説明

放電超音波重畳研削加工方法

【課題】加工数の増加による研削抵抗の増加を更に抑制できる放電超音波重畳研削加工方法を提供する。
【解決手段】研削工具70の砥石7あるいは被加工物2に超音波振動を印加し、導電性の被加工物2に放電エネルギーを放電電源24から与えながら研削する。研削工具70と被加工物2との間にパルス電圧を印加し、両者間で放電させて、詰まった切屑を放電作用ならびに超音波振動で除去し、かつ研削工具70と被加工物2との相対的距離を演算された変化速度(送り速度)fgで移動させながら所定の食込みの量tgで研削する。この研削加工中の放電状態のモニタリングを放電電圧、及び放電電流の双方で行なって、このモニタリングの結果を用いて、安定放電を維持するように、少なくとも変化速度fgを制御する。必要な仕上げ面性状を満足し、研削抵抗を低減して、設備の小型化ないし低価格化を実現することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波振動援用研削と放電複合研削を同時に作用させる放電超音波重畳研削加工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
研削加工の分野においては、製造費に占める固定費を削減するため、加工の高速化が重要課題になっている。従来の高速化の取り組みには図18のように砥石の回転を高速化する、あるいは砥粒を高硬度化する方法がある。
【0003】
すなわち、図18は従来の一般的な砥石7を用いた研削加工の高速化を説明する説明図である。この図18において、回転する砥石7の回転速度を高速化し、被加工物(ワーク)2に砥石7を押し付けて研削加工を行なう。しかし、この図18の方法では、加工数が増加するに従って研削抵抗が図19のように増加する。図19は研削加工において、加工数と研削抵抗との関係を示すグラフである。
【0004】
図19において、加工数が増加するに従って研削抵抗が増加する原因は、砥粒間に切屑が溜まるからである。このため、加工数が増加した所定段階で砥石7を整形しているが、この整形は、使用できる高級砥粒を捨てると言う問題がある。
【0005】
よって新たな高速化の考え方として、超音波振動援用研削と放電複合研削を同時に作用させる放電超音波重畳研削加工方法が着目されている。これにより、図20のように常に除去砥石新生面を維持し、研削抵抗を低減することが可能となる。
【0006】
図21は、放電超音波重畳研削加工の効果を説明するためのグラフである。図21は、横軸に加工数を取り、縦軸に研削抵抗をとったものである。このグラフ作成のために使用した砥石7はCBN#140メタルボンドであり、被加工物(ワーク)2はS48CHRC46であって、研削速度は30m/minとして比較した。
【0007】
図21の特性C1は、研削のみで加工したものであり加工数の増加につれて研削抵抗が増加し、かつ加工数の少ない初期段階から研削抵抗が高い。これは切屑の詰まりが大きいためである。従って、従来寿命で示した砥石7をドレス(整形または目立て)するドレスインターバルが必要となる。これでは上述したように、使用できる高級砥粒を捨てると言う問題がある。
【0008】
研削に放電を重畳させたものでは、特性C2のように加工初期の研削抵抗は1/5まで低下する。しかし、加工数の増加につれて、急激に研削抵抗が増加することがあることが確認された。このときの砥石表面性状を観察すると、放電溶着物が付着していることが判明した。
【0009】
図21の特性C3は、超音波をかけながら研削する超音波振動援用研削による場合であり、加工初期の研削抵抗は低下し、同じ加工数ならば上記研削のみで加工した場合よりも研削抵抗は少なくなる。また、切屑のつまりが小さい。
【0010】
そこで、超音波振動援用研削と放電複合研削を同時に作用させる放電超音波重畳研削加工方法を用いて、良好な制御を実現すれば、特性C4のように、加工初期の研削抵抗を低下させると共に、加工数の増加によっても研削抵抗の増加を抑制し、研削工具の砥石7の寿命を大幅に増加させ得ることが判明した。よって、理想的な制御状態を実現する放電超音波重畳研削加工方法の実現が望まれる。
【0011】
そこで、この種の超音波振動援用研削と放電複合研削を同時に作用させる放電超音波重畳研削加工方法について調査した結果次に述べる資料が存在した。特許文献1に記載の超音波電解放電研削孔あけ加工方法及び装置は、先端が研磨部となって回転するドリルと、そのドリルで加工される被加工物との間に電圧または電流を印加するとともに、ドリルの回転軸方向に超音波を印加して、被加工物に孔あけ加工するものである。つまり超音波と放電と研削とを複合させて加工している。
【0012】
次に、特許文献2に記載のホーニング方法、研削方法、及びこれらの方法を実施する装置は、超音波などで微振動を加えた砥石の、被加工物に対する研削抵抗を検出する研削抵抗検出手段を備え、その研削抵抗検出手段で検出された研削抵抗が予め定められた値になると、放電電圧印加手段で被加工物とボンド層との間に電圧を印加している。また、研削抵抗を動力センサで計測している。
【0013】
次に、特許文献3に記載の機上放電ツルーイング/ドレッシング方法は、放電を安定させるため、平均放電電圧レベルを電圧レベル識別回路内で設定した第1閾値電圧と比較して、平均放電電圧レベルの方が低い場合は、砥石の食込みの量と送り速度とを可変し、第1閾値より低い第2閾値電圧と比較して平均放電電圧レベルの方が低い場合は、砥石の送り速度だけを可変している。つまり、放電安定化のために砥石の食込みの量と送り速度とを制御している。
【0014】
次に、特許文献4には、電解作用が少なく、従ってその結果として、例えば電極構成材料中に含まれている他よりも易電解溶出性の金属、合金の溶出を防止ないしは従来よりも少なくした加工が可能な、そして一般的には電解作用の割合が多いことによる欠点を除去した加工用電源を提案するものである。
【0015】
そのために、この特許文献4は、加工間隙の平均加工電圧、平均加工電流または放電率を検出し、平均加工電圧が高くなった場合、もしくは平均加工電流または放電率が所定基準に対して低下している場合に、加工電極と被加工物との間に印加する電圧パルスの周波数を低下させることにより、実質的に無負荷電圧が加工間隙に印加されている時間を減少させることを可能にしている。
【0016】
更に、電圧パルスの印加休止時間に、スイッチング素子により間隙を電気的に短絡するか、前記電圧パルスと逆極性の電圧パルスを印加するようにして休止時間中の間隙電圧を零または逆電圧とし、これにより加工間隙の平均間隙または加工電圧を低下させている。
