説明

回折格子を含む光学系および光学機器

【課題】回折光学素子による不要回折光の発生を抑制しつつ十分な色収差の低減効果が得られるコンパクトな光学系が求められている。
【解決手段】光学系は、1つのレンズ群に含まれ、第1の媒質により形成された負レンズGnAと、該負レンズの少なくとも1つのレンズ面に形成され、第1の媒質とは異なる第2の媒質に密着する回折格子6(Ldoe)と、該1つのレンズ群に含まれ、第1および第2の媒質とは異なる第3の媒質により形成された正レンズGpCとを有する。第1の媒質は、ndAを該第1の媒質のd線に対する屈折率とし、νdAを該第1の媒質のd線に対するアッベ数とするとき、ndA≧1.7、40≦νdA≦55なる条件を満足し、第3の媒質は、ndCを該第3の媒質のd線に対する屈折率とし、νdCを該第3の媒質のd線に対するアッベ数とするとき、ndC≦1.55、νdC≧60なる条件を満足する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回折光学素子(回折格子)を含む光学系に関し、特に撮像装置等の光学機器に好適な光学系に関する。
【背景技術】
【0002】
光学系において発生する軸上色収差や倍率色収差等の色収差を低減する方法の1つとして、特許文献1,2にて開示されているような回折光学素子(DOE)を利用した色消し方法がある。特許文献1,2にて開示された光学系では、DOEの周期構造を変化させることによる非球面効果と、通常の硝材とは異なるDOEの負の分散特性(υd=−3.453)や強い異常分散性(θgF=0.296)を利用した色収差の低減効果とを併せて利用する。これにより、色収差の低減だけでなく、光学系の小型化も可能とする。
【0003】
なお、特許文献1には、樹脂材料を密着させて又は積層して構成されたDOEが開示されている。また、特許文献2には、ガラス材料と樹脂材料を密着させて構成されたDOEが開示されている。
【0004】
さらに、特許文献3,4には、ガラス材料と樹脂材料を用いて構成されたDOEが開示されている。特許文献3にて開示されたDOEは、2つの回折格子を密着配置した密着2層DOEであり、特許文献4にて開示されたDOEは、複数の回折格子を積層配置した積層DOEである。いずれのDOEも、各回折格子を構成する材料や各回折格子の格子厚を適切に設定することで、特定の次数の回折光に対して広い波長域で高い回折効率を実現している。回折効率とは、DOEを透過する光全体に対する特定の次数の回折光の光量の割合である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−3913号公報
【特許文献2】特開平11−271514号公報
【特許文献3】特開2000−98118号公報
【特許文献4】特開2003−227913号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1〜4にて開示された回折光学素子を用いた光学系では、十分な色収差の低減効果は期待できるものの、回折光学素子の格子厚が厚いために、回折光学素子に対して光が斜めに入射したときの回折効率の低下が懸念される。回折効率が低下することで、不要な回折次数の回折光が増加し、フレアやゴーストによる結像性能の悪化やコントラストの低下を引き起こす。
【0007】
本発明は、回折光学素子による不要回折光の発生を抑制しつつ十分な色収差の低減効果が得られるコンパクトな光学系を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面としての光学系は、複数のレンズ群のうち1つのレンズ群に含まれ、第1の媒質により形成された負レンズと、該負レンズの少なくとも1つのレンズ面に形成され、第1の媒質とは異なる第2の媒質に密着する回折格子と、該1つのレンズ群に含まれ、第1および第2の媒質とは異なる第3の媒質により形成された正レンズとを有する。第1の媒質は、ndAを該第1の媒質のd線に対する屈折率とし、νdAを該第1の媒質のd線に対するアッベ数とするとき、ndA≧1.7、40≦νdA≦55なる条件を満足し、第3の媒質は、ndCを該第3の媒質のd線に対する屈折率とし、νdCを該第3の媒質のd線に対するアッベ数とするとき、ndC≦1.55、νdC≧60なる条件を満足することを特徴とする。
【0009】
なお、上記光学系を有する光学機器も、本発明の他の一側面を構成する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、特定の条件を満足する第1の媒質により形成された回折格子に第2の媒質を密着させた構成を採用することで、格子厚を小さくすることができ、斜入射光に対する回折効率の低下を回避することができ、不要回折光の発生を抑制することができる。しかも、特定の条件を満足する第1の媒質と第3の媒質によって負レンズおよび正レンズをそれぞれ形成することで、色収差を十分に低減することが可能となり、かつ光学系全体の小型化も実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施例1(数値例1)の光学系(広角端で無限遠物体距離)の構成を示す断面図。
【図2】数値例1の広角端で無限遠物体距離における収差図、中間ズーム位置で無限遠物体距離における収差図および望遠端で無限遠物体距離における収差図。
【図3】本発明の実施例2(数値例2)の光学系(広角端、無限遠物体距離)の構成を示す断面図。
【図4】数値例2の広角端で無限遠物体距離における収差図、中間ズーム位置で無限遠物体距離における収差図および望遠端で無限遠物体距離における収差図。
【図5】本発明の実施例3(数値例3)の光学系(無限遠物体距離)の構成を示す断面図。
【図6】数値例3の無限遠物体距離における収差図。
【図7】本発明の実施例4(数値例4)の光学系(無限遠物体距離)の構成を示す断面図。
【図8】数値例4の無限遠物体距離における収差図。
【図9】数値例1〜4における各材料のnd−νdの関係を示す図。
【図10】実施例1〜4における回折光学素子の構成を示す図。
【図11】数値例1における回折光学素子の回折効率の波長依存特性を示す図。
【図12】数値例2における回折光学素子の回折効率の波長依存特性を示す図。
【図13】数値例3における回折光学素子の回折効率の波長依存特性を示す図。
【図14】数値例4における回折光学素子の回折効率の波長依存特性を示す図。
【図15】数値例1〜4における各材料のnd−νdの関係を示す図。
【図16】従来および実施例の回折光学素子の斜入射光に対する回折効率の波長依存特性を示す図。
【図17】実施例1から4に示す光学系を撮影光学系として備えた本発明の実施例5であるデジタルカメラの斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。
【0013】
まず、具体的な実施例(数値例)の説明に先立って、各実施例に共通する事項について説明する。
【0014】
各実施例の光学系は、複数のレンズ群を含み、該複数のレンズ群のうち同一の1つのレンズ群(以下、特定レンズ群という)に、以下の負レンズと正レンズとが含まれている。負レンズは、第1の媒質である低融点ガラス(以下、材料Aという)により形成されている。また、正レンズは、第3の媒質である低屈折率低分散ガラス(以下、材料Cという)により形成されている。
【0015】
そして、特定レンズ群において、負レンズと正レンズとをできるだけ物体側または像側の位置に配置し、かつこれらを互いに近い距離に配置する。このような構成にすることで、光学系全体の色収差その他の諸収差を良好に補正(低減)する。
【0016】
さらに、材料Aにより形成された負レンズにおける少なくとも1つのレンズ面に、同じく材料Aによって回折格子を形成する。そして、その回折格子が形成されたレンズ面(以下、回折面ともいう)に、第2の媒質(以下、材料Bという)である紫外線硬化樹脂または微粒子分散材料を密着させる。このような構成にすることで、回折面における回折格子の格子厚を薄くすることができるとともに、可視波長域にて高い回折効率を得ることができる。また、回折格子の格子厚が薄くなることで、斜入射光に対する回折効率の低下を緩和することができ、回折面での不要回折光(フレアやゴースト)の発生を抑制することができる。
