説明

同期電動機の制御システム

【課題】
同期電動機を120度通電方式から180度通電方式に切り替える際に、切換速度より小さい速度付近で120通電方式のでは電流位相が進んで力率が悪化する問題があった。停止状態から中高速域に至る広い速度範囲において、トルクショックの小さいシームレス駆動を行うことができる同期電動機の制御システムを提供する。
【解決手段】
同期電動機を120度通電方式で起動し、その後、180度通電方式に切り替えて駆動する制御システムで、120度通電方式から180度通電方式へ切り替える際に、120度通電中の力率を改善する力率改善手段を設け、この力率の改善された120度通電方式から180度通電方式に切り替えて同期電動機を駆動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は同期電動機の駆動システムに係り、特に、回転子の磁極位置を位置センサを使用しないで推定して同期電動機の回転数やトルクを制御するものに好適な同期電動機の制御システム関するものである。
【背景技術】
【0002】
家電分野、産業機器分野、自動車分野等の技術分野では、例えば、ファン、ポンプ、圧縮機、コンベア、昇降機等の回転速度制御、並びにトルクアシスト制御、位置決め制御等に電動機駆動装置が用いられている。
【0003】
これらの技術分野の電動機駆動装置では、永久磁石を用いた小形で高効率の同期電動機が幅広く用いられている。そして、同期電動機を駆動するには、電動機の回転子の磁極位置の情報が必要であり、そのため磁極位置を検出するレゾルバやホールIC等の位置センサが必要であった。
【0004】
ところで、近年ではこのような位置センサを用いずに同期電動機の回転数制御やトルク制御を行う“センサレス制御”と呼ばれる技術が普及してきている。このセンサレス制御の実用化によって、位置センサの設置に必要な費用(位置センサ自体の費用や位置センサの配線にかかる費用)が削減でき、また、位置センサが不要となる分だけ装置の小型化や、劣悪な環境での使用が可能になるといった大きな効果が得られるようになっている。
【0005】
現在、同期電動機のセンサレス制御は、ロータが回転することによって発生する誘起電圧(速度起電圧)を直接検出して回転子の位置情報として同期電動機の駆動を行う方式や、対象となるモータの数式モデルから回転子位置を推定演算して求める位置推定方式などが採用されている。
【0006】
しかしながら、位置センサの設置に必要な費用が削減でき、また、位置センサが不要となる分だけ装置の小型化や、劣悪な環境での使用が可能になるといった大きな効果があるセンサレス制御であるが、これらのセンサレス制御にも低速運転時の位置検出方法に大きな課題があった。
【0007】
具体的には、現在実用化されている大半のセンサレス制御は、同期電動機の発生する誘起電圧(速度起電圧)に基づくものであるため、誘起電圧の小さい零速度近傍(実質的な停止状態)や低速度域では誘起電圧の検出感度が低下してしまい位置情報がノイズに埋もれるという課題があった。
【0008】
このような課題に対して、例えば特開2009−189176号公報(特許文献1)にあるように、同期電動機の120度通電制御を基礎とした低速度域におけるセンサレス制御方式が提案されており、速度誘起電圧の小さい低速度領域において非通電相(開放相)の起電圧に基づいて回転子の位相と速度を推定して同期電動機を制御することができるようになってきている。
【0009】
また、特開2004−048886号公報(特許文献2)では、同期電動機に印加する電圧(V)と周波数(F)との関係を一定に制御する第1の制御系(V/F一定制御系)を低速域で、同期電動機の駆動電圧の振幅と位相を制御する第2の制御系(電圧ベクトル制御系)を中高速域に適用し、同期電動機の速度に応じて両駆動方式を切り替えて停止状態から高速域に至る広い速度範囲において、高トルクで高性能な制御特性を向上させている。
【0010】
更に、駆動方式を切り替える構成の従来例としては、特開2003−111469号公報(特許文献3)がある。特許文献3では、間欠通電(120度通電)駆動と180度通電駆動を切り替える際に、同期電動機の回転数変動を抑えるため、一方の駆動方式における切り替え時の駆動信号を補正して、他方の駆動方式における駆動信号として制御の安定化を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2009−189176号公報
【特許文献2】特開2004−048886号公報
【特許文献3】特開2003−111469号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上記従来技術では、例えば特許文献1の発明では、同期電動機が停止或いは低速域において良好な制御性能を得ることができるが、中高速域に至る広い速度範囲においては、速度誘起電圧が大きくなるため、非通電相(開放相)起電圧の閾値に誤差が発生して、電流波形が歪んで力率が低下するようになり、その結果、同期電動機を高トルク・高性能に制御ができない問題がある。
【0013】
一方、特許文献2の発明では、中高速域に至る広い速度範囲において良好な制御性能を得ることができるが、従来技術のV/F一定制御を用いる低速の領域では、トルク特性が劣化して脱調し易く、また、中高速方式へのトルクショックの小さいスムーズな切り替え、いわゆるシームレス駆動ができない問題がある。
【0014】
また、特許文献3の発明では、駆動方式切り替え時に駆動信号を補正することで、回転数変動を抑制することは可能であるが、この場合電流位相を考慮していないため切り替え前後で電流波形が歪むことによって、脈動トルクが増大する問題がある。また、停止・低速域における位置センサレス、ならびに駆動切り替えへの対策については何ら記載されていない。
