説明

成形体およびその成形方法

【課題】軽量であり、かつ、成形性が良好な、成形体およびその成形方法を提供する。
【解決手段】繊維集合体からなる芯材20を、表側面材21と裏側面材22とで挟んで積層体25を形成して、積層体25の、成形後に折れ曲がる角部となる部分に、他の部分に比べて液状の発泡性熱硬化性樹脂40を多く含浸させる。そして、発泡性熱硬化性樹脂40が含浸した積層体25を加圧成形することで、液状の発泡性熱硬化性樹脂40を加熱発泡させて、発泡性熱硬化性樹脂40を積層体25の内部に充填させる。さらに、積層体25を加熱することで発泡性熱硬化性樹脂40を硬化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形体、特に自動車の内装品に使用される成形体と、その成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の後部座席の後方に設けられた荷物室を区切るように、荷物積載用の内装品としてパッケージトレイが設けられている場合がある。パッケージトレイのような内装品には所要の剛性、耐荷重性、さらには耐熱性などが求められる。そのため、パッケージトレイは芯材に木質ボードが用いられ、木質ボードの裏面には補強用の板金製プレートが貼り付けられている。
【0003】
このような構成の内装品では重量がかさむが、近年では自動車の低燃費化などの観点から内装品の軽量化が求められている。そこで特許文献1に記載されているように、所要の剛性の確保および軽量化を目的として、内部に区画された多数の小室(セル)を有するハニカム体が芯材として用いられ、ハニカム体のセル内に発泡性熱硬化性樹脂を充填させた構成の成形体が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−011615号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図5に、従来技術のパッケージトレイの外周付近の断面の概略図を示す。なお、図の上方が表面で下方が裏面である。パッケージトレイ100は、凹状をしており、底部111と底部111を囲む立壁112とで構成されている。底部111は、平坦な中央部113と、中央部113を囲む溝部114とで構成されている。つまり、溝部114の中央部113とは反対の壁部は立壁112の一部を構成している。また、中央部113と溝部114の中央部113側の壁部とが繋がる部分には、略90°に折れ曲がった角部115が形成されている。このようなシャープな角部115を有するパッケージトレイ100を成形するためには、深絞り成形が必要となる。しかしながら、上述した特許文献1のようなハニカム体を芯材として用いた成形体では、深絞り成形時に、特に角部115となる部分に生じる伸びに対する追従性が悪く、成形体の角部115では割れやダレといった成形不良が生じ、シャープな形状出しが困難である。
【0006】
そこで、本発明は、軽量であり、かつ、成形性が良好な、自動車の内装品用の成形体およびその成形方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
繊維集合体からなる芯材を、表側面材と裏側面材とで挟んで積層体を形成して、積層体の、成形後に折れ曲がる角部となる部分に、他の部分に比べて液状の発泡性熱硬化性樹脂を多く含浸させる。そして、発泡性熱硬化性樹脂が含浸した積層体を加圧成形することで、液状の発泡性熱硬化性樹脂を加熱発泡させて、発泡性熱硬化性樹脂を積層体内の空隙に充填させる。さらに、積層体を加熱することで発泡性熱硬化性樹脂を硬化させる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、成形体の角部における、割れやダレの発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係る成形体の一実施形態の概略斜視図である。
【図2】図1のAA断面の概略図である。
【図3】成形体の構造を示す概略図である。
【図4】パッケージトレイの成形工程を示す概要図である。
