説明

可塑化装置の制御方法

【課題】成形サイクルの開始及び終了時に溶融原料が酸化されないように制御する制御方法を提供することを目的とする。
【解決手段】酸素濃度を大気中よりも低下させた加熱筒4内で原料Mを可塑化する成形サイクルを実行する可塑化装置1の制御方法であって、前記成形サイクルを開始させるとき、前記加熱筒4のヒータ22,23,24への通電を開始し、前記加熱筒4の温度が成形温度より低い所定温度に上昇した時点から前記加熱筒4内の酸素濃度を低下させ始め、さらに、前記成形サイクルを終了させるとき、前記加熱筒4のヒータ22,23,24への通電を遮断し、前記加熱筒4の温度が成形温度より低い所定温度に下降した時点まで前記加熱筒4内の酸素濃度の低下状態を維持させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素濃度を大気中よりも低下させた加熱筒内で原料を可塑化する可塑化装置の制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記技術分野の可塑化装置は、例えば、特許文献1に開示されている。特許文献1は、原料供給部と、加熱筒部と、スクリュー部と溶融樹脂排出部とを有する押出機、押出ブロー成形機、射出成形機等の可塑化装置において、上記加熱筒部は、樹脂の溶融開始位置より下流側に、加圧されたガスを外部より供給可能なガス供給用孔部を有し、上記原料供給部は、前記ガス供給用孔部より加熱筒内へ供給されたガスを可塑化装置の外部へ排出可能な排気可能型原料供給部であり、更に、前記ガス供給用孔部へ所定の種類、圧力のガスを所定流量で送るガス供給部を有している熱可塑性樹脂の可塑化装置に関するものである。そして、特許文献1の段落(0099)には、可塑化装置の運転起動手順として、加熱筒の電気ヒータのスイッチをオンにして加熱筒やその内部を昇温させ、次いでガスを供給することが記載されている。また、特許文献1の段落(0100)には、可塑化装置の運転終了手順として、最初に原料の供給を停止し、パージ材(例えば、PP)を供給し、更にその排出を完了し、この基で供給ガスの流量を確認することが記載されている。
【0003】
しかしながら、特許文献1における可塑化装置の運転起動・終了手順は、スクリュのガス放出用細孔の目詰まりを防止するためのものである。これに対し、本発明が解決しようとする問題は、成形サイクルの開始及び終了時に、加熱筒内に滞留した溶融原料が酸化して分解劣化し、異物や炭化物が生成されることである。
【0004】
【特許文献1】特開2002−326259号公報(段落0099,0100)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記した問題を解決すべくなされたものであって、成形サイクルの開始及び終了時に溶融原料が酸化されないように制御する制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
酸素濃度を大気中よりも低下させた加熱筒内で原料を可塑化する成形サイクルを実行する可塑化装置の制御方法であって、前記成形サイクルを開始させるとき、前記加熱筒のヒータへの通電を開始し、前記加熱筒の温度が成形温度より低い所定温度に上昇した時点から前記加熱筒内の酸素濃度を低下させ始め、さらに、前記成形サイクルを終了させるとき、前記加熱筒のヒータへの通電を遮断し、前記加熱筒の温度が成形温度より低い所定温度に下降した時点まで前記加熱筒内の酸素濃度の低下状態を維持させる可塑化装置の制御方法に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の可塑化装置の制御方法によれば、成形サイクルの開始及び終了時に溶融原料が酸化されないため、良好な成形品が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
図面に基づいて、本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1は、本発明の制御方法を実施する可塑化装置の縦断面図とブロック図である。図2は、本発明の可塑化装置の成形サイクル開始時の制御方法を示す流れ図である。図3は、本発明の可塑化装置の成形サイクル終了時の制御方法を示す流れ図である。
【0009】
