説明

機能性材料

【課題】基材の表面が有する機能性の持続性と、表面強度とを、インクジェット塗装による表面処理を利用して調整することのできる新規な機能性材料を提供する。
【解決手段】機能性材料10は、インクジェット塗装噴射装置21、21´によって、軟質樹脂と機能剤とを含有した機能剤含有インクを、基材11の表面11aに噴射し、固化させて、凸部12a、12bを無数に形成した微細軟質凸面12を基材11の表面11aに形成し、更に、該微細軟質凸面の凸部に対して、それぞれの一部のみが覆われるようにして、硬化により硬質となるインクを噴射して、粒状の硬質保護膜13を形成した構成とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性材料に関し、詳しくは、インクジェット塗装により表面処理を施して、基材の表面に機能性が付与された機能性材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、室内外で使用される建築材料として、抗菌性や防カビ性、防汚性等を付与した機能性材料が多く用いられている。
このような機能性材料は、抗菌剤や防カビ剤などの機能剤を、樹脂製の材料等では、材料自体に混合して成型が行われたり、あるいは種々の基材や建築材料に表面処理として、機能剤を含有した塗料を塗装したり、機能剤を添加した化粧シートを基材に貼着することにより、その表面部に機能性が付与されていた。
【0003】
例えば、下記特許文献1では、種々の基材に抗菌性能を付与するために使用される化粧シートが提案されている。
このものは、熱可塑性樹脂シート、印刷層、接着層、エチレンービニルアルコール共重合体(EVOH)フィルムをこの順に積層して、表面層となる該EVOHフィルム表面に、エンボス加工を施してエンボス模様を形成し、該エンボス模様の凹部に、ワイピング加工により、抗菌剤を添加したインキを充填して、化粧シートに抗菌性を付与したものである。
【0004】
このものでは、該化粧シートを種々の基材表面に貼着することで、種々の基材に抗菌性能を付与することができるものではある。しかしながら、抗菌剤を添加したインキを、前記エンボス模様の凹部に、ワイピング加工により、充填する構成としているため、該凹部以外にもインキが塗布されて、拭き取り作業が必要となる。このため、インキの無駄が生じ、また拭き取りの作業工程が必要となる。
また、凹部に抗菌剤を添加したインキを充填した構成としているので、化粧シートの表面に付与された機能性が、ある程度は持続すると思われるが、表面層がエチレンービニルアルコール共重合体(EVOH)フィルムからなるため、例えば、床材等の磨耗の恐れがある箇所に使用する場合は、スクラッチ傷やキャスター傷などが生じる恐れがあった。
【0005】
下記特許文献2では、前記のような問題を解決すべく、表面強度、耐久性を有した床材が提案されている。
このものは、基材の上に、ベースコート層、絵柄層及び保護層をこの順に積層形成した床材であって、該保護層は、床材の表面に機能性を付与するための抗菌剤などの機能剤や、床材の表面に耐摩耗性を付与するために、減摩剤としてアルミナなどの硬質粒子が添加されたものである。
【特許文献1】特開平10−119197号公報(図2参照)
【特許文献2】特開2002−38698号公報(図1参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、前記特許文献2に記載の床材では、床材の最表面となる保護層が、機能剤及び硬質粒子を添加して形成されているので、いずれか一方の性能(機能性、耐磨耗性)を高めるには、いずれか一方の添加量を多くすることが考えられる。その場合には、硬化性、接着性等の問題から他方の添加量を減少させる必要が生じる。そのため、いずれか一方の性能を高めるための制御は、容易ではなかった。
また、該保護層は、スプレーコート法により基材の表面の全面に形成されるため、機能剤及び硬質粒子のいずれもが最表面の全面に露出することとなる。そのため、表面に露出する機能剤による機能性の効果、及び硬質粒子の添加による耐摩耗性は、床材の表面のどの部位においても同様のものとなり、例えば、床材の部位に応じて、機能剤による機能性の持続性を可変させたり、耐摩耗性を可変させたりすることは困難であった。
