説明

射出成形用ハードコートフィルム積層体を利用した射出成形体の製造方法

【課題】ポリカーボネート樹脂等の成形品のハードコートとして非常に表面硬度が高く、樹脂成形品に対する密着性や金型への追従性に優れた射出成形用ハードコートフィルム積層体を利用した射出成形体の製造方法を提供する。
【解決手段】ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、及びポリエチレンテレフタレートからなる群から選ばれた1種の樹脂の単層又は2種以上の複数層からなる基材層と、該基材層の片面に積層一体化されたハードコート層とを備えた射出成形用ハードコートフィルム積層体を射出成形型内に配置して、その状態で型内にポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、又はポリエチレンテレフタレートのいずれかを射出することによって樹脂の成形を行うと同時に樹脂成形体の表面に前記ハードコートフィルム積層体を一体化させる射出成形体の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形用ハードコートフィルム積層体を利用した射出成形体の製造方法に関し、例えば、自動車、航空機、ビル、学校、各商店などの窓ガラスや、自動車、航空機などの灯具カバー、照明カバーのほか、パソコンや携帯型電子機器などの筐体や各種部品をはじめとして幅広く利用されているポリカーボネート樹脂、PMMA(ポリメタクリル酸メチル)樹脂、又はPET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂の射出成形体の製造に用いられる、射出成形用ハードコートフィルム積層体を利用した射出成形体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリカーボネート等の熱可塑性樹脂の射出成形体は、ガラスや金属に比べて軽量であることなどの理由から、これらの代替材料として広く使用されている。しかし、ポリカーボネート樹脂等はガラスよりも表面硬度が低く傷が付きやすいことから、それを防ぐために表面に塗料を塗布したり、硬化性フィルムを貼り合わせるなどして表面を保護することが行われている。
【0003】
例えば、特開2008−260202号公報(特許文献1)には、ポリカーボネート樹脂とポリエステル樹脂とを含んだ混合樹脂組成物からなる基材層と、アクリル系ポリマーを含んだ紫外線硬化型樹脂組成物の硬化物からなるハードコート層とを備えた射出成形用ハードコートフィルムに係る発明が記載されている。また、特開2002−1759号公報(特許文献2)には、樹脂フィルムに硬化性のコーティング剤を塗布して該コーティング剤を半硬化した後、これを金型内に装着してポリカーボネート樹脂を射出成形し、樹脂フィルムを剥離してから更にコーティング剤を硬化させて表面硬化されたポリカーボネート樹脂成形品の製造方法に係る発明が記載されている。そしてこの特許文献2には、RnSi(OH)4-nの構造を有するオルガノシランにコロイダルシリカを添加したシリコーン系コーティング剤や、アクリル系コーティング剤が好ましいものとして挙げられている。
【0004】
ところが、これまで射出成形樹脂の表面を保護するハードコートとして主に使用されているアクリル系やシリコーン系のコーティング剤では、耐傷付性の点で十分であるとは言えない。また、樹脂成形品がより幅広い用途で使用されるようになるためには、表面硬度を十分発現せしめることができながら射出成形品に対する密着性に優れ、しかも、金型への追従性を同時に満足できるようなハードコートフィルム積層体が更に必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−260202号公報
【特許文献2】特開2002−1759号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、ポリカーボネート樹脂、PMMA樹脂、又はPET樹脂の成形品のハードコートとして非常に表面硬度が高く、樹脂成形品に対する密着性や金型への追従性に優れた射出成形用ハードコートフィルム積層体を利用した射出成形体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために本発明者等は鋭意検討した結果、好適には、光硬化性を有する籠型シルセスキオキサン樹脂を含有した光硬化性樹脂組成物を硬化させてハードコート層とし、これをポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、又はポリエチレンテレフタレートの1種以上を含んだ基材層と積層一体化して金型内に装着することで、ポリカーボネート樹脂、PMMA樹脂、又はPET樹脂の成形体又はPET成形体の表面に、基材層を介して高い表面硬度のハードコートを密着性良く形成することができ、しかも、金型に対する追従性も満足できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明の要旨は次のとおりである。
