説明

斜面の監視システム

【課題】 現地に常用電源などを必要とすることなく、単純かつ安価な構成で、斜面の安定性に相関するデータをリアルタイムで取得でき、より多くの斜面を対象として、斜面をリアルタイムで有効に監視することができる斜面の監視システムを提供する。
【解決手段】 本発明による斜面の監視システム1は、斜面Sに設置されたセンサユニット2を備え、このセンサユニット2は、傾斜計12および土壌水分計13、無線通信ユニット14と、これらの電源となる電池16を有する。傾斜計12および土壌水分計13で計測された計測データは、無線通信ユニット14からリレー中継ユニット3を介して、中継器4に無線WLで送信される。送信された計測データは、形式を変換された後、中継器4から携帯電話ネットPN、インターネットINを介して中央監視装置5に送られ、斜面Sの監視に用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、豪雨時などに崩壊のおそれがある斜面をリアルタイムで監視する斜面の監視システムに関する。
【背景技術】
【0002】
我が国では、豪雨時などに斜面の崩壊が多数発生しており、その危険性のある箇所が数万件以上であるとも指摘されている。一方で、斜面の崩壊のほとんどは、小規模斜面の表層滑りとして発生している。このため、できるだけ単純かつ安価な構成で、より多くの斜面に設置でき、斜面の状態をリアルタイムで有効に監視できるとともに、その情報を手軽に入手できるような斜面の監視システムが望まれている。
【0003】
従来の斜面の監視システムとして、例えば特許文献1に開示されたものが知られている。この監視装置は、監視を行うべき斜面に設置された測定器群と、これらの測定器群によって測定された測定データを収集するデータ収集装置と、このデータ収集装置から送られた測定データを取得・解析する中央監視装置と、この中央監視装置との間で通信可能なクライアント装置などを備えている。
【0004】
測定器群には、複数の変位計、傾斜計および地下水位計や雨量計が含まれる。データ収集装置は、斜面の近くに設けられた現地測定室内に設置されており、測定器群による測定データを収集するデータロガーと、このデータロガーから通信ケーブルを介して測定データを取得し、管理する測定用コンピュータを備えている。この測定用コンピュータは、電話回線などの通信回線によるインターネットを介して、中央監視装置と通信可能になっており、測定器群による測定データが、測定用コンピュータを介して中央監視装置に送信される。
【0005】
この中央監視装置は、監視サーバと監視データベースを有している。監視サーバは、測定用コンピュータから送信された測定データを用い、所定の解析プログラムによって斜面の安全率をリアルタイムで解析し、監視データベースは、測定データや解析によって得られた安全率などの情報を記憶する。また、クライアント装置は、登録されたクライアントが有するパソコンや携帯電話などの情報端末で構成され、インターネットを介して、中央監視装置と通信可能になっており、解析によって得られた安全率などの情報が、監視サーバからクライアント装置に随時、送信される。また、クライアント装置から監視データベースにアクセスし、記憶された測定データを読み出せるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−195650号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上述した従来の監視システムでは、測定器群による測定データを収集し、送信するために、データロガーや測定用コンピュータなどから成るデータ収集装置を現地に設置しなければならない。このため、現地において、データ収集装置を駆動するための常用電源を確保するとともに、データ収集装置を収容する測定室を設営することが必要になり、設置コストが増大する。また、現地において、データロガーと測定用コンピュータを接続するための通信ケーブルを敷設することも必要になる。以上の結果、この従来の監視システムを山間の斜面や数多くの小規模斜面に用いることは、実用上、困難であり、その適用範囲が制限されてしまう。