【0007】
本発明は、前記問題を解決するために提案されたもので、その目的は、基材の表面が有する機能性の持続性と、表面強度とを、インクジェット塗装による表面処理を利用して調整することのできる新規な機能性材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、請求項1に記載の機能性材料は、インクジェット塗装噴射装置によって、軟質樹脂と機能剤とを含有した機能剤含有インクを、基材の表面に噴射し、固化させて、凸部を無数に形成した微細軟質凸面を基材の表面に形成し、更に、該微細軟質凸面の凸部に対して、それぞれの一部のみが覆われるようにして、硬化により硬質となるインクを噴射して、粒状の硬質保護膜を形成したことを特徴とする。
【0009】
請求項2では、請求項1において、前記硬化により硬質となるインクは、紫外線硬化型インクである。
【0010】
請求項3では、請求項1または2において、前記硬化により硬質となるインクには、シリカ、アルミナ、ジルコンなどの硬質粒子が添加されている。
【0011】
請求項4では、請求項1乃至3のいずれか1項において、前記機能剤含有インクには、着色剤が添加されており、前記硬質保護膜は、透明性を有している。
【0012】
請求項5では、請求項1乃至4のいずれか1項において、前記機能剤含有インクに含有された軟質樹脂は、ウレタン系樹脂である。
【0013】
請求項6では、請求項1乃至5のいずれか1項において、前記機能剤は、防腐剤、抗菌剤、消臭剤、防虫剤、撥水剤、親水剤、光触媒のうちの少なくとも1つである。
【発明の効果】
【0014】
請求項1乃至6に記載の本発明によれば、機能性材料は、インクジェット塗装噴射装置によって、軟質樹脂と機能剤とを含有した機能剤含有インクを、基材の表面に噴射し、固化させて、凸部を無数に形成した微細軟質凸面を基材の表面に形成しているので、クッション性と機能性とを有する。
また、該微細軟質凸面の凸部のそれぞれは、粒状の硬質保護膜で一部が覆われているので、耐摩耗性、耐スクラッチ性、耐キャスター性をも併せ持つ。
さらに、粒状の硬質保護膜は、微細軟質凸面の凸部に対して、それぞれの一部のみが覆われるようにして形成されているので、微細軟質凸面が有する機能性を阻害することがない。
特に、粒状の硬質保護膜の形成を、インクジェット塗装噴射装置によって、硬化により硬質となるインクを噴射して形成するので、粒状の硬質保護膜による微細軟質凸面の凸部の被覆量を、容易に制御でき、細かい制御、ミクロン単位での制御が可能となる。これにより、微細軟質凸面の凸部の露出量を異ならせて、微細軟質凸面が有する機能性の持続性を、容易に可変できる。例えば、機能性材料が施工される箇所や表面の部位に応じて、その表面が有する機能性の持続性と表面強度とを可変させて設定することも可能となる。
さらにまた、微細軟質凸面の形成と粒状の硬質保護膜の形成とが、いずれもインクジェット塗装噴射装置によって、それぞれのインクを噴射させることによりなされるので、微細軟質凸面の凸部への粒状の硬質保護膜の形成を、容易に行うことができる。
【0015】
請求項2では、前記硬化により硬質となるインクを紫外線硬化型インクとしているので、紫外線を照射することにより速乾性、速硬化性のあるインクとなり、粒状の硬質保護膜の形成を容易に行うことができる。
【0016】
請求項3では、前記硬化により硬質となるインクには、シリカ、アルミナ、ジルコンなどの硬質粒子が添加されているので、微細軟質凸面の凸部に形成された粒状の硬質保護膜の硬度がより向上し、硬質保護膜の磨耗を防止できる。これにより、より効果的に、機能性材料の表面の耐摩耗性、耐スクラッチ性、耐キャスター性が向上する。
【0017】
請求項4では、前記機能剤含有インクには、着色剤が添加されており、前記硬質保護膜は、透明性を有しているので、微細軟質凸面の形成により、着色や図柄形成ができる。
特に、前記したように、インクジェット塗装噴射装置により、機能剤含有インクを噴射させて、微細軟質凸面を形成するので、複雑かつ細かい模様などを印刷することが可能となり、意匠性に優れた機能性材料となる。
