた状態の多面体形状になると、そこで形状変化は停止してしまうからである。そのあと熱電界処理電圧を上げることで頂点を(110)面で囲まれた形状にもっていこうとしても核形成エネルギー障壁(nucleation energy barrier)の効果のために形状変化が阻害されてしまう。無理に電圧を上げていくと過剰リモルディング状態になるだけである。
【0025】
ファセット面で囲まれて多面体構造をとった微結晶は形状変化し難いことが知られている(非特許文献4参照。)。ひとたび多面体構造をとると、そこからある結晶面を成長させるためには狭まっていく別の結晶面上へ原子を移動させていく必要がある。その途中過程においてはファセット面上に小さな“島(こぶ)”ができることになるが、この「中間状態」の表面自由エネルギーはファセット面全体が完成した状態よりも高く、形状変化を阻害するエネルギー障壁になる。このため、結晶は熱力学的原理で決まる最も自由エネルギーの低い安定した形状にすみやかに移行することができない。同様の原理は通常の結晶成長でも見られ、最初の“核”をつくるために余分なエネルギーが必要とされることはよく知られている。これを核形成エネルギー障壁と呼ぶ。
【0026】
同様の実験をもっと高い温度(Tr=2400°K)で行った結果を図6に示す。この場合も、図6(a)が熱電界処理電圧の上昇とともに一定のスクリーン電流Iscreen=5.0μAを得るのに必要なフィールドエミッション電圧Vextが下がっていく様子を示し、図6(b)の画像(A)〜(H)は図6(a)中に矢印で示した各段階でのFEパターンを表す。このときには熱電界処理電圧を上げていくと(211)面が縮小し、困難なく<111>頂点が(110)面で囲まれた状態にもっていけることがFEパターンの変化から読み取れる。(211)面の縮小がエミッター全表面がファセットで覆われる前にはじまるため、核形成エネルギー障壁の効果で変化が阻害されることがない。しかし、処理温度が高いため頂点に原子レベルの鋭さを持たせることはできない。
【0027】
低温で熱電界処理を進めると核形成エネルギー障壁のために(211)面が最後まで残ってしまう。本発明のリモルディング法は、そのことを避けるため、はじめの処理を高温で行う。(211)面が消失した段階で今度は処理温度を下げ、更に印加電圧を上げていき頂点を極限まで鋭くするという2段階(あるいは多段階)の処理温度を用いた熱電界処理によって、(110)面で囲まれた<111>頂点を原子レベルにまで先鋭化する。
【発明の効果】
【0028】
単結晶タングステンの熱電界処理を、1)電界放出が起こらない逆極性電界を使って、2)徐々に処理電圧を上げつつ、3)1処理サイクル毎にFEパターン観察によって形状変化をモニターしながら行う。4)処理温度を適当な時点で高温から低温に変える、という手法を用いることで<111>方位をもつ単結晶タングステンチップを従来の頂点が(211)面で囲まれている状態よりも鋭くとがらせることができる。この手法は再現性にすぐれ、かつ適当な処理電圧に達した段階(FEパターンをモニターすることで判断できる)で処理を終了することによって原子レベルで先端を先鋭化することも可能となる。
【0029】
この手法で作成されたタングステンチップからは角収束性がよく、かつ電流角密度の高い電界放出電子ビームを得ることができる。また先端形状が厳密に規定されているため、SPMプローブの探針として用いた場合、得られた画像から定量性のある物理情報を引き出すことが可能となる。
【0030】
ここでは<111>頂点を先鋭化する方法を例にとって説明したが、リモルディング法で多段階処理温度を用いた熱電界処理は、単結晶チップから望ましい形状をつくりだす一般的な手法として用いることが可能である。核形成エネルギー障壁による形状変化の阻害は普遍的な現象である。高温での熱電界処理でエネルギー障壁となりうる変化を乗り越え、しかる後に処理温度を下げてファセット面のなすエッジや頂点をより先鋭化する手法は、<111>方位をもつタングステン単結晶以外でもひろく応用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
<111>方位を持った単結晶タングステンエミッターを先鋭化させる方法を例にとって述べる。
実験系は図2のものを、基本熱電界処理サイクルは図3に示すものを、それぞれ用いるものとする。
【0032】
本発明のリモルディング法による熱電界処理のようすを図7に示す。図7(a)が熱電界処理電圧の上昇とともに一定のスクリーン電流Iscreen=5.0μAを得るのに必要なフィールドエミッション電圧Vextが下がっていく様子を示し、図7(b)の画像(A)〜(L)は図7(a)中に矢印で示した各段階でのFEパターンを表す。処理条件として、はじめは高温(Tr=2300°K)を用いた。図7(a)に示す段階(E)まで高温下で処理電圧Vrを0Vから徐々に上げていくと段階(D)の直後にフィールドエミッション電圧Vextが急激に低下するとともに、図7(b)のFEパターンから分かるように<111>頂点は(110)面で囲まれた状態になる。
【0033】
ここで電圧を保ったままリモルディング法による処理温度を徐々に下げ、Tr=1700°Kとする。段階(F)は温度が下がった状態を表す。この結果から分かるように、高温下の処理で一度、<111>頂点が(110)面で囲まれた状態になれば、温度を下げていっても再び(211)面が現れることはない。図4に示した結果と比較すれば、ほぼ同じリモルディング法による熱電界処理条件であるにもかかわらず、図4のシーケンスでは(211)面が残っているのに対し図7では(110)面で囲まれた形状に変化している。本来、(Tr,Vr)=(4500V,1700°K)というリモルディング法による熱電界処理条件で熱力学的に安定なのは頂点が(110)面で囲まれた形状であると考えられる。図4の処理シーケンスでは途中から形状変化が阻害されるために熱力学的には不安定であるはずの(211)面が残ってしまうのである。本発明では高温処理を行うことで核形成エネルギー障壁の影響を受けずに熱力学的に安定な形状へとすみやかに変化させることができるのである。
