説明

射出成形機

【課題】消費電力を抑え、省エネルギー化を図ることのできる射出成形機を提供することを目的とする。
【解決手段】低温水一次ポンプ26A、低温水二次ポンプ26B、高温水ポンプ28のポンプ回転数を、射出成形の一連の工程中、低温水、高温水の供給タイミングや、金型に与えるべき温度勾配に応じて制御することで、消費電力を抑える。また、固定ダイプレート2近傍の高温のエアをクリーンエア供給ユニットに循環させ、クリーンブースチャンバー内に送り込むようにすることで、クリーンブースチャンバー内の温度を高め、固定ダイプレート2から流出する熱エネルギーを有効利用して、金型の温度を調整する金型本体温調装置90における消費電力を抑える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型の温度を制御して射出充填成形を行う射出成形機に関する。
【背景技術】
【0002】
射出成形機の射出充填工程において、金型の温度が低い状態にあると金型のキャビティ内に充填された溶融樹脂の表面が急速に固化する。この場合、成形品に対する金型のキャビティ面の転写が不十分となり、また、成形品表面に、ウエルドライン、シルバーと呼ばれる欠陥が生じることがある。
この欠陥を防止するために、射出充填、保圧、冷却、型開閉といった一連の工程において、金型の媒体通路に、型開き後から樹脂の充填完了までの間に熱媒体を供給し、樹脂の充填完了後から型開きまでの間に冷媒体を供給する成形方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。これにより、予め樹脂の熱変形温度以上の温度まで加熱した金型に溶融樹脂を充填して樹脂表面の固化を遅らせ、樹脂の充填後、金型を樹脂のガラス転移温度、又は、熱変形温度以下まで冷却してから型開きを行うことができ、上記のような欠陥の発生を抑えることができる。
【0003】
このような方法において、熱媒体、冷媒体(以下、本明細書においては、熱媒体と冷媒体を区別すべき場合を除き、熱媒体と冷媒体を区別せずに熱媒体と称することがある。)を金型の媒体通路に供給するにはポンプを用いている。このポンプは、熱媒体や冷媒体の供給を迅速に行えるように、射出成形機の稼働中は常時一定の回転数で作動している。そして、ポンプと金型との間に設けられたバルブの開閉を制御することで、熱媒体や冷媒体の供給を制御している。
【0004】
【特許文献1】特開2006−110905号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
射出成形機に限るものではないが、装置類においては、消費電力を削減し、省エネルギー化を図ることが常に要求されている。このような観点からすると、従来の射出成形機においては解決すべき課題が存在する。
上記したような射出成形機においては、ポンプは熱媒体供給用と冷媒体供給用とで少なくとも2つが必要であり、これらを常時回転させていたのでは、ポンプを駆動させるための電力消費が大きい。だからといって、熱媒体や冷媒体を供給しないときにはポンプを停止させておき、供給するときにポンプを作動させていたのでは、熱媒体や冷媒体の供給に時間が掛かることになる。
また、ポンプを常に一定回転数で作動させていたのでは、熱媒体や冷媒体を用いて金型の温度をコントロールするにあたり、金型の加熱や冷却に必要以上の熱量を持った熱媒体や冷媒体を循環させている場合もあり、これでは熱媒体や冷媒体を加熱したり冷却するための熱エネルギーが無駄になってしまう。成形対象品の大きさや厚さ等によっても、必要な熱エネルギーは異なるはずであり、この点においても、ポンプを常時回転させている現状においては、熱エネルギーの無駄な消費を抑える余地があると言える。
【0006】
また、金型で発生する熱は周囲の雰囲気中に流出し、この点においても熱エネルギーが無駄になっている。特に熱媒体や冷媒体で金型の温度をコントロールする場合には、周囲の雰囲気中に流出した熱を実質的に補いながら金型の温度コントロールを行うため、省エネルギー化を図るためにはこれも重要な課題である。
