説明

平面アンテナ部材およびこれを備えたプラズマ処理装置

【課題】従来のマイクロ波の周波数よりも低い周波数のマイクロ波を処理容器内に効率良く導入できる平面アンテナを提供する。
【解決手段】平面アンテナ板31は、同心円状に第1のスロット32aおよび第2のスロット32bを有し、中心Oから第1のスロット32aの中心O32aまでの距離と、平面アンテナ板31の半径rとの比を0.35〜0.5とし、かつ中心Oから第2のスロット32bの中心O32bまでの距離と、半径rとの比を0.7〜0.85とした。また、中心Oと中心O32aとを結ぶ直線に対して、第1のスロット32aの長手方向は90°〜105°の角度であり、かつ、中心Oと中心O32bとを結ぶ直線に対して、第2のスロット32bの長手方向は75°〜85°の角度である。さらに、平面アンテナ板31におけるスロットの開口面積比率は15〜20%の範囲内である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理体をプラズマ処理する処理容器へ所定周波数のマイクロ波を導くために用いられる平面アンテナ部材およびこの平面アンテナ部材を備えたプラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウエハなどの被処理体に対し、酸化処理や窒化処理などのプラズマ処理を行うプラズマ処理装置として、複数のスロットを有する平面アンテナを用いて処理容器内に周波数2.45GHzのマイクロ波を導入してプラズマを生成させる方式のプラズマ処理装置が知られている(例えば、特許文献1、特許文献2)。また、平面アンテナの改良に関して、マイクロ波放射孔から放射される電界を平面アンテナの周方向で回転させてプラズマ密度を均一化させるため、同心円状に設けられたスロット対のうち、最内周のスロット対の数を8組以内とする提案がなされている(特許文献3)。このようなマイクロ波プラズマ処理装置では、高いプラズマ密度を持つプラズマを生成させることにより、処理容器内で表面波プラズマを形成することが可能である。
【0003】
上記の平面アンテナ方式のプラズマ処理装置では、処理容器内の圧力を例えば667Pa以上まで高くしていくとプラズマ密度が低下する傾向がある。プラズマ密度が低くなると、2.45GHzのマイクロ波の角周波数よりもプラズマの角周波数の方が小さくなってしまい、表面波プラズマを安定的に維持することができなくなってしまう。例えば、処理容器内圧力が133.3Pa以上の条件でプラズマ処理を行う場合、プラズマ密度が十分に上昇せず、表面波プラズマがカットオフして表面波プラズマではない通常のバルクプラズマになってしまう場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−260594号公報
【特許文献2】特開2001−223171号公報
【特許文献3】特開2007−311668号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
次世代以降のデバイス開発に向けて、例えば3次元デバイス加工や微細化への対応を図るためには、精密な処理が可能な比較的高い圧力条件で処理レートの向上やウエハ面内における処理の均一性を実現していく必要がある。そのためには、プラズマの制御性を向上させ、プラズマ密度が低くなる比較的高い圧力条件でも、表面波プラズマを安定的に維持できるようにする必要がある。表面波プラズマを安定的に維持できるようにするための一つの方策として、マイクロ波の周波数を下げることが考えられる。例えば、2.45GHzよりも低い周波数のマイクロ波を用いることにより、比較的高い圧力条件でも安定的に表面波プラズマを維持できる。つまり、プラズマ処理条件のマージンが広がり、広範囲の条件で安定してプラズマを生成することができる。
【0006】
しかし、マイクロ波を効率よく処理容器内に導くための平面アンテナの構造は、マイクロ波の周波数により異なる。平面アンテナの形状が、マイクロ波の周波数と適合していないと、反射波が生じて処理容器内への放射効率が低下し、プラズマが不安定になるとともに、導波管が発熱し、長時間のプロセスを行うことができなくなる。従来技術の平面アンテナは、周波数2.45GHzのマイクロ波を処理容器内に導入する目的に適したものであり、従来のマイクロ波の周波数よりも低い例えば1GHz程度の周波数のマイクロ波に適した平面アンテナに関する構造面の検討は、十分になされていない。そもそも、1GHz以下の比較的低い周波数のマイクロ波を使用するプラズマ処理装置には、平面アンテナ自体が使用されてこなかった。
【0007】
一般に、マイクロ波の周波数を下げるとその波長が長くなることから、2.45GHzの周波数のマイクロ波を導く場合に比べて、1GHz程度の周波数のマイクロ波を導く場合には、平面アンテナのスロットの長さやスロットの間隔を大きくすることが考えられる。しかし、理論的に計算されたスロットの長さや配置に基づいて作製された平面アンテナを用いてプラズマ形成を行っても、安定的に表面波プラズマを形成できるとは限らない。例えば近年では300mmウエハの処理に対応できるようにプラズマ処理装置が大型化しており、さらに、450mmウエハへの対応も要求されるようになってきている。これに伴い平面アンテナも大径化しつつある。300mmウエハを処理するための平面アンテナは、直径が500mm近くにも達する。450mmウエハの場合には、平面アンテナがさらに大型化して直径が600〜700mm程度にも達する。このように大型の平面アンテナでは、スロットの長さや配置を計算上得られる最適値に設定しても、安定的に表面波プラズマを維持することは困難となる。
【0008】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、その第1の目的は、従来のマイクロ波の周波数よりも低い周波数のマイクロ波を処理容器内に効率良く導入できる平面アンテナを提供することである。また、本発明の第2の目的は、従来のマイクロ波の周波数よりも低い周波数のマイクロ波を用い、かつ大型の基板を処理する場合でも、プラズマの制御性が高く、処理容器内で安定的に表面波プラズマを形成することができるプラズマ処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る平面アンテナ部材は、プラズマ処理装置の処理容器内にマイクロ波発生源で発生したマイクロ波を導入する平面アンテナ部材である。この平面アンテナ部材は、導電性材料からなる平板状基材と、前記平板状基材に形成された、マイクロ波を放射する複数の細長形状の貫通開口と、を備え、前記貫通開口は、前記平面アンテナ部材の中心にその中心が重なる円周上に配列された複数の第1の貫通開口と、前記第1の貫通開口の外側に同心円状に配列された複数の第2の貫通開口と、を含んでいる。そして、前記平面アンテナ部材の中心から前記第1の貫通開口の中心までの距離Lと、前記平面アンテナ部材の半径rとの比L/rが0.35〜0.5の範囲内であり、かつ、前記平面アンテナ部材の中心から前記第2の貫通開口の中心までの距離Lと、前記平面アンテナ部材の半径rと比L/rが0.7〜0.85の範囲内である。また、前記平面アンテナ部材の中心と前記第1の貫通開口の中心とを結ぶ直線に対して、該第1の貫通開口の長手方向がなす角度が90°〜105°の範囲内であり、かつ、前記平面アンテナ部材の中心と前記第2の貫通開口の中心とを結ぶ直線に対して、該第2の貫通開口の長手方向がなす角度が75°〜85°の範囲内である。さらに、前記平面アンテナ部材の面内における前記第1の貫通開口および前記第2の貫通開口の合計の開口面積の比率が15〜20%の範囲内である。
