説明

射出成形用金型及びこれを用いた樹脂成形品の製造方法

【課題】それ自体に剛性のない第1シート体が所定の形状・位置に維持されながら埋設され、射出成形と同時に第2シート体が表面に形成される樹脂成形品の製造に用いられる射出成形用金型及びこれを用いた樹脂成形品の製造方法を提供する。
【解決手段】射出成形用金型20は、固定型21と、型締めによって固定型21との間にキャビティ30を形成する可動型22とを備え、可動型22は、外周型29と、外周型29内を外周型29に対して相対的に型締め方向に前進後退可能なスライド型23とを備えている。2点鎖線で示したように、インサートシート32が埋設され、インサートシート72が表面に形成される樹脂成形品60に対応するキャビティ30が形成されている。射出成型用金型20に、インサートシート32及びインサートシート72を配置して所定の動作させることにより、デザインバリエーションを拡大させる樹脂成形品60を製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は射出成形用金型に関し、特に第1シート体が埋設されると共に射出成形と同時に第2シート体が表面に形成される樹脂成形品の製造に用いることができる射出成形用金型及びこれを用いた樹脂成形品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
形状を保持するために、内部に芯材を埋設させた樹脂成形品がある。芯材は樹脂成形品の内部に完全に埋設されたり、一部露出して埋設されている。芯材には、それ自体に剛性のある材料が使用され、金属板や硬質樹脂板等が使用されている。このような樹脂成形品は、例えば樹脂の射出成形により製造され、その製造に用いられる射出成形用金型及びその製造方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。上記射出成形用金型は、固定型と、その固定型とのパーティング面を有する可動型と、固定型の内部を型締め方向に移動可能なスライド型(コアピン)とを備えている。そして、ゲートが、埋設される芯材の両面に分かれて樹脂が流入するように、キャビティに配置された芯材の側方に設けられている。
【0003】
この射出成形用金型を用いて、芯材が埋設された樹脂成形品が製造されている。先ず、型開きした状態で所定の位置に芯材を配置し、固定型と可動型とで芯材の端部を挟持するようにして型締めする。次に、芯材が所定の位置を維持するようにスライド型をキャビティ内に前進移動させて芯材を保持する。尚、芯材には剛性があるため、所定の位置に安定して保持される。次に、上記ゲートからキャビティ内に溶融樹脂を射出して、溶融樹脂が芯材の両面に分かれて流入し、溶融樹脂がキャビティ内にほぼ充填したときに、芯材を保持していたスライドコア型を後退移動させる。次に、溶融樹脂を更に射出して、キャビティ内全てに溶融樹脂が充填される。次に、キャビティ内を保圧し、キャビティ内に充填された溶融樹脂を冷却し固化させる。次に、型開きして樹脂成形品を金型内から取り出す。このような製造方法により、芯材が埋設された樹脂成形品が製造される。
【特許文献1】特開平4−16316号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような従来の射出成形用金型及びこれを用いた樹脂成形品の製造方法では、芯材の代わりにフィルム等のそれ自体に剛性のないシート体を樹脂成形品に埋設させる場合に、シート体を所定の形状・位置に維持させて、キャビティ内に樹脂を充填させることは困難である。キャビティの型面から浮いた状態でシート体が保持されても、シート体自体に剛性がないため、キャビティ内への樹脂の流入によって、シート体にずれやしわが生じてしまう。よって、シート体を所定の形状・位置に埋設させて樹脂成形品を製造することは困難である。又、1つのシート体を埋設させ、射出成形と同時に別のシート体を表面に形成して、2つのシート体から構成されたデザインバリエーションを拡大させる樹脂成形品を製造することも困難である。
