説明

安定同位体標識脂肪族アミノ酸、その標的蛋白質への組み込み方法並びに蛋白質のNMR構造解析方法

【課題】高分子量タンパク質、特に60kDaを超える高分子量タンパク質の構造解析を可能にする安定同位体標識脂肪族アミノ酸の組み合わせを提供すること。
【解決手段】アルギニン(Arg)、グルタミン(Gln)、グルタミン酸(Glu)、リジン(Lys)、メチオニン(Met)、プロリン(Pro)が、次の標識パターンを満たすことを特徴とする安定同位体標識アミノ酸の組み合わせ。
(b)一ヶ所以上のメチレン基のメチレン水素のうちの一つが重水素化され、一ヶ所以上のメチレン基の2つのメチレン水素の両方が重水素化されている、
(d)メチル基が存在する場合には、該メチル基の一つの水素を残して他は重水素化されているか、又は該メチル基が完全に重水素化されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は蛋白質のNMR構造解析に有用な安定同位体標識脂肪族アミノ酸、その標的蛋白質への組み込み方法並びに蛋白質のNMR構造解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
NMR法は、溶液中でのタンパク質の立体構造やその動きを原子レベルでの分解能で観測する現在唯一の方法である。このタンパク質の立体構造にもとづく研究は、大学や研究機関などの基礎研究分野のみならず、現在創薬などへの産業利用も盛んに行われている。しかしながらNMR法は、僅か20年ほど前に開発されたばかりの新しい技術であり、今後乗り越えなければならない壁をいくつも抱えている。それらの問題の1つに、NMR法が抱える分子量限界の問題がある(非特許文献1)。
NMR法によるタンパク質の構造決定において分子量の増大は、シグナル数の増大と急速な緩和によるシグナル強度の低下からシグナルの重なり合いを招き、特に分子量が2万を超えてくると誤りのない解析には熟練した技術が必要になってくる。
高度安定同位体標識タンパク質を用いた構造解析法「Stereo-Array Isotope-Labeling法(SAIL法)」は、タンパク質(SAILタンパク質)を徹底的な選択的重水素化により不要な1H-NMR構造情報を削減し、NMR構造解析に必要且つ十分な情報のみを残すことにより、測定・解析に要する時間を著しく短縮することを可能にした方法である。特許文献1及び2に記載の方法は、高精度で構造決定可能であるだけでなく、分子量限界を超えた分子量4万程度のタンパク質の高精度自動解析を可能にする技術である。今後は、60kDaを超える高分子量タンパク質や膜タンパク質の精密構造自動解析が可能な新しい技術の開発が求められている。
SAIL法では、タンパク質の重水素密度を効率的に向上させることにより、タンパク質の残余シグナル感度をさらに向上させ、分子量限界を従来の30kDaから40kDa以上に拡張させた(非特許文献2)。しかしながら60kDaを超える高分子量タンパク質の構造解析は、分子の運動性の低下によるシグナル線幅の増大やシグナル数増大によるシグナル同士の重なり合いのため、従来のSAILアミノ酸を適用しただけでは容易には解析することができない。また、膜タンパク質においては、タンパク質自体の分子量は大きくなくても脂質や界面活性剤の存在下で溶解させるために、実質的な分子量が大きくなりタンパク質の運動性が低下することから、NMRを用いた解析は高分子量タンパク質と同様に容易ではない。それらの理由により現在は薬剤開発の対象となる膜タンパク質や高分子量タンパク質の構造情報の取得手段の開発が待たれている。
【0003】
【特許文献1】国際公開WO03/053910A1公報
【特許文献2】国際公開WO2005/042469A1公報
【非特許文献1】Wuthrich K (1986), NMR of proteins and nucleic acids. Wiley, New York、Wuthrich K (1991), タンパク質と核酸のNMR-二次元NMRによる構造解析, 東京化学同人
【非特許文献2】Kainosho M, Torizawa T, Iwashita Y, Terauchi T, Ono M, Guntert P. Nature 2006; in press.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、高分子量タンパク質、特に60kDaを超える高分子量タンパク質の構造解析を可能にする安定同位体標識脂肪族アミノ酸の組み合わせを提供することを目的とする。
本発明は、高分子量タンパク質の構造解析を可能にする安定同位体標識アミノ酸の組み合わせを提供することを目的とする。
本発明は、安定同位体標識アミノ酸の標的蛋白質への組み込み方法を提供することを目的とする。
本発明は、安定同位体標識アミノ酸で構成される標的蛋白質の調製方法を提供することを目的とする。
本発明は、一層感度の向上した蛋白質のNMR構造決定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を達成するために、鋭意検討を重ねた結果、特許文献1に記載の水素原子を2つ有するメチレン基が2つ以上存在する安定同位体標識脂肪族アミノ酸における、一ヶ所以上のメチレン基のメチレン水素のうちの一つを重水素化(部分重水素化)し、一ヶ所以上のメチレン基の2つのメチレン水素の両方を重水素化(完全重水素化)したものを、安定同位体標識脂肪族アミノ酸として用いると、シグナルの重なり合いをさらに低減させることができ、上記課題を解決できるとの知見によりなされたものである。
すなわち、本発明は、安定同位体標識アミノ酸として、標的蛋白質を構成する全ての脂肪族アミノ酸が、次の標識パターンを満たすことを特徴とする安定同位体標識アミノ酸の組み合わせを提供する。
(a)水素原子を2つ有するメチレン基が1つ存在する場合には、メチレン水素のうちの一つが重水素化されている、
(b)水素原子を2つ有するメチレン基が2つ以上存在する場合には、一ヶ所以上のメチレン基のメチレン水素のうちの一つが重水素化され、一ヶ所以上のメチレン基の2つのメチレン水素の両方が重水素化されている、
(c)プロキラルなgem−メチル基が存在する場合には、一方のメチル基の全ての水素が完全に重水素化され、他方のメチル基の水素が部分重水素化されている、
(d)上記以外のメチル基が存在する場合には、該メチル基の一つの水素を残して他は重水素化されているか、又は該メチル基が完全に重水素化されている、
(e)メチン水素は重水素化されている。
【0006】
本発明は、又、アルギニン(Arg)、グルタミン(Gln)、グルタミン酸(Glu)、リジン(Lys)、メチオニン(Met)、プロリン(Pro)が、次の標識パターンを満たすことを特徴とする安定同位体標識アミノ酸の組み合わせを提供する。
(b)一ヶ所以上のメチレン基のメチレン水素のうちの一つが重水素化され、一ヶ所以上のメチレン基の2つのメチレン水素の両方が重水素化されている、
(d)メチル基が存在する場合には、該メチル基の一つの水素を残して他は重水素化されているか、又は該メチル基が完全に重水素化されている。
【0007】