【0010】
本発明に係る平面アンテナ部材において、前記距離Lを半径とし、前記第1の貫通開口の中心を結ぶ第1の円および前記距離Lを半径とし、前記第2の貫通開口の中心を結ぶ第2の円に対して同心円状に形成され、前記第1の円と前記第2の円との径方向の中間点を結ぶ第3の円は、その半径Lと前記半径rとの比L/rが、0.5〜0.7の範囲内である。
【0011】
本発明に係る平面アンテナ部材において、前記距離Lと前記距離Lとの差分(L−L)と、前記平面アンテナ部材の半径rとの比(L−L)/rが0.2〜0.5の範囲内である。
【0012】
また、本発明に係る平面アンテナ部材において、前記第1の貫通開口の長手方向に対して、前記第2の貫通開口の長手方向のなす角度が85°〜95°の範囲内である。
【0013】
また、本発明に係る平面アンテナ部材において、前記平面アンテナ部材の中心から前記第1の貫通開口の中心までを結ぶ直線と、前記平面アンテナ部材の中心から前記第2の貫通開口の中心までを結ぶ直線とのなす角度が、60°〜80°の範囲内である。
【0014】
また、本発明に係る平面アンテナ部材において、前記マイクロ波発生源で発生したマイクロ波の周波数が、800〜1000MHzの範囲内である。
【0015】
本発明に係るプラズマ処理装置は、被処理体を収容する真空引き可能な処理容器と、前記処理容器内にガスを導入するガス導入部と、前記処理容器内を減圧排気する排気装置と、前記処理容器の上部の開口に気密に装着され、プラズマ発生用のマイクロ波を透過させる透過板と、前記透過板の上に配置され、前記マイクロ波を前記処理容器内に導入する平面アンテナ部材と、前記平面アンテナ部材を上方から覆うカバー部材と、前記カバー部材を貫通して設けられ、マイクロ波発生源で発生した800〜1000MHzの範囲内のマイクロ波を前記平面アンテナ部材へ供給する導波管と、を備えている。このプラズマ処理装置において、前記平面アンテナ部材は、導電性材料からなる平板状基材と、前記平板状基材に形成された、マイクロ波を放射する複数の細長形状の貫通開口と、を備え、前記貫通開口は、環状に配列された複数の第1の貫通開口と、前記第1の貫通開口の外側に同心円状に配列された複数の第2の貫通開口と、を含んでいる。そして、前記平面アンテナ部材の中心から前記第1の貫通開口の中心までの距離Lと、前記平面アンテナ部材の半径rとの比L/rが0.35〜0.5の範囲内であり、かつ、前記平面アンテナ部材の中心から前記第2の貫通開口の中心までの距離Lと、前記平面アンテナ部材の半径rと比L/rが0.7〜0.85の範囲内である。また、前記平面アンテナ部材の中心と前記第1の貫通開口の中心とを結ぶ直線に対して、該第1の貫通開口の長手方向がなす角度が90°〜105°の範囲内であり、かつ、前記平面アンテナ部材の中心と前記第2の貫通開口の中心とを結ぶ直線に対して、該第2の貫通開口の長手方向がなす角度が75°〜85°の範囲内である。さらに、前記平面アンテナ部材の面内における前記第1の貫通開口および前記第2の貫通開口の合計の開口面積の比率が15〜20%の範囲内である。
【0016】
本発明に係るプラズマ処理装置において、前記距離Lを半径とし、前記第1の貫通開口の中心を結ぶ第1の円および前記距離Lを半径とし、前記第2の貫通開口の中心を結ぶ第2の円に対して同心円状に形成され、前記第1の円と前記第2の円との径方向の中間点を結ぶ第3の円は、その半径Lと前記半径rとの比L/rが0.5〜0.7の範囲内である。
【0017】
また、本発明に係るプラズマ処理装置において、前記距離Lと前記距離Lとの差分(L−L)と、前記平面アンテナ部材の半径rと比(L−L)/rが0.2〜0.5の範囲内である。
【0018】
また、本発明に係るプラズマ処理装置において、前記第1の貫通開口の長手方向に対して、前記第2の貫通開口の長手方向のなす角度が85°〜95°の範囲内である。
【0019】
また、本発明に係るプラズマ処理装置において、前記平面アンテナ部材の中心から前記第1の貫通開口の中心までを結ぶ直線と、前記平面アンテナ部材の中心から前記第2の貫通開口の中心までを結ぶ直線とのなす角度が、60°〜80°の範囲内である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、平面アンテナ部材の中心から第1の貫通開口の中心までの距離Lと平面アンテナ部材の半径rとの比L/rを0.35〜0.5の範囲内とし、かつ平面アンテナ部材の中心から第2の貫通開口の中心までの距離Lと平面アンテナ部材の半径rと比L/rを0.7〜0.85の範囲内とするとともに、平面アンテナ部材の中心と第1の貫通開口の中心とを結ぶ直線に対して、該第1の貫通開口の長手方向がなす角度を90°〜105°の範囲内とし、かつ、平面アンテナ部材の中心と前記第2の貫通開口の中心とを結ぶ直線に対して、該第2の貫通開口の長手方向がなす角度を75°〜85°の範囲内とし、さらに平面アンテナ部材の面内における前記第1の貫通開口および前記第2の貫通開口の合計の開口面積の比率を15〜20%の範囲内とすることによって、マイクロ波発生装置で発生させるマイクロ波の周波数を、従来のマイクロ波の周波数より低い800MHz〜1000MHzにした場合でも、反射波の発生を抑え、処理容器内へ効率良くマイクロ波を導入できる。従って、処理容器内で表面波プラズマを安定的に維持することができるとともに、基板の大型化への対応も可能になる、という効果を奏する。
【0021】
また、上記平面アンテナ部材を備えた本発明に係るプラズマ処理装置は、マイクロ波発生源で発生させるマイクロ波の周波数を、従来のマイクロ波の周波数より低い800MHz〜1000MHzの範囲内に設定したので、例えば2.45GHzのマイクロ波を使用する場合に比べて、プラズマ処理条件のマージンが広がり、高い圧力範囲までカットオフ密度以上のプラズマ密度を維持することができる。従って、本発明のプラズマ処理装置によれば、比較的高い圧力条件でも十分な処理レートやウエハ面内における処理の均一性を確保することが可能であり、高い精度が必要な3次元デバイスの加工や微細加工への対応も図ることができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施の形態に係るプラズマ処理装置の一例を示す概略断面図である。
【図2】平面アンテナ板の平面図である。
【図3】図2の要部を拡大して示す図面である。
【図4】図1のプラズマ処理装置の制御系統の概略構成を示すブロック図である。
【図5】プラズマのカットオフ密度の圧力依存モデルを説明する図面である。
【図6】比較例のアンテナBのスロット形状と配置を示す図面である。
【図7】比較例のアンテナCのスロット形状と配置を示す図面である。
