説明

時定数調整回路

【課題】参照用の時定数発生回路を集積回路の外部に用意すると、集積回路の端子数の増加および半導体チップ面積の増大を招き、その結果、製造コストが増大してしまう。また、集積回路単体では時定数の調整を行えない。
【解決手段】スイッチトキャパシタを用いることで、時定数発生回路を集積回路に内蔵しても十分な精度が保たれる。さらに、時定数の補正結果を記憶する記憶部を設けることで、時定数調整用回路と、時定数調整後の通常動作用回路を、一部兼用することが可能となる。集積回路の端子数と、半導体チップ面積を節約でき、その結果、製造コストを抑えられる。さらに、外部から電源さえ供給されれば、自動的かつ自律的に時定数の調整を行える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時定数調整回路と、この時定数調整回路を用いた時定数調整方法とに係り、特に、可変抵抗を具備する時定数調整回路と、この時定数調整回路を用いた時定数調整方法とに係る。
【背景技術】
【0002】
抵抗Rの値と、容量Cの値とを積算した値RCは、時定数と呼ばれる。時定数は、例えば、フィルタのカットオフ周波数を設定する方法などとして用いられ、その値が大きければ大きいほど、回路における変動にかかる時間が長くなる。このように、任意の値の抵抗Rおよび容量Cを設けることによって、回路内に時定数を設定することが可能である。
【0003】
ここで、抵抗Rおよび容量Cにおける値のばらつきが、回路内に設定される時定数の精度に直結している。通常、集積回路以外に用意した抵抗および容量のばらつきは数%だが、集積回路上に作りこんだ抵抗および容量のばらつきは15%ほどである。後者の場合、両者の積である時定数のばらつきは30%にもなり、上記の例ではフィルタのカットオフ周波数が変動するなど、回路の特性悪化につながる。
【0004】
上記に関連して、特許文献1(特開平10−322162号公報)には、時定数調整回路に係る記載が開示されている。この時定数調整回路は、集積回路上に構成された時定数を持つ電子回路の時定数を調整する。この時定数調整回路は、時間基準発生手段と、時定数発生手段と、判定手段と、記憶手段とを具備する。ここで、時間基準発生手段は、集積回路の外部に設けられた時定数回路を含んで構成され、該時定数回路が持つ時定数で時間と共に値が変化する時間基準信号を発生する。時定数発生手段は、集積回路上に形成された時定数回路を含んで構成され、該時定数回路が持つ時定数で時間と共に値が変化する時定数信号を発生する。判定手段は、時間基準信号が所定値に達した時点と時定数信号が該所定値に達した時点との前後関係を判定する。記憶手段は、判定手段の判定結果を記憶する。この時定数調整回路は、記憶手段の出力に基づいて電子回路の時定数を調整することを特徴とする。
【0005】
特許文献1の時定数調整回路について、添付図面を参照して説明する。
【0006】
図1は、特許文献1の時定数調整回路の構成を概略的に示すブロック図である。この時定数調整回路は、時間基準発生部10と、時定数発生部20と、判定部30と、記憶部40と、電子回路50とを具備する。なお、図1の時定数調整回路の外部には、図示されない起動信号出力部が接続されている。
【0007】
図1の時定数調整回路の各構成要素および外部に接続された各要素の接続関係について説明する。時間基準発生部10および時定数発生部20のそれぞれにおける入力部は、図示されない起動信号出力部に接続されている。時間基準発生部10および時定数発生部20のそれぞれにおける出力部は、判定部30における2つの入力部にそれぞれ接続されている。判定部30における出力部は、記憶部40における入力部に接続されている。記憶部40における出力部は、電子回路50の入力部に接続されている。
【0008】
この時定数調整回路は、集積回路外部に設けられた時間基準発生部の時定数を参照値とし、集積回路上に形成されたばらつきを含む時定数発生部の時定数が参照値に近づく様に補正をかけるものである。
【0009】
通常、外部に用意した抵抗および容量のばらつきが数%であるのに対し、集積回路上に作りこむ抵抗および容量のばらつきは15%ほどである。したがって、RCの積である時定数は30%ほどばらつき、フィルタのカットオフ周波数の変動などの特性悪化につながる。
【0010】
図2は、特許文献1の時定数調整回路の1つの構成例を具体的に示す回路図である。図2の時定数調整回路は、時間基準発生部10と、時定数発生部21と、判定部31と、記憶部41と、電子回路51とを具備する。ここで、図2の時定数発生部21と、判定部31と、記憶部41と、電子回路51とは、図1の時定数発生部20と、判定部30と、記憶部40と、電子回路50とにそれぞれ対応する。
【0011】
時間基準発生部10は、容量1011と、抵抗1021と、スイッチ1031とを具備する。時定数発生部21は、容量2111と、抵抗2121と、スイッチ2131とを具備する。判定部31および記憶部41は、第1および第2の増幅器3011、3012と、フリップフロップ4111と、電源Vb1とを具備する。電子回路51は、入力部5111と、増幅器5121と、第1および第2の容量5131、5132と、第1〜第6の抵抗5141〜5146と、第1〜第3のスイッチ5151〜5153と、電源VAGとを具備する。
【0012】
容量1011の一方の端部は、接地されている。容量1011の他方の端部は、抵抗1021の一方の端部と、スイッチ1031の一方の端部と、増幅器3011の非反転側入力部とに接続されている。抵抗1021の他方の端部は、図示されない電源Vccに接続されている。スイッチ1031の他方の端部は、接地されている。スイッチ1031の制御信号入力部には、図示されない起動信号出力部が接続されている。
【0013】