【0017】
材料Aおよび材料Cが満足すべき条件について以下、説明する。材料Aは条件(1),(2)を満足し、材料Cは条件(3),(4)を満足する。
【0018】
ndA≧1.7 …(1)
40≦νdA≦55 …(2)
ndC≦1.55 …(3)
νdC≧60 …(4)
ただし、ndAは材料Aのd線に対する屈折率であり、νdAは材料Aのd線に対するアッベ数である。また、ndCは材料Cのd線に対する屈折率であり、νdCは材料Cのd線に対するアッベ数である。
【0019】
図9には、条件(1),(2)を満足する材料Aの範囲と、条件(3),(4)を満足する材料Cの範囲をそれぞれ矩形枠で囲んで示している。図9において、縦軸はd線に対する屈折率を、横軸はd線に対するアッベ数を示している。
【0020】
材料Aにおいて、ndAが条件(1)の下限値を下回ると、光学系の諸収差、特に色収差を良好に補正することができなくなるだけでなく、回折格子を形成するための低融点ガラスの選択幅が小さくなり、好ましくない。
【0021】
また、νdAが条件(2)の下限値を下回ると、材料Aにより形成された回折格子に密着させる材料Bの存在範囲がなくなるので、好ましくない。一方、νdAが条件(2)の上限値を上回ると、光学系の諸収差、特に色収差の補正が困難となり、好ましくない。
【0022】
材料Cにおいて、ndCが条件(3)の下限値を下回ると、光学系の諸収差を良好に補正できるような硝材が存在しなくなるので、好ましくない。
【0023】
また、νdCが条件(4)の下限値を下回ると、光学系の諸収差、特に色収差を良好に補正できなくなるので、好ましくない。
【0024】
次に、材料A,Cが上記の条件(1)〜(4)を満たすことが必要である理由を、図15を用いてさらに具体的に説明する。図15において、縦軸はd線に対する屈折率を、横軸はd線に対するアッベ数を示している。また、図15は、1つに固定した材料Bを、材料Aにより形成された回折格子に密着させて1つの回折光学素子(DOE)として構成された密着2層DOEに対して光が垂直に入射するときに回折効率が100%になる材料Aの例を、材料1〜11として示している。例えば、材料1については、図15中の「材料1のライン」が垂直入射光に対する回折効率が100%となる材料1の範囲となる。さらに、図15中には、材料1〜11を選択したときの密着2層DOEの格子厚を点線で示している。
【0025】
図15から明らかなように、材料Aとして、より高屈折率低分散の材料になるほど(すなわち、材料11が最も)、より小さい格子厚で100%の回折効率を得ることができる。
【0026】
一方、光学系の色収差補正においては、低分散なガラスを正レンズに用い、高分散なガラスを負レンズに用いる必要があるが、逆に、上述した回折効率の面からは低分散なガラス(材料A)を負レンズに形成される回折格子の材料として用いたい。そこで、実施例では、これらの相反する両要求を概ね満足できるように、材料Aが満足すべき条件(1),(2)を決定した。さらに、このような材料Aを使用しても光学系全体の色収差を良好に補正できるように、正レンズの材料Cを(3),(4)を満足するような、より低屈折率低分散の材料に限定した。
【0027】
なお、上記条件(1)〜(4)を満足することは光学系全体の小型化にも有効であるが、条件(1),(3),(4)を以下の条件(1a),(3a),(4a)ように変更することで、光学系の諸収差、特に色収差の補正効果を高めることができる。しかも、光学系のさらなる小型化も可能である。
ndA≧1.75 …(1a)
ndC≦1.50 …(3a)
νdC≧65 …(4a)
条件(1)〜(4)を満足し、さらに以下の条件(5)〜(8)および条件(I)のうち少なくとも1つを満足することは、回折面での不要回折光(フレアやゴースト)の発生を抑制して色収差の補正も十分になされた小型の光学系を実現するのに、より好ましい。
【0028】
まず、以下に示す条件(5)を満足すると良い。
【0029】
0.00≦|LGAC/√(OLW×OLT)|<0.10 …(5)
ただし、LGACは特定レンズ群において負レンズに形成された回折面(回折格子)と正レンズにおける負レンズ側のレンズ面との間の光軸上の距離である。OLWは該光学系の広角端における物体距離が無限遠のときの光学全長である。OLTは該光学系の望遠端における物体距離が無限遠のときの光学全長である。なお、該光学系が単焦点である場合は、OLW=OLTとする。
【0030】
条件(5)は、特定レンズ群における材料Aにより形成された負レンズと材料Cにより形成された正レンズとの間の光軸上の距離を規定する。|LGAC/√(OLW×OLT)|の値が条件(5)の上限値を上回ると、負レンズと正レンズとが離れ過ぎてしまい、光学系の諸収差、特に色収差の補正が困難となり、好ましくない。
【0031】
なお、条件(5)を、以下のように変更すると、色収差補正をより良好に行うことができる。
【0032】
0.00≦|LGAC/√(OLW×OLT)|<0.07 …(5a)
また、光学系が、最も物体側に配置された第1レンズと、最も像側に配置された第2レンズと、絞りとを含んでいる場合に、以下の条件(6)を満足するとより良い。
【0033】
0.001<|LOID/√(OLW×OLT)|<0.50 …(6)
ただし、LOIDは、回折面(回折格子)が絞りよりも物体側に配置されている場合は、光学系の物体距離が無限遠であるときの第1レンズの物体側レンズ面から回折面までの距離である。また、LOIDは、回折面が絞りより像側に配置されている場合は、物体距離が無限遠であるときの第2レンズの像側レンズ面から回折面までの距離である。
【0034】
条件(6)は、回折面の配置箇所を規定する。|LOID/√(OLW×OLT)|の値が条件(6)の下限値を下回ると、回折面の配置箇所が最も物体側の第1レンズの物体側レンズ面または最も像側の第2レンズの像側レンズ面に配置されることになり、防塵性の面から好ましくない。一方、|LOID/√(OLW×OLT)|の値が条件(6)の上限値を上回ると、回折面の配置箇所が最も物体側の第1レンズの物体側レンズ面または最も像側の第2レンズの像側レンズ面から離れ過ぎ、十分な色収差の補正効果を得られなくなり、好ましくない。
【0035】
なお、条件(6)を、以下のように変更すると、回折格子をより容易に製作することができるとともに、色収差補正をより良好に行うことができる。
【0036】
0.005<|LOID/√(OLW×OLT)|<0.30 …(6a)
以下の条件(7)を満足すると、より良い。
【0037】
0.001<|√(fw×ft)/fdoe|<0.10 …(7)
ただし、fdoeは回折面の回折による焦点距離であり、fwは光学系の広角端における物体距離が無限遠のときの焦点距離であり、ftは光学系の望遠端における物体距離が無限遠のときの焦点距離である。光学系が単焦点である場合は、fw=ftとする。
【0038】
条件(7)は、回折面の回折による焦点距離と光学系全系の焦点距離との関係を規定する。|√(fw×ft)/fdoe|の値が条件(7)の下限値を下回ると、光学系全系の焦点距離に対する回折の屈折力(パワー)が弱くなり過ぎ、光学系の色収差の補正が困難となり、好ましくない。一方、|√(fw×ft)/fdoe|の値が条件(7)の上限値を上回ると、光学系全系の焦点距離に対する回折の屈折力が強くなり過ぎ、回折格子の格子ピッチが細かくなり、回折効率の低下とこれに伴う不要回折光の発生を引き起こすので、好ましくない。
【0039】
なお、条件(7)を、以下のように変更すると、光学系における色収差の補正効果をより高めることができるとともに、回折効率の低下を回避できる。
【0040】
0.01<|√(fw×ft)/fdoe|<0.05 …(7a)
また、材料Aを、ガラス転移温度TgAの低融点ガラスとし、以下の条件(8)を満足するとより良い。
【0041】
TgA≦650℃ …(8)