【0008】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、現地に常用電源を必要とすることなく、より単純かつ安価な構成で、斜面の安定性に相関するデータをリアルタイムで取得でき、それにより、より多くの斜面を対象として、斜面をリアルタイムで有効に監視することができる斜面の監視システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、本願の請求項1に係る発明による斜面の監視システムは、斜面に設置され、斜面の安定性に相関するデータを計測するセンサ、計測された計測データを無線で送信する無線通信機、ならびにセンサおよび無線通信機の電源となる電池を有するセンサユニットと、センサユニットから離れた場所に設置され、センサユニットから送信された計測データを、第1通信手段で送信可能な形式に変換する中継器と、中継器から第1通信手段を介して送信された計測データを収集するとともに、収集された計測データに基づいて斜面を監視する監視装置と、を備えることを特徴とする。
【0010】
この斜面の監視システムによれば、斜面に設置されるセンサユニットは、斜面の安定性に相関するデータを計測するセンサ、無線通信機、およびこれらを駆動する電池を有している。センサで計測された計測データは、無線通信機から中継器に無線で送信される。この中継器は、送信された計測データを、第1通信手段で送信可能な形式に変換した後、第1通信手段を介して監視装置に送信する。監視装置は、送信された計測データを収集するとともに、この計測データに基づいて斜面を監視する。
【0011】
以上のように、この監視システムでは、センサで計測した計測データを、現地から中継器までは、電池で駆動される無線通信機によって無線で送信し、中継器から監視装置へは、第1通信手段を介して送信する。したがって、従来と異なり、常用電源や測定室、通信ケーブルを現地に設けることなく、より単純かつ安価な構成で、斜面の安定性に相関するデータをリアルタイムで取得でき、それにより、より多くの斜面を対象として、斜面をリアルタイムで有効に監視することができる。
【0012】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の斜面の監視システムにおいて、センサユニットと中継器の間に設置され、センサユニットから送信された計測データを中継器に無線で転送する無線通信機、および無線通信機の電源となる電池を有するリレー中継ユニットをさらに備えることを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、センサユニットと中継器の間に設置されたリレー中継ユニットが、センサユニットからの計測データを中継器に無線で転送する。したがって、現地と中継器との距離が大きい場合でも、リレー中継ユニットによる中継によって、単純かつ安価に計測データを取得することができる。
【0014】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載の斜面の監視装置において、センサユニットは複数のセンサユニットで構成され、リレー中継ユニットは、複数のセンサユニットからそれぞれ送信された複数の計測データを中継器に転送することを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、リレー中継ユニットは、複数のセンサユニットからの複数の計測データをまとめて中継器に転送するので、監視システムのさらなる単純化および低コスト化を図ることができる。
【0016】
請求項4に係る発明は、請求項1ないし3のいずれかに記載の斜面の監視システムにおいて、第1通信手段は、携帯電話ネットまたはインターネットであることを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、中継器から監視装置への計測データの通信を、既存の携帯電話ネットまたはインターネットを利用して容易に行うことができる。
【0018】
請求項5に係る発明は、請求項1ないし4のいずれかに記載の斜面の監視システムにおいて、監視装置は、収集した計測データを記憶する監視データベースを有し、記憶された計測データが第2通信手段を介して読み出し可能に構成されていることを特徴とする。
【0019】
この構成によれば、例えば地域住民や交通機関などが、監視装置の監視データベースに記憶された計測データを、第2通信手段を介して読み出すことで、斜面の安定性に関する情報を容易に入手し、それに応じた対策などに有効に利用することができる。
【0020】
請求項6に係る発明は、請求項5に記載の斜面の監視システムにおいて、第2通信手段は、携帯電話ネットまたはインターネットであることを特徴とする。
【0021】
