説明

成形体の製造方法、成形装置および焼結体の製造方法

【課題】本体部とこの本体部の表面を覆うように設けられた被覆層とを有し、これらの部分が互いに異なる種類の粉末を含んでなる機能性に優れた複合成形体を容易に製造可能な成形体の製造方法および成形装置、および、かかる成形体の製造方法で製造された複合成形体を焼成してなる焼結体を製造する焼結体の製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明の成形体の製造方法は、成形型10のキャビティ15内に、磁性材料で構成された第1の粉末を含む第1の造粒粉末51を供給する第1の工程と、キャビティ15内に磁界を付与することにより、第1の造粒粉末51をキャビティ15の内壁面に吸着させる第2の工程と、内壁面に第1の造粒粉末51を形成させたキャビティ15内に、第1の粉末と種類の異なる第2の粉末を含む第2の造粒粉末52を供給し、成形する第3の工程とを有する。これにより、2層構造の複合成形体が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形体の製造方法、成形装置および焼結体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属部品の製造方法として、粉末冶金法が知られている。粉末冶金法は、金属粉末を各種成形方法によって成形し、所望の形状(ニアネットシェイプ)の成形体を製造したり、得られた成形体を焼成することにより、焼結体を製造したりする方法である。このような粉末冶金法によれば、切削等の加工を施すことなく、所望の形状(ニアネットシェイプ)の成形体や焼結体を大量に生産可能である。
【0003】
例えば、金型に原料の粉末を投入し、この粉末を圧縮成形した後、成形体を金型から取り出すことにより、成形体を製造する方法が知られている。
このような方法で製造された成形体は、その全体に金属粉末が均一に存在している。このため、金属粉末の組成によっては、成形体の表面付近に存在する金属粉末が、大気中の酸素と反応して酸化し、変質してしまうおそれがある。
【0004】
かかる問題点に対し、例えば、特許文献1では、成形体の表面にアモルファス金属のめっき層を形成することにより、成形体の耐食性を高める方法が開示されている。
しかしながら、特許文献1の方法には、成形体とめっき層との間の密着強度が低いことによる、めっき層の剥離という問題が生じる。
また、成形体にめっき層を形成するため、液相プロセスによる多くの手間とコストを必要とするため、成形体の製造コストが高くなるという問題もある。
【0005】
【特許文献1】特開2001−189214号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、本体部とこの本体部の表面を覆うように設けられた被覆層とを有し、これらの部分が互いに異なる種類の粉末を含んでなる機能性に優れた複合成形体を容易に製造可能な成形体の製造方法および成形装置、および、かかる成形体の製造方法で製造された複合成形体を焼成してなる焼結体を製造する焼結体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の成形体の製造方法は、成形型のキャビティ内に、第1の粉末とバインダとを含む第1の組成物を供給するとともに、前記第1の組成物を前記キャビティの内壁面に沿って配置する第1の工程と、
前記内壁面に沿って配置した前記第1の組成物の内側に、前記第1の粉末と種類の異なる第2の粉末とバインダとを含む第2の組成物を供給する第2の工程と、
前記キャビティ内に供給した前記第1の組成物と前記第2の組成物とを同時に加圧成形する第3の工程とを有し、
前記第2の粉末の加圧成形体で構成された本体部と、該本体部の外表面を覆うように形成され、前記第1の粉末の加圧成形体で構成された被覆層とを有する複合成形体を製造することを特徴とする。
これにより、本体部とこの本体部の表面を覆うように設けられた被覆層とを有し、これらの部分が互いに異なる種類の粉末を含んでなる機能性に優れた複合成形体を容易に製造することができる。
【0008】
本発明の成形体の製造方法では、前記第1の粉末は、磁性材料で構成されており、磁界による前記第1の粉末の着磁作用によって、前記第1の組成物を前記キャビティの内壁面に沿って配置することが好ましい。
これにより、第1の粉末をキャビティの内壁面に簡単に配置することができる。
本発明の成形体の製造方法では、前記第1の粉末は、前記第2の粉末よりも耐食性に優れたものであることが好ましい。
これにより、外表面の耐食性が高い複合成形体が得られる。また、例えば、第2の粉末として磁気特性に優れたものを用いることにより、耐食性が高く、かつ、磁気特性に優れた複合成形体が得られる。
【0009】
本発明の成形体の製造方法では、前記第1の粉末は、その構成成分として、Al、Si、CrおよびTiのうちの少なくとも1種を含んでいることが好ましい。
これらの元素は、大気中の酸素と結合して、化学的に安定な酸化物を生成する。このため、特に高い耐食性を有する複合成形体が得られる。
本発明の成形体の製造方法では、前記第1の組成物は、前記キャビティ内に、前記第1の粉末とバインダとを混合・造粒してなる造粒粉末であることが好ましい。
これにより、磁性材料でないバインダも、第1の粉末とともにキャビティの内壁面に吸着させることができる。その結果、得られる成形体の表面付近の保形性を高めることができる。
【0010】
本発明の成形体の製造方法では、前記第1の粉末および前記第2の粉末は、その構成成分として、共通の金属元素を含んでいることが好ましい。
これにより、本体部と被覆層との間の密着性をより高めることができる。
本発明の成形体の製造方法では、前記バインダとして、熱硬化性のバインダを用い、
前記第3の工程の後、さらに、前記バインダを固化する工程を有することが好ましい。
これにより、第2の粉末がバインダによって結着されてなる本体部と、本体部の表面を覆うように強固に固着して形成され、第1の粉末がバインダによって結着されてなる被覆層とを有する複合成形体が得られる。
【0011】
本発明の成形装置は、キャビティを有する成形型と、
前記キャビティ内に、磁性材料で構成された第1の粉末と、該第1の粉末と種類の異なる第2の粉末とを供給する粉末供給手段と、
前記キャビティ内に供給された前記第1の粉末が、前記キャビティの内壁面に吸着するように、前記キャビティ内に磁界を付与する磁界付与手段とを有し、
前記キャビティ内に前記第1の粉末を供給するとともに、前記キャビティ内に磁界を付与して前記内壁面に前記第1の粉末を吸着させた後、前記キャビティ内に前記第2の粉末を供給して成形することにより、前記第2の粉末の成形体で構成された本体部と、該本体部の外表面を覆うように形成され、前記第1の粉末の成形体で構成された被覆層とを有する複合成形体を製造するよう構成されたことを特徴とする。
