説明

有機半導体材料およびこれを用いた有機薄膜トランジスタ

【課題】汎用溶媒に対する溶解性が非常に高く、湿式成膜が可能な低コストプロセスに適応可能であり、さらに、容易に均質性の高い薄膜を得ることが可能な有機エレクトロニクス用材料として有用なオリゴチオフェン類からなる有機半導体材料およびこれを用いた有機薄膜トランジスタを提供する。
【解決手段】下記一般式(I)で表わされることを特徴とする有機半導体材料。


(式中、RおよびRは、互いに異なるアルキル基を表わし、xおよびyは、それぞれ独立に1または2の整数を表わす。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な構成単位を有する有機半導体材料を提供するものであり、更に、簡便な液体成膜プロセスを実施するために必要な溶解性に優れた有機エレクトロニクス材料およびこれを用いた有機薄膜トランジスタに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機半導体材料を利用した有機電子デバイスに関する研究開発が盛んである。
有機半導体材料は、印刷法、スピンコート法等のウェットプロセスによる簡便な方法で、容易に薄膜形成が可能であり、従来の無機半導体材料を利用した薄膜トランジスタと比較し、製造プロセス温度を低温化できるという利点がある。
これにより、一般に耐熱性の低いプラスチック基板上への形成が可能となり、ディスプレイ等のエレクトロニクスデバイスの軽量化や低コスト化が実現できるとともに、プラスチック基板のフレキシビリティーを活かした用途等、多様な展開が期待できる。
【0003】
これまでに、有機半導体材料として、分子が平面構造を有するため、密なパッキング形態をとることが可能であり、比較的高い半導体特性が得られることから、チオフェン分子を主骨格とした検討が数多く行なわれている。
例えば、高分子系材料としては、有機溶剤への溶解性および分子が配向する駆動力の付与を目的として、アルキル基を導入したポリ(3−アルキルチオフェン)が提案されている(非特許文献1参照)。
この有機半導体材料は、低いながらも溶解性を有するため、真空蒸着工程を経ず、塗布や印刷で薄膜化が可能である。しかし、このポリ(3−アルキルチオフェン)は酸化されやすく、これを活性層として利用した有機薄膜トランジスタは大気中での動作が不安定であった。
これに対して、酸化安定性を改善したポリチオフェン類も提案されている(特許文献1および特許文献2参照)。
しかしながら、これらを含め全般的に高分子系の有機半導体材料は、精製方法に制約を受け、高純度の材料を得るのに非常に手間がかかったり、分子量や分子量分布が存在するために、品質の安定性に欠けるという根本的な問題を抱えている。
【0004】
一方、チオフェン骨格を主とした有機半導体材料は、前記高分子系の欠点を克服するべく、オリゴチオフェン類の検討も多く行なわれている(例えば、非特許文献2参照)。
このオリゴチオフェンを有機半導体層として利用した有機薄膜トランジスタは、比較的高移動度であることが報告されているが、これらの材料はアルキル基等により置換されていないため、汎用溶媒に対しきわめて溶解性が低く、それを有機薄膜トランジスタにおける活性層として薄膜化する際には、真空蒸着工程を経る必要がある。ゆえに、前述したような塗布や印刷などの簡便なプロセスで薄膜を形成できるという有機半導体材料への期待に応えるものではない。
【0005】
また、α位または、β位にアルキル基を導入したオリゴチオフェン類も提案されているが(例えば、非特許文献3および非特許文献4参照)、本発明者らが検討した結果、室温における汎用溶剤に対する溶解性は決して満足できるものではないことが明らかとなった。
また、溶解度を考慮した分子の設計指針に基づくオリゴチオフェン類も提案されているが(非特許文献5参照)、成膜により得られた薄膜は連続性を有しておらず、デバイス作製に適した分子構造とはいい難い。
溶解性および成膜性を向上させることは、デバイス作製の観点からも重要であり、更なる材料開発が望まれている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来の技術を鑑みてなされたものであり、汎用溶媒に対する溶解性が非常に高く、湿式成膜が可能な低コストプロセスに適応可能であり、さらに、容易に均質性の高い薄膜を得ることが可能な有機エレクトロニクス用材料として有用なオリゴチオフェン類からなる有機半導体材料およびこれを用いた有機薄膜トランジスタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記問題を鑑みて、本発明者らは鋭意検討した結果、均質性の高い薄膜を得るためには、汎用溶剤に対する溶解度を維持すること、さらに、塗布後の薄膜の結晶化速度の制御が重要であると考え、特定の構成単位を含有するオリゴチオフェン類からなる有機半導体材料およびこれを用いた有機薄膜トランジスタにより上記課題が解決されることを見出し、本発明に至った。
即ち、本発明は以下の(1)から(4)で示される。
(1)「下記一般式(I)で表わされることを特徴とする有機半導体材料。
【0008】
【化1】