【0015】
本発明の目的は停止或いは低速状態から中高速域に至る広い速度範囲において、位相及び速度を高精度に推定でき、しかもトルクショックの小さいシームレス駆動を行うことで高性能な制御特性を実現できる同期電動機の制御システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の特徴は、同期電動機を120度通電方式で起動し、その後回転速度が所定値以上に上昇した場合に180度通電方式に切り替えて駆動するものとし、120度通電方式から180度通電方式へ切り替える際に、120度通電中の力率を改善する力率改善手段を設け、この力率の改善された120度通電方式から180度通電方式に切り替えて駆動したことを特徴とする同期電動機の制御システムにある。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、停止状態から中高速域に至る広い速度範囲において、トルクショックの小さいシームレス駆動ができ、高性能な制御特性を実現できる同期電動機の制御システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施例になる同期電動機の駆動システムを示すブロック図である。
【図2】同期電動機の二相にパルス電圧を印加する場合の模式図である。
【図3】図2に示すパルス電圧印加に伴う非通電相(開放相)に生じる誘起電圧を示す特性図である。
【図4】通電モードに対応した開放相に発生する誘起電圧の特異製図である。
【図5】通電モードに対応した非通電相(開放相)電圧と基準電圧(閾値)の関係を示す特性図である。
【図6】図1に示す基準レベル切替器の構成を示す構成図である。
【図7】図1に示す位相量子化器の通電モードを示す通電モード図である。
【図8】図1に示す同期電動機に流れる相電流波形を示す波形図である。
【図9】本発明の他の実施例になる同期電動機の駆動システムの主要部である位相・速度推定演算部の構成を表すブロック図である。
【図10】本発明の更に他の実施例になる同期電動機の駆動システムの主要部である位相・速度推定演算部の構成を表すブロック図である。
【図11】本発明の更に他の実施例になる同期電動機の駆動システムの構成を示すブロック図である。
【図12】本発明の同期電動機の駆動システムにおける同期電動機の回転速度に対する通電方式と位相推定方式の組み合わせを示した領域を示す領域説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施例を図1乃至図11を用いて詳細に説明するが、各図中において、共通する符号は同一物、或いは機能が均等のものを示している。
【0020】
また、ここでは制御対象となる同期電動機を回転子に永久磁石を用いた同期電動機について示したが、他の同期電動機(例えば、回転子に界磁巻線を使用したもの、あるいはリラクタンストルクによって駆動される電動機など)でも本発明の技術的思想を適用でき、ほぼ同様の効果を得ることができるものである。
【実施例1】
【0021】
図1は本発明の第1の実施例になる同期電動機の駆動システムの構成を示すブロック図である。図1に示すように、第1の実施例である同期電動機の駆動システムは、制御対象となる同期電動機4と、この同期電動機4と接続され、複数のスイッチング素子により構成される電力変換器(いわゆるインバータ装置)2と、この電力変換機2に対し、電圧指令を出力して同期電動機4を制御する複数の機能部よりなる制御器を有している。
【0022】
この制御器は、同期電動機4の三相巻線のうち通電する二相を選択してパルス電圧を印加し、パルス印加時の非通電相(開放相のことであるが以下すべて非通電相という。)の起電圧に基づいて位相(回転子の磁極位置)、並びに速度を推定する手段(モード切替トリガー発生器8、速度変換部20)、及び同期電動機の速度起電圧に基づいて位相、並びに速度を推定する手段(位相・速度推定演算部15)の2つの推定手段と、それぞれ2つの推定手段を切り替える切り換え手段(201b)と、同期電動機を120度通電で駆動する駆動手段(120度通電方式部である制御器30)、及び同期電動機を180度通電で駆動する駆動手段(180度通電方式部である制御器31)の2つの駆動手段と、それぞれ2つの駆動手段を切り替える切り換え手段(201a)とを備えて構成されている。
【0023】
はじめに、停止・低速域における停止・低速域制御装置部の構成、並びに制御方式について説明する。
【0024】
この停止・低速域制御装置部は同期電動機4の印加電圧指令V*を出力する電流制御演算部(I)1aと、同期電動機4への印加電圧を演算し、電力変換器2へのパルス幅変調波(PWM)信号を生成するパルス幅変調部(I)12aと、パルス幅変調部(I)12aの信号を受けて、ゲートドライバ7を介して交流電圧を発生する電力変換部2と、これらによって制御される同期電動機4から構成されている。
【0025】
電流制御演算部(I)1aでは、図示しない上位制御装置から与えられる第1のq軸電流指令値Iqとq軸電流検出値Iqcを加算器23aで演算した後の電流指令値から同期電動機4への印加電圧指令Vを出力する。
【0026】
パルス幅変調部(I)12aでは、電圧指令Vに基づき、パルス幅変調された120度通電波を作成する。通電モード決定器6では、電力変換機2を構成する主回路部の6通りのスイッチングモードを決定する指令を順次出力する。
【0027】
ゲートドライバ7では、電力変換機2の主回路部の各々のスイッチング素子を直接駆動して同期電動機4に電圧指令Vに相当する電圧を印加する。
【0028】