これにより、本体部とこの本体部の表面を覆うように設けられた被覆層とを有し、これらの部分が互いに異なる種類の粉末を含んでなる機能性に優れた複合成形体を容易に製造可能な成形装置が得られる。
【0012】
本発明の成形装置では、前記磁界付与手段は、前記キャビティの近傍に設けられたコイルと、該コイルに電圧を印加する電源回路とを有することが好ましい。
これにより、電源回路を操作することによって、磁界の付与を容易かつ正確に制御することができる。
本発明の成形装置では、前記成形型は、前記キャビティの側面を構成するダイと、
前記キャビティの下面を構成し、前記ダイに対して相対的に移動可能である下パンチと、
前記キャビティの上面を構成し、前記ダイに対して相対的に移動可能である上パンチとを有し、
前記コイルは、前記ダイ、前記下パンチおよび前記上パンチをそれぞれ囲うように設けられていることが好ましい。
これにより、キャビティに確実に磁界が発生する。
【0013】
本発明の成形装置では、前記ダイ、前記下パンチおよび前記上パンチは、それぞれ軟磁性材料で構成されていることが好ましい。
これにより、各コイルが通電状態にあるときには、ダイ、下パンチおよび上パンチに磁界を発生させることができ、各コイルが非通電状態にあるときには、磁界の発生を止めることができる。すなわち、磁界の発生を任意に制御することができる。
【0014】
本発明の焼結体の製造方法は、本発明の成形体の製造方法で製造された成形体を、焼成する工程を有し、
前記第2の粉末の焼結体で構成された本体部と、該本体部の外表面を覆うように形成され、前記第1の粉末の焼結体で構成された被覆層とを有する複合焼結体を製造することを特徴とする。
これにより、例えば、第1の粉末として、耐食性に優れた金属粉末を用い、第2の粉末として、機械的特性や電磁気的特性に優れた金属粉末を用いることにより、機械的特性や電磁気的特性に優れ、かつ耐食性にも優れた金属部品を容易に得ることができる。
【0015】
本発明の焼結体の製造方法では、前記第1の粉末の平均粒径は、前記第2の粉末の平均粒径よりも大きいことが好ましい。
これにより、複合成形体を徐々に加熱して脱脂・焼成する際に、被覆層において、第1の粉末の粒子間に隙間が生じ易い。このため、本体部が含むバインダの分解物が、被覆層に生じた粒子間の隙間を介して、複合成形体の外部に容易に放出される。その結果、複合成形体の脱脂をより確実に行うことができ、焼結体の炭素含有率が、第1の粉末および第2の粉末の各炭素含有率に比べて著しく増加するのを防止することができる。
【0016】
本発明の焼結体の製造方法では、前記第1の粉末の焼結温度TS1は、前記第2の粉末の焼結温度TS2よりも高いことが好ましい。
これにより、複合成形体を徐々に加熱して脱脂・焼成し、焼結体を得る際に、複合成形体の本体部が被覆層よりも先に焼結することとなる。その結果、被覆層が本体部よりも先に焼結するのを防止し、複合成形体の内部に、バインダやその分解物が閉じ込められるのを確実に防止することができる。
【0017】
本発明の焼結体の製造方法では、前記成形体を焼成する際の焼成条件は、前記成形体を、前記焼結温度TS2以上かつ前記焼結温度TS1未満の温度で加熱して、前記第2の粉末を選択的に焼結させた後、前記焼結温度TS1以上の温度で加熱して、前記第1の粉末を焼結させる条件であることが好ましい。
これにより、成形体の内側から外側に向かって焼結を進行させることができる。これにより、成形体中に残存していたバインダやその分解物が、焼結に伴って、内側から徐々に放出されることとなり、最終的に得られる焼結体中に残存することが確実に防止される。その結果、焼結体の炭素含有率が、第1の粉末および第2の粉末の各炭素含有率に比べて著しく増加するのを確実に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の成形体の製造方法、成形装置および焼結体の製造方法について、添付図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
<第1実施形態>
まず、本発明の成形体の製造方法、成形装置および焼結体の製造方法の第1実施形態について説明する。
【0019】
図1は、本発明の成形装置の第1実施形態の型閉め状態を示す縦断面図、図2は、本発明の成形装置の第1実施形態の型開き状態を示す縦断面図、図3は、本発明の成形体の製造方法により製造された成形体を模式的に示す縦断面図、図4〜6は、第1実施形態にかかる成形体の製造方法を説明するための図(縦断面図)である。なお、以下の説明では、図1〜6中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
図1に示す成形装置1は、キャビティに粉末を充填することにより、キャビティの形状をなす加圧成形体を製造する装置である。
【0020】
以下、成形装置1の各部について詳細に説明する。
図1に示す成形装置1は、フレーム2と、フレーム2の下部に固定され、後述する下パンチを固定するパンチ固定テーブル3と、フレーム2の上部に固定されたプレート4と、粉末を成形する成形型10とを有する。
成形型10は、上下に貫通した貫通孔11を備えた板状のダイ12と、ダイ12の下方に設けられた棒状の下パンチ13と、ダイ12の上方に設けられた棒状の上パンチ14とを有している。これらのダイ12、下パンチ13および上パンチ14で囲まれた空間が、キャビティ15となる。
【0021】
図1に示すキャビティ15は、直方体形状をなしている。そして、このキャビティ15は、その側面がダイ12の一部によって構成され、その下面が下パンチ13の一部によって構成され、その上面が上パンチ14の一部によって構成されている。
ダイ12は、ダイ12と同一面に設けられた板状のダイセット121、122に支持されている。
【0022】
また、このダイセット121、122は、その下面が、それぞれ、各ガイドポスト123、123を介して、ダイ12の下方に設けられたダイセット連結板124の上面に接続されている。また、このダイセット連結板124は、その下面が、シリンダロッド125を介して、フレーム2の下面に設けられた下部油圧シリンダ126に接続されている。
このような構成により、ダイセット121、122は、シリンダロッド125、ダイセット連結板124および各ガイドポスト123、123を介して、下部油圧シリンダ126により上下に移動可能である。
【0023】
また、ダイセット121、122の上面には、それぞれ、各ガイドポスト127、127が設けられている。