この構成によれば、監視装置からの計測データの入手を、既存の携帯電話ネットまたはインターネットを利用して容易に行うことができる。
【0022】
請求項7に係る発明は、請求項1ないし6のいずれかに記載の斜面の監視システムにおいて、監視装置は、収集された計測データに基づいて、斜面の安定性を評価する評価手段と、評価手段による斜面の安定性の評価結果を、あらかじめ登録されたメールアドレスに配信する配信手段を有することを特徴とする。
【0023】
この構成によれば、斜面の崩壊の危険性が高くなったときなどに、その情報を速やかに配信し、知らせることによって、その対策や被害の防止に有効に役立てることができる。
【0024】
請求項8に係る発明は、請求項1ないし7のいずれかに記載の斜面の監視システムにおいて、センサユニットは、センサによる計測データの計測および無線通信機による計測データの送信を、所定のタイミングで間欠的に行うように制御する制御装置をさらに有することを特徴とする。
【0025】
この構成によれば、制御装置による制御によって、センサによる計測データの計測と、無線通信機による計測データの送信が、所定のタイミングで間欠的に行われる。無線通信機による計測データの送信時には、特に大きな電力が消費される。また、斜面の崩壊のおそれがない常時には、計測データをそれほど短い間隔で取得する必要はない。したがって、センサによる計測と無線通信機による送信を間欠的に行うことによって、必要な計測データを取得しながら、有効に節電を図り、電池の寿命を延ばすことで、監視システムのメンテナンスを容易化することができる。
【0026】
請求項9に係る発明は、請求項1ないし8のいずれかに記載の斜面の監視システムにおいて、センサは、斜面の変位を計測するための傾斜計と、斜面の土壌中の水分を計測するための土壌水分計を含むことを特徴とする。
【0027】
斜面の崩壊は、表面滑りの場合には、特に法尻部における変位と水分の飽和度の上昇として現れる。この構成によれば、傾斜計による斜面の変位と、土壌水分計による斜面の土壌中の水分量が、計測データとして計測され、監視装置に送信されるので、斜面の監視および安定性の評価などに有効に役立てることができる。
【0028】
請求項10に係る発明は、請求項1ないし9のいずれかに記載の斜面の監視システムにおいて、センサユニットのセンサ、無線通信機および電池が、防水ボックスに内蔵されていることを特徴とする。
【0029】
この構成によれば、防水ボックスによって、内蔵されたセンサおよび無線通信機を保護することができる。また、センサユニットをあらかじめ組み立てておくことによって、現地での設置をより容易に行うことができる。
【0030】
請求項11に係る発明は、請求項1ないし10のいずれかに記載の斜面の監視システムにおいて、センサユニットは、センサで計測された計測データを記憶するメモリを有することを特徴とする。
【0031】
この構成によれば、定期的に、またはセンサユニットのメンテナンスなどの際に、メモリを回収することによって、それに記憶された計測データを、リアルタイムで送信される計測データを補足するデータとして、有効に役立てることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施形態による斜面の監視システムを概略的に示す図である。
【図2】斜面への複数のセンサユニットの設置状況を模式的に示す図である。
【図3】センサユニットの構成を模式的に示す図である。
【図4】リレー中継ユニットの構成を模式的に示す図である。
【図5】リレー中継ユニットの配置例を示す図である。
【図6】リレー中継ユニットの他の配置例を示す図である。
【図7】リレー中継ユニットのさらに別の配置例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態について説明する。図1は、本発明の一実施形態による斜面の監視システム1の全体構成を示している。同図に示すように、この監視システム1は、監視を行うべき斜面Sに設置された複数のセンサユニット2と(図2参照)、これらのセンサユニット2に、無線WLや、携帯電話ネットPN、インターネットINを介して順次、結ばれた、複数のリレー中継ユニット3、中継器4、中央監視装置5およびユーザー端末6などで構成されている。
【0034】
図3に示すように、各センサユニット2は、センサとしての傾斜計12および土壌水分計13、無線通信ユニット14、メモリ15、電池16およびマイコン17を備えている。土壌水分計13以外の構成要素は、防水性および防塵性を有する防水ボックス11内に一体に組み込まれており、土壌水分計13は、防水ボックス11付近の斜面Sの土中に埋設されている。センサユニット2は、斜面Sの所定位置に設けられた複数の支柱(図示せず)のそれぞれに、防水ボックス11を介して固定され、取り付けられている。