【0018】
請求項5では、前記機能剤含有インクに含有された軟質樹脂を、ウレタン系樹脂としているので、微細軟質凸面へ柔軟性を容易に付与することができる。
【0019】
請求項6では、前記機能剤を、防腐剤、抗菌剤、消臭剤、防虫剤、撥水剤、親水剤、光触媒のうちの少なくとも1つとしているので、機能性材料が使用される施工箇所に応じた機能剤を、選択的に含有させることで、種々の機能性が付与された、市場性の高い機能性材料となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
図1乃至図3は、本発明に係る機能性材料の実施形態の一例を示し、図1(a)は、機能性材料の概略平面図、(b)は、(a)におけるZ部の拡大概略断面図、図2は、同実施形態に係る機能性材料の製造装置の一例を示すブロック図、図3は、同実施形態に係る機能性材料の製造工程を説明するための概略平面図である。
【0021】
本実施形態の機能性材料10は、図1に示すように、木質系ボードからなる基材11の表面11aに、後記する凸部12a、12bを無数に形成して構成される微細軟質凸面12が形成され、更に、微細軟質凸面12の凸部12a、12bの上に、粒状の硬質保護膜13が形成されている。
この機能性材料10が使用される施工箇所としては、建築物の内装及び外装等に使用可能であり、例えば、扉、床、階段、框、柱、手摺り、棚、キッチンパネル、天井、各種家具のキャビネットや天板、内壁、外壁、屋根等に好適である。
【0022】
基材11に適用される木質系ボードとしては、集成材、合板、パーティクルボード、木質繊維板等が挙げられるが、これら以外のものでもよい。更に、基材11としては、これら木質系以外のプラスチック等の合成樹脂材料や、レンガ、瓦、セラミックスや、セメントを主成分として補強繊維や無機質充填材を含有したセメント系の窯業系材料、その他、金属材料等を基材11としてもよい。また、基材11の形状も図例のような板状のものに限られず、角柱状、円柱状、円錐状等の様々な形状のものとしてもよい。
また、基材11の表面11aには、目止め処理や、後記する機能剤含有インクに合わせて、下地処理(インク受理層)がなされている。
【0023】
微細軟質凸面12は、後記する第1インクジェット塗装噴射ユニット21によって、軟質樹脂と機能剤と着色剤とを含有した機能剤含有インクが噴射されて形成されている。
機能剤含有インクとしては、後記するノズルヘッドの駆動方式や、含有される樹脂、機能剤等に応じて、適宜、公知のインクジェット用インク、例えば、メチルエチルケトンやエタノール、アセトンなどを溶剤とする速乾性インク、オイルベースの油性インク、水性インクなどが適用可能であり、乾燥・固化することにより軟質となるものであればどのようなものでもよいが、含有する樹脂や機能剤の性能を阻害しない構成とし、少なくとも軟質性、耐候性、耐水性のあるものとすることが好ましい。
この機能剤含有インクに含有される軟質樹脂としては、ウレタン系樹脂、オレフィン系樹脂等が挙げられるが、これに限らず、乾燥・固化した際に、軟質となるものであればどのようなものでもよい。
【0024】
上記の機能剤含有インクに含有される機能剤としては、防腐剤、抗菌剤、消臭剤、防虫剤、撥水剤、親水剤、光触媒が挙げられ、これらのうちの1種が含有されたものとしてもよく、また2種以上が含有されたものとしてもよい。防腐剤としてはパラベン、ソルビン酸が挙げられる。抗菌剤及び消臭剤としては銀が挙げられる。防虫剤としてはパラジクロロベンゼン、ナフタリンが挙げられる。撥水剤としてはフッ素系フィラー、シリコーンが挙げられ、親水剤としてはシリカゾルが挙げられる。光触媒としては酸化チタン、酸化亜鉛、チタン酸ストロンチウム、三酸化タングステン、酸化第ニ鉄、三酸化ビスマス、酸化スズ等が挙げられる。このように、種々の機能性を有する機能剤を、機能性材料10が使用される施工箇所に応じて、選択的に含有させることで、種々の機能性が付与された、市場性の高い機能性材料10となる。
【0025】
このような機能剤は、その物性に応じて、機能剤含有インクに溶解して液体となるものでもよく、そのインクに分散される粒子でもよい。また、その配合量は、機能剤によって異なるが、0.1重量%〜20重量%とすれば良い。
