説明

橋梁監視システムおよび橋梁監視方法ならびにプログラム

【課題】橋梁における橋桁の変位を計測するにあたり、その計測を行う為の装置の設置場所の制限を受けず、また、橋桁の移動が大きくとも計測可能な、橋梁監視システムを提供する。
【解決手段】橋梁における橋桁と当該橋桁に隣接する構造物との組合せ毎に、橋桁と隣接する構造物との間の2箇所以上の橋軸方向移動変位を計測する橋軸方向変位計と、橋桁と隣接する構造物との1箇所以上の橋軸直角方向移動変位を計測する橋軸直角方向変位計とを備える。そして各変位計で得た計測値に基づいて、橋桁と当該橋桁に隣接する構造物との間の相対移動量を、算出する。また、相対移動量に基づいて橋桁の所定の絶対座標を算出し、元の座標との比較により、通行可否を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋梁における橋桁の移動状態の計測と、当該橋梁の通行可否を判定する橋梁監視システムおよび橋梁監視方法ならびにプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
広域震災時における道路ネットワークの健全性の確認においては、橋梁の通行可否判断を迅速に行なう必要がある。そのためには地震発生直後などに、橋梁における橋桁の間隔を基本とする当該橋梁の変形状態を計測し、その情報を収集することが必要となる。ここで、橋梁は基本的に、橋台や橋脚に橋桁が載る構造となっており(図16)、震災時には橋桁の移動あるいは落下が発生して通行が不可能になる場合が多い。そして、橋梁の構造物の変位を計測する方法として特許文献1、特許文献2が公開されている。
【特許文献1】特開平11−118484号公報
【特許文献2】特開2004−325209号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述の特許文献1の技術は、橋梁の計測対象点に反射ターゲットをおいて、レーザ測量器で位置を計測する方法であるので、橋桁が移動するとレーザ光がターゲットから外れてしまい計測できなくなる。つまり橋桁が大きく移動した場合には橋梁の構造物の変位が計測不可能となってしまう問題があった。
また上述の特許文献2の技術は、レーザスキャナで橋桁の3次元構造を計測し、当該計測したデータによって構造物の変位を算出する技術であるが、この技術では、橋梁から離れた場所にスキャナを設置することが必要となる。しかし通常はそのようなスキャナを設置する場所の確保が難しく、また、スキャナ設置場所からレーザ光が障害物によって届かない場合には計測することができない。
【0004】
そこでこの発明は、橋梁における橋桁の変位を計測するにあたり、その計測を行う為の装置の設置場所の制限を受けず、また、橋桁の移動が大きくとも計測可能な、橋梁監視システムおよび橋梁監視方法ならびにプログラムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明は、橋梁における橋桁と当該橋桁に隣接する構造物との間に、前記橋桁と当該橋桁に隣接する構造物との間の2箇所以上の橋軸方向移動変位を計測する第1変位計測手段と、前記橋桁と当該橋桁に隣接する構造物との間の1箇所以上の橋軸直角方向移動変位を計測する第2変位計測手段と、を設置し、さらに、前記第1変位計測手段の計測した2箇所以上の橋軸方向移動変位と、前記第2変位計測手段の計測した1箇所以上の橋軸直角方向移動変位とに基づいて、前記橋桁と当該橋桁に隣接する構造物との間の相対移動量を算出する相対移動量算出手段と、を備えることを特徴とする橋梁監視システムである。
【0006】
また本発明は、前記橋桁に隣接する構造物は、橋桁または橋台または橋脚のいずれかであることを特徴とする。
【0007】
また本発明は、前記橋梁の端の前記構造物における基準点座標と、前記相対移動量とに基づいて、前記橋梁に架かる橋桁それぞれの所定の基準点の絶対座標を算出する絶対座標算出手段と、を備えることを特徴とする。
