説明

成膜方法及び撥油性基材

【課題】実用に耐えうる耐摩耗性を備えた撥油性膜を持つ撥油性基材を製造することができる成膜方法を提供する。
【解決手段】前照射工程、第1の成膜工程、後照射工程及び第2の成膜工程を順次有する。前照射工程では、基板101の表面にエネルギーを持つ粒子を300〜600秒の照射時間で照射する。第1の成膜工程では、前照射工程後の基板101の粒子照射面にイオンビームを用いたイオンアシスト蒸着法によって第1の膜103を3nm以上の厚みで成膜する。後照射工程では、基板101に成膜された第1の膜103にエネルギーを持つ粒子を照射する。これにより第1の膜103の厚みを0.1〜500nmとし、かつ第1の膜103の表面に特定の表面特性を満足する凹凸を形成させる。第2の成膜工程では、後照射工程後の第1の膜103の凹凸面に撥油性を有する第2の膜105を成膜する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、成膜方法及び撥油性基材に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラスやプラスチックなどの基板の表面に、所定方向の筋状の微細な凹凸面を有するように、深さ10〜400nmの疵(きず)をつけ、その後、前記微細な凹凸面の上に所定組成の撥油性膜を形成した撥油性物品が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−309745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の撥油性物品の撥油性膜の表面に指紋などの油分が付着した場合、この油分を拭き取り布などで拭き取ることが行われる。
【0005】
特許文献1の手法で形成した撥油性物品は、基板の表面に所定方向の筋状の疵が所定深さで形成されている。このため、拭き取り布などを疵の方向とクロスする方向に摺動させて前記油分を拭き取ろうとすると、最表面に形成された撥油性膜が容易に削り取られ、こうした摩耗により撥油性膜の撥油性が消失するという問題があった。
【0006】
特に特許文献1の手法で形成した撥油性物品は、トラバース摺動試験において、キャンバス布に0.1kg/cm程度の軽い荷重をかけた状態で摺動試験を行っており(特許文献1の段落0038を参照)、これでは実用に耐えうる耐摩耗性を有するとは言えない。
【0007】
発明が解決しようとする課題は、実用に耐えうる耐摩耗性を備えた撥油性膜を持つ撥油性基材と、このような撥油性基材を製造することができる成膜方法とを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、以下の解決手段によって上記課題を解決する。なお、以下の解決手段では、発明の実施形態を示す図面に対応する符号を付して説明するが、この符号は発明の理解を容易にするためだけのものであって発明を限定する趣旨ではない。
【0009】
発明に係る成膜方法は、基板(101)の表面に乾式法を用いて第1の膜(103)を成膜する第1の成膜工程と、第1の膜(103)にエネルギーを持つ粒子を照射する第1の照射工程(後照射)と、第1の照射工程後の第1の膜(103)の表面に撥油性を有する第2の膜(105)を成膜する第2の成膜工程とを、有する。
【0010】
第1の照射工程に用いるエネルギーを持つ粒子としては、例えば加速電圧が100〜2000Vのエネルギーを持つ粒子、電流密度が1〜120μA/cmのエネルギーを持つ粒子、又は加速電圧が100〜2000Vで電流密度が1〜120μA/cmのエネルギーを持つ粒子を用いることができる。第1の照射工程において、エネルギーを持つ粒子の照射時間は例えば1〜800秒とすることができ、またエネルギーを持つ粒子の粒子照射数は例えば1×1013個/cm〜5×1017個/cmとすることができる。第1の照射工程に用いられるエネルギーを持つ粒子は、少なくともアルゴンを含むイオンビーム(例えばアルゴンのイオンビーム、又は酸素とアルゴンの混合ガスのイオンビーム)とすることができる。
【0011】
第1の成膜工程では、第1の膜(103)を3〜1000nmの厚みで成膜することができる。また、第1の成膜工程では、第1の膜(103)を、イオンビームを用いたイオンアシスト蒸着法により成膜してもよく、あるいはスパッタ処理とプラズマ処理を繰り返すことにより成膜することもできる。
第1の成膜工程をイオンアシスト蒸着法で行う場合、これに用いるイオンビームとしては、例えば加速電圧が100〜2000Vのイオンビーム、電流密度が1〜120μA/cmのイオンビーム、又は加速電圧が100〜2000Vで電流密度が1〜120μA/cmのイオンビームを用いることができる。第1の成膜工程において、イオンビームの照射時間は例えば1〜800秒とすることができ、またイオンビームの粒子照射数は例えば1×1013個/cm〜5×1017個/cmとすることができる。第1の成膜工程に用いられるイオンビームは、酸素のイオンビーム、アルゴンのイオンビーム、又は酸素とアルゴンの混合ガスのイオンビームとすることができる。
【0012】
第1の成膜工程に先立ち、基板(101)の表面に、エネルギーを持つ粒子を照射する第2の照射工程(前照射)を有することができる。第2の照射工程に用いるエネルギーを持つ粒子としては、例えば加速電圧が100〜2000Vのエネルギーを持つ粒子、電流密度が1〜120μA/cmのエネルギーを持つ粒子、又は加速電圧が100〜2000Vで電流密度が1〜120μA/cmのエネルギーを持つ粒子を用いることができる。第2の照射工程において、エネルギーを持つ粒子の照射時間は例えば60〜1200秒とすることができ、またエネルギーを持つ粒子の粒子照射数は例えば5×1014個/cm〜5×1017個/cmとすることができる。第2の照射工程に用いられるエネルギーを持つ粒子は、少なくともアルゴン又は酸素を含むイオンビーム(例えばアルゴンのイオンビーム、酸素のイオンビーム、又は酸素とアルゴンの混合ガスのイオンビーム)とすることができる。
【0013】
発明に係る撥油性基材(100)は、基板(101)の表面に第1の膜(103)が形成され、第1の膜(103)の表面に撥油性を有する第2の膜(105)が形成されており、第1の膜(103)は、JIS−B0601に準拠した方法で測定された下記表面特性を有する。中心線平均粗さ(Ra):0.1〜1000nm、十点平均高さ(Rz):5〜2000nm、最大谷深さ(Pv):15〜2000nm。
【0014】
第1の膜(103)の表面に観察される凸部は、0.1〜5000nmの周期で存在していてもよい。第2の膜(105)は、1kg/cmの荷重によるスチールウール#0000を500回を超えて往復させても油性ペンによるインクを拭き取れるものである。第1の膜(103)は、基板(101)の硬度より高い硬度を持つ材質で構成することができる。硬度は、JIS−K5600−5−4に準拠した方法で測定された鉛筆硬度の値である。第1の膜(103)と基板(101)の硬度の差は、JIS−K5600−5−4に準拠した方法で測定された鉛筆硬度の値で、2段階以上(例えば後者が7Hの場合、前者は9H以上)であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
上記発明によれば、基板の表面に成膜した所定の第1の膜に対して、所定のエネルギーを持つ粒子を照射するので(第1の照射工程)、照射後の第1の膜の表面には適切な凹部が形成される。従って、その後に成膜される、撥油性を有する第2の膜の構成成分(撥油分子)を、第1の膜の凹部にも付着させることができる。これにより、第1の膜の表面に形成される第2の膜の耐摩耗性を実用に耐えうる程度にまで向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は第1実施形態に係る撥油性基材を示す断面図である。
【図2】図2は図1の撥油性基材を製造可能な第2実施形態に係る成膜装置を正面から見た断面図である。
【図3】図3は図1の撥油性基材を製造可能な第3実施形態に係る成膜装置を正面から見た断面図である。
【図4】図4は図3の成膜装置を側面から見た要部断面図である。
【図5】図5は図3の成膜装置のスパッタ領域周辺を拡大した説明図である。
【図6】図6は図3の成膜装置のプラズマ処理領域周辺を拡大した説明図である。
【符号の説明】
【0017】
100…撥油性基材、101…基板、103…第1の膜、105…撥油性膜(第2の膜)、1,1a…成膜装置、2…真空容器、30A…蒸着処理領域、34,36…蒸着源、34a,36a,38a…シャッタ、34b,36b…坩堝、34c…電子銃、34d…電子銃電源、38…イオン銃、38b…調整壁、5…ニュートラライザ、5a…調整壁、4…回転ドラム、4a,4a’…基板ホルダ、40…モータ、50…水晶モニタ、51…膜厚検出部、52…コントローラ、53…電気ヒータ、54…温度センサ、60A…プラズマ処理領域、60…プラズマ発生手段、70…反応性ガス供給手段、71…酸素ガスボンベ、72…マスフローコントローラ、80A…スパッタ領域、80…スパッタ手段、81a,81b…スパッタ電極、82a,82b…ターゲット、83…トランス、84…交流電源、90…スパッタガス供給手段、92…スパッタガスボンベ
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、上記発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
《第1実施形態》
本実施形態では、撥油性基材の一例を説明する。
【0019】
図1に示すように、本実施形態の撥油性基材100は、基板101を含み、この基板101の少なくとも一方の面には、第1の膜103が形成されている。第1の膜103の上には、撥油性を有する第2の膜(以下「撥油性膜」という。)105が形成されている。
