説明

境界センサ

【課題】 広範囲に設置することができ、安価で通過箇所の特定が容易な境界センサを提供する。
【解決手段】 境界センサ1を、エラストマーと、該エラストマー中に略単粒子状態でかつ高充填率で配合されている球状の導電性フィラーと、を有し、変形量が増加するに従って電気抵抗が増加する弾性変形可能なセンサ本体2と、センサ本体2に接続され、該電気抵抗を出力可能な電極3と、を備えて構成し、屋外において無許可の通過が禁止されている境界付近に配置する。境界センサ1は、センサ本体2の変形に基づく電気抵抗の変化から、該境界の通過を検知可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、立ち入り制限区域への不法侵入等を検知可能な境界センサに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、発電所、燃料備蓄基地、軍事基地等の重要保安施設等では、広範囲に亘って外部からの立ち入りを制限する必要がある。このような制限区域への不法侵入を防止するため、制限区域を区画するフェンス等には、侵入センサや監視カメラ等が設置されている。侵入センサとしては、例えば、赤外線センサ、振動センサ、光ファイバセンサ等が知られている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【特許文献1】特開平6−251264号公報
【特許文献2】特開昭63−40068号公報
【特許文献3】特開平3−53400号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
例えば、赤外線センサや振動センサの場合、検知可能な範囲が狭い。このため、広範囲を監視するためには、センサを多数設置する必要がある。また、鳥等の小動物や風による誤動作が多い。一方、光ファイバセンサによると、広範囲への配索は比較的容易であるが、侵入箇所の特定が難しい。侵入箇所を特定しようとすると、監視範囲を区画して、その区画ごとに光ファイバセンサを配置しなければならない。この場合、個々の光ファイバセンサについて発光源と受光源とが必要となり、コストがかかる。
【0004】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、広範囲に設置することができ、安価で通過箇所の特定が容易な境界センサを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(1)本発明の境界センサは、エラストマーと、該エラストマー中に略単粒子状態でかつ高充填率で配合されている球状の導電性フィラーと、を有し、変形量が増加するに従って電気抵抗が増加する弾性変形可能なセンサ本体と、該センサ本体に接続され、該電気抵抗を出力可能な電極と、を備えてなり、屋外において無許可の通過が禁止されている境界付近に配置され、該センサ本体の変形に基づく電気抵抗の変化から、該境界の通過を検知可能なことを特徴とする(請求項1に対応)。
【0006】
ここで、「無許可の通過が禁止されている境界」には、無許可の侵入が禁止されている区域と外部との境界(以下「侵入禁止境界」と称す)、および、無許可の脱出が禁止されている区域と外部との境界(以下「脱出禁止境界」と称す)の両方が含まれる。侵入禁止境界としては、上述したような重要保安施設の他、空港の滑走路、種々の管理地等を区画する境界が挙げられる。一方、脱出禁止境界としては、刑務所等を区画する境界が挙げられる。すなわち、本発明の境界センサは、出入りが制限されている所定の区域(以下、適宜「制限区域」と称す)を区画する境界付近に配置されている。
【0007】
例えば、制限区域を区画する境界に、フェンス、塀等が設置されている場合、侵入者は当該フェンス、塀等をよじ登ったり、破損させたりして、制限区域への侵入を試みる。本発明の境界センサを、当該フェンスや塀等に配置した場合、侵入者の上記行為により、センサ本体が変形する。ここで、センサ本体は、変形量が増加するに従って電気抵抗が増加する。このように、本発明の境界センサによると、センサ本体の変形による電気抵抗の増加に基づいて、制限区域への侵入の試みを検知することができる。なお、「電気抵抗を出力可能」とは、電気抵抗を直接あるいは間接的に出力可能なことをいう。すなわち、直接、電極から電気抵抗を出力する場合は勿論、電圧や電流など電気抵抗に関連する他の電気量を出力する場合を含む。
【0008】
本発明の境界センサにおいて、センサ本体は弾性変形可能であり、エラストマーと球状の導電性フィラーとを有する。本明細書において、「エラストマー」は、ゴムおよび熱可塑性エラストマーを含む。また、導電性フィラーは、エラストマー中に、略単粒子状態で、かつ高充填率で配合されている。ここで、「略単粒子状態」とは、導電性フィラーの全重量を100重量%とした場合の50重量%以上が、凝集した二次粒子としてではなく、単独の一次粒子の状態で存在していることをいう。また、「高充填率」とは、導電性フィラーが最密充填に近い状態で配合されていることをいう。
【0009】
このように、導電性フィラーが、略単粒子状態で、かつ高充填率で配合されると、エラストマー分を介した導電性フィラー同士の接触により、三次元的な導電パスが形成される。したがって、本発明の境界センサにおけるセンサ本体(以下、適宜「本発明におけるセンサ本体」と称す)は、荷重が印加されていない状態(以下、適宜「無荷重状態」と称す)、言い換えると、変形していない自然状態で、高い導電性を有する。なお、本明細書における「弾性変形」には、圧縮、伸張、曲げ等による変形がすべて含まれる。
【0010】
例えば、従来からある感圧導電性樹脂は、非圧縮状態で電気抵抗が大きく、圧縮により変形すると電気抵抗が減少する。これは、感圧導電性樹脂の構成から次のように説明することができる。すなわち、感圧導電性樹脂は、樹脂と、該樹脂に配合された導電性フィラーと、からなる。ここで、導電性フィラーの充填率は低い。このため、無荷重状態において、導電性フィラー同士は離れている。つまり、無荷重状態では、感圧導電性樹脂の電気抵抗は大きい。一方、荷重が印加され感圧導電性樹脂が変形すると、導電性フィラー同士が接触して、一次元的な導電パスが形成される。これにより、電気抵抗が減少する。
【0011】
これに対して、本発明におけるセンサ本体は、変形量が増加するに従って電気抵抗が増加する。この理由は、次のように考えられる。図1、図2に、本発明におけるセンサ本体の、荷重の印加前後における導電パスの変化をモデルで示す。ただし、図1、図2に示すのは、センサ本体の一例であり、本発明におけるセンサ本体、導電性フィラーの形状、材質等を何ら限定するものではない。
【0012】
