説明

導電性シームレスベルト、導電性シームレスベルトの製造方法、及び該導電性シームレスベルトを備えた画像形成装置

【課題】一定の剛性を維持しながら、その剛性では従来達成できなかったレベルにまで体積抵抗率を低減することが可能な導電性シームレスベルトを提供する。
【解決手段】所定の硬度を有する第1ポリエステル系熱可塑性エラストマーと、それよりも低硬度の第2ポリエステル系熱可塑性エラストマーとを少なくとも含むブレンドを主成分とするポリマー成分を100重量部と、所定の陰イオンを備えた塩を0.01重量部〜3重量部含み、ポリマー成分全体に占める第2ポリエステル系熱可塑性エラストマーの含有量が第1ポリエステル系熱可塑性エラストマーより少なく、かつ30重量%以下であり、体積抵抗率が1.0×10〜1.0×1010Ω・cmである熱可塑性組成物を成形した導電性シームレスベルト。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性シームレスベルト、導電性シームレスベルトの製造方法、及び導電性シームレスベルトを備えた画像形成装置に関する。詳しくは、複写機、ファクシミリ、プリンタ等の電子写真方式または静電印刷方式にて画像形成を行う画像形成装置に用いられるシームレスベルトを形成する配合材料を改良し、シームレスベルトに十分な剛性と導電性を付与すると共に、ベルト面内における電気抵抗値のバラツキを低減し、安定した良好な画像形成を実現するものである。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式または静電印刷方式にて画像形成を行う画像形成装置、例えば複写機、ファクシミリ、プリンタ等は、搬送ベルト、転写ベルト、中間転写ベルト、定着ベルト、現像ベルト、感光体基体用ベルト等として、導電性シームレスベルトを具備する。
このような導電性シームレスベルトには、適度の安定した体積抵抗率を持たせる必要がある。シームレスベルトに導電性を付与する方法としては、ポリマー材料に電子導電性材料、例えば金属酸化物やカーボンブラックを配合して電子導電性を付与する方法と、ポリマー材料にイオン導電性材料を配合してイオン導電性を付与する方法とがある。
【0003】
例えば、ポリイミドなどの熱硬化性樹脂に、電子導電性材料としてカーボンブラックを混入し、遠心成形して得られるシームレスベルトや、ポリカーボネート、ポリフッ化ビニリデンなどの熱可塑性樹脂に、電子導電性材料としてカーボンブラックや金属酸化物などを練り込み、押出成形して得られるシームレスベルトなどが知られている。
【0004】
しかし、電子導電性材料を用いた場合、その材料粒子の分散状態により、体積抵抗率が不安定になる。特に、電子導電性材料の凝集塊が存在すると、その部分に集中的に電流が流れるため、ベルトの抵抗値を制御することは困難である。また、電子導電性材料の配合量が多くなるとベルトが脆くなりやすい点や、カーボンブラックを配合したベルトは色が黒色となって、トナー等による汚染状態を目視しにくくなる点も問題となる。
【0005】
また、ポリイミドやポリカーボネートを成形して得られるシームレスベルトは、駆動軸にベルトを張架して連続回転させると、ベルト端部から亀裂が入るなど、ベルトが裂けやすく、耐久性に問題がある。そして、ポリマー材料として熱硬化性樹脂を用いる場合には、遠心成形や金型への注型とは別途に、熱硬化工程が必要となるため、手間およびコストがかかるという問題がある。
一方、ポリフッ化ビニリデンなどのフッ素含有ポリマーを使用する場合には、押出成形時に腐食性のガスを発生することがあるため、特殊な加工を施した成形機が必要となり、製造コスト的に不利となる。
さらに、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのオレフィン系材料を成形して得られるシームレスベルトは、クリープ特性が劣り、永久伸びが生じるため、連続使用に耐え得るものではない。
【0006】
特開2002−304064号公報(特許文献1)では、少なくとも1種の熱可塑性樹脂と、該熱可塑性樹脂とは非相溶性である少なくとも1種の親水性樹脂とを配合してなる樹脂組成物を押出成形して得られ、押出成形時の成形温度における該熱可塑性樹脂の粘度が該親水性樹脂の粘度より高くしたエンドレスベルト(シームレスベルト)が提案されている。この提案は、シームレスベルトにおいて、均一かつ十分な抵抗制御を実現することを目的とするものである。
【0007】
特許第3315933号公報(特許文献2)では、シームレスベルトにおいて、融点が160〜210℃の範囲のポリエステルポリエーテル樹脂に導電性充填剤を分散させた損失正接(tanδ)が0.1〜0.2の範囲にある導電性ベース層を用いることが提案されている。この提案は、厚み方向に適度な柔軟性を有するとともに、長期に亘って連続使用しても長さ方向に伸びが生じないシームレスベルトを実現することを目的とするものである。
【0008】
【特許文献1】特開2002−304064号公報
【特許文献2】特許第3315933号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
導電性シームレスベルトにおいては、特許文献1に記述されているように、均一かつ十分な抵抗制御を行うこと、および特許文献2に記述されているように、長期に亘る連続使用において、長さ方向に伸びにくくすることが重要となる。
しかし、長さ方向に伸びにくくするために、シームレスベルトに一定の剛性を付与すると、体積抵抗率の低減に限界が生じ、一定値以下の体積抵抗率を達成することが困難となる。その結果、シームレスベルトの用途も制限される。
具体的には、ポリエステル系熱可塑性エラストマーを主成分とするポリマー成分に、イオン導電性の塩を配合して、所望の抵抗値を有する転写ベルトを得ようとした場合には、以下のような懸念が生じる。
【0010】
第1に、ベルトの剛性を優先し、転写時の色ずれ防止に重点を置く場合、ASTM
D2240に準拠して測定されるDタイプ硬度が65以上のポリエステル系熱可塑性エラストマーを用いる必要がある。この場合、イオン導電性の塩を過剰に配合しても、ベルトの体積抵抗率を1.0×1010Ω・cm以下に低減することはできない。また、過剰の塩を配合すると材料の加工性がわるくなり、ベルトから塩の染みだしが起こることもある。
よって、Dタイプ硬度が65以上のポリエステル系熱可塑性エラストマーに、イオン導電性の塩を配合するだけでは、通常1.0×1010Ω・cm以下の体積抵抗率を有するシームレスベルトを得ることはできない。これは、硬度の高いポリエステル系熱可塑性エラストマーは、ハードセグメントの構成比が多いため、イオン導電性材料による導電機構が十分に発現しないためである。
しかし、中間転写ベルトの場合、1.0×1010Ω・cm以下に体積抵抗率を下げなければ、帯電トナーを感光体から写し取るのに必要な転写電圧が高くなってしまい、転写効率が低化する。
【0011】
第2に、ASTM D2240に準拠して測定されるDタイプ硬度が55以上65未満のポリエステル系熱可塑性エラストマーを用いる場合、1.0×10Ω・cm程度までは体積抵抗率を低減可能であるが、それ以下の体積抵抗率を達成することは一般に困難である。また、1.0×10Ω・cm程度まで体積抵抗率を下げることができれば、一部の画像形成装置では十分な転写性能を得ることができるが、ベルトの剛性が少なくなり、転写時の色ずれが懸念される。
しかし、転写電圧の低減や転写効率を向上させる観点から、1.0×10〜1.0×10Ω・cmの体積抵抗率が要求されることがある。例えば、トナーを感光体から中間転写ベルトへ転写する一次転写と中間転写ベルトから紙等の記録媒体へ転写する二次転写を通じて転写性を向上させるためには、更に1〜2桁ほど低い体積抵抗率が要求される。このような場合には、イオン導電性の塩を過剰に配合した材料でも対応できない。
【0012】
第3に、ASTM D2240に準拠して測定されるDタイプ硬度が50未満のポリエステル系熱可塑性エラストマーを用いる場合、1.0×10Ω・cmまでなら、加工性を損なわず、かつ塩の染みだしを起こさない範囲で、体積抵抗率を低減可能である。しかし、このようなベルトは、中間転写ベルトとして用いるには剛性が不足し、ベルト駆動時の張力によって伸びが生じてしまい、画像ズレの原因となる。
【0013】
そこで、本発明は、一定の剛性を維持しながら、その剛性では従来達成できなかったレベルにまで体積抵抗率を低減することが可能な導電性シームレスベルトを提供することを課題とする。また、本発明は、導電性シームレスベルトに用途に応じた好適な物性を付与し、良好な画像形成を実現することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、熱可塑性組成物を成形してなる導電性シームレスベルトに関し、前記熱可塑性組成物は、ポリマー成分を100重量部と、下記化学式1に記載の陰イオンを備えた塩を0.01重量部〜3重量部含み、