【0005】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、それ自体に剛性のない第1シート体が所定の形状・位置に維持されながら埋設されると共に射出成形と同時に第2シート体が表面に形成される、デザインバリエーションを拡大させる樹脂成形品の製造に用いられる射出成形用金型及びこれを用いた樹脂成形品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、第1の発明は、第1シート体が埋設され、射出成形と同時に第2シート体が表面に形成される樹脂成形品の製造に用いることができる射出成形用金型であって、樹脂成形品における第1シート体の一方面側の面に対応する第1キャビティ面が形成された第1型と、型締めによって第1型との間にキャビティを形成する第2型とを備え、第1型又は第2型は、外周型と、前記外周型内を前記外周型に対して相対的に型締め方向に前進後退可能であり、樹脂成形品における第1シート体の他方側の面に対応する第2キャビティ面が形成されたスライド型とを含み、第1キャビティ面に沿って第1シート体が配置され、第2キャビティ面に沿って第2シート体が配置され、型締め状態において、スライド型が前進した位置で第1シート体と第2シート体との間に形成される第1部分キャビティに、第1樹脂部を形成するように第1樹脂が射出される第1ゲートと、第1シート体が第1樹脂部に固着してから、スライド型を、第1樹脂部を保持した状態で後退させて、スライド型が後退した位置で第1シート体と第1キャビティ面との間に第2部分キャビティを形成し、その第2部分キャビティに、第2樹脂部を形成するように第2樹脂が射出される第2ゲートとを備えたものである。
【0007】
このように構成すると、第1シート体が第2キャビティ面の形状に維持されながら第1樹脂部と第2樹脂部との間に埋設されると共に、射出成形と同時に第2シート体が表面に形成される。
【0008】
第2の発明は、第1の発明の構成において、第1樹脂と第2樹脂とは同一の樹脂であり、第1ゲートと第2ゲートとは、同一のゲートである。
【0009】
このように構成すると、2重成形において設定されるゲートの数が少なくなる。
【0010】
第3の発明は、第1又は第2の発明の射出成形用金型を用いた、第1シート体が埋設され、射出成形と同時に第2シート体が表面に形成される樹脂成形品の製造方法であって、型開きした状態で第1キャビティ面に沿って第1シート体を配置して、第2キャビティ面に沿って第2シート体を配置する工程と、第2シート体が配置されたスライド型を前進させた位置で型締めして、第1部分キャビティを形成する工程と、形成された第1部分キャビティに第1ゲートを介して第1樹脂を射出して第1樹脂部を形成する工程と、形成された第1樹脂部に第1シート体及び第2シート体を固着させる工程と、第1樹脂部に第1シート体が固着してから、スライド型を、第1樹脂部を保持した状態で後退させて、第2部分キャビティを形成する工程と、形成された第2部分キャビティに第2ゲートを介して第2樹脂を射出して第2樹脂部を形成し、その形成された第2樹脂部を第1シート体に固着させる工程とを備えたものである。
【0011】
このように構成すると、第1シート体が第1キャビティ面の形状に維持されながら第1樹脂部と第2樹脂部との間に埋設されると共に、射出成形と同時に第2シート体が表面に形成される。
【0012】
第4の発明は、第3の発明の構成において、第1樹脂と第2樹脂とは同一の樹脂である。
【0013】
このように構成すると、第1樹脂と第2樹脂とが互いに溶着して固着性が向上する。
【0014】
第5の発明は、第3又は第4の発明の構成において、第1樹脂と第2樹脂とが同一の樹脂である場合は、第1樹脂と第2樹脂とが透明又は半透明であり、第1樹脂と第2樹脂とが相違する樹脂である場合は、第1樹脂及び第2樹脂の少なくとも1つが、透明又は半透明である。
【0015】
このように構成すると、埋設された第1シート体が樹脂成形品の外部から可視化される。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、第1の発明は、第1シート体が第2キャビティ面の形状に維持されながら第1樹脂部と第2樹脂部との間に埋設されると共に、射出成形と同時に第2シート体が表面に形成される。そのため、それ自体に剛性のない第1シート体が所定の形状・位置に維持されながら埋設され、第2シート体が表面に形成された2つのシート体を射出成形と同時に構成したデザインバリエーションを拡大させる樹脂成形品を製造することができる。
【0017】
第2の発明は、第1の発明の効果に加えて、2重成形において設定されるゲートの数が少なくなるため、金型の構造を簡単にすることができる。
【0018】
第3の発明は、第1シート体が第2キャビティ面の形状に維持されながら第1樹脂部と第2樹脂部との間に埋設されると共に、射出成形と同時に第2シート体が表面に形成される。そのため、それ自体に剛性のない第1シート体が所定の形状・位置に維持されながら埋設され、第2シート体が表面に形成された2つのシート体を射出成形と同時に構成した樹脂成形品を製造することができる。
【0019】
第4の発明は、第3の発明の効果に加えて、第1樹脂と第2樹脂とが互いに溶着して固着性が向上するため、樹脂成形品の品質を向上させることができる。
【0020】