【0017】
また、放電率(正確には無放電率)の決定のために、放電パルスの内、放電しない電圧パルスをカウントするカウンタの計数値と、放電パルスの数をカウントするカウンタの計数値とを演算して、放電率(正確には無放電率)を演算する演算回路を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開昭61−100318号公報
【特許文献2】特開2000−167715号公報
【特許文献3】特開平7−223121号公報
【特許文献4】特公平6−59571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
上記特許文献1ないし特許文献3に記載の超音波振動援用研削と放電複合研削を同時に作用させる放電超音波重畳研削加工方法によると、上述したように、単なる研削のみの方法、超音波と研削の複合方法、放電と研削の複合方法よりも、加工初期の研削抵抗の削減、及び加工数が増加したときの研削抵抗の抑制が期待出来るが、最適な制御を行なうための方法が明確ではない。すなわち、特許文献1では具体的な制御方法の開示がない。
【0020】
次に、特許文献2では「ホーニング中の研削抵抗は、チャックに設けられた動力センサで、チャックにかかる負荷として検出され、これがコントローラに送られる。コントローラは、動力センサから送られてきた値が予め定められた値になった時点で、放電電圧印加回路に指示を与え、砥石のボンド層と被加工物の被研削面との間で放電現象を起こさせる。」と記載されているのみである。また、加工中に研削抵抗を動力センサで計測する必要が生じ、実用的ではない。
【0021】
特許文献3では、放電ツルーイング/ドレッシング中に、平均放電電圧を電圧レベル識別回路に入力し、第1のしきい値電圧と比較して平均放電電圧の方が低い場合は接点信号1として出力信号を送り、また、第1のしきい値より低い第2のしきい値電圧と比較して平均放電電圧の方が低い場合は接点信号2として出力信号を送る。
【0022】
そして、接点信号1及び2の有無の状態を識別して、砥石の切り込み即ち軸方向送りを伴う速い又は遅い2種の移動送り、又は砥石の切り込みがない遅い移動送り、のいずれかを選択している。
【0023】
つまり、特許文献3では、ソフトウエアのNCプログラム内で砥石切込み/砥石移動送り速度のON−OFFあるいは条件変更を行っている。砥石移動中に接点信号をONにさせても切込み/移動送り速度は変化せず、次のサイクルで切込み/移動送り速度が決定される。
【0024】
つまり、NCプログラム内では放電ツルーイング/ドレッシング中(砥石移動中)に、平均放電電圧をモニターした結果としての接点信号1及び2の有無を検出し、第1又は第2しきい値以下の平均放電電圧となると接点信号がONになり、NC装置側の入出力インターフェイスに出力される。
【0025】
接点解除命令信号、即ちRESET信号が電圧レベル識別回路に入力されない限り接点信号はON状態になる。ただし、このサイクル中の放電ツルーイング/ドレッシング(砥石移動送り)では切込み/移動送り速度は変化しない。リセット信号はNC装置から毎サイクル毎に出され、電圧レベル識別回路の論理回路のON状態をOFFにして、毎サイクル毎に電圧レベル識別回路が作動できるようにしている。
【0026】
そして砥石移動1サイクル終了後に接点信号のON−OFF状態をNC装置の入出力インターフェイスから入力し、NCプログラム内で識別して、次のサイクルの砥石切込み/砥石移動送り速度を決定するようにされている。
【0027】
このように切込みと送り速度を制御することにより、放電状態によって送り速度等の条件をこまめに変更しながら条件設定を行なう必要がなくなり、放電ツルーイング/ドレッシング中は放電状態を監視する必要が無くなり、砥石と電極との接触を自動的に退避することもできるとされている。
【0028】
この制御では、平均放電電圧レベルをしきい値と比較するだけであり、研削のサイクル中に送り速度を制御することが出来ず、次のサイクルで平均放電電圧レベルの大きさを反映させるのみであるため、充分に理想的な制御状態を実現するのが困難であった。
【0029】
次に、特許文献4は放電率を計数し、実質的に無負荷電圧が加工間隙に印加されている時間を減少させるものであるが、上記特許文献3のような送り速度の制御に関して何も開示されていない。
【0030】
また、特許文献4は、放電電源の出力信号における周波数の制御により、放電の安定化を狙っている。この特許文献4の方法は、従来の電極サーボ供給機構のある放電加工機を使用し、電極とワーク間距離が制御可能であるという前提条件が必要である。
【0031】
よって、電極サーボ供給機構がない場合や、砥石とワークが常に接触していると、極間距離の制御が不可能となり、特許文献4の制御方法は通用しない。なお、特許文献4は、放電していない割合、つまり無放電率を放電率と呼称している。以下の本件発明で言う放電率は、特許文献4の放電率とは異なり、放電している割合を表す。
【0032】
本発明は、このような従来の技術に存在する問題点に着目して成されたものであり、その目的は、更に理想的な制御を行ない、加工の品質を維持しながら、加工数の増加による研削抵抗の増加を抑制できる放電超音波重畳研削加工方法を提供することにある。
【0033】
従来技術として列挙された特許文献の記載内容は、この明細書に記載された技術的要素の説明として、参照によって導入ないし援用することができる。
【課題を解決するための手段】
【0034】
本発明は上記目的を達成するために、下記の技術的手段を採用する。すなわち、請求項1に記載の発明では、研削工具及び被加工物の少なくともいずれか一方に超音波振動を印加すると共に、研削工具及び被加工物の間において放電させながら被加工物を研削する放電超音波重畳研削加工方法において、研削工具を被加工物に食い込ませ、かつ研削工具と被加工物との相対的位置を食い込みの方向と交差する方向に設定された変化速度で変化させながら被加工物を研削工具で研削し、この研削加工中の放電の放電電圧、及び放電電流の双方を監視して、この双方の監視結果に基づいて、変化速度及び食込みの量の少なくともいずれか一方を制御することを特徴としている。
【0035】
この発明によれば、研削加工中の放電状態を、放電電圧、及び放電電流の双方でモニタリングして、変化速度及び食込みの量の少なくともいずれか一方を制御するから、放電状態が安定するように迅速に制御することができ、短絡がメインによる放電率の低下や開放がメインによる放電率の低下を避けながら放電超音波重畳研削加工方法を実行することが出来る。これにより必要な仕上げ面性状を満足し、研削抵抗を低減して、設備の小型化を実現することができる。