前記ポリマー成分は、複数のポリエステル系熱可塑性エラストマーのブレンドを含み、前記ブレンドは、少なくとも、所定の硬度を有する第1ポリエステル系熱可塑性エラストマーと、前記第1ポリエステル系熱可塑性エラストマーよりも低硬度の第2ポリエステル系熱可塑性エラストマーとを含み、
前記ポリマー成分全体に占める前記第2ポリエステル系熱可塑性エラストマーの含有量は、前記第1ポリエステル系熱可塑性エラストマーより少なく、かつ、30重量%以下であり、体積抵抗率が1.0×10Ω・cm〜1.0×1010Ω・cmであることを特徴とする導電性シームレスベルトを提供している。
【0015】
【化1】

(式中、XおよびXは、同じであっても異なってもよく、それぞれが炭素原子、フッ素原子およびスルホニル基(−SO−)を含む炭素数1〜8の官能基である。)
【0016】
本発明は、また、所定の硬度を有する第1ポリエステル系熱可塑性エラストマーを主成分とする熱可塑性組成物と、前記第1ポリエステル系熱可塑性エラストマーよりも硬度の低い第2ポリエステル系熱可塑性エラストマーに前記化学式1に記載の陰イオンを備えた塩が1重量%〜20重量%配合された導電性マスターバッチと、難燃剤とを、押出機で溶融混練し、前記溶融混練で得られた材料を、環状ダイスから押し出し、サイジング用型に沿わせてベルト状に成形することを特徴とする導電性シームレスベルトの製造方法を提供している。
【0017】
前記方法を行う場合、難燃剤と第1ポリエステル系熱可塑性エラストマーを主成分とする熱可塑性組成物とを予め混練して難燃性マスターバッチとし、難燃性マスターバッチを前記押出機に投入すると共に、前記材料を環状ダイスから鉛直方向に押し出す方法が、特に有効である。
【0018】
本発明は、さらに、前記の導電性シームレスベルトを備えたことを特徴とする画像形成装置を提供している。
【0019】
ASTM D2240に準拠して測定される第1ポリエステル系熱可塑性エラストマーのDタイプ硬度は、同様に測定される第2ポリエステル系熱可塑性エラストマーのDタイプ硬度よりも10以上高いことが望ましい。また、ASTM D2240に準拠して測定される第1ポリエステル系熱可塑性エラストマーのDタイプ硬度は、50以上であることが望ましい。
【0020】
化学式1に記載の陰イオンは、X−がCn1m1(2n1−m1+1)−SO−であり、X−がCn2m2(2n2−m2+1)−SO−である陰イオンであることが望ましい。ただし、n1およびn2は、同じであっても異なってもよく、それぞれが1以上の整数である。また、m1およびm2は、同じであっても異なってもよく、それぞれが0以上の整数である。
【0021】
化学式1に記載の陰イオンと対になり塩を構成する陽イオンは、アルカリ金属、2A族金属、遷移金属および両性金属から選ばれるいずれかの陽イオンであることが望ましく、陽イオンを構成する金属がリチウムであることが更に望ましい。
化学式1に記載の陰イオンを備えた塩として、例えばリチウム−ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを挙げることができる。
化学式1に記載の陰イオンを備えた塩は、分子量1万以下の低分子量ポリエーテル化合物や低分子量極性化合物からなる媒体を介さずに、熱可塑性組成物に配合されていることが望ましい。
【0022】
本発明の導電性シームレスベルトは、低温低湿環境(10℃、相対湿度15%)における体積抵抗率RLLと、高温高湿環境(32.5℃、相対湿度90%)における体積抵抗率RHHが、log10LL−log10HH≦2.5の関係を満たすものであることが望ましい。
【0023】
本発明の導電性シームレスベルトは、熱可塑性組成物の全重量に対して、難燃剤であるメラミンシアヌレートを15重量%〜40重量%の割合で含有することが好ましい。
本発明の導電性シームレスベルトの外周面側には、少なくとも1層のコーティング層を設けることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の構成によれば、ベースとなる硬度の高い第1ポリエステル系熱可塑性エラストマーに基づく剛性を維持しながら、その剛性では従来達成できなかったレベルにまで体積抵抗率を低減することができる。例えば、本発明によれば、体積抵抗率を従来レベルよりも1桁以上も低減することが可能である。
【0025】
また、化学式1に記載の陰イオンを備えた塩は、凝集塊を生成しにくく、ベルトの脆化を引き起こしにくいため、ベルト面内における電気抵抗値のバラツキが小さくなり、抵抗値の環境依存性も低減することができる。
【0026】
よって、本発明によれば、十分な剛性と導電性を両立したシームレスベルトが得られ、長期に亘る連続使用、例えば駆動軸に張架して連続回転させる場合にも良好な耐久性が得られ、かつ安定した良好な画像形成を実現できる。
例えば、中間転写ベルトとして用いた場合には、転写ズレや転写不良を発生することなく、良好な転写性能を長期に亘って得ることができる。また、搬送ベルト、現像ベルト、定着ベルト、ベルト状感光体の基体ベルト等にも使用することができ、各々従来よりも良好な性能を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明の熱可塑性組成物を成形してなる導電性シームレスベルトは、複数のポリエステル系熱可塑性エラストマーのブレンドを主成分とするポリマー成分と、下記化学式1に記載の陰イオンを備えた塩を含んでいる。
【0028】
【化1】

(式中、XおよびXは、同じであっても異なってもよく、それぞれが炭素原子、フッ素原子およびスルホニル基(−SO−)を含む炭素数1〜8の官能基である。)
【0029】
ポリエステル系熱可塑性エラストマーは、適度な弾性および柔軟性と、適度な硬度とを両立することができるため、シームレスベルトを成形するための熱可塑性組成物のポリマー成分として好適である。また、ポリエステル系熱可塑性エラストマーを主成分とするベルトは、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリオレフィンなどを主成分とするものに比べて耐久性が高く、連続使用や繰り返し使用に適している。
【0030】
ポリエステル系熱可塑性エラストマーは、耐衝撃性、耐熱性および成形性も良好であり、潤滑剤等を添加することで、成形性を更に向上させることもできる。
また、ポリエステル系熱可塑性エラストマーは、耐油性も良好であることから、トナー等との接触により変質しにくく、感光体を汚染性する可能性も少ない。
さらに、ポリエステル系熱可塑性エラストマーは、フッ素含有ポリマーを使用する場合のような、成形時における腐食性ガスの発生等の問題も生じない。
ポリエステル系熱可塑性エラストマーは、着色性も良好であるため、メラミンシアヌレートのような難燃剤を配合して白色ベルトを得る場合や、他の色に着色したベルトを得る場合にも適している。
【0031】
前記のようなポリエステル系熱可塑性エラストマーの利点を十分に得る観点から、ポリエステル系熱可塑性エラストマーは、全ポリマー成分の60重量%以上であることが望ましく、65重量%以上がさらに望ましい。
【0032】
本発明では、硬度および含有量がそれぞれ異なる複数のポリエステル系熱可塑性エラストマーのブレンドを用いる。その際、高硬度の第1ポリエステル系熱可塑性エラストマーは、低硬度の第2ポリエステル系熱可塑性エラストマーよりも多く配合する。複数のポリエステル系熱可塑性エラストマーのブレンドに、前記のような量関係を持たせる場合、ベースとなる硬度の高い第1ポリエステル系熱可塑性エラストマーに基づく剛性を維持できる。また、硬度の低い第2ポリエステル系熱可塑性エラストマーの作用により、式1に記載の陰イオンを持つ導電塩によるベルトの導電化が顕著となる。よって、適度な剛性を維持しながら、1.0×10Ω・cm〜1.0×1010Ω・cmの範囲内で最適な体積抵抗率をもつシームレスベルトが得られるようになる。
【0033】
ただし、第2ポリエステル系熱可塑性エラストマーの配合量が、第1ポリエステル系熱可塑性エラストマーの配合量に近づくと、第1ポリエステル系熱可塑性エラストマーの高い硬度を維持することが困難になり、ベルトの剛性を維持できないことがある。よって、ブレンドにおける第2ポリエステル系熱可塑性エラストマーの含有量は30重量%以下とすることが要求され、望ましくは5重量%以上25重量%以下が適量である。