[1]ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、及びポリエチレンテレフタレートからなる群から選ばれた1種の樹脂の単層又は2種以上の複数層からなる基材層と、該基材層の片面に積層一体化されたハードコート層とを備えた射出成形用ハードコートフィルム積層体を射出成形型内に配置して、その状態で型内にポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、又はポリエチレンテレフタレートのいずれかを射出することによって樹脂の成形を行うと同時に樹脂成形体の表面に前記ハードコートフィルム積層体を一体化させることを特徴とする射出成形体の製造方法。
【0009】
[2]前記ハードコート層は、光硬化性を有する籠型シルセスキオキサン樹脂を含有した光硬化性樹脂組成物を硬化させて厚みが20μm以上からなり、波長550nmでの透過率が90%以上であって、且つ、ガラス転移温度が230℃以上であることを特徴とする[1]記載の射出成形体の製造方法。
【0010】
[3]前記籠型シルセスキオキサン樹脂は、下記一般式(1):
RSiX3 ・・・(1)
〔式(1)中、Rは(メタ)アクリロイル基を有する有機官能基又はビニル基を示し、Xはアルコキシ基、又はアセトキシ基から選ばれる加水分解基を示す。〕で表わされるケイ素化合物を有機極性溶媒及び塩基性触媒存在下で加水分解反応させると共に一部縮合させ、得られた加水分解生成物を更に非極性溶媒及び塩基性触媒存在下で再縮合させて得られるものであることを特徴とする[2]に記載の射出成形体の製造方法。
【0011】
[4]前記籠型シルセスキオキサン樹脂が、下記一般式(2):
[RSiO3/2n ・・・(2)
〔式(2)中、Rは(メタ)アクリロイル基を有する有機官能基又はビニル基を示し、nは8、10、12又は14を示す。〕で表わされる籠型シルセスキオキサン樹脂であることを特徴とする[2]又は[3]に記載の射出成形体の製造方法。
【0012】
[5]前記Rが、下記一般式(3):
【化1】

〔式(3)中、R1は水素原子又はメチル基を示し、mは1〜3の整数を示す。〕で表わされる有機官能基であることを特徴とする[3]又は[4]に記載の射出成形体の製造方法。
【0013】
[6]前記ハードコート層側の表面にプラスチックフィルムのカバー層を更に備えることを特徴とする[1]〜[5]のうちいずれかに記載の射出成形体の製造方法。
【0014】
[7]基材層の厚みが30〜300μmの範囲であることを特徴とする[1]〜[6]のうちいずれかに記載の射出成形体の製造方法。
【0015】
[8]射出成形用ハードコートフィルム積層体がロール状態に巻き取られた状態から射出成形型内に連続的に供給されることを特徴とする[1]〜[7]のうちいずれか一項に記載の射出成形体の製造方法。
【0016】
[9]射出成形用ハードコートフィルム積層体がシート状にカットされた状態から射出成形型内に1枚ずつ供給されることを特徴とする[1]〜[7]のうちいずれか一項に記載の射出成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明ではポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、又はポリエチレンテレフタレートの1種以上を含んだ基材層とハードコート層とを備えた射出成形用ハードコートフィルム積層体を射出成形型内に配置せしめ、この状態で型内にポリカーボネート樹脂、PMMA樹脂、又はPET樹脂を射出することによって、樹脂の成形を行うと同時に樹脂成形体の表面に前記ハードコートフィルム積層体を一体化することにより、ガラスや金属の代替材料として利用可能な射出成形体を得ることができる。特に、光硬化性を有する籠型シルセスキオキサン樹脂を含有した光硬化性樹脂組成物によって所定のハードコート層を形成することにより、十分な表面硬度を保ったまま、金型への追従性に優れ、しかも、射出成形品の表面に対して高い表面硬度を付与せしめることができる。また、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、又はポリエチレンテレフタレートの1種以上を含んだ基材層を介して射出成形品の表面にハードコート層を形成することから、密着性に優れて、ハードコート層が剥がれてしまうようなことを防止することができると共に、射出成形の際に成形と同時に一体化が可能であって生産性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明に利用するハードコートフィルム積層体を示す断面模式図である。