【0036】
請求項2に記載の発明では、放電電圧、及び放電電流の監視の結果に基づいて、放電の状態を判定した結果が、研削工具と被加工物との間の短絡により放電率が低下しているときは、変化速度を低下させるか、食込みの量を低減させることの少なくともいずれか一方を制御することを特徴としている。
【0037】
この発明によれば、短絡により放電率が低下した場合は、送り速度を低下させるか、または、食込みの量を低減するから、切屑生成速度が下がり、切屑平均高さが下がる。これにより、放電短絡の割合が下がり、正常放電を回復させることができる。
【0038】
請求項3に記載の発明では、放電電圧、及び放電電流の監視の結果に基づいて、放電の状態を判定した結果が、研削工具と被加工物との間の開放により放電率が低下しているときは、変化速度を上昇させるか、または、食込みの量を増加させることを特徴としている。
【0039】
この発明によれば、開放により放電率が低下した場合は、送り速度を上昇させるか、または、食込みの量を増加するから、切屑生成速度が上がり、切屑平均高さが高くなる。これにより、開放による放電停止の割合が下がり、正常放電を回復することができる。
【0040】
請求項4に記載の発明では、放電電圧、及び放電電流の監視の結果に基づいて、放電の状態を判定した結果が、研削工具と被加工物との間の短絡により放電率が低下しているときは、変化速度を低下させるか、食込みの量を低減させることの少なくともいずれか一方を制御し、かつ、放電電圧、及び放電電流の監視の結果に基づいて、放電の状態を判定した結果が、研削工具と被加工物との間の開放により放電率が低下しているときは、変化速度を上昇させるか、または、食込みの量を増加させることを特徴としている。
【0041】
この発明によれば、短絡がメインとなって、放電率が低下した場合は、送り速度を低下させるか、または、食込みの量を低減するから、切屑生成速度が下がり、切屑平均高さが下がる。これにより、短絡の割合が下がり、正常放電を回復させることができる。また、開放がメインとなって、放電率が低下した場合は、送り速度を上昇させるか、または、食込みの量を増加するから、切屑生成速度が上がり、切屑平均高さが高くなる。これにより、開放による放電停止の割合が下がり、正常放電を回復することができる。
【0042】
請求項5に記載の発明では、放電電圧の波形に関して、方向、平均値、積分値、実効値、所定値以上の持続時間、及び設定された以上の波高値の回数の少なくともいずれかで監視し、放電電流の波形に関して平均値、積分値、実効値、所定値以上の持続時間、及び設定された以上の波高値の回数の少なくともいずれかで監視することを特徴としている。
【0043】
この発明によれば、研削加工中の放電状態のモニタリングを放電電圧の波形に関して、方向、平均値、積分値、実効値、所定値以上の持続時間、及び設定された以上の波高値の回数の少なくともいずれかで監視し、放電電流の波形に関して平均値、積分値、実効値、所定値以上の持続時間、及び設定された以上の波高値の回数の少なくともいずれかで行い、このモニタリングの結果を用いて、安定放電を維持するから、放電状態が安定するように迅速に制御することができ、短絡がメインによる放電率の低下や開放がメインによる放電率の低下を避けながら放電超音波重畳研削加工方法を実行することが出来る。これにより必要な仕上げ面性状を満足し、研削抵抗を低減して、設備の小型化ないし低価格化を実現することができる。
【0044】
請求項6に記載の発明では、研削工具は、砥粒が導電性のボンド層で結合された砥石と被加工物との間に超音波振動と放電電圧を印加し、砥石を回転させて研削することを特徴としている。
【0045】
この発明によれば、砥石の寿命を長くしながら、必要な仕上げ面性状を満足し、研削抵抗を低減して、設備の小型化ないし低価格化を実現することができる。
【0046】
請求項7に記載の発明では、研削工具は、ワイヤー放電加工機から成り、該ワイヤー放電加工機のワイヤー電極を変化速度で移動させながらにワイヤー電極と被加工物との間に超音波振動と放電電圧を印加し、被加工物をワイヤー電極で研削することを特徴としている。
【0047】
この発明によれば、ワイヤー電極の寿命を長くしながら、必要な仕上げ面性状を満足し、研削抵抗を低減して、設備の小型化ないし低価格化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の研削抵抗低減の要因を見出すための放電研削加工の実験結果となる研削抵抗の時間的変化を示すグラフである。
【図2】上記図1の湿式状態での放電研削加工中の放電状態を説明するグラフである。
【図3】図2で放電研削加工中の放電状態における、放電と放電停止(絶縁回復)を説明する模式説明図である。
【図4】上記実施形態における放電研削おいて、超音波振動の印加を加えた放電超音波重畳研削加工中の放電状態における、放電と放電停止(絶縁回復)を説明する模式説明図である。
【図5】通常の研削と放電超音波重畳研削との切屑の相違を示す拡大写真である。
【図6】放電研削加工のメカニズムを可視化するための可視化実験の概要を説明する説明図である。
【図7】放電研削加工の可視化実験での放電状態の種類を説明するための説明図である。
【図8】放電研削加工に、超音波を重畳させて、放電を安定化させる考え方を説明する説明図である。
【図9】本発明の一実施形態に係る放電超音波重畳研削加工方法において、開放(放電停止)状態、放電状態、短絡状態の3つの状態に対して、研削抵抗、放電電圧、及び放電電流の状態を調べた結果を示す波形図である。
【図10】上記一実施形態における放電超音波重畳研削加工方法における放電状態と食込みの量と送り速度との関係を示したグラフである。
【図11】上記一実施形態における放電超音波重畳研削加工方法を実施するための放電超音波重畳研削加工装置の模式的全体構成図である。
【図12】上記一実施形態における放電超音波重畳研削加工方法を実施するための制御装置内の判定手段におけるフローチャートである。
【図13】上記一実施形態における制御装置の全体フローチャートである。
【図14】上記一実施形態で使用する放電電源が発生する放電パルス電流の波形の一部を図示した波形図である。
【図15】上記一実施形態において、各放電状態に応じた制御装置の送り速度の制御を示すフローチャートである。
【図16】本発明の第2実施形態となる放電超音波重畳研削加工方法を実施するための放電超音波重畳研削加工装置の模式的全体構成図である。
【図17】その他の実施形態において、放電電圧と放電電流のモニタリングをその他の条件で行なった結果を評価した評価表である。