【0020】
基板101としては、プラスチック基板(有機ガラス基板)や無機基板(無機ガラス基板)の他、ステンレスなどの金属基板が適用可能であり、その厚みは、例えば0.1〜5mmである。なお、基板101の一例である無機ガラス基板としては、例えば、ソーダライムガラス(6H〜7H)、硼珪酸ガラス(6H〜7H)などが挙げられる。
【0021】
第1の膜103は、第1に、乾式成膜法を用いて成膜される。例えば第1の膜103をSiOで構成する場合において、ゾルゲル法などの湿式成膜法で形成した場合、十分な耐擦傷性が付与されず、結果として、実用に耐えうる耐摩耗性を備えた、後述する撥油性膜105を成膜できないおそれがある。第1の膜103は、例えばJIS−K5600−5−4に準拠した方法で測定された鉛筆硬度が9H超の、例えばSiO、ZrO、Si、Alなどの材質で構成されていることが好ましい。このように、基板101の硬度より高い硬度を持つ材質で構成される第1の膜103を基板101の表面に形成することにより、後述の撥油性膜105の耐摩耗性を実用に耐えうるレベルにまで向上させることが容易となる。
【0022】
第1の膜103は、第2に、その表面に適切な凹部が形成されるように、表面特性(表面粗さ)が適切に調整されている。具体的には、中心線平均粗さ(Ra)、十点平均高さ(Rz)及び最大谷深さ(Pv)が適切に調整されている。Ra、Rz及びPvは、何れも、第1の膜103表面の凹凸具合を表す指標である。なお、本実施形態において、第1の膜103の表面粗さ(Ra、Rz、Pv)とは、その定義についてはJIS―B0601に準拠するものではあるが、例えば非接触表面粗さ計や原子間力顕微鏡(AFM)などによって測定される微小領域、微小スケールにおける表面粗さである。
【0023】
本発明者らは、後述の撥油性膜105の耐摩耗性を実用に耐えうるレベルにまで向上させるために、第1の膜103の表面に適切な凹部が形成されるように、表面特性に関する特定指標に着目して検討を進めたところ、数ある表面特性に関するパラメータのうち、表面粗さに関するRa、Rz及びPvの値を適切に調整することで、第1の膜103の表面に適切な凹部が形成され、その後に形成する撥油性膜105の耐摩耗性を実用に耐えうるレベルにまで向上させることができることを見出した。すなわち本実施形態の第1の膜103は、その表面特性が適切に調整されているので、後述の撥油性膜105の耐摩耗性を実用に耐えうるレベルにまで向上させることができる。
【0024】
中心線平均粗さ(Ra)、十点平均高さ(Rz)及び最大谷深さ(Pv)は、何れも、第1の膜103表面の凹凸具合を表す指標である。
【0025】
本実施形態では、第1の膜103のRaが、好ましくは0.1nm以上、より好ましくは1nm以上、さらに好ましくは3nm以上に調整されている。第1の膜103のRaを所定値以上に調整することで、スチールウールで後述の撥油性膜105の表面を擦傷した際にも、第1の膜103の凹部に付着する撥油性膜105の構成成分(撥油分子)を残存させることができる。その結果、撥油性の発現を確保することができる。その一方で、第1の膜103のRaが大きすぎると、撥油性膜105の撥油性が劣化する傾向にある。このため、本実施形態では、第1の膜103のRaは、好ましくは1000nm以下、より好ましくは100nm以下、さらに好ましくは20nm以下に調整されることが望ましい。
【0026】
本実施形態では、第1の膜103のRzが、好ましくは5nm以上、より好ましくは7nm以上、さらに好ましくは10nm以上に調整されている。第1の膜103のRzを所定値以上に調整することで、スチールウールで後述の撥油性膜105の表面を擦傷した際にも、第1の膜103の凹部に付着する撥油性膜105の構成成分(撥油分子)を残存させることができる。その結果、撥油性の発現を確保することができる。その一方で、第1の膜103のRzが大きすぎると、撥油性膜105の撥油性が劣化する傾向にある。このため、本実施形態では、第1の膜103のRzは、好ましくは2000nm以下、より好ましくは200nm以下、さらに好ましくは50nm以下に調整されることが望ましい。
【0027】
本実施形態では、第1の膜103のPvが、好ましくは15nm以上、より好ましくは20nm以上、さらに好ましくは30nm以上に調整されている。第1の膜103のPvを所定値以上に調整することで、スチールウールで後述の撥油性膜105の表面を擦傷した際にも、第1の膜103の凹部に付着する撥油性膜105の構成成分(撥油分子)を残存させることができる。その結果、撥油性の発現を確保することができる。その一方で、第1の膜103のPvが大きすぎると、撥油性膜105の撥油性が劣化する傾向にある。このため、本実施形態では、第1の膜103のPvは、好ましくは2000nm以下、より好ましくは300nm以下、さらに好ましくは150nm以下に調整されることが望ましい。
【0028】
なお、Ra、Rz、Pvの値は、JIS−B0601に準拠して測定した値である。
【0029】
本実施形態では、第1の膜103は、その表面に適切な凹部が形成されるとともに、該表面に観察される凸部が、所定の周期で存在するように調整されていることが好ましい。具体的には、第1の膜103の表面粗さを直線で走査させ測定した際に観察される凸部が、好ましくは0.1〜5000nm、より好ましくは1〜1000nm、さらに好ましくは1〜50nmの周期で存在するように調整されていることが望ましい。
【0030】
ここで、第1の膜103の表面に存在する凸部の周期とは、第1の膜103の表面プロファイルにおいて、ある凸部から凹部を介して次の凸部に至るまでの間隔λを意味しており、直線で走査(測定)した長さをカウントしたピーク個数で除することにより算出することができる。凸部の周期を上述した範囲に調整することで、スチールウールで後述の撥油性膜105の表面を擦傷した際にも、第1の膜103の凹部に付着する撥油性膜105の構成成分(撥油分子)を残存させることができる。その結果、撥油性の発現を確保することができる。
【0031】
こうした第1の膜103の表面に存在する凸部の周期の測定は、上述したRa、Rzなどと同様に、例えば非接触表面粗さ計や原子間力顕微鏡(AFM)などを用いて行うことができる。
【0032】
本実施形態の第1の膜103は、上述した理由により、湿式成膜法ではない乾式成膜法、例えば、真空蒸着法(イオンアシスト蒸着法を含む。)、スパッタリング法、イオンプレーティング法、アーク放電法などの乾式メッキ法(PVD法)などを用い、その成膜条件を適切に制御することで形成することができる。
【0033】
真空蒸着法やスパッタリング法などで、基板101に形成される第1の膜103は、単層で形成されていてもよいし、多層で形成されていてもよい。この段階での第1の膜103の厚みは、例えば3〜1000nm程度とする。この段階での第1の膜103の厚みが薄すぎると、その後、後述のエネルギー粒子を照射すると第1の膜103がすべて削り取られ、残存しなくなってしまうとの不都合を生じる。一方で、第1の膜103の厚みが厚すぎると、後述のエネルギー粒子を照射しても、第1の膜103の表面に不均一な表面粗さを適切に付与することができなくなるおそれがある。
【0034】
本実施形態では、基板101に第1の膜103を成膜した後、この第1の膜103に対して、エネルギーを持つ粒子の照射処理を行う(第1の照射処理。後照射)。後述の撥油性膜105の形成に先立ち、エネルギーを持つ粒子を第1の膜103に照射するのは、第1の膜103の表面特性を上述した範囲に調整するためである。
【0035】
エネルギーを持つ粒子としては、例えば、イオン銃によるイオンビームや、プラズマ中の反応性ガスの活性種などを挙げることができる。従って、第1の膜103をイオンビームによるイオンアシスト蒸着法で形成した場合には、例えば蒸着終了後に、所定の照射条件に変更した後、イオンビームの照射を継続すればよい。一方、第1の膜103をスパッタ工程と反応工程の繰り返しにより形成した場合には、この処理の終了後に、イオンビームの照射を所定の照射条件で照射すればよい。なお、第1の膜103をスパッタ工程と反応工程の繰り返しで形成した後、所定の作動条件に変更したプラズマ中の活性種を第1の膜103に対して照射してもよい。
【0036】
後照射後の第1の膜103の厚みは、例えば0.1〜500nm、好ましくは5〜50nmである。この段階での第1の膜103の厚みが薄すぎても厚すぎても、後述の撥油性膜105を形成した後の、表面の耐擦傷性が充分に得られないおそれがある。
【0037】
撥油性膜105は、油汚れの付着を防止する機能を有する。ここで、「油汚れの付着を防止する」とは、単に油汚れが付着しないだけでなく、たとえ付着しても簡単に拭き取れることを意味する。
【0038】
すなわち、撥油性膜105は撥油性を維持する。具体的には、本実施形態の撥油性膜105は、1kg/cmの荷重によるスチールウール#0000を、500回(好ましくは1000回)を超えて往復させても油性ペンによるインクを拭き取れるように、耐摩耗性が実用に耐えうるレベルにまで向上している。このように耐摩耗性が向上しているのは、上述したエネルギー粒子の照射処理によって、撥油性膜105の形成ベース(第1の膜103)の表面には適切な凹部が形成され、表面特性が調整されているからである。
【0039】
撥油性膜105は、例えば、一分子中に少なくとも1つの疎水性基及び水酸基と結合可能な少なくとも1つの反応性基を有する有機化合物(単に「疎水性反応性有機化合物」ともいう。)などで構成することができる。疎水性反応性有機化合物としては、例えば、ポリフルオロエーテル基又はポリフルオロアルキル基を含むフッ素含有有機化合物などが挙げられる。
