説明

水晶発振器

【課題】 消費電力が抑えられかつ周囲温度の変化に対して発振周波数が安定している水晶発振器を提供すること。
【解決手段】 パッケージ内にセラミックスなどの基板を当該基板の周縁部が支持されるように設け、この基板の一面及び他面の少なくとも一方に基板の周縁に沿って当該基板の内側領域を囲むように抵抗発熱層からなる帯状の加熱手段を設ける。そして加熱手段により囲まれた領域内にて水晶振動子、発振回路部及び感温素子を各々パッケージの内面に接しない状態で装着し、感温素子の温度検出値に基づいて温度制御回路部を介して加熱手段を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感温素子及び加熱手段を用いて周囲の温度変化に対する周波数の安定化を図るようにした水晶発振器に関する
【背景技術】
【0002】
水晶発振器について周囲温度変化に対する周波数の安定化を図るために、OCXOと呼ばれるタイプのものとTCXOと呼ばれるタイプのものとが知られている。OCXOは、パッケージ内に水晶片及び周辺回路を封入し、そのパッケージの外周面全体をヒータで覆って加熱する構造になっていることから、周囲の温度変化に対して水晶片の温度が安定し、温度特性が優れているが、消費電力が大きく、またウオームアップの時間が長いという短所がある。これに対してTCXOは、周辺回路の中に温度特性補償回路を設け、感温素子の温度検出値に基づいて発振周波数を補正する構成になっていることから、OCXOに比べて消費電力が小さく、ウオームアップの時間も短いが、温度安定性は劣っている。
【0003】
そこで温度特性がTCXOよりも良好であり、また消費電力もそれほど大きくない、いわばOCXOとTCXOとの中間のタイプである構造が提案されている(特許文献1)。図6は特許文献1に記載された水晶発振器の水晶振動子部分を示す図であり、この水晶振動子部分は台座11a及びカバー体11bからなるパッケージ11内に設けた基板12の上に隙間を介して水晶片13を対向配置すると共に基板12の中央部にヒータ14を設け、ヒータ14の近傍に設けた感温素子15の温度検出値に基づいてヒータ14の発熱制御を行うように構成されている。なお発振回路部はパッケージ11の外に設けられていて、発振回路部は図示しない外部パッケージ内に封入されている。このような構成によれば、周囲の温度が変化したときに感温素子15が検知し、ヒータ14の発熱量が調整されて水晶片13の温度安定化が図られ、また構成が極めて簡素化されている利点がある。
【0004】
しかし特許文献1の水晶発振器は次のような課題がある。即ち、周囲温度が変化すると、図示しない外部パッケージの温度が変化し、次いで内部パッケージ11の温度が変化し、こうして外部から順番に構造物及び部品の温度が変化していく。この場合外部から内部に温度変化が伝わっていくが、ヒータ14が水晶片13の中央部直下に位置しかつその近傍に感温素子15が位置しており、そして、水晶片13の位置と発振回路の位置とが異なることから、温度安定化に対する応答が悪いと、水晶片13と発振回路の温度差が大きくなる。一方中央に温度変化が伝わってヒータ14による温度制御作用が働き、温度変化分を打ち消す作用がヒータ14から全体に広がるまでに長い時間がかかる。
【0005】
また水晶片13とヒータ14との関係に着目すると、周囲の温度変化を先ず水晶片13が受け、次いで感温素子15が受け、それに伴いヒータ14の発熱制御が行われるが、ヒータ14から水晶片13への熱輻射があったとしても、水晶片13への伝熱は主として基板12及び固定部材16を介して行われる。このため水晶片13が受けた温度変化が打ち消されるまで可成り長い時間がかかる。
【0006】
このように水晶片13と発振回路との間で温度差がつきやすく、水晶片13の温度安定化のためのレスポンスが悪いと、水晶発振器からの発振周波数が不安定になり、また外部の温度が違えば、各部位の温度変化の割合が異なってくることから、実際に実機に組み込んで使用したときには、安定な発振源として機能しにくいという欠点がある。
【0007】
