説明

欠陥検出方法および欠陥検出装置

【課題】基板上のパターンの欠陥を検出する際に被検査画像を2値化して検査用の処理済画像を生成するための閾値を高精度に求める。
【解決手段】欠陥検出装置では、撮像部により基板の被検査画像が取得され、被検査画像にエッジ抽出フィルタを適用した上で2値化することによりエッジが抽出される。そして、被検査画像からエッジが除去されたエッジ除去済画像の濃度ヒストグラムに基づいて、被検査画像を2値化して検査用の処理済画像を生成するための検査用閾値が求められる。濃度ヒストグラムでは、エッジが除去されることにより、配線パターンに対応する濃度分布と基板本体に対応する濃度分布との間の濃度帯において画素の頻度が0となり、2つの濃度分布が明確に分離される。このため、基板本体に対応する濃度分布の最大濃度を検査用閾値とすることにより検査用閾値を高精度に求めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上の幾何学的なパターンの欠陥を検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント配線基板、半導体基板、ガラス基板等(以下、「基板」という。)に形成された配線等の幾何学的なパターンを検査する分野において、従来より様々な検査手法が用いられている。検査手法の1つとして、例えば、配線パターンが形成された基板の多階調画像を取得し、当該多階調画像を2値化した2値画像と予め準備された正常な基板の2値画像とを比較して欠陥を検出する手法が特許文献1および特許文献2に開示されている。
【0003】
特許文献1の検査装置では、CCD(Charge Coupled Device)カメラにより取得されてAD変換された基板の多階調デジタル画像が、適宜決定された仮の閾値で2値化されて配線パターンが検出され、検出された配線パターンを適宜決定された倍率で拡大することにより、画像中の配線パターン幅が実際の配線パターン幅と思われるレベルまで拡大された拡大2値画像が生成される。次に、拡大2値画像に対して反転処理(すなわち、画素値の「0」と「1」とを反転する処理)が行われることにより生成されたパターンマスク信号を、元の多階調デジタル画像に適用することにより、配線パターンが除去された多階調の基材画像が取得される。そして、基材画像の画素の階調別の頻度データにおける最大階調値よりも1大きい階調値が検査用の閾値とされ、当該閾値により元の多階調デジタル画像が2値化されて得られた検査用の2値画像と正常な基板の2値画像とが比較されて欠陥検出が行われる。
【0004】
特許文献2では、CCDアレイにより取得されてAD変換された基板の多値デジタル画像に基づいて、各画素の濃度値(すなわち、画素値)のヒストグラムが取得される。濃度値のヒストグラムでは、基板上において比較的明るいパターン部に対応する濃度分布のピークと、比較的暗い基材部に対応する濃度分布のピークとが現れる。続いて、基材部に対応する濃度分布のピークとパターン部に対応する濃度分布のピークとの間の谷の位置にて仮の閾値が設定される。仮の閾値よりも暗い方の濃度分布は基材部の仮の濃度分布の範囲とされ、基材部の仮の濃度分布内における所定の偏差値に対応する濃度値が次の仮の閾値とされる。そして、仮の閾値がほぼ収束するまでこれらの処理が繰り返され、収束値を検査用の2値化閾値として基板の多値デジタル画像を2値化することにより検査用の2値画像が取得される。
【特許文献1】特開平5−340731号公報
【特許文献2】特開平8ー220013号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1の検査装置では、基板の多階調デジタル画像において、基板の基材部(すなわち、パターンが形成されていない部位)に対応する領域に、乱反射等によるノイズが多く存在する場合、検査用の閾値は、本来の基材部の濃度よりも明るいノイズの最大値に基づいて決定されることとなる。このため、検査用の2値画像を生成する際に、元の多階調デジタル画像において正常な配線パターンよりも暗く表示されている短絡部が閾値以下となって短絡部を欠陥として検出できないおそれがある。
【0006】
また、仮の閾値により検出された配線パターンを拡大する際に、適宜決定された倍率にて拡大が行われるため、拡大後の配線パターンの幅が実際の配線パターンの幅に等しくなっているか否かが不明であり、欠陥検出の精度向上が困難である。特に、配線パターンのエッジが滑らかではない(すなわち、エッジに微小な凹凸がある)場合や、パターンのエッジにおける乱反射により多階調デジタル画像におけるエッジ近傍の部位が不安定である(すなわち、明瞭に撮像されていない)場合、拡大後の配線パターンの幅が、配線パターンの一部において実際の配線パターンの幅よりも小さくなり、基材部の濃度よりも明るいエッジ近傍の濃度に基づいて検査用の閾値が決定されることがある。その結果、短絡部等の欠陥を検出することができなくなってしまう。
