説明

携帯端末用筐体の塗装装置及びそれを用いた携帯端末用筐体の塗装方法

【課題】塗料の無駄、及び空調のためのエネルギーを抑えながら、インクジェット方式で携帯端末用筐体の塗装を可能にすること。
【解決手段】鉛直方向に回動自在の第1ステージ10と水平方向に回動自在の第2ステージ11を有したワーク供給テーブルを具備するワーク搬送装置5と、ワーク搬送装置5の軌道の途上に配設されたインクジェット装置12及びUV硬化装置16と、装置全体の作動を制御する制御部21を具備し、インクジェット装置12は上下動自在のプリンタヘッド14を具備し、ワーク搬送装置5によって移動しているワークにプリンタヘッド14からインクを着弾させることでワーク平面を塗装し、第1ステージ10及び第2ステージ11を所定角度回動することでプリンタヘッド14に対してワークを所定角度だけ傾けるとともにプリンタヘッド14を所定長だけ上昇することで、ワークの側面を塗装可能にした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯端末用筐体の塗装装置及びそれを用いた携帯端末用筐体の塗装方法に係り、より詳しくは、携帯用端末の筐体の塗装に際して、塗料の無駄を無くするとともに、塗装スペースを小さくし、更に空調エネルギーを削減可能とした携帯端末用筐体の塗装装置及びそれを用いた携帯端末用筐体の塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、ワークを塗装する場合には、コンベアによってワークを搬送しながら、この搬送されているワークに向けて、スプレーガンによって塗料を霧状に噴射するスプレー式の塗装が採用されている。
【0003】
即ち、スプレー式の塗装では、シリンジ、ポンプ等を用いて塗料をスプレーガンのヘッド部に供給しつつ、この塗料を、エアーによって、霧状に霧化してワークに向けて噴射して、これによって、塗料をワークに吐着させて塗装を行っていた。
【0004】
そして、このとき、携帯用の電話機やモバイル型パソコン、タブレット型端末等の携帯用端末の筐体のような立体的なワークの表面を塗装する場合には、平面部分及び側面部分を塗装しなければならないために、スプレーガンを様々な角度に移動させてワークに対して複数の角度から塗料を噴射し、あるいは、スプレーガンに対するワークの傾き等を変化させながら、ワークに対して塗料を噴射していた。
【0005】
しかしながら、従来から、このような、塗料を霧化してワークに噴射するスプレー式の塗装方法では、塗料の無駄が多いという問題点が指摘されていた。
【0006】
即ち、一般的にスプレー式の塗装方法では、スプレーガンより噴射する塗料の中で実際にワークに吐着する割合は2〜3割程度といわれているため、残りの塗料は無駄になってしまうという問題点が指摘されている。
【0007】
また、塗料には有害物質等が含まれているために、ワークに吐着せずに塗装ブース内に発生した塗料ミストは回収する必要があるが、この塗料ミストの回収方法として従来は、塗装ブース内の気流を一定方向に流しながら、フィルタにより塗料ミストを回収しつつ、室内のエアーを室外に排気し、それとともに、塗装室内にエアーを供給する方法を採用するのが一般的であった。
【0008】
そのために、従来は、室内のエアーを室外に排気するとともに、塗装室内にエアーを供給するため、空調のためのエネルギーが必要であったが、このとき、スプレーガンを様々な角度に移動させてワークに対して複数の角度から塗料を吹き付ける方法を採用した場合には、塗装ブースを大きくする必要があるため、空調のためのエネルギーが大きくならざるを得ないという問題点があった。
【0009】
そこで、最近になり、インクジェットによってワークを塗装する方法が提案され始めている。そして、このインクジェットの方法では、インク室に充填してあるインクをノズルから押し出すことで対象に着弾させ、これにより対象を塗装する方法であるために、塗料を霧化して噴射する方法と異なり、塗料の無駄を無くすることが可能であるという利点がある。
【0010】
また、インクジェットの方法では、対象に着弾しないインクが無く塗装ブース内にインクのミスト等が発生することが無いとともに、用いるインクには有害な有機溶剤が殆ど含まれていないために、塗装ブース内のインクを回収する必要が無く、従って空調エネルギーを少なくすることが可能であるために、このような利点を有するインクジェットの方法によってワークの塗装を行うことで、スプレー方式による塗装の問題点を解決することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2011−20113号公報
