説明

多重管の接合方法及び多重管

【課題】 耐食性の低下が少ない多重管の接合方法及び多重管を提供する。
【解決手段】 2本の多重管1a、1bのそれぞれの一端面同士を接合する多重管の接合方法において、それぞれの多重管は低合金鋼からなる内管2a,2bと、内管の外周に配されたステンレス鋼からなる外管3a,3bとを備え、2本の多重管のそれぞれの一端面同士の間にアモルファスシートからなるインサート材を介在させた状態で、端面同士を突き合わせ、端面近傍を加熱してインサート材の融点以上かつ多重管の融点以下の温度に保持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多重管の接合方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
石炭ガス化炉複合発電(IGCC)のガス化炉の火炉壁管には、ガス化炉で生成した高温の石炭ガスに対して、耐食性を持たせるために、例えば低合金鋼からなる内管と、この内管と一体となるようにその外周に形成されたステンレス鋼からなる外管とからなる二重管(コンポジット管)が用いられている。
【0003】
前記内管を構成する低合金鋼は火炉壁管に強度を与える材料であり、さらにこの低合金鋼を高温の石炭ガスによる腐食から保護するために、外管の材料にはステンレス鋼が用いられている。ステンレス鋼は、Crを多く含むことにより耐食性を有している。
【0004】
従来、このような二重管の切り換え補修等において2本の二重管を長手方向に接合する場合には、TIG(ティグ)溶接による突き合わせ溶接が行われていた(例えば、特許文献1参照)。
図10〜図12は、二重管のTIG溶接による接合方法を説明する図である。
図10は、接合前の二重管の概略縦断面図である。接合される二重管1a,1bは、低合金鋼からなる内管2a,2bとステンレス鋼からなる外管3a,3bとから形成されている。二重管1a,1bの端面同士を突き合わせる部分には、外周側からV型開先51が形成されている。
【0005】
二重管1a,1b同士を接合するには、まず内管2a,2b同士が対向する領域に対し、低合金鋼用溶接材料からなるTIG溶加棒を用いてTIG溶接が行われる。続いて外管3a,3b同士が対向する領域に対し、ステンレス鋼用溶接材料からなるTIG溶加棒を用いてTIG溶接が行われる。接合後の二重管1a,1bの概略縦断面図を図11に示す。また、接合部Cの部分拡大図及びこの部分拡大図中の二重管1a,1bの厚さ方向におけるCr濃度の変化を表した概念的なグラフを図12に示す。図11及び図12に示すように、内管2a,2b同士の間には低合金鋼用溶接材料により形成された低合金鋼溶着金属部(以下、「溶着金属」は「溶金」と略す)52が形成され、外管3a,3b同士の間にはステンレス鋼用溶接材料により形成されたステンレス鋼溶金部53が形成されることにより、2本の二重管1a,1bが接合される。
【0006】
【特許文献1】特開2000−141044号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したTIG溶接による二重管の接合方法を行った場合、低合金鋼溶金部52とステンレス鋼溶金部53とが接する部分においては、それぞれの成分が他方の成分中に互いに拡散しているため、図12の部分拡大図に示すように、ステンレス鋼溶金部53中のCrが希釈されたCr希釈域Dが溶金幅と略等しい幅数mmで管円周全域にわたって生じる。そして、図12のグラフに示すように、二重管1a,1bの厚さ方向におけるステンレス鋼溶金部53のCr濃度は、外表面からCr希釈域Dにかけて不均一に減少する傾向となる。
【0008】
このCr希釈域Dでは、組織がマルテンサイト化し、溶接割れが発生しやすいという問題があった。
また、特に接合した二重管1a,1bが、上述したIGCCにおけるガス化炉の火炉壁管等である場合は、二重管1a,1bの外部が高温の石炭ガスなどの腐食環境に曝されるため、ステンレス鋼溶金部53の表面の健全部(Cr非希釈域)が腐食してCr希釈域Dが露出すると、腐食による減肉が一気に加速される。すなわち、Cr希釈部Dによって接合部Cの耐食性が低下するという問題があった。
【0009】
また、TIG溶接は、溶接材料(TIG棒)に起因するブローホールや融合不良といった溶接欠陥を生じやすいという問題があった。
