説明

比色計

【課題】被測定物質の正確な測定値を得ることができ、しかも多数の測定値を容易に且つ迅速に集約して分析することができる比色計を提供する。
【解決手段】比色計10を、比色計本体11、携帯電話機12、解析装置13から構成する。比色
比色計本体11は、台座14の上面に配置された4個のLED15a〜15d及びセル16を備えており、LED15a〜15dのいずれかから出射された光がセル16内に入射するようになっている。携帯電話機12は操作部21、液晶表示画面22、デジタルカメラ23を備えている。解析装置13は、ディスプレイ31、キーボード32、制御装置33を備えている。デジタルカメラ23によって撮影されたセル16からの出射光の画像は表示画面22に表示されると共にその画像データは無線通信回線を介して解析装置13に送信された後、解析装置によって解析されセル16内の試料溶液の吸光度が算出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯可能な小形の比色計に関し、特に野外での測定に適した比色計に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、大気や水等の汚染物質の定量測定に比色計が用いられている。比色計は、測定対象となる物質(被測定物質)に試薬を加えて発色させ、その色調に基づき被測定物質の濃度を測定するもので、被測定物質及び試薬からなる試料溶液を収容するセル、白色光源、白色光を単色光に分光する回折格子やプリズム等の分光部、セルの透過光を電流値に変換し増幅する光電管等を備えている。白色光源から出射した光は分光部で試料溶液の発光色に応じた適宜の単色光に分光された後、セルに照射される。
これに対して、白色光源に代えて単色LEDを光源とした簡易比色計が提案されている(非特許文献1参照)。前記簡易比色計では、単色LEDから出射しセルを透過した光はCdSセルで受光される。CdSセルの受光量は試料溶液の発色量、つまり、試料溶液に含まれる被測定物質の濃度に応じて変化し、受光量に応じてCdSセルの抵抗値が変化する。従って、前記簡易比色計では、前記CdSセルの抵抗値に基づき被測定物質の濃度を求めることができる。
前記簡易比色計は、単色LEDを光源としたことにより分光部が省略されており、それにより小型化、軽量化が図られている。従って、使用者は環境汚染物質の測定場所である野外に前記簡易比色計を持ち運び、その場で被測定物質の測定を行うことができる。
【非特許文献1】伏島均,大谷龍二,"LEDを利用した簡易比色計の製作と利用",[平成18年4月19日検索],インターネット<URL:http://www.toray.co.jp/tsf/rika/pdf/rik_029.pdf>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、環境汚染物質の定量測定は複数の異なる地点で行われることが多い。複数地点で得られた測定データは1つにまとめられ、比較、分析される。従って、各測定地点での測定データを正確に且つ精度良く分析することが望まれる。
上記簡易比色計では、作業者が抵抗計の数値を読み取り、その数値を予め求められた検量線の関数式に代入することにより測定データが求められる。このため、作業者が数値を誤って読み取ったり、読み取った数値を誤って関数式に入力したりするおそれがある。また、多数の測定地点で得られたデータの集約作業に時間や手間がかかる。
本発明が解決しようとする課題は、被測定物質の正確な測定値を得ることができ、しかも多数の測定値を容易に且つ迅速に集約して分析することができる比色計を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために成された本発明に係る比色計は、
a) 被測定物質を収容するためのセル、前記セル内に単色光を入射させる光源部、前記光源部及び前記セルを収納し前記セルから出射した光の検出窓を有するケースからなる比色計本体と、
b) 前記検出窓を通して前記セルからの出射光を撮影するデジタルカメラを備え、前記デジタルカメラによって撮影された画像データを通信回線を介して送信する携帯電話機と、
c) 前記携帯電話機から送信された画像データを解析して前記セル内の被測定物質の含量を演算する解析手段とを具備することを特徴とする。
【0005】
上記比色計では、光源部から出射した単色光をセルに入射させると、前記セルに収容されている試料溶液に含まれる被測定物質の量に応じた強度の光が当該セルから出射する。作業者が、前記セルから出射する光の画像を検出窓を通して携帯電話機のデジタルカメラで撮影して解析手段に送信することにより、その画像データを解析手段が解析し、前記セル内の試料溶液に含まれる被測定物質の含量を演算する。
【0006】
