説明

多気筒内燃機関の気筒間空燃比ばらつき異常検出装置

【課題】検出機会を増大することが可能な多気筒内燃機関の気筒間空燃比ばらつき異常検出装置を提供する。
【課題手段】本発明に係る装置は、内燃機関の運転状態に応じて吸気弁の作用角を変更する変更手段と、所定条件成立時にフューエルカットを実行するフューエルカット手段と、空燃比を所定の基準値よりもリッチに制御するリッチ制御手段と、作用角Sが所定値Sx以下であり、且つフューエルカットからの復帰直後にリッチ制御手段によってリッチ制御が行われているときに、気筒間空燃比ばらつき異常を検出する検出手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多気筒内燃機関の気筒間空燃比のばらつき異常を検出するための装置に係り、特に、多気筒内燃機関において気筒間の空燃比が比較的大きくばらついていることを検出する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、触媒を利用した排気浄化システムを備える内燃機関では、排気中有害成分の触媒による浄化を高効率で行うため、内燃機関で燃焼される混合気の空気と燃料との混合割合、すなわち空燃比のコントロールが欠かせない。こうした空燃比の制御を行うため、内燃機関の排気通路に空燃比センサを設け、これによって検出された空燃比を所定の目標空燃比に一致させるようフィードバック制御を実施している。
【0003】
一方、多気筒内燃機関においては、通常全気筒に対し同一の制御量を用いて空燃比制御を行うため、空燃比制御を実行したとしても実際の空燃比が気筒間でばらつくことがある。このときばらつきの程度が小さければ、空燃比フィードバック制御で吸収可能であり、また触媒でも排気中有害成分を浄化処理可能なので、排気エミッションに影響を与えず、特に問題とならない。
【0004】
しかし、例えば一部の気筒の燃料噴射系が故障するなどして、気筒間の空燃比が大きくばらつくと、排気エミッションを悪化させてしまい、問題となる。このような排気エミッションを悪化させる程の大きな空燃比ばらつきは異常として検出するのが望ましい。特に自動車用内燃機関の場合、排気エミッションが悪化した車両の走行を未然に防止するため、気筒間空燃比ばらつき異常を車載状態で検出することが要請されており(所謂OBD;On-Board Diagnostics)、最近ではこれを法規制化する動きもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−001861号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
空燃比ばらつき異常が発生すると空燃比センサの出力変動が大きくなる。そこでこの出力変動をモニタすることで、空燃比ばらつき異常を検出することが可能である。
【0007】
一般的には、ばらつき異常の有無に応じた出力変動の差が大きくなるように、エンジンの高負荷運転時に異常検出を行う。しかし、これだと検出タイミングが高負荷運転時に限定されてしまい、検出機会の減少を招いてしまう。
【0008】
そこで本発明は、以上の事情に鑑みて創案され、その目的は、検出機会を増大することが可能な多気筒内燃機関の気筒間空燃比ばらつき異常検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一の態様によれば、
多気筒内燃機関の運転状態に応じて吸気弁の作用角を変更する変更手段と、
所定条件成立時にフューエルカットを実行するフューエルカット手段と、
空燃比を所定の基準値よりもリッチに制御するリッチ制御手段と、
前記作用角が所定値以下であり、且つ前記フューエルカットからの復帰直後に前記リッチ制御手段によってリッチ制御が行われているときに、気筒間空燃比ばらつき異常を検出する検出手段と、
を備えたことを特徴とする多気筒内燃機関の気筒間空燃比ばらつき異常検出装置が提供される。
【0010】
好ましくは、前記検出手段は、前記作用角が前記所定値より大きく、且つ前記内燃機関の負荷が所定値以上であるときにも、前記ばらつき異常を検出する。
【0011】