【図2】図2は、ハードコートフィルム積層体を用いてインサート成型する様子を示す断面模式図である。
【図3】図3は、本発明のインサート成型によって得られた射出成形体を示す断面模式図である。
【図4】図4は、本発明に使用する射出成形機を示す模式図である。
【図5】図5は、ハードコート層のみの光線透過率を示す。
【図6】図6は、ハードコート層のみのガラス転移温度の測定結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を詳細に説明する。
図1に、本発明に利用する射出成形用ハードコートフィルム積層体1の一実施形態を示す。このハードコートフィルム積層体1は、ポリカーボネート、PMMA、及びPETからなる群から選ばれた1種の樹脂の単層又は2種以上の複数層からなる基材層4の片面にハードコート層2とプラスチックフィルムのカバー層3が積層一体化されたものからなる。基材層を形成する樹脂はフィルム状のものを用いるのがよく、好適には、ポリカーボネート、PMMA、及びPETからなる群から選ばれた1種の樹脂フィルムを単独で基材層として用いてもよく、2種以上の樹脂フィルムを積層させた複数層のものを基材層として用いてもよい。なかでも、ポリカーボネートフィルム、PMMAフィルム、若しくはPETフィルムの単層からなる基材層、又は、ポリカーボネートフィルムとPMMAフィルムとが2枚貼り合わされた基材層がより好適である。
【0020】
また、基材層の厚みについては、単層からなる場合と複数層からなる場合を含めて30〜300μmの範囲であることが好ましい。30μmより小さいと基材層としての強度が不足し、破断する恐れがある。反対に、300μmより大きいと射出成形時に金型形状への追従性が低下する。また、本発明で用いるポリカーボネート、PMMA、及びPETの各樹脂には、それぞれ紫外線吸収剤、可塑剤、顔料等を添加剤として使用しても差し支えない。なお、本発明において、射出成形用ハードコートフィルム積層体の全体の厚みは特に制限されず、各層それぞれで説明する好適な厚み範囲を有したものにするのが好ましい。
【0021】
本発明において、前記ハードコート層2は、好適には、光硬化性を有する籠型シルセスキオキサン樹脂を含有した光硬化性樹脂組成物を硬化させて厚みが20μm以上からなり、ガラス転移温度が230℃以上であって、且つ、波長550nmでの透過率が90%以上の透明な樹脂層からなることを特徴とするものである。
【0022】
このように好適なハードコート層(透明樹脂層)の厚みは20μm以上であり、好ましくは20〜400μmの範囲であり、より好ましい厚みは50〜80μmの範囲である。厚みが20μmに満たない場合には十分な表面硬度を得ることができず、反対に厚みが400μmを超えると柔軟性が損なわれ、例えば曲面を有するような成型物を得ることが困難となる。
【0023】
本発明に利用するハードコートフィルム積層体を自動車や航空機の窓ガラス用として使用することを想定すると、直射日光により表面が高温となる。また、パソコンや携帯型電子機器などの筐体用として使用する場合には、機器内部に熱が発生する。そのため、ハードコート層は熱による変形を防ぐために耐熱性が必要となり、ガラス転移温度230℃以上、好適には250℃以上であることが必要である。また、自動車や航空機の窓ガラスやパソコンや携帯型電子機器の液晶表示部分では視認性を確保するため波長550nmでの透過率が90%以上必要となる。
【0024】
また、このような好適なハードコート層を形成する上で、光硬化性樹脂組成物における前記籠型シルセスキオキサン樹脂の含有量は、光硬化性樹脂組成物の質量に対して、3質量%以上となる量であることが好ましく、5〜70質量%の範囲内であることがより好ましい。前記含有量が3%未満では射出成型用ハードコートフィルム積層体においてハードコート層のガラス転移温度が低くなる傾向にあるため射出成型時の金型温度での耐熱性が不十分となりやすい傾向にある。他方、前記含有量が前記上限を超えると、ハードコート層の靭性が損なわれ、ハンドリングにより表面にクラック発生等の外観不良が発生しやすい傾向にある。このように籠型シルセスキオキサン樹脂の含有量を調節することにより、ハードコート層のガラス転移温度を調節することができ、例えば、前記籠型シルセスキオキサン樹脂の含有量が同じ場合でも、前記籠型シルセスキオキサン樹脂と併用する他の樹脂等のガラス転移温度により変動するため、前記籠型シルセスキオキサン樹脂の含有量を適宜調節することにより、ハードコート層のガラス転移温度を調節することができる。なお、ハードコート層のガラス転移温度の上限値は、有機物を含んでいることを考慮すると450℃程度である。
【0025】