【0007】
特許文献2の装置においても、基材部におけるノイズが多い場合や多値デジタル画像における配線パターンのエッジ近傍が不安定である場合には、基材部の濃度分布のピークとパターン部の濃度分布のピークとの間の谷の部分の頻度が増大するため、検査用の2値化閾値が大きい値にて収束してしまう可能性がある。したがって、欠陥検出の精度向上に限界がある。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、基板上のパターンの欠陥を検出する際に、被検査画像を2値化して検査用の処理済画像を生成するための閾値を高精度に求めることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明は、基板上の幾何学的なパターンの欠陥を検出する欠陥検出方法であって、a)基板の多階調の被検査画像を取得する工程と、b)前記被検査画像からエッジを抽出してエッジ画像を生成する工程と、c)前記エッジ画像の前記エッジに膨張処理を行う工程と、d)前記被検査画像から前記c)工程にて膨張処理された前記エッジを除去してエッジ除去済画像を生成する工程と、e)前記エッジ除去済画像の画素の濃度ヒストグラムを取得する工程と、f)前記濃度ヒストグラムにおいて前記基板のパターン以外の領域に対応する濃度分布の最大濃度、または、前記最大濃度を所定のオフセット値だけ超える値を閾値として求める工程と、g)前記被検査画像を前記閾値により2値化して処理済画像を生成する工程と、h)前記処理済画像に基づいて前記基板上の前記パターンの欠陥を検出する工程とを備える。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の欠陥検出方法であって、前記b)工程が、前記被検査画像にエッジ抽出フィルタ処理を行うことにより、前記エッジの候補となるエッジ候補が抽出された多階調の画像であるエッジ候補画像を生成する工程と、前記エッジ候補画像をエッジ抽出閾値により2値化することにより、前記エッジ候補から前記エッジを抽出(して前記エッジ画像を生成)する工程とを備える。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の欠陥検出方法であって、前記b)工程が、前記被検査画像を仮閾値により2値化して仮2値画像を生成する工程と、前記仮2値査画像から前記エッジを抽出することにより前記エッジ画像を生成する工程とを備える。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項1ないし3のいずれかに記載の欠陥検出方法であって、前記b)工程と前記c)工程との間に、前記エッジ画像にノイズ除去処理を行う工程をさらに備える。
【0013】
請求項5に記載の発明は、請求項1ないし4のいずれかに記載の欠陥検出方法であって、前記基板上の前記パターンが配線パターンであり、前記h)工程において、前記配線パターンの短絡が前記欠陥として検出される。
【0014】
請求項6に記載の発明は、基板上の幾何学的なパターンの欠陥を検出する欠陥検出装置であって、基板を撮像する撮像部と、前記撮像部にて取得された多階調の被検査画像からエッジを抽出してエッジ画像を生成するエッジ抽出部と、前記エッジ画像の前記エッジに膨張処理を行う膨張処理部と、前記被検査画像から前記膨張処理部にて膨張処理された前記エッジを除去してエッジ除去済画像を生成するエッジ除去部と、前記エッジ除去済画像の画素の濃度ヒストグラムを取得するヒストグラム取得部と、前記濃度ヒストグラムにおいて前記基板のパターン以外の領域に対応する濃度分布の最大濃度、または、前記最大濃度近傍の値を閾値として求める閾値取得部と、前記被検査画像を前記閾値により2値化して処理済画像を生成する処理済画像生成部と、前記処理済画像に基づいて前記基板上の前記パターンの欠陥を検出する欠陥検出部とを備える。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、処理済画像を生成するための閾値を高精度に求めることができ、その結果、パターンの欠陥を精度良く検出することができる。また、請求項2および4の発明では、エッジの抽出精度を向上することができ、請求項3の発明では、エッジの抽出を簡素化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る欠陥検出装置1の構成を示す図である。欠陥検出装置1は、基板本体の主面に幾何学的なパターンが形成された基板から検査対象であるパターンの欠陥を検出する装置である。本実施の形態では、欠陥検出装置1により、プリント配線基板(以下、「基板」という。)上の配線パターンの短絡(すなわち、ショート)等が欠陥として検出される。
