説明

成膜装置、成膜方法及び記憶媒体。

【課題】 縦型の処理容器内で加熱された触媒体を用いることにより、低温状態で複数枚の被処理体に対して薄膜を堆積させることが可能な成膜装置を提供する。
【解決手段】 薄膜をCVDにより堆積させる成膜装置において、縦型の処理容器4と、被処理体を多段に保持する被処理体保持手段12と、被処理体を加熱する加熱手段46と、処理容器の側壁に、その外側へ凹部状に突出させて高さ方向に沿って形成した凹部状のノズル収容部34と、ノズル収容部の奥にその高さ方向に沿って設けられて処理容器内へ成膜ガスを供給するガス供給ノズル部30と、ノズル収容部の開口に臨むように設けられて成膜ガスを活性化させるための金属材料よりなる触媒体50と、触媒体を加熱するための触媒用電源58と、ノズル収容部に対向する処理容器側壁に縦長に設けられた排気口36と、装置全体の動作を制御する制御手段70とを備えたことを特徴とする成膜装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエハ等の被処理体に対してCVD(Chemical Vapor Deposition)によって薄膜を堆積させる、いわゆるバッチ式の成膜装置、成膜方法及び上記成膜装置をコンピュータ制御するプログラムを記憶する記憶媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、半導体集積回路を形成するにはシリコン基板等よりなる半導体ウエハに対して成膜処理、エッチング処理、酸化拡散処理、改質処理等の各種の処理が繰り返し行われる。そして、半導体集積回路の更なる高集積化、高微細化等の要請により膜厚も薄膜化することが要求されている。また半導体集積回路の動作速度の高速化も要請されていることから、動作速度に影響を与える層間絶縁膜の低比誘電率化(Low−k化)も要求されている。上記したような層間絶縁膜を含む多くの薄膜は、それ自体、或いはその下地層に熱的ダメージが及ぶことを防止するために、より低温、例えば500℃以下、場合によっては300℃以下の低温で成膜することが要求されてきた。
【0003】
このような要求に応えるべく成膜ガスをプラズマで活性化させて低温状態でウエハ表面に薄膜を形成する試みもなされている(特許文献1)。しかし、上記のようにプラズマを用いた場合には、低温で薄膜が形成できる反面、高エネルギーのプラズマによってウエハ表面が叩かれてしまってプラズマダメージを受ける場合があった。
そこで、最近にあっては、加熱触媒体を用いて成膜ガスを活性化させて低温で薄膜を形成するようにした枚葉式の成膜装置が提案されている(非特許文献1)。この成膜装置は、成膜ガスを加熱した触媒体に接触させて接触分解反応を生ぜしめることによって成膜ガスを分解して活性化し、発生した分解種を低温に保持されたウエハ表面に運んで薄膜を形成するようになっている。
【0004】
【特許文献1】特開2003−142425号公報
【非特許文献1】Cat−CVD(JAIST:JAPAN ADVANCED INSTITUTE OF SIENCE AND TECHNOLOGY 1990,北陸先端科学技術大学院大学,材料科学研究科、松村研究室)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した触媒体を用いた成膜装置では、プラズマを用いないことから、ウエハにプラズマダメージを生ずることなく低温で薄膜を形成できるので優れている。しかしながら、上記した成膜装置は、ウエハを1枚ずつ処理する、いわゆる枚葉式の成膜装置であり、スループットがそれ程高くない、という問題があった。
そこで、この装置を複数枚のウエハを一度に処理する、いわゆるバッチ式の成膜装置に適用することも考えられるが、上記加熱触媒体は1900〜2000℃に加熱されるのに対して、この触媒体に近接して配置されるウエハは200〜300℃の低温に維持しなければならず、従来のバッチ式の成膜装置に上記枚葉式の構成を単に適用しただけでは、このウエハを低温に温度制御するのがかなり困難であった。
【0006】
また触媒体によって形成される活性種やプリカーサは反応性が高く、従来構造のバッチ式の成膜装置では成膜後の膜厚の面内均一性を高く維持するのがかなり困難であった。
