説明

多層構造体

【解決課題】機能性樹脂から成る層がその機能を充分に発揮し得る位置に形成された多層構造体を提供することである。
【解決手段】熱可塑性樹脂から成る基材樹脂層及び機能性樹脂から成る機能性樹脂層を有する多層構造体において、前記機能性樹脂層が第一の機能性樹脂から成るシェル層で基材樹脂又は第二の機能性樹脂から成るコア層を被覆して成り、前記基材樹脂層が機能性樹脂層を内包する多層構造を有し、圧縮成形により成形されていることを特徴とする多層構造体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂から成る基材樹脂層及び機能性樹脂から成る機能性樹脂層を有する多層構造体に関し、より詳細には、バリア性や酸素吸収性等の機能性樹脂が効率よくその機能を発揮し得る層構造が形成されている多層構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
包装容器の分野では、耐熱性、バリア性、酸素吸収性等の機能を発現し得る種々の樹脂又は樹脂組成物が使用されており、これらの機能性樹脂は主に構造物の成形性等を確保するための基材樹脂と組み合わせで用いられている。
このような機能性樹脂としては、エチレンビニルアルコール共重合体等のガスバリア性樹脂や、エチレンビニルアルコール共重合体、ナイロン系樹脂及びオレフィン系樹脂から成る群より選ばれた樹脂基材に該樹脂基材よりも大きい酸素吸収速度を有する酸化性重合体と酸化触媒乃至酸化開始剤とを配合して成る酸素吸収性樹脂組成物等が知られている(特許文献1等)。
【0003】
このような機能性樹脂を容器や容器蓋に用いることも知られており、例えば、特許文献2には、相互に異なった合成樹脂から成形された第一の合成樹脂層と第二の合成樹脂層とを具備し、該第一の合成樹脂層が該第二の合成樹脂層の実質上全体を囲繞している多層構造圧縮成形物及びその製造方法が記載されており、第2の合成樹脂層としてガスバリア性樹脂が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−39475号公報
【特許文献2】特公平2−60499号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、機能性樹脂と基材樹脂等の他の樹脂との多層構造を有する容器蓋、容器等の多層構造体においては、機能性樹脂が有する優れた機能を充分に発揮し得る位置に機能性樹脂から成る層を位置させることが困難であった。
すなわち、前述した特許文献2等に示されるように、一般に食品用途に用いられる容器蓋等に機能性樹脂を用いる場合には、例えばエチレンビニルアルコール共重合体等のガスバリア性樹脂の場合では水分の影響を回避するため、或いは酸素吸収剤を含有する場合では食品に直接接触する箇所は回避するため等の理由から、機能性樹脂は構造壁の中心部に位置するように形成されているが、機能性樹脂が酸素吸収性樹脂等の場合には、厚肉の基材樹脂でその表面を覆われてしまうと、吸収すべき酸素が酸素吸収性樹脂から成る層に効率よく到達できず、効率よく酸素吸収性を発現することが困難になるという問題を生じる。
その一方、構造体の表面付近にまで機能性樹脂を存在させるために機能性樹脂の量を多くすれば、コストの点で問題になり、或いは機械的強度や成形加工性等が低下するおそれがある。
また、機能性樹脂から成る複数の層を組み合わせることによりその効果を高めることも行われているが、圧縮成形によりこれらの層を効率よく形成することは困難であった。
【0006】
従って、本発明の目的は、機能性樹脂から成る層がその機能を充分に発揮し得る位置に形成された多層構造体を提供することである。
本発明の他の目的は、機能性樹脂から成る層がその機能を充分に発揮し得る位置に形成された多層構造体を圧縮成形により効率よく形成し得る製造方法を提供することである。
本発明の更に他の目的は、複数の機能を有する多層構造体を圧縮成形により効率よく成形可能な製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、熱可塑性樹脂から成る基材樹脂層及び機能性樹脂から成る機能性樹脂層を有する多層構造体において、前記機能性樹脂層が第一の機能性樹脂から成るシェル層で基材樹脂又は第二の機能性樹脂から成るコア層を被覆して成り、前記基材樹脂層が機能性樹脂層を内包する多層構造を有することを特徴とする多層構造体が提供される。