本発明に利用するハードコートフィルム積層体の好適なハードコート層にかかる籠型シルセスキオキサン樹脂は、光硬化性を有する籠型シルセスキオキサン樹脂である。このような籠型シルセスキオキサン樹脂としては、例えば下記一般式(1):
RSiX3 ・・・(1)
で表わされるケイ素化合物を有機極性溶媒及び塩基性触媒存在下で加水分解反応させると共に一部縮合させ、得られた加水分解生成物を更に非極性溶媒及び塩基性触媒存在下で再縮合させてなるものが挙げられる。なお、前記一般式(1)において、Rは(メタ)アクリロイル基を有する有機官能基又はビニル基を示し、Xはアルコキシ基、アセトキシ基等の加水分解基を示す。
【0026】
また、本発明に利用するハードコートフィルム積層体の好適なハードコート層においては、このような籠型シルセスキオキサン樹脂が、下記一般式(2):
[RSiO3/2n ・・・(2)
で表される籠型シルセスキオキサン樹脂であることが好ましい。なお、前記一般式(2)において、Rは(メタ)アクリロイル基を有する有機官能基又はビニル基を示し、nは8、10、12又は14を示す。
【0027】
さらに、本発明に利用するハードコートフィルム積層体の好適なハードコート層においては、前記Rが、一般式(3):
【化2】

で表わされる有機官能基であることが好ましい。なお、前記一般式(3)において、R1は水素原子又はメチル基を示す。また、前記一般式(3)において、mは1〜3の整数を示す。
【0028】
このような籠型シルセスキオキサン樹脂は、樹脂中のケイ素原子全てに(メタ)アクリロイル基を有する有機官能基からなる反応性官能基を有し、且つ、分子量分布及び分子構造の制御された籠型シルセスキオキサン樹脂であることが好ましい。また、このような籠型シルセスキオキサン樹脂の分子構造は、完全に閉じた多面体でなくてもよく、例えば、一部が開裂したような構造であってもよい。また、このような籠型シルセスキオキサン樹脂の平均分子量も特に限定されず、このような籠型シルセスキオキサン樹脂がオリゴマーであってもよい。
【0029】
本発明でいう光硬化性樹脂組成物とは、活性エネルギー線を照射して硬化可能な樹脂組成物であればよく、特に制限されない。このような光硬化性樹脂組成物には、前記籠型シルセスキオキサン以外に他の樹脂が含まれていてもよい。このように籠型シルセスキオキサン樹脂と混合して用いることができる他の樹脂としては籠型シルセスキオキサン樹脂と相溶性及び反応性を有する樹脂であればよく、特に限定されないが、例えば(メタ)アクリル基を有する樹脂として(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル等が挙げられ、前記籠型シルセスキオキサンとは直接反応性を有していないが、併用可能な樹脂として、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂が挙げられる。また、このような光硬化性樹脂組成物は、光硬化性を阻害しない範囲であれば、フィラー系添加物を更に含有していてもよい。フィラー系添加物の具体例としては、シリカ、アルミナ、酸化チタン等の微粒子フィラーや、ガラスファイバー短繊維又は長繊維、スチレンやポリエステル等のプラスチック繊維が挙げられる。
【0030】
また、このような光硬化性樹脂組成物は、通常、光重合開始剤を更に含有する。このような光重合開始剤としては、例えば、アルキンフェノン系、アシルフォスフィンオキサイド系、チタンセン系等の光重合開始剤が挙げられる。このような光重合開始剤の具体例としては、α−ヒドロキシアルキルフェノン、ビアセチルアセトフェノン、ベンゾフェノン、ベンジル、ベンゾイルイソブチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、(1-ヒドロキシシクロヘキシル)フェニルケトン、(1-ヒドロキシ−1-メチルエチル)フェニルケトン、(α-ヒドロキシイソプロピル)(p-イソプロピルフェニル)ケトン、ジエチルチオキサントン、エチルアンスラキノン、ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン等が挙げられる。
【0031】
なお、このような光硬化性樹脂組成物としては、粘度調整等のために、公知の溶媒を希釈剤として含有しているものを使用してよいが、溶媒の揮発除去工程を考慮すると時間を要し生産効率が低下するという観点、並びに硬化フィルム内部に残留溶媒等が存在し成形フィルムの特性低下につながるという観点から、溶媒の含有量が5%以下のものを使用することが好ましく、溶媒を含有していないものを使用することがより好ましい。
【0032】
次に、以上説明した本発明に利用する射出成形用ハードコートフィルム積層体を製造する方法について説明すると、例えば、基材層としてポリカーボネートフィルムを単独で用いる場合には、ポリカーボネートフィルムを予め準備し、その表面に前記光硬化性樹脂組成物等のハードコート層を形成する組成物を塗布した後に硬化せしめて基材層の片面にハードコート層を積層一体化させることにより得ることができる。
