説明

建設機械の制御装置

【課題】フィルタ再生作用を完遂させ、しかもアクチュエータの急作動を確実に防止する。
【解決手段】再生開始スイッチ15が操作され、かつ、蓄積量センサ16からの信号によってフィルタ再生が必要と判断されたときに、コントローラ12からエンジン制御部10にハイアイドル回転数、ポンプレギュレータ11にポンプ吐出量最大指令、アンロード弁9に閉じ指令をそれぞれ出力するとともに、パイロット圧遮断弁7,7にパイロット圧遮断指令を出力し、フィルタ再生制御中にリモコン弁5,5が操作されてもコントロールバルブ3が動かず、フィルタ再生作用を完遂させるとともに油圧アクチュエータ4の作動を停止させるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は油圧ショベル等の建設機械において、一定条件下で排ガスフィルタに蓄積された有害物質を焼却して同フィルタを再生させるための制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ディーゼルエンジンから排出される排ガスを排ガスフィルタ(DPF:Diesel Particulate Filter)に導入し、有害物質、とくに煤等のPM(Particulate Matter:粒子状物質。以下この例で説明する)を除去して浄化する排ガス浄化装置が公知である(特許文献1参照)。
【0003】
この種の排ガス浄化装置において、排ガスフィルタの浄化作用を一定に保つために、PMの堆積量が一定以上となったときに、排ガスフィルタに堆積したPMを燃焼させて除去するフィルタ再生(自己再生ともいう)が行われる。
【0004】
このフィルタ再生は、たとえば油圧ポンプの吐出量及び吐出圧を同時に上げ、エンジン出力を増加させて排ガス温度を上げる(通常は150℃〜250℃の排ガスを350℃〜600℃まで上げる)ことによって行われる。
【特許文献1】特許第3073380号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のようにフィルタ再生時は、排ガス温度を上げるためにポンプ吐出量及び吐出圧を増加させるため、このフィルタ再生中に誤ってコントロールバルブが操作されるとアクチュエータが急作動する。
【0006】
特許文献1に記載された公知技術では、この点の対策として、再生中、操作手段が操作されると再生制御をキャンセルする構成をとっている。
【0007】
ところが、こうするとフィルタ再生作用が完遂できず、排ガス浄化機能が低下する。
【0008】
また、フィルタ再生制御をキャンセルしても、回路圧力は急には下がらないため、アクチュエータの急作動防止の効果が低い。
【0009】
そこで本発明は、フィルタ再生作用を完遂させ、しかもアクチュエータの急作動を確実に防止することができる建設機械の制御装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の発明は、エンジンと、油圧アクチュエータの油圧源としての油圧ポンプと、油圧アクチュエータの作動を制御するコントロールバルブと、このコントロールバルブを操作する操作手段と、上記エンジンから出た排ガス中の有害物質を除去する排ガスフィルタと、上記操作手段が操作されているか否かを検出する操作検出手段と、操作手段による上記コントロールバルブの操作を不能にする操作停止手段と、制御手段とを具備し、この制御手段は、上記操作検出手段からの信号に基づいて操作手段が操作されていないことを条件として、エンジン出力を上げて排ガス温度を高めることにより上記排ガスフィルタに蓄積された有害物質を焼却するフィルタ再生制御を行うとともに、上記操作停止手段に操作停止指令を出すように構成されたものである。
【0011】
請求項2の発明は、請求項1の構成において、油圧ポンプの吐出油をアンロードするアンロード通路に、同通路を閉じるアンロード通路遮断手段を備え、制御手段は、フィルタ再生開始とともにエンジン回転数を上げ、かつ、油圧ポンプの吐出量を最大とするとともに、上記アンロード通路遮断手段によってアンロード通路を閉じるように構成されたものである。
【0012】
