四輪駆動車の動力伝達装置
【課題】 簡素な構成であって、主駆動輪の回転速度に対する従駆動輪の回転速度を増速するまたは減速する四輪駆動車の動力伝達装置を提供する。
【解決手段】 本発明は、主駆動輪車軸と従駆動輪車軸との間の駆動力伝達系に設けられた変速機構100とを有する四輪駆動車の動力伝達装置であって、変速機構100は、主駆動輪側の駆動力伝達系に連結された入力軸102と、従駆動輪側の駆動力伝達系に連結された出力軸104と、第1および第2のプラネタリギヤセット106、108と、1つのクラッチ110と、正駆動時用および逆駆動時用ブレーキ112、114とから構成され、クラッチ110を完全締結して入力軸102と出力軸104とを直結するとともに、クラッチ110およびブレーキ112、114の一方の締結力を制御して入力軸102と出力軸104の回転速度比を制御する。
【解決手段】 本発明は、主駆動輪車軸と従駆動輪車軸との間の駆動力伝達系に設けられた変速機構100とを有する四輪駆動車の動力伝達装置であって、変速機構100は、主駆動輪側の駆動力伝達系に連結された入力軸102と、従駆動輪側の駆動力伝達系に連結された出力軸104と、第1および第2のプラネタリギヤセット106、108と、1つのクラッチ110と、正駆動時用および逆駆動時用ブレーキ112、114とから構成され、クラッチ110を完全締結して入力軸102と出力軸104とを直結するとともに、クラッチ110およびブレーキ112、114の一方の締結力を制御して入力軸102と出力軸104の回転速度比を制御する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、四輪駆動車の動力伝達装置に関し、四輪駆動車の走行を安定させる走行制御の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来、四輪駆動車において、主駆動輪と従駆動輪それぞれの周速度(接地面での接線方向の速度)が要求された周速度比(以下、「要求周速度比」と称する。)になるように構成されているものがある。
【0003】
例えば、特許文献1に記載のものがある。これは、旋回時にオーバーステアさせるために後輪を増速させるようにしたものであり、具体的には、この四輪駆動車は、走行の安定性を向上させるために前輪である主駆動輪と後輪である従駆動輪それぞれの周速度を略一致させる(すなわち、主駆動輪と従駆動輪の周速度比を略1:1にする)ときと、旋回時の回頭性を向上させるために従駆動輪の周速度を主駆動輪の周速度に比べて増速させる(すなわち、主駆動輪と従駆動輪の周速度比を1:m(m>1)にする)ときとがある。この要求周速度比を達成するために、主駆動輪車軸と従駆動輪車軸との間の駆動力伝達系に変速装置を有し、該変速装置は、主駆動輪の車軸と従駆動輪の車軸の回転速度比を要求周速度比を達成するために必要な回転速度比(以下「必要回転速度比」と称する。)にする。
【0004】
【特許文献1】特公平7−64219号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上述の変速装置は、後輪(従駆動輪)に対して増速は実行するが減速は実行しない。しかしながら、このような、主駆動輪車軸と従駆動輪車軸との間の駆動力伝達系にある変速装置に、従駆動輪に対する減速の実行を要望したい状況がある。
【0006】
例えば、主駆動輪車軸と従駆動輪車軸の回転速度比を必要回転速度比に設定しても、駆動輪の径の変化によって主駆動輪と従駆動輪の周速度比が、例えば1:1などの要求周速度比から逸脱することがある。この駆動輪の径の変化は、例えば、タイヤ交換において本来取り付けるべきタイヤの径と異なる径のタイヤが装着されたとき、またはタイヤの磨耗、もしくは四輪駆動車の重心位置の移動によるタイヤに加わる荷重の変化などによって起こる。
【0007】
このように駆動輪の径が変化し、主駆動輪と従駆動輪の周速度比が要求周速度比から逸脱すると、路面での摩擦に起因して両駆動輪間で所謂循環トルクが発生する。そして、この循環トルクが駆動力伝達系に駆動源からの本来の駆動トルクに加えて作用し、駆動力伝達系各部における回転抵抗を増大させる。その結果、動力の損失、すなわちエンジンの燃費性能の悪化や、発熱による動力伝達系の耐久性の悪化等を招くことになる。
【0008】
この循環トルクを抑制するために、主駆動輪車軸と従駆動輪車軸との間の駆動力伝達系にある変速装置に、従駆動輪に対する減速の実行を要望したいことがある。
【0009】
そこで、本発明は、主駆動輪車軸の回転速度に対する従駆動輪車軸の回転速度を増速および減速することができる四輪駆動車の動力伝達装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の課題を解決するために、本願の請求項1に記載の発明は、駆動源と、駆動源の出力を主駆動輪車軸と従駆動輪車軸とに分配して伝達するトランスファ装置と、主駆動輪車軸と従駆動輪車軸との間の駆動力伝達系に設けられた変速機構とを有する四輪駆動車の動力伝達装置であって、
前記変速機構は、主駆動輪側の駆動力伝達系に連結された入力軸と、従駆動輪側の駆動力伝達系に連結された出力軸と、第1および第2のプラネタリギヤセットと、1つのクラッチと、正駆動時用および逆駆動時用ブレーキとから構成され、前記クラッチを完全締結して前記入力軸と前記出力軸とを直結するとともに、前記クラッチおよび前記ブレーキの一方の締結力を制御して前記入力軸と前記出力軸の回転速度比を制御することを特徴とする。
【0011】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の四輪駆動車の動力伝達装置において、
第1のプラネタリギヤセットは第1のサンギヤ、第1のキャリア、および第1のリングギヤを有し、
第2のプラネタリギヤセットは第2のサンギヤ、第2のキャリア、および第2のリングギヤを有し、
前記第1のサンギヤと前記第2のサンギヤとが結合され、
前記第1のキャリアと前記第2のリングギヤとが結合されているとともに、
前記入力軸は前記第2のキャリアに、前記出力軸は前記第1のキャリアおよび前記第2のリングギヤそれぞれに結合されており、
かつ、前記入力軸と前記出力軸との間に前記クラッチが介設され、
前記第1のサンギヤおよび前記第2のサンギヤと変速機ケースとの間に前記正駆動時用のブレーキが、前記第1のリングギヤと変速機ケースとの間に前記逆駆動時用のブレーキが介設されていることを特徴とする。
【0012】
さらに、請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の四輪駆動車の動力伝達装置において、
第1のプラネタリギヤセットは第1のサンギヤ、第1のキャリア、および第1のリングギヤを有し、
第2のプラネタリギヤセットは第2のサンギヤ、第2のキャリア、および第2のリングギヤを有し、
前記第1のキャリアと前記第2のリングギヤとが結合され、
前記第1のリングギヤと前記第2のキャリアとが結合されているとともに、
前記入力軸は前記第1のキャリアに、前記出力軸は前記第1のリングギヤおよび前記第2のキャリアそれぞれに結合されており、
かつ、前記第2のキャリアと前記第1のキャリアおよび前記第2のリングギヤそれぞれとの間に前記クラッチが介設され、
前記第1のサンギヤと変速機ケースとの間に前記正駆動時用のブレーキが、前記第2のサンギヤと変速機ケースとの間に前記逆駆動時用のブレーキが介設されていることを特徴とする。
【0013】
さらにまた、請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の四輪駆動車の動力伝達装置において、
第1のプラネタリギヤセットは第1のサンギヤ、第1のキャリア、および第1のリングギヤを有し、
第2のプラネタリギヤセットは第2のサンギヤ、第2のキャリア、および第2のリングギヤを有し、
前記第1のサンギヤと前記第2のキャリアとが結合され、
前記第1のキャリアと前記第2のサンギヤとが結合されているとともに、
前記入力軸は前記第1のキャリアおよび前記第2のサンギヤそれぞれに、前記出力軸は前記第2のキャリアに結合されており、
かつ、前記入力軸と前記出力軸との間に前記クラッチが介設され、
前記第1のリングギヤと変速機ケースとの間に前記正駆動時用のブレーキが、前記第2のリングギヤと変速機ケースとの間に前記逆駆動時用のブレーキが介設されていることを特徴とする。
【0014】
加えて、請求項5に記載の発明は、請求項1に記載の四輪駆動車の動力伝達装置において、
第1のプラネタリギヤセットは第1のサンギヤ、第1のキャリア、および第1のリングギヤを有し、
第2のプラネタリギヤセットは第2のサンギヤ、第2のキャリア、および第2のリングギヤを有し、
前記第1のサンギヤと前記第2のリングギヤとが結合され、
前記第1のキャリアと前記第2のサンギヤが結合されているとともに、
前記入力軸は前記第1のキャリアおよび前記第2のサンギヤそれぞれに、前記出力軸は前記第2のキャリアに結合されており、
かつ、前記入力軸と前記出力軸との間に前記クラッチが介設され、
前記第1のリングギヤと変速機ケースとの間に前記正駆動時用のブレーキが、前記第1のサンギヤおよび前記第2のリングギヤそれぞれと変速機ケースとの間に前記逆駆動時用のブレーキが介設されていることを特徴とする。
【0015】
加えてまた、請求項6に記載の発明は、請求項1から5のいずれかに記載の四輪駆動車の動力伝達装置において、
前記駆動力伝達系に作用する循環トルクを検出する循環トルク検出手段を有し、
前記変速機構は、前記循環トルク検出手段が循環トルクを検出したときは、前記クラッチおよび前記ブレーキの一方の締結力を制御して、前記循環トルクが抑制されるように、前記入力軸と前記出力軸の回転速度比を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に記載の発明によれば、変速機構は、主駆動輪側の駆動力伝達系に連結された入力軸、従駆動輪側の駆動力伝達系に連結された出力軸、第1および第2のプラネタリギヤセット、1つのクラッチ、および正駆動(エンジンが車両を駆動している状態)時用および逆駆動(車両の慣性走行によりエンジンが駆動される状態)時用のブレーキから構成されており、クラッチを完全締結状態にすれば入力軸と出力軸とが直結することにより、またはクラッチと一方のブレーキの締結力を制御することにより、入力軸の回転速度に対する出力軸の回転速度の比、すなわち変速比を1とすることが可能であるとともに減速側または増速側に無段階に変更することができる。その結果、主駆動輪車軸の回転速度に対する従駆動輪車軸の回転速度を増速するまたは減速することが可能になる。
【0017】