【図8】比較例のアンテナDのスロット形状と配置を示す図面である。
【図9】比較例のアンテナEのスロット形状と配置を示す図面である。
【図10】プラズマの電子温度および電子密度とマイクロ波パワーとの関係を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。図1は、本発明の実施の形態に係るプラズマ処理装置100の概略構成を模式的に示す断面図である。また、図2は、図1のプラズマ処理装置100に用いられる本発明の実施の形態に係る平面アンテナを示す要部平面図であり、図3は、該平面アンテナにおける貫通開口としてのスロットの拡大図である。さらに、図4は、図1のプラズマ処理装置100における制御系統の概略構成例を示す図面である。
【0024】
プラズマ処理装置100は、複数のスロット状の孔を有する平面アンテナ、特にRLSA(Radial Line Slot Antenna;ラジアルラインスロットアンテナ)にて処理容器内にマイクロ波を導入してプラズマを発生させることにより、高密度かつ低電子温度のプラズマを発生させ得るプラズマ処理装置として構成されている。プラズマ処理装置100では、10/cm〜1013/cmのプラズマ密度で、かつ2eV以下の低電子温度を有するプラズマによる処理が可能である。従って、プラズマ処理装置100は、各種半導体装置の製造過程において好適に利用できるものである。
【0025】
プラズマ処理装置100は、主要な構成として、気密に構成された処理容器1と、処理容器1内にガスを導入するガス導入部15と、処理容器1内を減圧排気するための排気装置としての排気装置24と、処理容器1の上部に設けられ、処理容器1内にマイクロ波を導入するマイクロ波導入機構27と、これらプラズマ処理装置100の各構成部を制御する制御手段としての制御部50と、を備えている。なお、ガス供給装置18、排気装置24およびマイクロ波導入機構27は、処理容器1内で処理ガスのプラズマを生成させるプラズマ生成手段を構成している。
【0026】
処理容器1は、接地された略円筒状の容器により形成されている。なお、処理容器1は角筒形状の容器により形成してもよい。処理容器1は、アルミニウム等の材質からなる底壁1aと側壁1bとを有している。
【0027】
処理容器1の内部は、被処理体であるシリコンウエハ(以下、単に「ウエハ」と記す)Wを水平に支持するための載置台2が設けられている。載置台2は、熱伝導性の高い材質例えばAlN等のセラミックスにより構成されている。この載置台2は、排気室11の底部中央から上方に延びる円筒状の支持部材3により支持されている。支持部材3は、例えばAlN等のセラミックスにより構成されている。
【0028】
また、載置台2には、その外縁部をカバーし、ウエハWをガイドするためのカバーリング4が設けられている。このカバーリング4は、例えば石英、AlN、Al、SiN等の材質で構成された環状部材である。
【0029】
また、載置台2には、温度調節機構としての抵抗加熱型のヒータ5が埋め込まれている。このヒータ5は、ヒータ電源5aから給電されることにより載置台2を加熱して、その熱で被処理基板であるウエハWを均一に加熱する。
【0030】
また、載置台2には、熱電対(TC)6が配備されている。この熱電対6によって温度計測を行うことにより、ウエハWの加熱温度を例えば室温から900℃までの範囲で制御可能となっている。
【0031】
また、載置台2には、ウエハWを支持して昇降させるためのウエハ支持ピン(図示せず)が設けられている。各ウエハ支持ピンは、載置台2の表面に対して突没可能に設けられている。
【0032】
処理容器1の内周には、石英からなる円筒状のライナー7が設けられている。また、載置台2の外周側には、処理容器1内を均一排気するため、多数の排気孔8aを有する石英製のバッフルプレート8が環状に設けられている。このバッフルプレート8は、複数の支柱9により支持されている。なお、プラズマ処理装置100をプラズマCVD装置として使用する場合には、ライナー7およびバッフルプレート8は配備しなくてもよい。
【0033】
処理容器1の底壁1aの略中央部には、円形の排気口10が形成されている。底壁1aにはこの排気口10と連通し、下方に向けて突出する排気室11が設けられている。この排気室11には、排気管12が接続されており、この排気管12を介して排気装置24に接続されている。
【0034】
処理容器1の上端には、処理容器1を開閉させるリッドとしての環状のプレート13が配置されている。プレート13の内周部は、内側(処理容器内空間)へ向けて突出し、透過板28を支持する環状の支持部13aを形成している。このプレート13と処理容器1との間は、シール部材14を介して気密にシールされている。
【0035】
処理容器1の側壁1bには、環状をなすガス導入部15が設けられている。このガス導入部15は、配管を介して酸素含有ガスやプラズマ励起用ガスを供給するガス供給装置18に接続されている。なお、ガス導入部15は、処理容器1内に突出するノズル状、または複数のガス孔を有するシャワー状に設けてもよい。
【0036】
ガス供給装置18は、例えば、プラズマ形成用のAr、Kr、Xe、He等の希ガスや、酸化処理における酸素ガス等の酸化性ガス、窒化処理における窒化ガスなどの処理ガス等を供給するガス供給源(図示せず)を有している。また、CVD処理の場合には、原料ガス、処理容器内雰囲気を置換する際に用いるN、Ar等のパージガス、処理容器1内をクリーニングする際に用いるClF、NF等のクリーニングガス等を供給するガス供給源を設けることもできる。各ガス供給源は、図示しないマスフローコントローラおよび開閉バルブを備え、供給されるガスの切替えや流量等の制御が出来るようになっている。
【0037】
また、処理容器1の側壁1bには、プラズマ処理装置100と、これに隣接する搬送室(図示せず)との間でウエハWの搬入出を行うための搬入出口16と、この搬入出口16を開閉するゲートバルブ17とが設けられている。
【0038】
排気装置24は、例えばターボ分子ポンプなどの高速真空ポンプを備えている。前記のように、排気装置24は、排気管12を介して処理容器1の排気室11に接続されている。排気装置24を作動させることにより、処理容器1内のガスは、排気室11の空間11a内へ均一に流れ、さらに空間11aから排気管12を介して外部へ排気される。これにより、処理容器1内を例えば0.133Paまで高速に減圧することが可能となっている。
【0039】
次に、マイクロ波導入機構27の構成について説明する。マイクロ波導入機構27は、主要な構成として、透過板28、平面アンテナ板31、遅波板33、カバー部材34、導波管37、マッチング回路38およびマイクロ波発生装置39を備えている。
【0040】
マイクロ波を透過させる透過板28は、プレート13において内周側に張り出した支持部13a上に配備されている。透過板28は、誘電体、例えば石英やAl、AlN等のセラミックスから構成されている。この透過板28と支持部13aとの間は、シール部材29を介して気密にシールされている。したがって、処理容器1内は気密に保持される。
【0041】