図1に示すように、センサ本体100において、導電性フィラー102の多くは、エラストマー101中に一次粒子の状態で存在している。また、導電性フィラー102の充填率は高く、最密充填に近い状態で配合されている。これにより、無荷重状態において、センサ本体100には、導電性フィラー102による三次元的な導電パスPが形成されている。よって、無荷重状態では、センサ本体100の電気抵抗は小さい。一方、図2に示すように、センサ本体100に荷重が印加されると、センサ本体100は変形する(図2中の点線枠は、図1の無荷重状態を示している。)。ここで、導電性フィラー102は最密充填に近い状態で配合されているため、導電性フィラー102が移動できるスペースはほとんどない。よって、センサ本体100が変形すると、導電性フィラー102同士が反発し合い、導電性フィラー102同士の接触状態が変化する。その結果、三次元的な導電パスPが崩壊し、電気抵抗が増加する。
【0013】
このようなセンサ本体を備えた本発明の境界センサは、センサ本体に生じる圧縮、伸張、曲げ等の様々な変形による電気抵抗の増加に基づいて、侵入禁止境界および脱出禁止境界の通過(制限区域への侵入および制限区域からの脱出)を検知することができる。また、本発明の境界センサは、センサ本体の変形による電気抵抗の増加に基づいて検知を行うため、センサ本体の変形を伴わない小さな振動等により誤動作することが少ない。
【0014】
また、センサ本体はエラストマーを母材とする。このため、本発明の境界センサは、加工性に優れ、形状設計の自由度が高い。よって、配置場所の長さや形状等によらず、広範囲に配索することができる。また、センサ本体に接続される電極の数、配置を調整することにより、細かなセンシングが可能となる。すなわち、電極を所定の区間ごとに配置するだけで、容易に侵入箇所を特定することができる。
【0015】
また、本発明の境界センサでは、エラストマーや導電性フィラーの種類、導電性フィラーの充填率等を調整することにより、無荷重状態における電気抵抗値を所定の範囲に設定することができる。このため、検出可能な変形量の範囲、つまり、検出レンジを大きくすることができる。加えて、変形量に対する電気抵抗の増加挙動を調整することができるため、所望の応答感度を実現することができる。
【0016】
また、本発明の境界センサは、無荷重状態において高い導電性を有する。つまり、本発明の境界センサは、無荷重状態において導電状態にある。このため、無荷重状態において、導電性の低いセンサ(例えば、従来の感圧導電性樹脂を用いたセンサ)と比較して、作動診断が容易である。すなわち、無荷重状態において導電性の低いセンサの場合、無荷重状態のままでは、正常なのか異常なのか(例えば回路に断線等が生じているのか)判別し難い。このため、導電性が低いセンサに、敢えて、比較的高い電圧を印加して、通電させてみる必要がある。あるいは、センサを試験的に作動させて通電状態をチェックする必要がある。したがって、作動診断が煩雑である。これに対して、本発明の境界センサの場合、無荷重状態において高い導電性を有している。このため、無荷重状態のままで、正常、異常の判別がし易い。したがって、作動診断が容易である。
【0017】
(2)好ましくは、上記(1)の構成において、前記境界には、無許可の通過を禁止する境界区画部材が配置され、該境界区画部材に配置される構成とするとよい(請求項2に対応)。
【0018】
通常、制限区域を区画する境界には、無許可の通過を禁止するために、フェンス、塀等の境界区画部材が配置されている。よって、当該境界を不法に通過しようとする場合、境界区画部材をよじ登る、変形させる、切断する等の行為がなされると想定される。したがって、本構成によると、既存の境界区画部材に本発明の境界センサを配置することにより、当該行為を検知することができる。すなわち、境界の不法通過を早期に検知することができる。
【0019】
(3)好ましくは、上記(2)の構成において、前記センサ本体は、温度が上昇するに従って電気抵抗が増加する構成とするとよい(請求項3に対応)。
【0020】
本発明におけるセンサ本体によると、所定の温度以上でエラストマーが膨張することにより、上述した三次元的な導電パスPが崩壊する。このため、所定の温度以上で電気抵抗が増加する。したがって、例えば、境界区画部材がバーナーで焼き切られる等、急激な温度変化を伴って境界区画部材が破損する場合には、センサ本体の変形に加え、温度上昇により電気抵抗が増加する。これにより、制限区域を区画する境界の通過を、より早期かつ確実に検知することができる。
【0021】
(4)好ましくは、上記(1)の構成において、前記境界付近の地面に埋設される構成とするとよい(請求項4に対応)。本構成によると、検知対象の境界付近に侵入者等が接近した場合、侵入者の重さにより、埋設されている本発明の境界センサに荷重が印加される。これにより、センサ本体が変形し、電気抵抗が増加する。よって、本構成によると、フェンス等の境界区画部材の有無に関わらず、制限区域を区画する境界の通過を検知することができる。また、地面に埋設することにより、侵入者等に本発明の境界センサの存在を知られるおそれが少ない。
【0022】
(5)好ましくは、上記(1)ないし(4)のいずれかの構成において、さらに、前記センサ本体が表出しないよう該センサ本体を被覆する保護部材を備える構成とするとよい(請求項5に対応)。センサ本体を保護部材により被覆することにより、センサ本体の防水性、絶縁性等を確保することができる。また、センサ本体が外部環境から遮断されるため、センサ本体の劣化が抑制される。
【0023】
(6)好ましくは、上記(1)ないし(5)のいずれかの構成において、前記センサ本体は長尺状を呈し、前記電極は、該センサ本体の長手方向に沿って複数配置されている構成とするとよい(請求項6に対応)。本構成によると、センサ本体が長尺状を呈しているため、長距離に亘り連続して配索することができる。また、電極をセンサ本体の長手方向の所定間隔ごとに配置することで、より細かなセンシングが可能となる。これにより、侵入者等の通過箇所を、容易に特定することができる。
【0024】
(7)好ましくは、上記(1)ないし(6)のいずれかの構成において、前記センサ本体は、前記エラストマーと前記導電性フィラーとを必須成分とするエラストマー組成物からなり、該エラストマー組成物の、該導電性フィラーの配合量と電気抵抗との関係を表すパーコレーションカーブにおいて、電気抵抗変化が飽和する第二変極点の該導電性フィラーの配合量(飽和体積分率:φs)が35vol%以上である構成とするとよい(請求項7に対応)。
【0025】
一般に、絶縁性のエラストマーに導電性フィラーを混合してエラストマー組成物とした場合、エラストマー組成物の電気抵抗は、導電性フィラーの配合量によって変化する。図3に、エラストマー組成物における、導電性フィラーの配合量と電気抵抗との関係を模式的に示す。
【0026】