条件(8)は、低融点ガラスである材料Aのガラス転移温度の範囲を規定する。TgAが条件(8)の上限値を上回ると、ガラスの転移温度が高くなりすぎ、回折格子をガラスの表面に成形するのが困難になるので、好ましくない。
【0042】
なお、条件(8)を以下のように変更すると、回折格子をより容易に成形することができ、好ましい。
【0043】
TgA≦620℃ …(8a)
さらに、条件(I)として、材料Aにより形成された回折格子と、以下の条件(9)〜(12)を満足する材料Bにより形成された素子とが密着接合されることにより、1つの回折光学素子が構成されると、より良い。
ndA−ndB>0 …(9)
ndB≧1.60 …(10)
νdB≦25 …(11)
hd≦8μm …(12)
ただし、ndBは材料Bのd線に対する屈折率であり、νdBは材料Bのd線に対するアッベ数であり、hdは回折光学素子の全体の格子厚である。
【0044】
条件(9)〜(11)は、材料Aにより形成された回折面に密着接合されて1つの回折光学素子の働きをなす樹脂材料または微粒子分散材料である材料Bの特性を規定する。図9には、条件(9)〜(12)を満足する材料Bの範囲を矩形枠で示している。
【0045】
ndA−ndBの値が条件(9)の下限値を下回ると、材料Aと材料Bにより形成される回折光学素子に求める性能が得られなくなり、好ましくない。ndBの値が条件(10)の下限値を下回ると、光学系の諸収差、特に色収差の補正を行うために負レンズに用いる材料Aが存在しなくなるので、好ましくない。νdBの値が条件(11)の上限値を上回ると、回折光学素子が所望の性能を得られなくなるので好ましくない。
【0046】
条件(12)は、材料Aと材料Bにより構成される回折光学素子の格子厚の範囲を規定する。hdの値が条件(12)の上限値を上回ると、格子厚が大きくなり過ぎて、斜入射光に対する回折効率が大きく低下するので、好ましくない。
【0047】
なお、条件(9)〜(12)を、以下のように変更し、材料Bの範囲を図9中の矩形点線枠に示した範囲とすることは、回折効率の低下をより効果的に抑制でき、不要回折光のさらなる低減に繋がるので、好ましい。
ndA−ndB>0.10 …(9a)
ndB≧1.65 …(10a)
νdB≦20 …(11a)
hd≦6μm …(12a)
次に、本発明の具体的な実施例を、数値例とともに示す。図1には、実施例1(数値例1)の広角端で物体距離が無限遠であるときの光学系の構成を示している。図2には、数値例1の広角端で物体距離が無限遠であるときの収差図(a)、中間ズーム位置で物体距離が無限遠であるときの収差図(b)および望遠端で物体距離が無限遠であるときの収差図(c)を示している。
【0048】
また、図3には、実施例2(数値例2)の広角端で物体距離が無限遠であるときの光学系の構成を示している。図4には、数値例2の広角端で物体距離が無限遠であるときの収差図(a)、中間ズーム位置で物体距離が無限遠であるときの収差図(b)および望遠端で物体距離が無限遠であるときの収差図(c)を示している。
【0049】
また、図5には、実施例3(数値例3)の物体距離が無限遠であるときの光学系の構成を示している。図6には、数値例3の物体距離が無限遠であるときの収差図を示している。
【0050】
さらに、図7には、実施例4(数値例4)の物体距離が無限遠であるときの光学系の構成を示している。図8には、数値例4の物体距離が無限遠であるときの収差図を示している。
【0051】
各レンズ構成図において、IPは像面を、Gは水晶ローパスフィルタや赤外カットフィルタ等のガラスブロックを、Sは開口絞りをそれぞれ示している。また、各収差図のうち球面収差、歪曲および倍率色収差において、実線はd線の収差を、二点鎖線はg線の収差を、一点鎖線はC線の収差を、点線はF線の収差をそれぞれ示している。また、非点収差においては、実線はサジタル光線(ΔS)の収差、点線はメリディオナル光線(ΔM)の収差を示している。
【実施例1】
【0052】
図1に示す実施例1の光学系は、デジタルスチルカメラやビデオカメラ等の撮像装置(光学機器)に用いられる望遠ズームレンズである。
【0053】
該ズームレンズは、物体側から順に、正の屈折力を有する第1レンズ群L1と、負の屈折力を有する第2レンズ群L2と、正の屈折力を有する第3レンズ群L3とを含む。さらに、それに続いて、負の屈折力を有する第4レンズ群L4と、正の屈折力を有する第5レンズ群L5と、負の屈折力を有する第6レンズ群L6と、正の屈折力を有する第7レンズ群L7とを含む。開口絞りSは、第3レンズ群L3と第4レンズ群L4との間に配置されている。
【0054】
材料Aにより形成された負レンズ(GnA)は、第1レンズ群L1の物体側から2番目に配置された凹レンズに相当する。また、材料Cにより形成された正レンズ(GpC)は、同じ第1レンズ群L1の物体側から3番目に配置された凸レンズに相当する。
【0055】
負レンズGnAにおける正レンズGpC側(像側)のレンズ面には回折格子が形成され、該回折格子に後述する材料Bからなる回折格子が密着接合されることで回折光学素子(Ldoe)が構成される。なお、負レンズGnAと正レンズGpCとが接合レンズを構成しており、該接合レンズの接合面が回折面となっている。該回折面(回折格子)は、開口絞りSよりも物体側に配置されている。
【0056】
このように構成されたズームレンズにおいて、無限遠物体から至近距離物体へのフォーカシングは、第6レンズ群L6の全体(Lfo)を像側へ移動させて行う。また、第2レンズ群L2の全体(LIS)を光軸に直交する方向にシフトさせることにより、手振れ等の振動に起因する像振れを低減する。
【0057】
さらに、広角端から望遠端への変倍に際しては、第1レンズ群L1から第6レンズ群L6を像側から物体側に移動させる。第7レンズ群L7は、変倍に際して固定(不動)である。
【0058】
本実施例では、近軸軸上光線が高く、かつ瞳近軸光線も高い位置(第1レンズ群L1における接合レンズの接合面の位置)に回折光学素子(Ldoe)を設けることによって、軸上色収差および倍率色収差を同時に補正する。また、低融点ガラス(材料A)を第1レンズ群L1内の負レンズGnAの材料として用いることで、該負レンズGnAの像側レンズ面(接合面)に回折格子を直接設けることができる。さらに、同じ第1レンズ群L1内の正レンズGpCの材料として材料Cを用いることで、光学系の色収差補正のアシストを行う。
【0059】
ここで、本実施例および後述する他の実施例にて用いられる回折光学素子(DOE)の構成について、図10を用いて説明する。図10は、密着2層DOEを示している。
【0060】
基板4の表面には第1の回折格子6が形成されている。もう1つの基板5上には紫外線硬化樹脂または微粒子分散材料からなる第2の回折格子7が形成されている。第2の回折格子7が第1の回折格子6に対して空気層を介在させることなく密着することで、1つのDOE1として機能する。第1および第2の回折格子6,7は互いに同じ格子厚hdを有する。
【0061】
基板4が低融点ガラス(材料A)により形成された負レンズGnAに相当し、第1の回折格子6は、該負レンズGnAのレンズ面に形成されている。第2の回折格子7が材料Bにより形成された回折格子に相当する。基板5は、本実施例では正レンズGpCに相当し、他の実施例では正レンズGpC以外のレンズに相当する。
【0062】
格子の形状については、第1の回折格子6は、図10の上から下に向かって格子厚が単調に増加する形状を有する。一方、第2の回折格子7は、図10の上から下に向かって格子厚が単調に減少する形状を有する。
【0063】
また、図10に示すように、DOEに入射光を左側から入射させると、1次回折光は右斜め下方向に進み、0次回折光は直進する。
【0064】
図11に、本実施例における密着2層DOEの設計回折次数の回折光である1次回折光の回折効率の波長依存特性(a)と、設計回折次数±1次の回折光である0次回折光および2次回折光の回折効率の波長依存特性(b)を示す。縦軸は回折効率(%)を、横軸は波長(nm)である。本実施例では、第1の回折格子6は(ndA,νdA)=(1.810,41.0)の材料Aにより形成され、第2の回折格子7は(ndB,νdB)=(1.696,14.5)の材料Bにより形成されている。格子厚hdは、第1および第2の回折格子6,7とも5.18μmと小さく設定されている。また、格子ピッチPは200μmである。
