説明

樹脂封止装置および樹脂封止方法

【課題】圧力変化が大きな領域においても、簡便な方法で樹脂封止の圧力異常判定を的確に行う。
【解決手段】キャビティ42内に配置した基板Kを樹脂にて封止するための樹脂封止装置22であって、標準となる圧力波形Psを記憶する記憶部72と、キャビティ42内の樹脂の実圧力を検出する圧力センサ70と、標準圧力波形Psに基づいて実圧力の許容範囲を設定する演算部74と、実圧力が許容範囲を超えた場合に異常判定を行なう比較・判定部78と、を備え、特定の時点Tでの許容範囲を、標準圧力波形Psにおける時間軸上の当該特定の時点T以外の圧力値にも基づいて設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂に対して圧力を付与しつつ樹脂を所定の形状に成形する樹脂成形の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体チップが搭載された基板(被成型品)をキャビティ内に配置すると共に、溶融した樹脂を該キャビティの外部から圧力を掛けてキャビティ内に流し込んで封止する所謂「トランスファ方式」と称される樹脂封止装置が広く普及している。
【0003】
また、近年、対向して配置された上型と下型の間に形成されるキャビティ内に基板および樹脂を配置すると共に、この状態で配置した樹脂を圧縮することによって基板を封止するいわゆる「圧縮方式」と称される樹脂封止装置も開発されている。
【0004】
いずれの方式の場合においても、キャビティ内に封入された樹脂の圧力が封止作業の進行に伴ってどのように変化しているかという情報は、当該封止作業が正常に進行しているか否かを判定するための重要な判断材料となると考えられる。
【0005】
この圧力特性の監視によって封止作業の正常・異常の判定を行おうとした場合、例えば、特許文献1に記載されている「機器の運転状態監視装置」に係る技術を当該樹脂封止の異常判定に応用することが考えられる。この運転状態監視装置は、機器の処理状態を表す状態信号をデジタル化して順次入力する状態信号入力手段と、入力起動信号をトリガにして上記状態信号の上記機器の処理が正常な状態の波形を基準信号(標準特性)として記憶する基準波形記憶手段と、上記状態信号の波形と上記基準の信号の波形とを上記入力起動信号をトリガにして順次比較する状態波形比較手段とを備えたことを特徴とするものである。
【0006】
この装置に係る技術を樹脂封止の異常判定に応用する場合、具体的には、正常に封止が行われた際の圧力特性を標準圧力として装置に予め記憶させておき、特性の取得開始タイミング(起動トリガ)を例えば充填開始からとするなど、共通の測定環境を維持した上で、実際の圧力をこの記憶された標準圧力と比較して両者の乖離の程度が所定の閾値を超えた場合に異常と判断することになると解される。
【0007】
【特許文献1】特開平06−341931号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、封止作業中の樹脂の実圧力は時間と共にさまざまなファクタの影響を受けて絶えず変化してゆくものであるため、この判定は、現実には必ずしも簡単ではない。
【0009】
とりわけ、トランスファ方式の樹脂封止装置にあっては、キャビティ内の実圧力は、樹脂の充填速度、温度(粘度)、流動抵抗(金型のランナ、ゲート、キャビティ等の寸法や形状)等の影響を強く受け、極めて複雑に変化する。
【0010】
また、実圧力の上昇勾配が時間と共に変化するため、標準圧力と実圧力の起動トリガの時間軸方向のずれの影響が一様でないことも大きな障害となる。例えば、図8に示したように、標準圧力Psに対して一定のマージン(許容圧力σh)を与えた場合を想定する。この場合、圧力変化の少ない時間帯(例えば時間T1の近辺)は特に問題とならないが、圧力変化の大きな時間帯(例えば時間T2の近辺)では、同じ許容圧力σhが与えられていても起動トリガが時間軸方向に少しずれただけで、異常と判定されてしまう恐れがある。
【0011】
また、圧縮方式の樹脂封止装置の場合は、変動要素自体は少ないものの、実圧力の立ち上がりが急である分、標準圧力と実圧力の起動トリガのずれの影響はトランスファ方式の場合よりもむしろ大きく、圧力変化の大きい領域では僅かな起動トリガのずれが大きな圧力乖離要因となって誤判定を誘引する恐れがある。