第5の発明は、第3又は第4の発明の効果に加えて、埋設された第1シート体が樹脂成形品の外部から可視化されるため、第1シート体にデザインを施すことによって、様々なデザインの樹脂成形品を製造することができる。又、少なくとも第1樹脂が透明又は半透明であれば、第1シート体と第2シート体とをデザインにおいて関連付けると、立体的なデザイン等、更に様々なデザインの樹脂成形品を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
次に、発明の実施の形態について図を参照しながら説明する。
【0022】
図1は、その(1)がこの発明の第1の実施の形態による射出成形用金型を用いて製造される樹脂成形品の縦断面図であり、その(2)がこの発明の第1の実施の形態による射出成形用金型の概略構成を示した図であって、キャビティ中央を切断した縦端面図である。
【0023】
図1の(1)を参照して、樹脂成形品60は、矩形平板形状を有し、平面形状からなる第1樹脂部43と、第1樹脂部43に整列して重なる平面形状からなる第2樹脂部53とを備えている。第1樹脂部43と第2樹脂部53との間には、第1シート体であるインサートシート32が埋設され、第1樹脂部43の表面には射出成形と同時に貼り付けられる第2シート体であるインサートシート72が形成されている。樹脂成形品60はインサートシート32に沿った面状の拡がりを有する形状であり、例えば、携帯電話やパソコン等の電子機器の筐体の一部、家電製品の筐体の一部、自動車の内装パネルの一部等に使用される。尚、この発明において、第1シート体が埋設されるとは、第1シート体の端面を含む全部が、図1の(1)で示したように樹脂成形品の内部に形成される場合だけでなく、第1シート体の端面が樹脂成形品の端面と整列して外部に露出している場合や、第1シート体の端部が樹脂成形品の端面に沿って折り曲げられた状態で形成されている場合も含む。
【0024】
図1の(2)を参照して、射出成形用金型20は、固定型21と、型締めによって固定型21との間にキャビティ30を形成する可動型22とを備え、可動型22は、外周型29と、外周型29内を外周型29に対して相対的に型締め方向に前進後退可能なスライド型23とを備えている。図1の状態において、2点鎖線で示したように、インサートシート32が埋設され、インサートシート72が表面に形成される樹脂成形品60に対応するキャビティ30が形成されている。射出成形用金型20では、固定型21が第1型を構成し、可動型22が第2型を構成する。
【0025】
固定型21には、樹脂成形品60におけるインサートシート32の一方面側の面に対応する第1キャビティ面26が形成されている。第1キャビティ面26の中央上部には、第1ゲート40が構成されている。第1ゲート40からは、樹脂成形品60の第1樹脂部43を形成する第1樹脂、及び樹脂成形品60の第2樹脂部53を形成する第2樹脂が射出される。第1樹脂及び第2樹脂は溶融樹脂である。固定型21は、内部に、上記第1ゲート40に接続される第1樹脂流路41と、第1樹脂流路41に接続される1つのノズルタッチ部56を備えている。射出成形用金型20では、ホットランナーのバルブゲート方式が採用されている。第1ゲート40はバルブゲートであり、図示しないバルブを駆動させて第1ゲート40を所定のタイミングで開閉させる。
【0026】
外周型29は、パーティング面25のほぼ中央にスライド型23を型締め方向に摺動可能に収納する凹部を備えている。スライド型23には、樹脂成形品60におけるインサートシート32の他方面側の面の一部に対応する第2キャビティ面27が形成されている。外周型29の内周面には、第1キャビティ面26と第2キャビティ面27とを接続する第3キャビティ面28が形成されている。第3キャビティ面28は、樹脂成形品60の外周端面に対応している。キャビティ30は、上記第1キャビティ面26、第2キャビティ面27及び第3キャビティ面28に囲まれるようにして形成されている。
【0027】
スライド型23は、所定の前進した位置及び後退した位置を構成するように固定型21内を前進後退するように設定されている。所定の前進した位置とは、樹脂成形品60の厚み方向に対するインサートシート32が埋設される位置である。又、所定の後退した位置とは、樹脂成形品60の厚みを決定する位置である。
【0028】
固定型21及び可動型22は、図示しない射出成形機の固定盤及び可動盤に各々固定され、外周型29は図示しないタイバーに案内されながら、スライド型23は、外周型29の内周壁に摺動して案内されながら、図示しない駆動手段により型締め方向に可動する。スライド型23は、外周型に対して相対的に型締め方向に前進後退可能となっている。外周型29やスライド型23の動作に合わせて、第1ゲート40は、時間制御によりその開閉が行われる。