【0008】
また本発明は、前記基準点の絶対座標と当該基準点の元の座標とにより算出される距離と、各許容値とを比較して、前記橋梁の通行可否を判定する第1通行可否判定手段と、を備えることを特徴とする。
【0009】
また本発明は、前記橋梁における1つの橋桁と当該橋桁に隣接する構造物との組合せそれぞれについて、当該橋桁と構造物との間の最大隙間距離を記憶する最大隙間距離記憶手段と、前記相対移動量に基づいて橋桁と構造物との間の隙間距離の計算の後、当該隙間距離と前記最大隙間距離との比較して、前記橋梁の通行可否を判定する第2通行可否判定手段と、を備えることを特徴とする。
【0010】
また本発明は、橋梁監視システムにおける橋梁監視方法であって、第1変位計測手段が、前記橋桁と当該橋桁に隣接する構造物との間の2箇所以上の橋軸方向移動変位を計測し、第2変位計測手段が、前記橋桁と当該橋桁に隣接する構造物との間の1箇所以上の橋軸直角方向移動変位を計測し、相対移動量算出手段が、前記第1変位計測手段の計測した2箇所以上の橋軸方向移動変位と、前記第2変位計測手段の計測した1箇所以上の橋軸直角方向移動変位とに基づいて、前記橋桁と当該橋桁に隣接する構造物との間の相対移動量を算出することを特徴とする橋梁監視方法である。
【0011】
また本発明は、上記橋梁監視方法において、絶対座標算出手段が、前記橋梁の端の前記構造物における基準点座標と、前記相対移動量とに基づいて、前記橋梁に架かる橋桁それぞれの所定の基準点の絶対座標を算出することを特徴とする。
【0012】
また本発明は、上記橋梁監視方法において、第1通行可否判定手段が、前記基準点の絶対座標と当該基準点の元の座標とにより算出される距離と、各許容値とを比較して、前記橋梁の通行可否を判定することを特徴とする。
【0013】
また本発明は、上記橋梁監視方法において、最大隙間距離記憶手段が、前記橋梁における1つの橋桁と当該橋桁に隣接する構造物との組合せそれぞれについて、当該橋桁と構造物との間の最大隙間距離を記憶し、第2通行可否判定手段が、前記相対移動量に基づいて橋桁と構造物との間の隙間距離の計算の後、当該隙間距離と前記最大隙間距離を比較して、前記橋梁の通行可否を判定することを特徴とする。
【0014】
また本発明は、橋梁における橋桁と当該橋桁に隣接する構造物との間に、前記橋桁と当該橋桁に隣接する構造物との間の2箇所以上の橋軸方向移動変位を計測する第1変位計測手段と、前記橋桁と当該橋桁に隣接する構造物との間の1箇所以上の橋軸直角方向移動変位を計測する第2変位計測手段と、が設置された橋梁監視システムにおける橋梁監視装置に実行させるプログラムであって、前記第1変位計測手段の計測した2箇所以上の橋軸方向移動変位と、前記第2変位計測手段の計測した1箇所以上の橋軸直角方向移動変位とに基づいて、前記橋桁と当該橋桁に隣接する構造物との間の相対移動量を算出する相対移動量算出処理と、を実行させるプログラムである。
【0015】
また本発明は、上記処理に加え、前記橋梁の端の前記構造物における基準点座標と、前記相対移動量とに基づいて、前記橋梁に架かる橋桁それぞれの所定の基準点の絶対座標を算出する絶対座標算出処理を実行させるプログラムである。
【0016】
また本発明は、上記処理に加え、前記基準点の絶対座標と当該基準点の元の座標とにより算出される距離と、各許容値とを比較して、前記橋梁の通行可否を判定する第1通行可否判定処理を実行させるプログラムである。
【0017】
