説明

圧電ファン装置

【課題】 本発明は、各種電子機器内のICチップ周辺などを局所的に冷却する冷却性能の優れた電子機器用冷却装置を提供するものである。
【解決手段】 かゝる本発明は、2枚の板状圧電素子111と前記両板状圧電素子111が固定されると共に、板状圧電素子111より長い長さを有する平板状の樹脂製弾性振動板112とからなる圧電ファン部110の一端側又は途中を、支持部130で片持ち型に支持・固定すると共に、板状圧電素子111に交流電圧を印加する交流回路120を備えた圧電ファン装置100Aにおいて、樹脂製弾性振動板112と両板状圧電素子111との間の接着部に剛性薄板115を介在させた圧電ファン装置にあり、これにより、感電などの危険性がなく、高い安全性が得られ、また、振幅の低下が小さく抑えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種電子機器内のLSIやCPUなどのチップ周辺を局所的に冷却する圧電素子からなる圧電ファン装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種電子機器に組み込まれているLSIやCPUなどのチップは、局所的な発熱源となっているため、製品によっては適宜冷却することが必要とされる。
このような要求に答えるものとして、多数の放熱片などを有する単なる放熱体(板)なども使用されているが、小型で、より効率的な冷却ができる、圧電素子(セラミック素子)を用いた圧電ファン装置が提供されている(例えば引用文献1)。
【特許文献1】特開2000−323882号
【0003】
圧電ファン装置の概略構造を示すと、図5や図6の如くである。これらの装置では、1枚又は2枚の板状圧電素子(通常PZTなどからなるセラミック素子)11を、これより長さの長い弾性金属板(ブレード)12の片面又は両面に接着層13を介して貼り付けてある。この板状圧電素子11は、通常その両面に電極14、14が形成されていて、弾性金属板12と一体化された形で圧電ファン部10としてある。
そして、板状圧電素子11の両電極14、14間に通電されるように、圧電ファン部10に交流電圧を印加するための交流回路20を接続する一方、圧電ファン部10の一端(中央などの途中も可)を、固定部品である支持部30で、片持ち型として支持・固定してある。また、通常板状圧電素子11が1枚のものをモノモルフ型(ユニモルフ型)といい、2枚のものをバイモルフ型という。
【0004】
このような圧電ファン装置の場合、交流電圧を印加すると、板状圧電素子11が伸びたり、縮んだりするため、圧電ファン部10は、全体として正逆方向に交互に屈曲運動するようになる。従って、圧電ファン装置を、電子機器内のLSIやCPUなどのチップ周辺に組み付けて、交流電圧として、共振周波数となる正弦波を加えれば、弾性金属板12の遊端(自由端)側が扇子状に振動するため、冷却風が発生する。つまり、所望のファン機能が得られる。
【0005】
また、2枚の板状圧電素子11がある場合、一方の板状圧電素子11が伸びるときには、他方の板状圧電素子11が縮み、逆に、一方の板状圧電素子11が縮むと、他方の板状圧電素子11が伸びるため、正逆方向の屈曲運動が増幅されるようになる。このため、より大きな冷却風が発生する。つまり、より良好なファン機能が得られる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような構造の圧電ファン装置において、冷却性能を高めるため、弾性金属板12のより大きな高振動を得るには、弾性金属板12の長さを長くするか、或いは、通電する電圧を高くすることが必要となる。
【0007】
しかしながら、近年、電子機器の小型化に伴い冷却部品である、圧電ファン装置を設置するスペースも制限されてきており、装置サイズを大きくすることは困難となってきている。また、一方では、電子機器では多機能化の進行によって、消費電力が上がってきており、圧電ファン装置を高電圧で駆動させることは、困難な状況となってきている。
さらに、弾性金属板12が金属製の場合、例えば樹脂製のものに比較して、板状圧電素子11側の伸縮エネルギーを吸収し易いという問題は小さいものの、感電やショート(短絡)の危険性が内在されるという問題がある。この危険性は高電圧となるほどより大きくなる。
【0008】
つまり、上記弾性金属板12が従来構造と同等サイズで、同等の冷却性能を有すると共に、感電などの危険性のない圧電ファン装置が求められている。
【0009】
そこで、本発明者等は、弾性金属板12である振動板自体に着目し、この板を樹脂製弾性振動板とする一方、樹脂材料による、板状圧電素子11側の伸縮エネルギーを吸収し易いという問題を解消すべく、樹脂製弾性振動板と板状圧電素子との間の接着部に金属板などの剛性薄板を介在させたところ、後述する試験結果から明らかなように、感電などの危険性がなく、かつ、良好な振幅が得られることを見出した。