【0029】
上記のように構成される射出成形用金型20では、第1樹脂と第2樹脂は同一の樹脂が使用され、図示しない射出成形機の1つのノズルをノズルタッチ部56に接触させて、第1樹脂及び第2樹脂をキャビティ30に流入させる。第1樹脂及び第2樹脂は、第1ゲート40が開くことにより、第1樹脂流路41を介して第1ゲート40から射出される。
【0030】
次に射出成形用金型20を用いた樹脂成形品60の製造方法について説明する。
【0031】
図1で示した射出成形用金型を用いた樹脂成形品の製造工程のうち、図2は型開きして第1シート体及び第2シート体を配置する工程を示した図である。図3はその(1)が型締めして第1部分キャビティを形成する工程を示した図であり、その(2)が第1部分キャビティに第1樹脂を射出して第1樹脂部を形成する工程を示した図である。図4はその(1)がスライド型を後退させて第2部分キャビティを形成する工程を示した図であり、その(2)が第2部分キャビティに第2樹脂を射出して第2樹脂部を形成する工程を示した図である。図5は、型開きして成形された樹脂成形品を取り出す工程を示した図である。
【0032】
図2を参照して、射出成形用金型20を型開きした状態で、固定型21の第1キャビティ面26に沿って所定の位置にインサートシート32を配置し、スライド型23の第2キャビティ面27に沿って所定の位置にインサートシート72を配置する。インサートシート32及びインサートシート72の位置決めは、例えば、インサートシート32及びインサートシート72にキャビティ30から突出する部分を設けてその突出する部分に孔を形成し、その孔に対応する位置決め固定ピンをパーティング面24及びパーティング面25に形成し、上記位置決め固定ピンに上記孔を嵌め合わせるようにして行われる。インサートシート32及びインサートシート72の位置固定は、図示しない吸引手段等により、インサートシート32は第1キャビティ面26に、インサートシート72は第2キャビティ面27に沿って密着するように吸引して行われる。
【0033】
次に、図3の(1)を参照して、インサートシート72が配置されたスライド型23を前進させた位置で型締めを行い、インサートシート72とインサートシート32との間に第1部分キャビティ42を形成する。換言すれば、スライド型23を前進させた位置で型締めを行い、第1キャビティ面26と第2キャビティ面27との間に第1部分キャビティ42を形成する。尚、インサートシート32及びインサートシート72の周縁より外方に形成されている空間も第1部分キャビティ42に含まれる。このとき、第1ゲート40は閉じた状態である。
【0034】
次に、図3の(2)を参照して、第1ゲート40を開いて、第1部分キャビティ42に第1ゲート40を介して第1樹脂を射出し、第1樹脂部43を形成する。次に、第1部分キャビティ42に第1樹脂が完全に充填された後に、第1ゲート40を閉じる。次に、第1樹脂部43にインサートシート32及びインサートシート72が固着して、第1樹脂部43が所定の硬さになるまで保圧・冷却する。この所定の硬さは、次に射出される第2樹脂の圧力によって第1樹脂部43が変形しない程度の硬さである。
【0035】
次に、図4の(1)を参照して、第1樹脂部43にインサートシート32が固着してから、スライド型23を、第1樹脂部43を保持した状態で所定の位置まで後退させて、インサートシート32と固定型21の第1キャビティ面26との間に第2部分キャビティ52を形成する。尚、インサートシート32の周縁より外方に形成されている空間も第2部分キャビティ52に含まれる。
【0036】
次に、図4の(2)を参照して、再び第1ゲート40を開いて、第2部分キャビティ52に第1ゲート40を介して第2樹脂を射出し、第2樹脂部53を形成する。そして、第2樹脂部53にインサートシート32が固着して、第2樹脂部53と第1樹脂部43とが一体化するまで保圧・冷却する。
【0037】
次に、図5を参照して、型開きして樹脂成形品60を取り出す。このようにして、インサートシート32が埋設され、射出成形と同時にインサートシート72が表面に形成された樹脂成形品60は製造される。
【0038】
次に、インサートシート32及びインサートシート72、第1樹脂及び第2樹脂の種類について説明する。
【0039】