容量2111の一方の端部は、接地されている。容量2111の他方の端部は、抵抗2121の一方の端部と、スイッチ2131の一方の端部と、増幅器3012の非反転側入力部とに接続されている。抵抗2121の他方の端部は、図示されない電源Vccに接続されている。スイッチ2131の他方の端部は、接地されている。スイッチ2131の制御信号入力部には、図示されない起動信号出力部が接続されている。
【0014】
2つの増幅器3011、3012のそれぞれの反転側入力部は、電源Vb1に接続されている。2つの増幅器3011、3012の出力部は、フリップフロップ4111の2つの入力部にそれぞれ接続されている。フリップフロップ4111の出力部は、3つのスイッチ5151〜5153の制御信号入力部に接続されている。
【0015】
入力部5111は、2つの抵抗5141、5142のそれぞれの一方の端部に接続されている。抵抗5142の他方の端部は、スイッチ5151の一方の端部に接続されている。スイッチ5151の他方の端部は、抵抗5141の他方の端部と、2つのスイッチ5152、5153のそれぞれの一方の端部と、2つの抵抗5143、5145のそれぞれの一方の端部と、容量5132の一方の端部とに接続されている。容量5132の他方の端部は、接地されている。スイッチ5152の他方の端部は、抵抗5144の一方の端部に接続されている。抵抗5144の他方の端部は、抵抗5143の他方の端部と、容量5131の一方の端部と、増幅器5121の反転側入力部とに接続されている。スイッチ5153の他方の端部は、抵抗5146の一方の端部に接続されている。増幅器5121の非反転側入力部は、電源VAGに接続されている。増幅器5121の出力部は、容量5131の他方の端部と、2つの抵抗5145、5146の他方の端部に接続されている。
【0016】
ここで、容量1011および抵抗1021は、基準となる時定数を発生するために用いられる。容量1011および抵抗1021は、容量値および抵抗値の精度を高めるために、すなわち時定数の精度を高めるために、設けられていることに注目したい。
【0017】
図3は、特許文献1の時定数調整回路の別の構成例を具体的に示す回路図である。図3の時定数調整回路は、時間基準発生部10と、時定数発生部22と、判定部32と、記憶部42と、電子回路52と、カウンタ60とを具備する。ここで、図3の時定数発生部22と、判定部32と、記憶部42と、電子回路52とは、図1の時定数発生部20と、判定部30と、記憶部40と、電子回路50とにそれぞれ対応する。
【0018】
図3の時間基準発生部10の構成要素は、上記で説明した図2の場合と同じである。時定数発生部22は、容量2211と、n+1個の抵抗2221−0〜2221−nと、スイッチ2231と、n個のスイッチ2231−1〜2231−nとを具備する。判定部32および記憶部42は、2つの増幅器3011、3012と、カウンタ4211と、電源Vb1とを具備する。電子回路52は、入力部と、増幅器5221と、容量5231と、m+1個の抵抗5241−0〜5241−mと、m個のスイッチ5251−1〜5251−mとを具備する。
【0019】
容量1011の一方の端部は、接地されている。容量1011の他方の端部は、抵抗1021の一方の端部と、スイッチ1031の一方の端部と、増幅器3011の非反転側入力部とに接続されている。抵抗1021の他方の端部は、図示されない電源Vccに接続されている。スイッチ1031の他方の端部は、接地されている。スイッチ1031の制御信号入力部には、図示されない起動信号出力部が接続されている。
【0020】
容量2211の一方の端部は、接地されている。容量2211の他方の端部は、抵抗2221−0の一方の端部と、スイッチ2231の一方の端部と、n個のスイッチ2231−1〜2231−nの一方の端部と、増幅器3012の非反転側入力部とに接続されている。n個のスイッチ2231−1〜2231−nの他方の端部は、n個の抵抗2221−1〜2221−nの一方の端部にそれぞれ接続されている。抵抗2221−0の他方の端部と、n個の抵抗2221−1〜2221−nの他方の端部とは、図示されない電源Vccに接続されている。スイッチ2231の制御信号入力部と、カウンタ60の入力部とには、図示されない起動信号出力部が接続されている。n個のスイッチ2231−1〜2231−nの制御信号入力部には、カウンタ60のn個の出力部がそれぞれ接続されている。
【0021】
2つの増幅器3011、3012の反転側入力部には、電源Vb1が接続されている。2つの増幅器3011、3012の出力部は、カウンタ4211の2つの入力部にそれぞれ接続されている。カウンタ4211のm個の出力部は、m個のスイッチ5251−1〜5251−mの制御信号入力部にそれぞれ接続されている。
【0022】
電子回路52の入力部は、m+1個の抵抗5241−0〜5241−mの一方の端部に接続されている。m個の抵抗5241−1〜5241−mの他方の端部は、m個のスイッチ5251−1〜5251−mの一方の端部にそれぞれ接続されている。抵抗5241−0の他方の端部は、m個のスイッチ5251−1〜5251−mの他方の端部と、容量5231の一方の端部と、増幅器5221の非反転側入力部とに接続されている。増幅器5221の反転側入力部は、増幅器5221の出力部に接続されている。
【0023】
図3の時定数調整回路は、複数の抵抗を組み合わせて時定数の調整を行う。このとき、時定数を調整するモードではn+1個の抵抗およびカウンタ60を用い、調整された時定数を発生する通常動作モードでは別のm+1個の抵抗およびカウンタ4211を用いている。その結果、集積回路の規模が増大していることに注目したい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0024】
【特許文献1】特開平10−322162号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