一方、ブレンドにおける第1ポリエステル系熱可塑性エラストマーの含有量は、50重量%以上であることが望ましく、60重量%以上であることが更に望ましい。
【0034】
ASTM D2240に準拠して測定される第1ポリエステル系熱可塑性エラストマーのDタイプ硬度は、伸びにくく転写時の色ズレを少なくするため、出来るだけ高い剛性を保ったまま、少量の導電性塩添加量で効果的に電気抵抗を低下させる観点から、同様に測定される第2ポリエステル系熱可塑性エラストマーのDタイプ硬度よりも10以上高いことが望ましく、20以上高いことが更に望ましい。ただし、その硬度差が大きすぎると材料の混練り性が悪くなりベルトへの加工性も悪くなるため、硬度差の上限は50以下とすることが望ましい。
【0035】
ASTM D2240に準拠して測定される第1ポリエステル系熱可塑性エラストマーのDタイプ硬度は、1次転写時の各色トナーの色ズレ防止の観点から、45以上であることが望ましく、ベルトの厚みが200μm以下であれば48以上であることが更に望ましい。ただし、第1ポリエステル系熱可塑性エラストマーのDタイプ硬度が高すぎると、体積抵抗率の低減が困難になるため、その上限は85とすることが望ましい。またベルトの厚みが200μm以上であり一般的にベルトの駆動上問題がない範囲であれば、硬度の下限値は45以上であればよい。これ以下になると厚みを増しても実用範囲で剛性が不足することになる。
【0036】
本発明によれば、ASTM D2240に準拠して測定されるDタイプ硬度が、65以上であり、かつ体積抵抗率が1.0×10Ω・cm以上1.0×1010Ω・cm以下である熱可塑性組成物を成形して得られる厚みが50〜200μm導電性シームレスベルトを提供することが可能となる。
前記のように硬度を65以上とした場合、ベルトの厚さを50〜200μmとしているのは、200μmを越えると剛性が高すぎて駆動性が悪くなる。一方、ベルト厚さが50μm未満と薄くすると、成形性が悪くなると共にベルト駆動時に伸びが起こりやすく、各色のトナーを積層する際にズレが生じることとなり、カラー画像が乱れやすくなることによる。
【0037】
また、本発明によれば、ASTM D2240に準拠して測定されるDタイプ硬度が、40以上65未満であり、かつ体積抵抗率が1.0×10Ω・cm以上1.0×10Ω・cm未満である熱可塑性組成物を成形して得られる厚さが200μm〜500μmの導電性シームレスベルトを提供することが可能となる。
前記のように硬度を40以上65未満とした場合、硬度が低くなることでベルトの厚みを200μm以上としなければベルトの伸びによる各色トナーの色ズレでカラー画像の乱れが起こりやすくなる。一方、低硬度であるため、厚さ500μmまでは駆動性は良好であるが、500μmを越えると駆動軸付近での曲げ剛性が高くなり駆動性が悪くなる。よって、ベルトの厚みを200〜500μmの範囲とすることが好ましい。
また、ベルトの肉厚が厚くなるほど、体積抵抗率を低くする必要があり、ベルトの肉厚が500μm程度と厚くなると共に体積抵抗率が1.0×10Ω・cmを越えると大きな転写電圧が必要となり、トナーの一次転写率が悪くなる。よって、前記のように、体積抵抗率が1.0×10Ω・cm以下としている。
【0038】
第1ポリエステル系熱可塑性エラストマーの融点は、一般的にソフトセグメントの量に関係することから低い方が導電化されやすく低抵抗化されやすいという観点から、第2ポリエステル系熱可塑性エラストマーの融点よりも5℃以上高いことが望ましく、10℃以上高いことが更に望ましい。ただし、その融点差が大きすぎると成形時の温度設定が困難となり成形性が悪くなるため、融点差の上限は80℃以下であることが望ましい。
【0039】
第1ポリエステル系熱可塑性エラストマーの融点は、190℃以上であることが望ましいが、その融点が高すぎると、体積抵抗率の低減が困難になる。よって、第1ポリエステル系熱可塑性エラストマーの融点は、240℃を上限とすることが望ましい。
【0040】
なお、熱可塑性エラストマーの融点は、様々な熱分析法で測定することができる。例えばDSC(differential Scanning Calorimetry)法によれば、熱可塑性エラストマーの吸熱ピークが1つ以上観測される。吸熱ピークが一つしか観測されない場合は、その吸熱ピーク温度が融点となり、複数の吸熱ピークが観測される場合は、高い方の吸熱ピーク温度が融点となる。
【0041】
複数のポリエステル系熱可塑性エラストマーのブレンドは、2成分のポリエステル系熱可塑性エラストマーのブレンドであってもよく、3成分以上のポリエステル系熱可塑性エラストマーのブレンドであってもよい。
3成分以上のポリエステル系熱可塑性エラストマーのブレンドを用いる場合、最も含有量の高い成分が第1ポリエステル系熱可塑性エラストマーとなり、最も硬度の低い成分が第2ポリエステル系熱可塑性エラストマーとなる。ただし、ブレンドにおける最も硬度の低い成分の含有量は、5重量%以上であることが望ましい。
なお、第1ポリエステル系熱可塑性エラストマーとして、同一硬度の複数成分のブレンドを用いてもよい。また、第2ポリエステル系熱可塑性エラストマーとして、同一硬度の複数成分のブレンドを用いてもよい。
【0042】
第1ポリエステル系熱可塑性エラストマーおよび第2ポリエステル系熱可塑性エラストマーとしては、それぞれの硬度が異なる限り、様々なものを任意に選択できる。例えば、ポリエステルポリエーテル系、ポリエステルポリエステル系等が挙げられる。
ポリエステル系熱可塑性エラストマーは、芳香環を有するポリエステルからなるハードセグメントとポリエーテルおよび/またはポリエステルからなる低融点ソフトセグメントからなる共重合体であることが望ましい。特に、ポリエーテルポリエステル系は、ソフトセグメントの弾性率が安定しており、低温低湿状態と高温高湿状態との間で弾性率の変化が小さいため、抵抗値の環境依存性が小さくなる。
【0043】
化学式1に記載の陰イオンを備えた塩の陽イオンは、ポリエーテルのエーテル結合付近やポリエステルのエステル結合付近に捕捉されたような形で取り込まれるため、塩が系外に染み出しにくく、良好な導電性を発現することができる。
【0044】
高融点ポリエステル構成成分だけで高重合体を形成した場合の融点が150℃以上であり、低融点ソフトセグメント構成成分のみで測定した場合の融点ないし軟化点が80℃以下の構成成分からなるポリエステル系熱可塑性エラストマーであることが好ましい。
【0045】
前記の芳香環を有する高融点ポリエステルセグメント構成成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、ジフェニルジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸又はそのエステルと炭素数が1〜25のグリコール及びそのエステル形成性誘導体を用いることができる。なお、高融点ポリエステルセグメント構成成分の酸性分として、テレフタル酸が全酸成分の70モル%以上であることが好ましい。また、炭素数が1〜25のグリコールとしてはエチレングリコール、1,4−ブタンジオール及びこれらのエステル形成性誘導体が挙げられる。その他の酸成分も必要に応じて用いることができるが、これらの量は全酸成分の30モル%以下であることが好ましく、より好ましくは25モル%以下である。
【0046】
ポリエーテルからなる低融点ソフトセグメントとしては、例えばポリ(エチレンオキサイド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキサイド)グリコール等のポリアルキレンエーテルグリコールを示すことができる。高融点化や成形性の面から、ポリ(テトラメチレンオキサイド)グリコールが好ましく、分子量800〜1500が低温特性から特に好ましく、ポリエステル系熱可塑性エラストマーの全重量の15%〜75%であることが好ましい。
【0047】
ポリエステルからなる低融点ソフトセグメントとしては、ラクトン類を用いることが好ましい。また、ラクトン類としては、カプロラクトンが最も好ましいが、その他としてエナンラクトン、カプリロラクトン等も使用することができ、これらのラクトン類も2種以上を併用することができる。
【0048】
芳香族ポリエステルとラクトン類との共重合割合は、用途に応じて両者の共重合割合が選定され得るが、標準的な比率としては、重量比で芳香族ポリエステル/ラクトン類が97/3〜5/95、より一般的には95/5〜30/70の範囲であることが好ましい。
【0049】
前記熱可塑性組成物には、ポリエステル系熱可塑性エラストマー以外にも、必要に応じて公知の熱可塑性エラストマーや熱可塑性樹脂等のポリマー成分を単独あるいは複数組み合わせて使用可能である。
【0050】
