説明

射出成形用金型及び複合品の製造方法

【課題】金属製材料の表面の加飾と裏面の樹脂部の成形とを良好に行うことができる射出成形用金型及び複合品の製造方法を得る。
【解決手段】凸状部20aを有する金属体20の表面に加飾層を形成するとともに、金属体20の裏面に樹脂部が形成された複合品の製造に用いる射出成形用金型であって、金属体20を配置する第1型1と、第1型1と型締めして、第1型1と金属体20との間に樹脂注入用のキャビティを形成する第2型2と、第1型1と第2型2との型締め前に、転写シート12を第2型2の型面から離間する位置に配置するとともに、転写シート12を金属体20の凸状部20aに押し付けつつ、凸状部20aに沿って接触させる加飾シート保持機構と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属体の表面に加飾層が形成されるとともに、裏面に樹脂部が形成された複合品を得るための射出成形用金型及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属製材料と樹脂が一体化した成形品は、自動車、家庭用電化製品、携帯電話、パーソナルコンピュータ等あらゆる分野で使用されている。金属製材料に樹脂を接着して、金属と樹脂の複合品を製造する方法としては、樹脂による射出成形を用いる方法や、金属の表面に接着層を塗布して樹脂層を接着する方法が採用されてきた。
また、金属製材料の表面への加飾は、塗装、昇華転写、レーザープリント、ホットスタンプ、シルク印刷等によって行っていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
樹脂部に射出成形と同時に加飾を施す場合には、図19(a)のように、キャビティを形成する第2型2に加飾シートとして、例えば転写シート12を配置し、第2型2に設けられた吸引部で吸引してキャビティ面に沿わせた後、図19(b)のように、第1型1を型締めして樹脂を注入する。このとき、図19(a)のように、転写シート12の一部は第2型2のキャビティ面から離間する。しかし、その後注入される溶融樹脂の熱及び圧力によって、転写シート12が伸ばされ、第2型2のキャビティ面に追従する。この場合、第1型1と第2型2とを型締めした際には、両者の間にキャビティが形成される。このため、上記の如く、型締めに際して転写シート12が第2型2に密着していなくても、第1型1の型締めに際して転写シート12が第1型1と擦れて破損する可能性は少ない。このため、第2型2のキャビティがある程度深い絞り形状であっても特に問題は生じない。
【0004】
ところが、図20のように、キャビティと同形状の金属製材料20をインサートし、金属製材料20の表面を加飾しつつ裏面に樹脂部30を形成する場合には、転写シート12は型締めの際に金属製材料20と密着することになる。さらに、金属製材料20および転写シート12と第2型2のキャビティ面とも略完全に密着するから、型締めに際して転写シート12は、略製品形状となるまで変形する。よって、金属製材料20のうち曲率の大きな箇所等において、転写シート12が第2型2と金属製材料20とによって強く擦られ、加飾層の亀裂や転写シート12のベースフィルムの破損等の不都合が生じ易かった。
また、型締めに際して、第1型1および第2型2はある程度加熱してあるものの、金属製材料20は通常冷えた状態にある。よって、金属製材料20に接触した転写シート12が軟化し易い状態になるとも言えない。よって、型締めの際に、転写シート12は一層破損し易い状態となっていた。
【0005】
そこで、本発明は、金属製材料の表面の加飾と裏面の樹脂部の成形とを良好に行うことができる射出成形用金型及び複合品の製造方法を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る射出成形用金型の第1の特徴構成は、凸状部を有する金属体の表面に加飾層を形成するとともに、前記金属体の裏面に樹脂部が形成された複合品の製造に用いる射出成形用金型であって、
前記金属体を配置する第1型と、
前記第1型と型締めして、前記第1型と前記金属体との間に樹脂注入用のキャビティを形成する第2型と、
