説明

可とう性成形型、その製造方法及び微細構造体の製造方法

本発明は、成形技術に関する。さらに詳しく述べると、本発明は、可とう性成形型と、その製造方法と、微細構造体の製造方法とに関する。本発明は、例えばプラズマディスプレイパネルの背面板のバリアリブのような種々の微細構造体の製造に利用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形技術に関する。さらに詳しく述べると、本発明は、可とう性成形型、その製造方法及び微細構造体の製造方法に関する。本発明は、各種の微細構造体の製造に有利に使用することができ、かつプラズマディスプレイパネル用背面板のリブの製造にとりわけ有利に使用することができる。
【背景技術】
【0002】
周知の通り、近年、薄型かつ軽量のフラットパネルディスプレイが次世代の表示装置として注目されている。代表的なフラットパネルディスプレイの一つは液晶ディスプレイ(LCD)で、他方のそれは、プラズマディスプレイパネル(PDP)である。PDPは、薄型で大画面の表示が可能であることを特徴とする。よって、PDPは、業務用でまた最近は家庭用で壁掛けテレビとして使用され始めている。
【0003】
PDPは、通常、多数個の微細な放電表示セルを含んでいる。それぞれの放電表示セル56は、図1に模式的に示すように、離隔対向した一対のガラス基板、すなわち、前面ガラス基板61及び背面ガラス基板51と、これらのガラス基板間に所定形状をもって配置された微細構造のリブ(「バリアリブ」、「隔壁」又は「障壁」ともいう)54とによって囲まれて画定されている。前面ガラス基板61は、走査電極及び維持電極からなる透明な表示電極63と、透明な誘電体層62と、透明な保護層64とをその上に備えている。また、背面ガラス基板51は、アドレス電極53と、誘電体層52とをその上に備えている。走査電極及び維持電極からなる表示電極63とアドレス電極53は、直交しており、かつ、それぞれ、間隔をあけて一定のパターンで配置されている。各放電表示セル56は、その内壁に蛍光体層55を有するとともに、希ガス(例えば、Ne−Xeガス)が封入されており、上記電極間のプラズマ放電により自発光表示をできるようになっている。
【0004】
一般に、リブ54は、セラミックの微細構造体からなる。リブ54は、通常、図2に模式的に示すように、アドレス電極53とともに背面ガラス基板51の上に予め設けられてPDP用背面板を構成している。リブは、その形状や寸法の精度がPDPの性能に大きく影響するので、従来、その製造に用いられる成形型やリブの製造方法においていろいろな改良が加えられている。例えば、PDPのセル障壁の形状に対応した版面をもつロール凹版の版凹部に放射線硬化性樹脂を充填する工程、フィルム基材を前記ロール凹版に接触させる工程、前記放射線硬化性樹脂を放射線の照射で硬化させて硬化樹脂層を形成する工程、前記硬化樹脂層を前記フィルム基材とともに剥離して、セル障壁と逆凹凸形状のシート凹部をもつ型シートを作製する工程、前記型シートのシート凹部に障壁形成用のガラスペーストを充填する工程、前記型シートをガラス基板に密着させる工程、前記型シートを剥離して、前記ガラスペーストを前記シート凹部から前記ガラス基板に転写する工程、そして前記ガラスペーストを焼成して硬化させる工程を含んでなることを特徴とするPDPのセル障壁を製造する方法が提案されている(特許文献1及び2)。
【0005】
PDP背面板のリブについてさらに説明すると、リブの構造は、一般的にはストレートタイプと格子(マトリックス)タイプとに分類されるが、最近では、格子状パターンのリブが主流となりつつある。ところで、格子状パターンのリブの製造に用いられる成形型の製造において1つの大きな問題が持ち上がっている。リブの成形型は、上記したように、通常、ロール凹版等の金型の凹部に放射線硬化性樹脂を充填した後、放射線硬化性樹脂を放射線の照射で硬化させて硬化樹脂層を形成し、さらにその硬化樹脂層をフィルム基材とともに剥離することによって製造することができるが、表面積が大きく、形状も複雑である格子状リブパターン製造用の成形型の場合、その完成品を金型から剥離する段階で、剥離に大きな力が必要であり、結果、剥離によって硬化樹脂層の支持体が変形し、成形型の反り、リブ転写時のむら、寸法精度の劣化といった問題が引き起こされている。なお、ストレートリブパターン製造用の成形型では、リブが互いに平行に並んで配置されているので、金型からの剥離方向に何らの障害が存在せず、一般的に剥離は容易であり、支持体の変形を生じさせるような大きな剥離力は不必要であった。
【0006】
従来技術として上記した特許文献1及び2に記載のセル障壁の製造方法においてもまた、上述のような成形型の製造時の問題を解消できていない。なぜならば、これらの特許文献においてシート凹部形成用に使用されている放射線硬化性樹脂は、例えば、90重量部のペンタエリスリトールトリアクリレート、10重量部のウレタンアクリレートオリゴマー及び0.7重量部の光重合開始剤(2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン)の紫外線硬化性樹脂組成物であり、このような樹脂組成物の場合、主成分として使用されるペンタエリスリトールトリアクリレートは、架橋密度が極めて大きいために、ガラス転移点(Tg)が高く、したがって硬化収縮も弾性率も大きいからである。また、かかる紫外線光化性樹脂組成物は、剥離変形も大きいのみならず、硬化によって、支持体であるポリエチレンテレフタレート(PET)との間に大きな歪みを生じ、したがって成形型の反り、寸法精度の劣化を防止することができない。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の1つの面によれば、支持体と、前記支持体によって支承された、所定の形状及び寸法を有する溝パターンを表面に備えた賦形層とを有する可とう性成形型であって、前記支持体が、プラスチック材料の可とう性フィルムからなり、
前記賦形層が、少なくとも1種類のウレタンアクリレートオリゴマー及び少なくとも1種類の(メタ)アクリルモノマーを含む硬化樹脂組成物を含みかつその硬化樹脂が0℃以下のガラス転移点を有している可とう性成形型が提供される。
【0008】
本発明のもう1つの面によれば、支持体と賦形層とを有する可とう性成形型を製造する方法であって、上記した硬化性組成物を所定の膜厚で適用することによって(例えば、UV)硬化性組成物層を形成する工程、プラスチック材料を含む可とう性フィルムからなる支持体を母型となる金型の上に積層して前記金型、前記硬化性組成物層及び前記支持体の積層体を形成する工程、例えば紫外線光を前記積層体に(例えば、支持体の側面から)照射して硬化させる工程、そして前記組成物層の硬化によって形成された前記賦形層を前記支持体とともに前記金型から離型する工程を含んでなる可とう性成形型の製造方法が提供される。
