説明

可変バルブタイミング制御装置

【課題】排気通路に設置した排気ガス浄化用の触媒を効率的に昇温可能な可変バルブタイミング制御装置及び方法を提供する。
【解決手段】本発明の可変バルブタイミング制御装置は、排気通路(3)に排気ガス浄化用触媒(14)が配置された内燃機関(1)の吸排気バルブ(5,6)の開閉タイミングを可変制御するものであり、特に、冷態始動時に空燃比がリーンとなるように圧縮行程で燃料噴射し、点火時期を遅角させると共に、オーバーラップ量を初期値に設定し、所定期間後に前記初期値から増加させるように、前記排気バルブ(6)及び吸気バルブ(5)を制御することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気通路に排気ガス浄化用の触媒が配置された内燃機関の排気バルブ及び吸気バルブの開閉タイミングを可変制御する可変バルブタイミング制御装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の環境意識の高まりに伴い、車両の内燃機関から排出される排気ガス中に含まれるHC、CO、NOxなどの有害成分の低減が課題となっている。そのための対策の一つとして、内燃機関の排気通路に排気ガス浄化用の触媒を配置し、これらの有害成分の浄化を行う手法がある。このような触媒の浄化作用は、冷態始動時のように触媒温度が低い状態ではその効果が十分に得られないため、触媒温度を迅速且つ効率的に昇温させるための技術が望まれている。
【0003】
このような触媒昇温技術の一例として、例えば特許文献1がある。特許文献1では、内燃機関の吸排気バルブの開閉タイミングを調整することで、開弁期間のバルブオーバーラップ量を通常運転時より増大させると共に、燃焼室での混合気への点火時期を通常運転時より遅角(リタード)する。このような制御は、いわゆる圧縮スライトリーン制御(以下、適宜「圧縮S/L制御」と称する)と称されており、排気ガスの昇温を促進させ、浄化機能を向上できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−235647号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
圧縮S/L制御では、通常運転時に比べて開弁期間のバルブオーバーラップ量を増大することによって、排気通路から燃焼室内に排気を流入させて空燃比をリーンにすると共に、着火時期を通常運転時に比べてリタードさせるため、燃焼室での燃焼状態が不安定になり失火などの異常が生じやすいという特性がある。触媒の昇温をより迅速に行うという観点からはバルブオーバーラップ量や点火時期のリタード量を大きく設定することで排気ガスを昇温させることが好ましいが、その分、このような失火の発生リスクがより顕著になってくるというジレンマがある。そのため、実際には内燃機関の失火発生を防止するために、バルブオーバーラップ量や点火時期のリタード量は目標値に比べて控えめに設定せざるを得ず、触媒の昇温がいまだ十分とは言えない。
【0006】
本発明は上記問題点に鑑みなされたものであり、排気通路に設置した排気ガス浄化用の触媒を効率的に昇温可能な可変バルブタイミング制御装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る可変バルブタイミング制御装置は上記課題を解決するために、排気通路に排気ガス浄化用の触媒が配置された内燃機関の排気バルブ及び吸気バルブの開閉タイミングを可変制御する可変バルブタイミング制御装置において、燃焼室内に燃料を直接噴射する燃料噴射手段と、前記燃焼室内の混合気に点火する点火手段と、前記内燃機関の冷態始動時に、空燃比がリーンとなるように前記燃料噴射手段から圧縮工程で燃料を噴射し、前記点火手段の点火時期を通常運転時より遅角させると共に、前記排気バルブ及び吸気バルブの開弁期間のオーバーラップ量を初期値に設定し、所定期間経過後に前記オーバーラップ量を前記初期値から増加させるように、前記排気バルブ及び吸気バルブを制御する制御手段とを備えたことを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、圧縮S/L制御時にオーバーラップ量が初期値に設定されてから所定期間(後述するように所定時間が経過するまでの期間でもよいし、触媒温度などの特定のパラメータが所定の判定値に達するまでの期間であってもよい)後にオーバーラップ量を増加する。