【図18】従来の一般的な砥石を用いた研削加工の高速化を説明する説明図である。
【図19】図18に示した研削加工において、加工数と研削抵抗との関係を示すグラフである。
【図20】上記図18の研削加工に振動を重畳させて、常に除去砥石新生面を維持し、研削抵抗を低減することが可能となることを説明する説明図である。
【図21】本発明に係る放電超音波重畳研削加工の理想的な効果を説明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下に、図面を参照しながら本発明を実施するための複数の形態を説明する。各形態において先行する形態で説明した事項に対応する部分には同一の参照符号を付して重複する説明を省略する場合がある。各形態において構成の一部のみを説明している場合は、構成の他の部分については先行して説明した他の形態を適用することができる。
【0050】
各実施形態で具体的に組み合せが可能であることを明示している部分同士の組み合せばかりではなく、特に組み合せに支障が生じなければ、明示していなくても実施形態同士を部分的に組み合せることも可能である。
【0051】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態について図1ないし図15を用いて詳細に説明する。まず本発明の第1実施形態の説明の前に、この実施形態の原理、及び開発過程について説明する。
【0052】
(抵抗低減メカニズムの解明)
抵抗低減メカニズムの仮説を立て、研削抵抗低減の要因を見出す放電研削加工の実験を行なった結果を図1の(a)、及び(b)に示す。
【0053】
すなわち、図1は本発明の研削抵抗低減の要因を見出すための放電研削加工の実験結果となる研削抵抗の時間的変化を示すグラフである。図1の(a)は加工液(クーラントとも呼ばれ、この例では水)の中に図示されない電極と被加工物を浸漬して湿式状態での放電研削加工を行なったときの研削抵抗の時間的変化を示す。
【0054】
図1(a)のグラフ中の矢印A1、A2は、夫々5N(ニュートン)の研削抵抗の大きさと、1msの時間の大きさを示している。これに対して、図1(b)は、加工液を使用せずに、ドライ状態での放電研削加工を行なったときの研削抵抗の時間的変化を示す。
【0055】
図1(b)の加工液を使用しないドライ状態では、波高値の高いスパイク状の正負両方向の研削抵抗の変化が現れる。これに対して、図1(a)の加工液を使用した湿式状態では、波高値の高いスパイク状の研削抵抗の変化は比較的少なく、平均した研削抵抗の変化が現れる。
【0056】
また、図1(b)の加工液を使用しないドライ状態での放電研削加工を行なったときの研削抵抗の時間的変化は、放電開始後しばらくすると研削抵抗が低減する低減領域R1があり、この低減領域R1の間では、研削抵抗が大幅に低下することが判明した。この原因は被加工物(ワークとも言う)が放電により溶融したためであると考えられる。また、その後の領域R2では、研削抵抗が非常に大きくなり、砥石と被加工物との間で溶着が発生していると推定される。
【0057】
図1(b)のような、波高値の高いスパイク状の正負両方向の研削抵抗の変化は、設備の振動を引き起こし、加工精度の低下をもたらす。従って、加工液の中に電極と被加工物を浸漬した湿式状態での放電研削加工の方が、ドライ状態での放電研削加工より有利である。また、この実験結果より、研削抵抗低減のキーポイントは溶融状態にあることが推測された。
【0058】
図2は、上記図1の湿式状態での放電研削加工中の放電状態を説明するグラフである。湿式状態での放電研削加工中の放電状態について調べてみると、図2のように放電と放電停止とを繰り返しており、放電停止期間が比較的長いことが判明した。
【0059】
図3は、図2で放電研削加工中の放電状態における、放電と放電停止(絶縁回復)を説明する模式説明図である。図3において、加工液1の中で(1)被加工物(ワーク)2への放電3が行なわれ、被加工物2が発熱し溶融する。(2)この発熱により加工液1が気化し爆発する。(3)溶融物が飛散する。(4)溶融物の飛散により絶縁が回復する。これを繰り返して、放電と放電停止とが繰り返されるものと推測された。4は電極である。
【0060】
従って、このような放電状態を把握するために、放電と放電停止を繰り返した所定時間の中での放電時間の割合を示す放電率を考慮する必要が生じた。この放電率は、電源装置の大きさ等の制約を受けるため、50%程度の上限が実用上好ましい。
【0061】
図4は、放電研削おいて、超音波振動の印加を加えた放電超音波重畳研削加工中の放電状態における、放電と放電停止(絶縁回復)を説明する模式説明図である。このように、放電研削に超音波振動の印加を加えた放電超音波重畳研削加工では、図4の放電停止の期間が、図2に比較して短くなることが判明した。
【0062】
図5は、通常の研削と図4における放電超音波重畳研削との切屑の相違を示す拡大写真である。図5の(a)は、一般的な研削加工の場合、図5の(b)は、放電超音波重畳研削加工方法の場合、図5の(c)は、放電超音波重畳研削加工方法で大電流を流した場合を示している。
【0063】
この図5から判明するように、通常の研削では、図5の(a)のように溶融の痕跡が見られないが、図5の(b)及び(c)における放電超音波重畳研削加工方法では、放電による溶融の痕跡が見られた。
【0064】
また、放電率の高い大電流放電では、図5の(c)のように顕著な溶融の痕跡が見られ、加工面の精度が低下した。この結果、放電による被加工物2の溶融は、研削抵抗低減の主要因であり、放電率が大きすぎず、かつ小さすぎない放電の安定化が重要課題であることが判明した。
【0065】
図6は放電研削加工のメカニズムを可視化するための可視化実験の概要を説明する説明図である。図6に示すように、放電研削加工のメカニズムを可視化するために、高速カメラ6によって砥石7による被加工物2の研削部分を撮影した。
【0066】
この結果、高速カメラ6で監視した四角領域における放電は、切屑に対して行なわれており、切屑高さを制御することが重要であることが判明した。また、切屑高さは、砥石7の矢印A6にて示す送り速度fg等の加工条件で制御可能であることが判明した。また、切屑高さは、砥石7の形状等の影響を受けにくく、切屑高さの制御は、比較的実現容易であることが判明した。
【0067】
上述のように、放電と放電停止を繰り返してしていることが確認されたが、更に、放電研削には、4つの放電状態があることが、上記可視化実験で判明した。図7の(a)、(b)、(c)、(d)は、放電研削加工の可視化実験での放電状態の種類を説明するための説明図である。なお、送り速度fgは、砥石7と被加工物2との間の相対的位置の変化速度として表されている。