【0009】
本発明のもう1つの面によれば、支持体と、微細構造体の突起パターンのものに相当する形状及び寸法を有する溝パターンをもった賦形層とを含む可とう性成形型を提供することと、基板と前記成形型の賦形層の間に硬化性材料を配置して前記成形型の溝パターンに充填することと、前記材料を硬化させて前記基板に一体的に結合した微細構造体を形成することと、前記微細構造体を前記成形型から剥離することとを含んでなる微細構造体の製造方法が提供される。
【0010】
上記した態様のそれぞれにおいて、可とう性成形型は、下記のものを包含するいろいろな特徴要件を単独で、もしくは組み合わせて任意に有していてもよい:それぞれ単官能性の(メタ)アクリルモノマー及び2官能性の(メタ)アクリルモノマーから選ばれる(メタ)アクリルモノマー;それぞれ−80〜0℃のガラス転移点をもったウレタンアクリレートオリゴマーのホモポリマー;それぞれ−80〜0℃のガラス転移点をもった(メタ)アクリルモノマーのホモポリマー;ウレタンアクリレートオリゴマーを10〜90重量%の量で含む重合性組成物;60〜200℃のガラス転移点を有する支持体;紫外線で硬化せしめられる重合性組成物;透明である支持体及び賦形層;が透明である、請求項1又は2に記載の可とう性成形型。室温での粘度が10〜35,000cpsである硬化性組成物;ならびに本願明細書に記載のその他の特徴。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明による可とう性成形型、その製造方法及び微細構造体の製造方法は、いろいろな形態で有利に実施することができる。以下では、微細構造体の典型例であるPDPリブの製造を参照して本発明の実施を詳細に説明する。なお、本発明がPDPリブの製造に限定されるわけではないことは、言うまでもない。
【0012】
すでに図2を参照して説明したように、PDPのリブ54は、背面ガラス基板51の上に設けられてPDP用背面板を構成している。リブ54の間隔(セルピッチ)Cは、画面サイズなどによって変動するけれども、通常、約150〜400μmの範囲である。一般的に、リブには、「気泡の混入や変形などの欠陥のないこと」及び「ピッチ精度がよいこと」の2点が必要とされる。ピッチ精度に関して言えば、リブは、その形成時、アドレス電極に対してほとんどずれることなく所定位置に設けられることが求められ、実際、数十μm以内の位置誤差しか許容されない。位置誤差が数十μmを上回った場合、可視光の放出条件等に悪影響が生じ、満足のいく自発光表示が不可能となる。画面サイズの大型化が進んでいる今日、このようなリブのピッチ精度の問題は深刻である。
【0013】
リブ54を全体として見た場合、基板のサイズ及びリブの形状によって若干の差はあるものの、一般的に、リブ54のトータルピッチ(両端のリブ54の距離;図では5本のリブしか示されていないが、通常、3000本前後である)Rの誤差は、数十ppm以下の寸法精度が必要とされる。また、一般的には支持体とそれによって支承された溝パターン付きの賦形層とからなる可とう性成形型を用いてリブを成形するのが有用であるが、そのような成形方法の場合、成形型のトータルピッチ(両端の溝部の距離)にも、リブと同様に誤差数十ppm以下の寸法精度が必要とされる。
【0014】
図示のPDPリブは、そのリブに対応する形状及び寸法を備えた金型から複製された本発明による可とう性成形型を使用して、容易にかつ高精度で製造することができる。本発明の可とう性成形型は、通常、支持体と、その支持体によって支承された賦形層との2層構造を有しており、ただし、もしも賦形層そのものが支持体としての機能を有することができるのであるならば、本発明の成形型において支持体の使用を省略してもよい。また、本発明の可とう性成形型は、基本的には支持体と賦形層の2層構造体であるけれども、必要に応じて、追加の層やコーティングを有していてもよい。
【0015】
本発明の可とう性成形型において、支持体は、それによって賦形層を支承でき、かつ成形型の可とう性を確保するのに十分な柔軟性(フレキシビリティ)及び適度の硬さを有している限りにおいて、その形態、材料、厚さなどが限定されることはない。一般的には、約60〜200℃のガラス転移点(Tg)を有するプラスチック材料のフレキシブルなフィルム(プラスチックフィルム)を支持体として有利に使用することができる。約60〜200℃のガラス転移点は、プラスチックフィルムに対して適度の硬さなどを付与するのに好適である。プラスチックフィルムは、好ましくは透明であり、賦形層の形成時に照射される紫外線を透過させるのに十分な透明度を有していることが、少なくとも必要である。さらには、得られた成形型を使用してPDPリブやその他の微細構造体を光硬化性成形材料から製造することを特に考慮に入れた場合、支持体及び賦形層のどちらも透明であることが好ましい。
【0016】
支持体として使用するプラスチックフィルムにおいて、可とう性成形型の溝部のピッチ精度を数十ppm以内の誤差にコントロールするため、溝部の形成に関与する賦形層を構成する成形材料(好ましくは、紫外線硬化性組成物などの光硬化性材料)よりもはるかに硬いプラスチック材料をプラスチックフィルムに選択することが好ましい。一般的に、光硬化性材料の硬化収縮率は数%程度であるため、軟質のプラスチックフィルムを支持体に使用した場合、前者の硬化収縮によって、支持体自体の寸法も変化し、溝部のピッチ精度を誤差数十ppm以内にコントロールすることはできない。一方、プラスチックフィルムが硬いと、光硬化性材料が硬化収縮したとしても支持体自体の寸法精度が維持されるので、溝部のピッチ精度を高精度で維持することができる。また、プラスチックフィルムが硬いと、リブを形成する際のピッチ変動も小さく抑えることができるため、成形性及び寸法精度の両面で有利である。さらに、プラスチックフィルムが硬い場合、成形型の溝部のピッチ精度は、プラスチックフィルムの寸法変化にのみ依存することになるため、安定的に所望のピッチ精度を有する成形型を提供するためには、製造後の成形型においてそのプラスチックフィルムの寸法が予定通りであり、少しも変化していないように後処理するだけで十分である。
【0017】
プラスチックフィルムの硬さは、例えば引張りに対する剛性、すなわち、引張り強度で表すことができる。プラスチックフィルムの引張り強度は、通常、少なくとも約5kg/mm2であり、好ましくは、少なくとも約10kg/mm2である。プラスチックフィルムの引張り強度が5kg/mm2を下回った場合、得られた成形型を金型から取り出す時や成形型からPDPリブを取り出す時などに取り扱い性が低下し、破損や引裂けが生じることもある。
【0018】