【0035】
傾斜計12は、例えばMEMS技術を利用した傾斜計で構成されており、互いに直交する2軸回りの傾斜角を計測する。傾斜計12の精度は0.0025度、消費電力は5V、4mAであり、電源投入後、50ms以内に計測を終了することが可能である。その計測データは、A/D変換された後、マイコン17に入力される。なお、傾斜計12として、精度および消費電力がより低い安価なものを用いてもよく、あるいは、互いに直交する3軸回りの傾斜角を計測する3軸タイプのものを用いることも可能である。
【0036】
土壌水分計13は、例えば土の含水率を誘電率を介して計測するTDRタイプのものであり、その精度は±3%である。その計測データは、A/D変換された後、マイコン17に入力される。
【0037】
無線通信ユニット14は、省電力タイプのユニット本体14aとアンテナ14bを有するものであり、マイコン17から出力され、A/D変換された計測データを、リレー中継ユニット3に無線WLで送信する。その送信可能距離は、公称で約300mであり、見通しの良い場所では最大約1200mに及ぶことが確認されている。
【0038】
メモリ15は、バックアップ用のものであり、SDメモリなどの着脱式のメモリで構成され、マイコン17から出力された計測データを記憶する。電池16は、傾斜計12、土壌水分計13、無線通信ユニット14およびマイコン17の電源となるものであり、4本の単三アルカリ乾電池で構成されている。
【0039】
マイコン17は、センサユニット2全体の動作を制御するものであり、調停消費電流タイプのマイコンチップで構成されている。また、マイコン17は、記憶されたプログラムに基づくスリープ(休止)機能を有しており、傾斜計12などによる計測および無線通信ユニット16による計測データの送信を、所定時間(例えば1分)ごとに行うとともに、この計測・送信時間以外は、マイコン17自身、傾斜計12、土壌水分計13および無線通信ユニット14をスリープ状態に維持することで、消費電力がほぼ0に制御される。
【0040】
以上のように、センサユニット2の各構成要素として、省電力タイプのものが用いられていることと、上述したスリープ機能により、消費電力が特に大きな無線通信ユニット14による計測データの送信が間欠的に行われることから、センサユニット2全体の消費電力を非常に小さく抑制される。その結果、4本の単三アルカリ乾電池によって、計算上、センサユニット2を約3年間、駆動することが可能であり、現場での試験によれば1年以上、駆動できることが確認されている。
【0041】
各リレー中継ユニット3は、センサユニット2から離れた場所に設置されており、複数のセンサユニット2から無線WLで送信された複数の計測データを受信するとともに、中継器4に無線WLで転送するものである。図4に示すように、各リレー中継ユニット3は、防水ボックス11内に、無線通信ユニット14、メモリ15、電池26およびマイコン17などを一体に組み込んだものであり、すなわち、傾斜計12および土壌水分計13がないことを除き、基本的にセンサユニット2と同じ構成になっている。
【0042】
また、リレー中継ユニット3では、センサユニット2よりも消費電力が大きくなることが想定されるため、電池26はソーラ電池で構成されている。無線通信ユニット14で受信した計測データは、中継器4に転送される他、D/A変換された後、マイコン17に入力され、メモリ15に記憶される。
【0043】
中継器4は、リレー中継ユニット3から離れた場所に設置されている。中継器4は、複数のリレー中継ユニット3から無線WLで送信された計測データを受信し、そのデータ形式やプロトコルを携帯電話ネットPNやインターネットINで送信可能なものに変換するとともに、携帯電話ネットPNを介して携帯センター7に一括して送信するものである。携帯センター7に送信された計測データはさらに、インターネットINを介して中央監視装置5に転送される。
【0044】
