説明

樹脂組成物、樹脂付き基材及び導体層張り積層板

【課題】 基材や導体層に対する接着性が高く、難燃性にも優れる接着層を形成できる樹脂組成物、これを用いた樹脂付き基材、並びに、導体層張り積層板を提供すること。
【解決手段】 本発明の導体層張り積層板20は、シート状の基材22と、接着層(樹脂層)24と、導体層26とをこの順に備えた構造を有している。この導体層張り積層板20における接着層24は、脂肪族環状炭化水素基を有する構造単位を含むポリアミドイミドと熱硬化性樹脂とを含む樹脂組成物からなるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、樹脂付き基材及び導体層張り積層板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パーソナルコンピュータ及び携帯電話等の電子機器の小型化及び軽量化に伴い、これらの機器に搭載されるプリント配線板には、さらなる小型化及び配線の高密度化が要求されている。このような小型化に対応するために、プリント配線板としては、多層配線板(ビルドアップ配線板)やフレキシブル配線板(FPC)の使用が増加している。多層配線板やフレキシブル配線板としては、樹脂等からなるシート状の基材と導体層とを備える構造を有するものが一般的である。そして、基材からの導体層の剥離等を低減することを目的として、両層は樹脂材料からなる接着層を介して接着されていることが多い。
【0003】
接着層用の樹脂材料としては、従来、エポキシ樹脂やアクリル樹脂等が多く用いられてきた。しかし、これらの樹脂材料は、耐熱性が低い傾向にあった。このため、従来の樹脂材料を接着層に適用したプリント配線板は、高温等の厳しい条件が課される用途に用いることが困難であった。そこで、かかる不都合を解消すべく、最近では、従来のエポキシ樹脂等に代えて、より優れた耐熱性を有するポリイミドが頻繁に利用されるようになってきている。
【0004】
また、電子機器に搭載されるプリント配線板には、安全上の観点から、耐熱性のほかに、難燃性を有していることが求められている。特に、接着層に用いられる樹脂材料は、通常、そのままでは難燃性が低い傾向にあり、その難燃性を向上させることは、プリント配線板全体の難燃性を高める上で重要となる。そこで、従来、接着層の難燃性を向上させることを目的として、樹脂材料に難燃剤を付与することが行われてきた。このような難燃剤としては、ハロゲン系化合物やアンチモン系化合物等が知られている。
【0005】
しかし、これらの難燃剤は、近年、燃焼により人体に有害なガスを発生することが判明し、その使用が制限されつつある。このような状況下、難燃剤としては、燃焼により有害ガスを発生することが少ないものが盛んに開発されている。かかる特性を有する難燃剤としては、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウム等の無機充填剤や、特許文献1に記載されたようなリン含有化合物等が提案されている。
【特許文献1】特開2003−027028号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の樹脂材料は以下に示す点で幾つかの不都合を有するものであった。すなわち、まず、ポリイミドは、優れた耐熱性を有しているものの、従来の樹脂材料に比して極めて高価であった。したがって、ポリイミドを用いると、プリント配線板の製造にかかるコストが高くなる傾向にあった。このため、これまで、ポリイミドは、特に高耐熱性が必要とされるプリント配線板等に用いられるのみで、通常用途のプリント配線板への適用は殆どなされてこなかった。
【0007】
そこで、本発明者らは、ポリイミドに代わる樹脂材料として、ポリアミドイミドに着目した。ポリアミドイミドは、比較的安価に得られ、しかも、従来のエポキシ樹脂等に比べて優れた耐熱性を有するものである。しかし、ポリアミドイミドは、ポリイミドに比べれば、耐熱性が不十分な傾向にあった。そのため、このポリアミドイミドを含む接着層は、プリント配線板を製造する際の高温処理を伴う工程(例えば、ワイヤボンディングやはんだリフロー等)等に対する耐久性に優れるものとはいい難く、かかる工程による熱履歴によって劣化を生じ易いことが判明した。このように接着層が劣化すると、基材や導体層に対する接着性が低下してしまい、その結果、プリント配線板における導体層の剥離等が生じ易くなる。
【0008】
また、上述したように難燃性の向上を目的として樹脂材料に難燃剤を添加すると、かかる樹脂材料からなる接着層の種々の特性が低下する傾向にあった。例えば、水酸化アルミニウムは、十分な難燃性を得るために大量に添加すると、例えば、FPC用の基材として一般的なポリイミドフィルムの表面を脆弱化してしまい、これにより接着層と基材との接着性を低下させる場合があった。これは、水酸化アルミニウムとともに不可避的に混入する可溶性ナトリウムが、高温処理等においてポリイミドフィルムの表面上で加水分解反応を生じるためであると考えられる。一方、上記従来のリン含有化合物は、樹脂材料に対する可塑剤として機能することから、十分な難燃性を得るためにリン含有化合物を大量に添加すると、接着層の耐熱性、絶縁性等の特性が低下する場合があった。
【0009】
そこで、本発明は上記事情にかんがみてなされたものであり、基材や導体層に対する接着性が高く、耐熱性及び難燃性にも優れる接着層を形成できる樹脂組成物、これを用いた樹脂付き基材、並びに、導体層張り積層板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究を行った結果、分子中に所定の構造単位を有するポリアミドイミドを含む樹脂組成物により、導体層等との接着性に優れ、なお且つ優れた難燃性を発揮し得る接着層が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明の樹脂組成物は、脂肪族環状炭化水素基を有する構造単位を含むポリアミドイミドと、熱硬化性樹脂とを含有することを特徴とする。
【0012】
脂肪族環状炭化水素基を有する構造単位を含むポリアミドイミドは、高いガラス転移温度(Tg)を有しており、耐熱性及び耐湿性の両特性に優れるものである。このようなポリアミドイミドを含む樹脂組成物は、プリント配線板製造の際の高温処理等によっても劣化を生じ難く、基材や導体層に対して優れた接着性を維持し得る。また、このポリアミドイミドは難燃性にも優れるという特性を有している。このため、かかるポリアミドイミドを含む樹脂組成物からなる接着層は、優れた難燃性を有するものとなる。
【0013】
本発明の樹脂組成物は、更にリン含有化合物を含有するものであると好ましい。リン含有化合物は、上述の如く、樹脂材料の難燃性を高め得るものであり、かかるリン含有化合物を含有させることで、接着層の難燃性を更に向上させることができる。また、本発明の樹脂組成物においては、上記ポリアミドイミドが優れた難燃性を有していることから、リン含有化合物の添加量を従来よりも少なくしても十分な難燃性が得られる。このため、この樹脂組成物によれば、上述したような、リン含有化合物の添加による接着性、耐熱性、絶縁性等の低下を抑制することができる。
【0014】
上記ポリアミドイミドは、ジアミン化合物と無水トリメリット酸とを反応させて得られるジイミドジカルボン酸と、ジイソシアネートと、を反応させて得られるものであり、このジイミドジカルボン酸として、下記一般式(1)で表される化合物を少なくとも含有していることが好ましい。
【化1】