【0033】
このように光硬化性樹脂組成物を塗布する方法としては、特に限定されず適宜公知の方法を採用することができる。塗布装置としては、公知の塗布装置を採用することができるが、塗布ヘッドを用いて硬化反応を起こすとゲル状の付着物が筋や異物の原因となるため、望ましくは塗布ヘッドには紫外線が当たらないようにすることが好ましい。また、塗布方式としては、グラビアコート、ロールコート、リバースコート、ナイフコート、ダイコート、リップコート、ドクターコート、エクストルージョンコート、スライドコート、ワイヤーバーコート、カーテンコート、押出コート、スピナーコート等の公知の塗布方法を採用することができる。
【0034】
また、光硬化性樹脂組成物を塗布した後に硬化せしめる方法としては、例えば、塗布後の光硬化性樹脂組成物上に紫外線を発生させて照射して光硬化させるという紫外線照射法を採用することができる。このような方法に用いる紫外線ランプとして、例えば、メタルハライドランプ、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、パルス型キセノンランプ、キセノン/水銀混合ランプ、低圧殺菌ランプ、無電極ランプが挙げられる。これらの紫外線ランプの中でも、メタルハライドランプ又は高圧水銀ランプを用いることが好ましい。また、照射条件はそれぞれのランプの条件によって異なるが、照射露光量は20〜10000mJ/cm2の範囲であればよく、100〜10000mJ/cm2での範囲であることが好ましい。また、光エネルギーの有効利用の観点から、紫外線ランプには楕円型、放物線型、拡散型等の反射板を取り付けることが好ましく、さらには、冷却対策として熱カットフィルター等を取り付けてもよい。
【0035】
また、紫外線ランプの照射箇所には、冷却装置を取り付けることが好ましい。このような冷却装置により、紫外線ランプからの発生する熱に誘発される射出成形用ハードコートフィルム積層体の熱変形を抑制することができる。このような冷却装置の冷却方式としては、空冷方式、水冷方式等の公知の方法を採用することができる。
【0036】
なお、このように紫外線照射法により光硬化性樹脂組成物を硬化せしめる場合には、紫外線硬化反応はラジカル反応であるため酸素による反応阻害を受ける。そのため、光硬化性樹脂組成物の硬化反応における酸素による反応阻害を抑制するという観点から、光硬化性樹脂組成物を塗布した後にその表面を透明なプラスチックフィルムからなるカバー層で覆うことが好ましい。また、このように光硬化性樹脂組成物の表面をカバー層で覆うことより、光硬化性樹脂組成物の表面における酸素濃度1%以下にすることが好ましく、0.1%以下にすることが好ましい。このように酸素濃度を小さくするためには、表面に空孔がなく、酸素透過率の小さい透明なプラスチックフィルムを採用することが好ましい。このようなフィルムの材質としては、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PBT(ポリブチレンフタレート)、PC(ポリカーボネート)、ポリプロピレン、ポリエチレン、アセテート樹脂、アクリル系樹脂、フッ化ビニル系樹脂、ポリアミド、ポリアリレート、セロファン、ポリエーテルスルホン、ノルボルネン系樹脂等のプラスチックが挙げられる。これらのプラスチックは、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。なお、このようなプラスチックフィルムは、硬化後の光硬化性樹脂組成物(ハードコート層)との剥離が可能でなければならないため、プラスチックフィルムの表面にシリコン塗布、フッ素塗布等の易剥離処理が施されているものを用いることが好ましい。
【0037】
次に、本発明にかかる射出成形体8の製造方法について説明する。まず、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、及びポリエチレンテレフタレートからなる群から選ばれた1種の樹脂の単層又は2種以上の複数層からなる基材層4の片面にハードコート層2とプラスチックフィルムのカバー層3が積層一体化されたハードコートフィルム積層体を射出成形型内に配置せしめる。例えば図2(a)に示すように、第1射出成形型5のキャビティー内にハードコートフィルム積層体1を平面状のまま配置する。このときハードコートフィルム積層体1のプラスチックフィルムのカバー層3が第1射出成形型5のキャビティー壁面に当接するように配置する。
【0038】