図3に示すように、エラストマー101に導電性フィラー102を混合していくと、エラストマー組成物の電気抵抗は、はじめはエラストマー101の電気抵抗とほとんど変わらない。しかし、導電性フィラー102の配合量がある体積分率に達すると、電気抵抗が急激に低下して、絶縁体−導電体転移が起こる(第一変極点)。この第一変極点における導電性フィラー102の配合量を、臨界体積分率(φc)と称す。また、さらに導電性フィラー102を混合していくと、ある体積分率から、電気抵抗の変化が少なくなり電気抵抗変化が飽和する(第二変極点)。この第二変極点における導電性フィラー102の配合量を、飽和体積分率(φs)と称す。このような電気抵抗の変化は、パーコレーションカーブと呼ばれ、エラストマー101中に導電性フィラー102による導電パスP1が形成されるためと考えられている。
【0027】
例えば、導電性フィラーの粒子径が小さい、導電性フィラーとエラストマーとの相溶性が悪い等の理由により、導電性フィラーが凝集し、凝集体が形成されている場合には、一次元的な導電パスが形成され易い。このような場合には、エラストマー組成物の臨界体積分率(φc)は、20vol%程度と比較的小さくなる。同様に、飽和体積分率(φs)も比較的小さくなる。言い換えると、臨界体積分率(φc)および飽和体積分率(φs)が小さい場合には、導電性フィラーは一次粒子として存在し難く、二次粒子(凝集体)を形成し易い。よって、この場合、導電性フィラーをエラストマー中に多量に配合することは難しい。つまり、導電性フィラーを最密充填に近い状態で配合することは難しい。また、粒子径の小さな導電性フィラーを多量に配合すると、凝集構造が三次元的に成長するため、変形に対する導電性の変化が乏しくなる。
【0028】
本構成によると、センサ本体は、飽和体積分率(φs)が35vol%以上であるエラストマー組成物からなる。飽和体積分率(φs)が35vol%以上と大きいため、導電性フィラーは、エラストマー中に略単粒子状態で安定に存在する。よって、導電性フィラーを、最密充填に近い状態で配合することができる。
【0029】
(8)好ましくは、上記(1)ないし(7)のいずれかの構成において、前記導電性フィラーの充填率は、前記センサ本体の全体の体積を100vol%とした場合の30vol%以上65vol%以下である構成とするとよい(請求項8に対応)。
【0030】
本構成によると、エラストマー中に導電性フィラーが最密充填に近い状態で配合される。よって、センサ本体に、導電性フィラーによる三次元的な導電パスが形成され易くなる。
【0031】
(9)好ましくは、上記(1)ないし(8)のいずれかの構成において、前記導電性フィラーは、カーボンビーズである構成とするとよい(請求項9に対応)。
【0032】
カーボンビーズは、導電性が良好で、比較的安価である。また、略真球状を呈しているため、高充填率で配合することができる。
【0033】
(10)好ましくは、上記(1)ないし(9)のいずれかの構成において、前記導電性フィラーの平均粒子径は、0.05μm以上100μm以下である構成とするとよい(請求項10に対応)。
【0034】
本構成によると、導電性フィラーは凝集し難く、一次粒子の状態で存在し易い。なお、平均粒子径は、一次粒子の状態で存在する導電性フィラーの平均粒子径を意味する。
【0035】
(11)好ましくは、上記(1)ないし(10)のいずれかの構成において、前記エラストマーは、シリコーンゴム、エチレン−プロピレン共重合ゴム、天然ゴム、スチレン−ブタジエン共重合ゴム、アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム、アクリルゴムから選ばれる一種以上を含む構成とするとよい(請求項11に対応)。
【0036】
本構成によると、エラストマーと導電性フィラーとの相溶性が良好である。このため、導電性フィラーが一次粒子の状態で存在し易くなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、本発明の境界センサの実施形態について説明する。まず、本発明の境界センサの実施形態について説明し、次に、本発明の境界センサを構成するセンサ本体について詳しく説明する。
【0038】
〈境界センサ〉
(1)第一実施形態
まず、本実施形態の境界センサの配置について説明する。図4に、本実施形態の境界センサが配置されたフェンスの正面図を示す。図4に示すように、フェンス9は、支柱90と上胴縁91と下胴縁92と金網パネル93とを備えている。フェンス9は、本発明の境界区画部材に含まれる。
【0039】
支柱90は、鋼製であって円筒状を呈している。支柱90は、所定間隔ごとに離間して、地面Gから上方に立設されている。上胴縁91は、鋼製であって円筒状を呈している。上胴縁91は、多数の支柱90の上端付近に、左右方向に架設されている。下胴縁92は、鋼製であって円筒状を呈している。下胴縁92は、多数の支柱90の下端付近に、左右方向に架設されている。
【0040】
金網パネル93は、長尺帯状であって、菱形網状に編まれた鋼線からなる。金網パネル93の上縁は上胴縁91に、下縁は下胴縁92に、それぞれ取り付けられている。金網パネル93により、上胴縁91と下胴縁92との間の隙間が封止されている。
【0041】
境界センサ1は、線状を呈している。境界センサ1は、多数の支柱90の中間部に、左右方向に架設されている。また、境界センサ1は、金網パネル93にも、取り付けられている。境界センサ1は、上下三列に配列されている。
【0042】
制御装置8は、フェンス9から離間した家屋(図略)内に配置されている。制御装置8と境界センサ1とは、電気的に接続されている。並びに、制御装置8は、警報装置86および風力計87とも電気的に接続されている。警報装置86は、家屋外壁に取り付けられている。風力計87は、支柱90上端に取り付けられている。
【0043】
次に、境界センサ1の構成について説明する。なお、以下に説明するのは、三列の境界センサ1のうち中段に配置された境界センサ1である。しかしながら、上段および下段の境界センサ1の構成、制御装置8との結線状態は、中段の境界センサ1と同様である。したがって、ここでは説明を割愛する。
【0044】
図5に、支柱90における境界センサ1取付部付近の斜視図を示す。図6に、境界センサ1の軸直方向断面図を示す。なお、説明の便宜上、図5において、支柱90は透過して示す。図5、図6に示すように、境界センサ1は、センサ本体2と電極3と保護カバー4とを備えている。
【0045】
センサ本体2は、左右方向に延びる長尺丸棒状を呈している。センサ本体2は、EPDM(エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体)中に、カーボンビーズ(日本カーボン社製「ニカビーズ(登録商標)ICB0520」、平均粒子径約5μm)が配合されたエラストマー複合材料からなる。カーボンビーズの充填率は、センサ本体2の体積を100vol%とした場合の48vol%である。また、EPDMにカーボンビーズを混合したエラストマー組成物のパーコレーションカーブにおいて、臨界体積分率(φc)は43vol%、飽和体積分率(φs)は48vol%である。