尚、粒子を溶剤に分散させる場合は、用いられる粒子としてその粒子径が数nm〜数μmのものが好ましく、沈殿等が生じないよう適宜、公知の分散媒を混合することが好ましい。
また、機能剤含有インクの各構成素材の混合比は、後記するノズルヘッドの駆動方式、基材11に形成された前記受理層の物性、施工箇所、そのインクに含まれる樹脂や溶剤、機能剤の物性に応じて適宜選択可能である。
さらに、適用されるインクカラーとしては、本実施形態のように、微細軟質凸面12の形成により、図柄を形成する場合においては、基材11の表面11aが前記したように例えば、受理層が形成されて白地とされている場合は、ブラック、イエロー、マゼンタ、シアン等のインクが適用されるが、基材11の表面11aの色が異なる場合や、受理層を形成する必要が無い基材の場合は、その基材11の表面11aの色に応じて、適宜、選択可能である。
【0026】
粒状の硬質保護膜13は、後記する第2インクジェット塗装噴射ユニット21´によって、硬化により硬質となるインクが噴射されて形成されている。
該インクとして、本実施形態では、紫外線が照射されることにより硬化する性質を具備する紫外線硬化型インクを適用している。
該紫外線硬化型インクとしては、公知の紫外線硬化型インクの適用が可能であり、少なくとも、重合性化合物(ラジカル重合性化合物やカチオン重合性化合物など)、光開始剤等からなるインクに、後記する硬質粒子を含んだもので、透明性を有するものとしてもよい。
【0027】
前記紫外線硬化型インクに添加される硬質粒子としては、シリカ、アルミナ、ジルコン等が挙げられ、これら硬質粒子は、前記紫外線硬化型インクに分散、混合される。
これら硬質粒子の粒径は、後記するノズルヘッド25´の噴射ノズルの噴射口径や、ノズル駆動方式、インクの物性等に応じて適宜、選択可能であるが、20nm〜100μm程度とすることが好ましい。また、分散、混合される硬質粒子が沈殿等しないよう適宜、公知の分散媒を紫外線硬化型インクに混合することが好ましい。
尚、硬質粒子としては、紫外線硬化型インクが硬化することにより形成される粒状の硬質保護膜13の耐摩耗性の向上が可能なものであれば、前記したものに限られず、どのようなものでもよい。
【0028】
次に、前記のように構成された基材11に、インクジェット塗装噴射ユニット21、21´によって、各インクを噴射して、基材11の表面11aに表面処理を施して機能性材料10を製造する装置及び工程の一例について、図2及び図3に基づいて説明する。
図例の機能性材料製造装置Aは、前記構成とされた基材11を載置する基台20と、後記する微細軟質凸面12を形成するための機能剤含有インクを噴射する第1インクジェット塗装噴射ユニット21と、粒状の硬質保護膜13を形成するための紫外線硬化型インクを噴射する第2インクジェット塗装噴射ユニット21´と、紫外線照射ユニット26と、制御ユニット30とを有している。
【0029】
基台20は、基材11の形状や大きさに合わせて形成されており、基材搬送手段20aにより、基材11を白抜矢印Y方向(基台20の長手方向)に向けて、各インクジェット塗装噴射ユニット21、21´による各インクの噴射と連動制御して、基材11の搬送を行う。
【0030】
各インクジェット塗装噴射ユニット21、21´は、それぞれ基台20に隣接して配設された装置本体22、22´と、装置本体22、22´に連結されノズルヘッド25、25´を案内するノズルヘッド案内棹24、24´とを有している。
各ノズルヘッド案内棹24、24´は、それぞれ基台20を挟んで装置本体22、22´に対して対向配置された案内棹支持部23、23´と、装置本体22、22´とにより支持されている。
各ノズルヘッド25、25´は、それぞれノズルヘッド案内棹24、24´に沿って、白抜矢印X方向(基台20の幅方向)に移動可能に構成されており、裏面には、複数の噴射ノズル(不図示)を有している。
各ノズルヘッド25、25´のX方向への移動は、それぞれノズルヘッド駆動手段22a、22a´によりなされる。すなわち、各ノズルヘッド25、25´は、基台20に載置された基材11に対して、ノズルヘッド駆動手段22a、22a´及び基材搬送手段20aにより、X−Y方向に移動可能な構成とされ、後記する微細軟質凸面12及び硬質保護膜13を形成するために、細かい制御が可能となっている。