【特許文献2】特開2003−340351号公報
【特許文献3】特開2005−74686号公報
【特許文献4】特開2007−175665号公報
【特許文献5】特開2007−175669号公報
【特許文献6】特開2007−177573号公報
【特許文献7】特開2007−177964号公報
【特許文献8】特開2007−196198号公報
【特許文献9】特開2009−50804号公報
【特許文献10】特開2009−50805号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、インクジェット方式では、垂直方法にしかインクを落とすことができないために、前述した携帯用端末の筐体のような立体的なワークを塗装する場合には、平面部分の塗装は可能だが、側面部分は塗装することができないという問題点が考えられる。
【0013】
そこで、本発明は、塗料の無駄を無くするとともに、塗装スペースを小さくし、さらにそれに伴って空調のためのエネルギーを抑えながら、携帯端末用筐体の塗装を可能にするための、携帯端末用筐体の塗装装置及びそれを用いた携帯端末用筐体の塗装方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の携帯端末用筐体の塗装装置は、
インクジェット方式により携帯用端末の筐体を塗装するための携帯端末用筐体の塗装装置であって、
スライドベースと、
該スライドベースにスライドベース上を移動自在に装着されたワーク搬送装置と、
該ワーク搬送装置の軌道の途上に配設されたインクジェット装置と、
前記ワーク搬送装置の軌道の途上における前記インクジェット装置の前方側に配設されたUV硬化装置と、
装置全体の作動を制御するための制御部と、を具備して、
前記ワーク搬送装置は、
前記スライドベースに装着されてスライドベース上を前後方向に移動自在とされたスライド部と、該スライド部に連設された支持部と、を具備したワーク搬送装置本体と、
前記支持部に鉛直方向に回動自在に連結された第1ステージと、該第1ステージの上方に水平方向に回動自在に連結されるとともにその上面にワークが取り付けられる第2ステージと、を具備したワーク供給テーブルと、を具備して、
前記インクジェット装置は、
前記ワーク搬送装置の移動の妨げにならない位置に配設された支柱と、
前記ワーク搬送装置における第2ステージに取り付けられたワーク上にインクを着弾可能な配置で前記支柱に上下動自在に装着されたプリンタヘッドと、を具備し、
前記UV硬化装置は、前記ワークにUVを照射することで、前記インクジェット装置においてワークに着弾したインクを硬化させるUV照射手段を具備したことを特徴としている。
【0015】
そして、この塗装装置を用いた本発明の携帯端末用筐体の塗装方法では、
前記第2ステージにワークを取り付けた状態で、前記ワーク搬送装置を前記スライドベース上を往復移動させながら、
前記インクジェット装置によってワークの平面部分にインクを着弾することでワークの平面部分を塗装し、
前記第1ステージ及び第2ステージを所定角度回動して、前記プリンタヘッドに対するワークの向きを変更するとともに、前記プリンタヘッドを所定長だけ上昇した状態で、ワークにインクを着弾することでワークの側面部分を塗装し、
その後、前記インクジェット装置によりワークに着弾させたインクを、前記UV照射手段によってUV照射により硬化する、ことを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
本発明の携帯端末用筐体の塗装装置では、ワークを取り付けて搬送するためのワーク搬送装置をワーク搬送装置本体とワーク供給テーブルで構成しており、ワーク搬送装置本体は、スライドベース上を前後方向に移動自在としたスライド部と、このスライド部に連設された支持部とで構成し、ワーク供給テーブルは、第1ステージと第2ステージとで構成し、第1ステージは前記支持部に鉛直方向に回動自在に連結し、第2ステージは、第1ステージの上方に水平方向に回動自在に連結している。
【0017】
また、インクジェット装置は、ワーク搬送装置の移動の妨げにならない位置に配設した支柱に、上下動自在にプリンタヘッドを装着している。
【0018】
そして、本発明はこの構成によって、第1ステージ及び第2ステージを所定角度回動してプリンタヘッドに対するワークの向きを変更するとともに、前記プリンタヘッドを所定長だけ上昇して、この状態でワークにインクを着弾することでワークの側面部分を塗装可能とし、これにより、垂直方向にしかインクを落とすことができないインクジェット方式の欠点を解決して、インクジェット方式によって、携帯用端末の筐体のような立体的なワークの表面すべての塗装を可能としている。