【0017】
欠陥検出装置1は、基板9を保持するステージ2、基板9を撮像して基板9の多階調の画像を取得する撮像部3、撮像部3に対してステージ2を相対的に移動するステージ駆動部21、および、各種演算処理を行うCPUや各種情報を記憶するメモリ等により構成されたコンピュータ4を備え、コンピュータ4により欠陥検出装置1の各構成が制御される。
【0018】
撮像部3は、照明光を出射する照明部31、基板9に照明光を導くとともに基板9からの光が入射する光学系32、および、光学系32により結像された基板9の像を電気信号に変換する撮像デバイス33を有し、撮像デバイス33から基板9の画像データが出力される。ステージ駆動部21はステージ2を図1中のX方向およびY方向に移動する機構を有する。なお、本実施の形態では可視光である照明光を利用して撮像部3にて画像が取得されるが、例えば、電子線、紫外線、X線等を利用して画像が取得されてもよい。
【0019】
図2は、コンピュータ4のCPU等が記憶装置内のプログラムに従って演算処理を実行することにより実現される機能を他の構成と共に示すブロック図である。欠陥検出装置1では、エッジ候補抽出部41、エッジ抽出部42、ノイズ除去部43、膨張処理部44、エッジ除去部45、ヒストグラム取得部51、閾値取得部52、処理済画像生成部53、欠陥検出部54および記憶部55の各機能が、コンピュータ4により実現される。記憶部55には、正常な(すなわち、欠陥がない)基板の2値画像である参照画像が予め記憶されており、当該参照画像は、後述する基板9の欠陥検出にて利用される。
【0020】
図3は、欠陥検出装置1が基板9上の欠陥を検出する処理の流れを示す図である。また、図4.Aないし図4.Gは、欠陥検出装置1による欠陥検出途上において取得または生成される画像の一部を示す図である。
【0021】
図1に示す欠陥検出装置1では、まず、ステージ駆動部21により基板9上の所定の検査領域が撮像部3による撮像位置へと移動し、基板9の検査領域の多階調の画像(本実施の形態では、256階調の多階調画像)が取得されてコンピュータ4へと出力される(ステップS11)。図4.Aは、撮像部3により取得された画像81(以下、「被検査画像81」という。)の一部を示す図であり、被検査画像81では、照明部31(図1参照)からの光に対する反射率が比較的高い配線パターン91に対応する画素が大きい画素値を有し(すなわち、明るく表示され)、反射率が比較的低い配線パターン91以外の背景領域(本実施の形態では、基板本体92)に対応する画素が小さい画素値を有する(すなわち、暗く表示される)。
【0022】
コンピュータ4では、撮像部3により取得された被検査画像81のデータが、図2に示す記憶部55に記憶されるとともにエッジ候補抽出部41へと送られる。エッジ候補抽出部41では、被検査画像81のデータに対してエッジ抽出フィルタ(本実施の形態では、ソベルフィルタ)を適用してエッジ抽出フィルタ処理を行うことにより、図4.Bに示すように、後述するエッジの候補となるエッジ候補が抽出された256階調の多階調画像であるエッジ候補画像82が生成される(ステップS12)。図4.Bでは、エッジ候補画像82のうち図4.Aに対応する一部の領域を示す(図4.Cないし図4.Gにおいても同様)。なお、欠陥検出装置1では、後述するように、被検査画像81を含む複数の画像のデータに対して様々な処理が行われるが、以下の説明では、画像のデータに対する処理を、単に「画像に対する処理」と表現する。
【0023】
ここでいうエッジとは、被検査画像81(図4.A参照)において互いに異なる濃度の領域の境界であり、図4.Bに示す基板9上の実際の配線パターン91と基板本体92との境界部93や、配線パターン91および基板本体92上における乱反射部等(すなわち、本来ほぼ同じ濃度で表示されるはずであるが周囲の部位と濃度が異なる部位)のうち周囲の部位との濃度差が大きいものの境界部94等を意味する。また、エッジ候補とは、単にエッジ抽出フィルタ処理にて得られるものを指し、上記エッジに加えて、乱反射部等のうち周囲の部位との濃度差があまり大きくないものの境界部(すなわち、図4.Bの配線パターン91上等において、上記エッジよりも暗い淡いグレーにて示される微小領域)等を含む。
【0024】
続いて、エッジ抽出部42(図2参照)において、エッジ候補画像82が所定のエッジ抽出閾値(本実施の形態では、エッジ候補画像82の濃度範囲の中間値である128)により2値化されることにより、エッジ候補から乱反射部等のうち周囲の部位との濃度差があまり大きくないもの等が除去されて注目すべきエッジのみが抽出される。そして、エッジ抽出部42により、図4.Cに示すように、エッジが白色にて表示され、エッジ以外の部位が黒色にて表示された(すなわち、エッジを構成する画素の画素値が「1」とされ、エッジ以外の部位の画素の画素値が「0」とされた)2値画像であるエッジ画像83が生成される(ステップS13)。
