説明

塗膜付円筒体の製造方法及び装置

【課題】デッピング塗工後に塗工液の乾燥を可能にして、均一な塗膜を形成した塗膜付円筒体を製造することができる塗膜付円筒体の製造方法及び装置を提供する。
【解決手段】中空円筒状基体1を上下の基体支持具2,3によってその両端で支持する。基体支持具によって支持された中空円筒状基体の軸方向に塗工桶7を移動し、中空円筒状基体の表面に塗工液を塗工する。加熱源15,38を中空円筒状基体の軸方向に駆動手段17,40によって駆動し、中空円筒状基体の表面温度を非接触で検出する温度検出手段19,19aで検知した温度により加熱源を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塗膜付円筒体の製造方法及び装置に係り、より詳細には、中空円筒状基体の表面に表面が平滑な塗膜を形成してなる塗膜付円筒体の製造方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ところで、電子写真複写機、レーザプリンタ、ファクシミリ等の電子写真方式の画像形成装置においては、用紙を狭圧し、熱によりトナーを溶融し、用紙に定着させる定着プロセスが存在し、例えば、転写紙上の未定着像を定着するために、表面の平滑な定着ローラや加熱ローラ等、塗膜として形成された表面が平滑な熱可塑性樹脂で被覆された塗膜付円筒体としての樹脂被覆ローラが用いられている。近年、その定着プロセスで用いられる塗膜付円筒体からなる部品(定着ローラあるいは定着ベルト)には、耐熱性ゴム(シリコーンゴム)による弾性層を塗膜として形成する傾向が多い。
【0003】
これは、基体(アルミ、鉄などの金属円筒形状物の芯金やポリイミド、Niなどのベルト状基体)上にプライマ(接着剤)を塗布(3〜6μm)して、シリコーンゴムなどの耐熱ゴムによる弾性層を100〜300μm程度形成することにより作られる。表層は熱可塑性樹脂を被覆することにより形成される。このような熱可塑性樹脂としては、トナーに対する離型性、トナー定着温度(通常180〜200℃)での連続耐久性等が要求されるので、フッ素樹脂等の離型性樹脂が用いられている。
【0004】
従来、プライマ層や弾性層を形成するための方法としてはスプレー塗工が考えられ、一般的に用いられてきた。しかし、スプレー塗工するために、例えばシリコーンゴム材を溶媒(トルエン、キシレンなどの有機溶剤)と混ぜ合わせることにより塗工時に粘度を下げることが必要不可欠となる。しかし、溶剤を使用すると塗工現場の作業環境は悪化し作業者の人体に影響を及ぼすので、局所排気する必要があり、そのため廃棄脱臭装置として活性炭を用いた脱臭システムなどを導入するが、付着効率の悪さやフィルターのランニングコストなどが高額になり、採算性が悪い。
【0005】
そこで、従来、付着効率の高いデッピング工法が用いられるようになってきた。デッピング工法は、塗工液を溜めた塗工桶を中空円筒状基体の表面に接する弾性パッキングにて塗工液をシールさせ、縦方向にセットした円筒形状基体の上から下方向へ塗工桶を移動させて行う塗工方法である。(例えば、特許文献1及び2参照。)
【特許文献1】特開平09−0106484号公報
【特許文献2】特開2004−279918号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、現在カラー化により高感度かつ高解像度が得られるための均一な膜厚の定着部品が求められているが、ポンプの脈動や、塗工液掻き取りのギャップ変動等で膜厚が変動するという問題がある。
【0007】
また、デッピング塗工後に塗工液の自重による膜厚差を低減するために、塗工液の乾燥時には中空円筒状基体を横方向に把持し回転しながら乾燥させる必要があるため、デッピング塗工装置以外にワーク把持・回転・乾燥機能を有した設備が必要となり、工程の追加や設備の大型化という問題がある。
【0008】
