説明

塗布装置、塗布方法およびディスプレイ用部材の製造方法

【課題】ダイコータで、ガラス基板とダイ間のクリアランスを全幅に渡って略均一に非常に小さくすることで、ガラス基板に非常に薄い塗布膜を形成できる塗布装置および塗布方法、並びにディスプレイ用部材の製造方法を提供する
【解決手段】スリット状の吐出口を有する塗布器から、塗布液を被塗布部材上に吐出して塗布膜を形成する塗布方法で、被塗布部材表面が高さHだけエアー浮上されて保持されている被塗布部材に、塗布器の吐出口面がH−60μm〜H+50μmの高さに位置するよう塗布器を近接させ、吐出口より塗布液を吐出しながら、塗布器および被塗布部材の少なくとも一方を相対的に移動させて、被塗布部材上に塗布膜の形成を行う塗布方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えばプラズマディスプレイ、カラー液晶ディスプレイ用カラーフィルタ、光学フィルタ、プリント基板、集積回路、半導体等の製造分野に使用されるものであり、詳しくはガラス基板などの被塗布部材表面に非接触で塗布液を吐出しながら薄い塗布膜を形成する塗布装置および塗布方法、並びに本塗布方法を使用したディスプレイ用部材の製造方法の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のブラウン管よりも大型で薄型軽量化が可能なディスプレイの一つがプラズマディスプレイである。これは、一定ピッチでストライプ状に一方向にのびる溝をもつ隔壁をガラス基板上に構成し、さらにこの隔壁の溝にR、G、Bの蛍光体を充填し、任意の部位を紫外線により発光させ、所定のカラーパターンを写し出すものである。通常隔壁のある方が背面板、紫外線を発生する部位のある方が前面板と呼ばれており、両者を貼りあわせてプラズマディスプレイとして構成される。
【0003】
ここで重要な背面板上の隔壁のパターンの形成方法としては、隔壁用ペーストを均一に塗布し、乾燥して均一膜厚のものを成型してから、所定ピッチのストライプ状の溝を、サンドブラスト法やフォトリソグラフィー法等の後加工によって彫り込み、焼成するのが主流である。隔壁の塗膜の厚さは焼成後でも100〜200μmと厚く、この膜厚に隔壁用ペーストを均一に塗布する手段としては、数千〜数万mPasという高いペースト粘度にあわせて、ダイコート法が用いられている。
【0004】
先端に吐出口のある塗布器であるダイから相対的に移動するガラス基板に塗布液を吐出して塗布を行うダイコート法は、アプリケータであるダイがガラス基板と非接触であるので、塗布面を高品質にできる等の優位性がある。
【0005】
しかしながら、上記のダイコート法においては、プラズマディスプレイ背面板の電極層や誘電体層のように、ウェット膜厚で10μm以下の非常に薄い塗膜をガラス基板上に形成するには、ダイの吐出口とガラス基板との間のすきまであるクリアランスを小さくすることが必要となる。しかしながらダイコータの機械精度とガラス基板のうねりによって、ダイとガラス基板が衝突しないで塗布できる最小のクリアランス量(クリアランスの大きさ(長さの単位))は50μm程度であり、これに規制されて薄く塗布できる限界が定められてしまうという問題点があった。そのために電極層や誘電体層の薄膜塗布には、今だにスクリーン印刷が用いられている。このような印刷では、塗布面にスクリーンむらが残って品質が向上できず、また耐久性のないスクリーンが消耗品となって、高コスト化が避けられない等の問題がある
ダイを用いて薄膜に塗布する手段については、クリアランスを極小化する他、塗布速度を低下させたり、塗布液の粘度を低下させたりする手段もあるが、生産性を損なったり、使用できる塗布液が限定されてしまうという問題点がある。また、塗布時にダイとガラス基板間に形成されるビードを塗布方向とは逆方向に吸引してビードを安定化させて薄膜化を行う手段もあるが、100mmAq以上の吸引力になるとビード自体を破壊してしまうため、これもまた薄膜で塗布できる限界がある。
【0006】
クリアランスを安定して小さくできる手段としては、ダイの両端部に基板と接するローラやスペーサを設けて、一定のクリアランスで基板の厚み変化に追従させるものもあるが(例えば特許文献1)、基板の中央部の厚み変化には対応できないという問題点と、機械精度の点からさほどクリアランス量を小さくできないという問題点がある。
【0007】
基板がフィルムのように柔軟なものである場合には、フィルムをダイの吐出口に押し付け、吐出口から吐出される塗布液の厚さだけフィルムを浮上させることで、非常に小さなクリアランスをダイ全幅に渡って実現し、その結果非常に薄い塗布膜を得る方法が知られている(例えば特許文献2)。特許文献2では、フィルムを塗布液上に浮上させるために、吐出口近傍の形状が工夫されている。特許文献2の考え方を取り入れて、レコード針のシステムのように、載置台に吸着保持されたガラス基板上の塗布液上にカウンターバランスによって軽量化したダイを浮上させ、非常に小さなクリアランスを実現化しようとする試みもあった(例えば特許文献3)。この手段では、カウンターバランスでは慣性モーメントを小さくすることができずに基板の厚さ変動に追従せず、小さな一定のクリアランスを維持できないことと、剛性の高いものどおしが相対するために全幅にわたってもクリアランスが一定とならないことにより、薄い塗布膜がえられない。ガラス基板を塗布液の替わりにエアーで浮上させて塗布するものがあるが(例えば特許文献4)、ダイとガラス基板間のクリアランスは100〜150μmが好ましいとして、クリアランスを小さくして塗布することには言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−76207号公報(第0015段落〜第0026段落、図1、図2、図6)
【特許文献2】特開平5−237438号公報(第0002段落〜第0003段落、第0007段落〜第0014段落、図1、図4)