本発明の実施においてプラスチックフィルムの成形に好適なプラスチック材料の例としては、以下に列挙するものに限定されるわけではないけれども、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、エンジニアリングプラスチック、スーパーエンジニアリングプラスチック、ポリカーボネート、トリアセテートなどを挙げることができる。とりわけPETフィルムが支持体として有用であり、例えば、ポリエステルフィルム、例えばテトロン(登録商標)フィルムを支持体として有利に使用することができる。これらのプラスチックフィルムは、単層フィルムとして使用してもよく、2種類以上を組み合わせて複合もしくは積層フィルムとして使用してもよい。
【0019】
また、上記のようなプラスチックフィルムもしくはその他の支持体は、成形型及びPDPの構成などに応じていろいろな厚さで使用することができるけれども、通常、約50〜500μmの範囲であり、好ましくは、約100〜400μmの範囲である。支持体の厚さが50μmを下回ると、フィルムの剛性が低くなりすぎ、皺や折れが生じやすくなる。反対に、支持体の厚さが500μmを上回ると、フィルムのフレキシビリティが低下するため、取り扱い性が低下する。
【0020】
プラスチックフィルムは、通常、プラスチック原料を成形によってシート化したものであり、シートの形態に裁断した状態あるいはロールに巻き取った状態で商業的に入手可能である。必要ならば、プラスチックフィルムに任意の表面処理を施して、プラスチックフィルムに対する賦形層の密着強度を向上させるなどしてもよい。
【0021】
本発明による可とう性成形型は、上述のような支持体の上に設けられた賦形層の構成に特に特徴がある。すなわち、賦形層は、
(1)アクリル系モノマー及び(又は)オリゴマーを主成分として含有する紫外線硬化性組成物の硬化樹脂からなること、及び
(2)賦形層を構成する硬化樹脂が、0℃もしくはそれ以下のガラス転移点を有していること
を特徴としている。
【0022】
賦形層は、まず、アクリル系モノマー及び(又は)オリゴマーを主成分として含有する紫外線硬化性組成物を紫外線照射によって硬化させることによって形成された硬化樹脂からなる。賦形層をこのように紫外線硬化性組成物から形成する方法は、賦形層の形成に長大な加熱炉を必要とすることなく、しかも比較的短時間に硬化させて硬化樹脂を得ることが可能であるので、有用である。アクリル系のモノマー及びオリゴマーは、それぞれ、約−80〜0℃のガラス転移点(Tg)を有していることが好ましい。
【0023】
賦形層の形成に好適な約−80〜0℃のガラス転移点を有するアクリル系モノマーとしては、以下に列挙するものに限定されるわけではないけれども、ポリエーテルアクリレート、ポリエステルアクリレート、アクリルアミド、アクリロニトリル、アクリル酸、アクリル酸エステルなどを挙げることができる。また、賦形層の形成に好適な約−80〜0℃のガラス転移点を有するアクリル系オリゴマーとしては、以下に列挙するものに限定されるわけではないけれども、ウレタンアクリレートオリゴマー、ポリエーテルアクリレートオリゴマー、ポリエステルアクリレートオリゴマー、エポキシアクリレートオリゴマーなどを挙げることができる。ウレタンアクリレートオリゴマーは、硬化後に柔軟で強靭な硬化樹脂層を提供でき、また、アクリレート全般のなかでも硬化する速度が極めて速いので、成形型の生産性の向上にも寄与できる。これらのアクリル系モノマーやオリゴマーを使用すると、賦形層が光学的に透明になる。したがって、このような賦形層を備えた可とう性成形型は、PDPリブやその他の微細構造体を製造する時、光硬化性の成形材料を使用可能となす。
【0024】
上記したようなアクリル系のモノマー及びオリゴマーは、所望とする成形型の構成やその他のファクタに応じて、単独で使用してもよく、2種類以上を任意に組み合わせて使用してもよい。本発明者は、アクリル系モノマー及び(又は)オリゴマーが、約−80〜0℃のガラス転移点を有するウレタンアクリレートオリゴマーと、約−80〜0℃のガラス転移点を有する単官能性及び(又は)2官能性アクリルモノマーとの混合物である時に特に好ましい結果が得られることを発見した。また、このような混合物において、ウレタンアクリレートオリゴマーとアクリルモノマーとの混合比は広い範囲で変更することができるけれども、通常、オリゴマーとモノマーの合計量を基準にしてウレタンアクリレートオリゴマーを約10〜90重量%の量で使用するのが好ましく、さらに好ましくは、約20〜80重量%の範囲である。また、したがって、単官能性及び(又は)2官能性アクリルモノマーも、約10〜90重量%の量で使用するのが好ましく、さらに好ましくは、約20〜80重量%の範囲である。得られる成形型において賦形層の硬化樹脂のガラス転移点を約0℃以下に保ちつつウレタンアクリレートオリゴマーとアクリルモノマーをこのように広範囲の比率で混合することができるので、賦形層形成用の紫外線硬化性組成物の粘度を成形に好適な広範囲な値に設定できるようになり、したがって、成形型の製造時、作業が容易である、膜厚を一定にできる、などの改良を達成することができる。
【0025】
紫外線硬化性組成物は、必要に応じて、光重合開始剤やその他の添加剤を一般に含有することができる。例えば、光重合開始剤は、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オンを包含する。光重合開始剤は、紫外線硬化性組成物においていろいろな量で使用することができるというものの、通常、アクリル系モノマー及び(又は)オリゴマーの全量を基準にして約0.1〜10重量%の量で使用するのが好ましい。光重合開始剤の量が0.1重量%を下回ると、硬化反応が著しく遅くなってしまうか、十分な硬化が得られないといった問題が発生する。反対に、光重合開始剤の量が10重量%材料よりも多くなると、硬化工程の完了後も未反応の光重合開始剤が残留した状態となり、樹脂の黄変や劣化、揮発による樹脂の収縮といった問題が発生する。その他の有用な添加剤としては、例えば、帯電防止剤などを挙げることができる。
【0026】
賦形層の形成において、紫外線硬化性組成物はいろいろな粘度(ブルックフィールド粘度、いわゆるB粘度)で使用することができるというものの、好ましい粘度は、通常、室温(約22℃)で約10〜35,000cpsの範囲であり、さらに好ましくは、約50〜10,000cpsの範囲である。紫外線硬化性組成物の粘度が上記の範囲を外れると、賦形層の形成作業において成膜が困難となる、硬化が十分に進行しない、などといった問題が発生する。
【0027】