本発明は、以上のような問題点に着目し、これを有効に解決すべく創案されたものである。本発明の目的は、縦型の処理容器内で加熱された触媒体を用いることにより、低温状態で複数枚の被処理体に対して薄膜を堆積させることが可能な成膜装置、成膜方法及び記憶媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、被処理体に対して所定の薄膜をCVD(Chemical Vapor Deposition)により堆積させる成膜装置において、下端が開放された有天井の縦型の処理容器と、複数枚の前記被処理体を多段に保持して前記処理容器内へ挿脱される被処理体保持手段と、前記処理容器の周囲に設けられて前記被処理体を加熱する加熱手段と、前記処理容器の側壁に、その外側へ凹部状に突出させて高さ方向に沿って形成した凹部状のノズル収容部と、前記凹部状のノズル収容部の奥にその高さ方向に沿って設けられて前記処理容器内へ成膜ガスを供給するガス供給ノズル部と、前記凹部状のノズル収容部の開口に臨むように設けられて前記成膜ガスを活性化させるための金属材料よりなる触媒体と、前記触媒体に通電して加熱するための触媒用電源と、前記ノズル収容部に対向する処理容器側壁に縦長に設けられて前記処理容器内の雰囲気を排気するための排気口と、装置全体の動作を制御する制御手段と、を備えたことを特徴とする成膜装置である。
このように、縦型の処理容器内で加熱された触媒体を用いることにより、低温状態で複数枚の被処理体に対して薄膜を堆積させることができる。
【0008】
この場合、例えば請求項2に規定するように、前記処理容器内には、前記被処理体の温度を測定するための第1の温度測定手段が設けられており、該第1の温度測定手段の検出値に基づいて前記加熱手段が制御される。
また例えば請求項3に規定するように、前記処理容器内の前記触媒体の近傍であって、前記ノズル収容部の開口からのガスフローが直接当たらない箇所に位置されて前記触媒体と前記被処理体とからの輻射熱を受ける第2の温度測定手段を設け、該第2の温度測定手段の検出値に基づいて前記触媒用電源を制御する。
また例えば請求項4に規定するように、前記排気口は、前記排気されるガスの下流側に向かうに従ってその開口面積が小さくなされている。
【0009】
また例えば請求項5に規定するように、前記触媒体は、着脱可能になされている。
また例えば請求項6に規定するように、前記処理容器は、単管構造である。
また例えば請求項7に規定するように、前記処理容器は、同心状になされた内筒と外筒とよりなる2重管構造である。
また例えば請求項8に規定するように、前記成膜ガスは、シラン系ガスと窒素含有ガスとよりなる。
また例えば請求項9に規定するように、前記成膜ガスは、シリコンと窒素と水素とを含むガスよりなる。
【0010】
請求項10に係る発明は、被処理体支持手段に多段に支持された複数枚の被処理体を縦長の処理容器内へ収容し、前記処理容器の側壁に外側へ凹部状に設けたノズル収容部に設けたガス供給ノズル部より成膜ガスを供給し、前記被処理体を加熱しつつ該被処理体の表面にCVD(Chemical Vapor Deposition)により薄膜を堆積させる成膜方法において、前記ガス供給ノズル部より供給された成膜ガスを加熱状態の触媒体により加熱して活性化させ、活性化された前記成膜ガスを前記被処理体間に層流状態で供給するようにしたことを特徴とする成膜方法である。
【0011】
この場合、例えば請求項11に規定するように、前記成膜処理は、前記成膜ガスの供給を間欠的に行って間欠的に堆積を行う。
また例えば請求項12に規定するように、前記成膜処理は、前記成膜ガスの供給を連続的に行って連続的に堆積を行う。
また例えば請求項13に規定するように、前記成膜ガスは、シラン系ガスと窒素含有ガスとよりなる。
また例えば請求項14に規定するように、前記成膜ガスは、シリコンと窒素と水素とを含むガスよりなる。
【0012】
請求項15に係る発明は、被処理体支持手段に多段に支持された複数枚の被処理体を縦長の処理容器内へ収容し、前記処理容器の側壁に外側へ凹部状に設けたノズル収容部に設けたガス供給ノズル部より成膜ガスを供給し、前記被処理体を加熱しつつ該被処理体の表面にCVD(Chemical Vapor Deposition)により薄膜を堆積させる成膜装置を用いて成膜するに際して、前記ガス供給ノズル部より供給された成膜ガスを加熱状態の触媒体により加熱して活性化させ、活性化された前記成膜ガスを前記被処理体間に層流状態で供給するように前記成膜装置を制御するプログラムを記憶する記憶媒体である。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る成膜装置、成膜方法及び記録媒体によれば、次のように優れた作用効果を発揮することができる。