また、機械的強度を向上させるために、炭酸カルシウム、シリカ、クレー、タルク、硫酸バリウム、ケイ藻土などの充填剤を配合しても良い。さらに、ベルト表面からの添加剤等の遊離、ブリード、ブルーミングや感光体汚染性などの接触物への移行などを起こさない範囲で、かつ難燃性や導電性に悪影響を及ぼさない範囲で、ステアリン酸、ラウリン酸などの脂肪酸、綿実油、トール油、アスファルト物質、パラフィンワックスなどの軟化剤を配合しても良い。これによりベルトの硬度や柔軟性を適度に調整することができる。さらには、イミダゾール類、アミン類、フェノール類などの老化防止剤を配合しても良い。
【0051】
化学式1に記載の陰イオンを備えた塩は、微量の添加でベルトの体積抵抗率を低下させる効果に優れている。また、この塩は、カーボンブラック等の電子導電性材料のように凝集塊を生成しにくく、ベルトの脆化も引き起こしにくいため、電気抵抗のベルト面内におけるムラを低減する上で有効である。
【0052】
化学式1に記載の陰イオンを備えた塩は、白色または無色であることが多い。よって、この塩をイオン導電性材料として用いてシームレスベルトに導電性を付与する場合、白色ベルトを得ることが可能であり、様々な色彩にベルトを着色する際にもベルトの着色性は良好である。
【0053】
化学式1に記載の陰イオンを備えた塩は、化学式1のX、Xの官能基にあるフルオロ基、スルホニル基の電子吸引性により、陰イオンとして安定化され、イオンがより高い解離度を示す。これにより、少量の添加で非常に低い電気抵抗値を得ることができる。また、この塩は、電極等に対する化学的・電気化学的安定性が高く、安全性も高い。また、使用可能温度領域が広い上に、電気抵抗の調整が容易で、ベルト面内での抵抗値のバラツキが少なく、特に、ポリエーテルセグメント中に取り込まれやすいため、環境依存性が小さく、OPC汚染を起こしにくいベルトとすることができる。さらに、低価格で入手しやすく、常温で粉体であり、混練しやすく、押出成形しても表面肌を平滑にすることができる。特に、ポリエーテルポリエステル系のポリマー等を押出成形する際の押出肌を平滑にすることができる。
【0054】
化学式1中のX−はCn1m1(2n1−m1+1)−SO−であり、X−はCn2m2(2n2−m2+1)−SO−であることが望ましい。この場合、n1およびn2は、同じであっても異なってもよく、それぞれが1以上の整数である。また、m1およびm2は、同じであっても異なってもよく、それぞれが0以上の整数である。
【0055】
化学式1に記載の陰イオンと対になり塩を構成する陽イオンは、アルカリ金属、2A族金属、遷移金属および両性金属のいずれかの陽イオンであることが望ましい。アルカリ金属は、特に、イオン化エネルギーが小さいため、安定な陽イオンを形成しやすいので好ましい。特に、前記陽イオンを構成する金属は、導電度の高いリチウムであることが好ましい。
【0056】
金属の陽イオン以外にも、下記の化学式2、化学式3で示されるような陽イオンを備えた塩とすることもできる。
式中、R〜Rは、各々炭素数1〜20のアルキル基またはその誘導体であり、R〜R、及びRとRは同じものでも別々のものでも良い。これらの中でも、R〜Rの内の3つがメチル基、その他の1つが炭素数7〜20のアルキル基またはその誘導体からなる、トリメチルタイプの第4級アンモニウム陽イオンからなる塩は、電子供与性の強い3つのメチル基により窒素原子上の正電荷を安定化でき、他のアルキル基またはその誘導体によりポリマーとの相容性を向上できることから特に好ましい。
また、化学式2の形式の陽イオンにおいては、RあるいはRは電子供与性を有する方が、同じく窒素原子上の正電荷を安定化させることにより、陽イオンとしての安定度を高め、より解離度が高く、よって導電性付与性能に優れた塩にすることができる。
【0057】
【化2】

【0058】
【化3】

【0059】
前記化学式1に記載の陰イオンを備えた塩の中でも、リチウム−ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド((CFSONLi)は、融点が228℃と混練り及びベルト加工温度(200℃〜240℃)の範囲に入り、ポリエーテルセグメント中へより取り込まれやすくなるため、特に好ましい。その他、(CSONLi、(CSO)(CFSO)NLi、(FSO)(CFSO)NLi、(C17SO)(CFSO)NLi、(CFCHOSONLi、(CFCFCHOSONLi、(HCFCFCHOSONLi、((CFCHOSONLi等を用いることができ、複数種を併用しても良い。
【0060】
1.0×10Ω・cm〜1.0×1010Ω・cmの範囲に体積抵抗率を調整するには、化学式1に記載の陰イオンを備えた塩を、全ポリマー成分100重量部に対して0.01重量部〜3重量部、好ましくは0.05重量部〜2.7重量部の割合で配合する。
化学式1に記載の陰イオンを備えた塩の配合量が、前記範囲より少ないと、抵抗値の調整等が困難である。一方、前記範囲より多くの塩を配合しても、体積抵抗率を低減する効果がほぼ飽和状態となり、さらなる電気抵抗の低減は難しい。また、塩の配合量が過多になると、ベルト使用時に電界が印加されたり、感光体(OPC)と接触したりすることで、塩が染み出しを起こすことがある。
化学式1に記載の陰イオンを備えた塩は、熱可塑性組成物中、すなわちベルト中に均一に分散していることが望ましい。
【0061】
本発明では、導電性シームレスベルトの体積抵抗率を1.0×10Ω・cm〜1.0×1010Ω・cmとしているが、1.0×10Ω・cm〜1.0×10Ω・cmの体積抵抗率を有する導電性シームレスベルトを実現する場合に特に有効である。このような体積抵抗率を有する導電性シームレスベルトは、特に中間転写ベルトとして好適であり、良好な転写性が得られる。ただし、本発明のシームレスベルトは、中間転写ベルト以外の用途、例えば搬送ベルト、転写ベルト等に展開する場合にも当然有効である。
前記範囲より体積抵抗率が小さいと、電流が流れやすくなるため、電荷の保持が困難となる等、画像形成装置の部材として機能しなくなることがある。トナーの静電画像を保持できる程度の体積抵抗率とするには、1.0×10Ω・cm以上とする必要がある。一方、前記範囲より体積抵抗率が大きいと、転写や帯電、トナー供給等のプロセスに高電圧が必要となったり、転写効率が低下したりすることがある。
【0062】
化学式1に記載の陰イオンを備えた塩は、分子量1万以下の低分子量ポリエーテル化合物や低分子量極性化合物からなる媒体を介さずに配合されていることが望ましい。このような媒体を用いると、長時間連続して用いた場合に電気抵抗値が大きく上昇したり、媒体がイオンと共に析出し、感光体汚染を起こしやすくなったりする場合がある。
前記した媒体を介さずに化学式1に記載の陰イオンを備えた塩を配合する方法は、公知の手法を用いることができる。例えば、ヘンシェルミキサー、タンブラー等で、化学式1に記載の陰イオンを備えた塩とポリマー成分とのドライブレンドを行った後、ブレンド物を単軸または二軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダー等で溶融混合を行う等の方法を用いることができる。
この他、ポリエステル系熱可塑性エラストマーに化学式1に記載の陰イオンを備えた塩を高温で配合する場合、ポリマーの劣化を防ぐ目的で、必要に応じて窒素等の不活性ガス雰囲気下で配合(混合)を行うこともできる。
【0063】
本発明の導電性シームレスベルトは、低温低湿環境(10℃、相対湿度15%)における体積抵抗率RLLと、高温高湿環境(32.5℃、相対湿度90%)における体積抵抗率RHHが、log10LL−log10HH≦2.5の関係を満たすものであることが望ましい。また、ベルト面内の体積抵抗率の最大値の常用対数値と、最小値の常用対数値との差が、0.5以下であることが好ましい。
【0064】
本発明の導電性シームレスベルトの耐熱性を向上させる観点から、熱可塑性組成物には、難燃剤を配合することができる。例えば、シームレスベルトに難燃剤としてメラミンシアヌレートを含有させると、ベルトの体積抵抗率およびその環境依存性に影響を及ぼすことはなく、ベルトの電気抵抗は変化しない。よって、所定の導電性を維持したままで、ベルトに難燃性を付与できる。
難燃性が付与されたシームレスベルトは、画像形成装置において、高電圧、高温条件下でも、使用状態に制限を受けることなく使用することができ、高画質化を達成することができる。
【0065】
メラミンシアヌレートは、熱可塑性組成物の全重量に対して、15重量%〜40重量%の割合で配合することが望ましく、20重量%〜35重量%の割合で配合することが更に望ましい。15重量%より少ないと、ベルトに十分な難燃性を付与することが困難となり、40重量%より多いと、成形したベルトが脆くなることがある。