なお、シリンダロッド125は、パンチ固定テーブル3が備える貫通孔31に挿通されている。
下パンチ13は、ベースプレート131上に設けられている。
【0024】
また、このベースプレート131は、その下面が、2本の支柱132、132を介して、ベースプレート131の下方に設けられた前述のパンチ固定テーブル3の上面に接続されている。これにより、下パンチ13は、フレーム2に固定されている。
また、ベースプレート131は、2つの貫通孔133、133を有しており、これらの貫通孔133、133に、2本のガイドポスト123、123が挿通されている。このような構成により、各ガイドポスト123、123は、各貫通孔133、133にガイドされつつ、上下に移動することができる。
【0025】
上パンチ14は、上パンチプレート141の下面に設けられている。
また、この上パンチプレート141は、その上面が、シリンダロッド142を介して、プレート4の上面に設けられた上部油圧シリンダ143に接続されている。
このような構成により、上パンチ14は、上パンチプレート141およびシリンダロッド142を介して、上部油圧シリンダ143により上下に移動可能である。
また、上パンチプレート141は、2つの貫通孔144、144を有している。これらの貫通孔144、144に、2本のガイドポスト127、127が挿通されている。このような構成により、各ガイドポスト127、127は、各貫通孔144、144にガイドされつつ、上下に移動することができる。
【0026】
なお、シリンダロッド142は、プレート4が備える貫通孔41に挿通されている。
このような成形装置1では、下パンチ13および上パンチ14が、それぞれ、ダイ12に対して相対的に移動可能となっている。また、下パンチ13および上パンチ14は、それぞれ、貫通孔11に対して挿抜可能に設けられている。これにより、ダイ12、下パンチ13および上パンチ14で画成されるキャビティ15の体積は、下パンチ13および上パンチ14の移動に応じて変化し、体積が最小となる図1に示す型閉め状態と、キャビティ15が開放される図2に示す型開き状態とをとり得る。
【0027】
また、ダイセット122上には、粉末供給部(粉末供給手段)16が設けられている。
この粉末供給部16は、キャビティ15に供給する粉末5を収納する箱状のフィーダボックス161と、油圧シリンダ162と、フィーダボックス161と油圧シリンダ162とを接続するシリンダロッド163とを有している。このような構成により、フィーダボックス161は、油圧シリンダ162により、シリンダロッド163を介して、ダイセット122の上面を左右に移動可能である。
【0028】
ここで、箱状のフィーダボックス161の下面は、開放された状態になっている。このため、粉末5を収納した状態で、フィーダボックス161を図1の左側に移動させ、図2に示すように、フィーダボックス161をキャビティ15の上方まで移動させると、フィーダボックス161の下面から粉末5が落下し、キャビティ15に供給される。
ところで、成形装置1は、図1に示すように、キャビティ15の周辺に複数のコイル61、62、63を備えている。
【0029】
具体的には、ダイ12を囲うように、各ダイセット121、122のそれぞれダイ12側の境界部付近に、コイル61が埋め込まれている。これにより、キャビティ15がコイル61に囲まれている。また、コイル61には、図示しない電源回路が接続されており、この電源回路によって、コイル61に電圧が印加される。そして、コイル61に電圧が印加されると、ダイ12およびキャビティ15に確実に磁界が発生する。
【0030】
また、下パンチ13を囲うように、下パンチ13の上部にコイル62が設けられている。このコイル62にも、図示しない電源回路が接続されており、この電源回路によって、コイル62に電圧が印加される。そして、コイル62に電圧が印加されることにより、下パンチ13や、下パンチ13の上方に位置するキャビティ15に、それぞれ確実に磁界が発生する。
【0031】
また、上パンチ14を囲うように、上パンチ14の下部にコイル63が設けられている。このコイル63にも、図示しない電源回路が接続されており、この電源回路によって、コイル63に電圧が印加される。そして、コイル63に電圧が印加されることにより、上パンチ14や、上パンチ14の下方に位置するキャビティ15に、それぞれ確実に磁界が発生する。
【0032】
すなわち、キャビティ15の周辺に設けられた複数のコイル61、62、63と、各コイルに接続された電源回路とにより、キャビティ15に磁界を付与する磁界付与手段を構成している。
なお、この磁界付与手段は、キャビティ15に磁界を付与するものであればよく、例えば、キャビティ15の周辺において着脱自在の永久磁石等で代替することもできる。
【0033】
また、ダイ12、下パンチ13および上パンチ14は、それぞれ金属材料で構成されているが、軟磁性材料で構成されているのが好ましい。これにより、各コイル61、62、63が通電状態にあるときには、ダイ12、下パンチ13および上パンチ14に磁界を発生させることができ、各コイル61、62、63が非通電状態にあるときには、磁界の発生を止めることができる。すなわち、磁界の発生を任意に制御することができる。
なお、ダイ12、下パンチ13および上パンチ14が硬磁性材料で構成されている場合には、各コイル61、62、63の通電によって、ダイ12、下パンチ13および上パンチ14が磁化してしまい、各コイル61、62、63を非通電状態にしても、磁界の発生が継続されてしまうおそれがある。
【0034】
以上のような成形装置1を用いることにより、図3に示すように、本体部72と、この本体部72の表面を覆うように形成された被覆層71とを有する複合成形体7を製造することができる。
このような複合成形体7のうち、被覆層71は、第1の粉末の成形体で構成されており、一方、本体部72は、第1の粉末と種類の異なる第2の粉末の成形体で構成されている。
【0035】
かかる複合成形体7では、第1の粉末の組成と第2の粉末の組成を適宜設定することにより、本体部72および被覆層71の各特性(機械的特性、化学的特性および電磁気的特性)を異ならせることができる。このため、かかる複合成形体7は、機能性に優れたものとなる。
このようにして得られた複合成形体7は、バインダを硬化させる工程を経ることにより、圧粉成形体となる。
【0036】
一方、得られた複合成形体7を、脱脂・焼成することにより、複合成形体7中からバインダを分解・除去するとともに、第1の粉末および第2の粉末を焼結させ、焼結体を得ることができる。
次に、本発明の成形体の製造方法について、前述の成形装置1を用いて行う場合を例に説明する。
【0037】