本発明の可とう性成形型では、賦形層を構成する紫外線硬化性組成物由来の硬化樹脂が、約0℃もしくはそれ以下のガラス転移点(Tg)を有していることも重要である。ここで、ガラス転移点(Tg)について説明しておくと、本願明細書においてしばしば参照するTgは、常法に従って測定したものである。例えば、硬化樹脂のTgとは、JIS K7244−1(ISO 6721−1:1994, Plastics-Determination of dynamic mechanical properties, Part 1: General Principalsに同じ)に規定された、周波数1Hzの引張り振動による動的機械特性の試験方法によって測定されるものであり、硬化樹脂を一定速度で変形させた時に測定される損失係数(損失弾性率/貯蔵弾性率)が最大になる温度を指している。すなわち、Tg付近では、加えた力が効率的に硬化樹脂の変形に使われず、損失してしまう(換言すると、樹脂の熱エネルギーに変換されてしまう)。従って、成形型(賦形層)の材料としてTgが室温よりも十分に低い硬化樹脂を使用することで、金型から成形型を剥離する時に加えた力の損失が最小限に抑えられ、金型からの剥離が容易となる。実際に、硬化樹脂のTgを0℃以下にすることで、例えば格子状リブなどのような、表面積が大きく複雑な形状をもったリブを製造するための金型から成形型を剥離する作業が非常に容易になる。これにより、金型からの剥離時に型のフィルム状支持体を変形させることなく、複雑なリブ形状に対応する成形型の作製が容易となる。
【0028】
賦形層を構成する硬化樹脂のTgは、約0℃以下の任意の温度を包含するけれども、好ましくは、約−80℃〜約0℃の範囲であり、さらに好ましくは、約−50℃〜約0℃の範囲である。なお、硬化樹脂のTgが0℃よりも高い場合には、賦形層を支承する支持体との間で発生する歪みに原因して成形型に反りが発生し、また、金型から成形型を剥離する時に成形型が変形し、したがって、寸法精度の劣化やその他の問題が成形型において発生する。一方、硬化樹脂のTgが−80℃よりも低い場合には、樹脂の弾性率又は凝集力が低下する傾向にあるので、リブの成形時に成形型が変形もしくは破壊するという問題や、成形型の端部の賦形層部分(硬化樹脂部分)が破断するという問題が発生する。
【0029】
賦形層は、成形型及びPDPの構成などに応じていろいろな厚さで使用することができるけれども、通常、約5〜1,000μmの範囲であり、好ましくは、約10〜800μmの範囲であり、さらに好ましくは、約50〜700μmの範囲である。賦形層の厚さが5μmを下回ると、必要なリブ高さが得られないといった問題が発生する。本発明の賦形層は、大きなリブ高さを保証するためにその厚さが1,000μmまで大きくなっても金型から成形型を取り外す作業に不都合を生じることはないけれども、賦形層の厚さがもしも1,000μmよりもさらに大きくなると、紫外線硬化性組成物の硬化収縮によってストレスが大きくなり、成形型の反り、寸法精度の劣化といった問題が発生する。本発明の成形型では、リブの高さに対応して溝パターンの深さ、換言すると、賦形層の厚さを大きく設計したとしても、完成した成形型を金型から取り外す作業を小さい力で容易に実施することができるということが重要である。
【0030】
引き続いて、本発明による可とう性成形型の構成とその製造方法をさらに詳細に説明する。
【0031】
図3は、本発明の可とう性成形型の好適な一実施形態を模式的に示す部分斜視図であり、図4は、図3の線分IV−IVに沿った断面図である。図から理解できるように、この可とう性成形型10は、図2に示したような複数本のリブ54が互いに平行に配置されたストレートリブパターンの背面ガラス基板51を製造するために設計されたものではなくて、図示しないが、複数本のリブが一定の間隔をあけて互いに交差しながら略平行に配置された、すなわち、格子状リブパターンを備えた背面ガラス基板を製造するためのものである。本発明の可とう性成形型は、上記したように、大型で複雑な形状を有する微細構造体の製造用の成形型において金型から成形型を取り外す作業を変形、破壊等の問題を生じることなく容易に実施することができるので、かかる格子状リブパターンを備えた背面ガラス基板の製造用の成形型としてとりわけ有利に使用することができる。
【0032】
可とう性成形型10は、図示のように、予め定められた形状及び寸法をもった溝パターンをその表面に有している。溝パターンは、一定の間隔を開けて互いに交差しながら略平行に配置された複数本の溝部4をもって構成された格子状パターンである。すなわち、可とう性成形型10は、もちろんその他の微細構造体の製造にも適用可能であるけれども、このように開口した格子状パターンの溝部を表面に設けて構成されているので、格子状のPDPリブの成形に有利に使用可能になっている。可とう性成形型10は、必要に応じて追加の層を有していたり型を構成する各層に任意の処理や加工を施していてもよいけれども、基本的には、図4に示されるように、支持体1と、その上の溝部4をもった賦形層11とから構成される。
【0033】
賦形層11は、紫外線硬化性組成物の紫外線硬化によって形成された硬化樹脂からなる。賦形層11の形成に使用される紫外線硬化性組成物は、前記した通りである。ここで、賦形層11の表面に形成される溝パターン4について説明すると、溝パターン4の深さ、ピッチ及び幅は、目的とするPDPリブのパターン(ストレートパターン又は格子状パターン)や賦形層自体の厚さによって広い範囲で変更することができる。図3に示すような格子状PDPリブの成形型10の場合、溝パターン4の深さ(リブの高さに対応)は、通常、約100〜500μmの範囲であり、好ましくは、約150〜300μmの範囲である。縦方向と横方向で異なっていてもよい溝パターン4のピッチは、通常、約100〜600μmの範囲であり、好ましくは、約200〜400μmの範囲である。また、上面と下面で異なっていてもよい溝パターン4の幅は、通常、約10〜100μmの範囲であり、好ましくは、約50〜80μmの範囲である。賦形層11は、PDPリブを光硬化性材料を使用して高い寸法精度で効率よく製造するため、好ましくは透明である。
【0034】
賦形層11を支承する支持体1は、すでに詳細に説明したように、好ましくは約60〜200℃のガラス転移点(Tg)を有するプラスチックフィルムであり、また、その厚さは、通常、約50〜500μmの範囲である。また、支持体は、好ましくは光学的に透明である。支持体が光学的に透明であると、硬化のために照射する光がこの支持体を透過可能であるので、本発明に従い紫外線硬化性の成形組成物を用いて賦形層を形成することができ、また、光硬化性材料を使用したPDPリブの製造にも有用である。
【0035】
本発明の可とう性成形型は、いろいろな技法に従って製造することができる。例えば、図3及び図4に示した格子状PDPリブを製造するための可とう性成形型は、図5に順を追って示すような手順によって有利に製造することができる。
【0036】