特許文献1の時定数調整回路では、参照用の時定数発生回路を用意する必要がある。その分、半導体チップ面積の増大にもつながる。さらに、特許文献1の時定数調整回路では、時定数のばらつきを細かい分解能で調整するために、大規模な専用回路を用意しており、集積回路のレイアウトの増大を招いている。以上の理由により、特許文献1の時定数調整回路では、製造コストが増大している。
【課題を解決するための手段】
【0026】
以下に、(発明を実施するための形態)で使用される番号を用いて、課題を解決するための手段を説明する。これらの番号は、(特許請求の範囲)の記載と(発明を実施するための形態)との対応関係を明らかにするために付加されたものである。ただし、それらの番号を、(特許請求の範囲)に記載されている発明の技術的範囲の解釈に用いてはならない。
【0027】
本発明による半導体集積回路は、積分回路(5)と、スイッチトキャパシタ(2)と、調整回路とを備える。ここで、積分回路(5)は、可変抵抗素子(104)と、容量素子(321)と、増幅器(311)とを有する。スイッチトキャパシタ(2)は、一端が可変抵抗素子(104)と並列に増幅器(311)に接続される。調整回路(1)は、可変抵抗素子(104)の抵抗値を調整する。積分回路(5)は、可変抵抗素子(104)の可変抵抗値および容量素子(321)の容量値で決まる第1の時定数と、スイッチトキャパシタ(2)の容量値および容量素子(321)の容量値で決まる第2の時定数とに基づいた電圧の制御信号を出力する。調整回路(1)は、制御信号に基づいて可変抵抗素子(104)の可変抵抗値を調整する。
【0028】
本発明による調整方法は、可変抵抗素子(104)と、容量素子(321)と、増幅器(311)とを有する積分回路(5)の可変抵抗素子(104)の可変抵抗値を調整する方法である。この調整方法は、(a)可変抵抗素子(104)の可変抵抗値および容量素子(321)の容量値で決まる第1の時定数に基づいて、容量素子(321)に電荷を注入するステップと、(b)増幅器(311)への接続を、可変抵抗素子(104)からスイッチトキャパシタ(2)に切り替えるステップと、(c)スイッチトキャパシタ(2)の容量値および容量素子(321)の容量値で決まる第2の時定数に基づいて、容量素子(321)に注入された電荷を引き抜くステップと、(d)電荷が引き抜かれた後の容量素子(321)の電圧に基づいて、可変抵抗素子(104)の可変抵抗値を設定するステップとを具備する。
【発明の効果】
【0029】
本発明の時定数調整回路では、スイッチトキャパシタを用いることで、時定数発生回路を集積回路に内蔵しても十分な精度が保たれる。さらに、時定数の補正結果を記憶する記憶部を設けることで、時定数調整用回路と、時定数調整後の通常動作用回路を、一部兼用することが可能となる。集積回路の端子数と、半導体チップ面積を節約でき、その結果、製造コストを抑えられる。さらに、外部から電源さえ供給されれば、自動的かつ自律的に時定数の調整を行える。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1は、特許文献1の時定数調整回路の構成を概略的に示すブロック図である。
【図2】図2は、特許文献1の時定数調整回路の1つの構成例を具体的に示す回路図である。
【図3】図3は、特許文献1の時定数調整回路の別の構成例を具体的に示す回路図である。
【図4】図4は、本発明の実施形態における時定数調整回路を用いる電子装置の全体的な構成を概略的に示すブロック図である。
【図5】図5は、本発明の実施形態における時定数調整回路の概略的な構成を示すブロック図である。
【図6】図6は、本発明の実施形態における時定数調整回路の具体的な構成例を示す回路図である。
【図7】図7は、本発明の実施形態における時定数調整回路の、ローパスフィルタおよび記憶部の後段に、フリップフロップ部を追加した構成例を示す回路図である。
【図8】図8は、本発明の実施形態における時定数調整モードを実行した際の各信号の変化を示すタイムチャートである。
【図9】図9は、スイッチトキャパシタを用いた積分回路を示す回路図である。
【図10】図10は、積分器の、連続時間信号処理構成および離散時間信号処理構成を比較する図である。図10(a)は、抵抗を用いた積分器の連続時間信号処理構成を示す図である。図10(b)は、スイッチトキャパシタを用いた積分器離散時間信号処理構成を示す図である。
【図11】図11は、本発明の時定数調整モードを実行した際の各信号のより詳細な変化の例を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
ここから、添付図面を参照して、本発明による半導体集積回路としての時定数調整回路と、この時定数調整回路を用いた時定数調整方法とを実施するための形態を以下に説明する。
【0032】
図4は、本発明の第1の実施形態における時定数調整回路を用いる電子装置の全体的な構成を概略的に示すブロック図である。この電子装置は、アンテナ部ANTと、低雑音増幅回路部LNAと、ミキサ回路部と、複素バンドパスフィルタ部IF_FILと、可変利得増幅回路部VGAと、アナログデジタルコンバータADCと、デジタルベースバンド回路部DBBとを具備する。
【0033】
低雑音増幅回路部LNAは、アンテナ部ANTの後段に接続されている。
ミキサ回路部のそれぞれは、低雑音増幅回路部LNAの後段に接続されている。複素バンドパスフィルタ部IF_FILは、ミキサ回路部の後段にそれぞれ接続されている。複素バンドパスフィルタ部IF_FILは、互いに接続されている。可変利得増幅回路部VGAは、複素バンドパスフィルタ部IF_FILの一方の後段に接続されている。アナログデジタルコンバータADCは、可変利得増幅回路部VGAの後段に接続されている。デジタルベースバンド回路部DBBは、アナログデジタルコンバータADCの後段に接続されている。デジタルベースバンド回路部DBBは、可変利得増幅回路部VGAにも接続されている。