【0046】
保護カバー4は、弾性を有するエラストマー製であって、長尺円筒状を呈している。保護カバー4は、センサ本体2外周面を覆っている。このため、センサ本体2は、外部環境から遮断されている。保護カバー4は、支柱90に、ブラケット(図略)により固定されている。保護カバー4は、本発明における保護部材に含まれる。
【0047】
電極3は、銅製であって、短冊状を呈している。電極3の一端は、センサ本体2の側周面に埋設されている。電極3の他端は、保護カバー4を貫通して外部に突出している。電極3は、境界センサ1と支柱90とが交差する位置ごとに、多数配置されている。電極3の保護カバー4からの突出端は、支柱90内まで到達している。電極3の突出端は、導線30の一端に接続されている。前出図4に示すように、導線30は、支柱90内部および下胴縁92内部に、配策されている。導線30の他端は、制御装置8に接続されている。このため、センサ本体2は、隣り合う電極3の間隔ごとに、制御装置8に電気抵抗値を出力することができる。
【0048】
次に、制御装置8の電気的構成について説明する。図7に、制御装置8のブロック図を示す。図7に示すように、制御装置8は、ブリッジ回路80と、増幅回路81と、入力回路82a、82bと、演算部83と、記憶部84と、出力回路85と、を備えている。
【0049】
境界センサ1のセンサ本体2は、抵抗r1、r2、r3・・・rn−2、rn−1、rnを、備えている。これらの抵抗r1〜rnは、各々、隣接する電極3の間隔(すなわち前出図4に示す支柱90同士の間隔L1)に対応している。
【0050】
ブリッジ回路80には、抵抗R1〜R3が配置されている。抵抗R1〜R3と、センサ本体2の抵抗r1〜rnとにより、ホイーストンブリッジ回路が構成されている。詳しく説明すると、抵抗r1〜rnは、r1→r2→r3・・・と切り替えられながら、順次、制御装置8に接続される。このため、ホイーストンブリッジ回路は、抵抗R1〜R3と、抵抗r1〜rnのいずれか(以下、「rk」と称す)とにより、構成されることになる。電源Vin(詳しくは制御装置8の内部電源)の電圧、抵抗R1〜R3の電気抵抗値は、各々既知である。このため、抵抗R2と抵抗R3との中間電位V1と、抵抗rkと抵抗R1との中間電位V2と、の電位差を測定することにより、実質的にセンサ本体2の抵抗rkを測定することができる。
【0051】
増幅回路81には、中間電位V1、V2が入力される。中間電位V1、V2の電位差ΔVは、増幅回路81により増幅され、入力回路82aに入力される。電位差ΔVは、アナログ−デジタル変換され、電位差データとなる。一方、風力計87の検出する風力信号は、入力回路82bに入力される。当該検出信号は、アナログ−デジタル変換され、風力データとなる。これら電位差データおよび風力データは、演算部83に伝送される。
【0052】
記憶部84は、演算部83に接続されている。記憶部84には、マップが格納されている。図8に、記憶部84に格納されたマップの模式図を示す。図8に示すように、弱風(風力データ≦風力用しきい値th2)の場合には、電位差用しきい値th10は低く設定される。一方、強風(風力データ>風力用しきい値th2)の場合には、電位差用しきい値th11は高く設定される。このように、風力に応じて、電位差用しきい値th10、th11は、二段階に切り替えて設定される。演算部83は、電位差データおよび風力データと、図8のマップと、の比較を行う。演算部83は、出力回路85を介して、警報装置86に接続されている。
【0053】
次に、本実施形態の境界センサ1の動きについて説明する。まず、平常時について説明する。平常時においては、センサ本体2は、無荷重状態で自然状態にある。ここで、前出図1に示すように、導電性フィラー102は、最密充填に近い状態で充填されている。このため、平常時においては、多数の導電パスPが形成されている。したがって、センサ本体2の電気抵抗値は、最小値である。
【0054】
前出図7に示すように、中間電位V1、V2の電位差ΔVは、増幅回路81により増幅され、入力回路82aを介して、演算部83に常時入力されている。一方、記憶部84には、前出図8に示すマップが格納されている。演算部83は、弱風(風力データ≦風力用しきい値th2)の場合は、電位差データと電位差用しきい値th10とを比較する。強風(風力データ>風力用しきい値th2)の場合は、電位差データと電位差用しきい値th11とを比較する。平常時においては、電位差データ≦電位差用しきい値th10(弱風時)、あるいは電位差データ≦電位差用しきい値th11(強風時)となるように設定されている。
【0055】
次に、非常時について説明する。侵入者がフェンス9を突破しようとすると、境界センサ1の任意の部分が変形する(前出図4参照)。このため、センサ本体2の任意の部分も変形する(前出図5、図6参照)。したがって、センサ本体2の変形部分に対応する抵抗rkが大きくなる(前出図7参照)。詳しく説明すると、前出図2に示すように、導電性フィラー102同士が反発し合う。このため、導電パスPが崩壊してしまう。したがって、抵抗rkは平常時に対して大きくなる。
【0056】
抵抗rkが大きくなると、その分抵抗rkを通過する際の、電源Vinの電圧降下量が大きくなる。したがって、平常時と比較して、中間電位V2が低くなる。中間電位V2が低くなり、電位差ΔVつまり電位差データ>電位差用しきい値th10(弱風時)、あるいは電位差データ>電位差用しきい値th11(強風時)となった場合、出力回路85のスイッチング素子がオンになる。これにより、警報装置86が作動する。
【0057】
次に、本実施形態の境界センサ1の作用効果について説明する。本実施形態の境界センサ1によると、フェンス9の切断等による境界の通過を、早期かつ確実に検知することができる。また、本発明者の実験によると、センサ本体20は、約80℃以上になると、温度が上昇するに従って電気抵抗が増加する。よって、例えば、バーナー等で金網パネル93および境界センサ1が焼き切られた場合には、変形による電気抵抗の増加に加えて、急激な温度上昇により電気抵抗が増加するので、より早期に侵入者の通過を検知することができる。
【0058】
また、境界センサ1は、センサ本体2の変形による電気抵抗の増加に基づいて検知を行うため、センサ本体2の変形を伴わない小さな振動等により誤動作することが少ない。また、電位差データに加えて、風力計87からの風力データをも利用して検知を行うため、風による誤作動が少なく、検知精度が高い。
【0059】
