説明

圧縮機の運転方法

【課題】回転数制御による容量制御の範囲を拡げるとともに、油が吸込み側に逆流するという問題を回避する。
【解決手段】圧縮機本体3の吸込み側に開閉弁7を設け、圧縮機本体3の吐出側に押し出されるガスの量と吸込み側に漏れるガスの量が略同一となるモータ2の下限回転数を制御装置に設定する。モータ2の回転数が下限回転数以上最高回転数以下の範囲で、制御装置13から予め設定した目標圧力に対する検出圧力の偏差を打ち消すための制御回転数を決定するとともに、開閉弁7を、制御回転数が下限回転数より大の場合は開弁し、下限回転数未満の場合は閉弁する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は圧縮機の運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、スクリュ圧縮機では、スクリュロータの回転により吐出側のガスが押し出される一方、スクリュロータ間又はスクリュロータとケーシングの間に形成される隙間のために、ガスの吸込み側への漏れが生じる。このガスの吸込み側への漏れは回転数が低下するに伴い顕著になる。
【0003】
無給油式スクリュ圧縮機本体を駆動するモータの回転数の過度な減少による圧縮機本体における低圧側への圧縮ガスの漏れ量の増大を回避するために、例えば、特許文献1には、回転数が予め定めた設定値より大きい場合、圧縮機本体の吸込み側に設けた吸気調整弁を開としてモータの回転数制御を行い、回転数が予め定めた設定値に達した場合には、回転数制御を停止して吐出側の圧力変動に対応して吸気調整弁を開閉させる制御に切り換える運転方法が記載されている。
【0004】
この特許文献1に記載の運転方法は、モータの回転数を下げ過ぎることはなくなり、圧縮効率の向上、吐出側での異常な温度上昇の防止及び動力ロスの低減が可能となり、非常に有用な発明である。しかし、負荷側の吐出量の需要が低容量に留まる場合には、回転数制御から吸気調整弁を用いた制御に切り換えるようになっている。吸気調整弁を用いた制御は、吸気制御弁の開閉を頻繁に行わなければならず、吸気調整弁の弁体等の機械部品の消耗が多く、圧力の脈動などが発生しやすいなどの問題がある。したがって、回転数制御による容量制御の範囲を拡げたい、望ましくは容量制御の全てを回転数制御にて行いたいという要求も多いが、その要求にはこの特許文献1の方法では応えられない。因みに、特許文献1のような回転数制御と吸気調整弁を用いた制御を行い、且つ、モータの軸に取り付けた冷却ファンからの送風によってモータを冷却するタイプの場合、回転数制御による容量制御の範囲は、モータが誘導モータでは全容量(100%)〜20%、モータがIMPモータ(埋め込み磁石形同期モータ)では全容量(100%)〜10%である。
【0005】
回転数制御による容量制御の範囲を拡げたいという要求に応じるためには、如何にモータの冷却を効率的に行うかが重要である。特許文献2には、圧縮機本体を駆動するモータとは独立して冷却ファンを設け、該冷却ファンによりモータの冷却を効率的に行う方法が記載されている。
【0006】
特許文献1のような無給油式のスクリュ圧縮機では、特許文献2のように独立した冷却ファンを設けて、特許文献1の運転方法を採用することで、回転数制御による容量制御の範囲を拡げることができると考えられる。
【0007】
しかし、油冷式のスクリュ圧縮機では、吸込み側へ漏れるガスに油が随伴してゆくので、回転数をごく低回転数まで低下してゆくと、ガスが吐出側に押し出される量よりも吸い込み側に漏れる量のほうが多くなり、これに伴って油が吸込み側に逆流し、吸込み側の流路に設けられている吸込みフィルタが油で汚染され、フィルタの機能が低下し、吸込み量が低下するという問題がある。
【特許文献1】特開2002−054578号公報
【特許文献2】特開2004−011503号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本願発明は前記問題点に鑑みてなされたもので、回転数制御による容量制御の範囲を拡げるとともに、油が吸込み側に逆流するという問題を回避し得る油冷式スクリュ圧縮機の運転方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、第1の発明は、
圧縮機本体と、
該圧縮機本体の吐出側に圧力検出可能に設けられた圧力検出器と、
前記圧力検出器からの検出圧力を示す圧力信号に基づき前記圧縮機本体を駆動するモータの回転数を制御するための制御信号を出力する制御装置とを備えた圧縮機の運転方法において、