【0034】
アンテナ部ANTは、高周波信号を受信する。低雑音増幅回路部LNAは、この高周波信号を増幅する。ミキサ回路部のそれぞれは、この増幅された高周波信号を中間周波数信号に変換する。高周波信号を中間周波数信号に変換する際、イメージ信号が発生する。複素バンドパスフィルタ部IF_FILは、このイメージ信号を圧縮する。可変利得増幅回路部VGAは、イメージ信号が圧縮された中間周波数信号の利得制御を行う。アナログデジタルコンバータADCは、この利得制御された中間周波数信号のアナログデジタル変換を行う。デジタルベースバンド回路部DBBは、アナログデジタル変換された信号を復調し、近接妨害波を除去し、可変利得増幅回路部VGAへのフィードバックゲイン調整を行う。
【0035】
図4の電子回路において、時定数調整回路は、複素バンドパスフィルタ部IF_FILに含まれる。従来技術では、この時定数調整回路が抵抗値補正ビットをマイコンでサーチし、アナログデジタルコンバータADCがこの補正結果を容量値の補正ビットとして受け取る。このように、従来技術では、マイコンを用いて補正ビットのサーチおよび保存を行うが、本発明では、マイコンを必要とせずに、補正ビットのサーチを時定数調整回路が自己的に行う。また、本発明では、補正ビットのサーチ結果を保持するレジスタを別途用意するので、アナログデジタルコンバータADCが単体で使用可能となる。
【0036】
図5は、本発明の第1の実施形態における時定数調整回路の概略的な構成を示すブロック図である。図5の時定数調整回路は、調整回路としての調整対象時定数発生部1と、スイッチトキャパシタとしての基準時定数発生部2と、判定部3と、記憶部4と、積分回路としての時定数調整対象電子回路5とを具備する。なお、時定数調整対象電子回路5は、後述するように、調整対象時定数発生部1および規準時定数発生部2にまたがっている。
【0037】
図5の時定数調整回路の各構成要素の接続関係について説明する。調整対象時定数発生部1の出力部と、基準時定数発生部2の出力部とは、判定部3の2つの入力部にそれぞれ接続されている。判定部3の出力部は、記憶部4の入力部に接続されている。
【0038】
図6は、本発明の第1の実施形態における時定数調整回路の具体的な構成例を示す回路図である。図6の時定数調整回路は、図5と同様に、調整対象時定数発生部1と、基準時定数発生部2と、判定部3と、記憶部4とを具備する。調整対象時定数発生部1は、カウンタ101と、セレクタ102と、エンコーダ103と、可変抵抗素子としての可変抵抗104と、入力部105とを具備する。基準時定数発生部2は、スイッチトキャパシタ211と、4つのスイッチ221〜224とを具備する。判定部3は、増幅器311と、容量素子としての積分容量321と、容量322と、3つの抵抗331〜333と、スイッチ341とを具備する。記憶部4は、フリップフロップ部410と、補正結果出力部420とを具備する。
【0039】
図6の時定数調整回路の各構成要素の接続関係について説明する。カウンタ101の第1の出力部は、セレクタの第1の入力部に接続されている。カウンタ101の第2の出力部は、スイッチ341の制御信号入力部に接続されている。セレクタ102の出力部は、エンコーダ103の入力部と、フリップフロップ部410の入力部とに接続されている。エンコーダ103の出力部は、可変抵抗104の制御信号入力部に接続されている。可変抵抗104の一方の端子は、入力部105に接続されている。可変抵抗104の他方の端子は、増幅器311の反転入力部と、スイッチ341の一方の端部と、積分容量321の一方の端部と、スイッチ224の一方の端部とに接続されている。
【0040】
スイッチ224の他方の端部は、スイッチトキャパシタ211の一方の端部と、スイッチ223の一方の端部とに接続されている。スイッチ223の他方の端部は、接地されている。スイッチトキャパシタ211の他方の端部は、スイッチ221の一方の端部と、スイッチ222の一方の端部とに接続されている。スイッチ221の他方の端部は、接地されている。スイッチ222の他方の端部は、接地されている。
【0041】
増幅器311の非反転入力部は、2つの抵抗331、332のそれぞれの一方の端部に接続されている。抵抗331の他方の端部は、接地されている。抵抗332の他方の端部は、電源に接続されている。増幅器311の出力部は、スイッチ341の他方の端部と、積分容量321の他方の端部と、抵抗333の一方の端部とに接続されている。抵抗333の他方の端部は、容量322の一方の端部と、フリップフロップ部410の第2の入力部とに接続されている。容量322の他方の端部は、接地されている。
【0042】
フリップフロップ部410の出力部は、補正結果出力部420と、セレクタ102の第2の入力部とに接続されている。
【0043】
図6の時定数調整回路の動作、すなわち本発明の時定数調整方法について説明する。本発明の時定数調整回路には、時定数調整モードと、通常動作モードがある。本発明の時定数調整回路は、動作が開始すると、まず、時定数調整モードで動作する。時定数調整モードが終了すると、通常動作モードに移行する。
【0044】
本発明の時定数調整回路の時定数調整モードについて説明する。時定数調整モードでは、まず、カウンタ101がカウント動作を開始し、第1の出力部からカウント値を出力する。カウンタ101が出力する信号は、セレクタ102およびエンコーダ103を介して、可変抵抗104を制御するための制御信号に変換される。この制御信号は、可変抵抗104の制御信号入力部に供給される。可変抵抗104の抵抗値Rは、制御信号入力部に供給された制御信号に応じて切り替わる。同時に、可変抵抗104の抵抗値Rおよび積分容量321の容量値Cを用いる第1の時定数である時定数RCの値も変化する。なお、この時点では、時定数RCの値はまだ暫定値に過ぎない。