【0019】
そのために、スプレーガンによりワークの塗装を行う従来の塗装装置及び塗装方法と比較して、塗装スペースを小さくすることができ、また、ワークに吐着しないインクを無くすることができ、これによりインクの無駄を抑えることが可能であるとともに、それに伴い、ワークに吐着しないインクを回収する必要が無くなり、インク回収のための設備を備える必要が無く、コストを抑えることが可能である。
【0020】
従って、本発明によれば、塗装スペースを小さくすることができるとともに、塗料の無駄、及び空調のためのエネルギーを抑えながら、携帯用端末の筐体のような立体的なワークの表面を塗装することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の携帯端末用筐体の塗装装置の全体を示す斜視図である。
【図2】本発明の携帯端末用筐体の塗装装置における塗装スペース内を説明するための側面図である。
【図3】本発明の携帯端末用筐体の塗装装置における塗装スペース内を説明するための平面図である。
【図4】本発明の携帯端末用筐体の塗装装置におけるワーク搬送装置を説明するための図である。
【図5】本発明の携帯端末用筐体の塗装装置の制御系を説明するためのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の携帯端末用筐体の塗装装置では、スライドベースを有しており、このスライドベースには、ワーク搬送装置が、スライドベース上を移動自在に装着されている。
【0023】
また、本発明の携帯端末用筐体の塗装装置では、インクジェット装置を有しており、このインクジェット装置は、ワーク搬送装置の軌道の途上に配設されている。
【0024】
更に、本発明の携帯端末用筐体の塗装装置では、UV硬化装置を有しており、このUV硬化装置は、前記ワーク搬送装置の軌道の途上における、インクジェット装置の前方側に配設されている。
【0025】
また、本発明の携帯端末用筐体の塗装装置では制御部を有しており、この制御部は、装置全体の作動を制御している。
【0026】
そして、前記ワーク搬送装置は、ワーク搬送装置本体とワーク供給テーブルとを具備しており、ワーク搬送装置本体は、スライドベースに装着されてスライドベース上を前後方向に移動自在とされたスライド部と、このスライド部に連設された支持部とを具備している。
【0027】
一方、ワーク供給テーブルは、第1ステージと第2ステージを有しており、第1ステージは、ワーク搬送装置本体を構成する支持部の正面側に、鉛直方向に回動自在に配設されている。
【0028】
また、第2ステージは、第1ステージの上方に、水平方向に回動自在にして連結されるとともに、その上面には、ワークが取り付けられることとしている。
【0029】
そして、ワーク搬送装置の軌道の途上に配設されたインクジェット装置は、ワーク搬送装置の移動の妨げにならない位置に配設された支柱と、この支柱に上下動自在に装着されたプリンタヘッドを具備しており、プリンタヘッドは、ワーク搬送装置における第2ステージに取り付けられたワーク上にインクを着弾可能な配置で、支柱に装着されている。
【0030】
また、UV硬化装置は、ワークにUVを照射することで、インクジェット装置においてワークに着弾したインクを硬化させるUV照射手段を具備している。
【0031】
そして、この塗装装置を用いた本発明の携帯端末用筐体の塗装方法では、第2ステージにワークを取り付けた状態で、ワーク搬送装置を、スライドベース上を往復移動させる。
【0032】
そして、ワーク搬送装置を往復移動させる過程で、インクジェット装置によって、ワークの平面部分にインクを着弾させることで、ワークの平面部分の塗装を行う。
【0033】
そして、その後あるいはその前に、第1ステージ及び第2ステージを所定角度回動し、プリンタヘッドに対するワークの向きを変更するとともに、プリンタヘッドがワークに接触しない位置まで、プリンタヘッドを所定長だけ上昇させ、その状態で、プリンタヘッドからワークにインクを着弾し、これにより、ワークの側面部分を塗装する。
【0034】
そしてその後に、ワークに着弾させたインクを、UV照射手段によってUV照射して硬化することとしている。
【0035】