また、通電モード決定器6は、切り替えスイッチ201bが発生する信号によって、通電モードを切り替えていく。更に、切り替えスイッチ201bは、120度通電方式のモード信号を選択するスイッチでもあり、低速時には、スイッチをLb側にして、モード切替トリガー発生器8の信号に基づいて、モードを切り替える。所定の速度以上になった場合には、切り替えスイッチ201bをHb側に切り替えて、位相・速度推定演算部15の信号に基づいてモードの切り替えを行う。
【0029】
モード切替トリガー発生器8は、基準レベル切替器9と、同期電動機4の非通電相起電圧の基準となる閾値を発生する比較器11と、同期電動機4の端子電圧の中から、非通電相をモード指令に基づいて選択する非通電相電位選択部10とからなる。
【0030】
また、比較器11の出力は、速度変換部20を介して速度ω1Lに変換され、速度判定器21において後で述べる切替速度V1または切替速度V2であるかを判定し、速度が切替速度V2以下の場合、制御器30と、位相変換部22で得られた非通電相起電圧に基づく位相、並びに速度の推定方式を用いて同期電動機を駆動する。つまり、切り換えスイッチ201a、201bを低速側La、Lbに切り替えるものである。
【0031】
尚、制御器30、すなわち120度通電方式は同期電動機4の三相巻線から2つの相を選択して電圧を印加してトルクを発生させるものであり、その2つの相の組み合わせは6通り存在し、それぞれを通電モード1〜通電モード6と定義している。ここで、3つの巻線はそれぞれ周知の通りU相、V相、W相と定義されている。
【0032】
図2(a)は、V相からW相へ通電している状態のモード(後述するように通電モード3に対応する)を示し、同図(b)は反対にW相からV相へ通電している状態の通電モードを示すものである。
【0033】
これらに対して、回転子の位置角度を電気角一周期分変化させた場合の非通電相であるU相に現れる起電圧は図3のようになり、回転子位置によってU相の起電圧が変化する様子がわかる。
【0034】
この起電圧は速度誘起電圧ではなく、V相とW相に生じる磁束の変化率の差異が非通電相であるU相にて電圧として観測されたものであり、速度誘起電圧と区別する。
【0035】
そして、図3において低速時の実線で示す正パルス時の非通電相の電圧及び破線で示す負パルス時の非通電相の起電圧はいずれも速度誘起電圧Emuに比べて大きいことがわかる。
【0036】
したがって、速度誘起電圧に代えてこの非通電相の起電圧を検出すれば同期電動機4の回転が零速度近傍から低速度域に亘って比較的大きな回転子の位置信号が得られるものである。
【0037】
図4は、U相、V相及びW相の非通電相時の起電圧、電力変換器2を構成するスイッチング素子のゲート信号、同期電動機の回転位相角θd、並びに通電モードを示している。
【0038】
上述した図2(a)、(b)に示した電圧パルスは、120度通電の通常の動作中に印加され、位相角θdに応じて60度毎に通電する2相が切替えられている。つまり、非通電相も順次切替えられていくものである。
【0039】
図4において、通電モード3、ならびに通電モード6がそれぞれ図2(a)、(b)の状態と等価であり、この時U相は非通電相であるため非通電相としての起電圧は太い矢印のところで現れるようになる。すなわち、通電モード3ではマイナス方向に減少し、通電モード6ではプラス方向に増加するような起電圧が観測されることになる。
【0040】
当然のことながら非通電相は順次切り替えられていくので、V相が非通電相である場合は通電モード2と通電モード5で非通電相の起電圧は太い矢印のところで現れ、通電モード2ではプラス方向に増加し、通電モード5ではマイナス方向に減少するような起電圧が観測される。
【0041】
同様にW相が非通電相である場合は通電モード1と通電モード4で非通電相の起電圧は太い矢印のところで現れ、通電モード1ではマイナス方向に減少し、通電モード4ではプラス方向に増加するような起電圧が観測される。
【0042】
図5に、通電モードと非通電相、並びに非通電相の起電圧の関係を示しており、通電モードが切り替わる毎に非通電相の起電圧が正と負でそれぞれに上昇と減少を繰り返す様子がわかる。そこで、正側、負側にそれぞれ閾値となる基準電圧(Vhp、Vhn)を設定しておき、この基準電圧と非通電相の起電圧の大小関係から位相を推定することができ、これによって通電モード切替のトリガー信号を発生させることができる。
【0043】
つまり、基準電圧が通電モードを切り替える所定の位相を表す値として見做され、これを実際の非通電相の起電圧が超えるとその時点でモード切替トリガー信号が発生されて通電モードが切り替えられるものである。したがって、この基準電圧は暫定的に決められたものであるが、停止・低速状態では十分位相を推定できる実力を有している。
【0044】
これらの動作をモード切替トリガー発生器8にて実現しており、非通電相電位選択器10にて通電モードに応じた非通電相を選択し、その相の起電圧を検出している。また、正転方向の閾値となる基準電圧を発生する図6に示す基準レベル切替器9にて正側基準電圧Vhpと負側基準電圧Vhnを発生する。つまり、切換スイッチ113によって通電モード2、4、6では正側基準電圧Vhpを発生し、通電モード1、3、5では負側基準電圧Vhnを発生する。
【0045】
そして、先の非通電相の起電圧と、正側基準電圧Vhpと負側基準電圧Vhnを閾値として比較器11に入力してその値の比較を行い、非通電相の起電圧が閾値に到達した時点でモード切替トリガー信号を発生して通電モードを正回転方向に進める。以上が、零速度近傍にトルクを発生させるための基本的な動作である。
【0046】
図6に同期電動機4の非通電相の起電圧の基準となる基準電圧を発生する基準レベル切替器9の構成を示している。基準レベル切替器9は、正側基準電圧設定器111、負側基準電圧設定器112、切り替えスイッチ113の機能部品から構成されている。通電モード指令が通電モード1、3、5の場合、切り替えスイッチ113を状態1側にして閾値である基準電圧をVhpにし、通電モード指令がモード2、4、6の場合には切り替えスイッチ113を状態2側にして基準値をVhnに設定する。
