説明

放射線検出装置、放射線画像撮影システム及び温度補償方法

【課題】放射線変換パネルの温度変化に起因した該放射線変換パネルでの感度、暗電流、濃度段差及び残像のうち少なくとも1つの変化に対する温度補償を確実に行う。
【解決手段】放射線検出装置10は、被写体18を透過した放射線14を検出して放射線画像情報に変換する放射線変換パネル40と、前記放射線変換パネル40の温度を検出する温度検出手段36と、前記温度に基づいて前記放射線変換パネル40での感度、暗電流、濃度段差及び残像のうち少なくとも1つを補正する補正手段88とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被写体を透過した放射線を検出し、検出した前記放射線を放射線画像情報に変換する放射線変換パネルを備えた放射線検出装置と、該放射線検出装置を有する放射線画像撮影システムとに関する。また、本発明は、放射線変換パネルの温度変化に対応して温度補償を行う温度補償方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療分野において、被写体に放射線を照射し、該被写体を透過した前記放射線を放射線変換パネルに導いて放射線画像情報を撮影する放射線画像撮影システムが広汎に使用されている。前記放射線変換パネルとしては、前記放射線画像情報が露光記録される従来からの放射線フイルムや、蛍光体に前記放射線画像情報としての放射線エネルギを蓄積し、励起光を照射することで前記放射線画像情報を輝尽発光光として取り出すことのできる蓄積性蛍光体パネルが知られている。これらの放射線変換パネルは、前記放射線画像情報が記録された放射線フイルムを現像装置に供給して現像処理を行い、あるいは、前記蓄積性蛍光体パネルを読取装置に供給して読取処理を行うことで、可視画像を得ることができる。
【0003】
一方、手術室等においては、患者に対して迅速且つ的確な処置を施すため、撮影後の放射線変換パネルから直ちに放射線画像情報を読み出して表示できることが必要である。このような要求に対応可能な放射線変換パネルとして、放射線を電気信号に直接変換する直接変換型の放射線変換パネル、あるいは、前記放射線を可視光に一旦変換するシンチレータと、該可視光を電気信号に変換して読み出す固体検出素子とを用いた間接変換型の放射線変換パネルが開発されている。
【0004】
放射線検出器(放射線変換パネル)を収納する放射線検出装置に関し、特許文献1には、該放射線検出装置における放射線の照射面に加わる荷重を荷重センサで検出し、検出した前記荷重に基づいて前記放射線変換パネルの暗電流特性及び感度特性を補正することが提案されている。
【0005】
また、特許文献2には、温度センサで放射線変換パネルの温度を検出することにより前記放射線変換パネルの温度状況を把握すると共に、該温度が所定の温度範囲を逸脱した場合には警告して、前記放射線変換パネルへの給電を停止することが提案されている。
【0006】
さらに、特許文献3には、放射線変換パネルの出力側に配置された積分増幅器及びA/D変換器の温度変化に起因する前記積分増幅器及び前記A/D変換器のオフセット及びゲインの変動を抑制することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−357664号公報
【特許文献2】特開2006−128890号公報
【特許文献3】特開2007−229366号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、被写体に対する放射線画像情報の撮影を行う際には、該被写体を放射線検出装置に接触させた状態で、前記被写体に放射線を照射する。従って、前記放射線の照射中(前記放射線画像情報の撮影中)は、前記被写体の熱が前記放射線検出装置に収納された放射線変換パネルに伝達されることにより、前記放射線変換パネルの温度が上昇して、該放射線変換パネルでの感度、暗電流、濃度段差及び残像のうち少なくとも1つが変化するおそれがある。
【0009】
しかしながら、特許文献1〜3には、前記放射線変換パネルの温度変化に起因した該放射線変換パネルでの感度、暗電流、濃度段差及び残像のうち少なくとも1つの変化に対する温度補償について、何ら提案されていない。
【0010】