あるいは好ましくは、前記検出手段は、前記作用角が前記所定値より大きく、前記内燃機関の負荷が所定値以上であり、且つ前記リッチ制御手段によってリッチ制御が行われているときにも、前記ばらつき異常を検出する。
【0012】
好ましくは、前記変更手段は、前記内燃機関の負荷が大きいほど前記作用角を大きくする。
【0013】
好ましくは、前記基準値はストイキである。
【0014】
好ましくは、前記検出手段は、排気通路に設けられた空燃比センサの出力変動に基づいて前記ばらつき異常を検出する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、検出機会を増大することができるという、優れた効果が発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態に係る内燃機関の概略図である。
【図2】触媒前センサおよび触媒後センサの出力特性を示すグラフである。
【図3】気筒間空燃比ばらつき度合いに応じた排気空燃比の変動を示すグラフである。
【図4】図3のU部に相当する拡大図である。
【図5】一般的なエンジンにおける高負荷運転時の触媒前センサ出力変動を示すタイムチャートである。
【図6】吸気弁のバルブリフト線図を示す。
【図7】作用角と空燃比の関係を示すグラフである。
【図8】車両走行試験時の各値の推移を示すタイムチャートである。
【図9】本実施形態のエンジンにおけるF/C復帰時リッチ制御中の触媒前センサ出力変動を示すタイムチャートである。
【図10】ばらつき異常検出処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づき説明する。
図1は、本実施形態に係る内燃機関の概略図である。図示されるように、内燃機関(エンジン)1は、シリンダブロック2に形成された燃焼室3の内部で燃料および空気の混合気を燃焼させ、燃焼室3内でピストンを往復移動させることにより動力を発生する。本実施形態の内燃機関1は自動車に搭載された多気筒内燃機関であり、より具体的には直列4気筒火花点火式内燃機関である。内燃機関1は#1〜#4気筒を備える。但し気筒数、形式等は特に限定されない。
【0018】
図示しないが、内燃機関1のシリンダヘッドには吸気ポートを開閉する吸気弁と、排気ポートを開閉する排気弁とが気筒ごとに配設されており、各吸気弁および各排気弁は、カムシャフトを含む動弁機構によって開閉駆動される。シリンダヘッドの頂部には、燃焼室3内の混合気に点火するための点火プラグ7が気筒ごとに取り付けられている。
【0019】
吸気弁用動弁機構には、吸気弁の開閉特性を変更するための可変バルブ機構21が採用されている。具体的には、クランクシャフトに対するカムシャフトの回転位相を変更することにより、全気筒の吸気弁の開閉タイミングを一律に変更する可変バルブタイミング機構が設けられる。また、カムシャフトの吸気カムと吸気弁の間に設けられた揺動機構の揺動量を変更することにより、全気筒の吸気弁のリフトと作用角を一律に且つ無段階で変更する可変バルブリフト機構が設けられる、これら可変バルブタイミング機構と可変バルブリフト機構により可変バルブ機構21が構成されている。なお、可変バルブタイミング機構と可変バルブリフト機構には周知の構造を採用できる。
【0020】
図示しないが、排気弁用動弁機構にも、排気弁の開閉特性を変更するための可変バルブ機構が採用されている。この可変バルブ機構は可変バルブタイミング機構のみで構成することができる。但し可変バルブリフト機構も含めて構成してもよい。
【0021】
各気筒の吸気ポートは気筒毎の枝管4を介して吸気集合室であるサージタンク8に接続されている。サージタンク8の上流側には吸気管13が接続されており、吸気管13の上流端にはエアクリーナ9が設けられている。そして吸気管13には、上流側から順に、吸入空気量を検出するためのエアフローメータ5と、電子制御式のスロットルバルブ10とが組み込まれている。吸気ポート、枝管、サージタンク8及び吸気管13により吸気通路が形成される。
【0022】