インサートシート32及びインサートシート72は、ポリエチレンテレフタレート(PET)、アクリル(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)等の樹脂シートが使用される。第1樹脂や第2樹脂と同一の種類の樹脂からなる樹脂シートを使用すれば、第1樹脂部や第2樹脂部にインサートシート32やインサートシート72が溶着して固着し易くなる。樹脂シートには、例えば図柄層が形成される。図柄層は、表現したい図柄に応じて、樹脂シートの全面に形成されたり、部分的に形成されたりする。又、必要に応じて樹脂シートに接着層が形成されてもよい。接着層が形成されれば、第1樹脂及び第2樹脂と樹脂シートとが接着し、樹脂成形品の一体性を向上させることができる。尚、インサートシート32やインサートシート72は、樹脂シートに代えて、シート状のものであれば、紙、金属等樹脂以外の材料から構成されてもよい。
【0040】
図柄層は、樹脂をバインダーとして顔料や染料等の着色材を含有した着色インキにより形成される。バインダーとして使用される樹脂は、ポリビニル系樹脂、ポリアミド(PA)系樹脂、ポリエステル系樹脂、PMMA系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリエステルウレタン系樹脂、セルロースエステル系樹脂、アルキド樹脂等がある。図柄層は、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法等により樹脂シート上に印刷される。又、図柄として金属光沢を表現したい場合は、図柄層は、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、鍍金法等により形成される金属薄膜層により構成される。
【0041】
接着層は、第1樹脂及び第2樹脂の種類に適した感熱性又は感圧性のある樹脂が使用される。第1樹脂及び第2樹脂がPMMA系樹脂であれば、例えば、接着層もPMMA系樹脂を使用するとよい。第1樹脂及び第2樹脂がPC、ポリスチレン(PS)系樹脂であれば、例えば、接着層は、これらの樹脂と親和性のある、PMMA、PS、PA系樹脂を使用するとよい。接着層は、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法等により樹脂シート上に印刷される。
【0042】
第1樹脂及び第2樹脂は、樹脂成形品60が使用される製品に適した材質が使用される。例えば、ABS、PMMA、PS、スチレンアクリロニトリル(AS)、PC、ポリ塩化ビニル(PVC)、PP、PET樹脂等である。第1樹脂及び第2樹脂に、透明又は半透明の樹脂を使用することにより、インサートシート32自体やインサートシート32に形成された図柄層を樹脂成形品の外部から視認することができる。この発明において、半透明の樹脂とは、透明の樹脂を除いて、樹脂成形品60に埋設されたインサートシート32を樹脂成形品60の外部から視認することができる状態の樹脂である。尚、インサートシート32に、第1樹脂や第2樹脂と同種の樹脂からなる樹脂シートを使用すれば、樹脂成形品60の成形時に、第1樹脂や第2樹脂と樹脂シートとを溶着して固着させ易くすることができる。
【0043】
以上から、上記のように構成される射出成形用金型20を用いた樹脂成形品60の製造方法では、インサートシート32が第1キャビティ面26の形状に維持されながら第1樹脂部43と第2樹脂部53との間に埋設されると共に、射出成形と同時にインサートシート72が表面に形成される。そのため、それ自体に剛性のないインサートシート32が所定の形状・位置に維持されながら埋設され、インサートシート72が表面に形成された、2つのシート体を射出成形と同時に構成した、デザインバリエーションを拡大させる樹脂成形品を製造することができる。又、第1樹脂と第2樹脂とは同一の種類の樹脂であり第1樹脂と第2樹脂とは、同一のゲートから射出されるため、射出成形用金型20に設定されるゲートの数が少なくなる。そのため、ゲートに接続される樹脂流路も少なくなり、射出成形用金型20の構造を簡単にすることができる。
【0044】
更に、第1樹脂及び第2樹脂に透明又は半透明の樹脂を使用すれば、埋設されたインサートシート32が樹脂成形品60の外部から可視化される。そのため、インサートシート32にデザインを施すことによって、様々なデザインの樹脂成形品60を製造することができる。インサートシート32とインサートシート72とをデザイン的に関連付ければ、更に様々なデザインの樹脂成形品60を製造することができる。又、インサートシート32とインサートシート72とは第1樹脂部43を挟んで所定の間隔をあけて構成されるため、立体的なデザインの樹脂成形品60を製造することができる。更に、熱を放出・吸収したり、電磁波を遮断したりする等の機能を発揮するインサートシート32を埋設すれば、その機能を有する樹脂成形品60を製造することができる。第1樹脂と第2樹脂とは同一の樹脂であり、第1樹脂と第2樹脂とが互いに溶着して固着性が向上するため、樹脂成形品60の品質を向上させることができる。