本発明は、上記の不具合を解消するためになされたものであり、放射線変換パネルの温度変化に起因した該放射線変換パネルでの感度、暗電流、濃度段差及び残像のうち少なくとも1つの変化に対する温度補償を確実に行うことが可能となる放射線検出装置、放射線画像撮影システム及び温度補償方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、放射線検出装置において、被写体を透過した放射線を放射線変換パネルで検出して放射線画像情報に変換する場合に、温度検出手段により前記放射線変換パネルの温度を検出し、補正手段により前記温度に基づいて前記放射線変換パネルでの感度、暗電流、濃度段差及び残像のうち少なくとも1つを補正することを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、温度検出手段が検出した放射線変換パネルの温度に基づいて、補正手段が前記放射線変換パネルでの感度、暗電流、濃度段差及び残像のうち少なくとも1つを補正するので、前記放射線変換パネルの温度変化に起因した前記感度、前記暗電流、前記濃度段差及び前記残像のうち少なくとも1つの変化に対する温度補償を確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施形態の放射線画像撮影システムの構成ブロック図である。
【図2】図1の放射線検出カセッテの内部構成図である。
【図3】図2のIII−III線に沿った断面図である。
【図4】図2のIV−IV線に沿った断面図である。
【図5】図2の放射線検出器の回路構成ブロック図である。
【図6】図1の放射線画像撮影システムの動作のフローチャートである。
【図7】図2のVII−VII線に沿った断面図である。
【図8】放射線検出カセッテの他の構成図である。
【図9】放射線検出カセッテの充電を行うクレードルの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、本実施形態に係る放射線検出装置(以下、放射線検出カセッテともいう。)10を適用した放射線画像撮影システム12の構成ブロック図である。
【0015】
放射線画像撮影システム12は、撮影条件に従った線量からなる放射線14を被写体としての患者18に照射するための放射線源16と、患者18を透過した放射線14を検出する放射線検出器(放射線変換パネル)40を収納した放射線検出カセッテ10と、放射線検出器40によって検出された放射線14に基づく放射線画像情報を表示する表示装置22と、放射線検出カセッテ10、放射線源16及び表示装置22を制御するコンソール(制御装置)20とを備える。コンソール20と、放射線検出カセッテ10、放射線源16及び表示装置22との間は、例えば、UWB(Ultra Wide Band)、IEEE802.11.a/g/n等のWiFi(Wireless Fidelity)又はミリ波を用いた無線通信による信号の送受信が行われる。なお、コンソール20には、病院内の放射線科において取り扱われる放射線画像情報やその他の情報を統括的に管理する放射線科情報システム(RIS)24が接続され、また、RIS24には、病院内の医事情報を統括的に管理する医事情報システム(HIS)26が接続される。
【0016】
放射線検出カセッテ10は、図2及び図3に示すように、放射線14を透過させる材料からなるケーシング(筐体)28を備える。放射線14が照射されるケーシング28の照射面30には、ケーシング28に対する患者18の接触を検出するためのシート状の接触センサ(接触検出手段)32が設けられている。接触センサ32は、例えば、患者18が接触して該接触センサ32を照射面30側に押圧した際に、接触箇所に作用する押圧力(圧力変動)を接触検出信号に変換する圧電センサから構成される。
【0017】
一方、ケーシング28の内部には、患者18による放射線14の散乱線を除去するグリッド34、温度センサ(温度検出手段)36、患者18を透過した放射線14を検出する放射線検出器40、及び、放射線14のバック散乱線を吸収する鉛板42が、照射面30に対して順に配設される。なお、ケーシング28の照射面30をグリッド34として構成してもよい。
【0018】
図4に示すように、放射線検出器40は、患者18を透過した放射線14を一旦可視光に変換するGOS(Gd22S)又はCsI等の蛍光体からなるシンチレータ72と、薄膜トランジスタ(TFT:Thin Film Transistor)52(図5参照)のアレイが形成され、放射線14及び可視光を透過可能なTFT層74と、アモルファスシリコン(a−Si)等の物質からなる固体検出素子(以下、画素ともいう。)50を用いて前記可視光を電気信号に変換する光電変換層76とを、基板71上に順に積層することにより形成される。
【0019】