さらに、TIG溶接による接合方法は、多数の管が密集した火炉壁管の補修等に適用する場合には施工性が良くないという問題があった。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、耐食性の低下が少ない多重管の接合方法及び多重管を提供することを目的とする。また本発明は、溶接欠陥の少ない多重管の接合方法及び多重管を提供することを目的とする。さらに本発明は、多数の管が密集した火炉壁管の補修等においても施工性の良い多重管の接合方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の多重管の接合方法は、以下の手段を採用する。
すなわち、本発明の多重管の接合方法は、2本の多重管のそれぞれの一端面同士を接合する多重管の接合方法であって、それぞれの多重管は低合金鋼からなる内管と、該内管の外周に配されたステンレス鋼からなる外管とを備え、前記2本の多重管のそれぞれの一端面同士の間にアモルファスシートからなるインサート材を介在させた状態で、該端面同士を突き合わせ、前記端面近傍を加熱して前記インサート材の融点以上かつ前記多重管の融点以下の温度に保持する方法である。
この方法によれば、薄いシート状のアモルファスシートをインサート材として用いることにより、上記加熱・保持の工程においてCr含有量が飽和しやすく、Cr希釈域が生じにくい。従って、インサート材がCr含有量の少ない低合金鋼用アモルファスシートであっても、接合部の耐食性の低下を抑えることができる。また、TIG溶接法で接合する場合のように複数の溶接材料を用いなくても、例えば低合金鋼用アモルファスシート1枚だけを溶接材料(インサート材)として用いても接合が可能なので、施工性がよい。さらに上記方法によれば、TIG溶接において溶接材料(TIG棒)が原因で発生するブローホールや融合不良といった溶接欠陥を生じにくい。
【0012】
上記低合金鋼用アモルファスシートとは、例えばCr含有量が2質量%以上3質量%以下のアモルファスシートである。
【0013】
また、接合部のCr含有量の飽和を補助するために、前記インサート材中のCr含有量を3質量%以上25質量%以下としてもよい。
この場合、接合部中のCr含有量がより完全に飽和されるので、高い耐食性が得られる。また、より短時間でCr含有量が飽和するので、加熱・保持時間を短縮することができる。
【0014】
上記発明において、加熱し保持する時間は、通常は180秒以上300秒以下、より好ましくは200秒以上300秒以下である。
Crの拡散を十分に行うためには180秒以上、より好ましくは200秒以上の加熱・保持が行われる。また300秒加熱・保持を行えばほぼ完全にCr含有量が飽和すると考えられるので、300秒を超えて加熱・保持を行っても、加熱・保持時間に応じたCr拡散効果はほとんど得られない。
【0015】
上記発明において、前記加熱及び保持は、高周波誘導加熱による前記多重管及びインサート材の自己発熱によるものとすることができる。
前記加熱及び保持に高周波誘導加熱を採用した場合、加熱温度及び保持温度の管理が容易である。また、溶接材料や溶接装置を取り回す必要がないので、作業性がよく、多数の管が密集した水冷壁管の補修等においても施工性が良い。また、高周波誘導加熱では、高周波電流の周波数に対応した浸透深さの部分において主に自己発熱がおこり、他の部分は熱伝導によって加熱されるので、耐食性が求められる外管の接合部分において加熱を優先し、Crの拡散を促進することができる。
【0016】
前記高周波加熱を行う場合、前記外管の厚さ以下となる浸透深さで高周波誘導加熱を行い、次いで前記内管に達する浸透深さで高周波誘導加熱を行ってもよい。
この場合、外管の加熱時間を長くすることでCrの拡散を促し、多重管の母材と同等の耐食性及び強度を有する接合部を得ることができる。
【0017】
上記発明において、前記2本の多重管のそれぞれの一端面同士の間に前記インサート材を介在させて突き合わせた突き合わせ部分近傍の外表面に、この突き合わせ部分を覆うようにステンレス鋼用アモルファスシートからなる被覆材を配してから前記加熱を行ってもよい。
この場合、インサート材による形成された接合部は、耐食性の高いステンレス鋼用アモルファスシートにより形成された溶金で覆われているので、接合部の耐食性がさらに向上する。
【0018】
また、上記発明において、前記インサート材は、前記内管の端面同士の間に配置される低合金鋼用アモルファスシートと、前記外管の端面同士の間に配置されるステンレス鋼用アモルファスシートとを有するものであってもよい。
この場合、内管及び外管の組成に近い組成のアモルファスシートがそれぞれインサート材として選択されるので、内管の接合部における強度及び外管の接合部における耐食性は、それぞれ多重管の素管における内管の強度及び外管の耐食性と略同等とすることができる。