本実施形態にかかる成形体の製造方法は、成形型10のキャビティ15内に、磁性材料で構成された第1の粉末とバインダとを含む第1の組成物を供給するとともに、キャビティ15内に磁界を付与することにより、第1の組成物をキャビティ15の内壁面に吸着させる第1の工程と、内壁面に第1の組成物を吸着させたキャビティ15内に、第1の粉末と種類の異なる第2の粉末とバインダとを含む第2の組成物を供給する第2の工程と、キャビティ15内に供給された第1の組成物と第2の組成物とを加圧成形する第3の工程とを有する。
かかる成形体の製造方法によれば、前述した複合成形体7を容易に効率よく製造することができる。
【0038】
以下、各工程について順次説明する。
[1]まず、バインダを溶媒に溶解して、バインダ溶液を調製する。
バインダとしては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸カルシウム、エチレンビスステアロアミド、エチレンビニル共重合体、パラフィン、ワックス、アルギン酸ソーダ、寒天、アラビアゴム、レジン、しょ糖等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0039】
この中でも、ポリビニルアルコールまたはポリビニルピロリドンが好ましい。このようなバインダは、低価格で入手が容易であるにもかかわらず、結合力が強い。また、加熱によって容易に熱分解するため、意図しない成分が残留し難い、すなわち脱バインダ特性が高いという利点もある。
一方、バインダを溶解する溶媒としては、バインダを溶解し得るものであれば特に限定されないが、例えば、水、二硫化炭素、四塩化炭素等の無機溶媒や、ケトン系溶媒、アルコール系溶媒、エーテル系溶媒、セロソルブ系溶媒、脂肪族炭化水素系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒、芳香族複素環化合物系溶媒、アミド系溶媒、ハロゲン化合物系溶媒、エステル系溶媒、アミン系溶媒、ニトリル系溶媒、ニトロ系溶媒、アルデヒド系溶媒等の有機溶媒等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を混合したものを用いることができる。
【0040】
次いで、第1の粉末とバインダ溶液とを用いて、第1の粉末の造粒粉末を得る。なお、以下では、この第1の粉末の造粒粉末を「第1の造粒粉末」と言う。
次いで、第2の粉末とバインダ溶液とを用いて、第2の粉末の造粒粉末を得る。なお、以下では、この第2の粉末の造粒粉末を「第2の造粒粉末」と言う。
ここで、第1の粉末は、磁性材料で構成されたものである。
この磁性材料としては、例えば、Fe系金属、Co系金属、Ni系金属のような磁性金属材料、フェライトのような磁性セラミックス材料等が挙げられる。
【0041】
一方、第2の粉末の各構成材料としては、特に限定されないが、例えば、Fe、Ni、Co、Cr、Mn、Zn、Pt、Au、Ag、Cu、Pd、Al、W、Ti、V、Mo、Nb、Zr、Pr、Nd、Smのような金属材料またはこれらの金属元素を含む合金、アルミナ、マグネシア、ベリリア、ジルコニア、イットリア、フォルステライト、ステアタイト、ワラステナイト、ムライト、コージライト、フェライト、サイアロン、酸化セリウムのような酸化物系セラミックス材料、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化チタン、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化チタン、炭化タングステンのような非酸化物系セラミックス材料、グラファイト、ナノカーボン(カーボンナノチューブ、フラーレン等)の炭素系材料等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0042】
なお、第1の粉末および第2の粉末の造粒は、例えば、転動流動造粒法、転動造粒法、噴霧乾燥法(スプレードライヤー)、撹拌混合造粒、押出造粒、破砕造粒、圧縮造粒等の各種造粒方法により行うことができる。
また、溶媒に溶解させるバインダの重量は、第1の粉末または第2の粉末の重量1kg当たり、それぞれ0.5〜30g程度であるのが好ましく、1〜20g程度であるのがより好ましい。バインダの重量が前記範囲内になるように設定されることにより、第1の粉末または第2の粉末の表面を十分な量のバインダで被覆するとともに、被覆に寄与しないバインダが多量に発生するのを防止することができる。その結果、後述する工程において、保形性および成形密度に優れた成形体を作製可能な造粒粉末が得られる。
【0043】
また、バインダの溶解に用いる溶媒の重量は、バインダ1g当たり5〜100g程度であるのが好ましく、7〜70g程度であるのがより好ましい。溶媒の重量を前記範囲内に設定することにより、バインダを確実に溶解するとともに、溶媒の量が多くなり過ぎて、バインダ溶液の粘性が著しく低下し、後述する工程において作製する成形体の保形性が低下するのを確実に防止することができる。
【0044】
このようにして得られた第1の造粒粉末および第2の造粒粉末の平均粒径は、それぞれ40〜180μm程度であるのが好ましく、45〜140μm程度であるのがより好ましく、50〜100μm程度であるのがさらに好ましい。各造粒粉末の平均粒径を前記範囲内に設定することにより、それぞれの造粒粉末を成形型に充填して成形体を形成する際に、各造粒粉末が、流動性および成形型への充填性に優れたものとなる。
【0045】
なお、平均粒径が前記下限値を下回ると、各造粒粉末の流動性が安定せず、成形体の寸法バラツキが大きくなる可能性がある。一方、平均粒径が前記上限値を上回ると、特に小さい成形体を形成する際に、各造粒粉末の充填ムラが起こり易くなり、成形体の寸法バラツキが大きくなる可能性がある。
以上は、第1の粉末と第2の粉末として微細で流動性の悪い粉末を用いた際に、流動性と保形性を改善するために造粒する場合について述べたが、もともと流動性・保形性の高い粉末、例えば平均粒径40μm以上の水アトマイズ粉末を第1、第2の粉末として用いる場合には、造粒工程を省いても良い。
【0046】
[2]次に、図4(a)に示すように、成形型10を型開き状態とする。そして、フィーダボックス161に第1の造粒粉末51を収納する。
次いで、このフィーダボックス161を、キャビティ15の上方に至るまで左側に移動させる。これにより、図4(b)に示すように、フィーダボックス161内の第1の造粒粉末51が、キャビティ15に供給される。
【0047】
このとき、キャビティ15に供給される第1の造粒粉末51の量(体積)を適宜設定することにより、最終的に得られる複合成形体7における被覆層71の厚さを調整することができる。