【0025】
エッジ画像83が生成されると、ノイズ除去部43(図2参照)において、エッジ画像83に対してノイズフィルタが適用されてノイズ除去処理が行われることにより、図4.Dに示すように、エッジ画像83中のエッジのうち比較的小さいものがノイズとして除去され、比較的大きいエッジのみが抽出されて白色にて表示される(ステップS14)。本実施の形態では、エッジ画像83中の各画素について、注目画素近傍の8つの画素(すなわち、注目画素の周囲を囲む8つの画素)に画素値が「0」の画素が含まれている場合に注目画素の画素値を「0」とする収縮処理が行われ、その後、収縮処理後のエッジ画像83中の各画素について、注目画素近傍の8つの画素に画素値が「1」の画素が含まれている場合に注目画素の画素値を「1」とする膨張処理(拡散処理ともいう。)が行われることによりノイズが除去される。
【0026】
次に、ノイズ除去処理が行われたエッジ画像83のエッジ(すなわち、図4.D中にて白色にて表示されているエッジ)に対して、膨張処理部44(図2参照)において膨張処理(拡散処理)が行われ、図4.Eに示すように、エッジ膨張画像84が生成される(ステップS15)。本実施の形態では、エッジ画像83中の各画素について、注目画素近傍の8つの画素に画素値が「1」の画素が含まれている場合に注目画素の画素値を「1」とする膨張処理が所定回数行われる。
【0027】
エッジ膨張画像84が生成されると、エッジ除去部45(図2参照)により、ステップS11において記憶部55(図2参照)に収容された多階調の画像である被検査画像81(図4.A参照)と、2値画像であるエッジ膨張画像84との否定論理積(NAND)が求められる(正確には、エッジ膨張画像84により被検査画像81がマスクされる。)。これにより、図4.Aに示す被検査画像81から、図4.Eに示すエッジ膨張画像84中の膨張処理されたエッジが除去され(すなわち、被検査画像81において、エッジ膨張画像84中の画素値が「1」であるオンビット部分に対応する画素群の画素値が「0」とされ)、図4.Fに示すように、エッジ除去済画像85が生成される(ステップS16)。
【0028】
続いて、ヒストグラム取得部51(図2参照)により、エッジ除去済画像85における画素の濃度(すなわち、画素値)と各濃度に対応する(すなわち、各画素値を有する)画素の出現頻度との関係が求められ、図5に示すように、エッジ除去済画像85の画素の濃度ヒストグラム89が取得される(ステップS17)。濃度ヒストグラム89では、横軸が画素の濃度を示し、縦軸が各濃度に対応する画素の出現頻度(すなわち、画素数)を示す。図5に示すように、濃度ヒストグラム89では、ピーク値に対応する濃度が約50である第1の濃度分布とピーク値に対応する濃度が約220である第2の濃度分布とが存在している。第1の濃度分布は、比較的暗い基板本体92(図4.F参照)に対応する画素の分布であり、第2の濃度分布は、比較的明るい配線パターン91(図4.F参照)に対応する画素の分布である。両濃度分布の間の濃度帯では、画素の頻度が0なっている。
【0029】
次に、閾値取得部52(図2参照)により、濃度ヒストグラム89に基づいて、基板9の基板本体92に対応する第1の濃度分布の最大濃度(本実施の形態では、「73」)が検査用閾値として求められる(ステップS18)。そして、処理済画像生成部53(図2参照)により、被検査画像81が当該検査用閾値により2値化され、図4.Gに示す2値画像である処理済画像86(本実施の形態では、被検査画像81中の画素値が「73」以下の画素の画素値が「0」とされ、画素値が「73」よりも大きい画素の画素値が「1」とされた2値画像)が生成される(ステップS19)。
【0030】
処理済画像86が形成されると、欠陥検出部54(図2参照)により、処理済画像86、および、記憶部55に予め記憶されている図6に示す参照画像80(すなわち、正常な基板の2値画像)に基づいて基板9上の配線パターン91の欠陥が検出される(ステップS20)。具体的には、処理済画像86と参照画像80とがパターンマッチング等により位置合わせが行われた上で比較され、図4.Gの処理済画像86中において破線にて示す円911にて囲んで示すように、参照画像80とは異なり配線パターン91から不必要に突出している部位が欠陥(すなわち、配線パターン91の短絡部)として検出される。欠陥検出装置1では、必要に応じて、基板9上の他の検査領域の画像が被検査画像として取得され、当該被検査画像に基づく欠陥検出が行われる。
【0031】