また、請求項2〜5に記載の発明によれば、入力軸、出力軸、2つのプラネタリギヤセット、1つのクラッチ、および2つのブレーキを各請求項に記載する関係に従って接続することにより比較的簡素な構成の変速機構が得られ、コンパクトで搭載性に優れた四輪駆動車の動力伝達装置が実現される。
【0018】
さらに、請求項6によれば、主駆動輪または従駆動輪いずれかの径の変化により、主駆動輪と従駆動輪の周速度の比が要求された周速度比から逸脱して、主駆動輪と従駆動輪との間の駆動力伝達系に循環トルクが発生した場合に、循環トルク検出手段がこれを検出し、その検出結果に基づき、循環トルクが抑制されるように、前記駆動力伝達系に設けられた変速機構がその変速比を変更する。これにより、四輪駆動車としての良好な走破性が維持されるとともに、循環トルクに起因するエンジン燃費性能の悪化や、発熱による動力伝達系の耐久性の悪化等の問題が防止される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1は本発明の一実施形態に係る四輪駆動車の動力伝達装置を搭載した四輪駆動車の構成を概略的に示している。
【0020】
図1に符号10で示す車両は前側駆動輪12Fと後側駆動輪12Rとを有する四輪駆動車である。四輪駆動車10は、駆動源であるエンジン14と、エンジン14の出力を駆動輪12F、12Rに伝達するためのトランスミッション16と、トランスミッション16からの駆動力を左右の前側駆動輪12Fに車軸18を介して伝達する前輪用デフ20と、後側駆動輪12Rに伝達する駆動力を取り出すトランスファ22と、トランスファ22からの駆動力を左右の後側駆動輪12Rに車軸24を介して伝達する後輪用デフ26とを有する。この構成においては、前側駆動輪12Fが主駆動輪となり、後側駆動輪12Rが従駆動輪となる。
【0021】
また、トランスファ22と後輪用デフ26は、変速機構28を介して駆動連結されている。具体的には、トランスファ22の出力軸に一端が連結された駆動力伝達軸30aの他端が変速機構28の入力軸に連結され、変速機構28の出力軸に一端が連結された駆動力伝達軸30b他端が後輪用デフ26の入力軸に連結されている。
【0022】
変速機構28は、変速比、すなわち駆動力伝達軸30aと30bの回転速度比を変更可能に構成されている。変速比は、駆動輪12F、12Rの周速度(接地面での接線方向の速度)の比が要求された比(要求周速度比)になるために必要な変速比(以下、「必要変速比」と称する。)である。確認すると、ここで言う「必要変速比」は、例えば要求周速度比が1:1になるような変速比、または要求周速度比が1:m(m>1)になるような変速比であって、要求周速度比に対して1つ存在する変速比を言う。
【0023】
このことを図2を用いて説明する。図2は、走行中の四輪駆動車10を概略的に示している。図は、走行中、駆動輪12F、12Rそれぞれの周速度が車速に相当する同一の速度Vである場合、すなわち要求周速度比が1:1である場合を示している。
【0024】
このとき、例えば前側駆動輪12Fの半径がr1であって後側駆動輪12Rの半径がr1と異なるr2である場合、前側の車軸18の回転速度VFと後側の車軸24の回転速度VRとの比(必要回転速度比=VF:VR)をr2:r1とする必要がある。
【0025】
また、そのためには、駆動力伝達軸30aの回転速度V1に対する前側駆動輪12Fの回転速度VFの比と、駆動力伝達軸30bの回転速度V2に対する後側駆動輪12Rの回転速度VRの比が等しいものとして、変速機構28が、駆動力伝達軸30aの回転速度V1と駆動力伝達軸32bの回転速度V2との比がr2:r1になるように、すなわち変速比をr1/r2(出力側回転速度V2/入力側回転速度V1)で維持する必要がある。
【0026】
すなわち、この場合における必要変速比は、駆動輪12F、12Rそれぞれにおいて、周速度が同一になるような変速比である。なお、前側駆動輪12Fと後側駆動輪12Rの径r1、r2が同一である場合、変速比は1:1に設定される。
【0027】
ここからは、図1に示す変速機構28の具体的な構成および制御装置34が実行する該変速機構28の変速比の変更方法について説明する。
【0028】
図3は、一例の変速機構の骨子図である。図に符号100に示される変速機構は、入力軸(図1に示す駆動力伝達軸30aと結合する軸)102と、出力軸(駆動力伝達軸30bと結合する軸)104と、2つのプラネタリギヤセット106(請求の範囲に記載の第1のプラネタリギヤに対応。)および108(請求の範囲に記載の第2のプラネタリギヤに対応。)と、1つのクラッチ110と、2つのブレーキ112(請求の範囲に記載の正駆動時用ブレーキに対応。)および114(請求の範囲に記載の逆駆動時用ブレーキに対応。)とから構成されている。
【0029】
2つのプラネタリギヤセット106および108は、シングルピニオン型プラネタリギヤセットであって、それぞれサンギヤ106s、108sと、該サンギヤと噛み合うピニオン106p、108pと、該ピニオンを支持するキャリア106c、108cと、該ピニオンと噛み合うリングギヤ106r、108rとから構成される。
【0030】
変速機構100において、サンギヤ106sとサンギヤ108とが結合され、キャリア106cとリングギヤ108rとが結合されている。また、入力軸102はキャリア108cに、出力軸104はキャリア106cおよびリングギヤ108rそれぞれに結合されている。
【0031】
さらに、入力軸102と出力軸104との間にはクラッチ110が介設されている。さらにまた、サンギヤ106sおよびサンギヤ108sと変速機構100の変速機ケース116との間に正駆動時用のブレーキ112が、リングギヤ106rと該変速機ケース116との間に逆駆動時用のブレーキ114が介設されている。
【0032】
このような構成の変速機構100によれば、クラッチ110および2つのブレーキ112、114の締結力を制御することにより、変速機構100は増速側および減速側に無段階に変速比を変更することが可能である。
【0033】
具体的には、変速機構100は、図1の制御装置34がクラッチ110および2つのブレーキ112、114を制御することにより、その変速比を変更される。
【0034】
例えば、制御装置34は、変速比1への変更を要求されると、クラッチ110を完全締結状態に制御して入力軸102と出力軸104とを直結し、2つのブレーキ112、114を非締結状態に制御する。
【0035】
また、制御装置34は、1以外の変速比への変更が要求されると、変速機構100が伝達する駆動トルクの伝達方向と、その要求された変速比の値に基づいて、クラッチ110および2つのブレーキ112、114の締結力を制御する。
【0036】
具体的に説明すると、制御装置34が実行する変速機構100のクラッチ110および2つのブレーキ112、114の締結力の制御には、図4に示すように4つの制御がある。ここで説明する例は、前輪12Fと後輪12Rの径がrで同一である例である。
【0037】
制御(a)は、変速機構28(100)がエンジン14が後輪12Rに対して出力した駆動トルクを伝達しているときに、駆動力伝達軸30a(入力軸102)の回転速度V1に対する駆動力伝達軸30b(出力軸104)の回転速度V2を減速する制御を示している。なお、ここでは、エンジンが出力した駆動トルクが後輪12Rに伝わる方向を正方向とし、その反対を逆方向とする。
【0038】
また、制御(b)は、変速機構28(100)がエンジン14が後輪12Rに対して出力した駆動トルクを伝達しているときに、駆動力伝達軸30a(入力軸102)の回転速度V1に対する駆動力伝達軸30b(出力軸104)の回転速度V2を増速する制御を示している。
【0039】
さらに、制御(c)は、変速機構28(100)が後輪12Rがエンジン14に対して出力した駆動トルクを伝達しているときに(いわゆる車両がコースティング状態にあるとき)、駆動力伝達軸30a(入力軸102)の回転速度V1に対する駆動力伝達軸30b(出力軸104)の回転速度V2を減速する制御を示している。
【0040】
さらにまた、制御(d)は、変速機構28(100)が後輪12Rがエンジン14に対して出力した駆動トルクを伝達しているときに(いわゆる車両がコースティング状態にあるとき)、駆動力伝達軸30a(入力軸102)の回転速度V1に対する駆動力伝達軸30b(出力軸104)の回転速度V2を増速する制御を示している。
【0041】
なお、変速機構が伝達する駆動トルクの方向は、例えばアクセルペダルが踏まれているか否かを検出するアクセルペダルセンサにより判断できる。すなわち、アクセルペダルが踏まれている場合、エンジンが駆動トルクを出力するので変速機構が伝達する駆動トルクの方向は正方向である。そうでない場合、逆方向である。
【0042】
制御装置34は、制御(a)の場合(駆動トルクが正方向であって、減速が要求される場合)、図5の表に示すように、クラッチ110と正駆動時用ブレーキ112の締結力を制御し、逆駆動時用ブレーキ114は制御しない(非制御)。
【0043】
図3を参照しつつ説明すると、制御装置34は、クラッチ110の締結力を小さく制御し、変速機構100の変速比を減速側の要求された変速比にする。これにより、後輪12Rに伝達されるトルクが減少し、その回転が減速される。
【0044】
しかし、クラッチ110の締結力を小さく制御するだけでは、変速比は要求された変速比よりさらに減速側に変化し続け、後輪12Rの回転は減速し続けてしまう。
【0045】
その対処として、制御装置34は、正駆動時用ブレーキ112の締結力を制御する。このことを図6(a)に示す速度線図を用いて説明する。
【0046】
この速度線図は、2つのプラネタリギヤセット106、108の回転要素、すなわちサンギヤ106s、108sと、キャリア106c、108cと、リングギヤ106r、108rそれぞれの回転速度を縦方向に示し、各回転要素の横方向の間隔は、サンギヤ106s、108sおよびリングギヤ106r、108rの歯数Zs(106)、Zs(108)、Zr(106)、Zr(108)の逆数に対応して示している。
【0047】
図6(a)に示すように、入力軸102の回転速度に対する出力軸104の回転速度の比、すなわち変速比を減速側(変速比変更前に比べて減速側)の要求された変速比Rout1/Rin1に維持するために、制御装置34は、サンギヤ106s、108sの回転速度が速度線図に基づく(すなわちサンギヤ106s、108sおよびリングギヤ106r、108rの歯数に基づく)R1になるように、正駆動時用ブレーキ112の締結力を制御する。
【0048】
まとめると、制御装置34は、制御(a)の場合、まずクラッチ110の締結力を小さくして変速機構100の変速比を要求された変速比Rout1/Rin1に減速し、サンギヤ106s、108sの回転速度が要求された変速比Rout1/Rin1を維持するためのR1になるように正駆動時用ブレーキ112の締結力を制御する。