縦型の処理容器内で加熱された触媒体を用いることにより、低温状態で複数枚の被処理体に対して薄膜を堆積させることができる。従って、一度に複数枚の被処理体に対して成膜を行うことができることから、製品のスループットを向上させることができる。
また堆積された薄膜の面内均一性を枚葉式の成膜装置の場合と同様に高く維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明に係る成膜装置の一例を添付図面に基づいて詳述する。
図1は本発明の係る成膜装置の一例を示す縦断面構成図、図2は成膜装置(加熱手段は省略)を示す横断面構成図、図3は処理容器の排気口を示す平面図、図4は触媒体を示す斜視図である。尚、ここでは成膜ガスの一部を形成するシラン系ガスとしてモノシラン(SiH )と成膜ガスの一部を形成する窒素含有ガスとしてアンモニアガスとを用いてシリコン窒化膜(SiN)を成膜する場合を例にとって説明する。
図示するように、この成膜装置2は、下端が開口された有天井の円筒体状の単管構造の処理容器4を有している。この処理容器4の全体は、例えば石英により形成されており、この処理容器4内の天井には、石英製の天井板6が設けられて封止されている。また、この処理容器4の下端開口部には、例えばステンレススチールにより円筒体状に成形されたマニホールド8がOリング等のシール部材10を介して連結されている。
【0015】
上記処理容器4の下端は、上記マニホールド8によって支持されており、このマニホールド8の下方より多数枚の被処理体としての半導体ウエハWを多段に載置した被処理体保持手段としての石英製のウエハボート12が昇降可能に挿脱自在になされている。本実施例の場合において、このウエハボート12の支柱12Aには、多数の支持溝(図示せず)が形成されており、例えば30枚程度の直径が300mmのウエハWを略等ピッチで多段に支持できるようになっている。尚、支柱12Aに石英製のリング状の支持台を設け、この支持台にウエハWを支持させるようにしてもよい。
このウエハボート12は、石英製の保温筒14を介してテーブル16上に載置されており、このテーブル16は、マニホールド8の下端開口部を開閉する例えばステンレススチール製の蓋部18を貫通する回転軸20上に支持される。
そして、この回転軸20の貫通部には、例えば磁性流体シール22が介設され、この回転軸20を気密にシールしつつ回転可能に支持している。また、蓋部18の周辺部とマニホールド8の下端部には、例えばOリング等よりなるシール部材24が介設されており、容器内のシール性を保持している。
【0016】
上記した回転軸20は、例えばボートエレベータ等の昇降機構26に支持されたアーム28の先端に取り付けられており、ウエハボート12及び蓋部18等を一体的に昇降して処理容器4内へ挿脱できるようになされている。尚、上記テーブル16を上記蓋部18側へ固定して設け、ウエハボート12を回転させることなくウエハWの処理を行うようにしてもよい。
このマニホールド8には、処理容器4内へ成膜ガスを供給するガス供給ノズル部30が設けられる。具体的には、上記ガス供給ノズル部30は、上記マニホールド8の側壁を内側へ貫通して上方向へ屈曲されて延びる石英管よりなるノズル本体32を有している。このノズル本体32には、その長さ方向に沿って複数(多数)のガス噴射孔32Aが所定の間隔を隔てて形成されており、各ガス噴射孔32Aから水平方向に向けて略均一にモノシランとアンモニアとの混合ガスを噴射して層流状態で供給できるようになっている。
【0017】
そして、上記処理容器4の側壁の一部には、その高さ方向に沿ってノズル収容部34が形成されると共に、このノズル収容部34に対向する処理容器4の反対側には、この内部雰囲気を真空排気するために処理容器4の側壁を、例えば上下方向へ削りとることによって形成した細長い排気口36が設けられている。