[式中、Rは下記一般式(2a)、(2b)、(2c)、(2d)、(2e)又は(2f)で表される2価の基を示す。
【化2】

ただし、式(2a)中、R21は、水素原子、ヒドロキシル基、メトキシ基、メチル基又はハロゲン化メチル基、R22は、炭素数1〜3のアルキレン基、炭素数1〜3のハロゲン化アルキレン基、スルホニル基、オキシ基、カルボニル基又は単結合を示し、式(2b)中、R23は、炭素数1〜3のアルキレン基、炭素数1〜3のハロゲン化アルキレン基、スルホニル基、オキシ基又はカルボニル基を示し、式(2f)中、R24は、炭素数1〜3のアルキレン基、炭素数1〜3のハロゲン化アルキレン基、スルホニル基、オキシ基、カルボニル基又は単結合を示す。なお、複数存在するR21は、それぞれ同一でも異なっていてもよい。]
【0015】
このようなポリアミドイミドは、分子内に、脂肪族環状炭化水素基を好適に有するものである。よって、かかるポリアミドイミドを含む接着層は、耐熱性や難燃性の特性が更に優れるものとなる。
【0016】
より具体的には、上記一般式(1)で表されるジイミドジカルボン酸は、下記一般式(3)で表されるジアミン化合物と、無水トリメリット酸とを反応させて得られるものであり、且つ、このジアミン化合物のアミン当量は、50〜200g/molであると好ましい。
【化3】

[式中、Rは上記一般式(2a)、(2b)、(2c)、(2d)、(2e)又は(2f)で表される2価の基を示す。]
【0017】
また、上述したポリアミドイミドは、その製造の際に、ジイミドジカルボン酸として、下記一般式(4a)で表される化合物、及び/又は、下記一般式(4b)で表される化合物を更に含有して得られたものであるとより好ましい。
【化4】

[式(4a)中、R41は、水素原子、アルキル基、フェニル基又は置換フェニル基を示し、nは1〜50の整数であり、式(4b)中、R42は、下記一般式(5a)又は(5b)で表される2価の基を示す。
【化5】

ただし、式(5a)中、Rは、炭素数1〜3のアルキレン基、炭素数1〜3のハロゲン化アルキレン基、スルホニル基、オキシ基、カルボニル基又は単結合を示す。]
【0018】
これらのジイミドジカルボン酸を含有させることで、得られるポリアミドイミドは、分子内に、3以上の芳香環を有する構造単位、及び/又は、環状構造を有しない脂肪族炭化水素基を含む構造単位を有するようになる。前者の構造単位を有するポリアミドイミドは、更に優れた耐熱性を有するものとなる。また、後者の構造単位を有するポリアミドイミドは、可撓性に優れるものとなり、接着層に生じる応力を緩和して亀裂や破断等を抑制することができる。
【0019】
さらに、ポリアミドイミドは、その製造時に、ジイミドジカルボン酸として、下記一般式(6)で表される化合物を更に含有して得られたものであると好ましい。このようなポリアミドイミドは、分子中にシロキサン構造を有するものとなり、上記脂肪族炭化水素基を含むものと同様、優れた可撓性を有するものとなる。
【化6】

[式中、R61は、アルキル基、フェニル基又は置換フェニル基、R62は、2価の有機基を示し、mは1〜50の整数を示す。]
【0020】
具体的には、このようなシロキサン構造を有するジイミドジカルボン酸は、下記一般式(7)で表されるジアミン化合物と無水トリメリット酸とを反応させて得られるものであると好ましく、この場合、ジアミン化合物のアミン当量が、200〜2500g/molであるとより好ましい。
【化7】

[式中、R71は、アルキル基、フェニル基又は置換フェニル基、R72は、2価の有機基を示し、pは1〜50の整数を示す。]
【0021】
さらに、リン含有化合物としては、リン酸エステル化合物が好ましく、下記一般式(8a)で表される化合物、及び/又は、下記一般式(8b)で表される化合物が特に好ましい。これらのリン含有化合物は、ポリアミドイミドを含む樹脂組成物に対して極めて優れた難燃性を付与し得る。
【化8】

