説明

印刷用版の製造方法、印刷用版とそれを用いた有機薄膜トランジスタ

【課題】基板表面に因らず高い特性を得ることが可能な、有機半導体を印刷する際に用いる印刷用版を提供すること。
【解決方法】本発明の印刷用版は、少なくとも支持体と樹脂からなる印刷用版の製造方法において、前記印刷用版の印刷面の表面に自己組織化単分子膜を形成することを特徴とする印刷用版の製造方法としたものである。または、前記印刷用版の印刷面の表面をラビング処理を用いて表面処理することを特徴とする印刷用版の製造方法としたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は印刷に用いる版の製造方法及びその印刷用版、並びにそれを用いて製造された有機薄膜トランジスタに関する。
【背景技術】
【0002】
情報技術の目覚しい発展により、現在ではノート型パソコンや携帯情報端末などでの情報の送受信が頻繁に行われている。近い将来、場所を選ばずに情報をやり取りできるユビキタス社会が来るであろうことは周知の事実である。そのような社会においては、より軽量、薄型の情報端末が望まれる。
【0003】
現在半導体材料の主流はシリコン系であり、製造方法としてはフォトリソグラフィーを用いたものが一般的である。
【0004】
一方で、印刷技術を用いて電子部材を製造するプリンタブルエレクトロニクスが注目されている。印刷技術を用いることで、フォトリソグラフィーよりも装置や製造コストが下がり、また真空や高温を必要としないことからプラスチック基板が利用できるなどのメリットが挙げられる。
【0005】
この場合、半導体材料としては有機溶媒に可溶な有機半導体が用いられる。例えば特許文献1では、インクジェット法を用いて有機半導体層を形成している。
【0006】
しかしながら、有機半導体を用いる場合、有機半導体層が成膜される基板表面により、得られる特性が大きく異なることが知られている。例えば非特許文献1には、異なる表面に有機半導体を成膜することで得られる特性が大きく変わることが記されている。また、例えば非特許文献2には、絶縁膜表面を各種自己組織化単分子膜で表面修飾することにより、得られる特性が大きく異なることが記されている。これらは、基板表面の表面自由エネルギーや官能基の違いにより、有機半導体の配向状態や結晶状態が変わることに起因していると考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−210086号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Journal of American Chemical Society 2006、128巻、12851
【非特許文献2】MaterialsToday、March2007、10巻3号47
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、例えば非特許文献1にあるような積層構造を用いるのは現実的には困難であり、また有機半導体との界面に用いている材料を単層で用いるには、絶縁性や耐溶剤性などに課題がある。
【0010】
また、非特許文献2にあるような表面修飾法は、塗布法で成膜される有機高分子型絶縁膜では、一般的に自己組織化単分子膜を形成する材料との反応サイトを持たないため、適
用が困難である。また、そのような反応サイトを持つ材料を仮に使用したとしても、工程が煩雑になるといった問題がある。
【0011】
本発明では、基板表面に因らず高い特性を得ることが可能な有機半導体を印刷する際に用いる印刷用版を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の請求項1に記載の発明は、少なくとも支持体と樹脂からなる印刷用版の製造方法において、前記印刷用版の印刷面の表面に自己組織化単分子膜を形成することを特徴とする印刷用版の製造方法である。
【0013】
請求項2に記載の発明は、前記自己組織化単分子膜がヘキサメチルジシラザン、アルキルトリメトキシシラン、アルキルトリエトキシシラン、アルキルトリクロロシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリクロロシランのうち少なくとも1つからなることを特徴とする請求項1に記載の印刷用版の製造方法である。
【0014】