可塑化装置1は、先端面にノズル6を螺着した加熱筒4と、加熱筒4の内孔に回転往復動可能に嵌挿したスクリュ5と、スクリュ5を前後進及び回転駆動する射出・回転駆動手段2と、スクリュ5の回転角度及びスクリュ5の移動距離に変換された回転角度を検出するエンコーダ3と、加熱筒4の後部上面に穿孔した上部開口7に原料落下路8を介して配設された原料供給手段11と、原料供給手段11の上面に立設したホッパ14と、ホッパ14を三に区画する開閉自在のシャッタ13,13と、エンコーダ3等の信号を入力部18に入力し記憶部19や設定・表示部20のデータに基づいてCPU16でシーケンス処理や演算処理した結果を出力部17を介して射出・回転駆動手段2、フィードスクリュ回転駆動手段10、シャッタ13,13、真空ポンプ12、ヒータ22,23,24等へ出力する制御装置15とからなる。ヒータ22,23,24は、加熱筒4の外壁に加熱筒4の前部、中部及び後部に区画して捲着され、加熱筒4とスクリュ5を加熱して原料Mを溶解させる。ヒータ22,23,24は、各ヒータの近傍に設けたサーモカップル25,26,27で検出する温度が設定・表示部20で設定された温度設定値に等しくなるようCPU16がフィードバック制御することにより制御装置15で通電制御される。なお、可塑化装置1は、図示しない型締装置とともに射出成形機を構成するものであるが、射出・回転駆動手段2の射出駆動部及びエンコーダ3の移動距離検出部を削除すれば押出機として機能する。
【0010】
原料供給手段11は、フィードスクリュ9と、フィードスクリュ9を回転可能に嵌挿する筒体21と、フィードスクリュ9を回転駆動するフィードスクリュ回転駆動手段10とからなる。制御装置15により所定の回転数で回転駆動されるフィードスクリュ回転駆動手段10は、フィードスクリュ9を回転駆動して、筒体21の一方の上面に立設したホッパ14から落下・供給された原料Mを搬送して、筒体21の他方の下面に設けた原料落下路8から加熱筒4内へ供給する。なお、原料供給手段11は、フィードスクリュ9を有するものとして例示したが、可変絞り部を有するものとしてもよい。また、ホッパ14は、シャッタ13を有するものとして例示したが、回転升を有するものとしてもよい。
【0011】
加熱筒4の上部開口7から加熱筒4内のスクリュ5の溝に落下した原料Mは、原料供給手段11で搬送量が制限されているので、スクリュ5の溝内に疎に堆積する。特に、スクリュ5の後部はフィードゾーンとなっており、それより前方のコンプレッションゾーンやさらにその前方のメータリングゾーンにおける溝深さよりも深くなっている。すなわち、原料Mはフィードゾーンからコンプレッションゾーンへ移送されつつ溶融され、スクリュ5の溝深さの減少に応じて容積を減少させてゆく。そして、メータリングゾーンでは原料Mはすべて溶融状態の溶融原料となり、メータリングゾーンの浅い溝を充填する。そのため、スクリュ5前部は加熱筒4との間が気密となり、スクリュ5後部は加熱筒4後端部との間のパッキング(図示せず)で気密となり、原料落下路8と原料供給手段11は気密に連結され、ホッパ14は交互に開閉するシャッタ13,13で原料供給手段11との間を気密にするので、加熱筒4内の空間は気密に保たれる。そして、筒体21の原料落下路8上面に真空ポンプ12が接続されているので、加熱筒4内は減圧され酸素濃度が大気中よりも低下している。なお、加熱筒4内の酸素濃度を低下させるため、真空ポンプ12に代えて不活性ガス源を接続して、加熱筒4内に不活性ガスを充満させるようにしてもよい。
【0012】
原料Mはこのような低酸素濃度の雰囲気で可塑化されるので、可塑化中の原料Mが部分的に過熱し酸化して焼け等を生ずることはない。また、加熱筒4内を真空吸引するときには、原料Mに包含されていた水分やガス分が溶融過程の原料Mから放出される。それらの水分やガス分は、スクリュ5のフィードゾーンの溝を流通して後部へ流動するので、原料Mの供給量が制限されて少ないとき程、効果的に水分やガス分を真空ポンプ12に吸引させることができる。
【0013】
このような可塑化工程を含む可塑化装置1の成形サイクルを開始するときの制御方法について、図2に基づいて詳細に説明する。
【0014】
設定・表示部20で切換えスイッチを操作することにより、可塑化装置1の射出・回転駆動手段2やフィードスクリュ回転駆動手段10等への電源が入り、運転可能の状態となる(S1)。なおこのとき、加熱筒4内は大気の状態である。S1の操作に連動するか又は別途操作することによりヒータ22,23,24への通電が開始して、設定・表示部20で設定された成形温度に加熱筒4の温度を昇温すべく温度調節制御が始まる(S2)。制御装置15は、加熱筒4前部のヒータ22、加熱筒4中部のヒータ23、及び、加熱筒4後部のヒータ24を、それぞれの温度検出器であるサーモカップル25,26,27の検出信号が設定した成形温度となるように個々にフィードバック制御する。設定・表示部20には、成形サイクルで使用する原料Mの成形温度より低く溶融温度に近い所定温度の設定が設けてある。制御装置15は、加熱筒4の温度としてのサーモカップル25,26,27のいずれかの温度が上昇して所定温度に到達したか否かを比較演算して監視する(S3)。加熱筒4の温度が上昇して所定温度に到達したときには、真空ポンプ12又は不活性ガス発生器を起動して加熱筒4内を大気中よりも低酸素濃度となるようにする(S4)。これにより、成形サイクルが実行される前に加熱筒4内で溶融して滞留していた原料Mが酸化して分解劣化することがなく、成形サイクルの初期に異物や炭化物に基づく不良成形品が発生するのを防止できる。そして、加熱筒4の温度が成形温度に到達したときには(S5)、成形サイクルを開始する(S6)。