前記第1型と前記第2型との型締め前に、加飾シートを前記第2型の型面から離間する位置に配置するとともに、前記加飾シートを前記金属体の凸状部に押し付けつつ、前記凸状部に沿って接触させる加飾シート保持機構と、を備えた点にある。
【0007】
この構成のように、凸状部を有する金属体の表面に加飾層を形成するとともに、前記金属体の裏面に樹脂部が形成された複合品を製造する際に、射出成形用金型の加飾シート保持機構によって加飾シートが第2型の型面から離間する位置に配置されるので、型締め前に加飾シートを第2型とは接触しない状態で金属体の表面に接触させ、金属体の凸部に沿わせることができる。すなわち、加飾シートを金属体の凸状部へ押し付ける際に、第2型に妨げられることなく加飾シートが伸びて、金属体の凸状部に沿わせることができる。このように、加飾シート保持機構によって型締め前に金属体の凸状部に加飾シートを沿わせてから、その後、型締めを完了させることで、第2型のキャビティが深絞りであっても型締めの際に加飾シートが破れることなく良好な複合品を製造できる。
【0008】
本発明に係る射出成形用金型の第2の特徴構成は、前記第1型に設けられ、前記加飾シートを吸引する吸引部を備えた点にある。
【0009】
金属体の凸状部に加飾シートを押し付けたとき、金属体の凸状部の中央部分については加飾シートが沿ったまま保持されるが、その周縁に位置する加飾シートが浮き上がって金属体の表面と離間してしまうことがある。そうなると、金属体の周縁に位置する加飾シートが型締めの際に金属体の表面と沿うこととなり、無理に引き伸ばされてシート破れが発生する可能性がある。そこで、本構成のように、加飾シートを吸引する吸引部を第1型に設ける。こうすると、第1型に配置された金属体の凸状部に加飾シートを沿わせる際に、加飾シートを第1型の側に吸引することができる。したがって、型締め前に吸引部で加飾シートを吸引することで金属体の表面全体に加飾シートを確実に沿わせることができ、金属体の凸状部の周縁における加飾シートの破れを防止できる。
【0010】
本発明に係る射出成形用金型の第3の特徴構成は、前記加飾シート保持機構が、共に前記第2型の型面に設けられ、当該型面に向けて弾性付勢される第1クランプと、当該型面から突出する方向に弾性付勢され、前記加飾シートを前記第1クランプとで挟持する第2クランプとを備えた点にある。
【0011】
このように、第1クランプと第2クランプとで加飾シートを挟持することで、加飾シートを第2型の型面から離間する位置に配置することができる。この結果、型締めに際して、第1型を第2型の側に近接させた際に、第1型が加飾シートに接触し、加飾シートを第2型の側に押し出しても、加飾シートが第2型に当接することがない。つまり、第1型に対して加飾シートを十分に沿わせた状態で加飾シートが第2型に押し当てられるから、第1型あるいは第2型に対する加飾シートの摩擦が最小限に押さえられる。よって、加飾シートが健全に維持された状態で型締めすることができ、品質の優れた複合品を製造することができる。
【0012】
本発明に係る射出成形用金型の第4の特徴構成は、前記加飾シート保持機構は、前記第1クランプの弾性付勢力よりも前記第2クランプの弾性付勢力が大きくなるよう設定してある点にある。
【0013】
このように、第1クランプの弾性付勢力よりも第2クランプの弾性付勢力を大きく設定しておくことで、第2クランプは第2型の型面から突出した状態に維持される。つまり、加飾シートが第2型から離間した状態となり、第1型に対する加飾シートの押し付け操作が容易となる。
さらに、本構成であれば、加飾シートを挟持するクランプ力は、主に第1クランプの弾性付勢力によって決定される。つまり、第1型を加飾シートに押し付けた際に、加飾シートが確実に第1型に密着できる程度に第1クランプの付勢力を設定しておく。このあと、第1型が第1クランプに当接すると、第1クランプと第2クランプとが加飾シートを適切に挟持した状態でこれらは第2型の側に移動し、型締めが完了する。
このように、第1クランプの付勢力と第2クランプの付勢力とを適切に設定することで、第1型に対する加飾シートの押し付けと、その後の、型締めとを極めて円滑にかつ確実に行うことができる。
【0014】
本発明に係る射出成形用金型の第5の特徴構成は、前記第1型に、型締め前に前記金属体の裏面を支持し、型締め後に引退し前記金属体の裏面から離間してキャビティ面を形成する金属体支持部を設けた点にある。