請求項3に記載の発明は、少なくとも支持体と樹脂からなる印刷用版の製造方法において、前記印刷用版の印刷面の表面をラビング処理を用いて表面処理することを特徴とする印刷用版の製造方法である。
【0015】
請求項4に記載の発明は、前記印刷用版が凸版、若しくはフレキソ版のいずれかであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の印刷用版の製造方法である。
【0016】
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の製造方法を用いて製造されたことを特徴とする印刷用版である。
【0017】
請求項6に記載の発明は、前記印刷用版の前記樹脂中若しくは前記樹脂上のいずれか、又は両方に金属酸化物が含まれることを特徴とする請求項5に記載の印刷用版である。
【0018】
請求項7に記載の発明は、前記支持体が金属であることを特徴とする請求項5または6に記載の印刷用版である。
【0019】
請求項8に記載の発明は、請求項5乃至7のいずれか1項に記載の印刷用版を用いて形成されたことを特徴とする有機薄膜トランジスタである。
【発明の効果】
【0020】
本発明の印刷用版の製造方法によれば、印刷用版の表面に自己組織化単分子膜を形成する湿式方法若しくはラビング処理等の乾式方法で表面処理することにより、印刷用版にインキングされた有機半導体の配向状態や結晶状態を最適化することが出来る。
【0021】
また、印刷用版を凸版、若しくはフレキソ版とすることで最適化された有機半導体の状態を転移することが容易になり、スループットが高く、且つインキの消費量を抑えることが出来る。
【0022】
また、印刷用版の前記樹脂中若しくは前記樹脂上に金属酸化物が含まれることで自己組織化単分子膜を用いた表面処理を施すことが容易となる。
【0023】
また、支持体が金属であることにより印刷用版の寸法安定性を高めることが出来、ひいては印刷パターンの寸法安定性も向上させることが出来る。
【0024】
また、請求項5乃至7に記載の印刷用版を用いることで、薄膜トランジスタ基板表面に表面処理を施すことなく、有機半導体の配向状態や結晶状態を最適化することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施形態の一例を示す印刷用版原版の断面模式図である。
【図2】本発明の実施形態の一例を示す印刷用版の断面模式図である。
【図3】本発明の実施形態の一例を示す印刷用版の断面模式図である。
【図4】本発明の実施形態の一例を示す印刷用版の断面模式図である。
【図5】本発明の実施形態の一例を示す有機薄膜トランジスタの断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態の例を必要に応じて図面を用いて説明する。本発明において、印刷用版の最表面は自己組織化単分子膜が形成されていることが望ましい。自己組織化単分子膜が形成されていることにより、印刷用版の最表面を任意の表面自由エネルギーとすることができ、様々な半導体材料に応じて適切な表面自由エネルギーとすることが可能な上、緻密な膜を形成できるため均一な半導体層を形成することが可能である。
【0027】
印刷用版の最表面に用いる自己組織化単分子膜は、一般的な材料を用いることが可能であり、具体的にはヘキサメチルジシラザン、オクチルトリメトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、オクタデシルトリエトキシシラン、オクチルトリクロロシラン、オクタデシルトリクロロシランなどのアルキルシラン化合物、フェニルトリメトキシシラン、フェネチルトリメトキシシラン、フェノキシオクタデシルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェネチルトリエトキシシラン、フェノキシオクタデシルトリエトキシシラン、フェニルトリクロロシラン、フェネチルトリクロロシラン、フェノキシオクタデシルトリクロロシランなどのフェニルシラン化合物、アミノプロピルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリクロロシランなどのアミノシラン化合物、パーフルオロオクチルエチルトリメトキシシラン、パーフルオロオクチルエチルトリエトキシシラン、パーフルオロオクチルエチルトリクロロシランなどのフルオロシラン化合物などが挙げられるが、これらに限定されるものではなく、用いる半導体材料に適したものを選ぶことが好ましい。