まず、図5Aに示すように、製造対象のPDPリブに対応する形状及び寸法を備えた金型5、透明なプラスチックフィルムからなる支持体(以下、「支持フィルム」と呼ぶ)1及びラミネートロール23を用意する。金型5は、PDP用背面板のリブと同じパターン及び形状の隔壁14をその表面に備え、また、したがって、相隣りあう隔壁14によって規定される空間(凹部)15が、PDPの放電表示セルとなる。隔壁14の上端部には、泡かみを防止するためのテーパーを取り付けてもよい。最終リブ形態と同じ金型を用意することで、リブ作製後の端部処理が不要となり、端部処理によって発生する破片による欠陥発生の恐れもなくなる。また、本製造方法では、賦形層作製用の成形材料がすべて硬化されるので、金型上における成形材料の残渣が非常に少なく、よって、金型の再利用が容易にできる。ラミネートロール23は、支持フィルム1を金型5に押し付けるもので、ゴムロールからなる。必要ならば、ラミネートロールに代えてその他の周知・慣用のラミネート手段を使用してもよい。支持フィルム1は、ポリエステルフィルムやその他の上記した透明プラスチックフィルムからなる。
【0037】
次いで、例えばナイフコータやバーコータ等の周知・慣用のコーティング手段(図示せず)により、金型5の端面に紫外線硬化性の成形材料11を所定の量で塗布する。ここで、支持フィルム1として柔軟で弾性のある材料を使用すると、紫外線硬化性の成形材料11が収縮しても、支持フィルム1と密着しているため、支持フィルムそのものが変形しない限り、10ppm以上の寸法変動を起こすことがない。
【0038】
ラミネート処理の前、支持フィルムの湿度による寸法変化を取り除くため、成形型の製造環境下でエージングを行うことが好ましい。このエージング処理を行わないと、得られる成形型において許容し得ない程度の寸法の誤差(例えば、300ppmのオーダーの誤差)が発生する恐れがある。
【0039】
次いで、ラミネートロール23を金型5の上を矢印の方向に滑動させる。このラミネート処理の結果、成形材料11が所定の厚さで均一に分布せしめられ、隔壁14の間隙も成形材料11で充填される。また、成形材料11が支持フィルム1で押し広げられるので、従来一般的に使用されている塗布法に比較して、アワ抜けも良好である。
【0040】
ラミネート処理が完了した後、図5Bに示すように、支持フィルム1を金型5に積層した状態で、支持フィルム1を介して、紫外線光(hν)を矢印で示すように成形材料11に照射する。ここで、支持フィルム1が気泡等の光散乱要素を含むことなく、透明材料によって一様に形成されていれば、照射光は、ほとんど減衰することがなく、成形材料11に均等に到達可能である。その結果、成形材料は効率的に硬化して、支持フィルム1に接着した均一な賦形層11になる。よって、支持フィルム1と賦形層11が一体的に接合した可とう性成形型が得られる。なお、この工程では、例えば波長350〜450nmの紫外線を使用できるので、フュージョンランプなどの高圧水銀灯のように高熱を発生させる光源を使用しないで済むというメリットもある。さらに、紫外線硬化時に支持フィルムや賦形層を熱変形させることがないので、高度のピッチコントロールができるというメリットもある。
【0041】
その後、図5Cに示すように、可とう性成形型10をその一体性を保持したまま金型5から分離する。
【0042】
本発明の可とう性成形型は、寸法によらず、それに応じた周知・慣用のラミネート手段及びコーティング手段を使用しさえすれば、比較的簡便に製造可能である。したがって、本発明によれば、真空プレス成形機等の真空設備を使用した従来の製造方法とは異なり、何らの制限を受けることなく大型の可とう性成形型を簡便に製造可能となる。
【0043】
さらに加えて、本発明の可とう性成形型は、いろいろな微細構造体の製造において有用である。例えば、本発明の成形型は、ストレートリブパターンあるいは格子状リブパターンをもったPDPのリブの成形に有用である。この可とう性成形型を使用すれば、真空設備及び(又は)複雑なプロセスの代わりにラミネートロールを用いただけで、放電表示セルから外部に紫外線が漏れ難いリブ構造を有する大画面のPDPを簡便に製造することができる。
【0044】
本発明はまた、本発明の可とう性成形型を使用した微細構造体の製造方法にある。微細構造体は、いろいろな構造を有することができるけれども、その典型例は、ガラス平板上にリブを設けたPDP用基板(背面板)である。以下、図5A〜図5Cの方法で製造した可とう性成形型10を使用して格子状リブパターンをもったPDPリブを製造する方法を、図6A〜図6Cを参照して順を追って説明する。なお、本方法の実施には、例えば特開2001−191345号公報の図1〜図3に示した製造装置を有利に使用できる。
【0045】
図5A〜図5Cに示した方法で製造される可とう性成形型10は、PDPリブ(例えば、格子状パターンをもったもの)を製造するために使用することができる。図6A〜図6Cを参照すると、図示しないが、ストライプ状の電極を予め定められたパターンで配設したガラス平板を用意し、定盤上にセットする。次いで、図6Aに示すように、溝パターンを表面に有する本発明の可とう性成形型10をガラス平板31上の所定の位置に設置し、ガラス平板31と成形型10との位置合わせ(アライメント)を行う。成形型10は透明であるので、ガラス平板31上の電極との位置合わせは、容易に可能である。詳細に述べると、この位置合わせは、目視によって行ってもよく、さもなければ、例えばCCDカメラのようなセンサを用いて行ってもよい。このとき、必要により、温度及び湿度を調整して成形型10の溝部とガラス平板31上の相隣れる電極間の間隔を一致させてもよい。通常、成形型10とガラス平板31は温度及び湿度の変化に応じて伸縮し、また、その程度は互いに異なるからである。したがって、ガラス平板31と成形型10との位置合わせが完了した後は、そのときの温度及び湿度を一定に維持するよう制御する。かかる制御方法は、大面積のPDP用基板の製造に当たって特に有効である。
【0046】
引き続いて、ラミネートロール23を成形型10の一端部に載置する。ラミネートロール23は、好ましくはゴムロールである。このとき、成形型10の一端部はガラス平板31上に固定されているのが好ましい。先に位置合わせが完了したガラス平板31と成形型10との位置ずれが防止され得るからである。
【0047】
次に、成形型10の自由な他端部をホルダー(図示せず)によって持ち上げてラミネートロール23の上方に移動させ、ガラス平板31を露出させる。このとき、成形型10には張力を与えないようにする。成形型10にしわが入るのを防止したり、成形型10とガラス平板31の位置合わせを維持したりするためである。但し、その位置合わせを維持し得る限り、他の手段を使用してもよい。なお、本製造方法では、成形型10に弾性があるので、成形型10を図示のようにめくりあげても、その後のラミネート時には、もとの位置合わせの状態に正確に戻すことができる。