【0015】
複合品を構成する金属体が薄板状である場合、型締めの際に金属体が変形することがある。そこで、本構成のように、金属体支持部を設けて、金属体の裏面をこの金属体支持部で支持した状態で型締めし、型締め後に金属体支持部を引退させて金属体の裏面から離間し、キャビティ面を形成する。こうすることで、型締めの際の金属体の変形が抑制されるとともに、金属体の裏面全体に樹脂部を形成することができる。
【0016】
本発明に係る射出成形用金型の第6の特徴構成は、前記加飾シート保持機構が、一定の張力で前記加飾シートの移動を許容するシート滑り部を備えた点にある。
【0017】
本構成であれば、型締め前に金属体の凸状部に加飾シートを押し付ける際に、一定の張力が加飾シート保持機構のシート滑り部にかかると、加飾シートの移動が許容される。つまり、第1型に対する加飾シートの押付力と、当該押し付けによる加飾シートの破損のおそれとを勘案して、加飾シートにある程度の押し付け力が作用した場合に、加飾シートが第1クランプで滑るように設定しておく。これにより、加飾シートの破損を防止しつつ第1型への加飾シートの押し付けが確実に行えるようになる。
【0018】
本発明に係る複合品の製造方法の第1の特徴手段は、第1型に凸状部を有する金属体を配置する工程と、
加飾シートを第2型の型面から離間した位置に配置し、前記加飾シートを前記金属体の凸状部に押し付けつつ、前記凸状部に沿って接触させる加飾シート配置工程と、
前記第1型と前記第2型とを型締めして、前記第1型と前記金属体との間に樹脂注入用のキャビティを形成する工程と、
前記キャビティに樹脂を注入して、前記金属体の裏面側に樹脂を充填する工程と、を備えた点にある。
【0019】
この特徴手段により、第1型と第2型との型締め前に、先に金属体の凸状部に加飾シートを沿わせて、その後、型締めを完了する。加飾シートを第2型の型面から離間した位置に配置するので、加飾シートを金属体の凸状部へ押し付ける際に、加飾シートの伸びが第2型によって妨げられず、金属体の凸状部に沿うように加飾シートが確実に伸ばされる。こうして、型締め前に金属体の凸状部に加飾シートを沿わせ、その後、型締めを完了させることで、第2型のキャビティが深絞りであっても型締めの際に加飾シートが破れることなく金属表面が加飾された複合品を製造することができた。
【0020】
本発明に係る複合品の製造方法の第2の特徴手段は、前記加飾シート配置工程において、前記第1型に設けられた吸引部で前記加飾シートを吸引するようにした点にある。
【0021】
金属体の凸状部に加飾シートを押し付けたとき、金属体の凸状部の中央部分については加飾シートが沿ったまま保持されるが、その周縁に位置する加飾シートが浮き上がって金属体の表面と離間してしまうことがある。そうなると、金属体の周縁に位置する加飾シートが型締めの際に金属体の表面と沿うこととなって無理に引き伸ばされてしまい、その結果、シート破れが発生する可能性がある。そこで、本特徴手段にように、加飾シート配置工程において、吸引部を第1型に設けられた吸引部で加飾シートを吸引する。こうすると、第1型に配置された金属体の凸状部の周縁に位置する加飾シートが吸引部によって第1型の側に吸引され、加飾シートを金属体の表面全体に確実に沿わせることができる。したがって、金属体の凸状部の周縁における加飾シートの破れを防止できる。
【0022】
本発明に係る複合品の製造方法の第3の特徴手段は、前記加飾シート配置工程及び前記樹脂注入用のキャビティを形成する工程に代えて、
前記加飾シートを前記第2型の型面から離間した位置に配置し、前記第1型と前記第2型との型締めの途中で、前記加飾シートを前記金属体の凸状部に押し付けつつ、前記凸状部に沿って接触させるとともに、その後の型締めにより、前記第1型と前記金属体との間に樹脂注入用のキャビティを形成する工程を備えた点にある。
【0023】
この特徴手段により、通常の型締めを行うだけで、型締めの途中で加飾シートを金属体の凸状部に沿わせて、型締めが完了した際に樹脂注入用のキャビティを形成することができる。したがって、加飾シート配置工程と樹脂注入用のキャビティを形成する工程とを個別に行う必要がなくなり、製造工程が簡略化され、複合品の製造の迅速化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】第1実施形態に係る金型の構成を示す図である。