本発明の多層構造体においては、
1.多層構造体が頂板部及び頂板部の周縁から垂下するスカート部とから成る容器蓋であって、少なくとも頂板部において前記多層構造が形成されていること、特に頂板部内面に容器蓋に用いた機能性樹脂とは異なる機能性樹脂から成る層を有する密封材が形成されていること、
2.多層構造体が口部、胴部及び底部から成るプリフォームであって、少なくとも胴部及び底部において、前記多層構造が形成されていること、
3.機能性樹脂が、ガスバリア性樹脂、酸素吸収性樹脂、環状オレフィン系樹脂、液晶ポリマーの何れかであること、
が好適である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、機能性樹脂から成る層がその機能を充分に発揮し得る位置に形成されていると共に、複数の機能を有する多層構造体を提供することが可能になる。
また、本発明によれば、機能性樹脂から成る層がその機能を充分に発揮し得る位置に形成されていると共に、複数の機能を有する多層構造体を圧縮成形により効率よく形成し得る製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】従来の多層構造体の一例である容器蓋を簡略化して示す側断面図。
【図2】本発明の多層構造体の一例である容器蓋を簡略化して示す側断面図。
【図3】本発明の多層構造体の製造方法に用いられる溶融樹脂塊の断面構造を示す図。
【図4】図3に示した溶融樹脂塊の製造工程を説明するための図。
【図5】図3に示した溶融樹脂塊を用いて、図2に示す容器蓋を成形する工程を簡略化して示す図。
【図6】図5に示した成形工程で成形された容器蓋の頂板部内面に密封材を成形する工程を簡略化して示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、熱可塑性樹脂から成る基材樹脂層及び機能性樹脂から成る機能性樹脂層を有する多層構造体において、前記機能性樹脂層が第一の機能性樹脂から成るシェル層で基材樹脂又は第二の機能性樹脂から成るコア層を被覆して成り、前記基材樹脂層が機能性樹脂層を内包する多層構造を有していることが重要な特徴である。
このように、機能性樹脂層が、第一の機能性樹脂から成るシェル層と、基材樹脂或いは第二の機能性樹脂から成るコア層からなり、シェル層がコア層を被覆する構造になっていると共に、基材樹脂層がこの機能性樹脂層を内包するように存在していることにより、構造体の表面付近に存在させることが可能となり、多層構造体に機能性樹脂が有する機能を有効に発現することが可能となるのである。
【0011】
また、本発明においては、機能性樹脂層のコア層として、シェル層を構成する第一の機能性樹脂とは異なる第二の機能性樹脂を用いることにより、多層構造体に多機能を付与することが可能となるのである。例えば、後述するように、第一の基材樹脂として酸素吸収性樹脂、第二の機能性樹脂としてガスバリア性樹脂を用いることにより、効率よく容器内部の残存酸素を吸収できると共に、容器蓋を通しての透過酸素を遮断することが可能となり、内容物の酸素による影響を極めて少なくすることが可能となるのである。
また、本発明においては、機能性樹脂層のコア層に基材樹脂を用いることもでき、この場合には、少量の機能性樹脂を効率的に多層構造体の表面付近に存在させることが可能となるのである。
【0012】
図1及び図2は、多層構造体の一例である容器蓋を簡略化して示す側断面図であり、容器蓋1は、頂板部2及びスカート部3から成っている。図1は従来の容器蓋、図2は本発明の容器蓋をそれぞれ示すものである。図1及び図2の容器蓋1においては、何れも頂板部2のほぼ全域及びスカート部3の一部に機能性樹脂から成る層4が基材樹脂5に内包された状態で存在しているが、図1に示す従来の基材樹脂と機能性樹脂から成る容器蓋においては、機能性樹脂から成る層4が頂板部2の中心部に位置しているのに対して、図2に示す本発明の容器蓋は、機能性樹脂が基材樹脂から成るコア層6を被覆するシェル層4として存在し、この機能性樹脂のシェル層4が基材樹脂層5に内包された状態に存在しているため、図1に示す従来の容器蓋よりも器壁の表面側に機能性樹脂から成る層4が位置していることが明らかである。