しかる後、図2(b)に示すように、第1射出成形型5に第2射出成形型6を重ね合わせて閉締し、この状態で射出ゲートを介して型5、6内のキャビティーに熱可塑性樹脂を射出する。この時、熱可塑性樹脂の射出成形が行われて樹脂成形体が形成されると同時に該樹脂成形体の表面に前記ハードコートフィルム積層体が賦形されつつ一体化される。その後、図3の表面にあるプラスチックフィルムのカバー層3を剥離することによって、表面にハードコート部を備えた射出成形体8が得られる。
【0039】
また、図4はハードコートフィルム積層体1を連続的に供給する機構を備えた射出成形機の全体を表す模式図である。ここでは固定側プラテン11に図2における第2射出成型6を配置し、可動側プラテン9に前記第1射出成形型5を配置し、可動側プラテン9に沿うようにしてフィルム装填機13よりハードコートフィルム積層体1を第1射出成形型5に供給し、可動側プラテン9を移動させることで第1射出成形型5を第2射出成形型6と重ね合わせて閉締したのち、ノズル12より熱可塑性樹脂を射出することで射出成形体8が得られる。その後、フィルム装填機を操作することで次の射出成形体を得るためのハードコートフィルム積層体1を供給することができる。なお、フィルム装填機は供給側から連続的に巻き出す機構を有していればよく、必ずしも巻き取りのための機構を有していなくてもよい。
【0040】
前記射出成形用樹脂としては、即ち前記樹脂成形体7を構成する熱可塑性樹脂としては、前記基材層(ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、又はポリエチレンテレフタレートの1種以上を含んだ基材層)4と溶融一体化し得て透明性を有する熱可塑性樹脂であれば特に限定されないが、好適には、ポリカーボネート樹脂、PMMA樹脂、又はPET樹脂であるのがよい。
【0041】
また、前記射出成形用樹脂には、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、可塑剤防止剤等の各種添加剤などを配合してもよい。
【0042】
前記射出成形型の形状は、平面形状金型及び曲率がある金型を使用することができる。曲率がある金型は伸び率が0.1%〜10%となるようなRと端部までの長さ及び落ち込み量に設定されたものが望ましい。
【実施例】
【0043】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り「部」は「質量部」を表す。
【0044】
(実施例1)
下記構造式(4)
【化3】

で表わされるシルセスキオキサン25部、ジペンタエリスリトール(日本化薬社製、商品名「KAYARAD DPHA」)65部、ジメチロールトリシクロデカンジアクリレート(共栄社化学社製、商品名「ライトアクリレートDCP−A」)10部、及びヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製、商品名「IRGACURE184」)2.5部を均一に攪拌混合した後、脱泡して液状の光硬化性樹脂組成物を得た。
【0045】
次に、得られた液状の光硬化性樹脂組成物を、予めシランカップリング剤(信越化学工業製、商品名「KBE−903」)で表面処理したポリカーボネートフィルム(住友化学製、商品名「テクノロイC000」)に硬化後の厚みが0.05mmとなるように硬化収縮による膜べり分を考慮して塗布した。そして、透明なプラスチックフィルム(材質:ポリエチレンテレフタレート、波長550nmでの光透過率90%以上)を塗工した光硬化性樹脂へ圧着してカバー層とした後、メタルハライドランプにて紫外線を6400mJ/cm2の照射露光量で照射してハードコート層を硬化せしめることにより、図1に示すようなポリカーボネート樹脂からなる基材層4−ハードコート層2−カバー層3の三層構造からなる射出成形用ハードコートフィルム積層体1を得た。
【0046】
次に、図2(a)に示すように、第1射出成形型5内にハードコートフィルム積層体1を平面状のままカバー層3の一部が第1射出成形金型のキャビティー壁面に当接する態様で配置した後、第1射出成形金型の上に第2射出成形金型を重ね合わせ、この状態で射出ゲートより金型内のキャビティーに、予め120℃で24時間乾燥せしめたポリカーボネート樹脂(出光株式会社製、商品名「タフロン1900」)を、樹脂温度280℃、金型温度80℃、設定射出圧力1700kg/cm2、射出時間3秒の条件で射出することによって、図3に示すような厚み3mmのポリカーボネート樹脂からなる樹脂成形体7の表面にハードコートフィルム積層体1からなるハードコート部を備えた射出成形体8を得た。
【0047】
上記のようにして得られたハードコート部を備えた射出成形体8について、以下のようにして表面硬度及び強度を評価した。結果を表1に示す。
【0048】
<表面硬度評価法>
ハードコート部を備えた成形体に対してJIS K5600−5−4 引っかき硬度(鉛筆法)に準拠して行った。また、スチールウール試験を行った。スチールウール試験は消しゴム試験機(株式会社本光製作所製)を用い、スチールウール#0000を用いて行い、荷重500gでスチールウールを往復させた。