そこで本発明の目的は、上記の問題点を解決するために、デッピング塗工後に塗工液の乾燥を可能にして、均一な塗膜を形成した塗膜付円筒体を製造することができる塗膜付円筒体の製造方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するためになされた請求項1記載の発明は、中空円筒状基体をその両端で支持する上下の基体支持具と、該基体支持具によって支持された前記中空円筒状基体の軸方向に移動され、前記中空円筒状基体の表面に塗工液を塗工する塗工桶とを備え、前記中空円筒状基体の表面に塗工した塗工液により塗膜を形成してなる塗膜付円筒体の製造装置において、加熱源と、該加熱源を前記中空円筒状基体の軸方向に駆動する駆動手段と、前記中空円筒状基体の表面温度を非接触で検出する温度検出手段とを備え、前記温度検出手段で検知した温度により加熱源を制御することを特徴とする塗膜付円筒体の製造装置に存する。
【0010】
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載の塗膜付円筒体の製造装置において、前記加熱源は、前記中空円筒状基体内に挿入可能な形状を有することを特徴とする中空円筒状基体の塗工装置に存する。
【0011】
また、請求項3記載の発明は、請求項1記載の塗膜付円筒体の製造装置において、前記温度検出手段により検出した表面温度に基づいて前記中空円筒状基体の表面を均一な温度にするように前記加熱源を制御する温度制御手段を備えることを特徴とする塗膜付円筒体の製造装置に存する。
【0012】
また、請求項4記載の発明は、請求項1記載の塗膜付円筒体の製造装置において、前記基体支持具を回転させるための回転機構を備えることを特徴とする塗膜付円筒体の製造装置に存する。
【0013】
また、請求項5記載の発明は、請求項1記載の塗膜付円筒体の製造装置において、前記中空円筒状基体を把持して塗工作業領域の外に搬送する搬送手段を有することを特徴とする塗膜付円筒体の製造装置に存する。
【0014】
また、請求項6記載の発明は、請求項1記載の塗膜付円筒体の製造装置において、前記中空円筒状基体の全体を冷却可能な冷却手段を有することを特徴とする塗膜付円筒体の製造装置に存する。
【0015】
また、請求項7記載の発明は、請求項2記載の塗膜付円筒体の製造装置において、前記加熱源は、前記塗工桶の移動に追従しながら前記中空円筒状基体を局所的に加熱する熱源であることを特徴とする塗膜付円筒体の製造装置に存する。
【0016】
前記課題を解決するためになされた請求項8記載の発明は、中空円筒状基体を上下の基体支持具によりその両端で支持し、該支持した中空円筒状基体の軸方向に塗工桶を移動することによって前記中空円筒状基体の表面に塗工液を塗工し、該塗工した塗工液により前記中空円筒状基体の表面に塗膜を形成してなる塗膜付円筒体の製造方法において、前記塗工直後、前記中空円筒状基体の内部から加熱して前記塗工液により塗膜を形成することを特徴とする塗膜付円筒体の製造方法に存する。
【0017】
また、請求項9記載の発明は、請求項8記載の塗膜付円筒体の製造方法において、
中空円筒状基体表面に形成する塗膜の温度を非接触にて検知し、該検知した表面温度に基づいて前記塗工直後の中空円筒状基体の表面温度を制御して一定に保つことを特徴とする塗膜付円筒体の製造方法に存する。
【0018】
また、請求項10記載の発明は、中空円筒状基体を上下の基体支持具によりその両端で支持し、該支持した中空円筒状基体の軸方向に塗工桶を前記上方の基体支持具から前記下方の基体支持具まで移動することによって前記中空円筒状基体の表面に塗工液を塗工し、該塗工した塗工液により前記中空円筒状基体の表面に塗膜を形成してなる塗膜付円筒体の製造方法において、
前記塗工直後、前記中空円筒状基体の内部から加熱して前記塗工液により塗膜を形成し、前記塗膜形成後、前記上方の基体支持具とともに前記塗膜付円筒体を外し、前記円筒状基体下方を支持していた前記下方の基体支持具を、前記塗工桶に具備された状態で上方に移載させ、該移動させた基体支持具と新規の下方の基体支持具とにより新規の中空円筒状基体の両端を支持して、前記新規の中空円筒状基体の表面に塗膜を形成することを特徴とする塗膜付円筒体の製造方法に存する。
【発明の効果】
【0019】
上記した請求項1に係る発明の塗膜付円筒体の製造装置では、加熱源と、該加熱源を中空円筒状基体の軸方向に駆動する駆動手段と、中空円筒状基体の表面温度を非接触で検出する温度検出手段とを備え、温度検出手段で検知した温度により加熱源を制御することにより、中空円筒状基体表面に形成する塗工液を表面温度を均一に制御しながら加熱可能となり塗工直後に塗工液が乾燥するため、膜厚の均一性が得られる。よって、デッピング塗工後に塗工液の乾燥を可能にして、均一な塗膜を形成した塗膜付円筒体を製造することができる塗膜付円筒体の製造装置を提供することができる。また、この装置では、乾燥設備が必要でないため加工設備の省スペース化が図れる。