【0040】
撥油性膜105は、その厚みが、好ましくは0.5〜100nm、より好ましくは1〜20nmである。
【0041】
撥油性膜105は、例えば、真空蒸着法、CVD法などを用い、その成膜条件を適切に制御することで形成することができる。
【0042】
撥油性膜105の形成は、第1の膜103の形成と異なる装置で別々に行ってもよいが、同一装置内で連続して行うことが好ましい。これは、蒸着源を第1の膜103を形成する成膜材料から、撥油性膜105を形成する成膜材料に置換することにより行うことができる。また複数の蒸着源を配置することにより単一の成膜装置で行うこともできる。
【0043】
本実施形態に係る撥油性基材100によれば、基板101の少なくとも一方の面に形成された第1の膜103の表面特性が、上述したように適切に調整されている。このため、第1の膜103の表面に形成される撥油性膜105の耐摩耗性が実用に耐えうるレベルにまで向上している。
【0044】
従って、本実施形態の撥油性基材100は、撥油性が要求される用途、例えば、各種ディスプレイ(例えばプラズマディスプレイパネルPDP、ブラウン管CRT、液晶ディスプレイLCD、エレクトロルミネッセンスディスプレイELDなど);ショーケース;時計や計器のカバーガラス;銀行ATMや切符の券売機などのタッチパネル式電子機器のタッチ面;上記各種ディスプレイを持つ携帯電話やパソコンなどの各種電子機器;などに適用して好ましい。
【0045】
《第2実施形態》
本実施形態では、図1の撥油性基材100を製造可能な成膜装置の一例を説明する。
図2に示すように、本実施形態の成膜装置1は、縦置き円筒状の真空容器2を含む。真空容器2は、排気手段(図示省略)によって所定の圧力に排気されるようになっている。真空容器2には、扉を介して、ロードロック室が接続されていてもよい。ロードロック室を備えていると、真空容器2内の真空状態を保持した状態で、基板101の搬入出を行うことが可能となる。
【0046】
真空容器2の内部の上方には、ステンレス製球面状の基板ホルダ4a’が垂直軸回りに回動可能に保持されている。基板ホルダ4a’の中心には開口が設けられており、ここには水晶モニタ50が配設されている。水晶モニタ50は、その表面に薄膜が付着することによる共振周波数の変化から物理膜厚を膜厚検出部51で検出する。膜厚の検出結果は、コントローラ52に送られる。
【0047】
真空容器2の内部には、基板ホルダ4a’を包み込むように電気ヒータ53が配設されている。基板ホルダ4a’の温度は熱電対などの温度センサ54で検出され、その結果はコントローラ52に送られる。コントローラ52はこの温度センサ54からの出力を用いて電気ヒータ53を制御して基板101の温度を適切に管理する。
【0048】
真空容器2の内部の下方には、基板ホルダ4a’に保持される基板101に成膜材料を付着させる蒸発源34,36と、正のイオンを基板101に向けて照射するイオン銃38が配設されている。
【0049】
蒸発源34は、成膜材料を載せるためのくぼみを上部に備えた坩堝(ボート)34bと、成膜材料に電子ビーム(e)を照射して蒸発させる電子銃34cと、坩堝34bから基板101に向かう成膜材料を遮断する位置に開閉可能に設けられたシャッタ34aとを備える。坩堝34bに成膜材料を載せた状態で、電子銃電源34dによって電子銃34cに電力を供給し、電子銃34cから電子ビームを発生させ、この電子ビームを成膜材料に照射すると、成膜材料が加熱されて蒸発する。この状態でシャッタ34aを開くと、坩堝34bから蒸発する成膜材料は基板101に向けて真空容器2の内部を移動して、基板101の表面に付着する。
【0050】
蒸発源36は、本実施形態では直接加熱方式や間接加熱方式などの抵抗加熱方式の蒸発源であり、成膜材料を載せるためのくぼみを上部に備えた坩堝(ボート)36bと、坩堝36bから基板101に向かう成膜材料を遮断する位置に開閉可能に設けられたシャッタ36aとを備える。直接加熱方式は、金属製のボートに電極を取り付けて電流を流し、直接、金属製のボートを加熱してボート自体を抵抗加熱器とし、この中に入れた成膜材料を加熱する。間接加熱方式は、ボートが直接の熱源ではなく、ボートとは別に設けられた加熱装置、例えば遷移金属などのレアメタルなどからなる蒸着フィラメントに電流を流すことにより加熱する方式である。坩堝36bに成膜材料を載せた状態で、ボート自体あるいはボートとは別に設けられた加熱装置により、成膜材料を加熱し、この状態でシャッタ36aを開くと、坩堝36bから蒸発する成膜材料は基板101に向けて真空容器2の内部を移動して、基板101の表面に付着する。
【0051】
イオン銃38は、イオンアシスト用のイオン源であり、反応性ガス(Oなど)や希ガス(Arなど)のプラズマから帯電したイオン(O、Ar)を引出し、所定の加速電圧により加速して基板101に向けて射出する。イオン銃38の上方にはシャッタ38aが開閉可能に配置されている。シャッタ38aの上方には、イオン銃38から引き出されるイオンの指向性を調整するための調整壁38b,38bが設けられている。
【0052】
蒸発源34,36から基板101に向けて移動する成膜材料は、イオン銃38から照射される正イオンの衝突エネルギーにより、基板101の表面に高い緻密性でかつ強固に付着する。このとき、基板101はイオンビームに含まれる正イオンにより正に帯電する。
【0053】
なお、イオン銃38から射出された正のイオン(例えばO)が基板101に蓄積することにより、基板101全体が正に帯電する現象(チャージアップ)が起こる。チャージアップが発生すると、正に帯電した基板101と他の部材との間で異常放電が起こり、放電による衝撃で基板101表面に形成された薄膜(絶縁膜)が破壊されることがある。また、基板101が正に帯電することで、イオン銃38から射出される正のイオンによる衝突エネルギーが低下するため、薄膜の緻密性、付着強度などが減少することもある。
【0054】
そこで本実施形態では、基板101に蓄積した正の電荷を電気的に中和(ニュートラライズ)する目的で、真空容器2の側壁の中程に、ニュートラライザ5を配設している。ニュートラライザ5は、イオン銃38によるイオンビームの照射中に、電子(e)を基板101に向けて放出するものであり、Arなどの希ガスのプラズマから電子を引き出し、加速電圧で加速して電子を射出する。ここから射出される電子は、基板101表面に付着したイオンによる帯電を中和する。なお、ニュートラライザ5の上方には、ニュートラライザ5から放出される電子の指向性を調整するための調整壁5a,5aが設けられている。
【0055】
次に、成膜装置1を用いた成膜方法の一例を説明する。
本実施形態では、蒸発源34のボートに充填する第1成膜材料として金属ケイ素(Si)または酸化ケイ素(SiO)を用いる場合を例示する。蒸発源36のボートに充填する撥油性膜の形成原料としての第2成膜材料については特に限定しない。
【0056】
また、本実施形態では、イオン銃を用いたイオンビームアシスト蒸着法(IAD:Ion−beam Assisted Deposition method)により第1の膜103を成膜し、この第1の膜103に対しイオン銃によるイオンビームにより第1の照射処理(後照射)をし、さらに抵抗加熱方式の真空蒸着法により撥油性膜105を成膜する場合を例示する。
【0057】
第1成膜材料の形態としては、特に限定されず、例えばペレット状のものを用いることができる。なお、第1成膜材料の加熱は、電子ビーム加熱方式に限定されず、ハロゲンランプ、シーズヒータ、抵抗加熱、誘導加熱等、蒸着材料を気化させるのに充分な加熱が可能な熱源を用いることができる。
【0058】
第2成膜材料の形態としては、特に限定されず、例えば、(a)
多孔質セラミックに疎水性反応性有機化合物を含浸させたものや、(b) 金属繊維又は細線の塊に疎水性反応性有機化合物を含浸させたものを用いることができる。これらは、多量の疎水性反応性有機化合物を素早く吸収し、蒸発させることができる。多孔質セラミックは、ハンドリング性の観点からペレット状で用いることが好ましい。
【0059】
金属繊維又は細線としては、例えば鉄、白金、銀、銅などが挙げられる。金属繊維又は細線は、十分な量の疎水性反応性有機化合物を保持できるように絡みあった形状のもの、例えば織布状や不織布状のものを用いることが好ましい。金属繊維又は細線の塊の空孔率は、疎水性反応性有機化合物をどの程度保持するかに応じて決定することができる。
【0060】
第2成膜材料として、金属繊維又は細線の塊を用いる場合、これを一端が開放した容器内に保持することが好ましい。容器内に保持した金属繊維又は細線の塊もペレットと同視することができる。容器の形状は特に限定されないが、クヌーセン型、末広ノズル型、直筒型、末広筒型、ボート型、フィラメント型等が挙げられ、蒸着装置の仕様によって適宜選択することができる。容器の少なくとも一端は開放されており、開放端から疎水性反応性有機化合物が蒸発するようになっている。容器の材質としては、銅、タングステン、タンタル、モリブデン、ニッケル等の金属、アルミナ等のセラミック、カーボン等が使用可能であり、蒸着装置や疎水性反応性有機化合物によって適宜選択する。
【0061】
多孔質セラミックペレット、及び容器に保持した金属繊維又は細線の塊からなるペレットのいずれも、サイズは限定されない。
【0062】
多孔質セラミック又は金属繊維又は細線の塊に疎水性反応性有機化合物を含浸させる場合、まず疎水性反応性有機化合物の有機溶媒溶液を作製し、浸漬法、滴下法、スプレー法等により溶液を多孔質セラミック又は金属繊維又は細線に含浸させた後、有機溶媒を揮発させる。疎水性反応性有機化合物は反応性基(加水分解性基)を有するので、不活性有機溶媒を使用するのが好ましい。