ここで、ワークの側面部分を塗装する際には、プリンタヘッドから落下させるインクの径を、ワークの平面部分に落下させるインク径よりも大きくするとよく、これにより、落下させたインク間に隙間が生じることを防止してきれいな仕上がりにすることができる。
【0036】
また、インクジェット装置で用いるインクとしては、有機溶剤を含まないインクにするとよく、これにより、ワークに着弾させたインクを加熱して乾燥する工程を無くしてコストを抑えることが可能となる。
【実施例1】
【0037】
本発明の携帯端末用筐体の塗装装置(以下においては単に「塗装装置」という。)の実施例について図面を参照して説明すると、図1は本実施例の塗装装置の外観を示す斜視図である。
【0038】
そして、図において1が本実施例の塗装装置であり、本実施例における塗装装置では、電源装置、制御部、各種操作部等を備えた装置本体2を有し、この装置本体2の上部には透明なガラス等で構成したケーシング3が備えられ、このケーシング3内が塗装スペースとされており、ケーシング3内でワークの塗装を行うこととしている。
【0039】
ここで、前記塗装スペースの説明をすると、図2及び図3は、前記ケーシング3内の塗装スペースを説明するための図であり、図2は側面から見た状態、図3は上面から見た状態を示している。また、図において301はケーシング3内の底面であり、図においてWはワークとしての携帯用端末の筐体であり、本実施例においてこのワークWは、タブレット型の携帯用端末の筐体としている。
【0040】
そして、本実施例において前記ケーシング3内にはスライドベースが配設されている。即ち、図において4がスライドベースであり、本実施例において前記スライドベース4は、長尺状としており、このスライドベース4上には、ワーク搬送装置が装着され、このワーク搬送装置は、ワークが装着された状態でスライドベース4上を往復移動自在とされている。
【0041】
ここで、前記ワーク搬送装置について説明すると、図2、3において5がワーク搬送装置であり、また、図4は前記ワーク搬送装置5の概略を示す斜視図であり、本実施例において前記ワーク搬送装置5は、ワーク搬送装置本体6とワーク供給テーブル9を有している。
【0042】
そして前記ワーク搬送装置本体6は、スライド部と支持部を具備している。即ち、図において7がスライド部であり、本実施例において前記スライド部7は、側面形状をL字状あるいは反L字状とした板状としており、前記スライドベース4上を移動自在にしてスライドベース4に係合した係合部701と、この係合部701の後端部分に係合部701に直交する上方へ向けて連設された後壁部702とを具備している。
【0043】
そして、前記後壁部702の正面側には、ブロック状とした支持部8が配設されており、前記スライド部7と支持部8とでワーク搬送装置本体6が構成され、このワーク搬送装置本体6は、図示しない直行軸モーター等の移動手段を駆動することで、スライドベース4に沿って往復移動自在とされている。
【0044】
次に、図において9が、ワーク供給テーブルである。即ち、本実施例において前記支持部8にはワーク供給テーブル9が支持されており、このワーク供給テーブル9にワークを取り付けることとしている。
【0045】
ここで、前記ワーク供給テーブル9について説明すると、本実施例において前記ワーク供給テーブル9は、第1ステージと第2ステージとで構成され、第1ステージが前記支持部8に支持されている。
【0046】
即ち、図において10が第1ステージであり、本実施例において前記第1ステージ10は、前記支持部8に回動自在に連結された鉛直側回動軸1001を介して、前記支持部8の正面側に連設されている。
【0047】
そして、本実施例において前記第1ステージ10は、前記鉛直側回動軸1001に連設された円形状の回転体1002と、この回転体1002の正面側に連設された第1ステージ本体1003とを具備しており、第1ステージ本体1003は、板状としており、前記回転体1002の面に直交する方向に連設され、即ち、前記スライドベース4と平行方向に配設されている。
【0048】
そして、前記鉛直側回動軸1001は、図示しないモーター等の垂直側回動手段を駆動することで回動自在としており、これにより、前記第1ステージ10は、鉛直側回動軸1001を回動することで、鉛直方向へ回動自在としている。
【0049】
次に、図において11は第2ステージである。即ち、本実施例において前記第1ステージ10の上方には、第2ステージ11が連設されており、この第2ステージ11上にワークを取り付けることとしている。
【0050】
