説明

有機電子デバイス及びその製造方法、並びに、有機半導体分子

【課題】物性的に安定し、しかも、製造が比較的容易な有機電子デバイスを提供する。
【解決手段】有機電子デバイスは、(A)微粒子、及び、(B)微粒子と微粒子とを結合した有機半導体分子から成り、p型としての挙動を示す導電路を具備し、有機半導体分子は、下記の構造式(1)で表されることを特徴とする有機電子デバイス。


但し、構造式(1)中、R1,R2はアルキル基を表し、Mは、2H,Zn+2,Mg+2,Fe+2,Co+2,Ni+2,Cu+2を表し,nは1乃至5の整数である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機電子デバイス及びその製造方法、並びに、新規の有機半導体分子に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、多くの電子機器に用いられている薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor,TFT)を含む電界効果型トランジスタ(Field Effect Transistor, FET)は、例えば、シリコン半導体基板あるいはシリコン半導体層に形成されたチャネル形成領域及びソース/ドレイン領域、シリコン半導体基板表面あるいはシリコン半導体層表面に形成されたSiO2から成るゲート絶縁層、並びに、ゲート絶縁層を介してチャネル形成領域に対向して設けられたゲート電極から構成されている。あるいは又、支持体上に形成されたゲート電極、ゲート電極上を含む支持体上に形成されたゲート絶縁層、並びに、ゲート絶縁層上に形成されたチャネル形成領域及びソース/ドレイン領域から構成されている。そして、これらの構造を有する電界効果型トランジスタ(FET)の作製には、非常に高価な半導体製造装置が使用されており、製造コストの低減が強く要望されている。
【0003】
そこで、近年、スピンコート法、印刷法、スプレー法に例示される真空技術を用いない方法に基づき製造が可能な、有機半導体材料を用いたFETを含む種々の有機電子デバイスの研究、開発に注目が集まっている。ところで、p型有機半導体材料を用いた有機電子デバイスの開発に関する研究報告は多々あるが、n型有機半導体材料を用いた有機電子デバイスの開発に関する研究報告は少ないのが現状である。p−n接合、光電変換素子、バイポーラトランジスタや相補型トランジスタを含む種々のトランジスタ等に有機半導体材料を幅広く応用するためには、n型有機半導体材料の開発を、p型有機半導体材料の開発と並行しながら進めていく必要がある(例えば、文献1:Shinji, A., et. al. J. Am, Chem. Soc. 2005, 127, 14996、文献2:Facchetti. A., et. al. Angew. Chem. Int. Ed. 2003, 42, 3900、文献3:Locklin, A. J., et. al. Chem. Mater. 2003, 15, 1404、文献4:Chesterfield, R. J., et. al. Adv. Mater. 2003, 15, 1278 参照)。これまでに、塗布可能なn型有機半導体材料として、フルオロアルキル基を置換したペンタセン(文献5:Sakamoto, Y., et. al. J. Am, Chem. Soc. 2004, 126, 8138 参照)、オリゴチオフェン、チアゾール・オリゴマー(文献6:Yoon, M. H., et. al. J. Am, Chem. Soc. 2005, 127, 1348 参照)等が報告されている。また、一層特性の優れたp型有機半導体材料の開発も重要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Shinji, A., et. al. J. Am, Chem. Soc. 2005, 127, 14996
【非特許文献2】Facchetti. A., et. al. Angew. Chem. Int. Ed. 2003, 42, 3900
【非特許文献3】Locklin, A. J., et. al. Chem. Mater. 2003, 15, 1404
【非特許文献4】Chesterfield, R. J., et. al. Adv. Mater. 2003, 15, 1278
【非特許文献5】Sakamoto, Y., et. al. J. Am, Chem. Soc. 2004, 126, 8138
【非特許文献6】Yoon, M. H., et. al. J. Am, Chem. Soc. 2005, 127, 1348
【非特許文献7】X. Xiao et. al. J. Am. Chem. Soc. 2005, 127, 9235-9240
【非特許文献8】K. Tashiro et. al. J. Am. Chem. Soc. 1999, 121, 9477-9478
【非特許文献9】M. Shiragawa et. al. J. Am. Chem. Soc. 2003, 125, 9902-9903
【非特許文献10】H. Imahori et. al. Chem. Eur. J. 2005, 11, 7265-7275
【非特許文献11】B. C. Sih et. al. Chem.Commun. 2005, 3375-3384
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述した文献に開示されたn型有機半導体材料は、数段階の複雑なプロセスによって合成され、各種のデバイスに応用されている。しかしながら、各種の有機電子デバイスの実用化に向けて、より簡素なプロセスの開発等によって種々の有機電子デバイスの製造コストの低減を図ることは、非常に重要な課題の1つである。また、一般に、n型有機半導体材料は、空気中で酸化され易く、従って、n型有機半導体材料の選択自由度が低かったり、n型有機半導体材料から構成される有機電子デバイスの製造プロセスが複雑になるといった問題も有している。また、一層特性の優れたp型有機半導体材料への要望も高い。
【0006】
従って、本発明の第1の目的は、物性的に安定し、しかも、製造が比較的容易な有機電子デバイス、及び、その製造方法を提供することにある。また、本発明の第2の目的は、一層特性の優れた有機半導体分子、並びに、係る有機半導体分子を用いた有機電子デバイス、及び、その製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の第1の目的を達成するための本発明の第1の態様に係る有機電子デバイスは、
(A)微粒子、
(B)第1導電型を有し、微粒子と微粒子とを結合した第1の有機半導体分子、及び、
(C)第2導電型を有し、微粒子と微粒子との間に存在する分子認識場内に非共有結合状態で捕捉された第2の有機半導体分子、
から成る導電路を具備することを特徴とする。
【0008】
上記の第1の目的を達成するための本発明の第1の態様に係る有機電子デバイスの製造方法は、
基体上に、
(a)微粒子、及び、
(b)第1導電型を有し、微粒子と微粒子とを結合した第1の有機半導体分子、
から成る微粒子/第1の有機半導体分子・結合層を形成した後、
微粒子/第1の有機半導体分子・結合層を、第2導電型を有する第2の有機半導体分子と接触させ、以て、
(A)微粒子、
(B)第1導電型を有し、微粒子と微粒子とを結合した第1の有機半導体分子、及び、
(C)第2導電型を有し、微粒子と微粒子との間に存在する分子認識場内に非共有結合状態で捕捉された第2の有機半導体分子、
から成る導電路を得ることを特徴とする。
【0009】
ここで、分子認識とは、一般に、分子が、任意の相手分子とではなく、ある限られた分子と会合体、付加化合物、クラスター化合物、混晶等を形成し、選択性が発揮されることを意味する。そして、本発明の第1の態様における分子認識場とは、第2の有機半導体分子が、第1の有機半導体分子と選択的に分子間力を利用した超分子会合体を形成し得る場を意味する。また、「非共有結合状態で捕捉されている」とは、具体的には、第2の有機半導体分子が、以下の状態にあることを意味する。即ち、微粒子は第1の有機半導体分子によってリンクされ、網状のネットワーク構造を形成しており、数多くのナノ空間が存在するが、このナノ空間中に、第2の有機半導体分子が、第1の有機半導体分子とのπ−π相互作用により閉じ込められていることを意味する。第2の有機半導体分子が微粒子と微粒子との間に存在する分子認識場内に非共有結合状態で捕捉されていることを、以下に述べる方法で検証することができる。即ち、十分に洗浄した後、UV−Vis吸収スペクトルを測定する。すると、第2の有機半導体分子に由来する吸収ピークが現れる。更には、周囲の第1の有機半導体分子に由来する吸収ピークにおいては、第2の有機半導体分子との分子間相互作用により、その吸収ピークの長波長へのシフトが観測される。一方、第1の有機半導体分子と第2の有機半導体分子によって会合体が形成されれば、分子間のエネルギー移動あるいは電子移動が促進され、これは、蛍光減衰、過度吸収等の手法により観測することができる。
【0010】
上記の第2の目的を達成するための本発明の第2の態様に係る有機電子デバイスは、
(A)微粒子、及び、
(B)微粒子と微粒子とを結合した有機半導体分子、
から成り、p型としての挙動を示す導電路を具備し、
有機半導体分子は、下記の構造式(1)で表されることを特徴とする。
【0011】
また、上記の第2の目的を達成するための本発明の第2の態様に係る有機電子デバイスの製造方法は、基体上に、微粒子層を形成した後、下記の構造式(1)で表される有機半導体分子を含む溶液に浸漬することで、微粒子、及び、微粒子と微粒子とを結合した有機半導体分子から成り、p型としての挙動を示す導電路を形成することを特徴とする。
【0012】

【0013】
但し、構造式(1)中、R1,R2はアルキル基を表し、Mは、2H,Zn+2,Mg+2,Fe+2,Co+2,Ni+2,Cu+2を表し,nは1乃至5の整数である。ここで、導電路は、微粒子/有機半導体分子・結合層から構成されている。
【0014】
更には、上記の第2の目的を達成するための本発明の有機半導体分子は、下記の構造式(2)で表されることを特徴とする。但し、構造式(2)中、R1,R2はアルキル基を表し、Mは、2H,Zn+2,Mg+2,Fe+2,Co+2,Ni+2,Cu+2を表し,nは1乃至5の整数である。尚、この有機半導体分子は、p型の導電型を示す。
【0015】