なお、キャビティ15に供給される第1の造粒粉末51の量は、ダイ12を上下方向に移動させ、キャビティ15の体積を変化させることにより適宜設定することができる。
【0048】
[3]次に、図4(c)に示すように、フィーダボックス161を元の位置に戻すとともに、ダイ12を上方向に移動させ、キャビティ15の体積を拡大する。
このときのキャビティ15の体積は、後述する工程において、第1の造粒粉末51と第2の造粒粉末52とを圧縮する際の圧縮率を考慮して決定される。
また、上パンチ14の下面位置がダイ12の上面位置になるまで下降させる。
【0049】
[4]次に、各電源回路610、620、630により、各コイル61、62、63に、それぞれ電圧を印加する。これにより、ダイ12、下パンチ13および上パンチ14に、それぞれ磁界が発生する。この磁界は、キャビティ15に付与される。
この磁界による第1の軟磁性粉末の着磁作用により、キャビティ15内に供給された第1の造粒粉末51は、図5(d)に示すように、キャビティ15の側面および下面に吸着される。
【0050】
また、第1の造粒粉末51の一部は、上パンチ14による磁界によって上方に飛び出し、上パンチ14の下面に吸着(配置)される(第1の工程)。このように、磁界による第1の軟磁性粉末の着磁作用を用いることにより、第1の造粒粉末51をキャビティ15の内壁面に簡単に配置することができる。
なお、前記工程[1]において、あらかじめ第1の粉末とバインダとにより第1の造粒粉末51を製造し、前記工程[2]において、この第1の造粒粉末51をキャビティ15に供給するようにしたので、第1の粉末とバインダとが均一に分散した状態で、キャビティ15に供給されることとなる。
【0051】
また、このように、第1の造粒粉末51をキャビティ15に供給することにより、磁性材料でないバインダも、第1の粉末とともにキャビティ15の内壁面に吸着させることができる。これにより、得られる成形体の表面付近の保形性を高めることができる。
ここで、本実施形態では、キャビティ15の周辺に設けられた複数のコイル61、62、63と、各コイルに接続された各電源回路610、620、630とにより、キャビティ15に磁界を付与する磁界付与手段を構成している。このような構成の磁界付与手段によれば、電源回路を操作することによって、磁界の付与を容易かつ正確に制御することができる。
また、各コイル61、62、63に印加する電圧をそれぞれ異ならせることにより、キャビティ15の内壁面のうち、側面、下面および上面の間で、発生する磁界の強さを異ならせることができる。これにより、キャビティ15の側面、下面および上面に吸着する第1の造粒粉末51の量を、それぞれ異ならせることができる。
【0052】
[5]次に、図5(e)に示すように、フィーダボックス161内の第1の造粒粉末51を取り出し、第2の造粒粉末52に入れ替える。
[6]次に、図5(f)に示すように、各コイル61、62、63に電圧を印加した状態で、フィーダボックス161を、キャビティ15の上方に至るまで左側に移動させる。これにより、図5(f)に示すように、フィーダボックス161内の第2の造粒粉末52が、キャビティ15に供給され、充填される(第2の工程)。
【0053】
[7]次に、コイル63に電圧を印加した状態で、図6(g)に示すように、フィーダボックス161を元の位置に戻す。
次いで、図6(h)に示すように、上パンチ14を下方に移動させ、キャビティ15に挿入し、成形型10を型閉め状態とする。これにより、キャビティ15内の第1の造粒粉末51と第2の造粒粉末52とを同時に加圧して成形する(第3の工程)。その結果、キャビティ15内に複合成形体7が得られる。
【0054】
[8]次に、図6(i)に示すように、上パンチ14を上方に移動させ、型開き状態とする。
また、ダイ12を下方に移動させ、キャビティ15内の複合成形体7を、下パンチ13によって押し上げる。これにより、キャビティ15内から複合成形体7を取り出すことができる。
【0055】
以上のようにして、複合成形体7を製造することができる。
なお、本発明では、第1の造粒粉末51と第2の造粒粉末52とを同時に加圧・成形するので、第2の造粒粉末52の加圧成形体で構成された本体部72と、第1の造粒粉末51の加圧成形体で構成された被覆層71との密着性が高くなる。このため、複合成形体7において、本体部72から被覆層71が剥離するのを確実に防止することができる。
【0056】
ここで、複合成形体7の製造に用いられる第1の粉末および第2の粉末は、その構成成分として、共通の金属元素を含んでいるのが好ましい。これにより、図3に示す本体部72と被覆層71との間の密着性をより高めることができる。
また、第1の粉末として、第2の粉末よりも耐食性に優れたものを用いるのが好ましい。これにより、外表面の耐食性が高い複合成形体7が得られる。また、例えば、第2の粉末として、磁気特性に優れたものを用いることにより、耐食性が高く、かつ、磁気特性に優れた複合成形体7が得られる。
【0057】
なお、第2の粉末として、例えば磁気特性等の各特性が高いにもかかわらず、耐食性に劣るような粉末をも用いることができる。これにより、第2の粉末の選択の幅を広げることができる。
かかる観点から、第1の粉末を構成する磁性材料は、その構成成分としてAl、Si、CrおよびTiのうちの少なくとも1種を含んでいるのが好ましい。これらの元素は、大気中の酸素と結合して、化学的に安定な酸化物を生成する。このため、特に高い耐食性を有する複合成形体7が得られる。
【0058】
また、第1の粉末は、その焼結温度が、第2の粉末の焼結温度よりも高いものが好ましい。これにより、複合成形体7を徐々に加熱して脱脂・焼成し、焼結体を得る際に、複合成形体7の本体部72が被覆層71よりも先に焼結することとなる。その結果、被覆層71が本体部72よりも先に焼結するのを防止し、複合成形体7の内部に、バインダやその分解物が閉じ込められるのを確実に防止することができる。
【0059】
また、第1の粉末は、その平均粒径が、第2の粉末の平均粒径よりも大きいものが好ましい。これにより、複合成形体7を徐々に加熱して脱脂・焼成する際に、被覆層71において、第1の粉末の粒子間に隙間が生じ易い。このため、本体部72が含むバインダの分解物が、被覆層71に生じた粒子間の隙間を介して、複合成形体7の外部に容易に放出される。その結果、複合成形体7の脱脂をより確実に行うことができ、焼結体の炭素含有率が、第1の粉末および第2の粉末の各炭素含有率に比べて著しく増加するのを防止することができる。
【0060】
なお、複合成形体7の脱脂・焼成については、後に詳述する。
また、本実施形態では、キャビティ15内に磁界を付与することにより、第1の組成物をキャビティ15の内壁面に吸着させるよう構成されているが、その他の方法により、吸着させるようにしてもよい。