【0068】
図7(a)の開放(放電停止)状態は、砥石7の被加工物2への突き出し量(距離)Hの中で、放電距離eの範囲内まで「切屑8の切屑高さh」が到達していない状態である。図7(b)の放電状態は、砥石7の被加工物への突き出し量Hの中で、放電距離eの範囲内まで「切屑8の切屑高さh」が到達し、放電している状態である。図7(c)の短絡(放電停止)状態は、砥石7の被加工物2への突き出し量Hの中で導電性のボンド9にまで「切屑高さh」が到達して短絡した状態である。
【0069】
図7(d)の目詰まり放電状態は、砥石7の被加工物2への突き出し量の中で目詰まりした目詰まり部分10に対して放電し、比較的低い「切屑高さh」で放電が発生した状態である。この目詰まり放電は、超音波が重畳される放電超音波重畳研削加工方法においてもまれに発生する。つまり目詰まりが完全に除去できない重い研削の場合に発生する。
【0070】
但し、超音波の重畳により、この目詰まり放電は発生しにくくなる。その原因は、2つ考えられ、1つ目の原因は、超音波の重畳による切屑8の微細化及び分散によって、切屑8の成長速度を抑制できるためである。
【0071】
また、この切屑8の成長速度の抑制ため、図7(b)の放電状態の時間が延長され、放電率がアップし、これにより、放電による切屑除去能力がアップし、切屑8の残留量が減少する。この結果、目詰まりが抑制され、図7(d)の目詰まり放電は発生しにくくなるからである。
【0072】
2つ目の原因は、砥石7の回転中において、図示されない砥粒とワーク2の非接触の期間が生じ、この間において、超音波洗浄作用で付着物(目詰まり)が除去される。この結果、目詰まりが抑制され、目詰まり放電は発生しにくくなるからである。そして、このような放電加工での可視化実験の成果により、切屑高さを制御する考え方を確立した。
【0073】
次に、図8は、放電研削加工に超音波を重畳させて放電を安定化させる考え方を説明する説明図である。図8の(a)は、上記図7(c)の短絡状態のように、砥石7の被加工物2への突き出し量Hの中で、導電性のボンド9にまで切屑8の切屑長さLgが到達して、短絡した状態を示す。
【0074】
この状態を矢印A81に示すように右側の状態に改善して、超音波Lusで切屑8を微細分断し、(切屑の大きさ<突き出し量H)として放電を安定化する考え方である。8aは微細分断された微細切屑を示す。
【0075】
図8(b)は、超音波印加状態において微細分断した微細切屑8aが導電性のボンド9にまで到達して短絡した状態を矢印A82に示すように右側の状態に改善して、超音波で微細切屑8aを放電除去するために(切屑生成速度<放電除去速度)として放電を安定化する考え方を示している。
【0076】
このために切屑8の大きさ、超音波で微細分断後の微細切屑8aの大きさについて解析し、切屑生成速度Qg(図示されない)と放電除去速度Qeについて考察した。そして(切屑生成速度Qg<放電除去速度Qe)を満たすためには、種々の実験及び数値解析の結果から、図8(b)の送り速度fg及び食込みの量tg(切込み量tgともいう)が重要であることが判明した。なお、送り速度fg及び食込みの量tgの積(fg×tg)は所定時間内の切屑の量の関数である。
【0077】
この送り速度fg及び食込みの量tgの積(fg×tg)が所定範囲内に収まって、安定した放電が行なわれるように、上述の図7(a)の開放(放電停止)状態、図7(b)の放電状態、図7(c)の短絡状態に対して、放電電圧及び放電電流の状態を調べた結果、図9のような状況であることが判明した。図9は、開放(放電停止)状態、放電状態、短絡状態の3つの状態に対して、放電電圧及び放電電流の状態を調べた結果を示す波形図である。
【0078】
図9において、開放(放電停止)状態では、矢印A91方向の負の方向の放電電圧波形が現れ、放電電流は矢印A92方向に所定時間流れる。放電状態では、正負の両方向の放電電圧波形が現れ、放電電流は所定時間大きく流れる。
【0079】
短絡状態では、短期間の放電電圧が現れ、放電電流も実質ワンパルスの短い時間だけ流れる。従って、放電電圧と、放電電流との方向、大きさ及び時間的変化、あるいはそれらに関する値をモニターすることにより、開放、放電、短絡と言う放電の状況が把握できることが判明した。
【0080】
図10は、放電超音波重畳研削加工における放電状態と食込みの量(切込み量とも言う)tgと送り速度fgとの関係を示したグラフである。図10においては、横軸に送り速度fgをとり、縦軸に食込みの量tgをとっている。
【0081】
R11は、開放状態がメインの放電率低下領域である。R12は、安定放電領域である。R13は、短絡状態がメインの放電率低下領域である。また、右端の矢印A10で示す山状の曲線は、放電率の変化を示す。
【0082】
図10の間隔A11を持つ2本の破線11、12は、実用上理想の放電率(35%以上)を満足するための食込みの量tgの上限と下限である。上の破線11より大きく食込ませると、図7(c)の短絡(放電停止)時間が多くなり、放電率が低下する。逆に、下の破線12より小さく食込ませると、図7(a)の開放(放電停止)時間が多くなり、放電率が低下してしまう。
【0083】
なお、放電率50%は、現在の放電加工技術の限界である。本当は100%の放電率が理想的であるが、電極サーボ駆動装置の機械追従速度限界や極間放電スラッジ(正常放電の阻害要因)の排出速度限界などの影響で、現時点はさらなる放電率アップは困難である。よって、上述のように、実用上理想の放電率(35%以上)を満足するための、食込みの量の上限と下限とを設定した。
【0084】
図10において、放電率(山形の曲線A10)のピークの点13では、放電率が50%である。放電率が小さくても、安定放電領域R12に入る場合があるが、この場合は、納得できる範囲としかいえない範囲である。よって、絞り込んだ理想範囲は、放電率が35%〜50%の2本の破線11、12の間に入る安定放電領域R12の部分にある。
【0085】
なお、図10の山形の曲線A10で示す放電率は、送り速度fgを固定して、食込みの量tgを変化させたときの放電率の変化を示す。1つの食込みの量tgは、放電率の曲線A10上の1点に対応する。逆に、食込みの量tgを固定して、送り速度fgを変化させたときも、図示されない同じような山形曲線の特性曲線が得られる。
【0086】