【0016】
尚、構造式(1)は、広くは、チオール基を有するチオフェンポルフィリンを意味する。また、構造式(2)は、広くは、チオアセチル基を有するチオフェンポルフィリンを意味する。そして、構造式(1)あるいは構造式(2)で表されるこのポルフィリン有機半導体分子は、微粒子の表面と化学結合するアンカー部位、π共役系スペーサー、ポルフィリン骨格の3つのユニットから構成されている。ここで、構造式(1)あるいは構造式(2)中、R1,R2で表されるアルキル基Cm2m+1において、mは3乃至18の整数であることが望ましい。R1とR2とは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。場合によっては、R1,R2の代わりに、X1,X2(但し、X1,X2はアリール基を含む芳香族置換基)とすることもできる。
【0017】
本発明の第1の態様に係る有機電子デバイスあるいはその製造方法(以下、これらを総称して、単に、本発明の第1の態様と呼ぶ場合がある)においては、第1導電型をp型とし、第2導電型をn型とする構成とすることができ、この場合には、導電路は第2導電型であるn型としての挙動を示す形態となる。また、この場合、第2の有機半導体分子を、安定した物性を有するフラーレン(例えば、C60,C70といった球殻状の炭素分子)、あるいは、TNT(2,4,6−トリニトロトルエン)、量子ドット、共役系オリゴマーから構成することができる。但し、第1導電型、第2導電型は、これに限定するものではなく、第1導電型をn型とし、第2導電型をp型とする構成とすることもでき、この場合には、導電路は第2導電型であるp型としての挙動を示す形態となる。
【0018】
以上に説明した好ましい形態、構成を含む本発明の第1の態様においては、第1の有機半導体分子が末端に有する官能基が、微粒子と化学的に結合していることが好ましく、更には、第1の有機半導体分子が両端に有する官能基によって第1の有機半導体分子と微粒子とが化学的に(交互に)結合することで、ネットワーク状の導電路が構築されていることが好ましい。微粒子と第1の有機半導体分子との結合体の単一層によって導電路が構成されていてもよいし、微粒子と第1の有機半導体分子との結合体の積層構造によって3次元的なネットワーク状の導電路が構成されていてもよい。このようにネットワーク状の導電路を構築することで、導電路内の電荷移動が、第1の有機半導体分子の主鎖に沿った分子の軸方向で支配的に起こり、導電路には分子間の電子移動が含まれない構造となる。その結果、従来の有機半導体材料を用いた半導体装置における低い移動度の原因であった分子間の電子移動によって移動度が制限されることが無くなり、分子の軸方向の移動度、例えば非局在化したπ電子による高い移動度を最大限に利用することができるので、単分子層トランジスタに匹敵する、今までにない高い移動度を実現することが可能となる。そして、この場合にあっては、第1の有機半導体分子は、共役系有機半導体分子であって、分子の両端に、微粒子を構成する原子と化学結合あるいは配位可能な官能基を有する形態、より具体的には、チオール基(−SH)、アミノ基(−NH2)、イソシアノ基(−NC)、チオアセチル基(−SCOCH3)、トリクロロシラン(−Si(Cl)3)、アンモニウム基(―NH3+)、リン酸基、及び、カルボキシ基(−COOH)から成る群から選択された少なくとも1種類の官能基を有する形態とすることができる。
【0019】
一方、本発明の第2の態様に係る有機電子デバイスあるいはその製造方法(以下、これらを総称して、単に、本発明の第2の態様と呼ぶ場合がある)においては、有機半導体分子が末端に有する官能基(チオール基)が、微粒子と化学的に結合していることが好ましく、更には、有機半導体分子が両端に有する官能基(チオール基)によって有機半導体分子と微粒子とが化学的に(交互に)結合することで、ネットワーク状の導電路が構築されていることが好ましい。微粒子と有機半導体分子との結合体の単一層によって導電路が構成されていてもよいし、微粒子と有機半導体分子との結合体の積層構造によって3次元的なネットワーク状の導電路が構成されていてもよい。このようにネットワーク状の導電路を構築することで、導電路内の電荷移動が、有機半導体分子の主鎖に沿った分子の軸方向で支配的に起こり、導電路には分子間の電子移動が含まれない構造となる。その結果、従来の有機半導体材料を用いた半導体装置における低い移動度の原因であった分子間の電子移動によって移動度が制限されることが無くなり、分子の軸方向の移動度、例えば非局在化したπ電子による高い移動度を最大限に利用することができるので、単分子層トランジスタに匹敵する、今までにない高い移動度を実現することが可能となる。
【0020】
更には、以上に説明した好ましい形態、構成を含む本発明の第1の態様あるいは第2の態様において、微粒子は、導体から成る構成とすることができ、あるいは又、半導体から成る構成とすることができ、あるいは又、絶縁体から成る構成とすることができる。尚、導体としての微粒子とは、体積抵抗率が10-4Ω・m(10-2Ω・cm)のオーダー以下である材料から成る微粒子を指す。また、半導体としての微粒子とは、体積抵抗率が10-4Ω・m(10-2Ω・cm)乃至1012Ω・m(1014Ω・cm)のオーダーを有する材料から成る微粒子を指す。更には、絶縁体としての微粒子とは、体積抵抗率が1012Ω・m(1014Ω・cm)のオーダーを越える材料から成る微粒子を指す。導体としての微粒子を構成する材料として、より具体的には、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、パラジウム(Pd)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)といった金属、あるいは、これらの金属から構成された合金を挙げることができる。また、半導体としての微粒子を構成する材料として、より具体的には、酸化チタン(TiO2)、酸化スズ(SnO2)、硫化カドミウム(CdS)、セレン化カドミウム(CdSe)、テルル化カドミウム(CdTe)、ガリウム砒素(GaAs)、又は、シリコン(Si)を挙げることができる。更には、絶縁体としての微粒子を構成する材料として、より具体的には、酸化シリコン(SiOX)を挙げることができる。そして、これらの場合、微粒子の平均粒径RAVEの範囲は、限定するものではないが、5.0×10-10m≦RAVE≦1.0×10-6m、好ましくはRAVE≦1×10-8m、より好ましくは5.0×10-10m≦RAVE≦1.0×10-8mであることが望ましい。微粒子の形状として球形を挙げることができるが、これに限るものではなく、その他、例えば、三角形、四面体、立方体、直方体、円錐、円柱状(ロッド)、三角柱、ファイバー状、毛玉状のファイバー等を挙げることができる。尚、微粒子の形状が球形以外の場合の微粒子の平均粒径RAVEは、球形以外の微粒子の測定された体積と同じ体積を有する球を想定し、係る球の直径の平均値を微粒子の平均粒径RAVEとすればよい。微粒子の平均粒径RAVEは、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)にて観察された微粒子の粒径を計測することで得ることができる。
【0021】
以上に説明した形態、構成を含む本発明の第1の態様あるいは第2の態様において、基体上における微粒子は、基体の表面と略平行な面内において2次元的に規則的に、且つ、充填状態にて配列されて、微粒子層を構成している形態とすることができ、微粒子は最密充填状態にて配列されていることが好ましい。ここで、『微粒子が充填状態にて配列されている』とは、より具体的には、微粒子と結合した第1の有機半導体分子(本発明の第1の態様)あるいは有機半導体分子(本発明の第2の態様)(以下、これらを総称して、「第1の有機半導体分子等」と呼ぶ場合がある)から成る導電路が、例えば少なくともソース/ドレイン電極間に形成される程度に、微粒子が配列している状態を云う。多少の空乏、格子の欠陥等があってもよいことは云うまでもない。また、『微粒子が最密充填状態にて配列されている』とは、微粒子を剛体とみなしたとき、その2次元平面、あるいは、3次元空間を物理的に占め得る最大の密度で規則的に配列している状態を云う。但し、ここでは、微粒子間には第1の有機半導体分子等が必ず存在するため、微粒子同士は接触していない。隣り合う微粒子間の表面間距離は、用いる第1の有機半導体分子等の長軸方向の長さと同じかそれ以下である。また、基体上で微粒子が基体の表面と略平行な面内において2次元的に規則的に配列されているとき、より具体的には、このような2次元的に規則配列した層が、単層であっても、3次元的な最密充填状態で多層に存在していてもよい。『2次元的に規則的に配列されている』とは、少なくとも概ね微粒子1層分の厚みの空間内に粒径の揃った微粒子が充填状態で、好ましくは最密充填状態で、配列していることを意味する。尚、『基体の表面と略平行な面内』とは、基体の製造方法等によって基体の表面に微小凹凸が存在する場合、係る微小凹凸に対して実質的に平行であることを意味する。
【0022】
微粒子/第1の有機半導体分子・結合層(本発明の第1の態様)あるいは微粒子/有機半導体分子・結合層(本発明の第2の態様)(以下、これらを総称して、単に、「結合層」と呼ぶ場合がある)を形成するために、先ず、基体上に微粒子層を形成する形態とすることができる。そして、この場合、例えば、微粒子を含む溶液から成る薄膜を基体上に、浸漬法やキャスト法、スピンコート法といった塗布法、電着法、あるいは、移流集積法(A. S. Dimitrov et al., Langmuir, 10, 432(1994)参照)に基づき形成した後、薄膜に含まれる溶媒を蒸発させることによって微粒子層を得ることができ、これによって、微粒子層内において微粒子を最密充填にて配列させ得る。尚、この場合、薄膜に含まれる溶媒を蒸発させるときに、蒸発速度を制御しながら薄膜に含まれる溶媒を蒸発させることが望ましい。あるいは又、微粒子層は、例えば、LB(Langmuir-Blodgett)法に類似した方法に基づき、微粒子を含む溶液から薄膜を成膜した後、この薄膜を基体上に転写することによっても得ることができる。具体的には、親水性溶媒(例えば水)上に疎水性表面を有する微粒子層構成微粒子を単層で2次元規則配列を有するように浮かべ、あるいは、これとは逆に、疎水性溶媒上に親水性表面を有する微粒子層構成微粒子を単層で2次元規則配列を有するように浮かべ、それをLB法のように転写する方法(V. Santhanam, et al., Langmuir, 2003, 19, 7881 参照)を採用すればよい。そして、これによっても、微粒子層内において微粒子を最密充填にて配列させ得る。より具体的には、微粒子を含む溶液に基づき薄膜を水面に成膜した後、薄膜に含まれる溶媒を蒸発させることで形成した微粒子膜を、基体上に転写することによって微粒子層を得ることができ、この場合にも、薄膜に含まれる溶媒を蒸発させる工程において、蒸発速度を制御しながら薄膜に含まれる溶媒を蒸発させることが、一層好ましい。
【0023】
結合層の形成においては、微粒子層の形成後、第1の有機半導体分子等を微粒子層に接触させる工程を少なくとも1回行うことによって、微粒子と第1の有機半導体分子等とを結合させることができる。尚、微粒子層の形成及び第1の有機半導体分子等との接触を1回行うことによって結合体の単一層を形成することができるし、微粒子層の形成及び第1の有機半導体分子等との接触を2回以上繰り返すことで結合体の積層構造を形成することができる。第1の有機半導体分子等を微粒子層に接触させるためには、例えば、第1の有機半導体分子等を含む溶液に微粒子層を浸漬させればよいし、あるいは又、第1の有機半導体分子等を含む溶液を、後述する塗布法や印刷法に基づき微粒子層に塗布あるいは印刷すればよい。そして、その後、乾燥することで結合層を得ることができる。
【0024】
あるいは又、微粒子/第1の有機半導体分子・結合層は、微粒子を含む溶液と第1の有機半導体分子とを混合することによって、微粒子と第1の有機半導体分子とが結合(反応)して成るクラスターを得た後、これらのクラスターを含む薄膜を基体上に形成し、乾燥することによっても得ることができる。微粒子を含む溶液と第1の有機半導体分子とを混合する方法は、使用する微粒子を含む溶液と使用する第1の有機半導体分子とに基づき、適宜、決定すればよい。使用する微粒子を含む溶液及び第1の有機半導体分子によっては、微粒子を含む溶液に粉末状の第1の有機半導体分子を投入し、軽く混ぜ合わせるだけで、微粒子と第1の有機半導体分子とが結合して成るクラスターを得ることができる場合もある。クラスターを含む薄膜の形成方法として、浸漬法やキャスト法といった塗布法や、LB法に類似した方法を例示することができる。クラスターの配置の状態は、クラスターが1次元状に配列された状態(線状に配列された状態)、クラスターが2次元状に配列された状態(面状に配列された状態)、クラスターが3次元状に配列された状態(立体的に配列された状態)のいずれであってもよく、例えば、クラスターを含む溶液の塗布状態に依存する。
【0025】
ここで、微粒子と第1の有機半導体分子とが結合して成るクラスターとは、より具体的には、微粒子と微粒子とが第1の有機半導体分子を介して例えば3次元的に結合したものであり、例えば、微粒子が、第1の有機半導体分子を介して相互に数千個から数百万個程度、集まったものであり、その大きさは、0.1μmオーダーから1μmオーダーである。ソース/ドレイン電極間やゲート絶縁層上、あるいは、基体上にクラスターを配置したとき、クラスターとクラスターとの間、あるいは、クラスターとソース/ドレイン電極との間は、クラスターの表面に存在する第1の有機半導体分子によって、あるいは、場合によっては、それに加えて、第1の有機半導体分子を溶解した第1の有機半導体分子溶液をクラスターに塗布し、乾燥することによって、相互に結合される。クラスターには、多量の「微粒子−第1の有機半導体分子」の伝導パスが存在する。仮に100nm角の立方体クラスターを仮定し、その中に、粒径5nmの微粒子が立方格子状に積まれたとすると、8千もの微粒子が立方体クラスター中に存在することになる。そして、これらの微粒子間を多数の第1の有機半導体分子が結合、架橋している。従って、格段に伝導パスの数が多くなる結果、電流量も多くなる。
【0026】
尚、薄膜に含まれる溶媒として、トルエン、クロロホルム、ヘキサン、エタノールといった無極性又は極性の低い有機溶媒を例示することができる。
【0027】
第1の有機半導体分子等と結合する前の微粒子の表面は、鎖状の絶縁性有機分子から成る保護膜によって被覆されていることが、微粒子同士の凝集を防止するといった観点から好ましい。保護膜を構成する分子は微粒子に対して結合しているが、その結合力の大小が、保護膜によって被覆されている微粒子(実際には、保護膜によって被覆されている微粒子の集合体)を製造する際の集合体の最終的な粒径分布に大きく影響する。保護膜を構成する絶縁性有機分子の一端には、微粒子と化学的に反応(結合)する官能基を有することが好ましい。例えば、官能基としてチオール基(−SH)を挙げることができ、このチオール基を末端に持つ分子の1つとしてアルカンチオール[例えば、ドデカンチオール(C1225SH)]を挙げることができる。ドデカンチオールのチオール基が金等の微粒子と結合すると、水素原子が離脱してC1225S−Auとなると考えられている。あるいは又、保護膜を構成する絶縁性有機分子として、アルキルアミン分子[例えば、ドデシルアミン(C1225NH2)]を挙げることもできる。尚、微粒子と第1の有機半導体分子等とを接触させると、第1の有機半導体分子等が保護膜を構成する有機分子と置換される結果、微粒子と第1の有機半導体分子等との化学的な結合体が形成される。
【0028】
微粒子間を、一種、架橋する役割を果たす第1の有機半導体分子等は、その両端に、微粒子と結合可能な官能基を有している。ところで、微粒子間の距離が第1の有機半導体分子等の全長よりも長く、しかも、微粒子が基体上に固定され、移動できないような状態にあっては、導電パスがそこで切れることになり、その結果、第1の有機半導体分子等と微粒子によって構成された導電路の数が減少し、有機電子デバイスの特性の劣化につながる。優れた特性を有する有機電子デバイスを得ようとしたとき、この有機電子デバイスが例えば電界効果型トランジスタ(FET)から構成されている場合、一方のソース/ドレイン電極から他方のソース/ドレイン電極まで、切れ目無く導電路が繋がっている必要がある。また、導電路の数がFETの特性向上に大きく影響する。導電路の数を増加させるためには、微粒子同士が第1の有機半導体分子等の長さより近い距離で隣接しており、更には、微粒子が六方最密充填様に2次元規則配列していることが望ましい。より具体的には、第1の有機半導体分子等と結合する前の微粒子の表面は、例えば、鎖状の絶縁性有機分子から成る保護膜によって被覆されている。従って、微粒子間距離は、最も近接した場合でも、保護膜を構成する分子の長さの2倍程度(実際は分子が若干先端で重なるためそれよりは短くなる)離れている。そのようにして決められた微粒子間距離よりも、これらの微粒子を、一種、架橋する第1の有機半導体分子等の長さは長くないことが好ましい。
【0029】
本発明の第1の態様において、第1の有機半導体分子は、上述したとおり、共役結合を有する有機半導体分子であって、分子の両端に、チオール基(−SH)、アミノ基(−NH2)、イソシアノ基(−NC)、シアノ基(−CN)、チオアセチル基(−SCOCH3)、トリクロロシラン(−Si(Cl)3)、アンモニウム基(―NH3+)、リン酸基、又は、カルボキシ基(−COOH)を有することが好ましい。尚、チオール基、アミノ基、イソシアノ基、シアノ基、チオアセチル基、トリクロロシラン、アンモニウム基、リン酸基は、Au等の導体としての微粒子に結合する官能基であり、カルボキシ基、トリクロロシラン、アンモニウム基、リン酸基は半導体としての微粒子に結合する官能基である。また、分子の両端に位置する官能基は異なっていてもよく、両端の官能基の微粒子に対する結合性は近い方がより好ましい。尚、第1の有機半導体分子は、π共役系分子であって、少なくとも2箇所で微粒子と化学的に結合する官能基を有していることが最も好ましい。
【0030】
具体的には、本発明の第1の態様において、p型導電型を示す第1の有機半導体分子として、例えば、ポルフィリン(詳細は後述する)、構造式(11)の4,4’−ビフェニルジチオール(BPDT)、構造式(12)の4,4’−ジイソシアノビフェニル、構造式(13)の4,4’−ジイソシアノ−p−テルフェニル、及び構造式(14)の2,5−ビス(5’−チオアセチル−2’−チオフェニル)チオフェン、構造式(15)の4,4’−ジイソシアノフェニル、構造式(16)のベンジジン(ビフェニル−4,4’−ジアミン)、構造式(17)のTCNQ(テトラシアノキノジメタン)、構造式(18)のビフェニル−4,4’−ジカルボン酸、構造式(19)の1,4−ジ(4−チオフェニルアセチリニル)−2−エチルベンゼン、構造式(20)の1,4−ジ(4−イソシアノフェニルアセチリニル)−2−エチルベンゼンを例示することができる。
【0031】
構造式(11):4,4’−ビフェニルジチオール