【0013】
上述した多層構造を有する本発明の多層構造体は、圧縮成形により成形することが好適であり、この際圧縮成形に供される溶融樹脂塊として、第一の機能性樹脂から成るシェル層で基材樹脂又は第二の機能性樹脂から成るコアを被覆して成る機能性樹脂塊を内部に有する溶融樹脂塊を用いることが重要である。このような構造を有する溶融樹脂塊を用いて圧縮成形することにより、かかる多層構造を維持した構造体を効率よく成形することが可能となるのである。
【0014】
図3は、本発明の多層構造体の製造方法に用いられる溶融樹脂塊10の断面構造を示す図であり、第一の機能性樹脂から成るシェル層11で、基材樹脂又は第二の機能性樹脂から成るコア層12を被覆し、この機能性樹脂層を基材樹脂13で内包した構造を有している。
また、本発明の多層構造体は、上述した第一の機能性樹脂から成るシェル層、基材樹脂又は第二の機能性樹脂から成るコア層、基材樹脂層のそれぞれの層間に、或いは任意の層間に接着層を形成することが、基材樹脂層と機能性樹脂層間の剥離を抑制する点で好ましい。
【0015】
図4は、図3に示す溶融樹脂塊の製造を説明するための図であり、圧縮成形装置における溶融樹脂のフィーダー部分20には、基材樹脂を供給する供給管21、第一の機能性樹脂を供給する供給管22、第二の機能性樹脂を供給する供給管23が形成されており、第一の機能性樹脂の供給管22及び第二の機能性樹脂の供給管23はピン24により溶融樹脂の流出口が開閉可能に形成されている。
【0016】
図4(A)〜(E)から判るように、溶融状態にある基材樹脂13は供給管21から連続的に供給されており、次いで、ピン24が矢印の方向に上昇することにより、第一の機能性樹脂の供給管22の流出口が開いて、基材樹脂13の内部に第一の機能性樹脂11が流入する(図4(B))。ピン24が更に矢印の方向に上昇することにより、第二の機能性樹脂12の供給管23の流出口が開き、第二の機能性樹脂12が、先に供給された第一の機能性樹脂11の内部に流入する。この際第二の機能性樹脂の流出により、第一の機能性樹脂の供給管22からの流出は停止した状態にある(図4(C))。
【0017】
次いで、ピン24が矢印の方向に下降することにより、第二の機能性樹脂の供給管23の流出口は閉じ、第一の機能性樹脂が再び流入する(図4(D))。更に、ピン24が矢印の方向に下降することにより、第一の機能性樹脂の供給管22の流出口も閉じられ、基材樹脂のみが供給されて、基材樹脂中に、第一の機能性樹脂から成るシェル層及び第二の機能性樹脂から成るコア層が形成された溶融樹脂流が形成される(図4(E))。この溶融樹脂流の基材樹脂だけが存在する部分をカッター等の切断手段で切断することにより、図3に示す構造の溶融樹脂塊が形成され、連続的に圧縮成形金型に供給することが可能となる。
尚、上述した第一の機能性樹脂から成るシェル層、基材樹脂又は第二の機能性樹脂から成るコア層、基材樹脂層のそれぞれの層間に、或いは上記層の任意の層間に接着層を形成する際は、図示しないが、接着層を構成する材料を供給する接着材供給管を、上記シェル層、コア層、基材樹脂層、或いは任意の層の樹脂供給管の間に設け、上記接着材供給管の流入口を、上述したピン24と同様のピン動作により開閉させて上記接着材を供給する。
【0018】
図5は、図3に示した溶融樹脂塊を用いて、図2に示す容器蓋を成形する工程を簡略化して示す図であり、図4に示す工程により製造された溶融樹脂塊10は、圧縮成形金型30内に溶融樹脂塊供給装置により供給され(図5(A))、次いで、雄型31が下降し、金型30と協働して、溶融樹脂塊10を容器蓋形状に圧縮した(図5(B))後、雄型31が上昇して金型30から離れ、容器蓋33が成形される(図5(C))。
【0019】
本発明においては、上記方法により成形された容器蓋の頂板部内面に、容器蓋を成形する溶融樹脂塊で用いた機能性樹脂とは異なる機能性樹脂を内部に有する溶融樹脂塊を供給して圧縮成形することにより、容器蓋内面に密封材を一体的に成形することができ、容器蓋に用いた機能性樹脂とは異なる機能性樹脂を用いることにより、容器蓋に多機能を付与することができるという利点がある。