【図2】第1実施形態に係る加飾シートを挟持した状態を示す図である。
【図3】加飾シートに第1型を押し付けた状態を示す図である。
【図4】型締めが完了した状態を示す図である。
【図5】第1実施形態に係る樹脂注入の状態を示す図である。
【図6】第1実施形態に係る型開き後の状態を示す図である。
【図7】第1実施形態に係る複合品を取り出した状態を示す図である。
【図8】第2実施形態に係る加飾シートを挟持した状態を示す図である。
【図9】加飾シートに第1型を押し付けた状態を示す図である。
【図10】第2実施形態に係る型締めが完了した状態を示す図である。
【図11】第3実施形態に係る加飾シートを挟持した状態を示す図である。
【図12】加飾シートに第1型を押し付けた状態を示す図である。
【図13】第3実施形態に係る型締めが完了した状態を示す図である。
【図14】第4実施形態に係る加飾シートを挟持した状態を示す図である。
【図15】加飾シートに第1型を押し付けた状態を示す図である。
【図16】第4実施形態に係る型締めが完了した状態を示す図である。
【図17】別実施形態に係る加飾シート保持機構の詳細を示す図である。
【図18】別実施形態に係る金型の動作手順を示す図である。
【図19】従来のインモールド成形方法を示す断面図である。
【図20】従来のインモールド成形方法を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0026】
〔第1実施形態〕
図1〜図7は、いずれも本発明に係る金型による複合品の成形工程を示す図である。
本発明に係る樹脂成形品は、凸状部20aを有する金属体20と、金属体20の表面に形成された加飾層と、金属体20の裏面に形成された樹脂部30とを備えており、以下の製造工程を経て製造される。
【0027】
[金属体]
金属体20は、例えば、凸状部20aを有する金属プレス板等である。金属体20の表面には、加飾層が形成され易いように予め接着剤の塗付等の表面処理がなされているか、加飾層が接着し易いシートが予め貼り付けられる。また、金属体20の裏面にも、射出される樹脂が固着し易いように予め接着層が塗布またはシートとして貼り付けられているか、もしくは化学的処理により接着性の高い層が形成されている。金属体20の表面処理や表面及び裏面の被覆材は、金属体20と表面に形成される加飾層、裏面に射出され樹脂部を成形する樹脂の各組合せに応じて適合する材質を選択する必要がある。なお、金属体20と樹脂の固着により製品が反る場合があるが、その場合は射出時には故意的に金属体に樹脂を固着させず、後工程において接着剤等により固着させることもある。
【0028】
[第1型]
第1型1には、金属体20が配置されるキャビティ面1Aが形成されている。キャビティ面1Aは、金属体20の裏面の形状に対応する形状であり、後に形成されるキャビティVに樹脂を注入するためのゲート11が備えられている。
【0029】
[スライド型]
第1型1のキャビティ面1Aの内部には、第1型1に対して型締め方向に相対移動可能なスライド型3を備えている。スライド型3は、型締め前に金属体20の裏面に先端面3Aが当接して金属体20を支持し、型締め後に引退すると金属体20の裏面から離間して先端面3Aがキャビティ面1Aの一部を形成する。すなわち、この先端面3Aが金属体支持部として機能する。樹脂注入の際に、スライド型3がキャビティ面1Aに沿う位置に保持されると、注入される溶融樹脂によって金属体20の裏面の全体に樹脂部30が成形される。スライド型3の先端部分3aがキャビティV内に突出し、金属体20の裏面をその先端面3Aが押圧すると、注入される溶融樹脂によって金属体20の裏面の周縁部にのみ樹脂部30が成形される。
【0030】
[第2型]