【0049】
<強度評価法>
ハードコート部を備えた成形体に対して曲げ試験を行った。試験方法としては、中央が開口している土台の上に(開口部:80mm×50mm)、120mm×30mmの試験片を置き、上方から、押し芯先端R:SR5、速度:5mm/cm、押し込み深さ40mmまで押し込んだときの曲げ応力、及びハードコート層の表面状態を観察した。
【0050】
(実施例2)
上記の液状の光硬化性樹脂組成物を硬化後の厚みが0.025mmとなるように塗布し、実施例1と同様の方法でハードコート部を備えた射出成形体8を得た後、実施例1と同様に評価を行った。
【0051】
(実施例3)
ポリカーボネートフィルムとPMMAフィルムとが貼り合わされたポリカーボネート・PMMAフィルム(住友化学製、商品名「テクノロイC001」)のポリカーボネートフィルム側を予めシランカップリング剤(信越化学工業製、商品名「KBE−903」)で表面処理した。表面処理したポリカーボネートフィルム側に上記の液状の光硬化性樹脂組成物を硬化後の厚みが0.07mmとなるように塗布し、実施例1と同様の方法でハードコート部を備えた射出成形体8を得た後、実施例1と同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0052】
(比較例1)
上記の液状の光硬化性樹脂組成物を硬化後の厚みが0.015mmとなるように塗布し、実施例1と同様の方法でハードコート部を備えた射出成形体8を得た後、実施例1と同様に評価を行った。
【0053】
(比較例2)
比較例としてポリカーボネートシートの表面にアクリル系ハードコートが施された三菱ガス化学製商品名ユーピロン・シートMR58(厚み0.65mm)を貼着して、実施例1と同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0054】
(実施例4)
上記の液状の光硬化性樹脂組成物を、予めシランカップリング剤(信越化学工業製、商品名「KBE−903」)で表面処理したPMMAフィルム(住友化学製、商品名「テクノロイS001G」)に硬化後の厚みが0.1mmとなるように塗布し、実施例1と同様の方法で射出成形用ハードコートフィルム積層体1を得た。その後、実施例1と同様の方法で射出樹脂をPMMA樹脂(住友化学製、商品名「スミペックス HT55X」)にして、樹脂温度250℃、金型温度80℃、設定射出圧力129MPa、射出時間6秒の条件で射出することによって、図3に示すような厚み1.6mmのPMMA樹脂からなる樹脂成形体7の表面にハードコートフィルム積層体1からなるハードコート部を備えた射出成形体8を得た。実施例1と同様に評価を行った結果を表1に示す。
【0055】
(実施例5)
上記構造式(4)で表わされるシルセスキオキサン15部、ジペンタエリスリトール(日本化薬社製、商品名「KAYARAD DPHA」)55部、ジメチロールトリシクロデカンジアクリレート(共栄社化学社製、商品名「ライトアクリレートDCP−A」)30部、及びヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製、商品名「IRGACURE184」)2.5部を均一に攪拌混合した後、脱泡して液状の光硬化性樹脂組成物を得た。
【0056】
上記の液状の光硬化性樹脂組成物を硬化後の厚みが0.050mmとなるように塗布し、実施例1と同様の方法でハードコート部を備えた射出成形体8を得た。実施例1と同様に評価を行った結果を表1に示す。
【0057】
(実施例6)
上記構造式(4)で表わされるシルセスキオキサン70部、ジペンタエリスリトール(日本化薬社製、商品名「KAYARAD DPHA」)20部、ジメチロールトリシクロデカンジアクリレート(共栄社化学社製、商品名「ライトアクリレートDCP−A」)10部、及びヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製、商品名「IRGACURE184」)2.5部を均一に攪拌混合した後、脱泡して液状の光硬化性樹脂組成物を得た。
【0058】
上記の液状の光硬化性樹脂組成物を硬化後の厚みが0.050mmとなるように塗布し、実施例1と同様の方法でハードコート部を備えた射出成形体8を得た。実施例1と同様に評価を行った結果を表1に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
(参考例)
上記実施例1で用いた液状の光硬化性樹脂組成物を硬化後の厚みが0.050mmとなるように基材層用のPET上に塗布し、その上から別のカバー層用のPETを、塗工した光硬化性樹脂へ圧着した後、超高圧水銀ランプにて紫外線を6400mJ/cm2の照射露光量で照射してハードコート層を硬化せしめた。硬化後、基材層用及びカバー層用のPETをそれぞれ剥離することによってハードコート層のみのフィルムを得た。