【0047】
比較器11では、この正側基準電圧Vhp及び負側基準電圧Vhnと、非通電相の起電圧の大きさを比較して通電モード切替のトリガー信号を発生する。これによって、回転する回転子の位置に応じて、適切なモータ駆動トルクが得られる。非通電相の誘起電圧は、速度起電圧によるものではなく、磁束の変化に基づく起電圧(変圧器起電圧)であるため、停止或いは極低速状態であっても感度よく検出することができる。
【0048】
以上のように、非通電相の起電圧を検出してやれば停止した状態や極低速時の回転子位置を精度良く検出することができる。また、これに基づきて回転速度も求められるものである。
【0049】
ところが、非通電相の起電圧に対して回転速度が大きくなるにつれて速度起電圧のほうが支配的となり、速度起電圧の影響が大きい中高速域においては感度が低下して検出精度が劣化するため駆動方式を切り替える必要がある。
【0050】
次に、中高速域における中高速域制御装置部の構成、ならびに制御方式について説明すると、位置センサを使用しない技術としては、特開2006−20411号公報に記載のようにベクトル制御を行う方式がある。
【0051】
同期電動機4をベクトル制御するための電流制御演算部(II)1b、ならびに電圧ベクトル制御演算部13と、電圧ベクトル制御演算部13からの信号と位相推定部19からの位相推定値θcから座標変換する座標変換部14aと、電力変換器2へのPWM信号を生成するパルス幅変調部(II)12bと、パルス幅変調部(II)12bの信号を受けて、ゲートドライバ7を介して交流電圧を発生する電力変換器2と、同期電動機4に流れる三相の交流電流Iu、Iv、Iwを検出する電流検出器3と、これらによって制御される同期電動機4から構成されている。
【0052】
座標変換部14bでは、三相の交流電流Iu、Iv、Iwの検出値Iuc、Ivc、Iwcと位相推定部19からの位相推定値θcからd軸およびq軸の電流検出値Idc、Iqcを出力する。
【0053】
軸誤差推定演算部17では、d軸およびq軸の第2の電圧指令値Vd**、Vq**、速度推定値ω1H、d軸およびq軸の電流検出値Idc、Iqcおよび同期電動機の電気定数に基づいて、位相推定値θcと同期電動機のd軸位相θdとの偏差である軸誤差の推定演算を以下の式(数1)により行い、推定値Δθcを出力する。
【0054】
【数1】

ここで、R1:一相当たりの巻線抵抗値、 Lq:q軸インダクタンス値 、:設定値
そして、加算器23dによって「零」である軸誤差の指令値Δθcと軸誤差の推定値Δθcとの偏差を求め、この偏差から速度推定部18では速度推定値ω1Hを出力する。
【0055】
また、位相推定部19では、速度推定値ω1Hを積分して、座標変換部14a、14bに位相推定値θcを出力する。
【0056】
更に、電流制御演算部(II)では、図示しない上位制御装置から与えられるd軸およびq軸の第1の電流指令値Id、Iqと、d軸およびq軸の電流検出値Idc、Iqcとから加算器23b、加算器23cによってd軸およびq軸の第2の電流指令値Id**、Iq**を出力する。
【0057】
また、電圧ベクトル演算部13では、同期電動機4の電気定数と、d軸およびq軸の第2の電流指令値Id**、Iq**および速度推定値ω1Hに基づいて、以下の行列式(数2)に示すd軸およびq軸の第2の電圧指令値Vd**、Vq**を出力する。
【0058】
【数2】

ここで,L:d軸インダクタンス値、 K:誘起電圧定数
そして、座標変換部14aでは、前記電圧指令値Vd**、Vq**と位相推定値θcから三相交流の電圧指令値VU、VV、VWを出力する。
【0059】
尚、制御器31、すなわち180度通電方式は同期電動機の三相巻線の全てに電圧を印加してトルクを発生させるように作動する。
【0060】
ここで、速度推定値ω1Hは、速度判定器21で切替速度となるV1またはV2であるかを判定し、速度がV1より大きい場合、制御器31と、速度起電圧に基づく位相、ならびに速度の推定方式を用いて同期電動機を駆動する。つまり、切り換えスイッチ201a、201bを中高速側Ha、Hbに切り替えるものである。以上が中高速制御装置部の構成、ならびに制御方式である。
【0061】
上述したように、極低速側では通電方式を120度通電方式にする共に非通電相の起電力によって回転子の位相や速度を推定し、中高速側では通電方式を180度通電方式にする共に速度起電圧によって回転子の位相や速度を推定して電力変換器2を制御するようにしたので同期電動機4を高精度に駆動することが可能となった。
【0062】
しかしながら、このように同期電動機4の回転速度によって通電方式を120度通電方式から180度通電方式に切り換える際にトルクショックを伴うことが判明した。
【0063】
この理由は、120度通電方式を利用して得られる非通電相の起電圧と正側(負側)基準電圧の大小関係から通電モード切替信号(位相)を類推していることに起因している。
【0064】
前述したように、正側(負側)基準電圧が通電モードを切り替える所定の位相を表す値として見做され、これを実際の非通電相の起電圧が超えるとその時点で通電モード切替トリガー信号が発生されて通電モードが切り替えられるものであるが、この基準電圧は予め決められたものである。
【0065】
したがって、回転速度が低い場合は非通電相の起電圧に比べて速度誘起電圧が低いので両者が加算されてもさほど通電モード切替信号の発生時期は影響されないが、回転速度が上昇するにつれて速度誘起電圧が大きくなってくるとこの速度誘起電圧の増加分だけ早く正側(負側)基準電圧より大きくなる。
【0066】