図6は、図5に示した成形工程で成形された容器蓋の頂板部内面に、密封材を成形する工程を簡略化して示す図であり、図4に示す工程により製造された溶融樹脂塊40は、圧縮成形金型30内に位置する容器蓋33の頂板部41に供給され(図6(A))、次いで、密封材成形のための雄型42が下降し、金型30及び容器蓋33と協働して、溶融樹脂塊40を密封材形状に圧縮した図6(B))後、雄型42が上昇して金型30及び容器蓋33から離れて、密封材43が形成された容器蓋33が成形される(図6(C))。
【0020】
(層構成)
本発明の多層構造体においては、第一の機能性樹脂からなるシェル層、第二の機能性樹脂或いは基材樹脂から成るコア層から成る機能性樹脂層を基材樹脂が内包した層構造を有していることが重要な特徴である。
また、上述したように接着層を形成してもよい。
前記シェル層及びコア層の組み合わせとしては、これに限定されないが、次の組み合わせ(シェル/コア)、酸素吸収性樹脂/基材樹脂、酸素吸収性樹脂/ガスバリア性樹脂、酸素吸収性樹脂/環状オレフィン系樹脂、酸素吸収性樹脂/液晶ポリマー、ガスバリア性樹脂/基材樹脂、ガスバリア性樹脂/環状オレフィン系樹脂、ガスバリア性樹脂/液晶ポリマー、ガスバリア性樹脂/酸素吸収性樹脂、環状オレフィン系樹脂/基材樹脂、液晶ポリマー/基材樹脂等を例示することができる。
このような層構造を形成するために基材樹脂、第一の機能性樹脂、第二の機能性樹脂の割合は、多層構造体に付与する機能や、多層構造体の用途によって異なり、一概に規定できないが、図1に示したような容器蓋を作成する場合には、溶融樹脂塊の状態で、基材樹脂と機能性樹脂の重量比率が99:1乃至70:30の範囲にあることが好ましい。
【0021】
また、上述した製法により成形された密封材を有する容器蓋の場合においては、勿論これに限定されるものではないが、容器蓋に用いる機能性樹脂を、ガスバリア性樹脂、液晶ポリマー、環状オレフィン系樹脂の何れか或いはこれらの組み合わせとし、密封材には密封材を構成する基材樹脂の内部に酸素吸収性樹脂を含有させることが好適である。
すなわち、容器蓋においては、ガスバリア性樹脂を用いることにより外部からの透過酸素等を遮断でき、液晶ポリマーを用いることにより機械的強度が向上され、或いは環状オレフィン系樹脂を用いることにより外部からの水蒸気透過等を遮断することが可能となり、一方、密封材においては、酸素吸収性樹脂を用いることにより容器内部の残存酸素を有効に捕捉することが可能となるのであり、容器蓋及び密封材が有する機能が相俟って優れた特性を有する密封材付容器蓋を提供することが可能となるのである。
密封材を形成する溶融樹脂塊は、上述した溶融樹脂塊のような多層構造を形成してもよいが、機能性樹脂が基材樹脂内部に多分散された構造を形成したものでもよい。
【0022】
(基材樹脂)
本発明に用いることができる基材樹脂は、容器、容器蓋、ライナー等の密封材等に従来用いられていた全ての熱可塑性樹脂を用いることができる。
具体的には、溶融成形が可能であり且つ結晶化が可能なものであればよく、ポリオレフィン樹脂、熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂等の各種樹脂を挙げることができるが、特に、容器蓋及び密封材の形成に用いる場合にはポリオレフィン樹脂、プリフォームの形成に用いる場合には、熱可塑性ポリエステル樹脂を好適に使用できる。
【0023】
ポリオレフィン樹脂としては、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、線状超低密度ポリエチレン(LVLDPE)等のポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン−プロピレン共重合体、ポリブテン−1、エチレン−ブテン−1共重合体、プロピレン−ブテン−1共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン−1共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、イオン架橋オレフィン共重合体(アイオノマー)或いはこれらのブレンド物等が挙げられる。