本発明は、このような技術的課題に基づいてなされたもので、消費電力を抑え、省エネルギー化を図ることのできる射出成形機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的のもとになされた本発明の射出成形機は、金型を開閉する金型駆動部と、金型のキャビティに成形材料を射出する射出シリンダと、キャビティの温度を調整するため金型に形成された熱媒体通路に熱媒体を供給する熱媒体供給機構と、熱媒体供給機構における熱媒体の供給量を調整・制御する熱媒体供給量調整部と、を備えることを特徴とする。
熱媒体供給機構はポンプである場合、熱媒体供給量調整部は、ポンプの回転数を、ポンプで熱媒体を供給するときの第一の回転数と、ポンプで熱媒体を供給しないときの第一の回転数よりも低い第二の回転数とで切り替えて制御することができる。これにより、不要なときにはポンプの回転数を下げ、消費電力を抑えることができる。
また、熱媒体供給量調整部は、一連の射出成形動作中、予め定められた温度勾配でキャビティの温度が変化するよう、熱媒体供給機構における熱媒体の供給量を変動させることができる。付与すべき温度勾配に応じた量の熱媒体を供給することで、これによっても熱エネルギーの無駄な消費を抑え、消費電力を抑えることができる。
【0008】
ところで、上記のように熱媒体や冷媒体を用いて金型の温度制御を行いながら射出成形を行う射出成形機は、樹脂性の光学部品等、高精度、高品質な製品を対象として用いられる。
高精度・高品質が要求される製品の射出成形を行う場合、射出成形を、一定以下のクリーン度に管理された雰囲気中で行うことがある。この場合、少なくとも金型および金型駆動部を囲い、内部に定められた以上のクリーン度のエアが供給されるクリーンブースチャンバーを備えることがある。この場合、クリーンブースチャンバーを貫通する金型駆動部の一部または射出シリンダと、クリーンブースチャンバーとの隙間から流出するエアを、クリーンブースチャンバー内に循環させることで、高温となる金型駆動部や射出シリンダから流出する熱を有効利用することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、熱媒体を供給する熱媒体供給機構を、熱媒体の供給タイミングや、熱媒体によって付与すべき温度勾配に応じて制御することで、消費電力を抑えることができる。また、クリーンブースチャンバーを設けた場合、高温となる金型駆動部や射出シリンダ近傍のエアをクリーンブースチャンバー内に循環させることで、熱エネルギーを有効利用することができる。このようにして、熱エネルギーを効率的に利用し、消費電力を抑えることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本実施の形態における射出成形機は、射出成形機の成形工程中に、金型本体は一定温度に調整しつつ、金型の表面は加熱・冷却して、熱媒体に水を使用した例であり、以下、図に基づいて説明する。
図1は射出成形機1と金型と金型温度調整装置30を示す模式図、図2は図1の射出成形機1と金型温度調整装置30の温度とを制御する制御系統を示すブロック図、図3は本発明の金型温度制御方法に従って制御された図1の射出成形機1の各工程に対する射出スクリュストローク、射出圧力、金型温度を示すグラフ(金型温度特性曲線)の一例、図4は図3の金型温度特性曲線を示すグラフに若干の制御要素を加えた一部拡大図である。
【0011】
図1に示すように、射出成形機1の型締装置は、基台18に固定ダイプレート2が固設され、固定ダイプレート2に固定側金型4が取付けられている。固定側金型4に対向する可動側金型5は、基台18に敷設されたガイドレール19にガイドされ、リニアベアリングを介して固定ダイプレート2に対向して移動する可動ダイプレート3に取付けられている。可動ダイプレート3の移動(金型開閉移動)には油圧駆動の油圧シリンダ22が用いられる。
【0012】
複数のタイバー15が、固定ダイプレート2に内蔵する複数の型締油圧シリンダ2a内で摺動するラム16に直結して設けられている。各タイバー15の先端部は、可動ダイプレート3の貫通孔を貫通している。タイバー15の先端部にはねじ溝15aが形成されており、このねじ溝15aに可動ダイプレート3の反金型側に配置された半割りナット17が係合することで、タイバー15の引張方向を固定拘束している。油圧切換弁21は、射出成形制御装置20の指令により、型開閉の油圧シリンダ22、型締油圧シリンダ2aの駆動等の油圧を切換える役割を有している。