【0031】
第1ノズルヘッド25が有する噴射ノズルの噴射口の口径は、10μm〜1.0mm程度が好ましく、あるいは、前記機能剤含有インクが噴射されて着弾した際のドット径が、20μm〜2.0mm程度となるような口径とすることが好ましい。
第2ノズルヘッド25´が有する噴射ノズルの噴射口の口径は、5μm〜500μm程度が好ましく、あるいは、前記紫外線硬化型インクが噴射されて着弾した際のドット径が、10μm〜1.0mm程度となるような口径とすることが好ましい。
尚、各ノズルヘッド25、25´が有する噴射ノズルから各インクを噴射するためのインクジェットのノズル駆動方式は、特に限定されず、基材11の表面11aの物性、後記するインクの物性等に応じて、適宜公知のものが選択可能であり、ドロップオンデマンドピエゾ方式、ドロップオンデマンドバルブ方式、コンティニュアス帯電偏向方式など任意のものが適用可能である。
【0032】
紫外線照射ユニット26は、第2インクジェット塗装噴射ユニット21´の基材搬送方向下流側に位置し、基台20に隣接して配設された装置本体27と、基台20を挟んで装置本体27に対して対向配置された支持部28と、装置本体27及び支持部28に支持架設された紫外線光源29とを有している。
尚、紫外線光源29としては、例えば、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、メタルハイドランプ、熱陰極管、冷陰極管、半導体レーザ、エキシマランプ、LED等の適用が可能であるが、その他、適宜、公知の紫外線光源の適用が可能である。
【0033】
制御ユニット30は、各種装置やユニットを制御する制御手段を構成するCPU31、各種操作を行うための操作手段32、制御プログラムや微細軟質凸面12及び硬質保護膜13を形成するための画像データなどを記憶する記憶手段33などを有している。
【0034】
次に、前記構成とされた機能性材料製造装置Aを用いて基材11に表面処理を施して機能性材料10を製造する工程について説明する。
基材搬送手段20aの駆動により搬送される基材11の表面11aに、第1インクジェット塗装噴射ユニット21を駆動して、機能剤含有インクを噴射する。
この噴射された機能剤含有インクは、乾燥・固化することにより、図1(b)に示すように、不連続の状態、すなわち、乾燥・固化した液滴(複数滴が重ねられて形成される場合も含む)が互いに接触しない状態で、凸部12a、12bとなる。
【0035】
上記のように乾燥・固化して形成された微細軟質凸面12を構成する凸部12a、12bの径は、適宜、選択可能であるが、20μm〜2.0mm程度としてもよい。
これら、無数に形成された凸部12a、12bは、それぞれ、ミクロン単位の微細なものであるため、本実施形態のように機能剤含有インクに着色剤を添加して形成された、所定の色彩を有する無数の凸部12a、12bの集合による微細軟質凸面12は、図1(a)に示すように、木目模様の図柄となる。
【0036】
前記のように形成された微細軟質凸面12の凸部12a、12bは、基材搬送手段20aによる基材11の搬送に伴い、第1インクジェット塗装噴射ユニット21の下流側に位置する第2インクジェット塗装噴射ユニット21´に至り、該第2インクジェット塗装噴射ユニット21´によって、紫外線硬化型インクを噴射する。
この際、記憶手段33に記憶された微細軟質凸面12の各凸部12a、12bを形成した際の画像データを読み出して、各凸部12a、12bの上部を狙って噴射・制御される。
また、形成された硬質保護膜13が、微細軟質凸面12の凸部12a、12bよりも小となるように、制御されている。すなわち、微細軟質凸面12の凸部12a、12bのそれぞれの一部のみが覆われるようにして、紫外線硬化型インクが噴射・制御されている。
【0037】
次いで、噴射された紫外線硬化型インクは、基材搬送手段20aによる基材11の搬送に伴い、第2インクジェット塗装噴射ユニット21´の下流側に位置する紫外線照射ユニット26の紫外線光源29の下方側に至り、紫外線が照射されることにより、乾燥・硬化する。