【0065】
本実施例の密着2層DOEは、格子厚が小さいにもかかわらず、設計回折次数光(1次回折光)の回折効率は使用波長全域で約96.0%以上と高く、かつ不要回折次数光(0,2次光)の回折効率は使用波長全域で約1.4%以下と抑制されている。
【0066】
次に、格子厚が小さい本実施例のDOEとこれよりも格子厚が大きい従来のDOEとの斜入射光に対する回折効率を比較する。従来のDOEも、実施例のDOEと同じ密着2層DOEとする。また、従来のDOEにおいて、第1の回折格子は(nd1,νd1)=(1.714,38.9)の材料により形成され、第2の回折格子は(nd2,νd2)=(1.647,20.7)の材料により形成されているものとする。第1および第2の回折格子の格子厚hdはともに8.86μmとする。
【0067】
0deg入射光(垂直入射光)を基準として、波長500nm近傍の回折効率が97%以上になる入射角度範囲を調べると、従来のDOEについては図16(a)に示すような結果が得られた。すなわち、波長500nm近傍の回折効率が97%以上になる入射角度範囲は、−14〜+20degと、34degの角度範囲であった。
【0068】
一方、本実施例のDOEについては、図16(b)に示すように、波長500nm近傍の回折効率が97%以上になる入射角度範囲は、−22〜+26degと48degの角度範囲であり、従来のDOEに比べてかなり広いという結果が得られた。このように、本実施例のDOEでは、斜入射光に対する回折効率が従来のDOEに比べてかなり改善する。
【0069】
以上説明したように、本実施例のズームレンズでは、諸収差、特に軸上色収差や倍率色収差を良好に補正することができる。しかも、回折格子(つまりはDOE)の格子厚を小さくすることができ、斜入射光に対する回折効率の低下を抑制することができ、斜入射光がDOEに入射することによって発生する不要回折光(フレアやゴースト)を低減することができる。これにより、該ズームレンズを通した撮影において、収差の影響やフレアやゴーストの写り込みがほとんどない良好な撮影画像を取得することができる。
【実施例2】
【0070】
図3に示す実施例2の光学系は、デジタルスチルカメラやビデオカメラ等の撮像装置(光学機器)に用いられる望遠ズームレンズである。
【0071】
該ズームレンズは、物体側から順に、正の屈折力を有する第1レンズ群L1と、負の屈折力を有する第2レンズ群L2と、正の屈折力を有する第3レンズ群L3とを含む。さらに、それに続いて、正の屈折力を有する第4レンズ群L4と、負の屈折力を有する第5レンズ群L5とを含む。開口絞りSは、第2レンズ群L2と第3レンズ群L3との間に配置されている。
【0072】
材料Aにより形成された負レンズ(GnA)は、第1レンズ群L1の物体側から1番目に配置された凹レンズに相当する。また、材料Cにより形成された正レンズ(GpC)は、同じ第1レンズ群L1の物体側から3番目に配置された凸レンズに相当する。
【0073】
負レンズGnAにおける像側レンズ面には回折格子が形成され、該回折格子に材料Bからなる回折格子が密着接合されることで回折光学素子(Ldoe)が構成される。なお、負レンズGnAと第1レンズ群L1において物体側から2番目に配置された凸レンズとが接合レンズを構成しており、該接合レンズの接合面が回折面となっている。該回折面(回折格子)は、開口絞りSよりも物体側に配置されている。
【0074】
このように構成されたズームレンズにおいて、無限遠物体から至近距離物体へのフォーカシングは、第5レンズ群L5の全体(Lfo)を物体側へ移動させて行う。
【0075】
さらに、広角端から望遠端への変倍に際しては、第1レンズ群L1から第5レンズ群L5を像側から物体側に移動させる。
【0076】
本実施例では、近軸軸上光線が高く、かつ瞳近軸光線も高い位置(第1レンズ群L1における接合レンズの接合面の位置)に回折光学素子(Ldoe)を設けることによって、軸上色収差および倍率色収差を同時に補正する。また、低融点ガラス(材料A)を第1レンズ群L1内の負レンズGnAの材料として用いることで、該負レンズGnAの像側レンズ面(接合面)に回折格子を直接設けることができる。さらに、同じ第1レンズ群L1内の正レンズGpCの材料として材料Cを用いることで、光学系の色収差補正のアシストを行う。
【0077】
回折光学素子(DOE)の構成は、実施例1において図10を用いて説明した構成と同じである。
【0078】
図12に、本実施例における密着2層DOEの設計回折次数の回折光である1次回折光の回折効率の波長依存特性(a)と、設計回折次数±1次の回折光である0次回折光および2次回折光の回折効率の波長依存特性(b)の例を示す。縦軸は回折効率(%)を、横軸は波長(nm)である。第1の回折格子6は(ndA,νdA)=(1.821,42.7)の材料Aにより形成され、第2の回折格子7は(ndB,νdB)=(1.700,14.2)の材料Bにより形成されている。格子厚hdは、第1および第2の回折格子6,7とも4.88μmと小さく設定されている。また、格子ピッチPは200μmである。
【0079】
本実施例の密着2層DOEは、格子厚が小さいにもかかわらず、設計回折次数光(1次回折光)の回折効率は使用波長全域で約96.0%以上と高く、かつ不要回折次数光(0,2次光)の回折効率は使用波長全域で約1.3%以下と抑制されている。また、図示はしないが、実施例1と同様に、斜入射光に対する回折効率が従来のDOEに比べてかなり改善する。
【0080】
以上説明したように、本実施例のズームレンズでは、諸収差、特に軸上色収差や倍率色収差を良好に補正することができる。しかも、回折格子(つまりはDOE)の格子厚を小さくすることができ、斜入射光に対する回折効率の低下を抑制することができ、斜入射光がDOEに入射することによって発生する不要回折光(フレアやゴースト)を低減することができる。これにより、該ズームレンズを通した撮影において、収差の影響やフレアやゴーストの写り込みがほとんどない良好な撮影画像を取得することができる。
【実施例3】
【0081】
図5に示す実施例3の光学系は、デジタルスチルカメラやビデオカメラ等の撮像装置(光学機器)に用いられる単焦点広角レンズである。
【0082】
該広角レンズにおいて、物体側から順に、LFは負の屈折力を有する前群であり、LRは正の屈折力を有する後群である。Sは開口絞りであり、前群LFと後群LRとの間に配置されている。
【0083】
材料Aにより形成された負レンズ(GnA)は、後群LRの最も像側に配置された凹レンズに相当する。また、材料Cにより形成された正レンズ(GpC)は、同じ後群LRの像側から3番目に配置された凸レンズに相当する。
【0084】
負レンズGnAにおける物体側レンズ面には回折格子が形成され、該回折格子に後述する材料Bからなる回折格子が密着接合されることで回折光学素子(Ldoe)が構成される。なお、負レンズGnAと後群LRにおいて像側から2番目に配置された凸レンズとが後群LRにおいて最も像側の接合レンズを構成しており、該接合レンズの接合面が回折面となっている。該回折面(回折格子)は、開口絞りSよりも像側に配置されている。
【0085】
このように構成された広角レンズにおいて、無限遠物体から至近距離物体へのフォーカシングは、前群LF内の一部(Lfo)を像側に移動させて行う。
【0086】
本実施例では、近軸軸上光線が高く、かつ瞳近軸光線も高い位置(後群LRにおける最も像側の接合レンズの接合面の位置)に回折光学素子(Ldoe)を設けることによって、軸上色収差および倍率色収差を同時に補正する。また、低融点ガラス(材料A)を後群LR内の負レンズGnAの材料として用いることで、該負レンズGnAの物体側レンズ面(接合面)に回折格子を直接設けることができる。さらに、同じ後群LR内の正レンズGpCの材料として材料Cを用いることで、光学系の色収差補正のアシストを行う。