メラミンシアヌレートは分解温度300℃以上であるため、この温度領域までは粉末状で存在する。このため、画像形成装置等の使用環境程度の温度であれば、ベルト表面からのブリードやブルーミングを生じることはなく、感光体を汚染することもない。さらには、メラミンシアヌレートは窒素系の難燃剤であり、燃焼熱で熱分解し、窒素系のガスで酸素を置換し燃焼を妨げる働きをするものであるため、ハロゲンに起因する有毒ガス等の発生の心配もなく、環境にも良いベルトを得ることができる。
また、メラミンシアヌレートは、白色であり、体質顔料としても作用するため、ベルトを着色しやすくすることができる。メラミンシアヌレートを含有させることにより白色のベルトを得ることができる。白色のベルトとすると、特に中間転写ベルトとして用いる場合には、トナーの付着が簡単に目視可能となるため、クリーニング性能の評価に好ましい。
【0066】
導電性シームレスベルトの外周面側には、少なくとも1層のコーティング層を形成してもよい。例えば、本発明のシームレスベルトを画像形成装置の中間転写ベルトとして使用した際に、転写時に残ったトナーをかき取りやすくするため、トナーの着脱性を変化させるため、表面エネルギーをコントロールするため等、目的に応じ、ウレタン系ポリマー、アクリル系ポリマー、ゴムラテックス等を主ポリマーとし、フッ素系樹脂を分散させたような公知の材料を、静電塗装、吹き付け塗装、ディッピング、刷毛塗り塗装等公知の方法によってコーティング処理することができる。
【0067】
コーティング層の厚みは1μm〜20μmが好ましい。これにより、更なるベルトの高機能化を実現することができる。コーティング層等の被覆層は、2層、3層等の複層構造としても良く、シームレスベルトの外周面側あるいは/及び内周面側とすることができ、要求性能に応じて各層の材料、積層順序、積層厚み等を適宜設定することができる。
【0068】
熱可塑性組成物を得る場合、硬度の低い第2ポリエステル系熱可塑性エラストマーに化学式1に記載の陰イオンを練り込む方が効果的に体積抵抗率を下げることができる。化学式1に記載の陰イオンを備えた塩は、ポリエステル系熱可塑性エラストマーのソフトセグメントに分散しやすく、ソフトセグメントに分散した塩が体積抵抗を下げるのに有効に機能するからである。
【0069】
例えば、硬度の低い第2ポリエステル系熱可塑性エラストマーに化学式1に記載の陰イオンを備えた塩を1重量%〜20重量%配合した導電性マスターバッチを調製する。化学式1に記載の陰イオンを備えた塩は、導電性マスターバッチとすることで、組成物中への分散性が高まり、特に塩の配合量が少量である場合、抵抗値の調整が容易になる。前記導電性マスターバッチと難燃剤、熱可塑性組成物とを混練し、押出成形することで、前記塩が均一に分散され、抵抗値のバラツキが少ない上に、適度な弾性と難燃性を有するシームレスベルトを容易に得ることができる。
【0070】
また、メラミンシアヌレート等の難燃剤は、ポリエステル系熱可塑性エラストマー等のポリマー中に予め練り込み難燃性マスターバッチとすることで、難燃剤の分散性が向上し、ベルト成形時に発生する可能性がある難燃剤の凝集によるブツをなくすことができる。難燃性マスターバッチを使わない方法でも、混練り効果を上げればブツの発生は防止できるが、マスターバッチ方式の方が容易であり好ましい。難燃性マスターバッチ中、難燃剤は30重量%〜70重量%、さらには40重量%〜60重量%配合されているのが良い。
【0071】
導電性マスターバッチ中において、化学式1に記載の陰イオンを備えた塩の配合量が1重量%より少ないと導電性マスターバッチとする効果を得にくくなる。一方、20重量%より多いと前記塩の練り込みが困難となる。混練は、バンバリーミキサー、ニーダー等の公知の方法により可能であるが、2軸押出機でストランドを引くことにより行うのが好ましい。なお、導電性マスターバッチの混練温度は200℃〜250℃、混練時間は1分〜20分が好ましい。ただし、混練温度は、低硬度の第2ポリエステル系熱可塑性エラストマーの融点温度よりも5℃以上高い温度で行うことが好ましい。
【0072】
次いで、第2ポリエステル系熱可塑性エラストマーおよび化学式1に記載の陰イオンを備えた塩からなる導電性マスターバッチと、第1ポリエステル系熱可塑性エラストマーと、必要に応じてその他の材料、例えば難燃剤とを、押出機で溶融混練する。溶融混練の温度は200℃〜250℃、混練時間は1分〜20分が好ましい。ただし、混練温度は、最も融点の高いポリエステル系熱可塑性エラストマーの融点温度よりも5℃以上高い温度で行うことが好ましい。混練は、1軸押出機、2軸押出機、密閉式混練機、オープンロール、ニーダー等を用いる従来の方法で行えばよいが、2軸押出機が混練り効率が良く好適である。溶融混練で得られた材料は、環状ダイスから押し出し、サイジング用型に沿わせてベルト状に成形する。
【0073】
難燃剤を用いる場合、難燃剤とポリエステル系熱可塑性エラストマーとを予め混練し、難燃性マスターバッチとして、前記押出機に投入されることが望ましい。この場合、導電性マスターバッチと難燃性マスターバッチとポリエステル系熱可塑性エラストマーとをドライブレンドし、混練してベルト用材料とする。なお、難燃性マスターバッチの混練温度は200℃〜250℃、混練時間は1分〜20分が好ましい。
【0074】
その後、ストランドを引き、ベルト用材料を、ペレット化し、乾燥する。このペレットを単軸押出機のホッパーに投入して、押出成形する。押出成形されるシームレスベルトの肉厚は50μm〜500μmとするのが良い。押出成形する際にダイリップの間隙を調整すること、また、熱可塑性組成物の吐出量とベルトの引き取り速度を調整することで可変とすることができる。前記範囲としているのは、50μm未満と薄くすると形状保持しにくくなり、成形後の取り扱いが困難となるためである。一方、500μmより厚いとベルトの曲げ剛性が高くなり、ベルトを駆動軸に懸架しにくくなくなる。
【0075】
また、シームレスベルト外面の表面粗さRzは2.0μm以下、さらには1.8μm以下であることが好ましい。これにより画像形成時の転写効率や搬送性、トナークリーニング性を良好なものとすることができる。
【0076】
押出成形においては、押出機で溶融された熱可塑性組成物を環状ダイスに導き、ダイリップより押し出して、溶融状態のままダイリップ下流に設けたサイジング用型に接触冷却硬化させてベルト形状に成形することができる。サイジングされた連続円筒状成形品が、さらに下流に設けられたカット装置でカットされ、所定の幅のベルトを得ることができる。このように押出成形により成形することで、例えば、φ168mm、肉厚250μm、幅400mmのような大径薄肉のベルトでも容易に成形することができる。
【0077】
ダイリップから出てくる溶融物は鉛直方向に押し出されることで重力による影響を受けず、残留ひずみも低減され、円筒状態を維持したままサイジング用型へ導かれ、寸法精度を高めることができる。特に、押出方向が鉛直下向きである方が好ましい。
なお、本発明のシームレスベルトは、前記押出成形による製法以外にも、インジェクション成形等により成形することが可能である。
【0078】
上述したように、本発明の導電性シームレスベルトは、抵抗値のばらつきを低減している上に非常に小さい環境依存性を実現している。よって、これを用いた本発明の画像形成装置、例えば複写機、ファクシミリ、プリンター等は、均一な画像を得られると共に、抵抗値の環境依存性が小さいため、抵抗値変化をカバーするためにより大きな電源にする必要がなく、装置全体としての消費電力も小さくできる。さらに制御系をより簡略化できたり、開発時の環境試験を軽減することにより、開発の時間やコストを抑えることもできる。
【0079】
次に、図面を参照して、本発明の導電性シームレスベルトおよびそれを備えた画像形成装置の実施形態を説明する。
図1は、本発明の導電性シームレスベルトを中間転写ベルト2として備えたタンデム方式カラープリンタの主要構造の一例である。タンデム方式は、BMCYの各色ごとに独立した現像ユニット1a〜1dを有し、4色分の印刷をほぼ同時に行えるため、4サイクル方式に比べて高速の印字が可能である。
【0080】
このカラープリンタは、現像ユニット1a〜1dの他に、一次転写ロール3a〜3d、中間転写ベルト2、中間転写ベルトを駆動する駆動ロール4a、4b、二次転写ロール5、および定着ユニット7を備えている。現像ユニット1a〜1d内には、それぞれ感光体8a〜8dおよび帯電ロール9a〜9dが組み込まれている。感光体8a〜8dは、中間転写ベルト2を介して、それぞれ一次転写ロール3a〜3dと対向している。
【0081】