吸気通路、特に吸気ポート内に燃料を噴射するインジェクタ(燃料噴射弁)12が気筒ごとに配設されている。インジェクタ12から噴射された燃料は吸入空気と混合されて混合気をなし、この混合気が吸気弁の開弁時に燃焼室3に吸入され、ピストンで圧縮され、点火プラグ7で点火燃焼させられる。
【0023】
一方、各気筒の排気ポートは排気マニフォールド14に接続される。排気マニフォールド14は、その上流部をなす気筒毎の枝管14aと、その下流部をなす排気集合部14bとからなる。排気集合部14bの下流側には排気管6が接続されている。排気ポート、排気マニフォールド14及び排気管6により排気通路が形成される。
【0024】
排気管6の上流側と下流側にはそれぞれ三元触媒からなる触媒、すなわち上流触媒11と下流触媒19が直列に取り付けられている。上流触媒11の上流側及び下流側にそれぞれ排気ガスの空燃比を検出するための第1及び第2の空燃比センサ、即ち触媒前センサ17及び触媒後センサ18が設置されている。これら触媒前センサ17及び触媒後センサ18は、上流触媒11の直前及び直後の位置に設置され、排気中の酸素濃度に基づいて空燃比を検出する。このように上流触媒11の上流側の排気合流部に単一の触媒前センサ17が設置されている。
【0025】
上述の点火プラグ7、スロットルバルブ10、可変バルブ機構21及びインジェクタ12等は、制御手段としての電子制御ユニット(以下ECUと称す)20に電気的に接続されている。ECU20は、何れも図示されないCPU、ROM、RAM、入出力ポート、および記憶装置等を含むものである。またECU20には、図示されるように、前述のエアフローメータ5、触媒前センサ17、触媒後センサ18のほか、内燃機関1のクランク角を検出するクランク角センサ16、アクセル開度を検出するアクセル開度センサ15、その他の各種センサが図示されないA/D変換器等を介して電気的に接続されている。ECU20は、各種センサの検出値等に基づいて、所望の出力が得られるように、点火プラグ7、スロットルバルブ10、可変バルブ機構21、インジェクタ12等を制御し、点火時期、燃料噴射量、燃料噴射時期、スロットル開度、ならびに吸気弁の開閉タイミング、リフト及び作用角等を制御する。なおスロットル開度は通常アクセル開度に応じた開度に制御される。
【0026】
触媒前センサ17は所謂広域空燃比センサからなり、比較的広範囲に亘る空燃比を連続的に検出可能である。図2に触媒前センサ17の出力特性を示す。図示するように、触媒前センサ17は、排気空燃比に比例した大きさの電圧信号Vfを出力する。排気空燃比がストイキ(理論空燃比、例えばA/F=14.6)であるときの出力電圧はVreff(例えば約3.3V)である。
【0027】
他方、触媒後センサ18は所謂O2センサからなり、ストイキを境に出力値が急変する特性を持つ。図2に触媒後センサ18の出力特性を示す。図示するように、排気空燃比がストイキであるときの出力電圧、すなわちストイキ相当値はVrefr(例えば0.45V)である。触媒後センサ18の出力電圧は所定の範囲(例えば0〜1V)内で変化する。排気空燃比がストイキよりリーンのとき、触媒後センサの出力電圧はストイキ相当値Vrefrより低くなり、排気空燃比がストイキよりリッチのとき、触媒後センサの出力電圧はストイキ相当値Vrefrより高くなる。
【0028】
上流触媒11及び下流触媒19は、それぞれに流入する排気ガスの空燃比A/Fがストイキ近傍のときに排気中の有害成分であるNOx,HCおよびCOを同時に浄化する。この三者を同時に高効率で浄化できる空燃比の幅(ウィンドウ)は比較的狭い。
【0029】
そこで上流触媒11に流入する排気ガスの空燃比がストイキ近傍に制御されるように、空燃比制御(ストイキ制御)がECU20により実行される。この空燃比制御は、触媒前センサ17によって検出された排気空燃比を所定の目標空燃比であるストイキに一致させるような主空燃比制御(主空燃比フィードバック制御)と、触媒後センサ18によって検出された排気空燃比をストイキに一致させるような補助空燃比制御(補助空燃比フィードバック制御)とからなる。
【0030】