【0013】
射出ユニット10は電動型である。
固定側金型4の樹脂入り口に当接しているノズルを備えた射出シリンダ6には、射出シリンダ6と一体のフレーム6aが設けられている。このフレーム6aに射出シリンダ6の中心線の両側に対称に、一対の射出駆動サーボモータ12、12が取付けられ、同サーボモータ12、12の出力軸にボールねじ軸8、8が直結されている。射出スクリュ7は、移動フレーム27内で、射出スクリュ回転駆動モータ13によって回転駆動され、射出シリンダ6内の樹脂の回転送り出しと可塑化を行う。
【0014】
移動フレーム27には、一対のボールねじナット9、9が対称に取付けられ、このボールねじナット9、9にボールねじ軸8、8が螺合している。一対の射出駆動サーボモータ12、12が同期回転駆動されることにより、射出スクリュ7は射出シリンダ6の中を軸方向に前後進して樹脂の射出動作を行う。ボールねじナット9の1つは射出圧検出センサ11を介して移動フレーム27に取付けられている。図2に示すように、射出圧検出センサ11は射出圧を検出し、射出成形制御装置20にその信号を伝達する。
【0015】
射出成形制御装置20は、成形工程のプログラムに従って、油圧切換弁12を切換えて射出成形機1の各工程を受け持つそれぞれの型締油圧シリンダ2aに作動油を送り、射出ユニット10の射出駆動サーボモータ12、12に電流を送って射出スクリュ7を前後進させ、射出スクリュ7の射出スクリュ回転駆動モータ13に電流を送って樹脂の可塑化を指示する。
【0016】
射出ユニット10は、固定側金型4と可動側金型5が型締されることによって形成された金型キャビティの中に溶融樹脂を射出する。成形品が冷却固化した後は、可動側金型5は固定側金型4との型締結合を解き、移動用の油圧シリンダ22の作動により固定側金型4から離れて成形品を取出すようになっている。
【0017】
固定側金型4、可動側金型5には、金型表面を加熱、冷却するための熱媒水通路(熱媒体通路)4a、5aが形成されており、この熱媒水通路4a、5aは、金型温度調整装置30の固定側金型4用、可動側金型5用のそれぞれに設けられた熱媒水の出口、入口に連結されている。熱を早く伝達して金型キャビティ面を急速に加熱冷却するため、熱媒水通路4a、5aはキャビティにできるだけ近い位置に形成されている。なお、図1においては、固定側金型4側のみ、金型温度調整装置30の詳細な構成を図示しているが、可動側金型5においても、図1と同様の構成の金型温度調整装置30が独立して備えられている。可動側金型5側の金型温度調整装置30は、固定側金型4側の金型温度調整装置30と、低温水タンク23等を共用することができる。
また、固定側金型4、可動側金型5のキャビティ面に接して、複数の金型温度センサ65が樹脂入口からの距離を互いに異ならせて配置されている。図2に示すように、各金型温度センサ65の検出した温度の信号は射出成形制御装置20の金型温度制御部45に送られる。金型温度制御部45では、予め設定された成形条件に基づき、複数の金型温度センサ65で検出された温度の平均温度、又は、特定の位置の金型温度センサ65の検出値を選択し、これを制御温度とする。
【0018】
さらに、固定側金型4、可動側金型5には、金型本体(固定側金型4、可動側金型5においてキャビティから離れた位置)には、熱媒水通路4b、5bが形成されている。この熱媒水通路4b、5bは金型本体温調装置90の温調器38に通じる配管に連結されている。金型本体温調装置90においては、固定側金型4、可動側金型5の金型本体(金型母体)の温度が設定温度に保たれるように、温調器38に取付けてある温調器温度センサ66におけるヒータの温度の検出値を設定値と比較し、温調器38のヒータ発熱量と冷却水の注入量を制御している。
【0019】
金型温度調整装置30について説明する。低温水タンク23は低温水を設定低温に調整する冷媒及び熱媒配管を内蔵する熱交換器である。図2に示すように、低温水タンク23に取付けられた低温水センサ63が低温水タンク23内の水温を検出し、その検出値の信号を受けた金型温度制御部45が冷媒量を制御して水温を設定温度に維持する。