要は、1ペア(一対の)の送り速度と食込みの量とでは、1点だけの放電率に対応すると考えても良い。実際には、放電率は、送り速度fg、食込みの量tg、砥石7とワーク2の接触幅の3つの条件で決定される。
【0087】
よって、これらの3つの条件で決まる点とは、図示されない3次元の放電率空間特性中の1点に対応する。図10では、説明し易いため、通常振らない砥石7とワーク2の接触幅を固定し、2次元で放電率の変化を矢印A10のように表している。
【0088】
図11は本発明の第1実施形態となる放電超音波重畳研削加工方法を実施するための放電超音波重畳研削加工装置の模式的全体構成図である。図11においては、中空円筒形の被加工物2の内周面を放電超音波重畳研削で加工する例を示している。
【0089】
砥石7の回転軸71は駆動装置23をなす工具送り及び超音波加振装置によって被加工物2の内部において矢印A111に示す軸方向に送られる。この送り速度fgは制御装置22からの信号によって制御される。
【0090】
被加工物2は図示を省略しているが、水等から成る加工液内に置かれる。放電電源(加工電源とも言う)24は、砥石7と被加工物2との間に電圧を印加するものである。放電電源24内には放電電流と放電電圧を検出する電流電圧検出センサ部が内蔵されており、この電流電圧検出センサ部が検出した信号により、放電電流および放電電圧の波形が制御装置22内でモニタリングされている。砥石7は研削工具70の一部を構成しており、回転軸71は駆動装置23となる工具送り及び超音波加振装置内のモータによって回転駆動される。
【0091】
また、駆動装置23となる工具送り及び超音波加振装置内の超音波振動発生装置により、超音波振動を砥石7に重畳させている。この超音波振動は、図11のように、加工機である研削工具70に印加しても良いし、被加工物2側に印加しても良い。また、超音波振動の加振方向A112は、軸方向、径方向、ねじり方向、撓み方向、これらの複合方向のいずれであっても良い。
【0092】
上述のように、放電電源24内の電流電圧検出センサ部が検出した信号により、放電電流および放電電圧の波形が制御装置22内でモニタリングされている。そして、放電電流及び放電電圧の波形から制御装置22内で、図9示す開放(放電停止)状態、放電状態、及び短絡状態をリアルタイムに把握する判定手段が、制御装置22内に設けられている。
【0093】
図12は、図11の制御装置22内の判定手段をなす制御手段のフローチャートである。上述の図9ように、開放(放電停止)、放電、短絡の各状態における放電電圧、及び放電電流の波形は、以下の通りであった。
【0094】
開放(放電停止)状態では、負の方向の放電電圧波形が現れ、放電電流は所定時間流れる。放電状態では、正負の両方向の放電電圧波形が現れ、放電電流は所定時間大きく流れる。短絡状態では、短期間の放電電圧が表れ、放電電流も実質ワンパルスの短い時間だけ流れる。
【0095】
よって、判定に当たっては、図12で制御が開始されると、ステップS1において、負方向のみの放電電圧波形が現れるかを判定する。YESであれば、ステップS2に進み、第1設定値(実効値Is1:図示せず)以上の放電電流が所定時間流れているか否かを判定する。第1設定値以上の放電電流が所定時間流れている場合は、ステップS3において開放(放電停止)状態であると判定する。
【0096】
ステップS1においてNOの場合は、ステップS4において、正負両方向の放電電圧が現れているか否かを判定する。正負両方向の放電電圧が現れている場合は、ステップS5において、ステップS2の第1設定値(Is1)よりも大きな第2設定値(Is2)を超える放電電流が所定時間以上流れているか否かを判定する。YESであればステップS6へ進み、放電状態であると判定する。ステップS2においてNOの場合、ステップS4においてNOの場合、及びステップS5においてNOの場合は、ステップS7において、短絡状態であると判定する。
【0097】
次に、ステップS8において、所定期間内の累積開放(放電停止)状態時間To、所定期間内の累積短絡状態時間Ts、所定期間内の累積放電状態時間Tdから下記の数式1で放電率を演算する。求められた放電率は液晶表示装置で表示される。また期間内の放電状態が、開放(放電停止)状態が主体の開放(放電停止)メインの状態か、放電メインの状態か、短絡メインの状態かを決定する。
【0098】
(数式1) 放電率=Td/(To+Ts+Td)
図13は、制御装置22の全体フローチャートである。図13において、制御が開始されるとステップS11において、切屑8(図8)を充分に粉砕して微細切屑8aにできる超音波の周波数を決める。
【0099】
この周波数に見合った振幅が生じるように、図11の駆動装置23内の超音波振動発生装置の振動素子(PZT)を使用した超音波ホーンに印加する電圧等の超音波の仕様を決定する。超音波の周波数が高いほど共振(固有振動数)の関係で振幅は小さくなる。
【0100】
なお、超音波の周波数は、切屑8の長さで決まる。また、振幅は超音波の加振方向によって異なる。また、第1に、砥石7(図8)とワーク2の接触面内にある、砥粒の進行方向と直交する横振動においては、切屑8を微細化分断するため、砥粒同士間平均距離以上の振幅が必要である。
【0101】
第2に、短絡状態から絶縁回復するためは、砥石7とワーク2の接触面内と直交する縦振動において放電距離以上の振幅が必要である。このような第1と第2の必要条件を考慮しながら超音波の周波数を決定する。
【0102】
次に、図13の同じステップS11内において、被加工物2の種類、加工要求つまり加工寸法、加工速度、及び加工形状に応じて砥石7の仕様を決定する。次にこの砥石7の仕様から、砥石7が耐えうる放電条件(放電電圧、1発のパルスの放電エネルギー、放電電流、放電休止時間)を過去のデータから決定する。
【0103】
図14は、本発明の第1実施形態で使用する放電電源24(図11)が一定負荷に対して発生可能なパルス電流の波形の一部を図示した波形図である。この実施形態においては、期間ne中にパルス幅tonの10発のパルスが、正負交互に出力されるものを使用している。
【0104】
図14において、Ipは電流の波高値、toffは休止時間である。休止時間toffがあまり短いと、放電が連続してしまう。放電が連続すると、被加工物2(図11)が溶融しすぎるとか、砥石7、つまり研削工具70に悪影響を与える。
【0105】
次に、図13のステップS12において、上記諸条件に見合った、食込みの量tgを決定する。食込みの量tgは被加工物2の種類、及び加工要求によって、最大値が決定されている。この最大値を超えない範囲で最適な値を選定する。
【0106】