請求項3の発明は、請求項1または2の構成において、オペレータの意思に基づいてフィルタ再生を開始させるための再生開始スイッチと、排ガスフィルタの再生が必要か否かを判断するデータを検出する再生データ検出手段とが設けられ、制御手段は、上記再生開始スイッチの操作時に、上記再生データ検出手段からの信号に基づいてフィルタ再生が必要と判断されたときにフィルタ再生制御を行うように構成されたものである。
【0013】
請求項4の発明は、請求項1〜3のいずれかの構成において、油圧パイロット式のコントロールバルブが、操作手段としてのリモコン弁からのパイロット圧によって操作されるように構成され、このリモコン弁とコントロールバルブとを結ぶパイロットラインに、制御手段からの操作停止指令に基づいてパイロット圧を遮断する操作停止手段としてのパイロット圧遮断弁が設けられたものである。
【0014】
請求項5の発明は、請求項1〜4のいずれかの構成において、制御手段は、操作手段が操作されておらず、かつ、この状態が一定時間以上経過したことを条件として再生制御を開始させるように構成されたものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、フィルタ再生中は、操作手段の操作にかかわらずコントロールバルブを作動不能とするインターロックをかけるため、フィルタ再生作用を完遂させることができる。
【0016】
しかも、フィルタ再生中は上記インターロック機能によってコントロールバルブが動かず、アクチュエータに圧油が送られないため、アクチュエータの急作動を確実に防止することができる。
【0017】
とくに、請求項2の発明のように、フィルタ再生開始とともにエンジン回転数を上げ、かつ、油圧ポンプの吐出量及び吐出圧を最大にする場合、アクチュエータの急作動の度合いが大きいため、これを防止できることで安全確保の点の効果が高い。
【0018】
請求項3の発明によると、フィルタ再生が必要であること、及びオペレータがフィルタ再生の意思をもって再生開始スイッチを操作したことを条件としてフィルタ再生を開始させるため、フィルタ再生作用が的確なタイミングで無駄無く行われる。
【0019】
請求項4の発明によると、パイロット圧を遮断することによってコントロールバルブを操作不能にするため、たとえばリモコン弁に機械的なロックをかける場合と比べてインターロック効果がより確実となる。
【0020】
請求項5の発明によると、操作手段の非操作が一定時間以上継続した場合(オペレータのフィルタ再生開始の意思が明確な場合)にフィルタ再生制御を開始するため、無駄な再生制御(請求項3の発明を前提とする場合は、オペレータの意思とは無関係な再生開始スイッチの誤操作に基づく再生制御)の開始を回避することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
実施形態に係る建設機械においては、図1に示すようにエンジン1によって可変容量型の油圧ポンプ2が駆動され、この油圧ポンプ2の吐出油がコントロールバルブ3経由で複数の油圧アクチュエータ(ここでは一つのものとして示す)4に供給される。
【0022】
コントロールバルブ3は、操作手段としてのリモコン弁5,5からのパイロット圧によりストローク作動して油圧アクチュエータ4に対する圧油供給の方向と流量を制御する油圧パイロット切換弁として構成されている。
【0023】
このコントロールバルブ3の両側パイロットポートとリモコン弁5,5とを結ぶパイロットライン6,6に、リモコン弁5,5からコントロールバルブ3に送られるパイロット圧を遮断する操作停止手段としてのパイロット圧遮断弁(電磁開閉弁)7,7が設けられている。
【0024】
一方、ポンプ吐出油をコントロールバルブ3からタンクTにアンロードするアンロード通路8に、同通路8を閉じるアンロード通路遮断手段としてのアンロード弁9が設けられている。
【0025】
制御手段は、エンジン1の回転数を制御するエンジン制御部10と、油圧ポンプ2の吐出量(傾転)を制御するポンプレギュレータ11と、コントローラ12とから成り、フィルタ再生時に、このコントローラ12から再生制御のための各種指令、すなわち、エンジン制御部10に対するハイアイドル回転数指令、ポンプレギュレータ6に対する最大吐出量指令、パイロット圧遮断弁7,7に対するパイロット圧遮断指令、アンロード弁9に対する閉じ指令がそれぞれを出力される。
【0026】