低温水タンク23に結合された送出側配管31aと連結配管31bの間には、低温水一次ポンプ(熱媒体供給機構)26Aが設けられ、連結配管31bと低温水配管31cの間には、低温水二次ポンプ(熱媒体供給機構)26Bが設置されている。低温水一次ポンプ26A、低温水二次ポンプ26Bの下流側には、低温水配管31cと配管31dとの間に開閉弁52が設置され、配管31dと供給配管31eとの間には流量調整弁57が設置されている。供給配管31eは固定側金型4の熱媒水通路4aの入口に連結されている。戻り側配管35aは固定側金型4の熱媒水通路出口に連結され、戻り側配管35aと低温水タンク23の接続配管35cとの間には開閉弁55が設置されている。
【0020】
高温水タンク24は高温水を設定高温に調整するヒータを内蔵した熱交換器であり、高温水タンク24内の高温水の温度を検出する高温水センサ64が取付けられている。図2に示すように、この高温水センサ64の検出値の信号を受けた金型温度制御部45が、高温水タンク24のヒータの発熱量を制御して高温水温を設定温度に維持する。
高温水タンク24の送出側配管41には高温水循環用の高温水ポンプ(熱媒体供給機構)28が設置され、同配管41は開閉弁53を介して配管31d、流量調整弁57、供給配管31eを経て固定側金型4の熱媒水通路4aに連結されている。固定側金型4の熱媒水通路出口に連結された戻り側配管35aから分岐した高温水の配管は、開閉弁54を介して接続配管35bに連結され、同配管35bは高温水タンク24に連結される。
【0021】
固定側金型4を加熱するには、開閉弁52、55を閉じ、開閉弁53、54を開き、高温水ポンプ28を回すことにより固定側金型4の熱媒水通路4aに高温水を流す。このとき、低温水一次ポンプ26A、低温水二次ポンプ26Bの回転を続け、連結配管31bを経て水圧調整弁61を通すことにより高い設定水圧を維持するようにすれば、連結配管36によりこの水圧が熱回収タンク25を経て高温水タンク24に伝えられるので、高温水の飽和蒸気圧を高め、高温水の温度を100℃以上に調整保持することができる。
【0022】
また、固定側金型4を冷却するには、開閉弁53、54を閉じ、高温水ポンプ28を止めて高温水の還流を停止して閉じ込め、開閉弁52、55を開くことにより固定側金型4に低温水を還流させる。
【0023】
配管44により高温水タンク24と連結している熱回収タンク25は、上部に高温水タンク24に連結する高温水入口を有し、下部に連結配管36と結合する低温水入口を有し、タンク内に収容された高温水と低温水の混合を抑制する手段を備えた縦円筒形のタンクである。この熱回収タンク25は、固定側金型4、可動側金型5の熱媒水通路容積と高温水の送出側配管41、同配管41との連結部以降の配管31d、及び高温水側に分岐するまでの戻り側配管35aと、接続配管35bの管内容積の合計より多い容積を有している。
【0024】
金型温度調整装置30内の開閉弁52〜55の開閉は、射出成形制御装置20に内蔵して射出成形機制御と連携する金型温度制御部45によって制御される。図2に示すように、部品のブロックが接しているものは、機械的に内蔵又は当接していることを示し、太線は熱媒水配管によって結合するものを示し、細線は電気信号線及び電流配線を示している。
【0025】
金型温度制御部45は制御処理ユニット(CPU)と設定値、実測値、表示画像等を記憶する記憶手段、入出力回路及び熱水流量制御回路を内蔵している。また、作業者に画像が見える位置に、射出成形制御装置20に画像表示手段(画像パネル)46が設置され、成形機制御のみならず、画像切換操作により、金型温度制御部45の制御の実態が表示される。画像表示手段46の傍らに熱媒水温度・熱媒水流量の設定手段47が設けられている。
【0026】
固定側金型4の温度を検出する金型温度センサ65の検出値は、金型温度制御部45において各工程にセットされた金型温度の設定値と比較され、設定値と合致したとき射出成形制御装置20に次の成形工程への移動を指示し、又は、金型温度調整装置30に固定側金型4に送る熱媒体の変更、又は、加熱冷却工程変更のタイミングを決めるタイマーのセットを指示する。
【0027】
射出成形機1の成形工程とこれに連携する金型温度調整装置30の工程、作用について、以下に図3と図4を参照しながら説明する。型閉から型締の工程において、金型温度調整装置30の開閉弁53、54を開、開閉弁52、55を閉、高温水タンク24の高温水を固定側金型4へ供給し、キャビティ周りの金型温度を充填する熱可塑性樹脂の熱変形温度(HDT)、若しくはガラス転移温度(Tg)以上の温度に加熱する。(図3、図4は熱変形温度HDTで表示せず、ガラス転移温度Tgで表している。)
