説明

成形型

【課題】内部に冷却用の流路やヒートパイプのような中空構造を設けると型の肉厚が薄くなり成形に伴う加工圧に対する強度が不足する恐れがある小型の雄型の成形型において、冷却性が良く強度低下のない成形型を提供すること。
【解決手段】成形型1の外周部を構成する外周部材2と成形型1の内部を構成する内部部材3を別部材とし、外周部材2の熱伝導率と線膨張率が、内部部材3の熱伝導率と線膨張率より小さな部材の組み合せとし、工作物成形時の温度において、外周部材2の内径寸法を内部部材の外径寸法より小さくした構造とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形型に関するものであり、詳しくは温間鍛造もしくは熱間鍛造用型の冷却と寿命向上に関するものである。
【背景技術】
【0002】
温間鍛造や熱間鍛造では型の温度上昇による寿命低下や熱膨張による精度低下を防止するため型の冷却をしている。冷却方法は型内部に通路を形成し、通路内に冷却流体を循環させ、外部に設けた冷却装置により冷却流体の熱を除去するものである。
また、金型内部にヒートパイプなどの熱伝達柱を多数埋め込み金型を冷却する従来技術(特許文献1参照)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−138366号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
小型の雄型の成形型の場合、内部に冷却用の流路やヒートパイプのような中空構造を設けると型の肉厚が薄くなり成形に伴う加工圧に対する強度が不足する恐れがある。そのため、図5に示すように冷却流路54を備えた雌型53は充分に冷却されるが、雄型の成形型51の冷却部52は工作物Wの成型部から離れた位置に配置されるので成形型51の冷却性が低かった。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、冷却性が良く強度低下のない雄型の鍛造型を安価に提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するため、請求項1に係る発明の特徴は、工作物を成型する雄型の成形型において、前記成形型の外周部を構成する外周部材と前記成形型の内部を構成する内部部材を別部材とし、前記外周部材の熱伝導より前記内部部材の熱伝導性を高くし、前記外周部材と前記内部部材の接触部の所定熱伝達部における、前記外周部材の表面粗さと前記内部部材の表面粗さを所定値以下とし、前記所定熱伝達部の見掛けの面積に対する前記所定熱伝達部の真実接触面の面積の比率である接触比率を所定値以上とし、前記内部部材の前記所定熱伝達部と反対の端部に冷却部を設けたことである。
【0006】
請求項2に係る発明の特徴は、請求項1に係る発明において、前記所定熱伝達部を少なくも連続して並ぶ交差点群で囲まれた閉曲面とし、
前記交差点群を、前記工作物の成型時に前記工作物が接触する前記成形型の表面部位の外縁部と前記外周部材と前記内部部材の接触面を最短で結ぶ直線が、前記接触面に交差する点とすることである。
【0007】
請求項3に係る発明の特徴は、請求項1または請求項2に係る発明において、前記冷却部と前記所定熱伝達部の距離をL(m)とし、前記外周部材の熱伝導率をλ1(W・m−1・k−1)とし、前記内部部材の熱伝導率をλ(W・m−1・k−1)とし、空気の熱伝導率をλ(W・m−1・k−1)とし、前記所定熱伝達部の前記外周部材の表面粗さをδ(μmRz)とし、前記所定熱伝達部の前記内部部材の表面粗さをδ(μmRz)とし、前記接触比率をηとしたとき、
170000・η/((δ+23)/λ+(δ+23)/λ)+1000000・λ/(δ+δ)>λ・λ/(L・(λ−λ))が成り立つことである。

【0008】
請求項4に係る発明の特徴は、請求項1ないし請求項3のいずれか1項に係る発明において、前記内部部材の線膨張率を前記外周部材の線膨張率より大きくし、
所定温度において、前記外周部材が前記内部部材の熱膨張による膨張力を受けることである。
【0009】
請求項5に係る発明の特徴は、請求項4に係る発明において、前記所定温度が前記工作物を成型する時の雄型の成形型の温度であることである。
【発明の効果】
【0010】
請求項1ないし請求項3に係る発明によれば、内部部材の熱伝導が大きいので外部部材単独で製作した成形型より冷却性がよく成形型の温度を低くできるので、より高温の素材を成型でき成形性がよくなる、また成形型の寿命が長くなる。
【0011】
請求項4、請求項5に係る発明によれば、成型時に成形型の外部部材に加わる圧縮力を内部部材の膨張力により外部部材に加わる引張力が相殺するため、外部部材に加わる最大圧縮力を低減できる。このため、成型圧力を高くでき生産性がよくなる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本実施形態の成形型の断面を示す概略図である。