具体的には、静電吸着の作用により第1の組成物を吸着させる方法、キャビティ15の内壁面にあらかじめ粘着剤を塗布しておき、その粘着作用により第1の組成物を吸着させる方法等が挙げられる。
なお、これらの方法を用いる場合には、第1の粉末が必ずしも磁性材料で構成されていなくてもよく、前記第2の粉末と同様の材料で構成されたものを用いることができる。
【0061】
次に、前記工程[8]によって得られた複合成形体7に対して、以下の工程[9A]〜[10A]を行うことにより、焼結体を得ることができる。
[9A]まず、得られた複合成形体7に脱脂処理(脱バインダ処理)を施す。これにより、脱脂体を得る。
この脱脂処理は、特に限定されないが、非酸化性雰囲気中、例えば真空または減圧状態下(例えば1×10−1〜1×10−6Torr(13.3〜1.33×10−4Pa))、または、窒素ガス、アルゴンガス、水素ガス、アンモニア分解ガス等のガス中で、熱処理を行うことによりなされる。
【0062】
この場合、熱処理の条件は、バインダの分解開始温度等によって若干異なるが、好ましくは温度100〜750℃程度で0.5〜20時間程度、より好ましくは温度150〜700℃程度で1〜10時間程度とされる。
また、このような熱処理による脱脂は、種々の目的(例えば、脱脂時間の短縮等の目的)で、複数の工程(段階)に分けて行ってもよい。この場合、例えば、前半を低温で、後半を高温で脱脂するような方法や、低温と高温を繰り返し行う方法等が挙げられる。
なお、バインダは、脱脂処理によって複合成形体7から完全に除去されなくてもよく、例えば、脱脂処理の完了時点で、その一部が残存していてもよい。
【0063】
[10A]次に、得られた脱脂体を焼成する。この焼成により、脱脂体が焼結し、焼結体となる。
焼成温度は、第1の粉末および第2の粉末の各組成や粒径等によって異なるため、特に限定されないが、例えば、第1の粉末および第2の粉末がいずれもFe系合金で構成されている場合、1100〜1400℃程度であるのが好ましく、1150〜1350℃程度であるのがより好ましい。
【0064】
また、焼成時間は、焼成温度によって異なるものの、0.5〜20時間程度であるのが好ましく、1〜15時間程度であるのがより好ましい。
また、焼成雰囲気は、減圧(真空)下または非酸化性雰囲気とするのが好ましい。これにより、第1の粉末や第2の粉末の酸化による特性劣化を防止することができる。
このうち、具体的な減圧(真空)下の焼成雰囲気としては、1Torr(133Pa)以下の減圧(真空)下であるのが好ましく、1×10−6〜1×10−2Torr(1.33×10−4〜1.33Pa)の減圧(真空)下であるのがより好ましい。
【0065】
また、具体的な非酸化性雰囲気としては、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気、水素ガス等の還元性ガス雰囲気であるのが好ましい。
ここで、第1の粉末の焼結温度TS1が、第2の粉末の焼結温度TS2よりも高い場合、焼成条件を以下のように設定するのが好ましい。
すなわち、この焼成条件は、脱脂体(成形体)を、焼結温度TS2以上かつ焼結温度TS1未満の温度で加熱して、脱脂体(成形体)の内側にある第2の粉末を選択的に焼結させた後、焼結温度TS1以上の温度で加熱して、脱脂体の外側にある第1の粉末を焼結させるような条件である。
【0066】
このような条件で焼成することにより、脱脂体(成形体)の内側から外側に向かって焼結を進行させることができる。これにより、脱脂体(成形体)中に残存していたバインダやその分解物が、焼結に伴って、内側から徐々に放出されることとなり、最終的に得られる焼結体中に残存することが確実に防止される。その結果、焼結体の炭素含有率が、第1の粉末および第2の粉末の各炭素含有率に比べて著しく増加するのを確実に防止することができる。
【0067】
なお、焼成工程を行う雰囲気は、工程の途中で変化してもよい。例えば、最初に減圧雰囲気とし、途中で不活性雰囲気に切り替えるようにしてもよい。
また、焼成工程は、2段階またはそれ以上に分けて行ってもよい。これにより、焼結の効率が向上し、より短い焼結時間で焼結を行うことができる。
また、焼成工程は、前述の脱脂工程と連続して行うのが好ましい。これにより、脱脂工程は、焼結前工程を兼ねることができ、脱脂体に予熱を与えて、脱脂体をより確実に焼結させることができる。
このようにして得られた焼結体は、第2の粉末が焼結してなる本体部と、この本体部の表面を覆うように強固に接合され、第1の粉末が焼結してなる被覆層とで構成された複合焼結体である。
【0068】
かかる焼結体によれば、例えば、第1の粉末として、耐食性に優れた金属粉末を用い、第2の粉末として、機械的特性や電磁気的特性に優れた金属粉末を用いることにより、機械的特性や電磁気的特性に優れ、かつ耐食性にも優れた金属部品を容易に得ることができる。
なお、必要に応じて、前記工程[9A]〜[10A]に代えて、前記工程[8]で得られた複合成形体7に対し、以下の工程[9B]を行うようにしてもよい。
【0069】
[9B]得られた複合成形体7を加熱することにより、バインダが固化し、圧粉成形体(加圧成形体)を得る。
本工程を行う場合、前述のバインダに代えて、熱硬化性のバインダを用いる。
熱硬化性のバインダとしては、例えば、シリコーン系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂等の有機バインダ、リン酸マグネシウム、リン酸カルシウム、リン酸亜鉛、リン酸マンガン、リン酸カドミウムのようなリン酸塩、ケイ酸ナトリウムのようなケイ酸塩(水ガラス)等の無機バインダ等が挙げられるが、特に、熱硬化性ポリイミドまたはエポキシ系樹脂が好ましい。これらの樹脂材料は、加熱されることによって容易に硬化するとともに、耐熱性に優れたものである。したがって、圧粉成形体の製造容易性および耐熱性を高めることができる。
【0070】
また、複合成形体7を加熱する際の加熱温度は、バインダの組成等に応じて若干異なるものの、例えばバインダが有機バインダで構成されている場合、好ましくは100〜250℃程度とされ、より好ましくは120〜200℃程度とされる。
また、加熱時間は、加熱温度に応じて異なるものの、0.5〜5時間程度とされる。
このようにして得られた圧粉成形体は、第2の粉末がバインダによって結着されてなる本体部72と、本体部72の表面を覆うように強固に固着して形成され、第1の粉末がバインダによって結着されてなる被覆層71とで構成された複合成形体となる。
【0071】
かかる圧粉成形体によれば、例えば、第1の粉末として、耐食性に優れた金属粉末を用い、第2の粉末として、磁気特性に優れた金属粉末を用いることにより、磁気特性に優れ、かつ耐食性にも優れた圧粉磁心を容易に得ることができる。