【0087】
回折光学素子(DOE)の構成は、実施例1において図10を用いて説明した構成と同じである。ただし、入射光と射出光である1次および0次回折光の向きが図10に示した向きとは逆になる。
【0088】
図13に、本実施例における密着2層DOEの設計回折次数の回折光である1次回折光の回折効率の波長依存特性(a)と、設計回折次数±1次の回折光である0次回折光および2次回折光の回折効率の波長依存特性(b)の例を示す。縦軸は回折効率(%)を、横軸は波長(nm)である。第1の回折格子6は(ndA,νdA)=(1.772,50.0)の材料Aにより形成され、第2の回折格子7は(ndB,νdB)=(1.668,17.2)の材料Bにより形成されている。格子厚hdは、第1および第2の回折格子6,7とも5.71μmと小さく設定されている。また、格子ピッチPは200μmである。
【0089】
本実施例の密着2層DOEは、格子厚が小さいにもかかわらず、設計回折次数光(1次回折光)の回折効率は使用波長全域で約93.0%以上と高く、かつ不要回折次数光(0,2次光)の回折効率は使用波長全域で約2.6%以下と抑制されている。また、図示はしないが、実施例1と同様に、斜入射光に対する回折効率が従来のDOEに比べてかなり改善する。
【0090】
以上説明したように、本実施例の広角レンズでは、諸収差、特に軸上色収差や倍率色収差を良好に補正することができる。しかも、回折格子(つまりはDOE)の格子厚を小さくすることができ、斜入射光に対する回折効率の低下を抑制することができ、斜入射光がDOEに入射することによって発生する不要回折光(フレアやゴースト)を低減することができる。これにより、該広角レンズを通した撮影において、収差の影響やフレアやゴーストの写り込みがほとんどない良好な撮影画像を取得することができる。
【実施例4】
【0091】
図7に示す実施例4の光学系は、デジタルスチルカメラやビデオカメラ等の撮像装置(光学機器)に用いられる単焦点超望遠レンズである。
【0092】
該超望遠レンズにおいて、物体側から順に、LFは正の屈折力を有する前群であり、LRは正の屈折力を有する後群である。Sは開口絞りであり、前群LFと後群LRとの間に配置されている。
【0093】
材料Aにより形成された負レンズ(GnA)は、前群LFにおける物体側から4番目に配置された凹レンズに相当する。また、材料Cにより形成された正レンズ(GpC)は、同じ前群LFの物体側から2番目に配置された凸レンズに相当する。
【0094】
負レンズGnAにおける物体側レンズ面には回折格子が形成され、該回折格子に材料Bからなる回折格子が密着接合されることで回折光学素子(Ldoe)が構成される。なお、負レンズGnAと前群LFにおいて物体側から3番目に配置された凸レンズとが前群LFのうち物体側に配置される接合レンズを構成しており、該接合レンズの接合面が回折面となっている。該回折面(回折格子)は、開口絞りSよりも物体側に配置されている。
【0095】
このように構成された超望遠レンズにおいて、無限遠物体から至近距離物体へのフォーカシングは、前群LF内の一部(Lfo)を像側に移動させて行う。
【0096】
本実施例では、近軸軸上光線が高く、かつ瞳近軸光線も高い位置(前群LFのうち物体側に配置された接合レンズの接合面の位置)に回折光学素子(Ldoe)を設けることによって、軸上色収差および倍率色収差を同時に補正する。また、低融点ガラス(材料A)を前群LF内の負レンズGnAの材料として用いることで、該負レンズGnAの物体側レンズ面(接合面)に回折格子を直接設けることができる。さらに、同じ前群LF内の正レンズGpCの材料として材料Cを用いることで、光学系の色収差補正のアシストを行う。
【0097】
回折光学素子(DOE)の構成は、実施例1において図10を用いて説明した構成と同じである。
【0098】
図14に、本実施例における密着2層DOEの設計回折次数の回折光である1次回折光の回折効率の波長依存特性(a)と、設計回折次数±1次の回折光である0次回折光および2次回折光の回折効率の波長依存特性(b)の例を示す。縦軸は回折効率(%)を、横軸は波長(nm)である。第1の回折格子6は(ndA,νdA)=(1.854,40.4)の材料Aにより形成され、第2の回折格子7は(ndB,νdB)=(1.720,12.9)の材料Bにより形成されている。格子厚hdは、第1および第2の回折格子6,7とも4.40μmと小さく設定されている。また、格子ピッチPは200μmである。
【0099】
本実施例の密着2層DOEは、格子厚が小さいにもかかわらず、設計回折次数光(1次回折光)の回折効率は使用波長全域で約97.0%以上と高く、かつ不要回折次数光(0,2次光)の回折効率は使用波長全域で約1.0%以下と抑制されている。また、図示はしないが、実施例1と同様に、斜入射光に対する回折効率が従来のDOEに比べてかなり改善する。
【0100】
以上説明したように、本実施例の広角レンズでは、諸収差、特に軸上色収差や倍率色収差を良好に補正することができる。しかも、回折格子(つまりはDOE)の格子厚を小さくすることができ、斜入射光に対する回折効率の低下を抑制することができ、斜入射光がDOEに入射することによって発生する不要回折光(フレアやゴースト)を低減することができる。これにより、該超望遠レンズを通した撮影において、収差の影響やフレアやゴーストの写り込みがほとんどない良好な撮影画像を取得することができる。
【0101】
次に、上記実施例にて用いられた回折光学素子(DOE)の特性についてさらに説明する。DOEは、従来のガラスやプラスチック等による屈折とは異なり、負の分散と異常部分分散性の光学的特性を備えている。具体的には、アッベ数νd=−3.453、θgF=0.296となっている。この性質を利用して、DOEを屈折光学系に適切に用いることで、該屈折光学系にて発生する色収差を良好に補正することが可能となる。
【0102】
実施例にて用いられるDOEの格子ピッチを変更することによって、DOEに非球面の効果を持たせてもよい。
【0103】
また、DOEを設ける光学面(レンズ面)において、光学系を通過する軸上光線および軸外光線がそれらの入射位置における面法線方向に対して角度差を持つと、回折効率が低下することが懸念される。このため、軸上光線および軸外光線に対して、できるだけコンセントリックなレンズ面にDOEを設けることが好ましい。
【0104】
なお、DOEは光学面上に設けられるが、その光学面は、球面、平面、非球面および2次曲面のいずれでもよい。また、各実施例では、DOEが接合レンズの接合面に設けられている場合を示しているが、必ずしもDOEが接合レンズの接合面に設けられる必要はない。
【0105】
さらに、各実施例にて説明したDOEの製法としては、バイナリオプティクス形状をフォトレジストにより直接レンズ面に成形する方法や、同様の方法によって製作した型を用いてレプリカ成形やモールド成形を行う方法を用いることができる。また、格子形状を鋸形状のキノフォームにすれば、回折効率がより向上し、理想値に近い回折効率が期待できる。
【0106】
以下、実施例1〜4のそれぞれに対応する数値例1〜4を示す。数値例において、riは物体側からi番目のレンズ面の曲率半径を示し、diは物体側からi番目の基準状態での軸上面間隔を示す。ndiとνdiはそれぞれ、は物体側からi番目の光学部材のd線に対する屈折率とアッべ数を示す。FnoはFナンバーを示す。「e±M」は、「×10±M」を意味する。
【0107】
また、回折格子の位相形状ψは、回折光の回折次数をm、設計波長をλ0、光軸からの光軸に直交する方向の高さをh、位相係数をCi(i=1,2,3…)とするとき、次式によって表される。
ψ(h,m)=(2π/mλ0)×(C1・h+C2・h+C3・h+…)
さらに、非球面形状は、Xを光軸方向の面頂点からの変位量、hを光軸からの光軸に直交する方向の高さ、rを近軸曲率半径、kを円錐定数、B,C,D,E,…を非球面係数とするとき、次式によって表される。
【0108】
【数1】