【0020】
請求項2に係る発明の塗膜付円筒体の製造装置では、請求項1に係る発明と同様の効果が得られる他、加熱源は、中空円筒状基体内に挿入可能な形状を有するので、中空円筒状基体表面に形成する塗膜に対し駆動手段を有する加熱源を基体内部に挿入し、基体表面を非接触にて温度測定しながら表面温度を制御することで塗膜の乾燥が均一となり、乾燥ムラが低減し外観品質が向上する。特に、中空円筒状基体の内径内から加熱することで、塗工液は基体側から乾燥するため塗膜のワレなどの不良を低減することができる。
【0021】
請求項3に係る発明の塗膜付円筒体の製造装置では、請求項1に係る発明と同様の効果が得られる他、中空円筒状基体表面に形成する塗工液を加熱手段にて表面温度を均一に制御しながら加熱可能となり塗工直後に塗工液が乾燥するため、膜厚の均一性が得られるとともに、乾燥設備が必要でないため加工設備の省スペース化が図れる。よって、中空円筒状基体表面温度を均一にすることで乾燥ムラを低減し、膜厚の均一化と共に外観品質の向上を図ることができる。
【0022】
請求項4に係る発明の塗膜付円筒体の製造装置では、請求項1に係る発明と同様の効果が得られる他、中空円筒状基体表面に形成する塗工液を基体内面から加熱する時に基体の両端を支持する基体支持具を回転させる機構を有することによって加熱温度を均一にすることが可能で乾燥ムラが低減し、外観品質が向上する。特に、中空円筒状基体の内径内からの加熱時に中空円筒状基体を回転させることで基体表面温度を均一にすることを目的とする。
【0023】
請求項5に係る発明の塗膜付円筒体の製造装置では、請求項1に係る発明と同様の効果が得られる他、中空円筒状基体を把持して塗工作業領域の外に搬送する搬送手段を有することによって、乾燥直後の加熱された基体を次工程に移載できるため生産性が向上するとともに、基体の脱着を自動化でき、熱に対する安全性を確保できる。よって、中空円筒状基体を加熱するためハンドリング時の安全性を確保できる。
【0024】
請求項6に係る発明の塗膜付円筒体の製造装置では、請求項1に係る発明と同様の効果が得られる他、中空円筒状基体全体を冷却可能な冷却手段を有することによって、乾燥直後の加熱された基体を冷却することができるため生産性が向上するとともに、人が手作業で基体を脱着する場合でも、熱に対する安全性を確保できる。特に、中空円筒状基体を加熱後、冷却手段にて冷却することで人によるハンドリング時の安全性を確保することと冷却時間の短縮化による生産性向上が図られる。
【0025】
請求項7に係る発明の塗膜付円筒体の製造装置では、請求項1に係る発明と同様の効果が得られる他、塗工直後に塗工桶に追従しながら中空円筒状基体を局所的に加熱する手段にて加熱することで、塗工直後の液ダレを低減し均一な膜厚が形成できるとともに、塗工直後に塗工桶に追従しながら中空円筒状基体を局所的に加熱する手段にて加熱することで、塗工直後の液ダレを低減し均一な膜厚を形成することができる。
【0026】
また、上記した請求項8に係る発明の塗膜付円筒体の製造方法では、中空円筒状基体表面に形成する塗工液を内面から加熱することで塗工直後に塗工液が乾燥するため、膜厚の均一性が得られるとともに、外部から加熱すると塗膜表面が乾燥しスキン層を形成するのに対して、内面から加熱するため塗膜内の水分や溶剤分が塗膜内に封止されることがなく、乾燥後の表面性(うねり等)が向上する。よって、デッピング塗工後に塗工液の乾燥を可能にして、均一な塗膜を形成した塗膜付円筒体を製造することができる塗膜付円筒体の製造方法を提案することができる。
【0027】
また、請求項9に係る発明の塗膜付円筒体の製造方法では、請求項8に係る発明と同様の効果が得られる他、中空円筒状基体表面に形成する塗膜の温度を非接触にて測定し、均一に温度制御すことによって、乾燥が均一となり乾燥ムラが低減し外観品質が向上する。
【0028】