【0048】
引き続いて、リブの形成に必要な所定量のリブ前駆体33をガラス平板31の上に供給する。リブ前駆体の供給には、例えば、ノズル付きのペースト用ホッパーを使用できる。
【0049】
ここで、「リブ前駆体」とは、最終的に目的とするリブ成形体を形成可能な任意の成形材料を意味し、リブ成形体を形成できる限り特に限定されるものではない。リブ前駆体は、熱硬化性でも光硬化性でもよい。特に、光硬化性のリブ前駆体は、上述した透明の可とう性成形型と組み合わせて極めて効果的に使用可能である。可とう性成形型は、上記したように、気泡や変形等の欠陥をほとんど伴わず、光の不均一な散乱等を抑制することができる。かくして、成形材料が均一に硬化され、一定かつ良好な品質をもったリブになる。
【0050】
リブ前駆体に好適な組成物の一例を挙げると、(1)リブの形状を与える、例えば酸化アルミニウムのようなセラミック成分、(2)セラミック成分間の隙間を埋めてリブに緻密性を付与する鉛ガラスやリン酸ガラスのようなガラス成分、及び(3)セラミック成分を収容及び保持して互いに結合するバインダ成分とその硬化剤又は重合開始剤を基本的に含む組成物である。バインダ成分の硬化は、加熱又は加温によらず光の照射によってなされることが望ましい。かかる場合、ガラス平板の熱変形を考慮する必要はなくなる。また、必要に応じて、この組成物には、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、インジウム(In)、錫(Sn)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、イリジウム(Ir)、プラチナ(Pt)、金(Au)もしくはセリウム(Ce)の酸化物、塩又は錯体からなる酸化触媒が添加されて、バインダ成分の除去温度を低下させてもよい。
【0051】
また、図示の製造方法の実施に当たっては、リブ前駆体33をガラス平板31上の全体に均一に供給しない。図6Aに示すように、ラミネートロール23の近傍のガラス平板31上にリブ前駆体33を供給するだけでよい。後述の工程でラミネートロール23が成形型10上を移動するときにガラス平板31の上に均一にリブ前駆体33を押し広げることができるからである。ただし、このような場合、リブ前駆体33には通常約20,000cps以下、好適には約5,000cps以下の粘度が付与されていることが望ましい。リブ前駆体の粘度が約20,000cpsより高いと、ラミネートロールによってリブ前駆体が十分に広がり難くなり、その結果、成形型の溝部に空気が巻き込まれ、リブの欠陥の原因となるおそれがある。実際、リブ前駆体の粘度が約20,000cps以下であると、ラミネートロールをガラス平板の一端部から他端部に一回だけ移動させるだけで、ガラス平板と成形型の間にリブ前駆体が均一に広がり、全ての溝部に気泡を含むことなく均一に充填できる。但し、リブ前駆体の供給は、上述の方法に限定されるものではない。例えば、図示しないが、リブ前駆体をガラス平板の全面にコーティングしてもよい。このとき、コーティング用のリブ前駆体は、上記と同様の粘度を有している。特に、格子状パターンのリブを形成する場合には、その粘度は、約20,000cps以下、好ましくは約5,000cps以下である。
【0052】
次に、回転モータ(図示せず)を駆動させ、図6Aにおいて矢印で示すように、ラミネートロール23を成形型10上を所定の速度で移動させる。ラミネートロール23がこのようにして成形型10上を移動している間、成形型10にはその一端部から他端部に圧力がラミネートロール23の自重によって順次印加されて、ガラス平板31と成形型10の間にリブ前駆体33が広がり、成形型10の溝部にも充填される。すなわち、リブ前駆体33が順次溝部の空気と置換されて充填されていく。このとき、リブ前駆体の厚さは、リブ前駆体の粘度又はラミネートロールの直径、重量もしくは移動速度を適当に制御することにより、数μmから数十μmの範囲にすることができる。
【0053】
また、図示の製造方法によれば、成形型の溝部は空気のチャネルにもなって、空気をそこに捕捉したとしても、上述した印加圧力を受けたときには空気を効率よく成形型の外部又は周囲に排除することができる。その結果、本製造方法は、リブ前駆体の充填を大気圧下で行っても、気泡の残存を防止することができるようになる。換言すれば、リブ前駆体の充填に当たって減圧を適用する必要はなくなる。もちろん、減圧を行って、気泡の除去を一層容易に行ってもよい。
【0054】
引き続いて、リブ前駆体を硬化させる。ガラス平板31上に広げたリブ前駆体33が光硬化可能である場合は、図6Bに示すように、ガラス平板31と成形型10の積層体を光照射装置(図示せず)に入れ、紫外線のような光をガラス平板31及び成形型10を介してリブ前駆体33に照射して硬化させる。このようにして、リブ前駆体の成形体、すなわち、リブそのものが得られる。
【0055】
最後に、得られたリブ34をガラス平板31に接着させたまま、ガラス平板31及び成形型10を光照射装置から取り出し、図6Cに示すように成形型10を剥離除去する。本発明の成形型10はハンドリング性にも優れるので、ガラス平板31に接着したリブ34を破損させることなく、少ない力で成形型10を容易に剥離除去できる。もちろん、この剥離除去作業に大掛かりな装置は不要である。
【実施例】
【0056】
本発明を下記の実施例に従って具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものでないことは、当業者ならば容易に理解されるであろう。
【0057】
可とう性成形型の作製
格子状パターンのリブ(隔壁)をもったPDP用背面板を製造するため、下記の手順で9種類の可とう性成形型を作製した。なお、本例で作製した成形型は、一定の間隔を開けて互いに交差しながら略平行に配置された複数本の溝部をもって構成された格子状溝パターンを表面に有している成形型である。
【0058】
まず、PDP用背面板の格子状リブパターンに対応する格子状隔壁パターンをもった長方形の金型を用意した。金型のサイズは、縦125mm×横250mmであった。また、この金型の隔壁は、縦隔壁と横隔壁とからなり、それぞれ等脚台形の断面を有し、かつ一定の間隔を開けて互いに交差しながら略平行に配置されていた。それぞれの隔壁は、高さ(縦隔壁及び横隔壁とも)210μm、頂部幅60μm、底部幅120μm、そして縦隔壁のピッチ(隣接する縦隔壁の中心間の距離)300μm及び横隔壁のピッチ510μmであった。
【0059】
また、成形型の賦形層の形成に使用するため、以下に列挙するウレタンアクリレートオリゴマー、アクリルモノマー及び光重合開始剤を下記の第1表に記載するように異なる量(重量%)で配合して紫外線硬化性組成物1〜9を調製した。
