説明

厚み方向にグラファイトが配向した熱伝導シート

【課題】シートの厚み方向に100W/mKを超える超高熱伝導率を示す材料でありながら、厚み方向に柔軟性を有しており、発熱体と放熱体との間に挟むことで接触熱抵抗を低減させることが可能な、高性能放熱シートを提供する。
【解決手段】厚み1mm以下のグラファイトフィルムを、粘着剤を介して厚み方向にグラファイトの結晶面が配向するように積層してなる、厚み5mm以下の、厚み方向グラファイト配向熱伝導シート。厚み1mm以下のグラファイトフィルムを、粘着剤を介して重ね合わせ又は巻き付けの手段により積層してなるグラファイト積層体を、グラファイトの結晶面に対して45°以上の角度をなす面にて5mm以下の厚みにカットしてなる、厚み方向に高熱伝導性を有する、厚み方向グラファイト配向熱伝導シートの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パソコン、携帯電話、PDAなどの機器の放熱に利用される熱伝導シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パソコン、携帯電話、PDAなどの電子機器の性能向上は著しく、それはCPU(MPU)の著しい性能向上によっている。この様なCPUの性能向上に伴い、CPUの発熱量も著しく増加し、電子機器における放熱をどの様に行うかが重要な課題になっている。
【0003】
熱対策としてはファンによる空冷やヒートパイプ、水を用いた水冷などの方法があるが、これらはいずれも新たな放熱のための装置を必要とし、機器の重量増加を招くだけでなく、騒音や使用電気量の増加などを招くと言う課題があるため、ヒートシンクなどの放熱体を用いて熱を逃がす方法が採用されることが多い。
【0004】
半導体素子や電子部品などの発熱体で発生する熱を、ヒートシンクなどの放熱体に効率よく伝熱することを目的に、シリコーンゴム等の柔軟な熱伝導性シートが使用されている。これらの熱伝導性シートには、熱伝導性を高めるために、銀、銅、金、アルミニウム、ニッケルなどの熱伝導率の大きい金属や合金、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素などのセラミックス、カーボンブラックやダイヤモンドなどの炭素、などを、粉粒体形状や繊維形状に加工した熱伝導性充填剤が配合されている。柔軟な放熱シートは、発熱体と放熱体との間に存在するわずかな隙間を埋め、熱抵抗を除去するための材料であるから、特にシートの厚み方向に高熱伝導性を有していることが好ましい。また高熱伝導性であると同時に、シートの表面硬度が低ければ低いほど、発熱体と放熱体とが密着するため熱をよく伝える効果が得られることから、シートの表面硬度をできる限り低くする必要がある。
【0005】
シートの厚み方向に高熱伝導性を付与するための試みとして特許文献1には、炭素繊維をシリコーンゴムの厚み方向に配向させることで、シートの厚み方向に高熱伝導性の異方性熱伝導率を有するシートが製造可能であることが示されている。このような方法でシートを製造すると、通常の製法で得られるシートよりも厚み方向に高熱伝導性を有するシートが得られる。しかしながら、炭素繊維を厚み方向に高密度充填してしまうと、シートの表面硬度が硬くなるため、発熱部材や放熱部材との密着性が低下し、熱抵抗が増大してしまう。このため炭素繊維を厚み方向に配向させたシートで得られるシート厚み方向の熱伝導率は、せいぜい50W/mKが上限であった。
【0006】
また特許文献2では、高分子フィルムを2400℃以上の高温にて処理することで得られるグラファイトフィルムを積層してグラファイトブロックとした後、ブロックをグラファイト面と垂直な方向に薄くカットすることで、厚み方向に超高熱伝導性を有するグラファイトプレートが得られることが示されている。しかしながらこのようにして得られる物質はシートというよりむしろプレートと呼ぶべき高硬度の物質であり、発熱体と放熱体との熱抵抗を減らすような効果は期待できない。
【特許文献1】特開2000−195998号公報
【特許文献2】特許第3345986号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、厚み方向に超高熱伝導性を有し、なおかつ表面硬度が低く柔軟な特性を有する、グラファイト製の柔軟な熱伝導性シートを提供する事を課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
我々は、上記の問題を解決するために、グラファイトフィルムと各種の粘着剤との複合化を試みた。その結果、本発明に記載するように適切な粘着剤を選定した上で、グラファイトフィルムを粘着剤にて積層して作成されたグラファイトブロックを、特定方向に薄くカットあるいはスライス加工することで、従来用いられて来たグラファイトブロック切削加工品とは異なり、厚み方向超高熱伝導性と、表面硬度が低く柔軟な特性とを両立させたグラファイト放熱シートを実現できる事を発見し、本発明を成すに至った。

すなわち本発明は、下記1)〜14)に関する。 1)厚み1mm以下のグラファイトフィルムを、粘着剤を介して厚み方向にグラファイトの結晶面が配向するように積層してなる、厚み5mm以下の、厚み方向グラファイト配向熱伝導シート。
【0009】
2)前記グラファイトフィルムにおけるフィルム面方向の熱伝導率が100W/mK以上であり、フィルム面に垂直方向の熱伝導率が50W/mK以下であることを特徴とする、1)に記載の厚み方向グラファイト配向熱伝導シート。
【0010】
3)原料のグラファイトフィルムが厚み400μm以下のフィルムであることを特徴とする、1)〜2)のいずれか1項に記載の厚み方向グラファイト配向熱伝導シート。
【0011】
4)前記グラファイトフィルムの面方向の熱伝導率が、600W/m・K以上であることを特徴とする、1)〜3)のいずれか1項に記載の厚み方向グラファイト配向熱伝導シート。
【0012】
5)前記グラファイトフィルムが、少なくともエキスパンド法によって膨張黒鉛を用いて作製されたものである事を特徴とする、1)〜4)のいずれか1項に記載の厚み方向グラファイト配向熱伝導シート。
【0013】
6)前記グラファイトフィルムが、ポリイミド樹脂、ポリパラフェニレンビニレン樹脂、ポリオキサジアゾール樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂の熱処理によって得られたものである事を特徴とする、1)〜5)のいずれか1項に記載の厚み方向グラファイト配向熱伝導シート。
【0014】