前記圧縮機本体の吸込み側に開閉弁を設け、
前記圧縮機本体の吐出側に押し出されるガスの量と吸込み側に漏れるガスの量が略同一となる前記モータの下限回転数を前記制御装置に設定し、
前記下限回転数以上最高回転数以下の範囲で、前記制御装置にて、予め設定した目標圧力に対する前記検出圧力の偏差を打ち消すための制御回転数を決定するとともに、
前記開閉弁を、前記回転数が前記下限回転数より大の場合は開弁し、前記下限回転数以下の場合は閉弁するものである。
【0010】
第2の発明は、
圧縮機本体と、
該圧縮機本体の吐出側に圧力検出可能に設けられた圧力検出器と、
前記圧縮機本体を駆動するモータの回転数を検出する回転数検出器と、
前記圧力検出器からの検出圧力を示す圧力信号に基づき前記圧縮機本体を駆動するモータの回転数を制御するための制御信号を出力する制御装置とを備えた圧縮機の運転方法において、
前記圧縮機本体の吸込み側に開閉弁を設け、
前記圧縮機本体の吐出側に押し出されるガスの量と吸込み側に漏れるガスの量が略同一となる前記モータの下限回転数を前記制御装置に設定し、
前記制御装置から予め設定した目標圧力に対する前記検出圧力の偏差を打ち消すための制御信号を出力して、前記下限回転数以上最高回転数以下の範囲で前記モータの回転数を制御するとともに、
前記開閉弁を、前記回転数検出器から検出された回転数が前記下限回転数より大の場合は開弁し、前記下限回転数以下の場合は閉弁するものである。
【0011】
前記開閉弁の開弁とともに前記モータを運転し、前記開閉弁の閉弁とともに前記モータを停止するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、圧縮機本体の吐出側に押し出されるガスの量と吸込み側に漏れるガスの量が略同一となるモータの下限回転数を設定し、モータの回転数が下限回転数以上最高回転数以下の範囲で回転数制御を行うので、回転数制御による容量制御の範囲を拡げることができ、油が吸込み側に逆流することも回避でき、吸込み側のフィルタの機能を長時間維持することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に従って説明する。
【0014】
図1は、本発明の実施形態に係る油冷式スクリュ圧縮機1を示す。この油冷式スクリュ圧縮機1は、モータ2により駆動される互いに噛み合う雌雄一対のスクリュロータを収容した圧縮機本体3を有する。圧縮機本体3のモータ2の近傍には、冷却ファン4がモータ2に向けて送風可能に設けられている。圧縮機本体3の一方には吸込流路5が接続され、他方には吐出流路6が接続されている。吸込流路5には開閉弁7が設けられている。吐出流路6には油分離回収器8が介設されている。油分離回収器8の下部の油溜まり部9から圧縮機本体3内のロータ室、軸受部、軸封部等の油供給箇所と連通する油流路10が延設されている。
【0015】
前記油冷式スクリュ圧縮機1には、モータ2の回転数を検出する回転数検出器11と、吐出流路6における吐出圧力を検出する圧力検出器12が設けられている。制御装置13は、圧力検出器12からの検出圧力信号と予め設定された目標圧力に基づいてインバータ14を介してモータ2を制御するとともに、開閉弁7を制御する。また、制御装置13は、回転数検出器11からの検出回転数信号と圧力検出器12からの検出圧力信号とに基づいて冷却ファン4の回転数を制御する。
【0016】
次に、前記構成からなるスクリュ圧縮機1の運転方法について説明する。
【0017】
操作者が図示しない操作パネル等で起動スイッチを入力すると、制御装置13は起動スイッチの入力を認知し、開閉弁7を閉から開とし、モータ2を起動する。これにより、圧縮機本体3が駆動し、開閉弁7を介して吸込流路5から圧縮機本体3に吸い込まれたガスが圧縮され、吐出流路6に圧縮ガスが送り出される。
【0018】
制御装置13は、モータ2の回転数検出器11からの検出回転数信号と、圧力検出器12からの検出圧力信号とに基づいて圧縮機動力を算出する。圧縮機動力は、モータ2のコイル温度及びコイル電流に比例することから、図2に示すような予め求められた圧縮機動力とファン回転数の関係に基づき、算出した圧縮機動力に対応するファン回転数を求め、このファン回転数になるように冷却ファン4を駆動する。すなわち、圧縮機動力が上昇するに従って、ファン回転数を増加し、圧縮機動力が下降するに従ってファン回転数を減少することで、モータ2のコイル温度が許容範囲内に保たれる。