一方、エンジン1からの排ガスを外部に放出する排気通路13に排ガスフィルタ14が設けられ、排ガス中のPMがこの排ガスフィルタ14によって除去される。
【0027】
また、オペレータの意思に基づいてフィルタ再生制御を開始させるための再生開始スイッチ15が設けられるとともに、フィルタ再生のための情報を得るセンサとして、排ガスフィルタ14のPM蓄積量を検出する再生データ検出手段としての蓄積量センサ16、パイロットライン6,6のパイロット圧によりリモコン弁5,5の操作の有無を検出する操作検出手段としてのパイロット圧センサ17,17がそれぞれ設けられている。
【0028】
コントローラ12は、これらの信号に基づいて、適時、フィルタ再生制御を行う。この点の作用を図2のフローチャートを併用して説明する。
【0029】
ステップS1で再生開始スイッチ15が操作されたか否かが判断され、YESとなるとステップS2で、蓄積量センサ16からの信号に基づいてフィルタ再生が必要か否かが判断される。
【0030】
フィルタ再生が必要と判断されると、ステップS3で操作無し状態が一定時間経過したか否かが判断され、YESとなると、オペレータがフィルタ再生を行う意思が明確であるとしてステップS4でフィルタ再生制御が開始される。
【0031】
すなわち、パイロット圧遮断弁7に対するパイロット圧遮断指令(ステップS6)、エンジン制御部10に対するハイアイドル回転数指令(ステップS7)、ポンプレギュレータ11に対するポンプ最大吐出量指令(ステップS8)、アンロード弁9に対する閉じ指令(ステップS9)がそれぞれ出力される。
【0032】
これらの処理により、エンジン出力が増加して排ガス温度がフィルタ再生に適した温度まで上昇しィルタ再生作用が行われる。
【0033】
ステップS10では蓄積量センサ16からの信号に基づいてフィルタ再生作用が完了したか否かが判断され、完了となるとステップS11でフィルタ再生制御が終了し通常制御に復帰してステップS1に戻る。
【0034】
この制御装置によると、フィルタ再生中、もしリモコン弁5,5が操作されても、パイロット圧遮断弁7,7によってパイロット圧が遮断され、コントロールバルブ3が作動不能となる(インターロック状態となる)ため、フィルタ再生作用が確実に完遂される。
【0035】
しかも、フィルタ再生中は上記インターロック機能によってコントロールバルブ3が動かず、油圧アクチュエータ4に圧油が送られないため、油圧アクチュエータ4の急作動を確実に防止することができる。
【0036】
とくに、この実施形態のように、フィルタ再生開始とともにエンジン回転数を上げ、かつ、油圧ポンプ2の吐出量及び吐出圧を最大にする場合、油圧アクチュエータ4の急作動の度合いが大きいため、これを防止できることで安全確保の点の効果が高い。
【0037】
また、フィルタ再生が必要であること、及びオペレータがフィルタ再生の意思があること(再生開始スイッチ15が操作された)ことを条件としてフィルタ再生を開始させるため、フィルタ再生作用が的確なタイミングで無駄無く行われる。
【0038】
さらに、パイロット圧を遮断することによってコントロールバルブ3を操作不能にするため、たとえばリモコン弁に機械的なロックをかける場合と比べてインターロック効果がより確実となる。
【0039】
一方、リモコン弁5の非操作が一定時間以上継続した場合(オペレータが再生作用を行う意思が明確な場合)に再生作用を開始させるため、無駄な再生作用(たとえばオペレータの意思とは無関係な再生開始スイッチ15の誤操作に基づく再生作用)の開始を回避することができる。
【0040】
他の実施形態
(1)操作手段、操作検出手段、操作停止手段として、上記実施形態で例示したリモコン弁5、パイロット圧センサ17、パイロット圧遮断弁7以外のものを用いることができる。
【0041】
たとえばコントロールバルブ3として直動式(レバー操作で直接スプールをストローク作動させる方式)の切換弁を用いる場合は、レバーが操作手段となり、操作検出手段はこのレバーの動きを検出するもの(リミットスイッチ等)を用いればよい。
【0042】
また、操作停止手段として、上記実施形態におけるリモコン弁5の一次圧を遮断する弁を用いてもよいし、リモコン弁5を動かないように機械的にロックするものを用いてもよい。
【0043】
(2)フィルタ再生制御の一環として、燃料噴射制御、すなわちエンジン側で燃料を後噴射して排ガスを加熱する手法をとってもよい。