また、センサ本体20は左右方向に延びる長尺丸棒状を呈している。このため、長距離に亘り連続して配索することができる。また、支柱90ごとに電極3が配置されているため、侵入者等の通過箇所を、容易に特定することができる。また、センサ本体2は、保護カバー4により被覆されている。このため、センサ本体2の防水性、絶縁性は高い。また、センサ本体2が表出していないため、センサ本体2の劣化が抑制される。
【0060】
また、本実施形態では、電位差データに基づいて、侵入の有無を判別している。このため、電位差を一旦電気抵抗に変換してから判別を行う場合と比較して、センサ本体2の変形から警報装置86が作動するまでの時間が短くて済む。また、境界センサ1は、常時通電状態であるため、容易に作動診断を行うことができる。
【0061】
(2)第二実施形態
本実施形態と第一実施形態との相違点は、境界センサが上胴縁に取り付けられている点である。また、センサ本体が、スペーサを介して、保護カバーに固定されている点である。したがって、ここでは相違点についてのみ説明する。
【0062】
図9に、支柱における本実施形態の境界センサ取付部付近の斜視図を示す。なお、図5と対応する部位については同じ符号で示す。図10に、同境界センサの軸直方向断面図を示す。なお、図6と対応する部位については同じ符号で示す。
【0063】
図9、図10に示すように、本実施形態の境界センサ1は、上胴縁91の上面に沿って、左右方向に延在している。境界センサ1の保護カバー4は、ブラケット910を介して、上胴縁91に取り付けられている。具体的には、ブラケット910は、大孔910aと小孔910bとを備えている。大孔910aには、上胴縁91が挿通され固定されている。小孔910bには、保護カバー4が挿通され固定されている。ブラケット910は、保護カバー4の軸方向に沿って、所定間隔ごとに配置されている。
【0064】
センサ本体2の外周面と保護カバー4の内周面との間には、隙間が形成されている。当該隙間には、リング状のスペーサ5が介装されている。スペーサ5は、センサ本体2の軸方向に沿って、所定間隔ごとに配置されている。
【0065】
本実施形態の境界センサ1と第一実施形態の境界センサとは、構成が共通する部分については、同じ作用効果を有する。また、本実施形態の境界センサ1によると、上胴縁91上部に境界センサ1が配置されている。このため、侵入者のフェンス9の乗り越えを、検知することができる。
【0066】
また、本実施形態の境界センサ1によると、センサ本体2と保護カバー4との間に、スペーサ5が介装されている。このため、センサ本体2と保護カバー4との間に、全周的に隙間が区画されている。したがって、鳥等の小動物や風によりセンサ本体2が変形するおそれが小さい。
【0067】
(3)第三実施形態
本実施形態と第二実施形態との相違点は、電極と制御装置とを結ぶ導線が、センサ本体と保護カバーとの隙間に配策されている点である。したがって、ここでは相違点についてのみ説明する。
【0068】
図11に、支柱における本実施形態の境界センサ取付部付近の斜視図を示す。なお、図9と対応する部位については同じ符号で示す。図12に、同境界センサの軸直方向断面図を示す。なお、図10と対応する部位については同じ符号で示す。
【0069】
図11、図12に示すように、スペーサ5には、小孔50が穿設されている。当該小孔50には、導線30が挿通されている。なお、図11においては、説明の便宜上、スペーサ5の上部を導線30が貫通しているが、実際には、図12に示すように、導線30は、スペーサ5の下部を貫通している。
【0070】
導線30は、センサ本体2と保護カバー4との隙間に配策されている。導線30の一端は、センサ本体2に埋設された電極(図11の電極3に対して左方に隣接する電極(図略))に接続されている。導線30の他端は、支柱90内部を介して、制御装置(図略)に接続されている。
【0071】
本実施形態の境界センサ1と第二実施形態の境界センサとは、構成が共通する部分については、同じ作用効果を有する。また、本実施形態の境界センサ1によると、導線30の配策が必要な支柱90の数が、第二実施形態に対して半分になる。このため、配策作業、延いては境界センサ1の取付作業が容易である。
【0072】
(4)第四実施形態
本実施形態と第三実施形態との相違点は、電極と制御装置とを結ぶ導線が、保護カバー外周面に沿って配策されている点である。したがって、ここでは相違点についてのみ説明する。
【0073】
図13に、本実施形態の境界センサの軸直方向断面図を示す。なお、図12と対応する部位については同じ符号で示す。図13に示すように、導線30は、拘束リング40により、保護カバー4の外周面に取り付けられている。拘束リング40は、保護カバー4の軸方向に所定間隔ごとに、複数配置されている。本実施形態の境界センサ1と第三実施形態の境界センサとは同様の作用効果を有する。
【0074】
(5)第五実施形態
本実施形態と第一実施形態との相違点は、境界センサが地面に埋設されている点である。したがって、ここでは相違点についてのみ説明する。
【0075】
まず、本実施形態の境界センサの配置および構成について説明する。図14に、本実施形態の境界センサの断面斜視図を示す。図15に、同境界センサの短手方向断面図を示す。図14、図15に示すように、地面Gの中には、上から下に向かって、上方緩衝材94と境界センサ1aと下方緩衝材95とが配置されている。上方緩衝材94および下方緩衝材95は、ゴム製であって左右方向に延びる帯状を呈している。境界センサ1aは、上方緩衝材94と下方緩衝材95との間に、介装されている。
【0076】
境界センサ1aは、保護カバー4aとセンサ本体2aと電極3aと基板7aとを備えている。保護カバー4aは、弾性を有するエラストマー製であって左右方向に延びる平らな角筒状を呈している。保護カバー4a内部には、基板7aとセンサ本体2aと電極3aとが収容されている。基板7aは、樹脂製であって、左右方向に延びる帯状を呈している。基板7aは、保護カバー4a内部の底面に配置されている。センサ本体2aは、第一実施形態のセンサ本体同様のエラストマー複合材料製であって、左右方向に延びる帯状を呈している。センサ本体2aは、基板7a上に固定されている。電極3aは、銅製であって短冊状を呈している。電極3aは、センサ本体2aと基板7aとの間に介装されている。電極3aは、センサ本体2aの長手方向に沿って、所定間隔ごとに多数配置されている。
【0077】
次に、本実施形態の境界センサ1aの電気的構成について説明する。図16に、本実施形態の境界センサの配線図(上面図)を示す。なお、図16においては、上方緩衝材94および保護カバー4aを省略して示す。
【0078】
図16に示すように、境界センサ1aは、フェンスFと家屋Hとの間に配置されている。複数の電極3aと制御装置8aとは、各々、導線30aにより接続されている。制御装置8aは、家屋H内に配置されている。制御装置8aの構成は、前出図7に示す制御装置8の構成から、風力計87用の入力回路82bを削除したものと同様である。したがって、ここでは説明を割愛する。