【0028】
射出充填工程は、キャビティ周りの金型温度が上述のHDT、又はTg以上の設定温度THになっていることを確認して、射出成形機1の射出動作を開始する。金型温度がキャビティ設定温度TH又は、同THより低い設定値に到達したと同時に、金型温度調整装置30の開閉弁53を閉じ、開閉弁52を開にして低温水を固定側金型4へ供給し、固定側金型4の熱媒水通路4a内の高温水を押し出して、低温水に置き換える。押し出された高温水は高温水タンク24へ回収される。射出スクリュ7が設定された充填完了時のスクリュ位置LSに到達したこと、及び充填完了時のキャビティ温度TSを検知、表示して射出充填工程を完了する。なお、充填完了時のキャビティ基準温度TS1と良品温度範囲ΔTS1を予め設定しておき、検知したキャビティ温度TSとの比較により成形品の良否判定を行うこともできる。
【0029】
待機工程は、射出スクリュ7が設定された充填完了時のスクリュ位置LSに到達した後、射出駆動サーボモータ12、12を止めて射出スクリュ7を停止させ、金型温度が予め設定された温度(熱変形温度HDT+α、またはガラス転移温度Tg+α)に到達するまで、射出スクリュ停止位置を保持し、この設定温度に達したら保圧工程に切換える。αは樹脂の種類によって予め設定する保圧開始温度とガラス転移温度Tgまたは熱変形温度HDTとの温度差である。保圧完了時の金型温度を予め設定された温度TbとORの条件で、成形品の形状、肉厚等から経験的に求められる保圧時間に余裕時間を付加して、保圧工程限度タイマーTBを設定して保圧工程を制御する。温度Tbは、保圧完了の起点となるキャビティ設定温度であって、熱変形温度(HDT)またはガラス転移温度(Tg)付近の温度とする。同タイマーTBは、保圧工程限度タイマーとして使用するが、温度変化が遅くて保圧工程限度を超える場合に、次工程に移行するためにセットするものである。この待機工程に入るとき、開閉弁54を閉じ、開閉弁55を開いて、金型の冷却に移行する。
【0030】
保圧工程は、保圧工程限度タイマーTBの設定時間が経過後、又は、設定金型キャビティ温度が設定温度Tbに達したことの確認によって、或いは両方の信号を確認して完了し、冷却工程に切換えられる。冷却開始から工程限度タイマーT2の設定時間後、金型温度調整装置30は、開閉弁53と開閉弁55を開いて高温水を固定側金型4へ送り、固定側金型4内の低温水の置換えが行われる。
【0031】
冷却工程は、金型温度センサ65が検出した固定側金型4のキャビティ温度が成形品の樹脂材料が固化して取出し可能となるキャビティ温度TLに到達するまで続き、この温度TLにおいて型開、続いて成形品取出しが行われる。成形工程側の冷却工程が終わった固定側金型4の温度TLの時点からタイマーで設定された工程限度タイマーT3の設定時間後に、開閉弁55を閉じ、開閉弁54を開いて、固定側金型4内の高温水による低温水の置換えを終え、高温水の循環による金型加熱に入る。
【0032】
また、図4に示したように、射出成形工程において、射出充填工程と待機工程では熱媒水を供給する配管31dに設置してある流量調整弁57を操作して低温水の流量を絞って固定側金型4の冷却を遅らせ、保圧工程になった時、流量調整弁57を十分に開いて低温水量を増加する等、冷却水量を多段制御して固定側金型4の冷却を速めることも可能であり、成形サイクルを短縮することができる。
【0033】
また、図4に示すように、射出成形工程の開始前に固定側金型4の樹脂供給スプルーに設置されたゲートバルブ14を開き、保圧完了の設定温度Tbに到達したら、冷却工程へ移行する前にゲートバルブ14を閉じるようにして成形品にひけが生じないようにすることができる。
【0034】