【0034】
その後、温度Trを1700°Kという低温に保ったままリモルディング法による熱電界処理を続ける。処理電圧を徐々に上げていくとFEパターンから分かるように頂点の鋭さが増していき、段階(H)に示す状態に持ってくることができる。FEパターンから先端に位置する数個の原子から局所的に電子放出が起こっていることが分かり、頂点が原子レベルにまで先鋭化されていることが示唆される。この状態で処理を停止すれば非常に鋭い先端径をもった単結晶タングステンチップが得られる。
【0035】
モルディング法による熱電界処理での温度を2400〜1600°Kの100°Kごとの各温度で実施した結果を図9から図17に示す。図9は図6と同じものであり、図10は図7と同内容である。図16は図4と同じものである。図9から図17のグラフとFEパターンの説明は前出の図と同じである。
【0036】
図9〜図17のFEパターンの結果から、処理温度が2200°K以上であれば(211)ファセットが消失してFEパターンが点状になった後、温度を低下させてさらに印加電圧を上げながら熱電界処理をすれば(110)面で囲まれた原子レベルに先鋭化された<111>頂点が形成できることが分かる。
【0037】
処理温度が2000〜2100°Kでは(211)面の消失条件と過剰リモルディング条件が非常に近く、処理温度が1900°K以下では(110)面に囲まれた<111>頂点の形成を経ずして過剰リモルディング状態になってしまう。
【0038】
この結果から、処理温度が1900°K以下では(211)面が残ってしまい、処理温度が2000〜2100°Kでは(211)面の消失と過剰リモルディング条件が近いため求める<111>頂点を歩留まりよく得ることが難しいものと予想され、処理温度が2200°K以上であれば(211)ファセットが消失して本発明の所期の目的を達成できることがわかる。
【0039】
こうして得られたチップは単結晶タングステンチップの一実施例をなすものである。図8にその単結晶タングステンチップの先端部を幾つかの角度からみたSEM像を示す。例えば、図8(d)を見ると先端部に3つの(110)面で囲まれた頂点が形成されていることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】(A)は3つの(110)指数面で囲まれた<111>頂点を示すモデル図、(B)は3つの(211)指数面で囲まれた<111>頂点を示すモデル図である。
【図2】熱電界処理実験の実験系を示すブロック図である。
【図3】熱電界処理実験のサイクルを説明する図で、(a)はひとつのサイクルをFEパターンと波形図で示す図、(b)は電界放出とFEパターンを示す図である。
【図4】低温処理の比較例における結果を示す図で、(a)は熱電界処理電圧と一定のスクリーン電流を得るのに必要なフィールドエミッション電圧Vextの印加電圧依存性を示す図、(b)の画像(A)〜(H)は(a)中に矢印で示した各段階でのFEパターンを示す図である。
【図5】(211)面の消失に伴うエミッター先端形状の変化を示すモデル図である。
【図6】高温処理の比較例における結果を示す図で、(a)は熱電界処理電圧と一定のスクリーン電流を得るのに必要なフィールドエミッション電圧Vextの印加電圧依存性を示す図、(b)の画像(A)〜(H)は(a)中に矢印で示した各段階でのFEパターンを示す図である。
【図7】一実施例における結果を示す図で、(a)は熱電界処理電圧と一定のスクリーン電流を得るのに必要なフィールドエミッション電圧Vextの印加電圧依存性を示す図、(b)の画像(A)〜(L)は(a)中に矢印で示した各段階でのFEパターンを示す図である。
【図8】単結晶タングステンチップの一実施例を示す幾つかの角度からみたSEM像である。
【図9】処理温度2400°Kにおける結果を示す図で、(a)は熱電界処理電圧と一定のスクリーン電流を得るのに必要なフィールドエミッション電圧Vextの印加電圧依存性を示す図、(b)の画像(A)〜(H)は(a)中に矢印で示した各段階でのFEパターンを示す図である。
【図10】処理温度2300°Kにおける結果を示す図で、(a)は熱電界処理電圧と一定のスクリーン電流を得るのに必要なフィールドエミッション電圧Vextの印加電圧依存性を示す図、(b)の画像(A)〜(G)は(a)中に矢印で示した各段階でのFEパターンを示す図である。
【図11】処理温度2200°Kにおける結果を示す図で、(a)は熱電界処理電圧と一定のスクリーン電流を得るのに必要なフィールドエミッション電圧Vextの印加電圧依存性を示す図、(b)の画像(A)〜(H)は(a)中に矢印で示した各段階でのFEパターンを示す図である。
【図12】処理温度2100°Kにおける結果を示す図で、(a)は熱電界処理電圧と一定のスクリーン電流を得るのに必要なフィールドエミッション電圧Vextの印加電圧依存性を示す図、(b)の画像(A)〜(H)は(a)中に矢印で示した各段階でのFEパターンを示す図である。
【図13】処理温度2000°Kにおける結果を示す図で、(a)は熱電界処理電圧と一定のスクリーン電流を得るのに必要なフィールドエミッション電圧Vextの印加電圧依存性を示す図、(b)の画像(A)〜(H)は(a)中に矢印で示した各段階でのFEパターンを示す図である。
【図14】処理温度1900°Kにおける結果を示す図で、(a)は熱電界処理電圧と一定のスクリーン電流を得るのに必要なフィールドエミッション電圧Vextの印加電圧依存性を示す図、(b)の画像(A)〜(H)は(a)中に矢印で示した各段階でのFEパターンを示す図である。