【0049】
この場合の変速機構100の各構成要素を伝達するトルクを図6(b)に示す。図においては、太線はトルクが伝達されていることを示し、白抜き矢印はトルクの方向を示している。また、点線に示す摩擦要素は、すべり状態であることを示している。
【0050】
まず、入力軸102を伝達するトルクは、分岐してクラッチ110とキャリア108cとに入力される。クラッチ110が入力軸102側から出力軸104側に伝達するトルクは、その締結力が要求された変速比に変更する前に比べて小さくされているため、変更前に比べて小さい。キャリア108cに入力されたトルクは、サンギヤ108sを介して正駆動時用ブレーキ112に伝達されるとともに、リングギヤ108を介して出力軸104に伝達される。出力軸104には、クラッチ110を介するトルクとリングギヤ108rを介するトルクとが合流したトルクが伝達される。これにより、結果として出力軸104に伝達されるトルクは、要求された変速比に変更する前と略同一となる。
【0051】
また制御(b)の場合(駆動トルクが正方向であって、増速が要求される場合)、、制御装置34は、図5の表に示すように、クラッチ110と正駆動時用ブレーキ112の締結力を制御し、逆駆動時用ブレーキ114は制御しない(非制御)。
【0052】
具体的には、制御装置34は、クラッチ110の締結力を小さく制御し、正駆動時用ブレーキ112の締結力を制御する。これは制御(a)の場合と同一であるが、正駆動時用ブレーキ112の締結力を制御(a)に比べて大きくする(強くブレーキする)点で異なる。
【0053】
図7(a)に示す速度線図を用いて説明する。制御装置34は、変速比を増速側(変速比変更前に比べて増速側)の要求された変速比Rout2/Rin2に維持するために、サンギヤ106s、108sの回転速度を、制御(a)の場合のR1(図6参照。)に比べて小さくする必要がある。すなわち、制御(b)の場合、正駆動時用ブレーキ112の締結力を制御(a)に比べて大きくする必要がある。
【0054】
まとめると、制御装置34は、制御(b)の場合、まずクラッチ110の締結力を小さくして変速機構100の変速比を要求された変速比Rout2/Rin2に増速し、サンギヤ106s、108sの回転速度が、要求された変速比Rout2/Rin2を維持するための、R1より小さいR2になるように正駆動時用ブレーキ112を、制御(a)のときの締結力に比べて大きい締結力に制御する。
【0055】
この場合の変速機構100の各構成要素を伝達するトルクを図7(b)に示す。
【0056】
入力軸102を伝達するトルクは、制御(a)と異なり、キャリア108cのみに入力される。これは、クラッチ110の出力軸104側が入力軸102側に比べて増速されているために、クラッチ110から入力軸102にトルクが伝達されてくるためである。したがって、キャリア108cには、入力軸102からのトルクとクラッチ110からのトルクが入力される。キャリア108cに入力されたトルクは、サンギヤ108sを介して正駆動時用ブレーキ112に伝達されるとともに、リングギヤ108rを介して出力軸104に向かって伝達される。リングギヤ108rからのトルクは、出力軸104とクラッチ110とに分岐する。これにより、結果として出力軸104に伝達されるトルクは、要求された変速比に変更する前と略同一となる。
【0057】
さらに、制御(c)の場合(駆動トルクが逆方向であって、減速が要求される場合)、制御装置34は、図5の表に示すように、クラッチ110と逆駆動時用ブレーキ114の締結力を制御し、正駆動時用ブレーキ112は制御しない(非制御)。
【0058】
具体的には、制御装置34は、クラッチ110の締結力を小さく制御し、逆駆動時用ブレーキ114の締結力を制御する。
【0059】
このことを図8(a)に示す速度線図を用いて説明する。制御装置34は、制御(c)の場合、まずクラッチ110の締結力を小さくして変速機構100の変速比を要求された変速比Rout3/Rin3に減速し、リングギヤ106rの回転速度がその変速比Rout3/Rin3を維持するためのR3になるように逆駆動時用ブレーキ114の締結力を制御する。
【0060】
この場合の変速機構100の各構成要素を伝達するトルクを図8(b)に示す。
【0061】
出力軸104を伝達するトルクは、リングギヤ108rとキャリア106cに入力される。また、リングギヤ108rとキャリア106cには、クラッチ110からのトルクも入力される。キャリア106cに入力されたトルクは、リングギヤ106rを介して逆駆動時用ブレーキ114に伝達されるとともに、サンギヤ106sを介してサンギヤ108sに入力される。キャリア108cにはリングギヤ108rとサンギヤ108sからトルクが伝達され、そのトルクは、入力軸102とクラッチ110とに分岐する。結果として入力軸102に伝達されるトルクは、要求された変速比に変更する前と略同一となる。
【0062】
さらにまた、制御(d)の場合(駆動トルクが逆方向であって、増速が要求される場合)、制御装置34は、図5の表に示すように、クラッチ110と逆駆動時用ブレーキ114の締結力を制御し、正駆動時用ブレーキ112は制御しない(非制御)。
【0063】
具体的には、制御装置34は、クラッチ110の締結力を小さく制御し、逆駆動時用ブレーキ114の締結力を制御する。これは制御(c)の場合と同一であるが、逆駆動時用ブレーキ114の締結力を制御(c)に比べて小さくする(弱くブレーキする)点で異なる。
【0064】
このことを図9(a)に示す速度線図を用いて説明する。制御装置34は、変速比を増速側(変速比変更前に比べて増速側)の要求された変速比Rout4/Rin4に維持するために、リングギヤ106rの回転速度を、制御(c)の場合のR3(図8参照。)に比べて大きくする必要がある。すなわち、制御(d)の場合、逆駆動時用ブレーキ114の締結力を制御(c)に比べて小さくする必要がある。
【0065】
まとめると、制御装置34は、制御(d)の場合、まずクラッチ110の締結力を小さくして変速機構100の変速比を要求された変速比Rout4/Rin4に増速し、リングギヤ106rの回転速度が、要求された変速比Rout4/Rin4を維持するための、R3より大きいR4になるように逆駆動時用ブレーキ114を、制御(c)のときの締結力に比べて小さい締結力に制御する。
【0066】
この場合の変速機構100の各構成要素を伝達するトルクを図9(b)に示す。
【0067】
出力軸104を伝達するトルクは、リングギヤ108rとキャリア106cに入力されるとともに、クラッチ110に伝達される。そして、クラッチ110に伝達されたトルクは、入力軸102に伝達される。キャリア106cに入力されたトルクは、リングギヤ106rを介して逆駆動時用ブレーキ114に伝達されるとともに、サンギヤ106sを介してサンギヤ108sに入力される。キャリア108cにはリングギヤ108rとサンギヤ108sからトルクが伝達され、そのトルクは、入力軸102に伝達される。結果として入力軸102には、キャリア108cからのトルクとクラッチ110からのトルクが伝達され、そのトルクは、要求された変速比に変更する前と略同一となる。
【0068】
上述の構成によれば、入力軸102、出力軸104、2つのプラネタリギヤセット106、108、1つのクラッチ110、および2つのブレーキ112、114から構成される比較的簡素な構成の変速機構100が得られ、それにより、コンパクトで搭載性に優れた四輪駆動車の動力伝達装置が実現される。また、制御装置34は、クラッチ110を完全締結して変速機構100の変速比を1とすることが可能であるとともに、クラッチ110とブレーキ112、114の一方の締結力を制御して減速側または増速側に無段階に変速比を変更することができる。
【0069】
これにより、例えば、車両が旋回するとき、変速機構100が前輪12F(車軸18)の回転速度に対する後輪12R(車軸24)の回転速度を増速することにより、車両がオーバーステアされて回頭性が向上する。この場合、車両の旋回は、例えばステアリングの操舵角を検出するセンサによって検出することができる。
【0070】
また、例えば、後輪12Rの径が小さくなることにより前輪12F側から後輪12R側への循環トルクが発生したとき、変速機構100が、前輪12F(車軸18)の回転速度に対する後輪12R(車軸24)の回転速度を増速することにより、該循環トルクを抑制することができる。
【0071】
一方、例えば、前輪12Fの径が小さくなることにより後輪12R側から前輪12F側への循環トルクが発生したとき、変速機構100が、前輪12F(車軸18)の回転速度に対する後輪12R(車軸24)の回転速度を減速することにより、該循環トルクを抑制することができる。
【0072】
なお、循環トルクが発生しているか否か、また発生している場合はその大きさおよび方向は、例えば、変速機構100の入力軸102と結合された駆動力伝達軸30aに発生しているトルクを、例えばトルクセンサによって検出することにより求めることができる。
【0073】
図1を参照しつつ具体的に説明すると、駆動力伝達軸30bに伝達されるエンジン14からのトルクに基づく駆動トルクを算出する。この駆動トルクは、エンジン回転速度及びエンジン負荷と予め記憶しているエンジン特性マップとからエンジン出力トルクを求め、そのトルクに、トランミッション16の現在の変速段の変速比と、トランスファ22による後側駆動輪12R側へのトルク分割比を積算することにより求められる。
【0074】
駆動力伝達軸30aに発生している、トルクセンサによって検出されたトルクから、上述で算出した駆動力伝達軸30bに伝達されるエンジン14からのトルクに基づく駆動トルクを減算する。その場合、駆動力伝達系に循環トルクが発生していなければ、差は0となるが、循環トルクが発生している場合には、その大きさが、方向も含めて算出されることになる。
【0075】
変速機構100が増速または減速することにより発生した循環トルクを抑制することができるため、四輪駆動車としての良好な走破性が維持されるとともに、循環トルクに起因するエンジン燃費性能の悪化や、発熱による動力伝達系の耐久性の悪化等の問題が防止される。
【0076】
以上、実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明はこれに限定されない。
【0077】
例えば、上述の変速機構100以外の変速機構でも、上述の変速機構100と同等の効果を得ることは可能である。
【0078】