平面アンテナ板31は、透過板28の上方において、載置台2と対向するように設けられている。平面アンテナ板31は、円板状をなしている。なお、平面アンテナ板31の形状は、円板状に限らず、例えば四角板状でもよい。この平面アンテナ板31は、プレート13の上端に係止されている。
【0042】
平面アンテナ板31は、例えば図2および図3にも示したように、円板状の基材31aと、この基材31aにおいて所定のパターンで貫通して形成された多数のスロット32(32a,32b)とを有している。基材31aは、例えば表面が金または銀メッキされた銅板、アルミニウム板、またはニッケル板等の導体板により構成されている。マイクロ波放射孔として機能する個々のスロット32は、細長い形状をなしている。スロット32の角部に電界が集中し、異常放電を引き起こしやすくなるため、細長のスロット32の両端の角部は、丸みを帯びた形状に加工されている。また、スロット32は、平面アンテナ板31の中心O側の位置に、中心Oと重なる中心を持つ円周上に周方向に配列された複数の第1のスロット32aと、これら第1のスロット32aを囲むように外側に配列された複数の第2のスロット32bとを含んでいる。内側の第1のスロット32aと外側の第2のスロット32bとは同心円状に配列されている。平面アンテナ板31におけるスロット32の配置については、後で詳述する。
【0043】
平面アンテナ板31の上には、真空よりも大きい誘電率を有する材料からなる遅波板33が設けられている。遅波板33は平面アンテナ板31を覆うように配置されている。遅波板33の材料としては、例えば、石英、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、ポリイミド樹脂などを挙げることができる。この遅波板33は、真空中ではマイクロ波の波長が長くなることから、マイクロ波の波長を短くしてプラズマを調整する機能を有している。
【0044】
なお、平面アンテナ板31と透過板28との間、また、遅波板33と平面アンテナ板31との間は、それぞれ接触させても離間させてもよいが、定在波の発生を抑制する観点からは、接触させることが好ましい。
【0045】
処理容器1の上部には、これら平面アンテナ板31および遅波板33を覆うように、導波路を形成する機能も有するカバー部材34が設けられている。カバー部材34は、例えばアルミニウムやステンレス鋼、銅等の金属材料によって形成されている。プレート13の上端とカバー部材34とは、マイクロ波が外部へ漏えいしないように導電性を有するスパイラルシールドリングなどのシール部材35によりシールされている。また、カバー部材34には、冷却水流路34aが形成されている。この冷却水流路34aに冷却水を通流させることにより、カバー部材34、遅波板33、平面アンテナ板31および透過板28を冷却できるようになっている。この冷却機構により、カバー部材34、遅波板33、平面アンテナ板31、透過板28およびプレート13がプラズマの熱により変形・破損することが防止される。なお、プレート13、平面アンテナ板31およびカバー部材34は接地されている。
【0046】
カバー部材34の上壁(天井部)の中央には、開口部36が形成されており、この開口部36には導波管37の下端が接続されている。導波管37の他端側には、マッチング回路38を介してマイクロ波を発生するマイクロ波発生装置39が接続されている。マイクロ波発生装置39で発生させるマイクロ波の周波数としては、後述する理由により、従来のマイクロ波の周波数より低い周波数例えば800MHz〜1000MHzの範囲内が好ましく用いられ、特に915MHzが好ましい。
【0047】
導波管37は、上記カバー部材34の開口部36から上方へ延出する断面円形状の同軸導波管37aと、この同軸導波管37aの上端部にモード変換器40を介して接続された水平方向に延びる矩形導波管37bとを有している。モード変換器40は、矩形導波管37b内をTEモードで伝播するマイクロ波をTEMモードに変換する機能を有している。
【0048】
同軸導波管37aの中心には内導体41が延在している。この内導体41は、その下端部において平面アンテナ板31の中心に接続固定されている。このような構造により、マイクロ波は、同軸導波管37aの内導体41を介して平面アンテナ板31へ放射状に効率よく均一に伝播される。
【0049】
以上のような構成のマイクロ波導入機構27により、マイクロ波発生装置39で発生したマイクロ波が導波管37を介して平面アンテナ板31へ伝搬され、さらに透過板28を介して処理容器1内に導入されるようになっている。
【0050】
プラズマ処理装置100の各構成部は、制御部50に接続されて制御される構成となっている。制御部50は、図4に示したように、CPUを備えたプロセスコントローラ51と、このプロセスコントローラ51に接続されたユーザーインターフェース52および記憶部53を備えている。プロセスコントローラ51は、プラズマ処理装置100において、例えば温度、ガス流量、圧力、マイクロ波出力などのプロセス条件に関係する各構成部(例えば、ヒータ電源5a、ガス供給装置18、排気装置24、マイクロ波発生装置39など)を統括して制御する制御手段である。
【0051】
ユーザーインターフェース52は、工程管理者がプラズマ処理装置100を管理するためにコマンドの入力操作等を行うキーボードや、プラズマ処理装置100の稼働状況を可視化して表示するディスプレイ等を有している。また、記憶部53には、プラズマ処理装置100で実行される各種処理をプロセスコントローラ51の制御にて実現するための制御プログラム(ソフトウエア)や処理条件データ等が記録されたレシピが保存されている。
【0052】
そして、必要に応じて、ユーザーインターフェース52からの指示等にて任意のレシピを記憶部53から呼び出してプロセスコントローラ51に実行させることで、プロセスコントローラ51の制御下、プラズマ処理装置100の処理容器1内で所望の処理が行われる。また、前記制御プログラムや処理条件データ等のレシピは、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体、例えばCD−ROM、ハードディスク、フレキシブルディスク、フラッシュメモリ、DVD、ブルーレイディスクなどに格納された状態のものを利用したり、あるいは、他の装置から、例えば専用回線を介して随時伝送させてオンラインで利用したりすることも可能である。
【0053】
このように構成されたプラズマ処理装置100では、800℃以下の低温で下地膜等へのダメージフリーなプラズマ処理を行うことができる。また、プラズマ処理装置100は、プラズマの均一性に優れていることから、プロセスの均一性を実現できる。
【0054】