【図2】本実施形態の成形型を用いた成型の断面を示す概略図である。
【図3】冷却性の差を説明する模式図である。
【図4】本実施形態の変形態様の成形型を用いた成型の断面を示す概略図である。
【図5】従来の成形型を用いた成型の断面を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図1〜図3に基づき説明する。
図1に示すように、成形型1は外周部材2の内部に内部部材3を配置した2層構造で、内部部材3は押しねじ4により外周部材2に押付けられ接触固定されている。工作物が成型時に接触するA部と反対の内部部材3の端部に液室5を設け、液室5に冷却媒体を供給する供給流路6と、液室5から冷却媒体を排出する排出流路7を備えている。
外周部材2の材料は工具鋼で、内部部材3の材料は高熱伝導体(銅やアルミニウムまたはそれらの合金が好適)である。
【0014】
工作物Wの成型作動について図2に基づき説明する。
金型1は固定具8により供給流路6と排出流路7が座板9の流路91、92に連通されるように座板9に固定される。座板9は駆動軸10により上下に往復可動に支持されている。成形型1に対向した下部に雌型11が固定されて配置される。
工作物Wの成型は、所定の温度に保持された工作物Wの素材を雌型11内に挿入し、成形型1を所定の位置まで下降させることで成型する。成型された工作物Wは図示しない取り出し装置で雌型11から取り出される。
【0015】
上記の2層構造の熱の伝達性について図3の模式図で原理を説明する。
外周部材21の熱伝導率をλとし、内部部材22の熱伝導率をλとし、外部部材21から内部部材22への熱伝達率をhとする。工作物接触部側をB端として、冷却側をC端とし、B−C間の距離をLとする。外部部材21の熱伝達はB端の温度をTとし、C端の温度をTとしBからCへの熱伝達以外に熱の伝達はないと仮定する。内部部材22の熱伝達はB端の外部部材21の温度をTとし、B端の内部部材22の温度をTとし、C端の温度をTとしBからCへの熱伝達以外に熱の伝達はないと仮定する。
外部部材21の単位断面積あたりの熱伝達量QはQ=λ1・(T−T)/Lとなり、内部部材22の単位断面積あたりの熱伝達量QはQ=λ・(T−T)/Lとなる。また、Bにおける外部部材21から内部部材22への単位断面積あたりの熱伝達量QはQ=h・(T−T)となり、定常状態ではQ=Qなのでλ・(T−T)/L=h・(T−T)となる。
2層構造の内部部材22の熱伝達量が外部部材21の一体物より大きくなる限界はQ≧Qであり、λ・(T−T)/L≧λ・(T−T)/LからT≧T+(T−T)・λ/λとなればよい。Tは式λ・(T−T)/L=h・(T−T)を変形して、T=(h・T+λ・T/L)/(λ/L+h)となるので(h・T+λ・T/L)/(λ/L+h)≧T+(T−T)・λ/λが内部部材22の熱伝達量が外部部材21の一体物より大きくなる条件を示す式となる。hについて式を整理するとh≧λ・λ/(L・(λ−λ))となり、外部部材21から内部部材22への熱伝達率がこの式で示されるhであれば2層構造の熱伝達が一体物より大きくなる。
【0016】
ここで、2つの固体の接触面における熱伝達率hは以下の式となることが知られている。
空気の熱伝導率をλとし、外周部材21の表面粗さをδとし、内部部材22の表面粗さをδとし、所定熱伝達部の見掛けの面積に対する所定熱伝達部の真実接触面の面積の比率である接触比率をηとしたとき、接触面における熱伝達率hは、
h=170000・η/((δ+23)/λ+(δ+23)/λ)+1000000・λ/(δ+δ)となることが知られている。
ここで、微細な凹凸を持つ2面が接触しているとき凸部同士が接触し凹部は隙間が空いた状態となり接触しない、このときの実際に接触している凸部の面積の総和を真実接触面の面積とし、接触していない凹部の面積の総和と真実接触面積の和を見掛けの面積とする。
【0017】
以上より、式170000・η/((δ+23)/λ+(δ+23)/λ)+1000000・λ/(δ+δ)≧λ・λ/(L・(λ−λ))を満足するように、外周部材21の表面粗さδと熱伝導率λ、内部部材22の表面粗さδと熱伝導率λ、工作物成型部と冷却部の距離L、真実接触面の接触比率ηを選択すれば2層構造の成形型の冷却効果が一体物より高くなる。
【0018】
以下に、本実施例の作動機能について図1に基づき、外周部材2に工具鋼を使用し内部部材3に銅を用いた例について詳細に説明する。
はじめに、冷却性の向上について説明する。温度が800kにおける工具鋼のλは34(W・m−1・k−1)、線膨張率は14×10−6(k−1)である。温度が800kにおける銅のλは370(W・m−1・k−1)、線膨張率は20×10−6(k−1)である。Lを0.03(m)、λを0.05(W・m−1・k−1)、外周部材の表面粗さδを30(μmRz)、内部部材の表面粗さδを30(μmRz)とすると、170000・η/1.675+1000≧1248.016となる。式を整理するとη≧0.0041であれば冷却効果が一体物より高くなる。Lは図1に示すように工作物接触部の上端から冷却部までの距離とする。