図10〜12に骨子図を示す変速機構200、300、400は、上述の変速機構100と同様に、入力軸(図1に示す駆動力伝達軸30aと結合する軸)202、302、402と、出力軸(駆動力伝達軸30bと結合する軸)204、304、404と、2つのプラネタリギヤセット206、306、406(請求の範囲に記載の第1のプラネタリギヤに対応。)および208、308、408(請求の範囲に記載の第2のプラネタリギヤに対応。)と、1つのクラッチ210、310、410と、2つのブレーキ212、312、412(請求の範囲に記載の正駆動時用ブレーキに対応。)および214、314、414(請求の範囲に記載の逆駆動時用ブレーキに対応。)とから構成されている。
【0079】
各変速機構において、2つのプラネタリギヤセット206、306、406および208、308、408は、シングルピニオン型プラネタリギヤセットであって、それぞれサンギヤ206s、306s、406sおよび208s、308s、408sと、該サンギヤと噛み合うピニオン206p、306p、406pおよび208p、308p、408pと、該ピニオンを支持するキャリア206c、306c、406cおよび208c、308c、408cと、該ピニオンと噛み合うリングギヤ206r、306r、406rおよび208r、308r、408rとから構成される。
【0080】
図10に示すように、変速機構200において、キャリア206cとリングギヤ208rとが結合され、リングギヤ206rとキャリア208cとが結合されているとともに、入力軸202がキャリア206cに、出力軸204がリングギヤ206rおよびキャリア208cそれぞれに結合されている。また、キャリア208cとキャリア206cおよびリングギヤ208rそれぞれとの間にクラッチ210が介設され、サンギヤ206sと変速機ケース216との間に正駆動時用のブレーキ212が、サンギヤ208sと変速機ケース214との間に逆駆動時用のブレーキ214が介設されている。
【0081】
また、図11に示すように、変速機構300において、サンギヤ306sとキャリア308cとが結合され、キャリア306cとサンギヤ308sとが結合されているとともに、入力軸302がキャリア306cおよびサンギヤ308sそれぞれに、出力軸304がキャリア308cに結合されている。また、入力軸302と出力軸304との間にクラッチ310が介設され、リングギヤ306rと変速機ケース316との間に正駆動時用のブレーキ312が、リングギヤ308rと変速機ケース316との間に逆駆動時用のブレーキ314が介設されている
【0082】
さらに、図12に示すように、変速機400において、サンギヤ406sとリングギヤ408rとが結合され、キャリア406cとサンギヤ408sが結合されているとともに、入力軸402がキャリア406cおよびサンギヤ408sそれぞれに、出力軸404がのキャリア408cに結合されている。また、入力軸402と出力軸404との間にクラッチ410が介設され、リングギヤ406rと変速機ケース416との間に正駆動時用のブレーキ412が、サンギヤ406sおよびリングギヤ408rそれぞれと変速機ケース416との間に逆駆動時用のブレーキ414が介設されている。
【0083】
これらの変速機構200、300、400に対して実施される、図4に示す各制御(駆動トルクの方向、変速比の変更要求)に対応する、制御装置の制御内容を表にして図13に示す。
【0084】
図13に示すように、制御(a)の場合、変速機構200、300、400の変速比は減速側(変速比変更前に比べて減速側)の値に変更され、そのために、クラッチ210、310、410の締結力が小さく制御されて、正駆動時用ブレーキ212、312、412が小さい締結力にされる(弱ブレーキ)。
【0085】
また、制御(b)の場合、変速機構200、300、400の変速比は増速側(変速比変更前に比べて増速側)の値に変更され、そのために、クラッチ210、310、410の締結力が小さく制御されて、正駆動時用ブレーキ212、312、412が制御(a)に比べて大きい締結力にされる(強ブレーキ)。
【0086】
さらに、制御(c)の場合、変速機構200、300、400の変速比は減速側(変速比変更前に比べて減速側)の値に変更され、そのために、クラッチ210、310、410の締結力が小さく制御されて、逆駆動時用ブレーキ214、314、414が大きい締結力にされる(強ブレーキ)。
【0087】
さらにまた、制御(d)の場合、変速機構200、300、400の変速比は増速側(変速比変更前に比べて増速側)の値に変更され、そのために、クラッチ210、310、410の締結力が小さく制御されて、逆駆動時用ブレーキ214、314、414が制御(c)に比べて小さい締結力にされる(弱ブレーキ)。
【産業上の利用可能性】
【0088】
以上のように本発明によれば、主駆動輪の回転速度に対する従駆動輪の回転速度を増速または減速することができるため、旋回性が向上する、循環トルクが抑制できるなどの効果が期待でき、したがって、四輪駆動車の製造産業分野において好適に利用される可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本発明の一実施形態に係る四輪駆動車の動力伝達装置を含む四輪駆動車の構成を概略的に示す図である。
【図2】走行中の四輪駆動車を概略的に示す斜視図である。
【図3】図1に示す変速機構の一例の変速機構の骨子図である。
【図4】制御装置が実行する複数の制御(a)〜(d)を説明するための図である。
【図5】複数の制御(a)〜(d)の制御内容の表を示す図である。
【図6】制御(a)の速度線図と、トルクの流れを示している。
【図7】制御(b)の速度線図と、トルクの流れを示している。
【図8】制御(c)の速度線図と、トルクの流れを示している。
【図9】制御(d)の速度線図と、トルクの流れを示している。
【図10】図1に示す変速機構の別例の変速機構の骨子図である。
【図11】図1に示す変速機構のまた別例の変速機構の骨子図である。
【図12】図1に示す変速機構のさらに別例の変速機構の骨子図である。
【図13】図10、図11、および図12に示す変速機構に対する、複数の制御(a)〜(d)との制御内容の表を示す図である。
【符号の説明】
【0090】
100 変速機構
102 入力軸
104 出力軸
106 第1のプラネタリギヤセット
108 第2のプラネタリギヤセット
110 クラッチ
112 正駆動時用ブレーキ
114 逆駆動時用ブレーキ
【技術分野】
【0001】
本発明は、四輪駆動車の動力伝達装置に関し、四輪駆動車の走行を安定させる走行制御の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来、四輪駆動車において、主駆動輪と従駆動輪それぞれの周速度(接地面での接線方向の速度)が要求された周速度比(以下、「要求周速度比」と称する。)になるように構成されているものがある。
【0003】
例えば、特許文献1に記載のものがある。これは、旋回時にオーバーステアさせるために後輪を増速させるようにしたものであり、具体的には、この四輪駆動車は、走行の安定性を向上させるために前輪である主駆動輪と後輪である従駆動輪それぞれの周速度を略一致させる(すなわち、主駆動輪と従駆動輪の周速度比を略1:1にする)ときと、旋回時の回頭性を向上させるために従駆動輪の周速度を主駆動輪の周速度に比べて増速させる(すなわち、主駆動輪と従駆動輪の周速度比を1:m(m>1)にする)ときとがある。この要求周速度比を達成するために、主駆動輪車軸と従駆動輪車軸との間の駆動力伝達系に変速装置を有し、該変速装置は、主駆動輪の車軸と従駆動輪の車軸の回転速度比を要求周速度比を達成するために必要な回転速度比(以下「必要回転速度比」と称する。)にする。
【0004】
【特許文献1】特公平7−64219号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上述の変速装置は、後輪(従駆動輪)に対して増速は実行するが減速は実行しない。しかしながら、このような、主駆動輪車軸と従駆動輪車軸との間の駆動力伝達系にある変速装置に、従駆動輪に対する減速の実行を要望したい状況がある。
【0006】
例えば、主駆動輪車軸と従駆動輪車軸の回転速度比を必要回転速度比に設定しても、駆動輪の径の変化によって主駆動輪と従駆動輪の周速度比が、例えば1:1などの要求周速度比から逸脱することがある。この駆動輪の径の変化は、例えば、タイヤ交換において本来取り付けるべきタイヤの径と異なる径のタイヤが装着されたとき、またはタイヤの磨耗、もしくは四輪駆動車の重心位置の移動によるタイヤに加わる荷重の変化などによって起こる。
【0007】
このように駆動輪の径が変化し、主駆動輪と従駆動輪の周速度比が要求周速度比から逸脱すると、路面での摩擦に起因して両駆動輪間で所謂循環トルクが発生する。そして、この循環トルクが駆動力伝達系に駆動源からの本来の駆動トルクに加えて作用し、駆動力伝達系各部における回転抵抗を増大させる。その結果、動力の損失、すなわちエンジンの燃費性能の悪化や、発熱による動力伝達系の耐久性の悪化等を招くことになる。
【0008】
この循環トルクを抑制するために、主駆動輪車軸と従駆動輪車軸との間の駆動力伝達系にある変速装置に、従駆動輪に対する減速の実行を要望したいことがある。
【0009】
そこで、本発明は、主駆動輪車軸の回転速度に対する従駆動輪車軸の回転速度を増速および減速することができる四輪駆動車の動力伝達装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の課題を解決するために、本願の請求項1に記載の発明は、駆動源と、駆動源の出力を主駆動輪車軸と従駆動輪車軸とに分配して伝達するトランスファ装置と、主駆動輪車軸と従駆動輪車軸との間の駆動力伝達系に設けられた変速機構とを有する四輪駆動車の動力伝達装置であって、
前記変速機構は、主駆動輪側の駆動力伝達系に連結された入力軸と、従駆動輪側の駆動力伝達系に連結された出力軸と、第1および第2のプラネタリギヤセットと、1つのクラッチと、正駆動時用および逆駆動時用ブレーキとから構成され、前記クラッチを完全締結して前記入力軸と前記出力軸とを直結するとともに、前記クラッチおよび前記ブレーキの一方の締結力を制御して前記入力軸と前記出力軸の回転速度比を制御することを特徴とする。
【0011】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の四輪駆動車の動力伝達装置において、
第1のプラネタリギヤセットは第1のサンギヤ、第1のキャリア、および第1のリングギヤを有し、
第2のプラネタリギヤセットは第2のサンギヤ、第2のキャリア、および第2のリングギヤを有し、
前記第1のサンギヤと前記第2のサンギヤとが結合され、
前記第1のキャリアと前記第2のリングギヤとが結合されているとともに、