ここで、再び図2および図3を参照しながら、平面アンテナ板31におけるスロット32の配置について説明する。プラズマ処理装置100では、マイクロ波発生装置39で発生した例えば915GHzのマイクロ波が、同軸導波管37aを介して平面アンテナ板31の中央部に供給され、平面アンテナ板31とカバー部材34とによって構成される偏平導波路を放射状に伝搬していく。この途中にスロット32を配置することにより、スロット32の開口からマイクロ波を均一に効率良く下方の処理容器1内空間へ向けて放射させることが可能になる。本実施の形態では、例えば6個の第1のスロット32aが、平面アンテナ板31の円周方向に均等に配置されている。第1のスロット32aと対をなす第2のスロット32bも、同様に6個が第1のスロット32aより外側において平面アンテナ板31の円周方向に均等に配置されている。図2において、破線で囲む第1のスロット32aおよび第2のスロット32bが対をなしている。内周側の第1のスロット32aと外周側の第2のスロット32bの個数は、同じでも異なっていてもよいが、個数が異なる場合には不対スロットの存在によって反射波が生成しやすくなることがあるため、同じであることが好ましい。
【0055】
また、反射波の発生を抑制して処理容器1内へのマイクロ波の導入効率を向上させる目的で、平面アンテナ板31の中心O(基材31aの中心に同じ)から第1のスロット32aの中心O32aまでの距離Lと、平面アンテナ板31の半径rとの比L/rは0.35〜0.5の範囲内である。この比L/rが0.35未満あるいは0.5超では、各スロットからのマイクロ波の反射波が生成され、放射効率が悪くなる。
【0056】
また、平面アンテナ板31の中心Oから第2のスロット32bの中心O32bまでの距離Lと、平面アンテナ板31の半径rとの比L/rは0.7〜0.85の範囲内である。この比L/rが0.7未満あるいは0.85超では、各スロットからのマイクロ波の反射波が生成され、放射効率が悪くなる。
【0057】
距離Lと半径rとの比L/rおよび距離Lと半径rとの比L/rは、遅波板33により調整されたマイクロ波の波長λgに応じてある程度決定できるが、計算値と現実に有効な範囲とは必ずしも一致しない。本発明者らは、比L/rおよび比L/rを上記範囲とすることが、従来のマイクロ波の周波数より低い800MHz〜1000MHzの範囲内のマイクロ波を使用して定在波を生成させ、安定したプラズマを生成するために有効であることを見出した。
【0058】
また、第1のスロット32aの中心O32aを平面アンテナ板31の周方向に結ぶ半径が距離Lの円をCとし、第2のスロット32bの中心O32bを平面アンテナ板31の周方向に結ぶ半径が距離Lの円をCとし、平面アンテナ板31の中心Oから、円Cと円Cの径方向の中間点Mまでの距離Lを半径とする円をCとした場合、距離Lと平面アンテナ板31の半径rとの比L/rが0.5〜0.7の範囲内であることが、マイクロ波の処理容器1内への導入効率を向上させる観点から好ましい。比L/rを上記範囲内に規定することによって、反射波の発生を抑制し、周波数800MHz〜1000MHzの範囲内のマイクロ波を効率良く処理容器1内に供給することができ、安定したプラズマを形成できる。
【0059】
また、距離Lと距離Lとの差分(L−L)と、平面アンテナ板31の半径rと比(L−L)/rは0.2〜0.5の範囲内であることが、処理容器1内への周波数800MHz〜1000MHzの範囲内のマイクロ波の導入効率を向上させる観点から好ましい。比(L−L)/rを上記範囲内に規定することによって、反射波の発生を抑制し、マイクロ波を効率良く処理容器1内に供給することができ、安定したプラズマを形成できる。
【0060】
なお、本発明において、「平面アンテナ板31の半径r」は、基材31a上で平面アンテナとして有効に機能する円形の領域の半径を意味する。例えば平面アンテナ板31をプレート13の上端に螺子等の固定手段で固定した場合には、基材31aの周縁部に螺子孔などが形成された係止領域(図示せず。周縁端から3〜20mm程度)が必要になる。しかし、固定の目的で設けられたこの係止領域は、アンテナとしての機能を奏さない部分であるため、このような係止領域を含まないように平面アンテナ板31の半径rが規定される。
【0061】
次に、平面アンテナ板31におけるスロット32の配置角度について説明する。同軸導波管37aから平面アンテナ板31の中心に伝搬されたマイクロ波により、導体からなる平面アンテナ板31の基材31a上には表面電流が生じる。この表面電流は平面アンテナ板31の径外方向へ向かって放射状に流れるが、途中でスロット32により遮られるため、スロット32の開口の縁に電荷が誘起される。このように誘起された電荷はマイクロ波を発生させる。このマイクロ波がスロット32および透過板28を介して下方の処理容器1内の空間へ向けて放射される。そのため、スロット32の長手方向が表面電流の方向(平面アンテナ板31の径外方向)と一致する場合には、処理容器1内へマイクロ波が放射されにくくなる。
【0062】
以上のことから、処理容器1内へ効率良くマイクロ波を導入するためには、スロット32の配置角度も重要な要素となる。本実施の形態では、平面アンテナ板31の中心Oと第1のスロット32aの中心O32aとを結ぶ直線に対して、該第1のスロット32aの長手方向がなす角度θが90°〜105°の範囲内であることが好ましい。角度θを90°〜105°の範囲内に規定することによって、反射波の発生を抑制し、周波数800MHz〜1000MHzの範囲内のマイクロ波を効率良く処理容器1内に供給することができ、安定したプラズマを形成できる。この角度θが90°未満では、平面アンテナ板31の径方向に伝播する波の効率が低下し、105°を超えると、平面アンテナ板31の周方向に伝播する波の効率が低下する。
【0063】
上記と同様の理由から、平面アンテナ板31の中心Oと第2のスロット32bの中心O32bとを結ぶ直線に対して、該第2のスロット32bの長手方向がなす角度θが75°〜85°の範囲内であることが好ましい。角度θを75°〜85°の範囲内に規定することによって、反射波の発生を抑制し、周波数800MHz〜1000MHzの範囲内のマイクロ波を効率良く処理容器1内に供給することができ、安定したプラズマを形成できる。この角度θが75°未満では平面アンテナ板31の周方向に伝播する波の効率が低下し、85°を超えると平面アンテナ板31の径方向に伝播する波の効率が低下し、マイクロ波の放射効率が低下する。
【0064】
また、平面アンテナ板31の中心Oから第1のスロット32aの中心O32aまでを結ぶ直線と、平面アンテナ板31の中心Oから第2のスロット32bの中心O32bまでを結ぶ直線とがなす角度θは、60°〜80°の範囲内であることが好ましい。角度θを60°〜80°の範囲内に規定することによって、対をなす第1のスロット32aと第2のスロット32bとの間隔が適正となり、反射波の発生を抑制し、周波数800MHz〜1000MHzの範囲内のマイクロ波を効率良く処理容器1内に供給することができる。その結果、安定したプラズマを形成できる。この角度θが上記範囲外では、各スロット32からのマイクロ波の放射効率が低下する。
【0065】
また、第1のスロット32aの長手方向と、第2のスロット32bの長手方向とのなす角度θは、直角に近いことが好ましく、例えば85°〜95°の範囲内とすることができる。
【0066】
以上のように、角度θ、θ、θおよびθを調整することにより、スロット32を介して周波数800MHz〜1000MHzの範囲内のマイクロ波を高い効率で処理容器1内へ導入することができる。なお、平面アンテナ板31の中心Oから、互いに隣接する第1のスロット32aの中心O32aにそれぞれ延びる2本の直線のなす角度は、第1のスロット32aの配設数に応じて例えば均等になるように適宜設定できる。平面アンテナ板31の中心Oから、互いに隣接する第2のスロット32bの中心O32bにそれぞれ延びる2本の直線のなす角度についても同様である。