また、請求項10に係る発明の塗膜付円筒体の製造方法では、中空円筒状基体下方を支持していた前記下方の基体支持具を、前記塗工桶に具備された状態で上方に移載させ、
該移動させた基体支持具と新規の下方の基体支持具とにより新規の中空円筒状基体の両端を支持して、前記新規の中空円筒状基体の表面に塗膜を形成するので、塗工桶内に常時塗工液が満たされており、塗工液を循環していることで塗工液内での沈降を防止でき、しかも、塗工桶内に塗工液を溜めた状態であるため、塗工液の供給時間の低減や塗工液面を下げることを行ったとしても塗工桶内の残留塗工液が乾燥し異物化することを低減することで生産性と外観品質の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1〜図7は、本発明の塗膜付円筒体の製造方法によって塗膜付円筒体を製造する本発明の塗膜付円筒体の製造装置の実施の形態を示す図である。
【0030】
図1の装置は、例えば画像形成装置の定着ベルトとして使用される塗膜付円筒体を、中空円筒状基体1の表面にデッピング工法にて塗工液を塗工して塗膜を形成して製造するためのものである。図示の装置は、基台Aと、基台Aから起立された側壁B1及びB2とを有する。装置は、表面に塗膜が形成されて定着ベルトとなるべき中空円筒状基体1の両端をそれぞれ支持するための基体支持具2,3を備える。基体支持具2,3は後述する理由で中空形状となっており、その一端の一部が中空円筒状基体1の両端から内部に挿入されて嵌合することで、中空円筒状基体1を支持する。
【0031】
なお、中空円筒状基体1に嵌合される基体支持具2,3の部分の外径の中空円筒状基体1の内径に対する寸法公差は−0.5mm以下にされ、中空円筒状基体内に挿入して中空円筒状基体を支持することによって、ガタツキなくスムーズに中空円筒状基体を支持固定できるようになる。また、嵌合した状態で中空円筒状基体1と基体支持具2,3の外周面が面一、すなわち、段差のない連続面となるように、基体支持具の嵌合部分と非嵌合部分との間には、中空円筒状基体1の厚さに相当する段差が形成されている。
【0032】
装置はまた上下の基体支持具2,3にそれぞれ嵌入される下側センタ4と上側センタ5とを備え、基台A上に設けられた下側センタ4は基体支持具2の他端に嵌入されることで、基体支持具2を位置決めするために使用され、上側センタ5は基体支持具3の他端に下方から嵌入され、嵌入された基体支持具3が落下しないように把持する図示しない把持手段を有する。装置はまた側壁B1に設けられた昇降手段として機構6を備え、機構6はエアの給排出を制御することによってピストン6aが出没するエアシリンダ6bを有し、ピストン先端に固定した支持片6cに支持されている上側センタ5を上下に昇降させる。なお、支持片6c及び上側センタ5には、基体支持具3の中空部を通じて中空円筒状基体1の中空部に連通する貫通孔(図示せず)が形成されている。
【0033】
装置はさらに、塗工液を満たしている塗工桶7と、塗工桶7を上下に昇降させる側壁B1に設けられた1軸アクチュエータ8と、基体支持具2を把持するチャックハンド9と、チャックハンド9を上下に昇降させることで、基体支持具2を上昇させるための側壁B2に設けられたアクチュエータ10と、塗工桶7内の塗工液を常時循環させておくための送液システム11とを備える。
【0034】
図示の装置はまた、中空円筒状基体1内に挿入可能な形状の加熱源としてハロゲンヒータ15と、ハロゲンヒータ15を支持している支持部材16と、支持部材16を上下に昇降してハロゲンヒータ15を昇降するための側壁B2に設けられた駆動手段としての1軸アクチュエータ17と、ハロゲンヒータ15の端子15aと接触してハロゲンヒータ15に通電するための電極18と、中空円筒状基体1の表面温度を非接触で検知する温度検知手段としての放射温度計19と、放射温度計19により検知した表面温度と予め設定した設定温度とを比較してその差に応じて温度調節信号を出力する温度調節器20と、温度調節器20が出力する温度調節信号に基づいてハロゲンヒータ15に供給する電力を、電圧、電流或いは通電時間を調節して制御する制御器21と、制御器21の制御の下でハロゲンヒータ15に電力を供給する電源22とをさらに備える。
【0035】