【0019】
上記発明において、前記多重管の接合部外周において、ステンレス鋼用溶接材料を用いてTIG溶接を行ってもよい。
この場合、インサート材により形成された接合部の外周は、耐食性の高いステンレス鋼用溶接材料によるTIG溶接で形成された溶金で覆われているので、Cr希釈域の大きさを最小限とし、接合部の耐食性を高めることができる。
【0020】
また本発明の多重管は、上記接合方法により接合された多重管である。
この接合された多重管は、接合部におけるCr希釈域が小さく、耐食性に優れている。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、耐食性の低下が少ない多重管の接合方法及び多重管を提供することができる。また本発明によれば、溶接欠陥の少ない多重管の接合方法及び多重管を提供することができる。さらに本発明によれば、多数の管が密集した水冷壁管の補修等においても施工性の良い多重管の接合方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に、本発明の多重管の接合方法にかかる実施形態について、図面を参照して説明する。
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態について、図1〜図4を用いて説明する。
本実施形態においては、IGCCの石炭ガス化炉において火炉壁管として用いられている二重管を切り換え補修する際に本発明の多重管の接合方法を適用する例について説明する。
【0023】
図1は、本実施形態の多重管の接合方法を示す概略外観図である。また、図2は、本実施形態の接合方法における接合時の二重管を示す概略断面図である。
接合される2本の二重管(多重管)1a,1bは、低合金鋼からなる内管2a,2bとステンレス鋼からなる外管3a,3bとから形成されている。内管2a,2bは、Crの含有量が2質量%以上3質量%以下の低合金鋼(例えば、JIS STBA24−2Cr)から形成されている。また、外管3a,3bは、Crの含有量が18質量%以上24質量%以下のステンレス鋼(例えば、JIS SUS310TB)から形成されている。
二重管1a,1bの大きさには特に制限はないが、本実施形態では、例えば、外径が38mm,内管2a,2b部分の厚さが4mm以上5mm以下、外管3a,3b部分の厚さが1mm以上1.5mm以下の二重管1a,1bが接合される。
本実施形態においては、二重管1a,1b同士の溶接される端面は、平滑なI形開先となっている。
【0024】
これら2本の二重管1a,1bは、液相拡散接合法により突き合わせ溶接される。
まず、図1に示すように、2本の二重管1a,1bの接合される端面同士を向かい合わせ、これら端面の間にアモルファスシート6からなるインサート材が配置される。アモルファスシート6は、二重管1a,1bの端面形状と略同じ外径及び内径を有するドーナッツ形状に裁断されており、二重管1a,1bの端面と略同心となる位置に配置される。
アモルファスシート6の厚さは、例えば10μm以上30μm以下の範囲とすることができる。アモルファスシート6は一枚の厚さがこの範囲であればよいが、2枚以上重ね合わせて前記の範囲の厚さとしても良い。
アモルファスシート6としては、低合金鋼の液相拡散接合法において通常用いられる市販のアモルファスシートを用いることができる。このアモルファスシート6は、内管2a,2bの低合金鋼とほぼ等しい組成を有し、さらに融点を下げる作用のあるホウ素(B)等の元素を2質量%以上3質量%以下程度含有する非晶質金属箔である。従って、アモルファスシート6のCr含有量は、内管2a,2bに用いられる低合金鋼と同様に、2質量%以上3質量%以下程度の範囲内とすることができる。このようなアモルファスシート6としては、例えば、Fe−2Cr−1Mo−0.3Si−2Co−2.7Bの組成を有するアモルファスシート(商品名:H2(No.24375)、日立金属(株)製)等を用いることができる。
【0025】
図1の状態から、アモルファスシート6を介して二重管1a,1bの端面同士が突き合わされて圧接される。このときの加圧は、0.3kgf/mm以上1kgf/mm以下が適している。
続いて、上記加圧状態を保ったまま、圧接された端面近傍を加熱する。加熱の際は、不活性ガスからなるシールドガスにより大気と遮断する。例えば、Arガスをシールドガスとして用い、これを50L/min以上流通する。加熱は、アモルファスシート6の融点より高く、かつ二重管1a,1bの構成材料である低合金鋼及びステンレス鋼の融点より低い温度、例えば1200℃以上1300℃以下の温度で行われる。