【0019】
吐出流路6が高圧に保たれている場合、操作者により起動スイッチがオンされても、制御装置13は圧縮機本体3を起動しない。後述の回転数制御に基づき決定される制御出力(以下、制御回転数という。)が下限回転数以下である場合も同様である。このような場合、制御装置13は、開閉弁7を閉で、モータ2を停止したままとし、図示しない液晶パネル等に、「起動可能となるまで起動を保留する」旨を表示し、起動スイッチの入力を認知したままの状態を継続する。そして、負荷側で圧縮ガスの消費がなされ、吐出流路6の圧力が低下し、後述の回転数制御に基づき決定される制御回転数が下限回転数より大になったことを判断すると、圧縮機本体3を起動する。
【0020】
圧力検出器12からの検出圧力信号は、起動時にモータ2の回転数が増大してゆく時及び圧縮ガスの需要減少時には、上昇傾向を示し、逆に圧縮ガスの需要増大時には、下降傾向を示す。圧力検出器12から検出圧力信号を受けると、制御装置13は、吐出側の圧力を一定に保つように例えばPID制御を行なう。すなわち、制御装置13は、圧力検出器12からの検出圧力と目標圧力との差圧を算出し、検出圧力が目標圧力以下の場合、モータ2の回転数を前記差圧の絶対値に応じた値だけ増大させるようにインバータ14に制御信号を出力し、検出圧力が目標圧力以上の場合、モータ2の回転数を前記差圧の絶対値に応じた値だけ減少させるようにインバータ14に制御信号を出力する。すなわち、圧力検出器12からの検出圧力と目標圧力とによって、適正な制御出力すなわち制御回転数が決定される。このように、制御装置13は、予め設定した目標圧力に対する検出圧力の偏差を打ち消すようにインバータ14に制御信号を出力して、モータ2の回転数を制御するいわゆる回転数制御を行う。
【0021】
この回転数制御は、下限回転数以上で、且つ、最高回転数以下の範囲で行われる。下限回転数とは、圧縮ガスが吐出側に押し出される量と吸込み側へ漏れる量が略同一となる回転数であり、予め制御装置13に設定されている。最高回転数は、モータ2の仕様上最も高い回転数である。前記下限回転数は、例えば、図1のスクリュ圧縮機1において、圧力検出器12に代えて流量計を設け、この流量計から最大回転数以下の任意の回転数に対する複数の風量を取得し、図3に示すように、横軸を回転数、縦軸を風量としたグラフにプロットし、各プロット点の近似直線と風量がゼロの横軸との交点の回転数を、圧縮ガスが吐出側に押し出される量と吸込み側へ漏れる量が略同一となる下限回転数とする。本発明者らがこの方法で所定仕様のスクリュ圧縮機における下限回転数を決定したところ、その下限回転数は最高回転数の約7%であった。
【0022】
また、制御装置13は、圧力検出器12からの検出圧力と目標圧力とによって決定される制御回転数が下限回転数より大の場合に開閉弁7を開弁し、下限回転数以下の場合に開閉弁7を閉弁する。そして、開閉弁7の開弁とともにモータ2を運転し、開閉弁7の閉弁とともにモータ2を停止する。
【0023】
以上の運転方法により、圧縮ガスが吐出側に押し出される量と吸込み側へ漏れる量が略同一となる下限回転数以上で回転数制御を行うので、回転数制御による容量制御の範囲を拡げることができ、油が吸込み側に逆流することも回避できる。
【0024】
また、油の吸込側への逆流がないので、吸込流路に圧力損失を伴うような逆止弁を設ける必要がない。このため、逆止弁を廃止することで、圧力損失が減少し、吸込効率がよくなる。
【0025】
さらに、開閉弁7の開弁とともにモータ2を運転し、開閉弁7の閉弁とともにモータ2を停止するので、無駄な動力消費を無くすることができる。
【0026】
なお、制御装置13は、図示しない操作パネル等で操作者により運転停止スイッチの入力がなされない限り、起動スイッチに入力がなされたことを認知したままの状態を継続する。そして、操作者による運転停止スイッチの入力がなされない限り、一旦、開閉弁7が閉弁し、モータ2が停止された後、条件が整い次第、再起動を繰り返す。すなわち、制御装置13は、起動スイッチの入力がなされたことを認知したままの状態を継続し、そして、負荷側の圧縮ガスの消費がなされ、吐出流路6の圧力が低下し、再び回転数制御に基づき決定される制御回転数が下限回転数より大となったことを判断し、圧縮機本体3を再起動する。
【0027】