【0063】
不活性有機溶媒としては、フッ素変性脂肪族炭化水素系溶剤(パーフルオロヘプタン、パーフルオロオクタン等)、フッ素変性芳香族炭化水素系溶剤(m−キシレンヘキサフロライド、ベンゾトリフロライド等)、フッ素変性エーテル系溶剤(メチルパーフルオロブチルエーテル、パーフルオロ(2−ブチルテトラヒドロフラン)等)、フッ素変性アルキルアミン系溶剤(パーフルオロトリブチルアミン、パーフルオロトリペンチルアミン等)、炭化水素系溶剤(トルエン、キシレン等)、ケトン系溶剤(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等)等が挙げられる。これらの有機溶媒は単独でも2種以上を混合しても良い。疎水性反応性有機化合物溶液の濃度は限定的ではなく、疎水性反応性有機化合物を含浸する担体の形態に応じて、適宜設定することができる。
【0064】
なお、第2成膜材料の加熱は、抵抗加熱方式に限定されず、ハロゲンランプ、シーズヒータ、電子ビーム、プラズマ電子ビーム、誘導加熱等を用いることもできる。
【0065】
(1)まず、基板ホルダ4a’に複数の基板101を固定する。基板ホルダ4a’に固定する基板101は、形状が例えば板状やレンズ状などに加工されたガラスやプラスチックや金属で構成することができる。なお、基板101は、固定前あるいは固定後に、湿式洗浄しておくことが好ましい。
【0066】
(2)次に、基板ホルダ4a’を真空容器2の内部にセットした後、真空容器2内を例えば10−4〜10−2Pa程度にまで排気する。真空度が10−4Paより低いと、真空排気に時間を要し過ぎて生産性を低下させるおそれがある。一方、真空度が10−2Paより高いと、成膜が不十分となることがあり、膜の特性が劣化するおそれがある。
【0067】
(3)次に、電気ヒータ53に通電して発熱させ、基板ホルダ4a’を低速で回転させる。この回転により複数の基板101の温度と成膜条件を均一化させる。
コントローラ52は、基板101の温度が、例えば常温〜120℃、好ましくは50〜90℃になったことを温度センサ54の出力により判定すると、成膜工程に入る。基板温度が常温未満では成膜される第1の膜103の密度が低く、十分な膜耐久性が得られない傾向がある。基板温度が120℃を超えると基板101としてプラスチック基板を用いている場合に、その基板101の劣化や変形が起きる可能性がある。なお、無加熱成膜が好適な材料を用いる場合には常温で成膜することもある。
【0068】
本実施形態では、成膜工程に入る前に、イオン銃38をアイドル運転状態としておく。また、蒸発源34、36も、シャッタ34a、36aの開動作によって直ちに第1成膜材料及び第2成膜材料を拡散(放出)できるように準備しておく。
【0069】
(4)次に、コントローラ52は、イオン銃38の照射電力(パワー)をアイドル状態から所定の照射電力に増大させ、シャッタ38aを開くとともに、シャッタ34aを開き、第1成膜材料のイオンビームアシスト蒸着(IAD)を行う。このとき、ニュートラライザ5の作動も開始する。すなわち、基板101の成膜面に対し、蒸発源34から第1成膜材料を飛散させる工程と、イオン銃38から引き出される導入ガス(ここでは酸素)のイオンビームを照射する工程と、電子を照射する工程とが並行して行われる(第1の成膜処理)。
【0070】
イオンビームのアシスト条件は、以下の通りである。イオン銃38へ導入するガス種としては、例えば、酸素、アルゴン又は酸素とアルゴンの混合ガスとすることが好ましい。イオン銃38への上記ガス種の導入量は、例えば1〜100sccm、好ましくは5〜50sccmである。「sccm」とは、「standard cc/m」の略で、0℃、101.3kPa(1気圧)におけるものを示す。
【0071】
イオンの加速電圧(V1)は、例えば100〜2000V、好ましくは200〜1500Vである。イオンの電流密度(I1)は、例えば1〜120μA/cm、好ましくは5〜50μA/cmである。
【0072】
イオン照射の時間(T1)は、例えば1〜800秒、好ましくは10〜100秒である。I1とT1の積を電子素電荷e(=1.602×10−19C)で除した(=(I1×T1)/e)は、照射するイオンの照射個数を示すが、本実施形態では、このイオンの照射個数が、例えば1×1013〜5×1017個/cm、好ましくは5×1013〜5×1014個/cmとなる範囲で、イオンビームを照射することができる。
【0073】
なお、例えば照射電力密度を大きくする場合には照射時間(T1)を短くし、反対に照射電力密度を小さくする場合には照射時間(T1)を長くすることによって、照射エネルギー密度(=V1×I1×T1)を制御することもできる。
【0074】
ニュートラライザ5の作動条件は、以下の通りである。ニュートラライザ5へ導入するガス種としては、例えばアルゴンである。上記ガス種の導入量は、例えば10〜100sccm、好ましくは30〜50sccmである。電子の加速電圧は、例えば20〜80V、好ましくは30〜70Vである。電子電流は、イオン電流以上の電流が供給されるような電流であればよい。
【0075】
第1の膜103は、まず成膜初期段階で、基板101上に三次元的な核が形成され、次に、それらが成膜量(蒸着量)の増加とともに成長して合体し、やがては連続的な膜に成長する(島成長)。
【0076】
このようにして、基板101の表面にはSiOからなる第1の膜103が、所定厚みで形成される。コントローラ52は、基板101の上に形成される薄膜の膜厚を水晶モニタ50により監視し続け、所定の膜厚になると成膜を停止する。
【0077】
(5)次に、コントローラ52は、成膜を停止する際にシャッタ34aのみを閉じるとともに、シャッタ38aを開いた状態に保持する。この状態で、コントローラ52は、イオン銃38の照射電力を所定の照射電力に変更して、イオンビームの照射を継続させる。この工程は、第1の照射処理(後照射)の一例である。本実施形態では、基板101の表面に形成された第1の膜103に対して、後照射を行うことが特徴である。
【0078】
後照射を行うことで、第1の膜103の表面部分が削り取られ、その結果、第1の膜103の表面に適切な凹部が付与される。
【0079】
後照射の条件は、以下の通りである。イオン銃38へ導入するガス種としては、少なくともアルゴン又は酸素を含んでいればよく、アルゴンと酸素との混合ガスであってもよいが、好ましくは少なくともアルゴンを含む。上記ガス種の導入量(混合ガスである場合には合計導入量)は、例えば10〜100sccm、好ましくは20〜70sccmである。
【0080】
イオンの加速電圧(V2)は、例えば100〜2000V、好ましくは200〜1500Vである。イオンの電流密度(I2)は、例えば1〜120μA/cm、好ましくは5〜50μA/cmである。
【0081】
イオン照射の時間(T2)は、例えば1〜800秒、好ましくは10〜100秒である。I2とT2の積を電子素電荷e(=1.602×10−19C)で除した(=(I2×T2)/e)は、照射するイオンの照射個数を示すが、このイオンの照射個数が、例えば1×1013〜5×1017個/cm、好ましくは1×1013〜1×1017個/cm、より好ましくは1×1014〜1×1016個/cmとなる範囲で、イオンビームを照射することができる。
なお、例えば照射電力密度を大きくする場合には照射時間(T2)を短くし、反対に照射電力密度を小さくする場合には照射時間(T2)を長くすることによって、照射エネルギー密度(=V2×I2×T2)を制御することもできる。
【0082】
(6)次に、コントローラ52は、イオン銃38の照射電力をアイドル状態に戻し、シャッタ38aを閉じるとともに、シャッタ36aを開き、撥油性膜の形成原料としての第2成膜材料の抵抗加熱方式による真空蒸着を行う。すなわち、第1の膜103の後照射面に対し、蒸発源36から第2成膜材料を例えば3〜20分の間、飛散させ、成膜処理を行う(第2の成膜処理)。
【0083】
その結果、後照射後の第1の膜103には、撥油性膜105が、所定厚み(例えば1〜50nm)で形成される。コントローラ52は、第1の膜103の上に形成される薄膜の膜厚を水晶モニタ50により監視し続け、所定の膜厚になると蒸着を停止する。以上の工程を経ることで、図1に示す撥油性基材100が製造される。
【0084】
本実施形態に係る成膜装置1を用いた成膜方法によれば、撥油性膜105の成膜に先立ち、基板101の表面に形成された第1の膜103に対し、エネルギー粒子の一例としての、導入ガスのイオンビームを照射する(後照射)。このため、イオンビーム照射後の第1の膜103の表面に適切な凹部が形成される。従って、その後に成膜される、撥油性膜105の構成成分である撥油分子を、第1の膜103の凹部にも付着させることができる。撥油性膜105の構成成分を第1の膜103の凹部に付着させることで、撥油性膜105の表面に付着した指紋などの油分を重い荷重(例えば1kg/cm程度の荷重)で拭き取ったとしても、最表面に撥油性膜105の構成成分を効果的に残存させることができる。すなわち本実施形態によれば、実用に耐えうる耐摩耗性を備えた撥油性膜105を形成することが可能となる。
【0085】
なお、本実施形態では、基板101上に、第1の膜103として、SiO薄膜のみ(すなわち単層)を形成する場合を例示しているが、このSiO薄膜とともに、例えばSi薄膜やZrO薄膜などの他の薄膜を積層する(すなわち多層で形成する)こともできる。換言すると、本実施形態の第1の膜103は、単層で形成してもよいし、多層で構成することもできる。また、基板101上に形成される第1の膜103として、SiO薄膜に代え、例えばSi薄膜やZrO薄膜などの他の薄膜を形成してもよい(単層)。いずれにしても、これらの場合、蒸着源34に充填する第1成膜材料の材質や形態を適宜変更すればよい。