加熱方法は特に限定されないが、本実施形態においては、図1に示すように、二重管1a,1bの端面同士を突き合わせた部分の周囲に螺旋状に巻回するように配置された高周波加熱コイル8に、高周波電流を流すことにより、二重管1a,1bの端面近傍を加熱する、いわゆる高周波誘導加熱法が採用される。すなわち、高周波加熱コイル8に高周波電流を流すと、二重管1a,1b及びアモルファスシート6に誘導電流が流れるため、これらの抵抗によって二重管1a,1b及びアモルファスシート6の自己発熱が起こる。加熱温度が上記の設定範囲となるように、二重管1a,1bの表面温度が熱電対等の温度計によってモニターされ、その測定値に応じて高周波電流の出力が調節される。なお、本実施形態において、高周波電流の周波数は5Hz以上500Hz以下の範囲である。また、二重管1a,1bの長手方向に沿った高周波加熱コイル8の高さは、約20mmである。
【0026】
この加熱状態を180秒以上300秒以下、より好ましくは200秒以上300秒以下の時間保持する。この加熱状態を保持すると、はじめは二重管1a,1bは溶融せず、アモルファスシート6のみが溶融する。このとき、アモルファスシート6に含有するBは、二重管1a,1b中に拡散する。二重管1a,1bの端面付近は、Bが拡散したことにより一旦融点が下がり、溶融する。さらにBの拡散が進むと、B濃度が減少するため、融点が再び上がり、二重管1a,1bの端面同士を突き合わせた部分は凝固する。その後、加熱及び加圧を終了し、自然冷却する。必要に応じて、さらに高周波誘導加熱等により熱処理を行っても良い。こうして、二重管1a,1bの接合が完了する。
【0027】
図3は、本実施形態で用いられる接合装置の一例を示した概略斜視図である。
接合ヘッド部10の上下に取り付けられたクランプ部11a,11bによって二重管1a,1bのそれぞれを把持して、二重管1a,1bの端面同士が圧接される。また、接合ヘッド部10に取り付けられた高周波加熱コイル8には、高周波電源12から整合トランス13を介して高周波電流が供給される。加熱温度が設定温度となるように、温度計(熱電対)14によって二重管1a,1bの表面温度がモニターされ、その測定値に応じて高周波電源12の出力が自動調整される。
【0028】
本実施形態の接合方法によれば、低合金鋼用のアモルファスシート6しか用いなくても、ステンレス鋼からなる外管3a,3bをも接合することができる。その理由は、次の通りである。
図4は、図2に示した接合部Aの部分拡大図及びこの部分拡大図中の二重管1a,1bの厚さ方向におけるCr濃度の変化を表した概念的なグラフを示したものである。本実施形態において、上記加熱時には、ステンレス鋼からなる外管3a,3bに含まれるCrは、よりCr含有量の低い低合金鋼用のアモルファスシート6中に拡散する。しかし、アモルファスシート6の厚さは10μm以上30μm以下と薄いため、アモルファスシート6中のCr含有量はすぐに飽和し、ステンレス鋼のCr含有量と略同じ値で均一になる。一方、外管3a,3b中のCr含有量は、ミクロ的には減少するが、アモルファスシート6が薄いため、Cr希釈域Bが生じたとしても、その幅は数十μmであり、従来のTIG法で接合を行った場合に生じるCr希釈域(図12におけるCr希釈域D)とその体積を比較すれば、無視できるレベルである。
【0029】
このように、本実施形態の多重管の接合方法によれば、Cr希釈域Bが無視できるレベルであるので、組織のマルテンサイト化が抑えられて接合部における溶接割れが発生しにくく、接合部の耐食性が向上する。また、TIG溶接を採用する場合のように低合金鋼用の溶接材料とステンレス鋼の溶接材料を用いる必要がなく、低合金鋼用のアモルファスシート6を1枚用いるだけで溶接できるので、作業性が向上する。さらに、ブローホールや融合不良といった、溶接材料(TIG棒)に起因する溶接欠陥を生じにくい。
【0030】
(第1実施形態の第1変形例)
以下、本発明の第1実施形態の第1変形例について、図5〜図6を用いて説明する。
本変形例では、第1実施形態の加熱工程において、高周波電流の周波数を変調させながら二重管1a,1bの加熱を行う。
図5は、金属(α鉄、γ鉄及び銅)の高周波誘導加熱を行った場合の周波数fと電流の浸透深さpの関係を示すグラフである。図5のグラフに示すように、一般に金属の高周波誘導加熱を行った場合、電流の浸透深さpと周波数fとは反比例の関係にある。この関係を式で表すと、次のようになる。
【0031】
【数1】