【特許文献3】特開平13−62371号公報(第0016段落〜第0024段落、図1、図3)
【特許文献4】特開2005−244155号公報(第0031段落〜第0041段落、図2、図4、図6)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この発明は、上述の事情に基づいて行ったもので、その目的とするところは、ダイコータで、ガラス基板とダイ間のクリアランスを全幅に渡って略均一に非常に小さくすることで、ガラス基板に非常に薄い塗布膜を形成することが可能な塗布装置および塗布方法、並びにこの塗布方法用いたディスプレイ用部材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記本発明の目的は、以下に述べる手段によって達成される。
【0011】
本発明に係る塗布方法は、下側に位置する吐出口面にスリット状の吐出口を有する塗布器、並びに被塗布部材を上下方向に移動自在に保持する保持手段およびエアーを噴射して被塗布部材を浮上させる浮上ユニットを有するステージ、を備える塗布装置を用い、あらかじめ被塗布部材の上面である被塗布面の基準位置からの高さがHとなるように被塗布部材を浮上保持し、前記塗布器を前記塗布部材の被塗布面に近接させ、前記塗布器の吐出口から塗布液を吐出しながら前記塗布器および前記被塗布部材を相対的に移動して前記被塗布部材表面上に塗布膜を形成する塗布方法であって、前記塗布器の最も下側に位置する吐出口面の塗布時における基準位置からの高さをH−60μm〜H+50μmの範囲内とすることを特徴とする。ここで、前記塗布器として、塗布下流側に位置するフロントリップと塗布上流側に位置するリアリップを重ね合わせて塗布方向に垂直な方向に長手方向を有するスリット状の吐出口を構成するものであり、前記リアリップ側の下側先端部が前記フロントリップ側の下側先端部よりも低い位置となるように形成されているものを用いて、被塗布部材表面上に塗布膜を形成することが好ましい。
【0012】
本発明に係る塗布装置は、下側に位置する吐出口面に塗布液を被塗布部材上に吐出するためのスリット状の吐出口を有する塗布器と、前記塗布器に塗布液を供給する塗布液供給手段と、前記塗布器を上下に昇降させる昇降手段と、前記被塗布部材をエアー浮上させる浮上ユニットおよび前記被塗布部材を前記浮上ユニット上で水平方向に位置拘束しかつ上下方向に移動自在に保持する保持手段を有するステージと、前記ステージおよび前記塗布器を相対的に移動させる移動手段とを備えることを特徴とする。ここで前記塗布器は、塗布下流側に位置するフロントリップと塗布上流側に位置するリアリップを重ね合わせて塗布方向に垂直な方向に長手方向を有するスリット状の吐出口を構成するものであり、前記リアリップ側の下側先端部が前記フロントリップ側の下側先端部よりも低い位置となるように形成されているものであることが好ましい。
【0013】
本発明のディスプレイ用部材の製造方法は、請求項1または2に記載の塗布方法を用いてディスプレイ用部材を製造することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明はあらかじめステージ上でエアー浮上保持して上下方向にのみ移動自在とした被塗布部材表面に対して、塗布器の最も下側に位置する吐出口面の塗布時における基準位置からの高さを、あらかじめ浮上させておいた被塗布部材表面の高さから見て−60μm〜50μm(−は被塗布部材表面を下に下げる方向)の位置となるように近接させて、前記塗布器の吐出口から塗布液を吐出しながら塗布器と被塗布部材を相対移動させて塗布を行うようにしたので、被塗布部材表面が塗布器の吐出口面にならい、全幅にわたって略均一に塗布液の厚さだけ被塗布部材と塗布器が離れて塗布が行われる。その結果、全幅に渡って略均一に非常に小さなクリアランスで塗布が行われることになるので、被塗布部材に非常に薄い塗布膜を高速で形成することが可能となる。
【0015】
また、塗布器を塗布下流側に位置するフロントリップと塗布上流側に位置するリアリップを重ね合わせて塗布方向に垂直な方向に長手方向を有するスリット状の吐出口を構成するものとし、リアリップ側の下側先端部がフロントリップ側の下側先端部よりも低い位置となるように形成されているものを用い、エアー浮上している被塗布部材表面にリアリップ側の下側先端部をならわせることで、リアリップとフロントリップの下側先端部の高低差に等しい非常に小さくかつ全幅に渡って略均一なクリアランスで塗布ができるようにしたので、被塗布部材に非常に薄い塗布膜を高速で、安定して形成することが可能となる。
【0016】
以上の優れた効果を有する塗布方法を用いたディプレイ用部材の製造方法でディスプレイ用部材を製造するのであるから、高い品質のディスプレイ用部材を高い生産性でえることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係るスリットコータ1の概略正面図である。
【図2】スリットコータ1の一部の概略側面図である。
【図3】本発明の別の口金200がスリットコータ1に装着されて塗布している状況を示す概略部分拡大正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、この発明の好ましい一実施形態を図面に基づいて説明する。
【0019】
図1は、本発明に係るスリットコータ1の概略正面図、図2はスリットコータ1の一部の概略側面図、図3は本発明の別の口金200がスリットコータ1に装着されて塗布している状況を示す概略部分拡大正面図である。
【0020】