温度センサ36は、電気絶縁層78内に所定間隔で複数の温度検出素子80を光電変換層76に沿って配設することにより構成される。この場合、サーミスタ等で構成される各温度検出素子80は、光電変換層76中、対向する画素50の温度を温度検出信号として出力するので、各温度検出素子80を有する温度センサ36は、各画素50の温度を放射線検出器40(を構成する光電変換層76)の表面温度として検出する。
【0020】
また、ケーシング28の内部には、図2に示すように、放射線検出カセッテ10の電源であるバッテリ44と、バッテリ44から供給される電力により放射線検出器40を駆動制御するカセッテ制御部46と、放射線検出器40によって検出した放射線14の情報を含む信号をコンソール20との間で送受信する送受信機(無線通信手段)48とが収容される。なお、カセッテ制御部46及び送受信機48には、放射線14が照射されることによる損傷を回避するため、ケーシング28の照射面30側に鉛板等を配設しておくことが好ましい。また、バッテリ44は、放射線検出カセッテ10内の接触センサ32、温度センサ36、放射線検出器40、カセッテ制御部46及び送受信機48に電力を供給する。
【0021】
図5は、放射線検出器40の回路構成ブロック図である。放射線検出器40は、可視光を電気信号に変換するa−Si等の物質からなる各画素50が形成された光電変換層76を、行列状のTFT52のアレイ(TFT層74)の上に配置した構造を有する。この場合、各画素50では、可視光を電気信号に変換することにより発生した電荷が蓄積され、各行毎にTFT52を順次オンにすることにより前記電荷を画像信号として読み出すことができる。
【0022】
各画素50に接続されるTFT52には、行方向と平行に延びるゲート線54と、列方向と平行に延びる信号線56とが接続される。各ゲート線54は、ライン走査駆動部58に接続され、各信号線56は、マルチプレクサ66に接続される。ゲート線54には、行方向に配列されたTFT52をオンオフ制御する制御信号Von、Voffがライン走査駆動部58から供給される。この場合、ライン走査駆動部58は、ゲート線54を切り替える複数のスイッチSW1と、スイッチSW1の1つを選択する選択信号を出力するアドレスデコーダ60とを備える。アドレスデコーダ60には、カセッテ制御部46からアドレス信号が供給される。
【0023】
また、信号線56には、列方向に配列されたTFT52を介して各画素50に保持されている電荷が流出する。この電荷は、増幅器62によって増幅される。増幅器62には、サンプルホールド回路64を介してマルチプレクサ66が接続される。マルチプレクサ66は、信号線56を切り替える複数のスイッチSW2と、スイッチSW2の1つを選択する選択信号を出力するアドレスデコーダ68とを備える。アドレスデコーダ68には、カセッテ制御部46からアドレス信号が供給される。マルチプレクサ66には、A/D変換器70が接続され、A/D変換器70によってデジタル信号に変換された放射線画像情報がカセッテ制御部46に供給される。
【0024】
従って、放射線検出器40におけるライン走査駆動部58からTFT52までの箇所、及び、TFT52からA/D変換器70までの箇所は、各画素50から電荷(電気信号)を読み出し、読み出した電荷を放射線画像情報として取得する読取回路(読出部)69を構成する。
【0025】
なお、スイッチング素子として機能するTFT52は、CMOS(Complementary Metal−Oxside Semiconductor)イメージセンサ等、他の撮像素子と組み合わせて実現してもよい。さらにまた、TFTで言うところのゲート信号に相当するシフトパルスにより電荷をシフトしながら転送するCCD(Charge−Coupled Device)イメージセンサに置き換えることも可能である。
【0026】
さらに、放射線検出カセッテ10のカセッテ制御部46は、図1に示すように、アドレス信号発生部82と、画像メモリ84と、カセッテIDメモリ86と、感度補正部(補正手段)88とを備える。
【0027】
アドレス信号発生部82は、放射線検出器40を構成するライン走査駆動部58のアドレスデコーダ60及びマルチプレクサ66のアドレスデコーダ68に対してアドレス信号を供給する。画像メモリ84は、放射線検出器40によって検出された放射線画像情報を記憶する。カセッテIDメモリ86は、放射線検出カセッテ10を特定するためのカセッテID情報を記憶する。
【0028】