【0060】
ウレタンアクリレートオリゴマーA:
脂肪族2官能性ウレタンアクリレートオリゴマー(分子量:4,000、ダイセルユーシービー社製)、Tg:15℃
【0061】
ウレタンアクリレートオリゴマーB:
脂肪族2官能性ウレタンアクリレートオリゴマー(分子量:13,000、ダイセルユーシービー社製)、Tg:−55℃
【0062】
アクリルモノマーC:
イソボルニルアクリレート(分子量:208)、Tg:94℃
【0063】
アクリルモノマーD:
フェノキシエチルアクリレート(分子量:193)、Tg:10℃
【0064】
アクリルモノマーE:
ブトキシエチルアクリレート(分子量:172)、Tg:−50℃
【0065】
アクリルモノマーF:
エチルカルビトールアクリレート(分子量:188)、Tg:−67℃
【0066】
アクリルモノマーG:
2−エチルヘキシル−ジグリコールアクリレート(分子量:272)、Tg:−65℃
【0067】
アクリルモノマーH:
2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオールジアクリレート(分子量:268)、Tg:108℃
【0068】
光重合開始剤:
2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製、商品名「ダロキュア1173」)
【0069】
さらに、成形型の支持体として使用するため、縦400mm、横300mm×厚さ188μmのPETフィルム(帝人社製、商品名「HPE188」、Tg:約80℃)を用意した。
【0070】
次いで、用意した金型の上流端に、それぞれの紫外線硬化性組成物をライン状に塗布した。その後、金型の表面を覆うように上述のPETフィルムをラミネートした。PETフィルムの長手方向は金型の縦隔壁と平行とし、PETフィルムと金型にサンドイッチされた紫外線硬化性組成物の厚さは約250μmとなるように設定した。ラミネートロールを使用してPETフィルムを入念に押し付けたところ、金型の凹部に紫外線硬化性組成物が完全に充填され、気泡の取り込みも認められなかった。
【0071】
この状態で、三菱電機オスラム社製の蛍光ランプを用い、300〜400nmに波長(ピーク波長:352nm)をもった紫外線光を、PETフィルムを介して、紫外線硬化性組成物層に60秒間照射した。紫外線光の照射量は、200〜300mJ/cm2であった。紫外線硬化性組成物が硬化し、賦形層が得られた。引き続いてPETフィルムを賦形層と共に金型から剥離し、金型の隔壁に対応する形状及び寸法を有する多数の溝部を備えた可とう性成形型を得た。
【0072】
試験方法
上記のような可とう性成形型の作製工程において使用された紫外線硬化性組成物1〜9のそれぞれについて、(1)ゴム状態での弾性率(Pa)、(2)硬化樹脂のガラス転移点(Tg,℃)及び(3)粘度(cps,22℃で)を次のようにして測定した。得られた測定結果を下記の第1表に記載する。
【0073】
(1)ゴム状態での弾性率
紫外線硬化性組成物を上記と同様に紫外線照射で硬化させ、短冊状の硬化樹脂フィルム(縦22.7mm×横10mm×厚さ200μm)を作製した。この試験片の弾性率を動的粘弾性装置(商品名「RSAII」、Rheometrics社製)で測定した。
【0074】
(2)硬化樹脂のガラス転移点
紫外線硬化性組成物を上記と同様に紫外線照射で硬化させ、短冊状の硬化樹脂フィルム(縦22.7mm×横10mm×厚さ200μm)を作製した。この試験片のガラス転移点(Tg)をJIS K7244−1に規定された試験方法によって測定した。試験片を動的粘弾性装置(商品名「RSAII」、Rheometrics社製)に取り付け、変形周波数1Hz、最大変形量0.04%及び昇温速度5℃/分の測定条件で動的機械特性を測定し、得られた測定値からガラス転移点を求めた。
【0075】
(3)粘度
B型粘度計を使用して、ブルックフィールド粘度を室温(22℃)で測定した。
【0076】
評価試験
上記のような可とう性成形型の作製工程において、成形型を金型から剥離する際に成形型が剥離変形(剥離することによって生じるPETフィルムの変形)するか否かを評価し、あわせて、剥離変形の有無と紫外線硬化性組成物のガラス転移点(Tg)との関係を検討した。
【0077】
紫外線硬化性組成物の硬化により賦形層を形成した後、PETフィルム及びこれと一体となった賦形層を、金型の縦障壁に平行、かつ金型面に平行の引張り方向で約100mm/秒の引張り速度で180度剥離し、成形型を金型から取り外した。次いで、金型から剥離した直後の成形型について、PETフィルムの長手方向を垂直に配向させ、垂直な壁面と接触させた。PETフィルムを壁面と接触させた状態のまま、PETフィルムの上端辺(一部)を粘着テープによって壁面に貼り付け、固定した。PETフィルムの中央部を、その部分が未固定の状態において測定し、反り量が30mm以上の時に「剥離変形あり」と評価し、反り量が30mm未満ならば、「剥離変形なし」と評価した。得られた評価結果を下記の第1表に記載する。
【0078】
【表1】

【0079】
上記第1表の結果から理解されるように、PDPリブ用の成形型を作製する場合、本発明に従い特定の組成の紫外線硬化性組成物を使用して賦形層を成形した場合、剥離変形を伴わずに成形型を作製することができる。
【0080】
PDP用背面板の作製
紫外線硬化性組成物4,5,7及び8を使用して上記のようにして作製した可とう性成形型をPDP用ガラス基板の上に位置合わせして配置した。成形型の溝パターンをガラス基板に対向させた。次いで、成形型とガラス基板の間に感光性セラミックペーストを充填した。ここで使用したセラミックペーストは、次のような組成であった。
【0081】
光硬化性オリゴマー:ビスフェノールAジグリシジルメタクリレート酸付加物(共栄社化学社製) 21.0g
光硬化性モノマー:トリエチレングリコールジメタクリレート(和光純薬工業社製) 9.0g
希釈剤:1,3−ブタンジオール(和光純薬工業社製) 30.0g
光開始剤:ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキシド(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製、商品名「イルガキュア819」) 0.3g
界面活性剤:ホスフェートプロポキシアルキルポリオール 3.0g
無機粒子:鉛ガラスとセラミックの混合粉末(旭硝子社製) 180.0g
【0082】
セラミックペーストの充填が完了した後、ガラス基板の表面を覆うように成形型をラミネートした。ラミネートロールを使用して成形型を入念に押し付けたところ、その成形型の溝部にセラミックペーストが完全に充填された。