【0012】
本発明はこのような事情を考慮してなされたものであって、圧力変化が大きな領域においても、簡便な方法で樹脂封止の圧力異常判定を的確に行うことができるようにすることをその課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、キャビティ内に配置した被成型品を樹脂にて封止するための樹脂封止装置であって、標準となる圧力波形を記憶する手段と、前記キャビティ内の前記樹脂の実圧力を検出する手段と、前記標準圧力波形に基づいて前記実圧力の許容範囲を設定する手段と、前記実圧力が前記許容範囲を超えた場合に異常判定を行なう比較・判定手段と、を備え、特定の時点での前記許容範囲が、前記標準圧力波形における時間軸上の当該特定の時点以外の圧力値にも基づいていることにより上記課題を解決するものである。
【0014】
即ち、許容範囲を設定するにあたり、単に標準圧力波形に一律に一定のマージンを付与する(即ち、特定の時点の圧力値のみに基づいて一定のマージンを付与する)のではなく、標準圧力波形の他の時点の圧力値にも基づくことで、より適切な許容範囲の設定が可能となっている。
【0015】
具体的には、例えば、前記許容範囲を、前記標準圧力波形を所定の時間分だけ前後にスライドさせた範囲となるように設定する。このような手法で設定された許容範囲は、圧力変化が小さい領域では相対的に小さな許容範囲となり、一方で、圧力変化が大きい領域では相対的に大きな許容範囲となる。換言すれば、もともとの標準圧力において圧力変化が小さい領域では厳密な圧力管理が可能であると同時に、もともとの標準圧力において圧力変化が大きい領域では許容範囲にやや余裕を持たせ、比較・判定時の「重ね合わせ」に時間軸方向の多少のズレが生じている場合でも、誤判定が頻発することを効果的に防ぐことができる。更に、ここでの許容範囲の設定は、標準圧力波形を基にして所定時間分だけ前後させるだけで設定でき、非常に簡便である。
【0016】
ここで、標準圧力波形が上昇と下降を繰り返すような波形である場合、即ち、標準圧力波形に下降勾配が存在する場合は、前記標準圧力波形に対して所定の時間分だけ前にスライドさせた波形を位相進み圧力波形とし、前記標準圧力波形に対して所定の時間分だけ後にスライドさせた波形を位相遅れ圧力波形としたときに、前記位相進み圧力波形の圧力値が前記標準圧力波形の圧力値以下となる領域、または、前記位相遅れ圧力波形の圧力値が前記標準圧力波形の圧力値以上となる領域では異常判定を行わないようにすることで、誤判定を予め防止することができる。
【0017】
更に、前記許容範囲を、前記標準圧力波形を所定の圧力分だけ上下にスライドさせた範囲となるように設定すれば、標準圧力波形において殆ど圧力の変化がない領域においても一定の許容範囲を与えることができる。このように、標準圧力波形において相対的に圧力変化の少ない領域と、相対的に圧力変化の大きい領域とを区分してそれぞれ独立のパラメータで許容範囲を設定できるため、より的確な圧力異常判定が可能となっている。またここでも、許容範囲は、標準圧力波形を基準に所定の圧力分だけ上下させるだけで設定できるため、非常に簡便である。
【0018】
ここでも、標準圧力波形が上昇と下降を繰り返すような波形である場合、即ち、標準圧力波形に下降勾配が存在する場合は、前記標準圧力波形に対して所定の時間分だけ前にスライドさせ且つ所定の圧力分だけ上にスライドさせた波形を位相進み最大圧力波形とし、前記標準圧力波形に対して所定の時間分だけ後にスライドさせ且つ所定の圧力分だけ下にスライドさせた波形を位相遅れ最小圧力波形としたときに、前記位相進み最大圧力波形の圧力値が前記標準圧力波形の圧力値以下となる領域、または、前記位相遅れ最小圧力波形の圧力値が前記標準圧力波形の圧力値以上となる領域では異常判定を行わないようにすることで、誤判定を予め防止することができる。
【0019】
また、前記許容範囲を、前記標準圧力波形における時点毎に、当該時点から前後所定時間範囲内の前記標準圧力波形の圧力サンプル値に基づいて設定してもよい。このようにすれば、1つのパラメータによって、圧力変化が少ない領域も圧力変化が大きな領域も一括して許容範囲を設定できる。
【0020】
例えば、前記所定範囲内の圧力サンプル値の最大値に基づいて前記許容範囲の上限を設定し、前記所定範囲内の圧力サンプル値の最小値に基づいて前記許容範囲の下限を設定する。