【0045】
図6は、その(1)がこの発明の第2の実施の形態による射出成形用金型を用いて製造される樹脂成形品の縦断面図であり、その(2)がこの発明の第2の実施の形態による射出成形用金型の概略構成を示した図であって、キャビティ中央を切断した縦端面図であり、先の第1の実施の形態の図1に対応した図である。図7は、図6で示した射出成形用金型を用いた樹脂成形品の製造工程のうち、その(1)が第1部分キャビティに第1樹脂を射出して第1樹脂部を形成する工程を示した図であり、その(2)が第2部分キャビティに第2樹脂を射出して第2樹脂部を形成する工程を示した図であり、先の第1の実施の形態の図3の(2)及び図4の(2)に対応した図である。図8は、図6で示した射出成形用金型を用いた樹脂成形品の製造工程のうち、型開きして成形された樹脂成形品を取り出す工程を示した図であり、先の第1の実施の形態の図5に対応した図である。基本的な構成は第1の実施の形態による射出成形用金型20と共通するので、異なる点を中心に説明する。
【0046】
図6の(1)を参照して、第1の実施の形態による樹脂成形品60では、第1樹脂部43と第2樹脂部53とは整列して重なっていたが、第2の実施の形態による樹脂成形品81では、第2樹脂部53が第1樹脂部43より下方に延びるように大きくなっている。又、インサートシート72、第1樹脂部43及び第2樹脂部53の位置関係が、インサートシート32を基準に反転している。図6の(2)を参照して、第1の実施の形態による射出成形用金型20では、可動型22が外周型29及びスライド型23を備えていたが、第2の実施の形態による射出成型用金型80では、固定型21が外周型29及びスライド型23を備えている。又、キャビティ30に第1ゲート40に加えて第2ゲート50が構成されている。射出成形用金型80では、可動型22が第1型を構成し、固定型21が第2型を構成する。
【0047】
スライド型23は、矩形平板状の基部82と、基部のほぼ中央から型締め方向可動型22側に突出した凸部83とを備えている。外周型29は、矩形平板状を有し、ほぼ中央にスライド型23の凸部83が、摺動するように挿入される貫通孔が形成されている。可動型22のパーティング面25のほぼ中央が、樹脂成形品81におけるインサートシート32の一方面側の面に対応する第1キャビティ面26を構成し、凸部83の先端面が、樹脂成形品81におけるインサートシート32の他方面側の面に対応する第2キャビティ面27を構成している。外周型29の貫通孔周壁には、第1キャビティ面26と第2キャビティ面27とを接続する第3キャビティ面28が形成されている。
【0048】
第2キャビティ面27の下部は、スライド型23が外周型29に対して相対的に前進した位置では、可動型22のパーティング面25と接触するようになっている。第2キャビティ面27の中央上部に第1ゲート40が設定され、第2キャビティ面27の上記のようにパーティング面25と接触する下部の中央に第2ゲート50が設定されている。第1ゲート40からは、樹脂成形品81の第1樹脂部43を形成する第1樹脂が射出され、第2ゲート50からは、樹脂成形品81の第2樹脂部53を形成する第2樹脂が射出される。スライド型23は、内部に、上記第1ゲート40に接続される第1樹脂流路41と、上記第2ゲート50に接続される第2樹脂流路51と、第1樹脂流路41及び第2樹脂流路51が合流して接続される共通樹脂流路55とを備え、外面に、共通樹脂流路55に接続される1つのノズルタッチ部56を備えている。射出成型用金型80でも、射出成型用金型20と同様に、ホットランナーのバルブゲート方式が採用されている。第1ゲート40及び第2ゲート50はバルブゲートであり、図示しないバルブを駆動させて第1ゲート40及び第2ゲート50を所定のタイミングで開閉させる。
【0049】
外周型29は、型締め方向に前進後退するように可動する。スライド型23は、図示しない成形機の固定盤に固定され実質的には可動しない。しかしながら、外周型29からみれば、スライド型23は、外周型29に対して相対的に型締め方向に前進後退するように可動する。外周型29は、第2部分キャビティ52形成時には、可動型22と一体となって型締め方向に後退し、外周型29の貫通孔の内周壁がスライド型23の凸部83の外周壁に沿うようにして、摺動する。
【0050】