【0083】
この状態で、フィリップス社製の蛍光ランプを用い、400〜450nmに波長をもった紫外線光(ピーク波長:352nm)を成形型とガラス基板の両面から30秒間照射した。紫外線光の照射量は、200〜300mJ/cm2であった。セラミックペーストが硬化し、リブとなった。引き続いて、ガラス基板をその上のリブと共に成形型から剥離し、目的とするリブ付きのガラス基板からなるPDP用背面板を得た。それぞれの背面板において、リブの形状及び寸法は、成形型の作製に使用された金型の隔壁に正確に一致し、リブの欠損等の欠陥も認められなかった。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明も適用可能な、従来のPDPの一例を模式的に示した断面図である。
【図2】図1のPDPに用いられたPDP用背面板を示した斜視図である。
【図3】本発明による可とう性成形型の1実施形態を示した斜視図である。
【図4】図3の成形型の線分IV−IVに沿った断面図である。
【図5A】本発明による可とう性成形型の1製造方法を示した断面図である。
【図5B】本発明による可とう性成形型の1製造方法を示した断面図である。
【図5C】本発明による可とう性成形型の1製造方法を示した断面図である。
【図6A】本発明によるPDP用背面板の1製造方法を示した断面図である。
【図6B】本発明によるPDP用背面板の1製造方法を示した断面図である。
【図6C】本発明によるPDP用背面板の1製造方法を示した断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体と、前記支持体によって支承された賦形層とを有する可とう性成形型であって、
前記支持体が、プラスチック材料の可とう性フィルムからなり、
前記賦形層が、少なくとも1種類のウレタンアクリレートオリゴマー及び少なくとも1種類の(メタ)アクリルモノマーを含む重合性組成物の反応生成物である硬化樹脂からなり、そして
前記硬化樹脂が、0℃以下のガラス転移点を有していることを特徴とする可とう性成形型。
【請求項2】
前記(メタ)アクリルモノマーが、それぞれ、単官能性の(メタ)アクリルモノマー及び2官能性の(メタ)アクリルモノマーから選ばれる、請求項1に記載の可とう性成形型。
【請求項3】
前記ウレタンアクリレートオリゴマーが、それぞれ、−80〜0℃のガラス転移点をもったホモポリマーを有する、請求項1又は2に記載の可とう性成形型。
【請求項4】
前記(メタ)アクリルモノマーが、それぞれ、−80〜0℃のガラス転移点をもったホモポリマーを有する、請求項1又は2に記載の可とう性成形型。
【請求項5】
前記重合性組成物が、前記ウレタンアクリレートオリゴマーを10〜90重量%の量で含む、請求項1又は2に記載の可とう性成形型。
【請求項6】
前記支持体が、60〜200℃のガラス転移点を有する、請求項1又は2に記載の可とう性成形型。
【請求項7】
前記重合性組成物が紫外線で硬化せしめられる、請求項1又は2に記載の可とう性成形型。
【請求項8】
前記支持体及び前記賦形層が透明である、請求項1又は2に記載の可とう性成形型。
【請求項9】
前記重合性組成物の粘度が、室温で10〜35,000cpsの範囲である、請求項1又は2に記載の可とう性成形型。
【請求項10】
前記プラスチック材料が、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、延伸ポリプロピレン、ポリカーボネート及びトリアセテートからなる群から選ばれる少なくとも1種類のプラスチック材料である、請求項1又は2に記載の可とう性成形型。
【請求項11】
前記支持体の厚さが、50〜500μmの範囲である、請求項1又は2に記載の可とう性成形型。
【請求項12】
可とう性成形型を製造する方法であって、下記の工程:
少なくとも1種類のウレタンアクリレートオリゴマー及び少なくとも1種類の(メタ)アクリルモノマーを含み、硬化後に得られる樹脂が0℃以下のガラス転移点を示す重合性組成物を、母型である金型に適用する工程、
前記金型の上に、プラスチック材料を含む可とう性フィルムを積層する工程、
前記重合性組成物を硬化させる工程、そして
前記金型を離型する工程、
を含んでなることを特徴とする可とう性成形型の製造方法。
【請求項13】
前記(メタ)アクリルモノマーが、それぞれ、単官能性の(メタ)アクリルモノマー及び2官能性の(メタ)アクリルモノマーから選ばれる、請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
前記ウレタンアクリレートオリゴマーが、それぞれ、−80〜0℃のガラス転移点をもったホモポリマーを有する、請求項12又は13に記載の製造方法。
【請求項15】
前記(メタ)アクリルモノマーが、それぞれ、−80〜0℃のガラス転移点をもったホモポリマーを有する、請求項12は13に記載の製造方法。
【請求項16】
前記重合性組成物が、前記ウレタンアクリレートオリゴマーを10〜90重量%の量で含む、請求項12又は13に記載の製造方法。
【請求項17】
前記支持体が、60〜200℃のガラス転移点を有する、請求項12又は13に記載の製造方法。
【請求項18】
前記重合性組成物を紫外線で硬化せしめる、請求項12又は13に記載の製造方法。
【請求項19】
微細構造体を製造する方法であって、下記の工程:
請求項1又は2に記載の成形型を提供する工程、
基板と、前記成形型の賦形層の間に硬化可能な材料を提供する工程、
前記材料を硬化させて、前記基板に一体的に結合された微細構造体を形成する工程、そして
前記微細構造体を前記成形型から剥離する工程、
を含んでなることを特徴とする微細構造体の製造方法。
【請求項20】
前記硬化工程が光硬化工程を含む、請求項19に記載の製造方法。
【請求項21】
前記微細構造体が、プラズマディスプレイパネル用背面板のリブである、請求項19に記載の微細構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【公表番号】特表2007−503338(P2007−503338A)
【公表日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−524724(P2006−524724)
【出願日】平成16年8月18日(2004.8.18)
【国際出願番号】PCT/US2004/026845
【国際公開番号】WO2005/021260
【国際公開日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【出願人】(599056437)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (1,802)
【Fターム(参考)】