(式中、RおよびRは、互いに異なるアルキル基を表わし、xおよびyは、それぞれ独立に1または2の整数を表わす。)」、
(2)「少なくとも前記第(1)項記載の有機半導体材料と少なくとも1種類の有機溶媒を含むことからなる液体組成物」、
(3)「支持体上に形成され少なくとも前記第(1)項記載の有機半導体材料を含むことを特徴とする有機膜」、
(4)「有機半導体層と、この有機半導体層を通じて電流を流すための対をなす電極を設けてなる構造体と、第三の電極とからなる有機半導体薄膜トランジスタにおいて、有機半導体層が前記第(3)項の有機膜であることを特徴とする有機薄膜トランジスタ」。
【発明の効果】
【0009】
本発明の有機半導体材料は、種々の有機溶媒に可溶であり、低コストな湿式成膜が可能で、かつ、均質性の高い薄膜が得られることから、薄膜トランジスタの活性層用材料として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の有機薄膜トランジスタの概略図
【図2】本発明の実施例1で得られた本発明の有機半導体材料の赤外吸収スペクトル図
【図3】本発明の実施例2にて成膜した化合物1の有機膜の偏光顕微鏡観察写真(400倍)((a)オープンニコル、(b)クロスニコル)
【図4】本発明の実施例3にて作製した有機薄膜トランジスタの電流―電圧(I―V)特性図
【発明を実施するための形態】
【0011】
下記の一般式(I)で示される本発明の有機半導体材料は、有機薄膜トランジスタ用の電荷輸送性材料などの有機エレクトロニクス用素材として有用である。
【0012】
【化2】

(式中、RおよびRは、互いに異なるアルキル基を表わし、xおよびyは、それぞれ独立に1または2の整数を表わす。)
【0013】
アルキル基として具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、t−ブチル基、s−ブチル基、n−ブチル基、i−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、3,7−ジメチルオクチル基、2−エチルヘキシル基、トリフルオロメチル基、2−シアノエチル基、ベンジル基、4−クロロベンジル基、4−メチルベンジル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等を一例として挙げることができる。
上記の一例に挙げたように分岐鎖を導入してもよいが、結晶のパッキングに悪影響を及ぼす恐れもあるため、より好ましくは直鎖の導入が好ましい。
【0014】
以下に本発明の有機半導体材料の製造方法について説明する。
本発明の一般式(I)で示される化合物の製造方法としては、ハロゲン化物Ar−XとGrignard試薬Ar−MgXからAr−Ar構造を形成するGrignard反応による方法、パラジウム触媒を用いAr−Xの構造を有する有機ハロゲン化物と(RO)B−Arの構造を有するホウ素化合物をクロスカップリングさせてAr−Ar構造を形成するSuzukiカップリング反応による方法、有機ハロゲン化合物Ar−Xと有機すず化合物Ar−SnRとのクロスカップリングによりAr―Arを形成するStilleカップリング反応による方法、Kumadaカップリング反応、Negishiカップリング反応による方法、Hiyamaカップリング反応による方法、Sonogashira反応による方法、Heck反応による方法、Wittig反応による方法、などに代表わされる種々のカップリング反応を用いて行なう、公知の方法が例示される。
これらのうち、Grignard反応による方法、Suzukiカップリング反応またはStilleカップリング反応を用いる方法が、中間体の誘導体化が容易であるのと、反応性、収率の観点から特に好ましい。
【0015】
Grignard反応の場合には、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジメトキシエタンなどのエーテル系溶媒中でチオフェンのハロゲン化物と金属Mgとを反応させてGrignard試薬溶液とし、これと別に用意したモノマー溶液とを混合し、ニッケルまたはパラジウム触媒を過剰反応に注意しながら添加した後に昇温して還流させながら反応させる方法が例示される。
Grignard試薬はモノマーに対して当量以上、好ましくは1〜1.5当量、より好ましくは1〜1.2当量用いる。これら以外の方法で合成する場合も、公知の方法に従って反応させることができる。
Suzukiカップリング反応の場合には、チオフェンのハロゲン化物と、チオフェンのボロン酸またはボロン酸エステルを、パラジウム触媒および塩基の存在下で反応させる方法が例示される。
Stilleカップリング反応の場合には、チオフェンのハロゲン化物とチオフェンのトリアルキルスズ体を、パラジウム触媒の存在下で反応させる方法が例示される。
【0016】
上記に挙げた合成方法により得られることが可能な本発明の有機半導体材料の一例を以下に示すが、これらに限定されるものではない。
【0017】
【化3】