この場合、前記光源部を、異なる単色光を出射する複数の光源から構成し、これらの光源のうちの1つから出射した単色光が前記セルに入射されるように構成すると、被測定物質に応じた適宜の単色光を出射する光源を用いることができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の比色計では、作業者は携帯電話機のデジタルカメラを用いてセルからの出射光を撮影し、その画像データを解析手段に送信すれば、解析手段によって画像データが解析されて被測定物質の含量が演算される。このように、デジタルカメラで撮影した画像データは、そのまま携帯電話機から解析手段に送信され解析されるため、被測定物質の正確な含量を測定することができる。
【0008】
また、前記比色計を構成する比色計本体、携帯電話機、解析手段装置は、それぞれ分離させることができる。しかもデジタルカメラを備える携帯電話機を利用したことにより、携帯電話機と解析手段が離れた場所に存在していても画像データを解析手段に送信することができる。従って、解析手段は実験室等に設置したまま、比色計本体及び携帯電話機だけを野外の測定地点に持ち運ぶことにより、被測定物質の測定を行うことができる。また、複数の測定地点で取得される画像データを容易に且つ迅速に解析手段に集約して解析することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態を図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態に係る比色計の全体構成を示している。比色計10は、比色計本体11、携帯電話機12、解析装置13から構成されている。
比色計本体11は、リボルバー式の台座14、この台座14の上面に配置された例えば4個の単色LED15a〜15d、前記台座14の上方に配置された円筒状のセル16を備えて構成されている。台座14及びLED15a〜15d並びにセル16はいずれも遮光性を有する例えば黒色のケース17内に収容されている。ケース17の上部には検出窓18が設けられている
前記セル16は透光性を有するプラスチック製で、被測定物質を含んだ試料溶液Lが収容される。
【0010】
前記LED15a〜15dは、単色光を出射する緑色LED、青色LED、赤色LED、UV-LEDから構成されている。台座14は図示しない操作部を操作して回転させることができ、これにより4個のLED15a〜15dのうちの1つを選択的に前記セル16の下部に配置させることができる。セル16の下部に位置するLEDが出射した光はセル16の下面からセル16内に入射するようになっている。
【0011】
前記携帯電話機12は操作部21、液晶表示画面22、デジタルカメラ23を備えている。詳しい説明は省略するが、携帯電話機12は広く普及している一般的な構成を有するものが用いられている。携帯電話機12は、デジタルカメラ23によってセル16からの出射光を前記ケース17の検出窓18を通して撮影するために用いられる。前記デジタルカメラ23によって撮影された出射光の画像は表示画面22に表示されると共にその画像データは無線通信回線24(図2参照)を介して解析装置13に送信される。本実施形態の比色計10は、1台の解析装置13と複数の携帯電話機12及び複数の比色計本体11とから構成されている。
【0012】
解析装置13は、ディスプレイ31、キーボード32、制御装置33を備えている。制御装置33は画像処理プログラムや各種データを記憶する記憶手段、前記通信回線24を介して携帯電話機12と通信するための通信手段等を備えている。制御装置33は、携帯電話機12から画像データが送信されてくると、その画像データを記憶手段に記憶させると共に画像処理プログラムに従って画像データのRGB解析を行い、吸光度を算出する。そして、算出されされた吸光度に基づいて被測定物質の濃度を求める。吸光度の算出は下記の式(1)を用いて行われる。
【数1】

ここで、ABSは吸光度を、R0,G0,B0はそれぞれセル16に蒸留水を入れたときのR,G,B値を、R1,G1,B1はそれぞれセル16に試料溶液を入れたときのR,G,B値を示す。
【0013】
図3は前記比色計10を用いて測定可能な被測定物質とその測定方法、試料溶液の最大吸収波長、使用するLEDの例を示している(クロロフィルについては励起波長を示す。)。図3に示すように、被測定物質に応じてその測定方法が予め決められている。
図3に示す測定方法のうちジアンミン法、ホルムアルドキシム法、比色法、BR法、ジアセチル-尿素法、モリブデンブルー法、モリブデンイエロー法は、試料溶液の最大吸収波長帯の光をセル16内に入射させ、その透過光をデジタルカメラ23で撮影する。試料溶液に含まれる被測定物質の量(濃度)に応じて試料溶液の色調が変化し、試料溶液の色調に応じて透過光の強度が変化するため、セル16から出射する透過光の強度を解析することにより被測定物質の濃度を算出することができる。一方、蛍光法は、試料溶液に含まれる蛍光物質の励起波長帯の光(図3では紫外線(UV))をセル16内に入射させ、これにより蛍光物質が発する光をデジタルカメラ23で撮影する。試料溶液に含まれる被測定物質の量に応じて発光強度が変化するため、セル16から出射する発光の強度を解析することにより被測定物質の濃度を算出することができる。