前記入力軸は前記第2のキャリアに、前記出力軸は前記第1のキャリアおよび前記第2のリングギヤそれぞれに結合されており、
かつ、前記入力軸と前記出力軸との間に前記クラッチが介設され、
前記第1のサンギヤおよび前記第2のサンギヤと変速機ケースとの間に前記正駆動時用のブレーキが、前記第1のリングギヤと変速機ケースとの間に前記逆駆動時用のブレーキが介設されていることを特徴とする。
【0012】
さらに、請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の四輪駆動車の動力伝達装置において、
第1のプラネタリギヤセットは第1のサンギヤ、第1のキャリア、および第1のリングギヤを有し、
第2のプラネタリギヤセットは第2のサンギヤ、第2のキャリア、および第2のリングギヤを有し、
前記第1のキャリアと前記第2のリングギヤとが結合され、
前記第1のリングギヤと前記第2のキャリアとが結合されているとともに、
前記入力軸は前記第1のキャリアに、前記出力軸は前記第1のリングギヤおよび前記第2のキャリアそれぞれに結合されており、
かつ、前記第2のキャリアと前記第1のキャリアおよび前記第2のリングギヤそれぞれとの間に前記クラッチが介設され、
前記第1のサンギヤと変速機ケースとの間に前記正駆動時用のブレーキが、前記第2のサンギヤと変速機ケースとの間に前記逆駆動時用のブレーキが介設されていることを特徴とする。
【0013】
さらにまた、請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の四輪駆動車の動力伝達装置において、
第1のプラネタリギヤセットは第1のサンギヤ、第1のキャリア、および第1のリングギヤを有し、
第2のプラネタリギヤセットは第2のサンギヤ、第2のキャリア、および第2のリングギヤを有し、
前記第1のサンギヤと前記第2のキャリアとが結合され、
前記第1のキャリアと前記第2のサンギヤとが結合されているとともに、
前記入力軸は前記第1のキャリアおよび前記第2のサンギヤそれぞれに、前記出力軸は前記第2のキャリアに結合されており、
かつ、前記入力軸と前記出力軸との間に前記クラッチが介設され、
前記第1のリングギヤと変速機ケースとの間に前記正駆動時用のブレーキが、前記第2のリングギヤと変速機ケースとの間に前記逆駆動時用のブレーキが介設されていることを特徴とする。
【0014】
加えて、請求項5に記載の発明は、請求項1に記載の四輪駆動車の動力伝達装置において、
第1のプラネタリギヤセットは第1のサンギヤ、第1のキャリア、および第1のリングギヤを有し、
第2のプラネタリギヤセットは第2のサンギヤ、第2のキャリア、および第2のリングギヤを有し、
前記第1のサンギヤと前記第2のリングギヤとが結合され、
前記第1のキャリアと前記第2のサンギヤが結合されているとともに、
前記入力軸は前記第1のキャリアおよび前記第2のサンギヤそれぞれに、前記出力軸は前記第2のキャリアに結合されており、
かつ、前記入力軸と前記出力軸との間に前記クラッチが介設され、
前記第1のリングギヤと変速機ケースとの間に前記正駆動時用のブレーキが、前記第1のサンギヤおよび前記第2のリングギヤそれぞれと変速機ケースとの間に前記逆駆動時用のブレーキが介設されていることを特徴とする。
【0015】
加えてまた、請求項6に記載の発明は、請求項1から5のいずれかに記載の四輪駆動車の動力伝達装置において、
前記駆動力伝達系に作用する循環トルクを検出する循環トルク検出手段を有し、
前記変速機構は、前記循環トルク検出手段が循環トルクを検出したときは、前記クラッチおよび前記ブレーキの一方の締結力を制御して、前記循環トルクが抑制されるように、前記入力軸と前記出力軸の回転速度比を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に記載の発明によれば、変速機構は、主駆動輪側の駆動力伝達系に連結された入力軸、従駆動輪側の駆動力伝達系に連結された出力軸、第1および第2のプラネタリギヤセット、1つのクラッチ、および正駆動(エンジンが車両を駆動している状態)時用および逆駆動(車両の慣性走行によりエンジンが駆動される状態)時用のブレーキから構成されており、クラッチを完全締結状態にすれば入力軸と出力軸とが直結することにより、またはクラッチと一方のブレーキの締結力を制御することにより、入力軸の回転速度に対する出力軸の回転速度の比、すなわち変速比を1とすることが可能であるとともに減速側または増速側に無段階に変更することができる。その結果、主駆動輪車軸の回転速度に対する従駆動輪車軸の回転速度を増速するまたは減速することが可能になる。
【0017】
また、請求項2〜5に記載の発明によれば、入力軸、出力軸、2つのプラネタリギヤセット、1つのクラッチ、および2つのブレーキを各請求項に記載する関係に従って接続することにより比較的簡素な構成の変速機構が得られ、コンパクトで搭載性に優れた四輪駆動車の動力伝達装置が実現される。
【0018】
さらに、請求項6によれば、主駆動輪または従駆動輪いずれかの径の変化により、主駆動輪と従駆動輪の周速度の比が要求された周速度比から逸脱して、主駆動輪と従駆動輪との間の駆動力伝達系に循環トルクが発生した場合に、循環トルク検出手段がこれを検出し、その検出結果に基づき、循環トルクが抑制されるように、前記駆動力伝達系に設けられた変速機構がその変速比を変更する。これにより、四輪駆動車としての良好な走破性が維持されるとともに、循環トルクに起因するエンジン燃費性能の悪化や、発熱による動力伝達系の耐久性の悪化等の問題が防止される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1は本発明の一実施形態に係る四輪駆動車の動力伝達装置を搭載した四輪駆動車の構成を概略的に示している。
【0020】
図1に符号10で示す車両は前側駆動輪12Fと後側駆動輪12Rとを有する四輪駆動車である。四輪駆動車10は、駆動源であるエンジン14と、エンジン14の出力を駆動輪12F、12Rに伝達するためのトランスミッション16と、トランスミッション16からの駆動力を左右の前側駆動輪12Fに車軸18を介して伝達する前輪用デフ20と、後側駆動輪12Rに伝達する駆動力を取り出すトランスファ22と、トランスファ22からの駆動力を左右の後側駆動輪12Rに車軸24を介して伝達する後輪用デフ26とを有する。この構成においては、前側駆動輪12Fが主駆動輪となり、後側駆動輪12Rが従駆動輪となる。
【0021】
また、トランスファ22と後輪用デフ26は、変速機構28を介して駆動連結されている。具体的には、トランスファ22の出力軸に一端が連結された駆動力伝達軸30aの他端が変速機構28の入力軸に連結され、変速機構28の出力軸に一端が連結された駆動力伝達軸30b他端が後輪用デフ26の入力軸に連結されている。
【0022】
変速機構28は、変速比、すなわち駆動力伝達軸30aと30bの回転速度比を変更可能に構成されている。変速比は、駆動輪12F、12Rの周速度(接地面での接線方向の速度)の比が要求された比(要求周速度比)になるために必要な変速比(以下、「必要変速比」と称する。)である。確認すると、ここで言う「必要変速比」は、例えば要求周速度比が1:1になるような変速比、または要求周速度比が1:m(m>1)になるような変速比であって、要求周速度比に対して1つ存在する変速比を言う。
【0023】
このことを図2を用いて説明する。図2は、走行中の四輪駆動車10を概略的に示している。図は、走行中、駆動輪12F、12Rそれぞれの周速度が車速に相当する同一の速度Vである場合、すなわち要求周速度比が1:1である場合を示している。
【0024】
このとき、例えば前側駆動輪12Fの半径がr1であって後側駆動輪12Rの半径がr1と異なるr2である場合、前側の車軸18の回転速度VFと後側の車軸24の回転速度VRとの比(必要回転速度比=VF:VR)をr2:r1とする必要がある。
【0025】
また、そのためには、駆動力伝達軸30aの回転速度V1に対する前側駆動輪12Fの回転速度VFの比と、駆動力伝達軸30bの回転速度V2に対する後側駆動輪12Rの回転速度VRの比が等しいものとして、変速機構28が、駆動力伝達軸30aの回転速度V1と駆動力伝達軸32bの回転速度V2との比がr2:r1になるように、すなわち変速比をr1/r2(出力側回転速度V2/入力側回転速度V1)で維持する必要がある。
【0026】
すなわち、この場合における必要変速比は、駆動輪12F、12Rそれぞれにおいて、周速度が同一になるような変速比である。なお、前側駆動輪12Fと後側駆動輪12Rの径r1、r2が同一である場合、変速比は1:1に設定される。
【0027】
ここからは、図1に示す変速機構28の具体的な構成および制御装置34が実行する該変速機構28の変速比の変更方法について説明する。
【0028】
図3は、一例の変速機構の骨子図である。図に符号100に示される変速機構は、入力軸(図1に示す駆動力伝達軸30aと結合する軸)102と、出力軸(駆動力伝達軸30bと結合する軸)104と、2つのプラネタリギヤセット106(請求の範囲に記載の第1のプラネタリギヤに対応。)および108(請求の範囲に記載の第2のプラネタリギヤに対応。)と、1つのクラッチ110と、2つのブレーキ112(請求の範囲に記載の正駆動時用ブレーキに対応。)および114(請求の範囲に記載の逆駆動時用ブレーキに対応。)とから構成されている。
【0029】
2つのプラネタリギヤセット106および108は、シングルピニオン型プラネタリギヤセットであって、それぞれサンギヤ106s、108sと、該サンギヤと噛み合うピニオン106p、108pと、該ピニオンを支持するキャリア106c、108cと、該ピニオンと噛み合うリングギヤ106r、108rとから構成される。
【0030】
変速機構100において、サンギヤ106sとサンギヤ108とが結合され、キャリア106cとリングギヤ108rとが結合されている。また、入力軸102はキャリア108cに、出力軸104はキャリア106cおよびリングギヤ108rそれぞれに結合されている。
【0031】
さらに、入力軸102と出力軸104との間にはクラッチ110が介設されている。さらにまた、サンギヤ106sおよびサンギヤ108sと変速機構100の変速機ケース116との間に正駆動時用のブレーキ112が、リングギヤ106rと該変速機ケース116との間に逆駆動時用のブレーキ114が介設されている。
【0032】
このような構成の変速機構100によれば、クラッチ110および2つのブレーキ112、114の締結力を制御することにより、変速機構100は増速側および減速側に無段階に変速比を変更することが可能である。
【0033】
具体的には、変速機構100は、図1の制御装置34がクラッチ110および2つのブレーキ112、114を制御することにより、その変速比を変更される。