次に、多階調の画像である被検査画像から2値画像を生成する際の検査用閾値を被検査画像の画素の濃度ヒストグラムから求める従来の欠陥検出装置の一例(以下、「比較例の欠陥検出装置」という。)として、特開平8ー220013号公報に示される装置について簡単に説明する。なお、以下の説明では、図4.Aに示す被検査画像81と同様の被検査画像に基づいて欠陥が検出されるものとする。
【0032】
比較例の欠陥検出装置では、撮像部により取得された多階調の画像である被検査画像から、図7に示す画素の濃度ヒストグラム789が取得される。図7に示すように、濃度ヒストグラム789では、比較的明るい配線パターンに対応する濃度分布のピーク(すなわち、図7中における右側のピーク)と、比較的暗い基板本体に対応する濃度分布のピーク(すなわち、図7中における左側のピーク)とが現れており、両ピークの間の谷の部分において各濃度に対応する頻度は0とはなっていない。両ピークの間の谷の部分は、実際の配線パターンと基板本体との境界部や乱反射部と周囲の部位との境界部であるエッジを構成する画素群に対応する。
【0033】
比較例の欠陥検出装置では、濃度ヒストグラム789の両ピークの間の谷の位置にて仮の閾値が設定され、仮の閾値よりも暗い方(すなわち、図7中における左側)の濃度分布を基板本体に対応する仮の濃度分布とし、基板本体の仮の濃度分布内における所定の偏差値に対応する濃度(すなわち、画素値)が次の仮の閾値とされる。そして、仮の閾値がほぼ収束するまでこれらの処理が繰り返され、収束値が検査用閾値とされる。この場合、図7に示す濃度ヒストグラム789からは検査用閾値として「105」が得られ、当該検査用閾値により被検査画像が2値化されることにより、図8にその一部を示す処理済画像786が生成される。
【0034】
ところで、基板上において実際の配線パターン間に短絡が生じている場合、短絡部は、正常な配線パターンよりも反射率が小さく、また、正常な配線パターンに比べて断面形状が丸くなっているため反射光の発散が生じやすい。このため、短絡部は、被検査画像中において正常な配線パターンよりも暗くなる(すなわち、短絡部に対応する各画素の画素値が小さくなる。)。
【0035】
比較例の欠陥検出装置では、濃度ヒストグラム789における配線パターンに対応する濃度分布のピークと基板本体に対応する濃度分布のピークとの間に存在するエッジ等に対応する頻度の影響により、実際の基板本体の濃度分布の最大濃度よりも大きい画素値「105」が検査用閾値として取得され、当該検査用閾値により被検査画像が2値化されて処理済画像786が生成される。このため、処理済画像786では、図8中において破線にて示す円912にて囲んで示すように、短絡部に対応する画素群の大部分の画素の画素値が「0」とされてしまい、短絡部が不明瞭となってしまう。その結果、比較例の欠陥検出装置では、処理済画像786と参照画像との比較による欠陥の検出において、実際には存在する短絡部が欠陥として検出されない可能性がある。
【0036】
これに対し、本実施の形態に係る欠陥検出装置1による配線パターン91の欠陥検出では、被検査画像81(図4.A参照)からエッジが除去されたエッジ除去済画像85(図4.F参照)が生成され、エッジ除去済画像85の画素の濃度ヒストグラム89(図5参照)に基づいて検査用閾値が求められる。濃度ヒストグラム89では、上述のように、エッジが除去されることにより、配線パターン91に対応する濃度分布と配線パターン91以外の背景領域(すなわち、基板本体92)に対応する濃度分布との間の濃度帯(すなわち、エッジに対応する濃度帯)において画素の頻度が0となり、配線パターン91に対応する濃度分布と基板本体92に対応する濃度分布とが明確に分離される。このため、基板本体92に対応する濃度分布の最大濃度を検査用閾値とすることにより、検査用閾値を高精度に求めることができ、その結果、基板9の配線パターン91の欠陥を精度良く検出することができる。
【0037】
また、エッジ除去済画像85の生成において、被検査画像81から膨張処理されたエッジを除去することにより、エッジ除去済画像85にエッジが残存することが確実に防止される。これにより、濃度ヒストグラム89において、配線パターン91に対応する濃度分布と基板本体92に対応する濃度分布とをより明確に分離することができ、その結果、処理済画像86を生成するための検査用閾値がより高精度に求められる。
【0038】
このように、欠陥検出装置1では、高精度に求められた検査用閾値により被検査画像81の2値化が行われるため、配線パターン91の断線(すなわち、オープン)に比べて検出が難しい(すなわち、高い検出精度が要求される)配線パターン91の短絡の検出に特に適しているといえる。
【0039】