第2型2には、金属体20の表面に沿った形状を有するキャビティ面2Aが形成されており、第1型1及びスライド型3との型締めによって、金属体20とキャビティ面1Aとの間に樹脂部30に対応したキャビティ空間Vを形成する。また、第2型2は、型締めの際に、キャビティ面2Aに沿って加飾シートとして転写シート12が配置されるよう構成されている。第1型1のキャビティ面1Aへの金属体20の配置が終了した段階で、金属体20と第2型2との間に転写シート12が配置される。転写シート12は加飾層(転写層)12aと基体シート12bとで構成されており、加飾層(転写層)12aが金属体の表面を加飾する。当該転写シート12は、例えば、ロール状の長尺フィルムを当該位置に展開配置するものでも良いし、金属体20の外形に合わせてカッティングしたものを配置するものでも良いし、金属体20より大きい任意の形状(例えば、長方形の枝葉シート)でもよい。また、加飾シートとして加飾層と基体シートとが一体となったインサートシートを用い、金属体20の表面をこのインサートシートで加飾するようにしてもよい。
【0031】
加飾シート保持機構として、第2型2の型面2aには、型面2aに向けて弾性付勢された第1クランプ4と、片面2aから突出する方向に弾性付勢された第2クランプ5とが設けられている。詳細には、図1に示すように、第1クランプ4は第2型2の内部を貫通する作動ロッド6が第2型2の内部に設けられた空間部2Bの可動プレート7に取付けられている。空間部2Bには可動プレート7より型面2aに近い位置に固定プレート8が備えられており、固定プレート8は可動プレート7にバネ等の弾性部材9を介して連結されている。この弾性部材9は可動プレート7を型面2aから離間する方向に付勢する。その結果、第1クランプ4が片面2aに向けて弾性付勢される。第2クランプ5は型面2aの凹部2Cにバネ等の弾性部材10を介して取付けられている。弾性部材10は第2型2の型面2aから突出する方向に付勢されており、第2クランプ5は通常、型面2aから突出した位置に保持されている。
【0032】
ここで、第2クランプ5を型面2aから突出する方向に付勢する弾性部材10の弾性付勢力は、第1クランプ4を型面2aから突出する方向に付勢する弾性部材9の弾性付勢力より大きくなるように設定されている。こうすることで、第1クランプ4と第2クランプ5とが当接して転写シート12を保持する際に、転写シート12を型面2aから所定距離だけ離間させることができる。なお、型面2aから転写シート12を離間させる所定距離は型締めの途中において転写シート12と第2型2の型面2aが接触しない距離が好ましい。また、型締めの際には、第2クランプ5の転写シート12の保持面は、第1クランプ4に押圧されて最終的に型面2aに沿う位置まで後退する。
【0033】
作動プレート7がエジェクトロッド、エアシリンダ等による押圧力を受け、弾性部材9に抗して第2型の型面2aに近づく方向に移動すると、作動ロッド6も同方向に移動して、第1クランプ4が第2クランプ5から離間する。すなわち、第1クランプ4が第2クランプ5から離間して転写シート12の移動を許容する位置となる。一方、作動プレート7がエジェクトロッド、エアシリンダ等の押圧力を受けない場合は、作動プレート7は弾性部材9の弾性付勢力を受けて第2型の型面2aから遠ざかる方向に移動するので、作動ロッド6も同方向に移動して、第1クランプ4が第2クランプ5と当接する。すなわち、第1クランプ4が第2クランプ5と当接して転写シート12を挟持して保持する位置となる。
【0034】
[ゲート]
第1型1には、溶融樹脂を射出するゲート11が備えられている。ゲート11は、キャビティ面1Aに配置された金属体20の裏面に対向するようにキャビティ面1Aに形成されている。そして、型締めした状態において、金属体20とキャビティ面1Aとの間に形成されるキャビティVにゲート11から溶融樹脂が射出される。
【0035】
[樹脂成形の処理手順]
図1に示すように、図外のマニピュレータ等を用いて金属体20を第1型1の所定の位置に配置し、第2型2と第1型1に配置された金属体20との間に転写シート12を配置する。このとき、スライド型3は第1型1のキャビティ面1Aから突出し、金属体20の裏面を支持する。第1型1のキャビティ面1Aに配置された金属体20は、第1型1またはスライド型3に設けられた吸引孔(不図示)により吸引されて保持される。
【0036】
図2に示すように、第1クランプ4と第2クランプ5で転写シート12を挟持して保持させた後、必要に応じてヒータで転写シート12を加熱し、第1型1に第2型2を近接させて型締めを始める。このとき、転写シート12は、第2型2の型面2aから所定距離だけ離間した状態で保持されている。
【0037】