【0034】
例えば、制御装置34は、変速比1への変更を要求されると、クラッチ110を完全締結状態に制御して入力軸102と出力軸104とを直結し、2つのブレーキ112、114を非締結状態に制御する。
【0035】
また、制御装置34は、1以外の変速比への変更が要求されると、変速機構100が伝達する駆動トルクの伝達方向と、その要求された変速比の値に基づいて、クラッチ110および2つのブレーキ112、114の締結力を制御する。
【0036】
具体的に説明すると、制御装置34が実行する変速機構100のクラッチ110および2つのブレーキ112、114の締結力の制御には、図4に示すように4つの制御がある。ここで説明する例は、前輪12Fと後輪12Rの径がrで同一である例である。
【0037】
制御(a)は、変速機構28(100)がエンジン14が後輪12Rに対して出力した駆動トルクを伝達しているときに、駆動力伝達軸30a(入力軸102)の回転速度V1に対する駆動力伝達軸30b(出力軸104)の回転速度V2を減速する制御を示している。なお、ここでは、エンジンが出力した駆動トルクが後輪12Rに伝わる方向を正方向とし、その反対を逆方向とする。
【0038】
また、制御(b)は、変速機構28(100)がエンジン14が後輪12Rに対して出力した駆動トルクを伝達しているときに、駆動力伝達軸30a(入力軸102)の回転速度V1に対する駆動力伝達軸30b(出力軸104)の回転速度V2を増速する制御を示している。
【0039】
さらに、制御(c)は、変速機構28(100)が後輪12Rがエンジン14に対して出力した駆動トルクを伝達しているときに(いわゆる車両がコースティング状態にあるとき)、駆動力伝達軸30a(入力軸102)の回転速度V1に対する駆動力伝達軸30b(出力軸104)の回転速度V2を減速する制御を示している。
【0040】
さらにまた、制御(d)は、変速機構28(100)が後輪12Rがエンジン14に対して出力した駆動トルクを伝達しているときに(いわゆる車両がコースティング状態にあるとき)、駆動力伝達軸30a(入力軸102)の回転速度V1に対する駆動力伝達軸30b(出力軸104)の回転速度V2を増速する制御を示している。
【0041】
なお、変速機構が伝達する駆動トルクの方向は、例えばアクセルペダルが踏まれているか否かを検出するアクセルペダルセンサにより判断できる。すなわち、アクセルペダルが踏まれている場合、エンジンが駆動トルクを出力するので変速機構が伝達する駆動トルクの方向は正方向である。そうでない場合、逆方向である。
【0042】
制御装置34は、制御(a)の場合(駆動トルクが正方向であって、減速が要求される場合)、図5の表に示すように、クラッチ110と正駆動時用ブレーキ112の締結力を制御し、逆駆動時用ブレーキ114は制御しない(非制御)。
【0043】
図3を参照しつつ説明すると、制御装置34は、クラッチ110の締結力を小さく制御し、変速機構100の変速比を減速側の要求された変速比にする。これにより、後輪12Rに伝達されるトルクが減少し、その回転が減速される。
【0044】
しかし、クラッチ110の締結力を小さく制御するだけでは、変速比は要求された変速比よりさらに減速側に変化し続け、後輪12Rの回転は減速し続けてしまう。
【0045】
その対処として、制御装置34は、正駆動時用ブレーキ112の締結力を制御する。このことを図6(a)に示す速度線図を用いて説明する。
【0046】
この速度線図は、2つのプラネタリギヤセット106、108の回転要素、すなわちサンギヤ106s、108sと、キャリア106c、108cと、リングギヤ106r、108rそれぞれの回転速度を縦方向に示し、各回転要素の横方向の間隔は、サンギヤ106s、108sおよびリングギヤ106r、108rの歯数Zs(106)、Zs(108)、Zr(106)、Zr(108)の逆数に対応して示している。
【0047】
図6(a)に示すように、入力軸102の回転速度に対する出力軸104の回転速度の比、すなわち変速比を減速側(変速比変更前に比べて減速側)の要求された変速比Rout1/Rin1に維持するために、制御装置34は、サンギヤ106s、108sの回転速度が速度線図に基づく(すなわちサンギヤ106s、108sおよびリングギヤ106r、108rの歯数に基づく)R1になるように、正駆動時用ブレーキ112の締結力を制御する。
【0048】
まとめると、制御装置34は、制御(a)の場合、まずクラッチ110の締結力を小さくして変速機構100の変速比を要求された変速比Rout1/Rin1に減速し、サンギヤ106s、108sの回転速度が要求された変速比Rout1/Rin1を維持するためのR1になるように正駆動時用ブレーキ112の締結力を制御する。
【0049】
この場合の変速機構100の各構成要素を伝達するトルクを図6(b)に示す。図においては、太線はトルクが伝達されていることを示し、白抜き矢印はトルクの方向を示している。また、点線に示す摩擦要素は、すべり状態であることを示している。
【0050】
まず、入力軸102を伝達するトルクは、分岐してクラッチ110とキャリア108cとに入力される。クラッチ110が入力軸102側から出力軸104側に伝達するトルクは、その締結力が要求された変速比に変更する前に比べて小さくされているため、変更前に比べて小さい。キャリア108cに入力されたトルクは、サンギヤ108sを介して正駆動時用ブレーキ112に伝達されるとともに、リングギヤ108を介して出力軸104に伝達される。出力軸104には、クラッチ110を介するトルクとリングギヤ108rを介するトルクとが合流したトルクが伝達される。これにより、結果として出力軸104に伝達されるトルクは、要求された変速比に変更する前と略同一となる。
【0051】
また制御(b)の場合(駆動トルクが正方向であって、増速が要求される場合)、、制御装置34は、図5の表に示すように、クラッチ110と正駆動時用ブレーキ112の締結力を制御し、逆駆動時用ブレーキ114は制御しない(非制御)。
【0052】
具体的には、制御装置34は、クラッチ110の締結力を小さく制御し、正駆動時用ブレーキ112の締結力を制御する。これは制御(a)の場合と同一であるが、正駆動時用ブレーキ112の締結力を制御(a)に比べて大きくする(強くブレーキする)点で異なる。
【0053】
図7(a)に示す速度線図を用いて説明する。制御装置34は、変速比を増速側(変速比変更前に比べて増速側)の要求された変速比Rout2/Rin2に維持するために、サンギヤ106s、108sの回転速度を、制御(a)の場合のR1(図6参照。)に比べて小さくする必要がある。すなわち、制御(b)の場合、正駆動時用ブレーキ112の締結力を制御(a)に比べて大きくする必要がある。
【0054】
まとめると、制御装置34は、制御(b)の場合、まずクラッチ110の締結力を小さくして変速機構100の変速比を要求された変速比Rout2/Rin2に増速し、サンギヤ106s、108sの回転速度が、要求された変速比Rout2/Rin2を維持するための、R1より小さいR2になるように正駆動時用ブレーキ112を、制御(a)のときの締結力に比べて大きい締結力に制御する。
【0055】
この場合の変速機構100の各構成要素を伝達するトルクを図7(b)に示す。
【0056】
入力軸102を伝達するトルクは、制御(a)と異なり、キャリア108cのみに入力される。これは、クラッチ110の出力軸104側が入力軸102側に比べて増速されているために、クラッチ110から入力軸102にトルクが伝達されてくるためである。したがって、キャリア108cには、入力軸102からのトルクとクラッチ110からのトルクが入力される。キャリア108cに入力されたトルクは、サンギヤ108sを介して正駆動時用ブレーキ112に伝達されるとともに、リングギヤ108rを介して出力軸104に向かって伝達される。リングギヤ108rからのトルクは、出力軸104とクラッチ110とに分岐する。これにより、結果として出力軸104に伝達されるトルクは、要求された変速比に変更する前と略同一となる。
【0057】
さらに、制御(c)の場合(駆動トルクが逆方向であって、減速が要求される場合)、制御装置34は、図5の表に示すように、クラッチ110と逆駆動時用ブレーキ114の締結力を制御し、正駆動時用ブレーキ112は制御しない(非制御)。
【0058】
具体的には、制御装置34は、クラッチ110の締結力を小さく制御し、逆駆動時用ブレーキ114の締結力を制御する。
【0059】
このことを図8(a)に示す速度線図を用いて説明する。制御装置34は、制御(c)の場合、まずクラッチ110の締結力を小さくして変速機構100の変速比を要求された変速比Rout3/Rin3に減速し、リングギヤ106rの回転速度がその変速比Rout3/Rin3を維持するためのR3になるように逆駆動時用ブレーキ114の締結力を制御する。
【0060】
この場合の変速機構100の各構成要素を伝達するトルクを図8(b)に示す。
【0061】
出力軸104を伝達するトルクは、リングギヤ108rとキャリア106cに入力される。また、リングギヤ108rとキャリア106cには、クラッチ110からのトルクも入力される。キャリア106cに入力されたトルクは、リングギヤ106rを介して逆駆動時用ブレーキ114に伝達されるとともに、サンギヤ106sを介してサンギヤ108sに入力される。キャリア108cにはリングギヤ108rとサンギヤ108sからトルクが伝達され、そのトルクは、入力軸102とクラッチ110とに分岐する。結果として入力軸102に伝達されるトルクは、要求された変速比に変更する前と略同一となる。
【0062】
さらにまた、制御(d)の場合(駆動トルクが逆方向であって、増速が要求される場合)、制御装置34は、図5の表に示すように、クラッチ110と逆駆動時用ブレーキ114の締結力を制御し、正駆動時用ブレーキ112は制御しない(非制御)。
【0063】
具体的には、制御装置34は、クラッチ110の締結力を小さく制御し、逆駆動時用ブレーキ114の締結力を制御する。これは制御(c)の場合と同一であるが、逆駆動時用ブレーキ114の締結力を制御(c)に比べて小さくする(弱くブレーキする)点で異なる。
【0064】
このことを図9(a)に示す速度線図を用いて説明する。制御装置34は、変速比を増速側(変速比変更前に比べて増速側)の要求された変速比Rout4/Rin4に維持するために、リングギヤ106rの回転速度を、制御(c)の場合のR3(図8参照。)に比べて大きくする必要がある。すなわち、制御(d)の場合、逆駆動時用ブレーキ114の締結力を制御(c)に比べて小さくする必要がある。
【0065】