各現像ユニット1内では、感光体8の帯電、露光、静電潜像の形成、トナーによる現像までが行われる。感光体8上のトナー像は、駆動軸4a、4bにより張架された中間転写ベルト2上に、1次転写ロール3に印加された転写電圧により、写し取られる。
中間転写ベルト2は、駆動軸4a、4bにより、矢印方向に駆動され、所定の位置に各色のトナーを重ねて、その上にカラー画像を形成する。中間転写ベルト2に形成されたカラー画像は、2次転写ロール5に印加された二次転写電圧により、紙などの記録媒体6へと転写される。記録媒体6上のトナー像は、定着ユニット7で記録媒体6に溶融定着される。
【0082】
図2は、本発明の導電性シームレスベルトを中間転写ベルト33として備えた1ドラム方式カラープリンタの主要構造の一例である。
1ドラム方式では、CMYKの4色が一体となった印刷ユニットを利用し、印刷ユニットを回転させてカラー印刷が行われる。
【0083】
このカラープリンタは、転写ローラ30a、30b、帯電ローラ31、感光体32、中間転写ベルト33、定着ローラ34、4色のトナー35(35a、35b、35c、35d)、鏡36を備えている。
【0084】
画像形成の際、まず、感光体32が図中の矢印の方向に回転し、帯電ローラ31によって感光体32が帯電される。その後、鏡36を介してレーザー37が感光体32の非画像部を露光して除電され、画線部に相当する部分が帯電した状態になる。次に、トナー35aが感光体32上に供給されて、帯電画線部にトナー35aが付着し、1色目の画像が形成される。このトナー画像は、一次転写ローラ30aに電界が印加されることにより、中間転写ベルト33上へ転写される。
【0085】
同様にして、感光体32上に形成されたトナー35b〜35dの各色の画像が中間転写ベルト33上に転写され、中間転写ベルト33上に4色のトナー35(35a〜35d)からなるフルカラー画像が一旦形成される。このフルカラー画像は、二次転写ローラ30bに電界が印加されることにより、紙などの被転写体38上へ転写され、所定の温度に加熱されている定着ローラ34を通過することで、被転写体38の表面へ定着される。
なお、両面印刷を行う場合には、定着ローラ34を通過した被転写体38が、プリンタ内部で反転され、上記画像形成工程を繰り返し、再度裏面に画像が形成される。
【0086】
次に、図面を参照して本発明の導電性シームレスベルトの成形方法について説明する。 図3は、ベルト製造装置10を示す。ベルト製造装置10は、材料を投入するホッパー11と、投入された材料を溶融押出する押出機12と、押出機12の中心軸とダイの中心軸が直角になり環状ダイス構成としたクロスヘッドダイ13と、押出機12とクロスヘッドダイ13の間に配置され押出量を調整するギヤポンプ14と、押し出された環状物Bを内周面側から整形するサイジング用型であるインサイドサイジング15と、成形された環状物Bを鉛直方向に引き取る引取機16と、連続的に成形される環状物Bを所定長さにカットする自動カット機17とを備えている。クロスヘッドダイ13は、環状ダイスのダイリップ13aから溶融物を鉛直下向きに押し出す構成としている。
【0087】
上記ベルト成形用材料を押出機12のホッパー11から投入して200℃〜250℃で溶融し、溶融物をギヤポンプ14で押出量を調整しながらクロスヘッドダイ13へ送り込む。この際、溶融温度は、最も融点の高いポリエステル系熱可塑性エラストマーの融点温度よりも10℃以上高い温度とする。溶融物は、クロスヘッドダイ13の環状ダイスのダイリップ13aから環状に鉛直下向きに押出速度20〜300mL/minで押し出す。ダイリップ13aから押し出された環状物Bは、インサイドサイジング15に沿わさせて70℃〜100℃で冷却してベルト状に成形し、引取機16により鉛直下方へ引き取られ、自動カット機17により所定の長さにカットされ、導電性シームレスベルトとなる。
【0088】
以下、本発明の導電性シームレスベルトの実施例および比較例について詳述する。
以下の要領で、表1記載の材料を表1記載の割合で配合し、熱可塑性組成物を調製し、導電性シームレスベルトの成形を行い、得られたベルトの評価を行った。材料の種類を以下に示す。なお、表1記載の数値の単位は重量部である。
【0089】
【表1】

【0090】
〈ポリエステル系熱可塑性エラストマー〉
東洋紡績(株)製のペルプレンシリーズにおいて、以下のグレード名のものを用いた。各グレードのポリエステル系熱可塑性エラストマーのASTM
D2240に準拠して測定されるDタイプ硬度と融点を以下に示す。
E450BD:Dタイプ硬度78、融点222℃。
P90BD:Dタイプ硬度57、融点203℃
P47D−01K:Dタイプ硬度48、融点203℃
P40B:Dタイプ硬度31、融点180℃
P30B:Dタイプ硬度29、融点160℃
【0091】
〈導電塩〉
上述した化学式1に記載の陰イオンを備えた塩であるリチウム−ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、化学式:(CFSONLi
〈酸化防止剤〉
チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製のIRGANOX HP2215(ラクトン系加工熱安定薬剤)
〈難燃剤〉
日産化学工業(株)製のMC640(メラミンシアヌレート)
【0092】
(実施例1)
(i)熱可塑性組成物の調製
ポリエステル系熱可塑性エラストマーであるP47D−01K(Dタイプ硬度48、融点203℃)のペレット20重量部に対して、導電塩であるリチウム−ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを2重量部(即ち、10重量%の割合)となるようにドライブレンドし、これを2軸押出機のホッパーに投入し、温度を208℃に設定して混練りすることで導電性マスターバッチを得た。
得られた導電性マスターバッチと、ポリエステル系熱可塑性エラストマーであるE450BD(Dタイプ硬度78、融点222℃)のペレットと、酸化防止剤とを、表1記載の割合になるようにドライブレンドし、これを2軸押出機のホッパーに投入し、温度を227℃に設定して混練りし、溶融状態でストランドを引き、水冷したものをペレタイザーでペレット化し、乾燥させたものをベルト形成用材料とした。
【0093】
(ii)シームレスベルトの成形
作製したベルト形成用の材料を、上述した図3に示すベルト製造装置の押出機のホッパーへ投入し、押出機を運転して溶融し、ダイ温度235℃で内径200mm、間隙0.5mmの環状ダイスより溶融物を鉛直方向へ押し出した。その後、外径188mmのインサイドサイジングに沿わせることで80℃で冷却し、固化成形し、引き取り速度1m/minで鉛直下向きに引っ張り、自動カット機で400mm幅にカットすることで連続的に導電性シームレスベルトを得た。
ベルト内径=185mm、平均肉厚=150μm、ベルト幅=220mmとした。
【0094】
(iii)性能評価
実施例1のベルトの性能を下記に示す。各性能は後述する方法により測定した。
体積抵抗率:10の9.5乗(Ω・cm)
面内バラツキ:0.4
環境依存性:1.5
画像出し:○
【0095】
[体積抵抗率の測定]
各ベルトの面内30点の体積抵抗率(Ω・cm)を、(株)ダイアインスツルメンツ製のハイレスタUP MCP−HT450型、URSプローブを用いて、電圧印加時間10秒、印加電圧250Vの条件で測定し、30点の測定値の平均をとった。測定環境は、温度23℃、相対湿度55%とした。
【0096】
[面内バラツキ]
上記30点の体積抵抗率の測定値において、最大値の常用対数値−最小値の常用対数値を、面内バラツキとした。この面内バラツキの値は0.5以下が好ましい。
【0097】
[環境依存性]
測定環境をLL条件(温度10℃、相対湿度15%)およびHH条件(温度32.5℃、相対湿度90%)に変更したこと以外、上記と同様に各ベルトの体積抵抗率を測定した。LL条件での体積抵抗率(Ω・cm)の常用対数値と、HH条件での体積抵抗率(Ω・cm)の常用対数値との差を、環境依存性とした。環境依存性の値は2.5以下が好ましい。
【0098】
[画像出し]
各ベルトをパナソニックコミュニケーションズ(株)製のカラーレーザープリンタ(WORKIO KX−CL500)の中間転写ベルトとして装着し、画像形成を行い、転写性能を目視で評価した。
【0099】
[難燃性]
難燃性試験:VTM2
UL−94:プラスチック材料の燃焼性試験に準ずる。
薄膜サンプルを対照とした「薄手材料垂直燃焼試験:VTM−0、VTM−1、VTM−2」の方法により試験を行った。VTM−2のレベルに達しているものを「○」、達していないものを「×」とした。
【0100】
(実施例2)