中央監視装置5は、監視サーバ8および監視データベース9を備えている。監視サーバ8は、送信された計測データに基づき、所定の解析プログラムに従って、斜面Sの安定解析を行うことによって、斜面Sの安定性をリアルタイムで評価する。この安定解析は、例えば、傾斜計12で計測された斜面Sの傾斜角から、斜面Sの各計測点における変位を算出し、算出された変位と土壌水分計13で計測された斜面Sの含水率、およびそれらの推移などに基づいて、斜面Sの崩壊に対する安全率Fsを算出することによって、行われる。斜面が崩壊する際には、その兆候として、斜面の変位および水分の飽和度が上昇することが多いので、上記のような安定解析によって、斜面Sの安定性を適切に評価することができる。
【0045】
また、この安定解析の結果、安全率Fsが低下し、斜面Sが崩壊するおそれが生じたと認められる場合には、安全率Fsの推移などから、斜面Sが崩壊するまでの予測時間Tfを算出し、それに基づいて警報情報を設定する。また、監視データベース9は、中央監視装置5に送信された計測データや、算出された安全率Fsなどの情報を記憶する。
【0046】
ユーザ端末6は、パソコンや携帯電話で構成され、インターネットINを介して、中央監視装置5と通信可能であり、随時、中央監視装置5にアクセスし、監視データベース9内の情報を読み出すことができる。また、あらかじめメールアドレスを登録したユーザ端末6には、監視サーバ8から上述した警報情報が配信されるようになっている。
【0047】
次に、上述した構成の監視システム1の動作をとりまとめて説明する。現場の斜面Sでは、各センサユニット2において、所定時間ごとに、傾斜計12による斜面Sの傾斜角の計測と、土壌水分計13による斜面Sの含水率の計測が行われる。得られた計測データは、メモリ15に記憶されるとともに、所定時間ごとに、無線通信ユニット14からリレー中継ユニット3に無線WLで送信される。図1の例では、1つの斜面Sに設置された複数のセンサユニット2からの計測データは、1つのリレー中継ユニット3に送信され、他の斜面Sに設置された複数のセンサユニット2からの計測データは、他のリレー中継ユニット3に送信される。
【0048】
各リレー中継ユニット3に送信された計測データは、メモリ15に記憶されるとともに、中継器3に無線WLで転送される。この計測データは、中継器3により、データ形式などが変換された後、携帯電話ネットPNを介して携帯センター7に送信され、さらにインターネットINを介して中央監視装置5に転送される。
【0049】
中央監視装置5の監視サーバ8では、送信された計測データに基づき、斜面Sごとに、前述した安定解析を行うことによって、斜面Sの崩壊に対する安全率Fsを算出し、斜面Sをリアルタイムで監視するとともに、状況に応じて、必要な警報情報を設定する。また、監視データベース9には、計測データや算出した安全率Fsなどの斜面Sに関する情報が記憶される。
【0050】
ユーザ端末6のユーザは、随時、インターネットINを介して中央監視装置5にアクセスし、監視データベース9内の情報を読み出し、入手することができる。また、監視サーバ8において警報情報が設定された場合には、警報情報がメールアドレスを登録したユーザ端末6に速やかに配信される。
【0051】
以上のように、本実施形態の斜面の監視システム1によれば、斜面Sに設置されたセンサユニット2の傾斜計12および土壌水分計13で計測した計測データを、センサユニット2に内蔵された電池16で駆動される無線通信ユニット14によって無線WLで送信し、中継器4から中央監視装置5へは、既存の携帯電話ネットPNおよびインターネットINを利用して送信する。したがって、現地に常用電源や通信ケーブルを必要とすることなく、より単純かつ安価な構成で、斜面Sの安定性に相関する計測データをリアルタイムで取得でき、それにより、より多くの斜面Sを対象として、斜面Sをリアルタイムで有効に監視することができる。
【0052】
また、センサユニット2と中継器4の間に設置されたリレー中継ユニット3が、センサユニット2からの計測データを中継器4に無線WLで転送するので、現地と中継器4との距離が大きい場合でも、リレー中継ユニット3による中継によって、単純かつ安価に計測データを取得することができる。さらに、リレー中継ユニット3は、複数のセンサユニット2からの複数の計測データをまとめて中継器4に転送するので、監視システム1のさらなる単純化および低コスト化を図ることができる。
【0053】
また、中央監視装置5の監視データベース8に記憶された計測データなどの情報を、ユーザ端末6からインターネットINを介して読み出すことができるので、例えば地域住民や交通機関などが、斜面Sの安定性に関する情報を容易に入手し、それに応じた対策などに有効に利用することができる。
【0054】