7)前記グラファイトフィルムの厚みが、100μm以下であることを特徴とする、1)〜6)のいずれか1項に記載の厚み方向グラファイト配向熱伝導シート。
【0015】
8)前記粘着剤層の厚みが、50μm以下であることを特徴とする、1)〜7)のいずれか1項に記載の厚み方向グラファイト配向熱伝導シート。
【0016】
9)前記粘着剤層が、アクリル系粘着剤及び/又はシリコーン系粘着剤を含む材料であることを特徴とする、1)〜8)のいずれか1項に記載の厚み方向グラファイト配向熱伝導シート。
【0017】
10)前記粘着剤層が、基材を含むことを特徴とする、1)〜9)のいずれか1項に記載の厚み方向グラファイト配向熱伝導シート。
【0018】
11)前記基材が、ポリイミド及び/又はポリエチレンテレフタレートを含むことを特徴とする、10)に記載の厚み方向グラファイト配向熱伝導シート。
【0019】
12)前記基材の厚みが、6μm以下であることを特徴とする、10)〜11)のいずれか1項に記載の厚み方向グラファイト配向熱伝導シート。
【0020】
13)下記工程(i)〜(ii)からなる厚み方向グラファイト配向熱伝導シートの製造方法。
(i)厚み1mm以下のグラファイトフィルムを、粘着剤を介して、重ね合わせ又は巻き付けの手段により積層し、グラファイトブロックを作成する工程
(ii)このブロックをグラファイトの結晶面に対して45°以上の角度をなす面にて、5mm以下の厚みにカットする工程
14)グラファイトブロックを作成する際に、重ね面に0.1MPa以上の圧力をかけることを特徴とする、13)に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明を用いることにより、厚み方向には銅などの高熱伝導性金属を上回る優れた熱伝導性を示しながら、表面は低硬度軟質で発熱体と放熱体との密着性に優れ、かつ金属などに比べ極めて軽量な熱伝導シートが得られることから、特に密着性が重要となる放熱材料に好適なものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
<グラファイトフィルム>
本発明で用いられるグラファイトフィルムは、グラファイトの結晶がフィルム面の方向に沿って並んでいる、厚み1mm以下のフィルム状グラファイトである。フィルム面方向の熱伝導率が100W/mK以上であり、フィルム面に垂直方向の熱伝導率が50W/mK以下である事が好ましい。フィルム面方向の熱伝導率が600W/mK以上であることがより好ましい。グラファイトの熱伝導度はグラファイト本来の構造に由来する熱伝導の異方性を有し、面方向の熱伝導度を高くするほど厚さ方向の熱伝導度は小さくなる。本発明の目的はグラファイトの熱拡散の異方性を利用するものであるから、本発明のグラファイトにとっては面方向の熱伝導度が大きい事は極めて重要である。この様な異方性を有するグラファイトフィルムの作製方法には代表的な2つの方法がある。
【0023】
本発明で好ましく用いられるグラファイトフィルムの第一の製法はグラファイト粉末をシート状に押し固めたグラファイトフィルムである。グラファイト粉末がフィルム状に成型されるためには粉末がフレーク状、あるいは鱗片状になっている必要がある。この様なグラファイト粉末の製造のための最も一般的な方法がエキスパンド(膨張黒鉛)法と呼ばれる方法である。これはグラファイトを硫酸などの酸に浸漬し、グラファイト層間化合物を作製し、しかる後にこれを熱処理、発泡させてグラファイト層間を剥離するものである。剥離後、グラファイト粉末を洗浄して酸を除去し薄膜のグラファイト粉末を得る。この様な方法で得られたグラファイト粉末をさらに圧延ロール成型してフィルム状のグラファイトを得る。この様な手法で得られた、膨張黒鉛を用いて作製されたグラファイトフィルムは柔軟性にとみ、フィルム面方向に高い熱伝導性を有するので本発明の目的に好ましく用いられる。
【0024】
本発明で好ましく用いられるグラファイトフィルムの第二の製造方法は、フィルム状グラファイトがポリイミド樹脂、ポリパラフェニレンビニレン樹脂、ポリオキサジアゾール樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂の熱処理によって作製されたものである。この方法で最も一般的に用いられる樹脂はポリイミド樹脂である。
【0025】
また、100〜200℃の範囲における平均線膨張係数が2.5×10−5cm/cm/℃以下であるフィルムを2400℃以上の温度で熱処理して作製されたグラファイトフィルムであることは優れた熱伝導性を実現する上で好ましい。
【0026】
また、複屈折が0.13以上であるポリイミドフィルムを2400℃以上の温度で熱処理してグラファイトフィルムを作製する事は優れた熱伝導性を実現する上で好ましい。
【0027】
無論、100〜200℃の範囲における平均線膨張係数が2.5×10−5cm/cm/℃以下であり、かつ、複屈折が0.13以上であるポリイミドフィルムを2400℃以上の温度で熱処理しグラファイトフィルムを作製する事は優れた熱伝導性を実現する上で好ましい。
【0028】
この様なグラファイト化に好ましく用いられるポリイミドとして、下記の
化学式(1)で表される繰り返し単位からなるポリイミド、化学式(2)で表される繰り返し単位からなるポリイミド、化学式(3)で表される繰り返し単位からなるポリイミド、などが挙げられる。
式(1)
【0029】
【化1】

【0030】
式(2)
【0031】
【化2】

【0032】
式(3)
【0033】
【化3】

【0034】
(Rは、式(4)
【0035】
【化4】

【0036】
からなる群から選択される2価の有機基である。Rはそれぞれ独立して、−CH、−Cl、−Br、−F、または−CHOである。Rは式(5)
【0037】
【化5】

【0038】
で表される2価の有機基である。ここでnは1〜3の整数、XおよびYはそれぞれ独立して、水素、ハロゲン、カルボキシル基、炭素数6以下の低級アルキル基、または炭素数6以下のアルコキシ基、そしてAは、−O−、−S−、−CO−、−SO−、または−CH−、である。)
式(3)で表される繰り返し単位の中でも、下記式(6)、式(7)で表される繰り返し単位が特に好ましい。
式(6)
【0039】
【化6】

【0040】

式(7)
【0041】
【化7】

【0042】
グラファイトフィルムを得るために用いられるポリイミド樹脂は、これらのうち1種類の繰り返し単位のみからなるポリイミドを用いてもよく、2種類以上の繰り返し単位の共重合体であってもよい。また、1種類のポリイミドからなるフィルムを単独で用いてもよく、2種類以上のポリイミドの混合物フィルムを用いてもよい。