【0021】
またその設定の際に、当該時点からどの程度離れた時点での圧力サンプル値に基づいているかによって、前記許容範囲の設定に重み付けを与えれば、標準圧力波形の経時的な変化を考慮に入れた信頼度の高い許容範囲の設定が可能となる。
【0022】
また、前記異常判定を、特定の時間帯においてのみ行うような構成とすれば、完成品の品質に大きく影響を与える時間帯のみを監視し、それ以外の部分を監視外に置くことができる。その結果、処理する情報量が少なくなると共に、品質上それ程重要でない領域で誤判定がなされることを完全に排除することができる。
【0023】
また、前記許容範囲の設定手法が、特定の時間帯毎に選択可能である構成とすれば、品質管理上の重要度や、圧力変化に応じて時間帯毎に最適な設定手法を選択でき、全体として最適な許容範囲を決定することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明を適用することにより、圧力変化が大きな領域においても、簡便な方法で樹脂封止の圧力異常判定を的確に行うことができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の実施形態の一例について詳細に説明する。
【0026】
図1は、本発明の実施形態が適用された樹脂封止装置の一例を示す概略構成平面図である。図2は、標準圧力波形と許容範囲の関係の第1例を表したグラフである。図3は、標準圧力波形と許容範囲の関係の第2例を表したグラフである。図4は、標準圧力波形と許容範囲の関係の第3例を表したグラフである。図5は、標準圧力波形と許容範囲の関係の第4例を表したグラフである。図6は、標準圧力波形と許容範囲の関係の第5例を表したグラフである。図7は、図6における時点T前後の拡大図である。なお、図2乃至図7のグラフは理解容易のため多少摸式化した表現としている。
【0027】
<樹脂封止装置の構成>
この樹脂封止装置22の金型24は、上型26と下型28とを備える。上型26は、さらに上下に分割され、第1上型30とその上部に重ねられる第2上型32とから主に構成されている。第1上型30と第2上型32との間には、断熱層34が介在されている。
【0028】
第1上型30は、カル部36、封止対象である基板Kが配置される第1、第2凹部38、40、および封止樹脂が充填されるキャビティ42のうちの基板Kの上側に相当する上部キャビティ44を備える。第2上型32は、図1においては、その上下方向の厚さが第1上型30のそれとほぼ同一に描写されているが、実際には上型26の大半を占め、図示せぬ公知の取付ブロック等を介して固定プラテンに取り付けられている。
【0029】
一方、下型28は、図示せぬ公知の取付ブロック、支持プレート等を介して可動プラテンに取り付けられている。なお、可動プラテンは図示せぬプレス装置と連結され、このプレス装置を駆動することによって進退動(図1における上下方向の移動)が可能とされ、上型26(具体的にはその第1上型30)に対して下型28を接離させ、金型24の型閉じ、型締めおよび型開きを行う。尤も、本発明においては、上型、下型のいずれが可動金型とされていてもよい。
【0030】
下型28には、ランナ50および(キャビティ42のうちの基板Kの下側に相当する)下部キャビティ52が凹設されている。また、筒状のポット54が形成されており、このポット54内をプランジャ56が進退動自在に配設されている。
【0031】
プランジャ56にはロードセル等で構成された圧力センサ70が付設されており、樹脂の実圧力が計測できるようになっている。尤も、本発明においては、圧力センサの具体的構造や設置位置については特に限定されるものではない。むしろ、設置位置としては、封入樹脂は、完全な「流体」としての動きをするわけではないため、封止空間を構成するキャビティ42に近い位置に設置する方がより高精度の検出ができる場合がある。
【0032】
なお、符号72は、標準圧力波形の記憶部、74は、標準圧力波形を基に許容範囲を設定可能な演算部、78は、樹脂に掛かる実圧力が許容範囲内に収まっているか否かを判定することで封止の異常を判定するための比較・判定部である(後に詳述)。
【0033】
<樹脂封止装置の作用>