【0014】
従って、作業者は、被測定物質を測定するときは、作業者は台座14を回転させて被測定物質に応じた適宜の単色光を出射するLEDをセル16の下部に配置させておく。そして、採取したサンプルを含む試料溶液をセル16に収容し、当該セル16をケース17内に設置した後、LEDからの光をセル16に入射させる。続いて、セル16からの出射光をデジタルカメラ23で撮影し、解析装置13に送信することにより、解析装置13において、画像データの解析が行われ、試料溶液の吸光度が算出されると共に被測定物質の濃度が求められる。
【0015】
このように本実施形態の比色計10は、比色計本体11、携帯電話機12、解析装置13から構成され、これら構成部品は、それぞれ分離させることができる。しかも携帯電話機12が備えるデジタルカメラ23を用いてセル16からの出射光を撮影するように構成したため、携帯電話機12と解析装置13が離れた場所に存在していても画像データを解析装置13に送信することができる。従って、解析装置13は実験室等に設置したまま持ち運ぶ必要がなく、比色計本体11及び携帯電話機12だけを野外の測定地点には持ち運ぶことにより被測定物質の測定を行うことができる。また、デジタルカメラ23で撮影した画像のデータをそのまま解析装置13に送信することができるため、画像データを手動で解析装置13に入力する場合と異なり、データの入力ミスが起きない。
【0016】
さらに、複数の離れた地点で被測定物質の測定を行う場合であっても、各地点で取得した画像データを容易に且つ迅速に解析装置13に集約させることができる。また、携帯電話機12を用いたことにより、携帯電話機12から解析装置13に向けて画像データを送信するだけでなく、解析装置13から携帯電話機12に向けて解析結果を送信したり、サンプルの採取や画像の撮影に関する指示を送信したりすることができる。従って、図2に示すように、複数の測定地点(携帯電話機12)と解析装置13とを通信回線24で繋いだデータ送受信システムを構築することができる。

【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係る比色計の全体構成を示す概略図
【図2】複数の測定地点と解析装置とを繋ぐデータ送受信システムの概略図
【図3】被測定物質とその測定方法、最大吸収波長、使用するLEDを示す表
【符号の説明】
【0018】
10…比色計
11…比色計本体
12…携帯電話機
13…解析装置(解析手段)
15a〜15d…LED(光源)
16…セル
17…ケース
23…デジタルカメラ
24…無線通信回線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a) 被測定物質を収容するためのセル、前記セル内に単色光を入射させる光源部、前記光源部及び前記セルを収納し前記セルから出射した光の検出窓を有するケースからなる比色計本体と、
b) 前記検出窓を通して前記セルからの出射光を撮影するデジタルカメラを備え、前記デジタルカメラによって撮影された画像データを通信回線を介して送信する携帯電話機と、
c) 前記携帯電話機から送信された画像データを解析して前記セル内の被測定物質の含量を演算する解析手段と、
を具備する比色計。
【請求項2】
前記光源部は、異なる単色光を出射する複数の光源から構成され、
前記セルには、前記光源のうちの1つから出射した単色光が入射されるように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の比色計。
【請求項3】
前記光源は、回転テーブル上の異なる部位に配置され、前記回転テーブルを回転させることにより前記セルに入射する単色光を変更できるように構成されている
ことを特徴とする請求項2に記載の比色計。
【請求項4】
前記光源部は、可視光を出射する光源と紫外線を出射する光源とから構成されていることを特徴とする請求項2又は3に記載の比色計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−286522(P2008−286522A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−128850(P2007−128850)
【出願日】平成19年5月15日(2007.5.15)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 研究集会名 テクノ愛’06コンテスト、共催者名 京都大学、開催日 平成18年11月23日
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】