【図15】処理温度1800°Kにおける結果を示す図で、(a)は熱電界処理電圧と一定のスクリーン電流を得るのに必要なフィールドエミッション電圧Vextの印加電圧依存性を示す図、(b)の画像(A)〜(H)は(a)中に矢印で示した各段階でのFEパターンを示す図である。
【図16】処理温度1700°Kにおける結果を示す図で、(a)は熱電界処理電圧と一定のスクリーン電流を得るのに必要なフィールドエミッション電圧Vextの印加電圧依存性を示す図、(b)の画像(A)〜(H)は(a)中に矢印で示した各段階でのFEパターンを示す図である。
【図17】処理温度1600°Kにおける結果を示す図で、(a)は熱電界処理電圧と一定のスクリーン電流を得るのに必要なフィールドエミッション電圧Vextの印加電圧依存性を示す図、(b)の画像(A)〜(H)は(a)中に矢印で示した各段階でのFEパターンを示す図である。
【符号の説明】
【0041】
10 単結晶タングステンエミッター
12 加熱用フィラメント
14 超高真空チャンバー
18 フィラメント電流電源
20 両極性高圧電源
22 引出し電極
24 蛍光スクリーン
32 エミッションコントローラ
【技術分野】
【0001】
本発明は尖端をもつ棒状の単結晶タングステンチップと、それを電子銃として用いたSEM(走査型電子顕微鏡)、TEM(透過型電子顕微鏡)、EPMA(電子線プローブマイクロアナライザ)、マイクロフォーカスX線管などの応用機器、そのような単結晶タングステンチップをSPM(走査プローブ顕微鏡)プローブとして用いたSTM(走査トンネル電子顕微鏡)やAFM(原子間力顕微鏡)などの応用機器、さらにはそのような単結晶チップを製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
冷陰極電界放出型エミッターは高輝度でエネルギー拡がりの少ない電子源として大きな可能性をもっており、SEMやTEMの電子源として実用化されている。しかしながら熱陰極と比較すると電流角密度(単位立体角あたりのビーム電流量)が低いという欠点をもつ。このため大ビーム電流を必要とする用途には不向きであった。
【0003】
この欠点を解決するための手段としてエミッター先端部に鋭い頂点を持たせて局所的に電界集中を促すことで狭い範囲から選択的に電子放出を起こし、かつ頂点周囲のエミッター先端形状をビーム収束にふさわしくなるように鋭くすることで、電流角密度を向上させようという試みがなされている。
【0004】
そのひとつの方法は、単結晶タングステンの表面にPd,Ptなどの金属を電界メッキしアニール処理によってエミッター先端を多面体構造にする手法である。その手法では、結晶面の表面自由エネルギーの異方性を上げることで(110),(211),(100)面などのファセット(低指数結晶面)形成をうながし、エミッター先端形状を半球状から低指数結晶面で覆われた多面体構造へ形状転移させる(特許文献1参照。)。その方法によって<111>方位の単結晶タングステンエミッターについて先端が原子レベルにまで鋭敏化されることが実験的に確かめられている。
【0005】
もうひとつの良く知られている方法は熱電界処理によるものである。熱電界処理とは処理対象を加熱した状態で電界を印加することである。例えば、約1700°Kに加熱した単結晶タングステンチップに強い電界を印加するとファセットが成長してエミッター先端が多面体構造をとる(非特許文献1参照。)。
【0006】
一方、SPM(STMやAFMといった複数の手法がある)においても鋭い先端曲率半径を持った探針を作り出すことが空間分解能のすぐれた画像の取得に欠かせない。ここでもタングステンを材料にした探針はよく用いられているが、その作成は主に電解エッチングによっている。条件によっては曲率半径が数ナノメートルといった非常に鋭い探針を得ることができる。(例えば、非特許文献2参照。)。
【0007】
電解エッチングによる探針の作成は、「勘と経験」による部分が大きく、再現性よく鋭い探針を作り出すことは困難なのが実情である。また、電解エッチングによる方法では探針の形状が不確定になるため、特にAFMに用いた場合、得られた画像と実際の試料形状との間に定量性のある相関を確立することが非常に困難となる。AFMの画像が具体的に何を表しているのかいまだに議論が尽きない理由のひとつがここにある。
【0008】
これに比べて電界メッキや熱電界処理によって単結晶タングステンの<111>方位の先端を鋭敏化することは再現性に優れる。また既知の低指数結晶面のファセットで囲まれた頂点が形成されるので先端形状も確定する。主に電流角密度の改善されたフィールドエミッターの作成にこれらの方法が使われるようになってきたのは再現性のよさのためである。
【0009】
しかしながら、蒸着や熱電界処理によってこれまで作成されてきたエミッターの<111>頂点は、図1(B)に示されるように、3つの(211)指数面で囲まれている。これらの面間の角度は33.6度しかなく、頂点の鋭さは十分とは言えない。フィールドエミッターとして用いた場合、<111>頂点での電界集中効果がさほど大きくならないし、SPMプローブとして用いた場合には、先端の突き出しが小さいためマクロなスケールで試料に凹凸がある場合、高分解能な画像を得ることが困難となる。
【0010】
熱電界処理法では処理対象物であるエミッターに対向して引出し電極が配置される。通常、エミッター側が負電位、引出し電極側が正電位になるように極性を設定して電圧が印加される。それに対して、エミッター側が正電位、引出し電極側が負電位になるように印加電圧の極性を設定して電界放出の起こらない逆極性電界とするリモルディング(remolding)法と称される方法が提案されている。リモルディング法では熱電界処理中に印加する電界極性を電界放出する極性とは反転させるので電子放出がないため、処理電圧や処理温度を高く設定することが可能となった。リモルディング法では、一定の処理温度及び一定の印加電圧でパルス波形を使って短時間ずつ処理を行い、エミッター先端形状変化の経過をFE(電界放出)パターン観察で追いながら、適当な程度にエミッターが先鋭化したところで処理を停止するという操作を行なう。そして、タングステン単結晶からなるエミッターに対して、リモルディング法を使って2000°K以上の高温下で熱電界処理をすれば、タングステン単結晶の先端を<111>頂点とすることができ、フィールドエミッターとして用いた場合、電流角密度が大幅に向上することが示されている(非特許文献3参照。)。