[式(8a)中、qは10〜50の整数であり、式(8b)中、Rは単結合、炭素数1〜5のアルキレン基、スルフィド基、スルホニル基、オキシ基、又はアゾ基を示し、rは10〜50の整数である。]
【0022】
また、本発明の樹脂付き基材は、シート状の基材と、この基材上に形成された上記本発明の樹脂組成物からなる樹脂層を備えることを特徴とする。かかる樹脂層は、上記本発明の樹脂組成物からなるものであることから、基材との接着性に優れ、また金属箔等の導体箔に対しても優れた接着性を有しており、更に、優れた難燃性を有している。
【0023】
上記シート状の基材としては、ポリイミドフィルムが挙げられる。かかるポリアミドフフィルムは、薄くて強度が高いことからフレキシブル配線板等の基板として有効である。このようなポリイミドフィルムに対しても、上記本発明の樹脂組成物からなる樹脂層は、優れた接着性を発揮し得る。
【0024】
本発明はさらに、シート状の基材と、この基材上に設けられた上記本発明の樹脂組成物からなる樹脂層と、この樹脂層上に設けられた導体層とを備える導体層張り積層板を提供する。このような積層板も、接着層である樹脂層に上記本発明の樹脂層が用いられていることから、耐熱性及び難燃性に極めて優れるものとなる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、基材や導体層に対する接着性が高く、耐熱性及び難燃性にも優れる接着層を形成できる樹脂組成物、これを用いた樹脂付き基材、並びに、導体層張り積層板を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
[樹脂組成物]
【0027】
好適な実施形態に係る樹脂組成物は、分子内に脂肪族環状炭化水素基を有する構造単位を含むポリアミドイミドと、熱硬化性樹脂とを含むものである。以下、樹脂組成物が含有する好適な成分について説明する。
(ポリアミドイミド)
【0028】
樹脂組成物に含まれるポリアミドイミドは、上述した脂肪族環状炭化水素基を有する構造単位を含むものである。このようなポリアミドイミドイミドは、上記構造単位を隣接するイミド基における窒素原子同士を結合する位置に有するものであると好ましい。かかる構造単位としては、上記一般式(2a)、(2b)、(2c)、(2d)、(2e)又は(2f)で表される2価の基が挙げられる。
【0029】
ポリアミドイミドは、ジアミン化合物と無水トリメリット酸とを反応させて得られるジイミドジカルボン酸と、ジイソシアネートとを反応させることにより得ることができる。以下、実施形態に係るポリアミドイミドを得るために好適なジイミドジカルボン酸、及び、これらを用いたポリアミドイミドの製造方法について説明する。
<脂肪族環状炭化水素基を有する構造単位を含むジイミドジカルボン酸>
【0030】
ジイミドジカルボン酸としては、ポリアミドイミドに脂肪族環状炭化水素基を有する構造単位を導入するため、このような構造単位を含むジイミドジカルボン酸(以下、「脂環族ジイミドジカルボン酸」と略す)を少なくとも含有させることが望ましい。脂環族ジイミドジカルボン酸としては、上記一般式(1)で表される化合物が例示できる。
【0031】
この脂環族ジイミドジカルボン酸は、脂肪族環状炭化水素基を有する構造単位を含むジアミン化合物(以下、「脂環族ジアミン」と略す)と無水トリメリット酸とを反応させることにより好適に得ることができる。脂環族ジアミンとしては、例えば、上記一般式(3)で表されるジアミン化合物が挙げられる。
【0032】
一般式(3)で表されるジアミン化合物としては、具体的には、2,2−ビス[4−(4−アミノシクロヘキシルオキシ)シクロヘキシル]プロパン、ビス[4−(3−アミノシクロヘキシルオキシ)シクロヘキシル]スルホン、ビス[4−(4−アミノシクロヘキシルオキシ)シクロヘキシル]スルホン、2,2−ビス[4−(4−アミノシクロヘキシルオキシ)シクロヘキシル]ヘキサフルオロプロパン、ビス[4−(4−アミノシクロヘキシルオキシ)シクロヘキシル]メタン、4,4´−ビス[4−アミノシクロヘキシルオキシ]ジシクロヘキシル、ビス[4−(4−アミノシクロヘキシルオキシ)シクロヘキシル]エーテル、ビス[4−(4−アミノシクロヘキシルオキシ)シクロヘキシル]ケトン、1,3−ビス(4−アミノシクロヘキシルオキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノシクロヘキシルオキシ)ベンゼン、2,2−ジメチルジシクロヘキシル−4,4´−ジアミン、2,2−ビス(トリフルオロメチル)ジシクロヘキシル−4,4´−ジアミン、2,6,2´,6´−テトラメチル−4,4´−ジアミン、5,5´−ジメチル−2,2´−スルホニル−ジシクロヘキシル−4,4´−ジアミン、3,3´−ジヒドロキシジシクロヘキシル−4,4´−ジアミン、(4,4´−ジアミノ)ジシクロヘキシルメタン、(4,4´−ジアミノ)ジシクロヘキシルエーテル、(4,4´−ジアミノ)ジシクロヘキシルスルホン、(4,4´−ジアミノ)ジシクロヘキシルケトン、(3,3´−ジアミノ)ジシクロヘキシルエーテル、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン等が例示できる。これらのジアミン化合物は、単独で用いてもよく、組み合わせて用いてもよい。
【0033】
上述したジアミン化合物は、例えば、対応する構造を有する芳香族ジアミン化合物を水素還元することにより得ることができる。このような芳香族ジアミン化合物としては、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、4,4´−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2´−ジメチルビフェニル−4,4´−ジアミン、2,2´−ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル−4,4´−ジアミン、2,6,2´,6´−テトラメチル−4,4´−ジアミン、5,5´−ジメチル−2,2´−スルホニル−ビフェニル−4,4´−ジアミン、3,3´−ジヒドロキシビフェニル−4,4´−ジアミン、(4,4´−ジアミノ)ジフェニルエーテル、(4,4´−ジアミノ)ジフェニルスルホン、(4,4´−ジアミノ)ベンゾフェノン、(3,3´―ジアミノ)ベンゾフェノン、(4,4´−ジアミノ)ジフェニルメタン、(4,4´−ジアミノ)ジフェニルエーテル、(3,3´―ジアミノ)ジフェニルエーテル等が例示できる。
【0034】
これらの芳香族ジアミン化合物の水素還元は、公知の還元方法によって好適に行うことができる。例えば、水素の存在下に種々の触媒存在下で処理する方法が挙げられる。このような触媒としては、ラネーニッケル、酸化白金(D. Varech et al., Tetrahedron Letters 26, 61(1985)、R. H. Baker et al., J. Am. Chem. Soc., 69, 1250(1947)、ロジウム−酸化アルミ(J. C. Sircar et al.,J. Org. Chem., 30, 3206(1965)、A. I. Meyers et al., organic Synthesis, Collective Volume VI, 371(1988)、A. w. Burgstahler, organic Synthesis, Collective Volume V、 591(1973)、 A. J. Briggs, Synthesis, 19880, 66)、酸化ロジウム−酸化白金(S. Nishimura, Bull. Chem. Soc. Jpn., 34, 32(1961)、E. J. Corey et al., J. Am. Chem. Soc.,101, 1608(1979)、チャコール担持ロジウム(K. Chebaane et al., Bull. Soc. Chim. Fr., 244(1975))等が挙げられる。また、これらのような水素還元以外に、水素化ホウ素ナトリウム−塩化ロジウム系(P. G. Gassman et al., Organic Synthesis Collective Volume VI, 581(1988)、P. G. Gassman et al., Organic Synthesis Collective Volume VI, 601(1988))による方法も例示できる。
【0035】
このような脂環族ジアミンとしては、そのアミン当量が50〜200g/molであるものが好ましく、50〜120g/molであるものがより好ましい。ここで、アミン当量とは、当該化合物におけるアミノ基1molを含む重量(g)をいう。脂環族ジアミンのアミン当量が上記範囲であると、ポリアミドイミドにミクロ相分離構造が良好に形成されるようになり、その結果、樹脂組成物の硬化物の接着性及び靭性が向上する。
【0036】
上述したジアミン化合物のなかでも、上記一般式(3)で表される化合物におけるRが上記一般式(2a)である化合物が好ましく、特に、下記化学式(9)で表される(4,4´−ジアミノ)ジシクロヘキシルメタンが好ましい。このような化合物は、例えば、ワンダミンHM(アミン当量105、新日本理化社製商品名)として商業的に入手可能である。
【化9】

<脂肪族炭化水素から構成される構造単位を有するジイミドジカルボン酸>
【0037】
ジイミドジカルボン酸としては、脂肪族炭化水素から構成される構造単位を有するジイミドジカルボン酸であって、脂肪族環状炭化水素基を有していないもの(以下、「脂肪族ジイミドジカルボン酸」と略す)を更に含有していると好ましい。脂肪族ジイミドジカルボン酸を含有することで、ポリアミドイミド中に脂肪族炭化水素から構成される構造単位が導入され、このポリアミドイミドは、かかる構造単位により優れた応力緩和特性を有するようになる。その結果、樹脂組成物からなる接着層等のシート状成形物は、柔軟性及び金属箔等への接着性に優れるものとなる。
【0038】
脂肪族ジイミドジカルボン酸としては、具体的には、上記一般式(4a)で表される化合物が例示できる。一般式(4a)で表される化合物は、下記一般式(10)で表されるジアミン化合物(以下、「脂肪族ジアミン」と略す)と、無水トリメリット酸とを反応させることにより好適に得ることができる。なお、式中、R41及びnは上記と同義である。
【化10】

【0039】
一般式(10)で表されるジアミン化合物のなかでも、R41がアルキル基であるものが好ましく、特に、R41がメチル基である下記化学式(11)で表されるジアミン化合物が好ましい。式中、nは上記と同義である。
【化11】

【0040】
このようなジアミン化合物としては、ジェファーミンD−230(アミン当量115)、ジェファーミンD−400(アミン当量200)、ジェファーミンD−2000(アミン当量1000)、ジェファーミンD−4000(アミン当量2000、以上、サンテクノケミカル社製商品名)等が、商業的に入手可能であり、好適である。これらは、単独で、または組み合わせて含有させることができる。
<芳香環を3つ以上有するジイミドジカルボン酸>
【0041】
ジイミドジカルボン酸としては、上述した脂肪族ジイミドジカルボン酸に代えて、または、脂肪族ジイミドジカルボン酸とともに、芳香環を3つ以上有するジイミドジカルボン酸(以下、「芳香族ジイミドジカルボン酸」と略す)を含有していると好ましい。この芳香族ジイミドジカルボン酸を含有することで、ポリアミドイミド中に芳香環を3つ以上有する構造単位が導入される。このような構造単位は、ポリアミドイミドの強度及び耐熱性を向上させることから、樹脂組成物からなる接着層等も同様の特性に優れるものとなる。
【0042】
芳香族ジイミドジカルボン酸としては、上記一般式(4b)で表される化合物が挙げられる。一般式(4b)で表される化合物は、下記一般式(12)で表されるジアミン化合物(以下、芳香族ジアミン)と略す)と無水トリメリット酸とを反応させることにより好適に得ることができる。式中、R42は、上記と同義である。
【化12】