【0043】
この様なグラファイト化に好ましく用いられるポリイミドは、上記、式(1)、(2)、(3)で表される繰り返し単位からなる群から選択される少なくとも2種以上の繰り返し単位を有するポリイミドの共重合体フィルム、あるいは、式(1)、式(2)、式(3)で表されるポリイミド共重合体からなる群からから選択される少なくとも2種以上のポリイミド共重合体の混合物フィルムであることが好ましく、また、上記式(1)、式(2)および上記式(6)、式(7)で表される繰り返し単位からなる群から選択される少なくとも3種以上の繰り返し単位を有するポリイミドの共重合体、あるいは、式(1)、式(2)、一般式(6)、一般式(7)で表されるポリイミド共重合体からなる群からから選択される少なくとも3種以上の混合物を含むポリイミド共重合体は本発明に用いるグラファイトを得るために特に好ましい。
【0044】
さらに、式(1)、(2)で表される繰り返し単位をもつポリイミド共重合体ポリイミドフィルムであって、4、4’−オキシジアニリンおよびパラフェニレンジアミンをモル比で9/1〜4/6の割合で含むジアミンを用いて得られるポリイミドフィルムも本発明に用いるグラファイトを得るために好ましく用いられる。中でも上記、ポリイミドが式(1)、(2)、(6)、(7)で表される繰り返し単位をもつポリイミド共重合体であって、それぞれの繰り返し単位の数を、a、b、c、dとし、a+b+c+dをsとしたとき、(a+b)/s、(a+c)/s、(b+d)/s、(c+d)/sが0.25〜0.75を満たすポリイミドフィルムである場合は好ましく用いられる。
【0045】
本発明に用いるグラファイトシートはこれらのポリイミドを2400℃以上の温度で熱処理して得ることが出来る。
【0046】
以上述べたポリイミドを用いる事により、100〜200℃の範囲における平均線膨張係数が2.5×10−5cm/cm/℃以下、好ましくは2.0×10−5cm/cm/℃以下、更に好ましくは1.5×10−5cm/cm/℃以下、であるポリイミドフィルムを得ることができる。フィルムの線膨張係数はTMA(熱機械分析装置)を用いて、まず試料を10℃/分の昇温速度で350℃まで昇温させたのち一旦室温まで空冷し、再度10℃/分の昇温速度で350℃まで昇温させ、2回目の昇温時から100℃〜200℃の平均線膨張係数とした。また更にフィルムの弾性率については、200kg/mm、以上であり、更には250kg/mm、以上、より好ましくは350kg/mm、以上である事が好ましい。また、本発明に用いられるポリイミドフィルムは、面内配向性を示す複屈折Δnがフィルム面内のどの方向においても0.13以上、好ましくは0.15以上、最も好ましくは0.16以上であることが好ましい。ここでいう複屈折とはフィルム面内方向の屈折率と厚み方向の屈折率の差であり、本明細書においてはフィルム面内X方向の複屈折Δnxは下式で与えられる。
複屈折Δnx=(面内X方向の屈折率Nx)−(厚み方向の屈折率Nz)
具体的測定方法を説明すると、フィルム試料をくさび形に切り出してナトリウム光をフィルム面内のX方向に垂直な方向から当て、偏光顕微鏡で観察すると干渉縞がみられる。この干渉縞の数をnとすると、フィルム面内X方向の複屈折Δnxは、
Δn=n×λ/d
で表される。ここで、λはナトリウム光の波長589nm、dは試料の巾(nm)である。詳しくは「新実験化学講座」第19巻(丸善(株))などに記載されている。
【0047】
なお、前記した「複屈折Δnがフィルム面内のどの方向においても」とは、例えばフィルム製膜時の流れ方向を基準として、面内の0゜方向、45゜方向、90゜方向、135゜方向のどの方向においても、の意味である。
【0048】
<ポリイミドフィルムの作製方法>
本発明で用いられるポリイミドフィルムは、ポリイミド前駆体であるポリアミド酸の有機溶液をイミド化促進剤と混合した後、エンドレスベルトまたはステンレスドラムなどの支持体上に流延し、それを乾燥および焼成してイミド化させることにより製造され得る。
【0049】
本発明に用いられるポリアミド酸の製造方法としては公知の方法を用いることができ、通常は、芳香族酸二無水物の少なくとも1種とジアミンの少なくとも1種が実質的に等モル量で有機溶媒中に溶解させられる。そして、得られた有機溶液は酸二無水物とジアミンの重合が完了するまで制御された温度条件下で攪拌され、これによってポリアミド酸が製造され得る。このようなポリアミド酸溶液は、通常は5〜35wt%、好ましくは10〜30wt%の濃度で得られる。この範囲の濃度である場合に、適当な分子量と溶液粘度を得ることができる。
【0050】
重合方法としてはあらゆる公知の方法を用いることができるが、例えば次のような重合方法<1>−<5>が好ましい。
【0051】
<1>芳香族ジアミンを有機極性溶媒中に溶解し、これと実質的に等モルの芳香族テトラカルボン酸二無水物を反応させて重合する方法。
【0052】
<2>芳香族テトラカルボン酸二無水物とこれに対して過小モル量の芳香族ジアミン化合物とを有機極性溶媒中で反応させ、両末端に酸無水物基を有するプレポリマを得る。続いて、芳香族テトラカルボン酸二無水物に対して実質的に等モルになるように芳香族ジアミン化合物を用いて重合させる方法。
これは、ジアミンと酸二無水物を用いて前記酸二無水物を両末端に有するプレポリマを合成し、前記プレポリマに前記とは異なるジアミンを反応させてポリアミド酸を合成する方法と同様である。
【0053】
<3>芳香族テトラカルボン酸二無水物とこれに対し過剰モル量の芳香族ジアミン化合物とを有機極性溶媒中で反応させ、両末端にアミノ基を有するプレポリマを得る。続いて、このプレポリマに芳香族ジアミン化合物を追加添加後に、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミン化合物が実質的に等モルとなるように芳香族テトラカルボン酸二無水物を用いて重合する方法。
【0054】
<4>芳香族テトラカルボン酸二無水物を有機極性溶媒中に溶解および/または分散させた後に、その酸二無水物に対して実質的に等モルになるように芳香族ジアミン化合物を用いて重合させる方法。
【0055】
<5>実質的に等モルの芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンの混合物を有機極性溶媒中で反応させて重合する方法。
【0056】