ここで、前記第2ステージ11について説明すると、本実施例において、前記第1ステージ本体1003の上部にはブロック状の基台1102が配設されており、この基台1102には、水平側回動軸1101によって、第2ステージ本体1103が回動自在に連結されている。そしてこれにより、前記第2ステージ11は、前記水平側回動軸1101を回動することで、第1ステージ10に対して、水平方向へ回動自在としている。
【0051】
このように、本実施例においては、第1ステージ10を鉛直方向に回動自在にするとともに、この第1ステージ10の上方には第2ステージ11を、水平方向に回動自在に連結して、この第2ステージ11にワークを取り付けることとしているために、第1ステージ10を所定角度だけ回動することでワークの側面を上方に向けることができ、また、それとともに、第2ステージ11を所定角度だけ回動することで、上方に向ける側面を、左側面、右側面、前側面あるいは後側面のいずれかにすることが可能である。
【0052】
次に、図において12はインクジェット装置である。即ち、本実施例の塗装装置1では、前記ワーク搬送装置5の軌道の途上にインクジェット装置12を配設しており、これにより、搬送しているワークに向けてインクを着弾して塗装を行うことを可能にしている。
【0053】
ここで、前記インクジェット装置12について説明すると、図において、本実施例における前記インクジェット装置12は、前記スライドベース4を挟む配置でスライドベース4の幅方向の両端側に配設された支柱13を有している。
【0054】
そして、前記支柱13に支持される形態で、前記支柱13間には、プリンタヘッド14が取り付けられ、前記ワーク搬送装置5は、前記プリンタヘッド14の下方側を通過する配置とされている。
【0055】
また、前記プリンタヘッド14は、前記支柱13に上下動自在に取り付けられており、図示しないモーターを駆動することで、プリンタヘッド14は、支柱13に対して上下動することとしている。
【0056】
そして、この構成により、第2ステージ11に取り付けられたワークWがワーク搬送装置5によって、プリンタヘッド14の下方を通過する際に、プリンタヘッド14からインクを落下させてワークW上にインクを着弾させ、これによりワークWを塗装することを可能としている。
【0057】
なお、本実施例における前記インクジェット装置12は、一般的に各種印刷等に使用されているインクジェット装置と同様に、プリンタヘッド14は、インクを落下させてワークに着弾させるために用いられ、このプリンタヘッド14には、図示しないインク供給部が連結されており、これにより、プリンタヘッド14にインクを供給してプリンタヘッド14から落下することとしている。
【0058】
また、本実施例において前記プリンタヘッド14には、インクを充填するインク室に複数のノズル部が形成されており、前記インク室に当接させたピエゾ素子に電圧を加えることで、ピエゾ素子によってインク室の壁に振動を加えて、それによって、インク室内のインクをノズル部から落下させることとしているが、この方式は周知の方式であるために詳細な説明は省略する。
【0059】
次に、図において16はUV硬化装置である。即ち、本実施例の塗装装置1では、前記ワーク搬送装置5の軌道の途上における前記インクジェット装置12の前方側にUV硬化装置16を配設している。
【0060】
そして、本実施例においてこのUV硬化装置16は、前記スライドベース4を挟む配置でスライドベース4の幅方向の両端側に配設された支柱15に支持される形態で、前記支柱13間に取り付けられており、前記ワーク搬送装置5は、前記UV硬化装置16の下方側を通過する配置とされている。
【0061】
そして、この構成により、第2ステージ11に取り付けられたワークWがワーク搬送装置5によって、UV硬化装置16の下方を通過する際に、ワークWに向けてUVを照射可能としている。
【0062】
なお、本実施例における前記UV硬化装置16は、一般的なUV硬化装置と同様に、光源としてUVを照射するためのUV照射手段を備え、このUV照射手段からワークに向けてUVを照射することで、前記インクジェット装置12においてワークに着弾したインクを硬化させて塗装を完了させることとしている。
【0063】
また、図において17はブロアーであり、本実施例においては、ブロアー17を前記UV硬化装置16に連結して、UV硬化装置16の下方部分からエアーを塗装スペース内に送り込み、これにより、ケーシング3内を常に陽圧にして、外部からのゴミの侵入を防止している。
【0064】