また、本実施形態では、第1の成膜処理に先立ち、基板101の表面処理を行うこともできる。具体的には、1)酸素又はアルゴン雰囲気下におけるプラズマ処理、2)酸・アルカリによる薬品処理、3)イオン銃38によるエネルギーを持つ粒子の照射処理(第2の照射処理。前照射)、などを挙げることができる。これらのうちで、第2の照射処理(前照射)が望ましい。第1の成膜処理に先立って基板101に対し第2の照射処理(前照射)を行う場合、コントローラ52は、イオン銃38の照射電力(パワー)をアイドル状態から所定の照射電力に増大させ、シャッタ38aを開き、回転途中の、第1の成膜処理前の基板101の表面にイオンビームを照射すればよい。基板101に成膜される第1の膜103への後照射を行う前に、基板101に対し前照射を行うことで、第1の膜103の表面に、より適切な凹部を付与することができる。
前照射の条件は、上述した後照射と同一条件であってもよいが、異なる条件とすることもできる。
【0086】
例えば、前照射の条件は、以下の通りである。イオン銃38へ導入するガス種としては、少なくともアルゴン又は酸素を含んでいればよく、アルゴンと酸素との混合ガスであってもよいが、好ましくはアルゴンと酸素との混合ガスである。上記ガス種の導入量(混合ガスである場合には合計導入量)は、例えば10〜100sccm、好ましくは20〜70sccmである。
【0087】
イオンの加速電圧(V3)は、例えば100〜2000V、好ましくは200〜1500Vである。イオンの電流密度(I3)は、例えば1〜120μA/cm、好ましくは5〜50μA/cmである。
【0088】
イオン照射の時間(T3)は、例えば60〜1200秒、好ましくは120〜900秒、より好ましくは180〜720秒である。I3とT3の積を上述した電子素電荷e(=1.602×10−19C)で除した(=(I3×T3)/e)は、照射するイオンの照射個数を示すが、本実施形態では、このイオンの照射個数が、例えば5×1014〜5×1017個/cm、好ましくは1×1015〜1×1017個/cm、より好ましくは1×1016〜1×1017個/cmとなる範囲で、イオンビームを照射することが好ましい。
【0089】
なお、例えば照射電力密度を大きくする場合には照射時間(T3)を短くし、反対に照射電力密度を小さくする場合には照射時間(T3)を長くすることによって、照射エネルギー密度(=V3×I3×T3)を制御することもできる。
【0090】
また、上記(4)のイオンビームによるイオンアシスト蒸着の条件によっては、上記(5)の後照射を施す前に第1の膜103の表面が凹凸を含むこともある。この場合、上記(5)の後照射によって、第1の膜103に既に含まれる凹部から先に削り取られ、基板101が露出することもある。本実施形態では、後照射によって、基板101の一部が露出するような態様も含む。
【0091】
《第3実施形態》
本実施形態では、図1の撥油性基材100を製造可能な成膜装置の他の例を説明する。なお、第2実施形態と同一の部材には同一の符号を付してその説明を省略する。
【0092】
図3に示すように、本実施形態の成膜装置1aは、真空容器2を含む 真空容器2の内部の上方には、回転ドラム4が垂直軸に直交する軸回りに回転可能に保持されている。基板保持機構としての回転ドラム4は、成膜対象である基板101を真空容器2の内部で保持するための筒状の部材である。
【0093】
図4に示すように、回転ドラム4は、複数の基板ホルダ4aと、フレーム4bと、基板ホルダ4a及びフレーム4bを締結する締結具4cとを含む。
【0094】
基板ホルダ4aは、基板101を保持するための複数の基板保持孔を基板ホルダ4aの長手方向に沿って板面中央部に一列に備えている。基板101は、基板ホルダ4aの基板保持孔に収納され、脱落しないようにネジ部材等を用いて基板ホルダ4aに固定される。また、基板ホルダ4aの長手方向(Z方向)の両端部には、締結具4cを挿通可能なネジ穴が板面に設けられている。
【0095】
フレーム4bは、上下(X方向)に配設された2つの環状部材で構成されている。各環状部材には、基板ホルダ4aのネジ穴と対応する位置にネジ穴が設けられている。基板ホルダ4aとフレーム4bは、例えばボルト及びナットからなる締結具4cを用いて固定される。
【0096】
回転ドラム4は、真空容器2の内部と、扉を介して真空容器2に接続されたロードロック室との間を移動できるように構成されている。回転ドラム4は、円筒の筒方向(Z方向)の中心軸線Z1が真空容器2の前後方向(Z方向)になるように真空容器2の内部に配設される。
【0097】
回転ドラム4は、基板ホルダ4aをフレーム4bに取り付ける際やフレーム4bから取り外す際にはロードロック室に搬送され、このロードロック室内で基板ホルダ4aがフレーム4bに着脱される。一方、回転ドラム4は、成膜の際には真空容器2内部に搬送され、真空容器2内で回転可能な状態とされる。
【0098】
回転ドラム4の後面中心部は、モータ回転軸40aの前面と係合する形状になっている。回転ドラム4とモータ回転軸40aとは、モータ回転軸40aの中心軸線と回転ドラム4の中心軸線Z1とが一致するよう位置決めされ、両者が係合することにより連結されている。回転ドラム4後面のモータ回転軸40aと係合する面は、絶縁部材で構成されている。これにより、基板101の異常放電を防止することが可能となる。また、真空容器2とモータ回転軸40aとの間は、Oリングで気密が保たれている。
【0099】
真空容器2の内部の真空状態を維持した状態で、真空容器2の後部に設けられたモータ40を駆動させることで、モータ回転軸40aが回転する。この回転に伴って、モータ回転軸40aに連結された回転ドラム4は軸線Z1を中心に回転する。各基板101は回転ドラム4上に保持されているため、回転ドラム4が回転することで軸線Z1を公転軸として公転する。
【0100】
回転ドラム4の前面にはドラム回転軸42が設けられており、回転ドラム4の回転に伴ってドラム回転軸42も回転する。真空容器2の前壁面(Z方向)には孔部が形成されており、ドラム回転軸42はこの孔部を貫通して真空容器2の外部に通じている。孔部の内面には軸受が設けられており、回転ドラム4の回転をスムーズに行えるようにしている。真空容器2とドラム回転軸42との間は、Oリングで気密が保たれている。
【0101】
《スパッタ領域、スパッタ手段》
図3に戻り、真空容器2の鉛直方向(X方向)の測方には、回転ドラム4へ面した位置に仕切壁12が立設されている。仕切壁12は、真空容器2と同じステンレススチール製の部材である。仕切壁12は、上下左右に一つずつ配設された平板部材により構成されており、真空容器2の内壁面から回転ドラム4に向けて四方を囲んだ状態となっている。これにより、スパッタ領域80Aが真空容器2の内部で区画される。
【0102】
真空容器2の側壁は、外方に突出した横断面凸状をしており、突出した壁面にはスパッタ手段80が設けられている。
【0103】
スパッタ領域80Aは、真空容器2の内壁面と、仕切壁12と、回転ドラム4の外周面と、スパッタ手段80により囲繞された領域に形成されている。スパッタ領域80Aでは、基板101の表面に膜原料物質を付着させるスパッタ処理が行われる。
【0104】
図5に示すように、スパッタ手段80は、一対のターゲット82a,82bと、ターゲット82a,82bを保持する一対のスパッタ電極81a,81bと、スパッタ電極81a,81bに電力を供給する交流電源84と、交流電源84からの電力量を調整する電力制御手段としてのトランス83により構成される。
【0105】
真空容器2の壁面は外方に突出しており、この突出部の内壁にスパッタ電極81a,81bが側壁を貫通した状態で配設されている。このスパッタ電極81a,81bは、接地電位にある真空容器2に絶縁部材を介して固定されている。
【0106】
ターゲット82a,82bは、第1成膜材料を平板状に形成したものであり、後述するように回転ドラム4の側面に対向するようにスパッタ電極81a,81bにそれぞれ保持される。本実施形態では、ターゲット82a,82bとして、酸化、窒化、酸窒化させることで、基板101の硬度よりも高い硬度を持つ材料、例えば金属ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)、ジルコニウム(Zr)などが用いられる。本実施形態では、Siターゲットを用いる場合を例示する。
【0107】
スパッタ電極81a,81bは、複数の磁石が所定の方向に配置された構造を有している。スパッタ電極81a,81bは、トランス83を介して交流電源84に接続され、両電極に1k〜100kHzの交番電界が印加できるように構成されている。スパッタ電極81a,81bには、ターゲット82a,82bがそれぞれ保持されている。ターゲット82a,82bの形状は平板状であり、図2に示されるように、ターゲット82a,82bの長手方向が回転ドラム4の回転軸線Z1と平行になるように設置されている。
【0108】
スパッタ領域80Aの周辺にはアルゴン等のスパッタガスを供給するスパッタガス供給手段90が設けられている。スパッタガス供給手段90は、スパッタガス貯蔵手段としてのスパッタガスボンベ92と、スパッタガス供給路としての配管95a及び配管95cと、スパッタガスの流量を調整するスパッタガス流量調整手段としてのマスフローコントローラ91とを備えている。
【0109】
スパッタガスとしては、例えばアルゴンやヘリウム等の不活性ガスが挙げられる。
【0110】