まず図1を参照すると、本発明に係るステージ120を備えた塗布装置であるスリットコータ1が示されている。このスリットコータ1は基台2を備えており、基台2上には、被塗布部材である基板Aの載置台、すなわちステージ120が配置されている。ステージ120は、その上面で基板Aをエアーにより上下方向に浮上させ、図1のX方向と平行な塗布方向と、塗布方向と直交する幅方向(図1の紙面に直交する方向)には基板Aが動かないように位置拘束するものである。このステージ120は、基板Aをエアーの静圧により浮上させる浮上ユニット122、基板Aの下面RPを吸着保持して上下方向に自在に移動可能な吸着保持ユニット130、より構成され、両者を一体的に含んでいる。なお吸着保持ユニット130はステージ120に内蔵されており、吸着保持ユニット130の全体が見えるように、図1では浮上ユニット122の一部を断面にしている。浮上ユニット122は、基板Aの塗布面となる表面CPの逆側にある下面RPと対向して複数の図示されないエアー吐出孔を有する浮上面124を備えており、エアー吐出孔からエアーを噴射することで、基板Aを任意の高さまで浮上させることができる。浮上ユニット122には浮上面124にエアー吐出孔とエアー吸引孔の両方を備えるものも適用することができる。浮上面124はエアーを噴射しない場合は、そのまま基板Aの下面RPの全面を保持できるものであり、基板Aを浮上させる時の基準面、すなわち基準位置となるものである。図1では、基準位置である浮上面124から、被塗布面である基板Aの表面CPが高さHだけエアー浮上している状況が示されている。吸着保持ユニット130は基板Aの保持手段であり、基板Aの下面RPに接触して吸着保持する吸着保持体132、吸着保持体132を上下方向に低摩擦力で自在に案内するガイド134より構成されている。基板Aの下面RPと接触する吸着保持体132の上面136には、図示されない吸着孔が多数設けられており、これが配管138、バルブ140、圧力調整器142を経て真空ポンプ等の真空源144に接続されている。したがって、圧力調整器142で調整された任意の吸着圧で基板Aの下面RPを上面136で吸着保持できる。吸着圧、すなわち上面136から下面RPに作用する吸引圧は、50〜200hPa程度が好ましい。なおバルブ140を作動させることによって、吸着保持と吸着保持停止を制御できる。またガイド134は吸着保持体132を上下方向のみ案内し、塗布方向ならびに幅方向を含む水平方向には吸着保持体132が動かないように位置拘束する。すなわちガイド134の作用により、吸着保持体132は上下方向のみ移動可能となるので、吸着保持体132に吸着保持される基板Aも上下方向のみ移動可能で、塗布方向と幅方向には拘束されて移動できない。ガイド134は、ボールブッシュ等の球の転がり案内や、エアー等を使用した静圧軸受等、上下方向に低摩擦力で吸着保持体132を案内するものならいかなる案内装置を用いてもよい。なお吸着保持ユニット130は、基板Aの4角近傍を保持できるよう同じものが4個備えられているが、基板Aのサイズに応じてさらに保持箇所を多くしてもよい。
【0021】
基台2上には、さらに一対のガイドレール4が設けられており、このガイドレール4上には、軸受14を介して門型ガントリー10がX方向に案内自在に搭載されている。図2に示される通り門型ガントリー10は、軸受14上に移動手段として機能する走行部16A、Bと、この走行部16A、Bを連結するステー12とを備えて、門型に構成されている。門型ガントリー10の走行部16A、Bには、塗布器である口金20の長手方向両端に対応して昇降手段として機能する上下昇降ユニット70A、Bが設けられている。この上下昇降ユニット70A、Bに吊り下げ保持台80を介して、口金20が浮上ユニット122の上方の位置にくるように取り付けられている。なお口金20の長手方向は図2で矢印で示されるY方向と一致し、上記の幅方向とも一致する。門型ガントリー10は図示しないリニアモータで駆動されるので、これに搭載されている口金20は、図1に矢印で示されているX方向に自在に往復動することができる。
【0022】
図1を見ると口金20は、X方向に直交する幅方向(紙面に垂直な方向)にのびているフロントリップ22とリアリップ24を、シム32を介してX方向に重ね合わせ、図示しない複数の連結ボルトにより一体的に結合して構成されている。口金20内の中央部にはマニホールド26が形成されており、このマニホールド26も口金20の長手方向、すなわち幅方向にのびている。マニホールド26の下方には、スリット28が連通して形成されている。このスリット28も口金20の長手方向にのびており、その下端が口金20の最下端面、すなわち最も下側に位置する先端部である吐出口面36で開口して、吐出口34を形成する。したがって、吐出口34に隣接する先端部は吐出口面36となる。なおスリット28はシム32によって形成されるので、スリット28の間隙(X方向に測定)は、シム32の厚さと等しくなる。吐出口面36の両隣には、斜め上方に切り上がっている斜面38が設けられている。
【0023】
この口金20を昇降させる上下昇降装置ユニット70A、Bは、口金20を吊り下げる形で保持する吊り下げ保持台80を昇降させる昇降台78A、B、昇降台78A、Bを上下方向に案内するガイド74A、B、モータ72A、Bの回転運動を昇降台78A、Bの直線運動に変換するボールねじ76A、Bより構成されている。上下昇降ユニット70A、Bは、図2に示されるように口金20の長手方向の両端部をそれぞれ支持するよう左右1対配置されている。上下昇降ユニット70A、Bは、各々が独立に昇降できるので、口金20長手方向の水平に対する傾き角度を任意に設定することができる。これによって口金20の吐出口面36と基板Aの表面CPを、口金20の長手方向にわたって略並行にすることができる。さらに、この上下昇降ユニット70A、Bによって、口金20の吐出口面36を浮上面124から高さHnに位置するように口金20を昇降させることができる。この高さHnの大きさによって、ステージ120上で浮上している基板Aの表面CPと口金20の吐出口面36との係合関係を定量的に設定することができる。すなわち浮上している基板Aの表面と口金20の吐出口面36との間にすきま、すわなちクリアランスを任意の大きさにて設けることもできるし、浮上している基板Aの表面CPの高さ位置を所定量押し下げることもできる。