本発明においてポリイミドの合成に用いられ得る酸二無水物は、ピロメリット酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、オキシジフタル酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、エチレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、ビスフェノールAビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、およびそれらの類似物を含み、それらを単独でまたは任意の割合の混合物で用いることができる。
【0057】
本発明においてポリイミドの合成に用いられ得るジアミンとしては、4,4’−オキシジアニリン、p−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、ベンジジン、3,3’−ジクロロベンジジン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(4,4’−オキシジアニリン)、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル(3,3’−オキシジアニリン)、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル(3,4’−オキシジアニリン)、1,5−ジアミノナフタレン、4,4’−ジアミノジフェニルジエチルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルエチルホスフィンオキシド、4,4’−ジアミノジフェニルN−メチルアミン、4,4’−ジアミノジフェニル N−フェニルアミン、1,4−ジアミノベンゼン(p−フェニレンジアミン)、1,3−ジアミノベンゼン、1,2−ジアミノベンゼンおよびそれらの類似物を含み、それらを単独でまたは任意の割合の混合物で用いることができる。
【0058】
特に、線膨張係数を小さくして弾性率を高くかつ複屈折を大きくし得るという観点から、本発明におけるポリイミドフィルムの製造では、前記化学式(3)で表される繰り返し単位を形成するような酸二無水物を原料に用いることが好ましい。
【0059】
上述の、前記化学式(3)で表される繰り返し単位を形成するような酸二無水物を用いることによって比較的低吸水率のポリイミドフィルムが得られ、このことはグラファイト化過程において水分による発泡を防止し得るという観点からも好ましい。
【0060】
特に、上記繰り返し単位を形成する酸二無水物における化学式(3)のRとして式(4)に示されているようなベンゼン核を含む有機基を使用すれば、得られるポリイミドフィルムの分子配向性が高くなり、線膨張係数が小さく、弾性率が大きく、複屈折が高く、さらには吸水率が低くなるという観点から好ましい。
【0061】
さらに線膨張係数を小さく、弾性率を高く、複屈折を大きく、吸水率を小さくするためには、本発明におけるポリイミドの合成には、前記化学式(6)や前記化学式(7)で表される繰り返し単位を形成されるような酸二無水物を原料に用いればよい。
【0062】
特に、2つ以上のエステル結合でベンゼン環が直線状に結合された構造を有する酸二無水物を原料に用いて得られるポリイミドフィルムは、屈曲鎖を含むけれども全体として非常に直線的なコンフォメーションをとりやすく、比較的剛直な性質を有する。その結果、この原料を用いることによってポリイミドフィルムの線膨張係数を小さくすることができ、例えば1.5×10−5/cm/cm/℃以下にすることができる。
【0063】
さらに線膨張係数を小さく、弾性率を高く、複屈折を大きくするためには、本発明におけるポリイミドは、p−フェニレンジアミンを原料に用いて合成されることが好ましい。
【0064】
中でも好ましいジアミンは4,4’−オキシジアニリンとp−フェニレンジアミンであり、これらの単独または2者の合計モルが全ジアミンに対して40モル%以上、さらには50モル%以上、さらには70モル%以上、またさらには80モル%以上であることが好ましい。さらに、p−フェニレンジアミンが10モル%以上、さらには20モル%以上、さらには30モル%以上、またさらには40モル%以上を含むことが好ましい。これらのジアミンの含有量がこれらのモル%範囲の下限値未満になれば、得られるポリイミドフィルムの線膨張係数が大きく、弾性率が小さく、複屈折が小さくなる傾向になる。但し、ジアミンの全量をp−フェニレンジアミンにすると、発泡の少ない厚みの厚いポリイミドフィルムを得るのが難しくなるため、4,4’−オキシジアニリンを使用するのが良い。また炭素比率が減り、分解ガスの発生量を減らすことができ、芳香環の再配列の必要が減り、外観、熱伝導性に優れたグラファイトを得ることができる。
【0065】
本発明においてポリイミドフィルムの合成に用いられる最も適当な酸二無水物はピロメリット酸二無水物および/または式(7)で表される繰り返し単位を形成するp−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸二無水物)であり、これらの単独または2者の合計モルが全酸二無水物に対して40モル%以上、さらには50モル%以上、さらには70モル%以上、またさらには80モル%以上であることが好ましい。これら酸二無水物の使用量が40モル%未満であれば、得られるポリイミドフィルムの線膨張係数が大きく、弾性率が小さく、複屈折が小さくなる傾向になる。
【0066】
また、ポリイミドフィルム、ポリアミド酸、ポリイミド樹脂に対して、カーボンブラック、グラファイト等の添加剤を添加しても良い。
ポリアミド酸を合成するための好ましい溶媒は、アミド系溶媒であるN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンなどであり、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドが特に好ましく用いられ得る。
【0067】
次に、ポリイミドの製造方法には、前駆体であるポリアミド酸を加熱でイミド転化する熱キュア法、またはポリアミド酸に無水酢酸等の酸無水物に代表される脱水剤やピコリン、キノリン、イソキノリン、ピリジン等の第3級アミン類をイミド化促進剤として用いてイミド転化するケミカルキュア法のいずれを用いてもよい。中でも、イソキノリンのように沸点の高いものほど好ましい。というのは、フィルム作製中の初期段階では蒸発せず、乾燥の最後の過程まで、触媒効果が発揮されやすいため好ましい。特に、得られるフィルムの線膨張係数が小さく、弾性率が高く、複屈折が大きくなりやすく、また比較的低温で迅速なグラファイト化が可能で、品質のよいグラファイトを得ることができるという観点からケミカルキュアの方が好ましい。特に、脱水剤とイミド化促進剤を併用することは、得られるフィルムの線膨張係数が小さく、弾性率が大きく、複屈折が大きくなり得るので好ましい。また、ケミカルキュア法は、イミド化反応がより速く進行するので加熱処理においてイミド化反応を短時間で完結させることができ、生産性に優れた工業的に有利な方法である。