【0028】
本発明の実施形態において、印刷用版の最表面は乾式方法により処理されてもよい。これにより、用いるインキに適した表面とすることが可能である。具体的には、コロナ処理、プラズマ処理、UVオゾン処理、エキシマUV処理、光配向方法などの表面処理方法を用いることができ、高分子膜を布などで擦ることによって配向性能を付加するラビング処理が半導体の配向状態の最適化のために特に好適に用いられるが、これらに限定されるものではない。
【0029】
本発明の実施形態において、印刷用版は凸版、若しくはフレキソ版であることが望ましい。一般的に有機半導体は溶媒に対する溶解度が低く、溶液は低粘度であることが多いが、このような溶液を用いて配向状態が最適化されたパターンを形成するには、凸版印刷やフレキソ印刷が望ましいためである。
【0030】
本発明の実施形態において、図3や4に示すように樹脂中若しくは樹脂上に金属酸化物が含まれることが望ましい。金属酸化物としては、酸化シリコン、酸化チタン、酸化銀、酸化銅、酸化ジルコニア、酸化亜鉛、インジウム錫酸化物などが挙げられるが、この限りではない。また、金属酸化物は粒子として樹脂中に含まれた状態、若しくは薄膜として樹脂上に形成された状態の何れでもよい。樹脂中に含まれる場合は、製版後に工程を必要としないため簡便である。樹脂上に形成される場合、工程が煩雑になる一方で、より緻密な
自己組織化単分子膜を形成できるというメリットがある。尚、製版のプロセスを考慮すると、樹脂上に金属酸化物層を形成する場合は、製版の後であることが望ましい。
【0031】
本発明の実施形態において、印刷用版の支持体は特に限定されるものではないが、寸法安定性を考慮すると金属製であることが望ましい。金属の種類は特に限定されるものではないが、汎用性などの観点からステンレス製が好ましい。
【0032】
本発明の実施形態において、印刷に用いるインキは特に限定されるものではないが、高分子型有機半導体や低分子型有機半導体を溶媒に溶解させたものなどが挙げられる。これらのインキには、必要に応じて界面活性剤や増粘剤、バインダー、良溶媒以外の貧溶媒などの添加剤が加えられていても良い。
【0033】
本発明の実施形態において、インキは印刷用版上である程度乾燥させることが望ましい。ある程度乾燥させることで溶質の配向状態や結晶状態が最適化されるためである。
【0034】
本発明の実施形態において、有機薄膜トランジスタの構造は特に限定されるものではなく、ボトムゲート・ボトムコンタクト型、トップゲート・ボトムコンタクト型などが挙げられる。
【0035】
本発明の実施形態において、印刷用版は必要に応じて接着層、ハレーション防止層、アブレーションマスクなどを有していても良い。
【実施例】
【0036】
以下、本発明の実施例を説明するが、これに限られるものではない。
【実施例1】
【0037】
<印刷用版形成>
図1に示すように、支持体(10)として厚さ100μmのSUS304を用いた。支持体上に樹脂として感光性ナイロンを用い、厚さ150μmの樹脂層(11)を形成して原版とした。続いて図2に示すように、この原版を、フォトマスクを用いて露光、水により現像した後、70℃で30分間乾燥し、後露光をした。これにより、印刷パターンを有する印刷用版が形成された。続いてこの印刷用版上に厚さ40nmのSiOをスパッタ法により成膜し、金属酸化物層(12)とした。次いでフェニルトリエトキシシランをトルエンで1質量%に希釈した溶液にこの印刷用版を6時間浸漬し、表面処理層(13)を形成した。
<薄膜トランジスタ基板形成>
一方、図5に示すように有機薄膜トランジスタ基板(20)として、ガラスを用いた。ゲート電極としてアルミニウムを100nm蒸着法により成膜、フォトリソグラフィーおよびエッチングによりゲート電極(21)を形成した。続いてゲート絶縁材料としてポリビニルフェノール(Aldrich製)を用い、スピンコート法により厚さ1μmのゲート絶縁膜(22)を形成した。次いでソース・ドレイン電極材料として金を用い、シャドーマスクを介した蒸着法により厚さ50nm成膜してソース・ドレイン電極(23)、(24)とした。
<有機半導体層形成>
印刷用インキとして、ビストリイソプロピルシリルエチニルペンタセンをテトラリンに1質量%で溶解させたインキを用いた。アニロックスロールからインキング後、表面処理を施した印刷用版上で1分間乾燥させた後、ゲート絶縁膜およびソース・ドレイン電極上に転写して有機半導体層(25)を形成した。この結果、良好なトランジスタ特性を有する有機薄膜トランジスタが形成できた。