【0024】
再び図1で基台2の左側端部を見ると、拭き取りユニット90が基台2上に取り付けられている。拭き取りユニット90の拭き取りヘッド92の上方まで、ヘッド92と係合する口金20は門型ガントリー10によって移動することができる。さて拭き取りユニット90は、口金20から塗布液を吐出後、吐出口34の周辺部である吐出口面36と斜面38に残存する塗布液を除去して、なおかつ吐出口まで塗布液が満たされた状態にする、すなわち口金20の初期化を行うものである。この初期化を毎回の塗布前に必ず実施することで、口金20は常に同じ状態で塗布を開始することができ、多数枚の基板に塗布を行っても、すべての基板で同じ均一な塗布膜を再現性よく形成することができる。拭き取りユニット90には、口金20の吐出口34周辺に係合する形状を有する拭き取りヘッド92が、ブラケット94を介してスライダー96に取り付けられている。スライダー96は駆動ユニット98により、口金20の長手方向、すなわちY方向に自在に移動する。駆動ユニット98とトレイ100は台102上に固定されている。また拭き取りを行う時は、口金20が拭き取りヘッド92に係合する位置まで門型ガントリー10をX方向に移動させ、口金20を下降して拭き取りヘッド92に係合させる。そして、駆動ユニット98を駆動して拭き取りヘッド92を口金20の長手方向に摺動させると、口金20の吐出口34の周辺部に残存している塗布液を除去して、口金20の初期化を行うことができる。除去した塗布液はトレイ100で回収される。トレイ100は図示しない排出ラインに接続されており、内部にたまった塗布液等の液体を外部に排出、回収することができる。またトレイ100は、口金20からエアー抜き等で吐出される塗布液を回収するために使用することもできる。なお拭き取りヘッド92は、具体的には線接触する合成樹脂製のブレードが好ましく用いられるが、口金20に均等に係合できるようゴム等の弾性体のブレードであってもよい。さらに塗布液が高粘度である場合は、拭き取りヘッド92は溶剤をしみ込ませた布を弾性体で保持するものであってもよい。
【0025】
続いて図1で口金20を見ると、口金20のマニホールド26の上流側は、塗布液供給手段として機能する塗布液供給装置40に連なる供給ホース60に、内部通路(図示しない)を介して常時接続されている。これにより、マニホールド26へは塗布液供給装置40から塗布液を供給することができる。マニホールド26に入った塗布液は口金20の長手方向に均等に拡幅されて、スリット28を経て、吐出口34から吐出される。
【0026】
なお、塗布液供給装置40は、供給ホース60の上流側に、フィルター46、供給バルブ42、シリンジポンプ50、吸引バルブ44、吸引ホース62、タンク64を備えている。タンク64には塗布液66が蓄えられており、圧空源68に連結されて任意の大きさの背圧を塗布液66に付加することができる。タンク64内の塗布液66は、吸引ホース62を通じてシリンジポンプ50に供給される。シリンジポンプ50では、シリンジ52、ピストン54が本体56に取り付けられている。ここでピストン54は図示しない駆動源によって上下方向に自在に往復動できる。シリンジポンプ50は、一定の内径を有するシリンジ52内に塗布液を充填し、それをピストン54により押し出して、口金20に基板Aを一枚塗布する分だけ供給する間欠駆動定容量型のポンプである。シリンジ52内に塗布液66を充填するときは、吸引バルブ44を開、供給バルブ42を閉として、ピストン54を下方に移動させる。またシリンジ52内に充填された塗布液を口金20に向かって供給するときは、吸引バルブ44を閉、供給バルブ42を開とし、ピストン54を上方に移動させることで、ピストン54でシリンジ52内部の塗布液を押し上げて排出する。
【0027】
なお制御信号にて動作するリニアモータ、モータ72A、B、塗布液供給装置40、拭き取りユニット90、バルブ140等はすべて制御装置110に電気的に接続されている。そして、制御装置110に組み込まれた自動運転プログラムにしたがって制御指令信号が各機器に送信されて、あらかじめ定められた動作を行う。なお条件変更時は操作盤112に適宜変更パラメータを入力すれば、それが制御装置110に伝達されて、運転動作の変更が実現できる。
【0028】
次に本発明のスリットコータを用いた塗布方法について詳述する。
【0029】
まずスリットコータ1の各動作部の原点復帰が行われると、門型ガントリー10は口金20が図1の左部にある拭き取りヘッド92の上方となる原点位置に来るように移動する。ここで、タンク64〜口金20まで塗布液66はすでに充満されており、タンク64以降の口金20までの経路内の残留エアーを排出する作業も既に終了している。この時の塗布液供給装置40の状態は、シリンジ52に塗布液66が充填、吸引バルブ44は閉、供給バルブ42は開、そしてピストン54は最下端の位置にあり、いつでも塗布液66を口金20に供給できるようになっている。また真空源144は駆動し、バルブ140は閉にしておく
次に、ステージ120の浮上ユニット122の浮上面124で図示しないリフトピンを上昇させ、図示しないローダから基板Aがリフトピン上部に載置される。そして浮上ユニット122の浮上面124の図示しないエアー吐出孔から所定流量のエアーを噴射するとともに、バルブ140を開にして吸着保持体132の上面136で吸引開始してから、リフトピンを下降させる。リフトピンとともに下降する基板Aは、浮上面124から噴射されるエアーの静圧によって上下方向に支持されるとともに、吸着保持体132の上面136と基板Aの下面RPが接触して、基板Aが吸着保持される。この時基板Aは吸着保持体132によってX方向とY方向を含む水平方向には位置拘束され、上下方向のみ移動可能の状態になる。
【0030】