なお、これまで、操作者により起動スイッチがオンされても、吐出流路6が高圧に保たれている場合、また、回転数制御に基づき決定される回転数が下限回転数以下である場合には、制御装置13は圧縮機本体3を起動しないという例を示した。ただし、本発明はこれに限定されない。例えば、操作者による起動スイッチがオンされた場合には、起動スイッチがオンされてから所定時間の間、強制的に圧縮機本体3を予め定められた回転数にて運転するようにしてもよい。
【0028】
また、これまで、開閉弁7の開閉と、モータ2の運転・停止は、圧力検出器12からの検出圧力と目標圧力とによって決定される制御回転数が下限回転数より大であるか否かに基づいて行うという例を示した。ただし、本発明はこれに限定されない。例えば、開閉弁7の開弁とモータ2の運転を、圧力検出器12からの検出圧力と目標圧力とによって決定される制御回転数が下限回転数より大となった場合に行う一方で、開閉弁7の開閉とモータ2の停止を、回転数検出器11からの検出回転数が下限回転数以下となった場合に行うようにしてもよい。
【0029】
また、開閉弁7の開弁とモータ2の運転を、回転数検出器11からの検出回転数が下限回転数よる大となった場合に行うようにしてもよい。ただし、この場合には起動から所定時間経過するまで、強制的に、開閉弁7を開弁するとともにモータ2(ひいては圧縮機本体3)を予め定められた回転数にて運転するという「起動モード」を継続し、その所定時間を経過するまで(「起動モード」が終了するまで)は回転数検出器11からの検出回転数が下限回転数以下であっても開閉弁7の開弁とモータ2の運転を維持するなどの処置が必要である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係る運転方法が実施されるスクリュ圧縮機の概略図。
【図2】圧縮機動力とファン回転数の関係を示す図。
【図3】下限回転数を決定するための回転数と風量の関係を示す図。
【符号の説明】
【0031】
1 スクリュ圧縮機
2 モータ
3 圧縮機本体
7 開閉弁
11 回転数検出器
12 圧力検出器
13 制御装置
14 インバータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機本体と、
該圧縮機本体の吐出側に圧力検出可能に設けられた圧力検出器と、
前記圧力検出器からの検出圧力を示す圧力信号に基づき前記圧縮機本体を駆動するモータの回転数を制御するための制御信号を出力する制御装置とを備えた圧縮機の運転方法において、
前記圧縮機本体の吸込み側に開閉弁を設け、
前記圧縮機本体の吐出側に押し出されるガスの量と吸込み側に漏れるガスの量が略同一となる前記モータの下限回転数を前記制御装置に設定し、
前記下限回転数以上最高回転数以下の範囲で、前記制御装置にて、予め設定した目標圧力に対する前記検出圧力の偏差を打ち消すための制御回転数を決定するとともに、
前記開閉弁を、前記制御回転数が前記下限回転数より大の場合は開弁し、前記下限回転数以下の場合は閉弁することを特徴とする圧縮機の運転方法。
【請求項2】
圧縮機本体と、
該圧縮機本体の吐出側に圧力検出可能に設けられた圧力検出器と、
前記圧縮機本体を駆動するモータの回転数を検出する回転数検出器と、
前記圧力検出器からの検出圧力を示す圧力信号に基づき前記圧縮機本体を駆動するモータの回転数を制御するための制御信号を出力する制御装置とを備えた圧縮機の運転方法において、
前記圧縮機本体の吸込み側に開閉弁を設け、
前記圧縮機本体の吐出側に押し出されるガスの量と吸込み側に漏れるガスの量が略同一となる前記モータの下限回転数を前記制御装置に設定し、
前記制御装置から予め設定した目標圧力に対する前記検出圧力の偏差を打ち消すための制御信号を出力して、前記下限回転数以上最高回転数以下の範囲で前記モータの回転数を制御するとともに、
前記開閉弁を、前記回転数検出器から検出された回転数が前記下限回転数より大の場合は開弁し、前記下限回転数以下の場合は閉弁することを特徴とする圧縮機の運転方法。
【請求項3】
前記開閉弁の開弁とともに前記モータを運転し、前記開閉弁の閉弁とともに前記モータを停止することを特徴とする請求項1又は2に記載の圧縮機の運転方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2008−169723(P2008−169723A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−2269(P2007−2269)
【出願日】平成19年1月10日(2007.1.10)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】