また、送り速度fgと食込みの量tgの積は、加工中に発生する切屑8(図8)の体積の関数であるため、この体積と上記諸条件とを検討して、適当と思われる初期送り速度Fgを決定し、制御装置22(図11)に初期設定値として入力する。
【0107】
次に、図13のステップS13においては、図12のステップS8で決定された所定期間内の累積開放(放電停止)状態時間To、所定期間内の累積短絡状態時間Ts、所定期間内の累積放電状態時間Tdを使用して、送り速度fgの増減量を演算する。
【0108】
この増減量は、ステップS12で入力された初期送り速度Fgに対して図15のフローチャートを用いて演算する。図15は、この一実施形態において、各放電状態に応じた送り速度fgの制御を示すフローチャートである。図15において、制御が開始されると、ステップS21であらかじめ設定し入力された基準値が読み込まれる。この基準値は、所定期間内の累積開放状態基準時間Tos、所定期間内の累積短絡状態基準時間Tss、所定期間内の累積放電状態基準時間範囲Tds1、Tds2である。
【0109】
図15のステップS22では、図12で演算した所定期間内の累積開放状態時間Toと所定期間内の累積開放状態基準時間Tosとを比較して開放状態の累積時間が基準値より多いか否かを判定する。
【0110】
そして開放(放電停止)状態の累積時間が多い場合は、YESと判定され、ステップS23において、現時点の送り速度fgに対して所定の速度加減分Δfgを加算して送り速度の制御値Fgcを決定する。つまり、送り速度fgを所定量増加させる。
【0111】
ステップS22においてNOの場合は、ステップS24に進み、図12で演算した所定期間内の累積放電状態時間Tdと所定期間内の累積放電状態基準時間範囲Tds1、Tds2とを比較して、放電状態の累積時間が正常範囲内か否かを判定する。そして放電状態の累積時間が正常範囲内の場合は、YESと判定され、ステップS25において、その時点の送り速度Fgを維持する。
【0112】
ステップS24においてNOの場合は、ステップS26で、図12で演算した所定期間内の累積短絡状態時間Tsと所定期間内の累積短絡状態基準時間Tssとを比較して、短絡状態の累積時間が多いか否かを判定する。
【0113】
そして短絡状態の累積時間が多いYESの場合は、ステップS27において、現時点の送り速度fgに対して所定の速度加減分Δfgを減算して送り速度の制御値Fgcを決定する。演算された送り速度の制御値は、図13のステップS14においてNC加工機に入力され、送り速度が制御される。つまり、送り速度fgを所定量減少させる。
【0114】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。なお、以降の各実施形態においては、上述した第1実施形態と同一の構成要素には同一の符号を付して説明を省略し、異なる構成および特徴について説明する。
【0115】
図16は、この第2実施形態となる放電超音波重畳研削加工方法を実施するための放電超音波重畳研削加工装置の模式的全体構成図である。この図16では、被加工物(ワーク)2としての長方形の金属製被加工物を、ワイヤー放電加工機用のワイヤー電極20で放電スライス加工している状態を示している。このように、この第2実施形態での研削工具70は、砥石を使用しておらず、ワイヤー電極20、ワイヤー電極駆動ドラム26、27、駆動装置23から構成されている。
【0116】
被加工物2は水等から成る加工液21内に置かれ、ワイヤー電極20の巻き取り速度、すなわち送り速度fgは、制御装置22によって駆動装置23内のモータの回転速度を制御することによって制御される。
【0117】
放電電源(加工電源とも言う)24は、ワイヤー電極20と被加工物2との間に電圧を印加するものである。放電電源24内には放電電流と放電電圧を検出する電流電圧検出センサ部が内蔵されており、この電流電圧検出センサ部が検出した信号により、放電電流および放電電圧の波形が制御装置22内でモニタリングされている。
【0118】
また、駆動装置23内の超音波振動発生装置により超音波振動をワイヤー電極20に重畳させている。この超音波振動は、加工機であるワイヤー放電加工機のワイヤー電極駆動ドラム26、27のいずれか一方に印加しても良いし、被加工物2側に印加しても良い。また、超音波振動の方向A111は、軸方向、径方向、ねじり方向、撓み方向、これらの複合方向のいずれであっても良い。
【0119】
(その他の実施形態)
本発明は上述した実施形態にのみ限定されるものではなく、次のように変形または拡張することができる。例えば、加工された被加工物の仕上げ面性状(粗さ、硬度)を計測する手段を備えて、この計測結果を、放電条件及び研削条件にフィードバックすることも出来る。
【0120】
この場合、仕上げ面の硬度が低い場合は、放電条件のピーク電流値、またはパルス幅を減らすと同時に、研削条件の送り速度、あるいは食込みの量を減らす。これにより、正常放電を維持しながら、放電エネルギーが下がるため、被加工物の熱軟化を抑制でき、仕上げ面硬度を回復することができる。
【0121】
次に、放電状態のモニタリングの結果に基づいて放電状態を判定した結果が、短絡がメインとなって放電率が低下していると判定されたときのみ、送り速度を低下させるか、または、食込みの量を低減するのみの制御をおこない、開放がメインとなって放電率が低下していると判定されたときの、送り速度を上昇させるか、または、食込みの量を増加する制御は行なわないようにしてもよい。
【0122】
また、逆に、開放がメインとなって放電率が低下していると判定されたときのみ、送り速度を上昇させるか、または、食込みの量を増加するのみの制御をおこない、短絡がメインとなって放電率が低下していると判定されたときの、送り速度を低下させるか、または、食込みの量を低減する制御は行なわないようにしてもよい。
【0123】
すなわち、短絡がメインまたは開放がメインのいずれか一方のみ(片方のみ)の制御を行い、正常と異常の境界レベルにある制御状態を正常な一方向に引き戻す制御のみを行なっても良い。
【0124】
また、放電率が明らかに異常な領域に達した場合は、フィードバック制御を所定時間中断し、放電率が正常領域内に進行する方向に送り速度をオープンループ制御で増減させて、目標放電率域での制御を実行するようにしても良い。
【0125】
次に、放電電圧と放電電流の双方を図12のようにしてモニタリングしたが、放電電圧と放電電流のモニタリングは種々の方法で可能であり、その例を図17に示す。図17は放電電圧と放電電流のモニタリングをその他の条件で行なった結果を評価した評価表である。この図17のように、評価は、種々の方法で可能である。この図17において、Vは電圧を示し、Iは電流を示す。