図3に示すように、型締め中において、金属体20の表面の凸状部20aに転写シート12が接触し押し付けられて、転写シート12が金属体20の表面の凸状部20aに徐々に沿っていく。転写シート12を第2型2の型面2aから所定距離だけ離間した状態で保持することで、型締め前に、転写シート12を金属体の表面に沿わせることででき、転写シート12が型締めの際に一気に引き伸ばされて破れるような不具合を抑制することができた。
【0038】
図4に示すように、第1型1と第2型2との型締めが完了すると、金属体20の表面に沿って転写シート12が配置されるとともに、金属体20の裏面と第1型1の間にキャビティVが形成される。
【0039】
次に、図5に示すように、形成されたキャビティVに第1型1に備えられゲート11から溶融樹脂を注入する。このとき、キャビティVに注入された溶融樹脂によって金属体20の裏面が第2型2に向けて押圧される。また、注入される溶融樹脂は熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂であって高温であるため、樹脂注入の際に金属体20の裏面を加熱する。さらに、金属体20の裏面が加熱されて高温になると金属体20の表面にも熱が伝導し高温となる。こうして、注入される溶融樹脂により金属体20の裏面に樹脂部30が成形されるとともに、熱及び圧力が金属体20の表面にも作用して、金属体20の表面に転写シート12が接着されることとなる。
【0040】
図6に示すように、樹脂が硬化した後、型締めを開放すると、第2クランプ5が突き出される。その後、図7に示すように、第1型1またはスライド型3に設けられた押し出し棒(図示せず)により複合品Pを押し出して、複合品Pを取り出すとともに、第1クランプ4を型面2aから突出方向に移動させ、転写シート12の送りを再開する。
【0041】
得られた複合品Pは、金属体20の表面が加飾層(転写層)12aにより加飾され、その裏面に樹脂部30が成形される。こうして、本発明に係る金型により、金属体20の裏面に樹脂部30が成形され、その樹脂部30の成形と同時に金属体20の表面の加飾を行うことができる。
【0042】
〔第2実施形態〕
この実施形態では、第1実施形態の構成と異なる構成についてのみ説明し、同じ構成については説明を省略する。図8は転写シート12が位置決め保持された図、図9は型締め途中を示す図、図10は型締め後を示す図である。
【0043】
当該実施形態では、図8に示すように、第1型1は、キャビティ面1Aの金属体20を保持する部分の周囲に転写シート12を吸引する吸引部13を備えている。また、第1型1には、型締めの際に第1クランプ4が凹入する部分にOリング14が配設されている。
【0044】
[樹脂成形の処理手順]
図8に示すように、第1クランプ4と第2クランプ5で転写シート12を挟持して保持させた後、必要に応じてヒータで転写シート12を加熱し、第1型1に第2型2を近接させて型締めを始める。金属体20が厚く、樹脂からの温度が金属体20の表面に十分伝わらない場合は、マニピュレータ上、もしくは金型内等で金属体20を予熱してもよい。
【0045】
図9に示すように、型締め中において、金属体20の表面の凸状部20aに転写シート12が接触して押し付けられ、転写シート12が金属体20の表面の凸状部20aに徐々に沿っていく。さらに、第1型1のOリング14に第1クランプ4が接触した状態で、吸引部13から転写シート12を吸引することで、転写シート12を金属体20の表面に沿わせ易くする。
【0046】
図10に示すように、第1型1と第2型2との型締めが完了すると、金属体20の表面に沿って転写シート12が配置されるとともに、金属体20の裏面とキャビティ面1Aの間にキャビティVが形成される。その後、第1実施形態と同様に樹脂による射出成形を行い、複合品Pを得る。
【0047】
〔第3実施形態〕
本発明の第3実施形態を図11〜図13に示す。当該実施形態では、図11に示すように、第1型1の内部に第1型1の型締め方向に沿って第1型1と相対移動可能なスライド型3が設けられ、このスライド型3に金属体20を配置する。転写シート12は第1型の型面1aに沿うようにクランプ15で保持されており、このクランプ15が加飾シート保持機構として機能する。
【0048】
[樹脂成形の処理手順]