また本発明は、前記橋梁における1つの橋桁と当該橋桁に隣接する構造物との組合せそれぞれについて、当該橋桁と構造物との間の最大隙間距離を記憶する最大隙間距離記憶手段を備える前記橋梁監視装置に、上記処理に加え、前記相対移動量に基づいて橋桁と構造物との間の隙間距離の計算の後、当該隙間距離と前記最大隙間距離との比較して、前記橋梁の通行可否を判定する第2通行可否判定処理を実行させるプログラム。である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、橋桁と当該橋桁に隣接する構造物との組合せごとに設置された複数の変位計により、橋梁における各橋桁の相対移動量と、当該各橋桁の所定の基準点における絶対座標を算出することができるので、橋梁における橋桁の変位を計測するにあたり、その計測を行う為の橋梁監視装置の、橋梁から離れた場所における設置場所の制限を受けず、また、橋桁の移動が大きくとも、変位計の計測できる範囲まで十分に計測可能となる。また、橋桁間の移動から落橋を判断するだけでなく、橋桁と当該橋桁に隣接する構造物間の相対的な変位、絶対的な変位を見ることで、隣接する構造物同士が、平行移動や回転移動をした場合の、車両などの通行可否を素早く把握することが出来る。
また本発明によれば、各変位計によって得られた計測結果に基づいて、橋梁の通行可否を迅速に判定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態による橋梁監視システムを図面を参照して説明する。図1は同実施形態による橋梁監視システムのイメージを示す第1の図である。
この図は橋梁の立面図に相当するものである。そして橋軸方向変位計10(第1変位計測手段)は、橋桁と当該橋桁に隣接する構造物との橋軸方向移動変位を計測する。橋桁には計測面が設置されており、橋軸方向変位計10は当該計測面からの橋軸方向移動変位を、ロッドの伸縮により計測する。橋軸方向変位計10は設定された間隔において2つ以上設置される。なお隣接する構造物とは、橋桁または橋台または橋脚などである。なお、橋がかかっている長手方向、つまり橋桁が連なる方向を橋軸方向とする。また橋軸方向に垂直で地表と水平な方向を橋軸直角方向とする。
【0020】
図2は同実施形態による橋梁監視システムのイメージを示す第2の図である。
この図は橋梁の平面図に相当するものである。そして、図1で示したように、橋桁と当該橋桁に隣接する構造物との橋軸方向移動変位を計測する橋軸方向変位計10の他に、橋桁と当該橋桁に隣接する構造物との間の橋軸直角方向移動変位を計測する橋軸直角方向変位計20(第2変位計測手段)を備える様子を示している。
【0021】
図3は同実施形態による橋軸方向変位計の設置概要を示す図である。
この図では、橋軸方向変位計10が橋桁と当該橋桁に隣接する橋桁との橋軸方向移動変位を計測するように設置されている様子を示している。橋脚には橋桁を支える支承が設置され、その支承に、橋梁におけるN番目の橋桁とN+1番目の橋桁がそれぞれ載っている。橋軸方向変位計10はN番目の橋桁に設置され、またN+1番目の橋桁には計測面が設置されている。そして橋軸方向変位計10が備える伸縮可能なロッドの長さにより、N番目の橋桁と、当該N番目の橋桁に隣接するN+1番目の橋桁までの橋軸方向移動変位を計測する。また橋軸方向変位計10のデータは変位データ収集器30で収集する。
【0022】
図4は同実施形態による変位計の概要図である。
この図で示すように、橋軸方向変位計10や橋軸直角方向変位計20は、ロッドの伸縮によって隣接する構造物に設置された計測面との距離により、その隣接する構造物との間の橋軸方向移動変位や、橋軸直角方向移動変位を計測する。そしてロッドの先端にはボールベアリングが設置されており、ロッドと計測面とが接続されないことで、計測面に対して横方向に変位計が移動しても、その変位を計測できるように設計され、また計測面と変位計の距離が離れて、ロッドと計測面が自然に離れても変位計を破損しないように設計されている。
【0023】
図5は同実施形態による橋梁監視システムのイメージを示す第3の図である。