【0068】
具体的なケミカルキュアによるフィルムの製造においては、まずポリアミド酸溶液に化学量論以上の脱水剤と触媒からなるイミド化促進剤を加えて、支持板、PET等の有機フィルム、ドラム、またはエンドレスベルト等の支持体上に流延または塗布して膜状にし、有機溶媒を蒸発させることによって自己支持性を有する膜を得る。次いで、この自己支持性膜をさらに加熱して乾燥させつつイミド化させてポリイミド膜を得る。この加熱の際の温度は、150℃から550℃の範囲内にあることが好ましい。加熱の際の昇温速度には特に制限はないが、連続的もしくは段階的に、徐々に加熱して最高温度がその所定温度範囲内になるようにするのが好ましい。加熱時間はフィルム厚みや最高温度によって異なるが、一般的には最高温度に達してから10秒から10分の範囲が好ましい。さらに、ポリイミドフィルムの製造工程中に、収縮を防止するためにフィルムを容器に接触させたり固定・保持したり延伸したりする工程を含めば、得られるフィルムの線膨張係数が小さく、弾性率が高く、複屈折が大きくなりやすい傾向にあるので好ましい。
【0069】
<ポリイミドのグラファイト化>
次に、ポリイミドフィルムのグラファイト化のプロセスについて述べる。
本発明では出発物質であるポリイミドフィルムを窒素ガス中で予備加熱し、炭素化を行う。予備加熱は通常1000℃程度の温度で行い、例えば、10℃/分昇温速度で予備処理を行った場合には1000℃の温度領域で30分程度の保持を行う事が望ましい。予備処理の段階では出発高分子フィルムの配向性が失われない様に、フィルムの破壊が起きない程度の面方向の圧力を加える事が有効である。
【0070】
次に、上記の方法で炭素化されたフィルムを自由に伸び縮み出来るように超高温炉内にセットし、グラファイトを行う。グラファイト化は不活性ガス中で行うが不活性ガスとしてはアルゴンが最も適当であり、アルゴンに少量のヘリウムを加えるとさらに好ましい。処理温度は最低でも2400℃以上が必要で、最終的には2700℃以上の温度で処理する事、より好ましくは2800℃以上が好ましい。
【0071】
処理温度は高ければ高いほど良質のグラファイトに転化出来るが、経済性の面からは出来るだけ低温で良質のグラファイトに転化できる事が好ましい。2500℃以上の超高温を作り出すには、通常グラファイトヒーターに直接電流を流し、そのジュ−ル熱を利用して加熱を行う。グラファイト化は前処理で作製した炭素化フィルムをグラファイト構造に転化する事によって起きるが、その際には炭素−炭素結合の開裂・再結合化が起きなくてはならない。グラファイト化をスムーズに起こすためには、その開裂・再結合が最小のエネルギーで起こる様にする必要があり、出発ポリイミドフィルムの分子配向は炭素化フィルムの炭素の配列に影響を与え、それはグラファイト化の際の炭素−炭素結合の開裂・再結合化のエネルギーを少なくする効果を持つ。従って分子が配向するように分子設計を行い、高度な配向を実現することで低温でのグラファイト化と良質のグラファイトフィルムへの転化が可能になる。
【0072】
<グラファイトフィルムの厚み>
本発明の製造方法で作製されるグラファイトフィルムの厚みは1mm以下であることが必要である。好ましくは400μm以下、より好ましくは100μm以下、さらに好ましくは75μm以下、最も好ましくは50μm以下である。グラファイトフィルムの厚みが薄くなるほど、カットあるいはスライスした後のシートの表面硬度を低く保つことができるため好ましい。またグラファイトフィルムの元の厚みが薄いほど、フィルムの結晶配向性が高まり、フィルムの面方向熱伝導率が向上するため好ましい。
【0073】
<粘着剤層>
粘着剤層の材料としては、アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤等が挙げられ、これら材料は、耐熱性に優れ、発熱部品や放熱部品と複合化して使用した場合にも、十分な長期信頼性が得られる。またこれら粘着剤を用いることにより、最終的に得られる厚み方向グラファイト配向熱伝導シートの表面硬度を低く保つことができる。
【0074】
粘着剤層の厚みは、好ましくは50μm以下、より好ましくは35μm以下、さらに好ましくは15μm以下である。厚みが50μmより厚くなると、グラファイトフィルムと複合した際に、グラファイトフィルムが有する優れた熱伝導性を発揮することが困難となる。また、粘着剤層の厚みは、10μm以上であるとよい。10μm未満であると、カットあるいはスライス加工する場合に十分な粘着性を保持することが出来ず、厚み方向グラファイト配向熱伝導シートの長期信頼性を低下させる原因となる場合がある。
【0075】
また粘着剤層は、基材を含む材料であることが好ましい。基材を含むことにより、接着操作が容易となる。特に非常に結晶性や熱拡散性が優れたグラファイトフィルムを使用する場合においては、フィルムが層状に剥離しやすい場合があるが、基材がある事により、剥離性を改善することが可能となる。また基材がある事により、厚み方向グラファイト配向熱伝導シートの強度が増し、取り付け時、機械的にカシメて固定する時やリワーク時に厚み方向グラファイト配向熱伝導シートが傷つくのを防止することが可能となる。
【0076】
粘着剤層の基材としては、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレートを含む材料であると良い。ポリイミド、ポリエチレンテレフタレートは、耐熱性、強度、寸法安定性に優れ、複合した際に、熱伝導性を落とすことなく、またブロックをカットあるいはスライス加工する際の剥離防止性や傷つき防止性にも優れる。また、基材の厚みは、6μm以下であると良い。基材の厚みが薄いと、グラファイトフィルムが有する優れた熱拡散性を損なうことなく積層することが可能となる。
【0077】
これら粘着剤層は、グラファイトフィルムに塗布、印刷、浸漬、蒸着等により直接形成しても良いし、ラミネートを使用して転写して形成しても良い。粘着剤層の形成にはディップやロールによる塗布法、フィルム状の粘着剤をグラファイトフィルムに貼り付ける方法、基材となる高分子薄膜の両面に粘着剤と付した後、テープのようにグラファイトフィルムに貼り付ける方法、等があり、いずれも好ましく用いる事が出来る。