【0067】
また、図3に示したように、第1のスロット32aの長さと、第2のスロット32bの長さは、共に同じである(スロット長L)。さらに、第1のスロット32aの幅と、第2のスロット32bの幅は、共に同じである(スロット幅W)。放射効率を高める観点から、スロット長Lは、例えば80mm〜100mmの範囲内とすることができる。また、スロット幅Wは、例えば8mm〜40mmの範囲内、好ましくは20mm〜40mmの範囲内とすることができる。
【0068】
また、マイクロ波の反射を抑え、処理容器1内へのマイクロ波の放射効率を高める観点から、平板状の平面アンテナ板31の上面または下面の面積に対する開口面積(第1のスロット32aと第2のスロット32bの開口の面積の総和)の比率は、15%以上であることが好ましい。上記開口面積の比率が15%未満である場合、反射波が大きくなりマイクロ波を処理容器1内に効率的に導入できない。また、開口面積の比率に上限はないが、スロット配置により、物理的に限界があるため、15〜20%の範囲内であることがより好ましい。なお、この場合、前記の定義に基づいて半径rを規定し、平面アンテナ板31の面積を算出するものとする。
【0069】
また、遅波板33の材質が石英である場合の遅波板33の厚みは、石英の誘電率による波長短縮と石英内での定在波の周期性を考慮して、定在波の波長に設定することが好ましい。
【0070】
次に、本実施の形態に係るプラズマ処理装置100を用いたプラズマ処理の手順の一例について説明する。ここでは、処理ガスとして酸素を含有するガスを用い、ウエハ表面をプラズマ酸化処理する場合を例に挙げる。
まず、例えばユーザーインターフェース52から、プラズマ処理装置100でプラズマ酸化処理を行うように指令が入力される。この指令を受けて、プロセスコントローラ51は、記憶部53に保存されたレシピを読み出す。そして、レシピに基づく条件でプラズマ酸化処理が実行されるように、プロセスコントローラ51からプラズマ処理装置100の各エンドデバイス例えばガス供給装置18、排気装置24、マイクロ波発生装置39、ヒータ電源5aなどへ制御信号が送出される。
【0071】
そして、ゲートバルブ17を開にして搬入出口16からウエハWを処理容器1内に搬入し、載置台2上に載置する。次に、処理容器1内を減圧排気しながら、ガス供給装置18から、不活性ガスおよび酸素含有ガスを所定の流量でそれぞれガス導入部15を介して処理容器1内に導入する。さらに、排気量およびガス供給量を調整して処理容器1内を所定の圧力に調節する。
【0072】
次に、マイクロ波発生装置39のパワーをオン(入)にして、マイクロ波を発生させる。そして、従来のマイクロ波の周波数よりも低い周波数例えば915MHzのマイクロ波は、マッチング回路38を介して導波管37に導かれる。導波管37に導かれたマイクロ波は、矩形導波管37bおよび同軸導波管37aを順次通過し、内導体41を介して平面アンテナ板31に供給される。マイクロ波は、矩形導波管37b内ではTEモードで伝搬し、このTEモードのマイクロ波はモード変換器40でTEMモードに変換されて、同軸導波管37a内を平面アンテナ板31に向けて伝搬していく。そして、マイクロ波は、平面アンテナ板31に貫通形成された孔であるスロット32から透過板28を介して処理容器1内におけるウエハWの上方空間に放射される。マイクロ波出力は、マイクロ波を効率良く供給する観点から、平面アンテナ板31の面積1cmあたりのパワー密度として0.41〜4.19W/cmの範囲内とすることが好ましい。マイクロ波出力は、例えば500〜5000W程度の範囲内から目的に応じて上記範囲内のパワー密度となるように選択することができる。本発明のアンテナ形状、配置により、マイクロ波を高パワー密度で平面アンテナ板31に供給し、高効率で処理容器1内に導入でき、安定したプラズマを生成できる。
【0073】
平面アンテナ板31から透過板28を経て処理容器1に放射されたマイクロ波により、処理容器1内で電磁界が形成され、不活性ガスおよび酸素含有ガスがそれぞれプラズマ化する。このマイクロ波により励起されたプラズマは、マイクロ波が平面アンテナ板31の多数のスロット32から放射されることにより、10/cm〜1013/cmの高密度で、かつウエハW近傍では、略1.5eV以下の低電子温度のプラズマとなる。このようにして形成される高密度プラズマは、下地膜へのイオン等によるプラズマダメージが少ないものである。そして、プラズマ中の活性種例えばラジカルやイオンの作用によりウエハWのシリコン表面が酸化されてシリコン酸化膜SiOの薄膜が形成される。なお、酸素含有ガスに代えて窒素ガスを用いることにより、シリコンの窒化処理が可能であり、また、成膜原料ガスを用いることによりプラズマCVD法による成膜を行うことも可能である。
【0074】
プロセスコントローラ51からプラズマ処理を終了させる制御信号が送出されると、マイクロ波発生装置39のパワーがオフ(切)にされ、プラズマ酸化処理が終了する。次に、ガス供給装置18からの処理ガスの供給を停止して処理容器内を真空引きする。そして、ウエハWを処理容器1内から搬出し、1枚のウエハWに対するプラズマ処理が終了する。
【0075】
プラズマ処理装置100では、マイクロ波発生装置39で発生させるマイクロ波の周波数を従来のマイクロ波の周波数より低い800MHz〜1000MHzの範囲内(好ましくは915MHz)に設定した。プラズマ生成用のマイクロ波として、周波数が800MHz〜1000MHzの範囲内のものを使用することにより、例えば従来の2.45GHzの周波数のマイクロ波を使用する場合に比べて、表面波プラズマがカットオフされるプラズマ密度(カットオフ密度)が低下し、より高い圧力条件まで安定的にプラズマを生成することができる。
【0076】
図5は、プラズマ処理装置100で行われるプラズマ処理の処理圧力とプラズマの電子密度との関係を示している。処理圧力が高くなるに伴い、プラズマの電子密度は低下し、カットオフ密度において電子密度は急激に減少する。2.45GHzのマイクロ波プラズマのカットオフ密度は約7.5×1010cm−3であり、915MHzのマイクロ波プラズマのカットオフ密度は約1.0×1010cm−3である。そして、図5に示したように、2.45GHzのマイクロ波プラズマに比べ、915MHzのマイクロ波プラズマでは、より高い圧力条件までカットオフ密度以上のプラズマ密度を維持することができる。
【0077】