本発明は、又、標的蛋白質を構成する脂肪族アミノ酸が、上記安定同位体標識脂肪族アミノ酸であり、標的蛋白質を構成する芳香族アミノ酸が、下記から選ばれる安定同位体標識芳香族アミノ酸であることを特徴とする標的蛋白質を構成する安定同位体標識アミノ酸の組み合わせを提供する。
式Aで表されるアミノ酸残基に結合するフェニル基の炭素原子が13Cであり、該フェニル基を構成する残り5つの炭素原子のうち2〜4個の炭素原子が12Cであり、これに重水素が結合し、残りの炭素原子が13Cであって、これに水素原子が結合していることを特徴とする安定同位体標識フェニルアラニン、
式Aで表されるアミノ酸残基に結合するフェニル基の炭素原子が13Cであり、該フェニル基のヒドロキシル基(OH基)に結合する炭素原子が12C又は13Cであり、該フェニル基を構成する残り4つの炭素原子のうち2〜4個の炭素原子が12Cであり、これに重水素が結合し、残りの炭素原子が13Cであって、これに水素原子が結合していることを特徴とする安定同位体標識チロシン、
式Aで表されるアミノ酸残基に結合するインドリル基の炭素原子が13Cであり、該インドリル基を構成する残り7つの炭素原子のうち1〜5個の炭素原子が12Cであり、これに重水素が結合し、残りの炭素原子が13Cであって、これに水素原子が結合しており、該インドリル基を構成するNH基の窒素原子が15N又は14Nであることを特徴とする安定同位体標識トリプトファン、及び
式Aで表されるアミノ酸残基に結合するイミダゾリル基の炭素原子が13Cであり、該イミダゾリル基を構成する残り2つの炭素原子の両方の炭素原子が13Cであってこれに水素原子が結合しているか、片方の炭素原子が12Cであってこれに重水素が結合しており、残りの炭素原子が13Cであって、これに水素原子が結合しており、該イミダゾリル基を構成する2つの窒素の1つが15Nであり残りが14Nであって、NH基を構成する水素原子が重水素ではないことを特徴とする安定同位体標識ヒスチジン。
*1C(X)(Y)−*2C(Z)(15NH)(*3COOH) - - - (A)
(式中、*1C、*2C及び*3Cは、それぞれ12C又は13Cを示し、X、Y及びZは、それぞれ水素原子又は重水素原子を示す。)
【0008】
本発明は、又、上記安定同位体標識アミノ酸の標的蛋白質への組み込み方法であって、該アミノ酸を添加した培養液を用いて微生物又は動植物細胞を培養し、標的タンパク質をコードする遺伝子を組み込むことを特徴とする安定同位体標識アミノ酸の標的蛋白質への組み込み方法を提供する。
本発明は、又、標的蛋白質を構成する全てのアミノ酸として上記安定同位体標識アミノ酸の組み合わせを用い、化学合成法により標的タンパク質を合成することを特徴とする標的蛋白質の合成方法を提供する。
本発明は、又、上記安定同位体標識脂肪族アミノ酸を標的蛋白質に組み込みNMRスペクトルを測定して構造解析することを含む蛋白質のNMR構造解析方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、次に示す効果が得られる。
(i) 本発明はタンパク質の精密構造決定に必要なNMR情報を更なる重水素化により一部失っている。しかしながら、失われたシグナルはデータベースを利用した推定から他の原子団のシグナルと重なりある確率の高いものであり、また近傍の原子団により構造情報が概ね補填可能なものを選択している。従って、本発明により、従来のSAIL法をそのままの適用することが困難な50kDaを超える高分子量タンパク質の立体構造をより正確に求めることが可能になる。
(ii) 膜タンパク質の立体構造を正確に求めることが可能になる
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明においては、(a)、(c)、(d)及び(e)を有する安定同位体標識脂肪族アミノ酸は、特許文献1に記載の方法により合成することができる。特許文献1の記載内容は、本明細書の記載に組み込まれるものとする。
(b)及び(d)を有する安定同位体標識アミノ酸であるアルギニン(Arg)、グルタミン(Gln)、グルタミン酸(Glu)、リジン(Lys)、メチオニン(Met)、プロリン(Pro)は、本明細書の実施例に記載の方法により容易に合成することができる。
式Aを有する安定同位体標識芳香族アミノ酸は、特許文献2に記載の方法により合成することができる。特許文献2の記載内容は、本明細書の記載に組み込まれるものとする。
以下に、(b)及び(d)を有する安定同位体標識アミノ酸であるアルギニン(Arg)、グルタミン(Gln)、グルタミン酸(Glu)、リジン(Lys)、メチオニン(Met)、プロリン(Pro)、及び安定同位体標識イソロイシン(Ile)、バリン(Val)、スレオニン(Thr)又はロイシン(Leu)について詳しく説明する。
例えば、BMRBデータベースから求めたリジン残基における各原子の化学シフト分布を図1に示す。図中、横軸は化学シフトを示し、縦軸はその原子がデータベース中に存在した数を示す。ここで用いたBMRBデータベース(http://www.bmrb.wisc.edu/)の統計分布(Seavey BR, Farr EA, Westler WM, Markley JL. J. Biomol. NMR 1991; 1: 217-236)に基づいて行った。この結果から、リジンのβ、γ、δプロトンは化学シフト値が近く(図1)、まれにシグナルのオーバーラップによりSAILタンパク質でさえそれぞれの帰属が困難になる場合があるため、リジンやアルギニンなどの長鎖アミノ酸残基側鎖のメチレンプロトンは位置選択的にCD2標識(完全重水素化)する方が好ましい。この標識法は、重水素化率が増加するためシグナル総数は減少するものの、少なくとも一方のNMR情報は得られるために全体構造はむしろ向上する。事実、本発明によりアミノ酸残基側鎖および全体の大まかな立体構造は、シミュレーション実験よりアミノ酸残基側鎖の一カ所以上のプロトンの位置情報が得られれば決定可能であることが証明された。また、α及びβ水素核は、タンパク質の精密な折れたたみ構造を決定する上で1Hであることが好ましく、長鎖アミノ酸残基側鎖の末端までの構造を精密に求めるためには、アミノ酸残基側鎖末端の水素核は1Hであることが好ましいことも示された。
【0011】
分岐鎖アミノ酸のメチンプロトンにおいては、従来法よりメチンプロトンのシグナル強度が弱いことから、高分子量タンパク質においては観測されないことが多くなることが予想されている。そこで、このメチンプロトンにおいては重水素化し、重水素化率の向上を図った。
また、炭素原子の標識に関しては、完全に重水素化された炭素原子は、13C及び/又は12Cに置換されているのがよいが、近傍の1Hの緩和の最適化を考慮し12Cであることが好ましい。
重水素化された後において、水素原子を持つメチレン基および/またはメチル基の炭素の全てが13Cに置換されているのが好ましい。
又、全ての炭素が13Cであるのが好ましく、β位のメチレン基の水素原子の一方が重水素化されているのが好ましい。
又、アミノ酸を構成する窒素原子の全て、或いは一部が15Nに置換されているのが好ましい。
安定同位体標識脂肪族アミノ酸として、好ましいものを下記一般式(1)〜(13)で示す。
【0012】
[化1]