【0032】
構造式(12):4,4’−ジイソシアノビフェニル

【0033】
構造式(13):4,4’−ジイソシアノ−p−テルフェニル

【0034】
構造式(14):2,5−ビス(5’−チオアセチル−2’−チオフェニル)チオフェン

【0035】
構造式(15):4,4’−ジイソシアノフェニル

【0036】
構造式(16):ベンジジン(ビフェニル−4,4’−ジアミン)

【0037】
構造式(17):TCNQ(テトラシアノキノジメタン)

【0038】
構造式(18):ビフェニル−4,4’−ジカルボン酸

【0039】
構造式(19):1,4−ジ(4−チオフェニルアセチリニル)−2−エチルベンゼン

【0040】
構造式(20):1,4−ジ(4−イソシアノフェニルアセチリニル)−2−エチルベンゼン

【0041】
また、本発明の第1の態様において、第1の有機半導体分子として、構造式(21)で表されるデンドリマーも用いることができる。
【0042】
構造式(21):デンドリマー

【0043】
あるいは又、本発明の第1の態様において、有機半導体分子として、構造式(22)で表される有機分子を用いることもできる。尚、構造式(22)中の「X」は、式(23−1)、式(23−2)、式(23−3)、式(23−4)のいずれかで表され、構造式(22)中の「Y1」、「Y2」は、式(24−1)〜式(24−9)のいずれかで表され、「Z1」、「Z2」、「Z3」、「Z4」は、式(25−1)〜式(25−11)のいずれかで表される。ここで、「n」の値は、0あるいは正の整数である。また、Xは、式(23−1)、式(23−2)、式(23−3)、式(23−4)のいずれかで表されるユニットが1回以上、繰り返し結合したものであり、異なるユニットによる繰り返しを含む。更には、側鎖Z1,Z2,Z3,Z4は、繰り返し中において異なるものへと変化してもよい。
【0044】