さて、例えば全気筒のうちの一部の気筒のインジェクタ12が故障し、気筒間に空燃比のばらつき(インバランス:imbalance)が発生したとする。例えば#1気筒が他の#2、#3及び#4気筒よりも燃料噴射量が多くなり、その空燃比が大きくリッチ側にずれる場合等である。このときでも前述の主空燃比フィードバック制御により比較的大きな補正量を与えれば、触媒前センサ17に供給されるトータルガスの空燃比をストイキに制御できる場合がある。しかし、気筒別に見ると、#1気筒がストイキより大きくリッチ、#2、#3及び#4気筒がストイキよりリーンであり、全体のバランスとしてストイキとなっているに過ぎず、エミッション上好ましくないことは明らかである。そこで本実施形態では、かかる気筒間空燃比ばらつき異常を検出する装置が装備されている。
【0031】
図3に示すように、気筒間空燃比ばらつきが発生すると、1エンジンサイクル間(=720°CA)での排気空燃比の変動が大きくなる。(B)の空燃比線図a,b,cはそれぞればらつき無し、1気筒のみ20%のインバランス割合でリッチずれ、及び1気筒のみ50%のインバランス割合でリッチずれの場合の、触媒前センサ17による検出空燃比A/Fを示す。見られるように、ばらつき度合いが大きくなるほど空燃比変動の振幅が大きくなる。
【0032】
ここでインバランス割合(%)とは、気筒間空燃比のばらつき度合いに関するパラメータである。即ち、インバランス割合とは、全気筒のうちある1気筒のみが燃料噴射量ズレを起こしている場合に、その燃料噴射量ズレを起こしている気筒(インバランス気筒)の燃料噴射量がどれくらいの割合で、燃料噴射量ズレを起こしていない気筒(バランス気筒)の燃料噴射量即ち基準噴射量からズレているかを示す値である。インバランス割合をIB、インバランス気筒の燃料噴射量をQib、バランス気筒の燃料噴射量即ち基準噴射量をQsとすると、IB=(Qib−Qs)/Qsで表される。インバランス割合IBが大きいほど、インバランス気筒のバランス気筒に対する燃料噴射量ズレが大きく、空燃比ばらつき度合いは大きい。
【0033】
空燃比ばらつき異常が発生すると触媒前センサ17の出力変動が大きくなるので、この特性を利用し、当該出力変動に基づいてばらつき異常を検出することが可能である。
【0034】
本実施形態では、空燃比センサ出力の変動度合いに相関するパラメータである出力変動パラメータを算出すると共に、この出力変動パラメータと、所定の判定値とに基づき、異常を検出する。
【0035】
以下に出力変動パラメータの算出方法を説明する。図4は図3のU部に相当する拡大図であり、特に1エンジンサイクル内の触媒前センサ出力の変動を簡略的に示す。触媒前センサ出力としては、触媒前センサ17の出力電圧Vfを空燃比A/Fに換算した値を用いる。但し触媒前センサ17の出力電圧Vfを直接用いることも可能である。
【0036】
図4(B)に示すように、ECU20は、1エンジンサイクル内において、所定のサンプル周期τ(単位時間、例えば4ms)毎に、触媒前センサ出力A/Fの値を取得する。そして今回のタイミング(第2のタイミング)で取得した値A/Fnと、前回のタイミング(第1のタイミング)で取得した値A/Fn-1との差ΔA/Fnの絶対値を次式(1)により求める。この差ΔA/Fnは今回のタイミングにおける微分値あるいは傾きと言い換えることができる。
【0037】
【数1】

【0038】
最も単純には、この差ΔA/Fnが触媒前センサ出力の変動を表す。変動度合いが大きくなるほど空燃比線図の傾きが大きくなり、差ΔA/Fnが大きくなるからである。そこで所定の1タイミングにおける差ΔA/Fnの値を出力変動パラメータとすることができる。
【0039】
但し、本実施形態では精度向上のため、複数の差ΔA/Fnの平均値を出力変動パラメータとする。本実施形態では、1エンジンサイクル内において、各タイミング毎に差ΔA/Fnを積算し、最終積算値をサンプル数Nで除し、1エンジンサイクル内の差ΔA/Fnの平均値を求める。そしてさらに、Mエンジンサイクル分(例えばM=100)だけ差ΔA/Fnの平均値を積算し、最終積算値をサイクル数Mで除し、Mエンジンサイクル内の差ΔA/Fnの平均値を求める。こうして求められた最終的な平均値を出力変動パラメータとし、以下「X」で表示する。触媒前センサ出力の変動度合いが大きいほど出力変動パラメータXは大きくなる。
【0040】