感度補正部88は、接触センサ32から接触検出信号が入力されているときに、患者18が接触センサ32を介してケーシング28に接触しているものと判断し、さらに、温度検出素子80からの温度検出信号の示す画素50の温度(放射線検出器40を構成する光電変換層76の表面温度)に基づいて、放射線検出器40の感度を補正する温度補償処理を行う。
【0029】
すなわち、放射線14の照射中(放射線画像情報の撮影中)は、患者18の放射線検出カセッテ10への接触により、該患者18の体温に応じた熱がケーシング28内に収納される放射線検出器40に伝達されることにより、放射線検出器40を構成する光電変換層76(の各画素50)の温度が上昇して、放射線検出器40の感度(各画素50から出力される電荷の感度)が変化するおそれがある。そこで、感度補正部88は、接触検出信号が入力される時間内において、各温度検出素子80からの温度検出信号に基づき、所定の閾値温度よりも高い温度を検出した温度検出素子80に対向する画素50からTFT52を介して流出される電荷を増幅する増幅器62のゲインを調整することにより、放射線検出器40の感度の変化に対する温度補償を行う。
【0030】
送受信機48は、カセッテIDメモリ86に記憶されたカセッテID情報及び画像メモリ84に記憶された放射線画像情報を無線通信によりコンソール20に送信する。
【0031】
本実施形態に係る放射線検出カセッテ10及び放射線画像撮影システム12は、基本的には以上のように構成されるものであり、次にその動作(温度補償方法)について、図6のフローチャートを参照しながら説明する。
【0032】
ステップS1において、撮影対象である患者18の患者情報は、撮影に先立ち、コンソール20に予め登録される。撮影部位や撮影方法が予め決まっている場合には、これらの撮影条件も予め登録しておく。
【0033】
手術室、検診又は病院内での回診等において、放射線画像情報の撮影を行う場合、医師又は放射線技師は、例えば、患者18とベッドとの間の所定位置に、照射面30を放射線源16側とした状態で放射線検出カセッテ10を設置する。これにより、患者18は、接触センサ32を介して照射面30に接触するので、該接触センサ32は、接触検出信号を感度補正部88に出力する(ステップS2)。次に、放射線源16を放射線検出カセッテ10に対向する位置に適宜移動させた後、医師又は放射線技師は、放射線源16の撮影スイッチを操作して撮影を行う。
【0034】
前記撮影スイッチの操作に起因して、放射線源16は、無線通信により、コンソール20に対して撮影条件の送信を要求し、コンソール20は、受信した前記要求に基づいて、当該患者18の撮影部位に係る撮影条件を、放射線源16に送信する。放射線源16は、前記撮影条件を受信すると、当該撮影条件に従って、所定の線量からなる放射線14を患者18に照射する(ステップS3)。
【0035】
患者18を透過した放射線14は、放射線検出カセッテ10のグリッド34によって散乱線が除去された後、放射線検出器40に照射される。放射線検出器40を構成するシンチレータ72は、放射線14の強度に応じた強度の可視光を発光し、光電変換層76を構成する各画素50は、可視光を電気信号に変換し、電荷として蓄積する(ステップS4)。次いで、各画素50に保持された患者18の放射線画像情報である電荷情報は、カセッテ制御部46を構成するアドレス信号発生部82からライン走査駆動部58及びマルチプレクサ66に供給されるアドレス信号に従って読み出される。
【0036】
すなわち、ライン走査駆動部58のアドレスデコーダ60は、アドレス信号発生部82から供給されるアドレス信号に従って選択信号を出力してスイッチSW1の1つを選択し、対応するゲート線54に接続されたTFT52のゲートに制御信号Vonを供給する。一方、マルチプレクサ66のアドレスデコーダ68は、アドレス信号発生部82から供給されるアドレス信号に従って選択信号を出力してスイッチSW2を順次切り替え、ライン走査駆動部58によって選択されたゲート線54に接続された各画素50に保持された電荷情報である放射線画像情報を信号線56を介して順次読み出す。
【0037】
放射線検出器40の選択されたゲート線54に接続された各画素50から読み出された放射線画像情報は、各増幅器62によって増幅された後、各サンプルホールド回路64によってサンプリングされ、マルチプレクサ66を介してA/D変換器70に供給され、デジタル信号に変換される。デジタル信号に変換された放射線画像情報は、カセッテ制御部46の画像メモリ84に一旦記憶される。
【0038】