さらに、中央監視装置5が、収集された計測データに基づいて、斜面Sの安定性を評価するとともに、得られた評価結果を、あらかじめメールアドレスを登録したユーザ端末6に配信するので、斜面Sの崩壊の危険性が高くなったときなどに、その情報を速やかに配信し、知らせることによって、その対策や被害の防止に有効に役立てることができる。
【0055】
また、センサユニット2のスリープ機能によって、傾斜計12および土壌水分計13による計測と、無線通信ユニット14による計測データの送信が、所定時間ごとに間欠的に行われる。無線通信ユニット14による計測データの送信時には、特に大きな電力が消費される一方、斜面Sの崩壊のおそれがない常時には、計測データをそれほど短い間隔で取得する必要はない。したがって、傾斜計12などによる計測と無線通信ユニット14による送信を間欠的に行うことによって、必要な計測データを取得しながら、有効に節電を図り、電池16の寿命を延ばすことで、監視システム1のメンテナンスを容易化することができる。
【0056】
さらに、センサユニットSによる計測データとして、傾斜計12による斜面Sの傾斜角と、土壌水分計13による斜面Sの土壌中の含水率が計測されるので、斜面Sの監視および安定性の評価に有効に役立てることができる。
【0057】
また、センサユニット2の傾斜計12、無線通信ユニット14および電池16が、防水ボックス11に内蔵されているので、これらの構成部品を防水ボックス11によって有効に保護することができる。さらに、センサユニット2をあらかじめ組み立てておくことによって、現地での設置をより容易に行うことができる。
【0058】
また、計測データを記憶するメモリ15がセンサユニット2に内蔵されているので、定期的に、またはセンサユニット2のメンテナンスなどの際に、メモリ15を回収することによって、それに記憶された計測データを、リアルタイムで送信される計測データを補足するデータとして、有効に用いることができる。
【0059】
なお、本発明は、説明した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、センサユニット2と中継器4の間にリレー中継ユニット3を1段階で配置した例であるが、センサユニット2と中継器4との距離が大きい場合には、図5に示すように、その距離に応じた複数の段階でリレー中継ユニット3を直列に配置することによって、計測データをリレー中継ユニット3、3間で順次、中継し、中継器4まで送信するようにしてもよい。
【0060】
また、図6に示すように、センサユニット2に対して複数のリレー中継ユニット3を並列に配置し、センサユニット2で計測された計測データを、これらのリレー中継ユニット3をそれぞれ介して中継器4に送信するようにしてもよい。この構成によれば、1つのリレー中継ユニット3に故障や異常が生じた場合でも、他のリレー中継ユニット3によって中継ルートが確保されるので、中継器4への計測データの送信をより確実に行うことができる。
【0061】
さらに、図5および図6に示した手法を組み合わせ、図7に示すように、直列配置された複数のリレー中継ユニット3をさらに並列に配置し、それぞれの中継ルートを介して、計測データを中継器4に送信してもよい。それにより、センサユニット2と中継器4との距離が大きい場合でも、中継器4への計測データの送信を確実に行うことができる。なお、図示しないが、複数のリレー中継ユニット3による中継ルートをネット化してもよく、それにより、中継器4への計測データの送信の確実性をさらに高めることができる。
【0062】
また、実施形態では、中継器4から中央監視装置5への計測データの転送を、携帯センター7を経由し、携帯電話ネットPNとインターネットINを介して行っているが、携帯センター7を経由せずに、インターネットINで直接、行ってもよい。
【0063】
さらに、実施形態では、センサユニット2における計測データの計測および送信の実行間隔を、所定時間(例えば1分)に設定しているが、制御プログラムの変更により、この実行間隔を、常時には所定時間に設定する一方、斜面Sに崩壊の兆候が現れたとき、例えば、計測された斜面Sの傾斜角や含水率またはそれらの変化量が所定値を超えたときに、より短く設定してもよい。それにより、斜面崩壊の兆候が現れた緊急時に、より高い頻度でサンプリングされた計測データに基づいて、斜面Sの監視をさらに適切に行うことができる。
【0064】