欠陥検出装置1では、被検査画像81にエッジ抽出フィルタ処理を行ってエッジ候補画像82(図4.B参照)を生成した後に、エッジ候補画像82をエッジ抽出閾値により2値化することによりエッジ画像83(図4.C参照)が生成される。これにより、エッジ抽出フィルタ処理により抽出されたエッジ候補から弱いエッジが除去されてエッジの抽出精度が向上されるため、被検査画像81からエッジ除去済画像85が生成される際に、エッジとして除去される画素(すなわち、画素値が「0」とされる画素)の個数が過剰に多くなることが防止される。その結果、高精度な濃度ヒストグラム89が取得され、検査用閾値をさらに高精度に求めることができる。
【0040】
また、エッジ画像83の生成とエッジに対する膨張処理との間において、エッジ画像83に対してノイズ除去処理が行われることにより、エッジ画像83からノイズが除去される。これにより、被検査画像81から除去される予定のエッジの抽出精度がより向上され、検査用閾値をより一層高精度に求めることができる。
【0041】
図9.Aおよび図9.Bはそれぞれ、本実施の形態に係る欠陥検出装置1により欠陥検出が行われた他の基板の被検査画像81aおよび処理済画像86aの一部を示す図であり、図9.Cは、上述の比較例の欠陥検出装置により欠陥検査が行われた場合の当該他の基板の処理済画像786aの一部を示す図である。また、図10.Aおよび図10.Bも同様に、欠陥検出装置1により取得または生成された他の基板の被検査画像81bおよび処理済画像86bの一部を示す図であり、図10.Cは、比較例の欠陥検出装置により生成された当該他の基板の処理済画像786bの一部を示す図である。
【0042】
図9.Aないし図9.C、並びに、図10.Aないし図10.Cに示すように、本実施の形態に係る欠陥検出装置1では、比較例の欠陥検出装置において検出することが難しい配線パターンの欠陥である短絡部(図9.Bおよび図10.B中において、破線にて示す円913,914にて囲んで示す。)が精度良く検出される。
【0043】
次に、本発明の第2の実施の形態に係る欠陥検出装置について説明する。図11は、第2の実施の形態に係る欠陥検出装置のコンピュータ4により実現される機能を示す図である。図11に示すように、第2の実施の形態に係る欠陥検出装置は、図2に示すエッジ候補抽出部41に代えて仮2値画像生成部41aを備える。その他の構成およびコンピュータ4により実現される機能は、第1の実施の形態と同様であり、以下の説明において同符号を付す。
【0044】
第2の実施の形態に係る欠陥検出装置による欠陥検出の流れは、第1の実施の形態とほぼ同様であり、図3に示すステップS12,S13に代えて、図12に示すステップS21,S22が行われる点のみが異なる。第2の実施の形態に係る欠陥検出装置により欠陥検出が行われる際には、まず、第1の実施の形態と同様に、撮像部3により被検査画像81(図4.A参照)が取得され、図11に示す仮2値画像生成部41aおよび記憶部55へと出力される(図3:ステップS11)。
【0045】
続いて、仮2値画像生成部41aにおいて、所定の仮閾値により被検査画像81が2値化されて仮2値画像が生成される(ステップS21)。仮閾値は、例えば、予め定められて記憶部55に収容されていてもよく、また、上述の比較例の欠陥検出装置において検査用閾値を求める際に用いられた方法を被検査画像81に適用することにより求められてもよい。仮2値画像が生成されると、エッジ抽出部42により、仮2値画像に対してエッジ抽出フィルタを適用してエッジ抽出フィルタ処理を行うことにより、2値画像であるエッジ画像が生成される(ステップS22)。
【0046】
エッジ画像が生成されると、第1の実施の形態と同様に、ノイズ除去部43におけるノイズ除去処理、膨張処理部44によりエッジの膨張処理、エッジ除去部45による被検査画像からの膨張処理後のエッジの除去、ヒストグラム取得部51によるエッジ除去済画像の画素の濃度ヒストグラムの取得、閾値取得部52による濃度ヒストグラムに基づく検査用閾値の算出、処理済画像生成部53による処理済画像の生成、並びに、欠陥検出部54による基板9上の配線パターン91の欠陥検出が順次行われる(ステップS14〜S20)。
【0047】
欠陥検出装置では、第1の実施の形態と同様に、処理済画像を生成するための検査用閾値を高精度に求めることができ、その結果、基板9の配線パターン91の欠陥を精度良く検出することができる。第2の実施の形態に係る欠陥検出装置では、特に、被検査画像81を仮閾値により2値化した後にエッジ抽出フィルタ処理を行うことにより、多階調の画像である被検査画像81からエッジを抽出する場合に比べてエッジの抽出が簡素化される。
【0048】
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。
【0049】
例えば、第1の実施の形態に係る欠陥検出装置1では、ステップS12においてエッジ候補の抽出に利用されるエッジ抽出フィルタとして、グラディエントフィルタやラプラシアンフィルタ、ロバーツフィルタ等の様々なものが利用されてよい。
【0050】