【0079】
次に、本実施形態の境界センサ1aの動きについて説明する。まず、平常時について説明する。平常時においては、センサ本体2aは、無荷重状態で自然状態にある。ここで、前出図1に示すように、導電性フィラー102は、最密充填に近い状態で充填されている。このため、平常時においては、多数の導電パスPが形成されている。したがって、センサ本体2の電気抵抗値は、最小値である。次に、非常時について説明する。図17に、本実施形態の境界センサの非常時における短手方向断面図を示す。前出図16のフェンスFを乗り越えた侵入者が、境界センサ1a上の地面Gを通過すると、図17に示すように、侵入者の重さにより、境界センサ1aが、下方に向かって沈み込むように、湾曲変形する。このため、侵入者が通過した部分に対応する一対の電極3a間の電気抵抗が増加する。したがって、制御装置8aの演算部に入力される電位差データが大きくなる。電位差データが、制御装置8aの記憶部に格納されている電位差用しきい値よりも、大きくなった場合、警報装置86aが作動する。
【0080】
次に、本実施形態の境界センサ1aの作用効果について説明する。本実施形態の境界センサ1aは、構成が共通する部分については、第一実施形態の境界センサと同様の作用効果を有する。また、本実施形態の境界センサ1aは、地面Gの表面と略平行な平面を持った帯状を呈している。このため、比較的広い範囲において、地面Gの上を通過する侵入者を検知することができる。
【0081】
(6)第六実施形態
本実施形態と第五実施形態との相違点は、境界センサがブロック塀の上面に配置されている点である。したがって、ここでは相違点についてのみ説明する。図18に、本実施形態の境界センサの断面斜視図を示す。図18に示すように、ブロック塀Bは、左右方向に延在している。境界センサ1bは、ブロック塀Bの上面に配置されている。ブロック塀Bは、本発明の境界区画部材に含まれる。
【0082】
境界センサ1bは、保護カバー4bとセンサ本体2bと電極3bと基板7bとを備えている。保護カバー4bは、弾性を有するエラストマー製であって左右方向に延びる平らな角筒状を呈している。保護カバー4b内部には、基板7bとセンサ本体2bと電極3bとが収容されている。基板7bは、樹脂製であって、左右方向に延びる帯状を呈している。基板7bは、保護カバー4b内部の底面に配置されている。センサ本体2bは、第一実施形態のセンサ本体同様のエラストマー複合材料製であって、左右方向に延びる帯状を呈している。センサ本体2bは、基板7b上に固定されている。電極3bは、銅製であって短冊状を呈している。電極3bは、センサ本体2bと基板7bとの間に介装されている。電極3bは、センサ本体2bの長手方向に沿って、所定間隔ごとに多数配置されている。
【0083】
本実施形態の境界センサ1bは、構成が共通する部分については、第五実施形態の境界センサと同様の作用効果を有する。また、本実施形態の境界センサ1bによると、ブロック塀Bを乗り越えようとする侵入者を検知することができる。
【0084】
(7)その他
以上、本発明の境界センサの実施の形態について説明した。しかしながら、実施の形態は上記形態に特に限定されるものではない。当業者が行いうる種々の変形的形態、改良的形態で実施することも可能である。
【0085】
例えば、本発明の境界センサの配置場所は、上記実施形態(フェンス、地中、ブロック塀)に限定されるものではない。また、上記第一ないし第四実施形態においては、境界センサを、フェンスに対して左右方向に架設した。しかし、境界センサを、フェンスの支柱外周面に上下方向に沿って配置してもよい。
【0086】
また、上記実施形態においては、単一の長尺上のセンサ本体に対して、多数の電極を、所定間隔ごとに配置した。しかしながら、短尺のセンサ本体と、当該センサ本体の長手方向両端に配置される一対の電極と、を一つのユニットとして、当該ユニットを多数直列に並べることにより、境界検知を行ってもよい。こうすると、境界センサが破損した場合に、ユニットごとに取り替えればよく、管理しやすい。また、当該ユニット長を、例えば第一実施形態の支柱90同士の間隔L1(前出図4参照)と、略一致させることにより、境界センサとフェンスとを、モジュール化してもよい。
【0087】
また、センサ本体の構成は、上記実施形態に限定されるものではない。これについては、後述する。センサ本体の形状も、特に限定されるものではない。上記実施形態の長尺丸棒状、帯状の他、長尺角棒状、四角板状、円板状等であってもよい。なお、電極をセンサ本体に加硫接着により固定すると、センサ本体の加硫成形と同時に、電極を配置することができる。
【0088】
本発明の境界センサに接続される制御装置、警報装置の配置は、特に限定されるものではない。上記実施形態では、これらを導線で接続したが、センサ本体からの電圧データ等を無線で制御装置に電送してもよい。この場合は、配線が不要となるため、制御装置等の配置の自由度が高くなる。また、上記実施形態では、境界センサから電位差データを出力したが、電気抵抗データを出力してもよい。また、警報装置の種類も特に限定されるものではない。警報を鳴らす他、警備会社等への通知を行うものでもよい。また、屋外に設置されたパトランプ等を制御装置に接続してもよい。
【0089】
〈センサ本体〉
本発明の境界センサを構成するセンサ本体は、エラストマーと導電性フィラーとを有する。エラストマーは、ゴムおよび熱可塑性エラストマーから適宜選択することができる。エラストマーは、絶縁性であることが望ましい。また、導電性フィラーとの混合物(エラストマー組成物)を調製した場合、パーコレーションカーブにおける飽和体積分率(φs)が35vol%以上となるものを用いることが望ましい。飽和体積分率(φs)が35vol%未満の場合には、導電性フィラーを略単粒子状態でかつ高充填率で配合することが難しいからである。また、飽和体積分率(φs)以上の領域においては、電気抵抗が低く、安定した導電性が発現される。よって、飽和体積分率(φs)が35vol%以上の場合には、変形した際の導電体から絶縁体への電気抵抗の変化範囲が広くなる。さらに、飽和体積分率(φs)が40vol%以上となるものを用いると、より好適である。なお、本明細書における「エラストマー組成物」は、エラストマーと球状の導電性フィラーとを必須成分とする。つまり、エラストマーと球状の導電性フィラーとの混合物でもよく、エラストマー、球状の導電性フィラー、および他の添加剤等の混合物であってもよい。
【0090】
また、導電性フィラーとの親和性を考慮して、次式(1)で表されるゲル分率が15%以下のエラストマーを用いるとよい。ゲル分率が10%以下であるとより好適である。
ゲル分率(%)=(Wg−Wf)/Wf×100・・・(1)