スパッタガスボンベ92とマスフローコントローラ91は、いずれも真空容器2の外部に設けられている。マスフローコントローラ91は、スパッタガスを貯蔵する単一のスパッタガスボンベ92に配管95cを介して接続されている。マスフローコントローラ91は、配管95aに接続されており、配管95aの一端は真空容器2の側壁を貫通してスパッタ領域80A内のターゲット82a,82bの近傍に延びている。
【0111】
配管95aの先端部は、ターゲット82a,82bの下部中心付近に配設され、その先端にはターゲット82a,82bの前面中心方向に向けて導入口95bが開口している。
【0112】
マスフローコントローラ91は、ガスの流量を調節する装置であり、スパッタガスボンベ92からのガスが流入する流入口と、スパッタガスを配管95aへ流出させる流出口と、ガスの質量流量を検出するセンサと、ガスの流量を調整するコントロールバルブと、流入口より流入したガスの質量流量を検出するセンサと、センサにより検出された流量に基づいてコントロールバルブの制御を行う電子回路とを備えている。電子回路には、外部から所望の流量を設定することが可能となっている。
【0113】
スパッタガスボンベ92からのスパッタガスは、マスフローコントローラ91により流量を調節されて配管95a内に導入される。配管95aに流入したスパッタガスは、導入口95bよりスパッタ領域80Aに配置されたターゲット82a,82bの前面に導入される。
【0114】
スパッタ領域80Aにスパッタガス供給手段90からスパッタガスが供給されて、ターゲット82a,82bの周辺が不活性ガス雰囲気になった状態で、スパッタ電極81a,81bに交流電源84から交番電極が印加されると、ターゲット82a,82b周辺のスパッタガスの一部は電子を放出してイオン化する。スパッタ電極81a,81bに配置された磁石によりターゲット82a,82bの表面に漏洩磁界が形成されるため、この電子はターゲット82a,82bの表面近傍に発生した磁界中を、トロイダル曲線を描きながら周回する。この電子の軌道に沿って強いプラズマが発生し、このプラズマに向けてスパッタガスのイオンが加速され、ターゲット82a,82bに衝突することでターゲット82a,82bの表面の原子や粒子(ターゲット82a,82bがSiの場合はSi原子やSi粒子)が叩き出される。叩き出されたSi原子やSi粒子は、基板101の表面に付着して超薄膜が形成される。
【0115】
《プラズマ処理領域、プラズマ発生手段》
図3に戻り、真空容器2の鉛直方向(X方向)に配置される上内壁には、回転ドラム4へ面した位置に、仕切壁14が立設されている。仕切壁14は、例えば真空容器2と同じ構成部材であるステンレススチールなどで構成される。仕切壁14は、上下左右に一つずつ配設された平板部材により構成されており、真空容器2の上内壁面から回転ドラム4に向けて四方を囲んだ状態となっている。これにより、プラズマ処理領域60Aが真空容器2の内部で区画される。このように本実施形態では、回転ドラム4を挟んで、蒸着処理領域30Aとは反対の方向(真空チャンバ2の鉛直方向の上方。略180°の方向)で、かつスパッタ領域80Aとは略90°隔て、蒸着処理領域30A及びスパッタ領域80Aの何れとも空間的に分離された位置に、プラズマ処理領域60Aが設けられている。
【0116】
真空容器2の上内壁は、外方(上方)に突出した横断面凸状をしており、突出した壁面には、プラズマ処理領域60Aに面するようにプラズマ発生手段60が設けられている。
【0117】
プラズマ処理領域60Aは、真空容器2の内壁面と、仕切壁14と、回転ドラム4の外周面と、プラズマ発生手段60により囲繞された領域に形成されており、スパッタ領域80Aで基板101の表面に付着した超薄膜を反応処理して、Siの化合物又は不完全化合物からなる薄膜の形成を行う。
【0118】
図6に示すように、プラズマ処理領域60Aに対応する真空容器2の上壁面には、プラズマ発生手段60を設置するための開口2aが形成されている。また、プラズマ処理領域60Aには配管75aが接続されている。配管75aの一端にはマスフローコントローラ72が接続されており、このマスフローコントローラ72は更に反応性ガスボンベ71に接続されている。このため、プラズマ処理領域60A内に反応性ガスボンベ71から反応性ガスを供給することが可能となっている。
【0119】
プラズマ発生手段60は、ケース体61と、誘電体板62と、アンテナ63と、マッチングボックス64と、高周波電源65とを備える。
【0120】
ケース体61は、真空容器2の壁面に形成された開口2aを塞ぐ形状を備え、ボルトで真空容器2の開口2aを塞ぐように固定されている。ケース体61が真空容器2の壁面に固定されることで、プラズマ発生手段60は真空容器2の壁面に取り付けられている。ケース体61はステンレスで形成されている。
【0121】
誘電体板62は、板状の誘電体で形成されている。本実施形態において、誘電体板62は石英で形成されているが、誘電体板62の材質としてはこのような石英だけではなく、Al等のセラミックス材料で形成されたものでもよい。誘電体板62は、固定枠でケース体61に固定されている。誘電体板62がケース体61に固定されることで、ケース体61と誘電体板62によって囲繞された領域にアンテナ収容室61Aが形成される。
【0122】
ケース体61に固定された誘電体板62は、開口2aを介して真空容器2の内部(プラズマ処理領域60A)に臨んで設けられている。このとき、アンテナ収容室61Aは、真空容器2の内部と分離している。すなわち、アンテナ収容室61Aと真空容器2の内部とは、誘電体板62で仕切られた状態で独立した空間を形成している。また、アンテナ収容室61Aと真空容器2の外部は、ケース体61で仕切られた状態で独立の空間を形成している。本実施形態では、このように独立の空間として形成されたアンテナ収容室61Aの中に、アンテナ63が設置されている。なお、アンテナ収容室61Aと真空容器2の内部、アンテナ収容室61Aと真空容器2の外部との間は、それぞれOリングで気密が保たれている。
【0123】
本実施形態では、配管16a−1から配管16a−2が分岐している。この配管16a−2はアンテナ収容室61Aに接続されており、アンテナ収容室61Aの内部を排気して真空状態にする際の排気管としての役割を備えている。
【0124】
配管16a−1には、真空ポンプ15aから真空容器2の内部に連通する位置にバルブV1、V2が設けられている。また、配管16a−2には、真空ポンプ15aからアンテナ収容室61Aの内部に連通する位置にバルブV3が設けられている。バルブV2,V3のいずれかを閉じることで、アンテナ収容室61Aの内部と真空容器2の内部との間での気体の移動は阻止される。真空容器2の内部の圧力や、アンテナ収容室61Aの内部の圧力は、真空計で測定される。
【0125】
本実施形態の成膜装置1a(図3参照)に制御装置を備えている。この制御装置には、真空計の出力が入力される。制御装置は、入力された真空計の測定値に基づいて、真空ポンプ15aによる排気を制御して、真空容器2の内部やアンテナ収容室61Aの内部の真空度を調整する機能を備える。本実施形態では、制御装置がバルブV1,V2,V3の開閉を制御することで、真空容器2の内部とアンテナ収容室61Aの内部を同時に、又は独立して排気できる。
【0126】
本実施形態では、真空ポンプ15aを適切に制御することで、スパッタ領域80Aでの成膜雰囲気を安定化することができる。
【0127】
アンテナ63は、高周波電源65から電力の供給を受けて真空容器2の内部(プラズマ処理領域60A)に誘導電界を発生させ、プラズマ処理領域60Aにプラズマを発生させる手段である。アンテナ63は、銅で形成された円管状の本体部と、本体部の表面を被覆する銀で形成された被覆層を備えている。すなわち、アンテナ63の本体部を安価で加工が容易な、しかも電気抵抗も低い銅で円管状に形成し、アンテナ63の表面を銅よりも電気抵抗の低い銀で被覆している。これにより、高周波に対するアンテナ63のインピーダンスを低減して、アンテナ63に電流を効率よく流すことによりプラズマを発生させる効率を高めている。
【0128】
本実施形態の成膜装置1a(図3参照)では、高周波電源65からアンテナ63に周波数1〜27MHzの交流電圧を印加して、プラズマ処理領域60Aに反応性ガスのプラズマを発生させるように構成されている。
【0129】
アンテナ63は、マッチング回路を収容するマッチングボックス64を介して高周波電源65に接続されている。マッチングボックス64内には、図示しない可変コンデンサが設けられている。
【0130】
アンテナ63は、導線部を介してマッチングボックス64に接続されている。導線部はアンテナ63と同様の素材からなる。ケース体61には、導線部を挿通するための挿通孔が形成されており、アンテナ収容室61A内側のアンテナ63と、アンテナ収容室61A外側のマッチングボックス64とは、挿通孔に挿通される導線部を介して接続される。導線部と挿通孔との間にはシール部材が設けられ、アンテナ収容室61Aの内外で気密が保たれる。
【0131】
アンテナ63と回転ドラム4との間には、イオン消滅手段としてのグリッド66が設けられていてもよい。グリッド66は、アンテナ63で発生したイオンの一部や電子の一部を消滅させるためのものである。グリッド66は、導電体からなる中空部材であり、アースされている。中空部材からなるグリッド66の内部に冷却媒(例えば冷却水)を流すために、グリッド66の端部には冷却媒を供給するホースが接続されている。
【0132】
また、プラズマ処理領域60Aの内部及びその周辺には、反応性ガス供給手段70が設けられている。本実施形態の反応性ガス供給手段70は、反応性ガス(例えば酸素ガス、窒素ガス、フッ素ガス、オゾンガスなど)を貯蔵する反応性ガスボンベ71と、反応性ガスボンベ71より供給される反応性ガスの流量を調整するマスフローコントローラ72と、反応性ガスをプラズマ処理領域60Aに導入する配管75aとを備えている。