同様にして、ライン走査駆動部58のアドレスデコーダ60は、アドレス信号発生部82から供給されるアドレス信号に従ってスイッチSW1を順次切り替え、各ゲート線54に接続されている各画素50に保持された電荷情報である放射線画像情報を信号線56を介して読み出し、マルチプレクサ66及びA/D変換器70を介してカセッテ制御部46の画像メモリ84に記憶させる。
【0039】
その際、温度センサ36の各温度検出素子80は、対向する画素50の温度(放射線検出器40を構成する光電変換層76の表面温度)を温度検出信号として感度補正部88に出力する(ステップS5)。感度補正部88は、接触検出信号が入力されているときに、温度検出信号の示す温度が閾値温度を越えているか否かを判定し(ステップS6)、前記閾値温度を越えている温度を検出した温度検出素子80があれば(ステップS6:YES)、患者18からケーシング28を介して放射線検出器40に伝達される熱により、該温度検出素子80に対向する画素50から出力される電荷(電気信号)の感度が変化しているものとみなして、該画素50の電荷が入力される増幅器62のゲインを調整する温度補償処理を行う(ステップS7)。
【0040】
なお、ステップS6において、閾値温度を越える温度を検出した温度検出素子80がない場合には(ステップS6:NO)、感度補正部88は、ステップS7の温度補償処理を行わない。
【0041】
画像メモリ84に記憶された放射線画像情報は、送受信機48を介して、無線通信によりコンソール20に送信される(ステップS8)。ステップS9において、コンソール20は、受信した放射線画像情報に対して所定の画像処理を施した後、登録されている患者18の患者情報と関連付けて該放射線画像情報を記憶する。なお、画像処理の施された放射線画像情報は、コンソール20から表示装置22に送信され、表示装置22は、放射線画像情報を表示する。
【0042】
以上説明したように、本実施形態に係る放射線検出カセッテ10及び放射線画像撮影システム12によれば、温度センサ36を構成する各温度検出素子80が検出した各画素50の温度(放射線検出器40を構成する光電変換層76の表面温度)に基づいて、感度補正部88が放射線検出器40の感度を補正するので、放射線検出器40の温度変化に起因して該放射線検出器40の感度が変化しても、放射線検出器40に対する温度補償を確実に行うことができる。
【0043】
このように、可搬型の放射線検出カセッテ10が上述した温度補償機能を備えることにより、該放射線検出カセッテ10のさらなる軽量化・薄型化を容易に実現することができる。すなわち、特許文献2のような据え置き型(ビルトインタイプ)の放射線検出カセッテでは、空冷ファンや水冷機構により放射線検出カセッテに対する温度制御が可能であるが、放射線検出カセッテ10のような可搬型の放射線検出カセッテに空冷ファンや水冷機構を適用した場合には、軽量化・薄型化を図ることができない。従って、本実施形態に係る放射線検出カセッテ10では、前記温度補償機能を備えることにより、可撓性を有するシート状の放射線検出カセッテを容易に実現することが可能となる。
【0044】
また、感度補正部88は、各画素50の温度に基づいて、各画素50から読み出される電荷(電気信号)の感度を補正することにより、放射線検出器40の温度変化に起因した電荷の感度の変化を効果的に抑制することができる。
【0045】
さらに、感度補正部88は、ケーシング28に対する患者18の接触を接触センサ32が検出した後に、各画素50の温度に基づいて電荷の感度を補正するので、患者18からケーシング28を介して放射線検出器40に伝達される熱による各画素50の温度上昇に起因した電荷の感度の変化を効率よく抑制することができる。また、感度補正部88は、接触センサ32から接触検出信号が入力されているときに、放射線検出器40に対する温度補償処理を行うので、患者18がケーシング28に接触していない非撮影時に誤って温度補償処理を行うことを確実に防止することができる。
【0046】
さらにまた、基板71上にシンチレータ72、TFT層74、光電変換層76の順に積層され(照射面30に対して光電変換層76、TFT層74及びシンチレータ72の順に配置され)ているので、シンチレータ72で発生した可視光を、光電変換層76にて効率よく電気信号に変換することができ、この結果、高画質の放射線画像情報を得ることができる。
【0047】