これにより、冷態状態にあり、失火がより発生しやすい初期段階ではオーバーラップ量を小さく抑えることによって、触媒の昇温効果は小さいものの、失火発生を確実に防止することができる。一方、暖機が少なからず進み、失火のリスクが減少する初期段階以降ではオーバーラップ量を増加させることによって触媒の昇温を積極的に図り、迅速な触媒の活性化により優れた浄化作用効果が得られる。
【0009】
好ましくは、前記触媒の温度を検知する温度検知手段を備え、前記制御手段は、前記オーバーラップ量を初期値に設定してから所定時間経過し、前記触媒の温度が所定値以下である場合に前記所定期間に達したとして前記オーバーラップ量を増加させるとよい。これによれば、所定期間経過後の触媒温度が所定値以下である場合(即ち、触媒が活性していないと判定された場合)にオーバーラップ量を増加させることによって、触媒の活性化を促進し、排気浄化作用を向上できる。
【0010】
また好ましくは、前記制御手段は、前記排気バルブの閉弁時期を遅角させ、前記吸気バルブの開弁時期を進角させてオーバーラップ量を増加させるものであって、前記排気バルブの前記遅角の位相量は、前記吸気バルブの前記進角の位相量より大きく設定されているとよい。これによれば、排気バルブの遅角の位相量を、吸気バルブの進角の位相量に比べて大きく設定することにより、触媒が配置された排気通路に流入する排気ガス量を増加できるので、触媒の昇温の迅速化をより一層図ることができる。
【0011】
また、前記触媒の温度を検知する温度検知手段を備え、前記制御手段は、前記触媒の温度が該触媒の活性温度より低い判定値以上となった場合、前記オーバーラップ量を増加させてもよい。これによれば、触媒温度が判定値に達したか否かに基づいてオーバーラップ量の増加を開始することによって、触媒の昇温を促進させ、排気浄化作用を向上できる。このように本発明では、所定時間が経過したか否かに関わらず、触媒温度が判定値以上であるか否かのみを判断することによって、オーバーラップ量の増加を開始してもよい。
【0012】
また、前記温度検知手段で検知した温度が第1の閾値以下である場合、前記制御手段は、吸気通路に設けられたスロットルバルブの開度を通常運転時より大きく設定するとよい。この第1の閾値は、触媒温度が冷態状態であるか否かを判定するための閾値である。圧縮S/Lモードでは、上述したように通常運転時に比べて失火が発生しやすい状況下にある。そのため、この態様では、スロットルバルブの開度を大きく設定することにより、燃焼室に吸入する空気量を増加し、燃焼を促進することで失火の発生を抑制することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、圧縮S/L制御時にオーバーラップ量が初期値に設定されてから所定期間(後述するように所定時間が経過するまでの期間でもよいし、触媒温度などの特定のパラメータが所定の判定値に達するまでの期間であってもよい)後にオーバーラップ量を増加する。これにより、冷態状態にあり、失火がより発生しやすい初期段階ではオーバーラップ量を小さく抑えることによって、触媒の昇温効果は小さいものの、失火発生を確実に防止することができる。一方、暖機が少なからず進み、失火のリスクが減少する初期段階以降ではオーバーラップ量を増加させることによって触媒の昇温を積極的に図り、迅速な触媒の活性化により優れた浄化作用効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る可変バルブタイミング制御装置が搭載された車両の概略構成を示す模式図である。
【図2】圧縮S/Lモード時における点火プラグの点火時期に対する、(a)排気ガス中におけるNOxの含有量、(b)排気ガス中におけるTHCの含有量、(c)吸気通路2の吸気圧、(d)燃費率の関係を示すグラフ図である。
【図3】バルブオーバーラップ量と排気ガス温度及び排気ガス中に含まれるHC含有量との関係を示すグラフ図である。