まとめると、制御装置34は、制御(d)の場合、まずクラッチ110の締結力を小さくして変速機構100の変速比を要求された変速比Rout4/Rin4に増速し、リングギヤ106rの回転速度が、要求された変速比Rout4/Rin4を維持するための、R3より大きいR4になるように逆駆動時用ブレーキ114を、制御(c)のときの締結力に比べて小さい締結力に制御する。
【0066】
この場合の変速機構100の各構成要素を伝達するトルクを図9(b)に示す。
【0067】
出力軸104を伝達するトルクは、リングギヤ108rとキャリア106cに入力されるとともに、クラッチ110に伝達される。そして、クラッチ110に伝達されたトルクは、入力軸102に伝達される。キャリア106cに入力されたトルクは、リングギヤ106rを介して逆駆動時用ブレーキ114に伝達されるとともに、サンギヤ106sを介してサンギヤ108sに入力される。キャリア108cにはリングギヤ108rとサンギヤ108sからトルクが伝達され、そのトルクは、入力軸102に伝達される。結果として入力軸102には、キャリア108cからのトルクとクラッチ110からのトルクが伝達され、そのトルクは、要求された変速比に変更する前と略同一となる。
【0068】
上述の構成によれば、入力軸102、出力軸104、2つのプラネタリギヤセット106、108、1つのクラッチ110、および2つのブレーキ112、114から構成される比較的簡素な構成の変速機構100が得られ、それにより、コンパクトで搭載性に優れた四輪駆動車の動力伝達装置が実現される。また、制御装置34は、クラッチ110を完全締結して変速機構100の変速比を1とすることが可能であるとともに、クラッチ110とブレーキ112、114の一方の締結力を制御して減速側または増速側に無段階に変速比を変更することができる。
【0069】
これにより、例えば、車両が旋回するとき、変速機構100が前輪12F(車軸18)の回転速度に対する後輪12R(車軸24)の回転速度を増速することにより、車両がオーバーステアされて回頭性が向上する。この場合、車両の旋回は、例えばステアリングの操舵角を検出するセンサによって検出することができる。
【0070】
また、例えば、後輪12Rの径が小さくなることにより前輪12F側から後輪12R側への循環トルクが発生したとき、変速機構100が、前輪12F(車軸18)の回転速度に対する後輪12R(車軸24)の回転速度を増速することにより、該循環トルクを抑制することができる。
【0071】
一方、例えば、前輪12Fの径が小さくなることにより後輪12R側から前輪12F側への循環トルクが発生したとき、変速機構100が、前輪12F(車軸18)の回転速度に対する後輪12R(車軸24)の回転速度を減速することにより、該循環トルクを抑制することができる。
【0072】
なお、循環トルクが発生しているか否か、また発生している場合はその大きさおよび方向は、例えば、変速機構100の入力軸102と結合された駆動力伝達軸30aに発生しているトルクを、例えばトルクセンサによって検出することにより求めることができる。
【0073】
図1を参照しつつ具体的に説明すると、駆動力伝達軸30bに伝達されるエンジン14からのトルクに基づく駆動トルクを算出する。この駆動トルクは、エンジン回転速度及びエンジン負荷と予め記憶しているエンジン特性マップとからエンジン出力トルクを求め、そのトルクに、トランミッション16の現在の変速段の変速比と、トランスファ22による後側駆動輪12R側へのトルク分割比を積算することにより求められる。
【0074】
駆動力伝達軸30aに発生している、トルクセンサによって検出されたトルクから、上述で算出した駆動力伝達軸30bに伝達されるエンジン14からのトルクに基づく駆動トルクを減算する。その場合、駆動力伝達系に循環トルクが発生していなければ、差は0となるが、循環トルクが発生している場合には、その大きさが、方向も含めて算出されることになる。
【0075】
変速機構100が増速または減速することにより発生した循環トルクを抑制することができるため、四輪駆動車としての良好な走破性が維持されるとともに、循環トルクに起因するエンジン燃費性能の悪化や、発熱による動力伝達系の耐久性の悪化等の問題が防止される。
【0076】
以上、実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明はこれに限定されない。
【0077】
例えば、上述の変速機構100以外の変速機構でも、上述の変速機構100と同等の効果を得ることは可能である。
【0078】
図10〜12に骨子図を示す変速機構200、300、400は、上述の変速機構100と同様に、入力軸(図1に示す駆動力伝達軸30aと結合する軸)202、302、402と、出力軸(駆動力伝達軸30bと結合する軸)204、304、404と、2つのプラネタリギヤセット206、306、406(請求の範囲に記載の第1のプラネタリギヤに対応。)および208、308、408(請求の範囲に記載の第2のプラネタリギヤに対応。)と、1つのクラッチ210、310、410と、2つのブレーキ212、312、412(請求の範囲に記載の正駆動時用ブレーキに対応。)および214、314、414(請求の範囲に記載の逆駆動時用ブレーキに対応。)とから構成されている。
【0079】
各変速機構において、2つのプラネタリギヤセット206、306、406および208、308、408は、シングルピニオン型プラネタリギヤセットであって、それぞれサンギヤ206s、306s、406sおよび208s、308s、408sと、該サンギヤと噛み合うピニオン206p、306p、406pおよび208p、308p、408pと、該ピニオンを支持するキャリア206c、306c、406cおよび208c、308c、408cと、該ピニオンと噛み合うリングギヤ206r、306r、406rおよび208r、308r、408rとから構成される。
【0080】
図10に示すように、変速機構200において、キャリア206cとリングギヤ208rとが結合され、リングギヤ206rとキャリア208cとが結合されているとともに、入力軸202がキャリア206cに、出力軸204がリングギヤ206rおよびキャリア208cそれぞれに結合されている。また、キャリア208cとキャリア206cおよびリングギヤ208rそれぞれとの間にクラッチ210が介設され、サンギヤ206sと変速機ケース216との間に正駆動時用のブレーキ212が、サンギヤ208sと変速機ケース214との間に逆駆動時用のブレーキ214が介設されている。
【0081】
また、図11に示すように、変速機構300において、サンギヤ306sとキャリア308cとが結合され、キャリア306cとサンギヤ308sとが結合されているとともに、入力軸302がキャリア306cおよびサンギヤ308sそれぞれに、出力軸304がキャリア308cに結合されている。また、入力軸302と出力軸304との間にクラッチ310が介設され、リングギヤ306rと変速機ケース316との間に正駆動時用のブレーキ312が、リングギヤ308rと変速機ケース316との間に逆駆動時用のブレーキ314が介設されている
【0082】
さらに、図12に示すように、変速機400において、サンギヤ406sとリングギヤ408rとが結合され、キャリア406cとサンギヤ408sが結合されているとともに、入力軸402がキャリア406cおよびサンギヤ408sそれぞれに、出力軸404がのキャリア408cに結合されている。また、入力軸402と出力軸404との間にクラッチ410が介設され、リングギヤ406rと変速機ケース416との間に正駆動時用のブレーキ412が、サンギヤ406sおよびリングギヤ408rそれぞれと変速機ケース416との間に逆駆動時用のブレーキ414が介設されている。
【0083】
これらの変速機構200、300、400に対して実施される、図4に示す各制御(駆動トルクの方向、変速比の変更要求)に対応する、制御装置の制御内容を表にして図13に示す。
【0084】
図13に示すように、制御(a)の場合、変速機構200、300、400の変速比は減速側(変速比変更前に比べて減速側)の値に変更され、そのために、クラッチ210、310、410の締結力が小さく制御されて、正駆動時用ブレーキ212、312、412が小さい締結力にされる(弱ブレーキ)。
【0085】
また、制御(b)の場合、変速機構200、300、400の変速比は増速側(変速比変更前に比べて増速側)の値に変更され、そのために、クラッチ210、310、410の締結力が小さく制御されて、正駆動時用ブレーキ212、312、412が制御(a)に比べて大きい締結力にされる(強ブレーキ)。
【0086】
さらに、制御(c)の場合、変速機構200、300、400の変速比は減速側(変速比変更前に比べて減速側)の値に変更され、そのために、クラッチ210、310、410の締結力が小さく制御されて、逆駆動時用ブレーキ214、314、414が大きい締結力にされる(強ブレーキ)。
【0087】
さらにまた、制御(d)の場合、変速機構200、300、400の変速比は増速側(変速比変更前に比べて増速側)の値に変更され、そのために、クラッチ210、310、410の締結力が小さく制御されて、逆駆動時用ブレーキ214、314、414が制御(c)に比べて小さい締結力にされる(弱ブレーキ)。
【産業上の利用可能性】
【0088】
以上のように本発明によれば、主駆動輪の回転速度に対する従駆動輪の回転速度を増速または減速することができるため、旋回性が向上する、循環トルクが抑制できるなどの効果が期待でき、したがって、四輪駆動車の製造産業分野において好適に利用される可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本発明の一実施形態に係る四輪駆動車の動力伝達装置を含む四輪駆動車の構成を概略的に示す図である。
【図2】走行中の四輪駆動車を概略的に示す斜視図である。
【図3】図1に示す変速機構の一例の変速機構の骨子図である。
【図4】制御装置が実行する複数の制御(a)〜(d)を説明するための図である。
【図5】複数の制御(a)〜(d)の制御内容の表を示す図である。
【図6】制御(a)の速度線図と、トルクの流れを示している。
【図7】制御(b)の速度線図と、トルクの流れを示している。
【図8】制御(c)の速度線図と、トルクの流れを示している。
【図9】制御(d)の速度線図と、トルクの流れを示している。
【図10】図1に示す変速機構の別例の変速機構の骨子図である。
【図11】図1に示す変速機構のまた別例の変速機構の骨子図である。
【図12】図1に示す変速機構のさらに別例の変速機構の骨子図である。
【図13】図10、図11、および図12に示す変速機構に対する、複数の制御(a)〜(d)との制御内容の表を示す図である。