この図では、橋桁と当該橋桁に隣接する構造物の組み合わせそれぞれに設置された、2つの橋軸方向変位計10と1つの橋軸直角方向変位計20(合計の変位計が3台)を、光ファイバで接続した様子を示している。この図で示す切替器40は、計測結果の値を取得する各変位計を切り替えるための装置であり、切替器40で計測対象の変位計に切替えて、変位データ収集器30でその変位計の計測値を計測する。また変位データ収集器30で収集されたデータは、橋梁監視装置50へ転送される。橋梁監視装置50は各変位計から収集されたデータに基づいて、各橋桁の相対移動量を算出する。相対移動量とは、隣接する構造物からの橋桁の移動量であり、橋軸方向をY軸、橋軸直交方向をX軸とすると、隣接する構造物からの橋桁のY軸方向の移動量、X軸方向の移動量、地表に垂直なZ軸を中心とする回転角度をパラメータとして保持する。
【0024】
図6は変位データ収集器の変位量の計測原理を示す図である。
この図が示すように、変位データ収集器30は光ファイバに波長Fの光を送出し、その反射光を受信して、光ファイバ上のセンサ部に与えられたひずみによって得られる反射波長のシフト量により、変位量を得る処理を行なう。これはFBG(Fiber Bragg Grating)の計測原理を利用したものであり、例えば特開2004−347554にその技術が公開されている。
【0025】
図7は変位データ収集器の変位量の計測処理概要を示す図である。
この図が示すように、部材A(例えば橋桁)と部材B(例えば橋桁)の距離が変化することにより、変位計はロッド(計測棒)の伸縮を検知し、当該伸縮に応じてギア変換部が光ファイバの押圧力を増減し、これにより光ファイバのひずみ量が増減する。そして、変位データ収集器30は波長Fの光を送出し、センサ部において波長がシフトして反射した反射光を受信し、変位量を計測する。
【0026】
図8は橋梁監視システムにおける橋梁監視装置の機能ブロック図である。
この図が示すように橋梁監視装置50は、落橋検知部51と、橋桁移動量算出部52と、通行可否判定部53と、を備えている。落橋検知部51は橋軸方向変位計10や橋軸直角方向変位計20より得られたデータに基づいて、落橋しているか否かを判定する。また橋桁移動量算出部52は、橋軸方向変位計10や橋軸直角方向変位計20より得られたデータから、橋桁の当該橋桁と隣接する構造物からの相対移動量や、橋桁の絶対座標などを算出する。また通行可否判定部53は、落橋検知部51や橋桁移動量算出部52の算出結果に基づいて、橋梁の通行可否を判定する処理を行なう。また橋梁監視装置50は算出結果や判定結果の情報を、モニタなどの橋梁情報表示装置60へ出力する処理を行なう。
【0027】
図9は橋梁監視システムにおける各変位計の設置概要を示す図である。
この図が示すように、2つの橋軸方向変位計10a、10bは距離d離れてN+1番目の橋桁に設置されている。そして橋軸方向変位計10a、10bはN番目の橋桁に設置された計測面Aの元の位置からの変位をロッドの伸縮により計測する。また橋軸直角方向変位計20はN+1番目の橋桁に設置され、N番目の橋桁の脇に固定されN+1番目の橋桁方向に延長された計測面Bの元の位置からの変位をロッドの伸縮により計測する。そして、橋梁監視装置50の記憶部には、2つの橋軸方向変位計10aと10bの設置間隔dと、橋軸直角方向変位計20と計測面Aまでの距離Hと、橋軸方向変位計10のうち計測面Bより遠い距離に設置されている橋軸方向変位計10bと計測面Bとの距離Wとの情報を予め記憶している。
【0028】
図10は橋梁の相対移動量を算出する処理概要を示す図である。
この図が示すように、橋軸方向変位計10aにおいてL、橋軸方向変位計10bにおいてL、橋軸直角方向変位計20においてLの移動距離を計測したとする。するとN番目の橋桁を基準とした場合の、N+1番目の橋桁のN番目の橋桁からの相対移動量(X軸方向移動量、Y軸方向移動量、N+1番目の所定の点におけるZ軸を基準とする回転角度θ)は、
X軸方向移動量:X=(W+L)cosθ−W
Y軸方向移動量:Y=(H+L)cosθ−H
Z軸回転角度:θ=arctan{(L−L)/d}
により算出することができる。
【0029】
図11は相対移動量算出の処理概要を示す図である。
図12は落橋判定の処理フローを示す図である。