【図4】第1実施形態に係る可変バルブタイミング制御装置の動作を段階毎に示すフローチャート図である。
【図5】エンジンに関連する各種パラメータの経時的推移を示すグラフ図である。
【図6】第2実施形態に係るバルブタイミング制御装置の動作を段階毎に示すフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態を例示的に詳しく説明する。但しこの実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
【0016】
図1は本発明に係るバルブタイミング制御装置が搭載された車両の概略構成を示す模式図である。エンジン1のシリンダヘッドには、吸気通路2及び排気通路3が燃焼室4に連通し得るように接続されている。吸気通路2と燃焼室4との間には吸気バルブ5が設けられることによって連通状態が制御可能になっていると共に、排気通路3と燃焼室4との間には排気バルブ6が設けられることによって連通状態が制御可能になっている。吸気バルブ5及び排気バルブ6には、それぞれ可変バルブタイミング調整装置7が備えられており(以下、適宜それぞれ「吸気可変動弁7a」及び「排気可変動弁7b」と称する)、開閉タイミングが調整可能に構成されている。尚、このバルブタイミング調整装置7の詳細な構造については公知であるため、詳細な説明は省略することとする。
【0017】
シリンダヘッドには、燃焼室4に燃料を直接噴射するために開口部を燃焼室側に向けて配置された燃料噴射手段である筒内噴射インジェクタ8が設けられている。また図1に示す吸気通路4の下流側は各気筒毎に燃焼室4に接続されたマニホールド部分であり、各気筒に対応してMPIインジェクタ9がそれぞれ設けられている。筒内噴射インジェクタ8及びMPIインジェクタ9には、図不示の低圧燃料ポンプ及び高圧燃料ポンプにより加圧される燃料が供給されるようになっており、燃焼室4及び吸気通路2に燃料が噴射されることによって、吸気と混合気を形成するようになっている。また、各気筒のシリンダヘッドの頂点近傍には、混合気に着火するための点火プラグ10が設けられている。
【0018】
尚、燃焼室4は、図不示のシリンダヘッドと、ピストン11とシリンダ12とから構成されている。ピストン11の上下運動はコンロッドを介して、図不示のクランクシャフトに伝達される。
【0019】
吸気通路2には、燃焼室4に流入する空気量を調整するための電子式スロットルバルブ13(以下、適宜「スロットル13」と称する)が設けられている。スロットル13の開度は、後述するECU15からの制御信号に基づいて電子的に制御可能に構成されている。
【0020】
排気通路3は、各気筒の燃焼室4から排気ガスを下流側に排出し、下流側に排気ガス中の有害成分(例えばHC(未燃分)、CO、NOxなど)を浄化するための触媒14が設けられている。本実施例では特に、触媒14は三元触媒であり、前段と後段に2段階に亘って設けられている。
【0021】
ECU15は、エンジン1を制御するための電子制御ユニットである。ECU15は、種々のセンサからの検知情報が入力される入力装置、車両各部への制御信号等を出力する出力装置、各種演算処理を行うCPU、該CPUで処理する各種データを記憶するためのROMやRAMなどの記憶装置などから構成されている。ECU15の具体的な構成については公知であるため、本明細書では詳細な説明を省略する。ここで、入力装置に検知情報を入力し得るセンサとしては、スロットル13の開度を検出するためのスロットルポジションセンサ16、触媒14に流入する排気ガスの温度を検出するために触媒の上流側に設置された触媒温度センサ17、エンジン1の冷却水の水温を検出するための水温センサ18、クランクシャフトの回転に同期して信号を出力することによりクランクシャフトの回転角を検出するクランク角センサ19、アクセルペダルの踏み込み具合を検出するためのアクセル開度センサ20が設けられている。
【0022】