プラズマ処理装置100に使用する平面アンテナ板31では、平面アンテナ板31の中心Oから内側の第1のスロット32aの中心O32aまでの距離Lと平面アンテナ板31の半径rとの比L/rを0.35〜0.5の範囲内とし、かつ、平面アンテナ板31の中心Oから外側の第2のスロット32bの中心O32bまでの距離Lと、平面アンテナ板31の半径rとの比L/rを0.7〜0.85の範囲内とした。また、平面アンテナ板31の中心Oと第1のスロット32aの中心O32aとを結ぶ直線に対して、該第1のスロット32aの長手方向がなす角度θを90°〜105°の範囲内とし、平面アンテナ板31の中心Oと第2のスロット32bの中心O32bとを結ぶ直線に対して、該第2のスロット32bの長手方向がなす角度θを75°〜85°の範囲内とした。さらに、平面アンテナ板31の面内における第1のスロット32aおよび第2のスロット32bの合計の開口面積の比率を15〜20%の範囲内とした。以上の構成によって、マイクロ波発生装置39で発生させるマイクロ波の周波数を800MHz〜1000MHzの範囲内に設定した場合でも、反射波の発生を抑え、処理容器1内へ効率良くマイクロ波を導入できる。従って、プラズマのモードジャンプの発生を抑制し、例えば667Pa〜1333Paの比較的高い圧力でマイクロ波を高パワー密度に供給しても、処理容器1内で表面波プラズマを安定的に維持することができる。
【0078】
また、本実施の形態の平面アンテナ板31では、平面アンテナ板31の中心Oから第1のスロット32aの中心O32aまでを結ぶ直線と、平面アンテナ板31の中心Oから第2のスロット32bの中心O32bまでを結ぶ直線とがなす角度θを60°〜80°の範囲内とした。さらに、第1のスロット32aの長手方向と、第2のスロット32bの長手方向とのなす角度θを略直角例えば85°〜95°の範囲内とした。角度θおよびθを上記範囲に規定することにより、スロット32を介してマイクロ波をさらに高い効率で処理容器1内へ導入することができる。
【0079】
以上のように、本実施の形態の平面アンテナ板31では、スロット32a,32bの配置を工夫したことにより、従来のマイクロ波の周波数よりも低い800MHz〜1000MHzの範囲内(好ましくは915MHz)の周波数のマイクロ波を処理容器1内に効率良く導入することができる。よって、例えば667Pa〜1333Paの比較的高い圧力条件でも、従来の2.45GHzのマイクロ波を使用する場合に比べて、マイクロ波を高パワー密度で供給しても、モードジャンプが少なくなり、プラズマ処理装置100の処理容器1内で表面波プラズマを安定的に維持することができる。そして、このようなプラズマ処理装置100を用いることによって、比較的高い圧力条件や高パワー密度条件で処理レートの向上やウエハ面内における処理の均一性が実現し、高い精度が必要な3次元デバイス加工や微細加工への対応を図ることが可能になる。
【0080】
次に、図1に示したプラズマ処理装置100と同様の構成のプラズマ処理装置を用い、平面アンテナ板31の構造(スロットパターン)が、処理容器1内へのマイクロ波のパワーの導入効率に与える影響についてシミュレーションにより検証した。
【0081】
シミュレーション条件は、以下のとおりである。
使用ソフトウエア:COMSOL(商品名;COMSOL社製)
平面アンテナ部材:下記のアンテナA〜Eとした。
供給パワー:2000W
【0082】
アンテナA(本発明例):
図2に示したものと同様のスロット形状および配置とした。アンテナの半径rは240.75mm、スロット形状は94.8mm×30mm、Lは112.1mm、Lは194.1mm、Lは153.1mm、θは99.5°、θは80.5°、θは71.1°、θは90°とした。
【0083】
アンテナB(比較例1):
図6に示したように、スロット32を内周4個、外周4個の4対(合計8個)とした以外はアンテナAと同様とした。
【0084】
アンテナC(比較例2):
図7に示したように、スロット32を内周16個、外周16個の16対(合計32個)とした。アンテナの半径rは240.75mm、スロット形状は62.4mm×6mm、Lは105.3mm、Lは189.35mm、Lは147.33mm、θは39.4°、θは140.6°、θは11.2°、θは90°とした。
【0085】
アンテナD(比較例3):
図8に示したように、スロット32を内周8個、外周16個とし、8対と不対スロット8個の合計24個とした。アンテナの半径rは240.75mm、スロット形状は62.4mm×30mm、Lは105.3mm、Lは189.35mm、Lは147.3mm、θは39.4°、θは140.6°、θは11.2°、θは90°とした。
【0086】
アンテナE(比較例4):
図9に示したように、スロット32を内周8個、外周8個(合計16個)とした以外は、アンテナDと同様とした。
【0087】
シミュレーション実験の結果を表1に示した。
【0088】
【表1】

【0089】
表1に示したように、アンテナAは、マイクロ波の吸収パワーが1490W(吸収効率75%)であったのに対し、平面アンテナ板のスロットの形状や配置角度は同じであるが、スロット数が少なく、開口面積比率が12.50%と小さいアンテナBでは、マイクロ波の吸収パワーが87W(吸収効率4.4%)に過ぎなかった。また、スロットの配置角度(θ〜θ)が本発明の規定範囲から外れているアンテナC〜Eでは、マイクロ波の吸収パワーが70W以下(吸収効率3.5%以下)とさらに小さくなっており、反射が大きくマイクロ波の導入効率が著しく低かった。特に、アンテナDでは、開口面積比率は24.69%でアンテナAよりも大きいにもかかわらず、マイクロ波の吸収パワーが29W(吸収効率1.45%)であり最も低かった。これは、アンテナDのスロットの配置角度(θ〜θ)が不適切であったことに加え、不対スロットの存在がマイクロ波の吸収を阻害したためと考えられた。
【0090】
次に、アンテナAを配備したプラズマ処理装置100を用い、マイクロ波パワー変化させてプラズマを生成させ、電子密度(Ne)と電子温度(Te)を計測した。その結果を図10に示した。
【0091】
プロセス条件は以下の通りである。
Arガス流量:1000mL/min(sccm)
プロセス圧力:133Pa(1Torr)
マイクロ波周波数:915MHz
マイクロ波出力:500W〜1200Wの間を100W刻みで変化させた。
【0092】
図10より、ほぼ1[eV]前後の低い電子温度で、2×1011/cm〜1.4×1012/cmの高い電子密度のプラズマが得られた。特に、700W以上のマイクロ波パワーの範囲では、モードジャンプがなく、表面波プラズマが安定して生成できていることが確認できた。
【0093】
以上、本発明の実施形態を述べたが、本発明は上記実施形態に制約されることはなく、種々の変形が可能である。例えば、本発明の平面アンテナ板31を備えたプラズマ処理装置100は、例えばプラズマ酸化処理装置以外にも、プラズマ窒化処理装置やプラズマCVD処理装置、プラズマエッチング処理装置、プラズマアッシング処理装置などに適用できる。さらに、本発明の平面アンテナ板31を備えたプラズマ処理装置100は、被処理体として半導体ウエハを処理する場合に限らず、例えば液晶ディスプレイ装置や有機ELディスプレイ装置などのフラットパネルディスプレイ装置用の基板を被処理体とするプラズマ処理装置にも適用できる。
【0094】
また、スロット32の平面形状は上記実施の形態で示した形状に限定されるものではなく、例えば楕円形、矩形などの形状にすることもできる。
【符号の説明】
【0095】