次に、本実施例の塗装装置1の制御系について説明すると、図5は本実施例の塗装装置1の構成を示すブロック図であり、図5において、本実施例の塗装装置では、装置全体の作動を制御するための制御部21を有しており、本実施例においてこの制御部21としてはマイコンを用いている。
【0065】
そして、制御部21には、前記ワーク搬送装置5をスライドベース4に沿って往復移動させるための直行軸モーター等の移動手段25、第1ステージ10を鉛直方向へ回動するためのモーター等の鉛直側回動手段26、第2ステージ11を水平方向に回動させるためのモーター等の水平側回動手段27、前記インクジェット装置12、ブロアー17、画像処理装置28、UV硬化装置16、電源装置22が接続されるとともに、各種の設定等を行うための操作部23、表示部24が接続され、これにより、制御部21の制御により装置全体を作動させることとしている。
【0066】
即ち、本実施例の塗装装置1では、制御部21の制御によって、直行軸モーター等の移動手段25が駆動されてワーク搬送装置5がスライドベース4に沿って往復移動され、鉛直側回動手段26が駆動されて第1ステージ10が鉛直方向へ所定角度だけ回動し、水平側回動手段27が駆動されて第2ステージ11が所定角度だけ水平方向へ回動する。
【0067】
また、インク供給部から前記プリンタヘッド14にインクが供給されるとともに、プリンタヘッド14からインクが落下され、更に、プリンタヘッド14は支柱13に対して上下動されることとしている。
【0068】
即ち、次に、このように構成される本実施例の塗装装置1を用いた本発明の携帯端末用筐体の塗装方法(以下においては単に「塗装方法」という。)の実施例について説明すると、本実施例の塗装方法でワークの塗装を行う場合には、前記第2ステージ11にワークWを装着し、その状態で、前記ワーク搬送装置5を、前記スライドベース4に沿って往復移動させる。
【0069】
そして、前記ワーク搬送装置5を一方方向へ移動させる過程で、前記プリンタヘッド14の下方をワークWが通過する際に、プリンタヘッド14からインクを落下させ、これにより、ワークWの平面部分にインクを着弾させて、ワークWの平面部分の塗装を行う。
【0070】
次に、前記ワーク搬送装置5を前記と反対方向に移動させながら、ワークWの側面部分の塗装を行う。即ち、平面部分を塗装したワークWを取り付けている状態で、前記第1ステージ10を所定角度だけ鉛直方向へ右あるいは左回転させ、これにより、ワークの側面を上方に向け、また、それに先立ち、前記第2ステージ11を所定角度だけ水平方向へ回動して、それにより、ワークWの左側面、右側面、前側面あるいは後側面のいずれかの所望する面を上方へ向ける。
【0071】
更に、それとともに、前記プリンタヘッド14を所定長だけ上方に移動し、これにより、プリンタヘッド14の下方を通過するワークとプリンタヘッド14が衝突しないようにする。即ち、第1ステージ10を鉛直方向に回動すると、ワークの上端位置が上昇するが、このとき、インクジェット方式では、インクを確実にワークに着弾させるために、プリンタヘッドとワークとの距離を1mm程度にする必要があるため、プリンタヘッド14を上方に移動させずに、ワークの平面部分を塗装したときと同位置にプリンタヘッド14があると、第1ステージ10を回動させたワーク搬送装置5を移動させると、ワークがプリンタヘッド14と衝突してしまう。そのため、本実施例においては、第1ステージ10及び第2ステージ11を回動してワークの側面を塗装する際には、前記プリンタヘッド14を所定長だけ上方に移動して、プリンタヘッド14の下方を通過するワークとプリンタヘッド14が衝突しないようにする。
【0072】
そして、第1ステージ10及び第2ステージ11を所定角度だけ回動して塗装を行うための側面を上昇側に向けるとともにプリンタヘッド14を上昇した後に、ワーク搬送装置5を前記と反対方向に移動させながら、プリンタヘッド14の下方を通過するワークWに向けてプリンタヘッド14からインクを落下させ、これにより、ワークWの側面の塗装を行う。
【0073】
そして、その後は、第1ステージ10及び第2ステージ11の所定角度の回動と、プリンタヘッド14の上昇、ワーク搬送装置5の一方方向あるいは反対方向への移動、及び、プリンタヘッドからのインクの落下を繰り返して、ワークWのすべての側面の塗装を行う。即ち、第2ステージ11を所定角度だけ水平方向に回動するとともに第1ステージ10を所定角度だけ鉛直方向に回動し、ワークWの左右側面、前後側面のいずれかを上方に向けて、その状態でワーク搬送装置をスライドベース4に沿って移動させるとともに、プリンタヘッド14の下方をワークWが通過する際に、プリンタヘッド14からワークWに向けてインクを落下させる動作を繰り返し、これにより、ワークWの側面のすべての塗装を行う。