【符号の説明】
【0090】
100 変速機構
102 入力軸
104 出力軸
106 第1のプラネタリギヤセット
108 第2のプラネタリギヤセット
110 クラッチ
112 正駆動時用ブレーキ
114 逆駆動時用ブレーキ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源と、駆動源の出力を主駆動輪車軸と従駆動輪車軸とに分配して伝達するトランスファ装置と、主駆動輪車軸と従駆動輪車軸との間の駆動力伝達系に設けられた変速機構とを有する四輪駆動車の動力伝達装置であって、
前記変速機構は、主駆動輪側の駆動力伝達系に連結された入力軸と、従駆動輪側の駆動力伝達系に連結された出力軸と、第1および第2のプラネタリギヤセットと、1つのクラッチと、正駆動時用および逆駆動時用ブレーキとから構成され、前記クラッチを完全締結して前記入力軸と前記出力軸とを直結するとともに、前記クラッチおよび前記ブレーキの一方の締結力を制御して前記入力軸と前記出力軸の回転速度比を制御することを特徴とする四輪駆動車の動力伝達装置。
【請求項2】
請求項1に記載の四輪駆動車の動力伝達装置において、
第1のプラネタリギヤセットは第1のサンギヤ、第1のキャリア、および第1のリングギヤを有し、
第2のプラネタリギヤセットは第2のサンギヤ、第2のキャリア、および第2のリングギヤを有し、
前記第1のサンギヤと前記第2のサンギヤとが結合され、
前記第1のキャリアと前記第2のリングギヤとが結合されているとともに、
前記入力軸は前記第2のキャリアに、前記出力軸は前記第1のキャリアおよび前記第2のリングギヤそれぞれに結合されており、
かつ、前記入力軸と前記出力軸との間に前記クラッチが介設され、
前記第1のサンギヤおよび前記第2のサンギヤと変速機ケースとの間に前記正駆動時用のブレーキが、前記第1のリングギヤと変速機ケースとの間に前記逆駆動時用のブレーキが介設されていることを特徴とする四輪駆動車の動力伝達装置。
【請求項3】
請求項1に記載の四輪駆動車の動力伝達装置において、
第1のプラネタリギヤセットは第1のサンギヤ、第1のキャリア、および第1のリングギヤを有し、
第2のプラネタリギヤセットは第2のサンギヤ、第2のキャリア、および第2のリングギヤを有し、
前記第1のキャリアと前記第2のリングギヤとが結合され、
前記第1のリングギヤと前記第2のキャリアとが結合されているとともに、
前記入力軸は前記第1のキャリアに、前記出力軸は前記第1のリングギヤおよび前記第2のキャリアそれぞれに結合されており、
かつ、前記第2のキャリアと前記第1のキャリアおよび前記第2のリングギヤそれぞれとの間に前記クラッチが介設され、
前記第1のサンギヤと変速機ケースとの間に前記正駆動時用のブレーキが、前記第2のサンギヤと変速機ケースとの間に前記逆駆動時用のブレーキが介設されていることを特徴とする四輪駆動車の動力伝達装置。
【請求項4】
請求項1に記載の四輪駆動車の動力伝達装置において、
第1のプラネタリギヤセットは第1のサンギヤ、第1のキャリア、および第1のリングギヤを有し、
第2のプラネタリギヤセットは第2のサンギヤ、第2のキャリア、および第2のリングギヤを有し、
前記第1のサンギヤと前記第2のキャリアとが結合され、
前記第1のキャリアと前記第2のサンギヤとが結合されているとともに、
前記入力軸は前記第1のキャリアおよび前記第2のサンギヤそれぞれに、前記出力軸は前記第2のキャリアに結合されており、
かつ、前記入力軸と前記出力軸との間に前記クラッチが介設され、
前記第1のリングギヤと変速機ケースとの間に前記正駆動時用のブレーキが、前記第2のリングギヤと変速機ケースとの間に前記逆駆動時用のブレーキが介設されていることを特徴とする四輪駆動車の動力伝達装置。
【請求項5】
請求項1に記載の四輪駆動車の動力伝達装置において、
第1のプラネタリギヤセットは第1のサンギヤ、第1のキャリア、および第1のリングギヤを有し、
第2のプラネタリギヤセットは第2のサンギヤ、第2のキャリア、および第2のリングギヤを有し、
前記第1のサンギヤと前記第2のリングギヤとが結合され、
前記第1のキャリアと前記第2のサンギヤが結合されているとともに、
前記入力軸は前記第1のキャリアおよび前記第2のサンギヤそれぞれに、前記出力軸は前記第2のキャリアに結合されており、
かつ、前記入力軸と前記出力軸との間に前記クラッチが介設され、
前記第1のリングギヤと変速機ケースとの間に前記正駆動時用のブレーキが、前記第1のサンギヤおよび前記第2のリングギヤそれぞれと変速機ケースとの間に前記逆駆動時用のブレーキが介設されていることを特徴とする四輪駆動車の動力伝達装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の四輪駆動車の動力伝達装置において、
前記駆動力伝達系に作用する循環トルクを検出する循環トルク検出手段を有し、
前記変速機構は、前記循環トルク検出手段が循環トルクを検出したときは、前記クラッチおよび前記ブレーキの一方の締結力を制御して、前記循環トルクが抑制されるように、前記入力軸と前記出力軸の回転速度比を制御することを特徴とする四輪駆動車の動力伝達装置。
【請求項1】
駆動源と、駆動源の出力を主駆動輪車軸と従駆動輪車軸とに分配して伝達するトランスファ装置と、主駆動輪車軸と従駆動輪車軸との間の駆動力伝達系に設けられた変速機構とを有する四輪駆動車の動力伝達装置であって、
前記変速機構は、主駆動輪側の駆動力伝達系に連結された入力軸と、従駆動輪側の駆動力伝達系に連結された出力軸と、第1および第2のプラネタリギヤセットと、1つのクラッチと、正駆動時用および逆駆動時用ブレーキとから構成され、前記クラッチを完全締結して前記入力軸と前記出力軸とを直結するとともに、前記クラッチおよび前記ブレーキの一方の締結力を制御して前記入力軸と前記出力軸の回転速度比を制御することを特徴とする四輪駆動車の動力伝達装置。
【請求項2】
請求項1に記載の四輪駆動車の動力伝達装置において、
第1のプラネタリギヤセットは第1のサンギヤ、第1のキャリア、および第1のリングギヤを有し、
第2のプラネタリギヤセットは第2のサンギヤ、第2のキャリア、および第2のリングギヤを有し、
前記第1のサンギヤと前記第2のサンギヤとが結合され、
前記第1のキャリアと前記第2のリングギヤとが結合されているとともに、
前記入力軸は前記第2のキャリアに、前記出力軸は前記第1のキャリアおよび前記第2のリングギヤそれぞれに結合されており、
かつ、前記入力軸と前記出力軸との間に前記クラッチが介設され、
前記第1のサンギヤおよび前記第2のサンギヤと変速機ケースとの間に前記正駆動時用のブレーキが、前記第1のリングギヤと変速機ケースとの間に前記逆駆動時用のブレーキが介設されていることを特徴とする四輪駆動車の動力伝達装置。
【請求項3】
請求項1に記載の四輪駆動車の動力伝達装置において、
第1のプラネタリギヤセットは第1のサンギヤ、第1のキャリア、および第1のリングギヤを有し、
第2のプラネタリギヤセットは第2のサンギヤ、第2のキャリア、および第2のリングギヤを有し、
前記第1のキャリアと前記第2のリングギヤとが結合され、
前記第1のリングギヤと前記第2のキャリアとが結合されているとともに、
前記入力軸は前記第1のキャリアに、前記出力軸は前記第1のリングギヤおよび前記第2のキャリアそれぞれに結合されており、
かつ、前記第2のキャリアと前記第1のキャリアおよび前記第2のリングギヤそれぞれとの間に前記クラッチが介設され、
前記第1のサンギヤと変速機ケースとの間に前記正駆動時用のブレーキが、前記第2のサンギヤと変速機ケースとの間に前記逆駆動時用のブレーキが介設されていることを特徴とする四輪駆動車の動力伝達装置。
【請求項4】
請求項1に記載の四輪駆動車の動力伝達装置において、
第1のプラネタリギヤセットは第1のサンギヤ、第1のキャリア、および第1のリングギヤを有し、
第2のプラネタリギヤセットは第2のサンギヤ、第2のキャリア、および第2のリングギヤを有し、
前記第1のサンギヤと前記第2のキャリアとが結合され、
前記第1のキャリアと前記第2のサンギヤとが結合されているとともに、
前記入力軸は前記第1のキャリアおよび前記第2のサンギヤそれぞれに、前記出力軸は前記第2のキャリアに結合されており、
かつ、前記入力軸と前記出力軸との間に前記クラッチが介設され、
前記第1のリングギヤと変速機ケースとの間に前記正駆動時用のブレーキが、前記第2のリングギヤと変速機ケースとの間に前記逆駆動時用のブレーキが介設されていることを特徴とする四輪駆動車の動力伝達装置。
【請求項5】
請求項1に記載の四輪駆動車の動力伝達装置において、
第1のプラネタリギヤセットは第1のサンギヤ、第1のキャリア、および第1のリングギヤを有し、
第2のプラネタリギヤセットは第2のサンギヤ、第2のキャリア、および第2のリングギヤを有し、
前記第1のサンギヤと前記第2のリングギヤとが結合され、
前記第1のキャリアと前記第2のサンギヤが結合されているとともに、
前記入力軸は前記第1のキャリアおよび前記第2のサンギヤそれぞれに、前記出力軸は前記第2のキャリアに結合されており、
かつ、前記入力軸と前記出力軸との間に前記クラッチが介設され、
前記第1のリングギヤと変速機ケースとの間に前記正駆動時用のブレーキが、前記第1のサンギヤおよび前記第2のリングギヤそれぞれと変速機ケースとの間に前記逆駆動時用のブレーキが介設されていることを特徴とする四輪駆動車の動力伝達装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の四輪駆動車の動力伝達装置において、
前記駆動力伝達系に作用する循環トルクを検出する循環トルク検出手段を有し、
前記変速機構は、前記循環トルク検出手段が循環トルクを検出したときは、前記クラッチおよび前記ブレーキの一方の締結力を制御して、前記循環トルクが抑制されるように、前記入力軸と前記出力軸の回転速度比を制御することを特徴とする四輪駆動車の動力伝達装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2009−1210(P2009−1210A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−165878(P2007−165878)
【出願日】平成19年6月25日(2007.6.25)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年6月25日(2007.6.25)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】
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