次に、図8、図11、図12を用いて、落橋判定の処理フローについて説明する。本実施形態においては、両端には橋台があり、当該橋台とそれら橋台間に建てられた複数の橋脚に、橋桁1、橋桁2、橋桁3が載っている橋梁を用いて説明する。
まず、橋梁監視装置50の橋桁移動量算出部52が変位データ収集機30より、橋桁の番号Nの処理を開始する場合にNに1を代入して(ステップS1)、橋桁1と当該橋桁1に隣接する橋台との間に設置された橋軸方向変位計10a、10bと、橋軸直角方向変位計20それぞれの計測値を取得する(ステップS2)。ここで、落橋検知部51は、変位計からの計測値が取得できたか否かを判定し(ステップS3)、取得できない場合には光ファイバが切断された可能性、または変位計が破損した可能性があるので落橋有りと判断する(ステップS4)。そして、橋桁移動量算出部52は、取得した計測値に基づいて、上記算出式により相対移動量の3つのパラメータを算出する(ステップS5)。
【0030】
次に落橋検知部51が、相対移動量の3つのパラメータと橋台の基準点Aの絶対座標との値を用いて、橋桁1の基準点A1の絶対座標を算出する(ステップS6)。この処理は基準点A1の元の座標を相対移動量で示されるX軸方向移動量とY軸方向移動量移動(加算)し、回転行列によりZ軸回転角度だけ回転させた座標を算出すればよい。なお基準点Aの絶対座標は予め橋梁監視装置50が記憶している。そして、橋桁1と橋台との間の算出結果値として相対移動量と基準点A1の絶対座標とを記憶部などに格納する。また落橋検知部51は橋桁1の基準点A1の絶対座標と、基準点A1と設定した箇所の移動前の絶対座標(予め記憶している)との距離を算出し(ステップS7)、その距離を許容値で示される距離の値と比較して、算出した距離が許容値を超えるか否かを判定する(ステップS8)。そして許容値を超えない場合いは落橋無しと判定する(ステップS9)。また、許容値を超える場合には落橋有りと判定する(ステップS10)。なお、許容値は予め橋梁監視装置50が記憶している。そして、上記格納した算出結果値に対応付けて落橋有無の情報を記憶部に格納する。これにより橋桁1の相対移動量、基準値A1の絶対座標、落橋有無の情報が記憶部に格納される。
【0031】
次に、橋梁における全ての橋桁について相対移動量と基準値の絶対座標と落橋有無の情報の算出を終えたか否かを判定し(ステップS11)、終えていない場合には、橋桁の数Nを1プラスして(ステップS12)橋桁2の相対移動量、基準値の絶対座標、落橋有無を算出する。つまり橋桁2の橋桁1(橋桁2に隣接する構造物)からの相対移動量は、上記同様に3つの変位計(2つの橋軸方向変位計と1つの橋軸直角方向変位計)の計測結果に基づいて上記算出式により算出する。また、橋桁2の基準値A2の絶対座標は、橋桁1の基準値A1と橋桁2の相対移動量とを用いて上記同様に算出する。また橋桁2の落橋有無は、橋桁2と橋桁1の間の3つの変位計から計測結果を取得できたか否か、また基準点A2の絶対座標と当該基準点A2と設定した箇所の元の絶対座標の距離と許容値の比較によって、上記同様算出する。そして、橋桁2の相対移動量、基準値A2の絶対座標、落橋有無の情報を記憶部に格納する。また、同様に橋桁3についても相対移動量、基準値の絶対座標、落橋有無を算出し、記憶部に格納する。
【0032】
図13は絶対座標の補正処理の概要を示す図である。
上記処理においては、橋梁の端の一方の端台に接続される橋桁から順に、相対移動量、基準値の絶対座標、を算出しているが、橋梁の真中付近の橋桁を基準に一方の橋台側の橋桁と、他方の橋台側の橋桁の2つに分けて、それぞれの橋桁の組に近い橋台を基準として、相対移動量、基準値の絶対座標を算出していくようにしてもよい。例えば、図13で示すように橋梁に橋桁1〜3までが載る場合において、橋桁2の相対移動量を基準点Aと基準点Bの両方から計算する。そして橋桁2に対して得られた2つの相対移動量から、橋桁2における所定の点の2つの絶対座標を算出し、その絶対座標に差異があれば、その差異の中間点を、絶対座標と決定するなどして補正する。これにより、各橋桁における所定の点の絶対座標を、より正確に算出することができる。また、絶対座標の差異がある場合には、その差異の値(距離)を、橋梁における橋桁の絶対座標それぞれに分散させて補正するようにしてもよい。