【0109】
また、前述した各条件と各数値例との関係を、表1にまとめて示す。
[数値例1]
単位 mm
面データ
面番号i ri di ndi νdi 有効径
1 ∞ 0.15 52.65
2 82.008 5.41 1.48749 70.2 52.00
3 1515.255 0.15 51.56
4 71.010 1.50 1.81000 41.0 49.54
5(回折) 44.854 7.11 1.48749 70.2 47.33
6 261.187 (可変) 46.69
7 ∞ 1.48 24.44
8 765.788 1.50 1.61800 63.3 22.96
9 66.622 0.94 21.67
10 602.481 1.50 1.60300 65.4 21.56
11 18.168 2.84 1.67270 32.1 20.68
12 30.105 (可変) 20.43
13 23.327 1.50 1.92286 18.9 20.75
14 18.216 4.26 1.56384 60.7 19.98
15 385.771 1.00 19.74
16(絞り) ∞ (可変) 16.98
17 -24.760 1.50 1.53996 59.5 17.48
18 26.754 2.87 1.74000 28.3 18.22
19 333.492 (可変) 18.30
20 -109.907 3.15 1.56384 60.7 19.26
21 -23.141 0.15 19.50
22 91.049 4.79 1.48749 70.2 19.91
23 -19.036 1.50 2.00330 28.3 20.03
24 -52.955 0.15 21.25
25 41.984 2.98 1.81600 46.6 22.15
26 -676.802 (可変) 22.06
27 151.387 1.50 1.88300 40.8 20.14
28 31.412 1.69 19.74
29 996.697 2.50 1.92286 18.9 19.79
30 -48.074 1.50 1.88300 40.8 20.01
31 51.119 (可変) 20.56
32 57.794 3.06 1.64769 33.8 36.10
33 133.204 40.08 36.12
像面 ∞