具体的には、上記ノズル収容部34は、上記処理容器4の側壁を上下方向に沿って所定の幅で削り取ることによって上下に細長い開口38を形成し、この開口38をその外側より覆うようにして断面凹部状になされた上下に細長い例えば石英製の区画壁40を容器外壁に気密に溶接接合することにより、容器内と一体化するように形成されている。これにより、この処理容器4の側壁の一部を凹部状に外側へ突出させて窪ませることにより一側が処理容器4内へ開口されて連通されたノズル収容部34が形成されることになる。すなわちこのノズル収容部34の内部空間は、上記処理容器4内に一体的に連通された状態となっている。上記開口38は、ウエハボート12に保持されている全てのウエハWを高さ方向においてカバーできるように上下方向に十分に長く形成されている。
【0018】
そして、上記処理容器4内を上方向に延びていくノズル本体32は途中で処理容器4の半径方向外方へ屈曲されて、上記ノズル収容部34内の一番奥(処理容器4の中心より一番離れた部分)に位置され、この一番奥の部分に沿って上方に向けて起立させて設けられている。このように凹部状のノズル収容部34を設けることによって処理容器4の直径をそれ程大きくすることなく、ウエハWとノズル本体32との間を距離を十分に確保して成膜ガスをウエハ表面に拡散できるようになっている。
【0019】
一方、上記ノズル収容部34に対向させて設けた排気口36には、これを覆うようにして石英よりなる断面コ字状に成形された排気口カバー部材42が溶接により取り付けられている。この排気カバー部材42は、上記処理容器4の側壁に沿って上方に延びており、処理容器4の上方のガス出口44より図示しない真空ポンプ等を介設した真空排気系により真空引きされる。ここで上記排気口36は図3(A)に示すように、排気されるガスの下流側に向かうに従って、すなわち、ここでは上方に向かうに従って、その開口面積が小さくなされており、各ウエハ間を水平方向に流れるガス流の速度をできるだけ均一化するようになっている。尚、このガス排気口36は、図3(B)に示すように多数の排気穴36Aにより形成するようにしてもよく、この場合にも、ガス流の下流側に向かうに従ってその開口面積を次第に小さくする。そして、この処理容器4の外周を囲むようにしてこの処理容器4及びこの内部のウエハWを加熱する筒体状の加熱手段46が設けられている。尚、この加熱手段46は図示されないが、複数、例えば高さ方向に分割された3つのゾーン毎に制御できるようになっている。
【0020】
そして、この処理容器4内には上記成膜ガスを活性化させるための金属材料よりなる本発明の特徴とする触媒体50が設けられている。具体的には、この触媒体50は、図4(A)にも示すように、直径が0.1〜0.5mmの高純度、例えば純度99.9999%以上のタングステンをコイル状に巻回してなる触媒本体52を有しており、この触媒本体52の両端にそれぞれ配線54を接続し、この配線54を耐熱製材料よりなる配管、例えば石英配管56内にそれぞれ挿通させている。そして、上記石英配管56の先端部はガスが流れ込まないように押しつぶして圧着してシールされている。上記両石英配管56の基端部56Aは、マニホールド8に着脱自在に装着されており、必要に応じて脱着できるようになっている。そして、一方の石英配管56は処理容器4内の上部まで延び、他方の石英配管56と処理容器4内の底部近傍に位置させることにより、上記コイル状の触媒本体52を凹部状のノズル収容部34の開口38に臨むように上下方向に沿って配置している(図2参照)。
【0021】
そして、上記配線54には出力電圧が可変になされた触媒用電源58が接続されており、上記触媒本体52に通電してこれを所定の高温、例えば1500〜2500℃程度に加熱し得るようになっている。従って、上記ノズル本体32より噴射された成膜ガスをこの加熱された触媒本体52に接触させることによって、成膜ガスを活性化し得るようになっている。尚、上記触媒本体52はコイル状に成形したが、これに代えて、この触媒本体52の直線状のワイヤとし、そして、両石英管56を容器内の上方まで延ばして、その下方に設けた支持部57との間で上記触媒本体52のワイヤを一回、或いは複数回折り返して設けるようにしてもよい。ここで高温状態になる触媒本体52は、ノズル本体32、ウエハWの端部及び処理容器4の側壁からそれぞれ50〜60mm程度離間されており、高温による悪影響を受けないようになされている。
【0022】
また上記処理容器4内には、上記触媒本体52から遠く離れた排気口36の近傍であってウエハWに接近した箇所に位置させて、ウエハWの温度を測定するための第1の温度測定手段60が設けられている。この第1の温度測定手段60は、下端をマニホールド8に支持させて上方に延びる石英管62と、この石英管62内に所定の間隔でゾーン毎に設けた複数、図示例では3つの熱電対64とよりなっている。そして、ここで得られた検出値に基づいて上記加熱手段46をゾーン毎に個別に制御できるようになっている。