プランジャ56がその下限位置に置かれた状態で、ポット54内にタブレット或いはペレット状等の樹脂材料(成形材料)58がセットされ、プランジャ56の上昇により、溶融温度下でカル部36、ランナ50を介して基板Kの上下に形成された上下キャビティ44、52内に該樹脂材料58が流入する。その後上型26および下型28によって型締めされた状態で温度上昇がなされ、樹脂が硬化した段階で型開きし、樹脂封止された基板Kが取り出される。
【0034】
この一連の作業の間、前処理として、この実施形態では、良好な封止が行われたときに検出された圧力特性を、標準圧力(標準圧力波形)として(即ち許容範囲を設定する際の基となる情報源として)予め記憶部72に記憶している。
【0035】
更に、この標準圧力(標準圧力波形)に基づいて、許容範囲が設定される(この点の詳細は後述する。)。
【0036】
その上で、実際の封止作業時に封入樹脂の実圧力が圧力センサ70によりリアルタイムで検出され、比較・判定部78において「実圧力」と「設定された許容範囲」とが比較される。比較の結果、実圧力が設定された許容範囲を超えたときには「封止作業に何らかの異常が発生した」との判定がなされる。
【0037】
例えば、何らかの原因で樹脂漏れ(あるいは溢れ)が生じた場合には、樹脂の実圧力は正常時のときよりも低くなる傾向となる。また、バリかす等の異物が残存・混入している場合には、その分の容積が樹脂の拡散空間として機能しなくなるため、正常時の標準圧力(標準圧力波形)よりも早めに高く立ち上がる傾向となる。そこで、実圧力が予め標準圧力波形に基づいて設定された所定の許容範囲を超えた場合に速やかに封止異常と判定するようにすれば、所定の処理あるいはメンテナンスを確実に且つ早期に行うことができるようになる。
【0038】
なお、実圧力が許容範囲内に収まっているか否かの判定に先立ち、標準圧力波形の時間軸と実圧力の時間軸とを何らかの共通のポイントを基準にして「重ね合わせる」作業が必要となるが、この手法としては、例えば前述の特許文献1の例のように文字通り時間軸上の特定の時点を基準にする場合と、可動部材の位置(例えばプランジャや可動金型の初期位置)を基準にする場合とが考えられる。時間軸上の特定の時点を基準にする場合は、トランスファ方式なら例えば充填の開始時点、圧縮方式なら例えば型締め開始時点等の起動トリガが発生した時点を基準として両特性を重ね合わせ、そこからの経過時間に対応させて実圧力が許容範囲を超えていないか否かを比較・判定することになる。一方、可動部材の位置を基準とする場合には、トランスファ方式なら例えば充填開始時のプランジャの位置、圧縮方式なら例えば型締めの開始時の可動金型の初期位置等を基準として重ね合わせ、そこからのプランジャや金型の移動距離に対応させて実圧力が許容範囲を超えていないか否かを比較・判定することになる。いずれの手法を用いた場合でも、本実施形態に拠れば的確な異常判定ができる。
【0039】
前記可動部材の位置を基準とする場合であっても、前記「可動位置」には、時間的前後の概念が含まれることから「広義の時間軸」と捉えることができるため、特許請求の範囲及び本明細書における「時間軸」の概念には、前記可動部材の位置を基準とする場合における「可動部材の位置の軸」の概念を含むものとする。
【0040】
<許容範囲の設定について>
次に、どのようにして許容範囲が設定されるかについて説明する。
【0041】
図2においてラインPs(実線で表示)は標準圧力波形、ラインPb(点線で表示)は標準圧力波形をそっくりそのまま指定時間幅t分だけ前(時間軸方向に前)にスライドさせた位相進み圧力波形、ラインPa(一点鎖線で表示)は標準圧力波形をそっくりそのまま指定時間幅t分だけ後(時間軸方向に後)にスライドさせた位相遅れ圧力波形をそれぞれ示している。その結果、位相進み圧力波形Pbと位相遅れ圧力波形Paに囲まれた範囲が許容範囲として設定される。即ち、位相進み圧力波形Pbが許容圧力の上限値として、および、位相遅れ圧力波形Paが許容圧力の下限値となる。このように、標準圧力波形Psを時間軸方向に所定の時間t分だけスライドさせて許容範囲が設定されることから、特定時点の許容範囲は、標準圧力波形Psにおける時間軸上の当該特定の時点以外の圧力値に基づいて設定されていることとなる。なお、ここでは指定時間tを位相進み側および位相遅れ側で同じとしているが、異なっていてもよい。
【0042】
