説明

多孔質シリコン層及びその作製方法

【課題】取り扱いの簡易な陽極化成処理液を用いたシリコン基板の多孔質シリコン層の作製方法を提供すること。
【解決手段】化成処理液に単結晶シリコン基板を浸漬し該基板を陽極として電流を流してシリコン基板表面に多孔質シリコン層を形成する陽極化成法であって、化成処理液としてフッ化アンモニュウムおよびフッ化カリウムのうち少なくとも1種、ならびに燐酸、硫酸および酢酸のうち少なくとも1種を含む水溶液を用いることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多孔質シリコン層の作製方法に関する。更に詳しくは、インクジェットヘッドなどに利用されるシリコン基板のマイクロマシニング技術において、シリコン基板に貫通孔(以下スルホール)を形成する際の犠牲層としての多孔質シリコン層の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔質シリコン層を作製する方法として、フッ酸含有水溶液中で白金を陰極としシリコン基板を陽極として電流を流す、いわゆる陽極化成法が公知であり光素子の形成に利用されている。特開平10−181032号公報においてシリコン基板にスルホールを形成する際の犠牲層としてフッ酸含有水溶液中で陽極化成を行なった多孔質シリコン層を使用している。
【特許文献1】特開平10−181032号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら上記従来例のフッ酸含有水溶液を用いて陽極化成を施し多孔質シリコン層を作製する場合、HFガスが発生することから取り扱いに注意を払う必要があった。本発明は上記の点に鑑み、取り扱いが比較的簡易な陽極化成処理液を用いた多孔質シリコン層の作製方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するため本出願にかかる発明は化成処理液に単結晶シリコン基板を浸漬し該基板を陽極として電流を流してシリコン基板表面に多孔質シリコン層を形成する陽極化成法であって、化成処理液としてフッ化アンモニュウムおよびフッ化カリウムのうち少なくとも1種、ならびに燐酸、硫酸および酢酸のうち少なくとも1種を含む水溶液を用いることを特徴とする。また、本発明にかかるシリコン基板は、上記陽極化成法により形成される多孔質シリコン層を有する単結晶シリコン基板である。
【0005】
さらに、本発明にかかるエッチング方法は、単結晶シリコン基板に異方性エッチングにより貫通孔を形成する方法であって、上記陽極化成法により、貫通孔のエッチング到達面となる領域に犠牲層となる多孔質シリコン層をシリコン基板に形成する工程を有することを特徴とする。また、本発明にかかるシリコン基板は、上記貫通項形成方法により貫通孔を形成した単結晶シリコン基板である。
【発明の効果】
【0006】
以上説明したように、本発明によれば、陽極化成法により多孔質シリコン層を作製する方法において化成処理液としてフッ化アンモニュウムおよびフッ化カリウムのうち少なくとも1種、ならびに燐酸、硫酸および酢酸のうち少なくとも1種を含む水溶液を用いることにより、多孔質シリコンを比較的簡易に作製することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明は、化成処理液に単結晶シリコン基板を浸漬し該基板を陽極として電流を流してシリコン基板表面に多孔質シリコン層を形成する陽極化成法であって、化成処理液としてフッ化アンモニュウムおよびフッ化カリウムのうち少なくとも1種、ならびに燐酸、硫酸および酢酸のうち少なくとも1種を含み、フッ化水素を加えずに調製された水溶液を用いることを特徴とする。
【0008】
上記構成の化成処理液において、フッ化アンモニュウムあるいはフッ化カリウムは陽極化成により多孔質シリコン層を形成するために必要となるフッ素イオンの供給源となり、これらのうち1種のみを使用する場合は、フッ化アンモニュウム濃度は0.1g/L〜400g/L、フッ化カリウム濃度は0.1g/L〜400g/Lであることが好ましい。これら2種のいずれも含有する場合は、総量の濃度が0.1g/L〜400g/Lの範囲にあることが好ましい。
【0009】