またECU15の出力側には、点火プラグ10、筒内噴射インジェクタ8、MPIインジェクタ9、吸気可変動弁7a、排気可変動弁7b等が接続されている。これにより、点火プラグ10の点火時期、筒内噴射インジェクタ8及びMPIインジェクタ9の燃料噴射タイミングや燃料噴射量、吸気可変動弁7a及び排気可変動弁7bによる吸気バルブ5及び排気バルブ6の開閉タイミング(後述するオーバーラップを含む)などが、ECU15から出力された制御信号に基づいて制御されるようになっている。
【0023】
ここで図2及び図3を参照して、圧縮S/Lモードにおける排気ガスの浄化作用について具体的に説明する。図2は、圧縮S/Lモード時における点火プラグ10の点火時期に対する、(a)排気ガス中におけるNOxの含有量、(b)排気ガス中におけるTHCの含有量、(c)吸気通路2の吸気圧、(d)燃費率の関係を示すグラフ図である。尚、図2では筒内噴射インジェクタ8からの燃料噴射タイミングの遅角量を5°A、10°A、20°Aの場合について、それぞれ「△」「□」「○」のシンボルで示してある。
【0024】
圧縮S/Lモードでは、バルブオーバーラップ量を大きく設定すると共に、筒内噴射インジェクタ8からの燃料噴射時期を吸気工程時から圧縮工程時に遅角(リタード)させる。この遅角量を増加させると(すなわち、進角量が減少すると)、図2(a)及び図2(b)に示すように、排気ガス中に含まれるNOxやHCは低下していく。これは、燃料噴射時期の遅角量を大きくすることで排気ガスの昇温が迅速になり、触媒14が活性化されやすくなるためである。このような傾向は、図中の各シンボルを比較するとわかるように、筒内噴射インジェクタ8の噴射タイミングの遅角量が大きくなるほど顕著に現れる。
【0025】
続いて図3は、バルブオーバーラップ量と排気ガス温度及び排気ガス中に含まれるHC含有量との関係を示すグラフ図である。図3では、横軸が排気バルブ6の閉時期、縦軸が吸気バルブ5の開時期を示している。そして、図3で〔1〕で示す領域側ではバルブオーバーラップ量が小さく、〔2〕で示す領域側に向かうに従いバルブオーバーラップ量が大きくなる。尚、図3では〔1〕で示す領域が通常運転モードにおけるバルブオーバーラップ量を示しており、〔2〕で示す領域が圧縮S/Lモードにおけるバルブオーバーラップ量を示している。
【0026】
図3において実線は、排気ガスに含まれるHCの量が等しい等高線を示しており、排気バルブ6の閉時期が遅角、且つ、縦軸が吸気バルブ5の開時期が進角するに従い、HCの含有量が減少することが示されている。一方、一点鎖線は、排気ガスの温度を示しており、排気バルブ6の閉時期が遅角、且つ、縦軸が吸気バルブ5の開時期が進角するに従い、上昇することが示されている。つまり、圧縮S/Lモードではバルブオーバーラップ量が大きくなるに従って、排気ガスの温度上昇が促進されて、触媒14の活性化が促進される。
【0027】
但し、図3においてハッチングで示した領域aのように、オーバーラップ量が過大になると、燃焼室4における燃焼が悪化して、逆にHCが増加し、失火しやすくなるおそれがある。そのため、圧縮S/Lモードでは、このような不具合が生じない程度に、オーバーラップ量を大きく設定することが好ましい。
【0028】
(第1実施形態)
続いて図4及び図5を参照して、第1実施形態を説明する。図4は、第1実施形態に係るバルブタイミング制御装置の動作を段階毎に示すフローチャート図であり、図5はエンジン1に関連する各種パラメータの経時的推移を示すグラフ図である。以下、図4に示すフローチャートに従って制御内容を順に説明すると共に、それに伴うパラメータの変化を、適宜図5を参照して説明する。
【0029】
まず初期状態(時刻t0〜t1)では、車両は通常運転モードに設定されており、図5(a)に示すように、エンジン始動に伴い、排気ガス中に含まれるHCが増加し始める。このとき、図5(b)に示すように、触媒14の温度は低く、まだ十分な浄化作用を発揮できる状態にない。尚、この始動時には、スロットル開度、吸排気可変動弁、噴射タイミング、点火時期、エンジン回転数は予め用意されている目標マップ等に従って制御されている。
【0030】