【0043】
一般式(12)で表されるジアミン化合物としては、例えば、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、4,4´−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(アミノフェノキシ)ベンゼンが例示できる。なかでも、R42が上記一般式(5a)で表される2価の基であり、しかも当該基におけるRが−C(CH−で表される2価の基であるBAPPが好ましい。
<シロキサン構造を有するジイミドジカルボン酸>
【0044】
ジイミドジカルボン酸としては、上述した化合物に加えて、シロキサン構造を有するジイミドジカルボン酸(以下、「シロキサンジイミドジカルボン酸」と略す)を含有していると好ましい。シロキサンジイミドジカルボン酸を含有させることによって、ポリアミドイミド中にシロキサン構造が導入される。このような構造単位を有するポリアミドイミドは、脂肪族炭化水素からなる構造単位が導入されたものと同様、優れた応力緩和性を有するほか、溶媒等の揮発も生じやすいものとなり、樹脂組成物の加工等を容易化することができる。
【0045】
シロキサンジイミドジカルボン酸としては、上記一般式(6)で表される化合物が挙げられる。このようなシロキサンジイミドジカルボン酸は、好適には、上記一般式(7)で表されるジアミン化合物(以下、「シロキサンジアミン」と略す)と無水トリメリット酸とを反応させることにより得ることができる。シロキサンジアミンとしては、そのアミン当量が200〜2500g/molであるものが好ましく、400〜2500g/molであるものがより好ましく、700〜2000g/molであるものが更に好ましい。アミン当量が上記範囲のシロキサンジアミンを用いることで、ポリアミドイミド中にミクロ相分離構造が形成され易くなり、その結果、樹脂組成物の硬化物の接着性及び靭性が向上するほか、優れた難燃性も得られるようになる。
【0046】
より具体的には、上記一般式(7)で表されるシロキサンジアミンとしては、R72が炭素数1〜3のアルキレン基(例えば、メチレン基、エチレン基又はプロピレン基)又は炭素数6〜9のアリーレン基(例えば、フェニレン基、トリレン基又はキシリレン基)であるものが好ましい。このようなシロキサンジアミンとしては、アミノ変性シリコーンオイルX−22−161AS(アミン当量450)、X−22−161A(アミン当量840)、X−22−161B(アミン当量1500)(以上、信越化学工業社製)、BY16−853(アミン当量650)、BY−16−853B(アミン当量2200)(以上、東レダウコーニングシリコーン社製)等が商業的に入手可能であり、好適である。
【0047】
これらのシロキサンジアミンのなかでも、R71がメチル基であり、且つR72がプロピレン基である下記一般式(13)で表される化合物が特に好ましい。式中、pは上記と同義である。
【化13】

<ポリアミドイミドの製造方法>
【0048】
好適な実施形態に係るポリアミドイミドは、上述の如く、ジイミドジカルボン酸とジイソシアネートを反応させることにより得ることができる。以下、好適なポリアミドイミドの製造方法の一例として、上述した脂環族ジイミドジカルボン酸、脂肪族ジイミドジカルボン酸、芳香族ジイミドジカルボン酸及びシロキサンジイミドジカルボン酸の全てをジイミドジカルボン酸として含有させる場合について説明する。
【0049】
このようなポリアミドイミドの製造においては、まず、各ジイミドジカルボン酸に対応するジアミン化合物と無水トリメリット酸とを反応させることにより、上述した各種のジイミドジカルボン酸を合成する。この場合、各種のジイミドジカルボン酸はそれぞれ個々に合成することもできるが、所望のジイミドジカルボン酸に対応するジアミン化合物を混合してジアミン混合物とした後、この混合物と無水トリメリット酸とを反応させて、複数種のジイミドジカルボン酸をいちどに合成することが好ましい。
【0050】
後者の場合、まず、各ジイミドジカルボン酸に対応する脂環族ジアミン、脂肪族ジアミン、芳香族ジアミン及びシロキサンジアミンを混合してジアミン混合物とする。その後、このジアミン混合物と無水トリメリット酸とを、非プロトン性極性溶媒に溶解又は分散した後、50〜90℃で0.2〜1.5時間反応させる。それから、反応後の溶液に水と共沸可能な芳香族炭化水素を加えて、120〜180℃で更に反応させて脱水閉環反応を生じさせて、上記各種のジイミドジカルボン酸を得る。
【0051】
上記反応において用いる非プロトン性極性溶媒としては、上記ジアミン混合物との反応性が低く、また各成分を良好に溶解又は分散可能なものが好ましい。例えば、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、4−ブチロラクトン、スルホラン等が例示できる。なかでも、N−メチル−2−ピロリドンが好適である。なお、これらは、単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0052】
非プロトン性極性溶媒としては、その水分含有量が0.2重量%以下、具体的には0.1〜0.2重量%程度であるものが好ましい。この水分含有量が0.2重量%を超えると、無水トリメリット酸が水和してトリメリット酸が生じ、これにより所望の構造のジイミドジカルボン酸が生成し難くなり、その結果、十分な分子量のポリアミドイミドを得ることが困難となる傾向にある。
【0053】
また、非プロトン性極性溶媒の使用量は、ジアミン混合物及び無水トリメリット酸の合計量に対して、10〜80質量%となる量が好ましく、50〜80質量%となる量がより好ましい。この溶媒使用量が10質量%未満であると、無水トリメリット酸が十分に溶解せずにジイミドジカルボン酸の生成が不利となる傾向にある。一方、80質量%を超えると、溶媒使用量が多すぎ、コスト的に不利となる傾向にある。
【0054】
水と共沸可能な芳香族炭化水素としては、トルエン、ベンゼン、キシレン、エチルベンゼン等が例示でき、トルエンが好ましい。この芳香族炭化水素は非プロトン性極性溶媒に対して、重量比で0.1〜0.5となる量を加えることが好ましい。なお、この脱水閉環反応の終了後、後述するジイソシアネートとの反応を行う前には、溶液の温度を約190℃程度に上昇させて、上記芳香族炭化水素を除去しておくことが好ましい。
【0055】
ジアミン混合物として、上記4種のジアミン化合物を含むものを準備する場合、各成分の配合量は、以下に示すとおりとすることが好ましい。すなわち、芳香族ジアミン/脂肪族ジアミン/脂環族ジアミン/シロキサンジアミンが、モル比で、10〜79/10〜50/1〜20/10〜30であると好ましく、25〜60/20〜40/5〜10/20〜30であるとより好ましい。各ジアミン化合物のモル比をこのようにすることで、得られるポリアミドイミドは、脂肪族ジアミン、脂環族ジアミン及びシロキサンジアミンに由来する柔軟な構造単位(ソフトセグメント)と、芳香族ジアミンに由来する硬い構造単位(ハードセグメント)とがバランスよく導入されたミクロ相分離構造を有するものとなる。このようなポリアミドイミドによれば、耐熱性及び強度に優れるとともに、優れた応力緩和作用を有しており、金属箔等への優れた接着性を発揮し得る接着層等を得ることができるようになる。
【0056】
また、上記ジイミドジカルボン酸の製造においては、ジアミン混合物と無水トリメリット酸の配合量は、ジアミン混合物の合計モル量に対して、無水トリメリット酸が2.05〜2.20倍モル量となるようにすることが好ましく、2.10〜2.15倍モル量となるようにすることがより好ましい。無水トリメリット酸の配合量が、ジアミン混合物に対して2.20倍モル量を超えると、無水トリメリット酸が残存して後述するジイソシアネートとの反応を阻害し、これにより高分子量のポリアミドイミドを得ることが困難となる場合がある。一方、2.05倍モル量未満であると、ジイミドジカルボン酸が十分に生成し難くなり、これにより高分子量のポリアミドイミドを得ることが困難となる場合がある。
【0057】
そして、上述した反応により得られた各種のジイミドジカルボン酸を含むジイミドジカルボン酸混合物とジイソシアネートとを反応させることにより、ポリアミドイミドを得ることができる。
【0058】
ここで、ジイソシアネートとしては、芳香族ジイソシアネート及び脂肪族ジイソシアネートの両方を適用できる。例えば、下記一般式(14)で表されるものが好適である。下記式中、R14としては、−Ph−CH−Ph−で表される基、トリレン基、ナフチレン基、ヘキサメチレン基又はイソホロン基が挙げられる。
【化14】