【図5】従来技術のパッケージトレイの外周付近の断面の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、添付の図面に基づき、本発明の実施の形態の詳細について説明する。なお、同一の機能を有する構成には添付図面中、同一の番号を付与し、その説明を省略することがある。
【0011】
図1は、本発明に係る成形体の一実施形態の概略斜視図、図2は図1のAA断面の概略図、図3は成形体の構造を示す概略図である。なお、以降の説明では、本発明の成形体の一例としてパッケージトレイを用いて説明する。
【0012】
本発明の成形体の一例であるパッケージトレイ10は、自動車の後部座席の後方に設けられた荷物室を区切るように配置される。パッケージトレイ10は、凹状をしており、底部11と、底部11を囲む立壁12とで構成されている。底部11は、平坦な中央部13と、中央部13を囲む溝部14とで構成されている。つまり、溝部14の中央部13とは反対の壁部は、立壁12の一部を構成している。そして中央部13と溝部14の中央部13側の壁部とで略90°に折れ曲がった角部15が形成されている。
【0013】
また、パッケージトレイ10の構造は、図3に示すように、表面、つまり自動車の乗員室側から見て、表皮材30、表側面材21、芯材20、および裏側面材22の順に積層されて構成されている。なお、表皮材30は、必要に応じて設けるようにしても構わない。そして、図示していないが、表側面材21、芯材20、および裏側面材22の内部の空隙には、硬化した、後述する発泡性熱硬化性樹脂40(図4参照)が充填されている。
【0014】
表皮材30は、自動車の内装品として好適な意匠性や手触り感を付与するために配設され、目付量が100g/m2以上、300g/m2以下のポリエステル繊維からなるニードルパンチ不織布が好適に用いられるが、これに限定されるものではなく、ポリプロピレン繊維やポリエチレン繊維などの各種熱可塑性樹脂繊維からなる不織布などを代わりに用いることができる。
【0015】
芯材20は、繊維集合体によって構成されており、成形時の型への追従性があれば良く、特に限定するものではないが、軽量化を図る観点から、有機繊維または有機繊維と無機繊維からなるウェブをニードルパンチ法等で処理したノーバインダーの繊維集合体、例えばPET(Polyethylene terephthalate)フェルトを用いることが好ましい。繊維集合体の目付量としては、50g/m2以上、800g/m2以下の範囲のものが好ましい。上述した下限値以上であれば、自動車用のパッケージトレイ10として必要とされる剛性および耐久性が確保され、上述した上限値以下であれば、従来技術のパッケージトレイ100に比べて著しい軽量化の効果が得られる。
【0016】
表側面材21および裏側面材22としては、ガラス繊維マットが軽量かつ断熱性に優れるといった理由で、好適に用いられる。なお、植物繊維マットなどの天然繊維マットが用いられてもよい。表側面材21および裏側面材22の目付量としては、75g/m2以上、600g/m2以下の範囲のものが好ましい。上述した下限値以上であれば、パッケージトレイ10として必要とされる剛性および耐久性が確保され、上述した上限値以下であれば、従来技術のパッケージトレイ100に比べて著しい軽量化の効果が得られる。
【0017】
詳しくは後述するが、本発明のパッケージトレイ10の成形時には、芯材20、表側面材21、裏側面材22には、液状の発泡性の熱硬化性樹脂40が塗布、含浸される。発泡性熱硬化性樹脂40としては、ウレタン樹脂が、揮発性有機化合物(VOC)の発生を伴わないという理由で好適に用いられるが、フェノール樹脂、メラミン樹脂、またはユリア樹脂など各種の発泡性熱硬化性樹脂でも代替可能である。発泡性熱硬化性樹脂40の含浸量は、芯材20の目付量に対して、100重量%以上、1000重量%以下の範囲にすることが好ましい。発泡性熱硬化性樹脂40の含浸量が上述の下限値以上であれば、パッケージトレイ10として必要とされる剛性および耐久性が確保され、発泡性熱硬化性樹脂40の含浸量が上述の上限値以下であれば、従来技術のパッケージトレイ100に比べて著しい軽量化の効果が得られる。発泡性熱硬化性樹脂40は発泡倍率が高いもの、具体的には20倍程度のものが適している。
【0018】