まずECU15は、図不示の車速センサなどの検出値を取得することにより、車両が停止状態にあるか否かを判定する(ステップS101)。そして、車両が停止状態にある場合(ステップS101:YES)、ECU15は更に、アクセル開度センサ20の出力値を取得することにより、車両のドライバーが発進しようとする意思がないか否かを判定する(ステップS102)。尚、本実施例では、車両のドライバーが発進しようとする意思の有無をアクセル開度センサ20の検出値に基づいて判定するとしているが、これに限られず、例えば車両がアイドリング状態にある場合を示すアイドリングスイッチのON/OFFを判定することによって行ってもよい。
【0031】
ステップS102でドライバーの発進の意思が無いと判定された場合(ステップS102:YES)、ECU15は更に、水温センサ18の検出値Tが第1の閾値T1より低いか否かを判定することにより、エンジン1が冷態状態にあるか判断する(ステップS103)。この第1の閾値T1は、水温センサ18の検出値Tが何℃より低い場合に、エンジン1が冷態状態にあるとみなすかを理論的手法や実験的手法により予めECU15の記憶装置などに記憶したものを用いるとよい。
【0032】
エンジン1が冷態状態にある場合(ステップS103:YES)、ECU15は車両の各部に設置された各種センサの検出値をチェックすることにより、車両に異常が無いか否かを判定した後、車両の運転モードを「通常運転モード」から「圧縮S/Lモード」に切り替える。図5の例では、時刻t2において「通常運転モード」から「圧縮S/Lモード」への切り替えが行われている。これに続いて、ECU15は可変動弁7に対して以下に説明するように、条件に応じてバルブオーバーラップ量を可変制御することによって、従来の単純な圧縮S/Lモードに比べて、より効率よく、エンジン1の排気通路から排出される排気ガスを昇温させて触媒の活性化を図ることができる。
【0033】
尚、運転モードを圧縮S/Lモードにしている間は、ECU15において圧縮S/LモードフラグをONに設定しておき、ステップS104で行った各種センサの検出値のチェックを所定の期間毎に実行することによって、異常を検出した際にこのフラグをOFFにして、圧縮S/Lモードから通常運転モードに戻るようにするとよい。圧縮S/Lモードでは通常運転モードに比べて、エンジン1に失火が発生するおそれが多い(すなわち、エンジン1に負担がかかる)ため、このように異常時(例えば、各インジェクタに燃料を供給するポンプに異常があることにより燃料圧力が十分に得られない場合など)には負担の少ない通常運転モードに戻るようにすることで、車両が重大な故障状態に陥ることを回避するとよい。本実施例ではステップS104にて、圧縮S/LモードフラグがONになっているかの確認を行うようにしている。
【0034】
尚、上述したように、ステップS101乃至S103では圧縮S/Lモードを実行するための各種条件が判定されるが、いずれかの条件を満たさない場合もまた、運転モードを圧縮S/Lモードに切り替えることなく、通常運転モードが継続される(ステップS101:NO、ステップS102:NO、ステップS103:NO)。
【0035】
圧縮S/Lモードが実行されると、図5(f)において時刻t1後に示したように、点火プラグ10の着火時期を通常運転時より遅角(リタード)させると共に、オーバーラップ量を可変制御することによって空燃比がリーンとなるようにインジェクタより圧縮工程で燃料を噴射する。このように圧縮S/Lモードでは空燃比がリーンになっている上に着火時期もずれているため、燃焼室4における混合気の燃焼が不安定になり、失火しやすくなる場合がある。これは、内部EGRにより、排気バルブ6から排気ガスが燃焼室4に入り込んで燃焼室4内にCO2ガスが残存し易くなること、そして、エンジン1が冷態状態にあることにより、混合気の燃焼が緩慢になって失火が生じやすくなることに起因していると考えられる。図2及び図3を参照して説明したように、触媒14の昇温を迅速に行うためには、このようなオーバーラップやリタード量を大きく設定することにより、高温ガスの排気通路3への流量が多くなるようにすることが好ましい。しかしながら、圧縮S/Lモードの実行直後からオーバーラップ量を急に大きく設定すると、失火の発生リスクが大きくなってしまう。そのため、従来技術では、実際にはエンジン1の失火発生を防止するために、オーバーラップやリタード量を控えめに設定せざるを得ず、触媒14の昇温速度の改善が十分に図ることが難しかったという問題点がある。