[化2]

[化3]

[化4]

【0013】
[化5]

[化6]

[化7]

[化8]

【0014】
[化9]

[化10]

[化11]

[化12]

[化13]

(式中、炭素は12C又は13Cを示し、窒素は14N又は15Nを示し、Hは水素原子、Dは重水素原子を示す。)
【0015】
アルギニン(Arg)、グルタミン(Gln)、グルタミン酸(Glu)、イソロイシン(Ile)、ロイシン(Leu)、リジン(Lys)、メチオニン(Met)、プロリン(Pro)、スレオニン(Thr)、バリン(Val)における最も好ましい標識パターンは以下の通りである。なお、下記標識パターンにおいて側鎖立体選択的安定同位体標識の立体配置は特に規定はせず、R及びSのどちらでも良い。
【0016】
Arg


β位の水素はタンパク質の立体構造を決定する上で重要な距離情報を与えるため立体選択的な重水素標識が好ましい。
γ位は、β位の水素と重なり合う確率が高くβ位の水素の帰属を容易にする為には、γ位は完全に重水素化することが好ましい。また、プロトン情報を担わないこのγ位の炭素は12Cが好ましい。
δ位の水素はアルギニン残基側鎖の立体配座を決定する上で有効であるため立体選択的なモノ重水素標識が好ましい。
グアニジド基部分は同位体標識を施しても、施さなくても構わない。
【0017】
Gln、Glu


β位の水素はタンパク質の立体構造を決定する上で重要な距離情報を与えるため立体選択的な重水素標識が好ましい。
他の水素との重なり合いを防ぐため、及び隣接水素のシグナルを先鋭化するためにγ位の水素は完全に重水素化することが好ましい。またこのγ位の炭素は12Cが好ましい。
γ炭素付近の立体構造が正確に知りたい場合には、γ位に13CHDを持つ標識体が好ましい。この場合、β位は13CD212CD2、或いは12CD2の何れでも、またδ位は12C或いは13C、Glnのε位は14N或いは15Nの何れでもかまわない。
【0018】
Ile


β位の水素は線幅の増加により観測が困難である場合が多い。そのため重水素化によりシグナルを取り除いても、β位の四面体性を考慮すればγ2位のメチル基の位置情報があれば、β位の水素を重水素化したことに伴う情報の欠落をγ2位の13CD2Hシグナル、或いは/及びγ1位の13CHDシグナルで補うことができる。
何れの場合においても重水素のみを持つ炭素は12Cが好ましい。
δ位のメチル基は13CD2H標識が好ましい。
【0019】
Leu