更にまたこの構造は水晶片13の温度をヒータ14により制御するというコンセプトで作られているため、水晶片13を剥きだしにして使用している。そして剥きだしの水晶片13とヒータ14や感温素子15などが同一のパッケージ11内に配置されているため、制作工程においてこれら部品から飛散して水晶片13に付着したパーティクルや揮発成分などを除去する必要がある。このためパッケージ11内に部品を封入する前に、台座11aの上に各部品が組み立てられた状態で水晶片13に対してUV洗浄、プラズマ洗浄などを複雑に組み合わせた洗浄工程が必要になるという課題もある。
【0008】
【特許文献1】米国特許公報5,917,272号の図1〜図5
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、消費電力が抑えられかつ周囲温度の変化に対して発振周波数が安定している水晶発振器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の水晶発振器は、パッケージ内に設けられた基板と、
この基板の一面及び他面の少なくとも一方に当該基板の内側領域を囲むように配置された加熱手段と、
この加熱手段により囲まれた領域内に設けられた水晶振動子及び発振回路部と、
前記加熱手段により囲まれた領域内に設けられ、その出力に応じて前記加熱手段の発熱量が制御される感温素子と、を備えたことを特徴とする。
【0011】
加熱手段は、基板の内側領域を例えば周縁に沿って連続的にほぼ全周に亘って囲むように配置されることが好ましいが、断続的に配置される構成例えば島状に配置して多数の島状部位が基板の周囲を囲む構成であってもよい。また加熱手段としては、例えば厚膜のペーストを塗布したりあるいは金属薄膜を蒸着することにより形成される抵抗発熱層を挙げることができる。
【0012】
本発明の具体的な構成例としては、基板が加熱手段よりも外側部位にて支持されており、基板に設けられている部品はパッケージに接していない構成を挙げることができる。なおここでいう外側部位とは、加熱手段の外縁が基板の支持部位よりも外側に位置している場合も含まれる。例えば加熱手段が帯状である場合、加熱手段の内縁よりも外側部位にて基板が支持されていればよい。パッケージ内は基板に設けられた部品と外部とを熱的に遮断するために真空雰囲気とするのが好ましいが、断熱材例えば発泡樹脂などを充填するようにしてもよい。
【0013】
加熱手段により囲まれた領域内にも更に加熱手段が設けられている構成としてもよい。例えば一の帯状の加熱手段により基板の内側を囲み、更にその内側に他の帯状の加熱手段により基板の内側を囲むことにより二重化する構成、あるいは三重化以上の多重化構成、更にはまた前記一の帯状の加熱手段により囲まれた領域全体に加熱手段を設ける構成(この場合は基板のほぼ全面に加熱手段を設ける構成である)であってもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、パッケージ内に設けた基板の例えば周縁に沿って加熱手段を設け、加熱手段により囲まれる領域に水晶振動子、発振回路部及び感温素子などを設けているため、周囲の温度変化は加熱手段により緩和されて内部に伝わっていく。従って水晶振動子や発振回路部の温度変化が小さく、また内部領域における温度勾配も小さく抑えられるため、周囲の温度変化による水晶発振器の発振周波数の変化が小さく、周波数の温度特性が安定する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1及び図2は夫々本発明の水晶発振器に係る実施の形態を示す横断平面図及び縦断側面図である。図中2は、水晶発振器の外装体を構成する気密構造の容器であるパッケージであり、このパッケージ2は、熱伝導性の小さい材質例えばセラミックスからなる、上面が開放された箱形の台座21と、この台座21の上面を接着剤20を介して覆う例えば金属製のプレートからなる蓋部22とにより構成されている。パッケージ2内は外部に対して断熱構造とするためにこの例では真空雰囲気とされている。台座21の内側面には、全周に亘って段部23が形成されていて、この段部23の上に接着剤24を介して熱伝導性の小さい材質例えばガラスからなる基板3の周縁部が支持されている。なお台座21により基板3の周縁部全体を支持する代わりに、ガラススタッドのような点支持構造を採用することもできる。