なお、図1の装置では、図示の都合で省略しているが、装置は、図2に示すように、中空円筒状基体1の軸方向全体に均一にエアブローすることができる冷却手段としてのブローノズル25を備えることができる。なお、乾燥直後の加熱された中空円筒状基体1をブローノズル25から吹き出すエアによっての軸方向全体に均一にエアブローすることによって冷却することができるため生産性が向上するとともに、人が手作業で基体を脱着する場合でも、熱に対する安全性を確保できる。特に、中空円筒状基体を加熱後、冷却手段にて冷却することで人によるハンドリング時の安全性を確保することと冷却時間の短縮化による生産性向上が図られる。
【0036】
なお、1軸アクチュエータ8,10,17としては、回転規制したコマに螺合させたネジ軸を回転させることによって、その回転方向に応じてネジ軸に沿って上下に移動させるコマの動きを利用したものが適用できる。チャックハンド9としては、例えばソレノイド付勢によって一対の対向腕を対向する方向に駆動することで把持を行い、付勢を解除することで把持を止めさせるようなものが適用される。送液システム11は、図示のように、塗工桶7とタンク11aを配管11bを介して接続し、排出用及び供給用のポンプ11c及び11dによって塗工液を常時循環させるようになっている。
【0037】
塗工桶7の具体的な構造の一例を図3の拡大図を参照して説明すると、塗工桶7は、その内に塗工液7aが、シール部材7bと、塗工中は中空円筒状基体1と、待機中は基体支持具2又は3とで密封され、塗工桶7内に常に塗工液を満たし、かつ循環できるようになっていて、塗工液の乾きによる液カスが発生しないように構成されている。シール部材7bは、中空円筒状基体1を挿入するための円形開口7cを有し、その使用塗工液の溶媒に耐えうるフッ素樹脂或いはフッ素ゴムによって形成されることが好ましい。塗工桶7内にはオーバーフロー壁7dが設けられており、供給用ポンプ11dによって塗工桶7内に常に塗工液が供給されることで、余分の塗工液がオーバーフロー面7eを超えて溢れ出て、塗工桶7内には、常に新鮮な塗工液7aが維持され、かつ塗工液面が一定に保たれている。なお、溢れた塗工液は排出用ポンプ11cによってタンク11aに回収されて循環される。なお、7fは塗工桶7内の塗工液が蒸発しないようにする蓋である。以上により、塗工液が常に循環されていることによって、液カスの発生原因となる塗工液の停滞がなくなり、液カスが発生し難くなる。
【0038】
上述した装置によって、中空円筒状基体1の表面にデッピング工法にて塗工液を塗工して塗膜を形成して塗膜付円筒体を製造する方法の実施の形態を、図1〜図5を参照して以下説明する。
【0039】
図1には、中空円筒状基体表面に塗膜を形成し終わり塗膜付円筒体の製造が完了した状態が示されており、中空円筒状基体1の表面に対する塗工液の塗工を開始する時点では、図4(d)に示すように、塗工桶7は上方の基体支持具3の位置にあり、この状態から、塗工桶7を1軸アクチュエータ8により下方の基体支持具2の位置まで下降させることによって、中空円筒状基体1の表面に塗工液が塗工される。このときの塗工桶7の下降は、想定する塗布する塗工液厚に見合った速度で行われる。その後、ハロゲンヒータ15を1軸アクチュエータ17により、支持片6c及び上側センタ5の貫通孔(図示せず)を通じて、図5に示すように、ハロゲンヒータ15の端子15aが電極18と接触される状態になるまで下降される。
【0040】
下降により中空円筒状基体1内に挿入されたハロゲンヒータ15の端子15aと電極18とが接触されると、ハロゲンヒータ15への通電が開始され、中空円筒状基体1内からの加熱が開始される。加熱は、放射温度計19により検知した表面温度に基づいて温度調節器20が出力する温度調節信号により、制御器21が電源22からハロゲンヒータ15に供給する電力を制御することで予め設定した一定の温度に保たれる。このように、中空円筒状基体表面に形成する塗工液を表面温度を均一に制御しながら加熱可能となり、塗工直後に塗工液が乾燥するため、膜厚の均一性が得られる。中空円筒状基体内部からの感想のため、大がかりな乾燥設備が必要でないため加工設備の省スペース化が図れる。なお、上記温度調節器20と制御器21は、放射温度計19により検出した表面温度に基づいて前記中空円筒状基体の表面を均一な温度にするように前記加熱源を制御する温度制御手段を構成している。