【特許文献1】特開2006−294283号公報
【非特許文献1】倉田ら,Proceedings of 16th International Microscopy Congress (Sapporo) vol.2, 583 (2006)
【非特許文献2】J. P. Ibe et al., J. Vac. Sci. Technol., A 8, 3570 (1990)
【非特許文献3】H. Shimoyama, Proc. of 4th International Display Workshop, Nagoya, 1997, pp. 763-766
【非特許文献4】W.W. Mullins et al., J. Am. Ceram. Soc., 83, 214 (2000)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、一定の処理温度及び一定の印加電圧でパルス波形を使って短時間ずつ処理を行い、エミッター先端形状変化の経過をFEパターン観察で追いながら、適当な程度にエミッターが先鋭化したところで処理を停止するという提案の方法では、再現性よく効率的に<111>頂点を先鋭化することができなかった。それは、設定電圧を誤ると、目的形状まで変化が進まなかったり、逆に過電圧条件では目的形状を通り越して不規則な先端形状(過剰リモルディング状態という)になりがちであったからである。また先端を原子レベルにまで先鋭化することも困難であった。
【0012】
本発明は、先端を原子レベルにまで先鋭化した棒状の単結晶を得ることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、尖端をもつ棒状の単結晶タングステンチップであって、前記尖端が(110)結晶面で囲まれた<111>頂点により形成されていることを特徴とするものである。
【0014】
その単結晶タングステンチップを利用した本発明の機器は、単結晶タングステンチップを電界放出型電子源とするSEM、TEM、EPMA、マイクロフォーカスX線管などの電子ビーム応用装置、及び単結晶タングステンチップを探針に用いたSTMやAFMなどの走査型プローブ顕微鏡である。
【0015】
本発明の製造方法は熱電界処理のうち、特にエミッター側が正電位、引出し電極側が負電位になるように印加電圧の極性を設定して電界放出の起こらない逆極性電界とするリモルディング法の改良である。すなわち、本発明の製造方法は以下の工程(A)から(C)を含み、尖端をもつ単結晶チップを製造する方法である。
(A)単結晶に対し、その先端が核形成エネルギー障壁による形状変化の障壁を乗り越えうる温度に設定し、電界放出が起こらない逆極性での電界を印加する熱電界処理工程と印加電圧を電界放出がおこる極性に切り替えて単結晶先端のFEパターンを取得する工程とを、熱電界処理によりファセットが成長する電圧よりも低い電圧から開始し、逆極性での印加電圧を段階的に切り上げて繰り返していくリモルディング法による熱電界処理工程、
(B)前記工程(A)の電界処理工程を繰り返した結果、FEパターン観察から前記単結晶先端に尖端形成を示す形状変化がみられたところで単結晶先端のさらなる形状変化を抑制できる温度まで低下させる工程、及び
(C)前記工程(B)で低下させた温度で、電界放出が起こらない逆極性電界での印加電圧をさらに段階的に上げて行う熱電界処理工程と各熱電界処理工程後の単結晶先端のFEパターン観察を、単結晶の先端形状がさらに先鋭になるまで繰り返す工程。
【0016】
印加電圧を段階的に切り上げていく速度は各印加電圧値で単結晶先端部の形状が熱平衡状態を維持できるよう十分にゆっくりとした速度とすることが好ましい。
【0017】
具体的な例は単結晶タングステンチップを製造することである。その場合、工程(A)での設定温度が2100°K以上であり、工程(B)での尖端形成を示す形状変化は(211)ファセットが消失したことを示すFEパターン変化である。つまり、印加電圧を上げていくと、ある電圧で(211)面が消失して、図1(A)に示されるように<111>頂点が3つの(110)面で囲まれた状態のFEパターンが現れる。その時点で、印加電圧を保ちながら、工程(B)に示されるように、温度を低下させるが、その温度は単結晶先端の形状変化を抑制できる温度であり、例えば1600〜1900°Kである。しかる後にその下げた温度のままで、再び印加電圧を段階的に上げていきながら、熱電界処理を続ける。印加電圧を上げる幅は特に厳密ではないが、50〜200Vが適当である。工程(C)で単結晶の先端形状がさらに先鋭になる状態とはFEパターンが点状のパターンから対称性をもったパターンになった状態である。その時点で処理を停止する。
【0018】
このようにすると、再現性よく鋭角の<111>頂点ができ上がる。ちなみに(110)面同士のなす角は60度であり、(211)面間の角度のおよそ倍である。(211)面で囲まれた<111>頂点からのFEパターンと(110)面で構成された鋭角頂点からのものを比較すると、後者の頂点での電界集中がずっと高いことが確認できる。
【0019】
ファセットで囲まれた頂点は鋭くとがってくる。高電界下でファセットが成長する原理についてはこれまで満足な説明が無かったが、本発明者らの研究によって、この現象が静電界エネルギーによる表面張力の実質的な低下とそれに伴う表面自由エネルギーの異方性の増大に起因していることがわかった。