β位のメチレンは立体選択的な重水素標識が好ましい。
重水素のみを持つ炭素は12Cが好ましい。
γ位の水素は線幅の増加により観測が困難である場合が多い。そのため重水素化によりシグナルを取り除いてもβ位の四面体性を考慮すればδ位の二つメチル基の内一方の位置情報があれば、構造精度は保てる。
δ位の二つのメチル基の内、一方を12CD3、他方を13CD2Hで立体選択的に標識することが好ましい。
【0020】
Lys


β位の水素はタンパク質の立体構造を決定する上で重要な距離情報を与えるため立体選択的な重水素標識が好ましい。
γ位及びδ位は、β位の水素との重なり合う確率が高く、β位の水素の帰属を容易にするためには完全に重水素化することが好ましい。またプロトン情報を担わないこれらの炭素は12Cが好ましい。
ε位の水素はリジン残基側鎖の立体配座を決定する上で有効であるため立体選択的な重水素標識が好ましい。
【0021】
Met


β位の水素は、タンパク質の立体構造を決定する上で重要な距離情報を与えるため立体選択的な重水素標識が好ましい。
γ位の水素は、他の水素との重なり合いを防ぐため、及び隣接水素のシグナルを先鋭化するために完全に重水素化することが好ましい。またこのβ位の炭素は12Cが好ましい。
ε位のメチル基はメチオニン残基側鎖の立体配座を決定する上で有効であるため13CD2H標識が好ましい。
【0022】
Pro


β位及びδ位の水素は、タンパク質の立体構造を決定する上で重要な距離情報を与えるため立体選択的な重水素標識が好ましい。
γ位は、他の水素との重なり合う確率が高く、他の水素の帰属を容易にするために完全に重水素化することが好ましい。またプロトン情報を担わないこの炭素は12Cが好ましい。しかしながら、γ位の炭素13Cの化学シフトはプロリン残基とその一つ手前(N末端側)残基とのペプチド結合のシス、トランス構造を反映するために、13CHDとし、δ位を12CD2としても良い。
【0023】
Thr


β位の水素シグナルに由来する構造情報は、β位の四面体性を考慮すればγ位メチル基を13CHD2に置換し、その情報を利用することにより代替できる。
β位を重水素化する場合には、β位の炭素は12Cが好ましい。逆に、γ位のメチル基を完全な重水素化する場合には、精密な構造決定に有用な構造情報を与えるために、β位は13CHであるのが好ましい。
【0024】
Val