【0032】
p:高周波電流の浸透深さ(mm)
ρ:抵抗率(Ω・mm)
μ:透磁率
f:周波数(Hz)
【0033】
金属の管を外面側から誘導加熱する場合、浸透深さpの範囲で自己発熱の90%が発生する。本変形例では、この性質を利用して二重管1a,1bを接合することにより、外管3a,3bのステンレス鋼中のCr拡散を促し、十分な強度を有する健全な接合部を得る方法の一例を挙げて説明する。
【0034】
図6は、本変形例の二重管1a,1bの接合方法における時間毎の高周波周波数、管表面温度及び加圧力の変化の例をそれぞれ示したグラフである。
本変形例で接合される二重管1a,1bは第1実施形態のものと同様であり、アモルファスシート6及び接合装置も第1実施形態と同様のものが用いられる。また、接合条件についても以下に断りがないものについては第1実施形態と同様である。
まず、高周波電流の浸透深さpが外管3a,3bの厚さ以下となるような高い周波数設定(例えば、5kHzより高く500kHz以下の周波数)で加熱を開始し、例えば120秒以上180秒以下の間、外管3a,3bを自己発熱させる。この間、内管2a,2bは熱伝導により加熱される。
【0035】
前記加熱時間の最後に、例えば30秒以上60秒以下の時間をかけて、浸透深さpが内管2a,2bに到達するように、所定の周波数(例えば5kHz)になるまで段階的にまたは直線的に周波数を下げていき、内管2a,2bも自己発熱させる。前記所定の周波数に達したら、この周波数を例えば180秒以上300秒以下の時間保持して加熱を継続する。その後、加熱を終了し、自然冷却する。
加熱の際は、二重管1a,1bの表面温度がアモルファスシート6の融点より高く、かつ二重管1a,1bの融点より低い温度、例えば1200℃以上1300℃以下の温度に維持されるように、高周波電流の出力が調節される。また、加熱している間、二重管1a,1b同士を圧接する加圧力は、例えば0.3kgf/mm以上1kgf/mm以下の一定の値とする。
【0036】
上述のような方法で二重管1a,1bの加熱を行うことにより、ステンレス鋼からなる外管3a,3b側から低合金鋼からなる内管2a,2b側へと液相拡散が進行する。
本変形例では、外管3a,3bの加熱時間を長くすることでCrの拡散を促し、加圧力及び加熱温度(二重管1a,1bの表面温度)を管理することで、二重管1a,1bの母材と同等の強度及び耐食性を有する接合部を得ることができる。
【0037】
(第1実施形態の第2変形例)
第1実施形態の第2変形例においては、前記第1実施形態で用いた低合金鋼用のアモルファスシート6に代えて、Cr含有量が低合金鋼用アモルファスシートより多くステンレス鋼用アモルファスシートより少ないアモルファスシートをインサート材として用いて二重管1a,1bの接合を行う。
本変形例で接合される二重管1a,1bは第1実施形態のものと同様であり、接合装置も第1実施形態と同様のものが用いられる。また、接合条件についても第1実施形態と同様である。
【0038】
本実施形態で用いられるアモルファスシートのCr含有量は、内管2a,2b及び外管3a,3bのCr含有量に応じて適宜選択され、例えば3質量%以上25質量%以下の範囲から選択される。
【0039】
本変形例によれば、第1実施形態の場合と比べてCr含有量が外管3a,3bのステンレス鋼により近いので、接合部中のCr含有量がより完全に飽和される。従って、二重管1a,1bの接合部の耐食性をより高めることができる。また、より短時間でCr含有量が飽和するので、加熱・保持時間を短縮することができる。
【0040】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態について、図7を用いて説明する。
図7は、本実施形態の接合方法における接合時の二重管を示す概略断面図である。
本実施形態では、第1実施形態と同様に二重管1a,1bの接合される端面同士の間にアモルファスシート6をインサート材として配置する他に、二重管1a,1bの突き合わせ部分近傍の外表面に、この突き合わせ部分を覆うようにステンレス鋼用アモルファスシート20を被覆材として貼り付けて接合が行われる。
ステンレス鋼用アモルファスシート20は、外管3a,3bのステンレス鋼とほぼ等しい組成を有し、さらに融点を下げる作用のあるホウ素(B)等の元素を2質量%以上3質量%以下程度含有する非晶質金属箔である。従って、アモルファスシート20は、Crを18質量%以上24質量%以下程度含有している。