なお、本実施形態では、温度検出素子80が画素50の温度を検出し、感度補正部88が画素50の温度に基づいて放射線検出器40の感度を補正する場合について説明したが、この構成に代えて、患者18の接触センサ32側の体温を検出し、感度補正部88が前記体温から各画素50の温度を推定し、推定した温度に基づいて放射線検出器40の感度を補正してもよい。この場合、例えば、接触センサ32に温度検出素子80のアレイ(体温検出手段)を内蔵させることにより、感度補正部88は、接触センサ32に対する患者18の接触面積と、前記体温を検出した温度検出素子80の配置箇所とに基づいて、患者18の撮影部位を特定し、特定した前記撮影部位に対向する画素50について、推定した温度が前記閾値温度を越えていれば、該画素50から出力される電荷の感度を補正する。
【0048】
また、感度補正部88が画素50の温度に基づいて放射線検出器40の感度を補正する上記構成に代えて、下記(1)〜(3)の構成により温度補償処理を行ってもよい。すなわち、(1)光電変換層76への可視光の入射がないにも関わらず画素50に電荷が蓄積されることにより、該電荷に起因した暗電流(電荷のオフセット)が発生する場合に、補正手段は、画素50の温度に基づいて前記暗電流を補正する。(2)積分増幅器としての増幅器62間で濃度段差(増幅器62で増幅される電荷のレベル差)が発生している場合に、補正手段は、画素50の温度に基づいて前記濃度段差を補正する。(3)前回の撮影により得られた放射線画像情報の残像が画素50に電荷として蓄積されている場合に、補正手段は、画素50の温度に基づいて、今回の撮影時に各画素50から出力される電荷のレベルを補正する。これにより、画素50の温度変化に起因した放射線検出器40での暗電流、濃度段差及び残像のうち少なくとも1つの変化に対する温度補償を確実に行うことができる。
【0049】
従って、本実施形態では、画素50の温度変化に起因した放射線検出器40での感度、暗電流、濃度段差及び残像のうち少なくとも1つの変化に対する温度補償を確実に行うことが可能である。
【0050】
さらに、本実施形態では、コンソール20と、放射線検出カセッテ10、放射線源16及び表示装置22との間で、無線通信により信号の送受信が行われるので、信号を送受信するためのケーブルが不要となり、医師又は放射線技師の作業に支障を来すおそれがない。従って、医師又は放射線技師は、自己の作業を効率よく行うことが可能となる。
【0051】
さらにまた、本実施形態では、医師又は放射線技師による放射線源16の撮影スイッチの操作に起因して放射線画像情報の撮影が行われるが、医師又は放射線技師によるコンソール20の操作に起因して放射線画像情報の撮影が行われるようにしてもよい。
【0052】
さらにまた、本実施形態では、放射線検出カセッテ10を図7の構成に代えてもよい。図7では、基板71から照射面30側に向かって、TFT層74、光電変換層76及びシンチレータ72の順に積層されている。この場合でも、シンチレータ72で変換された可視光を光電変換層76にて電気信号に変換することが可能であると共に、光電変換層76を構成する各画素50の温度を各温度検出素子80により確実に検出することができるので、上述した各効果が得られることは勿論である。
【0053】
さらにまた、本実施形態では、上述した構成に代えて、例えば、入射した放射線14の線量をアモルファスセレン(a−Se)等の物質からなる固体検出素子を用いた光電変換層によって直接電気信号に変換してもよい。
【0054】
また、光読取方式の放射線検出器を利用して放射線画像情報を取得することもできる。この光読取方式の放射線検出器では、マトリクス状に配列された各固体検出素子に放射線が入射すると、その線量に応じた静電潜像が固体検出素子に蓄積記録される。静電潜像を読み取る際には、放射線検出器に読取光を照射し、発生した電流の値を放射線画像情報として取得する。なお、放射線検出器は、消去光を放射線検出器に照射することで、残存する静電潜像である放射線画像情報を消去して再使用することができる(特開2000−105297号公報参照)。
【0055】
さらに、放射線検出カセッテ10は、手術室等で使用されるとき、血液やその他の雑菌が付着するおそれがある。そこで、放射線検出カセッテ10を防水性、密閉性を有する構造とし、必要に応じて殺菌洗浄することにより、1つの放射線検出カセッテ10を繰り返し続けて使用することができる。
【0056】
また、放射線検出カセッテ10と外部機器との間での無線通信は、通常の電波による通信に代えて、赤外線等を用いた光無線通信で行うようにしてもよい。
【0057】
さらに、図8に示すように放射線検出カセッテ500を構成すると、一層好適である。
【0058】