β位の水素シグナルに由来する構造情報は、β位の四面体性を考慮すれば二つγ位メチル基の一方を13CHD2、他方を12CD2に立体選択的に置換し、その構造情報を利用することにより代替できる。
β位を重水素化する場合には、β位の炭素は12Cが好ましい。逆に、γ位の二つメチル基を同時に完全な重水素化する場合には、精密な構造決定に有用な構造情報を与えるために、β位は13CHであるのが好ましい。
【0025】
本発明では、標的蛋白質を構成するアミノ酸として上記安定同位体標識アミノ酸を用いて、無細胞蛋白質等合成を行って安定同位体標識アミノ酸で構成される標的蛋白質を調製し、そのNMRスペクトルを測定して蛋白質の構造解析することができるが、上記安定同位体標識脂肪族アミノ酸とともに、標的蛋白質を構成する芳香族アミノ酸として特許文献2に記載のものと組み合わせて用いるのが好ましい。
又、アルギニン(Arg)、グルタミン(Gln)、グルタミン酸(Glu)、イソロイシン(Ile)、ロイシン(Leu)、リジン(Lys)、メチオニン(Met)、プロリン(Pro)、スレオニン(Thr)、バリン(Val)以外の安定同位体標識脂肪族アミノ酸としては、特許文献1に記載のものを用いるのが好ましい。
代表的な安定同位体標識アミノ酸の化学構造を図2に示す。
NMRによる蛋白質の構造解析のために、安定同位体標識アミノを、標的とする蛋白質に組み込む。この際、標的蛋白質を構成するアミノ酸のうちで任意に選定した一つ、複数、或は全てをここで示すような立体構造情報の入手、NMRスペクトル解析を最も有効ならしめるパターンを有する本発明の安定同位体標識アミノ酸で置換することができる。しかしながら、標的蛋白質を構成する全ての脂肪族アミノ酸を、本発明の安定同位体標識脂肪族アミノ酸で置換し、さらに、標的蛋白質を構成する残りの全てのアミノ酸、すなわち、全ての芳香族アミノ酸も、上記安定同位体標識芳香族アミノで置換するのが好ましい。標的蛋白質を構成するアミノ酸を安定同位体標識アミノで置換することは、従来公知の方法、例えば、培養生物細胞を用いた通常の高発現蛋白質合成系(好ましくは無細胞蛋白質合成)、有機化学的・酵素化学的ペプチド・蛋白質合成手法、或は無細胞抽出液を用いる蛋白質調製法などの何れの手法を利用して行うことができる。
【0026】
NMRによるスペクトル測定や蛋白質の構造解析のための手法も様々であってよい。また、リガンド結合による構造変化部位の特定等も可能である。
いずれにしても、本発明で使用するアミノ酸は、様々な標識パターンを持つことに最大の特徴があり、それらが蛋白質に取り込まれた際には従来の手法によっては得ることが困難な蛋白質の立体構造解析が可能になるものである。
本発明では、特許文献1に記載の立体選択重水素化(Stereo-selective Deuteration,SSD)、位置選択重水素化(Regio-selective Deuteration, RSD)、立体整列重水素化(Stereo-array Deuteration,SAD)、プロトン濃度最小化(Proton-density Minimization, PDM)及びテーラー環移転(Tailored ring-labeling, TRL)を組み合わせることにより蛋白質の立体構造情報の取得に最適なアミノ酸をデザインすることができる。
本発明の蛋白質のNMR構造解析方法としては、標的蛋白質を構成する全てのアミノ酸が上記安定同位体標識アミノ酸で置換されてなる標的蛋白質の構造をNMRスペクトル測定により解析することを含む標的蛋白質のNMR構造解析方法が好ましい。
以下に、実施例として、様々な標識パターンを持つアミノ酸を用いて標識した蛋白質の調製と、それらのNMRスペクトルが、立体構造を入手する上でどのような優れた特徴を有するかに関して例示する。
もちろん、下記の実施例はこの出願の発明についての具体的な理解を得るための例示であって、これらの例示によってこの出願の発明が限定されることはない。
【実施例】
【0027】
実施例1 合成法とシミュレーション実験結果について
上記で述べた構造の精密さ、正確さの評価のため、ここでのシミュレーションは、以下の点に特に注目して解析を行った。
(1)本発明の脂肪族アミノ酸をタンパク質に取り込ませた際のNOE数の減少量の推定。
(2)距離情報の減少に伴う構造の精密さ、正確さへの影響。
(3)NOE数減少に伴う自動帰属への影響。
(1)及び(2)において、NOE数の減少は、シグナル間の重なりを直接軽減でき構造解析を容易にする一方で、構造決定に必要不可欠な距離情報の消失を招く可能性があるため、NOE数と構造精度との関係の検討が必須であった。(3)については、自動解析プログラムCYANAは、NOE解析に「各NOE間のつながりを頼りに解析をすすめる」アルゴリズム(Herrmann T, Guntert P, Wuthrich K. J. Mol. Biol. 2002; 319: 209-227)を採用しているため、NOE数の減少(密度の減少)、及びそれに伴うつながり情報の減少が、自動解析アルゴリズムにどのような影響を与えるか確認する必要があった。
【0028】
シミュレーションのモデルタンパク質としては、カルモジュリン(Babu YS, Bugg CE, Cook WJ. J. Mol. Biol. 1988; 204: 191-204)、LpxC脱アセチル化酵素(Whittington DA, Rusche KM, Shin H, Fierke CA, Christianson DW. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 2003; 100: 8146-8150)、OmpA(Pautsch A, Schulz GE. Nat. Struct. Biol. 1998; 5, 1013-1017)、以上3種類のタンパク質を採用した。カルモジュリンは、従来のSAIL法で高精度の構造解析がすでになされたタンパク質であり、SAILアミノ酸と本発明のアミノ酸の比較検討に最適であると考え採用した。LpxCタンパク質は、現在NMR法で90%以上の帰属がなされている最も高分子量のタンパク質で、(Coggins BE, Li X, McClerren AL, Hindsgaul O, Raetz CRH, Zhou P. Nat. Struct. Biol. 2003; 10: 645-651及びCoggins BE, McClerren AL, Jiang L, Li X, Rudolph J, Hindsgaul O, Raetz CRH, Zhou P. Biochemistry 2005; 44: 1114-112)化学シフトデータをそのままシミュレーションに適用できるためであり、OmpAタンパク質は、膜タンパク質のうちでNMR解析可能な範囲の分子量サイズであったため、それぞれ解析に採用した (Arora A, Abildgaard F, Bushweller JH, Tamm LK. Nat. Struct. Biol. 2001; 8: 334-338)。
【0029】
実際のシミュレーションでは、初めに、本発明の脂肪族アミノ酸個々についての構造解析への有効性を評価することとした。具体的には、1種類の脂肪族アミノ酸のみをSAILから本発明の脂肪族アミノ酸に変換したカルモジュリンタンパク質について構造解析シミュレーションを行い、タンパク質の正確さ、精密さとNOE減少数との関係を推定した。この計算では、NOEの減少量は、本発明の脂肪族アミノ酸1種類当たり6-216個であり、アミノ酸1つ当たりでは、6-21個であった。最も効率よくNOE数を減少させたアミノ酸は、リジンであり、アミノ酸1つ当たりおおよそ21個のNOEシグナルを減少させた。一方で、これらのRMSD値は従来のSAIL法と比較してわずか0.01-0.08Å程度の上昇にとどまった。この程度の上昇であれば、シグナルの重なりと線幅の減少による解析の効率化の効果で十分に補えるものと期待され、実際の実験では従来法より高解像度の構造決定が可能であると想定できる。
次に、本発明よりさらに重水素化率を上げたアミノ酸の構造解析への影響を調べるために、グリシン残基を除く19種類のアミノ酸すべてのH原子を2Hに置換したシミュレーションを実行した。この結果は、正確さ、精密さともにRMSD値は従来法よりかなり大きな値となった。このことは、本発明の脂肪族アミノ酸よりもさらに1H原子数を減少させると、構造の正確さ、精密さのいずれも著しい低下を招くことを示す。このことはまた、本発明の脂肪族アミノ酸が最小限度且つ最適に重水素化設計された試料であることを示している。
【0030】
最後に、カルモジュリン、LpxC、およびOmpAタンパク質に関して、すべての安定同位体標識アミノ(図2に記載)を適用した構造解析シミュレーションを行った。その結果を、表1、図3、4及び5に示す。
表1 ユニフォームラベル(UL), 従来のSAIL法 および 本発明のアミノ酸で解析されたカルモジュリン, LpxC およびOmpA タンパク質