【0045】

【0046】

【0047】

【0048】
微粒子/第1の有機半導体分子・結合層を、第2導電型を有する第2の有機半導体分子と接触させる形態として、第2の有機半導体分子がどのような形態(固相、液相、気相)で存在するかにも依るが、第2の有機半導体分子を含む溶液中に微粒子/第1の有機半導体分子・結合層を浸漬する方法、第2の有機半導体分子を含むガス(蒸気)に微粒子/第1の有機半導体分子・結合層を暴露する方法を挙げることができる。
【0049】
更には、以上に説明した好ましい形態、構成を含む本発明の第1の態様において、有機電子デバイスは電界効果型トランジスタ(FET)から成り、導電路によって第2導電型としての挙動を示すチャネル形成領域が構成される形態とすることができる。また、以上に説明した好ましい形態、構成を含む本発明の第2の態様において、有機電子デバイスは電界効果型トランジスタ(FET)から成り、導電路によってp型としての挙動を示すチャネル形成領域が構成される形態とすることができる。尚、電界効果型トランジスタとして、ボトムゲート/ボトムコンタクト型、ボトムゲート/トップコンタクト型、トップゲート/ボトムコンタクト型、トップゲート/トップコンタクト型を挙げることができる。
【0050】
具体的には、ボトムゲート/ボトムコンタクト型の電界効果型トランジスタは、
(A)支持体上に形成されたゲート電極、
(B)ゲート電極及び支持体上に形成されたゲート絶縁層(基体に相当する)、
(C)ゲート絶縁層上に形成されたソース/ドレイン電極、並びに、
(D)ソース/ドレイン電極の間であってゲート絶縁層上に形成され、導電路によって構成されたチャネル形成領域、
を備えている。
【0051】
また、ボトムゲート/トップコンタクト型の電界効果型トランジスタは、
(A)支持体上に形成されたゲート電極、
(B)ゲート電極及び支持体上に形成されたゲート絶縁層(基体に相当する)、
(C)ゲート絶縁層上に形成され、導電路によって構成されたチャネル形成領域を含むチャネル形成領域構成層、並びに、
(D)チャネル形成領域構成層上に形成されたソース/ドレイン電極、
を備えている。
【0052】
また、トップゲート/ボトムコンタクト型の電界効果型トランジスタは、
(A)基体上に形成されたソース/ドレイン電極、
(B)ソース/ドレイン電極の間の基体上に形成され、導電路によって構成されたチャネル形成領域、
(C)ソース/ドレイン電極及びチャネル形成領域上に形成されたゲート絶縁層、並びに、
(D)ゲート絶縁層上に形成されたゲート電極、
を備えている。
【0053】
また、トップゲート/トップコンタクト型の電界効果型トランジスタは、
(A)基体上に形成され、導電路によって構成されたチャネル形成領域を含むチャネル形成領域構成層、
(B)チャネル形成領域構成層上に形成されたソース/ドレイン電極、
(C)ソース/ドレイン電極及びチャネル形成領域上に形成されたゲート絶縁層、並びに、
(D)ゲート絶縁層上に形成されたゲート電極、
を備えている。
【0054】
基体は、酸化ケイ素系材料(例えば、SiOXやスピンオンガラス(SOG));窒化ケイ素(SiNY);酸化アルミニウム(Al23);金属酸化物高誘電絶縁膜から構成することができる。基体をこれらの材料から構成する場合、基体を、以下に挙げる材料から適宜選択された支持体上に(あるいは支持体の上方に)形成すればよい。即ち、支持体として、あるいは又、上述した基体以外の基体として、ポリメチルメタクリレート(ポリメタクリル酸メチル,PMMA)やポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルフェノール(PVP)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリイミド、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)に例示される有機ポリマー(高分子材料から構成された可撓性を有するプラスチック・フィルムやプラスチック・シート、プラスチック基板といった高分子材料の形態を有する)を挙げることができ、あるいは又、雲母を挙げることができる。このような可撓性を有する高分子材料から構成された基体を使用すれば、例えば曲面形状を有するディスプレイ装置や電子機器への有機電子デバイスの組込みあるいは一体化が可能となる。あるいは又、基体(あるいは支持体)として、各種ガラス基板や、表面に絶縁層が形成された各種ガラス基板、石英基板、表面に絶縁層が形成された石英基板、表面に絶縁層が形成されたシリコン基板を挙げることができる。電気絶縁性の支持体としては、以上に説明した材料から適切な材料を選択すればよい。支持体として、その他、導電性基板(金やアルミニウム等の金属から成る基板、高配向性グラファイトから成る基板)を挙げることができる。また、有機電子デバイスの構成、構造によっては、有機電子デバイスが支持体上に設けられているが、この支持体も上述した材料から構成することができる。
【0055】
有機電子デバイスを電界効果型トランジスタとする場合、ゲート電極やソース/ドレイン電極、各種の配線を構成する材料として、白金(Pt)、金(Au)、パラジウム(Pd)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、銀(Ag)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、銅(Cu)、チタン(Ti)、インジウム(In)、錫(Sn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、モリブデン(Mo)等の金属、あるいは、これらの金属元素を含む合金、これらの金属から成る導電性粒子、これらの金属を含む合金の導電性粒子、不純物を含有したポリシリコン等の導電性物質を挙げることができるし、これらの元素を含む層の積層構造とすることもできる。更には、ゲート電極やソース/ドレイン電極、各種の配線を構成する材料として、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホン酸[PEDOT/PSS]といった有機材料(導電性高分子)を挙げることもできる。
【0056】
ゲート電極やソース/ドレイン電極、配線の形成方法として、これらを構成する材料にも依るが、物理的気相成長法(PVD法);MOCVD法を含む各種の化学的気相成長法(CVD法);スクリーン印刷法やインクジェット印刷法、オフセット印刷法、グラビア印刷法といった各種印刷法;スピンコート法、浸漬法、スタンプ法、エアドクタコーター法、ブレードコーター法、ロッドコーター法、ナイフコーター法、スクイズコーター法、リバースロールコーター法、トランスファーロールコーター法、グラビアコーター法、キスコーター法、キャストコーター法、スプレーコーター法、スリットオリフィスコーター法、カレンダーコーター法といった各種コーティング法(塗布法);リフト・オフ法;ゾル−ゲル法;電着法;シャドウマスク法;電解メッキ法や無電解メッキ法あるいはこれらの組合せといったメッキ法;及び、スプレー法の内のいずれかと、必要に応じてパターニング技術との組合せを挙げることができる。尚、PVD法として、(a)電子ビーム加熱法、抵抗加熱法、フラッシュ蒸着等の各種真空蒸着法、(b)プラズマ蒸着法、(c)2極スパッタリング法、直流スパッタリング法、直流マグネトロンスパッタリング法、高周波スパッタリング法、マグネトロンスパッタリング法、イオンビームスパッタリング法、バイアススパッタリング法等の各種スパッタリング法、(d)DC(direct current)法、RF法、多陰極法、活性化反応法、電界蒸着法、高周波イオンプレーティング法、反応性イオンプレーティング法等の各種イオンプレーティング法を挙げることができる。
【0057】
更には、有機電子デバイスを電界効果型トランジスタとする場合、ゲート絶縁層(基体に相当する場合がある)を構成する材料として、酸化ケイ素系材料;窒化ケイ素(SiNY);酸化アルミニウム(Al23)等の金属酸化物高誘電絶縁膜にて例示される無機系絶縁材料だけでなく、ポリメチルメタクリレート(PMMA);ポリビニルフェノール(PVP);ポリビニルアルコール(PVA);ポリイミド;ポリカーボネート(PC);ポリエチレンテレフタレート(PET);ポリスチレン;N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン(AEAPTMS)、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(MPTMS)、オクタデシルトリクロロシラン(OTS)等のシラノール誘導体(シランカップリング剤);オクタデカンチオール、ドデシルイソシアネイト等の一端にゲート電極等と結合可能な官能基を有する直鎖炭化水素類にて例示される有機系絶縁材料(有機ポリマー)を挙げることができるし、これらの組み合わせを用いることもできる。尚、酸化ケイ素系材料として、酸化シリコン(SiOX)、BPSG、PSG、BSG、AsSG、PbSG、酸化窒化シリコン(SiON)、SOG(スピンオングラス)、低誘電率SiO2系材料(例えば、ポリアリールエーテル、シクロパーフルオロカーボンポリマー及びベンゾシクロブテン、環状フッ素樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、フッ化アリールエーテル、フッ化ポリイミド、アモルファスカーボン、有機SOG)を例示することができる。
【0058】
また、ゲート絶縁層の形成方法として、上述の各種PVD法;各種CVD法;上述した各種印刷法;スピンコート法や浸漬法を含む上述した各種コーティング法;キャスティング法;ゾル−ゲル法;電着法;シャドウマスク法;及び、スプレー法の内のいずれかを挙げることができる。あるいは又、ゲート絶縁層は、ゲート電極の表面を酸化あるいは窒化することによって形成することができるし、ゲート電極の表面に酸化膜や窒化膜を成膜することで得ることもできる。ゲート電極の表面を酸化する方法として、ゲート電極を構成する材料にも依るが、O2プラズマを用いた酸化法、陽極酸化法を例示することができる。また、ゲート電極の表面を窒化する方法として、ゲート電極を構成する材料にも依るが、N2プラズマを用いた窒化法を例示することができる。あるいは又、例えば、Au電極に対しては、一端をメルカプト基で修飾された直鎖状炭化水素のように、ゲート電極と化学的に結合を形成し得る官能基を有する絶縁性分子によって、浸漬法等の方法で自己組織的にゲート電極表面を被覆することで、ゲート電極の表面にゲート絶縁層を形成することもできる。あるいは又、ゲート電極の表面をシラノール誘導体(シランカップリング剤)により修飾することで、ゲート絶縁層を形成することもできる。
【0059】
有機電子デバイスを、ディスプレイ装置や各種の電子機器に適用、使用する場合、支持体に多数の有機電子デバイスを集積したモノリシック集積回路としてもよいし、各有機電子デバイスを切断して個別化し、ディスクリート部品として使用してもよい。また、有機電子デバイスを樹脂にて封止してもよい。
【0060】
有機電子デバイスとして、上述した電界効果型トランジスタ以外にも、分子認識能を有するトランジスタを提供することができるので分子センサーへの応用が可能であるし、目的に合致するように、微粒子、第1の有機半導体分子等、第2の有機半導体分子を選択することにより、光電変換素子、発光素子、スイッチング・デバイス等への応用が可能となる。
【発明の効果】
【0061】
本発明の第1の態様にあっては、第1の有機半導体分子をリンカー分子として用い、微粒子の例えば単層膜をネットワーク化することにより生じるナノ空間から構成された分子認識場内に、第2の有機半導体分子をゲスト分子として選択的に捕捉することによって、例えば、第1の有機半導体分子と微粒子との組合せによって第1導電型としての挙動を示す導電路を、第2導電型としての挙動を示す導電路に容易に変換することができる。具体的には、簡単な製造プロセスによって、例えばpチャネル型トランジスタをnチャネル型トランジスタに変換することができる。即ち、n型有機半導体材料を、数段階の複雑なプロセスによって合成する必要が無くなり、より簡素なプロセスの開発等によって各種の有機電子デバイスの製造コストの低減を図ることが可能となる。また、使用可能なn型有機半導体材料の選択自由度が高くなるので、空気中で酸化され難い、安定した物性を有するn型有機半導体材料を用いることが可能となり、有機電子デバイスの製造プロセスが複雑になるといった問題の発生を回避することができる。
【0062】
また、本発明の第2の態様にあっては、新規の有機半導体分子から導電路を構成することで、例えば、係る導電路によってチャネル形成領域が構成される場合、優れた特性を有する有機電子デバイスを得ることができる。
【0063】
更には、本発明の第1の態様あるいは第2の態様に係る有機電子デバイスにあっては、微粒子と第1の有機半導体分子等とを結合させる結果、導電路内の電荷移動が、第1の有機半導体分子等の主鎖に沿った分子の軸方向で支配的に生じる構造となり、分子の軸方向の移動度、例えば非局在化したπ電子による高い移動度を最大限に利用することができるので、高い移動度を実現することが可能となる。しかも、導電路の形成に、高温のプロセスや真空プロセスは不要であり、所望の厚さを有する導電路を容易に形成でき、低コストで有機電子デバイスを作製できる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】図1は、本発明の第1の態様に係る有機電子デバイスを構成する導電路の概念図である。
【図2】図2の(A)及び(B)は、本発明の第1の態様に係る有機電子デバイスを構成する導電路の形成を説明するための各段階における概念図である。
【図3】図3は、第1の有機半導体分子である式(104)にて示されるポルフィリン分子(実施例1)の分子量を、MALDI−TOF−MSによって測定した結果を示すグラフである。
【図4】図4は、式(105)にて示されるポルフィリン分子(参考例1)の分子量を、MALDI−TOF−MSによって測定した結果を示すグラフである。
【図5】図5は、ポルフィリン・ネットワーク膜におけるプラズモンの吸収スペクトルの測定結果を示すグラフである。
【図6】図6は、フラーレン(C60)のトルエン溶液に一定時間浸漬させ、プラズモン吸収のシフトをモニターした結果を示すグラフである。
【図7】図7の(A)及び(B)は、それぞれ、実施例1において得られた試料−A及び試料−Bのドレイン電流を測定した結果を示すグラフである。
【図8】図8の(A)及び(B)は、実施例3の有機電子デバイス(電界効果型トランジスタ)の製造方法の概要を説明するための基体等の模式的な一部端面図である。
【図9】図9の(A)及び(B)は、図8の(B)に引き続き、実施例3の有機電子デバイス(電界効果型トランジスタ)の製造方法の概要を説明するための基体等の模式的な一部端面図である。
【図10】図10は、実施例3の有機電子デバイス(電界効果型トランジスタ)の一部分の概念図である。
【図11】図11の(A)及び(B)は、実施例4の有機電子デバイス(電界効果型トランジスタ)の製造方法の概要を説明するための基体等の模式的な一部端面図である。
【図12】図12の(A)及び(B)は、図11の(B)に引き続き、実施例4の有機電子デバイス(電界効果型トランジスタ)の製造方法の概要を説明するための基体等の模式的な一部端面図である。
【図13】図13の(A)及び(B)は、実施例5の有機電子デバイス(電界効果型トランジスタ)の製造方法の概要を説明するための基体等の模式的な一部端面図である。
【図14】図14の(A)及び(B)は、図13の(B)に引き続き、実施例5の有機電子デバイス(電界効果型トランジスタ)の製造方法の概要を説明するための基体等の模式的な一部端面図である。
【図15】図15の(A)及び(B)は、実施例5の有機電子デバイス(電界効果型トランジスタ)の製造方法の概要を説明するための基体等の模式的な一部端面図である。
【図16】図16の(A)及び(B)は、図15の(B)に引き続き、実施例5の有機電子デバイス(電界効果型トランジスタ)の製造方法の概要を説明するための基体等の模式的な一部端面図である。
【図17】図17は、式(104)に示した本発明の有機半導体分子、及び、式(105)に示した参考例の有機半導体分子の合成スキームを示す図である。
【図18】図18の下段及び上段は、図17の化合物5(実施例の有機半導体分子であり、n=2)及び化合物6(参考例の有機半導体分子であり、n=2)のMALDI−TOF−MSスペクトルを測定した結果を示すグラフである。
【図19】図19の下段及び上段は、図17の化合物5(実施例の有機半導体分子であり、n=3)及び化合物6(参考例の有機半導体分子であり、n=3)のMALDI−TOF−MSスペクトルを測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0065】
以下、図面を参照して、実施例に基づき本発明を説明する。
【実施例1】
【0066】
実施例1は、本発明の第1の態様及び第2の態様に係る有機電子デバイス及びその製造方法、並びに、本発明の有機半導体分子に関する。本発明の第1の態様に係る有機電子デバイスは導電路を具備し、この導電路は、図1の(A)に概念図を示すように、
(A)微粒子、
(B)第1導電型(実施例1においてはp型)を有し、微粒子と微粒子とを結合した第1の有機半導体分子(リンカー分子とも呼ばれ、ホスト分子に相当する)、及び、
(C)第2導電型(実施例1においてはn型)を有し、微粒子と微粒子との間に存在する分子認識場内に非共有結合状態で捕捉された第2の有機半導体分子(ゲスト分子に相当する)、
から成る。
【0067】
より具体的には、実施例1において、微粒子は、表面が保護膜(図示せず)によって被覆された平均粒径RAVE=5nmの金(Au)粒子から成り、第1の有機半導体分子はp型導電型を有するポルフィリンから成り、第2の有機半導体分子はn型導電型を有するフラーレン(C60)から成り、第2の有機半導体分子は第1の有機半導体分子との分子間相互作用が可能である。そして、導電路は、全体として、n型としての挙動を示す。第1の有機半導体分子が末端に有する官能基は、微粒子と化学的に結合している。より具体的には、第1の有機半導体分子は、共役結合を有する有機半導体分子であって、分子の両端にチオール基(−SH)を有する。尚、第1の有機半導体分子の構造式(但し、末端に有する官能基がチオール基によって置換される前の構造式である)を以下の構造式(101)に示す。参考のために、分子の一端のみにチオール基(−SH)を有する第1の有機半導体分子も合成した。この参考例1の第1の有機半導体分子の構造式(但し、末端に有する官能基がチオール基によって置換される前の構造式である)を以下の構造式(102)に示す。
【0068】

【0069】

【0070】
一方、本発明の第2の態様に係る有機電子デバイスは導電路を具備し、この導電路は、図1の(B)に概念図を示すように、
(A)微粒子、及び、
(B)微粒子と微粒子とを結合した有機半導体分子、
から成り、p型としての挙動を示す。そして、このチオール基を有するチオフェンポルフィリンである有機半導体分子は、下記の構造式(1)で表される。また、構造式(1)の有機半導体分子を得るための一種の前駆体であり、末端に有する官能基がチオール基によって置換される前の本発明の新規の有機半導体分子は、下記の構造式(2)で表される。但し、構造式(1)、構造式(2)中、R1,R2はアルキル基、具体的には、実施例1にあってはC511を表し、Mは、実施例1にあってはZn+2であり、n=3である。また、微粒子は上述したとおりである。そして、有機半導体分子が末端に有する官能基(具体的にはチオール基(−SH))が、微粒子と化学的に結合している。尚、R1,R2におけるmの値は、有機半導体分子の溶解性に影響を与え、mの値が大きくなり過ぎると、有機半導体分子の溶解性が悪くなる。
【0071】

【0072】

【0073】
以下、実施例1の有機電子デバイスの製造方法を説明する。
【0074】
[工程−100]
以下の式(103)に示す出発物質から、式(104)及び式(105)のポルフィリン分子を合成した。尚、実施例1にあっては、式(104)及び式(105)にて示されるポルフィリン分子における「n」の値は「3」である。式(104)に示すポルフィリン分子(便宜上、実施例1におけるポルフィリン分子・前駆体と呼ぶ)は、両端にチオアセチル基(−SCOCH3)を有している。一方、式(105)に示すポルフィリン分子(便宜上、参考例1におけるポルフィリン分子・前駆体と呼ぶ)は、一端にのみチオアセチル基を有している。ここで、構造式(104)は、前述した構造式(1)において、R1及びR2をアルキル基(C511)とし、MをZn+2とし,nを3としたものである。式(104)及び式(105)に示すポルフィリン分子の合成の詳細に関しては、後述する。
【0075】