【0078】
<グラファイトフィルムの粘着剤による積層化>
前記のようにしてグラファイトフィルムに粘着剤層を設けた後、フィルムを重ねあわせ、巻きつけ、等の手段によりフィルムを厚く積層させることで、グラファイトフィルムが任意方向に配向した積層ブロックを得ることができる。このとき重ね合わせなどの方法でグラファイトフィルムを積層させると、二軸方向にグラファイト結晶が配向したブロックを得ることができる(図1)。巻きつけなどの方法でグラファイトフィルムを積層させると、一軸方向にグラファイト結晶が配向したブロックを得ることができる(図2)。
【0079】
得られたブロックから、カットあるいはスライスなどの方法により加工してシートを得る際には、グラファイトの任意の配向面に対して、45°以上の角度をなす面でカットあるいはスライスすることにより、厚み方向に対してより熱が伝わりやすい、厚み方向グラファイト配向熱伝導シートを得ることができる。グラファイトの任意の配向面と、カットあるいはスライスする面とのなす角度は、好ましくは50°以上、より好ましくは60°以上、さらに好ましくは70°以上、最も好ましくは80°以上である。
【0080】
グラファイトブロックが二軸方向している場合には、2方向に熱を伝えやすいシートが得られ、グラファイトブロックが一軸方向している場合には、1方向にのみ熱を伝えやすいシートが得られるが、これらは必要な特性に応じて使い分けることができる。一般的には、シートの柔軟性がより要求されるような用途には、二軸配向ブロックを用いるほうが好ましく、シートの強度が要求されるような用途には一軸配向ブロックを用いる方が好ましい。
【0081】
グラファイトブロックを作成する際には、重ね面に0.1MPa以上の圧力をかけることが好ましい。圧力下で作成することにより、各グラファイトフィルムの層間における密着性が向上し、グラファイトブロックのカットあるいはスライス加工した際の剥離を防止することができる。重ね面に付与する圧力は、より好ましくは0.2MPa以上、最も好ましくは0.5MPa以上である。
【0082】
<グラファイトブロックのカットあるいはスライス加工>
二軸配向あるいは一軸配向したグラファイトブロックから、厚み方向グラファイト配向熱伝導シートを得るための加工方法には特に限定は無く、種々の切削加工方法やスライス加工方法を用いることが可能である。例えばカッターを用いてブロックをカットしたり、レーザー加工にてシートを切り出したり、スライス加工にてシートをスライスしたりする方法を例示することができる。
【0083】
これら加工の際には、元のグラファイトフィルムの層内で剥離が生じることがあるので、剥離が生じないよう加工条件を適宜コントロールすることが好ましい。
【0084】
<厚み方向グラファイト配向熱伝導シートの特性>
このようにして得られた厚み方向グラファイト配向熱伝導シートは、厚み方向に対する熱伝導率が一般的には50W/mK以上、好ましくは100W/mK以上、より好ましくは200W/mK以上、最も好ましくは300W/mK以上、の熱伝導率を有する。
【0085】
発熱体と放熱体との間の熱抵抗を減らすためには、厚み方向グラファイト配向シートの厚みは5mm以下であることが必要である。シートの厚みは好ましくは4mm以下、より好ましくは3mm以下、さらに好ましくは2mm以下、最も好ましくは1mm以下である。
【0086】
また発熱体と放熱体との間の熱抵抗を減らすためには、厚み方向グラファイト配向シートの表面硬度は柔らかいほど好ましい。DuroEで測定される表面硬度は、好ましくは85以下、より好ましくは80以下、さらに好ましくは75以下、最も好ましくは70以下である。
【実施例】
【0087】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
測定は下記の通り実施した。
【0088】
(ポリイミドフィルムの面方向熱伝導率測定)
アルバック(株)製レーザーピットにて面方向の熱拡散率を測定した。またグラファイトフィルムの熱容量を熱容量が既知である参照標準物質Moとの比較から算出した。これらの測定値から、次式により面方向熱伝導率を算出した。
【0089】
〔熱伝導率〕=〔熱拡散率〕×〔密度〕×〔比熱〕
(ポリイミドフィルムの厚み方向熱伝導率測定)
グラファイトフィルムの厚み方向熱伝導率測定には、JIS R1611−1997に準拠した京都電子工業(株)製のLFA−502を用いた。グラファイトフィルムを直径10mmにカットし、このフィルム両表面にレーザー光吸収用スプレー(ファインケミカルジャパン(株)製ブラックガードスプレーFC−153)を塗布し乾燥させた後、室温でレーザーフラッシュ法による厚み方向の熱拡散率測定を行った。またグラファイトフィルムの熱容量を熱容量が既知である参照標準物質Moとの比較から算出した。これらの測定値から、次式により面方向熱伝導率を算出した。
【0090】
〔熱伝導率〕=〔熱拡散率〕×〔密度〕×〔比熱〕
(ポリイミドフィルムAの作製方法)
4,4’−オキシジアニリンの1当量を溶解したDMF(ジメチルホルムアミド)溶液に、ビロメリット酸二無水物の1当量を溶解してポリアミド酸溶液(18.5wt%)を得た。
【0091】
この溶液を冷却しながら、ポリアミド酸に含まれるカルボン酸基に対して、1当量の無水酢酸、1当量のイソキノリン、およびDMFを含むイミド化触媒を添加し脱泡した。次にこの混合溶液が、乾燥後に所定の厚さになるようにアルミ箔上に塗布された。アルミ箔上の混合溶液層は、熱風オーブン、遠赤外線ヒーターを用いて乾燥された。
【0092】
出来上がり厚みが75μmの場合におけるフィルム作製用の乾燥条件を示す。アルミ箔上の混合溶液層は、熱風オーブンで120℃において240秒乾燥されて、自己支持性を有するゲルフィルムにされた。そのゲルフィルムはアルミ箔から引き剥がされ、フレームに固定された。さらに、ゲルフィルムは、熱風オーブンにて120℃で30秒、275℃で40秒、400℃で43秒、450℃で50秒、および遠赤外線ヒーターにて460℃で23秒段階的に加熱されて乾燥された。
【0093】
以上のようにして、厚さ75μmのポリイミドフィルム(ポリイミドフィルムA:弾性率3.1GPa、吸水率2.5%、複屈折0.10、線膨張係数3.0×10−5/℃)が製造された。なお、その他厚みのフィルムを作製する場合には、厚みに比例して焼成時間が調整された。例えば厚さ225μmのフィルムの場合には、75μmの場合よりも焼成時間を3倍に設定した。また、厚みが厚い場合には、ポリイミドフィルムの溶媒やイミド化触媒蒸発による発泡を防ぐために低温での焼成時間を十分とる必要がある。