【0033】
以上のように、本願発明の橋梁監視システムにおいては、橋桁と当該橋桁に隣接する構造物との組合せごとに設置された3つの変位計により、橋梁における各橋桁の相対移動量と、当該各橋桁の所定の基準点における絶対座標を算出することができるので、橋梁における橋桁の変位を計測するにあたり、その計測を行う為の装置の設置場所の制限を受けず、また、橋桁の移動が大きくとも、変位計の十分な長さのロッドにより計測可能となる。
【0034】
図14は橋梁の通行可否判定の処理フローを示す図である。
図15は橋桁と構造物の隙間の最大値の算出処理の概要を示す図である。
次に図14、図15を用いて橋梁の通行可否判定の処理フローについて説明する。
通行可否判定部53は、上記処理により、全ての橋桁と当該橋桁に隣接する構造物との組み合わせ毎に、相対移動量、基準値の絶対座標、落橋有無が算出できると、次に、橋梁の通行可否を判定する処理を開始する。まず、橋桁と当該橋桁に隣接する構造物との組み合わせ毎に記憶部に登録されている上記算出結果から、落橋有無の情報を読み取る(ステップS21)。そして、橋桁と当該橋桁に隣接する構造物組合せ全てについて、落橋有無の情報が落橋無しを示すか否かを判定する(ステップS22)。そして、橋桁と当該橋桁に隣接する構造物組合せ全てについて、落橋有無の情報が落橋無しを示す場合には、通行可と判定する(ステップS23)。
【0035】
次に通行可否判定部53は、橋桁と当該橋桁に隣接する構造物との組合せ毎に、その橋桁と構造物との間の隙間の最大値を算出する(ステップS24)。例えば前記隣接する構造物が橋桁である場合には、2つの橋桁P、Qの接合面の端、つまり橋桁P、Qの角をそれぞれP1、P2、Q1、Q2とし、各橋桁P、Qの角から隣接する橋桁の接合面に対して延ばした垂線の距離を算出する(図15においてはLa、Lb)。なお垂線を接合面に降ろすことができない場合には、その橋桁の角については計算の対象外とする(図15においてはQ1、P2)。ここで垂線の距離の算出は、例えば垂線Laの距離の算出であれば、まず、各橋桁の相対移動量と、各橋桁の元の座標(予め記憶している)とを用いて、移動後の各橋桁P、Qの角の点の絶対座標を算出する。これによりP1、P2、Q1、Q2の座標が算出できる。そしてQ1とQ2の座標を通る垂直平面に対するP1からの垂線の距離を算出する。そして通行可否判定部53は、垂線の距離を算出していき、最大値を示す垂線の距離を、橋桁と当該橋桁に隣接する構造物の間の隙間の距離と算出する。また通行可否判定部53は隙間の値が、予め記憶する許容値(最大隙間距離)を超えるか否かを判定する(ステップS25)。そして許容値を超えていない場合には、通行可と判定する(ステップS26)。
【0036】
次に、通行可批判定部53は、落橋検知部51の算出した各橋桁の基準点における絶対座標と、予め記憶する基準点の元の座標とを比較して、その移動量の最大値を決定する(ステップS27)。そして、その移動量が許容値を超えるか否かを判定する(ステップS28)。そして許容値を超えていない場合には、通行可とする(ステップS29)。また、ステップS22の判定において、1つでも落橋有無の情報が落橋有り旨を示す場合、またステップ25S、ステップS28の判定において、許容値を超える場合には、通行不可と判定する(ステップS30)。そして、通行可否の判定結果を、橋梁情報表示装置60へ出力する。
【0037】
以上の処理により、本願発明の橋梁監視システムでは、各変位計によって得られた計測結果に基づいて、橋梁の通行可否を迅速に判定することができる。
【0038】