【0076】

【0077】

【0078】
式(104)及び式(105)にて示される実施例1及び参考例1のポルフィリン分子・前駆体の分子量を、MALDI−TOF−MSによって測定したところ、その結果(図3及び図4参照)は、それぞれ、1151.881、902.158であり、それぞれの計算値(1152.083、902.216)と一致していた。
【0079】
式(104)及び式(105)に示す実施例1及び参考例1のポルフィリン分子・前駆体に基づき導電路を形成する場合、導電路の形成直前に分子の末端におけるチオアセチル基をチオール基(−SH)に置換する必要がある。末端がチオール基で置換されたポルフィリン分子は大気中で酸化され易いので、使用の直前まで、末端をチオアセチル基の形態としておくことが望ましい。このチオール基での置換を、X. Xiao et. al. J. Am. Chem. Soc. 2005, 127, 9235-9240 に記載された方法に基づき行った。即ち、これらの分子の両末端はアセチル基であるので、微粒子と有機半導体分子等との化学的な結合の直前に加水分解反応を行い、これらの分子の両末端をチオール基とした。具体的には、エタノールにポルフィリン分子を加えた後(この時点では、ポルフィリン分子はエタノールに溶けない)、0.2NのNaOH水溶液50ミリリットルを加え、30分間攪拌すると、透明な緑色の溶液となる。ポルフィリン分子溶液の濃度は1ミリ・モルであり、アルゴン飽和状態である。
【0080】
こうして調製された実施例1及び参考例1のポルフィリン分子溶液を使用して、以下に説明する方法に基づき有機電子デバイス試作品を作製した。
【0081】
[工程−110]
支持体として、不純物が高濃度にドープされたシリコン半導体基板を使用し、このシリコン半導体基板それ自体をゲート電極として用い、ゲート絶縁層(基体に相当する)を、このシリコン半導体基板の表面を熱酸化することによって形成されたSiO2から構成した。そして、ゲート絶縁層上に、密着層としての厚さ約0.5nmのチタン(Ti)層、及び、ソース/ドレイン電極として厚さ約25nmの金(Au)層を、順次、真空蒸着法に基づき形成した。これらの層の成膜を行う際、ゲート絶縁層の一部をハードマスクで覆うことによって、ソース/ドレイン電極をフォトリソグラフィ・プロセス無しで形成することができた。
【0082】
[工程−120]
次いで、LB法に類似した方法に基づき、Au微粒子を含むトルエン溶液に基づき薄膜を水面に成膜した後、薄膜に含まれる溶媒を蒸発させることで形成した微粒子膜を、基体上(より具体的には、ソース/ドレイン電極及びゲート絶縁層上)に転写することによって微粒子層の単層膜を得た。この状態を、図2の(A)の概念図に示す。図2の(A)においては、微粒子が離散して配置されたように図示しているが、実際には、微粒子の表面に形成された保護膜(図示せず)が接した状態で、基体の表面と略平行な面内において2次元的に規則的に、且つ、充填状態(より具体的には、最密充填状態)にて配列されている。
【0083】
[工程−130]
その後、上述したポルフィリン分子溶液に全体を浸漬した。第1の有機半導体分子あるいは有機半導体分子(第1の有機半導体分子等)であるポルフィリン分子が保護膜を構成する有機分子と置換される結果、微粒子と第1の有機半導体分子等との化学的な結合体が形成される(図2の(B)の概念図参照)。こうして、基体上に、
(a)微粒子、及び、
(b)第1導電型を有し、微粒子と微粒子とを結合した第1の有機半導体分子、
から成る微粒子/第1の有機半導体分子・結合層(ポルフィリン・ネットワーク単層膜)を形成することができた。あるいは又、
(A)微粒子、及び、
(B)微粒子と微粒子とを結合した有機半導体分子、
から成り、p型としての挙動を示す導電路を得ることができた。
【0084】
以上の工程で、本発明の第2の態様に係る有機電子デバイスの製造方法が完了し、本発明の第2の態様に係る有機電子デバイスを得ることができる。そして、本発明の第1の態様に係る有機電子デバイスを得るために、以下に説明する本発明の第1の態様に係る有機電子デバイスの製造方法を更に実行する。
【0085】
[工程−140]
即ち、次いで、微粒子/第1の有機半導体分子・結合層を、第2導電型を有する第2の有機半導体分子と接触させた。具体的には、全体を、フラーレン(C60)のトルエン溶液に浸漬させた。これによって、分子認識場(ネットワーク空間)にフラーレン(C60)が取り込まれ、導電路を得ることができた(図1の(A)参照)。
【0086】
尚、πーπ相互作用によるポルフィリンとフラーレンの分子複合体の形成に関しては、porphyrin cycle dimer によるC60の捕捉(K. Tashiro et. al. J. Am. Chem. Soc. 1999, 121, 9477-9478 参照)、porphyrin ゲルによるC60捕捉(M. Shiragawa et. al. J. Am. Chem. Soc. 2003, 125, 9902-9903 参照)、金ナノ粒子の表面での porphyrin/C60複合体(H. Imahori et. al. Chem. Eur. J. 2005, 11, 7265-7275 参照)等の報告が知られている。
【0087】
ここで、ポルフィリン分子溶液に全体を浸漬することで、第1の有機半導体分子等であるポルフィリン分子が保護膜を構成する有機分子と置換されることを確認する試験を行った。具体的には、ガラス基板上でのUV−Vis吸収スペクトルの変化を調べた。先ず、1.8cm×1.8cmの大きさのガラス基板に対して、エタノールを用いた超音波洗浄、アセトンを用いた超音波洗浄、純水を用いた超音波洗浄を、順次、行った。そして、上述したと同様に、LB法に類似した方法に基づき、金ナノ粒子の単層膜をガラス基板上に形成した。そして、このガラス基板をポルフィリン溶液に浸漬するだけで、ガラス基板上にポルフィリン・ネットワーク膜が成膜された。そして、このポルフィリン・ネットワーク膜におけるプラズモンの吸収スペクトルの測定を行った。尚、浸漬時間による金ナノ粒子のプラズモン吸収ピークのシフトをモニターした。浸漬時間を0分、10分、1時間、5時間、24時間とした。その結果を図5に示す。ここで、図5に黒四角印で示すグラフは、実施例1のポルフィリン分子溶液を用いたときの結果であり、黒三角印で示すグラフは、参考例1のポルフィリン分子溶液を用いたときの結果である。
【0088】
金のプラズモン吸収においては、
(1)金ナノ粒子と第1の有機半導体分子等の相互作用、及び、
(2)金ナノ粒子間の相互作用
によって、長波長シフトが起こることが知られている(例えば、B. C. Sih et. al. Chem.Commun. 2005, 3375-3384 参照)。実施例1のポルフィリン分子溶液を用いた場合には、浸漬時間1時間でプラズモンのシフトがほぼ飽和状態となり、25nmという大きいプラズモン吸収のシフトが観測された。また、初期の1時間程度でプラズモン吸収のシフト飽和が見られ、Au−S結合の生成が強く示唆された。粒子間のリンクができない参考例1のポルフィリン分子溶液を用いた場合には、プラズモンの総シフト量は15nmであり、実施例1のポルフィリン分子溶液を用いた場合と比べて小さい。この結果から、リンクすることで金ナノ粒子と第1の有機半導体分子等との間の強い相互作用が生じ、プラズモン吸収のシフトが大きくなることが分かった。
【0089】
また、こうして得られた試料を、フラーレン(C60)のトルエン溶液に一定時間浸漬させ、プラズモン吸収のシフトをモニターした。浸漬時間を0分、10分、1時間、5時間、24時間とした。その結果を図6に示すが、図6に黒丸印で示すグラフは、実施例1のポルフィリン分子溶液を用いたときの結果であり、黒三角印で示すグラフは、参考例1のポルフィリン分子溶液を用いたときの結果である。また、図5の結果を得たときのポルフィリン分子溶液と、図6の結果を得たときのポルフィリン分子溶液とは、作製ロットが相違している。フラーレン(C60)を分子認識場(ネットワーク空間)に捕捉させることによって、プラズモンの長波長シフトが観測される。この場合にあっても、数時間でシフトの飽和が観察された。ここで、実施例1のポルフィリン分子溶液を用いたときの方が、参考例1のポルフィリン分子溶液を用いたときよりも、10nm程度、大きなシフトが生じており、ネットワーク構造による選択的なフラーレン(C60)の捕捉が生じることが分かった。以上の結果から、ポルフィリン分子によるリンカー反応や、ネットワーク構造によるフラーレン(C60)捕捉作用が明らかになった。
【0090】
上述した導電路の特性評価を行った。具体的には、[工程−130]の完了によって得られた試料−A(本発明の第2の態様に係る有機電子デバイスに相当する)と、フラーレン(C60)トルエン溶液に1時間浸漬といった[工程−140]の完了によって得られた試料−B(本発明の第1の態様に係る有機電子デバイスに相当する)とにおいて、ドレイン電流を測定した。試料−Aの測定結果を図7の(A)に示し、試料−Bの測定結果を図7の(B)に示す。図7の(A)に示すように、試料−Aにおいては、ゲート電圧Vgをマイナス側に振ることによって、ドレイン側の電流が増加し、明らかにpチャネル型のトランジスタの動作が確認できた。一方、図7の(B)に示すように、試料−Bにおいては、ゲート電圧Vgをプラス側に振ることによって、ドレイン側の電流の絶対値が増加し、nチャネル型のトランジスタの動作が確認できた。この結果から、実施例1においては、ホスト−ゲスト相互作用が可能であり、簡単にゲスト分子である第2の有機半導体分子を取り込むことによりpチャネル型トランジスタからnチャネル型トランジスタに変換できることが分かった。
【実施例2】
【0091】
実施例2は、実施例1の変形である。実施例2にあっては、式(104)において、n=2である有機半導体分子等に基づくポルフィリン分子溶液を使用して、以下に説明する方法に基づき有機電子デバイス試作品を作製した。併せて、式(105)において、n=2である有機半導体分子等に基づくポルフィリン分子溶液を使用して、以下に説明する方法に基づき有機電子デバイス試作品を、参考例2として作製した。尚、これらの分子の両末端はアセチル基であるので、微粒子と有機半導体分子等との化学的な結合の直前に加水分解反応を行い、これらの分子の両末端をチオール基とした。具体的には、エタノールにポルフィリン分子を加えた後(この時点では、ポルフィリン分子はエタノールに溶けない)、0.2NのNaOH水溶液50ミリリットルを加え、30分間攪拌すると、透明な緑色の溶液となる。ポルフィリン分子溶液の濃度を0.1ミリ・モル及び0.5ミリ・モルの2種類とした。尚、アルゴン飽和状態である。
【0092】
[工程−210]
実施例1と同様に、支持体として、不純物が高濃度にドープされたシリコン半導体基板を使用し、このシリコン半導体基板それ自体をゲート電極として用い、ゲート絶縁層(基体に相当する)を、このシリコン半導体基板の表面を熱酸化することによって形成されたSiO2(厚さ150nm)から構成した。そして、ゲート絶縁層上に、密着層としてのクロム(Cr)層、及び、ソース/ドレイン電極として厚さ約25nmの金(Au)層を、順次、真空蒸着法に基づき形成した。これらの層の成膜を行う際、ゲート絶縁層の一部をハードマスクで覆うことによって、ソース/ドレイン電極をフォトリソグラフィ・プロセス無しで形成することができた。尚、チャネル長を50μm、幅を8.8mmとした。
【0093】
[工程−220]
次いで、LB法に類似した方法に基づき、Au微粒子(平均粒径RAVE=4.7±1.1nm)を含むトルエン溶液に基づき薄膜を水面に成膜した後、薄膜に含まれる溶媒を蒸発させることで形成した微粒子膜を、基体上(より具体的には、ソース/ドレイン電極及びゲート絶縁層上)に転写することによって微粒子層の単層膜を得た。この状態は、図2の(A)の概念図に示したと同様である。
【0094】
[工程−230]
その後、上述したポルフィリン分子溶液(温度:50゜C)に全体を3時間浸漬した。有機半導体分子等であるポルフィリン分子が保護膜を構成する有機分子と置換される結果、微粒子と有機半導体分子等との化学的な結合体が形成される(図1の(B)の概念図参照)。こうして、基体上に、
(A)微粒子、及び、
(B)微粒子と微粒子とを結合した有機半導体分子、
から成り、p型としての挙動を示す導電路を得ることができた。
【0095】
以上の工程で、本発明の第2の態様に係る有機電子デバイスの製造方法が完了し、本発明の第2の態様に係る有機電子デバイスを得ることができた。
【0096】
[工程−240]
その後、結合層を、第2導電型を有する第2の有機半導体分子と接触させた。具体的には、全体を、フラーレン(C60)のトルエン溶液に浸漬させた。これによって、分子認識場(ネットワーク空間)にフラーレン(C60)が取り込まれ、導電路を得ることができた(図1の(A)参照)。
【0097】
[工程−230]にて得られた本発明の第2の態様に係る有機電子デバイス(実施例2及び参考例2のサンプル)に関して、電気特性を測定した。電流−電圧特性は、2個〜4個の複数のサンプルを用いて測定を行った。実施例2及び参考例2の伝導率(σ)及び相互コンダクタンス(gm)の測定結果(平均値)を以下に示す。
【0098】
伝導率σ 相互コンダクタンスgm/Wg
(S/cm) (S/cm)
実施例2
0.1ミリ・モル 7.71×10-2 1.83×10-5
0.5ミリ・モル 5.70×10-2 8.54×10-6
参考例2
0.1ミリ・モル 5.82×10-4 8.43×10-8
0.5ミリ・モル 1.23×10-4 8.89×10-9
【0099】
本発明の第2の態様に係る有機電子デバイスである実施例2にあっては、参考例2に比べて、伝導率σは約102倍以上、相互コンダクタンスgmも103倍以上、大きいといった結果が得られた。参考例2においては、金粒子間のリンクが生じないので、分子間のホッピングが伝導パスとなる。一方、粒子間のリンクが生じる実施例2においては、分子内伝導の寄与により流れる電流値が大きいと考えられる。更には、実施例2において、相対的に高い相互コンダクタンスgmが得られたので、より大きなゲート効果を得るためには金ナノ粒子間をネットワーク化させることが有効であることが判った。また、モノチオールのポルフィリンリンカー分子を用いた有機電子デバイスよりも、ジチオールリンカー分子を用いた有機電子デバイスの方が、より優れた特性(大きな伝導率やゲート効果)を示すことが明らかとなった。
【実施例3】
【0100】
実施例3は、実施例1の変形である。実施例3においては、有機電子デバイスを電界効果型トランジスタ(FET)、より具体的には、薄膜トランジスタ(TFT)から構成した。この実施例3の電界効果型トランジスタ(具体的には、薄膜トランジスタ)にあっては、導電路によって、第2導電型としての挙動を示すチャネル形成領域が構成される。更には、実施例3の電界効果型トランジスタ(より具体的には、nチャネル型TFT)は、ボトムゲート/ボトムコンタクト型であり、図9の(B)に模式的な一部断面図を示すように、
(A)支持体10上に形成されたゲート電極14B、
(B)ゲート電極14B及び支持体10上に形成されたゲート絶縁層15(基体13に相当する)、
(C)ゲート絶縁層15上に形成されたソース/ドレイン電極16B、並びに、
(D)ソース/ドレイン電極16Bの間であってゲート絶縁層15上に形成され、導電路21Bによって構成されたチャネル形成領域17B、
を備えている。また、実施例3の電界効果型トランジスタ(より具体的には、pチャネル型TFT)は、ボトムゲート/ボトムコンタクト型であり、図9の(B)に模式的な一部断面図を示すように、
(A)支持体10上に形成されたゲート電極14A、
(B)ゲート電極14A及び支持体10上に形成されたゲート絶縁層15(基体13に相当する)、
(C)ゲート絶縁層15上に形成されたソース/ドレイン電極16A、並びに、
(D)ソース/ドレイン電極16Aの間であってゲート絶縁層15上に形成され、導電路21Aによって構成されたチャネル形成領域17A、
を備えている。
【0101】
実施例3あるいは後述する実施例4〜実施例6におけるチャネル形成領域17A,17Bは、実施例1にて説明した導電路と同様の構成、構造を有するし、基本的に、実施例1にて説明した導電路の形成方法と同様の方法で形成することができる。
【0102】
実施例3においては、実施例1と同様に、導体から成る微粒子23として、平均粒径RAVE=5nmの金微粒子(金ナノ粒子)を使用する。また、第1の有機半導体分子等は、分子の両端にチオール基(−SH)を有するp型導電型のポルフィリンから成り、第2の有機半導体分子はn型導電型を有するフラーレン(C60)から成る。支持体10は、ガラス基板11、及び、その表面に形成されたSiO2から成る絶縁層12から構成されており、基体13はゲート絶縁層15(具体的にはSiO2)から成る。
【0103】
以下、基体等の模式的な一部端面図である図8の(A)、(B)及び図9の(A)、(B)、並びに、図10を参照して、実施例3の有機電子デバイス(電界効果型トランジスタ)の製造方法の概要を説明する。
【0104】
[工程−300]
先ず、支持体10上にゲート電極14A,14Bを形成する。具体的には、ガラス基板11の表面に形成されたSiO2から成る絶縁層12上に、ゲート電極14A,14Bを形成すべき部分が除去されたレジスト層(図示せず)を、リソグラフィ技術に基づき形成する。その後、密着層としてのチタン(Ti)層(図示せず)、及び、ゲート電極14A,14Bとしての金(Au)層を、順次、真空蒸着法にて全面に成膜し、その後、レジスト層を除去する。こうして、所謂リフト・オフ法に基づき、ゲート電極14A,14Bを得ることができる。