このため通電モード切替信号が正規の位相より早く発生されて電流の位相が進むことになり、結果として力率が悪化する傾向を示し、通電方式を120度通電方式から180度通電方式に切り換える際にトルクショックを伴うようになるものである。
【0067】
そこで、本発明では通電方式を120度通電方式から180度通電方式に切り換える際にトルクショックを伴わない、或いはトルクショックを抑制した切り換え制御を提案するものである。
【0068】
以下、本発明の特徴であるトルクショックを伴わない、或いはトルクショックを抑制したトルクショックの小さいシームレス駆動方式について説明する。
【0069】
本発明の一つの特徴は、同期電動機4を低速域では120度通電方式で起動し、その後、回転速度が上昇してくると180度通電方式に切り替えて駆動するものを基本とし、120度通電方式から180度通電方式へ切り替える際に、120度通電中の力率を改善する力率改善手段を用いて通電方式を切り替えるとようにしたものである。
【0070】
具体的には、速度判定器21で判定された速度ω1Lないしω1Hが第1切換速度V1より大きい場合は速度起電力に基づく位相推定部19による位相推定値θcを用いた180度通電方式とし、速度判定器21で判定された速度ω1Lないしω1Hが第1切換速度V1より小さい場合は非通電相の起電圧に基づくモード切替トリガー発生器8によるモード切替信号を用いた120度通電方式を基本とする。
【0071】
そして、第1切換速度V1とこの第1切換速度V1より小さい第2切換速度V2の間ではモード切替トリガー発生器8の信号を使用せずに位相推定部19の出力値である位相推定値θcに基づいて、通電モードを決定するようにしたものである。
【0072】
図12にこの制御方式を模式的に示しており、同期電動機の回転速度領域を少なくとも第1領域と第2領域及び第3領域に分割し、前記各領域を区切る回転速度V1、V2の関係が第1領域<第2領域<第3領域となるようにV2<V1に設定している。
【0073】
図12において切換速度V1以上の第3領域では180度通電方式を採用し、その位相は速度起電力に基づく位相推定部19による位相推定値θcを用いている。また、切換速度V1以下の第2領域及び第1領域では120度通電方式を採用し、その位相は2つの位相推定値を切り替えて使用している。
【0074】
つまり、切換速度V2以下の第1領域では非通電相の起電圧に基づくモード切替トリガー発生器8によるモード切替信号を用いているのに対し、切換速度V1と切換速度V2の間の第2領域では速度起電力に基づく位相推定部19による位相推定値θcを用いているものである。
【0075】
このように、180度通電方式で使用される速度起電力に基づいた位相推定値θcを用いて120通電方式のモード切替信号を用いている点が新しいものである。
【0076】
ここで、第2領域の幅(V1とV2の間の回転速度範囲)は第1領域の幅(停止或いは極低速からV2の間の回転速度範囲)及び第3領域の幅(V1から最大速度の間の回転速度範囲)より小さい幅に設定されている。
【0077】
図1に戻って、速度判定器21で判定された速度ω1Lないしω1Hが第2切換速度V2より小さい場合は切り換えスイッチ201aはLaの低速側位置に制御され、且つ切り換えスイッチ201bはLbの低速側位置に制御される。このため、このときの動作としては先に説明した停止・低速域制御の動作を行う。この場合は第1領域に相当する領域である。
【0078】
一方、速度判定器21で判定された速度ω1Lないしω1Hが第1切換速度V1より大きい場合は切り換えスイッチ201aはHaの高速側位置に制御され、且つ切り換えスイッチ201bはHbの高速側位置に制御される。このため、このときの動作としては先に説明した中高速域制御の動作を行う。この場合は第3領域に相当する領域である。
【0079】
更に、速度判定器21で判定された速度ω1Lないしω1Hが、第1切換速度V1より小さく第2切換速度V2より大きい場合は、切り換えスイッチ201aはLaの低速側位置に制御され、且つ切り換えスイッチ201bはHbの高速側位置に制御される。この場合は第2領域に相当する領域である。
【0080】
このとき、速度誘起電力は非通電相の起電圧による場合に比べて正確な位相を導き出せる程度まで上昇しているので位相推定部19で推定される位相推定値θcはかなり正確に連続的な値を取得することができる。
【0081】
ここで、この位相推定値θcを120度通電方式に適用できるように変換することが必要となるが、これは位相推定部19の位相推定値θcを位相量子化器16によってその変換が実施できるものである。
【0082】
図7に示してあるように、位相量子化器1は位相推定部19で得られた連続した位相推定値θcを60度毎に量子化して階段状に位相を決定し、この位相にしたがって通電モードを選択していくようにするものである。量子化に際しては、例えば連続した位相推定値θcの60度毎の中央値を通電モード切り替えトリガー信号として用いれば良いものであるが、これはそのシステムで最適な位相を選ぶように適宜決められるものでもある。
【0083】
このように、位相量子化器16においては位相推定値θcを60度毎に更新される値に変換し、通電モード決定器6ではこの位相量子化器16が発生する信号によって、1周期(360°)で6つの通電モードに切り替えていくように作動するものである。
【0084】
これによって、先に述べたような回転速度が上昇するにつれて速度誘起電圧が大きくなってくるとこの速度誘起電圧の増加分だけ早く正側(負側)基準電圧より大きくなることで電流の位相が進むことによって力率が悪化するという課題を解決することが期待できる。
【0085】