【0133】
モータ40(図4参照)によって回転ドラム4が回転すると、回転ドラム4の外周面に保持された基板101が公転して、スパッタ領域80Aに面する位置とプラズマ処理領域60Aに面する位置との間を繰り返し移動することになる。そして、このように基板101が公転することで、スパッタ領域80Aでのスパッタ処理と、プラズマ処理領域60Aでのプラズマ処理とが順次繰り返し行われて、基板101の表面に薄膜(第1の膜103)が形成される。特に、反応性ガスボンベ71から配管75aを通じて反応性ガスがプラズマ処理領域60Aに導入された状態で、アンテナ63に高周波電源65から電力が供給されると、プラズマ処理領域60A内のアンテナ63に面した領域にプラズマが発生し、基板101の表面に形成された第1成膜材料が緻密化されて十分な特性を持つ薄膜(第1の膜103)となる。
【0134】
《蒸着処理領域、蒸着源、イオン銃》
図3に戻り、真空容器2の鉛直方向(X方向)の下方には、蒸着処理領域30Aが設けられている。蒸着処理領域30Aは、基板101の表面に形成された第1の膜103の表面に、蒸着法により撥油性膜105を形成する領域である。
【0135】
蒸着処理領域30Aの下方(真空チャンバ2の内底壁)には、抵抗加熱方式の蒸着源36が設けられている。蒸発源36の構成は、第2実施形態と同様であるので、その説明を省略する。
【0136】
真空容器2の内底壁には、排気用の配管23が接続されており、この配管23には蒸着源36付近を排気するための真空ポンプ24が接続されている。真空ポンプ24とコントローラ(図示省略)により真空容器2内の真空度を調節することができるようになっている。
【0137】
真空容器2の測方(Z方向)には、扉3が設けられており、扉3はスライド又は回動することで開閉する。扉3の外側には、別途、ロードロック室が接続されていてもよい。
【0138】
本実施形態では、真空容器2の鉛直方向(X方向)の下方には、さらにイオン銃38が配設されている。イオン銃38の構成は、第2実施形態と同様であるので、その説明を省略する。
【0139】
次に、成膜装置1aを用いた成膜方法の一例を説明する。
本実施形態では、ターゲット82a,82bとして、第1成膜材料としての金属ケイ素(Si)を用い、蒸発源36のボートに撥油性膜の形成原料としての第2成膜材料を入れる場合を例示する。また、反応性ガスとして、窒素ガスを用いる場合を例示する。
本実施形態では、スパッタリング法により第1の膜103を成膜した後、この第1の膜103に対しイオン銃によるイオンビームにより第1の照射処理(後照射)を行い、さらに抵抗加熱方式の真空蒸着法により撥油性膜105を成膜する場合を例示する。
【0140】
なお、スパッタリング法による第1の膜103の成膜は、例えば、目的の膜厚よりも相当程度薄い薄膜を基板101の表面に付着するスパッタ工程と、この薄膜に対して窒化処理を行って薄膜の組成を変換する反応工程とにより基板101の表面に中間薄膜を形成し、このスパッタ工程と反応工程を複数回繰り返すことで、中間薄膜を複数層積層して目的の膜厚を有する最終薄膜としての第1の膜103を基板101の表面に形成するものである。具体的には、スパッタ工程と反応工程によって組成変換後における膜厚の平均値が0.01〜1.5nm程度の中間薄膜を基板101の表面に形成する工程を繰り返すことにより、目的とする数nm〜数百nm程度の膜厚を有する最終薄膜としての第1の膜103を形成する。
【0141】
(1)まず、真空容器2の外で回転ドラム4に基板101をセットし、真空容器2のロードロック室内に収容した。基板101は、セット前あるいはセット後に、湿式洗浄しておくことが好ましい。
【0142】
次に、レールに沿って回転ドラム4を真空容器2の内部に移動させる。これととともに、スパッタ領域80Aにおけるターゲット82a,82bを各スパッタ電極81a,81bに保持させる。そして、真空容器2内を密閉し、真空ポンプ15aを用いて真空容器2内を所定圧力にまで減圧する。
【0143】
(2)次に、真空容器2の後部に設けられたモータ40を駆動させることにより回転ドラム4の回転を開始させる。回転ドラム4の回転速度(RS)は、例えば25rpm以上、好ましくは30rpm以上、より好ましくは50rpm以上で選択される。RSの値を小さくしすぎると、1枚の基板101に対するスパッタ時間が長くなり、その結果、基板101に形成される薄膜の膜厚が厚くなって、プラズマ処理領域60Aでのプラズマ処理を十分に行うことができない傾向がある。これに対し、RSの値を大きく過ぎると、1枚の基板101に対するスパッタ時間が短くなり、各基板101上に堆積する粒子数が少なくなって薄膜の膜厚が薄くなり過ぎ、作業効率に影響を与えるおそれもある。このため、RSの上限は、好ましくは250rpm、より好ましくは200rpm、さらに好ましくは100rpmである。
【0144】
(3)次に、スパッタ領域80A内にスパッタガス供給手段90からアルゴンガスを導入した状態で、交流電源84からスパッタ電極81a,81bに電力を供給して、ターゲット82a,82bをスパッタする。アルゴンガスの流量は、250〜1000sccm程度の範囲内で適切な流量を設定する。この状態で、回転ドラム4を回転させて基板101をスパッタ領域80Aに搬送し、基板101の表面に金属ケイ素(Si)の堆積物(超薄膜)を形成する。このとき、基板101を加熱することを要しない(室温)。ただし、例えば220℃以下程度、好ましくは150℃以下、より好ましくは100℃以下、さらに好ましくは80℃以下であって、好ましくは50℃以上程度の低温であれば、基板101を加熱してもよい。
【0145】
(4)次に、プラズマ処理領域60Aの内部に反応性ガス供給手段70から窒素ガスを導入した状態で、高周波電源65からアンテナ63に交流電圧を印加して、プラズマ処理領域60Aの内部に窒素ガスのプラズマを発生させる。この状態で、回転ドラム4を回転させ、基板101をプラズマ処理領域60Aに搬送する。プラズマ処理領域60Aの内部では、窒素ガスのプラズマが発生しているため、基板101の表面に付着した3モルの金属ケイ素Siは、2モルの窒素ガスと反応して中間薄膜である1モルの窒化ケイ素(Si)となる。なお、本工程でも特に基板101を加熱することを要しない(室温)。
【0146】
本工程の時間は、例えば1〜60分程度の範囲内で適切な時間とする。窒素ガスの流量についても同様に、70〜500sccm程度、高周波電源65から供給される電力も、1.0〜5.0kWの範囲内で適宜決定する。プラズマ処理領域60Aに導入される窒素ガスの圧力(成膜圧力)は、0.3〜0.6Pa程度が好ましい。窒素ガスの流量はマスフローコントローラ72で、高周波電源65から供給される電力はマッチングボックス64で調整することができる。
【0147】
本実施形態では、回転ドラム4を連続して回転させて、スパッタ処理とプラズマ処理を順次繰り返すことで中間薄膜を複数積層し、所望の厚さのSi薄膜からなる第1の膜103を形成する(第1の成膜処理)。
【0148】
なお、本実施形態では、第1の成膜処理に先立ち、上記(4)のプラズマ処理による前処理を基板101に対して施しておくことも好ましい。この前処理は、例えば1〜10分程度の短時間でよい。
【0149】
(5)次に、スパッタ領域80Aとプラズマ処理領域60Aの作動を停止した後、イオン銃38の照射電力(パワー)をアイドル状態から所定の照射電力に増大させ、シャッタ38aを開き、第1の膜13に対してイオンビームの照射を開始する。この工程は、第1の照射処理(後照射)の一例である。本実施形態でも基板101の表面に形成された第1の膜103に対して、後照射を行うことが特徴である。後照射は、第2実施形態と同様の条件で照射することができる。
【0150】
(6)次に、イオン銃38の照射電力をアイドル状態に戻し、シャッタ38aを閉じるとともに、シャッタ36aを開き、蒸着プロセス領域30Aを作動させる。具体的には、坩堝(ボート)36bに充填してある撥油性膜の形成原料としての第2成膜材料を加熱する。そして、真空容器2内を密閉し、真空ポンプ15aを用いて真空容器2内を所定圧力にまで減圧する。
【0151】
(7)次に、上記(2)と同様に、真空容器2の後部に設けられたモータ40を駆動させることにより回転ドラム4の回転を開始させる。回転ドラム4の回転速度(RS)は、上記(2)と同様の条件で回転させる。
【0152】
シャッタ36aが開放されると、加熱された第2成膜材料は、蒸着プロセス領域30Aに拡散し、その一部が、回転中の回転ドラム4に保持された基板101の、後照射後の第1の膜103の表面に付着し、所定厚みの膜形成が行われる(第2の成膜処理)。本実施形態では、第2成膜材料の成膜レートは、例えば0.1nm/秒以上、好ましくは0.2〜0.4nm/秒である。
【0153】
その結果、後照射後の第1の膜103には、撥油性膜105が、所定厚みで形成される。以上の工程を経ることで、図1に示す撥油性基材100が製造される。
【0154】
本実施形態に係る成膜装置1aを用いた成膜方法によっても、第2実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0155】
なお、本実施形態では、基板101上に、第1の膜103としてSi薄膜のみを形成する場合を例示しているが、このSi薄膜とともに、例えばSiO薄膜やAl薄膜などの他の薄膜を積層することもできる。この場合、スパッタ領域80Aに設置されるスパッタ手段80のターゲット82a,82bの材質を適宜変更すればよい。また、基板101上に形成される第1の膜103として、Si薄膜に代え、例えばSiO薄膜やAl薄膜などの他の薄膜を形成してもよい。この場合、ターゲット82a,82bの材質を例えばAl、Zr、Crなどの各種金属あるいは複数種類の金属に適宜変更したり、反応性ガスの種類を例えば酸素ガス、フッ素ガス、オゾンガスなどに変更すればよい。