これと並行して、塗布液供給装置40を稼働させて少量の塗布液66を口金20から吐出後、駆動ユニット98を駆動して、拭き取りヘッド92を口金20の長手方向端部にある摺動開始位置まで移動させ停止させる。そして口金20を下降させて口金20の吐出口34とその周辺を拭取ヘッド92に係合後、拭取ヘッド92を口金20の長手方向に摺動させて、口金20の吐出口34付近を口金20の長手方向にわたって拭き取って、口金20の初期化を実施する。初期化が完了したら口金20を上昇させる。口金20の上昇完了後、拭き取りヘッド92を長手方向に最初の位置まで戻す。次に、基板Aが浮上ユニット122上でエアー浮上し吸着保持体132に吸着保持されて静止しているのを確認してから、門型ガントリー10を右側方向に駆動して、口金20を基板Aの塗布開始位置の真上に移動させて停止させる。これらの動作の間、図示しない高さセンサーによって、基板Aの表面CPの浮上面124からの高さHが測定される。測定した基板Aの高さHを用い、基板Aの表面CPからあらかじめ与えた初期クリアランス量CL0分離れた位置、すなわち浮上面124からの高さHn=H+CL0の位置に口金20の吐出口面36がくるように、上下昇降ユニット70A、Bを駆動して口金20を下降させる。そして口金20が上下方向の所定位置で停止してからシリンジポンプ50を駆動して、口金20から塗布液66を初期吐出量Q0だけ吐出し、口金20と基板Aとの間にビードBをまず形成する。なお初期クリアランス量CL0は好ましくは30〜100μm、初期吐出量Q0は好ましくは10〜40μL/mにする。続いてシリンジポンプ50停止後に上下昇降ユニット70A、Bを再び駆動し、浮上面124からの高さHnがH−60μm〜H+50μmの位置に口金20の最も下側に位置する吐出口面36が来るように口金20を昇降後停止させる。ここでHn−H>0ならHn−Hだけ基板Aの表面CPと口金20の吐出口面36との間にすきまであるクリアランスが設けられ、Hn−H<0ならH−Hnだけ口金20が基板Aの表面CPを下方に押し下げることになる。
【0031】
つづいてシリンジポンプ50を駆動し、所定吐出速度で口金20から塗布液66を吐出し、シリンジポンプ50の駆動開始から一定時間T1秒後に門型ガントリー10を所定速度でX方向に移動開始して、塗布液66の基板Aへの塗布を行い、塗布膜Cを形成する。基板Aの塗布終了位置が口金20の吐出口34の位置にきたらシリンジポンプ50を停止させて塗布液66の供給を停止し、つづいて上下昇降ユニット70A、Bを駆動して、口金20を上昇させる。これによって基板Aと口金20の間に形成されたビードBが断ち切られ、塗布が終了する。塗布終了後も門型ガントリー10は動きつづけ、終点位置にきたら一旦停止し、今度は原点位置に向かって逆方向に門型ガントリー10を移動させ、口金20が拭き取りヘッド92の上方となる原点位置に来たら停止させる。なお塗布終了では、口金20の吐出口34が塗布終了位置に来たときに、塗布液66の吐出を停止するとともに門型ガントリー10の移動も停止して口金20のX方向移動も停止させてよい。この場合、口金20は塗布終了位置で上昇してビードBを断ち切り、上昇後に原点位置に向かって逆方向に門型ガントリー10を移動させる。さて、口金20がX方向の原点位置に戻ってきたら基板Aの吸着保持体132による吸着を解除し、リフトピンを上昇させて基板Aを持ち上げる。この時図示されないアンローダによって基板Aの下面RPが保持され、次の工程に基板Aを搬送する。
【0032】
これと並行して、供給バルブ42を閉、吸引バルブ44は開としてから、ピストン54を一定速度で下降させ、タンク64の塗布液66をシリンジ52に充填する。充填完了後、ピストン54を停止させ、吸引バルブ44を閉、供給バルブ42を開として、次の基板Aが来るのを待ち、同じ動作をくりかえす。
【0033】
上記したように、塗布開始位置で静止している口金20の吐出口面36と基板Aとの間にビードBを形成してから、吐出口面36を塗布時の浮上面124からの高さHnに移動させるのが好ましい。高さHnをクリアランス量CLが10〜50μmだけ設けられるようにして塗布する時は、口金20の吐出口面36と基板Aとの間にビードBを形成する塗布液の表面張力によって、基板Aが口金20の吐出口面36の方に持ち上げられる。したがって設定したクリアランス量CLは10〜50μmであっても、基板Aが吐出口面36の方に引き寄せられる結果、塗布時の実際の吐出口面36と基板Aとの間隔は液膜の厚さとなり、おおよそ10μm以下となる。一方高さHnをHn−Hが0〜−60μmとなるようにして塗布する時は、口金20の吐出口面36で浮上面124上をエアー浮上している基板Aを、浮上力に抗して下側に最大60μm押し下げることになる。この時吐出口面36と基板Aの表面CPとの間には初期に形成したビードBが、吐出口面36で基板Aを押し付ける力に応じた厚さの小さな液膜になる。いずれにせよ、スリット口金20の吐出口面36と基板Aの表面CPとの間のすきまを液膜厚さに相当する非常に小さい状態を保持しつつ、液膜の厚さに応じた量の塗布液を供給して口金20をX方向に移動させることによって、非常に薄い厚さの塗布膜である液膜を高速でも形成できることになる。また基板Aはエアーで浮上しているのであるから、基板Aが口金20の吐出口面36の方に引き寄せられても、あるいは吐出口面36で押し下げられても、基板Aの表面CPが吐出口面36にならうので、基板Aの全幅、すなわち口金20の長手方向にわたって略均一に塗布液の厚さだけ基板Aと口金20が離れて塗布が行われることになる。このように基板Aの全幅に渡って略均一に非常に小さなクリアランスで塗布が行われる結果、基板Aに非常に薄い塗布膜を幅方向にわたって均一に高速で形成することが可能となる。基板Aの表面CPを口金20の吐出口面36にならわせるには、基板Aの浮上面124からの浮上量、すなわち浮上面124から基板Aの下面RPまでの間隔が大きい方が、浮上力も大きくなっているので、好都合である。すなわち、本発明は基板Aの浮上面124からの浮上量が10〜200μmに適用できるが、基板Aの表面CPを口金20の吐出口面36にならわせるために、基板Aの浮上面124からの浮上量を好ましくは70〜200μmとする。