【実施例2】
【0038】
図3に示すように、樹脂として、感光性ナイロンに平均粒径50nmの酸化チタンを重量比が80:20となるように混合した材料を用い、印刷パターン形成後の金属酸化物層形成をしなかった以外は、実施例1と同様にして有機薄膜トランジスタを作成した。この結果、良好なトランジスタ特性を有する有機薄膜トランジスタが形成できた。
【実施例3】
【0039】
<印刷用版形成>
図1に示すように、支持体(10)として厚さ100μmのSUS304を用いた。支持体上に樹脂として感光性ナイロンを用い、厚さ150μmの樹脂層(11)を形成して原版とした。続いて図4に示すように、この原版を、フォトマスクを用いて露光、水により現像した後、70℃で30分間乾燥し、後露光をした。これにより、印刷パターンを有する印刷用版が形成された。続いて印刷用版の表面処理として、ラビング処理を行うことで表面処理層(13)を形成した。
<薄膜トランジスタ基板形成>
一方、図5に示すように、有機薄膜トランジスタ基板(20)として、ガラスを用いた。ゲート電極としてアルミニウムを100nm蒸着法により成膜、フォトリソグラフィーおよびエッチングによりゲート電極(21)を形成した。続いてゲート絶縁材料としてポリビニルフェノール(Aldrich製)を用い、スピンコート法により厚さ1μmのゲート絶縁膜(22)を形成した。次いでソース・ドレイン電極材料として金を用い、シャドーマスクを介した蒸着法により厚さ50nm成膜してソース・ドレイン電極(23)、(24)とした。
<有機半導体層形成>
印刷用インキとして、Lisicon SP200をテトラリンに1質量%で溶解させたインキを用いてアニロックスロールからインキング後、表面処理を施した印刷用版上で1分間乾燥させた後、ゲート絶縁膜およびソース・ドレイン電極上に転写して有機半導体層(25)を形成した。この結果、良好なトランジスタ特性を有する有機薄膜トランジスタが形成できた。
【符号の説明】
【0040】
10・・・支持体
11・・・樹脂
12・・・金属酸化物
13・・・表面処理層
20・・・薄膜トランジスタ基板
21・・・ゲート電極
22・・・ゲート絶縁膜
23・・・ソース電極
24・・・ドレイン電極
25・・・有機半導体層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも支持体と樹脂からなる印刷用版の製造方法において、前記印刷用版の印刷面の表面に自己組織化単分子膜を形成することを特徴とする印刷用版の製造方法。
【請求項2】
前記自己組織化単分子膜がヘキサメチルジシラザン、アルキルトリメトキシシラン、アルキルトリエトキシシラン、アルキルトリクロロシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリクロロシランのうち少なくとも1つからなることを特徴とする請求項1に記載の印刷用版の製造方法。
【請求項3】
少なくとも支持体と樹脂からなる印刷用版の製造方法において、前記印刷用版の印刷面の表面をラビング処理を用いて表面処理することを特徴とする印刷用版の製造方法。
【請求項4】
前記印刷用版が凸版、若しくはフレキソ版のいずれかであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の印刷用版の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の製造方法を用いて製造されたことを特徴とする印刷用版。
【請求項6】
前記印刷用版の前記樹脂中若しくは前記樹脂上のいずれか、又は両方に金属酸化物が含まれることを特徴とする請求項5に記載の印刷用版。
【請求項7】
前記支持体が金属であることを特徴とする請求項5または6に記載の印刷用版。
【請求項8】
請求項5乃至7のいずれか1項に記載の印刷用版を用いて形成されたことを特徴とする有機薄膜トランジスタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−64945(P2011−64945A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−215482(P2009−215482)
【出願日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】