【0020】
本発明の作用を説明するためには、はじめから低温で処理を行うとなぜ(110)面で囲まれた<111>頂点ができないかを説明する必要がある。実験結果に基づいてこれを説明する。
【0021】
図2に熱電界処理実験の実験系を示す。電解エッチングした単結晶タングステンエミッター10を加熱用フィラメント12にスポット溶接して超高真空(UHV)チャンバー14に入れる。
単結晶タングステンエミッターの電解エッチングでは、例えば1規定のNaOH溶液にエミッターを0.5mm程度浸しこれを陽極とする。対向陰極には白金などを用い陰極とする。両者の間に5V程度のDC電圧を印加すると陽極であるタングステンが溶液中に溶け出し先端を鋭くとがらせることができる。
【0022】
チャンバー14はイオンポンプ16によって排気される。加熱用フィラメント12は高電圧に浮かせることができるフィラメント電流電源18に接続され、電源18は市販の両極性高圧電源20に接続されている。エミッター10の対向電極となる引出し電極22、FEパターンを観察する蛍光スクリーン24は接地されている。FEパターンを観察する際にエミッター10から蛍光スクリーン24に電界放出させるエミッション電流を一定にするために、蛍光スクリーン24に流れる電流に基づいてエミッター10の電圧Vextを制御するエミッションコントローラ32が高圧電源20に接続されている。蛍光スクリーン24上にできるFEパターンをビデオカメラ30で観察する。すべての電気系はLabVIEW(登録商標)ソフトウエアとPCIバスボード(AD変換器24,DA変換器26,DIOインターフェース28)を使ってコンピューター制御されており、実験中のイオンポンプ16の電流、高圧電源20の電圧、エミッション電流、フィラメント12の電流、スクリーン電流はログファイルに記録される。なお、ここではエミッターから放出される全電流をエミッション電流、このうち蛍光スクリーンに吸収される電流をスクリーン電流と呼んでいる。
【0023】
次に熱電界処理実験のサイクルについて説明する。図3(a)に示すようにひとつのサイクルは“熱電界処理”と“観察”の2つから構成されている。図3(a)に示す左上の写真はそれぞれの期間においてUHVチャンバーの観察窓から見られる様子をビデオカメラで撮ったものである。ここでの熱電界処理は、エミッター10に逆極性高電圧VHT(電界放出するのと逆の極性。エミッター10の電位が対向する引出し電極22に対して正にある)としてVrを印加し、同時に適当なフィラメント電流Ifを流して所望の温度に加熱する。熱電界処理期間中にタングステン原子がエミッター表面上を移動して形状の変化が起こる。その電圧と温度で十分な時間処理を行うと、タングステン結晶の先端部はその電圧と温度の条件下での熱平衡状態となる。その熱平衡状態となって形状が安定した後、高電圧電源の極性を反転させて電圧をVext(このときは電界放出させるために、エミッター10の電位を対向する引出し電極22に対して負にする。Vextはフィールドエミッション電圧とも呼ぶ。)とし、エミッター10から電界放出させ蛍光スクリーン24上にできるFEパターンをビデオカメラ30で観察する。このとき、フィラメント電流Ifは流さなくてもよいが、より鮮明なFEパターンを得るために、適当なフィラメント電流Ifを流す。FEパターンの例を図3(b)の下に示す。FEパターンからタングステン結晶先端部の表面形状がどのように変化しているのかを類推することができる。観察時の高電圧電源20の電圧Vextは予め設定されたスクリーン電流Iscreenが得られるようフィードバック回路で調整される。このときの電源電圧Vextは記録され、熱電界処理プロセス(ファセット形成プロセス)進行の指標として用いられる。ひとつのサイクルが終わると、フィラメント電流If(つまりエミッター温度)の設定はそのままで、処理電圧VHTを(Vr+ΔVr)まで少し上げ(ΔVr=50〜200V)、同様のサイクルを繰り返す。熱電界処理の電圧VHTを徐々に上げながら同様のサイクルを繰り返していくことで、エミッター形状の熱電界処理電圧VHT依存性を調べることができる。
【0024】
本発明のリモルディング法において、従来からひろく行われているように処理温度を本発明での好ましい開始温度2100°K以上よりも低いTr=1700°Kに設定して熱電界処理実験を行った。熱電界処理電圧をVr=0Vから7300Vまで上げながら実験を行った結果を図4に示す。図4(a)は熱電界処理電圧の上昇とともに一定のスクリーン電流Iscreen=5.0μAを得るのに必要なフィールドエミッション電圧Vextが下がっていく様子を示し、図4(b)の画像(A)〜(H)は図4(a)中に矢印で示した各段階でのFEパターンを表す。FEパターンから、熱電界処理電圧をVr=6900Vまで上昇させてもエミッターの<111>頂点は(211)結晶面で囲まれたままであることが分かる。更に電圧を上昇させると図4の段階(H)に示されるようにエミッター先端はでこぼこを持った、過剰リモルディング状態と呼ぶべき不定な構造になってしまう。図5のモデルで示すように、ひとたび<111>頂点が(211)面で囲まれた状態の多面体形状になると、そこで形状変化は停止してしまうからである。そのあと熱電界処理電圧を上げることで頂点を(110)面で囲まれた形状にもっていこうとしても核形成エネルギー障壁(nucleation energy barrier)の効果のために形状変化が阻害されてしまう。無理に電圧を上げていくと過剰リモルディング状態になるだけである。
【0025】