【0016】
基板3の一面(実施の形態の説明では「上面」とする)には、当該基板3の周縁に沿って加熱手段をなす例えば帯状の抵抗発熱層からなるヒータ4がほぼ全周に亘って、この例では一個所において僅かに間隔40が開いた状態で設けられている。41及び42はヒータ4の端子部である。この抵抗発熱層は、例えば金属薄膜を蒸着したものでもよいし、厚膜のペーストを塗布したものであってもよい。また抵抗発熱層は、帯状のものを複数本設けて多重化するようにしてもよい。
【0017】
基板3の上面におけるヒータ4で囲まれた領域には、水晶振動子51、集積回路からなる発振回路部52、温度検出部をなす感温素子53及び周辺回路部品54が装着されている。前記感温素子53は、パッケージ2の外部からの温度変化を検知するときに、どの方向から温度変化が伝わっても同様のタイミングで察知できるようにするために基板3の中心部に配置されている。また水晶振動子51及び発振回路部52は、感温素子53を介して互いに対向する位置に配置されている。水晶振動子51は、この例では金属製の水晶振動子用の気密構造のパッケージ内に封入されているが、用語の煩雑化を避けるためにパッケージに封入された水晶振動子であっても「水晶振動子」という用語で呼ぶことにする。また周辺回路部品54の「C」、「R」は夫々コンデンサ及び抵抗を表している。
【0018】
基板3の下面側には、温度制御用集積回路からなる温度制御部55と、周辺回路部品54とが装着されている。温度制御部55は、感温素子53により検出した温度検出値(温度検出結果)に基づいて感温素子53の温度検出値が設定値になるようにヒータ4の発熱量を制御する。また基板3においてヒータ4の内側近傍には、発振回路部52などと外部との電気的接続部位である内側ターミナル61が例えば四隅に夫々設けられると共に、台座21の段部23における四隅近傍には、外部ターミナル62が設けられ、各内部ターミナル61と対応する外部ターミナル62とがボンディングされたワイヤ63により電気的に接続されている。
【0019】
次に上述の実施の形態の作用、効果について述べる。今外部の温度が変化したとすると、例えば温度が下がったとすると、その温度変化がパッケージ2に伝わるが、パッケージ2内は真空であるため、基板3上の回路部品への伝熱経路は主として台座21の段部23から基板3への熱伝導になる。台座21の温度変化は基板3の周縁部から内部領域に伝わろうとするが、基板3の周縁部にはヒータ3が存在するため、その温度変化はヒータ3に伝わり、この例ではヒータ3の温度が降下する。このためヒータ3で囲まれている内部領域の温度が降下するため、感温素子53が温度変化(温度降下)を察知し、その結果温度制御部55の制御動作によりヒータ3の発熱量が大きくなって感温素子53の温度検出値が設定値になるようにコントロールされ、内部領域の温度が元の温度に戻ろうとする。
【0020】
従って内部領域の温度は、押し寄せてきた温度変化の影響で一旦降下するが、内部領域の周囲にはヒータ4が設けられているので、いわば押し寄せる波が防波堤により抑えられるかの如く、温度変化が小さくなり、内部領域における温度勾配が小さく抑えられる。なお外部からの温度変化は基板3と外部とを電気的に接続する導電路を介して直接伝わるが、導電路はワイヤ63により構成されているため、その伝熱量はわずかであり、このワイヤ63を介して内部領域に与える温度変化はほとんど無視できる。この結果水晶振動子51や発振回路部52の温度変化は、極めて小さくなり、温度変化による水晶発振器の発振周波数の変化が小さく、温度特性が安定する。
【0021】
またパッケージ2内を真空雰囲気にすることで外部に対して熱的に絶縁しているため、パッケージ2の底面部や上面部(蓋体22)と内部部品との間の熱伝導も極めて少ないので、放熱が抑えられ、ヒータ4の消費電力が小さくて済む。またパッケージ2全体にヒータを設けるのではなく、基板3の外縁に沿って帯状に設けているため、この点からもヒータの消費電力が低減できる。
【0022】