【0036】
尚、オーバーラップ量の調整はECU15からの指令によって、排気バルブの閉弁時期を遅角、又は、吸気バルブの開弁時期を進角することによって行われる。本実施例では特に、排気バルブの閉弁時期を遅角させると共に、吸気バルブの開弁時期を進角することによりオーバーラップ量の調整を行っている。
【0037】
このような問題点は、以下に説明する制御によって解消される。まず、ECU15は、吸気可変動弁7a及び排気可変動弁7bの位相角を、それぞれ初期位相角θin_initial及びθout_initialに設定することによってオーバーラップ量を初期値に設定する(ステップS105)。このように設定されたオーバーラップ量の初期値は、圧縮S/Lモードの実行直後にオーバーラップ量が急激に大きくなることによって失火が生じるという事態が発生しない程度に、小さく設定されている。
【0038】
また、このときECU15は、図5(c)に示すように、吸気通路に設けられたスロットルバルブ13の開度を通常運転時より大きくなるように変更する。圧縮S/Lモードでは、上述したように通常運転時に比べて失火が発生しやすい状況下にある。そのため、スロットルバルブ13の開度を大きく設定することにより、燃焼室4に吸入する空気量を増加させ、燃焼を促進することで失火の発生を抑制している。
【0039】
また圧縮S/Lモードでは、更に図5(e)に示すように、ECU15は筒内噴射インジェクタ8の燃料噴射タイミングをエンジン1の圧縮工程時になるように制御する。これにより、圧縮S/Lモードでは、直噴タイミングが吸気工程である通常運転モードの場合に比べて混合気の燃焼スピードを速くできるので、後述するように点火プラグ10の着火時期を遅角できる幅を大きくすることができる。尚、MPIインジェクタ9の噴射タイミングも筒内噴射インジェクタ8と同様に、必要に応じて圧縮工程時に行うことで、HCの低減を図るとよい。
【0040】
続いて、ECU15はオーバーラップ量が初期値に設定されてから所定時間が経過した後(ステップS106:YES)、触媒温度センサ17の検出値Tを取得し、判定値T2より低いか否かを判定する(ステップS107)。ここで判定値T2は触媒14の活性温度である。エンジン1の始動後、動作期間が長くなるに従って暖機が進行するため、燃焼室4の燃焼は次第に安定し、失火しにくくなる。そのため、ステップS107では触媒14の温度をセンシングし、まだ触媒14の温度が判定値T2より低いために活性していないと判定された場合に(ステップS107:YES)、オーバーラップの増加を開始する(ステップS108)。尚、ステップS106にて所定期間が経過しない間、ECU15は処理をステップ105に戻し待機する。
【0041】
このように本実施例ではオーバーラップ量をまずは初期値に設定し、所定時間経過後、暖機の進行具合を考慮してオーバーラップ量の増加を開始することによって、失火発生を防止しながらも、効率的な触媒温度の昇温を行うことができる。
【0042】
尚、ステップS106における触媒14の温度検出は、触媒温度を直接検出することが難しい場合には、冷却水温度やエンジン始動時からの経過時間から推定するようにしてもよいし、ステップS103のエンジン1の冷態状態判定をそのまま用いてもよい。
【0043】
ステップS108におけるオーバーラップの増加は、図5(d)の時刻t2〜t3に示すように、時間の経過に従って所定の速度で増加するとよい。若しくは、各触媒温度においてエンジン1の燃焼が不安定にならないオーバーラップ値を予め規定しておき、触媒温度の検出結果に応じて適切なオーバーラップ値になるように増加させてもよい。
【0044】
本実施例では特に、ECU15はオーバーラップ量を調整する際には、排気バルブ6の遅角の位相量が、吸気バルブ5の進角の位相量より大きくなるように設定する。これによれば、触媒14が配置された排気通路に流入する排気ガス量を増加できるので、触媒14の昇温の迅速化をより一層図ることができる。
【0045】