このようにして、硬化した紫外線硬化型インクは、図1(b)に示すように、透明性を有する粒状の硬質保護膜13となり、微細軟質凸面12のそれぞれの凸部12a、12bの上部に、それら凸部12a、12bの一部のみを覆うように固着されている。
【0038】
ここで、硬質保護膜13の形成による、各凸部12a、12bの被覆量は、適宜、設定可能である。本実施形態では、微細軟質凸面12を構成する各凸部12a、12bのうち、木目模様の濃い部位を構成する凸部12bは、硬質保護膜13による被覆量が大となるように設定されている。
すなわち、木目模様の薄い部位を構成する凸部12aの上部に形成された粒状の硬質保護膜13aの粒径D1と、木目模様の濃い部位を構成する凸部12bの上部に形成された粒状の硬質保護膜13bの粒径D2とが、D1<D2となるようにしている。
【0039】
このような、粒径を可変させるためには、第2ノズルヘッド25´から噴射させる紫外線硬化型インクの液滴数自体を可変させる、あるいは、第2ノズルヘッド25´から噴射させる液滴自体の大きさを可変させることで、容易に行える。特に、第2インクジェット塗装噴射ユニット21´により硬質保護膜13を形成する構成としているので、このような制御も容易に行うことができる。
上記のように乾燥・硬化して形成された各硬質保護膜の粒径は、前記した微細軟質凸面12を構成する各凸部12a、12bの径よりも小となるようにして適宜、選択可能であるが、10μm〜1.0mm程度としてもよい。
前記のように微細軟質凸面12及び硬質保護膜13が形成された基材11は、機能性材料10となり、基材搬送手段20aの駆動により次工程に向けて搬送がなされる。
【0040】
尚、図1(b)では、微細軟質凸面12を構成する各凸部12a、12bは、基材11の表面11aが僅かに露出するように一定の間隙を隔てて、均等に点在させて梨地状に形成されているが、それぞれの凸部12a、12b間に形成される間隙は、凸部12a、12bの集合からなる微細軟質凸面12による図柄の視認性を阻害しないものであれば、一定ではなく、ランダムなものとしてもよい。また、凸部12a、12bを点在させるのではなく、格子状としたり、凸条としたりしてもよい。あるいは、一部に凸部12a、12bのそれぞれが接触した平面的に連続した広がりを持った部位が形成されているものとしてもよい。
また、微細軟質凸面12により形成される図柄は、本実施形態では、木目模様としているが、これに限られず、石目模様、布目模様、抽象模様、幾何学図形、文字または記号等どのようなものでもよい。
さらに、本実施形態では、硬質保護膜13の形成を、それぞれ、微細軟質凸面12を構成する凸部12a、12bの上部に固着させる態様としたが、これに限られず、例えば、それぞれの凸部間の間隙に硬質保護膜13を形成する態様としてもよい。この場合には、機能性材料10の表面強度を高めるべく、基材11の表面11aに対して、硬質保護膜13の最上部が、各凸部12a、12bの最上部よりも高くなるようにして形成することが好ましい。
さらにまた、硬質保護膜13の透明性は、微細軟質凸面12により形成された図柄や色彩の視認性を阻害しない限りにおいて、半透明としてもよい。
【0041】
以上から明らかなように、本実施形態に係る機能性材料10は、インクジェット塗装噴射ユニット21によって、軟質樹脂と機能剤とを含有した機能剤含有インクを、基材11の表面11aに噴射し、固化させて、凸部12a、12bを無数に形成した微細軟質凸面12を基材11の表面11aに形成しているので、クッション性と機能性とを有する。
また、微細軟質凸面12の凸部12a、12bのそれぞれは、粒状の硬質保護膜13a、13bで一部が覆われているので、耐摩耗性、耐スクラッチ性、耐キャスター性をも併せ持つ。
さらに、粒状の硬質保護膜13は、微細軟質凸面12の凸部12a、12bに対して、それぞれの一部のみが覆われるようにして形成されているので、微細軟質凸面12が有する機能性を阻害することがない。
【0042】