【0074】
また、インクジェット装置12からワークWにインクを落下させるときには、ワークの側面を確実に塗装可能なように、画像処理部28において予め画像データが作成された後に、この画像処理部28により予め画像処理されたデータに基づいて、インクジェット装置12が制御され、ワークWにおける画像通りの箇所に、プリンタヘッド14からインクら落下される。
【0075】
なお、第1ステージ10を回動してワークWの側面を上方に向ける際には、ワークWの側面をプリンタヘッド14に対して水平にする必要は無く、ワークWのエッジ部分がプリンタヘッド14に対向する配置にし、ワークWのエッジ部分及びその周辺部分を塗装するとよい。
【0076】
そして、本実施例においては、ワークの側面部分にインクを落下させるときには、前記プリンタヘッド14から落下させるインクの径は、ワークの平面部分に落下させるインクの径よりも大きくすることとしている。
【0077】
即ち、ワークを移動させながらワークに向けてインクを落下させると、ワークの移動に伴って、ワークに着弾させたインクの位置がずれていくが、このとき、ワークの側面部分をプリンタヘッド14に対して傾斜した状態にしてインクを着弾したときは、ワークの平面部分をプリンタヘッド14と水平にした状態にしてインクを着弾した場合と比較して、ワークの移動に伴って位置がずれながらワークに着弾した各インク間の距離が広くなってしまう。そのために、何らの手当てをしない場合には、平面部分の塗装の仕上がりと側面部分の塗装の仕上がりが異なってしまい、具体的には、平面部分の塗装の仕上がりに比較して、側面部分の塗装の仕上がりが粗くなってしまう。
【0078】
そこで、本実施例の塗装方法では、ワークの平面部分に落下させるインクの径に対して、ワークの側面部分に落下させるインクの径を大きくし、これにより、平面部分の塗装の仕上がりに対して側面部分の塗装の仕上がりが粗くなってしまうことを防止している。
【0079】
また、本実施例の塗装方法においては、ワークに着弾するインクとして、有機溶剤を含まないUV硬化塗料を用いており、これにより、塗装後に塗料を加熱乾燥する工程を無くすることを可能としている。
【0080】
そして次に、このようにして平面部分及び各側面部分にプリンタヘッド14からインクを落下させて着弾させたワークに対して、UV照射手段によってUV照射を行い、これにより、ワークに着弾させたインクを硬化し、これによりワークの塗装を完了する。
【0081】
このように、本実施例の塗装方法では、鉛直方向に回動自在の第1ステージと水平方向に回動自在とした第2ステージでワーク供給テーブルを構成するとともに、インクジェット装置のプリンタヘッドを上下動自在にして、第1ステージと第2ステージを回動することで、ワークにおける所望する側面を上方に向けるとともに、プリンタヘッドを上昇させ、これによりワークの側面をインクジェット方式により塗装可能としているために、垂直方向にしかインクを落とすことができないインクジェット方式の欠点を解決して、インクジェット方式によって、携帯用端末の筐体のような立体的なワークの表面すべての塗装を行うことが可能である。
【0082】
そのために、本実施例によれば、スプレーによって塗装を行うスプレー方式と異なり、塗装スペースを小さくすることができるとともに、インクの無駄を無くすることができ、それに伴い、ワークに吐着しないインクを回収する必要が無くなり、インク回収のための設備を備える必要が無く、コストを抑えることが可能であり、従って、塗料の無駄及び空調のためのエネルギーを抑えながら、携帯用端末の筐体のような立体的なワークの表面を塗装することが可能である。
【0083】
なお、本実施例の塗装装置では、タブレット型の携帯用端末の筐体を塗装するための塗装装置としているが、本発明における塗装対象はタブレット型の携帯用端末の筐体には限定されず、携帯用端末であればいずれでもよい。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の携帯端末用筐体の塗装装置及びそれを用いた塗装方法では、塗料の無駄を無くすることができるとともにそれに伴い塗料ミスト回収のための空調エネルギーを抑えつつ、ワークの側面の塗装も可能としているために、携帯端末用の筐体の塗装の全般に適用可能である。
【符号の説明】
【0085】
1 塗装装置
2 装置本体
3 ケーシング
4 スライドベース
5 ワーク搬送装置
6 ワーク搬送装置本体