図11に示すように、スライド型3を第1型1の型面1aから後退させた位置に保持し、スライド型3の先端面3Aに金属体20を配置する。第1型の型面1aには転写シート12が配置されている。
【0049】
次に、必要に応じて、ヒータ等で転写シート12を加熱したのち、図12に示すように、スライド型3を第1型1の型締め方向に沿って前進させ、金属体20の表面と転写シート12を接触させて、型締め前に金属体20の表面に転写シート12を沿わせる。
【0050】
次に、図13に示すように、第1型に第2型2を近接させ型締めし、金属体20の裏面とスライド型3の先端面3Aの間にキャビティVが形成される。その後、樹脂による射出成形を行い、複合品Pを得る。
【0051】
〔第4実施形態〕
本発明の第4実施形態を図14〜図16に示す。当該実施形態では、図14に示すように、転写シート12が第1型1の型面1aに沿うようにクランプ15で保持されており、このクランプ15が加飾シート保持機構として機能する。また、第1型1には転写シート12を吸引する吸引部13が設けられている。
【0052】
[樹脂成形の処理手順]
図14に示すように、第1型1のキャビティ面1Aに金属体20を配置する。第1型1の型面1aには転写シート12が配置されている。
【0053】
次に、必要に応じて、ヒータ等で転写シート12を加熱したのち、図15に示すように、吸引部13で転写シート12を第1型1の側に吸引して、型締め前に金属体20の表面に転写シート12を沿わせる。
【0054】
次に、図16に示すように、第1型1に第2型2を近接させ型締めし、金属体20の裏面とキャビティ面1Aの間にキャビティVが形成される。その後、樹脂による射出成形を行い、複合品Pを得る。
【0055】
〔別実施形態〕
(1)図17に示すように、第1クランプ4及び第2クランプ5の転写シート12を保持する面にテフロン(登録商標)やコーティング済みリング等の摩擦を低減する部材を配置する、もしくは、摩擦を低減する処理を施して、一定の張力で転写シート12の移動を許容するシート滑り部4a,5aを備えて構成してもよい。こうすると、型締め前に金属体20の凸状部20aに転写シート12を押し付ける際に、加飾シート保持機構のシート滑り部4a,5aによって転写シート12の移動が許容され得る。こうして、金属体20の凸状部20aに転写シート12を押し付ける際に転写シート12を移動させることで、転写シート12を無理に引き伸ばすことなく、金属体20の凸状部20aに沿わせることが可能となった。なお、第3実施形態や第4実施形態のようにクランプが1つの場合には、クランプ15の転写シート12を保持する面のみにシート滑り部を備えるか、クランプ15とクランプ15に対向する位置の第1型1の型面1aの両方にシート滑り部を備えるようにする。
【0056】
(2)第1実施形態では、金属体20の裏面全体に樹脂部30を成形する場合においても、第1型1にスライド型3を備えた射出成形用金型を示したが、金属体20が変形しない場合には、第1型1にスライド型3を備えなくてもよい。ただ、第1型1にスライド型3を備えていると、スライド型3の位置によって金属体20の裏面の樹脂部30を選択でき、多種の複合品Pを容易に製造できる。
【0057】
(3)金属体20の裏面の全面に樹脂部30を成形するのではなく、例えば周縁部のみに樹脂部30を成形する場合には、図18に示すように、スライド型3の先端部分3aをキャビティVの内部に突出させ、型締めしたときに先端面3Aを金属体20の裏面に押圧させる。スライド型3の先端部分3aをキャビティVの内部に突出させた状態で、溶融樹脂を射出すると、先端面3Aが金属体20の裏面を押圧した部分には溶融樹脂が注入されない。したがって、金属体20の周縁部にのみ樹脂部30が成形される。ただし、射出時の溶融樹脂の熱とスライド型3により、金属体20の表面に加飾が可能となる熱量が不足すする場合には、前述のように金属体20を予熱してもよい。
【0058】