ポリエステル系熱可塑性エラストマーであるP30B(Dタイプ硬度29、融点160℃)のペレット10重量部に対し、導電塩であるリチウム−ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを2重量部の割合となるようにドライブレンドし、これを2軸押出機のホッパーに投入し、温度を165℃に設定して混練りすることで導電性マスターバッチを得た。
得られた導電性マスターバッチと、ポリエステル系熱可塑性エラストマーであるP47D−01K(Dタイプ硬度48、融点203℃)のペレットと、酸化防止剤とを、表1記載の割合になるようにドライブレンドし、これを2軸押出機のホッパーに投入し、温度を208℃に設定して混練りし、溶融状態でストランドを引き、水冷したものをペレタイザーでペレット化し、乾燥させたものをベルト形成用材料とした。
【0101】
こうして得られたベルト形成用材料を用い、実施例1と同様の方法で、導電性シームレスベルトを形成し、同様に評価した。ベルトの寸法と評価結果を以下に示す。
ベルト内径=185mm、平均肉厚=250μm、ベルト幅=220mm
体積抵抗率:10の7.4乗(Ω・cm)
面内バラツキ:0.2
環境依存性:1.1
画像出し:○
【0102】
(実施例3)
ポリエステル系熱可塑性エラストマーであるP47D−01K(Dタイプ硬度48、融点203℃)のペレットに、難燃剤であるメラミンシアヌレートを50重量%の割合になるようにドライブレンドし、これを2軸押出機のホッパーに投入し、温度を227℃に設定して混練りすることで難燃性マスターバッチを得た。
また、導電性マスターバッチを、実施例2と同様に調製した。
得られた難燃性マスターバッチと、導電性マスターバッチと、P47D−01Kのペレットと、酸化防止剤とを、表1記載の割合になるようにドライブレンドし、これを2軸押出機のホッパーに投入し、温度を208℃に設定して混練りし、溶融状態でストランドを引き、水冷したものをペレタイザーでペレット化し、乾燥させたものをベルト形成用材料とした。
【0103】
こうして得られたベルト形成用材料を用い、実施例1と同様の方法で、導電性シームレスベルトを形成し、同様に評価した。ベルトの寸法と評価結果を以下に示す。
ベルト内径=185mm、平均肉厚=250μm、ベルト幅=220mm
体積抵抗率:10の7.4乗(Ω・cm)
面内バラツキ:0.2
環境依存性:1.1
画像出し:○
難燃性:○
【0104】
(実施例4)
ポリエステル系熱可塑性エラストマーであるP40B(Dタイプ硬度31、融点180℃)のペレット20重量部に対し、導電塩であるリチウム−ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを2重量部の割合となるようにドライブレンドし、これを2軸押出機のホッパーに投入し、温度を185℃に設定して混練りすることで導電性マスターバッチを得た。
得られた導電性マスターバッチと、ポリエステル系熱可塑性エラストマーであるP47D−01K(Dタイプ硬度48、融点203℃)のペレットと、酸化防止剤とを、表1記載の割合になるようにドライブレンドし、これを2軸押出機のホッパーに投入し、温度を208℃に設定して混練りし、溶融状態でストランドを引き、水冷したものをペレタイザーでペレット化し、乾燥させたものをベルト形成用材料とした。
【0105】
こうして得られたベルト形成用材料を用い、実施例1と同様の方法で、導電性シームレスベルトを形成し、同様に評価した。ベルトの寸法と評価結果を以下に示す。
ベルト内径=185mm、平均肉厚=250μm、ベルト幅=220mm
体積抵抗率:10の7.1乗(Ω・cm)
面内バラツキ:0.1
環境依存性:1.2
画像出し:○
【0106】
(比較例1)
ポリエステル系熱可塑性エラストマーであるE450BD(Dタイプ硬度78、融点222℃)のペレットに、導電塩であるリチウム−ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを5重量%の割合となるようにドライブレンドし、これを2軸押出機のホッパーに投入し、温度を227℃に設定して混練りすることで導電性マスターバッチを得た。
得られた導電性マスターバッチと、E450BDのペレットと、酸化防止剤とを、表1記載の割合になるようにドライブレンドし、これを2軸押出機のホッパーに投入し、温度を227℃に設定して混練りし、溶融状態でストランドを引き、水冷したものをペレタイザーでペレット化し、乾燥させたものをベルト形成用材料とした。
【0107】
こうして得られたベルト形成用材料を用い、実施例1と同様の方法で、導電性シームレスベルトを形成し、同様に評価した。ベルトの寸法と評価結果を以下に示す。
ベルト内径=185mm、平均肉厚=150μm、ベルト幅=220mm
体積抵抗率:10の10.6乗(Ω・cm)
面内バラツキ:0.5
環境依存性:2.1
画像出し:×(転写性が悪かった)
【0108】
(比較例2)
ポリエステル系熱可塑性エラストマーであるP47D−01K(Dタイプ硬度48、融点203℃)のペレットに、導電塩であるリチウム−ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを10重量%の割合となるようにドライブレンドし、これを2軸押出機のホッパーに投入し、温度を208℃に設定して混練りすることで導電性マスターバッチを得た。
得られた導電性マスターバッチと、P47D−01Kのペレットと、酸化防止剤とを、表1記載の割合になるようにドライブレンドし、これを2軸押出機のホッパーに投入し、温度を208℃に設定して混練りし、溶融状態でストランドを引き、水冷したものをペレタイザーでペレット化し、乾燥させたものをベルト形成用材料とした。
【0109】
こうして得られたベルト形成用材料を用い、実施例1と同様の方法で、導電性シームレスベルトを形成し、同様に評価した。ベルトの寸法と評価結果を以下に示す。
ベルト内径=185mm、平均肉厚=250μm、ベルト幅=220mm
体積抵抗率:10の8.2乗(Ω・cm)
面内バラツキ:0.3
環境依存性:1.2
画像出し:△
【0110】
(比較例3)
ポリエステル系熱可塑性エラストマーであるP40B(Dタイプ硬度31、融点180℃)のペレット100重量部に対し、導電塩であるリチウム−ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを10重量部の割合となるようにドライブレンドし、これを2軸押出機のホッパーに投入し、温度を185℃に設定して混練りすることで導電性マスターバッチを得た。
得られた導電性マスターバッチと、P40Bのペレットと、P47D−01K(Dタイプ硬度48、融点203℃)のペレットと、酸化防止剤とを、表1記載の割合になるようにドライブレンドし、これを2軸押出機のホッパーに投入し、温度を208℃に設定して混練りし、溶融状態でストランドを引き、水冷したものをペレタイザーでペレット化し、乾燥させたものをベルト形成用材料とした。
【0111】
こうして得られたベルト形成用材料を用い、実施例1と同様の方法で、導電性シームレスベルトを形成し、同様に評価した。ベルトの寸法と評価結果を以下に示す。
ベルト内径=185mm、平均肉厚=250μm、ベルト幅=220mm
体積抵抗率:10の7.0乗(Ω・cm)
面内バラツキ:0.2
環境依存性:1.1
画像出し:×(画像に伸びが見られた)
ベルト寸法と性能評価の結果を表2にまとめて示す。
【0112】
【表2】

【0113】
以上のように、実施例1〜4は、いずれの評価結果も良好であり、実用性に優れた導電性シームレスベルトであることが確認できた。また、実施例3では、極めて良好な難燃性が達成された。
【0114】
実施例1は、比較例1に比べて体積抵抗率を下げることができた。比較例1は、体積抵抗率が1010Ω・cmを上回り、一次転写時に感光体からベルトへ十分にトナーを移すことができなかった。また、比較例1は、実施例1に比べて環境依存性も高かった。
実施例2も、比較例2に比べて体積抵抗率を下げることができた。
実施例3、4とも体積抵抗率が107.4、107.1と下げることが出来た。
これに対して、比較例2は、組成物として低硬度48のP47D−01Kを用いているため、ベルトの厚みを250μmと比較的厚くして色ズレを抑制したが、体積抵抗率が108.3と108.0を越えるため、大きな一次転写電圧が必要となり、トナーの転写率が悪くなった。よって、画像出しは△の評価であった。
比較例3の体積抵抗率は実施例3、4と同程度に下げることができたが、ベルトの剛性が実施例4よりも劣っていたため、一次転写時に画像に伸びが生じた。
【0115】