【0105】
[工程−310]
次に、ゲート電極14A,14Bを含む支持体10(より具体的には、ガラス基板11の表面に形成された絶縁層12)上に、基体13に相当するゲート絶縁層15を形成する。具体的には、SiO2から成るゲート絶縁層15を、スパッタリング法に基づきゲート電極14A,14B及び絶縁層12上に形成する。ゲート絶縁層15の成膜を行う際、ゲート電極14A,14Bの一部をハードマスクで覆うことによって、ゲート電極14A,14Bの取出部(図示せず)をフォトリソグラフィ・プロセス無しで形成することができる。
【0106】
[工程−320]
その後、ゲート絶縁層15の上に、金(Au)層から成るソース/ドレイン電極16A,16Bを形成する(図8の(A)参照)。具体的には、密着層としての厚さ約0.5nmのチタン(Ti)層(図示せず)、及び、ソース/ドレイン電極16A,16Bとして厚さ約25nmの金(Au)層を、順次、真空蒸着法に基づき形成する。これらの層の成膜を行う際、ゲート絶縁層15の一部をハードマスクで覆うことによって、ソース/ドレイン電極16A,16Bをフォトリソグラフィ・プロセス無しで形成することができる。
【0107】
[工程−330]
次いで、微粒子23から成る微粒子層20を基体13の上に形成する(図8の(B)参照)。具体的には、実施例1の[工程−120]と同様にして、微粒子23から成る微粒子層20を、ゲート絶縁層15及びソース/ドレイン電極16A,16B上に形成する。
【0108】
[工程−340]
その後、実施例1の[工程−130]と同様にして、実施例1のポルフィリン分子溶液に全体を浸漬する。第1の有機半導体分子等であるポルフィリン分子が保護膜を構成する有機分子と置換される結果、微粒子23と第1の有機半導体分子等24との化学的な結合体が形成される(図10の概念図参照)。こうして、基体13(ゲート絶縁層15)上に、図9の(A)に示すように、
(a)微粒子23、及び、
(b)第1導電型を有し、微粒子23と微粒子23とを結合した第1の有機半導体分子等、
から成る、nチャネル型TFTを形成するための結合層(ポルフィリン・ネットワーク単層膜)22を形成することができる。また、こうして、
(A)支持体10上に形成されたゲート電極14A、
(B)ゲート電極14及び支持体10上に形成されたゲート絶縁層15(基体13に相当する)、
(C)ゲート絶縁層15上に形成されたソース/ドレイン電極16A、並びに、
(D)ソース/ドレイン電極16Aの間であってゲート絶縁層15上に形成され、第1導電型(p型)の導電路21Aによって構成されたチャネル形成領域17A、
から構成されたpチャネル型TFT(本発明の第2の態様に係る有機電子デバイスに相当する)を得ることができる。
【0109】
[工程−350]
次いで、nチャネル型TFTに変換すべきpチャネル型TFT以外のpチャネル型TFTを、ポリビニルクロライド(PVC)あるいはポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PE)といった疎水性のポリマーから成るマスク層30によって被覆する。そして、実施例1の[工程−140]と同様にして、結合層22を、第2導電型を有する第2の有機半導体分子と接触させる。具体的には、全体を、フラーレン(C60)のトルエン溶液に浸漬する。これによって、分子認識場(ネットワーク空間)にフラーレン(C60)が取り込まれ、導電路21Bを得ることができる。こうして、ソース/ドレイン電極16Bの間であってゲート絶縁層15上に形成され、導電路21Bによって構成されたチャネル形成領域17Bを形成することができ、nチャネル型TFT(本発明の第1の態様に係る有機電子デバイスに相当する)を得ることができる(図9の(B)参照)。
【0110】
[工程−360]
最後に、全面にパッシベーション膜(図示せず)を形成することで、ボトムゲート/ボトムコンタクト型のFET(具体的には、TFT)を得ることができる。
【0111】
ここで、[工程−330]においては、微粒子23自身による自己組織化現象を積極的に利用して、2次元規則配列化を達成させる。具体的には、微粒子層20は、微粒子23を含む溶液(例えば、微粒子コロイド溶液)に基づき、例えば、親水性溶媒(例えば水)上に疎水性表面を有する金ナノ粒子を単層で2次元規則配列を有するように浮かべ、あるいは、これとは逆に、疎水性溶媒上に親水性表面を有する金ナノ粒子を単層で2次元規則配列を有するように浮かべ、それをLB法に類似した方法に基づき基体13上に転写する。但し、微粒子層20の形成方法は、このような方法に限定するものではなく、例えば、キャスト法に基づき微粒子層20を形成することもできる。
【0112】
そして、[工程−340]において、第1の有機半導体分子等24が末端に有する官能基を微粒子23と化学的に結合させる。より具体的には、第1の有機半導体分子等24が両端に有する官能基(実施例3においては、共役結合を有する第1の有機半導体分子等であって、式(104)に示すポルフィリン分子の両端がチオール基[−SH])によって置換された第1の有機半導体分子等24と微粒子23とが化学的に(交互に)結合することで、ネットワーク状の導電路21A,21Bが構築される。ここで、微粒子23と第1の有機半導体分子等24との結合体の単一層によって導電路21A,21Bが構成され、あるいは又、微粒子23と第1の有機半導体分子等24との結合体の積層構造によって導電路21A,21Bが構成される。即ち、微粒子23を、基体13の表面と略平行な面内において2次元的に規則的に、且つ、充填状態にて配列させた後、第1の有機半導体分子等24を接触させる工程を1回行うことによって、微粒子23と第1の有機半導体分子等24との結合体の単一層を形成することができ、2回以上行うことによって、微粒子23と第1の有機半導体分子等24との結合体から成る層が積層され、結合体の積層構造を得ることができる。あるいは又、微粒子層20の形成工程を複数回、繰り返すことによって、微粒子23を、3次元的に規則的に、且つ、充填状態にて配列させた後、第1の有機半導体分子等24を接触させる工程を少なくとも1回行うことによって、微粒子23と第1の有機半導体分子等24との結合体から成る層が積層された結合体の積層構造を得ることができる。このように、微粒子層20の1層ずつの形成によってチャネル形成領域17A,17Bを形成することができるので、この工程を何回繰り返すかで、所望の厚さを有するチャネル形成領域17A,17Bを形成することができる。そして、こうして最終的に得られたチャネル形成領域17A,17Bは、微粒子23と第1の有機半導体分子等24とがネットワーク状に結合された結合体から構成され、ゲート電極14A,14Bに印加されるゲート電圧によってキャリア移動が制御される。
【0113】
尚、チャネル形成領域17A,17Bにおいては、微粒子23が第1の有機半導体分子等24によって2次元的あるいは3次元的に結びつけられ、ネットワーク状の導電路21A,21Bが形成されている。そして、この導電路21A,21Bには、従来の有機半導体から成るチャネル形成領域における低い移動度の原因であった分子間の電子移動が含まれず、しかも、分子内の電子移動は分子骨格に沿って形成された共役系を通じて行われるので、高い移動度が期待される。チャネル形成領域17A,17Bにおける電子伝導は、ネットワーク状の導電路21A,21Bを通って行われ、チャネル形成領域17A,17Bの導電性はゲート電極14A,14Bに印加されるゲート電圧によって制御される。
【0114】
あるいは又、[工程−330]及び[工程−340]と同様の工程において、金微粒子(金ナノ粒子)を30重量%含むトルエン溶液原液をトルエンで200倍に希釈したトルエン溶液10ミリリットルに、粉末状のBPDT200ミリグラムを投入して、混合することによって、短時間のうちに金微粒子とBPDTとが反応し、微粒子23と第1の有機半導体分子とが結合して成る、3次元的にネットワーク化されたクラスターが形成され、溶液下部に沈殿物として析出する。即ち、第1の有機半導体分子が末端に有する官能基(共役結合を有する第1の有機半導体分子であって、4,4’−ビフェニルジチオール(BPDT)の両端に有するチオール基[−SH])が微粒子23と化学的に結合し、より具体的には、第1の有機半導体分子が両端に有する官能基(チオール基)によって第1の有機半導体分子と微粒子23とが化学的に(交互に)結合することで、微粒子23と第1の有機半導体分子とが3次元的なネットワーク状に結合し、クラスターが形成される。そして、こうして得られたクラスターを全面に塗布し、自然乾燥させる。これによっても、微粒子/第1の有機半導体分子・結合層22及び導電路21Aを得ることができる。
【実施例4】
【0115】
実施例4も、実施例1の変形である。実施例4にあっては、有機電子デバイスを、ボトムゲート/トップコンタクト型のFET(具体的には、TFT)とした。実施例4の電界効果型トランジスタ(より具体的には、nチャネル型TFT)は、図12の(B)に模式的な一部断面図を示すように、
(A)支持体10上に形成されたゲート電極14B、
(B)ゲート電極14B及び支持体10上に形成されたゲート絶縁層15(基体13に相当する)、
(C)ゲート絶縁層15上に形成され、導電路21Bによって構成されたチャネル形成領域17Bを含むチャネル形成領域構成層18B、並びに、
(D)チャネル形成領域構成層18B上に形成されたソース/ドレイン電極16B、
を備えている。あるいは又、実施例4の電界効果型トランジスタ(より具体的には、pチャネル型TFT)は、図12の(B)に模式的な一部断面図を示すように、
(A)支持体10上に形成されたゲート電極14A、
(B)ゲート電極14A及び支持体10上に形成されたゲート絶縁層15(基体13に相当する)、
(C)ゲート絶縁層15上に形成され、導電路21Aによって構成されたチャネル形成領域17Aを含むチャネル形成領域構成層18A、並びに、
(D)チャネル形成領域構成層18A上に形成されたソース/ドレイン電極16A、
を備えている。
【0116】
以下、基体等の模式的な一部端面図である図11の(A)、(B)及び図12の(A)、(B)を参照して、実施例4の有機電子デバイス(電界効果型トランジスタ)の製造方法の概要を説明する。
【0117】
[工程−400]
先ず、実施例3の[工程−300]と同様にして、支持体10上にゲート電極14A,14Bを形成した後、実施例3の[工程−310]と同様にして、ゲート電極14A,14Bを含む支持体(より具体的には絶縁層12)上に、基体13に相当するゲート絶縁層15を形成する。
【0118】
[工程−410]
次いで、実施例3の[工程−330]と同様にして、微粒子23から成る微粒子層20を基体13の上に形成する(図11の(A)参照)。更には、実施例3の[工程−340]と同様の工程を実行することで、チャネル形成領域17Aを含むチャネル形成領域構成層18Aを形成することができる。また、同時に、nチャネル型TFTを形成するための結合層22を得ることができる(図11の(B)参照)。尚、結合層22は、チャネル形成領域構成層18Bにも相当する。
【0119】
[工程−420]
その後、pチャネル型TFTのためのチャネル形成領域構成層18Aの上に、チャネル形成領域17Aを挟むようにソース/ドレイン電極16Aを形成すると同時に、nチャネル型TFTのためのチャネル形成領域構成層18Bの部分の領域上に、この部分を挟むようにnチャネル型TFTのためのソース/ドレイン電極16Bを形成する(図12の(A)参照)。具体的には、実施例3の[工程−320]と同様にして、密着層としてのチタン(Ti)層(図示せず)、及び、ソース/ドレイン電極16A,16Bとしての金(Au)層を、順次、真空蒸着法に基づき形成する。これらの層の成膜を行う際、チャネル形成領域構成層18A,18Bの一部をハードマスクで覆うことによって、ソース/ドレイン電極16A,16Bをフォトリソグラフィ・プロセス無しで形成することができる。こうして、pチャネル型TFTを得ることができる。
【0120】
[工程−430]
次いで、実施例3の[工程−350]と同様にして、nチャネル型TFTに変換すべきpチャネル型TFT以外のpチャネル型TFTをマスク層30によって被覆する。そして、実施例1の[工程−140]と同様にして、露出したチャネル形成領域構成層18Bを構成する結合層(ポルフィリン・ネットワーク単層膜)22を、第2導電型を有する第2の有機半導体分子と接触させる。具体的には、全体を、フラーレン(C60)のトルエン溶液に浸漬する。これによって、分子認識場(ネットワーク空間)にフラーレン(C60)が取り込まれ、導電路21Bを得ることができる。こうして、ソース/ドレイン電極16Bの間であってゲート絶縁層15上に形成され、導電路21Bによって構成されたチャネル形成領域17Bを形成することができ、nチャネル型TFTを得ることができる(図12の(B)参照)。
【0121】
[工程−440]
最後に、全面にパッシベーション膜(図示せず)を形成することで、実施例4の半導体装置を完成させることができる。
【実施例5】
【0122】
実施例5も、実施例1の変形である。実施例5にあっては、有機電子デバイスを、トップゲート/ボトムコンタクト型のFET(具体的には、TFT)とした。実施例5の電界効果型トランジスタ(より具体的には、nチャネル型TFT)は、図14の(B)に模式的な一部断面図を示すように、
(A)基体13に相当する絶縁層12上に形成されたソース/ドレイン電極16B、
(B)ソース/ドレイン電極16Bの間の基体13上に形成され、導電路21Bによって構成されたチャネル形成領域17B、
(C)ソース/ドレイン電極16B及びチャネル形成領域17B上に形成されたゲート絶縁層15B、並びに、
(D)ゲート絶縁層15B上に形成されたゲート電極14B、
を備えている。あるいは又、実施例5の電界効果型トランジスタ(より具体的には、pチャネル型TFT)は、図14の(B)に模式的な一部断面図を示すように、
(A)基体13に相当する絶縁層12上に形成されたソース/ドレイン電極16A、
(B)ソース/ドレイン電極16Aの間の基体13上に形成され、導電路21Aによって構成されたチャネル形成領域17A、
(C)ソース/ドレイン電極16A及びチャネル形成領域17A上に形成されたゲート絶縁層15A、並びに、
(D)ゲート絶縁層15A上に形成されたゲート電極14A、
を備えている。
【0123】
以下、基体等の模式的な一部端面図である図13の(A)、(B)及び図14の(A)、(B)を参照して、実施例5の有機電子デバイス(電界効果型トランジスタ)の製造方法の概要を説明する。
【0124】
[工程−500]
先ず、実施例3の[工程−320]と同様の方法で、基体13に相当する絶縁層12上にソース/ドレイン電極16A,16Bを形成した後、実施例1の[工程−120]と同様にして、ソース/ドレイン電極16A,16Bを含む基体13(より具体的には絶縁層12)上に、微粒子23から成る微粒子層20を形成する(図13の(A)参照)。
【0125】
[工程−510]
その後、実施例1の[工程−130]と同様にして、実施例1のポルフィリン分子溶液に全体を浸漬する。第1の有機半導体分子等であるポルフィリン分子が保護膜を構成する有機分子と置換される結果、微粒子23と第1の有機半導体分子等24との化学的な結合体が形成され、導電路21A(チャネル形成領域17A)、及び、結合層(ポルフィリン・ネットワーク単層膜)22を形成することができる(図13の(B)参照)。
【0126】
[工程−520]
次いで、pチャネル型TFTのためのゲート絶縁層15Aを、実施例3の[工程−310]と同様の方法で形成する。その後、チャネル形成領域17Aの上のゲート絶縁層15Aの部分に、実施例3の[工程−300]と同様の方法でゲート電極14Aを形成してpチャネル型TFTを得た後(図14の(A)参照)、実施例3の[工程−350]と同様にしてpチャネル型TFTをマスク層30によって被覆する。
【0127】
[工程−530]
その後、実施例1の[工程−140]と同様にして、露出した結合層22を、第2導電型を有する第2の有機半導体分子と接触させる。具体的には、全体を、フラーレン(C60)のトルエン溶液に浸漬する。これによって、分子認識場(ネットワーク空間)にフラーレン(C60)が取り込まれ、導電路21Bを得ることができる。
【0128】
[工程−540]
次に、nチャネル型TFTのためのゲート絶縁層15Bを、実施例3の[工程−310]と同様の方法で形成した後、チャネル形成領域17Bの上のゲート絶縁層15Bの部分に、実施例3の[工程−300]と同様の方法でゲート電極14Bを形成する(図14の(B)参照)。こうして、nチャネル型TFTを得ることができる。
【0129】
[工程−550]
最後に、全面にパッシベーション膜(図示せず)を形成することで、実施例5の半導体装置を完成させることができる。
【実施例6】
【0130】
実施例6も、実施例1の変形である。実施例6にあっては、有機電子デバイスを、トップゲート/トップコンタクト型のFET(具体的には、TFT)とした。実施例6の電界効果型トランジスタ(より具体的には、nチャネル型TFT)は、図16の(B)に模式的な一部断面図を示すように、
(A)基体13に相当する絶縁層12上に形成され、導電路21Bによって構成されたチャネル形成領域17Bを含むチャネル形成領域構成層18B、
(B)チャネル形成領域構成層18B上に形成されたソース/ドレイン電極16B、