このような手法で設定された許容範囲は、圧力変化が小さい領域(例えば図1におけるT1近辺)では相対的に小さな許容範囲σ2となり、一方で、圧力変化が大きい領域(例えば図1におけるT2近辺)では相対的に大きな許容範囲σ1となる。換言すれば、もともとの標準圧力(標準圧力波形)において圧力変化が小さい領域では厳密な圧力管理が可能であると同時に、もともとの標準圧力(標準圧力波形)において圧力変化が大きい領域では許容範囲にやや余裕を持たせ、比較・判定時の「重ね合わせ」に時間軸方向の多少のズレが生じている場合でも、誤判定が頻発することを効果的に防ぐことができる。更に、ここでの許容範囲の設定は、標準圧力波形を基にして所定時間分だけ前後させるだけで設定でき、非常に簡便である。
【0043】
ここで、図3に示しているように、標準圧力波形Psが上昇と下降を繰り返すような波形である場合、即ち、標準圧力波形Psに下降勾配が存在する場合は、例えば、位相進み圧力波形Pbの圧力値が標準圧力波形Psの圧力値以下となる領域β、または、位相遅れ圧力波形Paの圧力値が標準圧力波形Psの圧力値以上となる領域αでは異常判定を行わないようにすることで、誤判定を予め防止することができる。
【0044】
次に図4においてラインPs(実線で表示)は標準圧力波形、ラインPb・max(点線で表示)は標準圧力波形をそっくりそのまま指定時間幅t分だけ前(時間軸方向に前)にスライドさせ且つ指定圧力幅p分だけ上(圧力軸方向に上)にスライドさせた位相進み最大圧力波形、ラインPa・min(一点差線で表示)は標準圧力波形をそっくりそのまま指定時間幅t分だけ後(時間軸方向に後)にスライドさせ且つ指定圧力幅p分だけ下(圧力軸方向に下)にスライドさせた位相遅れ最小圧力波形をそれぞれ示している。その結果、位相進み最大圧力波形Pb・maxと位相遅れ最小圧力波形Pa・minに囲まれた範囲が許容範囲として設定される。即ち、位相進み最大圧力波形Pb・maxが許容圧力の上限値として、および、位相遅れ最小圧力波形Pa・minが許容圧力の下限値となる。このように、標準圧力波形Psを時間軸方向に所定の時間t分だけスライドさせた上で、更に、圧力軸方向に指定圧力幅p分だけ許容範囲が設定されることから、特定時点の許容範囲は、標準圧力波形Psにおける時間軸上の当該特定の時点以外の圧力値に基づいて設定されていることとなる。なお、ここでは指定時間tを位相進み側および位相遅れ側で同じとし、更に、指定圧力幅pを上限値側と下限値側とで同じとしているが、異なっていてもよい。
【0045】
このような手法で設定された許容範囲は、標準圧力波形Psにおいて殆ど圧力の変化がない領域においても一定の許容範囲を与えることができる。このように、標準圧力波形Psにおいて相対的に圧力変化の少ない領域と、相対的に圧力変化の大きい領域とを区分してそれぞれ独立のパラメータで許容範囲を設定できるため、より的確な圧力異常判定が可能となっている。またここでも、許容範囲は、標準圧力波形Psを基準に所定の時間分だけ前後にスライドさせた上で、所定の圧力分だけ上下にスライドさせるだけ(若しくはその逆)で設定できるため、非常に簡便である。
【0046】
なおここでも、図5に示しているように、標準圧力波形Psが上昇と下降を繰り返すような波形である場合、即ち、標準圧力波形Psに下降勾配が存在する場合は、例えば、位相進み最大圧力波形Pb・maxの圧力値が標準圧力波形Psの圧力値以下となる領域β、または、位相遅れ最小圧力波形Pa・minの圧力値が標準圧力波形Psの圧力値以上となる領域αでは異常判定を行わないようにすることで、誤判定を予め防止することができる。
【0047】
次に、図6、図7において、ラインPs(実線で表示)は標準圧力波形、ラインPmax(点線で表示)は許容範囲の上限値を示す波形、ラインPmin(一点差線で表示)は許容範囲の下限値を示す波形である。例えば、特定の時点Tの許容範囲(上限値および下限値)は、当該時点Tを基準に前後に指定時間幅t分までの特定時間範囲(Tx〜Tyまでの範囲)を設定し、当該特定時間範囲(Tx〜Ty)内の圧力値をサンプル値として決定される。例えば、特定時間範囲(Tx〜Ty)内を時間軸に沿って更に細かく区分した上で、これら区分毎の圧力値をサンプル値として取得する。図7に詳細に示しているように、時点T〜Txまでを5つに区分(Tn−1〜Tn−5)し、時点T〜Tyまでも5つに区分(Tn+1〜Tn+5)している。