【0010】
本発明は、この点に着目して発明されたものであり、樹脂製弾性振動板(ブレード)を採用すると共に、樹脂製弾性振動板の接着部に剛性薄板を介在させることにより、安全性が高く、冷却性能に優れた圧電ファン装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1記載の本発明は、2枚の板状圧電素子と前記両板状圧電素子より長い長さを有しこれらの板状圧電素子の間に挟まれた平板状の樹脂製弾性振動板とからなる圧電ファン部の一端側又は途中を、支持部で片持ち型に支持・固定すると共に、前記両板状圧電素子に交流電圧を印加する交流回路を備えた圧電ファン装置において、
前記樹脂製弾性振動板と前記両板状圧電素子との間の接着部に剛性薄板を介在させたことを特徴とする圧電ファン装置にある。
【0012】
請求項2記載の本発明は、1枚の板状圧電素子と当該板状圧電素子が固定されると共に、当該板状圧電素子より長い長さを有する平板状の樹脂製弾性振動板とからなる圧電ファン部の一端側又は途中を、支持部で片持ち型に支持・固定すると共に、前記板状圧電素子に交流電圧を印加する交流回路を備えた圧電ファン装置において、
前記樹脂製弾性振動板と前記板状圧電素子との間の接着部に剛性薄板を介在させたことを特徴とする圧電ファン装置にある。
【0013】
請求項3記載の本発明は、前記樹脂製弾性振動板が、PET製樹脂板であることを特徴とする請求項1又は2記載の圧電ファン装置にある。
【0014】
請求項4記載の本発明は、前記剛性薄板が、金属薄板であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の圧電ファン装置にある。
【0015】
請求項5記載の本発明は、前記金属薄板が、鋼製薄板、真鍮製薄板又はリン青銅製薄板であることを特徴とする請求項4記載の圧電ファン装置にある。
【発明の効果】
【0016】
本発明の圧電ファン装置によると、モノモルフ型やバイモルフ型のものにおいて、弾性振動板(ブレード)として、樹脂製の振動板を用いているため、結果として、ショートや感電の危険性がなく、高い安全性が得られる。
また、金属製ブレードに比較して、樹脂製の場合、圧電素子側の伸縮エネルギーの吸収能が大きくなり易いものの、圧電素子側の接着部に金属板などの剛性薄板を介在させてあるため、伸縮エネルギーの吸収能が小さく、良好な振幅が得られる。
つまり、樹脂製弾性振動板側に剛性薄板が接着されるため、見かけ上樹脂製弾性振動板の一種の剛体化が図られ、弾性金属板とほぼ変わらない特性が得られることになるからと考える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1は本発明に係る圧電ファン装置の一例を示したものである。
図中、100Aはバイモルフ型の圧電ファン装置で、110はその圧電ファン部である。この圧電ファン部110は、2枚の板状圧電素子(PZTなど)111、111を、これより長さの長い樹脂製弾性振動板(ブレード、PETなどの樹脂板)112の両面に接着部として、接着層113、113と剛性薄板115を介して貼り付けてある。また、各板状圧電素子111、111の両面には電極114、114が設けてある。120は板状圧電素子111、111に交流電圧を印加するための交流回路である。130は圧電ファン部110の一端側(中央などの途中も可)を、片持ち型に支持する固定部品からなる支持部である。
【0018】
上記剛性薄板115は、弾性振動板が樹脂板であることによる、圧電素子側の伸縮エネルギーの吸収能を低減させるためのものである。剛性に富む板であれば、特に限定されないが、金属薄板の使用が望ましい。例えば、鋼製薄板、真鍮製薄板やリン青銅製薄板などを挙げることができる。その厚さは、50μm〜100μm程度が望ましい。50μm未満であまり薄いと、所望の伸縮エネルギー吸収能の低減効果が得られず、また、逆にあまり厚くなると、圧電素子側の振動が抑制されるようになるため、弾性振動板の所望の振動が得られなくなるからである。なお、樹脂製弾性振動板自体の厚さは、例えばPETの場合、50μm〜100μm程度とすればよい。
【0019】
上記交流回路120において、弾性振動板が絶縁体であるため、各板状圧電素子111、111の内側の電極114、114への電圧印加にあたっては、リード線などの配線を介して、交流回路120から直接通電するようにする。
【0020】
図2は本発明に係る圧電ファン装置の他の例を示したものである。
図中、100Bはモノモルフ型の圧電ファン装置で、110はその圧電ファン部である。この圧電ファン装置100Bも、板状圧電素子(PZTなど)111が1枚であること以外は、上記圧電ファン装置100Aと基本的には同構造のものである。なお、圧電ファン装置100Aと同一構成部分には同符号を付してある。また、板状圧電素子111が1枚であるため、樹脂製弾性振動板112の振動振幅は少々小さくなる。