射出成形用金型80を用いた樹脂成形品81の製造方法にあっては、図7の(1)を参照して、可動型22の第1キャビティ面26に沿って所定の位置にインサートシート32を配置し、スライド型23の第2キャビティ面27に沿って所定の位置にインサートシート72を配置された状態から、スライド型23を前進させた位置で型締めを行い、インサートシート32とインサートシート72との間に第1部分キャビティ42を形成する。次に、第1ゲート40を開いて、第1部分キャビティ42に第1ゲートを介して第1樹脂を射出し、第1樹脂部43を形成する。以降、第1の実施の形態と同様の工程を経た後、図7の(2)を参照して、第1樹脂部43にインサートシート32が固着してから、外周型29に対して相対的にスライド型23を所定の位置まで後退させて、インサートシート32と第1キャビティ面26との間に第2部分キャビティ52を形成する。次に、第2ゲート50を開いて、第2部分キャビティ52に第2ゲート50を介して第2樹脂を射出し、第2樹脂部53を形成する。以降、第1の実施の形態と同様の工程を経た後、図8を参照して、型開きして樹脂成形品81を取り出す。このようにして、インサートシート32が埋設され、インサートシート72が表面に形成された樹脂成形品81は製造される。
【0051】
上記のように構成される射出成形用金型80を用いた樹脂成形品81の製造方法では、第1の実施の形態同様に、それ自体に剛性のないインサートシート32が所定の形状・位置に維持されながら埋設され、インサートシート72が表面に形成された、2つのシート体を射出成形と同時に構成した、デザインバリエーションを拡大させる樹脂成形品81を製造することができる。又、第1樹脂及び第2樹脂の少なくとも1つに透明又は半透明の樹脂を使用すれば、埋設されたインサートシート32が樹脂成形品81の外部から可視化される。そのため、インサートシート32にデザインを施すことによって、様々なデザインの樹脂成形品81を製造することができる。更に、第1樹脂流路41及び第2樹脂流路51を共通樹脂流路55で接続するのではなく、各々の樹脂流路に個別のノズルタッチ部56を設定すれば、第1樹脂と第2樹脂とは相違する樹脂を使用することができ、インサートシート32、インサートシート72、第1樹脂及び第2樹脂をデザイン的に関連付ければ、立体的なデザインを含めて様々なデザインの樹脂成形品81を製造することができる。
【0052】
射出成形用金型80では、スライド型23は外周型29に対して相対的に前進後退して可動しているが、実質的には成形機の固定盤に固定され静止し、外周型29が可動型22と連動して動作している。そのため、エアシリンダ等他の駆動手段を使用することなく、成形機の型締め装置による動作制御により、スライド型23を外周型29に対して相対的に前進後退可能に動作させることができる。又、可動型22にスライド型23が構成されないため、可動型22を簡単な構造とすることができる。
【0053】
尚、上記の各実施の形態では、剛性のないシート体が使用されているが、第1キャビティ面や第2キャビティ面に沿って配置することができれば、剛性のあるシート体が使用されてもよい。
【0054】
又、上記の第1の実施の形態では、第1ゲートが1つ設定されているが、第1ゲートは複数設定されてもよい。
【0055】
更に、上記の第2の実施の形態では、第1ゲート及び第2ゲートが各々1つずつ設定されているが、第1ゲート及び第2ゲートが各々複数設定されてもよい。
【0056】
更に、上記の第2の実施の形態では、第1樹脂流路及び第2樹脂流路が共通樹脂流路から分岐して形成されているが、第1樹脂流路及び第2樹脂流路の各々が独立して形成されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】その(1)がこの発明の第1の実施の形態による射出成形用金型を用いて製造される樹脂成形品の縦断面図であり、その(2)がこの発明の第1の実施の形態による射出成形用金型の概略構成を示した図であって、キャビティ中央を切断した縦端面図である。
【図2】図1で示した射出成形用金型を用いた樹脂成形品の製造工程のうち、型開きして第1シート体及び第2シート体を配置する工程を示した図である。
【図3】図1で示した射出成形用金型を用いた樹脂成形品の製造工程のうち、その(1)が型締めして第1部分キャビティを形成する工程を示した図であり、その(2)が第1部分キャビティに第1樹脂を射出して第1樹脂部を形成する工程を示した図である。
【図4】図1で示した射出成形用金型を用いた樹脂成形品の製造工程のうち、その(1)がスライド型を後退させて第2部分キャビティを形成する工程を示した図であり、その(2)が第2部分キャビティに第2樹脂を射出して第2樹脂部を形成する工程を示した図である。
【図5】図1で示した射出成形用金型を用いた樹脂成形品の製造工程のうち、型開きして成形された樹脂成形品を取り出す工程を示した図である。
【図6】その(1)がこの発明の第2の実施の形態による射出成形用金型を用いて製造される樹脂成形品の縦断面図であり、その(2)がこの発明の第2の実施の形態による射出成形用金型の概略構成を示した図であって、キャビティ中央を切断した縦端面図である。