[式(1)中、Wgは、エラストマーに導電性フィラーを混合したエラストマー組成物を、エラストマーの良溶媒に溶解した際に得られる溶媒不溶分(導電性フィラーとエラストマーとからなるゲル分)の重量である。Wfは、導電性フィラーの重量である。なお、エラストマーの良溶媒としては、溶媒とエラストマーとのSP値(溶解度パラメータ)が近いものが望ましく、例えば、トルエン、テトラヒドロフラン、クロロホルム等が挙げられる。]
【0091】
ゲル分率の値は、パーコレーションカーブにおける臨界体積分率(φc)の指標となる。すなわち、臨界体積分率(φc)が30vol%未満となる場合には、導電性フィラーの凝集体に吸着、結合したエラストマー分が多く存在するため、ゲル分率は比較的大きな値になる。反対に、臨界体積分率(φc)が30vol%以上となる場合には、導電性フィラーが略単粒子状態で存在するため、導電性フィラーの凝集体に吸着、結合したエラストマー分は少なく、ゲル分率は15%以下の比較的小さな値になる。
【0092】
エラストマーの具体例として、例えば、ゴムとしては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム(NBR)、スチレン−ブタジエン共重合ゴム(SBR)、エチレン−プロピレン共重合ゴム[エチレン−プロピレン共重合体(EPM)、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体(EPDM)等]、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(Cl−IIR、Br−IIR等)、水素化ニトリルゴム(H−NBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリルゴム(AR)、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム(CSM)、ヒドリンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム、合成ラテックス等が挙げられる。また、熱可塑性エラストマーとしては、スチレン系、オレフィン系、ウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、フッ素系等の各種熱可塑性エラストマー、およびこれらの誘導体が挙げられる。これらのうち、一種を単独で、あるいは二種以上を併せて用いればよい。なかでも、導電性フィラーとの相溶性が極めて良好なEPDMが好適である。また、導電性フィラーとの相溶性が良好なNBR、シリコーンゴムも好適である。
【0093】
導電性フィラーは、球状を呈する。なお、球状には、真球、略真球状は勿論、楕円球状、長円球状(一対の対向する半球を円柱で連結した形状)、部分球状、部分毎に半径の異なる球状、水滴形状等が含まれる。例えば、導電性フィラーのアスペクト比(短辺に対する長辺の比)は、1以上2以下の範囲が望ましい。アスペクト比が2より大きくなると、導電性フィラー同士の接触により一次元的な導電パスが形成され易いからである。この場合、上記飽和体積分率(φs)が35vol%未満となるおそれがある。また、エラストマー中における導電性フィラーの充填状態を、より最密充填状態に近づけるという観点から、導電性フィラーとして、真球あるいは極めて真球に近い形状(略真球状)の粒子を採用するとよい。
【0094】
導電性フィラーは、導電性を有する粒子であれば、特に限定されるものではない。例えば、炭素材料、金属等の微粒子が挙げられる。これらのうち、一種を単独で、あるいは二種以上を併せて用いることができる。
【0095】
導電性フィラーは、できるだけ凝集せず、一次粒子の状態で存在することが望ましい。よって、導電性フィラーを選択する際には、平均粒子径やエラストマーとの相溶性等を考慮するとよい。例えば、導電性フィラーの平均粒子径(一次粒子)は、0.05μm以上100μm以下であることが望ましい。0.05μm未満の場合には、凝集して二次粒子を形成し易い。また、上記飽和体積分率(φs)が35vol%未満となるおそれがある。好ましくは0.5μm以上、より好ましくは1μm以上である。反対に、100μmを超えると、弾性変形による導電性フィラーの並進運動(平行運動)が、粒子径に比べて相対的に小さくなり、センサ本体の弾性変形に対する電気抵抗の変化が緩慢となる。好ましくは60μm以下、より好ましくは30μm以下である。なお、導電性フィラーとエラストマーとの組み合わせや、導電性フィラーの平均粒子径等を適宜調整することで、上記臨界体積分率(φc)および飽和体積分率(φs)を、所望の範囲内に調整することができる。
【0096】
また、導電性フィラーの粒度分布におけるD90/D10の値は、1以上30以下であることが望ましい。ここで、D90は、累積粒度曲線において積算重量が90%となる粒子径を、D10は、同積算重量が10%となる粒子径である。D90/D10の値が30を超えると、粒度分布がブロードになるため、センサ本体の変形量に対する電気抵抗の増加挙動が不安定になる。これにより、検出の再現性が低下するおそれがある。D90/D10の値が10以下であるとより好適である。なお、導電性フィラーとして、二種類以上の粒子を使用する場合には、D90/D10の値は100以下であればよい。
【0097】
このような導電性フィラーとしては、例えば、カーボンビーズが好適である。具体的には、大阪ガスケミカル社製のメソカーボンマイクロビーズ[MCMB6−28(平均粒子径約6μm)、MCMB10−28(平均粒子径約10μm)、MCMB25−28(平均粒子径約25μm)]、日本カーボン社製のカーボンマイクロビーズ:ニカビーズICB、ニカビーズPC、ニカビーズMC、ニカビーズMSB[ICB0320(平均粒子径約3μm)、ICB0520(平均粒子径約5μm)、ICB1020(平均粒子径約10μm)、PC0720(平均粒子径約7μm)、MC0520(平均粒子径約5μm)]、日清紡社製のカーボンビーズ(平均粒子径約10μm)等が挙げられる。
【0098】
導電性フィラーは、エラストマー中に高充填率で配合されている。所望の導電性を発現させるため、導電性フィラーは、パーコレーションカーブにおける臨界体積分率(φc)以上の割合で配合されていることが望ましい。導電性フィラーを略単粒子状態でかつ高充填率で配合するという観点から、臨界体積分率(φc)は30vol%以上であることが望ましい。35vol%以上であるとより好適である。換言すれば、導電性フィラーの充填率は、センサ本体の全体の体積を100vol%とした場合の30vol%以上であることが望ましい。30vol%未満の場合には、導電性フィラーが最密充填に近い状態で配合されないため、所望の導電性が発現しない。また、センサ本体の弾性変形に対する電気抵抗の変化が緩慢になり、電気抵抗の増加挙動を制御することが難しくなる。35vol%以上であるとより好適である。反対に、導電性フィラーの充填率は、センサ本体の全体の体積を100vol%とした場合の65vol%以下であることが望ましい。65vol%を超えると、エラストマーへの混合が困難となり、成形加工性が低下する。また、センサ本体が弾性変形しにくくなる。55vol%以下であるとより好適である。