【0045】
カウンタ101は、カウント値を切り替える度に、初期化信号initをアクティブにして第2の出力部からスイッチ341の制御信号入力部に向けて出力する。初期化信号initがアクティブになると、スイッチ341が閉じて、両端部が短絡する。スイッチ341が短絡すると、積分容量321が放電する。積分容量321が放電する度に、積分値がリセットされる。
【0046】
各カウントでの積分動作は、時定数の比較が行える十分に長い間隔で継続される。この間隔の長さは、時定数の10倍程度であることが望ましい。
【0047】
可変抵抗104の抵抗値は、カウントが進むに連れて増大するので、あるカウントにおいて、スイッチトキャパシタ211に対応する等価抵抗値を超えることになる。このとき、増幅器311の反転入力部において、調整対象時定数発生部1から注入される電流と、基準時定数発生部2から引き抜かれる電流との大小関係が逆転し、その結果、増幅器311の出力信号が反転する。
【0048】
増幅器311の出力信号が反転したとき、この反転信号は記憶部4の動作エッジとして利用され、フリップフロップ部410は、スイッチS0〜S14の状態を制御するカウンタ101のカウント値を記憶する。
【0049】
図9、図10を用いて、スイッチトキャパシタを備えることで精度の高い基準時定数を発生できる理由について、詳細を説明する。
【0050】
基準時定数発生部2は、スイッチトキャパシタ211の等価抵抗に積分容量321を組み合わせることで、第2の時定数である目標値の時定数を設定している。ここで、スイッチトキャパシタによる理想的に時定数を発生させる原理について説明する。
【0051】
図9は、スイッチトキャパシタを用いた積分回路を示す回路図である。この積分回路は、増幅器311と、スイッチトキャパシタ211と、積分容量321と、4つのスイッチ221〜224と、電源と、クロック信号入力部241と、インバータ回路部231とを具備している。
【0052】
図9の積分回路の各構成要素の接続関係について説明する。増幅器311と、スイッチトキャパシタ211と、積分容量321と、4つのスイッチ221〜224との間の接続関係は、図6の場合と同じであるので省略する。ただし、スイッチ221の他方の端部は、接地されておらず、電源に接続されている。クロック信号入力部241は、インバータ回路部231の入力部と、2つのスイッチ221、223の制御信号入力部とに接続されている。インバータ回路部231の出力部は、2つのスイッチ222、224の制御信号入力部に接続されている。
【0053】
図9の積分回路の動作について説明する。まず、クロック信号入力部241が、周期的なクロック信号を入力する。クロック信号は、Low状態とHigh状態を周期的に繰り返す。
【0054】
まず、クロック信号がHigh状態のとき、2つのスイッチ221、223は短絡状態となり、2つのスイッチ222、224は絶縁状態となる。このとき、スイッチトキャパシタ211には
ΔQ=Cs・Vin
の電荷が充電される。ここで、Csはスイッチトキャパシタの容量値を、Vinは電源の電圧を、それぞれ示す。
【0055】
次に、クロック信号がLow状態のとき、2つのスイッチ221、223は絶縁状態となり、2つのスイッチ222、224は短絡状態となる。このとき、スイッチトキャパシタ211に充電されていた電荷ΔQが、積分容量321に転送される。
【0056】
電荷ΔQが転送されることによって、スイッチトキャパシタ211および積分容量321の間には、
I=ΔQ・fCLK=Cs・Vin・fCLK
の電流が流れる。ここで、fCLKは、クロック信号の周波数を示す。
【0057】
電流Iを、オームの法則に当てはめると、
I=Vin/Requiv
が得られる。ここで、Requivは、スイッチトキャパシタ211の等価的な抵抗値であり、
equiv=1/(Cs・fCLK
となる。
【0058】
図10は、積分器の、連続時間信号処理構成および離散時間信号処理構成を比較する図である。図10(a)は、抵抗を用いた積分器の連続時間信号処理構成を示す図である。図10(b)は、スイッチトキャパシタを用いた積分器離散時間信号処理構成を示す図である。
【0059】
図10(b)の回路図は、図9の回路図を簡略化したものであるので、詳細な説明を省略する。図10(a)の回路図は、図9の回路図のスイッチトキャパシタ211および4つのスイッチ221〜224を抵抗Rに置き換えたものである。したがって、図10(a)の回路と、図10(b)の回路とは、同じ特性を持つ動作を行うはずである。
【0060】
しかし、図10(a)の回路では、時定数τは、抵抗Rおよび積分容量Ciの積で決まる。このため、抵抗Rおよび積分容量Ciのばらつきに、時定数τの精度は大きく影響される。その一方で、図10(b)の回路では、時定数τは、スイッチキャパシタの容量Csおよび積分容量の容量Ciの比と、クロック信号周波数fCLKとで決まる。一般的に、集積回路上に近接配置された素子のばらつきは同様であるため、スイッチキャパシタの容量Csおよび積分容量の容量Ciの比は、ほぼ一定となる。したがって、図10(b)の時定数τは、図10(a)の場合よりも、ばらつきに強い。すなわち、クロック信号周波数fCLKを一定に保てば、時定数τも一定とすることが出来る。
【0061】
このように、基準時定数発生部2は、スイッチトキャパシタ211を用いることで、精度の高い基準時定数を提供する。
【0062】
図7は、本発明の時定数調整回路の、ローパスフィルタ322、323およびフリップフロップ部410の後段に、フリップフロップ部430を追加した構成例を示す回路図である。図7の時定数調整回路には、図6の場合と比べて、他にも細かい変更を加えている。ここでは、補正値の精度を4ビットとした場合について説明する。