【0059】
芳香族ジイソシアネートとしては、4,4´−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、2,4−トリレンジイソシアネート(TDI)、2,6−トリレンジイソシアネート、ナフタレン−1,5−ジイソシアネート、2,4−トリレンダイマー等が例示でき、なかでも、MDIが好ましい。MDIを含有させることにより、得られるポリアミドイミドを含む樹脂組成物のフィルム形成性が向上するほか、かかる樹脂組成物からなる接着層等の可撓性が向上するようになる。また、TDIも好ましく、MDIとTDIとの組み合わせとすると、可撓性を更に向上するほか、結晶化を抑制する効果も得られるようになる。一方、脂肪族ジイソシアネートとしては、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等が例示できる。
【0060】
ジイソシアネートとしては、少なくとも芳香族ジイソシアネートを含んでいると好ましく、両者を併用することがより好ましい。このように併用する場合、これらの配合比は、芳香族ジイソシアネートに対して、脂肪族ジイソシアネートの含有量が5〜10モル%程度となるようにすると好ましい。このように芳香族ジイソシアネートと脂肪族ジイソシアネートとを併用することによって、ポリアミドイミド、ひいては樹脂組成物の耐熱性を更に向上させることができるようになる。
【0061】
ジイミドジカルボン酸混合物とジイソシアネートとの反応は、例えば上述した芳香族炭化水素の除去を行った場合、反応後の溶液を一旦室温まで冷却してから行うことが好ましい。こうして冷却された溶液に芳香族ジイソシアネートを加え、再び温度を150〜250℃に上昇させて、0.5〜3時間程度反応させることにより、好適にポリアミドイミドを得ることができる。
【0062】
かかる反応においては、ジイミドジカルボン酸混合物とジイソシアネートとの配合量は、ジイミドジカルボン酸混合物の合計モル量に対して、ジイソシアネートの配合量が1.05〜1.50倍モル量となるようにすることが好ましく、1.1〜1.3倍モル量となるようにすることがより好ましい。ジイソシアネートの配合量が、ジイミドジカルボン酸混合物の合計モル量に対して1.50倍モル量を超えるか、または1.05倍モル量未満であると、十分に高分子量のポリアミドイミドが得られ難くなる傾向にある。
【0063】
ポリアミドイミドの合成においては、ジイミドジカルボン酸及びジイソシアネートに加えて、他のジカルボン酸成分を更に含有させてもよい。こうすることで、ポリアミドイミドの耐熱性を更に向上させることもできる。ジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、デカン二酸、ドデカン二酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸等が挙げられる。このような他のジカルボン酸は、ジイミドジカルボン酸の総量に対して5〜10モル%程度の量を添加することが好ましい。
【0064】
このような製造方法によって、好適な場合、下記一般式(15a)、(15b)、(15c)及び(15d)で表される構造単位を有するポリアミドイミドが得られる。なお、式中の符号(R、R14、R41、R42、R61、R62、n及びm)はいずれも上記と同義である。
【化15】