(C)ソース/ドレイン電極16B及びチャネル形成領域17B上に形成されたゲート絶縁層15B、並びに、
(D)ゲート絶縁層15B上に形成されたゲート電極14B、
を備えている。あるいは又、実施例6の電界効果型トランジスタ(より具体的には、pチャネル型TFT)は、図16の(B)に模式的な一部断面図を示すように、
(A)基体13に相当する絶縁層12上に形成され、導電路21Aによって構成されたチャネル形成領域17Aを含むチャネル形成領域構成層18A、
(B)チャネル形成領域構成層18A上に形成されたソース/ドレイン電極16A、
(C)ソース/ドレイン電極16A及びチャネル形成領域17A上に形成されたゲート絶縁層15A、並びに、
(D)ゲート絶縁層15A上に形成されたゲート電極14A、
を備えている。
【0131】
以下、基体等の模式的な一部端面図である図15の(A)、(B)及び図16の(A)、(B)を参照して、実施例6の有機電子デバイス(電界効果型トランジスタ)の製造方法の概要を説明する。
【0132】
[工程−600]
先ず、実施例1の[工程−120]と同様にして、基体13(より具体的には絶縁層12)上に、微粒子23から成る微粒子層20を形成する。
【0133】
[工程−610]
その後、実施例1の[工程−130]と同様にして、実施例1のポルフィリン分子溶液に全体を浸漬する。第1の有機半導体分子等であるポルフィリン分子が保護膜を構成する有機分子と置換される結果、微粒子23と第1の有機半導体分子等24との化学的な結合体が形成され、導電路21A(チャネル形成領域17A)及び結合層(ポルフィリン・ネットワーク単層膜)22を形成することができる(図15の(A)参照)。尚、導電路21A及び結合層22は、チャネル形成領域構成層18A,18Bに相当する。
【0134】
[工程−620]
次いで、実施例3の[工程−320]と同様の方法で、チャネル形成領域構成層18A,18B上にソース/ドレイン電極16A,16Bを形成する(図15の(B)参照)。
【0135】
[工程−630]
その後、pチャネル型TFTのためのゲート絶縁層15Aを、実施例3の[工程−310]と同様の方法で形成する。次いで、チャネル形成領域17Aの上のゲート絶縁層15Aの部分に、実施例3の[工程−300]と同様の方法でゲート電極14Aを形成してpチャネル型TFTを得た後(図16の(A)参照)、実施例3の[工程−350]と同様にしてpチャネル型TFTをマスク層30によって被覆する。
【0136】
[工程−640]
次に、実施例1の[工程−140]と同様にして、露出した結合層22を、第2導電型を有する第2の有機半導体分子と接触させる。具体的には、全体を、フラーレン(C60)のトルエン溶液に浸漬する。これによって、分子認識場(ネットワーク空間)にフラーレン(C60)が取り込まれ、導電路21Bを得ることができる。
【0137】
[工程−650]
その後、nチャネル型TFTのためのゲート絶縁層15Bを、実施例3の[工程−310]と同様の方法で形成した後、チャネル形成領域17Bの上のゲート絶縁層15Bの部分に、実施例3の[工程−300]と同様の方法でゲート電極14Bを形成する(図16の(B)参照)。こうして、nチャネル型TFTを得ることができる。
【0138】
[工程−660]
最後に、全面にパッシベーション膜(図示せず)を形成することで、実施例6の半導体装置を完成させることができる。
【実施例7】
【0139】
ポルフィリン(porphyrin)は、ピロールが4つ組み合わさってできた18個の電子を有する環状の共役系分子である。そして、その中心部で、亜鉛、ルテニウム、コバルト、金、マグネシウム、鉄等の多くの金属と安定な錯体を形成する。天然の光合成においては、ポルフィリン分子の集合体を利用し、光電変換を起こすことが知られている。例えば、ポルフィリン分子が光を吸収すると基底状態から電子が励起され、安定な励起子を形成する。この励起エネルギーは非常に高効率で分子間の移動を繰り返しながら反応中心への電子を渡し、光合成作用を引き起こす。
【0140】
式(104)に示した本発明の有機半導体分子は、図17に合成スキームを示すように、チオール基を修飾したオリゴチオフェンの誘導体(図17の化合物3)とアルキル基を修飾したジピロメテン(図17の化合物4)の縮合反応により合成されたポルフィリン誘導体(図17の化合物5)である。即ち、本発明の有機半導体分子であるポルフィリン分子は、例えば、オリゴチオフェン(n=1〜5であり、図17の化合物1)の一端にチオアセチル基を結合させてから(図17の化合物2)、他の一端にアルデヒド基を生成させる(図17の化合物3)。次に、ジピロメテン(図17の化合物4)との縮合反応、及び酸化反応によりポルフィリン誘導体(本発明の有機半導体分子であり、図17の化合物5)が合成される。尚、ピロールとの縮合反応、及び酸化反応により、参考例1の第1の有機半導体分子(式(105)参照)が合成される。
【0141】
以下、式(104)に示した本発明の有機半導体分子の合成方法を説明する。
【0142】
[図17の化合物2の合成:但し、n=2]
化合物1(n=2)を10グラム(60ミリ・モル)含む100ミリ・リットルのTHF溶液に、アルゴン気流中、−78゜Cで、37ミリ・リットル(60ミリ・モル)の1.6M n−ブチルリチウム溶液をゆっくり滴下する。30分後、1.9グラム(60ミリ・モル)の硫黄(S)を加えた後、0゜Cで1時間攪拌する。次に、雰囲気を−78゜Cに冷却した後、5ミリ・リットル(72ミリ・モル)の塩化アセチルを添加し、1時間攪拌する。そして、反応液をそのまま室温に戻し、一晩攪拌する。その後、水を添加して反応を停止させた後、ジクロロメタンを加える。次に、水、飽和食塩水で順次洗浄して乾燥させる。そして、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(へキサン:エーテル=2:1)で精製すると、10.5グラム(収率73%)の黄色の固体が得られた。分析結果は、以下のとおりであった。
1HNMR(CDCl3):δ7.25(s,1H),7.20(d,1H),7.15(d,1H),7.07(d,1H),7.03(d,1H),2.41(s,3H)
【0143】
[図17の化合物3の合成:但し、n=2]
2グラム(8.3ミリ・モル)の化合物2(n=2)及び1.3ミリ・リットルのDMFを含む10ミリ・リットルのジクロロエタン溶液に、アルゴン気流中で0.9ミリ・リットル(9.1ミリ・モル)のオキシ塩化燐をゆっくり加える。そして、一晩還流した後、反応液を50ミリ・リットルの酢酸ナトリウム飽和水溶液にゆっくり滴下し、反応を停止させる。その後、ジクロロメタンを加え、水、飽和食塩水で順次洗浄して乾燥させる。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(へキサン:ジクロロメタン=1:3)で精製すると、1.1グラム(収率50%)の黄色の固体が得られた。分析結果は、以下のとおりであった。
1HNMR(CDCl3):δ9.85(s,1H),7.91(d,1H),7.80(d,1H),7.51(d,1H),7.12(d,1H),7.04(d,1H),2.40(s,3H)
MALDI−TOF−MS:m/z=268.37[M+
11823計算値 :m/z=268.69[M+
【0144】
[図17の化合物4の合成]
6ミリ・リットル(50ミリ・モル)のn−ヘキサナールを含む150ミリ・リットル(1.5モル)のピロールをアルゴン置換(20分間)した後、0.9ミリ・リットルのTFA(trifluoroacid)を加え、室温で30分間攪拌した後、1ミリ・リットルのTEAを加え、反応を停止させる。過量のピロールを減圧蒸留で除いた後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(へキサン:エチルアセテート:TEA=8:2:0.1)で精製すると、3.36グラム(収率30%)の茶色のオイルが得られた。分析結果は、以下のとおりであった。
1HNMR(CDCl3):δ7.77(s,1H),6.65(s,2H),6.17(t,2H),6.09(s,2H),3.99(t,1H),1.96(m,2H),1.32(m,6H),0.89(t,3H)
【0145】
[図17の化合物5の合成:但し、n=2]
0.8グラム(3.0ミリ・モル)の化合物3(n=2)及び0.68グラム(3.0ミリ・モル)の化合物4を含む300ミリ・リットルのクロロメタン溶液をアルゴン置換(20分間)した後、0.36ミリ・リットルのTFAを加え、室温で3時間攪拌する。更に、0.72グラムのp−クロルアニルを添加し、1時間攪拌した後、0.64ミリ・リットルのTEAを加えて、反応を停止させる。その後、0.77グラムのZn(OAc)2を含む50ミリ・リットルのメタノール溶液を添加し、室温で2時間攪拌する。次いで、シリカのショットカラムで濾過した後、水、飽和食塩水で順次洗浄して乾燥させる。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(へキサン:ジクロロメタン=1:2)で精製すると、0.22グラム(収率15%)の赤色の固体が得られた。分析結果は、以下のとおりであった。
MALDI−TOF−MS :m/z=990.10[M+
5044428Zn計算値:m/z=990.69[M+
【0146】
[図17の化合物6の合成:但し、n=2]
350ミリ・グラム(1.0ミリ・モル)の化合物3(n=2)、120ミリ・グラム(1.0ミリ・モル)のn−ヘキサナール及び460ミリ・グラム(2.0ミリ・モル)の化合物4を含む200ミリ・リットルのクロロメタン溶液をアルゴン置換(20分間)した後、0.24ミリ・リットルのTFAを加え、室温で3時間攪拌する。更に、460ミリ・グラムのp−クロルアニルを添加し、1時間攪拌した後、0.28グラムのZn(OAc)2を含む20ミリ・リットルのメタノール溶液を添加する。次いで、シリカのショットカラムで濾過した後、水、飽和食塩水で順次洗浄して乾燥させる。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(へキサン:ジクロロメタン=1:2)で精製すると、0.09グラム(収率11%)の赤色の固体が得られた。分析結果は、以下のとおりであった。
MALDI−TOF−MS :m/z=820.19[M+
45484OS3Zn計算値:m/z=820.22[M+
【0147】
尚、図17の化合物5(実施例の有機半導体分子であり、n=2)及び化合物6(参考例の有機半導体分子であり、n=2)のMALDI−TOF−MSスペクトルを測定した結果を、図18の下段及び上段に示す。
【0148】
[図17の化合物2の合成:但し、n=3]
化合物1(n=3)を1.0グラム(4.0ミリ・モル)含む15ミリ・リットルのTHF溶液に、アルゴン気流中、−78゜Cで、3.0ミリ・リットル(4.8ミリ・モル)の1.6M n−ブチルリチウム溶液をゆっくり滴下する。30分後、0.15グラム(4.8ミリ・モル)の硫黄(S)を加えた後、0゜Cで1時間攪拌する。次に、雰囲気を−78゜Cに冷却した後、0.33ミリ・リットル(4.8ミリ・モル)の塩化アセチルを添加し、1時間攪拌する。そして、反応液をそのまま室温に戻し、一晩攪拌する。その後、水を添加して反応を停止させた後、ジクロロメタンを加える。次に、水、飽和食塩水で順次洗浄して乾燥させる。そして、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(へキサン:エーテル=2:1)で精製すると、0.8グラム(収率63%)の黄色の固体が得られた。分析結果は、以下のとおりであった。
1HNMR(CDCl3):δ7.26−7.05(m,7H),2.45(s,3H)
MALDI−TOF−MS:m/z=321.77[M+
1410OS4計算値 :m/z=321.96[M+
【0149】
[図17の化合物3の合成:但し、n=3]
0.54グラム(1.7ミリ・モル)の化合物2(n=3)及び0.14ミリ・リットルのDMFを含む10ミリ・リットルのジクロロエタン溶液に、アルゴン気流中で0.18ミリ・リットル(2.0ミリ・モル)のオキシ塩化燐をゆっくり加える。そして、一晩還流した後、反応液を50ミリ・リットルの酢酸ナトリウム飽和水溶液にゆっくり滴下し、反応を停止させる。その後、ジクロロメタンを加え、水、飽和食塩水で順次洗浄して乾燥させる。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(へキサン:ジクロロメタン=1:3)で精製すると、1.9グラム(収率34%)の黄色の固体が得られた。分析結果は、以下のとおりであった。
1HNMR(CDCl3):δ9.88(s,1H),7.29−7.08(m,6H),2.46(s,3H)
MALDI−TOF−MS:m/z=350.37[M+
151024計算値 :m/z=349.95[M+
【0150】
[図17の化合物5の合成:但し、n=3]
1グラム(2.85ミリ・モル)の化合物3(n=3)及び0.66グラム(2.85ミリ・モル)の化合物4を含む300ミリ・リットルのクロロメタン溶液をアルゴン置換(20分間)した後、0.34ミリ・リットルのTFAを加え、室温で3時間攪拌する。更に、0.67グラムのp−クロルアニルを添加し、1時間攪拌した後、0.67ミリ・リットルのTEAを加えて、反応を停止させる。その後、0.77グラムのZn(OAc)2を含む50ミリ・リットルのメタノール溶液を添加し、室温で2時間攪拌する。次いで、シリカのショットカラムで濾過した後、水、飽和食塩水で順次洗浄して乾燥させる。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(へキサン:ジクロロメタン=1:2)で精製すると、0.16グラム(収率10%)の赤色の固体が得られた。分析結果は、以下のとおりであった。
MALDI−TOF−MS :m/z=1153.87[M+H]+
5849428Zn計算値:m/z=1153.08[M+H]+
【0151】
[図17の化合物6の合成:但し、n=3]
174ミリ・グラム(0.5ミリ・モル)の化合物3(n=3)、60ミリ・グラム(0.5ミリ・モル)のn−ヘキサナール及び230ミリ・グラム(1.0ミリ・モル)の化合物4を含む100ミリ・リットルのクロロメタン溶液をアルゴン置換(20分間)した後、0.12ミリ・リットルのTFAを加え、室温で3時間攪拌する。更に、230ミリ・グラムのp−クロルアニルを添加し、1時間攪拌した後、0.14グラムのZn(OAc)2を含む10ミリ・リットルのメタノール溶液を添加する。次いで、シリカのショットカラムで濾過した後、水、飽和食塩水で順次洗浄して乾燥させる。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(へキサン:ジクロロメタン=1:2)で精製すると、45ミリ・グラム(収率10%)の赤色の固体が得られた。分析結果は、以下のとおりであった。
MALDI−TOF−MS :m/z=903.97[M+H]+
49514OS4Zn計算値:m/z=903.21[M+H]+
【0152】
尚、図17の化合物5(実施例の有機半導体分子であり、n=3)及び化合物6(参考例の有機半導体分子であり、n=3)のMALDI−TOF−MSスペクトルを測定した結果を、図19の下段及び上段に示す。
【0153】
以上、本発明を好ましい実施例に基づき説明したが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。有機電子デバイスや導電路の構造や構成、形成条件、製造条件は例示であり、適宜変更することができる。本発明によって得られた有機電子デバイスである電界効果型トランジスタ(FET)を、ディスプレイ装置や各種の電子機器に適用、使用する場合、支持体や支持部材に多数のFETを集積したモノリシック集積回路としてもよいし、各FETを切断して個別化し、ディスクリート部品として使用してもよい。微粒子は、金(Au)に限定するものではなく、他の金属(例えば、銀や白金等)、あるいは、半導体としての硫化カドミウム、セレン化カドミウム、シリコン等だけでなく、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホン酸[PEDOT/PSS]、ポリチオフェン、ポリアニリン等の導電性有機材料から構成することもできる。また、第1の有機半導体分子、第2の有機半導体分子も、ポルフィリンや4,4’−ビフェニルジチオール(BPDT)、フラーレン(C60)に限定するものではない。pチャネル型トランジスタとnチャネル型トランジスタとの間に素子分離領域を形成してもよいし、場合によっては、形成しなくともよい。
【符号の説明】
【0154】
10・・・支持体、11・・・ガラス基板、12・・・絶縁層、13・・・基体、14A,14B・・・ゲート電極、15,15A,15B・・・ゲート絶縁層、16A,16B・・・ソース/ドレイン電極、17A,17B・・・チャネル形成領域、18A,18B・・・チャネル形成領域構成層、20・・・微粒子層、21A,21B・・・導電路、22・・・微粒子/第1の有機半導体分子・結合層(結合層)、23・・・微粒子、24・・・第1の有機半導体分子等、30・・・マスク層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)微粒子、及び、
(B)微粒子と微粒子とを結合した有機半導体分子、
から成り、p型としての挙動を示す導電路を具備し、
前記有機半導体分子は、下記の構造式(1)で表されることを特徴とする有機電子デバイス。