本発明のパッケージトレイ10の特徴としては、成形時に芯材20、表側面材21、裏側面材22に含浸させておく発泡性熱硬化性樹脂40の単位面積当たりの含浸量が角部15となる部分において多くなっていることである。これにより、本発明のパッケージトレイ10を成形すると、角部15は他の部分に比べて発泡性熱硬化性樹脂40が厚く、高密度に充填される。そのため、深絞り成形をしたとしても、角部15における割れやダレといった成形不良を確実に防止することができる。
【0019】
次に、本発明の成形体であるパッケージトレイ10の成形方法の一例を説明する。図4は、パッケージトレイ10の成形工程を示す概要図である。まず芯材20の、パッケージトレイ10の表面となる方の面に表側面材21を積層し、裏面となる方の面に裏側面材22を積層して、積層体25を形成する。
【0020】
次に、積層体25の両面から液状の発泡性熱硬化性樹脂40をスプレー塗布し含浸させる。このとき、積層体25の、成形後にパッケージトレイ10の角部15となる部分には、発泡性熱硬化性樹脂40の単位面積当たりの含浸量を、他の部分の含浸量よりも多くなるようにする。具体的には、角部15以外の部分における発泡性熱硬化性樹脂40の含浸量に対して角部15における発泡性熱硬化性樹脂40の含浸量は150重量%以上、300重量%以下の範囲にすることが好ましい。そのため、積層体25の、成形後にパッケージトレイ10の角部15となる部分には、スプレーの塗布時間をその他の部分よりも所定量長くする。
【0021】
次に、表皮材30を表側面材21の上に積層した状態で、所望の形状となるように、1対の成形型50a、50bによって表側面材21ごと積層体25を加圧成形する。このとき、積層体25に含浸された発泡性熱硬化性樹脂40は、加圧成形と同時に加熱発泡して積層体25内の空隙全体にまで充填される。積層体25内の空隙全体に充填された発泡性熱硬化性樹脂40は、引き続き、成形型50a、50bによって加熱され続けることによって硬化する。また、表側面材21の繊維の隙間から発泡性熱硬化性樹脂40が露出する。これらによって、芯材20、表側面材21、裏側面材22、表皮材30はそれぞれ強固に接着固定される。以上のことより、軽量、かつ高剛性が実現されたパッケージトレイ10が完成する。
【0022】
なお、上記の説明では、表皮材30が表側面材21上に積層された状態で積層体25の加圧成形を行っているが、表皮材30を表側面材21上に積層する前に、積層体25と表皮材30をそれぞれ加圧成形してから、表皮材30を表側面材21上に貼り付けてもよい。
【0023】
本発明のパッケージトレイ10の特徴としては、成形時に、発泡性熱硬化性樹脂40を積層体25に含浸させる単位面積当たりの含浸量が、成形後に角部15となる部分では他の部分に比べて多くなるようにすることである。これにより、本発明のパッケージトレイ10を成形すると、角部15は他の部分に比べて発泡性熱硬化性樹脂40が厚く高密度に形成されるため、深絞り成形をしたとしても、発泡性熱硬化性樹脂40は角部15の形状に追従して変形できる。そのため、角部15におけるシャープな形状出しを行うことが可能になり、角部15における割れやダレといった成形不良を防止することができる。
【0024】
また、積層体25の、成形後に割れやダレが生じる可能性のある部分だけに、発泡性熱硬化性樹脂40を多く含浸させるため、パッケージトレイ10が重くなることを防止できる。
【0025】
なお、発泡性熱硬化性樹脂40の含浸方法としては、積層体25への含浸量を部分的に変えることができればよく、スプレー塗布以外にも各種公知の含浸方法を用いることもできる。また、成形後に、角部15以外の部分で割れやダレが生じる可能性がある場合は、予め積層体25の該当する部分にも発泡性熱硬化性樹脂40を多く含浸させてから成形すれば、成形後の割れやダレを防止することができる。
【0026】
次に、本発明の成形体を成形し、表面観察を行った後に曲げ強さを測定した。成形体の成形条件を以下の実施例に示す。なお、本発明の成形体と比較するために、従来技術の成形体を成形し、表面観察を行った。成形体の成形条件を以下の比較例に示す。
【0027】
<実施例>