上記実施の形態に係る欠陥検出装置では、ステップS14においてノイズ除去処理に利用されるノイズフィルタとして、メディアンフィルタ等の他のノイズフィルタが利用されてよい。また、エッジ画像に対してラベリング処理を行い、ラベリングされた複数の領域のうち微小なものがノイズとして除去されてもよい。
【0051】
ステップS17においてヒストグラム取得部51により取得される濃度ヒストグラムでは、基板本体に対応する第1の濃度分布と配線パターンに対応する第2の濃度分布との間の濃度帯において、画素数はほぼ0となっていればよく、この場合、ステップS18において、画素数がほぼ0となっている濃度帯は第1の濃度分布に含まれないものとして検査用閾値が求められる。
【0052】
また、ステップS18では、必ずしも基板本体92に対応する濃度分布の最大濃度が検査用閾値とされる必要はなく、当該最大濃度を所定のオフセット値(例えば、「5」)だけ超える値(すなわち、最大濃度近傍の値)が検査用閾値とされてもよい。さらには、ステップS20における欠陥検出では、基板9の設計データから導かれる画像が参照画像として利用されてよく、また、配線パターンの断線等が欠陥として検出されてもよい。
【0053】
欠陥検出装置において生成される多階調の画像の階調数は、必ずしも256階調とされる必要はなく、欠陥検出に要求される検査精度および検査速度、並びに、欠陥検出装置の演算性能等に基づいて適宜決定されてよい。
【0054】
上記実施の形態に係る欠陥検出装置では、例えば、基板本体上に設けられた被膜等の上に配線パターンが形成されている場合、当該被膜等は基板本体の一部と見なされ、被検査画像81における被膜に対応する領域は、配線パターン以外の背景領域として扱われる。また、欠陥検出装置により欠陥検出が行われる基板は、必ずしもプリント配線基板である必要はなく、半導体基板やガラス基板等であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】第1の実施の形態に係る欠陥検出装置の構成を示す図である。
【図2】コンピュータにより実現される機能を示すブロック図である。
【図3】欠陥を検出する処理の流れを示す図である。
【図4.A】被検査画像の一部を示す図である。
【図4.B】欠陥検出途上に生成される画像の一部を示す図である。
【図4.C】欠陥検出途上に生成される画像の一部を示す図である。
【図4.D】欠陥検出途上に生成される画像の一部を示す図である。
【図4.E】欠陥検出途上に生成される画像の一部を示す図である。
【図4.F】欠陥検出途上に生成される画像の一部を示す図である。
【図4.G】処理済画像の一部を示す図である。
【図5】エッジ除去済画像の濃度ヒストグラムを示す図である。
【図6】参照画像の一部を示す図である。
【図7】比較例の欠陥検出装置にて取得される濃度ヒストグラムを示す図である。
【図8】比較例の欠陥検出装置にて生成される処理済画像の一部を示す図である。
【図9.A】他の基板の被検査画像の一部を示す図である。
【図9.B】他の基板の処理済画像の一部を示す図である。
【図9.C】比較例の欠陥検出装置にて生成される他の基板の処理済画像の一部を示す図である。
【図10.A】他の基板の被検査画像の一部を示す図である。
【図10.B】他の基板の処理済画像の一部を示す図である。
【図10.C】比較例の欠陥検出装置にて生成される他の基板の処理済画像の一部を示す図である。
【図11】第2の実施の形態に係る欠陥検出装置のコンピュータにより実現される機能を示すブロック図である。
【図12】欠陥を検出する処理の流れの一部を示す図である。
【符号の説明】
【0056】
1 欠陥検出装置
3 撮像部
9 基板
42 エッジ抽出部
44 膨張処理部
45 エッジ除去部
51 ヒストグラム取得部
52 閾値取得部
53 処理済画像生成部
54 欠陥検出部
81,81a,81b 被検査画像
82 エッジ候補画像
83 エッジ画像
85 エッジ除去済画像
86,86a,86b 処理済画像
89 濃度ヒストグラム
91 配線パターン
92 基板本体
93,94 境界部
S11〜S22 ステップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上の幾何学的なパターンの欠陥を検出する欠陥検出方法であって、
a)基板の多階調の被検査画像を取得する工程と、
b)前記被検査画像からエッジを抽出してエッジ画像を生成する工程と、
c)前記エッジ画像の前記エッジに膨張処理を行う工程と、
d)前記被検査画像から前記c)工程にて膨張処理された前記エッジを除去してエッジ除去済画像を生成する工程と、
e)前記エッジ除去済画像の画素の濃度ヒストグラムを取得する工程と、
f)前記濃度ヒストグラムにおいて前記基板のパターン以外の領域に対応する濃度分布の最大濃度、または、前記最大濃度を所定のオフセット値だけ超える値を閾値として求める工程と、