つまり、切換速度V1で120度通電方式から180度通電方式へ切り替える場合に、120度通電方式で使用していた非通電相の起電圧から通電モードを切り替える方式だと切換速度V1より低く且つ切換速度V1付近で速度起電圧の増加分だけ電流の位相が進むの対し、本実施例では切換速度V1と切換速度V2の間では速度起電力に基づく位相推定部19による位相推定値θcを用いているので、非通電相の起電圧から通電モードを切り替える方式に比べて正確な位相が推定できるので電流位相の進みが少なくなり力率が改善できるものである。この結果、トルクショックの小さいシームレス駆動が可能となるものである。
【0086】
ここで、前記同期電動機を駆動する際の120度通電方式と180度通電方式を切り替える閾値となる切換速度V1は、同期電動機の定格回転数あるいは最大回転数の10%程度であることが望ましい。
【0087】
また、位相推定方式を切り替える閾値となる切換速度V2は、切換速度V1より低い速度であるが、これは採用されるシステムや位相推定に使用される検出センサ等の特性に合わせて最適な値が選ばれるものである。
【0088】
図8には同期電動機に流れる電流波形の測定結果の比較例を示しており、図において(a)は特許文献1を用いた場合での相電流波形を示しており、(b)は本発明を用いた場合での相電流波形を示している。また、図8において、特許文献1を用いて同期電動機を試験した場合での電流の実効値を1.0p.u.として基準化して示している。
【0089】
図8よりわかるように、本実施例を用いた場合では同期電動機の電流波形のひずみ率を低減でき、120度通電中の力率を改善できることが実測にて確認することができた。
【0090】
以上説明したように、本実施例を各種同期電動機に適用すれば、停止状態から中高速域に至る広い速度範囲において、トルクショックの小さいシームレス駆動ができ、高性能な制御特性を実現できる同期電動機の制御システムを提供できるものである。
【実施例2】
【0091】
図9には、本発明に係る同期電動機の制御システムの他の実施形態の主要部である位相・速度推定演算部の構成を表すブロック図を示し、図1と同一物には同一符号を付してある。
【0092】
120度通電では、通電モード切替直後に通電相の重なり期間が発生するため、この期間の位相推定結果には誤差が含まれる可能性がある。したがって、通電モード切換直後の所定の期間、例えば所定時間の間は通電モード切替直後の位相推定を禁止するようにすると良い。
【0093】
図9において、軸誤差推定演算部17から出力は加算器23dに送られ、この加算器23dと速度推定部18の間にマスク設定部25が設けられている。このマスク設定部25は切換スイッチ機能を有し、フラグ0とフラグ1によって加算器23dの出力を選択するか或いは「零」出力を選択するかの選択機能を有している。
【0094】
したがって、通電モードが切換られ直後の所定の停止時間だけフラグ0が選択され、この場合は「零」出力が出力されて位相推定が禁止されるものである。一方、所定の停止時間が経過するとフラグ0からフラグ1に切り替わり、加算器23dからの出力が選択されて位相推定が実施されるものである。
【0095】
尚、所定期間は本実施例では時間経過を用いたが、所定角度の間にわたって「零」出力を設定するようにしても同様の効果が得られるものである。
【0096】
このように構成した同期電動機の制御システムにおいても同期電動機の電流波形のひずみ率を低減し、120度通電中の力率を改善できる(図示せず)ことはいうまでもない。よって、このように構成しても、図1と同様の効果を得ることができる。
【実施例3】
【0097】
図10には、本発明に係る同期電動機の制御システムの更に他の実施形態の主要部である位相・速度推定演算部の構成を表すブロック図を示し、図1と同一物には同一符号を付してある。
【0098】
実施例2で述べたように、120度通電では、通電モード切替直後に通電相の重なり期間が発生するため、この期間の位相推定結果には誤差が含まれる可能性がある。したがって、この誤差を抑制することが重要である。
【0099】
このため、実施例2と同様に120度通電中の電圧位相が60度毎に更新される点を利用し、速度推定部18に通常の連続した推定速度信号を出力する速度推定部(通常)18aと、60度毎に推定速度信号を出力する速度推定部(60度毎)18bと、これらの速度推定部(通常)18aと速度推定部(60度毎)18bを選択するモード切替器を18cを設けるようにしている。そして、フラグ0では速度推定部(通常)18aが選択され、フラグ1では60度毎に推定速度信号を出力する速度推定部(60度毎)18bを選択するようにフラグを設定する。
【0100】
したがって第3領域(V1から最大速度の間の回転速度範囲)では速度推定部(通常)18aの速度推定信号が選択され、第2領域(V1とV2の間の回転速度範囲)では速度推定部(60度毎)18b)の速度推定信号が選択されるものである。
【0101】
また、第3領域(V1から最大速度の間の回転速度範囲)では速度推定部(通常)18aの速度推定信号が位相推定部19によって位相推定されて位相推定値θcが生成されて180通電方式で使用され、第2領域(V1とV2の間の回転速度範囲)では速度推定部(60度毎)18bの速度推定信号が位相推定部19によって位相推定され、その後位相量子化器16によってモード切替信号が生成され120通電方式で使用されるものである。
【0102】
ただし、そのフラグによって判別されたモード内では速度推定部18を一回動作させており、また、その動作タイミングは任意に設定可能に構成されている。
【0103】
ここで、120度通電中は電圧位相が60度毎に一回の更新であることから、制御システムとしてみるとむだ時間要素となる。そのため、同期電動機の回転速度に応じて速度推定部(60度毎)18bの制御ゲインを可変とする必要が生じる。このための制御ゲインとしては回転速度が低い場合は制御ゲインを小さくし、回転速度が高い場合は制御ゲインを大きくするようにすると良い。このゲインは回転速度に対して階段状に変化させても良いし、連続的に変化させても良いものである。