【0021】
〈実施例・比較例〉
このような本発明に係る圧電ファン装置の効果を確認するため、図1に示す本発明のバイモルフ型の圧電ファン装置100Aと同構造であって、図3に示す寸法のもの(実施例1〜2、比較例3)と、図5に示す従来型のバイモルフ型と同構造であって、図4に示す寸法のもの(比較例1〜2)とからなる各サンプルを製造して、±12Vの交流電圧を印加し、弾性金属板の振幅試験を行なった。その結果は表1の如くであった。
【0022】
なお、上記各サンプルの圧電ファン装置において、樹脂製弾性振動板(PET使用)112の長さ、弾性金属板(SUS301使用)12及び樹脂製弾性振動板(PET使用)12の長さは共に20mm、これらの幅は4.0mm、板状圧電素子(PZT使用)111、11の長さは7.5mmである。また、上記樹脂製弾性振動板112、12の厚さは0.05mm、及び弾性金属板の厚さは0.05mmである。また、接着部に介在させた剛性薄板115(実施例1〜2)の厚さは0.05mmである。さらに、接着部に介在させた樹脂製薄板115(比較例3)の厚さは0.05mmである。
【0023】
【表1】

【0024】
表1の振幅データ(振幅評価結果)からすると、本発明の圧電ファン装置(実施例1〜2)では弾性振動板が樹脂製で、その接着部に剛性薄板を設けてあるため、感電などの危険性がなく、また、剛性薄板の効果により、最大6%程度の振幅低下が起こるのみで、実用上問題がないことが分かる。
これに対して、弾性金属板のみからなる圧電ファン装置(比較例1)では、弾性金属板に電圧印加があるため、感電などの危険性がある。また、弾性振動板が弾性樹脂板(PET)である圧電ファン装置(比較例2)では、樹脂板による板状圧電素子側の伸縮エネルギーの吸収作用により、振幅低下が40%程度にもなり、大幅な冷却性能の低下が避けられないことが分かる。さらに、弾性振動板が樹脂製であって、その接着部の薄板も樹脂製である圧電ファン装置(比較例3)では、振幅低下が30程度にもなることが分かる。
【0025】
なお、上記と同様の試験を、図2の圧電ファン装置においても行ったところ、同様の結果が得られることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る圧電ファン装置の一例を示した概略縦断側面図である。
【図2】本発明に係る圧電ファン装置の他の例を示した概略縦断側面図である。
【図3】図1の装置に対応した要部の寸法例を示した斜視図である。
【図4】図5の装置に対応した要部の寸法例を示した斜視図である。
【図5】従来の圧電ファン装置を示した概略縦断側面図である。
【図6】従来の他の圧電ファン装置を示した概略縦断側面図である。
【符号の説明】
【0027】
100A〜100B・・・圧電ファン装置、110・・・圧電ファン部、111・・・板状圧電素子、112・・・樹脂製弾性振動板、113・・・接着層、114・・・電極、115・・・剛性薄板、120・・・交流回路、130・・・支持部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2枚の板状圧電素子と前記両板状圧電素子より長い長さを有しこれらの板状圧電素子の間に挟まれた平板状の樹脂製弾性振動板とからなる圧電ファン部の一端側又は途中を、支持部で片持ち型に支持・固定すると共に、前記両板状圧電素子に交流電圧を印加する交流回路を備えた圧電ファン装置において、
前記樹脂製弾性振動板と前記両板状圧電素子との間の接着部に剛性薄板を介在させたことを特徴とする圧電ファン装置。
【請求項2】
1枚の板状圧電素子と当該板状圧電素子が固定されると共に、当該板状圧電素子より長い長さを有する平板状の樹脂製弾性振動板とからなる圧電ファン部の一端側又は途中を、支持部で片持ち型に支持・固定すると共に、前記板状圧電素子に交流電圧を印加する交流回路を備えた圧電ファン装置において、
前記樹脂製弾性振動板と前記板状圧電素子との間の接着部に剛性薄板を介在させたことを特徴とする圧電ファン装置。
【請求項3】
前記樹脂製弾性振動板が、PET製樹脂板であることを特徴とする請求項1又は2記載の圧電ファン装置。
【請求項4】
前記剛性薄板が、金属薄板であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の圧電ファン装置。
【請求項5】
前記金属薄板が、鋼製薄板、真鍮製薄板又はリン青銅製薄板であることを特徴とする請求項4記載の圧電ファン装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−174420(P2009−174420A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−13732(P2008−13732)
【出願日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】