【0041】
中空円筒状基体表面に塗布した塗工液の乾燥が終わって所定の塗膜が形成した後、ハロゲンヒータ15を1軸アクチュエータ17により、図1に示す位置まで上昇させて次の作業に移るが、この移行作業を図4を参照して説明する。
【0042】
図4(a)は、ハロゲンヒータ15の図示は省略しているが、所定の塗膜が形成した後、ハロゲンヒータ15を上昇させた状態を示し、この状態で、基体支持具2をチャックハンド9にて把持し、上側センタ5をエアシリンダ6bにて上方に上昇させる。このとき、把持手段による基体支持具3の把持が解かれていることによって、上側センタ5のみが上昇され、上側センタ5と基体支持具3との間で分離され、基体支持具3は塗膜が表面に形成されている中空円筒状基体1の上端に残る。中空円筒状基体1の上端に残っている基体支持具3を取り外すことによって、図4(b)に示す状態になる。
【0043】
図4(b)の状態になったところで、塗膜が表面に形成された中空円筒状基体1、すなわち、塗膜付円筒体を基体支持具2から取り外し、次の塗工を行うために基体支持具2を把持しているチャックハンド9を1軸アクチュエータ10によって上昇させる。その動作に追従して、塗工桶7もシール部材(図3、7b)にて密閉し塗工液を塗工桶7内に充満した状態で1軸アクチュエータ8によって上昇させることによって、図4(c)に示す状態になる。塗工桶7内には、図2について上述したように、塗工液がシール部材7bと、塗工中は中空円筒状基体1と、そして待機中は基体支持具2,3とで密封され、塗工桶7内に常に塗工液が循環できる構造となり塗工液の乾きによる液カス等が発生しないようにしている。
【0044】
なお、塗膜付円筒体を基体支持具2から取り外すとき、図示しない搬送手段を使用することができる。搬送手段は、例えば、駆動源であるモータによって回動される回動軸にチャックハンドを取り付け、チャックハンドによって塗膜付円筒体を把持して下方の基体支持体から外れるように持ち上げてから回動軸を回転して装置の塗工作業領域外に搬送するように構成することができる。このような搬送手段を使用することで、乾燥直後の加熱された基体を次工程に移載できるため生産性が向上するとともに、基体の脱着を自動化でき、熱に対する安全性を確保できる。よって、中空円筒状基体を加熱するためハンドリング時の安全性を確保できる。
【0045】
上昇された基体支持具2は上側センタ5にセットされて上方の基体支持具となり、下方の基体支持具2が新規に下方センタ4にセットし、その新規の基体支持具2に塗工前の中空円筒状基体1をセットし、上昇させた基体支持具2と塗工桶7を1軸アクチュエータ8,10にて上側センタ5と追従して下降させ、中空円筒状基体1の内径内に基体支持具2をセットする。セット後、チャックハンド9を開放し、中空円筒状基体1の下側を支持する新規の基体支持具2を超えてチャックハンド9を下降することによって、図4(d)に示す状態になる。この図4(d)に示す状態で、塗工桶7が塗工液を循環しながら所定の速度で下降することによってデッピング塗工を行い、中空円筒状基体1の表面に塗膜を形成していく。
【0046】
その後は、図5を参照して上述したように、中空円筒状基体1の中心上に支持されているハロゲンヒータ15を1軸アクチュエータ17にて中空円筒状基体1の内径内に挿入させハロゲンヒータ15の先端に設けた端子と下側センタ4内に固定している端子と接触させる。ハロゲンヒータ15の下降端を検知し制御器21にて電源22よりハロゲンヒータ15に通電させる。中空円筒状基体1の表面の温度を非接触の放射温度計19にて温度測定しながら、温度調節器20及び制御器21にて中空円筒状基体1の表面の塗膜が乾燥するまで加熱する。加熱温度は、塗工する基体及び塗工液によって異なる。
【0047】
図6は他の実施の形態を示し、軸受を設けて回転可能とした上側センタ30と、上側センタ30に固定したプーリにタイミングベルトで回転を伝達するためのモータ31と、基体支持具2の回転に連れ回りするように軸受を設けて回転可能とした下側センタ32から構成されている。図に符号を付していない部分についは、図1に示すものと同一のものである。
【0048】