【0023】
また上記処理容器4内には、上記触媒本体52の近傍であってウエハWに接近した箇所に位置させて、ウエハWと触媒本体52とからの輻射熱を受けるための第2の温度測定手段66が設けられている。しかも、図2にも示すように、この第2の温度測定手段66は上記ノズル収容部34の開口38からのガスフローが直接当たらない箇所に位置されており、この第2の温度測定手段66の表面に薄膜が直接的に堆積しないようになっている。この第2の温度測定手段66は、下端をマニホールド8に支持させて上方に延びる石英管67と、この石英管67内に所定の間隔でゾーン毎に設けた複数、図示例では3つの熱電対68とよりなっている。ここで得られた検出値に基づいて上記触媒用電源58を制御して触媒本体52の温度を制御できるようになっている。尚、この熱電対68の数は、3つに限定されず、例えば1つでもよい。
【0024】
そして、この成膜装置2の全体の動作は、例えばコンピュータ等よりなる制御手段70により制御される。この制御手段70は、例えば上記第1及び第2の温度測定手段60、66からの各測定値を受けて、加熱手段46や触媒本体52の温度を制御したり、成膜ガスの流量やこの供給及び供給停止を制御したり、処理容器4内の圧力を制御したりする等、この装置全体の動作を制御する。そして、この制御手段70は上記制御を行うプログラムを記憶するためのフラッシュメモリやフロッピディスク等の記憶媒体72を有している。
【0025】
次に、以上のように構成された成膜装置2を用いて行なわれるCVDによる成膜方法について説明する。ここではCVDによりシリコン窒化膜を形成する場合を例にとって説明する。
まず、常温の多数枚、例えば50枚の300mmサイズのウエハWが載置された状態のウエハボート12を予め所定の温度になされた処理容器4内にその下方より上昇させてロードし、蓋部18でマニホールド8の下端開口部を閉じることにより容器内を密閉する。
【0026】
そして処理容器4内を真空引きして所定のプロセス圧力に維持すると共に、加熱手段46への供給電力を増大させることにより、ウエハ温度を上昇させてプロセス温度を維持し、所定の成膜ガス、すなわちここではモノシランとアンモニアとの混合ガスをガス供給ノズル部30のノズル本体32から供給し、これと同時に触媒体50の触媒本体52を所定の高温状態に加熱して、成膜ガスを触媒本体52と接触させることにより成膜ガスを活性化させ、これを比較的低温状態のウエハWの表面に接触させてウエハWの表面にCVDによりシリコン窒化膜を形成する。尚、必要に応じて、混合ガス中に希釈ガスとして不活性ガス、例えばN ガス等を混入してもよい。
【0027】
各ウエハW間を水平方向へ層流状態で流れたガスは、ノズル収容部34とは反対側の容器側壁に設けた排気口36に流れ込んで、この中を上方へ吸引されて真空排気されることになる。上記のように成膜ガスを活性化させると、反応性に富むラジカルやプリカーサが生じ、ウエハ温度が低温でもCVDによりこの表面に薄膜を堆積させることができる。
ここで、成膜方法の具体的な温度制御と成膜ガスの供給の制御について図5も参照して説明する。図5は成膜時の各種部材の温度と成膜ガスの供給タイミングの一例を示すタイミングチャートである。図5(A)は触媒本体の温度の変化を示し、図5(B)は各熱電対の検出値を示し、図5(C)は成膜ガスの流量(オン/オフ)の変化を示す。
【0028】
上記タングステンよりなる触媒本体52は1500〜2500℃程度の高温に加熱しなければ触媒機能を十分に発揮しないが、触媒本体52を連続的に上記した高温状態に連続的に維持すると、この熱の影響を受けてウエハ自体の温度制御が困難になるので、ここでは図5(A)に示すように、触媒本体52の温度が例えば1700℃と2000℃の間を交互に往復するように温度制御する。この温度制御は、触媒本体52の近傍に設けた第2の温度測定手段66の熱電対68の検出値に基づいて行う。この熱電対68の検出値と上記触媒本体52の実際の温度との相関関係は予め求められており、そして、触媒本体52の熱的悪影響(例えばウエハ面に部分的成膜が過度に生ずる)を受けることなく、成膜が行える成膜上限温度と十分な成膜が可能な成膜下限温度とを熱電対68に対して予め設定しておく(図5(B)参照)。図5(B)においては成膜上限温度は例えば500℃であり、成膜下限温度は例えば480℃である。