そしてECU15は、オーバーラップ値がクリップ値に達したか否かを判定し(ステップS109)、オーバーラップ値を十分に大きくなるまで変化させる。そして、図5(d)の時刻t3〜t4に示すようにクリップ値に達すると(ステップS109:YES)、圧縮S/Lモードを終了し(ステップS110)、通常運転モードに移行する(ステップS111)。尚、圧縮S/Lモードの終了タイミングは、例えばオーバーラップ値がクリップ値に到達した後の経過時間に基づいて設定するとよい。
【0046】
ステップS111における通常運転モードでは、点火時期は目標マップ値に基づいて設定され、空燃比は目標マップ値に設定された後、適宜フィードバック制御され、エンジン1のアイドル回転数は適宜フィードバック制御されるが、これらの制御は公知であるため、ここでは詳細な説明は省略することとする。尚、このような一連の制御は、車両の始動時に自動的に実行されるように予めプログラミングされているとよい。
【0047】
(第2実施形態)
続いて図6を参照して、第2実施形態について説明する。図6は、第2実施形態に係るバルブタイミング制御装置の動作を段階毎に示すフローチャート図である。なお、エンジン1に関連する各種パラメータの経時的推移は第1実施形態で示した図5と同一である。以下、図6に示すフローチャートに従って制御内容を順に説明する。ただし、ステップS201からステップS206までは第1実施形態のステップS101からステップS106と同一であるため説明を省略する。
【0048】
ECU15はステップS206にてオーバーラップ量が初期値に設定されてから所定時間が経過した後、触媒温度センサ17の検出値Tを取得し、判定値T3より高いか否かを判定する(ステップS107)。ここで判定値T3は触媒14の活性温度(第1実施形態のT2に相当)より低い温度値として規定されたものである。エンジン1の始動後、動作期間が長くなるに従って暖機が進行するため、燃焼室4の燃焼は次第に安定し、失火しにくくなる。そのため、ステップS207では触媒14の温度をセンシングし、その検出値が判定値T3より高くなることにより暖機がある程度進行したと判定された場合に(ステップS207:YES)、オーバーラップの増加を開始する(ステップS208)。尚、ステップS206にて所定期間が経過しない間、ECU15は処理をステップ205に戻し待機する。ステップS208におけるオーバーラップの増加は、図5(d)の時刻t2〜t3に示すように、時間の経過に従って所定の速度で増加するとよい。若しくは、各触媒温度においてエンジン1の燃焼が不安定にならないオーバーラップ値を予め規定しておき、触媒温度の検出結果に応じて適切なオーバーラップ値になるように増加させてもよい。
【0049】
そしてECU15は、オーバーラップ値がクリップ値に達したか否かを判定し(ステップS209)、オーバーラップ値を十分に大きくなるまで変化させる。そして、図5(d)の時刻t3〜t4に示すようにクリップ値に達すると(ステップS209:YES)、圧縮S/Lモードを終了し(ステップS210)、通常運転モードに移行する(ステップS211)。尚、圧縮S/Lモードの終了タイミングは、例えばオーバーラップ値がクリップ値に到達した後の経過時間に基づいて設定するとよい。
【0050】
ステップS211における通常運転モードでは、点火時期は目標マップ値に基づいて設定され、空燃比は目標マップ値に設定された後、適宜フィードバック制御され、エンジン1のアイドル回転数は適宜フィードバック制御される。
【0051】
このように本実施例ではオーバーラップ量をまずは初期値に設定し、所定時間経過後、暖機の進行具合を考慮してオーバーラップ量の増加を開始することによって、失火発生を防止しながらも、効率的な触媒温度の昇温を行うことができる。
【0052】
尚、本実施例では所定時間の経過後、且つ、触媒温度が判定値T3より高い場合にオーバーラップ量の増加を開始するとした。これに対し、オーバーラップ量の増加開始の条件としては、触媒温度が判定値T3より高いか否かだけであってもよい。
【0053】