すなわち、放射線検出カセッテ500には、ケーシング502の放射線照射面側に、撮影領域及び撮影位置の基準となるガイド線504が形成される。このガイド線504を用いて、放射線検出カセッテ500に対する被写体(患者18)の位置決めを行い、また、放射線14の照射範囲を設定することにより、放射線画像情報を適切な撮影領域に記録することができる。
【0059】
放射線検出カセッテ500の撮影領域外の部位には、当該放射線検出カセッテ500に係る各種情報を表示する表示部506を配設する。この表示部506には、放射線検出カセッテ500に記録される患者18のID情報、放射線検出カセッテ500の使用回数、累積曝射線量、放射線検出カセッテ500に内蔵されているバッテリ44の充電状態(残容量)、放射線画像情報の撮影条件、患者18の放射線検出カセッテ500に対するポジショニング画像等を表示させる。この場合、放射線技師は、例えば、表示部506に表示されたID情報に従って患者18を確認すると共に、当該放射線検出カセッテ500が使用可能な状態にあることを事前に確認し、表示されたポジショニング画像に基づいて患者18の所望の撮影部位を放射線検出カセッテ500に位置決めして、最適な放射線画像情報の撮影を行うことができる。
【0060】
また、放射線検出カセッテ500に取手部508を形成することにより、当該放射線検出カセッテ500の取扱い、持ち運びが容易になる。
【0061】
放射線検出カセッテ500の側部には、ACアダプタの入力端子510と、USB(Universal Serial Bus)端子512と、メモリカード514を装填するためのカードスロット516とを配設すると好適である。
【0062】
入力端子510は、放射線検出カセッテ500に内蔵されているバッテリ44の充電機能が低下しているとき、あるいは、バッテリ44を充電するのに十分な時間を確保できないとき、ACアダプタを接続して外部から電力を供給することにより、当該放射線検出カセッテ500を直ちに使用可能な状態とすることができる。
【0063】
USB端子512又はカードスロット516は、放射線検出カセッテ500がコンソール20等の外部機器との間で無線通信による情報の送受信を行うことができないときに利用することができる。すなわち、USB端子512にケーブルを接続することにより、外部機器との間で有線通信による情報の送受信を行うことができる。また、カードスロット516にメモリカード514を装填し、このメモリカード514に必要な情報を記録した後、メモリカード514を取り出して外部機器に装填することにより、情報の送受信を行うことができる。
【0064】
手術室や病院内の必要な箇所には、図9に示すように、放射線検出カセッテ10が装填され、内蔵されるバッテリ44の充電を行うクレードル518を配置すると好適である。この場合、クレードル518は、バッテリ44の充電だけでなく、クレードル518の無線通信機能又は有線通信機能を用いて、RIS24、HIS26、コンソール20等の外部機器との間で必要な情報の送受信を行うようにしてもよい。送受信する情報には、クレードル518に装填された放射線検出カセッテ10に記録された放射線画像情報を含めることができる。
【0065】
また、クレードル518に表示部520を配設し、この表示部520に対して、装填された当該放射線検出カセッテ10の充電状態や、放射線検出カセッテ10から取得した放射線画像情報を含む必要な情報を表示させるようにしてもよい。
【0066】
また、複数のクレードル518をネットワークに接続し、各クレードル518に装填されている放射線検出カセッテ10の充電状態をネットワークを介して収集し、使用可能な充電状態にある放射線検出カセッテ10の所在を確認できるように構成することもできる。
【0067】
なお、本発明は、上述の実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0068】
10…放射線検出カセッテ
12…放射線画像撮影システム
14…放射線
16…放射線源
18…患者
20…コンソール
22…表示装置
28…ケーシング
30…照射面
32…接触センサ
36…温度センサ
40…放射線検出器
44…バッテリ
46…カセッテ制御部
48…送受信機
50…画素
52…TFT
62…増幅器
69…読出回路
72…シンチレータ
74…TFT層
76…光電変換層
80…温度検出素子
88…感度補正部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被写体を透過した放射線を検出して放射線画像情報に変換する放射線変換パネルと、