【0015】
一方、可塑化工程を含む可塑化装置1の成形サイクルを終了するときの制御方法について、図3に基づいて詳細に説明する。
【0016】
設定・表示部20で切換えスイッチを操作したり、プリセットされた生産数等のカウント値が設定値に到達したことにより、可塑化装置1の成形サイクルを終了させる(S11)。このとき可塑化装置1は、スクリュ5が前進して射出が終了した状態となり、射出・回転駆動手段2やフィードスクリュ回転駆動手段10等は運転停止されているが、真空ポンプ12又は不活性ガス発生器は運転を継続して加熱筒4内の低酸素濃度状態が維持されている。S11の操作に連動するか又は別途操作することによりヒータ22,23,24への通電が遮断されて、加熱筒4の温度は設定・表示部20で設定され制御された成形温度から下降する(S12)。設定・表示部20には、成形サイクルで使用する原料Mの成形温度より低く溶融温度に近い所定温度の設定が設けてある。制御装置15は、加熱筒4の温度としてのサーモカップル25,26,27のいずれかの温度が下降して所定温度に到達したか否かを比較演算して監視する(S13)。加熱筒4の温度が下降して所定温度に到達したときには、真空ポンプ12又は不活性ガス発生器の運転を停止して、加熱筒4内の低酸素濃度状態を解除し大気状態に戻す(S14)。これにより、成形サイクルが終了して加熱筒4内で溶融して滞留していた原料Mが固化する前に、溶融原料が酸化して分解劣化することがなく、次回の成形サイクルで異物や炭化物に基づく不良成形品が発生するのを防止できる。
【0017】
なお、前記した加熱筒4の昇温時の所定温度と、加熱筒4の降温時の所定温度とは同一の設定であってもよいし、個別の設定であってもよい。そして、所定温度の設定値は、溶融温度に近いこと及びよく知られている点で、成形サイクルに使用する原料を乾燥するための温度とすることが好ましい。また、加熱筒4の温度として、サーモカップル25,26,27のうちどのサーモカップルを採用してもよいが、溶融原料が加熱筒内で空間に露出する部分であるスクリュ5のコンプレッションゾーンに対応する加熱筒中部の温度を検出するサーモカップル26を採用することが好ましい。
【0018】
この発明は以上説明した実施例に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲内において種々の変更を付加して実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の制御方法を実施する可塑化装置の縦断面図とブロック図である。
【図2】本発明の可塑化装置の成形サイクル開始時の制御方法を示す流れ図である。
【図3】本発明の可塑化装置の成形サイクル終了時の制御方法を示す流れ図である。
【符号の説明】
【0020】
1 可塑化装置
2 射出・回転駆動手段
3 エンコーダ
4 加熱筒
5 スクリュ
6 ノズル
7 上部開口
8 原料落下路
9 フィードスクリュ
10 フィードスクリュ回転駆動手段
11 原料供給手段
12 真空ポンプ
13 シャッタ
14 ホッパ
15 制御装置
16 CPU
17 出力部
18 入力部
19 記憶部
20 設定・表示部
21 筒体
22,23,24 ヒータ
25,26,27 サーモカップル
M 原料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素濃度を大気中よりも低下させた加熱筒内で原料を可塑化する成形サイクルを実行する可塑化装置の制御方法であって、
前記成形サイクルを開始させるとき、前記加熱筒のヒータへの通電を開始し、前記加熱筒の温度が成形温度より低い所定温度に上昇した時点から前記加熱筒内の酸素濃度を低下させ始めることを特徴とする可塑化装置の制御方法。
【請求項2】
酸素濃度を大気中よりも低下させた加熱筒内で原料を可塑化する成形サイクルを実行する可塑化装置の制御方法であって、
前記成形サイクルを終了させるとき、前記加熱筒のヒータへの通電を遮断し、前記加熱筒の温度が成形温度より低い所定温度に下降した時点まで前記加熱筒内の酸素濃度の低下状態を維持させることを特徴とする可塑化装置の制御方法。
【請求項3】
前記加熱筒の前記所定温度は、前記成形サイクルで使用する原料を乾燥するための温度である請求項1又は2に記載の可塑化装置の制御方法。
【請求項4】
前記加熱筒の温度は、加熱筒中部のヒータを温度制御するための温度検出器で検出されたものである請求項1乃至3のいずれか1項に記載の可塑化装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−61746(P2009−61746A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−233520(P2007−233520)
【出願日】平成19年9月10日(2007.9.10)
【出願人】(000155159)株式会社名機製作所 (255)
【Fターム(参考)】