なお、触媒前センサ出力A/Fは増加する場合と減少する場合とがあるので、これら各場合の一方についてだけ上記差ΔA/Fnあるいはその平均値を求め、これを出力変動パラメータとしても良い。
【0041】
また、触媒前センサ出力の変動度合いに相関する如何なる値をも出力変動パラメータとすることができる。例えば、1エンジンサイクル内における触媒前センサ出力の最大ピークと最小ピークの差(所謂ピークトゥピーク; peak to peak)、または2階微分値の最大ピークまたは最小ピークの絶対値に基づいて、出力変動パラメータを算出することもできる。触媒前センサ出力の変動度合いが大きいほど、触媒前センサ出力の最大ピークと最小ピークの差は大きくなり、また2階微分値の最大ピークまたは最小ピークの絶対値も大きくなるからである。
【0042】
算出された出力変動パラメータXが所定の判定値以上であればばらつき異常ありと判定され、算出された出力変動パラメータXが判定値より小さければばらつき異常なし、即ち正常と判定される。
【0043】
ところで前述したように、一般的にはエンジンの高負荷運転時にばらつき異常検出が行われる。高負荷運転時には吸入空気量すなわち排気ガス流量が比較的多く、触媒前センサ17へのガス当たりが比較的強いため、ばらつき異常の有無に応じた出力変動の差が大きくなるからである。
【0044】
図5には、吸気弁用および排気弁用可変バルブ機構の無い、より一般的なエンジンにおいて高負荷運転時の触媒前センサ出力変動を調べた試験結果である。この場合、吸気弁および排気弁の開閉タイミング、リフトおよび作用角は一定である。(A)はエンジン回転数Ne(rpm)、(B)は負荷KL、(C)は触媒前センサの出力電圧Vf、(D)は当該出力電圧Vfを換算して得られる空燃比A/Fを示す。出力電圧Vfと空燃比A/Fは実質的に同じである。(B)〜(D)については正常時と異常時のデータが示してある。エンジン回転数Ne(rpm)はエンジン回転速度と同義である。
【0045】
(C)、(D)に示すように、正常時の波形には変動が見られないが、異常時の波形には変動が見られる。よって正常時と異常時の波形の相違に基づいてばらつき異常の有無を判断することができ、異常時の波形に基づいてばらつき異常を検出することができる。
【0046】
しかし、この方法だと検出タイミングが高負荷運転時に限定されてしまい、検出機会の減少を招いてしまう。検出機会確保の観点からは、高負荷運転時以外にも検出を行えるようにするのが好ましい。
【0047】
そこで本実施形態では、低負荷運転時、特にフューエルカット終了直後のリッチ制御中にもばらつき異常を検出する。これにより検出機会を増大し、検出機会をより多く確保することが可能である。
【0048】
フューエルカットとはインジェクタ12からの燃料噴射を停止する制御である。ECU20は、所定のフューエルカット条件が成立したときにフューエルカットを実行する。フューエルカット条件は、例えば、1)アクセル開度センサ15によって検出されるアクセル開度Acが略全閉であること、2)クランク角センサ16の出力に基づいて計算されるエンジン回転数Neが所定のアイドル回転数(例えば800rpm)より若干高い所定の復帰回転数(例えば1200rpm)以上であること、の二条件を満たしたときに成立する。
【0049】
復帰回転数以上でアクセル開度Acが略全閉になると、直ちにフューエルカットが実行され、エンジンおよび車両は減速される(減速フューエルカットの実行)。そしてエンジン回転数Neが復帰回転数を下回ると、フューエルカットが終了されると同時に燃料噴射が再開され(減速フューエルカットからの復帰)、同時にリッチ制御(F/C復帰時リッチ制御)が開始される。
【0050】
このリッチ制御とは、空燃比を所定の基準値、具体的にはストイキ(例えば14.6)よりもリッチ(例えば14.1)にする制御である。このときECU20は、目標空燃比をストイキよりもリッチな値に設定すると共に、燃料噴射量をエンジン運転状態によって定まる基準噴射量よりも増大すること、および吸入空気量をエンジン運転状態によって定まる基準空気量よりも減少することの少なくとも一方を行う。触媒前センサ17により検出された空燃比が目標空燃比に一致するよう燃料噴射量と吸入空気量の少なくとも一方をフィードバック制御する。