本実施形態で接合される二重管1a,1bは第1実施形態のものと同様であり、低合金鋼用のアモルファスシート6及び接合装置も第1実施形態と同様のものが用いられる。また、接合条件についても第1実施形態と同様である。
【0041】
本実施形態の接合方法によれば、インサート材として用いられる低合金鋼用アモルファスシート6による接合部の外表面近傍でCr濃度希釈部分が生じても、低合金鋼用アモルファスシート6による接合部はステンレス鋼用アモルファスシート20により形成された溶金で覆われているので、接合部の耐食性がさらに向上する。
【0042】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態について、図8を用いて説明する。
図8は、本実施形態の接合方法における接合時の二重管を示す概略断面図である。
本実施形態では、第1実施形態のアモルファスシート6に代えて、内管2a,2bの端面形状と略同形状に裁断された低合金鋼用アモルファスシート21を内管2a,2bの端面同士の突き合わせ部分に配置し、外管3a,3bの端面形状と略同形状に裁断されたステンレス鋼用アモルファスシート22を外管3a,3bの端面同士の突き合わせ部分に配置して、それぞれのアモルファスシート21,22をインサート材として用いて接合を行う。
前記低合金鋼用アモルファスシート21としては、第1実施形態でインサート材として用いたアモルファスシート6と同様のものが用いられる。また、前記ステンレス鋼用アモルファスシート22は、外管3a,3bのステンレス鋼とほぼ等しい組成を有し、さらに融点を下げる作用のあるホウ素(B)等の元素を2質量%以上3質量%以下程度含有する非晶質金属箔である。従って、アモルファスシート20は、Crを18質量%以上24質量%以下程度含有している。前記低合金用アモルファスシート21及びステンレス鋼用アモルファスシート22の厚さは、いずれも約10μm以上30μm以下の範囲である。
本実施形態で接合される二重管1a,1bは第1実施形態のものと同様であり、接合装置も第1実施形態と同様のものが用いられる。また、接合条件についても第1実施形態と同様である。
本実施形態によれば、内管2a,2b及び外管3a,3bの組成に近い組成のアモルファスシート21,22がそれぞれインサート材として選択されるので、内管2a,2bの接合部における強度及び外管3a,3bの接合部における耐食性は、二重管1a,1bの素管における内管2a,2bの強度及び外管3a,3bの耐食性と略同等となる。
【0043】
なお本実施形態における接合条件については、第1実施形態の第1変形例と同様に、最初は高周波電流の浸透深さが外管3a,3bの厚さ以下となるような高い周波数設定で加熱を行い、次に浸透深さが内管2a,2bに達するような周波数設定で加熱を行うようにしても良い。この場合、低合金鋼用アモルファスシート21及びステンレス鋼用アモルファスシート22の各材料に合わせて、最適な加熱時間を設定することが可能となる。
【0044】
(第4実施形態)
本発明の第4実施形態について、図9を用いて説明する。
図9は、本実施形態の接合方法における接合時の二重管を示す概略断面図である。
本実施形態では、外径が第1の実施形態で用いたアモルファスシート6の外径(二重管1a、1bの外径)より小さく、内管2a,2bの外径より大きいドーナッツ形状の低合金鋼用アモルファスシート23が、二重管1a,1bの端面同士の間に、二重管1a,1bの端面と略同心となるように配置され、インサート材として用いられる。この低合金鋼用アモルファスシート23の厚さ及び材質は、第1実施形態で用いたアモルファスシート6と同様である。また、二重管1a,1bの突き合わせ部分のうち、外管3a,3b部分にのみ、予め外周側からV形開先24が形成されている。但し、開先は、そのままI形の開先形状としても良い。
本実施形態において二重管1a,1b同士を接合するには、まず第1実施形態と同様の方法により、アモルファスシート23を溶融して液相拡散接合が行われる。
次に、V形開先24の位置において、ステンレス鋼用溶接材料を用いてTIG溶接を行う。
【0045】
本実施形態によれば、従来のTIG溶接と同等の耐食性が得られ、かつCr希釈域の大きさは最小限とすることができる。
【0046】
なお、上記に示した本発明の各実施形態においては、IGCCの石炭ガス化炉において火炉壁管として用いられている二重管を切り換え補修する際に本発明の多重管の接合方法を適用する例について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。従って、他の用途に用いられる管であっても、低合金鋼からなる内管と、ステンレス鋼からなる外管とを備えた管であれば本発明の接合方法を適用することができる。また、接合される管は二重管に限定されず、3層以上の構造を有する多重管であっても本発明の接合方法を適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】第1実施形態の多重管の接合方法を示す概略外観図である。