【0156】
また、本実施形態では、第1の成膜処理に先立ち、基板101に対し、第2実施形態と同様の、第2の照射処理(前照射)を行うこともできる。前照射には、上記(4)のプラズマ処理も含まれる。
【0157】
なお、本実施形態では、真空容器2の鉛直方向の下方にイオン銃38が配設する場合を例示したが、このイオン銃38は必ずしも設置することを要しない。この場合、基板保持機構としての回転ドラム4に、積極的に、バイアス電圧を印加する機構を設置することが好ましい。回転ドラム4にバイアス電圧が印加されると、このバイアス電圧によって、プラズマ発生手段60の熱プラズマ中のイオンに指向性が付与される。指向性が付与されたイオンが適切な条件で、上述した(3)及び(4)で形成される第1の膜103の表面に衝突すると、当該第1の膜103に適切な凹凸が付与される。
【実施例】
【0158】
次に、上記発明の実施形態をより具体化した実施例を挙げ、発明をさらに詳細に説明する。
【0159】
《実施例1》
本例では、イオンビームアシスト蒸着を行う構成の図2に示す成膜装置1を準備し、表1に示す条件で成膜して撥油性基材サンプルを得た。
【0160】
なお、基板101には、鉛筆硬度が6Hのガラス基板を用いた。ここでの「硬度」は、JIS−K5600−5−4に準拠した方法で測定された鉛筆硬度の値である。
基板101は、成膜前に湿式洗浄した。
第1成膜材料としてSiOを用いるとともに、実験例1−1,1−2についてのみ、この第1成膜材料のイオンビームアシスト蒸着(第1の成膜処理)に先立ち、基板101の表面にイオン銃38を用いたイオンクリーニングを所定時間(10分間と5分間)行った(前照射。イオンの照射個数:10分の場合、1.1×1017個/cm、5分の場合、5.6×1016個/cm。)。
イオンクリーニングの条件は、加速電圧:1000V、電流:30μA/cm、導入ガス種及び導入量:(30sccmのO+20sccmのAr)とした。
第1の成膜処理の際の基板温度は150℃とした。実験例2を除いたニュートラライザの作動条件は、加速電圧:30〜70V、電子電流:1A、導入ガス種:(O+Ar)、該ガスの導入量:50sccmとした。第1の照射処理(後照射)前後のSiO薄膜の硬度は、上記方法で測定した鉛筆硬度値である。後照射後のSiO薄膜の「中心線平均粗さ(Ra)」、「十点平均高さ(Rz)」及び「最大谷深さ(Pv)」は、JIS−B0601に準拠して測定した値である。後照射後のSiO薄膜の「凸部周期」は、原子間力顕微鏡(AFM)(セイコー電子工業社製の商品名「SPI−3700」)により測定した値である。第2成膜材料として、キャノンオプトロン社製の撥油剤(商品名:OF−SR、成分名:含フッ素有機珪素化合物)を用いた。
【0161】
【表1】

【0162】
《実施例2》
本例では、マグネトロンスパッタを行う構成の図3〜図6に示す成膜装置1aを準備し、表2に示す条件で成膜して撥油性基材サンプルを得た。
【0163】
なお、基板101には、鉛筆硬度が6Hのガラス基板を用いた。ここでの「硬度」は、JIS−K5600−5−4に準拠した方法で測定された鉛筆硬度の値である。
基板101は、成膜前に湿式洗浄した。
ターゲット82a,82bとして、平板状で、材質が金属ケイ素(Si)ターゲットを用いるとともに、第1の成膜処理に先立ち、基板101の表面に、プラズマ処理による前処理を1分間行った。
回転ドラム4の回転速度(RS)は、100rpmとした。第1の成膜処理の際の基板温度は100℃とした。
第1の照射処理(後照射)前後のSi薄膜の硬度は、厚み100nmに換算した際に、上記方法で測定した鉛筆硬度値である。後照射後のSi薄膜のRa、Rz及びPvについては、JIS−B0601に準拠して測定した値である。後照射後のSi薄膜の「凸部周期」については、原子間力顕微鏡(AFM)(セイコー電子工業社製の商品名「SPI−3700」)により測定した値である。第2成膜材料として、キャノンオプトロン社製の撥油剤(商品名:OF−SR、成分名:含フッ素有機珪素化合物)を用いた。
【0164】
【表2】

【0165】
《評価》
得られた撥油性基材サンプルの撥油性膜105の表面に、1cmのスチールウール#0000を載せ、1kg/cmの荷重をかけた状態で、50mmの直線上を1往復1秒の速さで、擦傷試験を行った。この擦傷試験の往復500回毎に、試験面(撥油性膜105面)に、油性マジックペン(有機溶媒型マーカー、商品名:マッキー極細、セブラ社製)で線を描き、油性マジックペンの有機溶媒型インクを乾燥布で拭き取れるか否かを評価した。その結果、有機溶媒型インクを拭き取ることができた最大擦傷往復回数は、上述した表1及び表2に示す通りであった。
【0166】
《考察》
表1より、実験例2及び3のサンプルと比較して、実験例1,実験例1−1及び実験例1−2のサンプルの有用性が確認できた。中でも、第1の成膜処理(イオンビームアシスト)に先立ち、基板101の表面にイオンクリーニング(前照射)を所定時間で施した場合(実験例1−1)、これを施さなかった場合(実験例1)と比較して、最大擦傷往復回数が増加することが確認できた。なお、前照射の時間を10分から5分に短縮した場合、最大擦傷往復回数が減少したが、実験例2及び3と比較すれば、十分な最大擦傷往復回数が得られることが確認できた。
これに対し、エネルギー粒子の照射処理条件を変更させても、実験例1と略同様の評価が得られることも確認できた(実験例2〜7)。
表2より、実験例11のサンプルと比較して、実験例10のサンプルの有用性が確認できた。
【0167】
なお、表1に示すように、実験例1,1−1,1−2,4〜10のサンプルにて、最大擦傷往復回数が500回を超えても、油性マジックペンの有機溶媒型インクを乾燥布で拭き取ることができた理由は、必ずしも明らかではない。思うに、エネルギー粒子の照射処理(後照射)によって、基板101よりも高硬度の第1の膜103(SiO薄膜、Si薄膜)の表面に適度な凹凸が付与される。第1の膜103に付与された凹凸のうち、凸部によって耐擦傷性が担保されるとともに、凹部によってここに撥油性膜105の成分が残存し、これによりサンプル表面の撥油性が担保され、実用に耐えうる耐摩耗性が付与されたものと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の表面にエネルギーを持つ粒子を300〜600秒の照射時間で照射する前照射工程と、
前照射工程後の前記基板の粒子照射面にイオンビームを用いたイオンアシスト蒸着法によって第1の膜を3nm以上の厚みで成膜する第1の成膜工程と、
基板の粒子照射面に成膜された前記第1の膜にエネルギーを持つ粒子を照射することによって、粒子照射後の第1の膜の厚みを0.1〜500nmとし、かつ粒子照射後の第1の膜の表面に下記表面特性を満足する凹凸を形成する後照射工程と、
後照射工程後の前記第1の膜の凹凸面に撥油性を有する第2の膜を成膜する第2の成膜工程とを、有する成膜方法。
中心線平均粗さ(Ra):0.1〜1000nm、十点平均高さ(Rz):5〜2000nm、及び最大谷深さ(Pv):15〜2000nm(ただし、何れの数値もJIS−B0601に準拠して測定された値である。)
【請求項2】
請求項1記載の成膜方法において、後照射工程後の前記第1の膜の表面に存在する凸部の周期が1〜50nmであることを特徴とする成膜方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の成膜方法において、後照射工程で使用するエネルギーを持つ粒子は、電流密度が30μA/cm以下であり、照射時間が20秒以下であることを特徴とする成膜方法。
【請求項4】
請求項3記載の成膜方法において、エネルギーを持つ粒子の電流密度が10μA/cm以上であることを特徴とする成膜方法。
【請求項5】
請求項3又は4記載の成膜方法において、エネルギーを持つ粒子の照射時間が4秒以上であることを特徴とする成膜方法。
【請求項6】
請求項4又は5記載の成膜方法において、エネルギーを持つ粒子の照射個数が7.5×1014個/cm〜3.7×1015個/cmであることを特徴とする成膜方法。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか一項記載の成膜方法において、後照射工程で使用するエネルギーを持つ粒子は、加速電圧が300Vを超え1200V以下であることを特徴とする成膜方法。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか一項記載の成膜方法において、エネルギーを持つ粒子が、少なくともアルゴンを含むイオンビームであることを特徴とする成膜方法。
【請求項9】
請求項8記載の成膜方法において、エネルギーを持つ粒子がアルゴンのイオンビームであることを特徴とする成膜方法。
【請求項10】
請求項1〜9の何れか一項記載の成膜方法において、前照射工程後の前記基板の粒子照射面に成膜される第1の膜は、厚みが1000nm以下である成膜方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−188759(P2012−188759A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−107963(P2012−107963)
【出願日】平成24年5月9日(2012.5.9)
【分割の表示】特願2009−550117(P2009−550117)の分割
【原出願日】平成21年8月24日(2009.8.24)
【出願人】(390007216)株式会社シンクロン (52)
【Fターム(参考)】