【0065】
上記方法により得られたポリアミドイミドは、その重量平均分子量が10,000〜150,000であると好ましく、30,000〜120,000であるとより好ましく、50,000〜100,000であると更に好ましい。ポリアミドイミドが、上記重量平均分子量の範囲外のものであると、ポリアミドイミド中にミクロ相分離構造が形成され難くなり、樹脂組成物の硬化物の難燃性や耐熱性が低下する傾向にある。なお、ここでいう重量平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定を行い、標準ポリスチレンを用いて作成した検量線により換算して得られた値である。
(熱硬化性樹脂)
【0066】
次に、樹脂組成物に含まれる熱硬化性樹脂について説明する。熱硬化性樹脂としては、上述したポリアミドイミドのアミド基と反応を生じる官能基を備える化合物が例示できる。
【0067】
このような化合物(熱硬化性樹脂)としては、多官能エポキシ化合物、ポリイミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ビスマレイミド樹脂、トリアジン−ビスマレイミド樹脂、フェノール樹脂等が挙げられる。なかでも、樹脂組成物とした場合に金属箔等への接着性を良好に高め得る多官能エポキシ化合物が好ましい。このような多官能エポキシ化合物としては2個以上のエポキシ基を有する多官能エポキシ化合物が好ましく、3個以上のエポキシ基を有する多官能エポキシ化合物がより好ましい。
【0068】
2個以上のエポキシ基を有する多官能エポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノールA、ノボラック型フェノール樹脂、オルトクレゾールノボラック型フェノール樹脂等の多価フェノールとエピクロルヒドリンとを反応させてなるエポキシ樹脂;1,4−ブタンジオール等の多価アルコールとエピクロルヒドリンとを反応させてなるエポキシ樹脂;フタル酸、ヘキサヒドロフタル酸等の多塩基酸とエピクロルヒドリンとを反応させてなるポリグリシジルエステル;アミン、アミド又は複素環式窒素塩基を有する化合物のN−グリシジル誘導体;脂環式エポキシ樹脂等が例示できる。
【0069】
また、3個以上のグリシジル基を有する多官能エポキシ化合物としては、ZX−1548−2(東都化成社製)、DER−331L(ダウケミカル社製ビスフェノールA型エポキシ樹脂)、YDCN−195(東都化成社製クレゾールノボラック型エポキシ樹脂)等が商業的に入手可能であり、好適に用いることができる。
【0070】
熱硬化性樹脂としては、特に、樹脂組成物に難燃性を付与するため、分子内にリン原子を含有する多官能エポキシ化合物が好ましい。このような化合物としては、具体的には、リン含有エポキシ樹脂ZX−1548−1(リン含有量:2.0重量%)、ZX−1548−2(リン含有量:2.5重量%)、ZX−1548−3(リン含有量:3.0重量%)、ZX−1548−4(リン含有量:4.0重量%、以上、東都化成社製商品名)が挙げられる。これらは単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0071】
この熱硬化性樹脂の配合量は、上述したポリアミドイミド100質量部に対して5〜100質量部であると好ましく、10〜80質量部であるとより好ましく、20〜65質量部であると更に好ましい。この配合量が5質量部未満であると、樹脂組成物からシート状の成形物を形成した場合に当該成形物の強度が不十分となるほか、難燃性も不十分となる傾向にある。一方、100質量部を超える場合、樹脂組成物が過度に架橋され、得られるシート状成形物が脆弱化して、これにより金属箔等への接着性が不十分となるおそれがある。
【0072】
熱硬化性樹脂として上述した多官能エポキシ化合物を含有させる場合には、当該多官能エポキシ化合物の硬化剤や硬化促進剤を更に加えることが好ましい。硬化剤及び硬化促進剤としては、公知のものを適用できる。例えば、硬化剤としては、ジシアンジアミド、ジアミノジフェニルメタン、グアニル尿素等のアミン類;イミダゾール類;ヒドロキノン、レゾルシノール、ビスフェノールA及びこれらのハロゲン化物、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂等の多官能フェノール類;無水フタル酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、メチルハイミック酸等の酸無水物類等が挙げられる。また、硬化促進剤としては、アルキル基置換イミダゾール、ベンゾイミダゾール等のイミダゾール類が挙げられる。
【0073】
この硬化剤の配合量は、多官能エポキシ化合物におけるエポキシ当量に応じて決定することができる。例えば、硬化剤としてアミン化合物を添加する場合、その配合量は、アミンの活性水素の当量と、多官能エポキシ化合物のエポキシ当量が等しくなるように配合することが好ましい。例えば、熱硬化性樹脂がリン含有エポキシ樹脂であり、硬化剤がイミダゾール類である場合、硬化剤の配合量は、リン含有エポキシ樹脂100質量部に対して0.1〜2.0質量部であると好ましい。この配合量が0.1質量部未満であると、リン含有エポキシ樹脂が未硬化の状態で残りやすくなり、その硬化物の耐熱性が低下する傾向にある。また、2.0質量部を超えると、樹脂組成物の硬化物中に硬化剤が残存して、絶縁性や耐久性が低下する傾向にある。
(リン含有化合物)
【0074】
好適な実施形態の樹脂組成物には、上述したポリアミドイミド及び熱硬化性樹脂に加えて、リン含有化合物を更に含有していると好ましい。このようにリン含有化合物を更に含有することで、樹脂組成物からなるシート状成形物の難燃性を一層向上させることができる。
【0075】
リン含有化合物としては、リン酸エステル化合物が好ましい。具体的には、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルフェニルホスフェート、クレジル−ジ−2,6−キシレニルホスフェート、2−(メタ)アクリロキシオキシエチルアシッドホスフェート、ジフェニル−2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスフェート等が挙げられる。
【0076】
リン含有化合物としては、芳香族縮合リン酸エステル化合物も適用可能である。このような化合物としては、上記一般式(8a)で表される化合物や上記一般式(8b)で表される化合物が挙げられる。これらは、単独で含有させてもよく、組み合わせて含有させてもよい。
【0077】
上記一般式(8a)又は(8b)で表される化合物は、その芳香環が置換基として炭素数1〜5のアルキル基を有するものであってもよい。この炭素数1〜5のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基等が挙げられる。
【0078】
上述したリン酸エステル化合物としては、レオフォス35、レオフォス50、レオフォス65、レオフォス95、レオフォス110(以上、味の素ファインテクノ社製商品名)等が挙げられる。また、芳香族縮合リン酸エステル化合物としては、CR−733S、CR−741、CR−747、PX−200(以上、大八化学工業社製商品名)や、SP−703、SP601(以上、四国化成社製商品名)等が商業的に入手可能である。
【0079】
このリン含有化合物の配合量は、上記ポリアミドイミド100質量部に対して2〜10質量部であると好ましく、2〜5質量部であるとより好ましい。リン含有化合物の配合量が2質量部未満であると、樹脂組成物からなるシート状成形物の難燃性が不十分となる傾向にある。一方、10質量部を超えると、上記成形物の金属箔に対する接着性が低下するほか、耐熱性、絶縁性等の特性も低下する傾向にある。
(その他成分)
【0080】
実施形態の樹脂組成物中には、上述した各成分のほか、樹脂組成物の特性を調整するための他の成分を更に含有していてもよい。このようなその他の成分としては、充填剤、カップリング剤等が挙げられる。
[樹脂付き基材]
【0081】
次に、好適な実施形態に係る樹脂付き基材について説明する。図1は、樹脂付き基材の一例を示す模式断面図である。樹脂付き基材10は、シート状の基材12と、この上に形成された、上述した実施形態の樹脂組成物からなる樹脂層14とを備えている。このような樹脂付き基材10は、接着フィルム等として用いることができる。
【0082】
樹脂付き基材10におけるシート状の基材12としては、公知の樹脂材料や金属箔、離型紙等が適用できる。基材12は、樹脂材料からなるものが好ましく、樹脂材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリカーボネート、ポリイミドや4フッ化エチレン等が挙げられる。なかでも、基材12としては、強度、耐熱性等の特性に優れることから、ポリイミドからなるフィルムが特に好ましい。樹脂付き基材10における基材12の厚みは、10〜150μmであると好ましい。また、このような基材12には適宜マッド処理、コロナ処理、離型処理等が施されていてもよい。
【0083】
このような構成を有する樹脂付き基材10は、例えば、基材12上に上述した樹脂組成物を含むワニスを塗布した後、加熱や温風吹き付けにより溶剤を揮発させて、塗布された樹脂組成物層を乾燥して樹脂層14を形成することにより製造することができる。ここで、樹脂組成物を含むワニスとしては、樹脂組成物が所定の有機溶媒に溶解又は分散されてなるものが好適である。かかるワニスにおける樹脂組成物の含有量は、ワニスの全質量中20〜40質量%程度であると好ましい。
【0084】
ワニスに用いる有機溶媒としては、樹脂組成物を良好に分散又は溶解可能であるものであれば特に制限なく適用でき、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルアセテート、カルビトールアセテート、γ−ブチロラクトン等のエステル類;セロソルブ、ブチルセロソルブ等のセロソルブ類;カルビトール、ブチルカルビトール等のカルビトール類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、スルホラン等が挙げられる。
【0085】
樹脂付き基材10における樹脂層14の厚さは、5〜50μmであると好ましく、10〜40μmであるとより好ましい。このような樹脂付き基材10は、所定の長さで裁断されたシート状の形態で保管されてもよく、巻き取ってロール状の形態で保管されてもよい。保存性、生産性及び作業性を向上させる観点からは、後者のロール状の形態であるとより好ましい。
【0086】
また、樹脂付き基材10における樹脂層14の表面上には、当該層14を保護するための保護フィルムがさらに積層されていてもよい。このような保護フィルムとしては、基材12と同様の材料からなるものが適用でき、特に樹脂層14に対する接着性が基材12に比して小さいものが好ましい。この保護フィルム14の厚さは、20〜100μm程度であると好ましく、その表面には、マッド処理、コロナ処理、離型処理が施されていても構わない。
[導体層張り積層板]
【0087】
次に、好適な実施形態に係る導体層張り積層板について説明する。図2は、導体層張り積層板の一例を示す模式断面図である。導体層張り積層板20は、基材22の両面に、上述した樹脂組成物からなる接着層24(樹脂層)、及び導体層26が順に積層された構成を有している。ここで、基材22としては、上述した樹脂付き基材10における基材12と同様のものを適用でき、なかでも、ポリイミドフィルムが好適である。
【0088】
導体層26は、導電性を有する材料からなるものであれば特に制限はないが、より良好な導電性を得る観点からは、金属箔からなるものが好ましい。金属箔としては、銅箔が挙げられ、電解銅箔や圧延銅箔等を適用できる。なお、後述するように、接着層24は銅箔等に対して優れた接着性を有していることから、銅箔としては、一般的に用いられるような表面に祖面化処理等が施されたものではなく、平滑な表面を有するものを用いることもできる。
【0089】
また、銅箔以外の金属箔も適用可能である。銅箔以外の金属箔としては、アルミニウム箔、2層の銅箔層の間に、ニッケル、ニッケル−リン、ニッケル−スズ合金、ニッケル−鉄合金、鉛、鉛−スズ合金等からなる中間層を設けた3層構造の複合箔、アルミニウムと銅箔を複合した2層構造の複合箔等が挙げられる。
【0090】
導体層張り積層板20は、例えば、以下に示すようにして製造することができる。すなわち、まず、基材22を準備し、その両面に、樹脂組成物を含むワニスを塗布した後、加熱又は温風吹き付けにより乾燥させる。その後、塗布された樹脂層の外側に、導体層26を形成するための金属箔等を張り合わせる。そして、得られた積層体を、加熱プレス装置や加熱ロール装置を用いて必要に応じて加圧しながら加熱し、これにより各層を密着させて、導体層張り積層板20を得る。この加熱において、樹脂層における樹脂組成物が硬化して接着層24が形成される。
【0091】
なお、本発明の導体層張り積層板は、上述したように基材22の両面に接着層24及び導体層26を積層する形態でなくてもよく、片面にのみこれらを積層させた形態であってもよい。
【0092】
上記構成を有する導体層張り積層板20は、例えば、フレキシブル配線板(FPC)用の基板として好適である。すなわち、導体層張り積層板20における導体層26に公知のエッチング等を施して、所定のパターンを有する導体層を形成することによって、表面に回路パターンが形成されたFPCを得ることができる。
【0093】
以上説明したように、導体層張り積層板20は、接着層24として、上述した形態の樹脂組成物からなる層を備えている。この接着層24は、脂肪族環状炭化水素基を有する構造単位を含むポリアミドイミドを含有していることから、耐熱性や金属箔等に対する接着性に優れるものである。このため、導体層張り積層板20を用いて形成されたFPC等を電子機器に搭載する際、高温処理を伴う工程を実施したとしても、当該積層板20における接着層24は、熱履歴による劣化等を極めて生じ難い。このように、導体層張り積層板20においては、接着層24は、高温処理後であっても基材22や導体層24に対して優れた接着性を維持することができる。その結果、電子機器等に搭載した後であっても、導体層26が剥離するといった不都合は極めて生じ難くなる。
【0094】
また、導体層張り積層板20において、接着層24は、上述の如く難燃性に優れるポリアミドイミドを含んでいるほか、好適な場合には、リン含有化合物を併せて含有している。このため、この導体層張り積層板は、例えばFPC等に加工されて電子機器に搭載された場合であっても優れた難燃性を有するものとなる。ここで、接着層24は、それ自身難燃性に優れるポリアミドイミドを含有していることから、リン含有化合物の含有量を、接着層24の耐熱性や接着性等の特性に影響しない程度の量とした場合であっても、十分に優れた難燃性を発揮し得る。このため、かかる接着層24においては、従来の接着層で生じていたような、リン含有化合物の添加による特性低下を大幅に少なくすることができる。このように、導体層張り積層板20は、導体層との接着性や耐熱性等の優れた特性を維持しながら、難燃性が向上されたものとなる。
【実施例】
【0095】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[ポリアミドイミドの合成]
(合成例1〜8)
【0096】
還流冷却器を連結したコック付き25mLの水分定量受器、温度計、攪拌器を備えた1Lのセパラブルフラスコに、脂環族ジアミン、脂肪族ジアミン、芳香族ジアミン及びシロキサンジアミンを適宜選択して用い、これらを無水トリメリット酸(TMA)及び非プロトン性極性溶媒であるN−メチル−2−ピロリドン(NMP)と混合して、80℃で30分間攪拌した。
【0097】
攪拌後、水と共沸可能な芳香族炭化水素としてトルエン100mLを加え、温度を160℃に上げて2時間還流させた。水分定量受器に水が約3.6mL以上たまり、水の留出が見られなくなっていることを確認したら、水分定量受器中の水を除去しながら温度を190℃まで上げて、トルエンを除去した。
【0098】
フラスコの溶液を室温(25℃)に戻した後、この溶液中に芳香族イソシアネート及び脂肪族ジイソシアネート、並びに溶媒であるγ−ブチロラクトン(γ−BL)を加えて150℃で一時間反応させた後、更に180℃で2時間反応させて、合成例1〜8のポリアミドイミドのNMP/γ−BL溶液を得た。なお、合成例1〜8で用いた各成分の種類及び配合量は表1に示すとおりとした。また表1には、得られた溶液の固形分重量、及び得られたポリアミドイミドの重量平均分子量を併せて示す。
【表1】