(4)(3)に示す実施形態では、第1型1に対して型締め方向にスライド型3を相対移動可能させて、その先端部分3aがキャビティVの内部に突出するようにしたが、キャビティVの内部に突出するスライド型3の先端部3aを第1型1の一部として構成してもよい。すなわち、図18に示される、スライド型3の先端部3aが第1型1の突出部として構成され、型締めしたときに当該突出部の先端面が金属体20の裏面を押圧することとなる。また、金属体20の裏面をスライド型3又は突出部の先端面3Aで押圧した際に、金属体20の裏面と先端面3Aとの間に溶融樹脂が流入しないのであれば、当該先端面3Aの周縁部分のみで金属体20の裏面を押圧してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、自動車、家庭用電化製品、携帯電話、パーソナルコンピュータ等、さまざまな分野において、内装品、外装品を問わず、使用される金属を含む複合品において、金属体の表面に加飾層が形成され、裏面に樹脂部が成形された複合品の製造に広く利用可能である。
【符号の説明】
【0060】
1 第1型
2 第2型
3 スライド型(金属体支持部)
4 第1クランプ
4a 滑り部
5 第2クランプ
5a 滑り部
9,10 弾性部材
11 ゲート
12 転写シート(加飾シート)
13 吸引部
15 クランプ
20 金属体
20a 凸状部
30 樹脂部
V キャビティ
P 複合品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
凸状部を有する金属体の表面に加飾層を形成するとともに、前記金属体の裏面に樹脂部が形成された複合品の製造に用いる射出成形用金型であって、
前記金属体を配置する第1型と、
前記第1型と型締めして、前記第1型と前記金属体との間に樹脂注入用のキャビティを形成する第2型と、
前記第1型と前記第2型との型締め前に、加飾シートを前記第2型の型面から離間する位置に配置するとともに、前記加飾シートを前記金属体の凸状部に押し付けつつ、前記凸状部に沿って接触させる加飾シート保持機構と、を備えた射出成形用金型。
【請求項2】
前記第1型に設けられ、前記加飾シートを吸引する吸引部を備えた請求項1記載の射出成形用金型。
【請求項3】
前記加飾シート保持機構が、共に前記第2型の型面に設けられ、当該型面に向けて弾性付勢される第1クランプと、当該型面から突出する方向に弾性付勢され、前記加飾シートを前記第1クランプとで挟持する第2クランプとを備えた請求項1または2に記載の射出成形用金型。
【請求項4】
前記加飾シート保持機構は、前記第1クランプの弾性付勢力よりも前記第2クランプの弾性付勢力が大きくなるよう設定してある請求項3記載の射出成形用金型。
【請求項5】
前記第1型に、型締め前に前記金属体の裏面を支持し、型締め後に引退し前記金属体の裏面から離間してキャビティ面を形成する金属体支持部を設けた請求項1〜4のいずれか一項に記載の射出成形用金型。
【請求項6】
前記加飾シート保持機構が、一定の張力で前記加飾シートの移動を許容するシート滑り部を備えた請求項1〜5のいずれか一項に記載の射出成形用金型。
【請求項7】
第1型に凸状部を有する金属体を配置する工程と、
加飾シートを第2型の型面から離間した位置に配置し、前記加飾シートを前記金属体の凸状部に押し付けつつ、前記凸状部に沿って接触させる加飾シート配置工程と、
前記第1型と前記第2型とを型締めして、前記第1型と前記金属体との間に樹脂注入用のキャビティを形成する工程と、
前記キャビティに樹脂を注入して、前記金属体の裏面側に樹脂を充填する工程と、を備えた複合品の製造方法。
【請求項8】
前記加飾シート配置工程において、前記第1型に設けられた吸引部で前記加飾シートを吸引するようにした請求項7に記載の複合品の製造方法。
【請求項9】
前記加飾シート配置工程及び前記樹脂注入用のキャビティを形成する工程に代えて、
加飾シートを第2型の型面から離間した位置に配置し、前記第1型と前記第2型との型締めの途中で、前記加飾シートを前記金属体の凸状部に押し付けつつ、前記凸状部に沿って接触させるとともに、その後の型締めにより、前記第1型と前記金属体との間に樹脂注入用のキャビティを形成する工程を備えた請求項7又は8に記載の複合品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2011−104962(P2011−104962A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−265405(P2009−265405)
【出願日】平成21年11月20日(2009.11.20)
【出願人】(000231361)日本写真印刷株式会社 (477)
【Fターム(参考)】