図6の実施の形態では、中空円筒状基体1の表面にデッピング塗工にて塗膜を形成した後、ハロゲンヒータ15が中空円筒状基体1内に挿入し、ハロゲンヒータ15の先端に設けた端子と下側センタ32内に固定している端子と接触させて中空円筒状基体1の内部から加熱を開始した後、モータ31の回転をタイミングベルトで上側センタ30に伝達し、下側センタ32にも軸受を設けて回転可能としているため、支持している中空円筒状基体1は回転可能となる。中空円筒状基体1が回転し、内部に挿入したハロゲンヒータ15を加熱することで中空円筒状基体1の表面温度が均一化できる。上記モータ31とタイミングベルトは、ハロゲンヒータ15によって加熱中に中空円筒状基体1を回転するために、基体支持具を回転させるための回転機構を構成している。
【0049】
図7はさらに他の実施の形態を示し、同図において、中空円筒状基体1内に挿入可能で先端部分のみ配光し局所的に加熱可能なハロゲンヒータ38と、ハロゲンヒータ38を中空円筒状基体1の中心と他の構成部品と干渉が生じない領域まで移動可能な駆動源を有する支持部材39と、その支持部材39を上下に昇降可能な1軸アクチュエータ40と、温度検出手段としての放射温度計19aの温度に対して局所的に加熱可能なハロゲンヒータ38の制御を行うための温度調節器41と温度制御するための制御器42と、ハロゲンヒータ38に通電するための電源43とから構成されている。図中、符号を付していない部材については、図1に示されるものと同一のものである。放射温度計19aにより検知した温度によって加熱温度を制御するために、ハロゲンヒータ38の移動位置に応じて放射温度計19aも矢印に示すように移動できるようにすることが好ましく、1軸アクチュエータ40によって中空円筒状基体1外を移動される取付片に取り付けることで実現できる。上記温度調節器41と制御器42は、放射温度計19aにより検出した表面温度に基づいて前記中空円筒状基体の表面を均一な温度に保つように前記加熱源を制御する温度制御手段を構成している。
【0050】
図7の実施の形態では、上側の基体支持具3より塗工液を塗工桶7にて中空円筒状基体1の表面上に塗膜を形成しながら1軸アクチュエータ8によりデッピング塗工する。先端部分のみ配光し局所的に加熱可能なハロゲンヒータ38が塗工直後に加熱しながら塗工桶7と追従し下降する。熱の伝達速度とデッピング塗工時の塗工桶7の下降速度を個別に設定可能とするためにハロゲンヒータ38と塗工桶7を個別の移動手段8,40にて駆動させる。デッピング塗工にて中空円筒状基体1の表面に塗膜を形成した後、塗膜の自重による膜厚変化が発生する前にハロゲンヒータ38を加熱させて塗膜の乾燥を行っていくことで均一な膜厚を形成できる。
【0051】
図7のハロゲンヒータ38は、塗膜の自重による膜厚変化を防ぐのに有効であるが、塗膜全体の早期乾燥にはハロゲンヒータ15による加熱が好ましいので、中空円筒状基体1の表面全体に塗膜を形成した後に、ハロゲンヒータ38を中空円筒状基体1から引きだし、これを矢印で示すように、中空円筒状基体1の軸線の外に移動し、代わりにハロゲンヒータ15を中空円筒状基体1の軸線上に移動して、上述したハロゲンヒータ15による加熱を行うようにすることも可能である。
【0052】
なお、上述した実施の形態では、加熱源として挿入されるハロゲンヒータを例示したが、中空円筒状基体1内に熱風を供給するような加熱源であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の塗膜付円筒体の製造方法によって塗膜付円筒体を製造する本発明の塗膜付円筒体の製造装置の実施の形態を示す図である。
【図2】図1中の装置に冷却手段を追加した実施の形態を示す図である。
【図3】図1中の塗工桶の具体的な構成を拡大して示す断面図である。
【図4】図1の装置を使用して塗膜付円筒体の製造する方法を説明するための説明図である。
【図5】図1の装置の動作状態を示す図である。
【図6】図1の装置の一部分を変形した実施の形態を示す図である。
【図7】図1中の装置の他の一部分を変更した実施の形態を示す図である。
【符号の説明】
【0054】
1 中空円筒状基体
2,3 基体支持具
7 塗工桶
15,38 ハロゲンヒータ(加熱源)
17,40 1軸アクチュエータ(駆動手段)
19,19a 放射温度計(温度検出手段)