【0063】
すなわち、カウンタ101が出力するカウント信号は、4ビットである。セレクタ102は、内部に4つのセレクタスイッチを具備する。可変抵抗104は直列に接続された16個の抵抗素子R0〜R15を具備する。これら16個の抵抗素子R0〜R15の間にある15個の接続点には、15個のスイッチS0〜S14がそれぞれ接続されている。エンコーダ103は、4ビットの信号を入力して、これら15個のスイッチS0〜S14をそれぞれ制御する15個の制御信号に変換する。
【0064】
記憶部4は、前段のフリップフロップ部410と、後段のフリップフロップ部430と、波形切り直し用フリップフロップ441とを具備している。前段のフリップフロップ部410は、4つのフリップフロップ411〜414を具備する。後段のフリップフロップ部430は、4つのフリップフロップ431〜434を具備する。補正結果出力部420は、4つの補正結果出力端部421〜424を具備する。
【0065】
カウンタ101は、第1の出力部からカウント値を出力し、第2の出力部から第1の初期化信号であるinit信号を出力し、第3の出力部から第2の初期化信号であるinitD信号を出力し、第4の出力部からセレクタ102を制御するtune信号を出力する。ここで、第2の初期化信号initDは、第1の初期化信号initから半クロックだけ遅れている。カウンタ101の第2の出力部は、スイッチ341の制御信号入力部に接続されている以外に、波形切り直し用フリップフロップ441のクロック入力部にも接続されている。カウンタ101の第3の出力部は、前段の4つのフリップフロップ411〜414のそれぞれにおけるクロック入力部に接続されている。カウンタ101の第4の出力部は、セレクタ102内部の4つのセレクタスイッチにおける制御信号入力部に接続されている。
【0066】
セレクタ102内部の4つのセレクタスイッチにおける出力部は、エンコーダ103の入力部に接続されている以外に、前段のフリップフロップ部410における4つのフリップフロップ411〜414の信号入力部にもそれぞれ接続されている。前段のフリップフロップ部410における4つのフリップフロップ411〜414の出力部は、後段のフリップフロップ部430における4つのフリップフロップ431〜434の信号入力部にそれぞれ接続されている。抵抗323および容量322を具備するローパスフィルタ323、322の出力部は、波形切り直し用フリップフロップ441の信号入力部に接続されている。波形切り直し用フリップフロップ441の出力部は、後段のフリップフロップ部430における4つのフリップフロップ431〜434のクロック入力部に接続されている。後段のフリップフロップ部430における4つのフリップフロップ431〜434の出力部は、補正結果出力端部421〜424にそれぞれ接続されており、また、セレクタ102内部の4つのセレクタスイッチにおける第2の入力部にもそれぞれ接続されている。
【0067】
セレクタ102から出力される補正値は、前段のフリップフロップ部410の各フリップフロップ411〜414に供給される一方で、エンコーダ103にも供給される。
【0068】
なお、補正値の精度は、4ビット以外であってもかまわない。このとき、各構成要素の総数が補正値の精度に応じて変化することは言うまでもない。
【0069】
図8は、本発明の時定数調整モードを実行した際の各信号の変化を示すタイムチャートである。図8のタイムチャートにおいて、横軸は時間を、縦軸は信号の強度を、それぞれ示す。図8は、合計11個の信号のタイムチャートを示す。これら11個のタイムチャートは、上から順に、クロック信号(clk)と、4つの分周信号と、初期化信号(init)と、4ビットのカウンタ出力信号のうち下位2ビットの信号(c0、c1)と、15個のタップスイッチS0〜S14のうち最初の3つのタップスイッチング波形(s0、s1、s2)とにそれぞれ対応する。
【0070】
外部から供給されるクロック信号(clk)は、High状態とLow状態を周波数fCLKで周期的に繰り返している。
【0071】
カウンタ101は、クロック信号(clk)を入力し、この例では4段の分周を行った後に、初期化信号(init)およびカウンタ信号を出力する。つまり、この例では、初期化信号(init)は、クロック信号(clk)の周期の16倍の時間に一度、クロック信号の1周期の間だけHigh状態になり、残りの時間はLow状態になっている。また、カウンタ出力の最下位のビット(c0)は、クロック信号(clk)の周期の16倍の時間ごとに、High状態およびLow状態が切り替わる。
【0072】
カウンタ出力の上位ビットは、それぞれ、クロック信号(clk)の32倍、64倍、128倍の時間ごとに、High状態およびLow状態が切り替わる。
【0073】
カウンタ101が出力する信号を受けて、エンコーダ103は、15のスイッチS0〜S14をそれぞれ制御する15個の制御信号を出力する。ここで、15個の制御信号のうち、High状態になるのは一度に1つだけで、残り全てがLow状態になる。すなわち、15個のスイッチS0〜S14は、1つが短絡状態となり、残り全てが絶縁状態になる。ここで、短絡状態になるスイッチは、カウンタ出力信号の値に対応する。すなわち、カウンタ101におけるカウントが増加するに連れて、第1のスイッチS0から第15のスイッチS14までこの順番に短絡状態になる。
【0074】
上記に説明したとおり、カウント値が切り替わるたびに、初期化信号(init)がHigh状態になり、積分値がリセットされる。この例では、積分値がリセットされて、次に積分値がリセットされるまで、時定数の10倍以上の時間が経過することが分かる。
【0075】