ポリオレフィン樹脂は、メルトフローレート(MFR)が0.1乃至25g/10分の範囲にあることが押出性の点から好ましい。
【0024】
熱可塑性ポリエステル樹脂としては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等の熱可塑性ポリエステルや、これらのポリエステルとポリカーボネートやアリレート樹脂等のブレンド物を用いることができる。本発明においては、エステル反復単位の大部分(一般に80モル%以上、特に80モル%以上)がエチレンテレフタレート単位であり、ガラス転移点(Tg)が50乃至90℃、特に55乃至80℃であり、且つ融点(Tm)が200乃至275℃、特に220乃至270℃のポリエチレンテレフタレート(PET)系ポリエステルが好適である。
【0025】
また、PET系ポリエステルとしては、ホモポリエチレンテレフタレートが最適であるが、エチレンテレフタレート単位の含有量が上記範囲内にある共重合ポリエステルも好適に使用することができる。
かかる共重合ポリエステルにおいて、テレフタル酸以外の二塩基酸としては、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸;コハク酸、アジピン酸、セバチン酸、ドデカンジオン酸等の脂肪族ジカルボン酸;等の1種又は2種以上の組み合わせを例示することができ、エチレングリコール以外のジオール成分としては、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、1,6−ヘキシレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物等の1種又は2種以上が挙げられる。
【0026】
(機能性樹脂)
本発明に用いる機能性樹脂は、本発明の多層構造体に何らかの性能を付与するために用いられる上述した基材樹脂とは異なる樹脂を意味するものであり、具体的には、ガスバリア性樹脂、酸素吸収性樹脂、環状オレフィン系樹脂のような水蒸気バリア性に優れた樹脂、液晶ポリマーのように剛性、耐熱性等に優れた樹脂等を意味している。
【0027】
[ガスバリア性樹脂]
ガスバリア性樹脂の代表的なものとしては、エチレン−ビニルアルコール共重合体を挙げることができ、例えば、エチレン含有量が20乃至60モル%、特に25乃至50モル%のエチレン−酢酸ビニル共重合体を、ケン化度が96%以上、特に99モル%以上となるようにケン化して得られる共重合体ケン化物が好適である。このエチレン−ビニルアルコール共重合体(エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物)は、フィルムを形成し得るに足る分子量を有するべきであり、一般に、[フェノール/水]の重量比が85/15の混合溶媒中、30℃で測定して0.01dl/g以上、特に0.05dl/g以上の固有粘度を有することが望ましい。
【0028】
また、エチレン−ビニルアルコール共重合体以外のガスバリア性樹脂の例としては、例えば、ナイロン6、ナイロン6・6、ナイロン6/6・6共重合体、メタキシリレンジアジパミド(MXD6)、ナイロン6・10、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン13等のポリアミドを挙げることができる。これらのポリアミドの中でも、炭素数100個当りのアミド基の数が5乃至50個、特に6乃至20個の範囲にあるものが好適である。
これらのポリアミドもフィルムを形成するに足る分子量を有するべきであり、例えば、濃硫酸(濃度1.0g/dl)中、30℃で測定した相対粘度が1.1以上、特に1.5以上であることが望ましい。
【0029】
これらのポリアミドもフィルムを形成するに足る分子量を有するべきであり、例えば、濃硫酸(濃度1.0g/dl)中、30℃で測定した相対粘度が1.1以上、特に1.5以上であることが望ましい。