この範囲より小さいと、口金20の吐出口面36の浮上面の高さHnを、Hn−H=−60μmとなるようにした時に基板Aの下面RPと浮上面124が衝突する怖れがあり、この範囲より大きいと基板Aを吐出口面36へ押し付ける力が大きすぎて、吐出口面36と表面CP間の液膜があふれて口金20の斜面38の方にはい上がって塗布不良を生じることがある。なおクリアランス量CLが10〜50μmだけ設けられるようにして行う塗布は、表面張力による基板Aの持ち上げが粘性抵抗に抗して生じる比較的低粘度の塗布液に対して適用することが好ましい。具体的には、好ましくは粘度500mPas以下、より好ましくは粘度100mPas以下の塗布液である。浮上している基板Aを0〜−60μmだけ押し下げて行う塗布は、表面張力による基板Aの持ち上げが粘性抵抗に阻止されて生じない比較的高粘度の塗布液に対して適用することが好ましい。具体的には好ましくは500mPas以上、より好ましくは1000mPas以上の塗布液である。
【0034】
次に図3を参照すると、本発明の別の実施態様が示されている。図3は、口金200を口金20の代わりにスリットコータ1に装着し、基板Aに塗布している状況を拡大して示している部分拡大正面図である。図3では塗布方向は片矢印で示されており、矢印の方に口金200が移動して塗布が行われる。ここで口金200は、吊り下げ保持台80を介して昇降台78A、Bに取り付けられている。口金200は、塗布方向と平行なX方向に直交する幅方向にのびているフロントリップ222、およびリアリップ224を、シム232を介してX方向に重ね合わせ、図示しない複数の連結ボルトにより一体的に結合して構成されている。フロントリップ222とリアリップ224の間には幅方向に伸びるスリット228と、スリット228の下端にはこれもまた幅方向に伸びる吐出口234が構成されている。口金200内の中央部にはマニホールド226が形成されており、このマニホールド226も幅方向に伸びており、その下方はスリット228と連通している。またマニホールド226の上流側は、塗布液供給装置40に連なる供給ホース60に、図示しない内部通路を介して常時接続されている。吐出口234に塗布方向に隣接する先端部、すなわち口金200の下側先端部として、フロントリップ222側にはフロント吐出口面216が、リアリップ224側にはリア吐出口面218が形成されている。フロント吐出口面216、リア吐出口面218ともに基板Aに対して略平行に形成されている。吐出口234から吐出される塗布液が基板A上に塗布されて形成される塗布膜Cに対して、吐出口234のある側を塗布の上流側、その逆を塗布の下流側と定めると、フロント吐出口面216に対して塗布の上流側にあるリア吐出口面218は、上下方向にフロント吐出口面216よりも長さLだけ低い位置にある。すなわち吐出口面218は口金200の最も下側に位置する吐出口面となる。フロント吐出口面216とリア吐出口面218のこの位置関係によって、基板Aとリア吐出口面218との間に厚さtの液膜Bsを形成しつつ、フロント吐出口面216と基板Aの表面CPとの間には、CL=L+tの大きさのクリアランスが形成される。そして口金200で浮上している基板Aを0〜60μm押し下げる条件で塗布を行えば、液膜Bsの厚さは非常に小さくなるので、フロント吐出口面216と基板Aの表面CPとの間のクリアランスが実質的にクリアランス量CL=Lの状態で塗布できるようになる。すなわち、リア吐出口面218とフロント吐出口面216間の長さLを小さくすれば、リア吐出口面218が基板Aの表面CPにならいながら塗布方向に移動するので、基板Aとフロント吐出口面の間に長さLにほぼ等しい小さなクリアランスを常に口金200の全幅にわたって維持しながら塗布を行うことが可能となる。その結果、基板Aの表面CPに非常に薄い塗布膜を幅方向にわたって均一に高速で形成することが可能となる。。基板Aを0〜60μm押し下げる条件で塗布を行うので、口金200は粘度500mPas以上の高粘度塗布液に好ましく適用できる。
【0035】
口金200が装着されたスリットコータ1の塗布方法は、上述した口金20が装着されたスリットコータ1の塗布方法で、口金20を口金200、吐出口面36をリア吐出口面218に置き換え、塗布開始位置で静止している口金200のリア吐出口面218と基板Aとの間にビードBを形成してから、塗布時のリア吐出口面218の浮上面124からの高さHnがHn−H=0〜−60μmとなるようにリア吐出口面218の位置を定めるようにする他は、口金20を用いた上述の塗布方法と全く同じとなる。
【0036】
なお上下方向でのフロント吐出口面216とリア吐出口面218間の距離となる長さLは、好ましくは0.005〜0.05mm、より好ましくは0.01〜0.02mmとする。この範囲よりも小さいと、基板Aの表面のうねりや浮上状態によってリア吐出口面218とフロント吐出口面216の両方が基板Aの表面CPと接触してしまい、基板Aの表面CPとフロント吐出口面216の間に微小なクリアランスを設けるという本来の目的が達せられない。逆にこの範囲よりも大きくなると、基板Aの表面CPとフロント吐出口面216間のクリアランスが大きくなりすぎて、薄い塗布膜を均一に高速で形成することが困難となる。また基板Aと略平行なるフロント吐出口面216の塗布方向の長さは好ましくは0.05〜3mm、より好ましくは0.05〜1mmである。この範囲より小さくするのは加工上困難であり、逆にこの範囲より大きくすると、特に粘度が1000mPas以上の高粘度の塗布液では塗布中にすり切れやすくなって正常に塗布できないという不都合が生じる。また基板Aと略平行なるリア吐出口面218の塗布方向の長さは好ましくは0.3〜10mm、より好ましくは1〜5mmとし、フロント吐出口面216の塗布方向長さよりも長くする。この範囲よりも小さいと特に高速で塗布する時に液膜Bsが維持できなくなり、リア吐出口面218と基板Aの表面CPが接触してしまう。逆にこの範囲よりも大きくすると、基板Aの表面CPのうねりに十分にならうのが困難となり、基板Aの表面CPにならって一定のクリアランス量CLを維持するのが困難となる。以上の口金200のフロント吐出口面216、リア吐出口面218の塗布方向長さの好ましい範囲や両者の好ましい長さ関係については、出口面216とリア吐出口面218間の距離となる長さLがゼロの時、すなわち口金20の下側先端部である吐出口面36の塗布方向長さに対しても、同じことがいえる。