a 主鎖原子N, Cα, C'においてCYANAが出力した20構造間の比較によって求めた。
b重原子(アミノ酸残基番号82-146 (カルモジュリン)、1-255 (LpxC)、および1-172 (OmpA))においてCYANAが出力した20構造間の比較によって求めた。
cCYANAが出力した20構造の平均とX線結晶構造の比較から求めた。
ここで、CYANAは、NMR自動構造解析ソフト(Guntert P. Prog. NMR Spectrosc. 2003; 43: 105-125、Guntert P, Mumenthaler C, Wuthrich K. J. Mol. Biol. 1997; 273: 283-298、Guntert P. Automated NMR structure calculation. In: NMR Techniques in Structural Biology - From Liquid to Solid State, Springer, New York. 2006)である。
【0031】
表1から分かるように、カルモジュリン、LpxCおよびOmpAいずれにおいても、本発明の脂肪族アミノ酸を用いたシミュレーションの主鎖のRMSD値は1Å以下であり、まだ十分な精度の構造が保持されている。また、X線結晶構造と比較したRMSD値でも、本発明の脂肪族アミノ酸を用いたシミュレーション結果は、従来のSAIL法とほぼ同等か、それより良い結果を示した。収束度においては、従来法より若干のRMSD値の上昇が見られたが、NOE数はユニフォームラベル試料と比べておおよそ半分近くまで減少している。ユニフォームラベル試料のシミュレーション上での収束度は極端に良いが、実際の実験では、約11000個(LpxC)や9000個(OmpA)のような膨大な数のシグナルを含むスペクトルの解析は、シグナル間の重なりによってほぼ不可能である推測される。一方、本発明の脂肪族アミノ酸適用によるわずかな精度低下は、NOE数の減少による解析の効率化によって、十分に補うことができるものであると考えられる。また、NOEの密度低下による自動解析への影響についても、CYANAプログラムは、すべてのNOEの94-96%のNOEを自動帰属したことから、本発明のアミノ酸における1H原子の減少であるならば、自動解析もまだ十分可能であることが示された。
【0032】
次に、SAILカルモジュリン中に本発明のアミノ酸を1種類置換した際の構造統計データを表2に示す。
表2

a 主鎖原子N, Cα, C'においてCYANAが出力した20構造間の比較によって求めた。
b重原子(アミノ酸残基番号82-146 (カルモジュリン)、1-255 (LpxC) および1-172 (OmpA))においてCYANAが出力した20構造間の比較によって求めた。
cCYANAが出力した20構造の平均とX線結晶構造の比較から求めた。
【0033】
以上の点から、シミュレーション結果の結論として、本発明のアミノ酸は、タンパク質の構造決定を行う上で最適な重水素化を実現するように設計されており、超高分子量タンパク質や膜タンパク質に適応した際も、正確かつ高精度の構造決定が自動解析システム上で十分に可能であることが示唆された。
同位体標識アミノ酸の合成
上記シミュレーション結果により、本発明で示した同位体標識脂肪族アミノ酸が超高分子量タンパク質や膜タンパク質に適していることが証明されたため、実際に下記に示す同位体標識アミノ酸を合成した。合成した化合物は、1H-NMRを用い重水素化した箇所のシグナルが消失していること、および13C-NMRを用いて重水素化された同位体シフトした炭素核が2Hとカップリングしていることを確認することにより同定した。
【0034】
実施例2 グルタミン酸の合成
文献 (M. Oba, et al., J. Org. Chem. 64, 9275, 1999) 記載の手法を用いて均一に13C標識したL−グルタミン酸から誘導した(2S,3S,4R)-〔1,2,3,4,5-13C5;2-15N;3,4-2H2〕グルタミン酸を重水素化塩酸中、加熱することにより(2S,3S)-〔1,2,3,4,5-13C5;2-15N;3,4,4-2H3〕グルタミン酸を合成した。
実施例3 リジンの合成
(2S,5S,6R)-〔1,2,3,4,5,6-13C6;2,6-15N2;3,4,4,5,5,6-2H6〕リジンの合成は、(2S,3S)-〔1,2,3,4,5-13C5;2-15N;3,4,4-2H3〕グルタミン酸を用いてPCT/JP02/13303に従い合成した。このときデヒドロヒスチジンの接触還元の際に重水素ガスを使用し、得られた(2S,5S,6R)-〔1,2,3,4,5,6-13C6;2,6-15N2;2,3,3,4,4,5,6-2H7〕リジンを軽水中ラセミ化し、光学分割することによりえられる。また、[化8]のリジンに関しても原料に[1,2,3,4,5-13C5;2-15N;3,4-2H]グルタミン酸を用いることにより合成可能である。
【0035】
実施例4 ロイシンの合成
(2S,3S,4S)-〔1,2,3,4,5-13C5;2-15N;3,4,5,5,5',5',5'-2H6〕ロイシンの合成は、PCT/JP02/13303及び文献 (M. Oba, et al., J. Org. Chem. 64, 9275, 1999) を参考に合成した。
【0036】
実施例5 メチオニンの合成
まず(2S,3R)-〔1,2,3,4,6-13C5;2-15N;3,4,4,6,6-2H4〕メチオニンの合成は、PCT/JP02/13303にしたがい、末端のアルデヒドの不斉還元をせずにSMe化することにより合成した。
【0037】
実施例6 プロリンの合成
文献記載の手法(M. Oba et al., J. Org. Chem. 64, 9275-9278, 1999)を均一に13C、15N標識したL−グルタミン酸から誘導し、δ位の不斉還元の段階をすべて重水素化試薬を用いて行うことにより合成した。また、[化10]のプロリンに関しては、原料に(2S,3S)- [1,2,3,4,5-13C5;2-15N;3,4,4-2H3]グルタミン酸を用いることにより合成可能である。
【0038】
実施例7 アルギニンの合成
(2S,4S,5R)-〔1,2,3,4,5-13C5;2,6-15N2;3,3,4,5-2H4〕アルギニンの合成は、(2S,3S)-〔1,2,3,4,5-13C5;2-15N;3,3-2H2〕グルタミン酸を用いてPCT/JP02/13303に従い合成した。また、[化1]のアルギニンに関しても原料に[1,2,3,4,5-13C5;2-15N;2,3,3,4,4-2H5]グルタミン酸を用いることにより合成可能である。
【0039】
実施例8 グルタミンの合成
(2S,3S)-〔1,2,3,4,5-13C5;2-15N;3,4,4-2H3〕グルタミンの合成は、(2S,3S)-〔1,2,3,4,5-13C5;2-15N;3,4,4-2H3〕グルタミン酸を用いてPCT/JP02/13303に従い合成した。
【0040】
実施例9 イソロイシン
イソロイシンは、下記合成経路に従い合成した。なお本合成の鍵となる化合物5は文献(Eur. J. Org. Chem. 2003, 4664-4678 )を参考に合成した。