非球面データ
第5面(回折面)
A 2=-5.74436e-005 A 4=-1.22212e-008

各種データ
ズーム比 4.01
広角 中間 望遠
焦点距離 72.50 135.50 290.90
Fナンバー 4.66 4.97 5.87
画角 16.62 9.07 4.25
像高 21.64 21.64 21.64
レンズ全長 144.08 171.47 204.08
BF 40.08 40.08 40.08

d 6 1.30 29.91 56.37
d12 17.11 8.64 1.20
d16 3.50 8.12 9.80
d19 11.10 7.02 1.60
d26 11.51 9.63 1.20
d31 2.80 11.40 37.14
d33 40.08 40.08 40.08

入射瞳位置 40.75 102.38 215.40
射出瞳位置 -32.18 -44.80 -88.42
前側主点位置 40.50 21.55 -152.22
後側主点位置-32.43 -95.43 -250.82

ズームレンズ群データ
群 始面 焦点距離 レンズ構成長 前側主点位置 後側主点位置
1 1 121.18 14.32 -0.79 -10.17
2 7 -37.93 8.27 5.15 -0.77
3 13 52.29 6.76 -1.07 -5.53
4 17 -60.64 4.37 -0.09 -2.71
5 20 27.51 12.72 4.46 -3.66
6 27 -25.70 7.19 2.50 -1.97
7 32 155.14 3.06 -1.40 -3.23

単レンズデータ
レンズ 始面 焦点距離
1 1 177.63
2 4 -157.05
3 5 108.52
4 8 -118.17
5 10 -31.10
6 11 62.16
7 13 -104.87
8 14 33.77
9 17 -23.57
10 18 39.15
11 20 51.32
12 22 32.76
13 23 -30.29
14 25 48.54
15 27 -45.15
16 29 49.75
17 30 -27.86
18 32 155.14

[数値例2]
単位 mm
面データ
面番号i ri di ndi νdi 有効径
1 106.201 1.50 1.82080 42.7 52.50
2(回折) 49.590 6.04 1.51633 64.1 50.70
3 137.408 0.15 50.47
4 68.701 7.88 1.48749 70.2 50.42
5 -186.189 (可変) 50.05
6 -63.589 1.50 1.83481 42.7 33.94
7 42.816 0.19 33.11
8 43.440 4.43 1.84666 23.8 33.21
9 513.395 (可変) 33.26
10(絞り) ∞ 0.15 26.86
11 72.265 1.50 1.92286 18.9 34.31
12 48.651 0.17 33.89
13 49.139 6.36 1.60311 60.6 33.94
14 -75.127 (可変) 33.87
15 86.062 4.06 1.48749 70.2 26.38
16 -52.393 1.50 1.83400 37.2 26.01
17 -143.111 0.15 25.71
18 48.523 2.44 1.60300 65.4 24.84
19 128.516 (可変) 24.24
20 113.270 1.50 1.83481 42.7 16.87
21 26.363 2.44 16.48
22 -36.292 1.50 1.83481 42.7 16.52
23 29.745 3.95 1.72825 28.5 18.19
24 -40.171 (可変) 18.92
像面 ∞

非球面データ
第2面(回折面)
A 2=-4.44322e-005 A 4= 3.97558e-009 A 6=-1.06128e-011

各種データ
ズーム比 2.84
広角 中間 望遠
焦点距離 103.00 200.00 292.50
Fナンバー 4.67 5.44 5.77
画角 11.86 6.17 4.23
像高 21.64 21.64 21.64
レンズ全長 162.16 189.12 210.66
BF 45.16 58.25 70.16

d 5 4.40 30.97 43.19
d 9 40.36 14.48 6.50
d14 2.90 25.58 41.30
d19 21.93 12.42 2.10
d24 45.16 58.25 70.16

入射瞳位置 55.16 86.40 105.31
射出瞳位置 -24.37 -29.60 -33.37
前側主点位置 5.59 -168.91 -428.60
後側主点位置-57.84 -141.75 -222.34

ズームレンズ群データ
群 始面 焦点距離 レンズ構成長 前側主点位置 後側主点位置
1 1 132.84 15.57 5.17 -5.24
2 6 -67.82 6.11 0.13 -3.26
3 10 71.87 8.18 2.77 -2.40
4 15 79.16 8.15 1.95 -3.29
5 20 -33.04 9.39 -0.18 -7.00

単レンズデータ
レンズ 始面 焦点距離
1 1 -115.89
2 2 144.92
3 4 104.00
4 6 -30.46
5 8 55.81
6 11 -166.40
7 13 50.22
8 15 67.45
9 16 -99.85
10 18 127.81
11 20 -41.49
12 22 -19.38
13 23 24.04

[数値例3]
単位 mm
面データ
面番号i ri di ndi νdi 有効径
1 ∞ 0.00 121.00
2 49.847 5.79 1.77250 49.6 73.07
3 29.708 8.66 54.13
4* 61.579 6.83 1.66910 55.4 52.00
5 58.051 0.15 47.88
6 32.620 1.80 1.77250 49.6 40.39
7 15.393 9.26 28.73
8 126.019 1.80 1.78800 47.4 28.43
9 18.628 9.56 23.93
10 45.981 2.00 1.88300 40.8 22.06
11 18.224 5.11 1.84666 23.8 20.59
12 -117.898 2.05 20.05
13 -143.664 10.07 1.48749 70.2 18.08
14 -13.793 1.20 1.84666 23.8 14.13
15 -18.133 4.95 14.68
16 -21.027 1.20 2.00330 28.3 14.17
17 -30.415 1.00 14.64
18(絞り) ∞ 3.77 14.07
19 15.305 3.19 1.51633 64.1 15.56
20 38.347 1.20 1.88300 40.8 15.00
21 22.660 1.06 14.45
22 79.792 1.20 2.00330 28.3 14.45
23 12.385 1.50 1.85026 32.3 14.22
24 17.477 3.28 1.48749 70.2 14.71
25 -70.231 0.15 16.03
26 47.883 6.60 1.64769 33.8 18.70
27(回折) -14.593 1.80 1.77200 50.0 19.83
28 -24.890 38.47 22.00
像面 ∞

非球面データ
第4面
K = 0.00000e+000 A 4= 7.67518e-006 A 6= 1.77447e-009 A 8=-5.21311e-012 A10= 9.03671e-015
第27面(回折面)
A 2=-8.95945e-004 A 4= 3.28200e-006

各種データ
焦点距離 14.36
Fナンバー 2.89
画角 56.38
像高 21.60
レンズ全長 133.66
BF 38.47

入射瞳位置 31.01
射出瞳位置 -28.31
前側主点位置 42.28
後側主点位置 24.11

単レンズデータ
レンズ 始面 焦点距離
1 1 -108.83
2 4 -6775.85
3 6 -39.53
4 8 -27.95
5 10 -35.38
6 11 18.97
7 13 30.52
8 14 -77.95
9 16 -72.54
10 19 47.11
11 20 -65.07
12 22 -14.74
13 23 44.03
14 24 29.06
15 26 17.48
16 27 -54.10