なお、上述の変位データ収集器、切替器、橋梁監視装置は内部に、コンピュータシステムを有している。そして、上述した処理の過程は、プログラムの形式でコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記憶されており、このプログラムをコンピュータが読み出して実行することによって、上記処理が行われる。ここでコンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、DVD−ROM、半導体メモリ等をいう。また、このコンピュータプログラムを通信回線によってコンピュータに配信し、この配信を受けたコンピュータが当該プログラムを実行するようにしても良い。
【0039】
また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良い。さらに、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】橋梁監視システムのイメージを示す第1の図である。
【図2】橋梁監視システムのイメージを示す第2の図である。
【図3】橋軸方向変位計の設置概要を示す図である。
【図4】変位計の概要図である。
【図5】橋梁監視システムのイメージを示す第3の図である。
【図6】変位データ収集器の変位量の計測原理を示す図である。
【図7】変位データ収集器の変位量の計測処理概要を示す図である。
【図8】橋梁監視システムにおける橋梁監視装置の機能ブロック図である。
【図9】橋梁監視システムにおける各変位計の設置概要を示す図である。
【図10】橋梁の相対移動量を算出する処理概要を示す図である。
【図11】相対移動量算出の処理概要を示す図である。
【図12】落橋判定の処理フローを示す図である。
【図13】絶対座標の補正処理の概要を示す図である。
【図14】橋梁の通行可否判定の処理フローを示す図である。
【図15】橋桁と構造物の隙間の最大値の算出処理の概要を示す図である。
【図16】橋梁の基本構造を示す図である。
【符号の説明】
【0041】
10・・・橋軸方向変位計
20・・・橋軸直角方向変位計
30・・・変位データ収集器
40・・・切替器
50・・・橋梁監視装置
51・・・橋梁検知部
52・・・橋桁移動量算出部
53・・・通行可否判定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
橋梁における橋桁と当該橋桁に隣接する構造物との間に、
前記橋桁と当該橋桁に隣接する構造物との間の2箇所以上の橋軸方向移動変位を計測する第1変位計測手段と、
前記橋桁と当該橋桁に隣接する構造物との間の1箇所以上の橋軸直角方向移動変位を計測する第2変位計測手段と、
を設置し、さらに、
前記第1変位計測手段の計測した2箇所以上の橋軸方向移動変位と、前記第2変位計測手段の計測した1箇所以上の橋軸直角方向移動変位とに基づいて、前記橋桁と当該橋桁に隣接する構造物との間の相対移動量を算出する相対移動量算出手段と、
を備えることを特徴とする橋梁監視システム。
【請求項2】
前記橋桁に隣接する構造物は、橋桁または橋台または橋脚のいずれかである
ことを特徴とする請求項1に記載の橋梁監視システム。
【請求項3】
前記橋梁の端の前記構造物における基準点座標と、前記相対移動量とに基づいて、前記橋梁に架かる橋桁それぞれの所定の基準点の絶対座標を算出する絶対座標算出手段と、
を備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の橋梁監視システム。
【請求項4】
前記基準点の絶対座標と当該基準点の元の座標とにより算出される距離と、各許容値とを比較して、前記橋梁の通行可否を判定する第1通行可否判定手段と、
を備えることを特徴とする請求項3に記載の橋梁監視システム。
【請求項5】
前記橋梁における1つの橋桁と当該橋桁に隣接する構造物との組合せそれぞれについて、当該橋桁と構造物との間の最大隙間距離を記憶する最大隙間距離記憶手段と、
前記相対移動量に基づいて橋桁と構造物との間の隙間距離の計算の後、当該隙間距離と前記最大隙間距離との比較して、前記橋梁の通行可否を判定する第2通行可否判定手段と、