【0044】
(3)上記実施形態では、オペレータによる再生開始スイッチ15の操作に基づいてフィルタ再生制御を開始する構成をとったが、フィルタ再生が必要な状況となったときに自動的にフィルタ再生制御を開始する構成をとってもよい。この場合、オペレータにフィルタ再生制御中であることを表示するのが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の実施形態にかかる制御装置の全体構成を示すブロック図である。
【図2】同装置の作用を説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0046】
1 エンジン
2 油圧ポンプ
3 コントロールバルブ
4 油圧アクチュエータ
5 操作手段としてのリモコン弁
6 パイロットライン
7 操作停止手段としてのパイロット圧遮断弁
8 アンロード通路
9 アンロード通路遮断手段としてのアンロード弁
10 制御手段を構成するエンジン制御部
11 制御手段を構成するポンプレギュレータ
12 制御手段を構成するコントローラ
14 排ガスフィルタ
15 再生開始スイッチ
16 再生データ検出手段としての蓄積量センサ
17 操作検出手段としてのパイロット圧センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、油圧アクチュエータの油圧源としての油圧ポンプと、油圧アクチュエータの作動を制御するコントロールバルブと、このコントロールバルブを操作する操作手段と、上記エンジンから出た排ガス中の有害物質を除去する排ガスフィルタと、上記操作手段が操作されているか否かを検出する操作検出手段と、操作手段による上記コントロールバルブの操作を不能にする操作停止手段と、制御手段とを具備し、この制御手段は、上記操作検出手段からの信号に基づいて操作手段が操作されていないことを条件として、エンジン出力を上げて排ガス温度を高めることにより上記排ガスフィルタに蓄積された有害物質を焼却するフィルタ再生制御を行うとともに、上記操作停止手段に操作停止指令を出すように構成されたことを特徴とする建設機械の制御装置。
【請求項2】
油圧ポンプの吐出油をアンロードするアンロード通路に、同通路を閉じるアンロード通路遮断手段を備え、制御手段は、フィルタ再生開始とともにエンジン回転数を上げ、かつ、油圧ポンプの吐出量を最大とするとともに、上記アンロード通路遮断手段によってアンロード通路を閉じるように構成されたことを特徴とする請求項1記載の建設機械の制御装置。
【請求項3】
オペレータの意思に基づいてフィルタ再生を開始させるための再生開始スイッチと、排ガスフィルタの再生が必要か否かを判断するデータを検出する再生データ検出手段とが設けられ、制御手段は、上記再生開始スイッチの操作時に、上記再生データ検出手段からの信号に基づいてフィルタ再生が必要と判断されたときにフィルタ再生制御を行うように構成されたことを特徴とする請求項1または2記載の建設機械の制御装置。
【請求項4】
油圧パイロット式のコントロールバルブが、操作手段としてのリモコン弁からのパイロット圧によって操作されるように構成され、このリモコン弁とコントロールバルブとを結ぶパイロットラインに、制御手段からの操作停止指令に基づいてパイロット圧を遮断する操作停止手段としてのパイロット圧遮断弁が設けられたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の建設機械の制御装置。
【請求項5】
制御手段は、操作手段が操作されておらず、かつ、この状態が一定時間以上経過したことを条件として再生制御を開始させるように構成されたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の建設機械の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−59620(P2010−59620A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−223814(P2008−223814)
【出願日】平成20年9月1日(2008.9.1)
【出願人】(000246273)コベルコ建機株式会社 (644)
【Fターム(参考)】