g)前記被検査画像を前記閾値により2値化して処理済画像を生成する工程と、
h)前記処理済画像に基づいて前記基板上の前記パターンの欠陥を検出する工程と、
を備えることを特徴とする欠陥検出方法。
【請求項2】
請求項1に記載の欠陥検出方法であって、
前記b)工程が、
前記被検査画像にエッジ抽出フィルタ処理を行うことにより、前記エッジの候補となるエッジ候補が抽出された多階調の画像であるエッジ候補画像を生成する工程と、
前記エッジ候補画像をエッジ抽出閾値により2値化することにより、前記エッジ候補から前記エッジを抽出(して前記エッジ画像を生成)する工程と、
を備えることを特徴とする欠陥検出方法。
【請求項3】
請求項1に記載の欠陥検出方法であって、
前記b)工程が、
前記被検査画像を仮閾値により2値化して仮2値画像を生成する工程と、
前記仮2値査画像から前記エッジを抽出することにより前記エッジ画像を生成する工程と、
を備えることを特徴とする欠陥検出方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の欠陥検出方法であって、
前記b)工程と前記c)工程との間に、前記エッジ画像にノイズ除去処理を行う工程をさらに備えることを特徴とする欠陥検出方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の欠陥検出方法であって、
前記基板上の前記パターンが配線パターンであり、
前記h)工程において、前記配線パターンの短絡が前記欠陥として検出されることを特徴とする欠陥検出方法。
【請求項6】
基板上の幾何学的なパターンの欠陥を検出する欠陥検出装置であって、
基板を撮像する撮像部と、
前記撮像部にて取得された多階調の被検査画像からエッジを抽出してエッジ画像を生成するエッジ抽出部と、
前記エッジ画像の前記エッジに膨張処理を行う膨張処理部と、
前記被検査画像から前記膨張処理部にて膨張処理された前記エッジを除去してエッジ除去済画像を生成するエッジ除去部と、
前記エッジ除去済画像の画素の濃度ヒストグラムを取得するヒストグラム取得部と、
前記濃度ヒストグラムにおいて前記基板のパターン以外の領域に対応する濃度分布の最大濃度、または、前記最大濃度近傍の値を閾値として求める閾値取得部と、
前記被検査画像を前記閾値により2値化して処理済画像を生成する処理済画像生成部と、
前記処理済画像に基づいて前記基板上の前記パターンの欠陥を検出する欠陥検出部と、
を備えることを特徴とする欠陥検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4.A】
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【図4.B】
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【図4.C】
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【図4.D】
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【図4.E】
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【図4.F】
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【図4.G】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9.A】
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【図9.B】
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【図9.C】
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【図10.A】
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【図10.B】
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【図10.C】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−145285(P2009−145285A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−325387(P2007−325387)
【出願日】平成19年12月18日(2007.12.18)
【出願人】(000207551)大日本スクリーン製造株式会社 (2,640)
【Fターム(参考)】