ファセット面で囲まれて多面体構造をとった微結晶は形状変化し難いことが知られている(非特許文献4参照。)。ひとたび多面体構造をとると、そこからある結晶面を成長させるためには狭まっていく別の結晶面上へ原子を移動させていく必要がある。その途中過程においてはファセット面上に小さな“島(こぶ)”ができることになるが、この「中間状態」の表面自由エネルギーはファセット面全体が完成した状態よりも高く、形状変化を阻害するエネルギー障壁になる。このため、結晶は熱力学的原理で決まる最も自由エネルギーの低い安定した形状にすみやかに移行することができない。同様の原理は通常の結晶成長でも見られ、最初の“核”をつくるために余分なエネルギーが必要とされることはよく知られている。これを核形成エネルギー障壁と呼ぶ。
【0026】
同様の実験をもっと高い温度(Tr=2400°K)で行った結果を図6に示す。この場合も、図6(a)が熱電界処理電圧の上昇とともに一定のスクリーン電流Iscreen=5.0μAを得るのに必要なフィールドエミッション電圧Vextが下がっていく様子を示し、図6(b)の画像(A)〜(H)は図6(a)中に矢印で示した各段階でのFEパターンを表す。このときには熱電界処理電圧を上げていくと(211)面が縮小し、困難なく<111>頂点が(110)面で囲まれた状態にもっていけることがFEパターンの変化から読み取れる。(211)面の縮小がエミッター全表面がファセットで覆われる前にはじまるため、核形成エネルギー障壁の効果で変化が阻害されることがない。しかし、処理温度が高いため頂点に原子レベルの鋭さを持たせることはできない。
【0027】
低温で熱電界処理を進めると核形成エネルギー障壁のために(211)面が最後まで残ってしまう。本発明のリモルディング法は、そのことを避けるため、はじめの処理を高温で行う。(211)面が消失した段階で今度は処理温度を下げ、更に印加電圧を上げていき頂点を極限まで鋭くするという2段階(あるいは多段階)の処理温度を用いた熱電界処理によって、(110)面で囲まれた<111>頂点を原子レベルにまで先鋭化する。
【発明の効果】
【0028】
単結晶タングステンの熱電界処理を、1)電界放出が起こらない逆極性電界を使って、2)徐々に処理電圧を上げつつ、3)1処理サイクル毎にFEパターン観察によって形状変化をモニターしながら行う。4)処理温度を適当な時点で高温から低温に変える、という手法を用いることで<111>方位をもつ単結晶タングステンチップを従来の頂点が(211)面で囲まれている状態よりも鋭くとがらせることができる。この手法は再現性にすぐれ、かつ適当な処理電圧に達した段階(FEパターンをモニターすることで判断できる)で処理を終了することによって原子レベルで先端を先鋭化することも可能となる。
【0029】
この手法で作成されたタングステンチップからは角収束性がよく、かつ電流角密度の高い電界放出電子ビームを得ることができる。また先端形状が厳密に規定されているため、SPMプローブの探針として用いた場合、得られた画像から定量性のある物理情報を引き出すことが可能となる。
【0030】
ここでは<111>頂点を先鋭化する方法を例にとって説明したが、リモルディング法で多段階処理温度を用いた熱電界処理は、単結晶チップから望ましい形状をつくりだす一般的な手法として用いることが可能である。核形成エネルギー障壁による形状変化の阻害は普遍的な現象である。高温での熱電界処理でエネルギー障壁となりうる変化を乗り越え、しかる後に処理温度を下げてファセット面のなすエッジや頂点をより先鋭化する手法は、<111>方位をもつタングステン単結晶以外でもひろく応用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
<111>方位を持った単結晶タングステンエミッターを先鋭化させる方法を例にとって述べる。
実験系は図2のものを、基本熱電界処理サイクルは図3に示すものを、それぞれ用いるものとする。
【0032】
本発明のリモルディング法による熱電界処理のようすを図7に示す。図7(a)が熱電界処理電圧の上昇とともに一定のスクリーン電流Iscreen=5.0μAを得るのに必要なフィールドエミッション電圧Vextが下がっていく様子を示し、図7(b)の画像(A)〜(L)は図7(a)中に矢印で示した各段階でのFEパターンを表す。処理条件として、はじめは高温(Tr=2300°K)を用いた。図7(a)に示す段階(E)まで高温下で処理電圧Vrを0Vから徐々に上げていくと段階(D)の直後にフィールドエミッション電圧Vextが急激に低下するとともに、図7(b)のFEパターンから分かるように<111>頂点は(110)面で囲まれた状態になる。
【0033】
ここで電圧を保ったままリモルディング法による処理温度を徐々に下げ、Tr=1700°Kとする。段階(F)は温度が下がった状態を表す。この結果から分かるように、高温下の処理で一度、<111>頂点が(110)面で囲まれた状態になれば、温度を下げていっても再び(211)面が現れることはない。図4に示した結果と比較すれば、ほぼ同じリモルディング法による熱電界処理条件であるにもかかわらず、図4のシーケンスでは(211)面が残っているのに対し図7では(110)面で囲まれた形状に変化している。本来、(Tr,Vr)=(4500V,1700°K)というリモルディング法による熱電界処理条件で熱力学的に安定なのは頂点が(110)面で囲まれた形状であると考えられる。図4の処理シーケンスでは途中から形状変化が阻害されるために熱力学的には不安定であるはずの(211)面が残ってしまうのである。本発明では高温処理を行うことで核形成エネルギー障壁の影響を受けずに熱力学的に安定な形状へとすみやかに変化させることができるのである。
【0034】
その後、温度Trを1700°Kという低温に保ったままリモルディング法による熱電界処理を続ける。処理電圧を徐々に上げていくとFEパターンから分かるように頂点の鋭さが増していき、段階(H)に示す状態に持ってくることができる。FEパターンから先端に位置する数個の原子から局所的に電子放出が起こっていることが分かり、頂点が原子レベルにまで先鋭化されていることが示唆される。この状態で処理を停止すれば非常に鋭い先端径をもった単結晶タングステンチップが得られる。