7 スライド部
8 支持部
9 ワーク供給テーブル
10 第1ステージ
11 第2ステージ
12 インクジェット装置
13 支柱
14 プリンタヘッド
15 支柱
16 UV硬化装置
17 ブロアー
21 制御部
22 電源装置
23 操作部
24 表示部
25 直行軸モーター
26 鉛直側回動手段
27 水平側回動手段
28 画像処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット方式により携帯用端末の筐体を塗装するための携帯端末用筐体の塗装装置であって、
スライドベース(4)と、
該スライドベース(4)にスライドベース(4)上を移動自在に装着されたワーク搬送装置(5)と、
該ワーク搬送装置(5)の軌道の途上に配設されたインクジェット装置(12)と、
前記ワーク搬送装置(5)の軌道の途上における前記インクジェット装置(12)の前方側に配設されたUV硬化装置(16)と、
装置全体の作動を制御するための制御部(21)と、を具備して、
前記ワーク搬送装置(5)は、
前記スライドベース(4)に装着されてスライドベース(4)上を前後方向に移動自在とされたスライド部(7)と、該スライド部(7)に連設された支持部(8)と、を具備したワーク搬送装置本体(6)と、
前記支持部(8)に鉛直方向に回動自在に連結された第1ステージ(10)と、該第1ステージ(10)の上方に水平方向に回動自在に連結されるとともにその上面にワークが取り付けられる第2ステージ(11)と、を具備したワーク供給テーブル(9)と、を具備し、
前記インクジェット装置(12)は、
前記ワーク搬送装置(5)の移動の妨げにならない位置に配設された支柱(13)と、
前記ワーク搬送装置(5)における第2ステージ(11)に取り付けられたワーク上にインクを着弾可能な配置で前記支柱(13)に上下動自在に装着されたプリンタヘッド(14)と、を具備し、
前記UV硬化装置(16)は、前記ワークにUVを照射することで、前記インクジェット装置(12)においてワークに着弾したインクを硬化させるUV照射手段を具備して、
前記第2ステージ(11)にワークを取り付けた状態で前記ワーク搬送装置(5)を前記スライドベース(4)上を移動させつつ前記プリンタヘッド(14)からワークにインクを着弾させることで、インクジェット方式によってワークを塗装可能にするとともに、前記第1ステージ(10)及び第2ステージ(11)を所定角度回動することによって、前記プリンタヘッド(14)に対してワークを所定角度だけ傾けるとともに前記プリンタヘッド(14)を所定長だけ上昇することで、ワークの側面部分を塗装可能にした、ことを特徴とする携帯端末用筐体の塗装装置。
【請求項2】
請求項1に記載の携帯端末用筐体の塗装装置を用いた携帯端末用筐体の塗装方法であって、
前記第2ステージ(11)にワークを取り付けた状態で、前記ワーク搬送装置(5)を前記スライドベース(4)上を往復移動させながら、
前記インクジェット装置(12)によってワークの平面部分にインクを着弾することでワークの平面部分を塗装し、
前記第1ステージ(10)及び第2ステージ(11)を所定角度回動して、前記プリンタヘッド(14)に対するワークの向きを変更するとともに、前記プリンタヘッド(14)を所定長だけ上昇した状態で、ワークにインクを着弾することでワークの側面部分を塗装し、
その後、前記インクジェット装置によりワークに着弾させたインクを、前記UV照射手段によってUV照射により硬化する、ことを特徴とする携帯端末用筐体の塗装方法。
【請求項3】
ワークの側面部分を塗装する際にはプリンタヘッド(14)から落下させるインクの径を大きくすることを特徴とする請求項2に記載の携帯端末用筐体の塗装方法。
【請求項4】
有機溶剤を含まないインクを前記インクジェット装置(12)のプリンタヘッド(14)より落下させることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の携帯端末用筐体の塗装方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−228660(P2012−228660A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−98629(P2011−98629)
【出願日】平成23年4月26日(2011.4.26)
【出願人】(593081224)タクボエンジニアリング株式会社 (23)
【出願人】(509200554)イー・ジーシステム株式会社 (1)
【Fターム(参考)】