【図2】第1実施形態の接合方法における接合時の二重管を示す概略断面図である。
【図3】第1実施形態で用いられる接合装置の一例を示した概略斜視図である。
【図4】図2に示した接合部Aの部分拡大図及びこの部分拡大図中の二重管の厚さ方向におけるCr濃度の変化を表した概念的なグラフである。
【図5】金属の高周波誘導加熱を行った場合の周波数fと電流の浸透深さpの関係を示すグラフである。
【図6】第1実施形態の第1変形例による二重管の接合方法における時間毎の高周波周波数、管表面温度及び加圧力の変化の例をそれぞれ示したグラフである。
【図7】第2実施形態の接合方法における接合時の二重管を示す概略断面図である。
【図8】第3実施形態の接合方法における接合時の二重管を示す概略断面図である。
【図9】第4実施形態の接合方法における接合時の二重管を示す概略断面図である。
【図10】TIG溶接による接合前の二重管の概略縦断面図である。
【図11】TIG溶接による接合後の二重管の概略縦断面図である。
【図12】図11に示した接合部Cの部分拡大図及びこの部分拡大図中の二重管の厚さ方向におけるCr濃度の変化を表した概念的なグラフである。
【符号の説明】
【0048】
1a,1b 二重管(多重管)
2a,2b 内管
3a,3b 外管
6,21,23 低合金鋼用アモルファスシート
20,22 ステンレス鋼用アモルファスシート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2本の多重管のそれぞれの一端面同士を接合する多重管の接合方法であって、それぞれの多重管は低合金鋼からなる内管と、該内管の外周に配されたステンレス鋼からなる外管とを備え、
前記2本の多重管のそれぞれの一端面同士の間にアモルファスシートからなるインサート材を介在させた状態で、該端面同士を突き合わせ、
前記端面近傍を加熱して前記インサート材の融点以上かつ前記多重管の融点以下の温度に保持する多重管の接合方法。
【請求項2】
前記インサート材中のCr含有量が2質量%以上3質量%以下である請求項1に記載の多重管の接合方法。
【請求項3】
前記インサート材中のCr含有量が3質量%以上25質量%以下である請求項1に記載の多重管の接合方法。
【請求項4】
前記加熱し保持する時間が180秒以上300秒以下である請求項1から請求項3の何れかに記載の多重管の接合方法。
【請求項5】
前記加熱が、高周波誘導加熱による前記多重管及びインサート材の自己発熱によるものである請求項1から請求項4の何れかに記載の多重管の接合方法。
【請求項6】
前記外管の厚さ以下となる浸透深さで高周波誘導加熱を行い、次いで前記内管に達する浸透深さで高周波誘導加熱を行う請求項5に記載の多重管の接合方法。
【請求項7】
前記2本の多重管のそれぞれの一端面同士の間に前記インサート材を介在させて突き合わせた突き合わせ部分近傍の外表面に、この突き合わせ部分を覆うようにステンレス鋼用アモルファスシートからなる被覆材を配してから前記加熱を行う請求項1から請求項6のいずれかに記載の多重管の接合方法。
【請求項8】
前記インサート材が、前記内管の端面同士の間に配置される低合金鋼用アモルファスシートと、前記外管の端面同士の間に配置されるステンレス鋼用アモルファスシートとを有する請求項1及び請求項4から7のいずれかに記載の多重管の接合方法。
【請求項9】
前記多重管の接合部外周において、ステンレス鋼用溶接材料を用いてTIG溶接を行う請求項1から請求項6のいずれかに記載の多重管の接合方法。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれかに記載の多重管の接合方法により接合された多重管。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−50439(P2007−50439A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−238237(P2005−238237)
【出願日】平成17年8月19日(2005.8.19)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】