成形工程において、固定側金型4は、上記のように金型温度調整装置30により成形工程に並行して、キャビティ面の温度を検出しながら加熱冷却の温度制御を行う。このとき、可動側金型5は、図1に示すように、専用の温調器38を通った熱媒水を配管32,33、温調水ポンプ34に循環させることで温度調整され、図4に示すように、固定側金型4のキャビティ面温度の下限温度であるキャビティ温度TL以上で樹脂の熱変形温度HDT、若しくはガラス転移温度Tg以下の一定温度であるキャビティ温度TM2を保つようにしている。同温度TM2は、温調器温度センサ66からの温度信号値を設定温度であるキャビティ温度TM2と比較し、金型温度制御部45において温調器38のヒータの発熱量及び冷却水注入量を調整することにより設定温度に保つことができる。
【0035】
さて、本実施の形態においては、上記したような金型温度調整装置30は、以下のようにして低温水一次ポンプ26A、低温水二次ポンプ26B、高温水ポンプ28を制御する。
図1に示したように、低温水一次ポンプ26A、低温水二次ポンプ26B、高温水ポンプ28は、ポンプ回転数を制御する回転数制御装置(熱媒体供給量調整部)70A、70B、71を備えている。これら回転数制御装置70A、70B、71は、金型温度制御部45の制御により、上記したような射出成形の一連の工程中、予め定められたタイミングで低温水一次ポンプ26A、低温水二次ポンプ26B、高温水ポンプ28のポンプ回転数を変化させる。金型温度制御部45は、具体的には、図3に示すように、低温水一次ポンプ26A、低温水二次ポンプ26B、高温水ポンプ28のそれぞれを、低温水、高温水を送り出さないときには、ポンプ回転数を予め定めたアイドリング回転数R1とし、低温水、高温水を送り出すときのみ、ポンプ回転数を上昇させて予め定めた定常運転時回転数R2とするように、回転数制御装置70A、70B、71を制御する。
ここで、アイドリング回転数R1<定常運転時回転数R2であり、定常運転時回転数R2は、例えば従来一定回転数としていた低温水一次ポンプ26A、低温水二次ポンプ26B、高温水ポンプ28と同等の回転数とすることができる。また、アイドリング回転数R1は、低温水一次ポンプ26A、低温水二次ポンプ26B、高温水ポンプ28の回転数を高めて低温水や高温水を送り出すときに、低温水や高温水を吐出するのに必要な圧力が迅速に得られるような回転数に設定するのが好ましい。また、低温水や高温水を送り出すに際して低温水一次ポンプ26A、低温水二次ポンプ26B、高温水ポンプ28の回転数をアイドリング回転数R1から定常運転時回転数R2に高めるタイミングは、低温水や高温水を吐出するのに必要な圧力が迅速に得られるよう、低温水や高温水の送り出しを介するタイミングよりも一定時間前から低温水一次ポンプ26A、低温水二次ポンプ26B、高温水ポンプ28の回転数を高めるようにしても良い。
【0036】
さらには、図3のような金型温度変化を実現する場合、高温水や低温水の流量が、その温度変化勾配に適した量となるように、金型温度制御部45で回転数制御装置70A、70B、71を制御することができる。
金型の加熱・冷却速度と、金型内の熱媒体の熱伝達率との関係は、既知とすることができる。また、熱媒体の流量と、金型内の熱媒体の熱伝達率との関係も既知とすることができる。そこで、これらの関係に基づき、金型を加熱あるいは冷却するときに、温度変化勾配に応じた高温水、低温水の流量を予め定めておく。そして、図1に示すように流量計72、73で高温水、低温水の流量を検出し、予め定めた流量となるように金型温度制御部45で回転数制御装置70A、70B、71を制御するのである。その結果、その時点で必要な流量に応じて低温水一次ポンプ26A、低温水二次ポンプ26Bや高温水ポンプ28の回転数を制御することで、温度変化勾配に応じた熱エネルギーを金型に対して付与することができ、また、低温水一次ポンプ26A、低温水二次ポンプ26Bや高温水ポンプ28の回転数を必要最小限に抑えることができる。
【0037】
このようにして、低温水一次ポンプ26A、低温水二次ポンプ26Bや高温水ポンプ28の回転数を、低温水、高温水の供給タイミングや、金型に与えるべき温度勾配に応じて制御することで、消費電力を抑えることができる。
〔検討例1〕
例えば、一連の射出成形工程のサイクルタイムが50秒、高温水により加熱を行うため、高温水ポンプ28を定常運転時回転数R2で作動させる時間t2が15秒、アイドリング回転数R1で作動させる時間t1が33秒、アイドリング回転数R1から定常運転時回転数R2にポンプ回転数を上げるのに要する時間t3を2秒とする。また、高温水ポンプ28を定常運転時回転数R2の一定回転数で作動させた場合に1サイクルの動作に必要な電力が0.046kwhであったとする。