【0035】
モルディング法による熱電界処理での温度を2400〜1600°Kの100°Kごとの各温度で実施した結果を図9から図17に示す。図9は図6と同じものであり、図10は図7と同内容である。図16は図4と同じものである。図9から図17のグラフとFEパターンの説明は前出の図と同じである。
【0036】
図9〜図17のFEパターンの結果から、処理温度が2200°K以上であれば(211)ファセットが消失してFEパターンが点状になった後、温度を低下させてさらに印加電圧を上げながら熱電界処理をすれば(110)面で囲まれた原子レベルに先鋭化された<111>頂点が形成できることが分かる。
【0037】
処理温度が2000〜2100°Kでは(211)面の消失条件と過剰リモルディング条件が非常に近く、処理温度が1900°K以下では(110)面に囲まれた<111>頂点の形成を経ずして過剰リモルディング状態になってしまう。
【0038】
この結果から、処理温度が1900°K以下では(211)面が残ってしまい、処理温度が2000〜2100°Kでは(211)面の消失と過剰リモルディング条件が近いため求める<111>頂点を歩留まりよく得ることが難しいものと予想され、処理温度が2200°K以上であれば(211)ファセットが消失して本発明の所期の目的を達成できることがわかる。
【0039】
こうして得られたチップは単結晶タングステンチップの一実施例をなすものである。図8にその単結晶タングステンチップの先端部を幾つかの角度からみたSEM像を示す。例えば、図8(d)を見ると先端部に3つの(110)面で囲まれた頂点が形成されていることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】(A)は3つの(110)指数面で囲まれた<111>頂点を示すモデル図、(B)は3つの(211)指数面で囲まれた<111>頂点を示すモデル図である。
【図2】熱電界処理実験の実験系を示すブロック図である。
【図3】熱電界処理実験のサイクルを説明する図で、(a)はひとつのサイクルをFEパターンと波形図で示す図、(b)は電界放出とFEパターンを示す図である。
【図4】低温処理の比較例における結果を示す図で、(a)は熱電界処理電圧と一定のスクリーン電流を得るのに必要なフィールドエミッション電圧Vextの印加電圧依存性を示す図、(b)の画像(A)〜(H)は(a)中に矢印で示した各段階でのFEパターンを示す図である。
【図5】(211)面の消失に伴うエミッター先端形状の変化を示すモデル図である。
【図6】高温処理の比較例における結果を示す図で、(a)は熱電界処理電圧と一定のスクリーン電流を得るのに必要なフィールドエミッション電圧Vextの印加電圧依存性を示す図、(b)の画像(A)〜(H)は(a)中に矢印で示した各段階でのFEパターンを示す図である。
【図7】一実施例における結果を示す図で、(a)は熱電界処理電圧と一定のスクリーン電流を得るのに必要なフィールドエミッション電圧Vextの印加電圧依存性を示す図、(b)の画像(A)〜(L)は(a)中に矢印で示した各段階でのFEパターンを示す図である。
【図8】単結晶タングステンチップの一実施例を示す幾つかの角度からみたSEM像である。
【図9】処理温度2400°Kにおける結果を示す図で、(a)は熱電界処理電圧と一定のスクリーン電流を得るのに必要なフィールドエミッション電圧Vextの印加電圧依存性を示す図、(b)の画像(A)〜(H)は(a)中に矢印で示した各段階でのFEパターンを示す図である。
【図10】処理温度2300°Kにおける結果を示す図で、(a)は熱電界処理電圧と一定のスクリーン電流を得るのに必要なフィールドエミッション電圧Vextの印加電圧依存性を示す図、(b)の画像(A)〜(G)は(a)中に矢印で示した各段階でのFEパターンを示す図である。
【図11】処理温度2200°Kにおける結果を示す図で、(a)は熱電界処理電圧と一定のスクリーン電流を得るのに必要なフィールドエミッション電圧Vextの印加電圧依存性を示す図、(b)の画像(A)〜(H)は(a)中に矢印で示した各段階でのFEパターンを示す図である。
【図12】処理温度2100°Kにおける結果を示す図で、(a)は熱電界処理電圧と一定のスクリーン電流を得るのに必要なフィールドエミッション電圧Vextの印加電圧依存性を示す図、(b)の画像(A)〜(H)は(a)中に矢印で示した各段階でのFEパターンを示す図である。
【図13】処理温度2000°Kにおける結果を示す図で、(a)は熱電界処理電圧と一定のスクリーン電流を得るのに必要なフィールドエミッション電圧Vextの印加電圧依存性を示す図、(b)の画像(A)〜(H)は(a)中に矢印で示した各段階でのFEパターンを示す図である。
【図14】処理温度1900°Kにおける結果を示す図で、(a)は熱電界処理電圧と一定のスクリーン電流を得るのに必要なフィールドエミッション電圧Vextの印加電圧依存性を示す図、(b)の画像(A)〜(H)は(a)中に矢印で示した各段階でのFEパターンを示す図である。
【図15】処理温度1800°Kにおける結果を示す図で、(a)は熱電界処理電圧と一定のスクリーン電流を得るのに必要なフィールドエミッション電圧Vextの印加電圧依存性を示す図、(b)の画像(A)〜(H)は(a)中に矢印で示した各段階でのFEパターンを示す図である。
【図16】処理温度1700°Kにおける結果を示す図で、(a)は熱電界処理電圧と一定のスクリーン電流を得るのに必要なフィールドエミッション電圧Vextの印加電圧依存性を示す図、(b)の画像(A)〜(H)は(a)中に矢印で示した各段階でのFEパターンを示す図である。
【図17】処理温度1600°Kにおける結果を示す図で、(a)は熱電界処理電圧と一定のスクリーン電流を得るのに必要なフィールドエミッション電圧Vextの印加電圧依存性を示す図、(b)の画像(A)〜(H)は(a)中に矢印で示した各段階でのFEパターンを示す図である。