【0018】
【化4】

【0019】
【化5】

【0020】
【化6】

【0021】
【化7】

【0022】
【化8】

【0023】
【化9】

【0024】
【化10】

【0025】
【化11】

【0026】
【化12】

【0027】
【化13】

【0028】
【化14】

【0029】
【化15】

【0030】
【化16】

【0031】
【化17】

【0032】
【化18】

【0033】
【化19】

【0034】
【化20】

【0035】
【化21】

【0036】
【化22】

【0037】
【化23】

【0038】
以上のようにして得られた有機半導体材料は、反応に使用した触媒、無機塩、未反応原料、副生成物等の不純物を除去して使用される。
精製操作は再結晶、各種クロマトグラフィー法、昇華精製、再沈澱、抽出、ソックスレー抽出、限外濾過、透析等をはじめとする従来公知の方法を使用できる。
不純物の混入は半導体特性に悪影響を及ぼすため、可能な限り高純度にすることが望ましい。
溶解性に優れた本発明の材料は、これら精製方法の制約が少なくなり、結果的に半導体特性にも好影響を与える。
【0039】
上記製造方法により得られた本発明の有機半導体材料は、有機溶媒に溶解させることにより液体組成物を調製することが可能である。
使用できる有機溶媒としては、例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、テトラヒドロフラン、ジオキサン、シクロヘキサノン、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、酢酸プロピル、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−オクタン、n−デカン、n−ドデカン、ジメチルホルムアミド、ベンゼン、トルエン、クメン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、p−シメン、メシチレン、アニソール、2−メチルアニソール、3−メチルアニソール、4−メチルアニソール、2,5−ジメチルアニソール、3,5−ジメトキシトルエン、2,4−ジメチルアニソール、フェネトール、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸ブチル、1,5−ジメチルテトラリン、n−プロピルベンゼン、n−ブチルベンゼン、n−ペンチルベンゼン、1,3,5−トリエチルベンゼン、1,3−ジメトキシベンゼン、ピリジン、ニトロベンゼン、アニリン、N−メチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、ベンゾニトリル、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、2−フルオロトルエン、3−フルオロトルエン、2,5−ジフルオロトルエン、2−フルオロアニソール、3−フルオロアニソール、4−フルオロアニソール、4−フルオロ−3−メチルアニソール、3−トリフルオロメチルアニソール、ブロモベンゼン、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン等などが挙げられるが、使用がこれらに限定されることはない。
調製された液体組成物における本発明の有機半導体材料の濃度としては、0.01〜20重量%であることが好ましく、さらには0.1〜10重量%であることが好ましい。
使用する有機溶媒は1種類でもよいが、所望の均質性の高い薄膜を得るため、複数の種類の溶媒を混合して用いてもよい。
【0040】
本発明の有機膜は、上記のようにして調製された有機半導体材料を含む液体組成物を支持体上に塗布することによって薄膜を形成することができる。
一例を挙げると、スピンコート法、キャスト法、ディップ法、インクジェット法、ドクターブレード法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法、凸版印刷法、マイクロコンタクトプリント法、ワイヤーバーコート法、スプレーコート法、ディスペンス法等の公知の湿式成膜方法により薄膜を作製することが可能である。また、キャスト法などによっては平板状結晶や厚膜状態の形態をとることも可能である。
これらの薄膜、厚膜、或いは結晶は、光電変換素子、薄膜トランジスタ素子、発光素子など種々の機能素子の電荷輸送性部材として機能する。
また、本発明の有機半導体材料は、真空蒸着法などのドライプロセスによっても成膜は可能である。
【0041】