ここで、接触比率ηを接触部材の押付圧をP(Mp)とし、やわらかい材料の硬度をH(Hv)としたとき、η=0.6・P/Hとなることが知られているので、0.6・P/H≧0.0041とすればよい。銅のHを50(Hv)とすると、P≧0.34(Mp)となり、銅製の内部部材を0.34Mp以上の圧力で外周部材に押し付けることで必要な接触比率ηを実現できる。
【0019】
次に、成形圧力により外周部材2に作用する圧縮力を軽減する作用について説明する。
工作物を成形していない状態では、外周部材2が内部部材3により膨張力を与えられ引張応力が作用し、内部部材3は反作用の圧縮応力が作用するように相互寸法を定める。図1において、D部の寸法で具体的に説明する。
工作物成型時の最低温度をTとし、最高温度をTとする。相互に組み合せられていない状態で、温度がT場合の、外周部材2の内径寸法をEとし、内部部材3の外形寸法をFとすると、E≦Fに設定する。外周部材2の温度がTからTまでの平均線膨張率をαとし、内部部材3の温度がTからTまでの平均線膨張率をαとすると、最高温度Tのときの、外周部材2の内径寸法はE・α・(T−T)となり、内部部材3の外形寸法はF・α・(T−T)となる。よって、温度上昇による締め代(直径)の増加は(F・α−E・α)・(T−T)となる。この締め代の増加による外周部材2に作用する引張応力が外周部材2の許容応力を越えないように最高温度Tを設定する。
以上のように外周部材2の内径寸法と、内部部材3の外形寸法を設定することで、工作物成型時に作用する外周部材2への圧縮応力を低減できる。
【0020】
上記の実施例では外部部材に工具鋼を用いた例を述べたが、セラミックス等の金属以外の材料を用いてもよい。
【0021】
<本実施形態の変形態様>
上記の実施形態では、液室4に冷却媒体を流通させる構造について説明したが、これに限定されるものではない。
図4に示すように、内部部材33の冷却端を基台8に接触させて熱を基台8側に逃すことで冷却をしてもよい。工作物Wが小型で冷却する熱量が小さな場合はこの構造で効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0022】
1:型 2:外部部材 3:内部部材 4:押しねじ 5:液室 6:供給流路 7:排出流路 8:固定具 9:基台 10:駆動軸 11:雌型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作物を成型する雄型の成形型において、前記成形型の外周部を構成する外周部材と前記成形型の内部を構成する内部部材を別部材とし、前記外周部材の熱伝導より前記内部部材の熱伝導性を高くし、前記外周部材と前記内部部材の接触部の所定熱伝達部における、前記外周部材の表面粗さと前記内部部材の表面粗さを所定値以下とし、前記所定熱伝達部の見掛けの面積に対する前記所定熱伝達部の真実接触面の面積の比率である接触比率を所定値以上とし、前記内部部材の前記所定熱伝達部と反対の端部に冷却部を設けた成形型。
【請求項2】
前記所定熱伝達部を少なくも連続して並ぶ交差点群で囲まれた閉曲面とし、
前記交差点群を、前記工作物の成型時に前記工作物が接触する前記成形型の表面部位の外縁部と前記外周部材と前記内部部材の接触面を最短で結ぶ直線が、前記接触面に交差する点とする請求項1に記載の成形型。
【請求項3】
前記冷却部と前記所定熱伝達部の距離をL(m)とし、前記外周部材の熱伝導率をλ1(W・m−1・k−1)とし、前記内部部材の熱伝導率をλ(W・m−1・k−1)とし、空気の熱伝導率をλ(W・m−1・k−1)とし、前記所定熱伝達部の前記外周部材の表面粗さをδ(μmRz)とし、前記所定熱伝達部の前記内部部材の表面粗さをδ(μmRz)とし、前記接触比率をηとしたとき、
170000・η/((δ+23)/λ+(δ+23)/λ)+1000000・λ/(δ+δ)>λ・λ/(L・(λ−λ))が成り立つ請求項1または請求項2に記載の成形型。
【請求項4】
前記内部部材の線膨張率を前記外周部材の線膨張率より大きくし、
所定温度において、前記外周部材が前記内部部材の熱膨張による膨張力を受ける請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の成形型。
【請求項5】
前記所定温度が前記工作物を成型する時の雄型の成形型の温度である請求項4に記載の成形型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−624(P2012−624A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−136198(P2010−136198)
【出願日】平成22年6月15日(2010.6.15)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】