特に、粒状の硬質保護膜13の形成を、インクジェット塗装噴射ユニット21´によって、紫外線硬化型インクを噴射して形成するので、粒状の硬質保護膜13による微細軟質凸面12の凸部12a、12bの被覆量を、容易に制御でき、細かい制御、ミクロン単位での制御が可能となる。これにより、微細軟質凸面12の凸部12a、12bの露出量を異ならせて、微細軟質凸面12が有する機能性の持続性を、容易に可変できる。例えば、機能性材料10が施工される箇所や表面の部位に応じて、その表面が有する機能性の持続性と表面強度とを可変させて設定することも可能となる。すなわち、機能性材料10の表面強度を高めたい場合には、硬質保護膜13の形成による凸部12a、12bの被覆量を増加させることにより、容易に可能であり、一方、微細軟質凸面12が有する機能性を高めたい場合は、凸部12a、12bの露出量が多くなるように、硬質保護膜13を形成すればよい。
さらにまた、微細軟質凸面12の形成と粒状の硬質保護膜13の形成とが、いずれも各インクジェット塗装噴射ユニット21、21´によって、それぞれのインクを噴射させることによりなされるので、微細軟質凸面12の凸部12a、12bへの硬質保護膜13a、13bの形成を、容易に行うことができる。
【0043】
また、本実施形態では、硬質保護膜13を形成するためのインクを紫外線硬化型インクとしているので、紫外線を照射することにより速乾性、速硬化性のあるインクとなり、硬質保護膜13の形成を容易に行うことができる。
さらに、本実施形態では、硬質保護膜13を形成するためのインクには、シリカ、アルミナ、ジルコンなどの硬質粒子が添加されているので、微細軟質凸面12の凸部12a、12bに形成された硬質保護膜13a、13bの硬度がより向上し、硬質保護膜13の磨耗を防止できる。これにより、より効果的に、機能性材料10の表面の耐摩耗性、耐スクラッチ性、耐キャスター性が向上する。
【0044】
尚、本実施形態では、硬質保護膜13を形成するために噴射するインクとして、硬質粒子を分散させた紫外線硬化型インクを適用しているが、これに限られず、硬質粒子を分散させないものとしてもよい。また、その他、公知のインクジェット用インク、例えば、メチルエチルケトンやエタノール、アセトンなどを溶剤とする速乾性インク、オイルベースの油性インク、水性インクなどが適用可能であり、乾燥・硬化することにより硬質となるものであればどのようなものでもよく、アクリル系、メタクリル系、ウレタン系、フッ素系等の硬質樹脂が含有されたものや、硬化剤の添加量を調整することにより硬質となるものとしてもよい。
【0045】
また、本実施形態では、1つの基台20にて、微細軟質凸面12の形成と硬質保護膜13の形成とを行っているが、各形成工程を複数の基台に亘って、搬送して行う態様としてもよい。さらに、微細軟質凸面12の形成と硬質保護膜13との形成を、2台のインクジェット塗装噴射ユニット21、21´によりそれぞれ行う態様としているが、1台のインクジェット塗装噴射ユニットにより、それらを形成する態様としてもよい。
さらにまた、本実施形態では、各インクジェット塗装噴射ユニット21、21´のノズルヘッド25、25´に対して、基材11が白抜矢印Y方向に移動する構成としているが、各ノズルヘッド25、25´が、基材11に対してX−Y方向に移動する構成としてもよい。
【0046】
次に、本発明に係る他の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
図4は、第2実施形態に係る機能性材料を示す、図1(b)と同様図である。
尚、第1実施形態との相違点は、機能性材料自体の構成であり、該機能性材料を製造するために適用される機能製材料製造装置の構成、及び製造工程は、第1実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0047】
本実施形態に係る機能性材料10Aは、天然無垢木材からなる基材11A及びその表面11Aaに形成された透明の微細軟質凸面12Aと、微細軟質凸面12Aを構成する各凸部12Aaの上に形成された硬質保護膜13Aa、13Abとから構成されている。
すなわち、本実施形態では、基材11A自体が有する図柄や色彩を阻害しないように、微細軟質凸面12Aも、硬質保護膜13Aと同様に透明性を有するものとしている。