【0037】
なお以上提示した実施態様では、塗布のために口金20を静止している基板Aに対してX方向に移動させたが、口金20と基板Aを相対的に移動させれば塗布が行えるので、口金20を静止させてステージ120を移動させることによって基板AをX方向に移動させてもよい。また、吸着保持ユニット130を、基板Aをエアー浮上させるステージ120から分離して独立に塗布方向に駆動し、塗布方向に長い浮上ユニット上で基板Aを移動させるようにしても、本発明の塗布方法は適用でき、その効果も発揮する。ただし本発明の構成のように、門型ガントリー10による口金の水平移動や、基板Aをエアー浮上して保持するステージ120による水平移動を行う方が、より高精度で安定して一定速度での移動が可能となるので、より塗布方向に均一厚さの塗布が行えることとなり、より好ましい。
【0038】
以上説明した本発明が適用できる塗布液としては粘度が1〜100000mPaSであり、ニュートニアンであることが塗布性から好ましいが、チキソ性を有する塗布液にも適用できる。具体的に適用できる塗布液の例としては、上記にあげたPDP背面板用の隔壁用ペースト、誘電体ペースト、電極ペーストの高粘度薄膜塗布用のペーストの他、カラーフィルター用のブラックマトリックス、RGB色画素形成用塗布液、レジスト液、オーバーコート材、柱形成材料、TFTアレイ基板用のポジレジスト等の低粘度薄膜塗布用のペーストがある。基板である被塗布部材としてはガラスの他にアルミ等の金属板、セラミック板、シリコンウェハー等を用いてもよい。さらに使用する塗布状態と塗布速度が0.1m/分〜10m/分、より好ましくは0.5m/分〜6m/分、口金20のスリット間隙は50〜1000μm、より好ましくは80〜200μm、塗布厚さはウェット状態で0.2〜10μm、より好ましくは1〜5μmである。
【実施例】
【0039】
以下実施例により本発明を具体的に説明する。
【0040】
実施例1
360×465mmで厚さ0.7mmの無アルカリガラス基板を洗浄装置に投入した。ウェット洗浄によって基板上のパーティクルを除去後、 スリットコータ1でブラックマトリックス材をWet厚さで5μm基板全面に塗布した。使用した口金20については、スリット28の長さは360mm、スリット28の間隙(塗布方向の長さ)は0.1mm、フロントリップ22の基板Aと略平行となる先端面の塗布方向長さは0.5mm、リアリップ24の基板Aと略平行となる先端面の塗布方向長さは3mmであった。またエアー浮上させたガラス基板の表面CPの浮上面124からの高さHが略100μmになるように、浮上ユニット122への供給空気量を調整した。さらにその他の塗布条件として、初期クリアランス量CL0=30μm、初期吐出量Q0=50μL、時間T1=0.05秒、塗布時の吐出口面36の浮上面124からの高さHnはH+20μm、塗布速度5m/分、を用いた。なお塗布のタクトタイムは30秒であった。ブラックマトリックス材には、遮光材にカーボンブラック、バインダーにアクリル樹脂、溶剤にプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)を使用し、さらに感光剤を添加して、固形分濃度50%、粘度10mPasに調整したペーストを用いた。
【0041】
次にブラックマトリックス塗布工程で塗布された基板を、30秒で65Paに到達する真空乾燥を60秒行ってから、100℃のホットプレートで10分間さらに乾燥した。ついで露光・現像・剥離を行った後、260℃のホットプレートで30分加熱して、キュアを行い、基板の幅方向にピッチが254μm、基板の長手方向にピッチが85μm、線幅が20μm、RGB画素数が4800(基板長手方向)×1200(基板幅方向)、対角の長さが20インチ(基板幅方向に305mm、基板長手方向に406mm)となる格子形状で、厚さが1μmとなるブラックマトリックス膜の格子を作成した。高固形分濃度のブラックマトリックス材を薄く塗布できたので、ブラックマトリックスの蒸発させるべき溶剤の量を非常に少なくすることができ、コストダウンが行えた。
【0042】
実施例2
幅340mm×440mm×厚さ2.1mmのソーダガラス基板上の全面に粘度10000mPasの感光性銀ペーストを、口金200を取付けたスリットコータ1で、5μmのWet厚さに、1m/分で塗布した。口金200のペースト吐出幅(スリット228の長さ)430mm、スリット228の間隙(塗布方向長さ)100μm、フロント吐出口面216とリア吐出口面218の間の長さLは0.01mm、フロント吐出口面216とリア吐出口面218の塗布方向長さがそれぞれ0.1mm、5mmであった。また浮上面124上をエアー浮上させたソーダガラス基板は、その表面CPの浮上面124からの高さHが略100μmになるように、浮上ユニット122への供給空気量を調整した。塗布乾燥後についでフォトマスクを用いて露光し、現像および焼成の各工程を経て、ピッチ220μmでストライプ状の1920本の銀電極を形成した。その電極層上にガラスとバインダーからなる粘度20000mPasのガラスペーストを、同じくスリットコータ1で5μmのWet厚さで1m/分で塗布、乾燥した後に、焼成して誘電体層を形成した。なお、感光性銀ペースト塗布時の初期クリアランス量CL0=30μm、初期吐出量Q0=100μL、時間T1=0.1秒、塗布時のリア吐出口面218の浮上面124からの高さHnはH−10μmであった。また誘電体層形成時の初期クリアランス量CL0=30μm、初期吐出量Q0=80μL、時間T1=0.2秒、塗布時の塗布時のリア吐出口面218の浮上面124からの高さHnはH−15μmであった。