但し、構造式(1)中、R1,R2はアルキル基を表し、Mは、2H,Zn+2,Mg+2,Fe+2,Co+2,Ni+2,Cu+2を表し,nは1乃至5の整数である。
【請求項2】
前記有機半導体分子が末端に有するチオール基が、微粒子と化学的に結合していることを特徴とする請求項1に記載の有機電子デバイス。
【請求項3】
前記微粒子の平均粒径は1×10-8m以下であることを特徴とする請求項1に記載の有機電子デバイス。
【請求項4】
有機電子デバイスは、電界効果型トランジスタから成り、
前記導電路によってチャネル形成領域が構成されることを特徴とする請求項1に記載の有機電子デバイス。
【請求項5】
基体上に、微粒子層を形成した後、下記の構造式(1)で表される有機半導体分子を含む溶液に浸漬することで、微粒子、及び、微粒子と微粒子とを結合した有機半導体分子から成り、p型としての挙動を示す導電路を形成することを特徴とする有機電子デバイスの製造方法。

但し、構造式(1)中、R1,R2はアルキル基を表し、Mは、2H,Zn+2,Mg+2,Fe+2,Co+2,Ni+2,Cu+2を表し,nは1乃至5の整数である。
【請求項6】
下記の構造式(2)で表される有機半導体分子。

但し、構造式(2)中、R1,R2はアルキル基を表し、Mは、2H,Zn+2,Mg+2,Fe+2,Co+2,Ni+2,Cu+2を表し,nは1乃至5の整数である。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−152623(P2009−152623A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−30861(P2009−30861)
【出願日】平成21年2月13日(2009.2.13)
【分割の表示】特願2006−297470(P2006−297470)の分割
【原出願日】平成18年11月1日(2006.11.1)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】