尚、微細軟質凸面12A及び硬質保護膜13Aは、基材11Aの図柄や色彩を阻害しない限りにおいて、半透明としてもよい。
また、微細軟質凸面12Aを構成する各凸部12Aaの間に露出する表面11Aaの大きさ(幅)は、前記第1実施形態のように微細軟質凸面12Aの形成により図柄や色彩を形成する必要がないため、前記第1実施形態よりも大としてもよい。
【0048】
本実施形態のように、微細軟質凸面12A及び硬質保護膜13Aを透明性を有するものとした場合は、機能性材料10の機能性と表面強度の制御を、第1実施形態と比べて、更に柔軟に行うことができる。例えば、機能性材料10を扉等に適用する場合、家人の接触や磨耗の恐れが多い、ノブ付近には、凸部12Aaを密に形成するとともに、硬質保護膜13Aaのように、硬質保護膜13Aによる凸部12Aaの被覆量を大とすることで、表面強度を高め、天井付近の家人の接触や磨耗の恐れが少ない部位には、凸部12Aaを疎に形成するとともに、硬質保護膜13Abのように、硬質保護膜13Aによる凸部12Aaの被覆量を小とすることで、機能性を高めることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明に係る機能性材料の実施形態の一例を示し、(a)は、機能性材料の概略平面図、(b)は、(a)におけるZ部の拡大概略断面図である。
【図2】同実施形態に係る機能性材料の製造装置の一例を示すブロック図である。
【図3】同実施形態に係る機能性材料の形成工程を説明するための概略平面図である。
【図4】本発明に係る機能性材料の実施形態の他例を示す、図1(b)と同様図である。
【符号の説明】
【0050】
10、10A 機能性材料
11、11A 基材
11a、11Aa 基材の表面
12 微細軟質凸面12
12a、12b 凸部
13、13a、13b、13A、13Aa、13Ab 硬質保護膜
21 第1インクジェット塗装噴射ユニット(インクジェット塗装噴射装置)
21´ 第2インクジェット塗装噴射ユニット(インクジェット塗装噴射装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット塗装噴射装置によって、軟質樹脂と機能剤とを含有した機能剤含有インクを、基材の表面に噴射し、固化させて、凸部を無数に形成した微細軟質凸面を基材の表面に形成し、更に、該微細軟質凸面の凸部に対して、それぞれの一部のみが覆われるようにして、硬化により硬質となるインクを噴射して、粒状の硬質保護膜を形成したことを特徴とする機能性材料。
【請求項2】
請求項1において、
前記硬化により硬質となるインクは、紫外線硬化型インクである機能性材料。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記硬化により硬質となるインクには、シリカ、アルミナ、ジルコンなどの硬質粒子が添加されている機能性材料。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項において、
前記機能剤含有インクには、着色剤が添加されており、前記硬質保護膜は、透明性を有している機能性材料。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項において、
前記機能剤含有インクに含有された軟質樹脂は、ウレタン系樹脂である機能性材料。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項において、
前記機能剤含有インクに含有された機能剤は、防腐剤、抗菌剤、消臭剤、防虫剤、撥水剤、親水剤、光触媒のうちの少なくとも1つである機能性材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−265236(P2008−265236A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−114371(P2007−114371)
【出願日】平成19年4月24日(2007.4.24)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】