【0099】
なお、表1中、BAPPは、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、D−2000は、ジェファーミンD−2000(サンテクノケミカル社製商品名、アミン当量105)、ワンダミンHMは、ワンダミンHM(新日本理化社製商品名、アミン当量1000)、X−22−9362、X−22−9415及びX−22−9405は、アミン当量がそれぞれ700、1100及び1900である反応性シリコーンオイル(信越化学工業社製)、MDIは、4,4’−ジフェニルメタンジイイソシアネート、TDIは、2,4−トリレンジイソシアネートをそれぞれ示す。
[樹脂組成物の調製]
(実施例1〜5、比較例1〜3)
【0100】
合成例1〜8のポリアミドイミドのNMP溶液に、表2に示す各成分を加えて均一になるまで攪拌した後、脱泡のために室温で24時間静置して樹脂組成物を得た。なお、合成例1〜5のポリアミドイミドのNMP溶液を用いた場合が実施例1〜5に、合成例6〜8のポリアミドイミドのNMP溶液を用いた場合が比較例1〜3にそれぞれ該当する。各成分の種類及び配合量(g)はまとめて表2に示す。
【表2】

【0101】
なお、表中、ZX−1548−2は、リン含有エポキシ樹脂であるZX−1548−2(東都化成社製商品名、固形分75重量%のメチルエチルケトン溶解物)、レオフォス65は、リン酸エステルであるレオフォス65(味の素ファインテクノ社製商品名)、2E4MZは、2−エチル−4−メチルイミダゾール、KA−1160は、クレゾールノボラック樹脂であるKA−1160(大日本インキ化学工業社製商品名)をそれぞれ示す。
[接着性の評価]
【0102】
実施例1〜5及び比較例1〜3の樹脂組成物を、それぞれ厚さ25μmのポリイミドフィルム(カプトン100V、東レ・デュポン社製商品名)に、乾燥後の厚さが20μmとなるように塗布し、130℃で10分間乾燥させて樹脂付きフィルムを得た。次いで、厚さ35μmの圧延銅箔(BHY−22B−T、日鋼マテリアルズ社製商品名)の粗化面側に、各樹脂付きフィルムにおける樹脂組成物が塗布されてなる面を張り合わせ、温度160℃、圧力3MPaの条件で30分熱プレスを行い仮接着した後、乾燥機により180℃で120分間加熱して、ポリイミドフィルム、接着層(樹脂層)及び銅箔をこの順に有する導体層付き積層板を得た。
【0103】
実施例1〜5及び比較例1〜3の樹脂組成物を用いた場合の導体層付き積層板をそれぞれ複数準備し、各実施例又は比較例に対応する積層板を、条件1:常態で10日間放置、条件2:乾燥機により150℃で10日間加熱処理、又は、条件3:高温高湿条件(121℃、2気圧、飽和状態)で24時間処理、の3条件でそれぞれ処理した。処理後の各積層板における銅箔を、測定温度25℃、剥離速度10mm/分の条件下で、それぞれ90度方向に引き剥がす際の引き剥がし強さ(kN/m、90°剥離強さ、JIS C6481に準拠)を測定することにより、銅箔と接着層との接着性の評価を行った。得られた結果を表3に示す。
[はんだ耐熱性の評価]
【0104】
上記「接着性の評価」において作製したのと同様にして各実施例及び比較例に対応する導体層付き積層板を複数準備し、各実施例及び比較例に対応する積層板を、条件1:積層板をそのまま300℃のはんだ浴に接触、条件2:積層板を加温処理(40℃、90%RH、8時間)した後、280℃のはんだ浴に接触、条件3:積層板を加温処理(40℃、90%RH、8時間)した後、260℃のはんだ浴に接触、の3条件でそれぞれ処理して、各積層板にふくれや剥がれが生じるか否かを目視により観察した。この際、各積層板は、銅箔側が下になるようにはんだ浴に浮かべるようにして接触させた。また、この接触時間は1分間とした。得られた結果を表3に示す。なお、表3中、ふくれ又は剥がれが生じなかったものを、はんだ耐熱性に優れるものとして○で表し、ふくれ又は剥がれが生じたものを、はんだ耐熱性に劣るものとして×で表した。
[難燃性の評価]
【0105】
実施例1〜5及び比較例1〜3の樹脂組成物を、それぞれ厚さ25μmのポリイミドフィルム(カプトン100V)に、乾燥後の厚さが20μmとなるように塗布して130℃で10分間乾燥させた。次いで、ポリイミドフィルムにおける未塗布面に、それぞれ同一の樹脂組成物を、上記と同様にして塗布及び乾燥した後、180℃で120分加熱して、樹脂層、ポリイミドフィルム及び樹脂層をこの順に有する樹脂付き基材を得た。
【0106】
得られた樹脂付き基材を用いて、UL94難燃性試験に準拠する方法で難燃性試験を行い、各樹脂付き基材の難燃性を評価した。得られた結果を表3に示した。なお、表3中、難燃性の評価結果は、UL94の規格に基づくグレードにより示した。
[ガラス転移温度及び貯蔵弾性率の測定]
【0107】
実施例1〜5及び比較例1〜3の樹脂組成物を、厚さ100μmのフッ素系フィルム(ナフロンテープTOMBO9001、ニチアス社製商品名)に、乾燥後の厚さが40μmとなるように塗布し、乾燥機により130℃で10分間加熱して乾燥した後、更に180℃で120分間加熱して、フッ素系フィルム及び樹脂層を有する樹脂付き基材を得た。その後、得られた樹脂付き基材からフッ素系フィルムを剥離し、樹脂組成物からなるシートを得た。
【0108】
各実施例及び比較例の樹脂組成物から得られたシートを用いて、動的粘弾性測定を行った。また、この際、tanδピークの最大値を測定値として、ガラス転移温度(Tg)を算出した。得られた結果を表3に示す。なお、動的粘弾性評価は以下に示す条件で行った。
測定装置 :RSAII(レオメトリック社製商品名)
測定モード:引張り
試料サイズ:5.0mm×22.5mm
測定温度 :0〜250℃
昇温速度 :5℃/分
測定周波数:1Hz
【表3】