なお、前記工程[8]によって得られた複合成形体7は、本体部72と被覆層71の2層を有する複合成形体であるが、本発明の成形体の製造方法によれば、本体部、中間部分および被覆層の3層を有する複合成形体も同様に製造することができる。
例えば、本体部、中間部分および被覆層の3層を有する複合成形体を製造する場合、まず、前記工程[4]と同様にして、被覆層を構成する粉末として、磁性を有する第1の造粒粉末を用意し、これをキャビティの内壁面に吸着させる。
【0072】
次いで、前記工程[4]と同様にして、中間部分を構成する粉末として、磁性を有する第3の造粒粉末を用意し、これをキャビティの内壁面に吸着している第1の造粒粉末の内側に吸着させる。
次いで、前記工程[6]と同様にして、本体部を構成する粉末として、第2の造粒粉末を用意し、これをキャビティに供給し、充填する。
【0073】
以上のようにすれば、3層を有する複合成形体を製造することができる。また、4層以上の複合成形体も同様に製造することができる。
このように、本発明の成形体の製造方法により製造された圧粉成形体や、本発明の焼結体の製造方法により製造された焼結体は、各種部品等に適用可能であるが、例えば、チョークコイル、インダクタ、ノイズフィルタ、リアクトル、モータ、発電機のような各種磁性素子(電磁気部品)が備える磁心等に好適に適用される。
【0074】
以下、このような磁心を備える磁性素子の一例として、2種類のチョークコイルを代表に説明する。
まず、トロイダル形状のチョークコイルについて説明する。
図7は、トロイダル形状のチョークコイルを示す模式図(平面図)である。
図7に示すチョークコイル80は、リング状(トロイダル形状)の磁心81と、この磁心81に巻き回された導線82とを有する。このようなチョークコイル80は、一般に、トロイダルコイルと称される。
【0075】
磁心81は、前述した成形体の製造方法により製造された圧粉成形体や、前述した焼結体の製造方法により製造された焼結体により構成される。
このような磁心81は、被覆層と本体部とでそれぞれの構成材料を適宜設定することにより、被覆層と本体部とでそれぞれの特性(機械的特性、化学的特性および電磁気的特性)を異ならせることができる。これにより、かかる磁心81は、機能性に優れたものとなる。
したがって、例えば、被覆層を、本体部よりも耐食性の高い材料で構成し、本体部を透磁率の高い材料で構成することにより、透磁率が高く、かつ耐食性の高い磁心81が得られる。
【0076】
一方、導線82の構成材料としては、導電性の高い材料が挙げられ、例えば、Cu、Al、Ag、Au、Ni等の金属材料、またはかかる金属材料を含む合金等が挙げられる。
なお、導線82の表面に、絶縁性を有する表面層を備えているのが好ましい。これにより、圧粉磁心81と導線82との短絡を確実に防止することができる。
かかる表面層の構成材料としては、例えば、各種樹脂材料等が挙げられる。
【0077】
次に、磁心中にコイルをモールドしたチョークコイルについて説明する。
図8は、磁心中にコイルをモールドしたチョークコイルを示す模式図(斜視図)である。
図8に示すチョークコイル90は、コイル状に成形された導線92を、磁心91の内部に埋設してなるものである。すなわち、チョークコイル90は、導線92を磁心91でモールドしてなる。
【0078】
このような形態のチョークコイル90は、比較的小型のものが容易に得られる。
また、導線92が磁心91の内部に埋設されているため、導線92と磁心91との間に隙間が生じ難い。このため、磁心91の磁歪による振動を抑制し、この振動に伴う騒音の発生を抑制することもできる。
なお、導線92は、前述の導線82と同様のものを用いることができる。
【0079】
<第2実施形態>
次に、本発明の成形体の製造方法、成形装置および焼結体の製造方法の第2実施形態について説明する。
図9および図10は、第2実施形態にかかる成形体の製造方法を説明するための図(縦断面図)である。
【0080】
以下、第2実施形態にかかる成形体の製造方法および成形装置について説明するが、前記第1実施形態にかかる成形体の製造方法および成形装置との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
図9(a)は、前記第1実施形態における工程[4]に対応する図5(d)に相当する図である。
【0081】
本実施形態にかかる成形装置1では、図9(a)に示すように、前記第1実施形態にかかる成形装置1からコイル63が省略されている。このため、前記工程[4]において、上パンチ14の下面には、第1の造粒粉末51が吸着しない。なお、本実施形態にかかる成形装置1は、図9(a)に示すように、ダイ12上に、ダイ12を加振する加振装置128を有している。
【0082】
次に、図9(b)に示すように、フィーダボックス161内の第1の造粒粉末51を取り出し、第2の造粒粉末52に入れ替える。
次に、図9(c)に示すように、各コイル61、62に電圧を印加した状態で、フィーダボックス161を、キャビティ15の上方に至るまで左側に移動させる。これにより、図10(d)に示すように、フィーダボックス161内の第2の造粒粉末52が、キャビティ15に供給され、充填される。
【0083】
次に、フィーダボックス161を元の位置に戻した後、加振装置128により、ダイ12を振動させる。これにより、キャビティ15内に充填された第1の造粒粉末51および第2の造粒粉末52の密度を高め、その体積を減少させる。
次に、フィーダボックス161内の第2の造粒粉末52を取り出し、再び、第1の造粒粉末51に入れ替える。そして、図10(e)に示すように、フィーダボックス161を、キャビティ15の上方に至るまで左側に移動させる。これにより、図10(f)に示すように、フィーダボックス161内の第1の造粒粉末51が、キャビティ15に供給され、充填される。
次に、成形型10を型閉め状態とすることにより、キャビティ15内に複合成形体7が得られる。
【0084】
以上のような成形体の製造方法および成形装置によっても、前記第1実施形態と同様の作用・効果が得られる。
以上、本発明の成形体の製造方法、成形装置および焼結体の製造方法について、好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
また、前記実施形態にかかる成形体の製造方法および焼結体の製造方法では、必要に応じて、任意の工程を追加することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本発明の成形装置の第1実施形態の型閉め状態を示す縦断面図である。