【0029】
そしてウエハ温度は、比較的低温である200〜300℃の範囲内の一定値、例えば300℃に設定しておく(図5(B)参照)。このウエハ温度は第1の温度測定手段60の熱電対64の検出値に基づいて制御され、実際のウエハ温度とこの熱電対64の相関関係は予め求められており、例えば300±2℃程度の温度でもってウエハ温度を制御することができる。
そして成膜ガスは図5(C)に示すように、第2の温度測定手段66の熱電対68の検出値が成膜上限温度と成膜下限温度の間に位置する時に成膜ガスを流してデポ(成膜)を行い、それ以外の時は、成膜ガスの供給を停止して処理容器4内の残留ガスを排気するパージを行う。このパージの時に不活性ガスの供給は行って排気を促進させるようにしてもよい。従って、シリコン窒化膜(SiN)のデポは間欠的に行われることになる。
この場合、上記触媒本体52の温度制御は、前述したように第2の温度測定手段66の熱電対68の検出値をフィードバックすることにより、1700℃と2000℃との間を交互に変動させる。
【0030】
ここで、成膜時のプロセス条件は、モノシランの流量が5〜200sccmの範囲内、NH ガスの流量が100〜2000sccmの範囲内、プロセス圧力は0.67Pa(5mTorr)〜66.7Pa(500mTorr)の範囲内である。
またウエハボート12に載置するウエハピッチを必要に応じて16〜80mm程度の範囲内に設定し、膜厚の面内均一性を向上させるのがよい。そして、図5(C)中の1回のデポ時間T1は、プロセス条件にもよるが例えば30〜120sec程度である。
【0031】
上述のように成膜処理を行うことにより、200〜300℃の比較的低温状態の複数枚のウエハに対して、枚葉式の成膜装置の場合と同程度の膜厚面内均一性の高い状態で薄膜を堆積させることができ、このスループットを向上させることができる。
また成膜ガスをノズル本体32に形成した多数のガス噴射ノズル32Aから水平方向へ供給し、発生したラジカルやプリカーサを回転する各ウエハ間に層流状態で流すようにしたので、この点よりも膜厚の面内均一性及び面間均一性を高く維持することができる。
【0032】
また高温状態になる触媒本体52は、ウエハのエッジ、ノズル本体32及び容器側壁より十分な距離だけ離間させて設置しているので、触媒本体52より熱的悪影響を受けることを防止でき、例えばノズル本体32内でデポが生ずることや、ウエハのエッジで大きなデポが生ずること等を防止することができる。
尚、腐食性ガスを処理容器4内へ流してクリーニングする時には、触媒体50の全体をマニホールド8より取り外した状態で行えばよい。
実際に、以下に示すプロセス条件で成膜処理を行ったところ、±3〜5%の膜厚の面内均一性でシリコン窒化膜を得ることができた。この時のプロセス条件は、ウエハ温度が300℃、ウエハピッチが40mm、プロセス圧力が20Pa、触媒本体52の温度が1850℃と1950℃との間(熱電対68の温度では340℃と350℃との間)、ガス流量がSiH /NH =20sccm/1000sccmである。
【0033】
尚、上記実施例で説明した各温度の値は、単に一例を示したに過ぎず、これらの値に限定されないのは勿論である。
また、上記実施例では、図5(C)に示したように、第2の温度測定手段66の熱電対68が、成膜上限温度と成膜下限温度との間の値を検出している時は、温度上昇時と温度下降時の両方においてデポを間欠的に行うようにしたが、これに限定されず、例えば温度上昇時のみ、或いは温度下降時のみにデポを間欠的に行うようにしてもよい。
【0034】
また処理容器全体のサイズを大きくするなどして熱的条件が許せば、上記のようにデポを間欠的に行うのではなく、このデポを連続的に長時間行うようにしてもよい。
また上記実施例では触媒本体52として高純度のタングステンを用いたが、これに代えて、例えば白金やイリジウム等の他の触媒作用を示す金属を用いてもよい。
更に、上記実施例では、成膜ガスとしてモノシランとアンモニアガスを混合させて混合ガスとして供給したが、これらを別々に供給してもよいし、更に、カーボン系ガス、例えばCH 、C 、C 、C 、C 等を添加してSiN膜中にカーボンをドープすることによりエッチングレートが制御された薄膜を形成するようにしてもよい。