また、後述するように酸素吸収性樹脂組成物に、ポリアミドを使用する場合、末端アミノ基濃度が40eq/10g以上のポリアミド樹脂が、酸素吸収時の酸化劣化がないため望ましい。
【0030】
[酸素吸収性樹脂]
酸素吸収性樹脂としては、少なくとも酸化性有機成分及び遷移金属触媒(酸化触媒)から成る樹脂組成物を例示することができる。
酸化性有機成分及び遷移金属触媒を有する樹脂組成物は、酸化性有機成分及び遷移金属触媒のみから成るものであってもよいが、これら以外の樹脂を含むものであっても勿論よい。
酸化性有機成分及び遷移金属触媒と組み合わせで使用し得る樹脂としては、上述したオレフィン系樹脂やガスバリア性樹脂を挙げることができるが、特に、エチレンビニルアルコール共重合体やポリアミド樹脂(特に末端アミノ基濃度が40eq/10g以上のキシリレン基含有ポリアミド樹脂)を用いることが好適である。
【0031】
(i)酸化性有機成分
酸化性有機成分としては、エチレン系不飽和基含有重合体を挙げることができる。この重合体は、炭素−炭素二重結合を有しており、この二重結合部分や特に二重結合部に隣接したαメチレンが酸素により容易に酸化され、これにより酸素の捕捉が行われる。
このようなエチレン系不飽和基含有重合体は、例えば、ポリエンを単量体として誘導され、ポリエンの単独重合体、或いは上記ポリエンを2種以上組み合わせ若しくは他の単量体と組み合わせてのランダム共重合体、ブロック共重合体等を酸化性重合体として用いることができる。
ポリエンから誘導される重合体の中でも、ポリブタジエン(BR)、ポリイソプレン(IR)、天然ゴム、ニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)等が好適であるが、勿論、これらに限定されない。
【0032】
また、上述したエチレン系不飽和基含有重合体以外にも、それ自体酸化されやすい重合体、例えばポリプロピレン、エチレン・プロピレン共重合体、或いは末端アミノ基濃度が40eq/10g未満のポリメタキシリレンジアジパミド等も酸化性有機成分として使用することができる。
尚、成形性等の見地から、上述した酸化性重合体やその共重合体の40℃での粘度は1乃至200Pa・sの範囲にあることが好適である。
これらのポリエン系重合体は、カルボン酸基、カルボン酸無水物基、水酸基が導入された酸変性ポリエン重合体であることが好ましい。
これらの酸化性重合体、或いはその共重合体からなる酸化性有機成分は、酸素吸収性樹脂中で0.01乃至10重量%の割合で含有されることが好ましい。
【0033】
(ii)遷移金属系触媒
遷移金属系触媒としては、鉄、コバルト、ニッケル等の周期律表第VIII族金属が好適であるが、他に銅、銀等の第I族金属、錫、チタン、ジルコニウム等の第IV族金属、バナジウム等の第V族金属、クロム等の第VI族金属、マンガン等の第VII族金属等であってもよい。
遷移金属触媒は、一般に、上記遷移金属の低価数の無機塩、有機塩或いは錯塩の形で使用される。無機塩としては、塩化物等のハライド、硫酸塩等のイオウのオキシ塩、硝酸塩等の窒素のオキシ酸塩、リン酸塩等のリンオキシ塩、ケイ酸塩等を挙げることができる。有機塩としては、カルボン酸塩、スルホン酸塩、ホスホン酸塩等を挙げることができる。また、遷移金属の錯体としては、β−ジケトンまたはβ−ケト酸エステルとの錯体が挙げられる。
遷移金属系触媒は酸素吸収性樹脂中で、遷移金属原子の濃度(重量濃度基準)として100乃至3000ppmの範囲であることが好ましい。
【0034】
[その他の機能性樹脂]
本発明に好適に用いることができる機能性樹脂としては、上記ガスバリア性樹脂、酸素吸収性樹脂の他に、環状オレフィン系樹脂や液晶ポリマー等を挙げることができる。
環状オレフィン系樹脂は、一般に耐熱性、耐湿性、水蒸気バリア性等の諸特性が汎用熱可塑性樹脂に比して優れており、かかる環状オレフィン系樹脂を用いることにより、多層構造体に優れた特性を付与することが可能となる。
環状オレフィンとしては、従来より包装容器等に用いられていた従来公知の環状オレフィンを用いることができ、一般には、エチレン系不飽和結合とビシクロ環とを有する脂環族炭化水素化合物、いわゆるノルボルネン系モノマーを、公知の開環重合法により重合し、水素添加して得られる飽和重合体を挙げることができる。