【0104】
なお、このように構成した同期電動機の制御システムにおいても同期電動機の電流波形のひずみ率を低減し、120度通電中の力率を改善できる(図示せず)ことはいうまでもない。よって、このように構成しても、図1と同様の効果を得ることができる。
【実施例4】
【0105】
図11には、本発明に係る他の実施形態の同期電動機の制御システム構成を表すブロック図を示し、図1と同一物には同一符号を付してある。
【0106】
図11において、図1と異なるところは同期電動機の制御システムにおいて、速度指令値ωr*を目標値として、同期電動機を制御する速度制御演算部24を備えたことである。
そして、速度指令値ωr*は切替スイッチ201cによって120度通電方式部30の速度変換部20と速度判定器21、及び180度通電方式部31の加算器23cに選択的にあたえられる要に構成されている。
【0107】
これ以外の構成要件の機能、動作は図1に示す実施例とほぼ同様であり、その作用、効果についても図1に示す実施例と同様の効果を期待できる。
【0108】
尚、このように構成した同期電動機の制御システムにおいても同期電動機の電流波形のひずみ率を低減し、120度通電中の力率を改善できる(図示せず)ことはいうまでもない。よって、このように構成しても、図1と同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0109】
1a…電流制御演算部(I)、1b…電流制御演算部(II)、2…電力変換器(インバータ)、3…電流検出器、4…同期電動機(同期電動機)、5…電圧検出器、6…通電モード決定器、7…ゲートドライバ、8…モード切替トリガ発生器、9…基準レベル切替器、10…非通電相電位選択器、11…比較器、12a…パルス幅変調部(I)、12b…パルス幅変調部(II)、13…電圧ベクトル制御演算部、14a、14b…座標変換部、15…位相・速度推定演算部、16…位相量子化器、17…軸誤差推定演算部、18…速度推定部、18a…速度推定部(通常)、18b…速度推定部(60度毎)、19…位相推定部、20…速度変換部、21…速度判定器、22…位相変換部、23a、23b、23c…加算器、24…速度制御演算部、30…120度通電方式部、31…180度通電方式部、50…電流選択部、201a、201b、201c、113…切替スイッチ、111、112…基準レベル設定器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同期電動機と、前記同期電動機と接続され複数のスイッチング素子により構成される電力変換器と、前記電力変換器に対して電圧指令を出力して前記同期電動機を制御する制御器と、を備えた同期電動機の制御システムにおいて、
前記同期電動機の三相巻線のうち、通電する二相を選択してパルス電圧を印加し、該パルス印加時の非通電相起電圧に基づいて位相並びに速度を推定する第1の位相推定手段と、前記同期電動機の速度起電圧に基づいて位相並びに速度を推定する第2の位相推定手段と、前記同期電動機を120度通電で駆動する第1の駆動手段と、前記同期電動機を180度通電で駆動する第2の駆動手段と、前記第1の位相推定手段と前記第2の位相推定手段を選択する第1の選択手段と、前記第1の駆動手段と前記第2の駆動手段を選択する第2の選択手段を備え、
前記同期電動機の回転速度が予め設定した所定値V1以上の場合には、前記第1の選択手段によって前記第2の位相推定手段を選択する共に前記第2の選択手段で前記第2の駆動手段を選択し、
前記同期電動機の回転速度が予め設定した所定値V1以下で、且つこの所定値V1より低い所定値V2以上の場合には、前記第1の選択手段によって前記第2の位相推定手段を選択する共に前記第2の選択手段で前記第1の駆動手段を選択し、
前記同期電動機の回転速度が前記所定値V2以下の場合には、前記第1の選択手段によって前記第1の位相推定手段を選択する共に前記第2の選択手段で前記第1の駆動手段を選択することを特徴とする同期電動機の制御システム。
【請求項2】
請求項1記載の同期電動機の制御システムにおいて、
前記非通電相起電圧に基づいて位相並びに速度を推定する前記第1の位相推定手段として、前記同期電動機の三相巻線のうち、通電する二相を選択し、6通りの通電モードにて、パルス幅変調動作によって前記電力変換器を通電制御する制御器とよりなり、前記制御器は、前記非通電相の端子電位と前記同期電動機の固定子巻線の接続点電位(中性点電位)との電位差を検出する電位差手段と、前記検出値を前記通電相の通電期間に同期してサンプリングするサンプリング手段と、前記サンプリング値を基準電圧とレベル比較する比較手段と、この比較の結果に応じて通電モードを順次切り替えていく通電モード切替手段を備えることを特徴とした同期電動機の制御システム。
【請求項3】
請求項1記載の同期電動機の制御システムにおいて、
前記速度起電圧に基づいて位相並びに速度を推定する第2の位相推定手段として、前記電力変換器を介して前記同期電動機をベクトル制御する電圧ベクトル演算部と、速度の推定値を積分して求める位相推定部の値と前記同期電動機の磁束軸の値との偏差である軸誤差を推定する軸誤差推定演算部と、前記軸誤差の推定値が前記軸誤差の指令値に一致するように速度を制御する速度推定部を備えることを特徴とした同期電動機の制御システム。
【請求項4】
同期電動機と、前記同期電動機と接続され複数のスイッチング素子により構成される電力変換器と、前記電力変換器に対して電圧指令を出力して前記同期電動機を制御する制御器と、を備えた同期電動機の制御システムにおいて、
前記同期電動機の回転速度領域を少なくとも第1領域と第2領域及び第3領域に分割し、前記各領域を区切る回転速度V1及びV2の関係が第1領域<第2領域<第3領域となるようにV2<V1を設定し、