前記放射線変換パネルの温度を検出する温度検出手段と、
前記温度に基づいて前記放射線変換パネルでの感度、暗電流、濃度段差及び残像のうち少なくとも1つを補正する補正手段と、
を有することを特徴とする放射線検出装置。
【請求項2】
請求項1記載の装置において、
該放射線検出装置は、可搬型の放射線検出装置であり、
前記温度検出手段は、前記放射線変換パネルの表面温度を検出することを特徴とする放射線検出装置。
【請求項3】
請求項2記載の装置において、
前記放射線変換パネルは、前記放射線を可視光に変換するシンチレータと、前記可視光を電気信号に変換する固体検出素子と、前記固体検出素子から前記電気信号を読み出し、読み出した前記電気信号を前記放射線画像情報として取得する読出部とを有し、
前記温度検出手段は、前記固体検出素子の温度を前記放射線変換パネルの表面温度として検出し、
前記補正手段は、前記表面温度に基づいて、前記読出部が読み出す前記電気信号の感度、前記暗電流、前記濃度段差及び前記残像のうち少なくとも1つを補正することを特徴とする放射線検出装置。
【請求項4】
請求項3記載の装置において、
前記放射線変換パネル、前記温度検出手段及び前記補正手段は、略矩形状の筐体内に収容され、
前記筐体における前記放射線の照射面側には、前記筐体に対する前記被写体の接触を検出するための接触検出手段が設けられ、
前記補正手段は、前記筐体に対する前記被写体の接触を前記接触検出手段が検出した後に、前記表面温度に基づいて、前記電気信号の感度、前記暗電流、前記濃度段差及び前記残像のうち少なくとも1つを補正することを特徴とする放射線検出装置。
【請求項5】
請求項4記載の装置において、
前記筐体内では、前記照射面に対して、前記固体検出素子及び前記シンチレータの順に配置されているか、あるいは、前記シンチレータ及び前記固体検出素子の順に配置されていることを特徴とする放射線検出装置。
【請求項6】
請求項4又は5記載の装置において、
前記放射線検出装置は、放射線検出カセッテであり、
前記筐体は、前記放射線を透過させる材料からなることを特徴とする放射線検出装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の装置において、
前記温度検出手段は、前記放射線検出装置に接触する前記被写体の温度を検出し、検出した前記被写体の温度に基づいて前記放射線変換パネルの温度を推定し、
前記補正手段は、推定した前記放射線変換パネルの温度に基づいて前記放射線変換パネルでの前記感度、前記暗電流、前記濃度段差及び前記残像のうち少なくとも1つを補正することを特徴とする放射線検出装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の装置において、
外部と無線通信が可能な無線通信手段と、前記放射線変換パネル、前記温度検出手段、前記補正手段及び前記無線通信手段を駆動するバッテリとをさらに有することを特徴とする放射線検出装置。
【請求項9】
放射線を被写体に照射する放射線源と、
前記被写体を透過した前記放射線を検出して放射線画像情報に変換する放射線変換パネル、前記放射線変換パネルの温度を検出する温度検出手段、並びに、前記温度に基づいて前記放射線変換パネルでの感度、暗電流、濃度段差及び残像のうち少なくとも1つを補正する補正手段を備える放射線検出装置と、
前記放射線源及び前記放射線検出装置を制御する制御装置と、
を有することを特徴とする放射線画像撮影システム。
【請求項10】
請求項9記載のシステムにおいて、
前記放射線検出装置は、前記放射線変換パネルにて変換された前記放射線画像情報を、無線通信により前記制御装置に送信することを特徴とする放射線画像撮影システム。
【請求項11】
被写体を透過した放射線を放射線変換パネルで検出して放射線画像情報に変換する場合に、
温度検出手段により前記放射線変換パネルの温度を検出し、
補正手段により前記温度に基づいて前記放射線変換パネルでの感度、暗電流、濃度段差及び残像のうち少なくとも1つを補正することを特徴とする温度補償方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−75671(P2010−75671A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−148744(P2009−148744)
【出願日】平成21年6月23日(2009.6.23)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】