また、環状オレフィン系樹脂としては、環状オレフィンの単独重合体の他、オレフィンと環状オレフィン との共重合体を用いることができる。オレフィンと環状オレフィン との非晶質乃至低結晶性共重合体(COC)が誘導されるオレフィンとしては、エチレンが好適であるが、他にプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1ーヘキセン、1−オクテン、3ーメチル1−ペンテン、1−デセン等の炭素数3乃至20のα−オレフィンが、単独或いはエチレンとの組み合わせで使用し得る。
好適な環状オレフィンとしては、三井石油化学株式会社から、APELの商品名で入手しうる。
【0035】
液晶ポリマーは、一般に剛性、耐熱性、バリア性等の諸特性が汎用熱可塑性樹脂に比して優れており、かかる液晶ポリマーを用いることにより多層構造体に優れた特性を付与することが可能となる。
液晶ポリマーとしては、従来公知のリオトロピック液晶ポリマーやサーモトロピック液晶ポリマー等の溶液或いは溶融状態で液晶性を示す高分子を用いることができる。
具体的には、(イ)芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオールと芳香族ヒドロキシカルボン酸とを反応させて得られたもの、(ロ)異種の芳香族ヒドロキシカルボン酸同士を反応させて得られたもの、(ハ)芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオールとを反応させて得られたもの、(ニ)ポリエチレンテレフタレート等のポリエステルに芳香族ヒドロキシカルボン酸を反応させて得られたもの、等を挙げることができるが、勿論これに限定されない。
【0036】
[接着層樹脂]
接着層としては、例えば酸変性ポリプロピレン、酸変性高密度ポリエチレン、酸変性低密度ポリエチレン、或いは酸変性エチレン−酢酸ビニル共重合体等の酸変性ポリオレフィンが挙げることができるが、勿論これに限定されない。
【0037】
(多層構造体)
本発明の多層構造体は、上述した容器蓋の他、容器、プリフォーム、密封材(ライナー材)等種々の形態をとることができる。
容器としては、前述した溶融樹脂塊を圧縮成形することにより直接成形することができ、カップ、トレイ等種々の形状のものに成形でき、少なくとも胴部及び底部において、前述した多層構造が形成されていればよい。
また、プリフォームとしては、容器口部、胴部及び底部から成るプリフォームであって、少なくとも胴部及び底部において、前述した多層構造が形成されていればよく、必要により口部を熱結晶化した後、二軸延伸ブロー成形等の延伸成形に付され、ボトル、カップ等に成形される。
更に、密封材としては、別途形成されたキャップシェルに適用可能な平板状等の形状のもの等を成形することができる。
【0038】
(成形条件)
本発明の多層構造体は、前述した多層構造を有する溶融樹脂塊を圧縮成形機に供給して圧縮成形する以外は、従来公知の圧縮成形法により成形することができる。
溶融樹脂の押出温度(ダイヘッドの温度)は、使用する樹脂の種類によっても相違するが、一般に基材樹脂の融点(Tm)を基準として、Tm+20℃乃至Tm+60℃の範囲にあるのが好ましい。上記範囲よりも低い温度では、剪断速度が大きくなりすぎで一様な溶融押出物を形成することが困難になる場合があり、一方上記範囲よりも高温では、樹脂の熱劣化の程度が大きくなると共に、ドローダウンが大きくなりすぎる傾向があるので好ましくない。
圧縮成形型の表面温度は溶融樹脂の固化が生じる温度であればよく、一般に10乃至50℃の温度範囲が適当である。
【実施例】
【0039】
[評価方法]
1.酸素透過量
内容量200ccのガラス容器の口頸部のネジ部に、窒素ガス雰囲気中でキャップを装着し、装着直後の容器内の酸素濃度をガスクロメーター[GC−3BT島津製作所(株)製]で測定した。
次いで、このキャップを装着した容器を、温度30℃、湿度80%の大気中に10日間放置後、同様に容器内の酸素濃度を測定し、この酸素濃度から10日間の酸素透過量を算出し、1日当たりの平均酸素透過量(cc/cap/day)を求めた。
【0040】
(実施例1)