次に、本発明の有機薄膜トランジスタについて、図1に概略構造図を示して説明する。
有機薄膜トランジスタを構成する有機半導体層(1)は、本発明の一般式(I)で示される化合物を主成分としている。
【0042】
有機薄膜トランジスタは、有機半導体層(1)を介して分離形成された第1の電極(ソース電極)(2)、第2の電極(ドレイン電極)(3)を有しており、これらと対向する第3の電極(ゲート電極)(4)を有している。なお、ゲート電極(4)と有機半導体層(1)との間には、絶縁膜(5)が設けられていてもよい。
有機薄膜トランジスタは、ゲート電極(4)への電圧印加により、ソース電極(2)とドレイン電極(3)の間の有機半導体層(1)内を流れる電流がコントロールされるようになされている。
【0043】
本発明の有機薄膜トランジスタは、所定の支持体上に形成される。
支持体としては、従来公知の基板材料が適用でき、例えば、ガラス、シリコン、プラスチック等が挙げられる。なお導電性基板を用いることによりゲート電極(4)を兼用することができる。
【0044】
また、ゲート電極(4)と導電性基板とが積層された構成としてもよいが、本発明の有機薄膜トランジスタをデバイスに応用する場合、フレキシビリティー、軽量化、安価、耐衝撃性等の実用面の特性を良好なものとするために、支持体としては、プラスチックシートを用いることが好ましく、一般的に平滑な面を有する基板が好ましく用いられる。
プラスチックシートとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリイミド、ポリカーボネート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート等のフィルムが挙げられる。
【0045】
本発明の有機膜および有機薄膜トランジスタにおいて、有機半導体層の膜厚としては、特に制限はないが、均一な薄膜(即ち、有機半導体層のキャリア輸送特性に悪影響を及ぼすギャップやホールがない)が形成されるような厚みに選択される。
有機半導体薄膜の厚みは、一般に1μm以下、特に5〜200nmが好ましい。
【0046】
次に、図1の有機薄膜トランジスタにおける、上記有機半導体層以外の構成要素について説明する。
有機半導体層(1)は、第1の電極(ソース電極)、第2の電極(ドレイン電極)、および必要に応じて絶縁膜(5)に接して形成されている。
【0047】
絶縁膜(5)について説明する。
有機薄膜トランジスタを構成する絶縁膜は、種々の絶縁膜材料を用いて形成されている。
例えば、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化チタン、酸化タンタル、酸化スズ、酸化バナジウム、チタン酸バリウムストロンチウム、ジルコウム酸化チタン酸バリウム、ジルコニウム酸チタン酸鉛、チタン酸鉛ランタン、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム、フッ化バリウムマグネシウム、タンタル酸ニオブ酸ビスマス、トリオキサイドイットリウム等の無機系絶縁材料が挙げられる。
また、例えば、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルフェノール、ポリエステル、ポリエチレン、ポリフェニレンスルフィド、ポリスチレン、ポリメタクリル酸エステル、無置換またはハロゲン原子置換ポリパラキシリレン、ポリアクリロニトリル、シアノエチルプルラン等の高分子化合物も用いることができる。
更には、上記絶縁材料を2種以上合わせて用いてもよい。これらのうち、特に材料は限定されないが、誘電率が高く導電率が低いものが好ましい。
絶縁膜(5)の形成方法としては、例えば、CVD法、プラズマCVD法、プラズマ重合法、蒸着法のドライプロセスや、スプレーコート法、スピンコート法、ディップコート法、インクジェット法、キャスト法、ブレードコート法、バーコート法等の塗布によるウェットプロセスが挙げられる。
【0048】
次に、有機半導体層(1)と絶縁膜(5)との界面修飾について説明する。
有機薄膜トランジスタにおいて、絶縁膜(5)と有機半導体層(1)との接着性を向上させ、かつ駆動電圧の低減、リーク電流の低減等を図ることを目的として、有機半導体層(1)と絶縁膜(5)との間には、所定の有機薄膜を設けるようにしてもよい。
この有機薄膜は、有機半導体層に対し化学的影響を与えなければ特に限定されるものではないが、例えば、有機分子膜や高分子薄膜が利用できる。
有機分子膜としては、例えばオクタデシルトリクロロシランやヘキサメチルジシラザン等を始めとしたカップリング剤が挙げられる。