【0094】
(炭素化フィルムAの作製方法)
厚さ75μmのポリイミドフィルムAを黒鉛板に挟み、電気炉を用いて窒素雰囲気下で、1000℃まで昇温された後、1000℃で1時間熱処理して炭化処理(炭素化処理)が行われた。この炭素化フィルムを炭素化フィルムAとする。
【0095】
(炭素化フィルムBの作製方法)
厚さ175μmのポリイミドフィルムAを黒鉛板に挟み、電気炉を用いて窒素雰囲気下で、1000℃まで昇温された後、1000℃で1時間熱処理して炭化処理(炭素化処理)が行われた。この炭素化フィルムを炭素化フィルムBとする。
【0096】
(グラファイトフィルムAの作製方法)
炭素化処理により得られた炭素化フィルムA(400cm2(縦200mm×横200mm)、を、縦270mm×横270mm×厚み3mmの板状の平滑なグラファイトで上下から挟み、縦300mm×横300mm×厚み60mmの黒鉛容器内に保持し、3000℃まで加熱して得られた熱処理後のグラファイトを、単板プレスの方法で圧縮することで、グラファイトフィルムAを得た。測定の結果、厚み40μm、面方向熱伝導率1300W/mK、厚み方向熱伝導率6.8W/mK、密度2.0g/cmであった。
【0097】
(グラファイトフィルムBの作製方法)
炭素化処理により得られた炭素化フィルムBに硝酸鉄の10wt%メタノール溶液を塗布した後、黒鉛板に挟み、黒鉛容器にセットした以外はグラファイトフィルムAと同様にしてグラファイトフィルムBを得た。測定の結果、厚み85μm、面方向熱伝導率850W/mK、厚み方向熱伝導率5.3W/mK、密度2.0g/cmであった。
【0098】
(グラファイトフィルムC)
ポリイミドフィルムの高温処理により製造された、松下電器産業(株)製のPGSグラファイトシート「EYGS182310」である。測定の結果、厚み80μm、面方向熱伝導率740W/mK、厚み方向熱伝導率5.3W/mK、密度2.0g/cmであった。
【0099】
(グラファイトフィルムD)
エキスパンド法にて製造された、ジャパンマテックス(株)製の膨張黒鉛ガスケットM/#8100ClaasBである。測定の結果、厚み250μm、面方向熱伝導率190W/mK、厚み方向熱伝導率7.4W/mK、密度1.0g/cmであった。
【0100】
(実施例1)
200mm×300mmサイズのグラファイトフィルム−Aの片面に、アクリル系両面テープ1(寺岡製作所(株)707:アクリル系13μm/PET4μm/アクリル系13μm)をラミネーターで貼り合せた。得られた粘着剤付きグラファイトフィルムを3000枚積層させ、プレス機により0.5MPaの圧力を1分間付与することにより、200mm×300mm×210mmの二軸方向にグラファイト結晶が配向したグラファイトブロックを作成した(図1)。
得られたブロックを、グラファイトの結晶面に対して90°となる角度で、チップソーを用いて厚み1mmとなるようカットし、200mm×210mm×厚み1mmの厚み方向グラファイト配向熱伝導シート1を得た。
【0101】
(実施例2)
グラファイトフィルム−Aの代わりにグラファイトフィルム−Bを用いた以外は実施例1と同様にして、厚み方向グラファイト配向熱伝導シート2を得た。
【0102】
(実施例3)
グラファイトフィルム−Aの代わりにグラファイトフィルム−Cを用いた以外は実施例1と同様にして、厚み方向グラファイト配向熱伝導シート3を得た。
【0103】
(実施例4)
グラファイトフィルム−Aの代わりにグラファイトフィルム−Dを用いた以外は実施例1と同様にして、厚み方向グラファイト配向熱伝導シート4を得た。
【0104】
(実施例5)
得られたブロックを、グラファイトの結晶面に対して60°となる角度で、チップソーを用いて厚み1mmとなるようカットした以外は実施例1と同様にして、厚み方向グラファイト配向熱伝導シート5を得た。
【0105】
(実施例6)
200mm×300mmサイズのグラファイトフィルム−Aの片面に、アクリル系両面テープ1(寺岡製作所(株)707:アクリル系13μm/PET4μm/アクリル系13μm)をラミネーターで貼り合せた。得られた粘着剤付きグラファイトフィルムをロール状に巻きつけて張り合わせていく方法で積層させることにより、300mm×100mmφの一軸方向にグラファイト結晶が配向したグラファイト円柱ブロックを作成した。(図2)
得られたブロックを、グラファイトの結晶面に対して90°となる角度で、チップソーを用いて厚み1mmとなるようカットし、厚み方向グラファイト配向熱伝導シート6を得た。
【0106】
(実施例7)
200mm×300mmサイズのグラファイトフィルム−Aの片面に、アクリル系両面テープ1(寺岡製作所(株)707:アクリル系13μm/PET4μm/アクリル系13μm)をラミネーターで貼り合せた。得られた粘着剤付きグラファイトフィルムを同一方向に任意形状に折り曲げながら、箱型に押し込んで張り合わせていく方法で積層させ、プレス機により0.5MPaの圧力を1分間付与することにより、300mm×100mm×100mmの一軸方向にグラファイト結晶が配向したグラファイト直方体ブロックを作成した(図3)。
【0107】
得られたブロックを、グラファイトの結晶面に対して90°となる角度で、チップソーを用いて厚み1mmとなるようカットし、厚み方向グラファイト配向熱伝導シート7を得た。
【0108】
(比較例1)
200mm×300mmサイズのグラファイトフィルム−Aの片面に、アクリル系両面テープ1(寺岡製作所(株)707:アクリル系13μm/PET4μm/アクリル系13μm)をラミネーターで貼り合せた。得られた粘着剤付きグラファイトフィルムを14枚積層させ、最後に1枚200mm×300mmサイズのグラファイトフィルム−Aをもう一枚積層した後、プレス機により0.5MPaの圧力を1分間付与することにより、200mm×300mm×厚み1mmの面方向グラファイト配向熱伝導シート11を得た。
【0109】
(比較例2)
グラファイトフィルムの積層に接着剤であるアクリル系両面テープ1を用いず、かわりに厚み30μmの熱可塑性ポリエチレンフィルムを用い、180℃に加熱されたプレス機により0.5MPaの圧力を1分間付与することによりグラファイトブロックを作成した以外は実施例1と同様にして、厚み方向グラファイト配向熱伝導シート12を得た。
【0110】
(比較例3)