【0109】
表3より、実施例1〜5の樹脂組成物を用いた場合、銅箔と接着層との十分な接着性が得られ、また、所定の温度、湿度条件で処理した後であっても優れたはんだ耐熱性が得られ、更に、優れた難燃性も得られることが確認された。これに対し、比較例1〜3の樹脂組成物を用いた場合、加熱・加湿処理後のはんだ耐熱性が低く、また難燃性も不十分となることが判明した。
[ミクロ相分離構造の観察]
【0110】
上記「ガラス転移温度及び貯蔵弾性率の測定」で得られた積層体を用い、その樹脂組成物層を電子顕微鏡で観察することにより、当該層にミクロ相分離構造(サブミクロンからミクロンオーダーの海島構造)が生じているか否かを評価した。その結果、実施例1〜5の樹脂組成物を用いて得られた積層体において、ミクロ相分離構造が生じていることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】樹脂付き基材の一例を示す模式断面図である。
【図2】導体層張り積層板の一例を示す模式断面図である。
【符号の説明】
【0112】
10…樹脂付き基材、12…基材、14…樹脂層、20…導体層張り積層板、22…基材、24…接着層、26…導体層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族環状炭化水素基を有する構造単位を含むポリアミドイミドと、熱硬化性樹脂と、を含有することを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
リン含有化合物を更に含有することを特徴とする請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリアミドイミドは、ジアミン化合物と無水トリメリット酸とを反応させて得られるジイミドジカルボン酸と、ジイソシアネートと、を反応させて得られるものであり、
前記ジイミドジカルボン酸として、下記一般式(1)で表される化合物を少なくとも含有していることを特徴とする請求項1又は2記載の樹脂組成物。
【化1】

[式中、Rは下記一般式(2a)、(2b)、(2c)、(2d)、(2e)又は(2f)で表される2価の基を示す。
【化2】

ただし、式(2a)中、R21は、水素原子、ヒドロキシル基、メトキシ基、メチル基又はハロゲン化メチル基、R22は、炭素数1〜3のアルキレン基、炭素数1〜3のハロゲン化アルキレン基、スルホニル基、オキシ基、カルボニル基又は単結合を示し、式(2b)中、R23は、炭素数1〜3のアルキレン基、炭素数1〜3のハロゲン化アルキレン基、スルホニル基、オキシ基又はカルボニル基を示し、式(2f)中、R24は、炭素数1〜3のアルキレン基、炭素数1〜3のハロゲン化アルキレン基、スルホニル基、オキシ基、カルボニル基又は単結合を示す。なお、複数存在するR21は、それぞれ同一でも異なっていてもよい。]
【請求項4】
前記一般式(1)で表される化合物は、下記一般式(3)で表されるジアミン化合物と、無水トリメリット酸とを反応させて得られるものであり、且つ、該ジアミン化合物のアミン当量は、50〜200g/molであることを特徴とする請求項3記載の樹脂組成物。
【化3】

[式中、Rは前記一般式(2a)、(2b)、(2c)、(2d)、(2e)又は(2f)で表される2価の基を示す。]
【請求項5】
前記ジイミドジカルボン酸として、下記一般式(4a)で表される化合物、及び/又は、下記一般式(4b)で表される化合物を更に含有することを特徴とする請求項3又は4記載の樹脂組成物。
【化4】

[式(4a)中、R41は、水素原子、アルキル基、フェニル基又は置換フェニル基を示し、nは1〜50の整数であり、式(4b)中、R42は、下記一般式(5a)又は(5b)で表される2価の基を示す。
【化5】

ただし、式(5a)中、Rは、炭素数1〜3のアルキレン基、炭素数1〜3のハロゲン化アルキレン基、スルホニル基、オキシ基、カルボニル基又は単結合を示す。]
【請求項6】
前記ジイミドジカルボン酸として、下記一般式(6)で表される化合物を更に含有することを特徴とする請求項3〜5のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【化6】

[式中、R61は、アルキル基、フェニル基又は置換フェニル基、R62は、2価の有機基を示し、mは1〜50の整数を示す。]
【請求項7】
前記一般式(6)で表される化合物は、下記一般式(7)で表されるジアミン化合物と無水トリメリット酸とを反応させて得られるものであり、且つ、該ジアミン化合物のアミン当量は、200〜2500g/molであることを特徴とする請求項6記載の樹脂組成物。
【化7】

[式中、R71は、アルキル基、フェニル基又は置換フェニル基、R72は、2価の有機基を示し、pは1〜50の整数を示す。]
【請求項8】
前記リン含有化合物は、リン酸エステル化合物であることを特徴とする請求項2〜7のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
前記リン含有化合物は、下記一般式(8a)で表される化合物、及び/又は、下記一般式(8b)で表される化合物であることを特徴とする請求項2〜8のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【化8】

[式(8a)中、qは10〜50の整数であり、式(8b)中、Rは単結合、炭素数1〜5のアルキレン基、スルフィド基、スルホニル基、オキシ基、又はアゾ基を示し、rは10〜50の整数である。]
【請求項10】
シート状の基材と、
前記基材上に形成された請求項1〜9のいずれか一項に記載の樹脂組成物からなる樹脂層と、
を備えることを特徴とする樹脂付き基材。
【請求項11】
前記基材は、ポリイミドフィルムであることを特徴とする請求項10記載の樹脂付き基材。
【請求項12】
シート状の基材と、
前記基材上に設けられた請求項1〜9のいずれか一項に記載の樹脂組成物からなる樹脂層と、
前記樹脂層上に設けられた導体層と、
を備えることを特徴とする導体層張り積層板。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−52275(P2006−52275A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−233761(P2004−233761)
【出願日】平成16年8月10日(2004.8.10)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】