【0041】
実施例10 スレオニン
スレオニンは、下記合成経路に従い合成した。

【0042】
実施例11 バリン
バリンは、下記合成経路に従い合成した。なお本合成の鍵となる化合物7は文献(Eur. J. Org. Chem. 2003, 4664-4678 )を参考に合成した。

【0043】
上記の方法で合成した同位体標識脂肪族アミノ酸の構造を以下に示す。


【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】BMRBデータベースから求めたリジン残基における各原子の化学シフト分布。横軸は化学シフトを示し、縦軸はその原子がデータベース中に存在した数を示す。
【図2】代表的な安定同位体標識アミノ酸の化学構造を示す。
【図3】従来のSAIL法(実験データ)および本発明のアミノ酸(シミュレーションデータ)を用いて構造決定したカルモジュリンタンパク質の構造を示す。(A)SAIL法(リボンモデル)、(B)SAIL法(バンドル構造)、(C)本発明のアミノ酸を用いた構造。
【図4】従来のSAIL法(実験データ)および本発明のアミノ酸(シミュレーションデータ)を用いて構造決定したLpxCタンパク質の構造を示す。(A)SAIL法(リボンモデル)、(B)SAIL法(バンドル構造)、(C)本発明のアミノ酸を用いた構造。
【図5】従来のSAIL法(実験データ)および本発明のアミノ酸(シミュレーションデータ)を用いて構造決定したOmpAタンパク質の構造を示す。(A)SAIL法(リボンモデル)、(B)SAIL法(バンドル構造)、(C)本発明のアミノ酸を用いた構造。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
安定同位体標識アミノ酸として、標的蛋白質を構成する全ての脂肪族アミノ酸が、次の標識パターンを満たすことを特徴とする安定同位体標識アミノ酸の組み合わせ。
(a)水素原子を2つ有するメチレン基が1つ存在する場合には、メチレン水素のうちの一つが重水素化されている、
(b)水素原子を2つ有するメチレン基が2つ以上存在する場合には、一ヶ所以上のメチレン基のメチレン水素のうちの一つが重水素化され、一ヶ所以上のメチレン基の2つのメチレン水素の両方が重水素化されている、
(c)プロキラルなgem−メチル基が存在する場合には、一方のメチル基の全ての水素が完全に重水素化され、他方のメチル基の水素が部分重水素化されている、
(d)上記以外のメチル基が存在する場合には、該メチル基が部分重水素化されているか、又は該メチル基が完全に重水素化されている、
(e)メチン水素は重水素化されている。
【請求項2】
アルギニン(Arg)、グルタミン(Gln)、グルタミン酸(Glu)、リジン(Lys)、メチオニン(Met)、プロリン(Pro)が、次の標識パターンを満たすことを特徴とする安定同位体標識アミノ酸の組み合わせ。
(b)一ヶ所以上のメチレン基のメチレン水素のうちの一つが重水素化され、一ヶ所以上のメチレン基の2つのメチレン水素の両方が重水素化されている、
(d)メチル基が存在する場合には、該メチル基が部分重水素化されているか、又は該メチル基が完全に重水素化されている。
【請求項3】
(f)重水素化された後において、水素原子を持つメチレン基および/またはメチル基の炭素の全てが13Cに置換されている、請求項1又は2記載の安定同位体標識アミノ酸の組み合わせ。
【請求項4】
(g)完全に重水素化されたメチレン基の炭素が13C及び/又は12Cに置換されている、請求項1又は2記載の安定同位体標識アミノ酸の組み合わせ。
【請求項5】
(h)完全に重水素化されたメチレン基の炭素が12Cに置換されている、請求項1又は2記載の安定同位体標識アミノ酸の組み合わせ。
【請求項6】
全ての炭素が13Cである請求項2記載の安定同位体標識アミノ酸の組み合わせ。
【請求項7】
β位のメチレン基の水素原子の一方が重水素化されている請求項2記載の安定同位体標識アミノ酸の組み合わせ。
【請求項8】
水素原子を2つ有するメチレン基が1つ存在するか又は1つも存在しないアミノ酸が、イソロイシン(Ile)、バリン(Val)、スレオニン(Thr)又はロイシン(Leu)であり、イソロイシン(Ile)、バリン(Val)及びスレオニン(Thr)のβ位及びロイシン(Leu)のγ位のメチン基の水素原子が重水素化されている請求項1記載の安定同位体標識アミノ酸の組み合わせ。
【請求項9】
イソロイシン(Ile)、バリン(Val)及びスレオニン(Thr)のβ位及びロイシン(Leu)のγ位のメチン基の炭素原子が12Cである請求項8記載の安定同位体標識アミノ酸の組み合わせ。
【請求項10】
アミノ酸を構成する窒素原子の全て、或いは一部が15Nに置換されている請求項1又は2記載の安定同位体標識アミノ酸の組み合わせ。
【請求項11】
下記一般式(1)〜(13)で表される請求項1記載の安定同位体標識脂肪族アミノ酸。
[化1]