【図7】図6で示した射出成形用金型を用いた樹脂成形品の製造工程のうち、その(1)が第1部分キャビティに第1樹脂を射出して第1樹脂部を形成する工程を示した図であり、その(2)が第2部分キャビティに第2樹脂を射出して第2樹脂部を形成する工程を示した図である。
【図8】図6で示した射出成形用金型を用いた樹脂成形品の製造工程のうち、型開きして成形された樹脂成形品を取り出す工程を示した図である。
【符号の説明】
【0058】
20,80 射出成形用金型
21 固定型
22 可動型
23 スライド型
26 第1キャビティ面
27 第2キャビティ面
29 外周型
30 キャビティ
32,72 インサートシート
40 第1ゲート
42 第1部分キャビティ
43 第1樹脂部
50 第2ゲート
52 第2部分キャビティ
53 第2樹脂部
60,81 樹脂成形品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1シート体が埋設され、射出成形と同時に第2シート体が表面に形成される樹脂成形品の製造に用いることができる射出成形用金型であって、
前記樹脂成形品における前記第1シート体の一方面側の面に対応する第1キャビティ面が形成された第1型と、
型締めによって前記第1型との間にキャビティを形成する第2型とを備え、
前記第1型又は前記第2型は、外周型と、前記外周型内を前記外周型に対して相対的に型締め方向に前進後退可能であり、前記樹脂成形品における前記第1シート体の他方側の面に対応する第2キャビティ面が形成されたスライド型とを含み、
前記第1キャビティ面に沿って前記第1シート体が配置され、前記第2キャビティ面に沿って前記第2シート体が配置され、型締め状態において、前記スライド型が前進した位置で前記第1シート体と前記第2シート体との間に形成される第1部分キャビティに、第1樹脂部を形成するように第1樹脂が射出される第1ゲートと、
前記第1シート体が前記第1樹脂部に固着してから、前記スライド型を、前記第1樹脂部を保持した状態で後退させて、前記スライド型が後退した位置で前記第1シート体と前記第1キャビティ面との間に第2部分キャビティを形成し、その第2部分キャビティに、第2樹脂部を形成するように第2樹脂が射出される第2ゲートとを備えた、射出成形用金型。
【請求項2】
前記第1樹脂と前記第2樹脂とは同一の樹脂であり、前記第1ゲートと前記第2ゲートとは、同一のゲートである、請求項1記載の射出成形用金型。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載の射出成形用金型を用いた、第1シート体が埋設され、射出成形と同時に第2シート体が表面に形成される樹脂成形品の製造方法であって、
型開きした状態で前記第1キャビティ面に沿って前記第1シート体を配置して、前記第2キャビティ面に沿って前記第2シート体を配置する工程と、
前記第2シート体が配置された前記スライド型を前進させた位置で型締めして、前記第1部分キャビティを形成する工程と、
前記形成された第1部分キャビティに前記第1ゲートを介して第1樹脂を射出して第1樹脂部を形成する工程と、
前記形成された第1樹脂部に前記第1シート体及び前記第2シート体を固着させる工程と、
前記第1樹脂部に前記第1シート体が固着してから、前記スライド型を、前記第1樹脂部を保持した状態で後退させて、前記第2部分キャビティを形成する工程と、
前記形成された第2部分キャビティに前記第2ゲートを介して第2樹脂を射出して第2樹脂部を形成し、その形成された第2樹脂部を前記第1シート体に固着させる工程とを備えた、樹脂成形品の製造方法。
【請求項4】
前記第1樹脂と前記第2樹脂とは同一の樹脂である、請求項3記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項5】
前記第1樹脂と前記第2樹脂とが同一の樹脂である場合は、前記第1樹脂と前記第2樹脂とが透明又は半透明であり、前記第1樹脂と前記第2樹脂とが相違する樹脂である場合は、前記第1樹脂及び前記第2樹脂の少なくとも1つが、透明又は半透明である、請求項3又は請求項4記載の樹脂成形品の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2010−23376(P2010−23376A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−188820(P2008−188820)
【出願日】平成20年7月22日(2008.7.22)
【出願人】(000231361)日本写真印刷株式会社 (477)
【Fターム(参考)】