【0051】
リッチ制御を行う理由は、主に上流触媒11の性能を復活させるためである。すなわち、上流触媒11は酸素吸蔵能を有し、触媒内の雰囲気ガスがストイキよりリーンのとき過剰酸素を吸蔵し、NOxを還元浄化し、触媒内の雰囲気ガスがストイキよりリッチのとき吸蔵酸素を放出し、HCおよびCOを酸化して浄化するという特性を有する。
【0052】
フューエルカットの実行中は触媒に酸素が吸蔵され続ける。このとき触媒が吸蔵能一杯まで酸素を吸蔵してしまうと、フューエルカットから復帰した直後にそれ以上酸素を吸蔵できなくなり、NOxを浄化できなくなる虞がある。そこでリッチ制御を行って吸蔵酸素を強制的に放出させるのである。
【0053】
リッチ制御の最中は、多くの場合、エンジンがアイドルもしくは低負荷状態で運転されている。よってこのような運転状態で検出を行うことにより検出機会を増大することが可能である。
【0054】
ところで、吸気弁の作用角は、エンジン運転状態、特にエンジンの負荷に応じて変更される。この変更はECU20が可変バルブ機構21を制御することにより行う。当該作用角はエンジンの負荷が大きいほど大きくされる。
【0055】
他方、空燃比ばらつき異常の原因には、燃料が予定通り供給されていない燃料系異常の他に、空気が予定通り供給されていない空気系異常がある。そして空気系異常には、吸気弁の作用角が予定通りとなっていない作用角ずれが含まれる。
【0056】
さらに、本発明者らの研究結果によれば、吸気弁の作用角が比較的小さいとき、作用角の基準値からのずれに対応した空気量のずれにより、空燃比が基準値(ここではストイキ)から大きくずれることが判明した。
【0057】
図6には吸気弁のバルブリフト線図を示す。図中、線図aは、作用角がエンジン運転状態によって定まる基準値S0である場合を示す。これに対し、線図bは、作用角が基準値S0よりもαだけ大きい(S0+α)となっている場合を示す。また線図cは、作用角が基準値S0よりもαだけ小さい(S0−α)となっている場合を示す。αは例えば2.4°CAである。
【0058】
図7には作用角と空燃比の関係を示し、特に図6の線図b、cのように作用角が基準値S0に対し増大側および減少側にαだけずれているときの空燃比ずれの様子を示す。
【0059】
図中、Siは最小の作用角、特にアイドル時の作用角を示す。負荷が増大するにつれ、作用角SはSiから増大し、図の右側に移動していく。Sx以下の小作用角領域では、作用角増大ずれを起こしている場合の線図bと、作用角減少ずれを起こしている場合の線図cとが、それぞれ基準空燃比であるストイキ(=14.6)に対し、増大側(リーン側)および減少側(リッチ側)に大きく空燃比ずれを起こしているのが分かる。また作用角が小さいほど空燃比ずれ量が大きくなるのが分かる。
【0060】
線図bの場合、アイドル時の空燃比は約15.3であり、ストイキに対し最大の約+0.7ずれている。また線図cの場合、アイドル時の空燃比は約13.9であり、ストイキに対し最大の約−0.7ずれている。
【0061】
他方、作用角が大きくなるほど空燃比ずれ量は小さくなるのが分かる。Sxより大きい作用角領域では、線図bも線図cも、ストイキに対し若干空燃比ずれを起こしているだけである。
【0062】
このような特性があることから、一部気筒(特に1気筒)で作用角ずれを起こしている場合、小作用角時に全気筒間の空燃比ばらつきが生じ、触媒前センサ出力変動が生じる。さらに、触媒前センサ出力変動は空燃比がストイキよりもリッチである方が顕著に発生することも判明している。すなわち空燃比センサの特性上、ストイキ付近では空燃比変化に対する出力変化が出にくいことが判明している。
【0063】
そこで、作用角Sが所定値Sx以下であり、且つF/C復帰時リッチ制御中にばらつき異常を検出するようにしたのが本実施形態である。F/C復帰時リッチ制御中は、多くの場合アイドルもしくは低負荷運転中であり、作用角Sは所定値Sx以下である。そこでこの機会に検出を行うことで、検出精度を確保しつつ検出機会を増大することができる。
【0064】