上記構成の化成処理液において、フッ化アンモニュウムあるいはフッ化カリウムを含有する水溶液に、燐酸、硫酸および酢酸のうち少なくとも1種を添加することにより陽極化成により多孔質シリコンを形成するために必要となるHFおよび水素イオンの供給源となる。上記酸のうち1種のみを添加して使用する場合は、燐酸濃度は0.1N〜15N、硫酸濃度は0.1N〜15N、酢酸濃度は0.1N〜5Nであることが好ましい。これらを2種以上含有する場合は、総量の濃度が0.1N〜5Nの範囲にあることが好ましい。
【0010】
上記構成の化成処理液においてはフッ素イオン、水素イオンは存在するものの、フッ酸含有水溶液に比べ会合により形成されるHFの量が他のイオンの存在により抑制される作用がある。これに対し従来の化成液(例えば、通常では20%〜40%のフッ化水素を含む)においては液中に存在するHFの量が多い。
【0011】
上記の陽極化成法により形成される多孔質シリコン層を有する単結晶シリコン基板は、多孔質層を犠牲層としてエッチングを行う場合に好適に用いることができる。
【0012】
また、上記陽極化成法は、これを一工程とするシリコン基板に貫通孔を形成する方法として好適に用いることができる。すなわち、本発明のシリコン基板の貫通孔形成方法は、単結晶シリコン基板に異方性エッチングにより貫通孔を形成する方法であって、貫通孔のエッチング到達面となる領域に犠牲層となる多孔質シリコン層をシリコン基板に形成する工程を有することを特徴とする。また、この方法により貫通孔を形成した単結晶シリコン基板およびこれを含む半導体装置を本願発明は包含する。
【実施例】
【0013】
以下図面に基づいて本発明による多孔質シリコン及びその製造方法の実施例を説明する。
【0014】
〔実施例1〕
図1は本発明の多孔質シリコン層を作製するための陽極化成装置の概略図である。図2は本発明の多孔質シリコンを犠牲層として用いたシリコン基板のスルホールの作製方法の工程を示す断面図である。
【0015】
基板厚みが500μmで結晶方位面が(100)のp型で電気抵抗率が0.1Ω・cmのシリコン基板4上にLPCVD(Low Pressure Chemical Vaper Deposition)法により窒化シリコン膜6を300nm成膜する。次いでフォトリソグラフィプロセスにより形成したフォトレジストをマスクとして窒化シリコン膜6をCF4ガスを用いて反応性イオンエッチングを行ない、次いでフォトレジストを剥離することにより図2(a)に示すようにシリコンを露出させた。次いで本発明の化成液を脱イオン水700gにフッ化アンモニュウム110gおよび85%の燐酸水溶液240gを添加し脱イオン水を加え全体を1Lとして作製した。次いで上記化成液を用い図1に示す陽極化成装置により白金板を陰極、シリコン基板を陽極とし、露出させたシリコンの面積を基準として電流密度10mA/cm2で5分間陽極化成を行ない多孔質シリコン層を形成した。本発明の化成液から発生したHFガスの濃度を表1に示す。HFガスの濃度の測定は検知管(フッ化水素検知管No17 ガステック社製)を用いて行なった。表1から明らかなように、本発明の化成液から発生するHFガスの量は極めて少ないため、基板の出し入れ等の作業を比較的簡易に行なうことが可能となった。次いで窒化シリコン膜6を除去した(図2(b))。次いでパッシベイション膜8および後工程にてシリコン基板4を裏面から結晶軸異方性エッチングする際のマスク層9となる窒化シリコン膜を基板表面および裏面にLPCVDによりそれぞれ500nm成膜した。次いで基板裏面のマスク層に、フォトリソグラフィプロセスにより形成したフォトレジストをマスクとして、CF4ガスを用いた反応性イオンエッチングを行なってシリコン面を露出させ次いでフォトレジストを剥離することによりマスク層9に図2(c)に示す裏面開口部10を形成した。次いでフォトレジストを剥離した後シリコン基板を濃度21%のTMAH(テトラメチルアンモニュウムヒドロキシド)水溶液にて液温度81℃で8時間結晶軸異方性エッチングし、裏面開口長D、表面開口長dのシリコン基板を形成した(図2(e))。
【0016】
図2(d)は結晶軸異方性エッチングの途中(4時間経過後)のシリコン基板の断面を示したもので、(111)の結晶面からなる面で囲まれたピラミッド状の溝が形成されている。更に結晶軸異方性エッチングを進めて行くと、犠牲層を形成しない場合の表面開口部は(111)面とパッシベイション膜8が接した部分となり表面開口長d0は図2(e)に示すように狭くなってしまう。これに対し本発明の多孔質シリコン犠牲層を用いた場合、結晶軸異方性エッチングが進行して多孔質シリコン層に達すると多孔質シリコン層は速やかに除去され、設計上所望の表面開口長dを形成し更に結晶軸異方性エッチングが進行し図2(e)に示す断面形状のシリコン基板が得られた。次いで基板裏面からCF4ガスを用いてパッシベイション膜の反応性イオンエッチングを行ない、スルホール11を形成した。