その結果、時点Tn−5(Tx)の圧力値をPn−5、時点Tn−4の圧力値をPn−4、時点Tn−3の圧力値をPn−3、時点Tn−2の圧力値をPn−2、時点Tn−1の圧力値をPn−1、時点Tn+1の圧力値をPn+1、時点Tn+2の圧力値をPn+2、時点Tn+3の圧力値をPn+3、時点Tn+4の圧力値をPn+4、時点Tn+5(Ty)の圧力値をPn+5として取得する。その上で、これらサンプル値を基に算出した値を許容範囲として設定する。なお、ここでの算出手法は特に限定されるものではなく、後述するように圧力サンプル値の最大値と最小値を利用したり、サンプル値の平均値を求めてその上下にマージンを加えたり、微分値、積分値やこれらを組み合せた値を加味する手法でもよい。また、これら圧力サンプル値に時点Tからの距離(時間的距離)に応じて重み付けを与えた上で算出してもよい。例えば、時点Tに近い圧力サンプル値ほど評価の重み付けが大きくなるように設定すれば、より標準圧力波形Psにおける圧力値の変化を機動的に捉えて許容範囲を設定することが可能となる。
【0048】
具体例として、図6および図7として示している例においては、これらサンプル値のうち、最大のもの(ここではPn−3)と最小のもの(ここではPn+5)を利用している。即ち、当該特定時間範囲(Tx〜Ty)内での最大圧力値Pxと最小圧力値Pyにそれぞれ指定圧力幅P1、P2分だけマージンを与えて設定される。より具体的には、時点Tの許容範囲の上限値PmaxTは、特定時間範囲(Tx〜Ty)内での最大圧力値Px(ここではPn−3)に指定圧力幅P1を加えた値となる。また、時点Tの許容範囲の下限値PminTは、特定時間範囲(Tx〜Ty)内での最小圧力値Py(ここではPn+5)から指定圧力幅P2を引いた値となる。同様に、その他のすべての時点においても、同様の手法により許容範囲の上限値と下限値が設定される。その結果、PmaxとPminに囲まれた範囲が許容範囲として設定されることとなる。このようにすれば、1つのパラメータによって、圧力変化が少ない領域も圧力変化が大きな領域も一括して許容範囲を設定でき便利である。なお、ここでは指定時間tを時点Tを基準に前後で同じとしているが、異なっていてもよい。また場合によっては、時点Tを基準に前側のみ、後側のみに指定時間tを設定してもよい。
【0049】
また、上記では指定圧力幅P1、P2分の所謂「マージン」を付与しているが、これは必須のものではない。上記の例であれば、例えば、特定時間範囲(Tx〜Ty)内での最大圧力値Pxと最小圧力値Pyの値をそのまま許容範囲の上限値、下限値に設定することも可能である。更に指定圧力幅P1、P2を付与する場合においては、上限値側P1と下限値側P2で異なる値としてもよいし、一方側にのみ付与するような構成でもよい。更に、この指定圧力幅自体を何らかのパラメータにより(例えば微分値や積分値に応じて)変化させることも可能である。
【0050】
また、異常判定を、特定の時間帯においてのみ行うような構成とすれば、完成品の品質に大きく影響を与える時間帯のみを監視し、それ以外の部分を監視外に置くことができる。その結果、処理する情報量が少なくなると共に、品質上それ程重要でない領域で誤判定がなされることを完全に排除することができる。
【0051】
また、前記許容範囲の設定手法が、特定の時間帯毎に選択可能である構成とすれば、品質管理上の重要度や、圧力変化に応じて時間帯毎に最適な設定手法を選択でき、演算負荷と信頼度とのバランスが取れた全体として最適な許容範囲を決定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、半導体チップを搭載した基板を樹脂にて封止する樹脂封止装置としての適用はもちろん、広く樹脂成形装置に適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の実施形態が適用された樹脂封止装置の一例を示す概略構成平面図
【図2】標準圧力波形と許容範囲の関係の第1例を表したグラフ
【図3】標準圧力波形と許容範囲の関係の第2例を表したグラフ
【図4】標準圧力波形と許容範囲の関係の第3例を表したグラフ
【図5】標準圧力波形と許容範囲の関係の第4例を表したグラフ
【図6】標準圧力波形と許容範囲の関係の第5例を表したグラフ
【図7】図6における時点T前後の拡大図
【図8】特許文献1の技術を樹脂封止の異常判定に応用した場合のグラフ