図11は、本発明の時定数調整モードを実行した際の各信号のより詳細な変化の例を示すタイムチャートである。図11のタイムチャートにおいて、横軸は時間を、縦軸は信号の強度を、それぞれ示す。図11は、合計21個の信号のタイムチャートを示す。これら21個のタイムチャートは、上から順に、4ビットのカウンタ出力信号と、tune信号と、4ビットの補正結果と、デコーダの16ビット出力信号のうちの第1、第7、第8および第15ビットと、init信号と、initD信号と、フィルタ透過後の積分器出力信号と、フィルタ透過前の積分器出力信号と、4ビットの補正結果一時信号とにそれぞれ対応する。
【0076】
なお、図11に示す4ビットのカウンタ出力信号は、上から順に、第1〜第4ビットに対応する。図11のカウンタ出力信号のうち、第1および第2のビットは、図8に示すカウンタ出力信号の下位2ビットと同じである。
【0077】
上記に説明したとおり、可変抵抗104の抵抗値Rが、スイッチトキャパシタ211に対応する等価抵抗値を上回ると、判定部3の出力がLow状態からHigh状態に反転する。図11の例では、デコーダ出力信号の第8ビットが立っている間に、積分器出力信号の反転が起こっている。つまり、デコーダ出力信号の第1〜第7ビットが立っている間は、積分器出力信号がLow状態であり、第8〜第16ビットが立っている間は、積分器出力信号がHigh状態になっている。この反転信号を、記憶部4の動作立ち上がりエッジとして利用して、そのときのカウント値を補正値として4つのフリップフロップ411〜414に保持する。
【0078】
このとき、判定部3が出力する判定信号は、判定部3の後段に接続されたローパスフィルタによって、高周波成分が取り除かれる。その結果、記憶部4が入力する信号は、図11のフィルタ透過後の積分器出力信号のように、ばたつきの無い綺麗な立ち上がり波形となる。
【0079】
ここで、前後段のフリップフロップ部410、430が、カウンタ出力信号をラッチする動作について詳細に説明する。まず、セレクタ102から出力された4ビットのカウンタ信号は、前段のフリップフロップ部410の4つのフリップフロップ411〜414でそれぞれ記憶される。ただし、4つのフリップフロップ411〜414は、クロック入力部に第2の初期化信号initDを供給されている。したがって、4つのフリップフロップ411〜414は、第1の初期化信号initから半周期遅れて動作する。
【0080】
次に、前段のフリップフロップ部410の4つのフリップフロップ411〜414が記憶した4ビットのカウンタ信号は、後段のフリップフロップ部430の4つのフリップフロップ431〜434にそれぞれ供給される。ここで、4つのフリップフロップ431〜434は、クロック入力部に波形切り直し用フリップフロップ441の出力信号を供給されている。さらに、波形切り直し用フリップフロップ441は、クロック入力部に第1の初期化信号initを供給されている。したがって、後段の4つのフリップフロップ431〜434は、前段の4つのフリップフロップ411〜414からさらに半周期遅れて、すなわち、第1の初期化信号initに同期して、動作する。
【0081】
これらの半周期遅れを2つ設けることによって、後段の4つのフリップフロップ431〜434は、フィルタ透過後の積分器出力信号がHighに張り付いているタイミングにおけるカウンタ出力信号を確実にラッチ出来る。
【0082】
なお、もしもフリップフロップ部が1段しかなくて、第1の初期化信号initに同期して動作していたとしたら、カウンタ信号が変動するタイミングでラッチを行うことになり、動作が不安定になる恐れがある。
【0083】
補正値が記憶部4に記憶されると、時定数調整モードは終了する。時定数調整モードが終了すると、本発明の時定数調整回路は、自動的に通常動作モードに移行する。図11では、この時、tune信号がHigh状態からLow状態に転じている。時定数調整モードは、一般的な用途においては、数十μ秒で済む。
【0084】
本発明の時定数調整回路の通常動作モードについて説明する。時定数調整回路の電源がONにされた際に調整を一度だけ行えば、記憶部4に記憶された補正値は、時定数調整回路の電源を切らない限り、そのまま保持され続ける。その間、記憶部4は、補正値を伝達する信号をセレクタ102に供給する。補正値を伝達する信号は、エンコーダ103を介して、可変抵抗104を制御する制御信号に変換される。この制御信号は、可変抵抗104の制御信号入力部に供給される。可変抵抗104の抵抗値は、制御信号に応じて、時定数調整モードで得られた補正値に補正される。
【0085】
さらに、補正値を記憶する不揮発性のフラッシュメモリなどを設ければ、時定数調整モードは、時定数調整回路の出荷時に一度行うだけで十分である。
【0086】
本発明によると、連続時間型ΔΣADCローパスフィルタ部の抵抗および積分器を、時定数調整モードにおいても流用可能である。したがって、追加する必要があるのは、カウンタ101、エンコーダ103、フリップフロップ部410など、小規模なデジタル回路ブロックだけで済む。言い換えれば、本発明の時定数調整回路には、時定数の調整を行うために大規模な回路ブロックを追加する必要が無い。
【0087】
なお、上記の説明では、本発明の時定数調整回路は、図4の電子回路の複素バンドパスフィルタ部IF_FILに含まれている。ただし、これはあくまでも一例であって、本発明における時定数調整回路の用途が限定されないことは言うまでもない。
【0088】
本発明の時定数調整回路は、基準となる時定数を発生する回路として、基準時定数発生部2を集積回路に内蔵可能としている。これは、スイッチトキャパシタ211を用いることで、集積回路上に形成しても、基準時定数の精度が十分高く保てるからである。その結果、基準時定数発生部を集積回路の外部に設ける必要がある場合に比べて、接続用の端子を節約できるのみならず、集積回路として外部から電源さえ供給されれば、時定数のばらつきを自動的かつ自律的に調整可能となっている。