高分子薄膜としては、上述の高分子絶縁膜材料を利用することができ、これらが絶縁膜の一種として機能していてもよい。
また、この有機薄膜をラビング等により、異方性処理を施していてもよく、成膜された本発明の有機半導体材料が該異方性処理により配向し規則性を持つことにより、アモルファス状態よりも高いトランジスタ素子の性能を引き出すことができる。
【0049】
アニールは、基板等の材質に依存するが、室温から300℃の間が好ましい。さらに好ましくは50℃から300℃が好ましい。50℃以下であると一般的な有機溶媒が除去できない。また、300℃以上では有機物は熱分解する恐れがある。
アニール雰囲気は、酸素雰囲気、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気、又は空気で行なうのもよいし、有機溶媒雰囲気、例えば該有機半導体材料が溶解できる溶媒にさらすことで、該有機半導体材料の分子運動を促進し、好ましい有機膜を得ることができる。アニールの時間は材料の凝集速度に応じて適宜設定できる。
【0050】
次に、有機薄膜トランジスタを構成する電極について説明する。
本発明の有機薄膜トランジスタは、有機半導体層を介して互いに分離した対の第1の電極(ソース電極)と第2の電極(ドレイン電極)と、電圧を印加することにより、前記第1の電極と前記第2の電極との間の有機半導体層内を流れる電流をコントロールする機能を具備する第3の電極(ゲート電極)を具備している。
有機薄膜トランジスタはスイッチング素子であるため、第3の電極(ゲート電極)による電圧の印加状態により、第1の電極(ソース電極)と第2の電極(ドレイン電極)間に流れる電流量が大きく変調できることが重要である。これはトランジスタの駆動状態で大きな電流が流れ、非駆動状態では、電流が流れないことを意味する。
【0051】
ゲート電極、ソース電極としては、導電性材料であれば特に限定されるものではなく、例えば、白金、金、銀、ニッケル、クロム、銅、鉄、錫、アンチモン、鉛、タンタル、インジウム、アルミニウム、亜鉛、マグネシウム等、およびこれらの合金やインジウム・錫酸化物等の導電性金属酸化物、あるいはドーピング等で導電率を向上させた無機および有機半導体、例えば、シリコン単結晶、ポリシリコン、アモルファスシリコン、ゲルマニウム、グラファイト、ポリアセチレン、ポリパラフェニレン、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチエニレンビニレン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリエチレンジオキシチオフェンとポリスチレンスルホン酸の錯体等が適用できる。
ソース電極、およびドレイン電極は、半導体層との接触面において、電気抵抗が少ないものとすることが望ましい。
【0052】
上記電極の形成方法としては、例えば、上記電極形成用材料を原料として、蒸着やスパッタリング等の方法を用いて形成した導電性薄膜を、公知のフォトリソグラフ法やリフトオフ法を適用することによって、電極形状とする方法が挙げられる。
また、アルミニウムや銅等の金属箔上に熱転写、インクジェット等によるレジストを用いてエッチングする方法も適用できる。
また、導電性ポリマーの溶液あるいは分散液、導電性微粒子分散液を直接インクジェットによりパターニングしてもよいし、塗工膜からリソグラフィーやレーザーアブレーション等により形成してもよい。
さらには、導電性ポリマーや導電性微粒子を含むインク、導電性ペースト等を凸版、凹版、平版、スクリーン印刷等の印刷法でパターニングする方法も適用できる。
【0053】
本発明の有機薄膜トランジスタは、必要に応じて各電極からの引出し電極を設けてもよい。
また、本発明の有機トランジスタは、大気中でも安定に駆動するものであるが、機械的破壊からの保護、水分やガスからの保護、またはデバイスの集積の都合上の保護等のため必要に応じて保護層を設けることもできる。
【0054】
上述した本発明の有機薄膜トランジスタは、液晶、エレクトロルミネッセンス、エレクトロクロミック、電気泳動等の、従来公知の各種表示画像素子を駆動するための素子として好適に利用でき、これらの集積化により、いわゆる「電子ペーパー」と呼ばれるディスプレイを製造することが可能である。また、ICタグ等のデバイスとして、本発明の有機薄膜トランジスタを集積化したICを利用することが可能である。
【0055】
[中間体の合成1]
<ジドデシル−クウォータチオフェンの合成>
(特開2006−8679号公報記載の合成例を参考に合成)
【0056】
【化24】