その場合、高温水ポンプ28を定常運転時回転数R2で作動させる時間t2と立ち上げる時間t3については消費電力を抑えることができないため、t2+t3=17秒の間に必要な電力は、
0.046×17/50=0.01564kwh
となる。
アイドリング回転数R1を、定常運転時回転数R2の50%に設定したとすると、必要な電力は、計測結果により0.0075kwh
となる。
したがって、1サイクルで高温水ポンプ28を作動させるのに必要な電力の合計は、
0.01564+0.0075=0.02314kwh
となり、ポンプの消費電力を50%に抑えることができるのがわかる。さらに、アイドリング時の流量が低下することにより、高温水タンク24での熱交換率が向上することにより、ヒータのON率が減少する。これにより、ヒータの消費電力を0.82kwhから0.75kwhに低減することが可能となる。同様の操作を可動側についても適用することで同等の効果が得られる。
【0038】
〔検討例2〕
例えば、一連の射出成形工程のサイクルタイムが50秒、低温水により冷却を行うために低温水一次ポンプ26A、低温水二次ポンプ26Bを、それぞれ、定常運転時回転数R2で作動させる時間t2が17秒、アイドリング回転数R1で作動させる時間t1が31秒、アイドリング回転数R1から定常運転時回転数R2にポンプ回転数を上げるのに要する時間t3を2秒とする。また、低温水一次ポンプ26Aを定常運転時回転数R2の一定回転数で作動させた場合に1サイクルの動作に必要な電力が0.079kwh、低温水二次ポンプ26Bを定常運転時回転数R2の一定回転数で作動させた場合に1サイクルの動作に必要な電力が0.043kwhであったとする。低温水一次ポンプ26Aのアイドリング回転数R1が従来の70%、低温水二次ポンプ26Bのアイドリング回転数R1が従来の0%で良いとする。また、冷却速度が2℃/secのときは、冷却能力として従来の運転での流量に対して70%の流量で良いとわかっているとすれば、それにともない低温水一次ポンプ26Aの定常運転時回転数R2は、70%となる。この場合、低温水一次ポンプ26Aの電力は、アイドル時:0.018kwh、定常時:0.014kwhであり、合計すると0.032kwhとなる。低温水二次ポンプ26Bの電力は、アイドル時:0kwh、定常時:0.015kwhとなる。従来は(0.079+0.043=0.122)kwhに対して、0.018+0.014+0.0+0.015=0.047kwhとなり、従来運転から62%低減となる。同様の操作を可動側についても適用することで同等の効果が得られる。
【0039】
さて、本実施の形態において、射出成形機1は、図5に示すように、金型部分を囲むように、クリーンブースチャンバー80が設けられている。このクリーンブースチャンバー80は、成形品のコンタミネーションを防止するため、クリーンブースチャンバー80内外を隔てるものである。
このクリーンブースチャンバー80内には、ファンフィルターユニット等の、フィルタ機能を有してクリーンなエアを吹き出すクリーンエア供給ユニット81が複数備えられている。クリーンブースチャンバー80は、成形されて金型から取り出した成形品をクリーンブースチャンバー80外に搬出するための搬出口80aと、固定ダイプレート2が貫通する貫通口80bとで開口している。このうち、貫通口80bからは、高温の固定ダイプレート2によって加熱されたエアが流出する。そこで、貫通口80bから流出するエアを、クリーンエア供給ユニット81に循環させるよう、循環ダクト82が設けられている。また、搬出口80aについても、搬出口80aから流出するエアをクリーンエア供給ユニット81に循環させる循環ダクト83を設けることもできる。
各クリーンエア供給ユニット81に送り込まれるエアの量は、ダンパー84によって調整可能とされている。各ダンパー84は、射出成形制御装置20によりその開度が制御される。ここで、クリーンブースチャンバー80の内部と外部には気圧計85、86が設けられ、射出成形制御装置20では、クリーンブースチャンバー80内が陽圧(クリーンブースチャンバー80の外部よりも気圧が相対的に高い状態)に保たれるよう、ダンパー84の開度が制御される。
【0040】