【0035】
また、成膜ガスのモノシランに代えて、Cl元素を含まない他のシラン系ガス、例えばSi 、Si 等を用いてもよい。
更には、成膜ガスのNH ガスに代えてN 等を用いてもよい。
また成膜ガスとして上述したような2種類のガスでなく、シリコンと窒素と水素とを含むガス、例えばSi N(トリシリルアミン)を用いてもよい。
更に堆積する膜種としてSiN膜に限定されず、他の膜種を成膜する場合にも本発明装置を用いることができる。
【0036】
また、図1に示す装置例では、単管構造の処理容器4を用いたが、これに限定されず、いわゆる2重管構造の処理容器を用いてもよい。図6はこのような2重管構造の処理容器を用いた本発明装置の変形例を示す縦断面構成図、図7は変形例の横断面構成図である。尚、図1及び図2に示す構成部分と同一構成部分については同一符号を付してその説明を省略する。
図1及び図2に示す装置例にあっては、処理容器4の排気口36を覆うように、排気口カバー部材42を設けたが、この変形例では、処理容器4として内筒4Aと、これを囲むようにした外筒4Bとを同心状に設けており、2重管構造としている。上記内筒4Aと外筒4Bは共に石英管よりなり、内筒4Aが図1中の処理容器4に対応し、外筒4Bが図1中の排気口カバー部材42に対応している。そして、この内筒4Aにその高さ方向に沿って排気口36を形成し、外筒4Bの上端部にガス出口44を形成している。上記内筒4Aと外筒4Bとはその下端部で溶接接合されており、従って、内筒4Aと外筒4Bとの間の間隙全体が排気路となっている。
【0037】
また、ノズル収容部34を区画する区画壁40は、外筒4Bをその横方向へ貫通するように設けられており、貫通部は区画壁40に対して溶接接合されている。尚、図示例では、区画壁40の内側周辺のフランジ部40Aを内筒4Aに溶接接合しているが、これに限定されず、図8に示す他の変形例の横断面図に示すように、上記区画壁40の内側周辺のフランジ部40Aを外筒4Bの開口周辺部に溶接接合し、そして、内筒40Aの開口周辺部と外筒4Bの内壁との間に間隙区画壁76を環状にシールするように溶接接合して排気路側と分離するようにしてもよい。
この変形例の場合にも、先に図1及び図2等を参照して説明した装置例と同様な作用効果を発揮することができる。
以上の各実施例では、被処理体として半導体ウエハを例にとって説明したが、これに限定されず、ガラス基板、LCD基板等にも本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の係る成膜装置の一例を示す縦断面構成図である。
【図2】成膜装置を示す横断面構成図である。
【図3】処理容器の排気口を示す平面図である。
【図4】触媒体を示す斜視図である。
【図5】成膜時の各種部材の温度と成膜ガスの供給タイミングの一例を示すタイミングチャートである。
【図6】2重管構造の処理容器を用いた本発明装置の変形例を示す縦断面構成図である。
【図7】本発明装置の変形例の横断面構成図である。
【図8】本発明装置の他の変形例を示す横断面図である。
【符号の説明】
【0039】
2 成膜装置
4 処理容器
12 ウエハボート(被処理体保持手段)
30 ガス供給ノズル部
34 ノズル収容部
36 排気口
40 区画壁
46 加熱手段
50 触媒体
52 触媒本体
58 触媒用電源
60 第1の温度測定手段
64 熱電対
66 第2の温度測定手段
68 熱電対
70 制御手段
72 記憶媒体
W 半導体ウエハ(被処理体)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理体に対して所定の薄膜をCVD(Chemical Vapor Deposition)により堆積させる成膜装置において、
下端が開放された有天井の縦型の処理容器と、
複数枚の前記被処理体を多段に保持して前記処理容器内へ挿脱される被処理体保持手段と、
前記処理容器の周囲に設けられて前記被処理体を加熱する加熱手段と、
前記処理容器の側壁に、その外側へ凹部状に突出させて高さ方向に沿って形成した凹部状のノズル収容部と、
前記凹部状のノズル収容部の奥にその高さ方向に沿って設けられて前記処理容器内へ成膜ガスを供給するガス供給ノズル部と、
前記凹部状のノズル収容部の開口に臨むように設けられて前記成膜ガスを活性化させるための金属材料よりなる触媒体と、
前記触媒体に通電して加熱するための触媒用電源と、