【0126】
図17において、図9の放電電圧Vの方向を評価する方法では、2の放電と3の短絡の差異が判別し難い。また、Vの平均値でも、2の放電と3の短絡の差異が判別し難い。図9の放電電流Iの平均値、積分値の評価のみでも開放、放電、短絡の波形が図9のように明確な場合は判定が可能であるが、例外的な波形が表れた場合は判定し難いことがある。また、判定に時間がかかりすぎては実用的ではない。
【0127】
そこで、本発明のように放電電圧と放電電流の両方をモニタリングして両方の所定状態が共に満たされること、換言すれば、放電電圧と放電電流の所定状態のアンド(AND)条件が満たされることをから、(例えば一例を図12に示したように)開放、放電、短絡の区別をすることが望ましい。また、平均値の代わりに実効値を使用しても良い。この実効値を用いる場合は、図9の2の放電と3の短絡の区別は可能となる。
【0128】
また、波高値をピークホールド回路でピークホールドして、所定値以上の波高値が現れる回数をカウントして波形を評価しても良い。また、積分値の計測は、計測数値の演算によらずとも、CR積分回路から成るフィルタを通した値を計測しても良い。
【0129】
次に、図15においては送り速度fgのみを制御したが、上述のように、送り速度fg及び食込みの量tgの積(fg×tg)は所定時間内の切屑の量の関数であるから、送り速度fgを増加(減少)させる代わりに食込みの量tgを増加(減少)させても良い。また、送り速度fgは、研削工具と被加工物の間の相対的な変化速度fgであれば良く、研削工具を固定して被加工物側を設定された送り速度(変化速度)fgで駆動しても良い。
【符号の説明】
【0130】
1 加工液
2 被加工物(ワーク)
3 放電
4 電極
7 砥石
e 放電距離
8 切屑
h 切屑高さ
H 砥石の被加工物への突き出し量
9 ボンド
10 目詰まり部分
8a 微細分断された微細切屑
fg 変化速度(送り速度)
tg 食込みの量(切込み量)
R11 開放状態がメインの放電率低下領域
R12 安定放電領域
R13 短絡状態がメインの放電率低下領域
A10 放電率
71 砥石の回転軸
23 駆動装置
22 制御装置
24 放電電源
70 研削工具
71 回転軸
To 所定期間内の累積開放(放電停止)状態時間
Ts 所定期間内の累積短絡状態時間
Td 所定期間内の累積放電状態時間
Tos 所定期間内の累積開放状態基準時間
Tss 所定期間内の累積短絡状態基準時間
Tds1、Tds2 所定期間内の累積放電状態基準時間範囲
Δfg 送り速度の速度加減分
Fgc 送り速度の制御値
20 ワイヤー放電加工機のワイヤー電極
26、27 ワイヤー電極駆動ドラム
21 加工液
V 電圧
I 電流

【特許請求の範囲】
【請求項1】
研削工具及び被加工物の少なくともいずれか一方に超音波振動を印加すると共に、前記研削工具及び前記被加工物の間において放電させながら前記被加工物を研削する放電超音波重畳研削加工方法において、
前記研削工具を前記被加工物に食い込ませ、かつ前記研削工具と前記被加工物との相対的位置を前記食い込みの方向と交差する方向に設定された変化速度で変化させながら前記被加工物を前記研削工具で研削し、
この研削加工中の前記放電の放電電圧、及び放電電流の双方を監視して、この双方の監視結果に基づいて、前記変化速度及び前記食込みの量の少なくともいずれか一方を制御することを特徴とする放電超音波重畳研削加工方法。
【請求項2】
前記放電電圧、及び前記放電電流の監視の結果に基づいて、前記放電の状態を判定した結果が、前記研削工具と前記被加工物との間の短絡により放電率が低下しているときは、前記変化速度を低下させるか、前記食込みの量を低減させることの少なくとも一方を制御することを特徴とする請求項1に記載の放電超音波重畳研削加工方法。
【請求項3】
前記放電電圧、及び前記放電電流の監視の結果に基づいて、前記放電の状態を判定した結果が、前記研削工具と前記被加工物との間の開放により放電率が低下しているときは、前記変化速度を上昇させるか、または、前記食込みの量を増加させることを特徴とする請求項1に記載の放電超音波重畳研削加工方法。
【請求項4】
前記放電電圧、及び前記放電電流の監視の結果に基づいて、前記放電の状態を判定した結果が、前記研削工具と前記被加工物との間の短絡により放電率が低下しているときは、前記変化速度を低下させるか、前記食込みの量を低減させることの少なくとも一方を制御し、
かつ、前記放電電圧、及び前記放電電流の監視の結果に基づいて、前記放電の状態を判定した結果が、前記研削工具と前記被加工物との間の開放により放電率が低下しているときは、前記変化速度を上昇させるか、または、前記食込みの量を増加させることを特徴とする請求項1に記載の放電超音波重畳研削加工方法。
【請求項5】
前記放電電圧の波形に関して、方向、平均値、積分値、実効値、所定値以上の持続時間、及び設定された以上の波高値の回数の少なくともいずれかで監視し、前記放電電流の波形に関して平均値、積分値、実効値、所定値以上の持続時間、及び設定された以上の波高値の回数の少なくともいずれかで監視することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載の放電超音波重畳研削加工方法。
【請求項6】
前記研削工具は、砥粒が導電性のボンド層で結合された砥石と前記被加工物との間に超音波振動と前記放電電圧を印加し、前記砥石を回転させて研削することを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一項に記載の放電超音波重畳研削加工方法。
【請求項7】
前記研削工具は、ワイヤー放電加工機から成り、該ワイヤー放電加工機のワイヤー電極を前記変化速度で移動させながらに前記ワイヤー電極と前記被加工物との間に超音波振動と前記放電電圧を印加し、前記被加工物を前記ワイヤー電極で研削することを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一項に記載の放電超音波重畳研削加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−20370(P2012−20370A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−159927(P2010−159927)
【出願日】平成22年7月14日(2010.7.14)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】