【符号の説明】
【0041】
10 単結晶タングステンエミッター
12 加熱用フィラメント
14 超高真空チャンバー
18 フィラメント電流電源
20 両極性高圧電源
22 引出し電極
24 蛍光スクリーン
32 エミッションコントローラ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
尖端をもつ棒状の単結晶タングステンチップにおいて、
前記尖端が(110)結晶面で囲まれた<111>頂点により形成されていることを特徴とする単結晶タングステンチップ。
【請求項2】
請求項1に記載の単結晶タングステンチップを電界放出型電子源とする電子ビーム応用装置。
【請求項3】
請求項1に記載の単結晶タングステンチップを探針に用いた走査型プローブ顕微鏡。
【請求項4】
以下の工程(A)から(C)を含み、尖端をもつ単結晶チップの製造方法。
(A)単結晶に対し、その先端全体がファセット面で覆われそれ以上の形状変化が核形成エネルギー障壁によって阻害される温度よりも高い温度に設定し、電界放出が起こらない逆極性での電界を印加する熱電界処理工程と印加電圧を電界放出がおこる極性に切り替えて単結晶先端のFEパターンを取得する工程とを、熱電界処理によりファセットが成長する電圧よりも低い電圧から開始し、逆極性での印加電圧を段階的に切り上げて繰り返していくリモルディング法による熱電界処理工程、
(B)前記工程(A)の電界処理工程を繰り返した結果、FEパターン観察から前記単結晶先端に尖端形成を示す形状変化がみられたところで単結晶先端のさらなる形状変化を抑制できる温度まで低下させる工程、及び
(C)前記工程(B)で低下させた温度で、電界放出が起こらない逆極性電界での印加電圧をさらに段階的に上げて行う熱電界処理工程と各熱電界処理工程後の単結晶先端のFEパターン観察を、単結晶の先端形状がさらに先鋭になるまで繰り返す工程。
【請求項5】
印加電圧を段階的に切り上げていく速度は各印加電圧値で単結晶先端部が結晶の熱平衡状態を維持できる速度とする請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記単結晶が単結晶タングステンチップであり、
工程(A)での設定温度が2100°K以上であり、
工程(B)での尖端形成を示す形状変化は(211)ファセットが消失したことを示すFEパターン変化であり、工程(B)で低下させる温度が1900°K以下であり、
工程(C)で単結晶の先端形状がさらに先鋭になる状態とはFEパターンが点状のパターンから対称性をもったパターンになった状態である請求項4又は5に記載の製造方法。
【請求項1】
尖端をもつ棒状の単結晶タングステンチップにおいて、
前記尖端が(110)結晶面で囲まれた<111>頂点により形成されていることを特徴とする単結晶タングステンチップ。
【請求項2】
請求項1に記載の単結晶タングステンチップを電界放出型電子源とする電子ビーム応用装置。
【請求項3】
請求項1に記載の単結晶タングステンチップを探針に用いた走査型プローブ顕微鏡。
【請求項4】
以下の工程(A)から(C)を含み、尖端をもつ単結晶チップの製造方法。
(A)単結晶に対し、その先端全体がファセット面で覆われそれ以上の形状変化が核形成エネルギー障壁によって阻害される温度よりも高い温度に設定し、電界放出が起こらない逆極性での電界を印加する熱電界処理工程と印加電圧を電界放出がおこる極性に切り替えて単結晶先端のFEパターンを取得する工程とを、熱電界処理によりファセットが成長する電圧よりも低い電圧から開始し、逆極性での印加電圧を段階的に切り上げて繰り返していくリモルディング法による熱電界処理工程、
(B)前記工程(A)の電界処理工程を繰り返した結果、FEパターン観察から前記単結晶先端に尖端形成を示す形状変化がみられたところで単結晶先端のさらなる形状変化を抑制できる温度まで低下させる工程、及び
(C)前記工程(B)で低下させた温度で、電界放出が起こらない逆極性電界での印加電圧をさらに段階的に上げて行う熱電界処理工程と各熱電界処理工程後の単結晶先端のFEパターン観察を、単結晶の先端形状がさらに先鋭になるまで繰り返す工程。
【請求項5】
印加電圧を段階的に切り上げていく速度は各印加電圧値で単結晶先端部が結晶の熱平衡状態を維持できる速度とする請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記単結晶が単結晶タングステンチップであり、
工程(A)での設定温度が2100°K以上であり、
工程(B)での尖端形成を示す形状変化は(211)ファセットが消失したことを示すFEパターン変化であり、工程(B)で低下させる温度が1900°K以下であり、
工程(C)で単結晶の先端形状がさらに先鋭になる状態とはFEパターンが点状のパターンから対称性をもったパターンになった状態である請求項4又は5に記載の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2008−239376(P2008−239376A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−79736(P2007−79736)
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【出願人】(599002043)学校法人 名城大学 (142)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【出願人】(599002043)学校法人 名城大学 (142)
【Fターム(参考)】
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