200mlフラスコに、マグネシウム(フレーク状)2.151g(88.48mmol)を入れ、系内をアルゴンガス置換した後、乾燥THF8mlおよび少量のヨウ素を加えた。この分散液に、2−ブロモ−3−n−ドデシルチオフェン19.86g(60mmol)と乾燥THF52mlの混合溶液を滴下した後、6時間還流を行ない、室温まで冷却して、3−n−ドデシルチオフェンのグリニャール試薬を調製した。
【0057】
アルゴンガス置換した500mlフラスコに、5,5′−ジブロモ−2,2′−ビチオフェン 7.84g(24.19mmol)、[1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]ジクロロニッケル(II) 0.481g(0.911mmol)、乾燥THF 105mlを加え、この溶液に、上記で調製した3−n−ドデシルチオフェンのグリニャール試薬をシリンジを用いて滴下ろうとに移して滴下し、滴下が終わった後、24時間還流を行なった。
【0058】
その後、THFを留去した後、トルエンを加えてから、塩酸水溶液を加えクエンチした。
この溶液を分液ろうとに移し、水洗および飽和食塩水洗浄した後、有機層を無水硫酸マグネシウムで脱水した。乾燥剤を濾別した後、溶媒を減圧留去した。
この粗生成物を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/トルエン=95/5)により精製した後、エタノール/トルエンにて再結晶することにより、黄色針状晶のジドデシル−クウォータチオフェンを得た。
収量11.4g、収率71%。融点は58.0−59.0℃であった。
【0059】
[中間体の合成2]
<ジドデシル−クウォータチオフェンのジブロモ体の合成>
【0060】
【化25】