このようにして、固定ダイプレート2近傍の高温のエアをクリーンエア供給ユニット81に循環させ、クリーンブースチャンバー80内に送り込むようにすることで、クリーンブースチャンバー80内の温度を高めることができる。これにより、固定ダイプレート2から流出する熱エネルギーを有効利用して、金型本体の温度を調整する金型本体温調装置90における消費電力を抑えることが可能となる。
【0041】
なお、上記実施の形態では、射出成形機1の全体構成等を説明したが、射出成形機1の各部の構成については適宜変更することが可能である。また、高温水、低温水を用いた金型の温度調整についても、同様の機能を実現できるのであれば他の構成を採用しても何ら支障はない。高温水による加熱、低温水による冷却の切替タイミング等についても同様である。そのような場合であっても本発明を適用することで上記と同様の効果を得ることが可能となる。
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本実施の形態における射出成形機の構成を示す図である。
【図2】射出成形機と金型温度調整装置の温度とを制御する制御系統を示すブロック図である。
【図3】射出成形機の各工程に対する射出ストローク、射出圧力、金型温度を示すグラフの一例である。
【図4】金型温度特性曲線を示すグラフに若干の制御要素を加えた一部拡大図である。
【図5】クリーンブースチャンバーを備えた構成を示す図である。
【符号の説明】
【0043】
1…射出成形機、2…固定ダイプレート、3…可動ダイプレート、4…固定側金型、4a…熱媒水通路(熱媒体通路)、5…可動側金型、5a…熱媒水通路(熱媒体通路)、6…射出シリンダ、10…射出ユニット、20…射出成形制御装置、23…低温水タンク、24…高温水タンク、25…熱回収タンク、26A…低温水一次ポンプ(熱媒体供給機構)、26B…低温水二次ポンプ(熱媒体供給機構)、28…高温水ポンプ(熱媒体供給機構)、30…金型温度調整装置、45…金型温度制御部、70A、70B、71…回転数制御装置(熱媒体供給量調整部)、80…クリーンブースチャンバー、82…循環ダクト、90…金型本体温調装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型を開閉する金型駆動部と、
前記金型のキャビティに成形材料を射出する射出シリンダと、
前記キャビティの温度を調整するため前記金型に形成された熱媒体通路に熱媒体を供給する熱媒体供給機構と、
前記熱媒体供給機構における前記熱媒体の供給量を調整・制御する熱媒体供給量調整部と、
を備えることを特徴とする射出成形機。
【請求項2】
前記熱媒体供給機構はポンプであり、
前記熱媒体供給量調整部は、前記ポンプの回転数を、前記ポンプで前記熱媒体を供給するときの第一の回転数と、前記ポンプで前記熱媒体を供給しないときの前記第一の回転数よりも低い第二の回転数とで切り替えて制御することを特徴とする請求項1に記載の射出成形機。
【請求項3】
前記熱媒体供給量調整部は、一連の射出成形動作中、予め定められた温度勾配で前記キャビティの温度が変化するよう、前記熱媒体供給機構における前記熱媒体の供給量を変動させることを特徴とする請求項1または2に記載の射出成形機。
【請求項4】
少なくとも前記金型および前記金型駆動部を囲い、内部に定められた以上のクリーン度のエアが供給されるクリーンブースチャンバーが備えられ、
前記クリーンブースチャンバーを貫通する前記金型駆動部の一部または前記射出シリンダと、前記クリーンブースチャンバーとの隙間から流出するエアを、前記クリーンブースチャンバー内に循環させることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の射出成形機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−246940(P2008−246940A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−92882(P2007−92882)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【出願人】(505139458)三菱重工プラスチックテクノロジー株式会社 (50)
【Fターム(参考)】