1…処理容器、2…載置台、3…支持部材、5…ヒータ、12…排気管、15…ガス導入部、18…ガス供給装置、24…排気装置、27…マイクロ波導入機構、28…透過板、29…シール部材、31…平面アンテナ板、31a…基材、32…スロット、37…導波管、37a…同軸導波管、37b…矩形導波管、39…マイクロ波発生装置、50…制御部、51…プロセスコントローラ、52…ユーザーインターフェース、53…記憶部、100…プラズマ処理装置、W…半導体ウエハ(基板)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマ処理装置の処理容器内にマイクロ波発生源で発生したマイクロ波を導入する平面アンテナ部材であって、
導電性材料からなる平板状基材と、
前記平板状基材に形成された、マイクロ波を放射する複数の細長形状の貫通開口と、
を備え、
前記貫通開口は、前記平面アンテナ部材の中心にその中心が重なる円周上に配列された複数の第1の貫通開口と、前記第1の貫通開口の外側に同心円状に配列された複数の第2の貫通開口と、を含んでおり、
前記平面アンテナ部材の中心から前記第1の貫通開口の中心までの距離Lと、前記平面アンテナ部材の半径rとの比L/rが0.35〜0.5の範囲内であり、かつ、前記平面アンテナ部材の中心から前記第2の貫通開口の中心までの距離Lと、前記平面アンテナ部材の半径rと比L/rが0.7〜0.85の範囲内であるとともに、
前記平面アンテナ部材の中心と前記第1の貫通開口の中心とを結ぶ直線に対して、該第1の貫通開口の長手方向がなす角度が90°〜105°の範囲内であり、かつ、前記平面アンテナ部材の中心と前記第2の貫通開口の中心とを結ぶ直線に対して、該第2の貫通開口の長手方向がなす角度が75°〜85°の範囲内であり、
前記平面アンテナ部材の面内における前記第1の貫通開口および前記第2の貫通開口の合計の開口面積の比率が15〜20%の範囲内であることを特徴とする平面アンテナ部材。
【請求項2】
前記距離Lを半径とし、前記第1の貫通開口の中心を結ぶ第1の円および前記距離Lを半径とし、前記第2の貫通開口の中心を結ぶ第2の円に対して同心円状に形成され、前記第1の円と前記第2の円との径方向の中間点を結ぶ第3の円は、その半径Lと前記半径rとの比L/rが、0.5〜0.7の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の平面アンテナ部材。
【請求項3】
前記距離Lと前記距離Lとの差分(L−L)と、前記平面アンテナ部材の半径rとの比(L−L)/rが0.2〜0.5の範囲内であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の平面アンテナ部材。
【請求項4】
前記第1の貫通開口の長手方向に対して、前記第2の貫通開口の長手方向のなす角度が85°〜95°の範囲内であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の平面アンテナ部材。
【請求項5】
前記平面アンテナ部材の中心から前記第1の貫通開口の中心までを結ぶ直線と、前記平面アンテナ部材の中心から前記第2の貫通開口の中心までを結ぶ直線とのなす角度が、60°〜80°の範囲内であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の平面アンテナ部材。
【請求項6】
前記マイクロ波発生源で発生したマイクロ波の周波数が、800〜1000MHzの範囲内であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の平面アンテナ部材。
【請求項7】
被処理体を収容する真空引き可能な処理容器と、
前記処理容器内にガスを導入するガス導入部と、
前記処理容器内を減圧排気する排気装置と、
前記処理容器の上部の開口に気密に装着され、プラズマ発生用のマイクロ波を透過させる透過板と、
前記透過板の上に配置され、前記マイクロ波を前記処理容器内に導入する平面アンテナ部材と、
前記平面アンテナ部材を上方から覆うカバー部材と、
前記カバー部材を貫通して設けられ、マイクロ波発生源で発生した800〜1000MHzの範囲内のマイクロ波を前記平面アンテナ部材へ供給する導波管と、
を備えたプラズマ処理装置であって、
前記平面アンテナ部材は、導電性材料からなる平板状基材と、前記平板状基材に形成された、マイクロ波を放射する複数の細長形状の貫通開口と、を備え、
前記貫通開口は、環状に配列された複数の第1の貫通開口と、前記第1の貫通開口の外側に同心円状に配列された複数の第2の貫通開口と、を含んでおり、
前記平面アンテナ部材の中心から前記第1の貫通開口の中心までの距離Lと、前記平面アンテナ部材の半径rとの比L/rが0.35〜0.5の範囲内であり、かつ、前記平面アンテナ部材の中心から前記第2の貫通開口の中心までの距離Lと、前記平面アンテナ部材の半径rと比L/rが0.7〜0.85の範囲内であるともに、
前記平面アンテナ部材の中心と前記第1の貫通開口の中心とを結ぶ直線に対して、該第1の貫通開口の長手方向がなす角度が90°〜105°の範囲内であり、かつ、前記平面アンテナ部材の中心と前記第2の貫通開口の中心とを結ぶ直線に対して、該第2の貫通開口の長手方向がなす角度が75°〜85°の範囲内であり、
前記平面アンテナ部材の面内における前記第1の貫通開口および前記第2の貫通開口の合計の開口面積の比率が15〜20%の範囲内であることを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項8】
前記距離Lを半径とし、前記第1の貫通開口の中心を結ぶ第1の円および前記距離Lを半径とし、前記第2の貫通開口の中心を結ぶ第2の円に対して同心円状に形成され、前記第1の円と前記第2の円との径方向の中間点を結ぶ第3の円は、その半径Lと前記半径rとの比L/rが0.5〜0.7の範囲内であることを特徴とする請求項7に記載のプラズマ処理装置。
【請求項9】
前記距離Lと前記距離Lとの差分(L−L)と、前記平面アンテナ部材の半径rと比(L−L)/rが0.2〜0.5の範囲内であることを特徴とする請求項9または請求項8に記載のプラズマ処理装置。
【請求項10】
前記第1の貫通開口の長手方向に対して、前記第2の貫通開口の長手方向のなす角度が85°〜95°の範囲内であることを特徴とする請求項7から請求項9のいずれか1項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項11】
前記平面アンテナ部材の中心から前記第1の貫通開口の中心までを結ぶ直線と、前記平面アンテナ部材の中心から前記第2の貫通開口の中心までを結ぶ直線とのなす角度が、60°〜80°の範囲内であることを特徴とする請求項7から請求項10のいずれか1項に記載のプラズマ処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−29416(P2011−29416A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−173811(P2009−173811)
【出願日】平成21年7月27日(2009.7.27)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】