を備えることを特徴とする請求項3または請求項4に記載の橋梁監視システム。
【請求項6】
橋梁監視システムにおける橋梁監視方法であって、
第1変位計測手段が、前記橋桁と当該橋桁に隣接する構造物との間の2箇所以上の橋軸方向移動変位を計測し、
第2変位計測手段が、前記橋桁と当該橋桁に隣接する構造物との間の1箇所以上の橋軸直角方向移動変位を計測し、
相対移動量算出手段が、前記第1変位計測手段の計測した2箇所以上の橋軸方向移動変位と、前記第2変位計測手段の計測した1箇所以上の橋軸直角方向移動変位とに基づいて、前記橋桁と当該橋桁に隣接する構造物との間の相対移動量を算出する
ことを特徴とする橋梁監視方法。
【請求項7】
絶対座標算出手段が、前記橋梁の端の前記構造物における基準点座標と、前記相対移動量とに基づいて、前記橋梁に架かる橋桁それぞれの所定の基準点の絶対座標を算出する
ことを特徴とする請求項6に記載の橋梁監視方法。
【請求項8】
第1通行可否判定手段が、前記基準点の絶対座標と当該基準点の元の座標とにより算出される距離と、各許容値とを比較して、前記橋梁の通行可否を判定する
ことを特徴とする請求項7に記載の橋梁監視方法。
【請求項9】
最大隙間距離記憶手段が、前記橋梁における1つの橋桁と当該橋桁に隣接する構造物との組合せそれぞれについて、当該橋桁と構造物との間の最大隙間距離を記憶し、
第2通行可否判定手段が、前記相対移動量に基づいて橋桁と構造物との間の隙間距離の計算の後、当該隙間距離と前記最大隙間距離を比較して、前記橋梁の通行可否を判定する
ことを特徴とする請求項7または請求項8に記載の橋梁監視方法。
【請求項10】
橋梁における橋桁と当該橋桁に隣接する構造物との間に、
前記橋桁と当該橋桁に隣接する構造物との間の2箇所以上の橋軸方向移動変位を計測する第1変位計測手段と、
前記橋桁と当該橋桁に隣接する構造物との間の1箇所以上の橋軸直角方向移動変位を計測する第2変位計測手段と、
が設置された橋梁監視システムにおける橋梁監視装置に実行させるプログラムであって、
前記第1変位計測手段の計測した2箇所以上の橋軸方向移動変位と、前記第2変位計測手段の計測した1箇所以上の橋軸直角方向移動変位とに基づいて、前記橋桁と当該橋桁に隣接する構造物との間の相対移動量を算出する相対移動量算出処理と、
を実行させるプログラム。
【請求項11】
請求項10の処理に加え、
前記橋梁の端の前記構造物における基準点座標と、前記相対移動量とに基づいて、前記橋梁に架かる橋桁それぞれの所定の基準点の絶対座標を算出する絶対座標算出処理
を実行させるプログラム。
【請求項12】
請求項11の処理に加え、
前記基準点の絶対座標と当該基準点の元の座標とにより算出される距離と、各許容値とを比較して、前記橋梁の通行可否を判定する第1通行可否判定処理
を実行させるプログラム。
【請求項13】
前記橋梁における1つの橋桁と当該橋桁に隣接する構造物との組合せそれぞれについて、当該橋桁と構造物との間の最大隙間距離を記憶する最大隙間距離記憶手段を備える前記橋梁監視装置に、
請求項11または請求項12の処理に加え、
前記相対移動量に基づいて橋桁と構造物との間の隙間距離の計算の後、当該隙間距離と前記最大隙間距離との比較して、前記橋梁の通行可否を判定する第2通行可否判定処理
を実行させるプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2007−120178(P2007−120178A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−314739(P2005−314739)
【出願日】平成17年10月28日(2005.10.28)
【出願人】(000102728)株式会社エヌ・ティ・ティ・データ (438)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】