前記ノズル収容部に対向する処理容器側壁に縦長に設けられて前記処理容器内の雰囲気を排気するための排気口と、
装置全体の動作を制御する制御手段と、
を備えたことを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記処理容器内には、前記被処理体の温度を測定するための第1の温度測定手段が設けられており、該第1の温度測定手段の検出値に基づいて前記加熱手段が制御されることを特徴とする請求項1記載の成膜装置。
【請求項3】
前記処理容器内の前記触媒体の近傍であって、前記ノズル収容部の開口からのガスフローが直接当たらない箇所に位置されて前記触媒体と前記被処理体とからの輻射熱を受ける第2の温度測定手段を設け、該第2の温度測定手段の検出値に基づいて前記触媒用電源を制御することを特徴とする請求項1または2記載の成膜装置。
【請求項4】
前記排気口は、前記排気されるガスの下流側に向かうに従ってその開口面積が小さくなされていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項5】
前記触媒体は、着脱可能になされていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項6】
前記処理容器は、単管構造であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項7】
前記処理容器は、同心状になされた内筒と外筒とよりなる2重管構造であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項8】
前記成膜ガスは、シラン系ガスと窒素含有ガスとよりなることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項9】
前記成膜ガスは、シリコンと窒素と水素とを含むガスよりなることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項10】
被処理体支持手段に多段に支持された複数枚の被処理体を縦長の処理容器内へ収容し、前記処理容器の側壁に外側へ凹部状に設けたノズル収容部に設けたガス供給ノズル部より成膜ガスを供給し、前記被処理体を加熱しつつ該被処理体の表面にCVD(Chemical Vapor Deposition)により薄膜を堆積させる成膜方法において、
前記ガス供給ノズル部より供給された成膜ガスを加熱状態の触媒体により加熱して活性化させ、活性化された前記成膜ガスを前記被処理体間に層流状態で供給するようにしたことを特徴とする成膜方法。
【請求項11】
前記成膜処理は、前記成膜ガスの供給を間欠的に行って間欠的に堆積を行うことを特徴とする請求項10記載の成膜方法。
【請求項12】
前記成膜処理は、前記成膜ガスの供給を連続的に行って連続的に堆積を行うことを特徴とする請求項10記載の成膜方法。
【請求項13】
前記成膜ガスは、シラン系ガスと窒素含有ガスとよりなることを特徴とする請求項10乃至12のいずれかに記載の成膜方法。
【請求項14】
前記成膜ガスは、シリコンと窒素と水素とを含むガスよりなることを特徴とする請求項10乃至12のいずれかに記載の成膜方法。
【請求項15】
被処理体支持手段に多段に支持された複数枚の被処理体を縦長の処理容器内へ収容し、前記処理容器の側壁に外側へ凹部状に設けたノズル収容部に設けたガス供給ノズル部より成膜ガスを供給し、前記被処理体を加熱しつつ該被処理体の表面にCVD(Chemical Vapor Deposition)により薄膜を堆積させる成膜装置を用いて成膜するに際して、
前記ガス供給ノズル部より供給された成膜ガスを加熱状態の触媒体により加熱して活性化させ、活性化された前記成膜ガスを前記被処理体間に層流状態で供給するように前記成膜装置を制御するプログラムを記憶する記憶媒体。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−179819(P2006−179819A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−373854(P2004−373854)
【出願日】平成16年12月24日(2004.12.24)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】