【0061】
500mlフラスコに、合成例1にて合成したジドデシル−クウォータチオフェン 10.56g(15.83mmol)、N−ブロモスクシンイミド 5.635g(31.66mmol)、クロロホルム120mlを入れ、室温で撹拌しながら酢酸を50ml滴下した。その後、還流を1時間行ない反応終了とした。
【0062】
室温に戻した後、水を加え、クロロホルムで希釈してから分液ろうとに移し、有機層を1M水酸化カリウム水溶液、水、0.5%炭酸水素ナトリウム水溶液、水、飽和食塩水の順で洗浄し、有機層を無水硫酸マグネシウムで脱水した。
乾燥剤を濾別した後、溶媒を減圧留去した。
この粗生成物を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/トルエン=95/5)により精製した後、エタノール/トルエンにて再結晶することにより、黄色針状晶のジドデシル−クウォータチオフェンのジブロモ体を得た。
収量12.3g、収率95%。融点は74.5−75.5℃であった。
【実施例】
【0063】
以下、本発明について、実施例を挙げて説明する。
【実施例1】
【0064】
[化合物1の合成]
【0065】
【化26】

【0066】
100mlフラスコに、マグネシウム(フレーク状)0.757g(31.14mmol)を入れ、系内をアルゴンガス置換した後、乾燥THF5mlおよび少量のヨウ素を加えた。
この分散液に、2−ブロモ−3−n−ヘキシルチオフェン 5.21g(21.1mmol)と乾燥THF 19mlの混合溶液を滴下した後、6時間還流を行ない、室温まで冷却して、3−n−ヘキシルチオフェンのグリニャール試薬を調製した。
【0067】
アルゴンガス置換した200mlフラスコに、合成例2で合成したジドデシル−クウォータチオフェンのジブロモ体 7g(8.49mmol)、[1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]ジクロロニッケル(II)0.169g(0.320mmol)、乾燥THF 37mlを加え、この溶液に、上記で調製した3−n−ヘキシルチオフェンのグリニャール試薬をシリンジを用いて滴下ろうとに移して滴下し、滴下が終わった後、24時間還流を行なった。その後、THFを留去した後、トルエンを加えてから、塩酸水溶液を加えクエンチした。
【0068】
この溶液を分液ろうとに移し、水、飽和食塩水の順で洗浄した後、有機層を無水硫酸マグネシウムで脱水した。乾燥剤を濾別した後、溶媒を減圧留去した。
この粗生成物を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/トルエン=9/1)により精製した後、エタノール/トルエンにて再結晶することにより、オレンジ色針状晶の化合物を得た。
収量4.91g、収率58%。融点は57.0−58.0℃であった。
元素分析値(計算値);C:72.23%(72.09%)、H:8.50%(8.67%)、S:19.16%(19.24%)
赤外吸収スペクトル(KBr錠剤法)を図2に示した。
【実施例2】
【0069】
実施例1にて合成した化合物1を用いて汎用的な有機溶剤に対する溶解性および成膜性を調べた。
【0070】
[比較例1]
同様に、下記に示す構造式の比較化合物1を用いて、汎用的な有機溶剤に対する溶解性および成膜性を調べた。この比較化合物1は、前記非特許文献3に記載されている。
【0071】
【化27】

【0072】
[比較例2]
同様に、下記に示す構造式の比較化合物2を用いて、汎用的な有機溶剤に対する溶解性および成膜性を調べた。この比較化合物2は、前記非特許文献4に記載されている。
【0073】
【化28】

【0074】
[比較例3]
同様に、下記に示す構造式の比較化合物3を用いて、汎用的な有機溶剤に対する溶解性および成膜性を調べた。この比較化合物3は、前記非特許文献5に記載のオリゴチオフエンの原料である。
【0075】
【化29】

【0076】
(i)溶解性
溶解性を調べる方法としては、それぞれの溶剤に対して各化合物の濃度1mg/mlの溶液を調製し、以下に示す基準により判断を行なった。
○:室温(22℃)で溶解する。
△:室温では溶解しないが、50℃に加熱すると溶解し、室温で一晩静置しても溶質が析出しない。
×:室温および50℃に加熱しても溶解しない、または、50℃に加熱すると溶解するが、室温で一晩静置すると溶質が析出する。
【0077】
(ii)成膜性
まず、成膜を行なう支持体の作製方法としては、膜厚300nmの熱酸化膜を有するn型のシリコン基板を、濃硫酸に24時間浸漬した後、純水にて充分に濯いでから乾燥することにより洗浄した。
この洗浄したシリコン基板を、シランカップリング剤であるフェニルトリクロロシランのトルエン溶液 (1mM,8mL)に30分浸漬した後、純水およびアセトンで充分に洗浄、乾燥することにより、シリコン酸化膜表面に単分子膜を構築した。
次に、この単分子膜を構築したシリコン基板上に、化合物1、比較化合物1、比較化合物2および比較化合物3のそれぞれのクロロホルム溶液を支持体上にスピンコートすることにより有機膜の成膜を行なった。なお、溶質が析出した比較化合物2の液体組成物に関しては、孔径0.1μmのPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)製のフィルターを通してからスピンコートを行なった。
溶解性および成膜性試験の結果を表1に示す。
【0078】
成膜したそれぞれの有機膜を目視により観察したところ、比較化合物1、比較化合物2および比較化合物3の有機膜はいずれも不連続な膜であったが、化合物1の有機膜は均一な連続膜が成膜されていることが確認された。
また、化合物1の有機膜を偏光顕微鏡にて観察した。この結果を図3に示す。
これより、化合物1の有機膜は支持体上に均一に成膜されており、かつ、比較的大きなドメインで配向していることが明らかとなった。
【0079】
【表1】