20,41 温度調節器(温度制御手段)
21,42 制御器(温度制御手段)
25 ブローノズル(冷却手段)
31 モータ(回転機構)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空円筒状基体をその両端で支持する上下の基体支持具と、該基体支持具によって支持された前記中空円筒状基体の軸方向に移動され、前記中空円筒状基体の表面に塗工液を塗工する塗工桶とを備え、前記中空円筒状基体の表面に塗工した塗工液により塗膜を形成してなる塗膜付円筒体の製造装置において、
加熱源と、
該加熱源を前記中空円筒状基体の軸方向に駆動する駆動手段と、
前記中空円筒状基体の表面温度を非接触で検出する温度検出手段と
を備え、前記温度検出手段で検知した温度により加熱源を制御する
ことを特徴とする塗膜付円筒体の製造装置。
【請求項2】
請求項1記載の塗膜付円筒体の製造装置において、
前記加熱源は、前記中空円筒状基体内に挿入可能な形状を有する
ことを特徴とする塗膜付円筒体の製造装置。
【請求項3】
請求項1記載の塗膜付円筒体の製造装置において、
前記温度検出手段により検出した表面温度に基づいて前記中空円筒状基体の表面を均一な温度にするように前記加熱源を制御する温度制御手段を備える
ことを特徴とする塗膜付円筒体の製造装置。
【請求項4】
請求項1記載の塗膜付円筒体の製造装置において、
前記中空円筒状基体を加熱中、前記基体支持具を回転させるための回転機構を備える
ことを特徴とする塗膜付円筒体の製造装置。
【請求項5】
請求項1記載の塗膜付円筒体の製造装置において、
前記中空円筒状基体を把持して塗工作業領域の外に搬送する搬送手段を有する
ことを特徴とする塗膜付円筒体の製造装置。
【請求項6】
請求項1記載の塗膜付円筒体の製造装置において、
前記中空円筒状基体の全体を冷却可能な冷却手段を有する
ことを特徴とする塗膜付円筒体の製造装置。
【請求項7】
請求項2記載の塗膜付円筒体の製造装置において、
前記加熱源は、前記塗工桶の移動に追従しながら前記中空円筒状基体を局所的に加熱する熱源である
ことを特徴とする塗膜付円筒体の製造装置。
【請求項8】
中空円筒状基体を上下の基体支持具によりその両端で支持し、該支持した中空円筒状基体の軸方向に塗工桶を移動することによって前記中空円筒状基体の表面に塗工液を塗工し、該塗工した塗工液により前記中空円筒状基体の表面に塗膜を形成してなる塗膜付円筒体の製造方法において、
前記塗工直後、前記中空円筒状基体の内部から加熱して前記塗工液により塗膜を形成する
ことを特徴とする塗膜付円筒体の製造方法。
【請求項9】
請求項8記載の塗膜付円筒体の製造方法において、
中空円筒状基体表面に形成する塗膜の温度を非接触にて検知し、
該検知した表面温度に基づいて前記塗工直後の中空円筒状基体の表面温度を制御して一定に保つ
ことを特徴とする塗膜付円筒体の製造方法。
【請求項10】
中空円筒状基体を上下の基体支持具によりその両端で支持し、該支持した中空円筒状基体の軸方向に塗工桶を前記上方の基体支持具から前記下方の基体支持具まで移動することによって前記中空円筒状基体の表面に塗工液を塗工し、該塗工した塗工液により前記中空円筒状基体の表面に塗膜を形成してなる塗膜付円筒体の製造方法において、
前記塗工直後、前記中空円筒状基体の内部から加熱して前記塗工液により塗膜を形成し、
前記塗膜形成後、前記上方の基体支持具とともに前記塗膜付円筒体を外し、
前記中空円筒状基体下方を支持していた前記下方の基体支持具を、前記塗工桶に具備された状態で上方に移載させ、
該移動させた基体支持具と新規の下方の基体支持具とにより新規の中空円筒状基体の両端を支持して、前記新規の中空円筒状基体の表面に塗膜を形成する
ことを特徴とする塗膜付円筒体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−255679(P2006−255679A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−80745(P2005−80745)
【出願日】平成17年3月18日(2005.3.18)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】