【0099】
センサ本体には、上記エラストマー、導電性フィラーに加え、各種添加剤が配合されていてもよい。添加剤としては、例えば、架橋剤、加硫促進剤、加硫助剤、老化防止剤、可塑剤、軟化剤、着色剤等が挙げられる。また、上記球状の導電性フィラーと共に、異形状(例えば、針状等)の導電性フィラーが配合されていても構わない。
【0100】
センサ本体は、例えば、次のようにして製造することができる。まず、エラストマーに、加硫助剤、軟化剤等の添加剤を添加して、混練りする。続いて、導電性フィラーを加えて混練りした後、さらに、架橋剤、加硫促進剤を加えて混練りし、エラストマー組成物とする。次に、エラストマー組成物をシート状に成形し、それを金型に充填して、所定の条件下でプレス加硫する。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】本発明におけるセンサ本体の荷重印加前の導電パスを示す模式図である。
【図2】同センサ本体の荷重印加後の導電パスを示す模式図である。
【図3】エラストマー組成物におけるパーコレーションカーブの模式図である。
【図4】本発明の第一実施形態の境界センサが配置されたフェンスの正面図である。
【図5】支柱における同境界センサの取付部付近の斜視図である。
【図6】同境界センサの軸直方向断面図である。
【図7】第一実施形態における制御装置のブロック図である。
【図8】同制御装置の記憶部に格納されたマップの模式図である。
【図9】支柱における第二実施形態の境界センサの取付部付近の斜視図である。
【図10】同境界センサの軸直方向断面図である。
【図11】支柱における第三実施形態の境界センサの取付部付近の斜視図である。
【図12】同境界センサの軸直方向断面図である。
【図13】第四実施形態の境界センサの軸直方向断面図である。
【図14】第五実施形態の境界センサの断面斜視図である。
【図15】同境界センサの短手方向断面図である。
【図16】同境界センサの配線図(上面図)である。
【図17】同境界センサの非常時における短手方向断面図である。
【図18】第六実施形態の境界センサの断面斜視図である。
【符号の説明】
【0102】
1、1a、1b:境界センサ
2、2a、2b:センサ本体
3、3a、3b:電極 30、30a:導線
4、4a、4b:保護カバー(保護部材) 40:拘束リング
5:スペーサ 50:小孔 7a、7b:基板
8、8a:制御装置 80:ブリッジ回路 81:増幅回路 82a、82b:入力回路
83:演算部 84:記憶部 85:出力回路 86、86a:警報装置 87:風力計
9:フェンス(境界区画部材) 90:支柱 91:上胴縁 92:下胴縁
93:金網パネル 94:上方緩衝材 95:下方緩衝材
910:ブラケット 910a:大孔 910b:小孔
100:センサ本体 101:エラストマー 102:導電性フィラー
B:ブロック塀(境界区画部材) F:フェンス G:地面 H:家屋
L1:間隔 P:導電パス P1:導電パス
r1〜rn、rk:抵抗 R1〜R3:抵抗
ΔV:電位差 V1、V2:中間電位 Vin:電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エラストマーと、該エラストマー中に略単粒子状態でかつ高充填率で配合されている球状の導電性フィラーと、を有し、変形量が増加するに従って電気抵抗が増加する弾性変形可能なセンサ本体と、
該センサ本体に接続され、該電気抵抗を出力可能な電極と、
を備えてなり、
屋外において無許可の通過が禁止されている境界付近に配置され、該センサ本体の変形に基づく電気抵抗の変化から、該境界の通過を検知可能な境界センサ。
【請求項2】
前記境界には、無許可の通過を禁止する境界区画部材が配置され、
該境界区画部材に配置される請求項1に記載の境界センサ。
【請求項3】
前記センサ本体は、温度が上昇するに従って電気抵抗が増加する請求項2に記載の境界センサ。
【請求項4】
前記境界付近の地面に埋設される請求項1に記載の境界センサ。
【請求項5】
さらに、前記センサ本体が表出しないよう該センサ本体を被覆する保護部材を備える請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の境界センサ。
【請求項6】
前記センサ本体は長尺状を呈し、
前記電極は、該センサ本体の長手方向に沿って複数配置されている請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の境界センサ。
【請求項7】
前記センサ本体は、前記エラストマーと前記導電性フィラーとを必須成分とするエラストマー組成物からなり、
該エラストマー組成物の、該導電性フィラーの配合量と電気抵抗との関係を表すパーコレーションカーブにおいて、電気抵抗変化が飽和する第二変極点の該導電性フィラーの配合量(飽和体積分率:φs)が35vol%以上である請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の境界センサ。
【請求項8】
前記導電性フィラーの充填率は、前記センサ本体の全体の体積を100vol%とした場合の30vol%以上65vol%以下である請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の境界センサ。
【請求項9】
前記導電性フィラーは、カーボンビーズである請求項1ないし請求項8のいずれかに記載の境界センサ。
【請求項10】
前記導電性フィラーの平均粒子径は、0.05μm以上100μm以下である請求項1ないし請求項9のいずれかに記載の境界センサ。
【請求項11】
前記エラストマーは、シリコーンゴム、エチレン−プロピレン共重合ゴム、天然ゴム、スチレン−ブタジエン共重合ゴム、アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム、アクリルゴムから選ばれる一種以上を含む請求項1ないし請求項10のいずれかに記載の境界センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2008−217407(P2008−217407A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−53852(P2007−53852)
【出願日】平成19年3月5日(2007.3.5)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】