【符号の説明】
【0054】
22…樹脂封止装置
24…金型
26…上型
28…下型
42…キャビティ
50…ランナ
54…ポット
56…プランジャ
70…圧力センサ
72…記憶部
74…演算部
78…比較・判定部
K…基板(被成形品)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャビティ内に配置した被成型品を樹脂にて封止するための樹脂封止装置であって、
標準となる圧力波形を記憶する手段と、
前記キャビティ内の前記樹脂の実圧力を検出する手段と、
前記標準圧力波形に基づいて前記実圧力の許容範囲を設定する手段と、
前記実圧力が前記許容範囲を超えた場合に異常判定を行なう比較・判定手段と、を備え、
特定の時点での前記許容範囲が、前記標準圧力波形における時間軸上の当該特定の時点以外の圧力値にも基づいている
ことを特徴とする樹脂封止装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記許容範囲が、前記標準圧力波形を所定の時間分だけ前後にスライドさせた範囲となるように設定される
ことを特徴とする樹脂封止装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記標準圧力波形に対して所定の時間分だけ前にスライドさせた波形を位相進み圧力波形とし、前記標準圧力波形に対して所定の時間分だけ後にスライドさせた波形を位相遅れ圧力波形としたときに、
前記位相進み圧力波形の圧力値が前記標準圧力波形の圧力値以下となる領域、または、前記位相遅れ圧力波形の圧力値が前記標準圧力波形の圧力値以上となる領域では異常判定を行わない
ことを特徴とする樹脂封止装置。
【請求項4】
請求項2または3において、
更に、前記許容範囲が、前記標準圧力波形を所定の圧力分だけ上下にスライドさせた範囲となるように設定される
ことを特徴とする樹脂封止装置。
【請求項5】
請求項4において、
前記標準圧力波形に対して所定の時間分だけ前にスライドさせ且つ所定の圧力分だけ上にスライドさせた波形を位相進み最大圧力波形とし、前記標準圧力波形に対して所定の時間分だけ後にスライドさせ且つ所定の圧力分だけ下にスライドさせた波形を位相遅れ最小圧力波形としたときに、
前記位相進み最大圧力波形の圧力値が前記標準圧力波形の圧力値以下となる領域、または、前記位相遅れ最小圧力波形の圧力値が前記標準圧力波形の圧力値以上となる領域では異常判定を行わない
ことを特徴とする樹脂封止装置。
【請求項6】
請求項1において、
前記許容範囲が、前記標準圧力波形における時点毎に、当該時点から前後所定時間範囲内の前記標準圧力波形の圧力サンプル値に基づいて設定される
ことを特徴とする樹脂封止装置。
【請求項7】
請求項6において、
前記所定時間範囲内の圧力サンプル値の最大値に基づいて前記許容範囲の上限を設定し、前記所定時間範囲内の圧力サンプル値の最小値に基づいて前記許容範囲の下限を設定する
ことを特徴とする樹脂封止装置。
【請求項8】
請求項6または7において、
前記許容範囲が、前記標準圧力波形における時点毎に、当該時点から前後所定時間範囲内の前記標準圧力波形の圧力サンプル値に基づいて設定される際に、当該時点からどの程度離れた時点での圧力サンプル値に基づいているかによって、前記許容範囲の設定に重み付けが与えられる
ことを特徴とする樹脂封止装置。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれかにおいて、
前記異常判定が、特定の時間帯においてのみ行われる
ことを特徴とする樹脂封止装置。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれかにおいて、
前記許容範囲の設定手法が、特定の時間帯毎に選択可能である
ことを特徴とする樹脂封止装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−260054(P2009−260054A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−107703(P2008−107703)
【出願日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】