【0017】
以上説明したように本発明による多孔質シリコンを犠牲層として用いることにより好ましい形状のスルホールを持ったシリコン基板を作製することが出来た。
【0018】
〔実施例2〕
脱イオン水600gにフッ化カリウム175gおよび85%の燐酸水溶液240g及び酢酸60gを添加し脱イオン水を加え全体を1Lとした組成の化成液を用い、電流密度30mA/cm2で2分間陽極化成を行なって、本発明による多孔質シリコン犠牲層を形成した以外は実施例1と同様の方法によりシリコン基板にスルホールを形成した。これにより好ましい形状のスルホールを持ったシリコン基板を作製することが出来た。上記組成の化成液から発生したHFガスの濃度を表1に示す。表1から明らかなように、本発明の化成液から発生するHFガスの量は極めて少ないため、基板の出し入れ等の作業を比較的簡易に行なうことが可能となった。
【0019】
〔比較例〕
49%フッ酸1容量部にエタノール1容量部を添加した組成の化成液を用い、電流密度10mA/cm2で5分間陽極化成を行なって、公知の方法(従来例)による多孔質シリコン犠牲層を形成した以外は実施例1と同様の方法によりシリコン基板にスルホールを形成した。これにより好ましい形状のスルホールを持ったシリコン基板を作製することが出来た。上記組成の化成液から発生したHFガスの濃度を表1に示す。表1から明らかなように、従来例の化成液から発生するHFガスの量は極めて多いため、基板の出し入れ等の作業を行なう場合に注意を払う必要性が高い。
【0020】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の多孔質シリコン層を作製するための陽極化成装置の概略図である。
【図2】本発明の多孔質シリコンを犠牲層として用いたシリコン基板のスルホールの作製方法の工程を示す断面図である。
【符号の説明】
【0022】
1 陽極化成槽
2 化成液
3 白金板
4 シリコン基板
5 直流電源
6 窒化シリコン膜
7 多孔質シリコン層
8 パッシベイション層
9 マスク層
10 裏面開口部
11 スルホール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化成処理液に単結晶シリコン基板を浸漬し該基板を陽極として電流を流してシリコン基板表面に多孔質シリコン層を形成する陽極化成法であって、
化成処理液として、フッ化アンモニュウムおよびフッ化カリウムのうち少なくとも1種、ならびに燐酸、硫酸および酢酸のうち少なくとも1種を含む水溶液を用いることを特徴とする陽極化成法。
【請求項2】
前記フッ化アンモニュウム濃度が0.1g/L〜400g/Lであることを特徴とする請求項1に記載の陽極化成法。
【請求項3】
前記フッ化カリウム濃度が0.1g/L〜400g/Lであることを特徴とする請求項1に記載の陽極化成法。
【請求項4】
前記燐酸濃度が0.1N〜15Nであることを特徴とする請求項1に記載の陽極化成法。
【請求項5】
前記硫酸濃度が0.1N〜15Nであることを特徴とする請求項1に記載の陽極化成法。
【請求項6】
前記酢酸濃度が0.1N〜5Nであることを特徴とする請求項1に記載の陽極化成法。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の方法により形成される多孔質シリコン層を有する単結晶シリコン基板。
【請求項8】
単結晶シリコン基板に異方性エッチングにより貫通孔を形成する方法であって、
請求項1乃至6のいずれかに記載の方法により、貫通孔のエッチング到達面となる領域に犠牲層となる多孔質シリコン層をシリコン基板に形成する工程を有することを特徴とする、シリコン基板の貫通孔形成方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法により貫通孔を形成した単結晶シリコン基板。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−87108(P2010−87108A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−252783(P2008−252783)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】