【実施例3】
【0080】
<有機薄膜トランジスタ素子の作製および静特性の評価>
実施例2にて得られたシリコン基板上に成膜した化合物1の有機膜に、チャネル長が50μm、チャネル幅が2000μmとなるようにメタルマスクを介してソース・ドレイン電極となるAuを100nm蒸着し、図1−(D)の構造の電界効果型トランジスタを作製した。
次いで、上記基板のソース・ドレイン電極とは異なる部位の有機半導体層およびシリコン酸化膜を削り取り、その部分に導電性ペースト(藤倉化成製)を付け溶媒を乾燥させた。この部分をゲート電極とし、シリコン基板に電圧を印加した。
こうして得られたFET素子の電気特性をAgilent社製 半導体パラメーターアナライザー4156Cを用いて評価した結果、p型のトランジスタ素子としての特性を示した。有機薄膜トランジスタの電流―電圧(I−V)特性を図4に示す。
この飽和領域から、電界効果移動度を求めた。
なお、有機薄膜トランジスタの電界効果移動度の算出には、以下の式を用いた。
ds=μCinW(V−Vth)2/2L
(ただし、Cinはゲート絶縁膜の単位面積あたりのキャパシタンス、Wはチャネル幅、Lはチャネル長、Vはゲート電圧、Idsはソース−ドレイン電流、μは移動度、Vthはチャネルが形成し始めるゲートの閾値電圧である。)
【0081】
作製した有機薄膜トランジスタ素子の移動度は4.4×10−2cm/Vsecであった。
またオンオフ比(Vds=−20V、V=−40VにおけるIdsと、Vds=−20V、V=+20〜−40Vの範囲内で観測された最小のIdsの比)は2.9×10で、閾値電圧は−10.0Vであった。
【実施例4】
【0082】
実施例3にて作製した有機薄膜トランジスタ素子をホットプレート上に置き、50℃で30分加熱した後、ホットプレートの電源を切り一晩放冷することにより、有機半導体膜にアニール処理を施した。その後、実施例3と同様の方法にて素子の移動度を評価したところ、移動度は6.8×10−2cm/Vsecであり、またオンオフ比は1.1×10で、閾値電圧は−11.0Vであった。
作製した有機薄膜トランジスタ素子のアニール処理により有機半導体膜の配向密度が上昇し、素子の性能が上がったことがわかる。
【符号の説明】
【0083】
1 有機半導体層
2 ソース電極
3 ドレイン電極
4 ゲート電極
5 ゲート絶縁膜
【先行技術文献】
【特許文献】
【0084】
【特許文献1】特開2003−221434号公報
【特許文献2】特開2003−268083号公報
【非特許文献】
【0085】
【非特許文献1】Appl.Phys.Lett.,69(26),4108(1996).
【非特許文献2】Adv.Mat.,12,1046(2000).
【非特許文献3】Syn.Met.,67,47(1994).
【非特許文献4】J.Appl.Phys.,93(5),2977(2003).
【非特許文献5】Chem.Lett.,35(8),942(2006).(最も近い従来技術)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表わされることを特徴とする有機半導体材料。
【化1】

(式中、RおよびRは、互いに異なるアルキル基を表わし、xおよびyは、それぞれ独立に1または2の整数を表わす。)
【請求項2】
少なくとも請求項1記載の有機半導体材料と少なくとも1種類の有機溶媒を含むことからなる液体組成物。
【請求項3】
支持体上に形成され少なくとも請求項1記載の有機半導体材料を含むことを特徴とする有機膜。
【請求項4】
有機半導体層と、この有機半導体層を通じて電流を流すための対をなす電極を設けてなる構造体と、第三の電極とからなる有機半導体薄膜トランジスタにおいて、有機半導体層が請求項3の有機膜であることを特徴とする有機薄膜トランジスタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−23402(P2011−23402A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−164783(P2009−164783)
【出願日】平成21年7月13日(2009.7.13)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成20年度独立行政法人科学技術振興機構 産学共同シーズイノベーション化事業顕在化ステージ「有機半導体薄膜の極限構造制御法の検討と高速電子デバイスへの展開」委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】