そして水晶振動子51の温度をヒータ4により直接コントロールするというよりも外部からの温度変化をヒータ4により緩和させるようにしているので、水晶振動子51として既にパッケージ化したものを用いることができる。このため製造工程において水晶振動子51に対して他の部品からのパーティクルや揮発成分などによる汚染がないので、UV洗浄、プラズマ洗浄などの複雑な洗浄工程が不要になる。なお本発明では、パッケージ化されていない水晶振動子51を用いてもよい。
【0023】
ここで図1の構造を用いて水晶振動子及び発振回路をヒータ4で温度制御した場合(実施例)と、図6に示した構造を用いて水晶振動子だけを重点的に温度制御した場合(比較例)とについて、周囲の温度を−40℃から30℃まで変化させて10℃刻みで周波数の変化率を調べたところ、図3の結果が得られた。水晶振動子としては、外部電源5V、共振周波数5MHzのものを用いた。実線(1)は実施例の結果であり、鎖線(2)は比較例の結果である。この結果から分かるようにヒータ3により基板の内部領域を囲むことにより、温度変化に対して周波数変化が少ないことが分かる。
【0024】
図4及び図5は本発明の他の実施の形態を示す図であり、図1及び図2の例に対応する部位については同一の符号を付してある。この例では、基板3の両面に各々ヒータ3が基板の周縁に沿って設けられている。そして基板3の上面側におけるヒータ3に囲まれる領域に発振回路部52及び温度制御部55が設けられると共に、水晶振動子51及び感温素子53は、基板3の下面側に設けられている。このような構成においても先の実施の形態と同様の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る水晶発振器の一実施の形態を示す横断平面図である。
【図2】上記一実施の形態を示す縦断側面図である。
【図3】上記実施の形態の効果を示す説明図である。
【図4】本発明に係る水晶発振器の他の実施の形態を示す平面図である。
【図5】上記他の実施の形態を示す縦断側面図である
【図6】従来の水晶発振器を示す縦断側面図である。
【符号の説明】
【0026】
2 パッケージ
21 台座
22 蓋体
3 基板
4 ヒータ
51 水晶振動子
52 発振回路部
53 感温素子
54 周辺回路部品
55 温度制御部
63 ワイヤ









【特許請求の範囲】
【請求項1】
パッケージ内に設けられた基板と、
この基板の一面及び他面の少なくとも一方に当該基板の内側領域を囲むように配置された加熱手段と、
この加熱手段により囲まれた領域内に設けられた水晶振動子及び発振回路部と、
前記加熱手段により囲まれた領域内に設けられ、その出力に応じて前記加熱手段の発熱量が制御される感温素子と、を備えたことを特徴とする水晶発振器。
【請求項2】
基板は加熱手段よりも外側部位にて支持されており、
基板に設けられている部品はパッケージに接していないことを特徴とする請求項1記載の水晶発振器。
【請求項3】
加熱手段は、抵抗発熱層により構成されたことを特徴とする請求項1または2記載の水晶発振器。
【請求項4】
パッケージ内は真空雰囲気であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一に記載の水晶発振器。
【請求項5】
パッケージ内は断熱材が充填されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一に記載の水晶発振器。
【請求項6】
水晶振動子は、水晶振動子用パッケージ内に封入されていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一に記載の水晶発振器。
【請求項7】
加熱手段により囲まれた領域内に更に加熱手段が設けられていることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか一に記載の水晶発振器。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−14208(P2006−14208A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−191826(P2004−191826)
【出願日】平成16年6月29日(2004.6.29)
【出願人】(000232483)日本電波工業株式会社 (1,148)
【Fターム(参考)】