市販の膨張黒鉛粉末である、BSP−80(中越黒鉛工業所製)を箱型金型に充填し、プレス加工することにより、グラファイト粉末がほぼランダムに配向した50mm角のグラファイトブロックを作成した。このグラファイトブロックを、チップソーを用いて厚み1mmとなるようカットし、50mm×50mm×厚み1mmのグラファイトシート13を得た。
【0111】
[シートの熱伝導率]
得られたグラファイトシートから12.7mmφの円板状サンプルを切り出し、サンプル表面にレーザー光吸収用スプレー(ファインケミカルジャパン(株)製ブラックガードスプレーFC−153)を塗布し乾燥させた後、XeフラッシュアナライザーであるNETZSCH製LFA447Nanoflashを用い、厚み方向の熱拡散率を測定した。またグラファイトフィルムの熱容量を熱容量が既知である参照標準物質Moとの比較から算出した。これらの測定値から、次式により厚み方向熱伝導率を算出した。
【0112】
〔熱伝導率〕=〔熱拡散率〕×〔密度〕×〔比熱〕
[表面硬度]
JIS K−6253に準じ、デュロメーター硬度タイプEを、アスカーゴム硬度計E型を使用し、23℃×50%RHで測定した。
実施例及び比較例のシートの諸物性を、表1に示す。
【0113】
【表1】

【0114】
表に示すように、実施例で得られる厚み方向グラファイト配向熱伝導シートは、厚み方向に超高熱伝導性を有していながら、表面硬度が低く保たれており、発熱体と放熱体との熱伝達用途に最適であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明の厚み方向グラファイト配向熱伝導シートは、厚み方向に金属を上回るほどの高熱伝導性を有していながら、金属などと比べ表面硬度が低く、かつ低密度である。従って、電子機器など発熱が激しい機器の放熱用途に最適であり、産業上有用である。また低密度であることから携帯機器の軽量化にもおおいに貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】二軸方向にグラファイトフィルムの結晶が配向したブロックの模式図である。
【図2】一軸方向にグラファイトフィルムの結晶が配向したブロックの模式図である。
【図3】一軸方向にグラファイトフィルムの結晶が配向したブロックの模式図である。
【符号の説明】
【0117】
1 グラファイトフィルム層
2 粘着剤層
3 粘着剤を塗布したグラファイトフィルム
4 箱型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚み1mm以下のグラファイトフィルムを、粘着剤を介して厚み方向にグラファイトの結晶面が配向するように積層してなる、厚み5mm以下の、厚み方向グラファイト配向熱伝導シート。
【請求項2】
前記グラファイトフィルムにおけるフィルム面方向の熱伝導率が100W/mK以上であり、フィルム面に垂直方向の熱伝導率が50W/mK以下であることを特徴とする、請求項1に記載の厚み方向グラファイト配向熱伝導シート。
【請求項3】
原料のグラファイトフィルムが厚み400μm以下のフィルムであることを特徴とする、請求項1〜2のいずれか1項に記載の厚み方向グラファイト配向熱伝導シート。
【請求項4】
前記グラファイトフィルムの面方向の熱伝導率が、600W/m・K以上であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の厚み方向グラファイト配向熱伝導シート。
【請求項5】
前記グラファイトフィルムが、少なくともエキスパンド法によって膨張黒鉛を用いて作製されたものである事を特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の厚み方向グラファイト配向熱伝導シート。
【請求項6】
前記グラファイトフィルムが、ポリイミド樹脂、ポリパラフェニレンビニレン樹脂、ポリオキサジアゾール樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂の熱処理によって得られたものである事を特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の厚み方向グラファイト配向熱伝導シート。
【請求項7】
前記グラファイトフィルムの厚みが、100μm以下であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の厚み方向グラファイト配向熱伝導シート。
【請求項8】
前記粘着剤層の厚みが、50μm以下であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の厚み方向グラファイト配向熱伝導シート。
【請求項9】
前記粘着剤層が、アクリル系粘着剤及び/又はシリコーン系粘着剤を含む材料であることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の厚み方向グラファイト配向熱伝導シート。
【請求項10】
前記粘着剤層が、基材を含むことを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載の厚み方向グラファイト配向熱伝導シート。
【請求項11】
前記基材が、ポリイミド及び/又はポリエチレンテレフタレートを含むことを特徴とする、請求項10に記載の厚み方向グラファイト配向熱伝導シート。
【請求項12】
前記基材の厚みが、6μm以下であることを特徴とする、請求項10〜11のいずれか1項に記載の厚み方向グラファイト配向熱伝導シート。
【請求項13】
下記工程(i)〜(ii)からなる厚み方向グラファイト配向熱伝導シートの製造方法。
(i)厚み1mm以下のグラファイトフィルムを、粘着剤を介して、重ね合わせ又は巻き付けの手段により積層し、グラファイトブロックを作成する工程
(ii)このブロックをグラファイトの結晶面に対して45°以上の角度をなす面にて、5mm以下の厚みにカットする工程
【請求項14】
グラファイトブロックを作成する際に、重ね面に0.1MPa以上の圧力をかけることを特徴とする、請求項13に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−295921(P2009−295921A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−150672(P2008−150672)
【出願日】平成20年6月9日(2008.6.9)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】