[数値例4]
単位 mm
面データ
面番号i ri di ndi νdi 有効径
1 143.126 26.92 1.48749 70.2 141.99
2 -780.617 33.17 140.21
3 114.623 13.11 1.49700 81.5 108.17
4 634.138 5.60 106.80
5 -452.511 4.00 1.85026 32.3 106.58
6(回折) -334.793 4.00 1.85400 40.4 105.34
7 192.486 0.15 99.21
8 104.402 14.96 1.43387 95.1 97.38
9 -1044.208 0.15 96.42
10 59.016 5.30 1.58313 59.4 81.52
11 48.119 0.00 74.00
12 ∞ 0.20 85.52
13 ∞ 50.35 85.38
14 -826.643 3.50 2.00330 28.3 49.00
15 -140.316 1.80 1.80400 46.6 48.46
16 89.625 0.00 45.83
17 ∞ 26.29 46.62
18(絞り) ∞ 25.43 39.59
19 108.384 1.30 2.00330 28.3 32.45
20 29.737 9.10 1.67300 38.2 31.17
21 -80.726 1.50 30.82
22 -109.512 8.00 1.67003 47.2 29.92
23 -40.022 1.30 1.49700 81.5 28.92
24 101.986 9.10 27.58
25 -47.442 1.30 1.88300 40.8 27.63
26 125.861 2.00 29.11
27 ∞ 0.00 30.24
28 -1323.051 7.07 1.65412 39.7 30.16
29 -25.336 1.40 1.81600 46.6 31.17
30 -63.505 3.55 34.01
31 390.076 9.44 1.57135 53.0 38.52
32 -34.498 5.76 1.52249 59.8 39.60
33 -44.253 3.00 42.05
34 ∞ 2.00 1.51633 64.2 42.15
35 ∞ 123.32 42.17
像面 ∞

非球面データ
第6面(回折面)
A 2=-3.03387e-005 A 4= 9.80399e-010

各種データ
焦点距離 584.94
Fナンバー 4.12
画角 2.12
像高 21.64
レンズ全長 404.06
BF 123.32

入射瞳位置 707.64
射出瞳位置 -157.92
前側主点位置 76.00
後側主点位置 -461.62

単レンズデータ
レンズ 始面 焦点距離
1 1 250.50
2 3 279.18
3 5 1366.27
4 6 -143.87
5 8 219.62
6 10 -544.41
7 14 168.02
8 15 -67.79
9 19 -41.19
10 20 33.40
11 22 89.98
12 23 -57.66
13 25 -38.88
14 28 39.40
15 29 -52.52
16 31 55.93
17 32 -375.60
18 34 0.00
【0110】
【表1】

【実施例5】
【0111】
図17には、上記実施例1〜4のレンズを撮影光学系として用いたデジタルスチルカメラ(撮像装置)を示している。
【0112】
図17において、20はカメラ本体、21は撮影光学系、22はカメラ本体20に内蔵され、撮影光学系21によって形成された被写体像を受光するCCDセンサやCMOSセンサ等の固体撮像素子(光電変換素子)である。
【0113】
23は撮像素子22によって光電変換された被写体像に対応する情報を記録するメモリ、24は液晶ディスプレイパネル等によって構成され、固体撮像素子22上に形成された被写体像を観察するためのファインダである。
【0114】
このように各実施例のレンズを撮像装置に適用することにより、高い光学性能を有する撮像装置を実現することができる。
【0115】
以上説明した各実施例は代表的な例にすぎず、本発明の実施に際しては、各実施例に対して種々の変形や変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0116】
不要回折光の発生を抑制しつつ十分な色収差の低減効果が得られるコンパクトな光学系および光学機器を提供できる。
【符号の説明】
【0117】
1,Ldoe 回折光学素子
GnA 負レンズ
GpC 正レンズ
IP 像面
6 第1の回折格子
7 第2の回折格子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のレンズ群を含む光学系であって、
前記複数のレンズ群のうち1つのレンズ群に含まれ、第1の媒質により形成された負レンズと、
前記負レンズの少なくとも1つのレンズ面に形成され、前記第1の媒質とは異なる第2の媒質に密着する回折格子と、
前記1つのレンズ群に含まれ、前記第1および第2の媒質とは異なる第3の媒質により形成された正レンズとを有し、
前記第1の媒質は、ndAを該第1の媒質のd線に対する屈折率とし、νdAを該第1の媒質のd線に対するアッベ数とするとき、
ndA≧1.7
40≦νdA≦55
なる条件を満足し、
前記第3の媒質は、ndCを該第3の媒質のd線に対する屈折率とし、νdCを該第3の媒質のd線に対するアッベ数とするとき、
ndC≦1.55
νdC≧60
なる条件を満足することを特徴とする光学系。
【請求項2】
以下の条件を満足することを特徴とする請求項1に記載の光学系。
0.00≦|LGAC/√(OLW×OLT)|<0.10
ただし、LGACは前記回折格子と前記正レンズにおける前記負レンズ側のレンズ面との間の光軸上の距離であり、OLWは該光学系の広角端における物体距離が無限遠のときの光学全長であり、OLTは該光学系の望遠端における物体距離が無限遠のときの光学全長である。該光学系が単焦点である場合は、OLW=OLTとする。
【請求項3】
該光学系は、最も物体側に配置された第1レンズと、最も像側に配置された第2レンズと、絞りとを含んでおり、
以下の条件を満足することを特徴とする請求項1または2に記載の光学系。
0.001<|LOID/√(OLW×OLT)|<0.50
ただし、LOIDは、前記回折格子が前記絞りよりも物体側に配置されている場合における物体距離が無限遠であるときの前記第1レンズの物体側レンズ面から前記回折格子までの距離、または前記回折格子が前記絞りより像側に配置されている場合における物体距離が無限遠であるときの前記第2レンズの像側レンズ面から前記回折格子までの距離である。
【請求項4】
以下の条件を満足することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の光学系。
0.001<|√(fw×ft)/fdoe|<0.10
ただし、fdoeは前記回折格子の回折による焦点距離であり、fwは該光学系の広角端における物体距離が無限遠のときの焦点距離であり、ftは該光学系の望遠端における物体距離が無限遠のときの焦点距離である。該光学系が単焦点である場合は、fw=ftとする。
【請求項5】
前記第1の媒質は、ガラス転移温度TgAが以下の条件を満足する低融点ガラスであることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の光学系。
TgA≦650℃
【請求項6】
前記回折格子と以下の条件を満足する前記第2の媒質により形成された回折格子とが密着接合されることにより1つの回折光学素子が構成されていることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の光学系。
ndA−ndB>0
ndB≧1.60
νdB≦25
hd≦8μm
ただし、ndBは前記第2の媒質のd線に対する屈折率であり、νdBは前記第2の媒質のd線に対するアッベ数であり、hdは前記回折光学素子の格子厚である。
【請求項7】
前記第3の媒質は、紫外線硬化樹脂または微粒子分散材料であることを特徴とする請求項6に記載の光学系。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の光学系を有することを特徴とする光学機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−78397(P2012−78397A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−220815(P2010−220815)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】