芯材としてPETフェルトを用い、目付量を200g/m2とした。また、表側面材および裏側面材としてそれぞれガラス繊維マットを用い、目付量を100g/m2とした。さらに、発泡性熱硬化性樹脂として発泡倍率20倍のウレタン樹脂を用い、表側面材および裏側面材にそれぞれ含浸量が300g/m2となるように、スプレー塗布した。なお、発泡性熱硬化性樹脂の含浸量が角部となる部分において多くなるようにした。
【0028】
<比較例1>
芯材としてハニカム体を用い、目付量を200g/m2とした。それ以外は実施例の条件と同じである。
【0029】
<比較例2>
表側面材および裏側面材への発泡性熱硬化性樹脂の含浸をスプレー塗布ではなく浸漬によりおこない、発泡性熱硬化性樹脂の含浸量が均一となるようにした。それ以外は実施例の条件と同じである。
【0030】
上記の条件で成形した成形体の表面観察をそれぞれ行ったところ、実施例の成形体は、深絞り成形を行っても、角部に割れやダレが生じなかった。一方、比較例1や比較例2の成形体では、角部に割れやダレが生じていた。
【0031】
また、実施例の成形体については曲げ強さを測定した。その結果、合計の目付量が1000/m2という軽量でありながら、曲げ強さは220N/cmという高い剛性を示した。
【0032】
上述の説明では、本発明の成形体の一例としてパッケージトレイ10を説明したが、本発明の成形体はこれに限定されず、本発明の成形体とその成形方法を利用できるものであれば、いずれであっても構わない。
【符号の説明】
【0033】
10 パッケージトレイ
11 底部
12 立壁
13 中央部
14 溝部
15 角部
20 芯材
21 表側面材
22 裏側面材
25 熱硬化性樹脂
30 表皮材
40 発泡性熱硬化性樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維集合体からなる芯材と前記芯材を挟んで設けられた表側面材および裏側面材とで構成された積層体と、発泡して前記積層体内の空隙に充填された発泡性熱硬化性樹脂と、を有する、自動車の内装品用の成形体の成形方法であって、
前記芯材を、前記表側面材と前記裏側面材とで挟んで前記積層体を形成し、
前記積層体の、成形後に折れ曲がる角部となる部分に、他の部分に比べて液状の前記発泡性熱硬化性樹脂を多く含浸させ、
前記発泡性熱硬化性樹脂が含浸した前記積層体を加圧成形することで、液状の前記発泡性熱硬化性樹脂を加熱発泡させて、前記発泡性熱硬化性樹脂を前記積層体内の空隙に充填させて、
前記積層体を加熱することで前記発泡性熱硬化性樹脂を硬化させる、成形体の成形方法。
【請求項2】
前記角部以外の部分における前記発泡性熱硬化性樹脂の含浸量に対して前記角部における前記発泡性熱硬化性樹脂の含浸量を150重量%以上、300重量%以下の範囲にする、請求項1に記載の成形体の成形方法。
【請求項3】
前記発泡性熱硬化性樹脂はウレタン樹脂である、請求項1または2に記載の成形体。
【請求項4】
前記加圧成形は、深絞り成形である、請求項1から3のいずれか1項に記載の成形体の成形方法。
【請求項5】
スプレーによって前記発泡性熱硬化性樹脂を前記積層体に含浸させる、請求項1から4のいずれか1項に記載の成形体の成形方法。
【請求項6】
繊維集合体からなる芯材と前記芯材を挟んで設けられた表側面材および裏側面材とで構成された積層体と、発泡して前記積層体の空隙に含浸され、成形時に発泡、充填された発泡性熱硬化性樹脂と、を有する自動車の内装品用の成形体であって、
前記成形体には折れ曲がった角部が設けられており、
前記角部は、他の部分に比べ前記発泡性熱硬化性樹脂の密度が高くなっている、成形体。
【請求項7】
前記成形体は、パッケージトレイである、請求項6に記載の成形体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−71712(P2013−71712A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−214242(P2011−214242)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(390031451)株式会社林技術研究所 (83)
【Fターム(参考)】