【0061】
<光線透過率測定>
ハードコート層のみの光線透過率は分光光度計(株式会社日立製作所製、Spectrophotometer U−4000)で測定したところ、550nmでの透過率91.7%であった。結果を図5に示す。
【0062】
<動的粘弾性測定>
ハードコート層のみのガラス転移温度は動的粘弾性測定装置(株式会社ユービーエム製、DVE−V4レオスペクトラー)で測定した。結果は図6に示したとおりであり、tanδで表されるガラス転移温度は230℃までの測定では観測されなかった。なお、ここで、E'は貯蔵弾性率を示し、E''は損失弾性率を示し、tanδ=E''/E'である。
【0063】
また、実施例5及び実施例6で用いた光硬化性樹脂組成物についても同様に光線透過率、動的年弾性測定を行ったが、いずれも透過率90%以上であり、230℃までの測定でガラス転移温度は観測されなかった。
【符号の説明】
【0064】
1:射出成形用ハードコートフィルム積層体
2:ハードコート層
3:カバー層
4:基材層
5:第1射出成形型
6:第2射出成形型
7:樹脂成形体
8:射出成形体
9:可動側プラテン
10:タイバー
11:固定側プラテン
12:ノズル
13:フィルム装填機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、及びポリエチレンテレフタレートからなる群から選ばれた1種の樹脂の単層又は2種以上の複数層からなる基材層と、該基材層の片面に積層一体化されたハードコート層とを備えた射出成形用ハードコートフィルム積層体を射出成形型内に配置して、その状態で型内にポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、又はポリエチレンテレフタレートのいずれかを射出することによって樹脂の成形を行うと同時に樹脂成形体の表面に前記ハードコートフィルム積層体を一体化させることを特徴とする射出成形体の製造方法。
【請求項2】
前記ハードコート層は、光硬化性を有する籠型シルセスキオキサン樹脂を含有した光硬化性樹脂組成物を硬化させて厚みが20μm以上からなり、波長550nmでの透過率が90%以上であって、且つ、ガラス転移温度が230℃以上であることを特徴とする請求項1記載の射出成形体の製造方法。
【請求項3】
前記籠型シルセスキオキサン樹脂は、下記一般式(1):
RSiX3 ・・・(1)
〔式(1)中、Rは(メタ)アクリロイル基を有する有機官能基又はビニル基を示し、Xはアルコキシ基、又はアセトキシ基から選ばれる加水分解基を示す。〕で表わされるケイ素化合物を有機極性溶媒及び塩基性触媒存在下で加水分解反応させると共に一部縮合させ、得られた加水分解生成物を更に非極性溶媒及び塩基性触媒存在下で再縮合させて得られるものであることを特徴とする請求項2に記載の射出成形体の製造方法。
【請求項4】
前記籠型シルセスキオキサン樹脂が、下記一般式(2):
[RSiO3/2n ・・・(2)
〔式(2)中、Rは(メタ)アクリロイル基を有する有機官能基又はビニル基を示し、nは8、10、12又は14を示す。〕で表わされる籠型シルセスキオキサン樹脂であることを特徴とする請求項2又は3に記載の射出成形体の製造方法。
【請求項5】
前記Rが、下記一般式(3):
【化1】

〔式(3)中、R1は水素原子又はメチル基を示し、mは1〜3の整数を示す。〕で表わされる有機官能基であることを特徴とする請求項3又は4に記載の射出成形体の製造方法。
【請求項6】
前記ハードコート層側の表面にプラスチックフィルムのカバー層を更に備えることを特徴とする請求項1〜5のうちいずれか一項に記載の射出成形体の製造方法。
【請求項7】
基材層の厚みが30〜300μmの範囲であることを特徴とする請求項1〜6のうちいずれか一項に記載の射出成形体の製造方法。
【請求項8】
射出成形用ハードコートフィルム積層体がロール状態に巻き取られた状態から射出成形型内に連続的に供給されることを特徴とする請求項1〜7のうちいずれか一項に記載の射出成形体の製造方法。
【請求項9】
射出成形用ハードコートフィルム積層体がシート状にカットされた状態から射出成形型内に1枚ずつ供給されることを特徴とする請求項1〜7のうちいずれか一項に記載の射出成形体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−183818(P2012−183818A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−220236(P2011−220236)
【出願日】平成23年10月4日(2011.10.4)
【出願人】(000006644)新日鐵化学株式会社 (747)
【Fターム(参考)】