【図2】本発明の成形装置の第1実施形態の型開き状態を示す縦断面図である。
【図3】本発明の成形体の製造方法により製造された成形体を模式的に示す縦断面図である。
【図4】第1実施形態にかかる成形体の製造方法を説明するための図(縦断面図)である。
【図5】第1実施形態にかかる成形体の製造方法を説明するための図(縦断面図)である。
【図6】第1実施形態にかかる成形体の製造方法を説明するための図(縦断面図)である。
【図7】トロイダル形状のチョークコイルを示す模式図(平面図)である。
【図8】磁心中にコイルをモールドしたチョークコイルを示す模式図(斜視図)である。
【図9】第2実施形態にかかる成形体の製造方法を説明するための図(縦断面図)である。
【図10】第2実施形態にかかる成形体の製造方法を説明するための図(縦断面図)である。
【符号の説明】
【0086】
1……成形装置 2……フレーム 3……パンチ固定テーブル 31……貫通孔 4……プレート 41……貫通孔 5……粉末 51……第1の造粒粉末 52……第2の造粒粉末 10……成形型 11……貫通孔 12……ダイ 121、122……ダイセット 123……ガイドポスト 124……ダイセット連結板 125……シリンダロッド 126……下部油圧シリンダ 127……ガイドポスト 128……加振装置 13……下パンチ 131……ベースプレート 132……支柱 133……貫通孔 14……上パンチ 141……上パンチプレート 142……シリンダロッド 143……上部油圧シリンダ 144……貫通孔 15……キャビティ 16……粉末供給部 161……フィーダボックス 162……油圧シリンダ 163……シリンダロッド 61、62、63……コイル 610、620、630……電源回路 7……複合成形体 71……被覆層 72……本体部 80、90……チョークコイル 81、91……磁心 82、92……導線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形型のキャビティ内に、第1の粉末とバインダとを含む第1の組成物を供給するとともに、前記第1の組成物を前記キャビティの内壁面に沿って配置する第1の工程と、
前記内壁面に沿って配置した前記第1の組成物の内側に、前記第1の粉末と種類の異なる第2の粉末とバインダとを含む第2の組成物を供給する第2の工程と、
前記キャビティ内に供給した前記第1の組成物と前記第2の組成物とを同時に加圧成形する第3の工程とを有し、
前記第2の粉末の加圧成形体で構成された本体部と、該本体部の外表面を覆うように形成され、前記第1の粉末の加圧成形体で構成された被覆層とを有する複合成形体を製造することを特徴とする成形体の製造方法。
【請求項2】
前記第1の粉末は、磁性材料で構成されており、磁界による前記第1の粉末の着磁作用によって、前記第1の組成物を前記キャビティの内壁面に沿って配置する請求項1に記載の成形体の製造方法。
【請求項3】
前記第1の粉末は、前記第2の粉末よりも耐食性に優れたものである請求項1または2に記載の成形体の製造方法。
【請求項4】
前記第1の粉末は、その構成成分として、Al、Si、CrおよびTiのうちの少なくとも1種を含んでいる請求項1ないし3のいずれかに記載の成形体の製造方法。
【請求項5】
前記第1の組成物は、前記キャビティ内に、前記第1の粉末とバインダとを混合・造粒してなる造粒粉末である請求項1ないし4のいずれかに記載の成形体の製造方法。
【請求項6】
前記第1の粉末および前記第2の粉末は、その構成成分として、共通の金属元素を含んでいる請求項1ないし5のいずれかに記載の成形体の製造方法。
【請求項7】
前記バインダとして、熱硬化性のバインダを用い、
前記第3の工程の後、さらに、前記バインダを固化する工程を有する請求項1ないし6のいずれかに記載の成形体の製造方法。
【請求項8】
キャビティを有する成形型と、
前記キャビティ内に、磁性材料で構成された第1の粉末と、該第1の粉末と種類の異なる第2の粉末とを供給する粉末供給手段と、
前記キャビティ内に供給された前記第1の粉末が、前記キャビティの内壁面に吸着するように、前記キャビティ内に磁界を付与する磁界付与手段とを有し、
前記キャビティ内に前記第1の粉末を供給するとともに、前記キャビティ内に磁界を付与して前記内壁面に前記第1の粉末を吸着させた後、前記キャビティ内に前記第2の粉末を供給して成形することにより、前記第2の粉末の成形体で構成された本体部と、該本体部の外表面を覆うように形成され、前記第1の粉末の成形体で構成された被覆層とを有する複合成形体を製造するよう構成されたことを特徴とする成形装置。
【請求項9】
前記磁界付与手段は、前記キャビティの近傍に設けられたコイルと、該コイルに電圧を印加する電源回路とを有する請求項8に記載の成形装置。
【請求項10】
前記成形型は、前記キャビティの側面を構成するダイと、
前記キャビティの下面を構成し、前記ダイに対して相対的に移動可能である下パンチと、
前記キャビティの上面を構成し、前記ダイに対して相対的に移動可能である上パンチとを有し、
前記コイルは、前記ダイ、前記下パンチおよび前記上パンチをそれぞれ囲うように設けられている請求項9に記載の成形装置。
【請求項11】
前記ダイ、前記下パンチおよび前記上パンチは、それぞれ軟磁性材料で構成されている請求項10に記載の成形装置。
【請求項12】
請求項1ないし7のいずれかに記載の成形体の製造方法で製造された成形体を、焼成する工程を有し、
前記第2の粉末の焼結体で構成された本体部と、該本体部の外表面を覆うように形成され、前記第1の粉末の焼結体で構成された被覆層とを有する複合焼結体を製造することを特徴とする焼結体の製造方法。
【請求項13】
前記第1の粉末の平均粒径は、前記第2の粉末の平均粒径よりも大きい請求項12に記載の焼結体の製造方法。
【請求項14】
前記第1の粉末の焼結温度TS1は、前記第2の粉末の焼結温度TS2よりも高い請求項12または13に記載の焼結体の製造方法。
【請求項15】
前記成形体を焼成する際の焼成条件は、前記成形体を、前記焼結温度TS2以上かつ前記焼結温度TS1未満の温度で加熱して、前記第2の粉末を選択的に焼結させた後、前記焼結温度TS1以上の温度で加熱して、前記第1の粉末を焼結させる条件である請求項14に記載の焼結体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−258235(P2008−258235A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−95964(P2007−95964)
【出願日】平成19年4月2日(2007.4.2)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】