【0043】
次に、ガラス粉末と感光性有機成分からなる粘度20000cpsの感光性ガラスペーストを従来型のスリットコータでクリアランスを350μmにして、塗布厚さ300μm、塗布速度1m/分で塗布した。この基板を移載機で取り出して、輻射ヒータを用いた乾燥炉に投入し、100℃で20分間乾燥して厚さ140μmの隔壁層をえた。次いで隣あった電極間に隔壁が形成されるように設計されたフォトマスクを用いて露光し、現像と焼成を行って隔壁を形成した。隔壁の形状はピッチ220μm、線幅30μm、高さ130μmであり、各領域での隔壁本数は1921本であった。この後、R、G、Bの蛍光体ペーストを順次スクリーン印刷によって塗布して、80℃15分で乾燥後、最後に460℃15分の焼成を行って、プラズマディスプレイの背面板を作製した。得られたプラズマディスプレイ背面板の表面品位は申し分ないものであった。次にこのプラズマディスプレイ背面板と前面板を合わせ、封着後、Xe5%、Ne95%の混合ガスを封入し、駆動回路を接続してプラズマディスプレイを得た。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、プラズマディスプレイ、カラーフィルター、等の基板上の面に薄い塗布膜を形成する各種ディスプレイ用部材の製造に利用可能である。
【符号の説明】
【0045】
1 スリットコータ
2 基台
4 ガイドレール
10 門型ガントリー
12 ステー
14 軸受
16A、B 走行部
20 口金(塗布器)
22 フロントリップ
24 リアリップ
26 マニホールド
28 スリット
32 シム
34 吐出口
36 吐出口面
38 斜面
40 塗布液供給装置
42 供給バルブ
44 吸引バルブ
46 フィルター
50 シリンジポンプ
52 シリンジ
54 ピストン
56 本体
60 供給ホース
62 吸引ホース
64 タンク
66 塗布液
68 圧空源
70A、B 上下昇降ユニット
72A、B モータ
74A、B ガイド
76A、B ボールネジ
78A、B 昇降台
80 吊り下げ保持台
90 拭き取りユニット
92 拭き取りヘッド
94 ブラケット
96 スライダー
98 駆動ユニット
100 トレイ
102 台
110 制御装置
112 操作盤
120 ステージ
122 浮上ユニット
124 浮上面
130 吸着保持ユニット
132 吸着保持体
134 ガイド
136 上面
138 配管
140 バルブ
142 圧力調整器
144 真空源
200 口金(塗布器)
216 フロント吐出口面
218 リア吐出口面
222 フロントリップ
224 リアリップ
226 マニホールド
228 スリット
232 シム
234 吐出口
A 基板(被塗布部材)
B ビード
Bs 液膜
C 塗布膜(液膜)
CL クリアランス量(クリアランス(すきま)の大きさ(長さの単位))
CP 表面
H 高さ
Hn 高さ
L 長さ
RP 下面
t 液膜Bsの厚さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下側に位置する吐出口面にスリット状の吐出口を有する塗布器、並びに被塗布部材を上下方向に移動自在に保持する保持手段およびエアーを噴射して被塗布部材を浮上させる浮上ユニットを有するステージ、を備える塗布装置を用い、あらかじめ被塗布部材の上面である被塗布面の基準位置からの高さがHとなるように被塗布部材を浮上保持し、前記塗布器を前記塗布部材の被塗布面に近接させ、前記塗布器の吐出口から塗布液を吐出しながら前記塗布器および前記被塗布部材を相対的に移動して前記被塗布部材表面上に塗布膜を形成する塗布方法であって、前記塗布器の最も下側に位置する吐出口面の塗布時における基準位置からの高さをH−60μm〜H+50μmの範囲内とすることを特徴とする塗布方法。
【請求項2】
前記塗布器は、塗布下流側に位置するフロントリップと塗布上流側に位置するリアリップを重ね合わせて塗布方向に垂直な方向に長手方向を有するスリット状の吐出口を構成するものであり、前記リアリップ側の下側先端部が前記フロントリップ側の下側先端部よりも低い位置となるように形成されているものであることを特徴とする請求項1に記載の塗布方法。
【請求項3】
下側に位置する吐出口面に塗布液を被塗布部材上に吐出するためのスリット状の吐出口を有する塗布器と、前記塗布器に塗布液を供給する塗布液供給手段と、前記塗布器を上下に昇降させる昇降手段と、前記被塗布部材をエアー浮上させる浮上ユニットおよび前記被塗布部材を前記浮上ユニット上で水平方向に位置拘束しかつ上下方向に移動自在に保持する保持手段を有するステージと、前記ステージおよび前記塗布器を相対的に移動させる移動手段とを備えることを特徴とする塗布装置。
【請求項4】
前記塗布器は、塗布下流側に位置するフロントリップと塗布上流側に位置するリアリップを重ね合わせて塗布方向に垂直な方向に長手方向を有するスリット状の吐出口を構成するものであり、前記リアリップ側の下側先端部が前記フロントリップ側の下側先端部よりも低い位置となるように形成されているものであることを特徴とする請求項3に記載の塗布装置。
【請求項5】
請求項1または2に記載の塗布方法を用いてディスプレイ用部材を製造することを特徴とするディスプレイ用部材の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−192332(P2012−192332A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−57710(P2011−57710)
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】