キャップを形成する基材樹脂としてポリプロピレン樹脂(PP)、シェル層の第一の機能性樹脂としてエチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)、コア層として基材樹脂のポリプロピレン樹脂を用い、これらの樹脂を押出機により可塑化する共に図4に示す多層ダイシステムに供給し、基材樹脂と機能樹脂の重量比率が97:3の断面形状が図3に示す重量3gの多層溶融樹脂塊を形成した。
この多層溶融樹脂塊を、図5に示す金型キャビティ内に配置し、雄型で圧縮成形、冷却を行い、以下の寸法の図2に示すキャップを作成し、評価した。
高さ:20mm、口径:28mm、頂板部の平均厚み:2mm
シェル層の平均厚み:0.07mm、コア層の平均厚み:0.66mm
【0041】
(実施例2)
コア層の第二の機能性樹脂として環状オレフィンを用いた以外は、実施例1と同様のキャップを作成し、評価した。
【0042】
(比較例1)
コア層を形成せず、平均厚み0.14mmのエチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)から成る機能性樹脂層を、頂板部の厚みの中心部に形成した図1に示す多層構造のキャップとした以外は、実施例1と同様にキャップを作成し、評価した。
【0043】
(比較例2)
平均厚み0.14mmのエチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)から成る機能性樹脂層、平均厚み0.2mmの中間基材樹脂層、及び平均厚み0.3mmの環状オレフィンから成る機能性樹脂層を順次、上方から頂板部の厚みの中心部に形成した図1に示す多層構造のキャップとした以外は、実施例2と同様にキャップを作成し、評価した。
【0044】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の多層構造体は、バリア性や酸素吸収性等の機能性樹脂が効率よくその機能を発揮し得る層構造が形成されているため、これらの機能が要求される食品等の包装容器に好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0046】
1 容器蓋、2 頂板部、3 スカート部、4 機能性樹脂から成る層、5 基材樹脂、6 基材樹脂から成るコア層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂から成る基材樹脂層及び機能性樹脂から成る機能性樹脂層を有する多層構造体において、
前記機能性樹脂層が第一の機能性樹脂から成るシェル層で基材樹脂又は第二の機能性樹脂から成るコア層を被覆して成り、前記基材樹脂層が機能性樹脂層を内包する多層構造を有し、圧縮成形により成形されていることを特徴とする多層構造体。
【請求項2】
前記多層構造体が頂板部及び頂板部の周縁から垂下するスカート部とから成る容器蓋であって、少なくとも頂板部において前記多層構造が形成されている請求項1記載の多層構造体。
【請求項3】
前記頂板部内面に容器蓋に用いた機能性樹脂とは異なる機能性樹脂から成る層を有する密封材が形成されている請求項2記載の多層構造体。
【請求項4】
前記多層構造体が口部、胴部及び底部から成るプリフォームであって、少なくとも胴部及び底部において、前記多層構造が形成されている請求項1記載の多層構造体。
【請求項5】
前記機能性樹脂が、ガスバリア性樹脂、酸素吸収性樹脂、環状オレフィン系樹脂、液晶ポリマーの何れかである請求項1乃至4の何れかに記載の多層構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−64490(P2010−64490A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−254619(P2009−254619)
【出願日】平成21年11月6日(2009.11.6)
【分割の表示】特願2004−161647(P2004−161647)の分割
【原出願日】平成16年5月31日(2004.5.31)
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)
【Fターム(参考)】