また、実施形態では、斜面Sの安定性に相関するデータとして、傾斜計12および土壌水分計13により斜面Sの傾斜角と含水率を計測しているが、これらに加えて、またはこれらに代えて、他の有用なデータ、例えば斜面Sの地下水位や間隙水圧、現地の雨量および湿度などを計測してもよい。それにより、安定解析の精度を高めることができるなど、斜面Sの監視を適切に行うことができる。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。
【符号の説明】
【0065】
1 監視システム
2 センサユニット
3 リレー中継ユニット
4 中継器
5 中央監視装置(監視装置)
6 ユーザ端末
8 監視サーバ(評価手段、配信手段)
9 監視データベース
11 防水ボックス
12 傾斜計(センサ)
13 土壌水分計(センサ)
14 無線通信ユニット(無線通信機)
15 メモリ
16 電池
17 マイコン(制御装置)
26 電池
S 斜面
WL 無線
PN 携帯電話ネット(第1通信手段)
IN インターネット(第1通信手段、第2通信手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
斜面に設置され、当該斜面の安定性に相関するデータを計測するセンサ、当該計測された計測データを無線で送信する無線通信機、ならびに前記センサおよび前記無線通信機の電源となる電池を有するセンサユニットと、
当該センサユニットから離れた場所に設置され、前記センサユニットから送信された計測データを、第1通信手段で送信可能な形式に変換する中継器と、
当該中継器から前記第1通信手段を介して送信された計測データを収集するとともに、当該収集された計測データに基づいて前記斜面を監視する監視装置と、
を備えることを特徴とする斜面の監視システム。
【請求項2】
前記センサユニットと前記中継器の間に設置され、前記センサユニットから送信された計測データを前記中継器に無線で転送する無線通信機、および当該無線通信機の電源となる電池を有するリレー中継ユニットをさらに備えることを特徴とする、請求項1に記載の斜面の監視システム。
【請求項3】
前記センサユニットは複数のセンサユニットで構成され、前記リレー中継ユニットは、前記複数のセンサユニットからそれぞれ送信された複数の計測データを前記中継器に転送することを特徴とする、請求項2に記載の斜面の監視システム。
【請求項4】
前記第1通信手段は、携帯電話ネットまたはインターネットであることを特徴とする、請求項1ないし3のいずれかに記載の斜面の監視システム。
【請求項5】
前記監視装置は、前記収集した計測データを記憶する監視データベースを有し、当該記憶された計測データが第2通信手段を介して読み出し可能に構成されていることを特徴とする、請求項1ないし4のいずれかに記載の斜面の監視システム。
【請求項6】
前記第2通信手段は、携帯電話ネットまたはインターネットであることを特徴とする、請求項5に記載の斜面の監視システム。
【請求項7】
前記監視装置は、前記収集された計測データに基づいて、前記斜面の安定性を評価する評価手段と、当該評価手段による前記斜面の安定性の評価結果を、あらかじめ登録されたメールアドレスに配信する配信手段と、を有することを特徴とする、請求項1ないし6のいずれかに記載の斜面の監視システム。
【請求項8】
前記センサユニットは、前記センサによる計測データの計測および前記無線通信機による計測データの送信を、所定のタイミングで間欠的に行うように制御する制御装置をさらに有することを特徴とする、請求項1ないし7のいずれかに記載の斜面の監視システム。
【請求項9】
前記センサは、前記斜面の変位を計測するための傾斜計と、前記斜面の土壌中の水分を計測するための土壌水分計を含むことを特徴とする、請求項1ないし8のいずれかに記載の斜面の監視システム。
【請求項10】
前記センサユニットの前記センサ、前記無線通信機および前記電池が、防水ボックスに内蔵されていることを特徴とする、請求項1ないし9のいずれかに記載の斜面の監視システム。
【請求項11】
前記センサユニットは、前記センサで計測された計測データを記憶するメモリを有することを特徴とする、請求項1ないし10のいずれかに記載の斜面の監視システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−197154(P2010−197154A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−41040(P2009−41040)
【出願日】平成21年2月24日(2009.2.24)
【出願人】(000210908)中央開発株式会社 (25)
【Fターム(参考)】