以上説明したように本発明によれば、圧縮S/L制御時にオーバーラップ量が初期値に設定されてから所定期間(所定時間が経過するまでの期間でもよいし、触媒温度などの特定のパラメータが所定の判定値に達するまでの期間であってもよい)後にオーバーラップ量を増加する。これにより、冷態状態にあり、失火がより発生しやすい初期段階ではオーバーラップ量を小さく抑えることによって、触媒14の昇温効果は小さいものの、失火発生を確実に防止することができる。一方、暖機が少なからず進み、失火のリスクが減少する初期段階以降ではオーバーラップ量を増加させることによって触媒の昇温を積極的に図り、迅速な触媒の活性化により優れた浄化作用効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、排気通路に排気ガス浄化用の触媒が配置された内燃機関の排気バルブ及び吸気バルブの開閉タイミングを可変制御する可変バルブタイミング制御装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0055】
1 エンジン
2 吸気通路
3 排気通路
4 燃焼室
5 吸気バルブ
6 排気バルブ
7 可変動弁
7a 吸気可変動弁
7b 排気可変動弁
8 筒内噴射インジェクタ
9 MPIインジェクタ
10 点火プラグ
11 ピストン
12 シリンダ
13 電子式スロットルバルブ(スロットル)
14 触媒
15 ECU
16 スロットルポジションセンサ
17 触媒温度センサ
18 水温センサ
19 クランク角センサ
20 アクセル開度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気通路に排気ガス浄化用の触媒が配置された内燃機関の排気バルブ及び吸気バルブの開閉タイミングを可変制御する可変バルブタイミング制御装置において、
燃焼室内に燃料を直接噴射する燃料噴射手段と、
前記燃焼室内の混合気に点火する点火手段と、
前記内燃機関の冷態始動時に、空燃比がリーンとなるように前記燃料噴射手段から圧縮行程で燃料を噴射し、前記点火手段の点火時期を通常運転時より遅角させると共に、前記排気バルブ及び吸気バルブの開弁期間のオーバーラップ量を初期値に設定し、所定期間後に前記オーバーラップ量を前記初期値から増加させるように、前記排気バルブ及び吸気バルブを制御する制御手段とを備えたことを特徴とする可変バルブタイミング制御装置。
【請求項2】
前記触媒の温度を検知する温度検知手段を備え、
前記制御手段は、前記オーバーラップ量を初期値に設定してから所定時間経過し、前記触媒の温度が所定値以下である場合に前記所定期間に達したとして前記オーバーラップ量を増加させることを特徴とする請求項1に記載の可変バルブタイミング制御装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記排気バルブの閉弁時期を遅角させ、前記吸気バルブの開弁時期を進角させてオーバーラップ量を増加させるものであって、
前記排気バルブの前記遅角の位相量は、前記吸気バルブの前記進角の位相量より大きく設定されることを特徴とする請求項1または2に記載の可変バルブタイミング制御装置。
【請求項4】
前記触媒の温度を検知する温度検知手段を備え、
前記制御手段は、前記触媒の温度が該触媒の活性温度より低い判定値以上となった場合、前記オーバーラップ量を増加させることを特徴とする請求項1に記載の可変バルブタイミング制御装置。
【請求項5】
前記温度検知手段で検知した温度が第1の閾値以下である場合、前記制御手段は、吸気通路に設けられたスロットルバルブの開度を通常運転時より大きく設定することを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の可変バルブタイミング制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−2348(P2013−2348A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−133742(P2011−133742)
【出願日】平成23年6月15日(2011.6.15)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】