なお、上記実施例では、本発明の導電性シームレスベルトを中間転写ベルトとして用いる場合について記載したが、様々な画像形成装置に用いられる定着ベルト、現像ベルト、搬送ベルト等としても用いることができる。特に、白色のベルトとすると、トナーの付着が簡単に目視可能となるため、クリーニング性能の評価に適し、中間転写ベルトとして好適に用いることができる。
【0116】
上記実施例では、熱可塑性組成物を用いて成形された1層構造のシームレスベルトについて記載したが、外周面側に少なくとも1層のコーティング層もしくは被覆層を有する2層構造としてもよい。また、コーティング層は、3層以上の複層構造としてもよく、シームレスベルトの外周面側あるいは/及び内周面側に設けることもできる。
【0117】
また、第1ポリエステル系熱可塑性エラストマーおよび第2ポリエステル系熱可塑性エラストマーには、上記実施例で用いたもの以外に、様々なポリエステルポリエーテル系あるいはポリエステルポリエステル系の熱可塑性エラストマーを用いることができる。
また、化学式1に記載の陰イオンを備えた塩には、上記実施例で用いたもの以外に、様々な塩を用いることができる。例えば陽イオンの種類を変更してもよい。
また、上記実施例では、押出成形によりベルトを製造したが、インジェクション成形等により成形することも可能であり、また、マスターバッチを用いずに成形することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0118】
以上の説明より明らかなように、本発明によれば、ポリエステル系熱可塑性エラストマーを主成分とし、導電剤として上述した化学式1に記載の陰イオンを備えた塩を含有させて成形したシームレスベルトにおいて、一定の剛性を維持しながら、その剛性では従来達成できなかったレベルにまで体積抵抗率を低減することが可能である。
【0119】
よって、本発明によれば、多彩な要求に応じて、好適な物性を有する導電性シームレスベルト、例えば中間転写ベルト、シート搬送ベルト、現像ベルト、定着ベルト、ベルト状感光体の基体ベルト等を提供することができ、特に画像形成装置、例えば複写機、ファクシミリ、プリンタ等の分野において極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】本発明の導電性シームレスベルトを中間転写ベルトとして備えたタンデム方式カラープリンタの主要構造の一例である。
【図2】本発明の導電性シームレスベルトを中間転写ベルトとして備えた1ドラム方式カラープリンタの主要構造の一例である。
【図3】導電性シームレスベルトの製造装置の概略図である。
【符号の説明】
【0121】
1a〜1d 現像ユニット
2 中間転写ベルト
3a〜3d 一次転写ロール
4a、4b 駆動ロール
5 二次転写ロール
6 記録媒体
7 定着ユニット
8a〜8d 感光体
9a〜9d 帯電ロール
10 ベルト製造装置
11 ホッパー
12 押出機
13 クロスヘッドダイ
13a ダイリップ
14 ギヤポンプ
15 インサイドサイジング
16 引取機
17 自動カット機
30a〜b 転写ローラ
31 帯電ローラ
32 感光体
33 中間転写ベルト
34 定着ローラ
35a〜d トナー
36 鏡
37 レーザー
38 被転写体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性組成物を成形してなる導電性シームレスベルトであって、
前記熱可塑性組成物は、ポリマー成分を100重量部と、下記化学式1に記載の陰イオンを備えた塩を0.01重量部〜3重量部含み、
前記ポリマー成分は、複数のポリエステル系熱可塑性エラストマーのブレンドを含み、
前記ブレンドは、少なくとも、所定の硬度を有する第1ポリエステル系熱可塑性エラストマーと、前記第1ポリエステル系熱可塑性エラストマーよりも低硬度の第2ポリエステル系熱可塑性エラストマーとを含み、
前記ポリマー成分全体に占める前記第2ポリエステル系熱可塑性エラストマーの含有量は、前記第1ポリエステル系熱可塑性エラストマーより少なく、かつ、30重量%以下であり、
体積抵抗率が1.0×10Ω・cm〜1.0×1010Ω・cmであることを特徴とする導電性シームレスベルト。
【化1】

(式中、XおよびXは、それぞれが炭素原子、フッ素原子およびスルホニル基(−SO−)を含む炭素数1〜8の官能基である。)
【請求項2】
ASTM D2240に準拠して測定される前記第1ポリエステル系熱可塑性エラストマーのDタイプ硬度が、同様に測定される前記第2ポリエステル系熱可塑性エラストマーのDタイプ硬度よりも10以上高い請求項1に記載の導電性シームレスベルト。
【請求項3】
ASTM D2240に準拠して測定される前記第1ポリエステル系熱可塑性エラストマーのDタイプ硬度が、45以上である請求項2に記載の導電性シームレスベルト。
【請求項4】
前記化学式1中のX−がCn1m1(2n1−m1+1)−SO−であり、X−がCn2m2(2n2−m2+1)−SO−であり、n1およびn2はそれぞれが1以上の整数であり、m1およびm2はそれぞれが0以上の整数である請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の導電性シームレスベルト。
【請求項5】
前記化学式1に記載の陰イオンと対になる塩を構成する陽イオンが、アルカリ金属、2A族金属、遷移金属および両性金属から選ばれるいずれかの陽イオンである、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の導電性シームレスベルト。
【請求項6】
前記陽イオンを構成する金属がリチウムである、請求項5に記載の導電性シームレスベルト。
【請求項7】
前記化学式1に記載の陰イオンを備えた塩が、リチウム−ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドである請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の導電性シームレスベルト。
【請求項8】
前記化学式1に記載の陰イオンを備えた塩は、分子量1万以下の低分子量ポリエーテル化合物や低分子量極性化合物からなる媒体を介さずに配合されている請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の導電性シームレスベルト。
【請求項9】
低温低湿環境(10℃、相対湿度15%)における体積抵抗率RLLと、高温高湿環境(32.5℃、相対湿度90%)における体積抵抗率RHHが、log10LL−log10HH≦2.5の関係を満たしている請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載の導電性シームレスベルト。
【請求項10】
前記熱可塑性組成物の全重量に対して、難燃剤であるメラミンシアヌレートを15重量%〜40重量%の割合で含有している、請求項1乃至請求項9のいずれか1項に記載の導電性シームレスベルト。
【請求項11】
外周面側に少なくとも1層のコーティング層を有している請求項1乃至請求項10のいずれか1項に記載の導電性シームレスベルト。
【請求項12】
所定の硬度を有する第1ポリエステル系熱可塑性エラストマーを主成分とする熱可塑性組成物と、前記第1ポリエステル系熱可塑性エラストマーよりも硬度の低い第2ポリエステル系熱可塑性エラストマーに下記化学式1に記載の陰イオンを備えた塩が1重量%〜20重量%配合された導電性マスターバッチと、難燃剤とを、押出機で溶融混練し、
前記溶融混練で得られた材料を、環状ダイスから押し出し、サイジング用型に沿わせてベルト状に成形することを特徴とする、導電性シームレスベルトの製造方法。
【化1】

(式中、XおよびXはそれぞれが炭素原子、フッ素原子およびスルホニル基(−SO−)を含む炭素数1〜8の官能基である。)
【請求項13】
前記難燃剤と前記第1ポリエステル系熱可塑性エラストマーを主成分とする熱可塑性組成物とを予め混練して難燃性マスターバッチとし、前記難燃性マスターバッチを前記押出機に投入すると共に、前記材料を前記環状ダイスから鉛直方向に押し出す、請求項12に記載の導電性シームレスベルトの製造方法。
【請求項14】
請求項1乃至請求項11のいずれか1項に記載の導電性シームレスベルトを備えたことを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−182813(P2006−182813A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−375022(P2004−375022)
【出願日】平成16年12月24日(2004.12.24)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】