前記第1領域では、前記同期電動機を120度通電方式で駆動すると共に、前記同期電動機の三相巻線のうち、通電する二相を選択してパルス電圧を印加して前記パルス印加時の非通電相起電圧に基づいて少なくも位相を推定し、この位相に基づいて前記二相の巻線の通電モードを順次切り替え、前記第2領域では、前記同期電動機を120度通電方式で駆動すると共に、前記同期電動機の速度起電圧に基づいて少なくとも位相を推定し、この位相に基づいて前記二相の巻線の通電モードを順次切り替え、前記第3領域では、前記同期電動機を180度通電方式で駆動すると共に、前記同期電動機の速度起電圧に基づいて少なくとも位相を推定し、この位相に基づいて前記三相の巻線に通電することを特徴とする同期電動機の制御システム。
【請求項5】
請求項4記載の同期電動機の制御システムにおいて、
前記第2領域の幅(V1とV2の間の回転速度範囲)は前記第1領域の幅(停止或いは極低速からV2の間の回転速度範囲)及び前記第3領域の幅(V1から定格回転速度或いは最大回転速度の間の回転速度範囲)より小さい幅に設定されていることを特徴とする同期電動機の制御システム。
【請求項6】
請求項5記載の同期電動機の制御システムにおいて、
前記180度通電方式と前記120通電方式で前記同期電動機の駆動方式を切り替える回転速度V1は、前記同期電動機の定格回転数或いは最大回転数の10%程度であることを特徴とする同期電動機の制御システム。
【請求項7】
同期電動機を120度通電方式で起動し、回転速度が上昇して所定の回転速度V1より大きくなると180度通電方式に切り替えて駆動する同期電動機の制御システムにおいて、
前記120度通電方式から前記180度通電方式へ切り替える際に、前記120度通電方式で通電中の力率(電圧と電流の位相差)を改善する力率改善手段を設け、この力率の改善された120度通電方式から前記180度通電方式に切り替えて駆動することを特徴とした同期電動機の制御システム。
【請求項8】
請求項7記載の同期電動機の制御システムにおいて、
前記120度通電中の力率を改善する手段として、電力変換器と、電力変換器を介して同期電動機をベクトル制御する電圧ベクトル演算部と、速度の推定値を積分して求める位相推定部の値と、前記同期電動機の磁束軸の値との偏差である軸誤差を推定する軸誤差推定演算部と、前記軸誤差の推定値が前記軸誤差の指令値に一致するように速度を制御する速度推定部を備えることを特徴とした同期電動機の制御システム。
【請求項9】
請求項8記載の同期電動機の制御システムにおいて、
前記軸誤差推定演算部では、前記電圧ベクトル演算部の電圧指令値と、電流指令値あるいは電流検出値と、同期電動機の電気定数であるインダクタンス値と、誘起電圧定数と、前記同期電動機の一相当たりの巻線抵抗値と、速度推定値あるいは速度指令値とを用いて、軸誤差の推定演算を行うことを特徴とした同期電動機の制御システム。
【請求項10】
請求項8記載の同期電動機の制御システムにおいて、
前記120度通電中の力率を改善する手段として、前記速度推定部の速度推定値を積分して求めた前記位相推定部の出力値を、60度毎に6通りの通電モードを作成し、前記6通りの通電モードにてパルス幅変調によって前記電力変換器を通電制御することを特徴とした同期電動機の制御システム。
【請求項11】
請求項10記載の同期電動機の制御システムにおいて、
前記120度通電中の力率を改善する手段として、前記6通りの通電モードの切り替えを判定する手段と、前記通電モードの切替の際に通電モードの重なり期間から所定の期間までの間は前記速度推定部の推定速度を使用しない手段を備えたことを特徴とした同期電動機の制御システム。
【請求項12】
請求項11記載の同期電動機の制御システムにおいて、
前記120度通電中の力率を改善する手段として、前記推定速度を使用しない手段は前記速度推定部に零を入力することを特徴とした同期電動機の制御システム。
【請求項13】
請求項8記載の同期電動機の制御システムにおいて、
前記120度通電中の力率を改善する手段として、前記6通りの通電モードの切り替えを判定する手段を備え、通電モードの切替に応じて前記通電モード内に一回だけ前記速度推定部を動作させることを特徴とした同期電動機の制御システム。
【請求項14】
請求項13記載の同期電動機の制御システムにおいて、
前記通電モード内に一回だけ前記速度推定部を動作させるタイミングは、速度に応じたタイミングすることを特徴とした同期電動機の制御システム。
【請求項15】
請求項13記載の同期電動機の制御システムにおいて、
前記速度推定部の制御ゲインは、速度が高くなるにつれて制御ゲインが大きくなるように設定されていることを特徴とした同期電動機の制御システム。
【請求項16】
請求項4及び請求項7記載の同期電動機の制御システムにおいて、
前記180度通電方式と前記120通電方式で前記同期電動機の駆動方式を切り替える回転速度V1は、前記同期電動機の定格回転数或いは最大回転数の10%程度であることを特徴とする同期電動機の制御システム。
【請求項17】
請求項1、請求項4及び請求項7記載の同期電動機の制御システムにおいて、
速度指令値を目標値として前記同期電動機を制御することを特徴とした同期電動機の制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−59197(P2013−59197A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−195857(P2011−195857)
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【出願人】(502129933)株式会社日立産機システム (1,140)
【Fターム(参考)】