また、F/C復帰時リッチ制御の機会を利用してばらつき異常検出を行うので、無駄なリッチ制御を行うことなく検出精度を向上できる。リッチ制御は燃費およびCO2排出量を悪化させるため、極力避けるべきである。
【0065】
なお、制御上は、実際の作用角ずれの有無に拘わらず、エンジン運転状態によって定まる基準作用角に全気筒の作用角を一律に合わせるようフィードフォワード制御が実行されることから、異常検出を行う条件は基準作用角が所定値Sx以下ということになる。
【0066】
加えて、本実施形態では、上述した一般的な高負荷運転時の異常検出も併せて行う。この高負荷運転時には通常作用角が所定値Sxより大きいことから、異常検出を行う条件は、基準作用角が所定値Sxより大きく、且つエンジン負荷が所定値以上ということになる。ここでエンジン負荷が所定値以上という条件は、具体的にはエアフローメータ5で検出された吸入空気量が所定値以上ということである。
【0067】
また、触媒前センサ出力変動は空燃比がストイキよりもリッチである方が顕著に発生するので、この高負荷運転時の異常検出時にもリッチ制御が併せて実行される。なお、このときのリッチ制御は省略することも可能である。
【0068】
本実施形態ではアイドルもしくは低負荷運転中に異常検出を実行できるので、仮に高負荷運転時に行う他の診断制御があった場合、これとの干渉を回避して異常検出を実行できる。すなわち、高負荷運転時の異常検出のみだと他の診断制御との干渉が生じて異常検出を行えない可能性があるが、本実施形態ではこれを防止できる。なお、エンジンの暖機完了前や各学習完了前などの大作用角運転時に高負荷運転時と同様の方法で異常検出を行うことも可能である。
【0069】
ところで、異常検出は出力変動パラメータXと判定値の比較によって行われ、異常と判定されたとき、空気系異常(特に作用角ずれ異常)と燃料系異常(特にインジェクタ異常)の少なくとも一方が原因である可能性がある。F/C復帰時リッチ制御中の異常検出は、特に空気系異常を検出するのに有利である。小作用角時の作用角ずれが大きな空燃比ずれを生じさせるからである。しかしながら、小作用角時には作用角ずれの空燃比ずれに対する感度が大きいので、燃料系に僅かでも異常があるとこれが重畳して大きなセンサ出力変動に至る可能性がある。従って、F/C復帰時リッチ制御中の異常検出は、燃料系異常の検出にも効果的であると考えられる。
【0070】
なお、大作用角時には作用角ずれの空燃比ずれに対する感度が小さくなるので、高負荷運転時の異常検出は主に燃料系異常の検出に有利であると考えられる。
【0071】
図8には、本実施形態のエンジンを搭載した車両の走行試験時の各値の推移を示す。(A)は車速Vv、(B)は作用角S、(C)は空燃比A/Fを示す。(C)において、破線は目標値、実線は触媒前センサ17による検出値を示す。
【0072】
高負荷運転時の異常検出は、例えば図中に楕円fで示されるような期間のうち、作用角が所定値Sxより大きく且つエンジン負荷が所定値以上(すなわち吸入空気量が所定値以上)となっているときに行われる。
【0073】
他方、F/C復帰時リッチ制御中の異常検出は、例えば図中に楕円gで示されるような期間のうち、作用角Sが所定値Sx以下で且つF/C復帰時リッチ制御中である期間Δt1に行われる。この期間Δt1では目標空燃比がストイキよりリッチな所定値とされており、リッチ制御が行われている。またこの期間Δt1の直前では減速フューエルカットが行われており、空燃比A/Fの検出値はリーン側の上限値に張り付いている。
【0074】
図9には、本実施形態のエンジンにおいて1気筒のみに作用角ずれが生じている場合にF/C復帰時リッチ制御中の触媒前センサ出力変動を調べた試験結果である。(A)はエンジン回転数Ne(rpm)、(B)は負荷KL、(C)は触媒前センサの出力電圧Vf、(D)は当該出力電圧Vfを換算して得られる空燃比A/F、(E)は作用角S、(F)は車速Vvを示す。(B)〜(D)については正常時と異常時のデータが示してある。
【0075】
図中、Δt1がF/C復帰時リッチ制御の期間に該当する。(C)、(D)に示すように、正常時の波形には変動が見られないが、異常時の波形には変動が見られる。よって正常時と異常時の波形の相違に基づいてばらつき異常の有無を判断することができ、異常時の波形に基づいてばらつき異常を検出することができる。