[化2]

[化3]

[化4]

[化5]

[化6]

[化7]

[化8]

[化9]




[化10]

[化11]

[化12]

[化13]

(式中、炭素は12C又は13Cを示し、窒素は14N又は15Nを示し、Hは水素原子、Dは重水素原子を示す。)
【請求項12】
標的蛋白質を構成する脂肪族アミノ酸が、請求項1〜11のいずれか1項記載の安定同位体標識脂肪族アミノ酸であり、標的蛋白質を構成する芳香族アミノ酸が、下記から選ばれる安定同位体標識芳香族アミノ酸であることを特徴とする標的蛋白質を構成する安定同位体標識アミノ酸の組み合わせ。
式Aで表されるアミノ酸残基に結合するフェニル基の炭素原子が13Cであり、該フェニル基を構成する残り5つの炭素原子のうち2〜4個の炭素原子が12Cであり、これに重水素が結合し、残りの炭素原子が13Cであって、これに水素原子が結合していることを特徴とする安定同位体標識フェニルアラニン、
式Aで表されるアミノ酸残基に結合するフェニル基の炭素原子が13Cであり、該フェニル基のヒドロキシル基(OH基)に結合する炭素原子が12C又は13Cであり、該フェニル基を構成する残り4つの炭素原子のうち2〜4個の炭素原子が12Cであり、これに重水素が結合し、残りの炭素原子が13Cであって、これに水素原子が結合していることを特徴とする安定同位体標識チロシン、
式Aで表されるアミノ酸残基に結合するインドリル基の炭素原子が13Cであり、該インドリル基を構成する残り7つの炭素原子のうち1〜5個の炭素原子が12Cであり、これに重水素が結合し、残りの炭素原子が13Cであって、これに水素原子が結合しており、該インドリル基を構成するNH基の窒素原子が15N又は14Nであることを特徴とする安定同位体標識トリプトファン、及び
式Aで表されるアミノ酸残基に結合するイミダゾリル基の炭素原子が13Cであり、該イミダゾリル基を構成する残り2つの炭素原子の両方の炭素原子が13Cであってこれに水素原子が結合しているか、片方の炭素原子が12Cであってこれに重水素が結合しており、残りの炭素原子が13Cであって、これに水素原子が結合しており、該イミダゾリル基を構成する2つの窒素の1つが15Nであり残りが14Nであって、NH基を構成する水素原子が重水素ではないことを特徴とする安定同位体標識ヒスチジン。
*1C(X)(Y)−*2C(Z)(15NH)(*3COOH) - - - (A)
(式中、*1C、*2C及び*3Cは、それぞれ12C又は13Cを示し、X、Y及びZは、それぞれ水素原子又は重水素原子を示す。)
【請求項13】
請求項1〜11のいずれか1項記載の安定同位体標識脂肪族アミノ酸の標的蛋白質への組み込み方法であって、該アミノ酸を添加した培養液を用いて微生物又は動植物細胞を培養し、標的タンパク質をコードする遺伝子を組み込むことを特徴とする安定同位体標識アミノ酸の標的蛋白質への組み込み方法。
【請求項14】
請求項12記載の安定同位体標識アミノ酸の標的蛋白質への組み込み方法であって、該アミノ酸を添加した培養液を用いて微生物又は動植物細胞を培養し、標的タンパク質をコードする遺伝子を組み込むことを特徴とする安定同位体標識アミノ酸の標的蛋白質への組み込み方法。
【請求項15】
無細胞蛋白質合成により組み込む請求項13又は14記載の安定同位体標識アミノ酸の標的蛋白質への組み込み方法。
【請求項16】
請求項1〜11のいずれか1項記載の安定同位体標識脂肪族アミノ酸を用い、化学合成法により標的タンパク質を合成することを特徴とする標的蛋白質の合成方法。
【請求項17】
請求項12記載の安定同位体標識アミノ酸を用い、化学合成法により標的タンパク質を合成することを特徴とする標的蛋白質の合成方法。
【請求項18】
請求項1〜11のいずれか1項記載の安定同位体標識脂肪族アミノ酸を標的蛋白質に組み込みNMRスペクトルを測定して構造解析することを含む蛋白質のNMR構造解析方法。
【請求項19】
標的蛋白質を構成する全てのアミノ酸が請求項12記載の安定同位体標識アミノ酸で置換されてなる標的蛋白質の構造をNMRスペクトル測定により解析することを含む標的蛋白質のNMR構造解析方法。

【図1】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図2−3】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−230876(P2007−230876A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−50926(P2006−50926)
【出願日】平成18年2月27日(2006.2.27)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】