【0089】
また、本発明の時定数調整回路では、時定数を調整する際と、時定数調整後の通常動作モードとのそれぞれで必要な、複数の抵抗、複数のスイッチおよびカウンタを兼用出来る。この兼用は、記憶部を設けたことで実現しているが、それでも、集積回路のレイアウト面積が大幅に節約出来ている。
【0090】
さらに、参照用時定数の発生部は、マスタークロック信号を用いたスイッチトキャパシタ構成として集積回路上に作りこむことが可能である。つまり、参照用時定数の発生部を集積回路の外部に用意する必要が無いので、その分、集積回路の端子数を節約できる。
【符号の説明】
【0091】
1 調整対象時定数発生部
101 カウンタ
102 セレクタ
103 エンコーダ
104 可変抵抗(R)
R0〜R15 抵抗
S0〜S14 スイッチ
105 入力部
2 基準時定数発生部
211 スイッチトキャパシタ(Cs)
221〜224 スイッチ
231 インバータ回路
241 入力部
3 判定部
311 増幅器
321 積分容量(Ci)
322 容量
331〜333 抵抗
341 スイッチ
4 記憶部
410 フリップフロップ部
411〜414 フリップフロップ(F/F)
420 補正結果出力部
421〜424 補正結果出力部
430 後段フリップフロップ部
431〜434 後段フリップフロップ(F/F)
441 波形切り直し用フリップフロップ
5 時定数調整対象電子回路(積分器、積分回路)
10 時間基準発生部
1011 容量
1021 抵抗
1031 スイッチ
20、21、22 時定数発生部
2111 容量
2121 抵抗
2131 スイッチ
2211 容量
2221−0〜2221−n 抵抗
2231 スイッチ
2231−1〜2231−n スイッチ
30、31、32 判定部
3011 増幅器
3012 増幅器
40、41、42 記憶部
4111 フリップフロップ
4211 カウンタ
50、51、52 電子回路
5111 入力部
5121 増幅器
5131 容量
5132 容量
5141〜5146 抵抗
5151〜5153 スイッチ
5221 増幅器
5231 容量
5241−0〜5241−m 抵抗
5251−1〜5251−m スイッチ
60 カウンタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可変抵抗素子と、容量素子と、増幅器とを有する積分回路と、
一端が前記可変抵抗素子と並列に前記増幅器に接続されるスイッチトキャパシタと、
前記可変抵抗素子の可変抵抗値を調整する調整回路と
を備え、
前記積分回路は、前記可変抵抗素子の可変抵抗値および前記容量素子の容量値で決まる第1の時定数と、前記スイッチトキャパシタの容量値および前記容量素子の容量値で決まる第2の時定数とに基づいた電圧の制御信号を出力し、
前記調整回路は、前記制御信号に基づいて前記可変抵抗素子の可変抵抗値を調整する
半導体集積回路。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体集積回路において、
前記調整回路は、
前記可変抵抗値を制御するカウンタ
を具備し、
前記積分回路は、
前記第1および前記第2の時定数の大小関係を判定し、前記制御信号を出力する判定部
を具備し、
前記制御信号をトリガとして、前記可変抵抗値の補正結果を保持する記憶部
をさらに具備する
半導体集積回路。
【請求項3】
請求項2に記載の半導体集積回路において、
前記調整回路は、
前記可変抵抗素子の前段に配置されて、前記カウンタの出力信号または前記記憶部が保持する前記補正結果のいずれかを出力するセレクタ
をさらに具備する
半導体集積回路。
【請求項4】
請求項3に記載の半導体集積回路において、
前記調整回路は、
前記セレクタの出力信号に応じて前記可変抵抗素子の可変抵抗値を切り替えるスイッチと、
前記セレクタの出力信号を、前記スイッチを制御する信号に変換するエンコーダと
をさらに具備する
半導体集積回路。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれかに記載の半導体集積回路において、
前記記憶部は、
不揮発性のフラッシュメモリ
を具備する
半導体集積回路。
【請求項6】
可変抵抗素子と、容量素子と、増幅器とを有する積分回路の可変抵抗素子の抵抗値を調整する方法であって、
(a)前記可変抵抗素子の可変抵抗値および前記容量素子の容量値で決まる第1の時定数に基づいて、前記容量素子に電荷を注入するステップと、
(b)前記増幅器への接続を、前記可変抵抗素子からスイッチトキャパシタに切り替えるステップと、
(c)前記スイッチトキャパシタの容量値および前記容量素子の容量値で決まる第2の時定数に基づいて、前記容量素子に注入された電荷を引き抜くステップと、
(d)電荷が引き抜かれた後の前記容量素子の電圧に基づいて、前記可変抵抗素子の可変抵抗値を設定するステップと
を具備する
調整方法。
【請求項7】
請求項6に記載の調整方法において、
前記ステップ(d)は、
(d−1)前記容量素子の前記電圧の極性が反転したら、制御信号を出力するステップと、
(d−2)前記制御信号をトリガにして補正結果を保持するステップと、
(d−3)前記補正結果を保持するまで前記可変抵抗素子の可変抵抗値を調整するステップと
を具備する
調整方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−188250(P2011−188250A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−51618(P2010−51618)
【出願日】平成22年3月9日(2010.3.9)
【出願人】(302062931)ルネサスエレクトロニクス株式会社 (8,021)
【Fターム(参考)】