【0076】
図10には、ECU20が実行するばらつき異常検出処理のフローチャートを示す。
【0077】
まずステップS101では、吸気弁の作用角(特に基準作用角)Sが所定値Sxより大きいか否かが判断される。
作用角Sが所定値Sxより大きい場合、ステップS102に進んで、高負荷運転時に異常検出が実行される。
【0078】
他方、作用角Sが所定値Sx以下の場合には、ステップS103に進んで、F/C復帰時リッチ制御中に異常検出が実行される。
【0079】
以上、本発明の好適な実施形態を詳細に述べたが、本発明の実施形態は他にも様々なものが考えられる。例えば、吸気弁用動弁機構は少なくとも作用角を変更できるものであればよく、開閉タイミングおよびリフトを変更することは必須ではない。また作用角を段階的に変更するものであってもよい。フューエルカット実行条件も適宜変更が可能である。前記実施形態ではストイキを基準値として空燃比制御が行われたが、この基準値はストイキ以外とすることもできる。
【0080】
本発明の実施形態は前述の実施形態のみに限らず、特許請求の範囲によって規定される本発明の思想に包含されるあらゆる変形例や応用例、均等物が本発明に含まれる。従って本発明は、限定的に解釈されるべきではなく、本発明の思想の範囲内に帰属する他の任意の技術にも適用することが可能である。
【符号の説明】
【0081】
1 内燃機関(エンジン)
2 インジェクタ
11 上流触媒
17 触媒前センサ
20 電子制御ユニット(ECU)
21 可変バルブ機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多気筒内燃機関の運転状態に応じて吸気弁の作用角を変更する変更手段と、
所定条件成立時にフューエルカットを実行するフューエルカット手段と、
空燃比を所定の基準値よりもリッチに制御するリッチ制御手段と、
前記作用角が所定値以下であり、且つ前記フューエルカットからの復帰直後に前記リッチ制御手段によってリッチ制御が行われているときに、気筒間空燃比ばらつき異常を検出する検出手段と、
を備えたことを特徴とする多気筒内燃機関の気筒間空燃比ばらつき異常検出装置。
【請求項2】
前記検出手段は、前記作用角が前記所定値より大きく、且つ前記内燃機関の負荷が所定値以上であるときにも、前記ばらつき異常を検出する
ことを特徴とする請求項1に記載の多気筒内燃機関の気筒間空燃比ばらつき異常検出装置。
【請求項3】
前記検出手段は、前記作用角が前記所定値より大きく、前記内燃機関の負荷が所定値以上であり、且つ前記リッチ制御手段によってリッチ制御が行われているときにも、前記ばらつき異常を検出する
ことを特徴とする請求項1に記載の多気筒内燃機関の気筒間空燃比ばらつき異常検出装置。
【請求項4】
前記変更手段は、前記内燃機関の負荷が大きいほど前記作用角を大きくする
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の多気筒内燃機関の気筒間空燃比ばらつき異常検出装置。
【請求項5】
前記基準値はストイキである
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の多気筒内燃機関の気筒間空燃比ばらつき異常検出装置。
【請求項6】
前記検出手段は、排気通路に設けられた空燃比センサの出力変動に基づいて前記ばらつき異常を検出する
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の多気筒内燃機関の気筒間空燃比ばらつき異常検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−145054(P2012−145054A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−4852(P2011−4852)
【出願日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】